IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許7598226ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、及びその成形体
<>
  • 特許-ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、及びその成形体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20241204BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20241204BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20241204BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08L67/02
C08L101/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020188441
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077582
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】シティ サラ
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-162884(JP,A)
【文献】特開2017-222791(JP,A)
【文献】国際公開第2020/195550(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物であって、
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、
3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が1~5モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(A)、及び、
3-ヒドロキシヘキサノエート単位の含有割合が6~50モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と3-ヒドロキシヘキサノエート単位との共重合体(B)を含み、
前記共重合体(A)と前記共重合体(B)の合計に占める前記共重合体(A)の割合が70~85重量%で、前記共重合体(B)の割合が30~15重量%であり、
該樹脂組成物の示差走査熱量分析において、最も高い融解ピーク温度が148℃以上170℃以下であり、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが65J/g~75J/gの範囲であり、
該樹脂組成物から得たISO 3167 Type Aに準拠した厚み4mmの多目的試験片について測定した曲げ弾性率が1200MPa以上である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、及び、ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂またはポリカプロラクトン樹脂を含有し、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の割合が55~95重量%、及び、前記ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂またはポリカプロラクトン樹脂の割合が5~45重量%である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による埋立て処分場の不足や環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。また近年、マイクロプラスチックが、海洋環境において大きな問題になっている。
【0003】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は優れた海水分解性を有しており、廃棄されたプラスチックが引き起こす環境問題を解決しうる材料である。例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の共重合体であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を変化させることにより、加工特性および機械特性を柔軟にコントロールできる。
【0004】
これまで発明者らは、融点挙動を規定することで、シートの熱成形性やストローの二次加工性が改良されたポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系組成物を提案してきた(特許文献1及び2を参照)。
【0005】
しかし、これらの技術を用いても、高い生産性で加工品を得るにはまだ改良の余地があった。高い生産性で加工を行うためには、溶融後の結晶化を促進する必要があり、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の融点を高くすることで結晶化が速くなることが知られている(非特許文献1を参照)。しかし、融点が高くなりすぎると溶融加工時の温度が樹脂の熱分解温度に近づくため、溶融加工の際に樹脂の分子量が大幅に低下する課題があった。
【0006】
また発明者らは、融点と融解エンタルピーを制御することで、生産性と機械特性を両立したポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)系組成物を提案している(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2020/195477号
【文献】国際公開第2020/040093号
【文献】国際公開第2020/195550号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Yoshiharu Doi, Shiro Kitamura, Hideki Abe, Macromolecules, vol. 22, pp. 4822-4828, (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に開示された技術で得られるフィルムやシートは柔軟であり、剛性が要求される食品容器などの硬質の用途には適用が難しい場合があった。
【0010】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、海水分解性を有しているポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含有し、高い剛性と加工生産性を兼ね備え、かつ加工時の分子量低下が抑制され得るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有する組成物を、示差走査熱量分析において最も高い融解ピーク温度が148℃以上170℃以下で、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが特定範囲内になるよう構成することで、高い剛性と加工生産性を兼ね備え、かつ加工時の分子量低下が抑制され得るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物であって、該樹脂組成物の示差走査熱量分析において、最も高い融解ピーク温度が148℃以上170℃以下であり、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが65J/g~75J/gの範囲であり、該樹脂組成物から得たISO 3167 Type Aに準拠した厚み4mmの多目的試験片について測定した曲げ弾性率が1200MPa以上である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物に関する。
好ましくは、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の混合物である。
好ましくは、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含む。
好ましくは、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分が、
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が1~5モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が6~50モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(B)を含む。
好ましくは、前記共重合体(A)と前記共重合体(B)の合計に占める前記共重合体(A)の割合が70~85重量%で、前記共重合体(B)の割合が30~15重量%である。
好ましくは、前記他のヒドロキシアルカノエート単位が、3-ヒドロキシヘキサノエート単位である。
また本発明は、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物、及び、ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂またはポリカプロラクトン樹脂を含有し、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成分の割合が55~95重量%、及び、前記ポリブチレンサクシネートアジペート樹脂またはポリカプロラクトン樹脂の割合が5~45重量%である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物にも関する。
さらに本発明は、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物からなる成形体にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、海水分解性を有しているポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含有し、高い剛性と加工生産性を兼ね備え、かつ加工時の分子量低下が抑制され得るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を提供することができる。本発明に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、近年問題となっているプラスチックによる環境問題を解決し得る材料になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得たポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物のDSC曲線、並びに、最も高い融解ピーク温度および総結晶融解エンタルピーを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
[ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物]
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度が148℃以上170℃であり、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが65J/g~75J/gの範囲内にある。そして、前記樹脂組成物から得たISO 3167 Type Aに準拠した厚み4mmの多目的試験片について測定した曲げ弾性率が1200MPa以上を示す。更に、少なくとも1種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分を含有するものであり、該樹脂成分以外の成分をさらに含有することもできる。
【0017】
(ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分)
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の主要成分を構成するポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分は、単独のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂であってもよいし、2種以上のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の組合せであっても良い。前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂としては、例えば、海水分解性を有する3-ヒドロキシアルカノエート構造単位(モノマー単位)及び/又は4-ヒドロキシアルカノエート構造単位を有する重合体が挙げられる。特に、3-ヒドロキシアルカノエート構造単位を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、具体的には下記一般式(1)で示される構造単位を含む樹脂が好ましい。
[-CHR-CH-CO-O-] (1)
【0018】
一般式(1)中、RはC2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0019】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、特に微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が好ましい。微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂においては、3-ヒドロキシアルカノエート単位が、全て(R)-3-ヒドロキシアルカノエート単位として含有される。
【0020】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位(特に、一般式(1)で表される単位)を、全構成単位の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、重合体の構成単位として、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位のみを含むものであってもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位に加えて、その他の単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位等)を含むものであってもよい。
【0021】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)単位を含む単独重合体又は共重合体であってよい。特に、3-ヒドロキシブチレート単位は、全て(R)-3-ヒドロキシブチレート単位であることが好ましい。また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体であることが好ましい。
【0022】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、成形体の機械特性や加工生産性等の観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0023】
高い剛性と加工生産性を兼ね備え、かつ加工時の分子量低下が抑制され得るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を提供する観点から、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂成分は、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の混合物であることが好ましく、少なくとも1種の高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と、少なくとも1種の低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含有することがより好ましい。
【0024】
前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)である。前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも高いことが好ましい。具体的には、該共重合体(A)における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、1モル%以上5モル%以下が好ましく、2モル%以上4モル%以下がより好ましい。
【0025】
前記共重合体(A)としては、上述した3-ヒドロキシブチレート単位を含む共重合体を使用することができるが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0026】
前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(B)である。前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも低いことが好ましい。具体的には、該共重合体(B)における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、6モル%以上50モル%以下が好ましく、8モル%以上40モル%以下がより好ましく、10モル%以上30モル%以下がさらに好ましい。
【0027】
前記共重合体(B)としては、上述した3-ヒドロキシブチレート単位を含む共重合体を使用することができるが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0028】
共重合体(A)と共重合体(B)の合計に占める共重合体(A)の割合は、70重量%以上85重量%以下で、共重合体(B)の割合は15重量%以上30重量%以下であることが好ましい。この範囲で共重合体(A)と共重合体(B)を併用することによって、最も高い融点ピーク温度、総結晶融解エンタルピー、及び、曲げ弾性率をそれぞれ所定範囲内に制御して、高い剛性と加工生産性を兼ね備え、かつ加工時の分子量低下が抑制され得るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を提供することが容易になる。共重合体(A)の割合は73重量%以上84重量%以下で、共重合体(B)の割合は16重量%以上27重量%以下であることがより好ましく、共重合体(A)の割合は75重量%以上83重量%以下で、共重合体(B)の割合は17重量%以上25重量%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分は、共重合体(A)と共重合体(B)のみを含有するものであってもよいし、共重合体(A)と共重合体(B)に加えて、他のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂をさらに含有するものであってもよい。当該他のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレートの単独重合体であってもよいし、また、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体であって他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が共重合体(A)及び共重合体(B)のいずれの定義にも該当しない共重合体であってもよい。
【0030】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位および他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有比率は、成形体の高剛性、良好な加工生産性、及び加工時の分子量低下抑制を達成する観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/他のヒドロキシアルカノエート単位=98/2~93/7(モル%/モル%)が好ましく、97/3~95/5(モル%/モル%)がより好ましい。
【0031】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体において全モノマー単位に占める各モノマー単位のモル割合を意味し、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物全体に含まれる各モノマー単位のモル割合を意味する。
【0032】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、成形体の高剛性、良好な加工生産性、及び加工時の分子量低下抑制を達成する観点から、5万~300万が好ましく、10万~100万がより好ましく、12万~70万が更に好ましい。
【0033】
また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する各ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されない。しかし、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂である共重合体(A)の重量平均分子量は、成形体の高剛性、良好な加工生産性、及び加工時の分子量低下抑制を達成する観点から、5万~300万が好ましく、10万~100万がより好ましく、12万~70万が更に好ましい。一方、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂である共重合体(B)の重量平均分子量は、成形体の高剛性、良好な加工生産性、及び加工時の分子量低下抑制を達成する観点から、5万~300万が好ましく、10万~100万がより好ましく、12万~70万が更に好ましい。
【0034】
なお、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂又はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(昭和電工製Shodex GPC-101)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0035】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレートと、その他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に合わせて、各種ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0036】
2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂のブレンド物を得る方法は特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を得る方法であってもよい。また、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて2種以上の樹脂を溶融混練してブレンド物を得てもよいし、2種以上の樹脂を溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。
【0037】
(組成物が示す融解挙動)
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、これについて測定した示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度が、148℃以上170℃以下の範囲内にあるものである。この条件を満足することにより、該樹脂組成物を成形してなる成形体を高剛性にすることができると共に、加工生産性を改善することができ、更に加工時の分子量低下を抑制することができる。最も高い融解ピーク温度が148℃未満であると、高剛性で硬質の成形体を得ることが困難となったり、加工生産性が低下する場合がある。逆に170℃を超えると、樹脂を溶融させる際に樹脂の分子量が大幅に低下し、樹脂組成物又は成形体の製造が困難になる場合がある。前記最も高い融解ピーク温度は、149℃以上165℃が好ましく、より好ましくは150℃以上160℃以下であり、さらに好ましくは150℃以上155℃以下である。
【0038】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物が示す最も高い融解ピーク温度は、示差走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC25型)を用いて、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を約2mg計量し、10℃/分の昇温速度にて-30℃から180℃まで昇温した時に得られるDSC曲線において、最も高温側の融解ピークの温度として測定される。
【0039】
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、図1のDSC曲線で示すように、最も高温側の融解ピークに加えて、このピークよりも低温側の領域において、別の融解ピークを有していてもよく、例えば100℃以下にも融解ピークを有していてもよい。
【0040】
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカネート系樹脂組成物は、これについて測定した示差走査熱量分析において全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーが、65J/g以上75J/g以下の範囲内にある。この範囲内とすることにより、該樹脂組成物を成形してなる成形体を高剛性にすることができ、加工時の分子量低下を抑制することができる。総結晶融解エンタルピーが65J/g未満であると、高剛性で硬質の成形体を得ることが困難となる。逆に75J/gを超えると、樹脂組成物を溶融させる際に樹脂の分子量が大幅に低下する場合がある。総結晶融解エンタルピーは、66J/g以上74J/g以下が好ましく、66J/g以上73J/g以下がより好ましい。
【0041】
全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーは、各結晶融解エンタルピーの総和を指す。具体的には、前述のようにして得たDSC曲線において、融解開始前と融解終了後のベースラインを直線で結び、該直線とDSC曲線によって囲まれた融解領域(図1中の斜線領域)の面積として算出される。
【0042】
(組成物の製造方法)
以上で説明した融解挙動を示すポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を製造するための方法としては、例えば、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が共重合体である場合において該共重合体を構成する各モノマーの共重合比率を適宜調整する方法、可塑剤等の、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分以外の成分を混合する方法、融解挙動が互いに異なる少なくとも2種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を混合する方法等が挙げられる。特に、融解挙動が互いに異なる少なくとも2種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を混合する方法が好ましい。具体的には、上述したように、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を混合することが好ましい。これによって、容易に、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の示差走査熱量分析における最も高い融解ピーク温度を148℃以上170℃以下とし、かつ、全ての融解ピークから算出される総結晶融解エンタルピーを65J/g~75J/gの範囲に制御することができる。
【0043】
(曲げ弾性率)
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、硬質のものである。具体的には、該樹脂組成物から得たISO 3167 Type Aに準拠した厚み4mmの多目的試験片について、JIS-K7171に準拠して測定した曲げ弾性率が1200MPa以上を示すものである。前記多目的試験片は射出成形により得ることができる。前記曲げ弾性率は1400MPa以上であることが好ましく、1600MPa以上がより好ましく、1700MPa以上がさらに好ましい。上限値は特に限定されないが、例えば、2500MPa以下であって良い。
【0044】
(他の樹脂)
一実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂以外の他の樹脂を含んでもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバケートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。脂肪族ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリブチレンサクシネートアジペート又はポリカプロラクトンがより好ましい。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0045】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、海水分解性の観点からは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0046】
一方、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の耐衝撃性を改善する観点からは、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成分と前記他の樹脂の合計に占める前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成分の割合は55~95重量%、前記他の樹脂の割合は5~45重量%であることが好ましい。前者は60~90重量%、後者は10~40重量%であることがより好ましく、前者は65~85重量%、後者は15~35重量%であることがさらに好ましい。
尚、上述したポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物の融解挙動は、当該他の樹脂による寄与を含まない測定値である。
【0047】
(層状粘土鉱物)
一実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、層状粘土鉱物をさらに含有してもよい。ここで、層状粘土鉱物とは、層状珪酸塩を主成分とする鉱物のことをいう。
【0048】
層状粘土鉱物としては特に限定されず、公知のものを使用することができるが、加工生産性の改善効果が得られやすいことから、スメクタイト、マイカ、タルク、パイロフェライト、バーミキュライト、緑泥石、カオリナイト、及び蛇紋石からなる群より選択される1種以上が好ましい。汎用性の観点から、マイカ、タルク、カオリナイトが好ましく、タルクが特に好ましい。
【0049】
前記マイカとしては、湿式粉砕マイカ、乾式粉砕マイカ等が挙げられ、具体的には、ヤマグチマイカ社や啓和炉材社製のマイカが例示される。
【0050】
前記タルクとしては、汎用のタルク、表面処理タルク等が挙げられ、具体的には、日本タルク社製の「ミクロエース」(登録商標)、林化成社製の「タルカンパウダー」(登録商標)、竹原化学工業社や丸尾カルシウム社製のタルクが例示される。
【0051】
前記カオリナイトとしては、乾式カオリン、焼成カオリン、湿式カオリン等が挙げられ、具体的には、林化成社製の「TRANSLINK」(登録商標)、「ASP」(登録商標)、「SANTINTONE」(登録商標)、「ULTREX」(登録商標)や、啓和炉材社製のカオリナイトが例示される。
【0052】
前記層状粘土鉱物の平均粒子径は、成形体の機械特性や加工生産性に優れるため、0.1~50μmであることが好ましく、0.3~30μmがより好ましく、0.5~15μmが更に好ましく、1~10μmが特に好ましい。当該平均粒子径は、日機装社製「マイクロトラックMT3100II」などのレーザー回折・散乱式の装置を用いて測定することができる。
【0053】
前記層状粘土鉱物の含有量は特に限定されないが、例えば、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して5重量部以上45重量部以下であってよい。前記含有量は、10重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上35重量部以下がより好ましく、15重量部以上30重量部以下が更に好ましい。
【0054】
(添加剤)
一実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲において、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、結晶化核剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、断熱剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、加水分解抑制剤等を目的に応じて使用できる。特に生分解性を有する添加剤が好ましい。
【0055】
結晶化核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶化核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.5~3重量部がより好ましく、0.7~1.5重量部がさらに好ましい。また、結晶化核剤は、1種を使用してよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0056】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミド又はエルカ酸アミドが好ましい。滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.05~3重量部がより好ましく、0.1~1.5重量部がさらに好ましい。また、滑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0057】
[成形体]
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、各成分を溶融混錬し、必要によりペレットを得た後、インフレーション成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形等種々の成形方法によって成形体を作製することができる。本実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は加工生産性が高いものであるため、特にインフレーション成形や押出成形など、溶融加工を連続的に実施する成形方法において好適に使用することができる。以下、各成形方法について具体的に説明する。
【0058】
まず、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分、必要に応じて他の樹脂、任意の添加剤を添加し、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して樹脂組成物を作製し、それをストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状のペレットを得る。作製されたペレットは、40~80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、成形に付することが望ましい。
【0059】
前記溶融混練を実施する際の温度は、使用する樹脂の融点、溶融粘度等によるため一概には規定できないが、押出ペレット化の場合、シリンダーの設定温度を100~160℃、アダプター及びダイの設定温度を140~160℃にすることが好ましい。
【0060】
前記により作製されたペレットは結晶化が速いことから、高い生産性で成形体を製造することができる。好ましい成形方法としては、例えば、Tダイ押出、キャスト押出、異形押出、チューブ押出、インフレーション成形、カレンダー成形、射出成型、真空成形、圧空成形、発泡成形、溶融紡糸、などが挙げられる。
【0061】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物をフィルムまたはシートに加工する際の成形加工方法としては、インフレーション成形や、Tダイを用いた押出成形などの公知の方法を用いることができる。具体的な条件については適宜設定すればよいが、例えば、インフレーション成形では、当該成形前に除湿乾燥機などでペレットの水分率が500ppm以下になるまで乾燥し、シリンダー設定温度を100℃~160℃、アダプターおよびダイスの設定温度を130℃~160℃にすることが好ましい。
【0062】
フィルム又はシートの厚みについて特に制限はされないが、一般に、厚み1~100μm程度のものをフィルム、厚み100μmを越えて2mm程度までのものをシートと呼ぶ。
【0063】
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物から得られたフィルム又はシートは優れた生分解性を有しているため、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。例えば、間仕切り、トレー、容器、蓋、皿、ブリスター包装、PTP包装等の用途に用いられる。
【0064】
また、前記ペレットを射出成形に付することによって射出成形体を成形することもできる。射出成形は、加熱溶融させた樹脂組成物を金型内に射出注入し、金型内で樹脂組成物を冷却固化させた後、金型を開き、成形体を離型することにより成形体を得る方法である。射出成形法としては、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法の他、射出ブロー成形や、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、インモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH-PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、使用可能な射出成形法は、以上の方法に限定されるものではない。
【0065】
射出後の金型による冷却時の温度は、当業者が適宜決定することができるが、20~70℃が好ましく、25~60℃がより好ましく、30~50℃が更に好ましく、35~45℃が特に好ましい。
【0066】
一実施形態に係る射出成形体の用途は、特に限定されないが、例えば、皿・コップ・カップ・フタトレーなどの食器類、スプーン・フォーク・ナイフ・マドラーなどのカトラリー類、コーヒーカプセル・おもちゃの容器などのカプセル類、おもちゃ類、農業用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、各種容器・箱、日用雑貨類、文房具類、ボトル成形品等が挙げられる。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0068】
実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
[ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂]
P3HB3HH-1:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=97/3(モル%/モル%)、重量平均分子量は65万
国際公開公報WO2019/142845号の実施例2に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-2:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=89/11(モル%/モル%)、重量平均分子量は58万
国際公開公報WO2019/142845号の実施例5に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-3:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=72/28(モル%/モル%)、重量平均分子量は100万
国際公開公報WO2019/142845号の実施例9に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-4:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量は58万
国際公開公報WO2019/142845号の実施例1に記載の方法に準じて製造した。
P3HB:重量平均分子量は70万g/mol
国際公開公報WO2015/146194号の製造例1に記載の方法に準じて製造した。
【0069】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂成分として2種以上のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の混合物を使用する場合、表1中の平均比率(3HB/3HH)は、各樹脂における3HB/3HH平均含有比率と、各樹脂の重量割合とから算出した平均値である。
【0070】
[脂肪族ポリエステル樹脂]
PBSA:ポリブチレンサクシネートアジペート(三菱ケミカル株式会社製、Bio-PBS FD92PM、ガラス転移温度-45℃)
PCL:ポリカプロラクトン(パーストープ株式会社製、CAPA6800、ガラス転移温度-55℃)
【0071】
[添加剤]
添加剤:ベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)
【0072】
次に、実施例および比較例において行った評価方法に関して説明する。
[示差走査熱量分析における融解ピーク温度および総結晶融解エンタルピーの測定]
示差走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC25型)を用いて、各実施例または比較例で得られたポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物を約2mg計量し、10℃/分の昇温速度にて-30℃から180℃まで昇温した時に得られるDSC曲線において、最大の融解ピークの温度を融点とした。また、DSC曲線において、融解開始前と融解終了後のベースラインを直線で結び、該直線とDSC曲線によって囲まれた融解領域の面積として算出される総熱量を、総結晶融解エンタルピーとして求めた。
【0073】
[ゲル浸透クロマトグラフィー分析による重量平均分子量の測定]
昭和電工製のゲル浸透クロマトグラフィーシステム「Shodex GPC-101」に、昭和電工社製のカラム「Shodex K-804」)を2本連結して用い、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン標準から換算して重量平均分子量を評価した。
【0074】
[加工生産性の評価]
幅500mmのTダイを接続したφ40mmの単軸押出機のシリンダー温度及びダイ温度を樹脂の融点+15℃に設定し、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂ペレットを押出機ホッパーに投入してTダイより押出し、50℃に温調された2本の冷却ロールで挟み込んで引取機で定速で引き取り、厚さ0.4mmのシートを作製した。このシート化を行う際に、冷却ロールに張り付くことなく引き取りが可能な最高速度(線速)を、加工生産性として評価した。
【0075】
[重量平均分子量保持率の評価]
前記Tダイによる加工生産性評価で得た樹脂シートについて測定した重量平均分子量を、加工生産性評価を行う前の樹脂ペレットについて測定した重量平均分子量で除すことで、シート加工時の重量平均分子量の保持率を算出した。
【0076】
[曲げ弾性率の評価]
試験片の作製
得られたペレットを原料として、射出成形機(東洋機械金属社製:PLASTAR Si-100IV)を用いて射出成形を行ない、ISO 3167 Type Aに準拠した厚み4mmの多目的試験片に成形した。成形機のシリンダー設定温度は160~190℃、金型の設定温度は45℃とした。
曲げ弾性率の測定
三点曲げ試験機(オートグラフ AG-10TB:島津製作所社製)を用いて、JIS-K7171に準拠して、曲げ弾性率を測定した。試験条件は、試験速度2mm/min、支持台間距離64mm、圧子及び支持台の半径をそれぞれ5.0mmとした。測定雰囲気は23℃、50%RHとした。
【0077】
[耐衝撃性の評価]
ISOに表記されたダンベル試験片の中央部から80mm×10mm×4mmの短冊状サンプルを切り出し、さらにさらにノッチをISO指定の専用ノッチ切削機で加工し、V型ノッチの残りシロが8mmになるよう加工した。 この標準サンプルを用いて、23℃におけるシャルピー衝撃試験にて耐衝撃性を評価した。
【0078】
(実施例1)
P3HB3HH-1 75重量%とP3HB3HH-2 25重量%に対し、添加剤1重量部を添加してドライブレンドし、シリンダー温度及びダイ温度を150℃に設定したφ26mmの同方向二軸押出機に投入して押出し、45℃の湯を満たした水槽に通してストランドを固化し、ペレタイザーで裁断することにより、樹脂組成物ペレットを得た。
前記樹脂組成物は、示差走査熱量分析における融解ピーク温度が152℃、結晶融解エンタルピーが71J/g、重量平均分子量が59万であった。
【0079】
前記樹脂組成物ペレットのTダイでの加工生産性評価は10m/min、Tダイ加工後の重量平均分子量は54万、重量平均分子量の保持率は92%であり、曲げ弾性率は1850MPaであった。評価結果を表1に示す。
【0080】
(実施例2、比較例1~4)
配合を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製して各評価を実施し、結果を表1にまとめた。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、各実施例のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物は、曲げ弾性率が高く硬質で、線速が大きく加工生産性も良好で、かつシートへの二次加工時の重量平均分子量の保持率が高いことが分かる。
【0083】
一方、比較例1は、総結晶融解エンタルピーが76J/gと大きく、シートへの二次加工時に分子量が大きく低下したことが分かる。
比較例2は融点が低くすぎるもので、線速が小さく加工生産性が低いことが分かる。
比較例3は融点が高すぎるもので、樹脂ペレット作製時に溶融させるためにシリンダー及びダイの温度をそれぞれ170℃に上げる必要があったが、その際に分子量が大幅に低下してストランドに引くことが困難であった。そのため、樹脂組成物ペレットを得ることができず、各評価を実施することができなかった。
比較例4は総結晶融解エンタルピーが50J/gと低く、曲げ弾性率の低い軟質な樹脂組成物であることが分かる。
【0084】
(実施例3~4)
配合を表2に示すように、実施例1で得た樹脂組成物ペレットと、PBSA又はPCLを用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製して各評価を実施し、結果を表2にまとめた。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の実施例3~4より、実施例1のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂組成物に対しポリブチレンサクシネートアジペート樹脂又はポリカプロラクトン樹脂を配合することで、加工生産性や重量平均分子量の保持率を大きく損なうことなく、耐衝撃性の改善が可能であることが分かる。
図1