(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】引手及びスライダー
(51)【国際特許分類】
A44B 19/26 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
A44B19/26
(21)【出願番号】P 2020200493
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】杉本 篤紀
(72)【発明者】
【氏名】中瀬 麻理子
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-279211(JP,A)
【文献】特開平09-168412(JP,A)
【文献】特開平09-168411(JP,A)
【文献】国際公開第2015/004763(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/194044(WO,A1)
【文献】特開2004-073227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の集合体から形成される本体(31)と、
前記本体(31)に形成される係合部(32)と、
を含み、
前記係合部(32)は、前記本体(31)に形成される凹部である
ことを特徴とするスライドファスナー用スライダーの引手。
【請求項2】
前記係合部(32)の周囲の少なくとも一部に形成される補強部(33)をさらに含む
請求項
1記載のスライドファスナー用スライダーの引手。
【請求項3】
前記本体(31)は、積層される第1本体部(31a)と第2本体部(31b)を含み、
前記係合部(32)は、前記第1本体部(31a)に形成される第1係合部(32a)を含む
請求項
1又は2に記載のスライドファスナー用スライダーの引手。
【請求項4】
前記係合部(32)は、前記第2本体部(31b)に形成される第2係合部(32b)を含む
請求項
3に記載のスライドファスナー用スライダーの引手。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1つ記載の引手を備えるスライドファスナー用スライダー(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スライドファスナー用スライダーの引手及びスライダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用者は、スライダーの引手を引くことで、スライドファスナーを開閉させる。使用者が引手を引くと、引手とスライダーの連結部分には、荷重がかかる。そのため、引手とスライダーの胴体との連結部分に金属等の強度の高い材料を使用している技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、金属製の連結部分は、振動によってスライダーの胴体と衝突する。連結部分と胴体の衝突は、音を発生する。使用者は、この衝突音を不快に感じることがあった。また、引手本体と連結部分が異なる部材の場合、製作時の組付け工程数が増加し、コストが高くなっていた。さらに、引手本体と連結部分が異なる素材の場合、スライダー及び引手をリサイクルする際の分別が困難となっていた。
【0004】
これらの課題を解決するために、紐状の引手を有する技術が開示されている(特許文献2参照)。紐状の引手は、振動によるスライダーと胴体の衝突音が発生せず、引手本体と連結部分が一体の素材となり、リサイクルする際の分別が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3523028号公報
【文献】中国実用新案第203028293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、紐状の引手の場合、組付け時、作業者は、スライダー係合部の狭い空間に紐を通し、紐を環状に整え、両端を揃えた後、締結する必要がある。また、取り外し時、作業者は、紐の結び目を解き、スライダー係合部の狭い空間から紐を抜く必要がある。このように、紐状の引手のスライダー胴体への着脱作業は、工程数が多く、時間がかかっていた。
【0007】
この発明は、上述の問題点を考慮して発明されたものであり、振動によってスライダーの胴体と衝突する際に音が発生せず、リサイクルする際の分別が容易であり、スライダー胴体に取り付ける作業の工程数も少なく、容易に着脱可能なスライドファスナー用スライダーの引手を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係るスライドファスナー用スライダーの引手は、
繊維の集合体から形成される本体と、
前記本体に形成される係合部と、
を含み、
前記係合部は、前記本体に形成される凹部である。
【0010】
本発明の一実施形態に係るスライドファスナー用スライダーの引手は、
前記係合部の周囲の少なくとも一部に形成される補強部をさらに含む。
【0011】
本発明の一実施形態に係るスライドファスナー用スライダーの引手では、
前記本体は、積層される第1本体部と第2本体部を含み、
前記係合部は、前記第1本体部に形成される第1係合部を含む。
【0012】
本発明の一実施形態に係るスライドファスナー用スライダーの引手では、
前記係合部は、前記第2本体部に形成される第2係合部を含む。
【0013】
本発明の一実施形態に係るスライドファスナー用スライダーは、
前記引手を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態にかかるスライドファスナー用スライダーの引手は、振動によってスライダーの胴体と衝突する際の音が従来の全体が樹脂や金属の引手と比べてほとんど発生せず、リサイクルする際の分別が容易であり、スライダー胴体に取り付ける作業の工程数も少なく、容易に着脱可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態にかかるスライダーを上方から見た図を示す。
【
図2】本実施形態にかかるスライダーを側方から見た図を示す。
【
図7】他の実施形態にかかるスライダーの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明のスライドファスナー用スライダー1の引手3の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態にかかるスライダー1を上方から見た図を示す。
図2は、本実施形態にかかるスライダー1を側方から見た図を示す。なお、以下の実施形態では、
図1に示すように、いずれも矢印Uは上方、矢印Dは下方、矢印Fは前方、矢印Bは後方、矢印Lは左方、矢印Rは右方を表す。
【0018】
スライダー1は、図示しないスライドファスナーに備えるもので、左右一対のファスナーチェンに備えるファスナーエレメントの噛合および噛合解除に使用するものである。ファスナーチェンは、織編製のファスナーテープに金属または熱可塑性樹脂からなり、列状に取り付けられる複数の単独ファスナーエレメントを有する。なお、ファスナーチェンは、ファスナーテープに縫い付けられる熱可塑性樹脂からなるコイル状又はジグザグ状に形成された連続するファスナーエレメントを含んでもよい。
【0019】
スライドファスナーにおいて、使用者がスライダー1を矢印Fで示す前方に移動することで、左右のファスナーチェンのファスナーエレメントが噛合し、使用者がスライダー1を矢印Bで示す後方に移動することで、噛合が解除される。ここで、この前後方向(F-B方向)は、スライダー1の移動方向であり、ファスナーテープのテープ長さ方向でもある。矢印L、Rの左右方向(L-R方向)は、後述するスライダー1の胴体2の上翼板21および下翼板22に平行で、かつ前後方向に垂直である方向である。また、矢印U,Dの上下方向(U-D方向)は、上翼板21および下翼板22に垂直の方向であり、表裏方向とも言う。
【0020】
本実施形態の自動停止装置付スライドファスナー用のスライダー1は、
図1及び
図2に示すように、胴体2及び引手3から組立てられる。
【0021】
スライダー1の胴体2は、上翼板21と、下翼板22と、上翼板21の前方F側と下翼板22の前方F側を連結する案内柱23と、引手3を取付けるため上方Uに突出した引手取付部29と、を有する。上翼板21および下翼板22の後方B側で、左右方向(L-R)の側縁には、図示しないファスナーエレメントをガイドするフランジ24がそれぞれ突設される。上翼板21と下翼板22の間には、胴体2の前方F側の案内柱23の左右両側に肩口26が形成され、胴体2の後端に後口27が形成される。また、図示しないファスナーエレメントを案内するガイド溝28が肩口26から後口27に連通して形成される。
【0022】
胴体2の上翼板21には、引手3を取付けるため上方Uに突出した引手取付部29が形成される。引手取付部29は、上翼板21から上方Uに突出し、上翼板21に沿って後方Bに延び、その後下方Dに向けて延びる。引手3は、引手取付部29に対して着脱可能である。
【0023】
【0024】
第1実施形態の引手3は、テープ状の本体31と、本体31に形成される係合部32と、を含む。ここで、「テープ状」というのは、織布、編布、不織布のような布帛を一定の横幅と縦長さで切り取った外観が平板状態のものである。本願の各図面に記載では、長方形に切り取ったものを記載しているが、切り取り方は長方形に限るものではなく、曲線的な切り取り縁を備えていてもよい。また布帛を何枚か重ねているものでもよい。ループ状に縛ったり、ループ状に成形したりするものは本願においては「テープ状」という意味からは除く。
【0025】
本体31は、テープ状の部材が好ましいが、
図2に示した引手取付部29に取り付けることができるのであれば、厚みのある直方体状の部材でもよい。本体31は、少なくとも指でつまむことができる長さを有する。また、本体31の長さは、手でつかめる程度であってもよい。本体31は、単一の素材で、織組織、編組織、又は、不織布等の繊維の集合体から形成される。ファッション性を重視する場合には、引手本体31にロゴをプリントしてもよいし、係合部32とは別の部分に貫通穴を作成してもよい。本体31の表面は、コーティングされてもよい。
【0026】
係合部32は、
図2に示した引手取付部29に対して係合可能である。第1実施形態の係合部32は、本体31を上下方向(U-D)に貫通する孔を含む。孔は、紙面に平行な断面において、正方形及び台形等の四角形、又は、五角形等の多角形、若しくは、円及び楕円等、
図2に示した引手取付部29を挿入することができる形状であればよい。
【0027】
また、係合部32は、本体31の上方Uに開口を形成する凹部を含んでもよい。凹部は、紙面に平行な断面において、正方形及び台形等の四角形、又は、五角形等の多角形、若しくは、円及び楕円等、
図2に示した引手取付部29を挿入することができる形状であればよい。
【0028】
引手3を引手取付部29に取り付ける際、使用者は、引手3を持ち、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を挿入し、引手取付部29を係合部32に挿入して、引手3を胴体2に取り付ける。引手3を引手取付部29から取り外す際、使用者は、引手3を持ち、引手取付部29から係合部32を抜いて、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を取り外す。
【0029】
【0030】
第2実施形態の引手3は、テープ状の本体31と、本体31に形成される係合部32と、を含む。本体31は、第1実施形態と同じでよい。
【0031】
第2実施形態の係合部32は、
図2に示した引手取付部29に対して係合可能である。第2実施形態の係合部32は、本体31を上下方向(U-D)に貫通する切れ目を含む。切れ目は、紙面に平行な断面において、直線、屈曲線、曲線、又は、それらを組み合わせた線等、
図2に示した引手取付部29を挿入することができる形状であればよい。
【0032】
また、係合部32は、本体31の上方Uが開口可能な凹部でもよい。凹部は、紙面に平行な断面において、直線、屈曲線、曲線、又は、それらを組み合わせた線等、
図2に示した引手取付部29を挿入することができる形状であればよい。
【0033】
引手3を引手取付部29に取り付ける際、使用者は、引手3を持ち、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を挿入し、引手取付部29を係合部32に挿入して、引手3を胴体2に取り付ける。引手3を引手取付部29から取り外す際、使用者は、引手3を持ち、引手取付部29から係合部32を抜いて、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を取り外す。
【0034】
【0035】
第3実施形態の引手3は、テープ状の本体31と、本体31に形成される係合部32と、係合部32の周囲に形成される補強部33と、を含む。本体31及び係合部32は、第1実施形態及び第2実施形態のいずれかと同じでよい。
【0036】
第3実施形態の引手3は、係合部32が形成された本体31の縁部分に補強部33が形成される。補強部33は、ハトメ、シール、又は、コーティング等でよい。ハトメは、係合部32の周囲に取り付ければよい。シールは、係合部32の周囲に貼り付ければよい。コーティングは、係合部32の周囲又は本体31全体に施せばよい。また、係合部32の加工時に形成された繊維のほつれの溶融が補強部33を形成してもよい。
【0037】
引手3を引手取付部29に取り付ける際、使用者は、引手3を持ち、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を挿入し、引手取付部29を係合部32に挿入して、引手3を胴体2に取り付ける。引手3を引手取付部29から取り外す際、使用者は、引手3を持ち、引手取付部29から係合部32を抜いて、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を取り外す。
【0038】
【0039】
第4実施形態の引手3は、本体31を折り畳んで使用する。なお、本体31は、折り畳み部分を切断し、2本のテープに分けてもよい。本体31及び係合部32のその他の構成は、第1実施形態乃至第3実施形態のいずれかと同じでよい。
【0040】
折り畳まれる本体31の場合、上下方向(U-D)に積層される第1本体部31aと第2本体部31bが形成される。ここで、第1本体部31aと第2本体部31bの積層は、第1本体部31aと第2本体部31bが接着してもしなくてもよい。第1本体部31aと第2本体部31bの前後方向(F-B)の長さは、同じでも異なってもよい。第1本体部31aには第1係合部32aが形成され、第2本体部31bには第2係合部32bが形成される。
【0041】
第1係合部32aと第2係合部32bは、上下方向(U-D)で重なる。第1係合部32aと第2係合部32bは、
図2に示した引手取付部29に対して係合可能である。なお、第2係合部32bは、無くてもよい。
【0042】
2本に分けた本体31の場合、上下方向(U-D)に積層される第1本体部31aと第2本体部31bが形成される。ここで、第1本体部31aと第2本体部31bの積層は、第1本体部31aと第2本体部31bが接着してもしなくてもよい。第1本体部31aと第2本体部31bの前後方向(F-B)の長さは、同じでも異なってもよい。第1本体部31aには第1係合部32aが形成され、第2本体部31bには第2係合部32bが形成される。第1係合部32aと第2係合部32bは、上下方向(U-D)で重なる。第1係合部32aと第2係合部32bは、
図2に示した引手取付部29に対して係合可能である。
【0043】
引手3を引手取付部29に取り付ける際、使用者は、引手3を持ち、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を挿入し、引手取付部29を係合部32に挿入して、引手3を胴体2に取り付ける。引手3を引手取付部29から取り外す際、使用者は、引手3を持ち、引手取付部29から係合部32を抜いて、上翼板21と引手取付部29の間の隙間から本体31を取り外す。
【0044】
図7は、他の実施形態にかかるスライダー1の断面図を示す。
【0045】
図7に示すスライダー1は、胴体2に対して引手取付部29が別体に形成される。胴体2と引手取付部29は、着脱可能でもよい。引手取付部29は、先端29aがフック状に形成されてもよい。
【0046】
以上、本実施形態のスライドファスナー用スライダーの引手3は、繊維の集合体から形成される本体31と、本体31に形成される係合部32と、を含み、係合部32は、本体31を貫通する孔又は切れ目である。したがって、振動による胴体2と引手3の衝突音が発生しない。また、引手3をリサイクルする際の分別が容易である。さらに、引手3をスライダー胴体2に取り付ける作業の工程数が少なく、使用者が容易に着脱することができる。
【0047】
また、本実施形態のスライドファスナー用スライダーの引手3は、繊維の集合体から形成される本体31と、本体31に形成される係合部32と、を含み、係合部32は、本体31に形成される凹部である。したがって、振動による胴体2と引手3の衝突音が発生しない。また、引手3をリサイクルする際の分別が容易である。さらに、引手3をスライダー胴体2に取り付ける作業の工程数が少なく、使用者が容易に着脱することができる。
【0048】
また、本実施形態のスライドファスナー用スライダーの引手3は、係合部32の周囲の少なくとも一部に形成される補強部33をさらに含む。補強部33を引手取付部29に接触する部分に形成することは、引手3が引かれる際の本体31の強度を高くする。
【0049】
また、本実施形態のスライドファスナー用スライダー1の引手3では、本体31は、積層される第1本体部31aと第2本体部31bを含み、係合部32は、第1本体部31aに形成される第1係合部32aを含む。第1本体部31aと第2本体部31bの積層は、引手3を高強度化することができる。したがって、使用者は安定して引手3を引くことができる。
【0050】
また、本実施形態のスライドファスナー用スライダー1の引手3では、係合部32は、第2本体部31bに形成される第2係合部32bを含む。第2本体部31bへの第2係合部32bの形成は、第1係合部32aだけでなく第2係合部32bもスライダー1の引手取付部29に係合することになり、使用者は安定して引手3を引くことができる。
【0051】
さらに、本実施形態のスライドファスナー用スライダー1は、前記引手3を備える。したがって、使用者は安定して引手3を引き、スライダー1を開閉することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…スライドファスナー
2…スライダー
21…上翼板
22…下翼板
23…案内柱
24…フランジ
26…肩口
27…後口
28…ガイド溝
29…引手取付部
3…引手
31…本体
32…係合部
33…補強部