(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】車両構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/10 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
B62D25/10 A
(21)【出願番号】P 2020115358
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-05-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.出願人は、令和2年1月10日~1月12日、東京オートサロン2020において、本願発明である車両構造について公開した。
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】神行 寿章
(72)【発明者】
【氏名】新崎 未奈
(72)【発明者】
【氏名】梅本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】清水 祐二
(72)【発明者】
【氏名】横山 宗平
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-51140(JP,A)
【文献】登録実用新案第3088028(JP,U)
【文献】特開平6-211162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/00- 25/08
B62D 25/10- 25/13
B62D 25/14- 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前部を仕切るフロントガラスの車両前方側に位置し、かつ車両前後方向および車幅方向に幅をもつフロントフードを、備えている、車両構造であって、
前記フロントフードの少なくとも前寄り領域は、車幅方向両端寄り領域が、車幅方向中央寄り領域よりも上面部の高さが高い構成とされ、
前記車室内における運転者の所定のアイポイン
トを基準とする前記フロントガラス越しの前方視界として、前記フロントフードの前記車幅方向両端寄り領域の上面部を視界に含み、かつ前記車幅方向中央寄り領域の上面部を視界に含まない態様の前方視界が得られる構成とされており、
前記フロントフードの前記車幅方向中央寄り領域の上面部の稜線は、前記前方視界の下側境界線に略一致した位置となるように構成されており、
前記フロントフードの前記車幅方向両端寄り領域は、車両の前方7mよりも手前側の領域が前記アイポイントにおける路面死角となるように設けられて
おり、
前記アイポイントは、日本人の成人男性の標準的な体格をもつ運転者が、車両前後方向の位置や上下高さがこの車両において想定されている標準のポジションに設定された運転席に着座して運転姿勢をとった際の目の位置であることを特徴とする、車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両構造の具体例として、特許文献1に記載のものがある。
同文献に記載の車両構造は、運転者の前方視界における前方景色と、この前方景色の下端を遮る車両構成部品との境界線形状を、所定の曲線状に形成している。このことにより、車両が旋回してロールした際に、景色が大きく傾いて見えないようにし、車両のロールを視覚的に認識し難くすることができる。その結果、車両旋回時に車両が大きくロールする感覚を少なくし、ロール感を向上させることが可能である。車両のロールを抑制するには、車両のロール剛性を高めればよいが、このロール剛性を過度に高めると、車両の乗り心地が低下するが、前記した車両構造によれば、そのような不具合をなくすことが可能である。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように改善すべき余地があった。
【0004】
車両には様々な性能が求められ、安心・快適な車両を得るための条件としては、たとえば高速域での安心感に優れること、および低速域での取り回し性がよいことなどが挙げられる。
ところが、前記した特許文献1においては、ロール感を向上させ得るものの、高速域での安心感を高めたり、取り回し性をよくし得るなどの効果は得られない。
【0005】
ここで、車両がたとえば60km/h程度以上の高速域で走行する場合、運転者の速度感覚は、「近くは速く感じ、遠くは遅く感じる」状態となる。このため、車両のフロントフードを高くし、運転者の前方視界の俯角が小さくなる(車両の近くが見えない)ように設定すると、運転者は車両の速度を高速に感じ難くなり、速度を怖がらないようにすることが可能である。ところが、このようにフロントフードの高さを高くしただけでは、車両前方の近い領域がフロントフードに隠れて見えなくなるため、車両前方のうち、車両近くの道路状況などを把握し難くなり、車両が低速走行する際の取り回し性が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、高速域での安心感が得られ、かつ低速域での取り回し性を良好にすることが可能な車両構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明により提供される車両構造は、車室の前部を仕切るフロントガラスの車両前方側に位置し、かつ車両前後方向および車幅方向に幅をもつフロントフードを、備えている、車両構造であって、前記フロントフードの少なくとも前寄り領域は、車幅方向両端寄り領域が、車幅方向中央寄り領域よりも上面部の高さが高い構成とされ、前記車室内における運転者の所定のアイポイントを基準とする前記フロントガラス越しの前方視界として、前記フロントフードの前記車幅方向両端寄り領域の上面部を視界に含み、かつ前記車幅方向中央寄り領域の上面部を視界に含まない態様の前方視界が得られる構成とされており、前記フロントフードの前記車幅方向中央寄り領域の上面部の稜線は、前記前方視界の下側境界線に略一致した位置となるように構成されており、前記フロントフードの前記車幅方向両端寄り領域は、車両の前方7mよりも手前側の領域が前記アイポイントにおける路面死角となるように設けられており、前記アイポイントは、日本人の成人男性の標準的な体格をもつ運転者が、車両前後方向の位置や上下高さがこの車両において想定されている標準のポジションに設定された運転席に着座して運転姿勢をとった際の目の位置であることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の高速走行時においては、運転者のフロントガラス越しの前方視界には、フロントフードの前寄り領域の車幅方向両端寄り領域が含まれ、車両近くの景色が前記フロントフードの一部によって隠される状態となる。このため、運転者には車両の速度を高速に感じ難くなる効果をもたらせ、安心感をもたせることが可能となる。
一方、フロントフードの前寄り領域における車幅方向中央寄り領域は、運転者のフロントガラス越しの前方視界に含まれておらず、運転者は、前記フロントフードの車幅方向両端寄り領域の相互間の位置において、車両前方近くの箇所(路面など)を明確に目視することが可能である。したがって、低速域での視界が良好である。また、フロントフードの車幅方向両端寄り領域が目視できるため、車両の車幅感覚を掴み易くなる。その結果、低速域における車両の取り回し性をよくすることが可能となる。
このように、本発明によれば、フロントフードの形状に工夫を加えるだけの簡易な構成により、高速域での安心感を高め、また低速域での取り回し性を良好にすることが可能である。高価な専用部品などを必要とはせず、製造コストの上昇を抑制し得るメリットもある。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る車両構造の一例を示す要部概略斜視図である。
【
図2】
図1に示す車両構造の要部概略側面断面図であり、フロントフードの車幅方向中央寄り領域と端寄り領域との双方の箇所の断面部分を示している。
【
図3】
図1に示す車両構造の運転席からの前方視界を示す要部斜視図である。
【
図4】
図1に示す車両構造の要部概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1に示す車両構造Aは、車両Vの前部に設けられたエンジンルーム1、このエンジンルーム1の上面部を覆うフロントフード2、エンジンルーム1の車両後方側に設けられた車室3、この車室3の前部を仕切るフロントガラス4(ウインドシールド)を備えている。
図1において、符号90は、ワイパを示し、符号91は、ヘッドランプを示している。
【0015】
エンジンルーム1は、
図2に示すように、たとえば内燃機関としてのエンジンに変速機を組み合わせたパワーユニット5や、これに関連する種々の機器(ラジエータ50など)を内部に収容する部位である。パワーユニット5としては、エンジンに加え、または代えて、電動モータを備えたものとすることができる。
【0016】
フロントフード2は、既述したように、エンジンルーム1の上面部を覆う部材であり、その後部は、不図示のヒンジ部を介して車体に連結されており、このことにより前記ヒンジ部を介してフロントフード2は、その前部を昇降するように回転させてエンジンルーム1の上面部を開閉可能である。フロントフード2の車幅方向両側には、フロントフェンダパネル92が配されており、フロントフード2の車両後方側には、カウルトップパネル9
3が配されている。
また、このフロントフード2は、たとえば板金製であって、車両前後方向および車幅方向のそれぞれに適度な幅をもつパネル部材である。ただし、このフロントフード2の車幅方向の両端寄り領域Sa(SaR,SaL)は、車幅方向の中央寄り領域Sbよりも上面部の高さが、適当な高さHだけ高くされている。
【0017】
図3は、車室3内の運転者8の所定のアイポイントEPからの前方視界の一例を示す概略図である。同図に示すフロントガラス4越しの前方視界においては、下側境界線ULの上側に、フロントフード2の両端寄り領域Sa(SaR,SaL)のそれぞれの前端寄りの一部分が位置し、運転者8が目視できるようになっている。フロントフード2の中央寄り領域Sbは、フロントガラス4越しの前方視界には入っていない。
アイポイントEPは、たとえば日本人の成人男性の標準的な体格をもつ運転者8が、運転席7に着座し、適切な運転姿勢をとった際の目の位置とされている(
図2参照)。その際の運転席7の車両前後方向の位置や上下高さは、この車両Vにおいて想定されている標準のポジションである
。
【0018】
前記した下側境界線ULは、フロントガラス4越しの前方視界の下限の境界線であり、たとえばフロントガラス4の内面側の外周縁部に設けられている不透明な黒色のセラミック印刷層40(
図1の網点模様部分、
図3では黒色部分)により形成されている。
フロントガラス4は、従来既知のものと同様に、正面視略矩形の透明ガラス板を用いて構成されており、車両Vのルーフ部60の前端部、左右一対のフロントピラー61の前部、およびカウル62の上部などに外周縁部が当接し、かつ接着剤を用いて接着されている。前記したセラミック印刷層40は、前記接着剤が塗布される箇所に設けられており、前記接着剤を覆い隠して体裁をよくしたり、前記接着剤に品質劣化の要因となる太陽光などが照射されないようにする役割を果たす。セラミック印刷層40は、矩形枠状に形成されており、フロントガラス4のうち、セラミック印刷層40によって囲まれている領域が、フロントガラス4越しの前方視界に相当する。
ただし、本実施形態とは異なり、インストルメントパネル63(ダッシュボード部)の最前部上面が、フロントガラス4の下縁部に沿って設けられているセラミック印刷層40の上縁部よりも高い位置にある場合には、インストルメントパネル63の最前部上面が、フロントガラス4越しの前方視界の下側境界線ULとなる。
【0019】
運転者8は、車室3内のうち、車幅方向中心線CL(
図4参照)よりも右側に偏った位置に存在するため、
図3のフロントガラス4越しの前方視界において、フロントフード2の両端寄り領域SaR,SaLの目視可能な部分R',L'の形状およびサイズは、互いに相違したものとなる。具体例を挙げると、
図4に示すように、フロントフード2の右左の両端寄り領域SaR,SaLの上面部のうち、クロスハッチングが入れられた領域が、前記したフロントガラス4越しの前方視界における目視可能な部分R',L'に相当する。
【0020】
好ましくは、前記した目視可能な部分R',L'は、できる限り車両Vの前寄りに位置し、かつ車幅方向の両端寄りに位置するように設定され、車両Vの前端位置や車幅を運転者8が把握し易くなるように配慮されている。
この点をより具体的に説明すると、フロントフード2の中央寄り領域Sbは、
図3のフロントガラス4越しの前方視界には入らず、車両Vの前端位置を把握するといった目的には利用されない。このため、
図2に示すように、フロントフード2の中央寄り領域Sbの前部側については、たとえば比較的な大きな傾斜角αの前下がり状とされ、フロントフード2のデザイン性がよく、または空気抵抗の減少などが図られている。これに対し、フロントフード2の両端寄り領域Saは、中央寄り領域Sbと比較すると、緩やかな傾斜の前下がり状、あるいは略水平状とされており、できる限りその前端寄り部分や、車幅方向外方寄り部分が、運転者8から目視できるようにされている。
【0021】
フロントフード2の車幅方向の中央寄り領域Sbは、既述したように、両端寄り領域Saよりも上面部の高さが低くされており、
図3のフロントガラス4越しの前方視界には入らないが、この中央寄り領域Sbは、前記した前方視界に入らない範囲において、できる限り高い高さとされている。つまり、運転者8からの目線では、中央寄り領域Sbの上面部の稜線は目視できないものの、フロントガラス4越しの前方視界の下側境界線ULに対して略一致した位置にある。このような構成によれば、フロントフード2の中央寄り領域Sbと、その下方に位置するパワーユニット5との相互間の隙間の距離La、あるいはその他の機器との相互間の隙間の距離を比較的大きくとることが可能である。これは、たとえば歩行者に対する衝突が発生し、かつこの歩行者がフロントフード2上に倒れ込んだ場合に、フロントフード2を下向きに大きく変形させることが可能となり、歩行者の傷害値を小さくする上で有利である。
【0022】
次に、前記した車両構造Aの作用について説明する。
【0023】
まず、車両Vが、たとえば60km/h程度以上の高速域で走行する場合、一般的には、既述したように、運転者8の速度感覚は、「近くは速く感じ、遠くは遅く感じる」状態となる。これに対し、本実施形態においては、フロントガラス4越しの前方視界のうち、下側境界線ULの上側近傍位置には、フロントフード2の両端寄り領域SaR,SaLの一部が目視される態様にあり、速度を速く感じる車両Vに近い箇所(路面)が前記した前方視界の全幅にわたって幅広く見えることはない。フロントフード2の両端寄り領域SaR,SaLは、たとえば車両Vの前方約7mよりも手前側の領域が路面死角長さとなるように設けられている。
このようなことから、運転者8は、車両Vの速度を高速に感じ難くなり、運転者8に安心感を与えることができる。とくに、本実施形態においては、
図3に示したように、フロントフード2の両端寄り領域SaR,SaLのうち、右側の端寄り領域SaRは、運転者8の略正面の位置に、比較的な大きな面積で見えるため、速度を高速に感じ難くし、運転者8に安心感を与える効果を、より優れたものとすることが可能である。
【0024】
一方、車両Vが、低速で走行する場合、運転者8は、フロントフード2の両端寄り領域SaR,SaLの相互間の位置で、車両Vの前方の路面のうち、車両Vに近い箇所をはっきりと目視することが可能である。また、フロントフード2の両端寄り領域SaR,SaLが目視できるため、車両Vの前端の位置や車幅方向両サイドの位置を把握し易くなる。したがって、狭い路地を走行したり、駐車場に車両Vを出し入れする際など、車両Vの低速時における取り回し性がよい。
【0025】
本実施形態の車両構造Aにおいては、フロントフード2の形状に工夫を加えることにより、高速域での安心感を高め、かつ低速域での取り回し性を良好にしており、高価かつ特殊な部品などは用いていない。したがって、車両Vの製造コストも廉価に抑制することが可能である。
【0026】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る車両構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0028】
フロントフードは、車幅方向両端寄り領域が、車幅方向中央寄り領域よりも上面部の高さが高い構成とされるが、本発明においては、少なくともフロントフードの前寄り領域においてそのような構成とされていればよい。フロントフード2の後部寄りの位置においては、車幅方向両端寄り領域と中央寄り領域との上面部の高さが略同一とされていてもかまわない。
また、フロントフードは、金属製に限らず、樹脂製、あるいは金属部材と樹脂部材とを組み合わせたものとすることもできる。
【符号の説明】
【0029】
A 車両構造
EP アイポイント
Sa(SaR,SaL) 両端寄り領域(フロントフードの車幅方向の)
Sb 中央寄り領域(フロントフードの車幅方向の)
V 車両
2 フロントフード
3 車室
4 フロントガラス
8 運転者