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特許7598166磁石合金、ボンド磁石およびこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】磁石合金、ボンド磁石およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241204BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241204BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20241204BHJP
   B22F 9/10 20060101ALI20241204BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241204BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20241204BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H01F1/057 110
H01F1/057 180
H01F41/02 G
B22F9/04 C
B22F9/04 E
B22F9/10
B22F3/00 C
C22C33/02 J
C22C38/00 303D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022530083
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018722
(87)【国際公開番号】W WO2021251071
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2020100614
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517081792
【氏名又は名称】BIZYME株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】金清 裕和
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-130802(JP,A)
【文献】特開2006-245534(JP,A)
【文献】特開2004-72082(JP,A)
【文献】特開平09-320824(JP,A)
【文献】特開平04-342103(JP,A)
【文献】特開2018-204072(JP,A)
【文献】特開2018-144084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
B22F 9/04
B22F 9/10
B22F 3/00
C22C 33/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RE2Fe14B型正方晶化合物相(REは希土類元素)を主相とする等方性鉄基希土類硼素系の磁石合金において、組成式T100-x-y-z-m (B1-nCn)xREyCrzMm(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素、REはNdもしくはPrを必ず含む希土類元素、MはAl、Si、V、Ti、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された1種以上の金属元素)で表現され、組成比率x、y、z、mおよびnがそれぞれ、
5.6≦x≦6.4原子%、
11.2≦y≦12.0原子%、
2.3≦z≦5.4原子%、
0.0≦m≦3.0原子%
0.0≦n≦0.5
を満足する組成を有し、Cr添加を必須とすることを特徴とする磁石合金。
【請求項2】
主相であるRE2Fe14B型正方晶化合物の平均結晶粒径が20nm以上100nm未満、標準偏差(σ)が平均結晶粒径の50%以内である請求項1に記載の磁石合金。
【請求項3】
残留磁束密度Brが0.7T以上、固有保磁力HcJが800kA/m以上、最大エネルギー積(BH)maxが80kJ/m3以上の永久磁石特性を有する請求項1または2に記載の磁石合金。
【請求項4】
平均粉末粒径20μm以上200μm未満の高耐食性を有する粉末状とした請求項1から3のいずれかに記載の磁石合金。
【請求項5】
請求項4に記載の粉末状の磁石合金を、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と混合・混練した後に成形して得られたボンド磁石。
【請求項6】
混合する樹脂として、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の少なくともいずれかの熱可塑性樹脂を使用した、直径10mm、高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である請求項5に記載のボンド磁石であって、
80℃/5%NaCl(塩水)浸漬し、1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満(0~-20%)であり、かつ磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上であるボンド磁石。
【請求項7】
組成式T100-x-y-z-m (B1-nCn)xREyCrzMm(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素、REはNdもくはPrを必ず含む希土類元素、MはAl、Si、V、Ti、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された1種以上の金属元素)で表現され、組成比率x、y、z、mおよびnがそれぞれ、
5.6≦x≦6.4原子%、
11.2≦y≦12.0原子%、
2.3≦z≦5.4原子%、
0.0≦m≦3.0原子%
0.0≦n≦0.5
を満足する組成を有する合金溶湯を用意する工程と、
前記合金溶湯を、ノズル先端に配したオリフィス1孔当たり200g/min以上2000g/min未満の平均出湯レートにて、銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする回転ロールの表面上に噴射することで、非晶質相もしくはRE2Fe14B相を含む結晶相を1体積%以上有する急冷凝固合金を作製する工程とを備える磁石合金の製造方法。
【請求項8】
前記回転ロールは、表面粗度が算術平均粗さ(Ra)0.1μm以上、0.6μm未満である請求項7に記載の磁石合金の製造方法。
【請求項9】
前記急冷凝固合金を10℃/sec以上200℃/sec未満の昇温速度にて結晶化温度以上850℃以下の一定温度域に到達後、0.01sec以上7min未満経過後に直ちに急冷する熱処理を施すことにより、RE2Fe14B型正方晶化合物を主相とする磁石合金を作製する工程を更に備える請求項7または8に記載の磁石合金の製造方法。
【請求項10】
請求項9の磁石合金の製造方法により得られた磁石合金を、平均粉末粒径100μm以上200μm未満に粉砕して磁石合金粉末を得る工程と、
前記磁石合金粉末に熱硬化性樹脂を加えた後、成形金型へ充填してプレス成形により圧縮成形体を形成する工程と、
前記圧縮成形体を、前記熱硬化性樹脂の重合温度以上で熱処理することによりボンド磁石を得る工程とを備えるボンド磁石の製造方法。
【請求項11】
請求項9の磁石合金の製造方法により得られた磁石合金を、平均粉末粒径20μm以上100μm未満に粉砕して磁石合金粉末を得る工程と、
前記磁石合金粉末に熱可塑性樹脂を加えて作製した射出成形用コンパウンドを射出成形する工程とを備えるボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石合金、ボンド磁石およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルからサブミクロンメートルオーダサイズを有する微細結晶粒からなるNd-Fe-B、Sm-Fe-Nなどの硬磁性相にて構成される微細結晶型等方性磁石あるいは微細結晶粒からなるNd-Fe-B、Sm-Fe-Nなどの硬磁性相とFe-Bやα-Feなどの軟磁性相とが同一金属組織内に存在するナノコンポジット型等方性磁石(以下、「ナノコンポジット磁石」と称する)が開発されているがこれらナノメートルからサブミクロンメートルオーダサイズの結晶粒から構成される等方性鉄基希土類磁石は、微細結晶粒であるが故に静磁気相互作用に加え、交換相互作用により各結晶粒が磁気的に結合して、優れた磁石特性を発現することがマイクロマグネティクスを応用した計算機シミュレーション等にて明らかにされ、高性能永久磁石材料として実用化されている。
【0003】
これまで微細結晶型等方性鉄基希土類磁石は、等方性という特質を生かし、平均粒径50μm~200μm程度に粉砕した後、エポキシ樹脂系の熱硬化性樹脂もしくはナイロン系およびポリフェニレンサルファイド(PPS)等の熱可塑性樹脂と混合した樹脂結着タイプの磁石(通称、ボンド磁石)として形状自由度の高いネットシェイプ磁石として光学式ドライブ、ハードディスク向けスピンドルモータ、携帯電話の振動モータ(ページャモータ)および各種センサ等向けを代表として主に電子部品業界にて活用されてきたが、近年、本微細結晶型等方性鉄基希土類磁石の高磁気特性化により、1馬力(750W)以下程度のブラシレスDCモータとして自動車(電気自動車、ハイブリッド車も含む)向け並びに白物家電向けへの展開が期待されている。
【0004】
特に数10Wから数100Wクラスの小型モータの高性能・高効率化においては従来のフェライト磁石(鉄基酸化物系永久磁石)を用いたブラシ付きモータから、等方性希土類ボンド磁石を用いたブラシレスDCモータへの移行が進んでおり、従来、スピンドルモータおよび振動モータ等に限定されてきた微細結晶型等方性鉄基希土類磁石材料を用いた等方性希土類ボンド磁石に対して、フェライト磁石からの置き換えを考慮し、より耐食性に優れた等方性希土類ボンド磁石向け磁性材料が要求されており、具体的にはボンド磁石にした状態で80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満(0~-20%)であり、かつその際、直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb(ミリウェーバ)以上であるような極めて優れた耐食性を有する等方性希土類ボンド磁石用磁石材料が求められている。
本要求性能を確保するためには、当該磁石材料に含有される基本構成元素である希土類元素(以下、REと記す)、特にNd、Pr、Dy、Tbの酸化(RE2O3の生成)および同じく基本構成元素であるFeの酸化(Fe2O3の生成)により当該磁石材料合金の永久磁石性能を担う主相であるRE2FE14B型正方晶化合物の体積比率が減少することを抑制することが最も重要である。
加えて主相であるRE2Fe14B型化合物の粒界を取り囲む副相、RE-rich相、RE-Fe相等の酸化も抑制する必要があり、本副相が酸化した場合、主相+副相からなる金属組織を維持出来ず、最悪、磁石自体が崩壊し、ボンド磁石としての形状保持が出来なくなる。
ついてはフェライト磁石(鉄基酸化物系磁石)からの代替可能な耐食性を有しながら数10Wから数100Wクラスの小型DCブラシレスモータへ適用可能な等方性希土類ボンド磁石向け高耐食性等方性鉄基希土類磁石材料が期待されている。
【0005】
高磁気特性が期待される微細結晶粒からなるNd2Fe14B型正方晶化合物を主相とする鉄基希土類磁石は、Nd:Fe:B=11.76:残部:5.88とする化学量論組成を基本構成としているが、Ndに代表される希土類元素(RE)は酸素に対して極めて活性であるため、高い耐食性が求められる自動車向けモータ等にはこれまで酸化鉄系のフェライト磁石が使用されてきた。
しかしながら省エネルギー化が推進される中、ハイブリット自動車およびEV自動車の登場によって、これまで以上に電装化が進み、より高性能・高効率のモータが求められ、フェライト磁石を用いたブラシ付DCモータから希土類磁石を用いたブラシレスDCモータへの転換が強く市場で求められているものの、広い用途でフェライト磁石の代替が可能な優れた耐食性を有する鉄基希土類磁石は存在しない。
【0006】
上記の鉄基希土類磁石の耐食性を向上するために組成的なアプローチでは限界があるため、これまでは鉄基希土類磁石を樹脂モールドするなどして磁石本体の酸化を抑えることで、自動車用燃料ポンプやインバータ、電池冷却用のウオーターポンプ用モータに使用されているが、樹脂モールドではロータとステータとのギャップが広くなるため高い磁気特性を有する鉄基希土類磁石の性能が大幅に減じられ、マグネットトルクを有効活用出来ないばかりか、モータ本体が大きくなり、小型化が同時に求められる家電、電装用途に合致していない。 そこで、樹脂モールドに代わる方法として等方性鉄基希土類磁石粉とポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を代表とする耐熱性に優れた熱可塑性樹脂を混合・混練したコンパウンドを用い成形した耐熱性射出ボンド磁石が用いられはじめているが、本射出ボンド磁石であっても80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満であり、かつその際、直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上が得られるような極めて優れた高耐食性を有する等方性鉄基希土類磁石合金は見出されていない。
【0007】
特許文献1は、RE2Fe14B正方晶型結晶構造を主相とする異方性焼結磁石を開示しているが当該磁石は、ミクロンメートルオーダーのRE2Fe14B正方晶型結晶粒にて構成される金属組織を有しており、磁気配向することで磁気モーメントをRE2Fe14B正方晶型結晶のC軸方向に揃えることで良好な磁気特性を発現する磁石であるが、粒界相にRE-rich相を必須するため表面処理なしでは大気中室温環境下でも腐食が進むことから、如何なる防錆処理を施しても80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験では磁気特性の大幅な劣化は避けられず減磁率(Flux loss)は-20%を大きく下回る。
【0008】
特許文献2は、希土類元素(RE)が少なくとも10原子%、硼素を約0.5原子%~約10原子%、残部鉄からなるRE2Fe14B正方晶型結晶構造有する硬磁性相を主相する等方性永久磁石が開示されており、当該磁石は粒界レスの金属組織構成であっても微細金属組織であるが故に各主相間の交換結合により永久磁石を発現することが可能であり、前述のRE2Fe14B正方晶型結晶構造を主相とする異方性焼結磁石に対して耐食性の点において勝るものの主相の構成元素であるREが酸化することは避けられず、PPS樹脂からなる射出ボンド磁石であっても80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満であり、かつその際、直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上となるような極めて優れた耐食性を確保することは出来ない。
【0009】
特許文献3や特許文献4は、鉄基希土類系等方性ナノコンポジット磁石を開示している。これらの鉄基希土類系等方性ナノコンポジット磁石は、REの存在比率が他の鉄基希土類磁石に対して低く出来るため、REの酸化による磁気特性の劣化は抑えられるものの、副相として存在する軟磁性相であるα-Feが塩水浸漬下では赤錆の発生原因となり、やはりPPS樹脂からなる射出ボンド磁石であっても80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満であり、かつその際、直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上であるような極めて優れた耐食性を確保することは出来ない。
【0010】
一方、特許文献5の軟磁性相として主に鉄基瑚化物相を含有する鉄基希土類系等方性ナノコンポジット磁石では、Tiの添加により、合金溶湯の冷却過程でα-Fe相の析出・成長を抑制し、Nd2Fe14B相を析出・成長を優先的に進行させることができることを開示しているが、Tiは硼素(B)と結合し易く、結晶化の過程で、TiB2相を晶出することから、特許文献1、2、3、4に記載の鉄基希土類磁石に比べてより微細な金属組織となり、耐食性についても改善傾向にあるものの、主相であるNd2Fe14B相の生成に必要な硼素の絶対量が減少し、RE、鉄共に僅かに単独もしくは、Fe-RE合金の形で存在し、ここを起点に錆が進行するためPPS樹脂からなる射出ボンド磁石であっても80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満の極めて優れた耐食性を確保することは出来ない。
【0011】
また、特許文献6には、鉄基希土類系焼結磁石および鉄基希土類系磁石粉末を用い成形したボンド磁石の表面にプラズマ重合法により高密度の炭素水素重合膜を製膜することで優れた対摩耗性、耐熱性、耐食性が実現可能であることが記載されているが、本文献においても耐食性試験は85℃×95%RHの恒温恒湿試験に留まっており、80℃/5%NaCl(塩水)浸漬という極めて過酷な環境下における耐食性については記載されていない。
【0012】
同じく、特許文献7には鉄基希土類焼結磁石の表面処理として、表面被膜の第1層が無電解または無電解/電解併用によるNi-P膜、第2層が電解Cu膜、第3層が電解Ni膜という三層コートにより高耐食性磁石が得られることを開示しているが、こちらは120℃、相対湿度100%RH、1kgf/cm2の環境下にて24時間、72時間、120時間、168時間とサンプルを保持するPCT試験にて発錆状況が改善されている状況を示しているに過ぎず、80℃/5%NaCl(塩水)浸漬という極めて過酷な環境下にて使用可能な高耐食性鉄基希土類磁石とは言えない。
【0013】
特許文献8にはNd-Fe-B系合金より耐食性に優れるとされるSm-Fe-N系磁石粉末の表面にCF4、アルゴン、窒素または空気をプラズマガス化し処理することで被覆層を形成し、その後、異方性ボンド磁石化することで耐食性に優れた磁石が得られることを開示しているが、耐食性の評価は、85℃×85%RH×200時間の恒温恒湿試験であり、本文献も塩水浸漬環境下にて使用可能な高耐食性磁石は得られていない。
【0014】
特許文献9にはSm-Fe-N系合金粉末、並びに当該粉末を用いた等方性ボンド磁石が開示されているが、本文献も塩水浸漬環境下にて使用可能な高耐食性磁石係る記載はなく、特許文献1~9に記載の方法では何れも80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満であり、かつその際、直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上である極めて優れた耐食性を有する鉄基希土類磁石の製造方法は開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開昭59-046008号公報
【文献】特開昭60-009852号公報
【文献】特開平8-162312号公報
【文献】特開平10-53844号公報
【文献】特開2002-175908号公報
【文献】特開平1-280303号公報
【文献】特開2001-176709号公報
【文献】特開2020-50904号公報
【文献】特開2002-57017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
電装用燃料ポンプ、ウオーターポンプおよびEV向けDCブラシレスモータは、使用される環境条件により塩水浸漬にも耐え得る優れた耐食性を有する鉄基希土類磁石が求められているが、従来の方法はあくまでも磁石材料表面に耐候性に優れた処理膜を形成することにより耐食性を担保しており、表面処理膜の剥がれや磁石本体の欠け、傷等が発生すると磁石材料の素地(新鮮面)が露出するためそこが発錆の起点となるため、より高い耐食性を得るためには樹脂モールド等の方法しかなく、これではフェライト磁石に勝る磁気特性を有する鉄基希土類磁石であってもモータの高効率化に寄与するマグネットトルクは大幅に低下するため高価なREを原料とする費用対効果が得られないという問題がある。 本願発明者は、等方性Nd-Fe-B系磁石合金のFeサイトの一部を耐食性向上に寄与するCrにて置換し、Fe-Crとすることで、磁石の表面処理に依らず、Nd-(Fe,Cr)-B系合金として大幅に耐食性を改善できるのではと考えたが、単にCrを添加しただけでは磁気特性、特に磁化が大幅に低下するため、DCブラシレスモータ向けに適用可能な磁石性能を得ることが困難であることがわかった。
【0017】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、フェライト磁石からの代替可能な耐食性を有しながら、小型DCブラシレスモータへ適用可能な磁気特性を有する磁石合金、ボンド磁石およびこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る磁石合金は、RE2Fe14B型正方晶化合物相(REは希土類元素)を主相とする等方性鉄基希土類硼素系の磁石合金において、組成式T100-x-y-z-m(B1-nCn)xREyCrzMm(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素、REはNdもしくはPrを必ず含む希土類元素、MはAl、Si、V、Ti、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された1種以上の金属元素)で表現され、組成比率x、y、z、mおよびnがそれぞれ、
5.6≦x≦6.4原子%、
11.2≦y≦12.0原子%、
2.3≦z≦5.4原子%、
0.0≦m≦3.0原子%
0.0≦n≦0.5
を満足する組成を有し、Cr添加を必須とすることを特徴とする磁石合金であることを特徴とする。
【0019】
この磁石合金において、主相であるRE2Fe14B型正方晶化合物の平均結晶粒径が20nm以上100nm未満、標準偏差(σ)が平均結晶粒径の50%以内であることが好ましい。
【0020】
この磁石合金は、残留磁束密度Brが0.7T以上、固有保磁力HcJが800kA/m以上、最大エネルギー積(BH)maxが80kJ/m3以上の永久磁石特性を有することが好ましい。
【0021】
この磁石合金は、平均粉末粒径20μm以上200μm未満の高耐食性を有する粉末状とすることができる。
【0022】
また、本発明の前記目的は、上記の粉末状の磁石合金を、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と混合・混練した後に成形して得られたボンド磁石により達成される。
【0023】
このボンド磁石は、混合する樹脂として、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の少なくともいずれかの熱可塑性樹脂を使用した、直径10mm、高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2であるボンド磁石であって、80℃/5%NaCl(塩水)浸漬し、1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満(0~-20%)であり、かつ磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上であることが好ましい。
【0024】
なお、80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満(0~-20%)とした理由は、これよりも減磁されると、その後、引き続き80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験を継続した場合、2000時間に到達する前に減磁率-30%を超え、フェライト磁石並み以下の表面磁束(Flux)しか得られなくなるためである。
【0025】
また、直径10mm、高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2であるボンド磁石としての80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の磁石単独での磁束量(Open Flux)を0.5mWb以上とした理由は、0.5mWbより低い場合、酸化物系であるフェライト焼結磁石およびフェライトボンド磁石の表面磁束と大きな差異が得られず、フェライト磁石に対して高い磁気特性を発現することでフェライト磁石に代わり電装向け燃料ポンプやウオーターポンプ向けの数10Wから数100Wクラスの小型DCブラシレスモータへの適用を進めるという本願発明の目標達成が困難になるためである。
【0026】
また、本発明の前記目的は、組成式T100-x-y-z-m (B1-nCn)xREyCrzMm(TはFe、Co及びNiからなる群から選択された少なくとも1種の元素であって、Feを必ず含む遷移金属元素、REはNdもくはPrを必ず含む希土類元素、MはAl、Si、V、Ti、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された1種以上の金属元素)で表現され、組成比率x、y、z、mおよびnがそれぞれ、
5.6≦x≦6.4原子%、
11.2≦y≦12.0原子%、
2.3≦z≦5.4原子%、
0.0≦m≦3.0原子%
0.0≦n≦0.5
を満足する組成を有する合金溶湯を用意する工程と、
前記合金溶湯を、ノズル先端に配したオリフィス1孔当たり200g/min以上2000g/min未満の平均出湯レートにて、銅、銅合金、MoおよびWのいずれかを主原料とする回転ロールの表面上に噴射することで、非晶質相もしくはRE2Fe14B相を含む結晶相を1体積%以上有する急冷凝固合金を作製する工程とを備える磁石合金の製造方法により達成される。
【0027】
この磁石合金の製造方法において、前記回転ロールは、表面粗度が算術平均粗さ(Ra)0.1μm以上、0.6μm未満であることが好ましい。
【0028】
この磁石合金の製造方法は、前記急冷凝固合金を10℃/sec以上200℃/sec未満の昇温速度にて結晶化温度以上850℃以下の一定温度域に到達後、0.01sec以上7min未満経過後に直ちに急冷する熱処理(フラッシュアニール)を施すことにより、RE2Fe14B型正方晶化合物を主相とする磁石合金を作製する工程を更に備えることが好ましい。
【0029】
また、本発明の前記目的は、上記の磁石合金の製造方法により得られた磁石合金を、平均粉末粒径100μm以上200μm未満に粉砕して磁石合金粉末を得る工程と、前記磁石合金粉末に熱硬化性樹脂を加えた後、成形金型へ充填してプレス成形により圧縮成形体を形成する工程と、前記圧縮成形体を、前記熱硬化性樹脂の重合温度以上で熱処理することによりボンド磁石を得る工程とを備えるボンド磁石の製造方法により達成される。あるいは、本発明の前記目的は、上記の磁石合金の製造方法により得られた磁石合金を、平均粉末粒径20μm以上100μm未満に粉砕して磁石合金粉末を得る工程と、前記磁石合金粉末に熱可塑性樹脂を加えて作製した射出成形用コンパウンドを射出成形する工程とを備えるボンド磁石の製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、フェライト磁石からの代替可能な耐食性を有しながら、電装向け燃料ポンプやウオーターポンプ向けの数10Wから数100Wクラスの小型DCブラシレスモータへ適用可能な磁気特性を有する磁石合金、ボンド磁石およびこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)はフラッシュアニールを実現する熱処理炉の装置構成図であり、(b)炉心管内部を移動する溶湯急冷凝固合金の状態を示す図である。
図2】本発明にて実施するフラッシュアニールによる熱履歴の概念図である。
図3】実施例3で得られた急冷凝固合金(as-spun)の粉末X線回折プロファイルである。
図4】実施例3で得られ等方性た鉄基希土類硼素系磁石の粉末X線回折プロファイルである。
図5】比較例14で得られた急冷凝固合金(as-spun)の粉末X線回折プロファイルである。
図6】比較例14で得られた等方性鉄基希土類硼素系磁石の粉末X線回折プロファイルである。
図7】実施例1、実施例2、実施例3および比較例16の80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における減磁率(Flux loss)変化である。
図8】実施例1、実施例2、実施例3および比較例16の80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における磁束量(Open Flux)の変化である。
図9】80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験におけるCr添加量と1000時間経過後の減磁率(Flux loss)の関係を示したものである。
図10】実施例2の80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における発錆状況を示した写真である。
図11】比較例16の80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における発錆状況を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一実施形態に係る磁石合金は、Cr添加を必須とする等方性鉄基希土類硼素系磁石合金であり、RE2Fe14B相を主相とする磁石合金が得られる合金組成域においてFeサイトの一部をCrにて置換し、優れた耐食性を有するFe-Crを含有するRE2(Fe,Cr)14B相とする。この磁石合金は、RE2(Fe,Cr)14B相の平均結晶粒径を20nm以上100nm未満とし、結晶粒径の標準偏差を経金結晶粒径の50%以内とする均一微細金属組織とすることで、各主相粒士間に働く交換相互作用を最大限活用出来得る金属組織を有する。
【0033】
発明者は、前記の均一微細な金属組織を実現することにより主相であるRE2(Fe,Cr)14B相が静磁気相互作用に加えて強い交換相互作用で結び付くことで、Cr添加により飽和磁化Jsは低下するも、強い粒子間相互作用により減磁曲線の角形性(Br/Js)が改善され、結果的に残留磁束密度Brの低下が抑制されることから、Cr添加材でありながら電装向け燃料ポンプやウオーターポンプ向けの数10Wから数100Wクラスの小型DCブラシレスモータへの適用が可能な磁気特性を発現することを見出し、本願発明を想到するに至った。
【0034】
Crの添加量が2.3原子%未満の場合は、公知の射出成形ボンド磁石の製造工程にて作製された直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である等方性希土類射出ボンド磁石をサンプルとして80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%を超えるためフェライト磁石に代替可能な磁気特性を確保できない。また、Crの添加量が5.4原子%以上の場合は、1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満を確保出来るもののイニシャルの残留磁束密度Brが0.7T以下となり、80℃/5%NaCl(塩水)浸漬1000時間経過後の磁気特性をフェライト磁石の代替が可能なレベルに維持できない。
【0035】
これに対し、Crの添加量を2.3原子%以上、5.4原子%未満とすると共に、主相であるRE2(Fe,Cr)14B相の平均結晶粒径が20nm以上100nm未満、標準偏差(σ)が平均結晶粒径の50%以内である磁石合金とすることで、電装向け燃料ポンプやウオーターポンプ向けの数10Wから数100Wクラスの小型DCブラシレスモータへの適用が可能な磁気特性を発現しつつ、直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である等方性希土類射出ボンド磁石をサンプルとして80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満、かつ磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上となり、フェライト磁石からの代替が可能な極めて優れた耐食性と磁気特性を両立できる。
【0036】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8及び特許文献9は、何れも直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である鉄基希土類系磁石をサンプルとして80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満、かつ磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上を確保できるような鉄基希土類系磁石として極めて優れた耐食性を有する磁石材料を示していない。
【0037】
本発明のCr添加を特徴とする等方性鉄基希土類硼素系磁石は、RE2Fe14B相を主相とする磁石合金が得られる合金組成域においてFeサイトの一部をCrにて置換し、優れた耐食性を有するFe-Crを含有するRE2(Fe,Cr)14B相とすると共に、RE2(Fe,Cr)14B相の平均結晶粒径を20nm以上100nm未満とし、結晶粒径の標準偏差を経金結晶粒径の50%以内とする均一微細金属組織とすることで、RE2(Fe,Cr)14B相からなる各結晶粒同士が静磁気相互作用に加えて強い交換相互作用で結び付くため、結果的にCr添加材における残留磁束密度Brの低下を抑制し、電装向け燃料ポンプやウオーターポンプ向けの数10Wから数100Wクラスの小型DCブラシレスモータへの適用が可能な磁気特性と優れた耐食性を両立出来得る等方性鉄基希土類硼素系磁石が得られる。
【0038】
加えて本発明のCr添加を特徴する等方性鉄基希土類硼素系磁石は、Bの一部をCで置換することで、さらに耐食性を向上することが出来る。
【0039】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0040】
[合金組成]
Feを必須元素として含む遷移金属Tは、上述の元素の含有残余を占める。Feの一部をFeと同じく強磁性元素であるCo及びNiの一種または二種で置換しても、所望の硬磁気特性を得ることができる。ただし、Feに対する置換量が30%を超えると、磁束密度の大幅な低下を招来するため、置換量は0%~30%の範囲に限定される。なお、Coは添加であれば、磁化の向上に寄与するだけでなく溶湯粘性を低下させ、溶湯急冷時のノズルからに出湯レートを安定化する効果があるためCo置換量は0.5%以上30%以下であることが好ましく、費用対効果の観点からCoの置換量は0.5%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
B+Cの組成比率xが5.6原子%未満になると、合金のアモルファス生成能が大きく低下するため、溶湯急冷凝固の際にα-Feが析出するため減磁曲線の角形性が損なわれる。また、B+Cの組成比率xが6.4原子%を超えるとRE2Fe14B相の生成に必要なB+C濃度を超えるため、余剰分のB+Cは粒界成分となり磁化の発現に寄与せず磁気特性の低下を招来することから、組成比率xは5.6原子%以上6.4原子%以下の範囲とし、組成比率xは5.6原子%以上6.2原子%以下であることが好ましく、5.8原子%以上6.2原子%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
Bの一部をCで置換することによりRE2Fe14B相の耐食性が向上するが、Bに対するCの置換率が50%を超えるとアモルファス生成能が大きく低下するため好ましくなく、置換率は0%~50%に限定する。なお、耐食性向上効果の観点から好ましくは2%~30%が良く、さらに好ましくは3%~15%が良い。
【0043】
本発明においてNdもしくはPrを必ず含む希土類元素yは、11.2原子%未満になると鉄及び希土類元素から構成される粒界相が生成されず目標とする永久磁石特性を確保出来ず、12.0原子%を超えるとRE2Fe14B相の生成に必要なRE濃度を超え、主相粒界に酸素に対して極めて活性なRE-rich相が生成することから耐食性の低将来するためyは12.0原子%未満とする。また、yは固有保磁力HcJの安定確保の点で11.4原子%以上11.9原子%以下が好ましく、出来るだけ高Brを確保する点においては11.4原子%以上11.8原子%以下がさらに好ましい。
【0044】
本発明においてCrは優れた耐食性を確保する上で必須であるも、添加量zが2.3原子%未満になると所望の耐食性を担保出来ず、5.4原子%を超えると残留磁束密度Brの低下が著しく、所望の磁気特性を確保出来ないため、Cr添加量zは、2.3原子%以上5.4原子%以下とする。なお、耐食性の観点からzは、2.5原子%以上5.4原子%以下が好ましく、さらに磁気特性の低下を考慮すると2.5原子%以上5.0原子%以下がより好ましい。
【0045】
本発明においてはAl、Si、V、Ti、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、AuおよびPbからなる群から選択された1種以上添加元素Mを加えてもよい。本添加元素により、アモルファス生成能の向上、結晶化熱処理後の金属組織の均一微細化によるHcJの向上、並びに減磁曲線の角形性改善等々の効果により永久磁石特性の向上が得られる。ただし、これらの元素Mの組成比率mは、3.0原子%を超えると、磁化の低下を招くため、zは0原子%以上3.0原子%以下に限定され、0原子%以上2.0原子%以下であることが好ましく、0原子%以上1.5原子%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
[金属組織]
本発明により得られる等方性鉄基希土類硼素系磁石は主相であるRE2Fe14B型正方晶化合物の平均結晶粒径が20nm以上100nm未満であることを特徴するが、平均結晶粒径が20nm未満になるとHcJの低下を招来し、100nm以上になると結晶粒子間に働く交換相互作用が低下するため減磁曲線の角形性が低下するため必要な磁気特性である残留磁束密度Brが0.7T以上、固有保磁力HcJが800kA/m以上、最大エネルギー積(BH)maxが80kJ/m3以上が得られない。磁気特性向上の観点から、この平均結晶粒径は20nm以上80nm以下が好ましく、20nm以上70nm以下がさらに好ましい。
【0047】
なお、上記のRE2Fe14B型正方晶化合物の結晶粒における標準偏差(σ)が、結晶粒径の50%を超えると金属組織の均一性が損なわれRE2(Fe,Cr)14B相からなる各結晶粒同士に働く交換相互作用が低下するため残留磁束密度Brの低下を招来するため、σを50%以下とする。より均一微細な組織とし、磁気特性の向上を達成するには、σは40%以下が好ましく、30%以下であればさらに好ましい。
【0048】
[磁気特性]
本発明にて得られる等方性鉄基希土類硼素系磁石は、残留磁束密度Brが0.7T以上、固有保磁力HcJが800kA/m以上、最大エネルギー積(BH)maxが80kJ/m3以上の永久磁石性能を発現し得るが、射出ボンド磁石として電装用の燃料ポンプやウオーターポンプ向けの数10Wから数100Wクラスの小型DCブラシレスモータへ適用することを考えると、HcJは850kA/m以上が好ましく、900kA/m以上がさらに好ましい。
また、Brについては0.72T以上が好ましく、0.75T以上がさらに好ましい。
【0049】
[溶湯急冷]
本発明においては、所定の合金組成になるよう準備した素原料を溶解した後、前記溶湯をノズル先端に配したオリフィス1孔当たり200g/min以上2000g/min未満の平均出湯レートにて銅、銅合金もしくはMo、Wを主原料とする回転ロールの表面上に噴射することで非晶質相もしくはRE2Fe14B相を含む結晶相を1体積%以上有する急冷凝固合金を作製するが、平均出湯レートが200g/min未満では製生産性に劣り、2000g/min以上では粗大なα-Feを含む溶湯急冷合金組織となるため結晶化熱処理を施しても目的とする永久磁石特性が得られないため、ノズル先端に配したオリフィス1孔当たり出湯レートを200g/min以上2000g/min未満に限定する。この平均出湯レートは、300g/min以上1500g/min以下が好ましく、400g/min以上1300g/min以下がさらに好ましい。
【0050】
前記の急冷凝固合金を作製する際は、合金溶湯と回転ロールの密着性が重要であり、本溶湯密着性はロールの表面粗度に大きく依存するため溶湯密着性を確保し、安定した溶湯急冷状態を維持するために回転ロールの表面粗度を算術平均粗さ(Ra)0.1μm以上、0.6μm未満とする。Raが0.1μm未満では回転ロールの表面上で合金溶湯が滑るため十分な冷却が出来ず、Raが0.6以上の場合は急冷合金が回転ロールに張り付く危険性がある。Raは、0.1μm以上0.55μm未満が好ましく、0.15μm以上0.5μm未満がさらに好ましい。
【0051】
前記の急冷凝固合金を作製する際は、合金溶湯の酸化を防ぐことで溶湯粘性の上昇を抑え、安定した出湯レートを維持できることから、急冷凝固雰囲気は、無酸素もしくは低酸素雰囲気が良く、本雰囲気を実現するために急冷凝固装置内を20Pa以下、好ましくは10Pa以下、さらに好ましくは1Pa以下まで真空排気した後、不活性ガスを急冷凝固装置内へ導入し、急冷凝固装置内の酸素濃度を500ppm以下、好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下にした上、急冷凝固を実施する必要があり、不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用いることができるが、窒素は希土類元素並びに鉄と比較的に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましく、コストの点からアルゴンガスがさらに好ましい。
【0052】
急冷凝固合金の作製工程において合金溶湯を急冷する回転ロールの材質は、銅、もしくはモリブデン、タングステンまたは同型の合金から形成された基材を有していることが好ましい。これらの基材は熱伝導性や耐久性に優れるからである。また、回転ロールの基材表面にクロム、ニッケル。またはそれらを組み合わせためっきを施すことでロール表面の耐熱性および硬度を増し、急冷凝固時におけるロール表面の溶融や劣化を抑制することができる。
なお、回転ロールの直径は例えばΦ200mm~Φ20000mmであり、急冷凝固時間が10sec以下の短時間であれば回転ロールを水冷する必要は必ずしも無いが、急冷凝固時間が10sec以上におよぶ場合は、回転ロール内部に冷却水を流し、回転ロール基材の温度上昇を抑制することが好ましく、回転ロールの水冷能力は単位時間あたりの凝固潜熱と出湯レートに応じて算出され適宜最適調整されることがさらに好ましい。
【0053】
[フラッシュアニール]
結晶化熱処理時の昇温速度が10℃/sec未満の場合、過剰粒成長により微細な金属組織が得られず、HcJ並びにBrの低下を招き、昇温速度が200℃/sec以上の場合は、結晶粒成長が間に合わず永久磁石の発現に必要な平均結晶粒径が20nm以上100nm未満であるRE2Fe14B型正方晶化合物を主相とする均一微細な金属組織とならず、昇温速度が10℃/sec未満の場合と同じく磁気特性の低下を招来するため、昇温速度は10℃/sec以上200℃/sec未満が良く、好ましくは30℃/sec以上200℃/sec未満が良く、さらに好ましくは40℃/sec以上180℃/sec以下が良い。
【0054】
本発明における結晶化熱処理において、良好な永久磁気特性を得るためには、結晶化温度以上850℃以下の一定温度域の熱処理温度に到達後、直ちに急冷することが好ましい。詳述すれば、上記熱処理温度に到達後、急冷に至るまでの保持時間は実質0.01sec以上あれば十分であり、7minを超えて保持すると均一微細な金属組織が損なわれ各種磁気特性の低下を招来するため好ましくない。そこで、保持時間は0.01sec以上7min以下が良く、好ましくは0.01sec以上2min以下が良く、さらに好ましくは0.01sec以上30sec以下が良い。
【0055】
本発明における結晶化熱処理では、2℃/sec以上200℃/sec以下の降温速度にて溶湯急冷凝固合金粉末を400℃以下まで冷却することが良い。この降温速度が2℃/sec未満では結晶組織の粗大化が進行し、200℃/secを超えると合金が酸化する可能性がある。この降温速度は、より好ましくは5℃/sec以上200℃/sec以下が良く、さらに好ましくは5℃/sec以上150℃/sec以下が良い。
【0056】
上記結晶化熱処理の雰囲気は、溶湯急冷凝固合金の酸化を防止するために不活性ガス雰囲気中が良い。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用いることができるが、窒素は希土類元素並びに鉄と比較的に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましく、コストの点からアルゴンガスがさらに好ましい。
【0057】
[粉砕および成形]
前記工程を経て得た急冷凝固合金は、結晶化熱処理前に薄帯状の急冷凝固合金を粗く、例えば50mm以下に切断または粉砕しておいても良い。さらに結晶化熱処理後の本発明磁石を平均粉末粒径20μm~200μmの範囲にある適切な平均粉末粒径に粉砕した磁石粉末にすることで、前記磁石粉を用いて公知の工程により種々の樹脂結合型磁石からなるボンド磁石(通称、プラマグ)を製造することが出来る。
【0058】
前記樹脂結型磁石を作製する場合、磁石粉末は、エポキシ、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、アクリル、ポリエーテルなどと混合され、所望の形状に成形される。
【0059】
前記樹脂結型磁石において混合する樹脂にポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の熱可塑性樹脂に磁石粉末が50体積%以上80体積%未満になるよう混合・混練の上、射出成形用コンパウンドとし、本コンパウンドを用いて作製された直径10mm×高さ7mm、パーミアンス係数(Pc)が2である等方性希土類射出ボンド磁石は、80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて1000時間経過後の減磁率(Flux loss)が-20%未満であり、かつ磁石単独での磁束量(Open Flux)が0.5mWb以上である極めて優れた耐食性を有する等方性鉄基希土類射出成形ボンド磁石となる。なお、磁石粉末が45体積%以下では所望の磁気特性が得られず、80体積%以上では、コンパウンドの流動性が悪く射出成形出来ないため、磁石粉末の混合比率は、45体積%以上80体積%以下が良く、好ましくは、50体積%以上80体積%以下が良く、さらに好ましくは、50体積%以上75体積%以下が良い。
【0060】
本発明の磁石粉末を射出成形ボンド磁石に用いる場合は、平均粉末粒径が100μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粉末粒径は20μm以上100μm以下である。また、圧縮成形ボンド磁石用に用いる場合は、平均粉末粒径が100μm以上200μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粉末粒径は50μm以上150μm以下である。さらに好ましくは、粒径分布に2つのピークを持ち、平均粉末粒径が80μm以上130μm以下にある。
【0061】
なお、本発明磁石粉末の表面にカップリング処理や化成処理(リン酸処理及びガラス被膜処理を含む)などの表面処理を施すことにより、成形方法を問わず樹脂結合型磁石の成形時における成形性や得られる樹脂結合型磁石の耐食性および耐熱性を改善可能である。加えて成形後の樹脂結合型磁石表面に樹指塗装や化成処理、鍍金などの表面処理を施した場合も、磁石粉末の表面処理と同様に樹脂結合型磁石の耐食性および耐熱性を改善可能である
【0062】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0063】
(実施例)
表1の合金組成となるよう、純度99.5%以上のNd、Pr、B、CrおよびFeの主要元素に加え、C、Co、Ga、Si、Ti、Mo等の添加元素を配合した素原料100gをアルミナ製溶解坩堝へ投入した後、真空溶解炉内のワークコイルへセットし、その後、真空用溶解炉内0.02Pa以下まで真空排気後、アルゴンガスを常圧まで導入した上で、高周波誘導加熱により合金溶湯とした後、水冷銅鋳型へ合金溶湯を鋳込み、母合金を作製した。
【0064】
次いで、得られた母合金を適当な大きさに割った後、底部に表1に記載の出湯レートなるよう適宜異なる直径(0.7mm~1.2mm)を有するオリフィスを配した透明石英製ノズルへ40g挿入した後、単ロール急冷装置内のワークコイルへセットし、その後、真空用溶解炉内0.02Pa以下まで真空排気後、アルゴンガスを表1の急冷雰囲気圧になるまで導入し、高周波誘導加熱により母合金を再溶解した上、表1に記載のロール表面速度(Vs)で回転する表1に記載の表面粗度とした純銅製の回転ロールの表面へ、溶湯を噴射圧30kPaでノズルオリフィスより出湯し、溶湯急冷凝固合金を作製した。なお、その際、ノズル先端と回転ロール表面の距離は0.8mmとした。図3に代表例として実施例3の急冷凝固合金の粉末XRDプロファイルを示す。図3より急冷凝固状態(as-spun)で既にNd2Fe14B相の存在と若干のα-Feが混在した組織であることが確認された。
【0065】
前記工程で得られた急冷凝固合金を数mm以下に粗粉砕し、溶湯急冷凝固合金粉末とした後、図1(a)に示す結晶化熱処理炉(フラッシュアニール炉、炉心管:透明石英製外径15mm×内径12.5mm×長さ1000mm、加熱ゾーン300mm、冷却ファンによる冷却ゾーン500mm)を用い、急冷凝固合金の粗粉を原料ホッパーへ投入した上、20g/minのワーク切り出し速度で熱処理を実施した。図1(a)に示す結晶化熱処理炉は、原料ホッパー1、原料供給フィーダ2、炉心管3、管状炉4、冷却塔5、回収ホッパー6、振動子7、炉心管回転用モータ8、炉心管回転軸9および装置架台10を備えている。炉心管傾斜角度11、炉心管回転数および炉心管振動周波数は、表2の昇温速度になるよう、表2に記載の熱処理温度および熱処理時間と共に適宜調整した。これにより、図1(b)に炉心管3内の拡大図で示すように、急冷凝固粉末13は、炉心管(符号3aは、軸方向に沿って切断した炉心管3の断面図、符号3bは、軸方向と直交方向に切断した炉心管3の断面図)内を、炉心管回転用モータ8の作動による回転運動による攪拌と、振動子7の作動による炉心管振動による急冷凝固粉末のホッピング現象15とが組み合わせられた動きをしながら炉心管内を矢示14方向に通過することで、急冷凝固粉末13は、一体としてではなく粉末個々に熱履歴を受ける特異な熱処理条件下に置かれる。
【0066】
結晶化熱処理後の溶湯急冷凝固合金粉末の構成相を粉末X線回折にて確認したところ、Nd2Fe14B相の存在が確認された。図4に代表例として実施例3の結晶化熱処理後の粉末XRDプロファイルを示す。また、図4では図3に対してNd2Fe14B相の結晶ピークの強度が増している傾向が見られ、熱処理によりNd2Fe14B相の結晶性が進んでいることが確認された。また、熱処理前の図3と同様、若干のα-Feが混在した組織であることが確認された。
【0067】
表2に記載の結晶化熱処理を施し得られた等方性鉄基希土類硼素系磁石を長さ約7mm×幅約0.9mm~2.3mm×厚み18μm~25μmの磁気特性評価用サンプルとした後、3.2MA/mのパルス印加磁界にて長手方向に着磁した後、反磁界の影響を抑えるため長手方向に磁気特性評価用サンプルをセットした上、室温磁気特性を振動式試料磁力計(VSM)により測定した結果を表3に示す。表3より目標の磁気特性レベルであるBr≧0.7T、HcJ≧800kA/m、(BH)max≧80kJ/m3が実施例の記載の合金組成並びに製法にて得られていることが判る。
【0068】
表4に結晶化熱処理を施し得られた等方性鉄基希土類硼素系磁石を透過型電子顕微鏡にて観察した。明視野像にてRE2Fe14B相を主相とする微細金属組織を確認した。表4に主相平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差σを示す。表4よりRE2Fe14B型正方晶化合物の平均結晶粒径が20nm以上100nm未満、σが平均結晶粒径の50%以内であることが判る。主相であるRE2Fe14B型正方晶化合物の結晶粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて撮影した明視野像の画像に対して二値化処理を行い、主相と粒界を分けた後、JIS規格(JIS G 0551:2005)に基づく画像解析により評価した。
【0069】
次いで実施例1~13にて得られた熱処理済みの磁粉をピンディスクミルにて平均粒径70μmになるように粉砕、粉砕した磁粉とPPS樹脂を所定の重量を計量後、万能混合機を用いて均一に混合した上、得られた混合物を二軸押出混練機にて混練を行い、射出成形用ボンド磁石用コンパウンドを作製した。
【0070】
前記の射出成形用ボンド磁石用コンパウンドを射出成形機にて射出成形し、等方性射出成形ボンド磁石を作製した。なお、得られた射出成形ボンド磁石の形状は、直径10mm×高さ7mm、成形体密度は4.4g/cm3(磁粉の真比重7.5g/cm3)であることから磁粉充填率は58.7体積%であった。
【0071】
実施例1~13の磁粉を用いて得られた前記等方性射出成形ボンド磁石の磁気特性を3.2MA/mのパルス印加磁界にて長手方向に着磁した後、BHトレーサにて測定した結果を表5に示す。
【0072】
次に実施例1~13の磁粉を用いて得られた前記等方性射出成形ボンド磁石を用いて80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて発錆状況、並びに経過時間に伴う磁石単体での磁束量変化を調査した。表6に1000時間経過後の減磁率(Flux loss)および磁束量(Open Flux)を示す。加えて、図7に80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における減磁率(Flux loss)変化、図8に80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における磁束量(Open Flux)の変化、図9に80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験におけるCr添加量と減磁率(Flux loss)の関係、および図10に実施例2の80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における発錆状況を示した写真を示す。
【0073】
(比較例)
表1の合金組成となるよう、純度99.5%以上のNd、Pr、BおよびFeの主要元素に加えてSi、Cr、Nb、Ti、Zrを添加元素としてを配合した素原料100gをアルミナ製溶解坩堝へ投入した後、真空溶解炉内のワークコイルへセットし、その後、真空用溶解炉内0.02Pa以下まで真空排気後、アルゴンガスを常圧まで導入した上で、高周波誘導加熱により合金溶湯とした後、水冷銅鋳型へ合金溶湯を鋳込み、母合金を作製した。
【0074】
次いで、得られた母合金を適当な大きさに割った後、底部に表1に記載の出湯レートなるよう適宜異なる直径(0.7mm~1.2mm)を有するオリフィスを配した透明石英製ノズルへ40g挿入した後、単ロール急冷装置内のワークコイルへセットし、その後、真空用溶解炉内0.02Pa以下まで真空排気後、アルゴンガスを表1の急冷雰囲気圧になるまで導入し、高周波誘導加熱により母合金を再溶解した上、表1に記載のロール表面速度(Vs)で回転する表1に記載の表面粗度とした純銅製の回転ロールの表面へ、溶湯を噴射圧30kPaでノズルオリフィスより出湯し、溶湯急冷凝固合金を作製した。なお、その際、ノズル先端と回転ロール表面の距離は0.8mmとした。図5に代表例として比較例14の急冷凝固合金の粉末XRDプロファイルを示す。図5より急冷凝固状態(as-spun)で既にNd2Fe14B相の存在が確認された。Nd2Fe14B単相の金属組織であることが判る。
【0075】
前記工程で得られた急冷凝固合金を数mm以下に粗粉砕し、溶湯急冷凝固合金粉末とした後、結晶化熱処理炉(フラッシュアニール炉、炉心管:透明石英製外径15mm×内径12.5mm×長さ1000mm、加熱ゾーン300mm、冷却ファンによる冷却ゾーン500mm)を用い、急冷凝固合金の粗粉を原料ホッパーへ投入した上、20g/minのワーク切り出し速度で熱処理を実施した。なお、炉心管傾斜角度、炉心管回転数および炉心管振動周波数は表2の昇温速度になるよう、表2に記載の熱処理温度、並びに熱処理時間と共に適宜調整した。
【0076】
結晶化熱処理後の溶湯急冷凝固合金粉末の構成相を粉末X線回折にて確認したところ、Nd2Fe14B相の存在が確認された。図6に代表例として比較例14の結晶化熱処理後の粉末XRDプロファイルを示す。図6より図5と同様、熱処理後もNd2Fe14B単相であることが判る。
【0077】
表2に記載の結晶化熱処理を施し得られた等方性鉄基希土類硼素系磁石を長さ約7mm×幅約0.9mm~2.3mm×厚み18μm~25μmの磁気特性評価用サンプルとした後、3.2MA/mのパルス印加磁界にて長手方向に着磁した後、反磁界の影響を抑えるため長手方向に磁気特性評価用サンプルをセットした上、室温磁気特性を振動式試料磁力計(VSM)により測定した結果を表3に示す。
【0078】
表4に結晶化熱処理を施し得られた等方性鉄基希土類硼素系磁石を透過型電子顕微鏡にて観察した。明視野像にてRE2Fe14B相を主相とする微細金属組織を確認した。表4に主相平均結晶粒径および結晶粒径の標準偏差σを示す。
【0079】
次いで比較例14~18にて得られた熱処理済みの磁粉をピンディスクミルにて平均粒径70μmになるように粉砕後、粉砕した磁粉とPPS樹脂を所定の重量を計量後、万能混合機を用いて均一に混合した上、得られた混合物を二軸押出混練機にて混練を行い、射出成形用ボンド磁石用コンパウンドを作製した。
【0080】
前記の射出成形用ボンド磁石用コンパウンドを射出成形機にて射出成形し、等方性射出成形ボンド磁石を作製した。なお、得られた射出成形ボンド磁石の形状は、直径10mm×高さ7mm、成形体密度は4.4g/cm3(磁粉の真比重7.5g/cm3)であることから磁粉充填率は58.7体積%であった。
【0081】
比較例14~18の磁粉を用いて得られた前記等方性射出成形ボンド磁石の磁気特性を3.2MA/mのパルス印加磁界にて長手方向に着磁した後、BHトレーサにて測定した結果を表5に示す。
【0082】
次に比較例14~18の磁粉を用いて得られた前記等方性射出成形ボンド磁石を用いて80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験にて発錆状況、並びに経過時間に伴う磁石単体での磁束量変化を調査した。表6に1000時間経過後の減磁率(Flux loss)および磁束量(Open Flux)を示す。加えて、図7に80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における減磁率(Flux loss)変化、図8に80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における磁束量(Open Flux)の変化、および図11に比較例16の80℃/5%NaCl(塩水)浸漬試験における発錆状況を示した写真を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【符号の説明】
【0089】
l 原料ホッパー
2 原料供給フィーダ
3 炉心管
3a 炉心管拡大図
3b 炉心管断面拡大図
4 管状炉
5 冷却塔
6 回収ホッパー
7 振動子
8 炉心管回転用モータ
9 炉心管回転軸
10 装置架台
11 炉心管傾斜角度
12 冷却ファン風
13 溶湯急冷凝固合金粉末(ワーク)
14 ワークの移動方向
15 ワークのホッピング現象
16 昇温速度
17 保持温度
18 降温速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11