(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F01P 11/16 20060101AFI20241204BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20241204BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F01P11/16 Z
F02D29/02 L
F01P7/16 A
(21)【出願番号】P 2020201950
(22)【出願日】2020-12-04
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 亮
(72)【発明者】
【氏名】池原 賢亮
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-210243(JP,A)
【文献】特開2018-135792(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104636(WO,A1)
【文献】特開2008-162318(JP,A)
【文献】特開2020-148170(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0078467(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/00-11/20
F02D 29/00-29/06
F02D 43/00-45/00
B60W 10/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるエンジンの制御装置であって、
前記エンジンに冷却水を供給する電動のウォーターポンプと、
前記エンジンから排出される冷却水を、ラジエタで冷却して前記ウォーターポンプに循環させる第1冷却水通路と、
前記エンジンから排出される冷却水を、前記車両の室内を暖気するヒーターを経由して前記ウォーターポンプに循環させる第2冷却水通路と、
前記エンジンから排出される冷却水の排出先を、前記第1冷却水通路と前記第2冷却水通路との間で切り換える切換弁と
前記切換弁を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車両が走行する走行経路の情報に基づき、前記エンジンの負荷
の増大を予測し、
前記負荷の増大時の前記エンジンの冷却水の目標水温を設定し、
前記冷却水の実水温を取得し、
前記目標水温と前記実水温との偏差に基づき、前記目標水温を達成するための前記冷却水の必要流量を算出し、
前記第1冷却水通路に前記冷却水が流れるように前記切換弁を切り換える
とともに、前記ウォーターポンプの吐出量を増加させることで前記必要流量を確保し、前記冷却水の温度を前記負荷の増大に先立って前記目標水温へと低下させる、よう構成された、
エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの制御装置であって、前記制御部は前記走行経路に予測される勾配路の勾配が所定勾配以上の場合に前記負荷の増大を予測する、よう構成された、エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエンジンの制御装置であって、前記制御部は前記負荷の増大時には前記目標水温を前記車両の定常走行時よりも低い温度に設定する、よう構成された、エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御方法及びエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃費向上、排出ガス抑制の観点から、エンジンの冷却水温度を適切な温度に制御することが求められる。引用文献1には、冷却水温度の目標値を、ナビゲーションシステムからの信号に基づいて決定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術では、ナビゲーションシステムからの信号に基づいて、最小の燃料消費、排気ガス放出の最適化を考慮するようにエンジンの冷却水温度の制御を行なっていた。このため、エンジンの負荷に対して必ずしも適切に冷却水温度の制御を行なうことができなかった。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、エンジンの負荷が高くなることを予め予測することで、エンジンの冷却水温度を適切に制御できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、車両に搭載されるエンジンの制御装置に適用される。制御装置は、エンジンに冷却水を供給する電動のウォーターポンプと、エンジンから排出される冷却水をラジエタで冷却してウォーターポンプに循環させる第1冷却水通路と、エンジンから排出される冷却水を車両の室内を暖気するヒーターを経由してウォーターポンプに循環させる第2冷却水通路と、エンジンから排出される冷却水の排出先を、第1冷却水通路と第2冷却水通路との間で切り換える切換弁と、切換弁を制御する制御部と、を備える。制御部は、車両が走行する走行経路の情報に基づき、エンジンの負荷の増大を予測し、負荷の増大時のエンジンの冷却水の目標水温を設定し、冷却水の実水温を取得し、目標水温と実水温との偏差に基づき、目標水温を達成するための冷却水の必要流量を算出し、第1冷却水通路に冷却水が流れるように切換弁を切り換えるとともに、ウォーターポンプの吐出量を増加させることで必要流量を確保し、冷却水の温度を負荷の増大に先立って目標水温へと低下させるよう構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンジンの負荷が小さい場合はエンジンのフリクションロス及び冷却損失を低減できる高めの冷却水温度(低負荷水温)に設定し、エンジンの負荷が大きくなることを予測した場合は、予め水温を高負荷水温まで低下させることで高負荷でのエンジンの冷却状態を適切に制御でき、エンジンの燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態のエンジンの制御装置の構成図である。
【
図2】
図2は、冷却水温度制御のフローチャートである。
【
図3】
図3は、冷却水温度制御のタイムチャートである。
【
図4】
図4は、変形例の負荷上昇タイミングの学習のフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態の変形例のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施の形態のエンジン10を中心としたエンジン制御装置1の説明図である。
【0011】
エンジン制御装置1は、内燃機関(エンジン)10と、冷却水回路20と、これらを制御するエンジンコントロールユニット(ECU)50と、から構成される。エンジン制御装置1は車両に搭載され、車両の走行状態を制御する。
【0012】
エンジン10は、シリンダヘッド11とシリンダブロック12とから構成される。シリンダヘッド11及びシリンダブロック12には冷却水が流通する流路がそれぞれ備えられている。これら流路を流通する冷却水により、エンジン10の温度が制御される。エンジン10には、冷却水温度を検出する水温センサ81と、エンジン10のノッキングを検出するノッキングセンサ82とが備えられる。
【0013】
冷却水回路20は複数の冷却水流路を備え、ウォーターポンプ41から流出する冷却水がこれら冷却水流路を経由して、再びウォーターポンプ41に戻るように構成されている。
【0014】
冷却水回路20には、第1冷却水流路21、第2冷却水流路22、ヘッド側冷却水流路23、シリンダ側冷却水流路24、ラジエタ31、ヒーター32、ウォーターポンプ41、切換弁42、電動ウォーターポンプ43が備えられる。
【0015】
ウォーターポンプ41は、エンジン10に機械的に連結され、エンジン10の回転と共に回転することで冷却水回路20の冷却水を循環させる。
【0016】
ウォーターポンプ41から排出された冷却水は、エンジン10に備えられるシリンダ側冷却水流路24及びヘッド側冷却水流路23を流通することでエンジンの冷却を行なう。エンジン10から流出する冷却水は、切換弁42を介して第1冷却水流路21及び第2冷却水流路22へと流れる。
【0017】
切換弁42は、エンジン10から排出された冷却水を、第1冷却水流路21及び第2冷却水流路22の少なくとも一方へと流通させる1入力2出力の切換弁である。切換弁42は、ECU50の制御によりその流路が切り換えられる。
【0018】
第1冷却水流路21にはラジエタ31が備えられる。ラジエタ31は、冷却水と大気とで熱交換を行なうことで、冷却水温度を低下させる。
【0019】
第2冷却水流路22には、ヒーター32及び電動ウォーターポンプ43が備えられる。ヒーター32は、車室内に暖機を送る空調装置の構成部品である。電動ウォーターポンプ43はバッテリ等の電力により動作し、エンジン10の停止時にも冷却水を循環させる。
【0020】
ECU50は、エンジン10の運転状態を制御する。ECU50は、例えばマイクロコンピュータ及びROMやRAM等の記憶装置を備えて構成され、記憶装置に記憶されているプログラムを実行して切換弁42を制御することで、後述する冷却水温制御を実現する。
【0021】
エンジン制御装置1には、車両制御モジュール(VCM)51が備えられている。VCM51は、例えばカーナビゲーションシステムとして構成され、地図上の道路に関する情報、道路の勾配に関する情報等を予め記憶している。VCM51は、車両の車速、方位、時刻等の情報を取得して、地図上での車両の走行経路及び目的地を管理する。
【0022】
VCM51は、位置情報取得部としてのGPSモジュール52を備えている。GPSモジュール52は、車両の現在の位置(緯度、経度及び高度)に関する情報を取得する。VCM51は、GPSモジュール52が取得した現在の位置に基づいて、地図上での車両の現在位置を管理する。
【0023】
次に、エンジン10の冷却水温度の制御について説明する。
【0024】
エンジン10は、運転者の指示によって、また、車両が走行する路面の状態(例えば路面の勾配)によって、要求されるトルクが様々に変化する。
【0025】
ここで、エンジン10の燃費性能の要求も近年高まっており、できる限り少ない燃費により要求トルクを満たすことが要求されている。
【0026】
燃費向上のための1つの解決法として、冷却水温度の制御が挙げられる。例えば、エンジン10の負荷に応じて適切な温度に制御することにより、エンジン10のフリクションロス及び冷却損失を低減でき、燃費性能を向上することができる。
【0027】
一方で、エンジン10の負荷が高い場合は、エンジン10が許容温度以上に高温とならないように冷却水温度を制御する必要がある。エンジン10の負荷は走行経路の勾配に応じて様々に変化するため、従来は、燃費性能を考慮しつつも、エンジン10が急に高負荷となってもエンジン10の温度が過度に上昇しないように、低めの冷却水温度に保つことが一般的であった(
図3の冷却水温度のタイムチャートに点線で示す)。
【0028】
このために、従来は、必ずしも最適な冷却水温度に設定されているとは言えなかった。
【0029】
そこで、本実施形態では、次に説明するように、エンジン10の負荷に応じてエンジン10の冷却水温度を制御するように構成した。
【0030】
図2は、制御部としてのECU50により実行される冷却水温制御フローチャートである。この制御は、ECU50において実行されるプログラムにより実現され、所定間隔(例えば10ms毎)で実行される。
【0031】
ステップS10では、ECU50は、VCM51から車両の位置情報を取得する。
【0032】
ECU50は、GPSモジュール52が取得した緯度及び経度に関する情報に基づいて、VCM51に記憶されている地図情報から、車両の現在位置を取得する。
【0033】
なお、後述するように、緯度及び経緯からなる絶対的な位置情報ではなく、車両の走行開始位置からの時間、車速、方位等の積算値による相対的な位置情報を取得してもよい。
【0034】
次に、ステップS20では、ECU50は、車両が走行する走行経路の情報をVCM51から取得する。VCM51は、予め運転者等により設定された目的地と車両の現在位置とから、車両が現在走行している走行経路の情報を取得する。
【0035】
次に、ステップS30では、ECU50は、取得した走行経路の情報に基づいて、車両走行負荷プロフィールを算出する。
【0036】
車両走行負荷プロフィールとは、走行経路の全ての地点における勾配の情報と、その勾配に対応した車両の走行負荷とを関連づけて記憶した情報である。すなわち、車両走行負荷プロフィールは、車両がある走行経路を走行する場合に、その地点の勾配により、車両の走行負荷、すなわちエンジン10の負荷がどの程度となるか、に関する情報を有している。
【0037】
次に、ステップS40では、ECU50は、算出された車両走行負荷プロフィールに基づいて、所定時間t1秒後に走行負荷がどれだけ変化するかを算出する。ステップS50では、この走行負荷の変化に対応してエンジン10が要求される出力を算出する。ECU50は、所定時間t1秒後に到達する走行経路の地点における勾配を予測し、この勾配に応じた負荷の変化を車両走行負荷プロフィールから算出する。
【0038】
なお、本実施形態におけるt1秒は、走行負荷の上昇に対応して冷却水温度を目標水温Tw1へと制御可能な期間であり、例えば数秒~数十秒に設定される。
【0039】
次に、ステップS60では、ECU50は、算出されたt1秒後のエンジン出力に対応するエンジン10の冷却水の目標水温Tw1を算出する。
【0040】
目標水温Tw1は、エンジン10の負荷が低い場合、すなわち定常運転時では、エンジン10の燃費が優先されるように、冷却水温度(低負荷水温)が設定される。
【0041】
エンジン10の負荷が低い場合とは、車両の走行経路が勾配路(例えば勾配が3パーセント以上の登坂路)でない場合であって、この勾配路を走行するときの負荷(所定負荷)よりも小さい負荷が要求されている場合を指す。
【0042】
一方で、エンジン10の負荷が高い場合、すなわち勾配路(登坂路)を走行する場合には、エンジン10に必要とされる負荷(所定負荷)に応じて、定常走行時よりも低い冷却水温度(高負荷水温)に設定する。
【0043】
本実施形態における低負荷水温は、従来のエンジンにおける定常走行時の冷却水温度よりも数℃~10℃ほど高い冷却水温度に設定される。これは、本フローチャートで説明するように、エンジン10の負荷の上昇を予測しながら冷却水温度を制御できるので、前述した従来のエンジンのように、エンジンの負荷の上昇に備えて低めの冷却水温度に保つ必要がないからである。
【0044】
より具体的には、エンジン10の燃費性能を優先するためには、エンジン10のフリクションロス及び冷却損失の低減を考慮して、冷却水水温は高いことが望ましい。一方で、冷却水温度が高くなるにつれてエンジン10のノック性能が低下するので、この対策のために点火時期の遅角などの他の制御が必要になり、必ずしも冷却水温度を高くすればよいというものではない。すなわち、フリクションロス及び冷却損失の低減と、ノック性能とを両立しながら、定常走行時の燃費性能が最も向上する冷却水水温がエンジン10の構造等によって決まる。このときの冷却水温が低負荷水温として設定される。
【0045】
また、高負荷水温は、走行経路の勾配に応じたエンジン10の負荷に対応して、エンジン10の温度が許容温度を超えて高温とならないように、適宜設定される。または、エンジン10のノック性能が低下しない温度に設定される。
【0046】
次に、ECU50は、エンジン10の水温センサ81から実冷却水温Tw0を取得する(ステップS70)。そして、取得した実冷却水温Tw0と算出された目標水温Tw1との偏差ΔTwを算出する(ステップS80)。
【0047】
次に、ECU50は、算出された偏差ΔTwを満たすように、ラジエタ31を流通する必要冷却水量を算出する。ラジエタ31を通過する冷却水流量が多ければ冷却水温度は低下し、ラジエタ31を通過する冷却水流量が少なければ冷却水温度は上昇する。必要冷却水量は、ラジエタ31の冷却能力、車速、時間t1及びステップS60で算出した偏差ΔTwに基づいて算出される(ステップS90)。
【0048】
次に、ECU50は、算出された必要冷却水量に基づき、切換弁42の制御により、冷却水を第1冷却水流路21に流通させてラジエタ31を経由させるか、第1冷却水流路21への流通を止め、第2冷却水流路22のみを経由させてラジエタ31をバイパスさせるか、を制御する(ステップS100)。
【0049】
このステップS100の制御により、ECU50が、算出された必要冷却水量に対応してラジエタ31に流通させる冷却水の流量を制御することで、冷却水温度を制御することができる。
【0050】
図3は、本実施形態の冷却水温制御のタイムチャートである。
【0051】
図3において、上から、車両の走行負荷、エンジン10の回転速度、実冷却水温度、切換弁42の状態、ラジエタ31を通過する冷却水流量、がそれぞれ横軸を時間として示される。
【0052】
タイミングT0からタイミングT01の間は、車両の走行経路が平坦路であり、エンジン10の回転速度はほぼ一定である。すなわち、定常走行である。
【0053】
この場合、ECU50は、t1秒後のエンジン10の目標水温Tw1を低負荷水温に設定する。
【0054】
そして、前述のフローチャートのステップS70からS100で説明したように、ECU50は、実冷却水温Tw0と目標水温Tw1との偏差ΔTwに基づいてエンジン必要冷却水量を算出し、エンジン必要冷却水量に基づいて、切換弁42を制御する。
【0055】
図3に示すタイミングT0においては、切換弁42は閉状態、すなわち、エンジン10から排出された冷却水が第2冷却水流路22にのみを流通し、第1冷却水流路21のラジエタ31をバイパスするように設定されている。これにより、冷却水がラジエタ31により冷却されることなく、冷却水温度が比較的高い温度(低負荷水温)に制御される。
【0056】
なお、ECU50は、切換弁42を開閉制御するだけではなく、冷却水温度の変化による偏差ΔTwに基づいて切換弁42の開度を制御して、ラジエタ31に流通する冷却水流量を適宜制御することで、冷却水温度が目標水温Tw1に保たれるように制御してもよい。
【0057】
次に、タイミングT01において、ECU50は、t1秒後(タイミングT02)に車両が走行経路の登坂路に差し掛かることを予測する。ECU50は、登坂路の勾配に応じたエンジン10の負荷に対応した目標水温Tw1を高負荷水温に設定する。そして同様に、前述のフローチャートのステップS70からS100で説明したように、ECU50は、実冷却水温Tw0と目標水温Tw1との偏差ΔTwに基づいてエンジン必要冷却水量を算出し、エンジン必要冷却水量に基づいて、切換弁42を制御する。
【0058】
この制御により、切換弁42が所定の開弁量に制御され、エンジン10から排出された冷却水が第1冷却水流路21のラジエタ31に流通するように設定される。
【0059】
これにより、ラジエタ31を通過する冷却水流量が増加して、冷却水温度は徐々に低下し、タイミングT01からt1秒後のタイミングT02までに、高負荷水温である目標水温Tw1まで低下させられる。
【0060】
なお、タイミングT01からT02の間はまだ勾配路ではない(定常走行)ので、エンジン10の回転速度はほぼ一定である。従って、ウォーターポンプ41の吐出流量はほぼ一定となるので、ラジエタ31を通過する冷却水流量はタイミングT11で最大となる(頭打ちとなる)。
【0061】
次に、タイミングT02において、登坂路に差し掛かり、走行経路の勾配が大きくなる。このとき、ECU50が走行経路の勾配が大きくなることを予測し、エンジン10の負荷が上昇することを予測して、冷却水温度を高負荷水温まで既に低下させているので、エンジン10の負荷に対応した冷却水温度とすることができる。
【0062】
その後、車両が登坂路を走行すると、エンジン10の負荷が上昇しエンジン10の回転速度も上昇する。エンジン10の負荷の上昇によりエンジン10を通過する冷却水温度は上昇する。また、エンジン10の回転速度上昇に伴い、ウォーターポンプ41の吐出流量も上昇するので、冷却水温度は許容温度必要以上に上昇することはない。
【0063】
以上のように構成された本発明の実施形態では、車両に搭載されるエンジン10を、エンジンの制御装置であるECU50により制御する。ECU50は、エンジン10の負荷が所定負荷(勾配路を走行するために必要とされるエンジン10の負荷)よりも小さい場合は、エンジン10の冷却水温度を低負荷水温に設定する手順と、車両が走行する走行経路の状態に基づき、エンジン10の負荷が所定負荷よりも大きくなることを予測した場合は、負荷が大きくなるまでに、冷却水温度を、低負荷水温よりも低い温度である高負荷水温まで低下させる手順と、を備える。
【0064】
このような制御により、エンジン10の負荷が小さい場合はエンジン10のフリクションロス及び冷却損失を低減できる高めの冷却水温度(低負荷水温)に設定する。一方、エンジン10の負荷が大きくなることを予測した場合は、予め水温を高負荷水温まで低下させることで高負荷でのエンジン10の冷却状態を適切に制御できるので、エンジン10の燃費を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態では、車両の位置情報を取得する位置情報取得部としてのGPSモジュール52が備えられ、GPSモジュール52が取得した位置情報から前記車両が走行する走行経路の状態を予測し、予測した走行経路の状態に基づき、エンジン10の負荷が所定負荷よりも大きくなることを予測する。
【0066】
このような制御により、走行経路の状態を、GPSモジュール52が取得した車両の位置情報によって予測することができる。
【0067】
また、本実施形態では、車両が所定勾配以上の登坂路を走行することを予測した場合に、エンジン10の負荷が所定負荷よりも大きくなることを予測する。
【0068】
このような制御により、車両が勾配路を走行することを予め予測して、エンジン10の冷却水温度を制御することができる。
【0069】
また、本実施形態では、エンジン10には、ラジエタ31を備える第1冷却水流路21と、第1冷却水流路21をバイパスする第2冷却水流路22と、第1冷却水流路21及び第2冷却水流路22への冷却水の流通を切り換える切換弁42と、が備えられ、ECU50は、切換弁42の開閉により流量を制御することにより冷却水温度を制御する。
【0070】
このような制御によって、予測されたエンジン10の負荷に基づき、切換弁42の制御によって、冷却水温度を制御することができる。
【0071】
なお、本実施形態において、冷却水温度を低負荷水温から高負荷水温に変化させるときに、ECU50が、切換弁42の切り換えに加えて電動ウォーターポンプ43を動作させて、ラジエタ31を通過する冷却水量をより増加させてもよい。このように制御することにより、冷却水温度をより速く高負荷水温へと変化させることができる。
【0072】
なお、本実施形態では、車両の走行経路に関する情報を、VCM51により設定された目的地及びGPSモジュール52が取得した現在位置により取得するように構成したが、これに限られない。
【0073】
例えば、車両が出発地から目的地まで同一の走行経路を繰り返し走行する場合に、その間のエンジン10の負荷(トルク)の時間変化をECU50が常に記録しておく。そして、ECU50は、記録されたトルク変化を学習することにより、エンジン10が所定負荷よりも上昇する地点を、例えば出発地からの時間経過により予測することが可能になる。
【0074】
図4は、本実施形態の変形例におけるエンジン10の負荷の学習のフローチャートである。この制御は、ECU50において実行されるプログラムにより実現され、所定間隔(例えば10ms毎)で実行される。
【0075】
まず、ECU50は、車両が走行を開始した場合に(ステップS110)、エンジン10の負荷の時間変化を記録する(ステップS120)。
【0076】
そして、ECU50は、車両が目的地に到達した場合は(ステップS130)、記録されたエンジン10の負荷の時間変化の学習を行なう(ステップS140)。
【0077】
負荷の時間変化の学習は、例えば、既に記録されている情報から同一のパターンの負荷の時間変化のものを取得し、これらを蓄積して記録することで、車両が繰り返し走行する走行経路において、負荷が上昇するタイミングを学習することができる。
【0078】
ECU50がこのような学習を行なうことにより、学習されたタイミングが、エンジン10の負荷が上昇するタイミングであると予測できるので、このタイミングのt1秒前に、前述のように冷却水温度を制御することができる。
【0079】
このように、本発明の実施形態の変形例では、ECU50が、車両が繰り返し走行する走行経路を学習により記憶する手順と、学習の結果に基づき、エンジン10の負荷が所定負荷よりも大きくなることを予測する手順と、を更に備える。
【0080】
このような制御により、車両の現在位置を取得するGPS等の装置を備えない車両であっても、エンジン10の負荷が低い場合には、エンジン10のフリクションロス及び冷却損失を低減するように低負荷水温に設定できる。エンジン10の負荷が高くなることを予測した場合には、エンジン10の負荷に応じた高負荷水温に設定するので、エンジンの燃費を向上させることができる。
【0081】
なお、前述した学習方法は一例であって、他の方法で学習を行なってもよい。
【0082】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0083】
図1から3では、エンジン10の冷却水温度を切換弁42制御により行なう例を説明した。これに対して、変形例では、ウォーターポンプ41を電動ポンプとして構成し、ECU50の制御によりウォーターポンプ41の吐出量を変化できるように構成した。これにより、ウォーターポンプ41は、その吐出量がエンジン10の回転速度に依存せず、ECU50により吐出量が制御される。なお、ウォーターポンプ41を電動ポンプとして構成した場合は、エンジン10の駆動にかかわらず冷却水を流通できるので、電動ウォーターポンプ43を省略することができる。
【0084】
図5は、本実施形態の変形例におけるタイムチャートであり、
図3に対応する。
【0085】
この変形例において、タイミングT0においては、
図3で説明したように、ECU50が、冷却水温度が低負荷水温となるように、切換弁42を閉状態にしてラジエタ31をバイパスさせている。
【0086】
その後、タイミングT21において、ECU50は、t2秒後(タイミングT02)に車両が走行経路の勾配路に差し掛かることを予測する。このt2秒は、
図2のステップS100に対応する制御により、冷却水温度が高負荷水温まで低下するために必要な時間であり、
図3で説明したt1秒よりも短い時間である。タイミングT21は、
図3で説明したタイミングT01よりも遅い時間(タイミングT02により近い時間)である。
【0087】
この変形例では、冷却水温度を変化させる場合(ステップS100)に、ECU50が、切換弁42を開状態に制御して第1冷却水流路21のラジエタ31に流通するように設定すると共に、ウォーターポンプ41の吐出量を増加させて、ラジエタ31を通過する冷却水量を増加させるように制御する。
【0088】
図5に示すように、タイミングT21からタイミングT22にかけて、ラジエタ31を通過する冷却水流量が最小から最大まで変化する。これにより、冷却水温が、タイミングT21からタイミングT02の間で、低負荷水温から高負荷水温へと変化する。
【0089】
従って、
図3で説明した切換弁42のみの制御と比較して、冷却水温度をより早く変化させることができ、低負荷水温から高負荷水温により早く変化させることができる。従って、勾配路を予測して高負荷水温に変化させるタイミングをより遅くでき、定常走行での低負荷水温の期間をより長くできる。
【0090】
図5に示す例では、高負荷水温へと制御を開始する時刻(T02のt2秒前、タイミングT21)が、
図3の時刻(T02のt1秒前、タイミングT01)と比較して遅くなっている。この期間、すなわちT21-T01の間は、低負荷水温のまま走行することができる。これにより、
図3に示す例と比較して、この期間の燃費を向上できる。
【0091】
なお、ECU50は、切換弁42を制御することなくウォーターポンプ41の吐出量のみを可変させて、ラジエタ31を通過する冷却水量を変更するように制御してもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態、及びその変形例について説明したが、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0093】
前述した本実施形態では、エンジン10の負荷の上昇を走行経路の勾配により予測する例を示したが、これに限られない。例えば一般道路から高速道路へと流入する地点や、狭窄道路から幅広道路に変化する地点を、車両の走行負荷が上昇する地点であると予測してもよい。
【0094】
また、前述の
図2のフローチャートにおいて、t1秒後に登坂路から平坦となることを予測し、走行負荷が低下することを予測した場合、目標水温Tw1を低負荷水温に設定するタイミングを、t1秒後ではなく、直ちに設定してもよい。
【0095】
また、本実施形態では、エンジン10を駆動させて走行する車両を例に説明したが、これに限られない。エンジン10とモータを共に駆動させて走行する車両や、エンジン10により発電機を発電させて、この電力によりモータを駆動させて走行する車両であっても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0096】
1 エンジン制御装置
10 エンジン
20 冷却水回路
21 第1冷却水流路
22 第2冷却水流路
23 ヘッド側冷却水流路
24 シリンダ側冷却水流路
31 ラジエタ
41 ウォーターポンプ
42 切換弁
43 電動ウォーターポンプ
50 ECU(制御部)
51 VCM
52 GPSモジュール(位置情報取得部)
81 水温センサ