(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】エクソソーム分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/98 20060101AFI20241204BHJP
A61K 35/644 20150101ALI20241204BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241204BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241204BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241204BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241204BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20241204BHJP
A23L 21/20 20160101ALI20241204BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20241204BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241204BHJP
【FI】
A61K8/98
A61K35/644
A61P17/00
A61P43/00 111
A61Q19/00
A61P17/02
A61P43/00 105
A61K35/28
A23L21/20
C12N5/0775
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2022056825
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2023-04-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢章
(72)【発明者】
【氏名】石川 朋美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智広
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105168085(CN,A)
【文献】特開2021-187793(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113520981(CN,A)
【文献】特開2021-187787(JP,A)
【文献】特表2018-531979(JP,A)
【文献】国際公開第2022/035326(WO,A1)
【文献】Drug Discoveries & Therapeutics,2019年,Vol.13, No.5,Page.268-273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーを含む、間葉系幹細胞のエクソソーム分泌を促進するための、エクソソーム分泌促進剤。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞が脂肪由来間葉系幹細胞である、請求項1に記載のエクソソーム分泌促進剤。
【請求項3】
間葉系細胞及び/又は間葉系細胞によって分泌されるエクソソームにおける、miRNA-205-5pの含有量を向上させる、請求項1又は2に記載のエクソソーム分泌促進剤。
【請求項4】
ローヤルゼリーを含む培地で間葉系幹細胞を培養する工程を含む、間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞が脂肪由来間葉系幹細胞である、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
分泌されたエクソソームを採集する工程をさらに含む、請求項
4又は
5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項
4~
6のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたエクソソームを含む、組成物。
【請求項8】
皮膚ケア用組成物である、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
線維芽細胞の活性化作用を有する、請求項
7又は
8に記載の組成物。
【請求項10】
前記線維芽細胞の活性化作用が、線維芽細胞増殖促進作用、創傷治癒促進作用、創傷部位への遊走促進作用、及び/又は、コラーゲン産生促進作用を含む、請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
化粧品原料、化粧品、食品組成物又は医薬組成物である、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、局所用組成物である、請求項
11に記載の組成物。
【請求項13】
エクソソームを含む皮膚ケア用組成物を製造する方法であって、前記エクソソームが、請求項
4~
6のいずれか一項に記載の製造方法によって製造される、方法。
【請求項14】
前記組成物が、線維芽細胞の活性化作用を有する、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記線維芽細胞の活性化作用が、線維芽細胞増殖促進作用、創傷治癒促進作用、創傷部位への遊走促進作用、及び/又は、コラーゲン産生促進作用を含む、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、化粧品原料、化粧品、食品組成物又は医薬組成物である、請求項
13~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が、局所用組成物である、請求項
13~
16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソーム分泌促進剤、エクソソームの製造方法、及び、エクソソームを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、細胞から分泌される直径50~200nm程度の脂質二重膜構造をもつ粒子状の物質である。エクソソームの表面は細胞膜由来の脂質、膜タンパク質を含み、内部には核酸(microRNA(miRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、DNA等)、タンパク質(酵素等)等の細胞内の物質を含む。エクソソームの授受を介して、核酸、タンパク質等の様々な物質が細胞間を移動することができる。エクソソームは細胞間相互作用の媒体として重要な役割を担っており、がんの発生・進行、免疫制御、組織再生等幅広い生命現象に関わっていることが分かってきた。
【0003】
近年、間葉系幹細胞が分泌するエクソソームが様々な疾患に対して治療効果を示すことが分かってきた。また間葉系幹細胞のうち、脂肪由来幹細胞由来のエクソソームは、皮膚老化防止、皮膚炎改善、創傷治癒等の美容効果があることが報告されている(非特許文献1~3)。
【0004】
間葉系幹細胞由来エクソソームは、例えば特許文献1に記載のように、間葉系幹細胞を薬剤で処理することによって効率的に調製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Xiong M et al., “Exosomes FromAdipose-Derived Stem Cells: The Emerging Roles and Applications in Tissue Regenerationof Plastic and Cosmetic Surgery”, Front. Cell Dev. Biol., 2020; 8: 574223.
【文献】Wei Zhang et al., “Cell-freetherapy based on adipose tissue stem cell-derived exosomes promotes woundhealing via the PI3K/Akt signaling pathway”, Exp Cell Res., 201815;370(2):333-342.
【文献】Li Hu et al., “Exosomes derivedfrom human adipose mensenchymal stem cells accelerates cutaneous wound healingvia optimizing the characteristics of fibroblasts”, Sci Rep 2016 12;6:32993;doi:10.1038/srep32993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、間葉系幹細胞由来エクソソームを効率よく製造するためのエクソソーム分泌促進剤、及び該エクソソーム分泌促進剤を用いた、間葉系幹細胞由来エクソソーム、特に線維芽細胞活性化作用を有する間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、ローヤルゼリーが間葉系幹細胞によるエクソソームの分泌を促進できることを見出し、また、得られたエクソソームが高い線維芽細胞活性化作用を有することを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば以下の発明に関する。
[1]
ローヤルゼリーを含む、間葉系幹細胞のエクソソーム分泌を促進するための、エクソソーム分泌促進剤。
[2]
上記間葉系幹細胞が脂肪由来間葉系幹細胞である、[1]に記載のエクソソーム分泌促進剤。
[3]
間葉系細胞及び/又は間葉系細胞によって分泌されるエクソソームにおける、miRNA-205-5pの含有量を向上させる、[1]又は[2]に記載のエクソソーム分泌促進剤。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載のエクソソーム分泌促進剤を有効成分として含む、化粧品原料、化粧品、食品組成物又は医薬組成物。
[5]
ローヤルゼリーを含む培地で間葉系幹細胞を培養する工程を含む、間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法。
[6]
上記間葉系幹細胞が脂肪由来間葉系幹細胞である、[5]に記載の製造方法。
[7]
分泌されたエクソソームを採集する工程をさらに含む、[5]又は[6]に記載の製造方法。
[8]
[5]~[7]のいずれかに記載の製造方法によって製造されたエクソソームを含む、組成物。
[9]
皮膚ケア用組成物である、[8]に記載の組成物。
[10]
線維芽細胞の活性化作用を有する、[8]又は[9]に記載の組成物。
[11]
上記線維芽細胞の活性化作用が、線維芽細胞増殖促進作用、創傷治癒促進作用、創傷部位への遊走促進作用、及び/又は、コラーゲン産生促進作用を含む、[10]に記載の組成物。
[12]
化粧品原料、化粧品、食品組成物又は医薬組成物である、[8]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13]
上記組成物が、局所用組成物である、[12]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、間葉系幹細胞由来エクソソームを効率よく製造するためのエクソソーム分泌促進剤、及び該エクソソーム分泌促進剤を用いた、間葉系幹細胞由来エクソソーム、特に線維芽細胞活性化作用を有する間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実験例1において、各種ローヤルゼリー処理による脂肪由来幹細胞(ADSC)由来のエクソソームの粒子径分布及び粒子濃度を示した図である。
【
図2】実験例1において、各種ローヤルゼリー処理によるADSCの相対増殖率を示したグラフである。
【
図3】実験例2において、各種ADSCエクソソーム処理線維芽細胞の相対増殖率を示したグラフである。
【
図4】実験例3において、各種ADSCエクソソーム処理線維芽細胞が創傷部位へ遊走する様子を示した写真である。
【
図5】実験例3において、各種ADSCエクソソーム処理線維芽細胞の創傷部位への相対遊走活性を示したグラフである。
【
図6】実験例4において、各種ADSCエクソソーム処理線維芽細胞のコラーゲン産生能を示したグラフである。
【
図7】実験例5において、凍結乾燥処理ローヤルゼリー及び酵素処理ローヤルゼリーで処理した、脂肪由来幹細胞及び脂肪由来幹細胞由来エクソソームのmiRNAプロファイルを比較したベン図である。
【
図8】実験例5において、凍結乾燥処理ローヤルゼリー及び酵素処理ローヤルゼリー処理ごとの脂肪由来幹細胞及び脂肪由来幹細胞由来エクソソームのmiRNAプロファイルを比較したベン図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する、ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
〔エクソソーム分泌促進剤及びそれを含む組成物〕
本実施形態の間葉系幹細胞のエクソソーム分泌を促進するためのエクソソーム分泌促進剤は、ローヤルゼリーを含む。
【0014】
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell: MSC)は、骨髄、脂肪等の中胚葉性組織(間葉)に由来の体性幹細胞の一種であり、自己複製能のほか、骨、軟骨、脂肪等の間葉系組織へ分化する分化能、及び免疫制御能を持つ。本実施形態における間葉系幹細胞としては、脂肪由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞等の間葉系組織由来の間葉系幹細胞であってよく、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の間葉系幹細胞(iMSC)であってもよく、脂肪由来間葉系幹細胞であることが好ましい。間葉系幹細胞は任意の動物由来のものであってもよいが、ヒト間葉系幹細胞であることが好ましい。
【0015】
脂肪組織から採取することができる脂肪由来幹細胞(Adipose Derived Stem Cell: ADSC)は、骨髄由来MSCに比べて、全身の脂肪組織から大量に採取することができるという利点がある。また、脂肪由来MSCは、骨髄由来MSCに比べて臓器修復に寄与する再生促進因子の産生が多い。そのため、脂肪由来MSCを使用した場合、効率よくかつ、質の良いエクソソームを製造することができる。
【0016】
エクソソーム(exosome、エキソソーム又は膜小胞とも呼ばれる)は、細胞内の成分を含み、細胞によって細胞外に分泌される粒子状の細胞外小胞である。その粒子径は、一般的に50~200nm又は50~150nmである。エクソソームの性質は、分泌する細胞種によって異なる。間葉系幹細胞が分泌するエクソソームは、microRNA、メッセンジャーRNA、DNA等の核酸;HGF(肝細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)、TGF(腫瘍増殖因子)等の成長因子;GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)、エノラーゼ等の酵素を含み、細胞増殖(特に線維芽細胞の増殖)を促進することにより、創傷治癒、組織再生等に関与しており、また、皮膚の抗老化(アンチエイジング)等の美容効果もある。
【0017】
ローヤルゼリーは、蜜蜂のうち日齢3~12日の働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作る乳白色のゼリー状物質である。ローヤルゼリー中の主な生理活性成分としては、例えば、ローヤルゼリーに特有な10-ヒドロキシ-2-デセン酸、10-ヒドロキシデカン酸等の有機酸類をはじめ、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、脂質、糖類、ビタミンB類、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、各種ミネラル類等が挙げられる。
【0018】
本明細書においてローヤルゼリーは、例えば生ローヤルゼリーであってもよく、生ローヤルゼリーに処理を施したローヤルゼリー処理物であってもよい。
【0019】
生ローヤルゼリーは、例えば、常法に従い養蜂産品として入手することができる。ローヤルゼリーの産地は、制限されず、日本、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ等のいずれであってもよい。生ローヤルゼリーは、採取したローヤルゼリーを凍結保存した凍結ローヤルゼリーを含む。
【0020】
ローヤルゼリー処理物としては、生ローヤルゼリーを濃縮又は希釈したローヤルゼリー濃縮物又は希釈物、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末、ローヤルゼリーをエタノール等の有機溶媒で抽出したローヤルゼリーエタノール抽出物等のローヤルゼリー有機溶媒抽出物、ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理した酵素分解ローヤルゼリー等が挙げられる。ローヤルゼリー処理物は複数の処理が施されたものであってもよい。ローヤルゼリーは酵素分解及び粉末化された酵素分解ローヤルゼリー粉末であってもよい。ローヤルゼリー処理物としては、酵素処理ローヤルゼリーであるが好ましく、酵素処理ローヤルゼリーの粉末であることがより好ましい。
【0021】
ローヤルゼリー濃縮物は、例えば、生ローヤルゼリーから水分を除去することにより得ることができる。ローヤルゼリー希釈物は、例えば、生ローヤルゼリーに水分を添加することにより得ることができる。
【0022】
ローヤルゼリー粉末は、例えば、凍結乾燥及び噴霧乾燥等の本技術分野における公知の方法により生ローヤルゼリーを粉末化することにより得ることができる。乾燥方法としては、通風乾燥や天日乾燥等の自然乾燥、電気等で加熱して乾燥させる強制乾燥、凍結乾燥等、一般食品加工で採用される公知のいずれの方法を使用することができる。好ましくは、凍結乾燥である。なお、乾燥時間は特に制限されず、通風や天日乾燥等の自然乾燥の場合は、約3日程度、電気等で加熱して強制乾燥させる場合は、50℃程度で1~3日程度を挙げることができる。通常、水分含量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下になるように乾燥させることが好ましい。なお、通風や天日乾燥等の自然乾燥の場合のように水分含量を10質量%以下にすることが難しい場合は、その後、凍結乾燥機にかけてさらに水分を下げる処理を行ってもよい。また、凍結乾燥又は噴霧乾燥後に粉砕機(例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル)により粉砕してローヤルゼリー粉末を得てもよい。
【0023】
ローヤルゼリー有機溶媒抽出物は、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン等の有機溶媒を溶媒として生ローヤルゼリー又はローヤルゼリー粉末を抽出することで得ることができる。抽出時間は、原料として用いられる生ローヤルゼリーの形態、溶媒の種類及び量、抽出の際の温度及び攪拌条件等に応じて適宜設定することができる。抽出後、ろ過、遠心分離等により固形分を除去してもよい。また、抽出された溶液をそのまま用いてもよいし、当該溶液から溶媒を除去して、濃縮液又は粉末として用いてもよい。ローヤルゼリー有機溶媒抽出物としては、ローヤルゼリーエタノール抽出物であることが好ましい。
【0024】
酵素分解ローヤルゼリーは、例えば、生ローヤルゼリー又はローヤルゼリー粉末をタンパク質分解酵素で処理することで得ることができる。タンパク質分解酵素としては、例えば、エンドペプチダーゼ作用を有する酵素、エキソペプチダーゼ作用を有する酵素、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を有する酵素からなる群より選択されることが好ましい。特に、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用の両方を同時に有するペプチダーゼであることが好ましい。かかるペプチダーゼを使用した酵素処理によれば、一段階酵素処理でタンパク質を低分子化することができるので、操作が簡便であるとともに、ローヤルゼリーに含まれる有用成分の生理活性の消失及び大幅な低減を防止することができるという利点がある。
【0025】
タンパク質分解酵素は、その由来は特に制限されず、動物、植物、及び微生物(細菌、ウィルス、真菌類(カビ、酵母、キノコ等)、藻類等)に由来するペプチダーゼを広く使用できる。
【0026】
「エキソペプチダーゼ」は、「アミノペプチダーゼ」と「カルボキシペプチダーゼ」に分類される。また、ペプチダーゼは、至適pHによって、それぞれ酸性、中性、アルカリ性という用語を各酵素につけることがあり、例えば、「酸性エキソペプチダーゼ」、「中性アミノペプチダーゼ」、「アルカリ性エンドペプチダーゼ」のように記載することもある。
【0027】
少なくともエンドペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素としては、動物由来(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、植物由来(例えば、パパイン等)、微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌等)のエンドペプチダーゼ等が挙げられる。
【0028】
少なくともエキソペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素としては、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、微生物由来(例えば、乳酸菌、アスペルギルス属菌、リゾープス属菌等)のエキソペプチダーゼ、エンドペプチダーゼ活性も併せて有するパンクレアチン、ペプシン等が挙げられる。
【0029】
エキソペプチダーゼ活性とエンドペプチダーゼ活性の両方を有する酵素の好ましい例としては、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)産生ペプチダーゼ(商品名:アクチナーゼAS)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼA、フレーバーザイム、プロテアックス、スミチームLP-G)、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼP)を挙げることができる。
【0030】
また、エキソペプチダーゼ活性を有する酵素の好ましい例としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ウマミザイムG、Promod 192P、Promod 194P、スミチームFLAP)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)産生ペプチダーゼ(商品名:Sternzyme B15024)、アスペルギルス属産生ペプチダーゼ(商品名:コクラーゼP)、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ペプチダーゼR)を挙げることができる。
【0031】
さらに、エンドペプチダーゼ活性を有する酵素の好ましい例としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)産生ペプチダーゼ(商品名:オリエンターゼ22BF、ヌクレイシン)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)産生ペプチダーゼ(商品名:アルカラーゼ)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼS)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)産生ペプチダーゼ(商品名:ニュートラーゼ)、バチルス属産生ペプチダーゼ(商品名:プロタメックス)を挙げることができる。
【0032】
生ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理する際の反応条件(タンパク質分解酵素の使用量、反応時の温度、pH、反応時間等)は、使用するタンパク質分解酵素の種類等に応じて、適宜設定すればよい。
【0033】
ローヤルゼリーは、市販されているものを用いてもよい。市販されているローヤルゼリーの具体例としては、例えば、酵素分解ローヤルゼリーキング(株式会社山田養蜂場製)等が挙げられる。
【0034】
ローヤルゼリーの存在下で間葉系幹細胞を培養すると、間葉系幹細胞より分泌されるエクソソームの分泌量が促進される。促進される分泌量は、例えばローヤルゼリーが存在しない場合に比べて、培養上清の単位容積あたりの、エクソソームの粒子数又はタンパク質を基準に、10%以上の増加であればよく、好ましくは、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、100%以上、150%以上、又は200%以上の増加であることが好ましい。
【0035】
ローヤルゼリーの存在下で間葉系幹細胞を培養すると、ローヤルゼリーが存在しない場合と比較して、間葉系幹細胞中の成分が変化し得る。特にmicroRNA(miRNA)のプロファイルが変化し、そのうち、特に全microRNAにおけるmiRNA-205-5pの含有量(含有割合)が向上する。同様に、ローヤルゼリーの存在下で間葉系幹細胞を培養すると、ローヤルゼリーが存在しない場合と比較して、間葉系幹細胞が分泌するエクソソーム中の成分も変化し得る。特に間葉系幹細胞由来エクソソーム中のmicroRNA(miRNA)のプロファイルが変化し、そのうち、特に全microRNAにおけるmiRNA-205-5pの含有量(含有割合)が向上する。したがって、本実施形態のエクソソーム分泌促進剤は、間葉系細胞及び/又は間葉系細胞によって分泌されるエクソソームにおける、miRNA-205-5pの含有量を向上させる作用を有する。
【0036】
miRNA-205-5pの含有量(含有割合)の向上は、ローヤルゼリーが存在しない場合と比較して、間葉系幹細胞中の全miRNAに対するmiRNA-205-5pの含有量が10%以上の増加であればよく、好ましくは、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、100%以上、150%以上、又は200%以上の増加であることが好ましい。また、ローヤルゼリーが存在しない場合と比較して、間葉系幹細胞由来エクソソーム中の全miRNAに対するmiRNA-205-5pの含有量が10%以上の増加であればよく、好ましくは、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、100%以上、150%以上、又は200%以上の増加であることが好ましい。
【0037】
本実施形態のエクソソーム分泌促進剤は、体外において間葉系幹細胞由来エクソソームの製造に使用する(例えば、後述の間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法に使用する)ことができ、また、体内での間葉系幹細胞由来エクソソームを分泌促進に使用するためにヒトに投与することもできる。本実施形態のエクソソーム分泌促進剤は、経口投与でもよく、非経口投与でもよい。経口投与は経腸投与を含み、非経口投与は局所投与を含み、特に経皮投与を含む。
【0038】
本実施形態のエクソソーム分泌促進剤が経口投与される場合の投与量は、組成物の形態及び適用方法・適用量によって異なり得るが、体重60kgの成人に一日当たり、乾燥固形分換算で10~30000mgのローヤルゼリーであればよく、好ましくは100~20000mg、150mg~15000mg、600mg~12000mg、1200mg~10000mg、又は2400~8000mgのローヤルゼリーである。当該含有量は、摂取する人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、適宜増減することができる。本実施形態に係るエクソソーム分泌促進剤は、一日当たりの有効投与量が上述した範囲内にあれば、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。本実施形態のエクソソーム分泌促進剤は、投与してすぐ効果が得られるが、1~4週間又は1か月以上、6か月以上、1年以上の継続的な投与は、効果をより持続できるため、好ましい。
【0039】
本実施形態のエクソソーム分泌促進剤が非経口投与される場合の投与量は、適用する部位及び適用範囲によって異なり得るが、例えば皮膚への適用量が、乾燥固形分換算で0.01~50mgのローヤルゼリーであればよく、好ましくは0.02~40mgであればよく、0.02~35mg、又は、0.025~30mgのローヤルゼリーである。
【0040】
本発明の一実施形態は、上記実施形態のエクソソーム分泌促進剤を有効成分として含む組成物を提供し、該組成物は経口組成であっても、局所用組成物であってもよく、特に上記実施形態のエクソソーム分泌促進剤を有効成分として含む、化粧品原料、化粧品、食品組成物又は医薬組成物を提供する。本実施形態のエクソソーム分泌促進剤、又は、化粧品原料、化粧品、食品組成物若しくは医薬組成物をヒトに適用し、ヒト体内にある間葉系幹細胞に作用させることによって、エクソソームの分泌量を促進することで、体内における間葉系幹細胞由来エクソソームの量を増加させ、様々な美容効果、免疫制御効果が得られる。また、後述の皮膚ケア、線維芽細胞活性化効果も得られる。
【0041】
本実施形態のエクソソーム分泌促進剤を含む化粧品原料、化粧品、食品組成物又は医薬組成物におけるローヤルゼリーの含有量は特に限定されず、上記エクソソーム分泌促進剤の経口投与又は非経口投与の投与量を達成できる有効量であればよい。
【0042】
本実施形態に係る間葉系幹細胞におけるエクソソーム分泌促進剤、又はエクソソーム分泌促進剤を含む化粧品原料、化粧品、食品組成物若しくは医薬組成物は、有効成分のローヤルゼリーに加えて、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される成分(例えば、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤)、食品として許容される成分(例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤)、化粧品として許容される成分(例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤)を挙げることができる。
【0043】
本実施形態に係る間葉系幹細胞におけるエクソソーム分泌促進剤、又はエクソソーム分泌促進剤を含む食品組成物若しくは医薬組成物は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、錠剤(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)、塗布剤若しくは貼付剤等の局所用剤形等の剤形であってもよい。これらの各種製剤は、例えば、有効成分と、必要に応じて他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。
【0044】
食品組成物としては、食品の3次機能(体調調節機能)が強調された食品であることが好ましい。食品の3次機能が強調された食品としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、栄養機能食品、栄養補助食品、サプリメント及び特定保健用食品を挙げることができる。
【0045】
食品組成物の形態は特に限定されず、例えば、飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)であってもよい。
【0046】
化粧品原料としては、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよい。化粧品は薬用化粧品(すなわち、医薬部外品)であってよい。化粧品には、動物(特にヒト)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等の部位に適用され得る、あらゆる化粧品が含まれる。
【0047】
化粧品の剤形は、例えば、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等であってよい。化粧品としては、例えば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク、ミスト、UV予防化粧品等の基礎化粧品、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、イライナー、マスカラ等のメークアップ化粧品、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、へアートリートメント、整髪料、へアートニック剤、ヘアミスト、ヘアフォーム、ヘアリキッド、ヘアジェル、ヘアスプレー、育毛剤、制汗剤、入浴剤、マウスリンス、口腔化粧品、歯磨剤、ハンドクリーム、ハンドソープ等であってよい。
【0048】
〔間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法〕
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法は、ローヤルゼリーを含む培地で間葉系幹細胞を培養する工程を含む。
【0049】
間葉系幹細胞を培養する培地は、間葉系幹細胞の培養に適した培地であれば、特に限定されず、例えばHDF培地(Lonza社)等が挙げられる。また、必要に応じて、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)等の成分を添加してもよい。間葉系幹細胞の培養は、通常の培養条件であればよく、例えば、30~37℃(特に37℃)、3~5%CO2(特に5%CO2)であればよい。
【0050】
培地に含まれるローヤルゼリーの量は、間葉系幹細胞においてエクソソーム分泌を促進し得る有効量であれば特に限定されず、培地全量に対して、乾燥固形分換算で例えば50~5000μg/mL、50~1000μg/mLであってもよく、50~500μg/mLであってもよく、100~300μg/mLであってもよい。培養時間は、所望量のエクソソームが分泌されればよく、例えば、1~10日間又は1~5日間であってよい。必要に応じて培地交換してもよい。
【0051】
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法は、分泌されたエクソソームを採集する工程をさらに含んでもよい。上記培養工程後、エクソソームは培地中(培養上清)に分泌されるため、遠心分離又は濾過によって培養上清を回収することで、間葉系幹細胞由来エクソソームを回収することができる。さらに、上清中の不要な成分を除去し、エクソソームを精製してもよい。精製は、培養上清中の細胞片を高速遠心によって除去すること、さらに得られた上清を超遠心機(例えば、100,000rpm、60分)にかけて、エクソソームを沈殿として回収してもよい。回収したエクソソームについては、粒子サイズを調整するために、サイズ排除カラム等を通してもよい。
【0052】
本実施形態に係る製造方法によって得られるエクソソームは、粒子径が30~500nmを有し、エクソソームには、核酸(mRNA、microRNA)、タンパク質等の成分を含む。そのうち、特に全microRNAにおけるmiRNA-205-5pの含有量は、ローヤルゼリーが存在しない場合と比較して、10%以上増加していればよく、好ましくは、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、100%以上、150%以上、又は200%以上増加していることが好ましい。本製造方法によって得られる間葉系幹細胞由来エクソソームは、後述の皮膚ケア作用、線維芽細胞の活性化作用を有する。
【0053】
〔間葉系幹細胞由来エクソソーム及びそれを含む組成物〕
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームは、上記間葉系幹細胞由来エクソソームの製造方法によって得られるエクソソームであり、間葉系幹細胞由来エクソソームを含む培養上清であってもよく、精製した間葉系幹細胞由来エクソソームであってもよい。本発明の一実施形態は、また、本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物を提供する。該組成物は経口組成物であっても、局所用組成物であってもよい。
【0054】
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む培養上清は、例えば5.00×106粒子/mL以上の間葉系幹細胞由来エクソソームを含み、2.00×107粒子/mL以上、5.00×107粒子/mL以上、2.00×108粒子/mL以上の間葉系幹細胞由来エクソソームを含むものであってもよい。
【0055】
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームは、線維芽細胞を活性化させる作用を有する。具体的には、線維芽細胞増殖促進作用、創傷治癒促進作用、創傷部位への遊走促進作用、及び/又は、コラーゲン産生促進作用を有する。したがって、間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物は皮膚ケア用組成物として用いられることができる。皮膚ケアは、皺の抑制、皮膚の菲薄化予防、皮膚の老化遅延、皮膚のターンオーバー促進等を含んでもよい。
【0056】
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物は、化粧品原料、化粧品、食品組成物又は医薬組成物であってよく、その有効成分が間葉系幹細胞由来エクソソームである点を除いて、上記エクソソーム分泌促進剤を含む組成物と同様な形態・剤形及び投与経路であり得、また、同様な有効成分以外の成分を含んでよい。さらに、本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物は局所用組成物であってよく、局所用組成物は化粧品組成物又は医薬組成物であり得る。局所組成物は、経皮医薬組成物(皮膚外用剤)であってよく、例えば塗布剤(例えば軟膏、クリーム剤、外用液剤)、貼付剤等であってもよい。局所組成物は化粧品である場合は、上記の化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液等であってよい。
【0057】
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物は、有効成分として間葉系幹細胞由来エクソソームを含めばよい。上記組成物の有効量は、組成物の形態及び適用方法・適用量によって異なり得るが、体重60kgの成人に一日当たり、10~30000mgであればよく、好ましくは100~20000mg、150mg~15000mg、600mg~12000mg、1200mg~10000mg、又は、2400~8000mgであってもよい。当該容量は、摂取する人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物は、一日当たりの有効投与量が上述した範囲内にあれば、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物は、投与してすぐ効果が得られるが、1~4週間又は1か月以上、6か月以上、1年以上の継続的な投与は、効果をより持続できるため、好ましい。
【0058】
本実施形態の間葉系幹細胞由来エクソソームを含む組成物が非経口投与される場合の投与量は、適用する部位及び適用範囲によって異なり得るが、例えば皮膚への適用量が、乾燥固形分換算で0.01~50mgであればよく、0.02~40mg、0.02~35mg、又は、0.025~30mgであってもよい。
【0059】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
(実験例1 各種ローヤルゼリー処理によるエクソソーム分泌に対する影響の評価)
[エクソソームの粒子径及び粒子濃度の評価]
脂肪由来幹細胞(Adipose Derived Stem Cell、以下「ADSC」と略す場合がある)としてはLonza社から購入したものを使用した。1×105細胞/mLに調整したADSCをT75フラスコに播種し、ADSC培地(Lonza、MSCBM(商標登録)基本培地)中、37℃、5%CO2にて48時間前培養した。48時間後、培地に凍結乾燥ローヤルゼリー(FDRJ、山田養蜂場社、ローヤルゼリーを凍結乾燥、粉末化したもの)又は酵素処理ローヤルゼリー(EzRJ、山田養蜂場社、酵素分解ローヤルゼリーを粉末化したもの)を100μg/mLとなるように添加し、5日間培養した。5日間培養後、培地を回収し、新しく調製した同じ培地に交換してさらに5日間培養した。培養後、培地を回収し、最初の5日間培養後の回収培地と合わせた。
【0061】
上記回収培地中の死細胞片等を除去するために15,000rpm、30分、4℃の遠心分離に供した。遠心分離後、上澄液を回収し、さらに100,000rpm、60分、4℃の超遠心分離に供し、脂肪由来幹細胞由来エクソソーム(ADSCエクソソーム)を沈殿させた。沈殿を冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて懸濁後、サイズ排除カラムqEV70nm(メイワフォーシス)にて処理し、ADSCエクソソームを得た。FDRJ又はEzRJで処理したADSC由来のエクソソームは、FDRJ-ADSCエクソソーム又はEzRJ-ADSCエクソソームといい、ローヤルゼリーで処理していない(対照)のADSC由来のエクソソームは無処理のADSCエクソソーム又は単にADSCエクソソームという。それぞれのエクソソームの粒子径及び粒子濃度は、Nanosight LM14Cでブラウン運動を観察、録画した動画によりNanoparticle tracking analysis(NTA、Version 2.3)を用いて算出した。その結果を
図1に示す。
【0062】
図1によれば、無処理のADSCエクソソームの粒子径のピークは59nmであり、平均粒子径が93±41nmであった。FDRJ-ADSCエクソソームの粒子径のピークは58nmであり、平均粒子径が71±41nmであった。また、EzRJ-ADSCエクソソームの粒子径のピークは62nmであり、平均粒子径が105±71nmであった。いずれものエクソソームも同程度の粒子径を有していた。また、回収培地あたりの粒子濃度(エクソソーム濃度)は、無処理のADSCエクソソームは4.05×10
6粒子/mL、FDRJ-ADSCエクソソームは2.01×10
8粒子/mL、EzRJ-ADSCエクソソームは2.22×10
7粒子/mLであった(
図1)。無処理のADSCエクソソームの濃度と比較して、FDRJ-ADSCエクソソームの濃度は約50倍に増加し、EzRJ-ADSCエクソソームの濃度は約5.5倍増加した。
【0063】
[ADSCの増殖率の評価]
1×10
4細胞/mLに調整したADSCを96ウェルプレートに100μL/ウェルずつ播種し、上記と同様に24時間前培養した。24時間後、培地を、凍結ローヤルゼリー(FRJ、山田養蜂場社、生ローヤルゼリー)、FDRJ又はEzRJを100、200又は300μg/mL含むADSC培地(Lonza)に切り換え、72時間培養した。72時間培養後、培地を10%WST-1(タカラバイオ)含有ADSC培地に切り換え、2時間培養した。さらにその培養後、ミトコンドリアの呼吸鎖にて機能するコハク酸塩テトラゾリウム還元酵素によって、WST-1から変換されたホルマザン色素を、マイクロプレートリーダーにて450nm及び690nmにおける吸光度を測定し、吸光度に基づき、無処理のADSCの増殖率を1とした場合の、ADSCの相対増殖率を算出した。その結果を
図2に示す。なお、図中のa、ab、b、cは異なる符号間で有意差があることを示している。また、aとab、bとabは同じ符号を有するため、有意差がないことを示している。
【0064】
図2から、各種ローヤルゼリーで処理したADSCの増殖は、無処理のADSCと比較して顕著に上昇したことが分かった。例えば、100μg/mLの各種ローヤルゼリーによって処理したADSCの相対増殖率はそれぞれ1.16(FRJ)、1.28(FDRJ)、及び1.38(EzRJ)であった。
【0065】
上記2つの評価の結果から、ADSCエクソソーム濃度は無処理の場合と比較して、FDRJ処理をした場合は約50倍、EzRJ処理をした場合は約5.5倍に増加したこと、さらに、ADSC増殖率の結果を併せて考察すると、FDRJ処理、EzRJ処理ともに細胞数の増加だけでは説明できず、各種ローヤルゼリー処理によってADSCからADSCエクソソームの分泌促進が起こっていると考えられた。
【0066】
(実験例2 各種ADSCエクソソームによる線維芽細胞の増殖に対する影響の評価)
ヒト正常皮膚線維芽細胞(normal human dermal fibroblasts;以下「NHDF」という場合がある)としては、Lonza社から購入したものを使用した。1×10
4細胞/mLに調製したNHDFを96ウェルプレートに100μL/ウェルずつ播種し、NHDF培地(Lonza、MSCBM(商標登録)基本培地)中、37℃、5%CO
2にて24時間培養した。24時間後、培地を、ADSCエクソソーム、FDRJ-ADSCエクソソーム又はEzRJ-ADSCエクソソームが、50、200、又は400ngタンパク質/mLとなるように添加したNHDF培地に切り換え、NHDFを72時間培養した。72時間培養後、培地を10%WST-1(タカラバイオ)含有NHDF培地に切り換え2時間培養した。さらにその培養後、上記[ADSCの増殖率の評価]と同様にして吸光度を測定し、吸光度に基づき、無処理のNHDFの細胞増殖率を100%とした場合のNDHFの相対増殖率(%)を算出した。結果を
図3に示す。なお、図中のa、ab、bは異なる符号間で有意差があることを示している。また、aとab、bとabは同じ符号を有するため、有意差がないことを示している。
【0067】
図3から、FDRJ-ADSCエクソソーム処理又はEzRJ-ADSCエクソソーム処理においては、いずれも400ngタンパク質/mLの処理濃度においてNHDFの増殖率が有意に増加したことが分かった。また、50又は200ngタンパク質/mLの処理濃度では、NDHFの増殖率に影響を及ぼさなかった。ADSCエクソソーム処理と各種ローヤルゼリー処理ADSCエクソソーム処理との間でNHDFの増殖率に有意な差は見られなかった。
【0068】
(実験例3 各種ADSCエクソソームによる線維芽細胞の創傷部位への遊走活性に対する影響の評価)
1×10
5細胞/mLに調整したNHDFを12ウェルプレートに1mL/ウェルずつ播種し、NHDF培地(Lonza)中、37℃、5%CO
2にて24時間前培養した。24時間後、培地を実験例2と同様の各種ADSCエクソソームを、400又は800ngタンパク質/mLとなるように添加したNHDF培地に切り替え、NHDFをさらに24時間培養した。24時間培養後、NHDF培地に切り換え、細胞層に1000μLチップの先端でひっかくことで直線の創傷部位を作成した。NHDF培地で24時間培養後、創傷部位へ遊走したNHDF細胞の数を位相差顕微鏡により撮影し、
図4に示す。また、ImageJにより遊走した細胞数をカウントし、無処理のNHDFの遊走活性を1とした場合の相対遊走活性を算出した。結果を
図5に示す。なお、図中のa、ab、c、bc、d、eは異なる符号間で有意差があることを示している。また、aとab、cとbcは同じ符号を有するため、有意差がないことを示している。
【0069】
図4及び
図5から、無処理に比べ、ADSCエクソソーム、FDRJ-ADSCエクソソーム及びEzRJ-ADSCエクソソーム処理では濃度依存的にNHDFの遊走活性が増加することが分かった。FDRJ-ADSCエクソソーム又はEzRJ-ADSCエクソソーム処理では、ADSCエクソソーム処理の2倍程度NHDFの相対遊走活性が高まっていた。
【0070】
(実験例4 各種ADSCエクソソームによる線維芽細胞のコラーゲン産生能に対する影響の評価)
1×10
5細胞/mLに調整したNHDFを12ウェルプレートに1mL/ウェルずつ播種し、NHDF培地(Lonza)中、37℃、5%CO
2にて24時間前培養した。24時間後、実験例2と同様の各種ADSCエクソソームを200ngタンパク質/mLとなるように培地に添加し、さらに72時間培養した。72時間培養後、NHDF培地に切り換え72時間培養した。72時間培養後、冷PBSにより細胞を洗浄し、Collagen Quantitation Kitを用いて生成されたコラーゲン含有量を定量した。その結果を
図6に示す。なお、図中のa、bは異なる符号間で有意差があることを示している。また、同じ符号間では有意差がないことを示している。
【0071】
図6から、ADSCエクソソーム処理では、無処理と比較して細胞内のコラーゲン量には変化がなかった。一方、FDRJ-ADSCエクソソーム及びEzRJ-ADSCエクソソーム処理では無処理の細胞に比べ1.7倍ほど細胞内のコラーゲン含有量が上昇した。FDRJ-ADSCエクソソーム処理とEzRJ-ADSCエクソソーム処理との間で細胞内のコラーゲン含有量に有意な差はなかった。
【0072】
(実験例5 各種ADSCエクソソームによるmicroRNA(miRNA)プロファイルに対する影響の評価)
実験例1に記載した方法により調製した各種ローヤルゼリー処理ADSC及びADSCエクソソームから、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いてtotalRNAを抽出した。RNA試料はBioanalyzer(Agilent Technologies)を用いて、分解を受けていないことを確認した。QIA-seq miRNA Library Kit(Qiagen)、QIA-seq miRNA NGS 96 Index IL(Qiagen)をそれぞれ用いてmiRNA-seq解析用のライブラリーを調製した。その後、直ちに次世代シーケンサーNovaSeq 6000(商標登録、Illumina)に供し、ADSC及びADSCエクソソームにおけるmiRNAプロファイルを解析した。なお、検出されたmiRNAからリード数のcount値が16未満のデータはノイズデータとして削除し、全部で94種類のmiRNAを解析対象とした。ADSC及びADSCエクソソーム中の同時差次的発現miRNAの含有量を表1に示す。表1中のmiRNAの含有量は、TPM(Transcripts per million)で表されている。また、スクリーニングされた同時差次的発現miRNAのベン図(Venn diagram)を
図7及び
図8に示す。
【0073】
無処理のADSCと各種ローヤルゼリー処理ADSC、及び無処理のADSCエクソソームと各種ローヤルゼリー処理ADSCエクソソームとを比較し、各種ローヤルゼリー処理によって変動したmiRNAを抽出した。その結果、各種ローヤルゼリーで処理したADSCでは無処理のADSCと比較して、hsa-miR-125b-1-3p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-141-3p、hsa-miR-21-5p、has-miR-205-5pが共通して発現上昇した。また、hsa-miR-422-5p、hsa-miR-99b-5p、hsa-miR-191-5p、hsa-miR-342-5p、hsa-miR-125-5pが共通して発現が低下した(表1、
図7(A))。一方、各種ローヤルゼリー処理をしたADSCエクソソームでは無処理のADSCエクソソームと比較して、hsa-miR-130a-3p、hsa-miR-205-5pが共通して内包量が上昇し、hsa-miR-95-3p、hsa-miR-25-3p、hsa-miR-192-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-146-5p、hsa-miR-122-5pが共通して内包量が低下した(表1、
図7(B))。また、各種ローヤルゼリー処理ごとに、ADSC及びADSCエクソソームの変動したmiRNAを抽出したところ、ADSCとADSCエクソソームとで共通して変化し、かつ、各種ローヤルゼリー処理間で共通して変化したのは、発現が上昇したhsa-miR-205-5pのみであった(表1、
図8)。
【表1】