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  • 特許-遅延崩壊型カプセルおよびその製造方法 図1
  • 特許-遅延崩壊型カプセルおよびその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】遅延崩壊型カプセルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/52 20060101AFI20241204BHJP
   A61K 9/60 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 9/62 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 9/64 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 9/66 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20241204BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241204BHJP
【FI】
A61K9/52
A61K9/60
A61K9/62
A61K9/64
A61K9/66
A61K47/24
A61K47/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021526169
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2020023290
(87)【国際公開番号】W WO2020251039
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019111280
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000191755
【氏名又は名称】森下仁丹株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】西川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】石井 賀津俊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一真
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-053356(JP,A)
【文献】特開平07-173052(JP,A)
【文献】特開2016-074615(JP,A)
【文献】国際食品規格委員会,CODEXの魚油規格,一般財団法人日本水産油脂協会,2018年,一般財団法人日本水産油脂協会,pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核、前記核上に形成された1層以上の中間層および前記中間層上に形成された最外層からなるシームレスカプセルであって、
前記核が活性物質、両性界面活性剤および融点が40℃以上の油脂を含有し、前記中間層の少なくとも1層が融点45℃以上の油脂を含有し、前記最外層が水溶性天然高分子を含有し、
前記活性物質および両性界面活性剤は、融点40℃以上の油脂に溶解または懸濁されていて、
前記両性界面活性剤が、前記核の総重量に対して5~50重量%の量で存在し、
前記両性界面活性剤が、レシチンである、遅延崩壊型シームレスカプセル。
【請求項2】
前記活性物質が、漢方薬エキス、チンキ、植物エキス、動物エキス、微生物エキス、微生物産生エキス、果汁、機能性多糖類、ポリフェノール、ビタミンC、ビタミンB、アミノ酸、微生物、細菌、精油、抗炎症薬、ステロイド薬、オメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸、オメガ-9脂肪酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項に記載のシームレスカプセル。
【請求項3】
前記水溶性天然高分子が、ゼラチン、寒天、ゲランガム、カラギナン、ファーセレラン、ペクチン、キトサン、アルギン酸、カードラン、デンプン、変性デンプン、プルラン、マンナンおよびそれらの混合物から選択される請求項1または2に記載のシームレスカプセル。
【請求項4】
冷却された液状油からなる冷却液中に、同心三重ノズルの最内側のノズルから核液体を吐出し、該最内側ノズルの外側の中間ノズルから中間層液体を、最外側ノズルから最外層液体を同時に滴下し、シームレスカプセルを形成する、シームレスカプセルの製造方法であって、
前記核液体が活性物質、両性界面活性剤および融点が40℃以上の油脂を含有し、前記中間層液体が融点45℃以上の油脂を含有し、前記最外層液体が水溶性天然高分子を含有し、
前記活性物質および両性界面活性剤は、融点40℃以上の油脂に溶解または懸濁されていて、
前記両性界面活性剤が、前記核液体の総重量に対して5~50重量%の量で存在し、
前記両性界面活性剤が、レシチンである、ことを特徴とする遅延崩壊型シームレスカプセルの製造方法。
【請求項5】
前記活性物質が、漢方薬エキス、チンキ、治療薬、植物エキス、動物エキス、微生物エキス、微生物産生エキス、果汁、機能性多糖類、ポリフェノール、ビタミンC、ビタミンB、アミノ酸、微生物、細菌、精油、抗炎症薬、ステロイド薬、オメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸、オメガ-9脂肪酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項に記載のシームレスカプセルの製造方法。
【請求項6】
前記水溶性天然高分子が、ゼラチン、寒天、ゲランガム、カラギナン、ファーセレラン、ペクチン、キトサン、アルギン酸、カードラン、デンプン、変性デンプン、プルラン、マンナンおよびそれらの混合物から選択される、請求項4または5に記載のシームレスカプセルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シームレスカプセルおよびその製造方法に関し、詳しくは、カプセルの崩壊を遅延させることが可能な遅延崩壊型シームレスカプセルおよび前記遅延崩壊型シームレスカプセルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シームレスカプセルは、粒径の制御の容易性や製造の簡略性等の観点から、多くの用途に用いられている。特に、ビフィズス菌等の有用細菌を封入したカプセルやメントール等の香料を封入したカプセルなどが、市販されている。それらのシームレスカプセルで、内容物(「核」または「核剤」とも言う。)の放出時期を制御することが検討されてきた。
【0003】
特許5102401号(特許文献1)には、シームレスカプセルであって大腸で特異的に崩壊するものが提案されている。また、特開2014-139200号公報(特許文献2)には、活性成分が胃または小腸で失われることなく前記活性成分を大腸まで到達させることができるカプセルが提案されている。その他にも多くの崩壊を遅らせる技術が存在するが、それらの提案全てカプセルの最外層や中間層等のいわゆる皮膜の改良であって、皮膜設計の上での自由度が減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許5102401号
【文献】特開2014-139200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、カプセルの核にある種の成分を配合することによりカプセルの崩壊を遅延させる技術を提供するものであり、カプセル設計の自由度を大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カプセルの核に両性界面活性剤を配合することにより上記目的を達成できることを見出した。
【0007】
本開示は、以下の態様を提供する。
[1]核、前記核上に形成された1層以上の中間層および前記中間層上に形成された最外層からなるシームレスカプセルであって、
前記核が活性物質、両性界面活性剤および融点が40℃以上の油脂を含有し、前記中間層の少なくとも1層が融点45℃以上の油脂を含有し、前記最外層が水溶性天然高分子を含有する、遅延崩壊型シームレスカプセル。
[2]前記両性界面活性剤が、核の総重量に対して3~50重量%の量で存在する[1]に記載のシームレスカプセル。
[3]前記両性界面活性剤が、リン脂質である[1]または[2]に記載のシームレスカプセル。
[4]前記リン脂質が、レシチンである、[3]に記載のシームレスカプセル。
[5]前記活性物質が、漢方薬エキス、チンキ、植物エキス、動物エキス、微生物エキス、微生物産生エキス、果汁、機能性多糖類、ポリフェノール、ビタミンC、ビタミンB、アミノ酸、微生物、細菌、精油、抗炎症薬、ステロイド薬、オメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸、オメガ-9脂肪酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、
[1]~[4]のいずれかに記載のシームレスカプセル。
[6]前記水溶性天然高分子が、ゼラチン、寒天、ゲランガム、カラギナン、ファーセレラン、ペクチン、キトサン、アルギン酸、カードラン、デンプン、変性デンプン、プルラン、マンナンおよびそれらの混合物から選択される[1]~[5]のいずれかに記載のシームレスカプセル。
[7] 冷却された液状油からなる冷却液中に、同心三重ノズルの最内側のノズルから核液体を吐出し、該最内側ノズルの外側の中間ノズルから中間層液体を、最外側ノズルから最外層液体を同時に滴下し、シームレスカプセルを形成する、シームレスカプセルの製造方法であって、
前記核液体が活性物質、両性界面活性剤および融点が40℃以上の油脂を含有し、前記中間層液体が融点45℃以上の油脂を含有し、前記最外層液体が水溶性天然高分子を含有する、ことを特徴とする遅延崩壊型シームレスカプセルの製造方法。
[8] 前記両性界面活性剤が、核の総重量に対して3~50重量%の量で存在する[7]のシームレスカプセルの製造方法。
[9] 前記両性界面活性剤が、リン脂質である、[7]または[8]のシームレスカプセルの製造方法。
[10] 前記リン脂質が、レシチンである、[9]のシームレスカプセルの製造方法。
[11] 前記活性物質が、漢方薬エキス、チンキ、植物エキス、動物エキス、微生物エキス、微生物産生エキス、果汁、機能性多糖類、ポリフェノール、ビタミンC、ビタミンB、アミノ酸、微生物、細菌、精油、抗炎症薬、ステロイド薬、オメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸、オメガ-9脂肪酸およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、[7]~[10]のシームレスカプセルの製造方法。
[12] 前記水溶性天然高分子が、ゼラチン、寒天、ゲランガム、カラギナン、ファーセレラン、ペクチン、キトサン、アルギン酸、カードラン、デンプン、変性デンプン、プルラン、マンナンおよびそれらの混合物から選択される[7]~[11]のシームレスカプセルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示では、両性界面活性剤を、核を形成する配合剤として配合するだけでカプセルの崩壊を遅延させることができる。その結果、これまで開発してきた皮膜や中間層の配合による崩壊遅延と組合せることにより、カプセル設計の自由度を大きくしうる。また、今回の両性界面活性剤の配合は、配合量の制御や皮膜の選択等でカプセルの崩壊時間を制御することでき、胃では崩壊しない腸溶性カプセル、胃と小腸で崩壊しない大腸崩壊性カプセルの他に、摂取から一定時間経過後に崩壊する時間のファクターを追加することができるので、シームレスカプセルの設計が非常に容易になる。特に、小腸下部から大腸にかけてはpHが一定でなく、皮膜の酸性やアルカリ性に耐える組成では、その部位での放出(カプセルの崩壊)を制御することが困難であったが、本開示の時間制御によりpHが一定でない部分での崩壊あるいはそれを超えた部分での崩壊も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、三層ノズルを用いて滴下法で三層構造のシームレスカプセルを製造するのに好適な製造装置のノズル部の模式的断面図である。
図2】実施例および比較例の溶出実験の結果を示す溶出率と時間の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、核、前記核上に形成された1層以上の中間層および前記中間層上に形成された最外層からなるシームレスカプセルの提供、および、その核が活性物質、両性界面活性剤および融点が40℃以上の油脂を含有し、中間層の少なくとも1層が融点45℃以上の油脂を含有し、最外層が水溶性天然高分子を含有することを特徴とする。
【0011】
各構成を以下に説明する。尚、以下、油脂に関して、融点40℃以上と45℃以上の2種類の油脂が記載されているが、共に油脂であるので融点40℃以上の油脂の説明の中に、融点45℃以上の油脂を含めて説明する。
【0012】

本開示のシームレスカプセルの核には、活性物質、両性界面活性剤および融点が40℃以上の油脂が用いられる。本開示では、核に両性界面活性剤を配合することによりカプセルの崩壊を遅延することができる。
【0013】
シームレスカプセルの核に配合される活性物質としては、生体に対する薬剤や機能性成分であり、例えば漢方薬エキス、チンキ、植物エキス、動物エキス、微生物エキス、微生物産生エキス、果汁、機能性多糖類、ポリフェノール、ビタミンC、ビタミンB、アミノ酸、微生物、細菌(例えば、腸内有用細菌)、精油(例えば、柑橘類由来油脂、バラ類由来油脂等)、抗炎症薬(例えば、ロキソプロフェンナトリウム、アセチルサリチル酸等)、ステロイド薬(例えばヒドロコルチゾン、プレドニゾロン等)、オメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸、オメガ-9脂肪酸およびそれらの組み合わせからなる群の1つ以上から選択される。
【0014】
本開示のシームレスカプセルにおいて、核中の活性物質の量は、通常1~50質量%であり、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~20質量%である。50質量%より多いと、カプセル化が困難となり、1質量%より少ないと、活性物質の効果が発生しない。
【0015】
本開示のシームレスカプセルの核は、両性界面活性剤を更に含む。両性界面活性剤は、その両性界面活性を示す分子中に陽イオン構造および陰イオン構造の両方を含む。両性界面活性剤には、アミドベタイン型やイミダゾリン型等が例示されるが、天然物由来の両性界面活性剤が生物、特に人に使用する場合に有用であり、その場合リン脂質、具体的にはレシチンが好適に使用される。両性界面活性剤の使用量は、活性物質の使用量とあまり変わりなく、通常3~50質量%、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~20質量%である。50質量%より多いと、カプセル化が困難となり、3質量%より少ないと、両性界面活性剤を使用する効果が発生しない。両性界面活性剤の添加により、活性物質をpHに非依存的に体内で放出時間を制御することできる。たぶん両性界面活性剤の使用は、固体形態の保持性が高くなったり融点が高くなったりするから効果が発揮されると考えられる。いずれにしてもシームレスカプセルの崩壊は、体内のpHの変化に非依存性になる傾向がある。
【0016】
本開示の核には、更に賦形剤、安定化剤、両性界面活性剤以外の界面活性剤、補助剤または発泡剤などの配合剤を適宜配合してもよい。これらの配合剤の量は、特に制限されないが、本開示のシームレスカプセルの働きを阻害する量であってはならない。
【0017】
本開示のシームレスカプセルの核には、上記成分の他に融点が40℃以上の油脂を含む。実際には、上記成分は融点40℃以上の油脂に溶解または懸濁される。このように油脂に混合する理由はカプセル製造時に存在する多量の水などによって内容物が影響を受けないためである。本開示では、融点40℃以上の油脂は、食用植物油脂、食用精製加工油脂、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等およびこれらの混合物が用いられる。尚、融点40℃以上の油脂の中で融点が45℃以上の油脂は、後述の中間層の少なくとも1つに用いられうる。
【0018】
融点40℃以上の油脂は、食用精製加工油脂の日本農林規格(平成25年12月24日農林水産省告示第3115号)によると、動物油脂、植物油脂またはこれらの混合油脂に「水素添加(水素を添加し、不飽和脂肪酸を飽和化させることで融点調整)」、「分別(遠心、濾過または滴下により分離操作を行って、融点や硬さや固体脂含量の異なる部分に分けること)」および「エステル交換(触媒を用いて脂肪酸の組成を変えることで融点調整)」などの技術により食用の用途に適合した融点に調整した油脂である。本開示の核に用いる油脂は、特に水素添加(水添)されていない油脂(本明細書では、「非水素添加油脂」という。)を用いてもよい。非水素添加油脂は、前述のように、天然の油脂類に水素添加して、融点を調整した油脂でないことを意味し、原料の油脂を分別またはエステル交換して融点調整したものであってもよい。尚、本開示に記載の「融点」とは上昇融点(油脂を毛細管中で加熱したとき、軟化して上昇を始める温度)をいう。
【0019】
非水素添加油脂は、水素添加処理(いわゆる水添処理)を行っていない油脂であり、パーム油系油脂が好適である。パーム油の主要脂肪酸は、パルチミン酸とオレイン酸で、この2種類の脂肪酸で組成比率80%以上になり、室温では半固形状である。このパーム油を特定の温度で分別すると、低融点の液状油と高融点の固体油に分けることができる。低融点の液体油にはオレイン酸が多く、高融点の固体油にはパルチミン酸が多く含まれる。液体油はパームオレイン、固体油はパームステアリン(パルチミン酸が組成中には最も多いがパームパルチミンとは呼ばない)と慣用的に呼ばれている。また、パーム油をエステル交換することでも融点に調整された所望の非水素添加油脂を得ることができる。また本開示で用いる非水素添加油脂は、パーム油の分別油、およびパーム油または該パーム分別油のエステル交換油脂をそれぞれ単独で使用するか、これらを混合して使用してもよい。
【0020】
本開示で用いられる非水素添加油脂は、具体的には、パーム油を分別したパームステアリン、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームダブルオレイン、パームミッドフラクション、およびパーム油または該パーム分別油のエステル交換油脂、またはこれらの混合物が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではない。
【0021】
本開示で用いる融点40℃以上の油脂は、ショ糖脂肪酸エステルまたはグリセリン脂肪酸エステルを含んでもよい。ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖の水酸基に、脂肪酸(例えば、ステアリン酸またはオレイン酸)等が反応したものであり、通常乳化剤として使用されている。グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの持つ3つのヒドロキシル基のうち1つないし2つに脂肪酸がエステル結合したもので、やはり乳化剤として使用される。3つのヒドロキシル基の全てに結合したものは、脂肪あるいは油脂であり、グリセリン脂肪酸エステルとは区別されている。本開示で用いる融点40℃以上の油脂は、食用植物油脂、食用精製加工油脂、ショ糖脂肪酸エステルまたはグリセリン脂肪酸エステルの単独、またはそれらの混合物を用いてもよい。
【0022】
中間層
本開示のシームレスカプセルでは、核の外側に1層以上の中間層が形成される。すなわち中間層は、1層であってもよく、複数層でも良い。複数層の場合は、それぞれの層の組成が同じ配合で用いても、違う配合で用いてよい。以下、簡単のため中間層が1層として説明する。中間層では、冷却時に固化を制御できるように、核の融点より2~9℃、好ましくは2~8℃高い融点を有することが望ましい。融点が2℃より小さいと、冷却時に内容物と保護層が混じることが起こり易く、逆に9℃より高いと、中間層の固化が起こらず、シームレスカプセルの形成に支障を来たす。
【0023】
中間層には、融点45℃以上の油脂が用いられる。融点45℃以上の油脂は、前述の融点40℃以上の油脂の中で融点45℃以上のものが選択される。具体的な、融点45℃以上の油脂の例は、上記植物(分別)油脂、蜜蝋、高度硬化油、マーガリン、ショートニングなどである。
【0024】
中間層中には、界面張力や粘性、比重を調整するためにレシチンや二酸化ケイ素を配合してもよい。これらの配合剤の量は、特に制限が無いが、本開示のシームレスカプセルの働きを阻害する量であってはならない。
【0025】
最外層
本開示のシームレスカプセルは、中間層の外側を更に最外層で被覆される。最外層は、水溶性天然高分子を含む。水溶性天然高分子は、例えばゼラチン、カゼイン、ゼイン、ペクチンまたはその誘導体、アルギン酸またはその塩、寒天、ゲランガム、カラギナン、ファーセレラン、キトサン、カードラン、デンプン、変性デンプン、プルラン、マンナンおよびそれらの混合物から選択される。もちろん水溶性天然高分子は、これらに限定されない。これらの水溶性天然高分子は、シームレスカプセルの最外層組成物の全固形分重量を基準として50重量%~90重量%の範囲であるのが好ましい。アルギン酸塩、ゲランガム、ペクチン、もしくはカラギナンを使用する場合は、適宜アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などを添加してもよい。
【0026】
本開示のシームレスカプセルの最外層は、乾燥状態で柔軟性を付与するため、更に可塑剤を含有してもよく、上記可塑剤の例として、グリセリン、ソルビトールなどが挙げられる。上記可塑剤の配合量は、乾燥後の皮膜総重量を基準として、1~50質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは15~30質量%である。上記可塑剤の配合量が、1質量%未満では皮膜が真空乾燥に耐えられなかったり、乾燥状態で十分な柔軟性を保つことができずにヒビ割れを生じたりし、50質量%を超えると皮膜が軟化して高温で付着や溶けが生じる。
【0027】
本開示のシームレスカプセルの最外層は、必要に応じて、上記組成に加えて、香料、甘味剤、着色剤、パラベン等の防腐剤等、この分野において通常使用される種々の添加剤を含んでもよい。このような添加剤を用いる場合における、全添加剤の合計含有量は、カプセルの最外層となる組成物中の全固形分重量に対して、例えば0.01重量%~10重量%であり、好ましくは0.1重量%~5重量%である。
【0028】
本開示のシームレスカプセルの乾燥後の最外層は、厚さ10~600μm、好ましくは30~400μm、より好ましくは40~250μmを有することが望ましい。上記最外層の厚さが、10μm未満では皮膜強度が低くなりやすく、600μmを超えると内容物量が少なくなり、崩壊性も悪くなりやすい。
【0029】
本開示のシームレスカプセルの大きさは、特に限定的ではないが、直径0.3~10mm、好ましくは1~8mmを有することが望ましい。上記カプセルの直径が0.3mm未満ではシームレスカプセルの層構造の中間層の厚さが小さくなり、水分の侵入を防ぐ効果が小さくなりやすく、8mmを超えると飲み込むのが困難となりやすい。
【0030】
シームレスカプセルの製造方法
本開示のシームレスカプセルは、三層以上の多重ノズルを用いる滴下法、具体的には三層ノズルを用いて冷却液中に滴下していく方法が挙げられる(例えば、特開昭49‐59789号公報、特開昭51‐8176号公報および特開昭60‐172343号公報)。
【0031】
本開示のカプセルの製造において、三層ノズルが用いられた滴下法を用いる場合には、核液を一番内側のノズルから吐出し、最外層液を一番外側のノズルから吐出し、中間のノズルからは、中間層液として油脂を吐出するのが好ましい。吐出時は、定常速度で流下する冷却液中に一定速度で同時に押出して複合ジェットを形成し、冷却液中に放出させることによって、冷却液と皮膜組成物との間に作用する表面張力によって、三層構造シームレスカプセルを連続的に製造することができる。三層ノズルの場合、得られたカプセルは三層の構造を有しており、その一番内側には核が含まれている。本開示では、上記製造時に、核内に両性界面活性剤を添加することにより、崩壊を遅延することができ、しかも崩壊時間を制御することができる。
【0032】
図1に、三層ノズルが用いられた滴下法において、三層構造シームレスカプセルを製造するのに好適な製造装置のノズル部の模式的断面図を示す。
【0033】
図1には、三層ノズルAから吐出されたシームレスカプセルジェットBが、冷却液8中で切れてそれぞれのシームレスカプセル7となっていく状態を表している。三層ノズルAは、内側ノズル1、中間ノズル2および外側ノズル3が同心円状に存在し、内側ノズル1の中からカプセルの核となる液4が吐出され、中間ノズル2(具体的には、中間ノズル2と内側ノズル1との間)から中間層となる液が吐出され、外側ノズル3(具体的には、外側ノズル3と中間ノズル2との間)から最外層となる液が吐出され、三種の液が同時に吐出されてシームレスカプセルジェットBを形成する。
【0034】
上記のようにして得られたシームレスカプセル7に対し、5℃~30℃で2~12時間の通風乾燥を行う。また、カプセル7中の水分含量をより低くする必要がある場合には、通風乾燥後に更に真空乾燥または真空凍結乾燥を行ってもよい。真空乾燥では真空度を0.002~0.5MPa以下に保ち、更に真空凍結乾燥では-20℃以下で凍結させ乾燥させる方法である。真空乾燥または真空凍結乾燥に要する時間は特に限定されない。一般に5~60時間、好ましくは24~48時間である。5時間未満であると、乾燥が不十分であり、カプセル7内に存在する水が内容物に悪影響を与えうる。
【0035】
上記の方法で得られたシームレスカプセルは、前述のように、両性界面活性剤(特に、レシチン)が核中に含まれていて、それによりシームレスカプセルの崩壊が遅延でき、しかもその崩壊時間も制御できる。また、本開示の両性界面活性剤を核に添加するだけでなく、皮膜層(特に、最外層)を耐酸性、腸溶性または大腸崩壊性等を付与してもよい。それらを組合せてシームレスカプセルの崩壊性を制御することが可能となる。本開示のシームレスカプセルでは、例えば、小腸下部から大腸で特異的に崩壊するように時間制御すれば、ある種の薬剤や機能性食品を特定部位に届けることができ、薬剤の効果をより高めることが可能になる。
【0036】
[実施例]
本開示を実施例により更に詳細に説明する。本開示は、これらの実施例は本発明の例に過ぎない。
【0037】
実施例1
(a)核用の液:食用油脂(太陽油脂製のJCオイル:融点52±3℃)47.17重量部、食用油脂(太陽油脂製のK9190:融点49±3℃)11.79重量部および大豆レシチン3.35重量部を60℃で攪拌して均一溶解したものの中に、青色1号4.69重量部を混合し、懸濁されたものを核用の液とした。
(b)中間層用の液:食用油脂(太陽油脂製のJCオイル:融点52±3℃)9.30重量部および大豆レシチン0.7重量部を混合して中間層用の液とした。
(c)最外層用の液:ゼラチン[ゼリー強度:280ブルーム(Bloom)]17.48重量部、グリセリン4.60重量部、低メトキシ(LM)ペクチン0.92重量部および精製水85.20重量部を60℃で均一混合して、最外層用の液とした。
【0038】
上記核用の液を同心三重ノズルの最内側ノズルから、更にその外側の中間ノズルから中間層用の液を、また最外側ノズルから上記最外層用の液を12℃に冷却され流動しているナタネ油中に同時に滴下させることにより直径6.0mmの三層構造シームレスカプセルを作製した。得られた三層構造シームレスカプセルを、20℃で8時間通風乾燥した。得られたシームレスカプセルを用いて以下の要領で溶出試験を行った。
【0039】
溶出実験
酸性液および中和液を以下のように調製した。
酸性液:塩化ナトリウム2.0gを12N塩酸7.0mLおよび水に溶かして1000mLとしたもの(pH1.2)
中和液:0.20mol/Lのリン酸三ナトリウム水溶液
上記で製造した6粒のシームレスカプセルを、パドル法(富山産業NTR・6400A、回転数50rpm)を用いて酸性液750mLに2時間浸漬し、酸性液中の色素溶出率を630nmの条件で測定、溶出率を算出した。測定は1時間毎にサンプリングして行った。次いで、酸性液に上記の中和液を加えてpH6.8に調整し、同じ方法で色素の溶出率を2時間ごとにサンプリングして合計26時間まで測定した。測定は全て37.5℃で行われた。色素溶出率(%)と経過時間(h)の関係をグラフに記載し、図2に示した。
【0040】
実施例2および比較例1~2
以下の表1に示す配合を用いて、実施例1と同様にシームレスカプセルを形成し、同じ要領で溶出実験を行った。結果を実施例1と同様に図2に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
上記実施例および比較例と図2から明らかなように、実施例および比較例とも溶出実験の開始からおよそ4時間経過から色素が溶出し始めるが、実験開始から8時間後、比較例のシームレスカプセルの色素溶出率が実施例のシームレスカプセルの色素溶出率の倍ぐらいになり、その後は差が大きく開いていくことが解る。比較例1では、核液に大豆レシチンが含まれてないシームレスカプセルであり、比較例2では大豆レシチンの配合量が2.01重量部と量的に少ない実験を示している。実施例1では大豆レシチンの配合量が3.35重量部であり、図2からみると比較例2に比べて大きく差があることが解る。この実験結果から、大豆レシチンを3重量部超えて配合した場合、色素溶出率が大きく低下し、その配合量によりある程度制御できるように考えられる。例えば、溶出率が20%を基準に取ると、実施例1では実験開始後12時間でその値に達するが、実施例2では実験開始後25時間ぐらいでその値に達する状態であることが解り、大豆レシチンの配合量で溶出率を制御できることが解る。
【0043】
実施例3
(a)核用の液:JCオイル 47.17重量部、食用油脂(IOI Oleo社製Witocan42/44:融点43±3℃)11.79重量部および大豆レシチン3.35重量部を60℃で攪拌して均一溶解したものの中に、ロキソプロフェンナトリウム水和物(CAS80382-23-6)4.69重量部を混合し、懸濁されたものを核用の液とした。
(b)中間層用の液:JCオイル 4.65重量部、上記Witocan42/44 4.65重量部および大豆レシチン0.7重量部を混合して中間層用の液とした。
(c)最外層用の液:ゼラチン[ゼリー強度:280ブルーム(Bloom)]17.48重量部、グリセリン4.60重量部、低メトキシ(LM)ペクチン0.92重量部および精製水85.20重量部を60℃で均一混合して、最外層用の液とした。
【0044】
上記核用の液を同心三重ノズルの内側ノズルから、更にその外側の中間ノズルから中間層用の液を、また最外側ノズルから上記最外層用の液を12℃に冷却され流動しているナタネ油中に同時に滴下させることにより直径5mmの三重構造シームレスカプセルを作製した。得られた三層構造シームレスカプセルを、20℃で8時間通風乾燥した。
【0045】
実施例2と同様にパドル法にて溶出試験を行い、下記試験条件にて試験液に溶出したロキソプロフェンナトリウムを高速液体クロマトグラフィー(島津)により測定した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:222nm)
カラム:ODS(内径4.6mm,長さ15cm)
カラム温度:40°C
移動相:メタノール/水/氷酢酸/トリエチルアミン=600/400/1/1
流量: 0.5mL/min
【0046】
上記で評価した結果、溶出率を制御できることがわかった。
【0047】
実施例4
(a)核用の液:JCオイル 47.17重量部、K9190 11.79重量部および大豆レシチン3.35重量部を60℃で攪拌して均一溶解したものの中に、乳酸菌末(Lactococcus lactis subsp. lactis JCM 7638の凍結乾燥物)4.69重量部を混合し、懸濁されたものを核用の液とした。
(b)中間層用の液:JCオイル23.25重量部および卵黄レシチン(キューピー社製)1.75重量部を混合して中間層用の液とした。
(c)最外層用の液:カラギナン(三晶社製)15部、デキストリン(日澱化学社製DE値10未満)50.9部、ソルビトール(三菱商事フードテック社製)3部、LMペクチン(ユニテックフーズ社製)10部、塩化カリウム1部、塩化カルシウム0.1部を精製水400部に溶解させたものを最外層用の液とした。
【0048】
上記核用の液を同心三重ノズルの内側ノズルから、更にその外側の中間ノズルから中間層用の液を、また最外側ノズルから上記最外層用の液を20℃で流動しているナタネ油中に同時に滴下させることにより直径7mmの三重構造シームレスカプセルを作製した。得られた三層構造シームレスカプセルを、20℃で8時間通風乾燥した。
【0049】
実施例2と同様にパドル法にて溶出試験を行い、試験液に漏出した乳酸菌数を、MRS寒天培地(オキソイド社製)を用いて評価した。
【0050】
評価した結果、溶出率を制御できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示では、両性界面活性剤をシームレスカプセルの最内層(核)に配合することにより、カプセルの崩壊を遅延させることできるものであり、シームレスカプセルの崩壊を制御する技術であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0052】
A…ノズル断面
B…シームレスカプセルジェット
1…内側ノズル
2…中間ノズル
3…外側ノズル
4…カプセル核溶液
5…中間層溶液
6…最外層溶液
7…三層構造シームレスカプセル
8…冷却液
図1
図2