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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】電動巻上機および電動巻上機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/46 20060101AFI20241204BHJP
   B66D 1/46 20060101ALI20241204BHJP
   B66D 1/12 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B66C13/46 E
B66D1/46 B
B66D1/46 E
B66D1/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021199613
(22)【出願日】2021-12-08
(65)【公開番号】P2023085113
(43)【公開日】2023-06-20
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000129367
【氏名又は名称】株式会社キトー
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】星 龍貴
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239258(JP,A)
【文献】特開2019-094205(JP,A)
【文献】特開2021-138506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B66D 1/46
B66D 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フックで吊荷を係着して巻き上げ下げする電動巻上機であって、
フックの位置を検出するエンコーダと、
入力手段からの指令により速度制御を実行する制御部を備え
前記制御部は、
巻上モータの負荷情報から吊荷の荷重を検出する荷重検出部と、
前記荷重検出部の検出結果とフック位置の情報から吊荷サイズを算出し登録する吊荷サイズ登録部と、
巻上速度を制限する強制減速区間を前記吊荷サイズ登録部の登録情報を基に設定し登録する強制減速区間登録部を具備し、
前記吊荷サイズ登録部は、駆動モータの始動から所定時間内に荷重を検出した場合に吊荷サイズを補正して登録し、
前記強制減速区間登録部は、吊荷サイズを補正して登録した場合に前記強制減速区間と該区間の減速度の少なくともいずれか一方を補正して登録し、巻上機の速度を制御する、
ことを特徴とする電動巻上機。
【請求項2】
前記制御部は、前記駆動モータの駆動方向を記録する駆動方向記録部を有し、駆動方向記録の記録情報を基に自動減速区間における速度制限を解除する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電動巻上機。
【請求項3】
吊荷をフックに係着して巻き上げ下げする電動巻上機の制御方法であって、
エンコーダが前記フックの位置を検出するステップと、
制御部が、入力手段からの指令により速度制御を実行するステップと、
荷重検出部が、巻上モータの負荷情報から吊荷の荷重を検出するステップと、
吊荷サイズ登録部が、前記荷重検出部の検出結果とフック位置の情報から吊荷サイズを算出し登録するステップと、
強制減速区間登録部が、巻上速度を制限する強制減速区間を前記吊荷サイズ登録部の登録情報を基に設定し登録するステップと、
前記吊荷サイズ登録部が、駆動モータの始動から所定時間内に荷重を検出した場合に前記吊荷サイズを補正して登録するステップと、
前記強制減速区間登録部が、前記吊荷サイズを補正して登録した場合に前記強制減速区間と該区間の減速度の少なくともいずれか一方を補正して登録し、巻上機の速度を制御するステップとを有する、
ことを特徴とする電動巻上機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ホイストや電動チェーンブロック等の電動巻上機および電動巻上機の制御方法に関し、特に吊荷の上昇(巻上)・下降(巻下)の地切(吊荷が床面から離れること)・着床(吊荷が載置面に着地すること)付近における自動減速機能を有する電動巻上機および電動巻上機の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動巻上機の運転制御装置としては、特許文献1に記載のものが知られている。電動巻上機で操作者が吊荷の巻き上げを開始した際に、手元スイッチで高速巻上を指令したら、まず高速巻上速度で巻上げを開始し、荷重が検出された場合に低速巻上速度まで減速させ、地切した後、高速巻上速度に加速させる。これにより、地切時の衝撃を最小化する低速巻上速度に自動的に減速されることになり、作業者の操作により衝撃緩和の処置をとることなく、スムーズな地切が可能となる。
【0003】
また、電動巻上機で操作者が吊荷を巻き下げする操作を開始した際に、手元スイッチで高速巻下を指令したら、まず高速巻下速度で巻下げを開始し、上昇時に算出した減速位置で低速巻下速度まで減速させるので、着床時の衝撃を最小化する低速巻下速度に自動的に減速される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-239258
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ロードセルやバネなどを用いた荷重検出手段を用いずに、電動巻上機のモータ電流から地切・着床を検出し、地切・着床位置を登録して、地切・着床制御するものが知られている。しかし、モータ始動時の始動電流では負荷の推定が困難となっている。また、吊り上げる荷のサイズを登録することで、地切・着床制御するものが知られている。
【0006】
モータ電流から地切・着床を検出する方法では、モータ始動時間内で地切りした場合には、地切り位置を検出できないので、一旦巻下げをしてから再度巻上を行って地切位置を登録することもあり、作業効率が悪化するという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、作業者が手元スイッチ等の入力手段を操作して多段速で巻上げ巻下げ運転を行う電動巻上機において、作業者の技量によらず荷の巻き上げ作業の効率の良い地切・着床制御可能な電動巻上機および電動巻上機の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、フックで吊荷を係着して巻き上げ下げする電動巻上機であって、フックの位置を検出するエンコーダと、入力手段からの指令により速度制御を実行する制御部を備え、制御部は、巻上モータの負荷情報から吊荷の荷重を検出する荷重検出部と、荷重検出部の検出結果とフック位置の情報から吊荷サイズを算出し登録する吊荷サイズ登録部と、巻上速度を制限する強制減速区間を吊荷サイズ登録部の登録情報を基に設定し登録する強制減速区間登録部を具備し、前記吊荷サイズ登録部は、駆動モータの始動から所定時間内に吊荷サイズを算出した場合に吊荷サイズを補正して登録し、強制減速区間登録部は、吊荷サイズを補正して登録した場合に強制減速区間と該区間の減速度の少なくともいずれか一方を補正して登録し、巻上機の速度を制御することを特徴とする電動巻上機が提供される。
【0009】
また、上述の実施の形態において、制御部は、駆動モータの駆動方向を記録する駆動方向記録部を有し、駆動方向記録の記録情報を基に自動減速区間における速度制限を解除することが好ましい。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第2の観点によると、吊荷をフックに係着して巻き上げ下げする電動巻上機の制御方法であって、エンコーダがフックの位置を検出するステップと、制御部が、入力手段からの指令により速度制御を実行するステップと、荷重検出部が、巻上モータの負荷情報から吊荷の荷重を検出するステップと、吊荷サイズ登録部が、荷重検出部の検出結果とフック位置の情報から吊荷サイズを算出し登録するステップと、強制減速区間登録部が、巻上速度を制限する強制減速区間を吊荷サイズ登録部の登録情報を基に設定し登録するステップと、吊荷サイズ登録部が、駆動モータの始動から所定時間内に吊荷サイズを算出した場合に吊荷サイズを補正して登録するステップと、強制減速区間登録部が、吊荷サイズを補正して登録した場合に強制減速区間と該区間の減速度の少なくともいずれか一方を補正して登録し、巻上機の速度を制御するステップとを有する
電動巻上機の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電動巻上機の地切・着床制御に必要な吊荷サイズの設定登録処理において、駆動モータ始動時から所定時間内に地切りが生じた場合も考慮して、吊荷設定登録処理を行い、減速パターンを自動的に選択決定することにより、作業者による吊荷設定登録処理の作業効率の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電動巻上機の構成を示す模式図である。
図2】制御部の構成を示すブロック図である。
図3】自動吊荷サイズ登録処理を説明するための図である。
図4】電動巻上機における全体処理概要を示す図である。
図5】自動吊荷サイズ登録処理の説明をするためのフローチャートである。
図6】下フックの位置を説明するための図である。
図7】吊荷サイズ登録を説明するための図である。
図8】吊荷サイズ登録の設定を説明するための図である。
図9】自動吊荷サイズ登録における荷重検出を説明するための図である。
図10】減速パターン変更と無効時間中の移動幅のオフセットについて説明するための図である。
図11】巻上運転における荷重検出処理を説明するためのフローチャートである。
図12】巻上運転中の荷重検出処理における、現在の下フックの位置と吊荷サイズとの差分と基準値の関係を説明するための図である。
図13】巻下げ運転における荷重検出処理を説明するためのフローチャートである。
図14】強制減速設定処理を説明するためのフローチャートである。
図15】通常の減速パターンを示す図である。
図16】巻上運転および巻下げ運転における減速パターンを説明するための図である。
図17】インバータ入力処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態に係る、電動巻上機1について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、上下方向とは、チェーン(又はロープ)20の懸垂方向を指す。
【0014】
<電動巻上機1の機器構成について>
電動巻上機1は、図1に示すように電動巻上機10、制御装置60および入力装置70を備えて構成されている。電動巻上機10は、モータ12およびエンコーダ14を含む電動巻上機本体11と、チェーン20とその下端に下フック30とを備えている。制御装置60は、制御部62およびインバータ制御装置64を備えている。なお、電動巻上機10は制御装置60および入力装置70を除いた電動巻上機を意味し、電動巻上機1は電動巻上機10に制御装置60および入力装置70を含んだ電動巻上機をシステムとして捉えたものを意味し、電動巻上機1と電動巻上機10は構成における概念が異なる。
【0015】
制御部62は、ペンダンドスイッチ等の入力装置70からの運転指令情報やエンコーダ14からのモータ回転数情報(パルス信号)を受けて、インバータ制御装置64を制御する。インバータ制御装置64は、電動巻上機10の駆動に必要な電力をモータ12に加えて電動巻上機10を駆動(巻上げ、巻下げ)させる。制御部62は、図2に示すように荷重検出部81、吊荷サイズ登録処理部82、減速処理部83、インバータ入力部84、演算部85および駆動方向記録部(図示せず)を備えている。なお、吊荷サイズ登録処理部82は、請求項1に記載の吊荷サイズ登録部に対応し、吊荷サイズ登録処理部82の中の強制減速区間の設定処理については請求項1に記載の強制減速区間登録部に対応し、減速処理部83は請求項1に記載の強制減速区間登録部に対応している。
【0016】
荷重検出部81はインバータ制御装置64からのモータ12の運転負荷情報により吊り荷の荷重を検出(推定)し、後述する荷重検出に関する所定の処理を行い、吊荷サイズ登録処理部82は後述する吊荷サイズ登録に関する所定の処理を行い、減速処理部83は後述する自動減速に関する所定の処理を行う。インバータ入力部84は後述するインバータ入力処理に関する所定の処理を行うとともに、後述する差分、変更減速パターンの速度指令を算出しインバータ制御装置64に指令する。演算部85は、後述する吊荷サイズCの値と現在の下フックの位置の値を減じて得られる差分等を算出する。
【0017】
<電動巻上機1の動作>
電動巻上機1は、地切り着床時の衝撃を最小化するために、荷重検出機能、自動吊荷サイズ登録機能および自動減速設定機能を有している。自動吊荷サイズ登録機能には、強制減速区間登録機能が含まれている。電動巻上機1における制御方法は、図4に示すようにまず、後述する荷重検出処理ステップ(ST1)、自動吊荷サイズ登録処理ステップ(ST2)、自動減速設定処理ステップ(ST3)、インバータ制御装置64への指令作成と入力処理ステップ(ST4)および運転継続判定処理(ST5)を有している。運転継続判定において運転を継続しないとするまでは上記ST1~5のステップを繰り返し実行(メインループ)する。それぞれの処理ステップは互いに密接に関連しており、例えば自動吊荷サイズ登録処理や自動減速設定処理は、荷重検出処理の結果に基づいた処理も含まれている。
【0018】
[自動吊荷サイズ登録処理]
上述したように、荷重検出処理の結果はその後の自動吊荷サイズ登録処理や強制減速設定処理の中で使われていることから、便宜上最初に自動吊荷サイズ登録処理の説明をする。
図5は吊荷サイズを半自動で登録する自動吊荷サイズ登録処理の説明をするための図である。電動巻上機の操作者は、吊荷サイズを登録するときには、手元スイッチ(入力装置)の押しボタン(図示せず)を操作して、下フックを、荷を地切する前の所定の高さに位置させた後で、自動吊荷サイズ登録モードをオンに設定する。ステップS101において、制御部62内の吊荷サイズ登録処理部82は自動吊荷サイズ登録モードがオンであるかオフであるかを判定する。自動吊荷サイズ登録モードがオンである場合には、ステップS102に進み、オフの場合には後述するステップS111に進む。ステップS102においては、「速度制限[登録]」フラグをオンに設定する。「速度制限[登録]」フラグがオンの状態では、後述するインバータ入力処理で示す通り、電動巻上機10の速度が制限される。ここで、速度の制限とは後述する巻上速度を吊荷サイズ測定に最適な所定の低速VelSETに制御することをいう。低速VelSETに制御することで、地切り時の衝撃を最小化するとともに、モータ12の始動時間が短いことから荷重検出できない区間も最小化でき、高い精度で吊荷サイズを検知し登録を行うことができる。
【0019】
次に、吊荷サイズ登録処理部82は、ステップS103において、巻上操作(巻上動作)がなされているか否か(巻上操作がオンかオフか)を判定し、巻上操作がオンの場合には、ステップS104において、後述する荷重検出処理の結果である「荷重検出」フラグがオンかオフかを判定する。「荷重検出」フラグがオンとは、後述する荷重検出処理の結果、電動巻上機10で荷を吊り上げていると判定していることを意味している。後述するステップS216、S227とリンクしている。ステップS104において「荷重検出」フラグがオンと判定した場合には、制御部62は、ステップS105において、「始動区間中の荷重検出」フラグがオンかオフかを判定する。ここで、「始動区間中の荷重検出」フラグがオンの場合とは、駆動モータの始動から所定時間内に「荷重検出」フラグがオンであった場合をいう。なお、「始動区間中の荷重検出」フラグは、後述する荷重検出処理のステップS201、S209とリンクしている。「始動区間中の荷重検出」フラグがオンと判定された場合には、吊荷サイズ登録処理部82は、ステップ106で「減速パターン変更」フラグをオンに設定する。なお、減速パターンについては後述のインバータ入力処理で詳述する。
【0020】
次に、演算部85は、ステップ107で補正量B(m)を、式B=γ+δで算出し記録する。次にステップ108で吊荷サイズC(m)を、式C=A-Bで算出し記録する。
次に、演算部85は、ステップS111で、「速度制限[登録]」フラグをオフに設定し、ステップS112で「自動吊荷サイズ登録モード」をオフに設定し自動吊荷サイズ登録処理は終了しメインループに戻る。
【0021】
また、制御部62は、ステップS105において、「始動区間中の荷重検出」フラグがオフと判定された場合には、吊荷サイズ登録処理部82は、ステップ109で「減速パターン変更」フラグをオフに設定し、ステップ110で、補正量B(m)を、式B=γで算出し記録し、次にステップS108、ステップS111、ステップS112の処理を上記と同様に実行し、自動吊荷サイズ登録処理は終了しメインループに戻る。これによって、自動吊荷サイズ登録モードに設定されていても、自動吊荷サイズ登録が完了したら自動的に自動吊荷サイズ登録モードが解除され、入力装置70の巻上指令に基づく巻上操作を中断することなく継続することができる。
【0022】
一方、ステップS103において、「巻上操作」がオフと判定された場合は、ステップS104以降がスキップされ、ステップS104において「荷重検出」フラグがオフであった場合には、ステップS105以降の処理がスキップされてそれぞれメインループに戻り、処理が繰り返される。
【0023】
ここで、吊荷サイズについて説明する。吊荷サイズとは、図7に示すように、下フック30で吊荷40を吊り下げた状態で、下フック30から床面と接する吊荷40の下面までの長さをいう。図7では、吊具50を介して吊荷40を下フック30で吊り上げているので、吊荷サイズには、吊具50と組み合わされたサイズとなっており、吊荷40自体のサイズより大きくなっている。吊荷サイズは、荷を下フックで吊り上げたときのサイズであり、「荷吊上げサイズ」と換言できる。
【0024】
図6に示すように、下フック位置(高さ位置(m))は、床面FLから電動巻上機10下面(チェーン20の原点)までの距離を下フック30の可動範囲(m)とすると、可動範囲(m)からチェーン長(m)を減じた長さ(m)で算出される。なお、チェーン長(m)は、エンコーダ14により検出され、可動範囲(m)は、電動巻上機10下面(チェーン20の原点)から床面FLまでの距離を測定することで得られるが、電動巻上機10の最大揚程を初期値として入力し、その値で代用するようにしても良い。その場合、床面FLは仮想位置となり、吊荷のサイズは実際のサイズと異なるものになるが、地切・着床制御には影響されない。
【0025】
電動巻上機10が吊荷40を吊り上げた時、すなわち地切した時の下フックの位置(高さ位置(m))が吊荷サイズに等しくなり、この地切した時の下フックの位置(高さ位置(m))をエンコーダ14で検出し登録する。地切したか否かは、後述する荷重検出処理において予め記録した地切検出のための閾値荷重を検出したか否かで判定している。
【0026】
補正量Bについて説明する。
巻上操作中、押しボタン(入力装置70)の上ボタンを押して、巻上指令信号が制御部62に出力され、インバータ制御装置64に速度指令を出力し、インバータ制御装置64はモータ12に駆動電力を出力する。インバータ制御装置64は、モータ駆動電流を演算し制御部62に運転負荷情報を出力する。制御部62の荷重検出部81は運転負荷情報を基に必要な演算を行い荷重判別処理を実行する。これらの処理には所定の時間がかかり遅延時間が発生する。これと比較すると、エンコーダ14からの下フック30の位置情報(パルス信号)は遅延なく制御部62に入力される。そのため、吊荷サイズを登録する際にはインバータ制御装置64がモータ12に駆動電力を出力してから、運転負荷情報を出力し制御部62がその情報を受けて荷重判別処理を完了するまで遅延時間分の補正を行う必要がある。(図8参照)遅延時間は、電動巻上機10がクレーンシステムの巻上装置である場合、制御部62がインバータ制御装置から離れた場所に配置され、巻上駆動用のモータ以外も制御する制御装置である場合は、顕著に長くなる。
【0027】
そのため、吊荷サイズの登録処理においては、その遅延時間に対応する補正処理を行う。この時の補正量Bは、遅延補正量γ(m)であり、遅延時間(s)×巻上速度(m/s)で求められる。また、予め遅延補正量γ(m)を測定し記録するようにしても良い。地切りを検出した下フック30の位置(高さ)Aから補正量B(B=γ)を減じたものが吊荷サイズCとなる(ステップS110、S108)。
【0028】
また、吊荷サイズの登録処理における補正は、上記した遅延時間による補正の他に、始動時中に地切りが完了した場合にも補正を必要とする。始動時間中は始動電流の影響によりモータ電流で吊荷の荷重を判別できない。荷重検出処理において、図9に示すように、始動電流により判別できない区間を予め始動区間として定めている。始動区間において地切しても地切を検出できないので、始動区間直後の所定の短時間内に荷重検出部が吊荷を地切したと判定した場合は、始動区間中に地切したものとみなすようにしている。そして、始動区間中の地切とみなした場合は、補正処理を行う。この補正処理は、記録した吊荷サイズからオフセット量δ(m)でオフセットすることにより実行され、補正された吊荷サイズを登録する。
【0029】
始動区間中の地切と判定した場合の補正処理を図10に示す。この図では、上記遅延時間による影響を省略して図示している。「荷重検出位置」で始動区間中の地切を検出した場合、最大で「無効時間中移動幅」の誤差を有している。「無効時間中移動幅」とは、検出無効区間に設定した間に下フックが移動する距離である。「荷重検出位置」から「無効時間中移動幅」の1/2がオフセット量δ(m)に相当する。
【0030】
したがって、始動区間中に地切した場合の補正量Bは、遅延補正量γ(m)にオフセット量δ(m)を加算した長さ(m)となる。ステップS108において算出する吊荷サイズC(m)は下フック30の位置(高さ)Aから補正量B(=γ+δ)を減じた長さとなる(ステップS107、S108)。ステップS105の始動区間中の荷重検出か否かによって、減速パターンを変更するか否かを判定し、ステップS108で吊荷サイズCの決定結果と、後述する図16に示すように予め定められた巻上用減速開始距離α1、巻下用減速開始距離α2、巻上用低速距離β1および巻下用低速距離β2により強制減速区間も登録される。
【0031】
[荷重検出処理]
以下に、荷重検出処理について図11図13を参照して説明する。荷重検出部81は、吊荷40を吊っているか否かを予め記録した閾値と比較して、閾値未満では「荷重検出」をオフと判定し、閾値以上では「荷重検出」をオンと判定している。図9に示すように巻上操作開始直後は、モータ12に始動電流の影響でトルク電流(インバータ制御装置64が出力する運転負荷情報)による負荷の大きさ判定は困難となっている。そのため始動時間に相当する始動区間を予め定め、この区間内では荷重検出判定を行わないようにしている。図11に示すように、ステップS201で、「始動区間の地切検出」フラグをオフに設定する。これは、後述するステップ209で「始動区間の地切検出」フラグをオンにしたものをオフに戻すステップとなっている。その後、ステップS202で、荷重検出部81は、インバータが稼働しているか否かを判定する。ここでインバータが稼働しているか否かとは、インバータ制御装置64がモータ12に電力を出力しているか否かを意味している。ステップS202でインバータが稼働していると判定された場合、ステップS203で、荷重検出部81は、検出無効時間をカウントするために制御部62の内部タイマー(図示せず)のカウントを開始または継続させる。
【0032】
その後、ステップS205で、荷重検出部81は、インバータ制御装置64の運転負荷情報および/または入力装置70からの運転指令に基づいて電動巻上機10の運転が巻上か巻下かを判定する。ステップS205で、電動巻上機10の運転が巻上であると判定された場合には、ステップS206で、荷重検出部81は、タイマーからのカウント情報に基づいて検出無効時間を超過したか否かを判定する。ステップS206で検出無効時間を超過したと判定された場合、ステップS207で、荷重検出部81は、インバータ制御装置64から得られるモータ12の運転負荷情報のうち、モータ出力トルクに関する情報であるトルク電流値(トルク値)が予め定められた所定の閾値T1を超えたか否かを判定する。ここで、所定の閾値T1は吊荷40が地切したと判断できる値であって吊荷種類別に個別に設定することができる。ステップS207でトルク電流値(トルク値)が所定の閾値T1を超えたと判定された場合には、ステップS208で、荷重検出部81は、タイマーで算出された経過時間が予め設定された検出無効時間から所定の時間以内か否かを判定する。所定の時間以内とは、例えば、10ミリ秒以内である。所定時間は制御部の処理速度により決められる。
【0033】
ステップS208においてタイマーで算出された経過時間があらかじめ設定された検出無効時間から所定の時間以内と判定された場合に、ステップS209で、始動区間内で地切があった旨(「始動区間内での地切」フラグをオンに設定)の情報が記録される。その後、ステップS210で、巻上操作において吊り荷を吊り上げていることを検出している旨(「巻上用荷重検出」フラグをオンに設定)の情報が記録され、続いてステップS216で荷重検出があった旨(「荷重検出」フラグをオンに設定)、さらにステップS228で「最終操作巻上」フラグをオン、「最終操作巻下」フラグをオフに設定し荷重検出処理は終了し、メインループに戻る。なお、ステップS208においてタイマーで算出された経過時間が予め設定された検出無効時間から所定の時間超過と判定された場合には、ステップS209の処理はスキップされてステップS210の処理が実行される。この場合、「始動区間内での地切」フラグはステップS201で設定されたオフのままとなっている。
【0034】
ステップS206で検出無効時間を超過していないと判定された場合と、ステップS207でトルク電流値(トルク値)が所定の閾値T1を超えていないと判定された場合には、次にステップ211で、荷重検出部81は、「巻上用荷重検出」フラグがオンとなっているか否かを判定する。ステップS211で、「巻上用荷重検出」フラグがオンと判定された場合には、ステップS212で、演算部85はエンコーダ14から得られた現在の下フックの位置からステップS108で登録した吊荷サイズCを減じて得られる差(差=現在-登録)を算出し記録する。この差は、吊荷40の下面と床面FLとの距離を示している。次に、荷重検出部81は、ステップS213で、その差が予め定められた基準値(巻上用基準値)以上(差≧基準値(巻上用基準値))であるか否かを判定する。ステップS213で差が予め定められた基準値以上であると判定された場合にはステップS210、S216およびS228の処理が実行されて荷重検出処理は終了しメインループに戻る。
【0035】
なお、上述した巻上用基準値とは、始動時間に相当する無効時間中に最大で移動可能な距離(最大移動可能距離:図12参照)をいう。差が基準値以上の場合とは、図12の左図のように下フック30の位置aが最大移動可能距離を規定する上限ライン(上側ライン)以上の場合であり、この場合には「巻上用荷重検出」フラグはオンを保持する。一方差が巻上用基準値未満の場合とは、図12の右図のように下フック30の位置bが最大移動可能距離を規定する上限ラインと下限ライン(下側ライン)の間に位置している場合であり、巻上用検出がオン(=フックが登録位置より上に移動したことがある)であり、なおかつ巻下げ操作をしていないことが条件としている。この場合には、この位置から巻き下げると無効時間中に着床する可能性があるので巻上用荷重検出オフとする。
【0036】
ステップS213で差が予め定められた巻上用基準値未満であると判定された場合にはステップS214で荷重検出部81は直前に巻下げ操作していないか否かを判定する。具体的には、「最終操作巻上」フラグがオンの場合は、直前に巻下げ操作していないと判定し、前述と同様にステップS210、S216およびS228の処理が実行されて荷重検出処理は終了しメインループに戻る。ステップS211で「巻上用荷重検出」フラグがオフと判定された場合と、ステップS214で、「最終操作巻下」フラグがオンと判定され、直前に巻下げ操作していると判定された場合には、次にステップS215に進み、巻上用荷重検出がなかった旨(巻上用荷重検出フラグをオフに設定)の情報を記録し、続いてステップS217で荷重検出がなかった旨(「荷重検出」フラグをオフに設定)の情報を記録し、さらにステップS228の処理を実行し荷重検出処理は終了しメインループに戻る。
【0037】
一方、ステップS205で、電動巻上機10の運転が巻下であると判定された場合には、図13に示すように、ステップS218において、荷重検出部81はタイマーからのカウント情報に基づいて検出無効時間を超過したか否かを判定する。ステップS218で検出無効時間を超過したと判定された場合、ステップS219で、荷重検出部81は、インバータ制御装置64から得られるモータ12の負荷情報のうち、モータ出力トルクに関する情報であるトルク電流値(トルク値)が予め定められた所定の閾値T2未満であるか否かを判定する。ステップS219で用いる所定の閾値T2は、巻下げ操作時に吊荷40の荷重が検出されたと判断できる閾値であって吊荷の種類ごとに個別に設定される。ステップS219でトルク電流値(トルク値)が所定の閾値T2未満であると判定された場合には、ステップS224で、巻下無負荷状態である旨(「巻下無負荷状態」フラグをオンに設定)の情報を記録する。続いてステップS225で荷重検出がなかった旨(「荷重検出」フラグをオフに設定)の情報を記録し、ステップS229で巻下げ操作が行われた旨(「最終操作巻下」フラグをオン、「最終操作巻上」フラグをオフ)の情報を記録し、荷重検出処理は終了しメインループに戻る。
【0038】
ステップS218で検出無効時間を超過していないと判定された場合と、ステップS219でトルク電流値(トルク値)が所定の閾値T2以上であると判定された場合には、次にステップ220で、荷重検出部81は、「巻下用無負荷状態」フラグがオンかオフかを判定する。ステップS220で、「巻下用無負荷状態」フラグがオンと判定された場合には、ステップ221で演算部85は、吊荷サイズCから現在の下フックの位置を減じて得られる差(差分=登録-現在)を算出する。次に、荷重検出部81は、ステップS222で、ステップ221で算出した差が予め定められた基準値(巻下用基準値)以上(差分≧基準値(巻下用基準値))であるか否かを判定する。ステップS222で差が予め定められた巻下用基準値以上であると判定された場合にはステップS224、ステップS225の順に処理が実行され、次にステップS229の処理が実行されて荷重検出処理は終了しメインループに戻る。
【0039】
ステップS222で差が予め定められた巻下用基準値未満であると判定された場合にはステップS223で荷重検出部81は直前に巻上げ操作しているか否かを判定する。「最終操作巻下」フラグがオンの場合には、直前に巻上げ操作していないと判定し、ステップS224、ステップS225およびステップS229の処理が順に実行されて荷重検出処理は終了しメインループに戻る。ステップS220で、「巻下用無負荷状態」フラグがオフと判定された場合と、ステップS223で「最終操作巻下」フラグがオフと判定し直前に巻上げ操作していると判定された場合には、次にステップS226で、「巻下無負荷状態」フラグをオフに設定し、続いてステップS227で、荷重検出があった旨(「荷重検出」フラグをオンに設定)の情報が記録され、次にステップS229の処理が実行されて荷重検出処理は終了しメインループに戻る。
【0040】
なお、ステップS219でトルク電流値(トルク値)が所定の閾値T2以上であると判定したにも関わらず、ステップS224で「巻下無負荷状態」フラグをオン、ステップS225で「荷重検出」フラグをオフに設定される場合があるのは、図12の右図に示す状態から巻下げ操作を開始した場合に、確実に低速で着床するように制御するためである。
「巻下無負荷状態」フラグをオンからオフに切り替えるのは、直前に巻上げ操作が実行されていない場合に限られるようにしている。
【0041】
上述した巻下用基準値は、荷重検知を実行しない検出無効時間中の巻き下げ操作で巻き下がる距離で設定している。ステップS221で算出した差が、巻下用基準値以上の場合とは、図12の左図のように下フック30の位置が上のラインを上回っている場合であり、この場合には、ステップS219でトルク電流値(トルク値)が所定の閾値T2未満と判定していない場合でも、ステップS225で「荷重検出」フラグはオフが設定され、巻下げ速度を高速とすることが可能となっている。
【0042】
[自動減速設定処理]
以下に、自動減速設定処理について図14図16を参照して説明する。ステップS301で、減速処理部83は「自動吊荷サイズ登録モード」がオフ状態か否かを判定する。ステップS301で「自動吊荷サイズ登録モード」がオフ状態であると判定された場合には、ステップS302で、減速処理部83は自動減速機能モードがオン状態か否かを判定する。ここで、自動減速機能モードのオン状態は本処理である自動減速設定処理を実行する前提として必要なものであり、登録された吊荷サイズで求めた強制減速区間によって自動減速設定処理が実行される。ステップS302で、自動減速機能モードがオン状態であると判定された場合には、ステップS303で減速処理部83は、ステップS202と同様にインバータが稼働しているか否か判定する。
【0043】
ステップS303でインバータが稼働していると判定した場合には、減速処理部83は、ステップS304において、ステップS205と同様にインバータ制御装置64の出力信号および/または入力装置70からの運転指令に基づいて電動巻上機10の運転が巻上か巻下かを判定する。ステップS304において、巻上と判定された場合には、ステップS305において、減速処理部83は上述した荷重検出処理の結果(「荷重検出」フラグがオンかオフか)から荷重を検出したか否かを判定する。ステップS305において、「荷重検出」フラグがオンと判定した場合には、ステップS306において「荷重判定」フラグをオンに設定し、「荷重検出」フラグがオフと判定した場合にはステップS307において「荷重判定」フラグをオフに設定し、次に演算部85は、ステップS308で吊荷サイズCから現在の下フックの位置を減じて得られる差(差分=登録-現在)を算出し記録する。
【0044】
ステップS304において、巻下と判定された場合には、ステップS309において、減速処理部83は上述した荷重検出処理の結果(「荷重検出」フラグがオンかオフか)から荷重を検出したか否かを判定する。ステップS309において、「荷重検出」フラグがオンであった場合にはステップS310において「荷重判定」フラグをオフに設定し、ステップS309において「荷重検出」フラグがオフであった場合には、ステップS311において「荷重判定」フラグをオンに設定し、次に演算部85は、ステップS312で現在の下フックの位置から吊荷サイズCを減じて得られる差(差分=現在-登録)を算出し記録する。
【0045】
その後、ステップS313で減速処理部83は上記した「荷重判定」フラグがオンかオフかを判定し、オンと判定された場合には、ステップS314で、「速度制限[減速]」フラグをオフに設定し、自動減速設定処理は終了しメインループに戻る。
【0046】
一方、ステップS313で「荷重判定」フラグがオフと判定された場合には、ステップS315で減速処理部83は、差が後述する減速開始距離以上であるか否かを判定する。
減速開始距離は、巻上用減速開始距離α1と巻下用減速開始距離α2を用意し、巻上げ運転時に差が巻上用減速開始距離α1(巻上用閾値)以上または巻下げ運転時に差が巻下用減速開始距離α2(巻下用閾値)以上であると判定された場合には、ステップS314を前述と同様に実行した後、自動減速設定処理は終了しメインループに戻る。ステップS315で差が巻上用減速開始距離α1(巻上用閾値)未満または巻下げ運転時に差が巻下用減速開始距離α2(巻下用閾値)未満であると判定された場合には、ステップS316で減速処理部83はステップS304と同様に電動巻上機10の運転が巻上か巻下げかを判定する。ステップS316で巻上と判定された場合には、ステップS317で、減速処理部83は、差が後述する減速余剰距離(-β1)以下(差分≦-β1)であるか否かを判定する。ステップS317で、差が減速余剰距離(-β1)以下であると判定された場合には、ステップS314を前述と同様に実行し、自動減速設定処理は終了しメインループに戻る。ステップS316で巻下げと判定された場合と、ステップS317で、差が減速余剰距離(-β1)を超えていると判定された場合には、ステップS318で減速処理部83は「速度制限[減速]」フラグをオンに設定し、自動減速設定処理は終了しメインループに戻る。ステップS301で自動吊荷登録設定モードがオフ状態であると判定された場合と、ステップS302で自動減速機能モードがオフ状態であると判定された場合と、ステップS303でインバータが稼働していないと判定した場合には、ステップS314を前述と同様に実行し、自動減速設定処理は終了しメインループに戻る。
【0047】
なお、システムの動作環境、外部環境に起因して、図3に示すように吊荷サイズの高さ位置から所定量だけ上方向にわずかな誤差(β1)が生じる可能性があるため、予め減速終了位置が吊荷サイズCに相当する位置を始点としてその誤差分(減速余剰距離(β1))だけ上側に位置するように設定されている。巻上操作では、吊荷サイズを基準にα1とβ1で区画される区間が巻上用の強制減速区間であり、巻下げ動作では、吊荷サイズを基準にα2で区画される区間が巻下用の強制減速区間となる。下フックの位置がこの区間にあるときには、入力装置70から高速指令が入力されても、制御装置60はインバータ制御装置に対し高速指令の出力を禁止または制限されている。
なお、巻下げ操作では、吊荷サイズより下方では高速指令を禁止しているので、誤差(β1)は設定していないが、巻下げ用誤差(β1)を設定し、それを超えたら高速巻下げを可能にするようにしても良い。
【0048】
巻上運転における減速パターンを、図16(a)を参照して説明する。まず、図16(a)に実線で示すように通常の巻上用の減速パターン(図16(a)の(1)、以下「巻上用の基本減速パターン」と呼ぶ。)は、下フックが巻上操作中に吊荷サイズ位置に到達したときに低速となるように制御する巻上用の基本減速パターンとなっている。基本減速パターンの減速開始時から減速し、巻上用低速距離β1だけ移動したところまでの区間が基本強制減速区間となる。吊荷サイズを補正して登録した場合は、基本減速パターンを補正する。1点鎖線で示す減速パターン(図16(a)の(3):第1の補正減速パターン)は、基本減速パターンをオフセットして得られる第1の補正減速パターンで、減速が完了し低速で巻上げる区間を長く設定している。
【0049】
そのため、補正された強制減速区間Xは、基本強制減速区間より長く設定している。2点鎖線で示す減速パターン(図16(a)の(4):第2の補正減速パターン)は、補正された強制減速区間と同じ長さの強制減速区間とし、減速度をきつくした補正減速パターンとしている。点線で示す減速パターン(図16(a)の(2):第3の補正減速パターン)は、基本減速パターンと同じ強制減速区間とし、減速度をきつくした第補正減速パターンとしている。破線でしめす減速パターン(図16(a)の(5):第4の補正減速パターン)は、強制減速区間Yが最も長い補正減速パターンとなっている。
【0050】
次に、巻下げ運転における減速パターンを、図16(b)を参照して説明する。図16(b)に実線で示すように通常の巻下げ用の減速パターン(以下、「巻下げ用の基本減速パターン」と呼ぶ。)は、下フックが巻下げ動作中に吊荷サイズ位置に到達したときに所定の低速となるように制御する巻下げ用の基本の減速パターンとなっている。基本減速パターンの減速開始時から減速し、巻下用低速距離β2だけ移動したところまでの区間が、巻下げ用の基本強制減速区間となる。1点鎖線で示す減速パターンは、巻下げ用の基本減速パターンをオフセットして得られる第1の巻下げ用の補正減速パターンで、減速が完了し低速で巻下げる区間を長く設定している。そのため、補正された強制減速区間は、基本強制減速区間より長く設定している。2点鎖線で示す減速パターンは、巻下げ用の補正された強制減速区間と同じ長さの強制減速区間とし、減速度をきつくした巻下げ用の第2の補正減速パターンとしている。点線で示す減速パターンは、巻下げ用の基本減速パターンと同じ強制減速区間とし、減速度をきつくした巻下げ用の第3の補正減速パターンとしている。破線でしめす減速パターンは、強制減速区間が最も長い減速パターンとなっている。補正減速パターンは、巻上用も巻下げ用も低速で駆動される区間を基本原則パターンよりも長く設定するようにし、補正して得られた吊荷サイズを基に自動減速処理を行っても、地切り着床による衝撃を低減できるようにしている。
【0051】
このようにして吊荷サイズ登録処理において、モータの始動時間中に地切した場合には、通常の減速パターンを補正し登録することによって、その後の地切着床時の衝撃緩和制御を可能としている。
【0052】
[インバータ入力処理]
インバータ入力処理は以下のように実行される。インバータ入力部84が、荷重検出処理、自動吊荷サイズ登録処理および自動減速設定処理の結果を踏まえて、速度指令をインバータ制御装置64に入力する。インバータ入力部84は、入力された速度指令でモータ12を駆動制御し、巻上げ運転、巻下げ運転が行われる。
【0053】
以下、図17を参照して、インバータ入力処理を説明する。まず、ステップS401において、「速度制限[登録]」フラグがオンかオフのいずれかであるのかが判定される。なお、「速度制限[登録]」フラグのオン、オフの情報は、自動吊荷登録処理におけるステップS102、S111における「速度制限[登録]」フラグのオン、オフ状態とリンクしている。
【0054】
ステップS401において、「速度制限[登録]」フラグがオフと判定された場合には、インバータ入力部84はステップS403で入力装置70の速度指令が高速と低速のいずれであるのかを判定する。ステップS403で入力装置70の速度指令が高速であると判定された場合にはステップS404でインバータ入力部84は「速度制限[減速]」フラグがオンかオフのいずれかであるのかを判定する。なお、「速度制限[減速]」フラグがオン、オフの情報は自動減速設定処理のステップS314、S318における「速度制限[減速]」フラグのオン、オフ状態とリンクしている。ステップS404で「速度制限[減速]」フラグがオンであると判定された場合には、その後、インバータ入力部84は、ステップS405で電動巻上機10の運転が巻上か巻下げのいずれかであるかを判定する。
【0055】
ステップS405で電動巻上機10の運転が巻上であると判定された場合には、演算部85は、ステップS406で吊荷サイズCの値から現在の下フックの位置の値を減じて得られる差分(=登録-現在)を算出し記録する。ステップS405で電動巻上機10の運転が巻下げであると判定された場合には、演算部85は、ステップS407で現在の下フックの位置の値から吊荷サイズCの値を減じて得られる差分(=現在-登録)を算出し記録する。ステップS406またはステップS407実行後、ステップS408でインバータ入力部84は、「減速パターンの変更」フラグがオンかオフかを判定する。
【0056】
ステップS408で「減速パターンの変更」フラグがオンと判定された場合にはステップS409で、演算部85は差分を以下の数式(2)の距離Disに代入して指令速度Velを算出し記録する。ステップS408で「減速パターンの変更」フラグがオフと判定された場合にはステップS410で、演算部85は差分を以下の数式(1)の距離Disに代入して指令速度Velを算出し記録する。なお、αは、所定の通常パターン用係数であり、α´は所定の変更減速パターン用係数であり、βは所定の変更減速パターン用補正値である。
【0057】
そして演算部85は、ステップS409若しくはステップS410で算出された指令速度Velを以下の数式(3)に代入して入力速度Vel´を算出する(ステップS411)。
【0058】
ステップS401において、「速度制限[登録]」フラグがオンと判定された場合には、ステップS402でインバータ入力部84は、入力速度Vel´を吊荷登録設定用速度VelSETに設定する。
【0059】
次に、ステップS414で演算部85は入力速度Vel´をインバータ制御装置64がモータ12に出力する周波数に変換した指令速度として記録する。最後にインバータ入力部84は、ステップS415においてステップS414で記録した速度指令をインバータ制御装置64に入力して、インバータ入力処理は終了する。
【0060】
一方、ステップS403で入力装置70の速度指令が低速であると判定された場合には、インバータに入力される入力速度Vel´が所定の低速(VelL)に設定され(ステップS413)、また、ステップS404で速度制限(減速実行)がオフであると判定された場合には、入力速度Vel´が所定の高速(VelH)に設定される(ステップS412)。ステップS412またはステップS413実行後は、ステップS402、ステップS411を実行後と同様に、ステップS414、ステップS415が実行されインバータ入力処理が終了しメインループに戻る。インバータ制御装置64は、上記速度指令を受けてモータ12に駆動電力を供給し速度制御を実行する。
【0061】
ステップS409、S410、S411において、指令速度Velを登録された吊荷サイズCの値とフックの現在位置の値の差から求めるようにしているが、フックの位置が強制減速区間内にあるかどうかを判別して、強制減速区間内にある時には、入力装置70からの速度指令が高速指令であっても高速指令をインバータ制御装置64に出力せず、巻上指令か巻下げ指令については、モータ12の回転方向と強制減速度を指令する。強制減速度の指令を受けたインバータ制御装置は、通常の加減速度に優先し実行するようにし、高速運転中に強制減速の指令を入力された場合は、強制減速度で低速で運転し、低速運転中に強制減速運転指令を入力されたら、低速を維持するように制御される。また、減速パターンの変更がある場合には、強制減速区間と強制減速度の少なくともいずれか一方を変更(補正)してインバータ制御装置64への指令を作成するようにしている。
【0062】
したがって、検出無効区間中の地切りがあったか否か不明な場合に従来ではいったん巻上等の運転を中止したり、巻上げから巻下げ、巻下げから巻上げに切り替える等の作業が不要になるため、作業効率の著しい向上が図れる。なお、オフセット量については、本実施の形態では、無効区間中の巻上量(巻下量)の1/2として説明したが、これに限定されるものではない。
【0063】
なお、上記した強制減速区間における速度制限の解除は、制御部62を構成する駆動方向記録部によって記録された電動巻上機本体11の駆動モータの駆動方向に関する情報(駆動方向情報)に基づいて、例えば駆動方向が逆向きに変わった場合にはその駆動方向情報に基づいて減速区間における速度制限処理を解除することができる。
【0064】
以上、この発明の具体的な実施形態について説明したが、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…電動巻上機(電動巻上機システム)、10…電動巻上機、11…電動巻上機本体、12…モータ、14…エンコーダ、20…チェーン、30…下フック、50…吊具、60…制御装置、62…制御部、64…インバータ制御装置、70…入力装置、81…荷重検出部、82…吊荷サイズ登録処理部(吊荷サイズ登録部)、83…減速処理部、84…インバータ入力部、85…演算部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17