(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】消臭用の静電紡糸用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20241204BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20241204BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20241204BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20241204BHJP
A61Q 15/00 20060101ALI20241204BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20241204BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/81
A61K8/41
A61K8/02
A61Q15/00
A61K8/35
A61K8/44
(21)【出願番号】P 2020144906
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩彦
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-101284(JP,A)
【文献】特開2018-177803(JP,A)
【文献】特開2015-224244(JP,A)
【文献】特開2000-327546(JP,A)
【文献】特開平02-207017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸装置から吐出して繊維堆積物を製造するために使用される組成物Xであって、
下記成分(a)~
(e)を含有し、
成分(b)の含有量が4質量%以上12質量%以下であり、
成分(d)の含有量が0.3質量%以上5質量%以下であり、
成分(e)の含有量が1質量%以上5質量%以下であり、
成分(d)と成分(b)の質量比(d)/(b)が0.01以上0.9以下である、
組成物X。
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b)
ポリビニルブチラール樹脂
(c)水
(d)ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン、アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
(e)ポリプロピレングリコール
【請求項2】
成分(c)の含有量が、6質量%以上24質量%以下である、請求項1に記載の組成物X。
【請求項3】
質量比(b)/(c)が0.22以上3以下である、請求項1又は2に記載の組成物X。
【請求項4】
質量比(a)/(c)が3以上10以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物X。
【請求項5】
質量比(d)/(c)が0.02以上1以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物X。
【請求項6】
下記成分(a)~
(e)を含有
し、
成分(b)の含有量が4質量%以上12質量%以下であり、
成分(d)の含有量が0.3質量%以上5質量%以下であり、
成分(e)の含有量が1質量%以上5質量%以下であり、
成分(d)と成分(b)の質量比(d)/(b)が0.01以上0.9以下である
組成物Xを人体表面に静電紡糸することにより、人体表面に繊維を含む被膜を形成する方法
。
(a)アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b)
ポリビニルブチラール樹脂
(c)水
(d)ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン、アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
(e)ポリプロピレングリコール
【請求項7】
人体表面が、皮膚、粘膜、及び創傷部から選ばれる請求項6に記載の被膜形成方法。
【請求項8】
人体表面が、腋下部、下肢部又は臀部の皮膚である請求項6に記載の被膜形成方法。
【請求項9】
組成物X中における成分(c)の含有量が、6質量%以上24質量%以下である、請求項6~8のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項10】
組成物X中における質量比(b)/(c)が0.22以上3以下である、請求項6~9のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項11】
組成物X中における質量比(a)/(c)が3以上10以下である、請求項6~10のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項12】
組成物X中における質量比(d)/(c)が0.02以上1以下である、請求項6~11のいずれか1項に記載の被膜形成方法。
【請求項13】
次の成分(B)
、(d)
及び(e)
(B)
ポリビニルブチラール樹脂
(d)ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
(e)ポリプロピレングリコール
を含有する繊維を含むシートであって、
成分(B)の含有量が40質量%以上98質量%以下であり、
成分(B)に対する成分(d)の質量比(d)/(B)が0.01以上0.9以下
であり、
坪量が0.05g/m
2以上50g/m
2以下
であり、
前記繊維の円相当直径が100nm以上15000nm以下である、
人体表面貼付用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電紡糸法により製造する繊維堆積物を利用した消臭技術に関する。
【背景技術】
【0002】
静電紡糸(エレクトロスピニング)によって繊維堆積物を形成する方法が種々知られているが、このような方法を消臭に利用した技術として、特許文献1には、水溶性高分子水溶液に消臭剤を分散させ、エレクトロスピニング法によって噴射することによって製造される、消臭剤を極細繊維の表面に露出又は極細繊維内に内包した極細繊維積層体が開示されている。一方、特許文献2には、揮発性のアルコール又はケトンと水を溶媒として、水不溶性ポリマーを溶解させて人の皮膚又は爪に直接静電紡糸することによって皮膚又は爪の表面に、密着性に優れる繊維を含む被膜を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-44282号公報
【文献】特開2018-177803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に記載の技術は、水のみを溶媒とし、水溶性ポリマーを用いているため、人の皮膚等の人体表面に繊維積層体を形成した場合には、乾燥に時間がかかるほか、発汗等によって人体から放出される水分で繊維積層体が溶解してしまうという問題があった。また、引用文献2に記載の技術は、消臭技術への応用について考慮されておらず、消臭剤を含有させるための条件については何も示唆されていない。
【0005】
したがって、本発明は静電紡糸法を用いて、消臭能を有し、人体表面に適用しても発汗等の水分により溶解しにくい、繊維堆積物を形成するための組成物及び方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、種々検討した結果、水不溶性ポリマーを用い、揮発性のアルコール又はケトンと水を溶媒とし、水不溶性消臭剤を一定比率で含有させ、この組成物を静電紡糸装置から人体表面に吐出して繊維を含む被膜を形成する、あるいは人体表面以外の場所に吐出して形成した繊維を含むシートを人体表面に適用ことによって、発汗等の水分により溶解しにくく、皮膚等への密着性が良好で消臭能を有する被膜又はシートを得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、静電紡糸装置から吐出して繊維堆積物を製造するために使用される組成物Xであって、下記成分(a)~(d)を含有し、成分(d)と成分(b)の質量比(d)/(b)が0.01以上0.9以下である、組成物Xを提供するものである。
(a) アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b) 成分(a)に可溶な水不溶性ポリマー
(c) 水
(d) ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン、アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
【0008】
また、本発明は、下記成分(a)~(d)を含有する組成物Xを人体表面に静電紡糸することにより、人体表面に繊維を含む被膜を形成する方法であって、成分(d)と成分(b)の質量比(d)/(b)が0.01以上0.9以下である、被膜形成方法を提供するものである。
(a) アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b) 成分(a)に可溶な水不溶性ポリマー
(c) 水
(d) ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン、アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
【0009】
さらに本発明は、下記成分(a)~(d)を含有する組成物Xを人体表面に静電紡糸することにより、人体表面に繊維を含む被膜を形成して、人体から放出される悪臭を消臭する方法であって、成分(d)と成分(b)の質量比(d)/(b)が0.01以上0.9以下である、消臭方法を提供するものである。
(a) アルコール及びケトンから選ばれる1種又は2種以上の揮発性物質
(b) 成分(a)に可溶な水不溶性ポリマー
(c) 水
(d) ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン、アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
【0010】
さらに本発明は、次の成分(B)及び(d)
(B)水不溶性ポリマー
(d)ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
を含有する繊維を含むシートであって、成分(B)に対する成分(d)の質量比(d)/(B)が0.01以上0.9以下、坪量が0.05g/m2以上50g/m2以下、前記繊維の円相当直径が100nm以上15000nm以下である、人体表面貼付用シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、静電紡糸法を用いて人体表面に消臭剤を含有する繊維を含む被膜を形成することにより、又は人体表面以外の場所に形成した繊維を含むシートを人体表面に適用することにより、人体表面への密着性が良好で消臭能を有する被膜又はシートによって持続的に消臭能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明で好適に用いられる静電紡糸装置の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明で好適に用いられる静電紡糸装置の別の実施形態の構成を示す概略図である。
【
図3】
図2に示す静電紡糸装置に備えられたカートリッジ部及び本体部の構造を示す概略図である。
【
図4】
図2に示す静電紡糸装置に備えられたカートリッジ部及び本体部の別の実施形態を示す概略図である。
【
図5】本発明で用いられる静電紡糸装置の更に別の実施形態の構成を示す概略図である。
【
図6】
図5に示す静電紡糸装置に備えられたカートリッジ部の構造を示す模式図である。
【
図7】静電紡糸装置を用いて静電紡糸法を行う様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔成分(a):揮発性物質〕
本発明の静電紡糸用の組成物Xに用いる成分(a)の揮発性物質は、アルコール及びケトンから選ばれる1種以上であり、液体の状態において揮発性を有する物質である。電界内に置かれた組成物Xを十分に帯電させた後、ノズル先端から平面に向かって吐出させ、成分(a)が蒸発していくと、組成物Xの電荷密度が過剰となり、クーロン反発によって更に微細化しながら成分(a)が更に蒸発していき、最終的に乾いた繊維堆積物を形成させることができる。この目的のために、揮発性物質はその蒸気圧が20℃において0.01kPa以上106.66kPa以下であることが好ましく、0.13kPa以上66.66kPa以下であることがより好ましく、0.67kPa以上40.00kPa以下であることが更に好ましく、1.33kPa以上40.00kPa以下であることがより一層好ましい。
【0014】
成分(a)の揮発性物質のうち、アルコールとしては、例えば一価の鎖式脂肪族アルコール、一価の環式脂肪族アルコール、一価の芳香族アルコールが好適に用いられる。一価の鎖式脂肪族アルコールとしては、炭素数1~6のものが好ましく、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ペンタノール等が挙げられる。一価の環式脂肪族アルコールとしては炭素数4~6のものが好ましく、一価の芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等がそれぞれ挙げられる。
【0015】
成分(a)の揮発性物質のうち、ケトンとしては、アルキル基の炭素数がそれぞれ1~4であるジアルキルケトンが好ましく、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0016】
成分(a)の揮発性物質は、1種又は2種以上を用いることができ、より好ましくはエタノール、イソプロピルアルコール及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくはエタノール及びブチルアルコールから選ばれる1種又は2種であり、形成される繊維の感触の観点から、更に好ましくはエタノールを含有する。
【0017】
組成物X中における成分(a)の含有量は、65質量%以上であることが好ましく、67質量%以上であることがより好ましく、68質量%以上であることが更に好ましく、69質量%以上であることが一層好ましい。また90質量%以下であることが好ましく、88質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以下であることが一層好ましい。組成物X中における成分(a)の含有量は、65質量%以上90質量%以下であることが好ましく、67質量%以上88質量%以下であることがより好ましく、68質量%以上85質量%以下であることが更に好ましく、69質量%以上80質量%以下であることが一層好ましい。この割合で組成物X中に成分(a)を含有させることで、静電紡糸法を行うときに成分(a)を十分に揮発させることができ、繊維堆積物を形成することができる。
【0018】
また、エタノールは、揮発性の高さと形成される繊維の感触の観点から、成分(a)の揮発性物質の全量に対して、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、65質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以上100質量%以下であることが一層好ましい。
【0019】
〔成分(b):水不溶性ポリマー〕
成分(b)である水不溶性ポリマーは、成分(a)の揮発性物質に溶解することが可能な物質である。ここで、溶解するとは20℃において分散状態にあり、その分散状態が目視で均一な状態、好ましくは目視で透明又は半透明な状態であることをいう。
【0020】
水不溶性ポリマーとしては、成分(a)の揮発性物質の性質に応じて適切なものが用いられる。具体的には、成分(a)に可溶で、水に対して不溶なポリマーであり、繊維形成能を有するものである。本明細書において「水溶性ポリマー」とは、1気圧、23℃の環境下において、ポリマー1gを秤量した後10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が水に溶解する性質を有するポリマーをいう。一方、本明細書において「水不溶性ポリマー」とは、1気圧、23℃の環境下において、ポリマー1g秤量した後10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬したポリマーの0.5g以上が溶解しない性質を有するポリマー、言い換えれば溶解量が0.5g未満の性質を有するポリマーをいう。
【0021】
水不溶性である繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば繊維堆積物の形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで繊維堆積物の形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性ポリマーから選ばれる1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性ポリマーのうち、繊維堆積物の形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することで繊維堆積物の形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリ(N-プロパノイルエチレンイミン)グラフト-ジメチルシロキサン/γ-アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ポリ乳酸(PLA)、ツエインから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0022】
これらの水不溶性ポリマーのうち、アルコール溶媒への分散性、繊維の感触の観点等から、部分鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂から選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、部分鹸化ポリビニルアルコール、完全鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール樹脂から選ばれる1種又は2種以上が更に好ましく、繊維堆積物を安定して効率的に形成することができる点、繊維堆積物の耐久性、形成性、人体表面等への追随性と耐久性との両立の点から、ポリビニルブチラール樹脂が更に好ましい。
【0023】
組成物X中の成分(b)の含有量は、3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、8質量%以上であることが更に好ましい。また25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましく、12質量%以下であることがより一層好ましい。組成物X中の成分(b)の含有量は、3質量%以上25質量%以下であることが好ましく、4質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以上12質量%以下であることがより一層好ましい。この割合で組成物X中に成分(b)を含有させることで、繊維堆積物を安定して効率的に形成することができる。
【0024】
組成物Xにおける成分(b)と成分(a)との含有量の比率(b)/(a)は、静電紡糸法を行うときにエタノール等の成分(a)を十分に揮発させ、繊維堆積物を安定して形成させる点から、0.02以上0.20以下が好ましく、0.03以上0.18以下がより好ましく、0.04以上0.16以下が更に好ましく、0.06以上0.14以下がより一層好ましい。なお、成分(a)がエタノールのみである場合にも、同様に質量比(b)/(a)は、0.02以上0.20以下が好ましく、0.03以上0.18以下がより好ましく、0.04以上0.16以下が更に好ましく、0.05以上0.14以下がより一層好ましい。
【0025】
〔成分(c):水〕
成分(c)は水である。水は、エタノール等の電離しない溶媒に比べて電離し荷電するため、組成物Xに導電性を付与することができる。そのため、静電紡糸により繊維堆積物が安定して形成される。また、水は、静電紡糸により形成される繊維堆積物の人体表面等への密着性の向上、耐久性の向上、外観に寄与する。これらの作用効果を得る点から、組成物X中の成分(c)の含有量は、好ましくは6質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上である。また、組成物X中の成分(c)の含有量は、好ましくは24質量%以下であり、より好ましくは22質量%以下であり、夏場や湿度の高い環境においても繊維堆積物の形成性を確保する観点からは20質量%以下であることが好ましい。組成物X中の水の含有量は6質量%以上24質量%以下が好ましく、8質量%以上22質量%以下がより好ましく、10質量%以上20質量%以下が更に好ましく、湿度の高い環境においても繊維堆積物を形成する観点から10質量%以上20質量%以下がより一層好ましい。
【0026】
また、十分な量の水溶性消臭成分と水不溶性ポリマーの両方を組成物X中で安定的に溶解させる観点から、成分(b)と成分(c)の質量比(b)/(c)は、0.22以上が好ましく、0.23以上がより好ましく、0.25以上が更に好ましい。また前記質量比(b)/(c)は3以下が好ましく、2以下がより好ましく、1以下が更に好ましい。前記質量比(b)/(c)の範囲は、0.22以上3以下が好ましく、0.23以上2以下がより好ましく、0.25以上1以下が更に好ましい。
【0027】
また、組成物Xを静電紡糸することにより安定して繊維堆積物を得る点、得られた繊維堆積物の密着性、耐久性の向上等の点から、成分(a)と成分(c)の質量比(a)/(c)は、3以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。前記質量比(a)/(c)は10以下が好ましく、9.0以下がより好ましく、8.0以下が更に好ましい。前記質量比(a)/(c)の範囲は、3以上10以下が好ましく、3以上9.0以下がより好ましく、3.5以上8.0以下が更に好ましい。なお、成分(a)がエタノールである場合の成分(a)と成分(c)の質量比(a)/(c)についても同様に、3以上10以下が好ましく、3以上9.0以下がより好ましく、3.5以上8.0以下が更に好ましい。
【0028】
〔成分(d):水溶性消臭成分〕
成分(d)は水溶性消臭成分であり、成分(b)と一体となって繊維形成能を有するものである。本明細書において「水溶性」とは、1気圧、23℃の環境下において、成分1gを秤量した後10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した成分の0.5g以上が水に溶解する性質をいう。
【0029】
成分(d)の水溶性消臭成分は、ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン、アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選ばれる。ポリヒドロキシアミンとしては、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(別名2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール)、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシエチル-1,3-プロパンジオール、4-アミノ-4-ヒドロキシプロピル-1,7-ヘプタンジオール、2-(N-エチル)アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(N-エチル)アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-(N-デシル)アミノ-1,3-プロパンジオール、2-(N-デシル)アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。ポリエチレンイミンとしては、分子量が300~100,000のものが挙げられ、分子量が1,000~35,000のものが好ましく、分子量が1,500~20,000のものがより好ましく、分子量が5,000~15,000のものが更に好ましい。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、2-アミノブタノール、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられる。塩基性アミノ酸又はその重合物としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチン、ポリリジン等が挙げられる。アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。
【0030】
組成物X中の成分(d)の含有量は、消臭効果の向上の観点から、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、1.0質量%以上であることがより一層好ましい。また、形成された被膜の安定性の観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが更に好ましく、3質量%以下であることがより一層好ましい。組成物X中の成分(d)の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上4質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより一層好ましい。
【0031】
成分(d)と成分(b)の質量比(d)/(b)は、消臭効果の向上の観点から、0.01以上であって、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.1以上であり、また、静電紡糸装置からの吐出のしやすさ、形成される繊維同士の接着を抑制して表面積の高い積層状態とすることができる観点から、0.9以下であって、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.6以下である。なお、この比率が低い方が、静電紡糸装置からの吐出が容易で、形成される繊維の質も良く、積層しやすくなる一方で、吐出量当たりの消臭効果は低下してしまう。このため、質量比(d)/(b)が低い場合には、人体表面等への吐出量を増やし、形成される被膜の坪量を増加させることで、吐出のしやすさと消臭効果を両立することができる。
【0032】
成分(d)と成分(c)の質量比(d)/(c)は、消臭効果の向上の観点から、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上であり、また、組成物Xの配合安定性の観点から、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、より一層好ましくは0.15以下である。
【0033】
〔任意成分〕
組成物X中には、上述した成分(a)~(d)のみが含まれていてもよく、あるいは成分(a)~(d)に加えて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばポリオール、pH調整剤、界面活性剤、液状油、成分(b)のポリマーの可塑剤、組成物Xの導電率制御剤、水溶性ポリマー、着色顔料、体質顔料等の粉体、染料、多孔質粉体などの水不溶性の消臭剤、香料、忌避剤、酸化防止剤、安定剤、抗菌剤、防腐剤、各種ビタミン等が挙げられる。組成物X中に他の成分が含まれる場合、当該他の成分の含有割合は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。
【0034】
・ポリオール
組成物Xには、消臭効果の向上、成分(d)の溶解の観点から、ポリオールを含有することが好ましい。ポリオールとしては、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等のグリセリン類;ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール等の糖アルコールなどが挙げられる。なかでも分子量3000以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0035】
組成物X中におけるポリオールの含有量は、消臭効果の向上、成分(d)の溶解の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、また、繊維の被膜を安定的に形成させる観点から10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0036】
・pH調整剤
組成物Xには、pH調整のため、pH調整剤を含有することができる。pH調整剤としては、有機酸、無機酸及びそれらの塩を使用でき、特に有機酸及びその塩が好ましい。有機酸としては、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、レブリン酸、酪酸、シュウ酸等が挙げられ、無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0037】
組成物X中には、着色顔料、体質顔料等の粉体を含有してもよいが、20℃で粒径が0.1μm以上の粉体の含有量は、均一な被膜の形成性、被膜の耐久性や密着性の観点から、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以下であり、不可避的に混入する場合を除き含有していないことが好ましい。
【0038】
〔粘度〕
組成物Xの粘度は、繊維堆積物を安定して形成する点、静電紡糸時の紡糸性の観点、繊維堆積物の耐久性を向上する観点と、繊維堆積物の感触を向上する観点から、25℃で2~3000mPa・sが好ましい。当該粘度は、10mPa・s以上が好ましく、15mPa・s以上がより好ましく、20mPa・s以上が更に好ましく、30mPa・s以上がより一層好ましい。また、当該粘度は1500mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がより好ましく、800mPa・s以下が更に好ましい。粘度の範囲は2mPa・s以上3000mPa・s以下が好ましく、10mPa・s以上1500mPa・s以下がより好ましく、15mPa・s以上1000mPa・s以下が更に好ましく、15mPa・s以上800mPa・s以下がより一層好ましい。組成物Xの粘度は、E型粘度計を用いて25℃で測定される。E型粘度計としては例えば東京計器株式会社製のE型粘度計(VISCONIC EMD)を用いることができる。その場合の測定条件は、25℃、コーンプレートのローターNo.43、回転数は粘度に応じた適切な回転数が選択され、500mPa・s以上の粘度は5rpm、150mPa・s以上500mPa・s未満の粘度は10rpm、150mPa・s未満の粘度は20rpmとする。
【0039】
〔繊維堆積物の形成、消臭の対象〕
本発明において、繊維堆積物は、人体表面に形成させてもよく(この場合、人体表面を覆う繊維を含む被膜となる)、人体表面以外の場所に形成させてもよい。人体表面以外の場所としては、形成後、剥離して人体表面貼付用シートとして利用するために、後述のように平面を有する基材層に形成してもよいし、また、形成後、剥離することなく利用するために、以下の対象物に形成してもよい。以下、これらをまとめて「形成対象表面」ということがある。
・肌着、下着、靴下、ストッキングなどの衣類
・汗わきパッド、生理用品、尿とりパッドなどの吸収物品
・靴のインソール(中底)、中敷き(インナーソール)
・マスク
【0040】
形成対象表面が人体表面である場合、前記組成物Xを、人体表面に直接静電紡糸して人体表面に繊維を含む被膜を形成する。より具体的には、前記組成物Xを、静電紡糸装置、好ましくは人の手で把持可能な静電紡糸装置、あるいは、人の手で把持可能なスプレーノズルを備える操作部を有する静電紡糸装置を用いて、人体表面に繊維で形成された被膜を形成する。本発明においては、形成された被膜中に成分(d)の水溶性消臭成分を含有するため、人体表面から放出される悪臭を消臭することができる。成分(d)は、人体表面からの発汗等の水分中に被膜から徐放されることによって消臭効果を発揮し、この消臭効果を維持することができる。
【0041】
本発明は人体表面から放出された悪臭原因物質を、被膜中に含まれる成分(d)の水溶性消臭成分と化学結合させることによって、又は成分(d)の水溶性消臭成分で中和することによって、元の化合物とは異なる物質に変換することによって、消臭するものである。このように、本発明は、専ら人体表面から放出された後の悪臭原因物質に対する作用によって消臭するものであって、人体に対して何ら作用を及ぼすものではない。ここで、人体表面としては、皮膚、粘膜、創傷部等が挙げられ、なかでも皮膚が好ましく、腋下部、下肢部、臀部がより好ましい。
【0042】
本発明で消臭の対象とする悪臭としては、汗臭、腋臭、加齢臭、腫瘍や褥瘡から生じる臭気等が挙げられる。また、悪臭原因物質のうち、成分(d)によって中和することよって消臭できる化合物として、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、3-ヒドロキシ-3-メチルヘキサン酸、3-メチル-2-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸、ノナン酸等の酸性悪臭物質、アンモニア、トリメチルアミン等の塩基性悪臭物質が挙げられる。また、悪臭原因物質のうち、成分(d)と化学結合することによって消臭できる化合物として、ノナナール、ノネナール等のアルデヒド系悪臭物質、アセトイン、ジアセチル等のケトン系悪臭物質が挙げられる。
【0043】
〔静電紡糸装置〕
組成物Xは静電紡糸法によって、繊維堆積物(被膜)を形成しようとする人体表面の部位その他の形成対象表面に直接吐出される。静電紡糸法は、静電紡糸装置を用い、形成対象表面に組成物Xを静電紡糸する工程を含む。静電紡糸装置は、基本的に、前記組成物を収容する容器と、前記組成物を吐出するノズルと、前記容器中に収容されている前記組成物を前記ノズルに供給する供給装置と、前記ノズルに電圧を印加する電源とを有する。
【0044】
図1には、本発明で好適に用いられる静電紡糸装置の構成を表す概略図が示されている。同図に示す静電紡糸装置10は、低電圧電源11を備えている。低電圧電源11は、数Vから十数Vの電圧を発生させ得るものである。静電紡糸装置10の可搬性を高める目的で、低電圧電源11は1個又は2個以上の電池からなることが好ましい。また、低電圧電源11として電池を用いることで、必要に応じ取り替えを容易に行えるという利点もある。電池に代えて、ACアダプタ等を低電圧電源11として用いることもできる。
【0045】
静電紡糸装置10は、高電圧電源12も備えている。高電圧電源12は、低電圧電源11と接続されており、低電圧電源11で発生した電圧を高電圧に昇圧する電気回路(図示せず)を備えている。昇圧電気回路は一般にトランス、キャパシタ及び半導体素子等から構成されている。
【0046】
静電紡糸装置10は、補助的電気回路13を更に備えている。補助的電気回路13は、上述した低電圧電源11と高電圧電源12との間に介在し、低電圧電源11の電圧を調整して高電圧電源12を安定的に動作させる機能を有する。更に補助的電気回路13は、後述するマイクロギヤポンプ15Aに備えられているモータの回転数を制御する機能を有する。モータの回転数を制御することで、後述する組成物Xの容器15からマイクロギヤポンプ15Aへの組成物Xの供給量が制御される。補助的電気回路13と低電圧電源11との間にはスイッチSWが取り付けられており、スイッチSWの入り切りによって、静電紡糸装置10を運転/停止できるようになっている。
【0047】
静電紡糸装置10は、ノズル15を更に備えている。ノズル15は、金属を初めとする各種の導電体や、導電体の周囲に備えるプラスチック、ゴム、セラミックなどの非導電体からなり、その先端から組成物Xの吐出が可能な形状をしている。ノズル15内には組成物Xが流通する微小空間が、該ノズル15の長手方向に沿って形成されている。この微小空間の横断面の大きさは、直径で表して100μm以上2000μm以下であることが好ましく、300μm以上1400μm以下であることがより好ましい。また同様の観点から、ノズル15の流路長さは、2mm以上25mm以下であることが好ましく、4mm以上15mm以下であることが更に好ましい。
【0048】
ノズル15は、管路15Bを介してマイクロギヤポンプ15Aと連通している。管路15Bは導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。また、ノズル15は、高電圧電源12と電気的に接続されている。これによって、ノズル15に高電圧を印加することが可能になっている。この場合、ノズル15に人体が直接触れた場合に過大な電流が流れることを防止するために、ノズル15と高電圧電源12とは、電流制限抵抗19を介して電気的に接続されている。ノズル15と高電圧電源12とは、電極等の導電体(図示せず)を介して電気的に接続されていてもよい。
【0049】
管路15Bを介してノズル15と連通しているマイクロギヤポンプ15Aは、容器14中に収容されている組成物Xをノズル15に供給する供給装置として機能する。マイクロギヤポンプ15Aは、低電圧電源11から電源の供給を受けて動作する。また、マイクロギヤポンプ15Aは、補助的電気回路13による制御を受けて所定量の組成物Xをノズル15に供給するように構成されている。
【0050】
マイクロギヤポンプ15Aには、フレキシブル管路15Cを介して容器14が接続されている。容器14中には組成物Xが収容されている。容器14は、カートリッジ式の交換可能な形態をしていることが好ましい。このカートリッジは、詰替え用カートリッジであることがより好ましい。このカートリッジは、好ましくは詰替え用カートリッジに、前記組成物Xが充填される。
【0051】
静電紡糸装置10のハンドリング性と、組成物Xの良好な吐出とを両立させる観点から、収容部15の容積は、1mL以上が好ましく、1.5mL以上がより好ましく、3mL以上が更に好ましく、また、25mL以下が好ましく、20mL以下がより好ましく、15mL以下が更に好ましい。具体的には、収容部15の容積は、1mL以上25mL以下が好ましく、1.5mL以上20mL以下がより好ましく、3mL以上15mL以下が更に好ましい。容器15(収容部15ともいう)の容積がこのような範囲となっていることによって、該容器15がカートリッジ式の交換可能な形態となっている場合に、小型でより簡便に交換可能であるという利点もある。
【0052】
次に、本発明で用いられる静電紡糸装置の別の実施形態を
図2ないし
図6を参照しながら説明する。
図2ないし
図6に示す静電紡糸装置10は、カートリッジ部と本体部とを備えている点で
図1に示す静電紡糸装置と異なる。
図2ないし
図6に示す実施形態に関して、特に説明しない点については、
図1に示す実施形態についての説明が適宜適用される。また
図2ないし
図6において、
図1と同じ部材には同じ符号を付した。
【0053】
図2及び
図3に示す実施形態の静電紡糸装置10について説明する。
図2及び
図3に示す実施形態の静電紡糸装置10は、大別してカートリッジ部10Aと本体部10Bとを備えている。カートリッジ部10Aは、収容部14、ガスケット141、プランジャ142及びノズル15を備えている。本体部10Bは、低電圧電源11、高電圧電源12、補助的電気回路13、直流モータ160及びモータ減速機161を備えた動力源16、及びネジシャフト171及び送りネジ172を備えた動力伝達部17を備えている。
【0054】
カートリッジ部10Aは、本体部10Bから着脱可能になっている。このことに起因して、本実施形態の静電紡糸装置10によれば、組成物Xの詰め替えを容易に行うことができ、かつノズル15の清潔さを保つことができる。カートリッジ部10Aが本体部10Bから着脱可能な形態としては、例えばプランジャ142及び送りネジ172に嵌合部を形成し嵌合させる方法や、プランジャ142及び送りネジ172に螺条を形成し螺合させる方法が挙げられるが、これらの方法に限られない。
【0055】
図3に示すとおり、カートリッジ部10Aは、組成物Xを収容可能な筒状の収容部14を備えている。収容部14の一端は開口部を形成している。収容部14の他端にはノズル15が設けられている。収容部14の内部にはガスケット141が配されている。ガスケット141は収容部14の横断面の形状と同一の輪郭を有する形状となっている。それによってガスケット141は収容部14の内面と液密に接触しつつ、収容部14の内部を摺動可能になっている。ガスケット141はプランジャ142の前端と結合している。プランジャ142は収容部14の開口部を越えて収容部14の外部へ延出している。プランジャ142の後端は送りネジ172と係合している。収容部14は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0056】
本実施形態におけるノズル15は、収容部14と連通している。ノズル15は、高電圧電源12と電気的に接続されている。これによって、ノズル15に高電圧を印加することが可能になっている。この場合、ノズル15に人体が直接触れた場合に過大な電流が流れることを防止するために、ノズル15と高電圧電源12とは、電流制限抵抗器19を介して電気的に接続されている。ノズル15と高電圧電源12とは、電極等の導電体(図示せず)を介して電気的に接続されていてもよい。
【0057】
本体部10Bは、低電圧電源11を備えている。低電圧電源11は、数Vから十数Vの電圧を発生させ得るものである。静電紡糸装置10の可搬性を高める目的で、低電圧電源11は1個又は2個以上の電池からなることが好ましい。また、低電圧電源11として電池を用いることで、必要に応じ取り替えを容易に行えるという利点もある。電池に代えて、ACアダプタ等を低電圧電源11として用いることもできる。
【0058】
本体部10Bは、高電圧電源12を更に備えている。高電圧電源12は、低電圧電源11と接続されており、低電圧電源11で発生した電圧を高電圧に昇圧する電気回路(図示せず)を備えている。昇圧電気回路は一般にトランス、キャパシタ及び半導体素子等から構成されている。
【0059】
本体部10Bは、補助的電気回路13を更に備えている。補助的電気回路13は、上述した低電圧電源11と高電圧電源12との間に介在し、低電圧電源11の電圧を調整して高電圧電源12を安定的に動作させる機能を有する。更に補助的電気回路13は、後述する動力源16に備えられているモータの回転数を制御する機能を有する。モータの回転数を制御することで、組成物Xが収容されている収容部14から組成物Xを吐出するノズル15への組成物Xの供給量が制御される。補助的電気回路13と低電圧電源11との間にはスイッチSWが取り付けられており、スイッチSWの入り切りによって、静電紡糸装置10を運転/停止できるようになっている。
【0060】
本体部10Bは、動力源16及び動力伝達部17を更に備えている。動力源16は、収容部14中に収容されている組成物Xをノズル15から吐出させる動力を発生させるものである。動力源16は、低電圧電源11から電源の供給を受け、補助的電気回路13による制御を受けて動作する。動力源16から発生した動力は、動力伝達部17によってカートリッジ部10Aに伝達され、所定量の組成物Xを収容部14からノズル15に供給できるように構成されている。
【0061】
本体部10Bは、直流モータ160及びモータ減速機161を備えた動力源16と、ネジシャフト171及び送りネジ172を備えた動力伝達部17とを備えている。
【0062】
直流モータ160は、直流モータ160の回転動力を減じて出力するモータ減速機161に連結されている。モータ減速機161は、回転可能なネジシャフト171に連結されており、直流モータ160から発生した回転動力がモータ減速機161を介してネジシャフト171へ伝達され、ネジシャフト171が回転する構造となっている。ネジシャフト171に伝達された回転動力は、ネジシャフト171に連結された送りネジ172によって、送りネジ172の位置を長手方向Xに沿って移動させる直線的な動力に変換される。直線運動する送りネジ172はプランジャ142及びガスケット141を収容部14へ押し込み、それによって、収容部14内に収容されている組成物Xをノズル15を通じて外部へ向けて噴射できるようにする。
【0063】
図3では、送りネジ172とプランジャ142とが分離し、プランジャ142とガスケット141とが一体となった構造となっているが、送りネジ172とプランジャ142とが一体となっており、プランジャ142とガスケット141とが分離した構造となっていてもよく、送りネジ172とガスケット141とが直接接触し、ガスケット141に直線的な動力を伝達する構造となっていてもよい。
【0064】
本発明に用いられる組成物Xが導電性であることに起因して、ノズル15に印加された高電圧が収容部14内に収容されている組成物Xや動力伝達部17を介して動力源16に印加されてしまい、静電紡糸装置10がダメージを受けたり、電荷が漏えいしてスプレーされないことがある。そこで、静電紡糸装置10の使用時における絶縁性を担保し、静電紡糸装置10がダメージを受けないようにする観点、及び組成物Xを介した電流の漏えいを防いで紡糸の安定性を担保する観点から、動力伝達部17は動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していることが好ましい。これによって、ノズル15に印加された高電圧が意図せず動力源16に印加されることを効果的に防止できる。動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁する方法としては、例えばプラスチックやセラミックなどの非導電体からなるネジシャフト171や送りネジ172を動力伝達部17として使用する方法が挙げられる。動力伝達部17が動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していれば、ガスケット141やプランジャ142は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0065】
図4に示す実施形態の静電紡糸装置10について説明する。
図4には、本発明で好適に用いられる静電紡糸装置10の別の実施形態が示されている。
図4に示す実施形態に関し、特に説明しない点については、
図2及び
図3に示す実施形態に関する説明が適宜適用される。また、
図4において、
図2及び
図3と同じ部材には同じ符号が付してある。
【0066】
図4に示すとおり、カートリッジ部10Aは収容部14、ガスケット141及びノズル15を備えている。一方、本体部10Bは、リニアステップモータ162を備えた動力源16と、ネジシャフト171を備えた動力伝達部17とを備えている。これらの構成を有することによって、収容部14からノズル15への組成物Xの供給量を精密に制御できるとともに、本体部10Bの小型化に起因して静電紡糸装置10の可搬性をより高めることができる。
【0067】
リニアステップモータ162は、その内部にメネジを有するロータ(図示せず)を有す
る。ロータのメネジにはオネジとなっているネジシャフト171が螺合している。リニアステップモータ162は本体部10Bのフレーム(図示せず)に固定されている。リニアステップモータ162内のロータが回転することによって、ロータのメネジに螺合されているネジシャフト171が長手方向Xに沿って直線的に移動する。直線移動するネジシャフト171は、ネジシャフト171の一端と接触しているガスケット141を収容部14内に押し込み、それによって、収容部14内に収容されている組成物Xをノズル15を通じて外部へ向けて噴射できるようにする。
【0068】
図5に示す実施形態の静電紡糸装置10について説明する。
図5には、静電紡糸装置の更に別の実施形態が示されている。同図に示す静電紡糸装置10は、大別してカートリッジ部10Aと本体部10Bとを備えている。カートリッジ部10Aは、収容部14、ノズル15及びポンプ部15Pを備えている。本体部10Bは、低電圧電源11、高電圧電源12、補助的電気回路13、動力源16及び動力伝達部17を備えている。
【0069】
カートリッジ部10Aは、本体部10Bから着脱可能になっている。このことに起因して、本実施形態の静電紡糸装置10によれば、組成物Xの詰め替えを容易に行うことができ、かつノズル15の清潔さを保つことができる。カートリッジ部10Aが本体部10Bから着脱可能な形態としては、例えば後述する動力伝達部17に嵌合部を形成し、ポンプ部15Pと動力源16とを動力伝達部17を介して嵌合させる方法が挙げられるが、これらの方法に限られない。
【0070】
収容部14は組成物Xを収容可能なものであり、カートリッジ部10Aから着脱可能になっている。このことに起因して、本実施形態の静電紡糸装置10によれば、組成物Xの詰め替えをより容易に行うことができる。収容部14がカートリッジ部10Aから着脱可能な形態としては、例えば収容部14及びポンプ部15Pに嵌合部を形成し嵌合させる方法が挙げられるが、これらの方法に限られない。
【0071】
図6に示す実施形態のカートリッジ部10Aについて説明する。
図6には、本実施形態におけるカートリッジ部10Aが示されている。カートリッジ部10Aは、袋状の収容部14を備えている。収容部14はポリエチレン等の液不透過性かつ可撓性の材料からなる2枚のシートを重ね合わせ、それらの外縁を液密に接合することによって平坦な袋状に形成されている。これによって、収容部14は変形可能な構造を有し、かつ収容部14の内部に組成物Xを収容することができる。収容部14はその外縁の一部に、ポンプ部15Pへ組成物Xを供給するために、ポンプ部15Pと連通可能な開口部14aを有している。収容部14は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0072】
本実施形態におけるノズル15はポンプ部15Pと連通している。また、ノズル15は、高電圧電源12と電気的に接続されている。これによって、ノズル15に高電圧を印加することが可能になっている。この場合、ノズル15に人体が直接触れた場合に過大な電流が流れることを防止するために、ノズル15と高電圧電源12とは、電流制限抵抗器19を介して電気的に接続されている。ノズル15と高電圧電源12とは、電極等の導電体(図示せず)を介して電気的に接続されていてもよい。ノズル15は、ポンプ部15Pとの間を連通する管路を更に有していてもよい。管路は導電体でもよく、あるいは非導電体でもよい。
【0073】
カートリッジ部10Aは、ポンプ部15Pを備えている。ポンプ部15Pは、収容部14とノズル15との間に介在し、それぞれと連通している。ポンプ部15Pは、収容部14の開口部14aとの接続部15aを有している。これによって、収容部14とポンプ部15Pとの間の流路の液密性を保ちつつ、収容部14中に収容されている組成物Xをノズル15に供給することができる。ポンプ部15Pは、後述する動力源16の動力が動力伝達部17を介して伝達されることによって駆動する。
図6に示すポンプ部15Pは、動力源16の動力を動力伝達部17を介してポンプ部15P内のギヤ等の内部機構(図示せず)に伝達するための回転可能な動力伝達凹部15bが更に設けられている。ポンプ部15Pとしては、組成物Xの吐出定量性向上の観点、及び静電紡糸装置10の可搬性向上の観点から、ギヤポンプ等が用いられる。ギヤポンプとしては、例えば
図1に示す実施形態において説明したマイクロギヤポンプ等を用いることができる。
【0074】
収容部14とポンプ部15Pとの間の流路の液密性が保たれていることに起因して、ポンプ部15Pの動作により収容部14からノズル15へ組成物Xを吐出すると、収容部14内の組成物Xはノズル15への供給に伴って減少し、収容部14内の内圧が低下する。これによって、可撓性を有し変形可能な材料からなる収容部14は、内圧に応じてしぼむように変形する。
【0075】
本体部10Bは、低電圧電源11を備えている。低電圧電源11は、数Vから十数Vの電圧を発生させ得るものである。静電紡糸装置10の可搬性を高める目的で、低電圧電源11は1個又は2個以上の電池からなることが好ましい。また、低電圧電源11として電池を用いることで、必要に応じ取り替えを容易に行えるという利点もある。電池に代えて、ACアダプタ等を低電圧電源11として用いることもできる。
【0076】
本体部10Bは、高電圧電源12を備えている。高電圧電源12は、低電圧電源11と接続されており、低電圧電源11で発生した電圧を高電圧に昇圧する電気回路(図示せず)を備えている。昇圧電気回路は一般にトランス、キャパシタ及び半導体素子等から構成されている。
【0077】
本体部10Bは、補助的電気回路13を備えている。補助的電気回路13は、上述した低電圧電源11と高電圧電源12との間に介在し、低電圧電源11の電圧を調整して高電圧電源12を安定的に動作させる機能を有する。更に補助的電気回路13は、後述する動力源16に備えられているモータの回転数を制御する機能を有する。モータの回転数を制御することで、組成物Xが収容されている収容部14からポンプ部15Pを介して組成物Xを吐出するノズル15への組成物Xの供給量が制御される。補助的電気回路13と低電圧電源11との間にはスイッチSWが取り付けられており、スイッチSWの入り切りによって、静電紡糸装置10を運転/停止できるようになっている。
【0078】
本体部10Bは、動力源16及び動力伝達部17を更に備えている。本実施形態の動力源17は、収容部14中に収容されている組成物Xを、ポンプ部15Pを介してノズル15から吐出させる動力を発生させるものである。本発明における動力源16にはモータ等が設けられており、低電圧電源11から電源の供給を受け、補助的電気回路13による制御を受けて動作し、動力を発生させる。動力源16から発生した動力は、該動力をポンプ部15Pに伝達する動力伝達部17によって、所定量の組成物Xを収容部14からポンプ部15Pを介してノズル15に供給できるように構成されている。
【0079】
本体部10Bに備えられた動力伝達部17は、モータ等の動力源16から発生した動力をポンプ部15Pに伝達するものである。これによって、収容部14中に収容されている組成物Xをポンプ部15Pを介してノズル15に供給することができる。動力源16からの動力をポンプ部15Pに伝達する方法は特に制限はないが、例えばシャフトからなる動力伝達部17の先端に凸部構造(図示せず)を形成し、該凸部構造と、ポンプ部15Pに設けられた動力伝達凹部15bとを嵌合させることによって、動力源16内のモータの回転動力をポンプ部15Pに伝達させることができる。
【0080】
本発明に用いられる組成物Xが導電性であることに起因して、ノズル15に印加された高電圧がポンプ部15Pや動力伝達部17を介して動力源16に印加されてしまい、静電紡糸装置10がダメージを受けたり、電荷が漏えいしてスプレーされないことがある。そこで、静電紡糸装置10の使用時における絶縁性を担保し、静電紡糸装置10がダメージを受けないようにする観点、及び組成物Xを介した電流の漏えいを防いで紡糸の安定性を担保する観点から、動力伝達部17は動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していることが好ましい。これによって、ノズル15に印加された高電圧が意図せず動力源16に印加されることを効果的に防止できる。動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁する方法としては、例えばプラスチックやセラミックなどの非導電体からなる部材を動力伝達部17として使用する方法が挙げられる。動力伝達部17が動力源16とカートリッジ部10Aとを電気的に絶縁していれば、他の構成材料は導電体であってもよく、非導電体であってもよい。
【0081】
以上の構成を有することによって、収容部14からノズル15への組成物Xの供給量を精密に制御できるとともに、本体部10Bの小型化に起因して静電紡糸装置10の可搬性をより高めることができる。
【0082】
図7を用いて静電紡糸装置の使用態様について説明する。
図1ないし
図6に示す実施形態に示す構成を有する静電紡糸装置10は、例えば
図7に示すように使用することができる。
図7には、片手で把持可能な寸法を有するハンディタイプの静電紡糸装置10が示されている。同図に示す静電紡糸装置10は、
図1、
図2又は
図5に示す構成図の部材のすべてが円筒形の筐体20内に収容されている。なお、
図7に示す筐体20は円筒形であるが、片手で把持可能な寸法を有しており、かつ
図1に示す構成部材のすべてが収容されていれば筐体20の形状は特に制限されず、楕円筒型や正多角筒形等の筒形であってもよい。「片手で把持可能な寸法」とは、静電紡糸装置10が収容された筐体20の重量が2kg以下であることが好ましく、筐体20の長手方向における最大長は40cm以下であることが好ましく、筐体20の体積は3000cm
3以下であることが好ましい。筐体20の長手方向の一端10aには、ノズル(図示せず)が配置されている。ノズルは、その組成物Xの吹き出し方向を、筐体20の縦方向と一致させて、肌側に向かい凸状になるように該筐体20に配置されている。ノズル先端が筐体20の縦方向において肌に向かい凸状になるように配置されていることによって、筐体に組成物Xが付着しにくくなり、安定的に被膜を形成することができる。
【0083】
〔人体表面への被膜形成〕
次に、人体表面への被膜の形成について説明する。
静電紡糸装置10を動作させるときには、使用者、すなわち静電紡糸によって被膜を形成しようとする人体表面の部位上に被膜を形成する者が該装置10を手で把持し、ノズル(図示せず)が配置されている該装置10の一端10aを、静電紡糸を行う適用部位に向ける。
図7では、使用者の前腕部内側に静電紡糸装置10の一端10aを向けている状態が示されている。この状態下に、装置10のスイッチをオンにして静電紡糸法を行う。装置10に電源が入ることで、ノズルと皮膚との間には電界が生じる。
図7に示す実施形態では、ノズルに正の高電圧が印加され、皮膚が負極となる。ノズルと皮膚との間に電界が生じると、ノズル先端部の組成物Xは、静電誘導によって分極して先端部分がコーン状になり、コーン先端から帯電した組成物Xの液滴が電界に沿って、皮膚に向かって空中(大気中)に吐出される。空間(大気中)に吐出されかつ帯電した組成物Xから溶媒である成分(a)が蒸発していくと、組成物X表面の電荷密度が過剰となり、クーロン反発力によって微細化を繰り返しながら空間に広がり、皮膚に到達する。この場合、組成物Xの粘度を適切に調整することで、吐出された該組成物を液滴の状態で適用部位に到達させることができる。また、空間に吐出されている間に、溶媒である揮発性物質を液滴から揮発させ、溶質である被膜形成能を有するポリマーを固化させつつ、電位差によって伸長変形させながら繊維を形成し、その繊維を適用部位に堆積させることができる。例えば、組成物Xの粘度を高めると、該組成物を繊維の形態で適用部位に堆積させやすい。これによって、繊維堆積物である多孔性被膜が適用部位の表面に形成される。このような繊維堆積物である多孔性被膜は、ノズルと皮膚との間の距離や、ノズルに印加する電圧を調整することでも形成することが可能である。
【0084】
静電紡糸法を行っている間は、ノズルと人体表面との間に高い電位差が生じている。しかし、インピーダンスが非常に大きいので、人体を流れる電流は極めて微小である。例えば通常の生活下において生じる静電気によって人体に流れる電流よりも、静電紡糸法を行っている間に人体に流れる電流の方が数桁小さいことを、本発明者は確認している。
【0085】
静電紡糸法によって繊維堆積物を形成する場合、該繊維の太さは、円相当直径で表した場合、100nm以上であることが好ましく、500nm以上であることが更に好ましい。また15000nm以下であることが好ましく、10000nm以下であることが更に好ましい。繊維の太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(繊維の塊、繊維の交差部分、液滴)を除き、繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0086】
静電紡糸法によって形成された繊維堆積物である被膜は、構成する繊維の表面側に、水分を有している。繊維の表面側とは、表面、あるいは表面の一部、繊維間を意味する。組成物X中における成分(b)成分(c)の含有量を変化させることによって、人体表面に形成される被膜の密着性や透明性を向上させることができる。また、静電紡糸法によって形成された繊維堆積物である被膜は、組成物Xに由来する成分を含んでもよい。
【0087】
汗や皮脂などを含む皮膚の場合、繊維中に水分や油分が複合されることで、繊維が膨潤しあるいは可塑化しやすくなる。例えば、同じ組成物を、水分や油分を含まない金属表面と、水分や油分を含む肌表面、例えば手のひらに対して5秒間静電紡糸して薄膜を作製した場合、繊維径の変化を経時観察すると、肌表面に静電紡糸された繊維は、金属表面に静電紡糸された繊維よりも、膨潤により経時で大径化する。このように、静電紡糸により形成された、繊維を含む被膜が、皮膚中の油分や水分で可塑化して一層柔らかくなることで、繊維そのものの皮膚のキメへの追従性が向上し、また繊維から水分がブリードアウトして、繊維表面や繊維と繊維の間に存在することで、繊維を含む被膜が半透明又は透明化し、見た目の自然さが付与される。被膜形成対象物が汗や皮脂などを含む皮膚の場合、膨潤による繊維径は以下の(1)式を満たす。
(皮膚に対して紡糸し、30秒後の繊維径)>(金属板に対して紡糸し、30秒後の繊維径)・・・(1)
【0088】
組成物X中の成分(a)、成分(b)、成分(c)及び成分(d)の含有量は以下のようにして測定する。揮発性物質である成分(a)は形成された被膜に存在せず、又は存在しても揮発するため、形成された被膜には成分(b)、成分(c)及び成分(d)のみが含有される状態で測定し、その含有量は以下のようにして測定する。
【0089】
<組成物X中の成分(b)、成分(c)及び成分(d)の含有量の測定法>
溶液状態にて液体クロマトグラフ(HPLC)による分離同定や、赤外分光光度計(IR)にて同定する方法がある。液体クロマトグラフでは、分子量の大きい成分から溶出するため、分子量の予測や、成分の溶出位置によって組成を同定することもできる。IR分析では個々の吸収体より官能基を帰属し同定することも可能であり、一般的には市販添加剤の標準チャートと成分のIRチャートを比較することで同定することが可能である。
【0090】
<形成された被膜における成分(b)、成分(c)及び成分(d)の含有量の測定法>
被膜を溶解可能な溶媒の探索を行い、溶媒に被膜を溶解後、液体クロマトグラフ(HPLC)による分離同定や、赤外分光光度計(IR)にて同定する。
【0091】
被膜を形成する前記繊維は、製造の原理上は無限長の連続繊維となるが、少なくとも繊維の太さの100倍以上の長さを有することが好ましい。本明細書においては、繊維の太さの100倍以上の長さを有する繊維のことを「連続繊維」と定義する。そして、静電紡糸法によって製造される被膜は、連続繊維の堆積物である多孔性の不連続被膜であることが好ましい。このような形態の被膜は、集合体として1枚のシートとして扱えるだけでなく、非常に柔らかい特徴を持っており、それに剪断力が加わってもばらばらになりにくく、身体の動きへの追従性に優れるという利点がある。また、被膜の完全除去が容易であるという利点もある。これに対して、細孔を有しない連続被膜は剥離が容易でなく、また汗の放散性が低いので、皮膚等に蒸れが生じる虞がある。また、粒子の集合体からなる多孔性の不連続被膜は、被膜を完全に除去するために、被膜全体に摩擦をかける等の動作が必要となるなど、皮膚等へのダメージなく完全除去することは困難である。
【0092】
静電紡糸装置10を用いた静電紡糸工程において、静電紡糸され繊維状となった組成物Xは、成分(a)が蒸発しながら、成分(b)、成分(c)及び成分(d)が帯電した状態で皮膚に直接到達する。先に述べたとおり皮膚等も帯電しているので、繊維は静電力によって一枚の膜の形態で皮膚に密着する。皮膚の表面には肌理等の微細な凹凸が形成されているので、その凹凸によるアンカー効果と相まって繊維は一枚の膜の形態で皮膚の表面に一層密着する。このようにして静電紡糸が完了したら、静電紡糸装置10の電源を切る。これによってノズルと皮膚との間の電界が消失し、皮膚の表面は電荷が固定化される。その結果、一枚の膜の形態の被膜の密着性が一層発現し、着用中に被膜の際からの剥離がし難く、使用中の耐久性が向上する。また、被膜を構成する繊維が水分を含有しているので、被膜に違和感がなく、優れた保湿効果や、被膜の柔軟化効果が得られ、皮膚に被膜を十分に密着させることができる。この理由としては、水分が繊維の表面や繊維の間に存在することで、可塑効果により繊維自体が柔らかくなり微細な凹凸面への追従性が高まることや、水分が繊維表面にブリードアウトすることで繊維と皮膚との間を液体架橋するためと考えられる。更に、被膜を構成する繊維の繊維間又は繊維の表面に水分が存在する水分担持被膜を有しているので、被膜を構成する繊維が光を反射し難く、被膜の見た目が透明となり易く、見た目が自然な状態で皮膚を被覆できる。これらの効果は、後述の液剤Yの塗布により、更に増強される。
【0093】
ノズルと人体表面との間の距離は、ノズルに印加する電圧にも依存するが、被膜を首尾よく形成するうえで、10mm以上160mm以下であることが好ましく、20mm以上150mm以下であることがより好ましく、40mm以上150mm以下であることが更に好ましい。ノズルと皮膚との間の距離は、一般的に用いられる非接触式センサ等で測定することができる。
【0094】
静電紡糸法によって形成された被膜が繊維を含むものであるか否かを問わず、被膜の坪量は、0.1g/m2以上であることが好ましく、1g/m2以上であることが更に好ましい。また50g/m2以下であることが好ましく、40g/m2以下であることが更に好ましい。例えば被膜の坪量は、0.1g/m2以上50g/m2以下であることが好ましく、1g/m2以上40g/m2以下であることが更に好ましい。被膜の坪量をこのように設定することで、被膜の密着性を向上させることができる。
【0095】
本発明においては、上述した静電紡糸によって人体表面に被膜を形成する静電紡糸工程の前又は後に、20℃で液体のポリオール及び20℃で液体の油から選ばれる1種以上を含有し、組成物X以外の液剤Yを、例えば静電紡糸以外の手段で人体表面に塗布する工程を行ってもよい。液剤Yの塗布工程を行うことで、静電紡糸工程で形成される被膜が、適用部位になじみやすくなり、該被膜が皮膚に高密着化することが可能となり、極めて透明にすることもできる。例えば、被膜の端部と人体表面との間に段差が生じにくくなり、それによって被膜と人体表面との密着性が向上する。その結果、被膜の剥離や破れ等が生じにくくなる。より好ましい態様である、被膜が繊維の堆積物である多孔性被膜である場合、高い空隙率であるにもかかわらず人体表面との密着性が高く、また大きな毛管力が発生しやすい。更に、繊維が微細である場合には多孔性被膜を高比表面積化することが容易となる。
【0096】
特に、静電紡糸工程において繊維の堆積物である多孔性被膜を形成する前又は形成した後に、液剤Y塗布工程を行うことにより、該多孔性被膜を形成する繊維間、及び/又は繊維表面に該液剤Yが存在する被膜が形成される。これによって、被膜の密着性が向上し、目視における被膜の透明性が維持又は向上する。特に被膜が無色透明あるいは有色透明である場合には、より被膜を視認しにくくなることによって、自然な皮膚のように見せることができる。また、被膜が有色透明である場合には、被膜に透明感が出るため、皮膚の一部のように見せることができる。
【0097】
20℃において液体の油としては、例えば流動パラフィン、軽質イソパラフィン、流動イソパラフィン、スクワラン、スクワレン等の直鎖又は分岐の炭化水素油;モノアルコール脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等のエステル油;ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン油;高級アルコールなどが挙げられる。これらのうち、塗布時の滑らかさなどの使用感の点から、炭化水素油、エステル油から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。また、炭化水素油、エステル油を複数種類含有するオリーブ油やホホバ油等の植物油、液状ラノリン等の動物油を含有することも可能であり、又は前述の20℃において液体の油から選ばれる液体油を1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0098】
前記炭化水素油としては、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、n-オクタン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、軽質イソパラフィン、流動イソパラフィン等が挙げられ、使用感の観点から流動パラフィン、スクワランから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。また、静電吐出された被膜を皮膚に密着させる観点から、炭化水素油の30℃における粘度は、好ましくは10mPa・s以上であり、より好ましくは30mPa・s以上である。かかる観点から、30℃において粘度が10mPa・s未満である、イソドデカン、イソヘキサデカン、水添ポリイソブテンの液剤Y中の合計の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下であり、より一層好ましくは0.5質量%以下であり、含有しなくてもよい。
同様に、静電吐出された被膜を皮膚に密着させる観点から、エステル油及びシリコーン油の30℃における粘度は、好ましくは10mPa・s以上であり、より好ましくは30mPa・s以上である。ここでの粘度は、30℃においてBM型粘度計(トキメック社製、測定条件:ローターNo.1、60rpm、1分間)により測定される。
【0099】
なお、同様の観点から、セチル-1,3-ジメチルブチルエーテル、ジカプリルエーテル、ジラウリルエーテル、ジイソステアリルエーテル等のエーテル油の液剤Y中の合計の含有量は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0100】
前記エステル油としては、直鎖又は分岐鎖の脂肪酸と、直鎖又は分岐鎖のアルコール又は多価アルコールからなるエステルが挙げられる。具体的には、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、12-ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジ2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N-アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、セチル2-エチルヘキサノエート、2-エチルヘキシルパルミテート、ナフタレンジカルボン酸ジエチルヘキシル、安息香酸(炭素数12~15)アルキル、セテアリルイソノナノエート、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、(ジカプリル酸/カプリン酸)ブチレングリコール、トリラウリン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリ2-ヘプチルウンデカン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル、トリヤシ油脂肪酸グリセリル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸オレイル、パルミチン酸2-ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-2-オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ2-ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、パルミチン酸2-ヘキシルデシル、アジピン酸2-ヘキシルデシル、セバシン酸ジイソプロピル、コハク酸ジ2-エチルヘキシル、クエン酸トリエチル、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0101】
これらの中では、静電吐出された被膜を皮膚に密着させる観点及び皮膚に塗布した際の感覚に優れる点から、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、セテアリルイソノナノエート、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12~15)アルキル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12~15)アルキル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12~15)アルキル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンから選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0102】
トリグリセライドとしては、脂肪酸トリグリセライドが好ましく、例えばオリーブ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、メドフォーム油、ヒマシ油、紅花油、ヒマワリ油、アボカド油、キャノーラ油、キョウニン油、米胚芽油、米糠油などの天然油に含まれるもので、天然油として含有してもよい。
【0103】
高級アルコールとしては、炭素数12~20の液状の高級アルコールが挙げられ、具体的にはイソステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0104】
防腐剤としてはフェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸メチル、パラアミノ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、エチルヘキサンジオール等が挙げられる。
【0105】
シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
25℃におけるシリコーン油の動粘度は、静電吐出された被膜を皮膚に密着させる観点から、3mm2/s以上が好ましく、4mm2/s以上がより好ましく、5mm2/s以上が更に好ましく、30mm2/s以下が好ましく、20mm2/s以下がより好ましく、10mm2/s以下が更に好ましい。
これらの中でも、静電吐出された被膜を皮膚に密着させる観点から、ジメチルポリシロキサンを含むことが好ましい。
【0106】
前記液剤Y中の液体油の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上である。また、好ましくは100質量%以下である。液剤Y中における液体油の含有量は、好ましくは0.1質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上100質量%以下である。
【0107】
なお、ここで液体の油のHLB値は、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下であり、更に好ましくは6以下である。なお、HLB値は、親水性-親油性のバランス(Hydrophile Lpophile Balance)を示す指標であり、本発明においては、小田及び寺村らによる次式により算出した値を用いている。
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10
【0108】
液剤Yに用いられる20℃で液体のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール等のアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、重量平均分子量2000以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類等が挙げられる。これらのうち、塗布時の滑らかさなどの使用感の点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、重量平均分子量2000以下のポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリンから選ばれる1種又は2種以上が好ましく、更にプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、グリセリンから選ばれる1種又は2種以上がより好ましく、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオールから選ばれる1種又は2種以上が一層好ましい。
【0109】
液剤Yは、25℃において5000mPa・s以下の粘性(粘度)を有することが、静電紡糸法によって形成された被膜と適用部位との密着性の向上の点から好ましい。液体の粘度の測定方法は、上述したとおりである。
【0110】
当該液剤Yを皮膚に塗布するには種々の方法を用いることができる。例えば、滴下や振りかけ等の方法によって液剤Yを皮膚に施し、該液剤Yを塗り広げる工程を備えることにより、皮膚又は被膜になじませることが可能となり、該液剤Yの薄層を形成することができる。液剤Yを塗り広げる工程は、例えば使用者本人の指や、アプリケータ等の道具を用いた擦過などの方法を採用することができる。液剤Yを単に滴下したり振りかけたりしただけでもよいが、塗り広げる工程を備えることにより、皮膚又は被膜になじませることが可能となり、被膜の密着性を十分に向上させることができる。別法として、液剤Yを皮膚に吐出して該液剤Yの薄層を形成することもできる。この場合には、別途の塗り広げは格別必要ないが、吐出後に塗り広げの操作を行うことは妨げられない。なお、被膜の形成後に液剤Yを施す場合には、十分な液剤Yを皮膚に適用し、余分の液剤Yはシート材を液剤を施した範囲に接触させる工程により、余剰の液剤Yを除去することができる。
【0111】
液剤Yを皮膚に塗布する量は、皮膚と被膜との密着性が向上するのに必要十分な量とすればよい。液剤Y中に液体油が含まれている場合には、皮膚と被膜との密着性を確実にする観点から、液剤Yを皮膚に施す量は、液体油の坪量が好ましくは0.1g/m2以上であり、より好ましくは0.2g/m2以上となるような量とし、好ましくは40g/m2以下であり、より好ましくは35g/m2以下となるような量とする。例えば、液剤Yを皮膚に施す量は、液体油の坪量が好ましくは0.1g/m2以上40g/m2以下、より好ましくは0.2g/m2以上35g/m2以下となるような量とする。
また、液剤Yを皮膚に、又は被膜に施す量は、皮膚と被膜の密着性を向上させる観点、透明性を向上させる観点から、好ましくは5g/m2以上であり、より好ましくは10g/m2以上であり、更に好ましくは15g/m2以上であり、好ましくは50g/m2以下であり、より好ましくは45g/m2以下である。
【0112】
以上説明した本発明の実施形態においては、自己の皮膚に被膜を形成させたい者が静電紡糸装置10を把持し、該装置10の導電性ノズルとその者の皮膚との間に電界を生じさせたが、両者間に電界が生じる限り、自己の皮膚に被膜を形成させたい者が静電紡糸装置10を把持する必要はない。
【0113】
〔人体表面貼付用シート〕
さらに本発明は、次の成分(B)及び(d)
(B)水不溶性ポリマー
(d)ポリヒドロキシアミン、ポリエチレンイミン アルカノールアミン、塩基性アミノ酸又はその重合物、及びアルカリ金属リン酸塩から選択される1種以上の水溶性消臭成分
を含有する繊維を含むシートであって、成分(B)に対する成分(d)の質量比(d)/(B)が0.01以上0.9以下、坪量が0.05g/m2以上50g/m2以下、前記繊維の円相当直径が100nm以上15000nm以下である、人体表面貼付用シートを提供する。
【0114】
本発明の人体表面貼付用シートは、前述の組成物Xを、静電紡糸装置から、人体表面以外の場所に吐出し、成分(B)及び(d)を含有する繊維を膜状に堆積させることで形成される。人体表面以外の場所としては、人体表面への貼り付けを容易にするために、平面を有する基材層を使用することができる。ここで平面を有する基材層としては、例えば、化学繊維の布が挙げられ、離型性の良いものが好ましく、例えばポリオレフィン系、ポリエステル系、アクリル系、レーヨン系、ポリウレタン系などの合成樹脂系のフィルムや、コットン、パルプ、紙などのセルロース系の天然繊維を用いることができる。
【0115】
本発明の人体表面貼付用シートは、前述の成分(a)の揮発性物質がほぼ蒸発し、成分(c)の水が部分的に蒸発した後、前記平面基材層から剥離すればよい。シートは剥離して人体表面に直接貼付するか、基材層上に形成されたシートを人体表面に押し付けて人体表面に貼付することによって、人体表面から放出される悪臭の消臭のために使用することができる。
【0116】
人体表面貼付用シート中の成分(B)の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。また98質量%以下であることが好ましく、96質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましい。人体表面貼付用シート中の成分(B)の含有量は、40質量%以上98質量%以下であることが好ましく、50質量%以上96質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。
【0117】
人体表面貼付用シート中の成分(d)の含有量は、消臭効果の向上の観点から、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以上であることがより一層好ましい。また、シートの安定性の観点から、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以下であることがより一層好ましい。人体表面貼付用シート中の成分(d)の含有量は、2質量%以上40質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより一層好ましい。
【0118】
成分(d)と成分(B)の質量比(d)/(B)は、消臭効果の向上の観点から、0.01以上であって、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.1以上であり、また、水不溶性ポリマー繊維同士の接着を抑制して表面積の高い積層状態を維持する観点から、0.9以下であって、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.6以下である。なお、この比率が低い方が、水不溶性ポリマー繊維の質も良く、積層しやすくなる一方で、シート質量当たりの消臭効果は低下してしまう。このため、質量比(d)/(B)が低い場合には、その坪量を増加させることで、水不溶性ポリマー繊維の質と消臭効果を両立することができる。また、本発明の人体表面貼付用シートは、上記成分(B)及び(d)の他、組成物Xに由来する成分も含んでよい。
【0119】
人体表面貼付用シートの坪量は、水不溶性ポリマー繊維の質と消臭効果を両立する観点から、0.05g/m2以上であって、好ましくは0.1g/m2以上、より好ましくは0.5g/m2以上、更に好ましくは1g/m2以上であり、更に好ましくは3g/m2以上であり、また、50g/m2以下であって、好ましくは40g/m2以下、より好ましくは30g/m2以下、更に好ましくは20g/m2以下である。
【0120】
人体表面貼付用シートにおいて、成分(B)及び(d)を含有する繊維の円相当直径は100nm以上15000nm以下であるが、500nm以上であることが好ましく、また10000nm以下であることが好ましい。繊維の太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、繊維を10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(繊維の塊、繊維の交差部分、液滴)を除き、繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【実施例】
【0121】
実施例1~19、比較例1~4
表1~3に示す組成の組成物Xを調製し、静電紡糸装置を用いて被膜を形成し、各種評価を行った。なお、使用した水溶性消臭成分は、いずれも実験に先立って前述の水溶性の条件を満たすことを確認した。
【0122】
組成物Xの状態
表1~3に示す処方に従って調製した組成物Xを、60rpmで6時間回転攪拌した後、一晩静置し、その状態を目視観察して、以下の基準で評価した。
×:析出物(雲状の沈殿、粉状の沈殿)あり
○:透明又はほぼ均一に分散
【0123】
被膜形成法
表1~3に示す組成物Xを、皮膚モデルとしての市販の化学繊維布上に静電紡糸法にて被膜を形成した。具体的には直径6.5cm高さ3.5cmのプラスティック容器に、11cm四方の黒色の化学繊維布(アクリル繊維40質量%、ポリエステル35質量%、レーヨン22質量%、ポリウレタン3質量%)で覆い、上部から下記の条件で電界紡糸法にて被膜を形成した。
電界紡糸の状態に関し、下記基準で評価した。
×:紡糸化できない(処方液が析出又は沈殿があり吐出できない)
○:紡糸化可能(吐出できて布上に被膜を形成)
【0124】
<静電紡糸法条件>
・印加電圧:10kV
・ノズルと皮膚モデルとの距離:10cm
・組成物Xの吐出速度(流速):4mL/h
・ノズルの直径:0.8mm
・環境:25℃、40%RH
【0125】
前記形成された被膜を形成する繊維の太さ(円相当直径)を、前述の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いる方法で測定し、2000nm~10000nmであることを確認した。
【0126】
被膜坪量の測定方法
前述の表1~3に示す各組成物Xと同じものを調製し、それぞれ同条件で前記カップ上の黒色化学繊維布に被膜を形成し、質量計算用に用いた。被膜をピンセットで剥がしたあと70℃×1時間、電気乾燥機にて乾燥させ質量を測定した。その質量とカップの面積(直径6.5cmの円の面積)より坪量(g/m2)を求めた。この方法により、すべての被膜の坪量が概ね5g/m2であることを確認した。
【0127】
汗かきモデル系における被膜保持の評価
前述のとおり形成した被膜において、肌に汗をかいている湿潤状態での被膜形状保持を見るため、汗かき時のモデル系にて観察評価を行った。具体的には、被膜が形成された布をカップから剥がして、布の裏面方向から水を20回スプレーし(計1.4g)しっとりする程度に湿らせた。20分後に被膜の状態を観察し、被膜形状が維持されているか(溶解していないか)を観察した。
×:被膜が溶解(ポリマー特有のベタベタ感が発生)
○:被膜が溶解していない
【0128】
消臭評価
カップの内部に悪臭(1質量%イソ吉草酸プロピレングリコール溶液5μL)を滴下した綿球を置き、前記被膜が形成された布を再度カップに被せ、輪ゴムにて固定した。20分後に布から匂ってくる臭気を下記6段階臭気強度表示に従って表示し、総合評価として◎、○、△、×の評価を行った。被膜が無い場合は臭気強度3となった。
【0129】
<6段階臭気強度表示>
0:無臭
1:やっと感知できるニオイ(検知閾値)
2:何のにおいであるかわかる弱いニオイ(認知閾値)
3:楽に感知できるニオイ
4:強いニオイ
5:強烈なニオイ
【0130】
◎:消臭効果非常に良好(イソ吉草酸のニオイが0又は1)
○:消臭効果良好(イソ吉草酸のニオイが2)
△:消臭効果やや良好(イソ吉草酸のニオイが2.5)
×:消臭効果なし(イソ吉草酸のニオイが3以上)
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
実施例20
実施例10の組成物Xを用い、前記と同一の条件で市販の化学繊維布上に静電紡糸法にて被膜を形成した。
面積20cm2の前記被膜形成に用いた化学繊維布(アクリル繊維40質量%、ポリエステル35質量%、レーヨン22質量%、ポリウレタン3質量%)に1枚当たり40mgの被膜を形成した(坪量10g/m2)。この被膜を化学繊維布から剥離して、脱毛した腋下部に張り付けた。
日中運動を行った後、被膜の状態は維持されており、腋下部の消臭効果も認められた。
【0135】
実施例21
実施例4の組成物Xを用い、静電紡糸装置を用いて足の先半分部分にまんべんなく直接スプレーを行った(約30秒間、塗布量約20mg)。
日中運動を行った後、被膜の状態は維持されており、足の裏部の消臭効果も認められた。
【符号の説明】
【0136】
10 静電紡糸装置
11 低電圧電源
12 高電圧電源
13 補助的電気回路
14 容器
15 ノズル
15A マイクロギヤポンプ
15B 管路
15C フレキシブル管路
19 電流制限抵抗
20 筐体