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特許75981975G通信用アンテナアレイ、アンテナ構造、ノイズ抑制熱伝導シート及び熱伝導シート
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  • 特許-5G通信用アンテナアレイ、アンテナ構造、ノイズ抑制熱伝導シート及び熱伝導シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】5G通信用アンテナアレイ、アンテナ構造、ノイズ抑制熱伝導シート及び熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   H01Q 23/00 20060101AFI20241204BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20241204BHJP
   H01P 1/30 20060101ALI20241204BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20241204BHJP
   H01Q 21/29 20060101ALI20241204BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20241204BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H01Q23/00
H01L23/36 D
H01P1/30 Z
H01Q17/00
H01Q21/29
H05K7/20 F
H05K9/00 U
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020030821
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2020167667
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019067104
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】ボロトフ セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】良尊 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 慶輔
(72)【発明者】
【氏名】久保 佑介
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/067725(WO,A1)
【文献】特開2015-144412(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 23/00
H01L 23/36
H01P 1/30
H01Q 17/00
H01Q 21/29
H05K 7/20
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の面に順次形成された、少なくとも1つの高周波半導体装置、ノイズ抑制熱伝導シート及び第1放熱部材と、
前記基板の他方の面に順次形成された、少なくとも1つのアンテナ及び第2放熱部材と、
を備え、
前記少なくとも1つのアンテナと前記第2放熱部材との間に、熱伝導シートをさらに備えることを特徴とする、5G通信用アンテナアレイ。
【請求項2】
前記ノイズ抑制熱伝導シートが、磁性粉を含むことを特徴とする、請求項1に記載の5G通信用アンテナアレイ。
【請求項3】
前記ノイズ抑制熱伝導シートが、炭素繊維を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の5G通信用アンテナアレイ。
【請求項4】
前記ノイズ抑制熱伝導シートは、誘電率が20以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
【請求項5】
前記ノイズ抑制熱伝導シートは、透磁率が1を超えることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
【請求項6】
前記ノイズ抑制熱伝導シートは、熱抵抗が300Kmm2/W以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
【請求項7】
前記5G通信用アンテナアレイは、Massive MIMOに用いられることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
【請求項8】
基板と、
前記基板の一方の面に順次形成された、高周波半導体装置、ノイズ抑制熱伝導シート及び第1放熱部材と、
前記基板の他方の面に順次形成された、少なくとも1つのアンテナ及び第2放熱部材と、
を備え、
前記少なくとも1つのアンテナと前記第2放熱部材との間に、熱伝導シートをさらに備えることを特徴とする、アンテナ構造。
【請求項9】
基板と、
前記基板の一方の面に順次形成された、少なくとも1つの高周波半導体装置、ノイズ抑制熱伝導シート及び第1放熱部材と、
前記基板の他方の面に順次形成された、少なくとも1つのアンテナ及び第2放熱部材と、
を備えた、5G通信用アンテナアレイ用いられる熱伝導シートであって、
前記基板上に形成された少なくとも1つのアンテナと、前記第2放熱部材との間に設けられることを特徴とする、熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する、5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造、並びに、該5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造へ用いるのに適した、ノイズ抑制熱伝導シート及び熱伝導シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の高速大容量通信の5Gへ向けて、超高速・大容量通信へ対応する種々の通信技術が開発されている。その中の一つとして、「Massive MIMO」が知られている。Massive MIMOとは、基地局側のアンテナ数が数十若しくは100以上と多く搭載することが想定される、「超多素子アンテナ」を採用した要素技術である。
Massive MIMO構造のように、アンテナ素子を水平垂直に増やすことで、その通信伝搬のビームが細くなる傾向があるとされている。より細く長く、イメージとしては、レーザーライトのように直線的な線を描いて制御することで、指向性の高い電波を特定のスマートフォン等の通信機器へ向かってピンポイントで届けることが可能となる。そのため、このMassive MIMOを採用することで、これまで以上の大容量通信、利用効率の面での効果が期待されている。
【0003】
上述したMassive MIMO等のアンテナアレイ(アンテナ構造の集合体) において、使用される高周波半導体装置(以下、「RFIC」ということもある。)によって熱が多く発生するため、ヒートシンク等の放熱部材を用いて外部へ放熱することが一般的である。
ただし、アンテナアレイでは、多くのRFICが存在するが1つの装置の中に存在するため、発熱量が大きくなり、従来の技術では十分に放熱性を確保できないおそれがあった。
【0004】
また、アンテナアレイのように、複数のアンテナ及びRFICが整列している場合には、各RFIC間のクロストークが発生するという問題もあった。このクロストークが大きくなると、通信阻害や誤通信の要因となるとなることから、上述した放熱性に加えて、クロストークを有効に抑制できる技術の開発が望まれていた。
【0005】
例えば特許文献1には、誘電体導波管の入出力部における電磁界の反射や放射による損失を抑えることを目的として、直方体形状の誘電体と、当該誘電体の外面に形成された入出力電極及び導体膜とで構成され、入出力電極が、誘電体の底面に、誘電体の頂点付近である第1端から底面の内方へ延出し、導体非形成部が設けられた誘導体導波フィルタを備えた、Massive MIMOシステムが開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、誘電体導波管の入出力部において一定のノイズ抑制効果が得られるものの、放熱性については十分ではなく、長時間の使用によって、発熱するという問題があった。さらに、アンテナ数が多くなった際のクロストーク抑制効果についても、さらなる改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-204632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造を提供することを目的とする。また、本発明は、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造へ用いるのに適した、ノイズ抑制熱伝導シート及び熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく検討を重ね、基板の一方の面に形成された高周波半導体装置(RFIC)上にノイズ抑制熱伝導シートを設けることによって、高い電磁波抑制効果が得られ、各RFIC間で発生するクロストークを抑制できることを見出した。さらに、前記ノイズ抑制熱伝導シートは、高周波半導体装置と放熱部材との間に設けられているため、高周波半導体装置から発生した熱を効率的に放熱部材(第1放熱部材)へと伝えることが可能となり、アンテナから発生した熱も放熱部材(第2放熱部材)によって拡散させることができることから、放熱性を向上させることができることも見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)基板と、
前記基板の一方の面に順次形成された、少なくとも1つの高周波半導体装置、ノイズ抑制熱伝導シート及び第1放熱部材と、
前記基板の他方の面に順次形成された、少なくとも1つのアンテナ及び第2放熱部材と、
を備えることを特徴とする、5G通信用アンテナアレイ。
上記構成によって、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を実現できる。
(2)前記少なくとも1つのアンテナと前記第2放熱部材との間に、熱伝導シートをさらに備えることを特徴とする、上記(1)に記載の5G通信用アンテナアレイ。
(3)前記ノイズ抑制熱伝導シートが、磁性粉を含むことを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の5G通信用アンテナアレイ。
(4)前記ノイズ抑制熱伝導シートが、炭素繊維を含むことを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
(5)前記ノイズ抑制熱伝導シートは、誘電率が20以上であることを特徴とする、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
(6)前記ノイズ抑制熱伝導シートは、透磁率が1を超えることを特徴とする、上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
(7)前記ノイズ抑制熱伝導シートは、熱抵抗が300Kmm2/W以下であることを特徴とする、上記(1)~(6)のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
(8)前記5G通信用アンテナアレイは、Massive MIMOに用いられることを特徴とする、上記(1)~(7)のいずれか1項に記載の5G通信用アンテナアレイ。
(9)基板と、
前記基板の一方の面に順次形成された、高周波半導体装置、ノイズ抑制熱伝導シート及び第1放熱部材と、
前記基板の他方の面に順次形成された、アンテナ及び第2放熱部材と、
を備えることを特徴とする、アンテナ構造。
上記構成によって、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を実現できる。
(10)5G通信用アンテナアレイ用いられるノイズ抑制熱伝導シートであって、
基板上に形成された少なくとも1つの高周波半導体装置と、放熱部材との間に設けられることを特徴とする、ノイズ抑制熱伝導シート。
上記構成によって、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する半導体装置に適したノイズ抑制熱伝導シートが得られる。
(11)5G通信用アンテナアレイ用いられる熱伝導シートであって、
基板上に形成された少なくとも1つのアンテナと、放熱部材との間に設けられることを特徴とする、熱伝導シート。
上記構成によって、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する半導体装置に適した熱伝導シートが得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造を提供することが可能となる。また、本発明によれば、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造へ用いるのに適した、ノイズ抑制熱伝導シート及び熱伝導シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の5G通信用アンテナアレイの一実施形態について、断面の状態を模式的に示した図である。
図2】本発明の5G通信用アンテナアレイの他の実施形態について、断面の状態を模式的に示した図である。
図3】実施例1において、5G通信用アンテナアレイのノイズ抑制熱伝導シートの条件を変えた場合の、近端クロストーク(S31)の量を示したグラフである。
図4】実施例3において、5G通信用アンテナアレイのノイズ抑制熱伝導シートの誘電率を変えた場合の近端クロストーク(S31)の量を示したグラフであり、(a)は10GHzでの近端クロストーク量、(b)は20GHzでの近端クロストーク量、(c)は40GHzでの近端クロストーク量、(d)は60GHzでの近端クロストーク量を示す。
図5】実施例4において、5G通信用アンテナアレイのノイズ抑制熱伝導シートの透磁率を変えた場合の、28GHzでの近端クロストーク(S31)の量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を用いて具体的に説明する。
ここで、図1及び2は、本発明の5G通信用アンテナアレイの実施形態の一例について、それぞれ断面を模式的に示した図である。なお、各図面については、説明の便宜のため、各部材の形状やスケールが実際のものとは異なる状態で示されている。各部材の形状やスケールについては、本明細書の中で規定されていること以外は、半導体装置ごとに適宜変更することが可能である。
【0013】
<5G通信用アンテナアレイ>
本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、
基板10と、
前記基板10の一方の面10aに順次形成された、少なくとも1つの高周波半導体装置20、ノイズ抑制熱伝導シート30及び第1放熱部材41と、
前記基板10の他方の面10bに順次形成された、少なくとも1つのアンテナ50及び第2放熱部材42備える。
【0014】
本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1では、前記ノイズ抑制熱伝導シート30を設けることによって、高周波半導体装置20から発生したノイズとなる電磁波を吸収及び/又は遮断することが可能となるため、電波の送受信を阻害することなく、クロストークの増大を抑制できる。加えて、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1では、前記ノイズ抑制熱伝導シート30が、高周波半導体装置20と第1放熱部材41との間に設けられているため、高周波半導体装置20から発生した熱を効率的に第1放熱部材41へと伝えることができ、優れた放熱性を実現できる。
さらに、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1では、基板20の他方の面10b側に形成された、第2放熱部材42によって、アンテナから発生した熱を効率的に放熱できるため、5G通信用アンテナアレイ1全体での放熱性をより高めることができる。
【0015】
一方、従来技術による5G通信用アンテナアレイでは、本発明のように高周波半導体装置20と接した状態でノイズ抑制熱伝導シート30が設けられていないため、十分なクロストーク抑制効果を得ることができない。さらに、前記ノイズ抑制熱伝導シート30が、高周波半導体装置20と第1放熱部材41との間に設けられていないため、放熱性についても十分に得られないと考えられる。
【0016】
なお、本発明における「5G通信用アンテナアレイ」とは、「第五世代(5G)移動通信システムに用いられるアンテナアレイ」のことを意味している。また、「アンテナアレイ」とは、少なくとも1つのアンテナから構成されるアンテナの集合体のことを意味している。
そのため、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、高周波数の電波を低消費電力で送受信できる観点から、例えばMassive MIMO等の技術に用いられることが好ましい。
【0017】
次に、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1を構成する各部材について説明する。
(基板)
本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、基板10を備える。
ここで、前記基板10は、その両面(一方の面10a及び他方の面10b)に回路を有する、いわゆる両面基板である。前記基板10のその他の詳細な条件については、特に限定されず、要求される性能に応じて、公知の基板を適宜選択し、用いることができる。
【0018】
(高周波半導体装置)
本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、前記基板10の一方の面10a上に形成された高周波半導体装置20を備える。
ここで、前記高周波半導体装置については、高周波(RF)の信号を処理する半導体装置である。半導体による電子部品のうち、高周波の信号を処理できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、RFICやLSI等の集積回路、CPU、MPU、グラフィック演算素子等が挙げられる。
【0019】
なお、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1では、後述するアンテナ50を作動させるため、例えば図1に示すように、5G通信用アンテナアレイ1中に前記アンテナ50と同じ数の前記高周波半導体装置20が設けられている。ただし、前記高周波半導体装置20の数と前記アンテナ50の数が必ずしも同じである必要はなく、設計に応じて、1つの前記高周波半導体装置20が複数個のアンテナを作動させる構造とすることもできる。
【0020】
また、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1では、前記基板10の一方の面10a上に、前記高周波半導体装置20の周りを囲むように、全周あるいは部分的にランド(図示せず)を設けることもできる。
【0021】
(ノイズ抑制熱伝導シート)
本発明の5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、前記高周波半導体装置20と後述する第1放熱部材41との間に、ノイズ抑制熱伝導シート30を備える。
前記ノイズ抑制熱伝導シート30によって、ノイズとなる電磁波を吸収及び/又は遮断することが可能となるため、アンテナによる電波の送受信を阻害することなく、クロストークの増大を抑制できることに加え、前記高周波半導体装置20から発生した熱を効率的に第1放熱部材41へと伝えることができるため、優れた放熱性も実現できる。
【0022】
ここで、ノイズ抑制熱伝導シートとは、その名の通り、電磁波ノイズの抑制効果及び熱伝導性を有するシート状部材のことである。なお、前記ノイズ抑制効果及び前記熱伝導性の性能については、特に限定はされず、基本的には本発明の5G通信用アンテナアレイに要求される性能に応じて適宜変更することが可能である。
また、前記ノイズ抑制熱伝導シートのノイズ抑制効果は、前記高周波半導体装置20や、後述するアンテナ50から発生したノイズを抑制できるものであればよく、例えば、電磁波ノイズを遮断する効果を有していてもよいし、電磁波ノイズを吸収する効果を有していてもよい。
【0023】
前記ノイズ抑制熱伝導シート30のサイズ(シートの延在方向に沿った大きさ)については、特に限定はされない。
例えば、図1に示すように、前記高周波半導体装置20のサイズに対応したサイズを有する複数のシートから構成することができる。図1に示す態様とすることで、前記基板10のパターン設計を容易にすることができる。
また、図2に示すように、前記ノイズ抑制熱伝導シート30のサイズを大きくし、一枚の前記ノイズ抑制熱伝導シート30に対して複数の前記高周波半導体装置20が形成されるようにすることもできる。図2に示す態様の場合、より優れたノイズ抑制効果及び放熱性が得られることがある。
【0024】
さらに、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の厚さ(5G通信用アンテナアレイの各部材の積層方向に沿った厚さ)については、特に限定はされず、前記高周波半導体装置20と第1放熱部材41との間隔や、5G通信用アンテナアレイ1のサイズ等に応じて適宜変更することができる。
例えば、放熱性及びクロストーク抑制効果をより高いレベルで実現できる点からは、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の厚さが10~3000μmであることが好ましく、200~500μmであることがより好ましい。前記ノイズ抑制熱伝導シート30の厚さが3000μmを超えると、前記ノイズ抑制熱伝導シート30と前記第1放熱部材41との距離が長くなるため、熱伝導性が低下するおそれがあり、一方、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の厚さが10μm未満の場合には、クロストーク抑制効果が小さくなるおそれがある。
【0025】
なお、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、優れたクロストーク抑制効果を実現する点からは、誘電率(比誘電率)が高い方が好ましい。
具体的には、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の誘電率が、20以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましい。前記ノイズ抑制熱伝導シート30の誘電率を20以上とすることで、より優れたクロストーク抑制効果が得られるからである。
なお、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の誘電率の調整方法としては、特に限定はされないが、後述する、バインダ樹脂の種類や熱伝導性充填材の材料、配合量及び配向方向等、を変えることによって適宜調整することが可能である。
【0026】
また、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、優れたクロストーク抑制効果を実現する点からは、透磁率(比透磁率)が高い方が好ましい。
具体的には、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の透磁率が、1を超えることが好ましく、2以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。前記ノイズ抑制熱伝導シート30の透磁率が1を超えることで、より優れたクロストーク抑制効果が得られるからである。
なお、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の透磁率の調整方法としては、特に限定はされないが、後述する、バインダ樹脂の種類や熱伝導性充填材の材料、配合量及び配向方向等、を変えることによって適宜調整することが可能である。
【0027】
さらに、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、熱抵抗が300Kmm2/W以下であることが好ましく、35Kmm2/W以下であることがより好ましく、30Kmm2/W以下であることが特に好ましい。前記高周波半導体装置20から発生した熱を前記第1放熱部材41へより効率的に伝えることができ、放熱性をさらに向上できるためである。なお、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の熱抵抗は、1Kmm2/W以上であることが好ましく、10Kmm2/W以上であることがより好ましい。前記ノイズ抑制熱伝導シート30の熱抵抗を1Kmm2/W以上とすることで、接触熱抵抗が変化した場合でも熱抵抗の変化割合を小さくすることができる。
【0028】
さらに、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、磁気特性を有することが好ましい。前記ノイズ抑制熱伝導シート30に、電磁波吸収性能を持たせることができるため、より優れたクロストーク抑制効果が得られるためである。
ここで、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の磁気特性の調整方法としては、特に限定はされないが、ノイズ抑制熱伝導シート30中に、磁性粉等を含有させ、その配合量等を変えることによって、調整することが可能である。
【0029】
また、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、表面に粘着性又は接着性を有することが好ましい。ノイズ抑制熱伝導シート30と他の部材(高周波半導体装置20、第1放熱部材41)との接着性を向上できるからである。
なお、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の表面にタック性を付与する方法については特に限定はされない。例えば、後述するノイズ抑制熱伝導シート30を構成するバインダ樹脂の適正化を図ってタック性を持たせることもできるし、該ノイズ抑制熱伝導シート30の表面にタック性のある接着層を別途設けることも可能である。
【0030】
さらにまた、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、柔軟性を有することが好ましい。前記ノイズ抑制熱伝導シート30の形状を変化しやすくできるため、5G通信用アンテナアレイ1を組み立てる際の容易性が向上するとともに、前記高周波半導体装20の表面形状に追従できるため、前記高周波半導体装20との接合力を高めることもできる。前記ノイズ抑制熱伝導シート30の柔軟性については、特に限定はされないが、例えば動的弾性率測定で測定される25℃での貯蔵弾性率を50kPa~50MPaの範囲とすることが好ましい。
【0031】
なお、前記ノイズ抑制熱伝導シート30を構成する材料については、ノイズ抑制効果及び熱伝導性を有するものであれば特に限定はされない。
例えば、前記ノイズ抑制熱伝導シート30を、バインダ樹脂と、熱伝導性充填剤と、その他成分と、を含む材料から構成することができる。
【0032】
以下、ノイズ抑制熱伝導シート30を構成する材料について記載する。
・バインダ樹脂
前記ノイズ抑制熱伝導シートを構成するバインダ樹脂とは、ノイズ抑制熱伝導シートの基材となる樹脂成分のことである。その種類については、特に限定されず、公知のバインダ樹脂を適宜選択することができる。例えば、バインダ樹脂の一つとして、熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0033】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、架橋性ゴム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン、ポリウレタン、ポリイミドシリコーン、熱硬化型ポリフェニレンエーテル、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
なお、前記架橋性ゴムとしては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ポリイソブチレンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
また、上述した熱硬化性樹脂の中でも、成形加工性及び耐候性に優れるとともに、電子部品に対する密着性及び追従性の点から、シリコーンを用いることが好ましい。シリコーンとしては、特に制限はなく、目的に応じてシリコーンの種類を適宜選択することができる。
上述した成形加工性、耐候性、密着性等を得る観点からは、前記シリコーンとして、液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤とから構成されるシリコーンであることが好ましい。そのようなシリコーンとしては、例えば、付加反応型液状シリコーン、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーン等が挙げられる。
【0036】
前記付加反応型液状シリコーンとしては、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンを主剤、Si-H基を有するポリオルガノシロキサンを硬化剤とした、2液性の付加反応型シリコーン等を用いることが好ましい。
なお、前記液状シリコーンゲルの主剤と、硬化剤との組合せにおいて、前記主剤と前記硬化剤との配合割合としては、質量比で、主剤:硬化剤=35:65~65:35であることが好ましい。
【0037】
また、前記ノイズ抑制熱伝導シートにおける前記バインダ樹脂の含有量は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、シートの成形加工性や、シートの密着性等を確保する観点からは、前記ノイズ抑制熱伝導シートの20体積%~50体積%程度であることが好ましく、30体積%~40体積%であることがより好ましい。
【0038】
・熱伝導性充填剤
前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、前記バインダ樹脂内に、熱伝導性充填剤を含むことができる。該熱伝導性充填剤は、シートの熱伝導性を向上させるための成分である。
なお、熱伝導性充填剤の形状、材料、平均粒径等については、シートの熱伝導性を向上させることができるものであれば、特に限定はされない。
【0039】
例えば、形状については、球状、楕円球状、塊状、粒状扁平状、針状、繊維状、コイル状等とすることができる。それらの中でも、より高い熱伝導性を実現できる点からは、繊維状の熱伝導性充填剤を用いることが好ましい。
なお、前記繊維状の熱伝導性充填剤の「繊維状」とは、アスペクト比の高い(およそ6以上)の形状のことをいう。そのため、本発明では、繊維状や棒状等の熱導電性充填剤だけでなく、アスペクト比の高い粒状の充填材や、フレーク状の熱導電性充填剤等も繊維状の熱導電性充填剤に含まれる。
【0040】
ここで、前記熱伝導性充填剤の材料についても、熱伝導性の高い材料であれば特に限定はされず、例えば、銀、銅、アルミニウム等の金属、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、グラファイト等のセラミックス、炭素繊維等が挙げられる。
なお、前記熱伝導性充填剤については、一種単独でもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、二種以上の熱伝導性充填剤を用いる場合には、いずれも同じ形状であってもよいし、それぞれ別の形状の熱伝導性充填剤を混合して用いてもよい。
これらの繊維状の熱伝導性充填剤の中でも、より高い熱伝導性を得られる点からは、繊維状の金属粉や、炭素繊維を用いることが好ましく、炭素繊維を用いることがより好ましい。
【0041】
前記炭素繊維の種類について特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ピッチ系、PAN系、PBO繊維を黒鉛化したもの、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成されたものを用いることができる。これらの中でも、高い熱伝導性及び導電性が得られる点から、PBO繊維を黒鉛化した炭素繊維、ピッチ系炭素繊維がより好ましい。
【0042】
また、前記炭素繊維は、必要に応じて、その一部又は全部を表面処理して用いることができる。前記表面処理としては、例えば、酸化処理、窒化処理、ニトロ化、スルホン化、あるいはこれらの処理によって表面に導入された官能基若しくは炭素繊維の表面に、金属、金属化合物、有機化合物等を付着あるいは結合させる処理等が挙げられる。前記官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基等が挙げられる。
【0043】
さらに、前熱伝導性充填剤の長軸の平均長さ(平均長軸長さ)についても、特に制限はなく適宜選択することができるが、確実に高い熱伝導性を得る点から、50μm~300μmの範囲であることが好ましく、75μm~275μmの範囲であることがより好ましく、90μm~250μmの範囲であることが特に好ましい。
さらにまた、前記熱伝導性充填剤の平均短軸長さについても、特に制限はなく適宜選択することができる。例えば、確実に高い熱伝導性を得る点から、前記平均単軸長さが、4μm~20μmの範囲であることが好ましく、5μm~14μmの範囲であることがより好ましい。
【0044】
前記熱伝導性充填剤のアスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)については、高い熱伝導性を得る点から、6以上であることが好ましく、7~30であることがより好ましい。前記アスペクト比が小さい場合でも熱伝導率等の改善効果はみられるが、配向性が低下するなどにより大きな特性改善効果が得られないため、アスペクト比は6以上とする。一方、30を超えると、ノイズ抑制熱伝導シート中での分散性が低下するため、十分な熱伝導率を得られないおそれがある。
ここで、前記熱伝導性充填剤の平均長軸長さ及び平均短軸長さは、例えばマイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)等によって測定し、複数のサンプルから平均を算出することができる。
【0045】
また、前記ノイズ抑制熱伝導シート30における、前記熱伝導性充填剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4体積%~40体積%であることが好ましく、5体積%~30体積%であることがより好ましく、6体積%~20体積%であることが特に好ましい。前記含有量が4体積%未満であると、十分に低い熱抵抗を得ることが困難になるおそれがあり、40体積%を超えると、前記ノイズ抑制熱伝導シートの成型性及び前記繊維状の熱伝導性充填剤の配向性に影響を与えてしまうおそれがある。
【0046】
さらに、前記ノイズ抑制熱伝導シート30では、前記熱伝導性充填剤が一方向又は複数の方向に配向していることが好ましい。前記熱伝導性充填剤を配向させることによって、より高い熱伝導性や電磁波吸収性を実現できるためである。
例えば、前記ノイズ抑制熱伝導シート30による熱伝導性を高め、本発明の5G通信用アンテナアレイの放熱性を向上させたい場合には、前記熱伝導性充填剤をシート面に対して略垂直状に配向させることができる。一方、前記ノイズ抑制熱伝導シート中の電気の流れを変え、ノイズ抑制効果を高める場合等には、前記熱伝導性充填剤をシート面に対して略平行状やその他の方向に配向させることができる。
ここで、前記シート面に対して略垂直状や、略平行の方向は、前記シート面方向に対してほぼ垂直な方向やほぼ平行な方向を意味する。ただし、前記熱伝導性充填剤の配向方向は、製造時に多少のばらつきはあるため、本発明では、上述したシート面の延在方向に対して垂直な方向や平行な方向から±20°程度のズレは許容される。
【0047】
なお、前記熱伝導性充填剤の配向角度を整える方法については、特に限定はされない。例えば、前記ノイズ抑制熱伝導シートの元になるシート用成形体を作製し、繊維状の熱伝導性充填剤を配向させた状態で、切り出し角度を調整することによって、配向角度の調整が可能となる。
【0048】
・無機物フィラー
また、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、上述したバインダ樹脂及び熱伝導性繊維に加えて、無機物フィラーをさらに含むことができる。ノイズ抑制熱伝導シートの熱伝導性をより高めたり、シートの強度を向上できるためである。
前記無機物フィラーとしては、形状、材質、平均粒径等については特に制限がされず、目的に応じて適宜選択することができる。前記形状としては、例えば、球状、楕円球状、塊状、粒状、扁平状、針状等が挙げられる。これらの中でも、球状、楕円形状が充填性の点から好ましく、球状が特に好ましい。
【0049】
前記無機物フィラーの材料としては、例えば、窒化アルミニウム(窒化アルミ:AlN)、シリカ、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化亜鉛、炭化ケイ素、ケイ素(シリコン)、酸化珪素、酸化アルミニウム、金属粒子等が挙げられる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカが好ましく、熱伝導率の点から、アルミナ、窒化アルミニウムが特に好ましい。
【0050】
また、前記無機物フィラーは、表面処理が施されたものを用いることもできる。前記表面処理としてカップリング剤で前記無機物フィラーを処理すると、前記無機物フィラーの分散性が向上し、ノイズ抑制熱伝導シートの柔軟性が向上する。
【0051】
前記無機物フィラーの平均粒径については、無機物の種類等に応じて適宜選択することができる。
前記無機物フィラーがアルミナの場合、その平均粒径は、1μm~10μmであることが好ましく、1μm~5μmであることがより好ましく、4μm~5μmであることが特に好ましい。前記平均粒径が1μm未満であると、粘度が大きくなり、混合しにくくなるおそれがある。一方、前記平均粒径が10μmを超えると、前記ノイズ抑制熱伝導シートの熱抵抗が大きくなるおそれがある。
さらに、前記無機物フィラーが窒化アルミニウムの場合、その平均粒径は、0.3μm~6.0μmであることが好ましく、0.3μm~2.0μmであることがより好ましく、0.5μm~1.5μmであることが特に好ましい。前記平均粒径が、0.3μm未満であると、粘度が大きくなり、混合しにくくなるおそれがあり、6.0μmを超えると、前記ノイズ抑制熱伝導シートの熱抵抗が大きくなるおそれがある。
なお、前記無機物フィラーの平均粒径については、例えば、粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0052】
・磁性金属粉
さらに、前記ノイズ抑制熱伝導シート30は、上述したバインダ樹脂、繊維状の熱伝導性繊維及び無機物フィラーに加えて、磁性金属粉をさらに含むことが好ましい。該磁性金属粉を含むことで、ノイズ抑制熱伝導シートのノイズ吸収性能を高め、本発明の5G通信用アンテナアレイのクロストーク抑制効果をより向上できる。
【0053】
前記磁性金属粉の種類については、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の磁気特性を高め、電磁波吸収性を向上できるものであること以外は、特に限定されず、公知の磁性金属粉を適宜選択することができる。例えば、アモルファス金属粉や、結晶質の金属粉末を用いることができる。アモルファス金属粉としては、例えば、Fe-Si-B-Cr系、Fe-Si-B系、Co-Si-B系、Co-Zr系、Co-Nb系、Co-Ta系のもの等が挙げられ、結晶質の金属粉としては、例えば、純鉄、Fe系、Co系、Ni系、Fe-Ni系、Fe-Co系、Fe-Al系、Fe-Si系、Fe-Si-Al系、Fe-Ni-Si-Al系のもの等が挙げられる。さらに、前記結晶質の金属粉としては、結晶質の金属粉に、N(窒素)、C(炭素)、O(酸素)、B(ホウ素)等を微量加えて微細化させた微結晶質金属粉を用いてもよい。
なお、前記磁性金属粉については、材料が異なるものや、平均粒径が異なるものを二種以上混合したものを用いてもよい。
【0054】
また、前記磁性金属粉については、球状、扁平状等の形状を調整することが好ましい。例えば、充填性を高くする場合には、粒径が数μm~数十μmであって、球状である磁性金属粉を用いることが好ましい。このような磁性金属粉末は、例えばアトマイズ法や、金属カルボニルを熱分解する方法により製造することができる。アトマイズ法とは、球状の粉末が作りやすい利点を有し、溶融金属をノズルから流出させ、流出させた溶融金属に空気、水、不活性ガス等のジェット流を吹き付けて液滴として凝固させて粉末を作る方法である。アトマイズ法によりアモルファス磁性金属粉末を製造する際には、溶融金属が結晶化しないようにするために、冷却速度を1×106(K/s)程度にすることが好ましい。
【0055】
上述したアトマイズ法により、アモルファス合金粉を製造した場合には、アモルファス合金粉の表面を滑らかな状態とすることができる。このように表面凹凸が少なく、比表面積が小さいアモルファス合金粉を磁性金属粉として用いると、バインダ樹脂に対して充填性を高めることができる。さらに、カップリング処理を行うことで充填性をより向上できる。
【0056】
なお、前記ノイズ抑制熱伝導シートは、上述した、バインダ樹脂、熱伝導性充填剤、無機物フィラー及び磁性金属粉に加えて、目的に応じてその他の成分を適宜含むことも可能である。
その他の成分としては、例えば、チキソトロピー性付与剤、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、微粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤等が挙げられる。
【0057】
(第1放熱部材)
本発明の5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、前記基板10の一方の面10a側の、前記ノイズ抑制熱伝導シート30と接する位置に第1放熱部材41を備える。
ここで、前記第1放熱部材41は、前記熱源(高周波半導体装置20)から発生する熱を吸収し、外部に放散させる部材である。前記ノイズ抑制熱伝導シート30を介して前記高周波半導体装置20と接続されることによって、高周波半導体装置20が発生した熱を外部に拡散させ、5G通信用アンテナアレイ1の高い放熱性を実現できる。
【0058】
前記第1放熱部材41の種類については、特に限定はされず、本発明の5G通信用アンテナアレイに要求される放熱性に応じて適宜選択することができる。例えば、放熱器、冷却器、ヒートシンク、ヒートスプレッダ、ダイパッド、冷却ファン、ヒートパイプ、金属カバー、筐体等が挙げられる。これらの放熱部材の中でも、より優れた放熱性が得られる点からは、放熱器、冷却器又はヒートシンクを用いることが好ましい。なお、上述した第1放熱部材41を構成する材料については、熱伝導率を高める点から、アルミ、銅、ステンレス等の金属や、グラファイト等を含むこともできる。
【0059】
(アンテナ)
本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、前記基板10の他方の面10b上に形成された少なくとも1つのアンテナ50を備える。
ここで、前記アンテナについては、無線による通信環境で電波を送受信するための装置である。本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1では、通常のアンテナアレイに用いられるアンテナを用いることができ、5G通信用アンテナアレイに要求される性能に応じて適宜選択することができる。
【0060】
なお、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1では、前記アンテナ50の配設ピッチPが、通信波長に対して1/4以上で且つ1以下であることが好ましく、1/4以上で且つ1/2以下であることが好ましい。例えば、使用する通信波長が28GHzの場合には、前記アンテナ50の配設ピッチPを2.5~10mmとすることが好ましく、2.5~5mmとすることがより好ましい。また使用する通信波長が24Ghzの場合には、18~75mmとすることが好ましく、18~37mmとすることがより好ましい。アンテナアレイの電波放射特性を向上させることができるためである。
【0061】
また、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1における前記アンテナ50の数は、少なくとも1つであれば特に限定はされず、5G通信用アンテナアレイの仕様や要求される性能に応じて適宜決定することができる。
さらに、前記アンテナ50の数は、通信の速度向上や利用効率向上の観点からは、複数(2本以上)であることが好ましい。例えば、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1がMassive MIMOである場合には、前記アンテナ50の数を128本とすることができる。
【0062】
(第2放熱部材)
本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、前記基板10の他方の面10b側に、前記第2放熱部材42を備える。
ここで、前記第2放熱部材42は、熱源(アンテナ50)から発生する熱を吸収し、外部に放散させる部材である。
【0063】
前記第2放熱部材42の種類については、特に限定はされず、本発明の半5G通信用アンテナアレイに要求される放熱性に応じて適宜選択することができる。例えば、上述した第1放熱部材41と同様に、放熱器、冷却器、ヒートシンク、ヒートスプレッダ、ダイパッド、冷却ファン、ヒートパイプ、金属カバー、筐体等を用いることができる。これらの放熱部材の中でも、優れた放熱性を得つつ、優れた省スペース性を実現できる点からは、ヒートスプレッダを用いることが好ましい。
【0064】
なお、図1に示すように、前記第2放熱部材42の下には、アンテナ50が設けられているが、後述する熱伝導シート60を前記第2放熱部材42と前記アンテナ50との間に介在させない場合には、前記第2放熱部材42と前記アンテナ50とが接触しないように、前記第2放熱部材42と前記アンテナ50との間隔をある程度空けることが好ましい。その際の前記第2放熱部材42と前記アンテナ50との間隔については、特に限定はされないが、500~2000μm程度であることが好ましい。
【0065】
(熱伝導シート)
また、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、図1に示すように、前記少なくとも1つのアンテナ50と前記第2放熱部材42との間に、熱伝導シート60をさらに備えることが好ましい。前記熱伝導シート60を介して前記アンテナ50と前記第2放熱部材42とを接続することによって、前記アンテナ50から発生した熱を外部に拡散させ、5G通信用アンテナアレイ1の高い放熱性を実現できる。
【0066】
ここで、熱伝導シート60とは、熱伝導性を有するシート状部材のことである。前記熱伝導性の性能については、特に限定はされず、基本的には本発明の5G通信用アンテナアレイに要求される性能に応じて適宜変更することが可能である。なお、前記熱伝導シート60は、上述したノイズ抑制熱伝導シート30とは異なり、ノイズ抑制効果を有することはない。前記熱伝導シート60がノイズ抑制効果を有する場合、前記アンテナ50の電波の送受信性能を低下させるおそれがあるためである。
【0067】
また、前記熱伝導シート60のサイズ(シートの延在方向に沿ったサイズ(シートの厚さ方向を除く))については、特に限定はされない。例えば、図1に示すように、前記アンテナ50のサイズと同じようなサイズを有する複数のシートから構成することができる。また、図2に示すように、前記熱伝導シート60のサイズを大きくし、一枚の前記熱伝導シート30に対して複数の前記アンテナ50が形成されるようにすることもできる。
【0068】
さらに、前記熱伝導シート60の厚さ(5G通信用アンテナアレイの各部材の積層方向に沿った厚さ)については、特に限定はされず、前記アンテナ50と第2放熱部材42との間隔や、5G通信用アンテナアレイ1のサイズ等に応じて適宜変更することができる。
例えば、放熱性をより高いレベルで実現できる点からは、前記熱伝導シート60の厚さが500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。前記熱伝導シート60の厚さが500μmを超えると、前記アンテナ50と前記第2放熱部材42との距離が長くなるため、熱伝導性が低下するおそれがある。
【0069】
さらに、前記熱伝導シート60は、熱抵抗が300Kmm2/W以下であることが好ましく、35Kmm2/W以下であることがより好ましく、30Kmm2/W以下であることが特に好ましい。前記アンテナ50から発生した熱を前記第2放熱部材42へより効率的に伝えることができ、放熱性をさらに向上できるためである。なお、前記熱伝導シート60の熱抵抗は、1Kmm2/W以上であることが好ましく、10Kmm2/W以上であることがより好ましい。前記熱伝導シート60の熱抵抗を1Kmm2/W以上とすることで、接触熱抵抗が変化した場合でも熱抵抗の変化割合が少なくなる。
【0070】
また、前記熱伝導シート60は、表面に粘着性又は接着性を有することが好ましい。前記熱伝導シート60と他の部材(前記アンテナ50、第2放熱部材42)との接着性を向上できるからである。
なお、前記熱伝導シート60の表面にタック性を付与する方法については特に限定はされない。例えば、後述する熱伝導シート60を構成するバインダ樹脂の適正化を図ってタック性を持たせることもできるし、該熱伝導シート60の表面にタック性のある接着層を別途設けることも可能である。
【0071】
さらにまた、前記熱伝導シート60は、柔軟性を有することが好ましい。前記熱伝導シート60の形状を変化しやすくできるため、5G通信用アンテナアレイ1を組み立てる際の容易性が向上するとともに、前記アンテナ50の表面形状に追従できるため、前記アンテナ50との接合力を高めることもできる。前記熱伝導シート60の柔軟性については、特に限定はされないが、例えば動的弾性率測定で測定される25℃での貯蔵弾性率を50kPa~50MPaの範囲とすることが好ましい。
【0072】
なお、前記熱伝導シート60を構成する材料については、高い熱伝導性を有するものであれば特に限定はされない。
例えば、前記熱伝導シート30を、バインダ樹脂と、熱伝導性充填剤と、その他成分と、を含む材料から構成することができる。
【0073】
以下、熱伝導シート60を構成する材料について記載する。
前記熱伝導シート60を構成するバインダ樹脂は、熱伝導シートの基材となる樹脂成分である。その種類や含有量については、上述したノイズ抑制熱伝導シート30のバインダ樹脂と同様である。
【0074】
前記熱伝導シート60に含有される熱伝導性充填剤は、シートの熱伝導性を向上させるための成分である。その形状、材料、平均粒径、含有量等については、上述したノイズ抑制熱伝導シート30の熱伝導性充填剤と同様である。
【0075】
なお、前記熱伝導シート60は、上述した、バインダ樹脂及び熱伝導性充填剤に加えて、目的に応じてその他の成分を適宜含むことも可能である。
その他の成分としては、例えば、上述したノイズ抑制熱伝導シート30の中でも説明した無機物フィラーや、チキソトロピー性付与剤、分散剤、硬化促進剤、遅延剤、微粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤等が挙げられる。
なお、前記熱伝導シート60は、高いノイズ抑制効果は要求されないため、磁性粉は含有しないか、含有する場合でも少量であることが好ましい。
【0076】
(その他部材)
本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1は、上述した、基板10、高周波半導体装置20、ノイズ抑制熱伝導シート30、第1放熱部材41、第2放熱部材42、アンテナ50、及び、好適部材としての熱伝導シート60の他にも、通常アンテナアレイに用いられる部材を、適宜備えることが可能である。
【0077】
例えば、図1に示すように、本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイ1が、ケース部材70をさらに備えることができる。
また、図示はしていないが、各部材を接着するための接着層等を、必要に応じて形成することもできる。
【0078】
<5G通信用アンテナアレイの製造方法>
本発明の5G通信用アンテナアレイの製造方法については、前記ノイズ抑制熱伝導シート30を前記少なくとも1つの高周波半導体装置20の上又は下に形成すること以外は、特に限定はされない。
例えば、図1に示すように、前記ノイズ抑制熱伝導シート30が、前記高周波半導体装置20のサイズと同じようなサイズを有する複数のシートから構成される場合には、予め前記ノイズ抑制熱伝導シート30を切断し、サイズを調整した上で、それぞれの高周波半導体装置20に積層し、圧着させる工程を具える。また、図2に示すように、一枚の前記ノイズ抑制熱伝導シート30から構成される場合には、基板10上に全ての高周波半導体装置20を形成した後、一枚の前記ノイズ抑制熱伝導シート30を積層し、圧着させる工程を具える。
なお、その他の工程については、従来のアンテナアレイの製造工程に沿って行うことができる
【0079】
また、前記アンテナ50と前記第2放熱部材42との間に、前記熱伝導シート60を備える場合には、前記ノイズ抑制熱伝導シート30の形成工程と同様に、前記アンテナ50を形成した後、前記熱伝導シート60をアンテナ50に積層し、圧着させる工程を、さらに具える。
【0080】
<アンテナ構造>
本発明の一実施形態に係るアンテナ構造は、基板と、前記基板の一方の面に順次形成された、高周波半導体装置、ノイズ抑制熱伝導シート及び第1放熱部材と、前記基板の他方の面に順次形成された、アンテナ及び第2放熱部材と、を備える。
本発明の一実施形態に係るアンテナ構造では、前記基板の一方の面側に、ノイズ抑制熱伝導シートを設けることによって、ノイズとなる電磁波を吸収及び/又は遮断することが可能となるため、アンテナによる電波の送受信を阻害することなく、クロストークの増大を抑制できる。さらに、本発明の一実施形態に係るアンテナ構造では、前記ノイズ抑制熱伝導シートが、高周波半導体装置と第1放熱部材との間に設けられているため、高周波半導体装置から発生した熱を効率的に第1放熱部材へと伝えることができ、優れた放熱性を実現できる。
【0081】
なお、本発明におけるアンテナ構造とは、1本のアンテナからなるアンテナ装置や、複数のアンテナからなるアンテナアレイ等を含めた、アンテナ機能を有する構造体のことを意味している。
また、本発明の一実施形態に係るアンテナ構造を構成する各部材については、上述した本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイで説明した部材と同様である。
【0082】
<ノイズ抑制熱伝導シート>
本発明の一実施形態に係るノイズ抑制熱伝導シートは、5G通信用アンテナアレイ用いられるノイズ抑制熱伝導シートである。
そして、本発明では、図1に示すように、5G通信用アンテナアレイ1の基板10上に形成された少なくとも1つの高周波半導体装置20と、放熱部材(図1では、第1放熱部材41)との間に設けられる。
【0083】
本発明の一実施形態に係るノイズ抑制熱伝導シート30は、ノイズとなる電磁波を吸収及び/又は遮断することができるとともに、熱伝導性に優れる。そのため、5G通信用アンテナアレイ1において、高周波半導体装置20と放熱部材との間に用いることによって、クロストークの増大を抑制できるとともに、放熱性を向上させることができる。そのため、本発明の一実施形態に係るノイズ抑制熱伝導シート30は、5G通信用アンテナアレイへ用いるのに適している。
【0084】
なお、本発明の一実施形態に係るノイズ抑制熱伝導シート30の構成については、上述した本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイの中で説明したノイズ抑制熱伝導シートと同様である。
【0085】
<熱伝導シート>
本発明の一実施形態に係る熱伝導シートは、5G通信用アンテナアレイ用いられる熱伝導シートである。
そして、本発明では、図1に示すように、5G通信用アンテナアレイ1の基板10上に形成された少なくとも1つのアンテナ50と、放熱部材(図1では、第2放熱部材42)との間に設けられる。
【0086】
本発明の一実施形態に係る熱伝導シート60は、熱伝導性に優れるため、5G通信用アンテナアレイ1において、アンテナ50と放熱部材との間に用いることによって、放熱性を向上させることができる。そのため、本発明の一実施形態に係る熱伝導シート60は、5G通信用アンテナアレイへ用いるのに適している。
【0087】
なお、本発明の一実施形態に係る熱伝導シート60の構成については、上述した本発明の一実施形態に係る5G通信用アンテナアレイの中で説明した熱伝導シートと同様である。
【実施例
【0088】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
<実施例1>
実施例1では、3次元電磁界シミュレータANSYS HFSS(アンシス社製)を用いて、図1に示すようなアンテナアレイの解析モデルを作製し、ノイズ抑制熱伝導シートの条件を変えた際のクロストーク抑制効果及び放熱性について、評価を行った。
【0090】
(1)アンテナアレイのクロストーク抑制効果については、ノイズ抑制熱伝導シート以外は、全て同様の条件とした。アンテナアレイを構成する各部材の条件を以下に示す。アンテナアレイを模擬するために、アンテナアレイの2つのアンテナの部分だけを切り抜いたアンテナアレイのモデルを作成し、繰り返しの境界条件を適用した。切り抜いたアンテナ部分のモデルのサイズは、幅10mm、奥行き10mm、高さ5mmである。
また、2つのアンテナ部分だけを切り抜いたアンテナアレイのモデルでは、2つマイクロストリップラインが平行又は一直線上に並べたもので模擬し、アンテナが128個のアンテナアレイを想定した大きさとした。
基板10については、基板材料をFR4の両面ガラスエポキシ基板とした。
高周波半導体装置20については、幅55μm、厚み20μm、長さ2000μmのマイクロストリップラインで模擬した。また、各サンプルにおける、高周波半導体装置20の出力は5Wである。
第1放熱部材41については、アンテナアレイのモデルと同じサイズ(幅20mm、奥行き10mm)のアルミ板からなるヒートシンクとした。
アンテナ50については、28GHzを共振周波数に持つパッチアンテナとした。
熱伝導シート60については、樹脂バインダとして2液性の付加反応型液状シリコーンを用い、繊維状熱伝導性充填剤として平均繊維長150μmのピッチ系炭素繊維15質量%含有するものとした。熱伝導シート60の、サイズは、幅5mm、奥行き5mm、厚み0.5mmであり、熱抵抗は40 Kmm2/Wである。
第2放熱部材42については、アンテナアレイのモデルと同じサイズの窒化アルミからなるヒートスプレッダとした。
ケース部材70については、樹脂製のケースを用いた。
【0091】
(2)アンテナアレイの各解析モデルに用いられるノイズ抑制熱伝導シートの構成については、以下のとおりである。
比較例1-1:空気をノイズ抑制熱伝導シートとした。つまり、ノイズ抑制熱伝導シート30を用いず、高周波半導体装置20と第1放熱部材41との間に500μmの間隔を設けた。
比較例1-2:磁性粉を85質量%含有する絶縁性のシートをノイズ抑制熱伝導シート30として用いた。シートの厚さは500μm、熱抵抗は300Kmm2/Wである。
比較例1-3:誘電体(比誘電率4)からなるシートをノイズ抑制熱伝導シート30とし用いた。シートの厚さは500μm、熱抵抗は200 Kmm2/Wである。
発明例1-1:繊維状熱伝導性充填剤(平均繊維長200μmのピッチ系炭素繊維)を6質量%、磁性粉を85質量%含有するシートをノイズ抑制熱伝導シート30として用いた。シートの厚さは500μm、熱抵抗は40 Kmm2/Wである。
【0092】
(クロストーク抑制効果の評価)
アンテナアレイの各解析モデルのクロストーク抑制効果の評価は、2つのマイクロストリップライン間の伝送特性を測定することで行った。一つの高周波半導体装置に見立てたマイクロストリップライン両端の端子をモデルの長手方向に沿って、それぞれポート1及びポート2とし、もう一方のものを同様にポート3及びポート4とし、各解析モデルにおいて予想される近端クロストーク(S31)の量を算出した。算出されたS31について、図3に示す。
【0093】
図3の結果から、本発明の範囲に含まれる発明例1-1の解析モデル及びノイズ抑制熱伝導シート30を用いない比較例1-1の解析モデルについて、良好なクロストーク抑制効果が確認された。
【0094】
(放熱性の評価)
アンテナアレイの各解析モデルの放熱性の評価は、温度25℃の条件で、定常状態後の予測される高周波半導体装置20の表面温度を算出した。算出された表面温度について、表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1の結果から、本発明の範囲に含まれる発明例1-1の解析モデルが、最も良好な放熱性を有することがわかった。一方、ノイズ抑制熱伝導シート30を用いない比較例1-1の解析モデルについては、高周波半導体装置20の表面温度が高くなっており、放熱性が得られていないことがわかった。
【0097】
<実施例2>
実施例2では、実施例1と同様の条件で、前記3次元電磁界シミュレータを用いて、図1に示すようなアンテナアレイの解析モデルを作製し、ノイズ抑制熱伝導シートの誘電率を変えた際のクロストーク抑制効果の評価を行った。
【0098】
(1)アンテナアレイの各解析モデルについては、ノイズ抑制熱伝導シートの条件以外は全て同様の条件とし、条件については実施例1に記載した通りである。
(2)アンテナアレイの各解析モデルに用いられるノイズ抑制熱伝導シートの誘電率及び透磁率については、以下の通りである。なお、サンプル1及び2は、ノイズ抑制熱伝導シートの誘電率以外の条件については、全て同じ条件とした。
サンプル2-1:誘電率10、透磁率5であるシートを、ノイズ抑制熱伝導シート30として用いた。
サンプル2-2:誘電率20、透磁率5であるシートを、ノイズ抑制熱伝導シート30として用いた。
【0099】
そして、クロストーク抑制効果についての評価は、電磁場解析ソフト(ANSYS、HFSS)によって、10GHz、20GHz、40GHz、60GHzでの各解析モデルにおいて予想される近端クロストーク(S31)の量を算出した。10GHz、20GHz、40GHz、60GHzにて算出されたS31について、図4(a)~(d)に示す。
【0100】
図4(a)~(d)の結果から、いずれの周波数帯においても、ノイズ抑制熱伝導シート30の誘電率が20のサンプル2-2の方が、より高いクロストーク抑制効果が得られることがわかった。
【0101】
<実施例3>
実施例3では、実施例1と同様の条件で、前記3次元電磁界シミュレータを用いて、図1に示すようなアンテナアレイの解析モデルを作製し、ノイズ抑制熱伝導シートの誘電率を変えた際のクロストーク抑制効果の評価を行った。
【0102】
(1)アンテナアレイの各解析モデルについては、ノイズ抑制熱伝導シートの条件以外は全て同様の条件とし、各条件については実施例1に記載した通りである。
(2)アンテナアレイの各解析モデルに用いられるノイズ抑制熱伝導シートの誘電率及び透磁率については、以下の通りである。なお、サンプル1及び2は、ノイズ抑制熱伝導シートの誘電率以外の条件については、全て同じ条件とした。
サンプル3-1:誘電率10、透磁率5であるシートを、ノイズ抑制熱伝導シート30として用いた。
サンプル3-2:誘電率10、透磁率1であるシートを、ノイズ抑制熱伝導シート30として用いた。
【0103】
そして、クロストーク抑制効果についての評価は、電磁場解析ソフト(ANSYS、HFSS)によって、28GHzでの各解析モデルにおいて予想される近端クロストーク(S31)の量を算出した。算出されたS31について、図5に示す。
【0104】
図5の結果から、ノイズ抑制熱伝導シート30の透磁率が高いサンプル3-1の方が、より高いクロストーク抑制効果が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造を提供することが可能となる。また、本発明によれば、優れた放熱性及びクロストーク抑制効果を有する5G通信用アンテナアレイ及びアンテナ構造へ用いるのに適した、ノイズ抑制熱伝導シート及び熱伝導シートを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0106】
1 5G通信用アンテナアレイ
10 基板
10a 基板の一方の面、10b 基板の他方の面
20 高周波半導体装置
30 ノイズ抑制熱伝導シート
41 第1放熱部材
42 第2放熱部材
50 アンテナ
60 熱伝導シート
70 ケース部材
P アンテナの配設ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5