(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ペン先及びこのペン先を備えた筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 1/12 20060101AFI20241204BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B43K1/12 B
B43K8/02 100
(21)【出願番号】P 2020535835
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031128
(87)【国際公開番号】W WO2020032104
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-08-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018148799
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】神谷 俊史
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】道祖土 新吾
【審判官】殿川 雅也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許公開第2002/0141808号明細書
【文献】国際公開第2007/116746号
【文献】特開2003-11579号公報
【文献】特開平10-140422号公報
【文献】国際公開第2013/099674号
【文献】特開2005-306932号公報
【文献】特開2006-175730号公報
【文献】特開2005-66893号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43K 1/00-31/00
A45D 34/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隠蔽材料が固着されたペン芯を含むペン先を備えた筆記具であって、
前記ペン芯は、ポリエチレン粉末を焼結した焼結体から構成されると共に、隠蔽材料が、平均粒子径が
350nmの酸化チタンであり、該隠蔽材料の含有量が、ペン芯全量に対して
4質量%
であり、該隠蔽材料が固着された後のペン芯は、L
*a
*b
*(CIE LAB)表色系での明度(L
*値)が80以上であり、該筆記具には、染料インク又は染料を含む樹脂微粒子顔料インクが搭載されると共に、該インクを含浸した状態の上記ペン芯の明度(L
*値)が30以上であり、筆記描線とペン芯との色差ΔEが
36以下であることを特徴とするペン先を備えた筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン先での発色を高め、ペン先における色識別性を高めることができるペン先、及びこのペン先を備えた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペイントマーカー、アンダーラインマーカー等と称される筆記具のペン先は、幅広のペン芯を備えることにより幅広の線引きを可能にしたものであって、マーキングの視認性や作業性に優れているため幅広く使用されている。
ラインマーカー等の筆記具におけるペン先は、一般に合成樹脂繊維等を棒状等に集束したものや、高分子の焼結体などの多孔質部材に毛細管作用を付与し、これにより筆記具本体となる軸体から供給されるインクをペン先に導出することにより筆記可能としたものである。
【0003】
また、蛍光インクを筆記具本体となる軸体内に収容した筆記具の普及にともない、幅広の線引きを可能とした多くの構造、形状のペン先を用いた筆記具が市販されたことにより、使用者の用途に応じた筆記具の広い選択が可能となり、その作業性も快適なものとなっている。
【0004】
これらのラインマーカー等に用いられているインクは、着色剤として蛍光染料や油性染料などを用いた染料インク(水性染料インク、油性染料インク)や、染料を樹脂微粒子に内包させた(疑似顔料)インクなどが知られている。
これらのインクは、色材に透明性があるため、インクバルク自体の色相やペン芯、中綿に含浸されたときの見た目が、暗くなってしまうものである。なお、顔料インクはインクバルク自体の発色も良いものである。
【0005】
蛍光インクなどの着色力の弱いインク(例えば、黄色蛍光インク)がペン芯に含浸されているときは、その外観の色相は、筆記描線の色相と大きな差異はないが、着色力の強いインク(ピンク、赤色、青色、緑色などのインク)がペン芯に染み込むと、描線が淡い色であっても、ペン芯自体は黒っぽい色となってしまい、ペン先から筆記描線の色相を識別することが困難となってしまうなどの課題がある。特に、ペン先に、筆記方向を視認できる可視部(窓部)を備えた筆記具(例えば、特許文献1参照)では、ペン先が大きく、キャップが透明になっているため、ペン先の黒さが目立ってしまい鮮やかさや色識別性が低下するなどの課題があった。
【0006】
一方、ペン先を樹脂コーティング、着色等の加工を施した先行技術としては、例えば、
1)インキが滲んでペン軸先端部に伝わって汚染することを防止すると共に、繊維からなる原棒表面の毛羽立ちを防ぎ、ペン先をくずれにくくすることなどを目的として、熱加工と樹脂バインダによって繊維を長手方向に収束してなる繊維製ペン先体用原棒において、その表面を着色剤を含むセルロース誘導体を塗膜成分とするビヒクルによりコーティングして被覆したことを特徴とする繊維製ペン先体用原棒(例えば、特許文献2参照)、
2)合成繊維をバインダで結束させてなる繊維束を、ペン先形状に加工した後染色によって着色してなるペン先とすることにより、ペン先の表面すべてを着色して、淡色でも濃色でもムラなく均一な着色ペン先を得ることができ、染料を変更するだけで容易に色の変更も行うことができるペン先(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2及び3に記載の繊維製ペン先体用原棒やペン先は、ペン先表面の一部又はすべてを予め着色するものであるが、着色力の強いインクがペン先に染み込むと、未だペン先が黒っぽい色となってしまったり、また、染色による着色では、使用対象のインクに制限が生じることもあり、更に、ペン先の着色による色相と筆記描線との色相が微妙に相違するなどの課題が生じているのが現状である。これらの特許文献2、3と本発明とは、その発明の目的や課題、技術思想(構成及びその作用効果)が異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-52682号公報(特許請求の範囲、
図7等)
【文献】特開平8-267982号公報(特許請求の範囲、
図3等)
【文献】特開2003-11569号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、ペン先での発色を高め、ペン先における色識別性を高めることができると共に、ペン先の着色による色相と筆記描線との色相に相違がないペン先、及びこのペン先を備えた筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記従来の課題等を解決するために鋭意検討した結果、ペン芯を備えたペン先であって、ペン芯は、隠蔽材料を含むと共に、その明度を特定値以上とすることなどにより、上記目的のペン先及びこのペン先を備えた筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明のペン先は、隠蔽材料を含むペン芯を備えたペン先であって、インクを含まない状態のペン芯は、L*a*b*(CIE LAB)表色系での明度(L*値)が80以上であることを特徴とする。更にペン芯にインクを含んだ状態の明度(L*値)は30以上であることを特徴とする。
前記隠蔽材料は、酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種であって、平均粒子径が50~1000nmであることが好ましい。
また、ペン芯は、焼結芯又は繊維束芯で構成され、隠蔽材料が焼結芯又は繊維束芯に固着されていることが好ましい。
本発明の筆記具は、上記構成のペン先を備えた筆記具であって、該筆記具には、染料インク又は染料を含む樹脂微粒子顔料インクが搭載されたことを特徴とする。
筆記描線とペン芯との色差△Eが40未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ペン先での発色を高め、ペン先における色識別性を高めることができると共に、ペン先の着色による色相と筆記描線との色相に相違がないペン先、及びこのペン先を備えた筆記具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のペン先を筆記具の先軸に取り付けた実施形態の一例を示すものであり、(a)は左側方向から見た斜視図、(b)は(a)の逆となる右側方向から見た斜視図である。
【
図2】本発明のペン先の実施形態の一例を示す各図面であり、(a)は背面図、(b)は平面図、(c)正面図、(d)は縦断面図、(e)は左側方向から見た斜視図、(f)は(e)の右側方向から見た斜視図、(g)は右側面図、(h)は左側面図、(i)は(e)の逆となる左側方向から見た斜視図、(j)は(i)の右側方向から見た斜視図である。
【
図3】(a)~(j)は、保持体の一例を示す各図面であり、(a)は背面図、(b)は平面図、(c)正面図、(d)は縦断面図、(e)は左側方向から見た斜視図、(f)は(e)の右側方向から見た斜視図、(g)は右側面図、(h)は左側面図、(i)は(e)の逆となる左側方向から見た斜視図、(j)は(i)の右側方向から見た斜視図である。
【
図4】
図2のペン先を用いた筆記具の一例を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳しく説明する。
図1(a)及び(b)は、本発明のペン先を筆記具の先軸に取り付けた実施形態の一例を示す各斜視図であり、
図2(a)~(j)は本発明のペン先の実施形態の一例を示す各図面であり、
図3(a)~(j)は、保持体の一例を示す各図面であり、
図4は
図2のペン先を用いた筆記具の一例を示す部分縦断面図である。
本実施形態のペン先Aは、
図1及び
図2に示すように、筆記方向を視認することができる可視部を有する保持体10と、該保持体10に装着されたペン芯20とを備えたものである。
【0015】
保持体10は、
図1、
図2(a)~(j)及び
図3(a)~(j)に示すように、筆記芯となるペン芯20を固定して、軸体30の先軸35先端開口部に固着されるものであり、膨出状の本体部11と、該本体部11の前方側に、フランジ部12と、筆記方向を視認することができる可視部13とを有すると共に、可視部13の先端側にペン芯20の先端側(端面)を保持する前方保持部14a,14bとを有するものである。本実施形態では、前方保持部14a,14bの長手方向長さを異ならしめているもの、すなわち、ペン芯20の先端側(端面)を保持する長さが長い前方保持部14aと短い前方保持部14bとし、前方保持部14aの先端側の端部はペン芯20の先端側の端部と同じ位置(端部)にあり、前方保持部14bは後述するように突出量(突出長さ分)だけ短い寸法となっている。なお、上記保持体10において、ペン芯20の先端側(端面)を保持する長い前方保持部14aと短い前方保持部14bとしたが、前方保持部14aと前方保持部14bとの保持長さを同じくしてもよいものである。
また、上記本体部11の後方側に、上記本体部11に連設される保持片15を有する後方保持部16を備えたものである。これらの部材から構成される保持体10の長手方向外周面全体には、後述するコ字型状のペン芯20を嵌入保持する保持溝17が形成されている。更に、本体部11の幅方向外周面には、凹状の嵌合部11aが形成され、長手方向外周面となる両面空気流通溝には、それぞれ直線状の空気流通溝11bと屈曲状の空気流通溝11cが形成されている。
【0016】
このように構成される保持体10全体は、硬質材料で構成されており、例えば、視認性を有する硬質材料、例えば、金属、ガラス、ゴム弾性を有しない樹脂などから構成されるものである。視認可能となるゴム弾性を有しない樹脂としては、例えば、PP、PE、PET、PEN、ナイロン(6ナイロン、12ナイロン等の一般的なナイロン以外に非晶質ナイロン等を含む)、アクリル、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ABS等の可視光線透過率が50%以上の材料から成形により構成することにより、可視部13で筆記方向に書いてある文字を有効に視認できることとなる。なお、可視部13だけを視認性を有する材料で構成してもよい。なお、可視光線透過率は多光源分光測色計〔スガ試験機社製、(MSC-5N)〕にて反射率を測定することで求めることができる。
また、保持体10は、上記各材料の一種類、または、耐久性、視認性の更なる向上の点などから、2種類以上の材料を用いて構成してもよく、射出成形、ブロー成形などの各種成形法により成形することができる。
【0017】
このペン芯20は、
図1、
図2(a)~(j)に示すように、断面が円形形状で、全体が略コ字型形状となるものであり、インク誘導部21、21と、該インク誘導部21、21からのインクを導出する筆記部22とを備えたものであり、インク誘導部21、21と筆記部22との角部は切り落とされたカット面部23、23とを有している。また、インク誘導部21、21の表面部には平滑面となるカット平滑面部21aが形成されている。
【0018】
本発明において、上記構造のペン芯20は、隠蔽材料を含むものであり、インクを含んでいない状態でL*a*b*(CIE LAB)表色系での明度(L*値)が80以上となっている。
上記L*a*b*(CIE LAB)表色系は、色相評価を行うための色調を表す方法の一つであり、国際照明委員会(CIE)が策定した、目で見える色を色空間として表現するものである。この明度(L*値)は、明るさの傾向を示す一指標であり、0~100の範囲である。上記明度(L*値)を80以上とすることにより、ペン先での発色を高め、ペン先における色識別性を高めることができる。一方、明度(L*値)が80未満あると、本発明の効果を発揮することができないこととなる。
好ましくは、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、より好ましくは、明度(L*値)が90~100の範囲であることが望ましい。また、無彩色度C*値が30未満とすることがより好適である。
なお、無彩色度C*は、下記式(B)より算出される。
無彩色度C*=(a*2+b*2)1/2 ・・・(B)
【0019】
本発明において、隠蔽材料を含むペン芯20におけるL*a*b*(CIE LAB)表色系での明度(L*値)を80以上にする方法等としては、隠蔽材料を含むことにより、上記明度(L*値)が80以上にできれば、特に限定されず、例えば、ペン芯成形後のペン芯に隠蔽材料を固着せしめる方法、また、ペン芯を構成する材料と隠蔽材料とを複合化してペン芯を構成する方法などが挙げられる。具体的な作製方法は後述する。
用いることができる隠蔽材料としては、高屈折材料となる酸化チタン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、硫酸バリウムから選ばれる少なくとも1種(単独又は2種以上の混合物、以下同様)であって、その平均粒子径は、好ましくは、50~1000nmのものが望ましい。
この隠蔽材料の平均粒子径を50nm以上とすることにより、効率的にペン芯に隠蔽材料を含ませることができ、一方、1000nm未満とすることにより、インク流出性を損なうことがない。更に好ましくは、平均粒子径は100~500nmであることが望ましい。
【0020】
この隠蔽材料の含有量は、ペン芯に隠蔽材料を含むことによりペン芯に弱い隠蔽性を付与して上記明度(L*値)が80以上にでき、ペン先での発色を更に高め、ペン先における色識別性を更に高めることができれば、特に限定されないが、ペン芯におけるインク流出性、並びに、ペン芯への隠蔽材料の固着や複合化等を容易にせしめる点等から、ペン芯全量に対して、好ましくは、0.01~10質量%、更に好ましくは、1~5質量%であることが望ましい。
【0021】
一方、ペン芯20は、上記隠蔽材料を含むものであるが、基本的性能として、良好なインク流出性を有するものであるので多孔質部材から構成されている。例えば、このペン芯は、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる並行繊維束、フェルト等の繊維束を加工又はこれらの繊維束を樹脂加工した繊維芯、または、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の熱可塑性樹脂などのプラスチック粉末などを焼結したポーラス体(焼結芯)などからなるものである。
好ましいペン芯20としては、繊維束芯、繊維芯、焼結芯、フェルト芯、スポンジ芯、無機多孔体芯であり、特に好ましくは、変形成形性の点、生産性の点から、焼結芯が望ましい。
【0022】
本発明において、上記特性のペン芯20を具体的に作製する方法等としては、例えば、1)の作製方法では、成型後のペン芯を少なくとも隠蔽材料と固着樹脂を含む処理液に含浸させ、乾燥、固着させることで作製する方法、2)ペン芯を構成する材料と隠蔽材料とを複合化させてペン芯を作製する方法、3)ペン芯を構成する材料内に隠蔽材料を混合や内包した後、ペン芯を作製する方法などが挙げられる。
【0023】
上記1)に用いる固着樹脂としては、インク流出性、インクに影響を与えない点等から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、等を用いることができる。この作製方法は、ペン芯を目詰まりさせることなく良好なインク流出性(後述する気孔率)を確保する点などから、固形分濃度が1~30質量%の固着樹脂と、隠蔽材料と必要に応じて溶剤を含む処理液を調製し、該処理液に成形後の繊維束芯、繊維芯、焼結芯、フェルト芯、スポンジ芯、無機多孔体芯などから構成されるペン芯を含浸させ、乾燥、固着させることで、上記所定の気孔率と所定割合の隠蔽材料が固着されたペン芯を作製することができる。
また、予めペン芯の気孔率を高めて(大きめにして)おいて、上記処理液を含浸させて気孔率を低減させて所定の気孔率と所定割合の隠蔽材料が固着されたペン芯とすることもできる。
【0024】
上記2)のペン芯を構成する材料と隠蔽材料とを複合化させてペン芯を作製する方法は、例えば、ペン芯が焼結芯の場合、少なくとも上述のプラスチック粉末と隠蔽材料とを所定割合で混合後、好適な条件下で焼結することで、所定の気孔率と所定割合の隠蔽材料が複合化されたペン芯とすることができる。
上記3)の作製方法としては、ペン芯を構成する上述の繊維材料となる樹脂を溶融させた溶融体に上記隠蔽材料(繊維状酸化チタンなどを含む)を混合して隠蔽材料含有繊維を紡糸して繊維化し、この繊維を用いて上述の繊維束芯や繊維芯とする方法などが挙げられる。また、ペン芯が焼結芯の場合、少なくとも上述のプラスチック粉末内に隠蔽材料を予め内包した後、焼結芯用基材を作製し、好適な条件下で焼結することで、所定の気孔率と所定割合の隠蔽材料を有するペン芯とすることができる。
【0025】
また、本発明に用いるペン芯20は、上記特性の隠蔽材料が所定割合で含むと共に、その気孔率、大きさ、硬度などは、隠蔽材料の固着や複合化による作製方法、インク種、筆記具の種類等により、変動するものであり、例えば、気孔率では30~60%とすることが好ましい。
本実施形態のペン芯20では、平均粒子径200μmのポリエチレン粉末と平均粒子径350nmの酸化チタンとで焼結した気孔率55%の焼結芯(焼結体)から構成されている。なお、本発明において、「平均粒子径」は、電子顕微鏡にて、測定した粒子の直径の平均値を示し、電子顕微鏡に投影された画像内の20個の粒子について測定した粒子径の平均値である。粒子が円形でない場合は、気孔を形成する輪郭の任意の2点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さと最も短い線分の長さを足して2で割った値を、その粒子の粒子径とする。
また、気孔率は下記のようにして算出される。まず、既知の質量及び見掛け体積を有するペン芯を水中に浸し、十分に水を浸み込ませた後、水中から取り出した状態で質量を測定する。測定した質量から、ペン芯に浸み込ませた水の体積が導出される。この水の体積をペン芯の気孔体積と同一として、下記式(A)から、気孔率が算出される。
気孔率(単位:%)=(水の体積)/(ペン芯の見掛け体積)×100 ……(A)
【0026】
また、本実施形態のペン芯20の幅方向の長さtは、十分な筆記流量の確保を確保する点から、好ましくは、0.50mm以上、特に、1.00~3.00mmであることが望ましい。
筆記部22は、筆記しやすい傾きとなるように、傾斜状(ナイフカット状)となっており、この傾き等は、筆記等の使い勝手に合わせて適宜設定される。また、この筆記部22は、描線幅Wが太いものであり、好ましくは、描線幅Wは1mm以上、更に好ましくは、描線幅Wは2mm以上の描線幅となる筆記部が望ましい。
【0027】
このペン先Aにおいて、上記ペン芯20の保持体への固着(装着)は、保持溝17に上記ペン芯20を嵌入し、前方保持部14a,14bと保持片15を有する後方保持部16との保持により固着されることとなる。更に、ペン芯20の固着(抜け止め)を確実にするために、接着剤による接着、溶着などを更に用いても良いものである。また、ペン芯20の筆記部22と接触する保持体10の保持溝17の接触面部に楔形状の非平滑面部を形成して更に上記ペン芯20の保持体10への固着を確実にしてもよいものである。本実施形態では、
図2(d)に示すように、上記楔形状の非平滑面部18を形成している。
【0028】
本実施形態では、
図2(b)に示すように、保持体10からのペン芯20の先端側の突出量Yが0.65mm以上、1mm未満となっており、これにより強い筆記荷重で筆記してもペン芯20の先端側の突出量Yを極力保持体内面で筆記芯を押さえる構造となるため、筆記性能を損なうことなく、ペン芯の破損を防ぎ耐久性に優れるものとしている。突出量Yが、0.65mmよりも短いと、ペン体を寝かせて筆記する際に、保持体が接触し、筆記できなくおそれがあり、一方、突出量Yが、1mmよりも長いと、強い筆記荷重により、筆記性能を損なう可能性がある。なお、
図4(d)に示すXは筆記芯幅であり、上記突出量Yは、上記0.65mm以上、1mm未満であると共に、筆記芯幅Xの50%未満であることが好ましい。
【0029】
また、本発明では、上記実施形態の他、保持体10からのペン芯20の先端側の突出量Yをペン芯の厚さtの40~65%とすることによっても、筆記性能を損なうことなく、ペン芯の破損を防ぎ耐久性に優れるものとなる。筆記芯の先端側の突出量Yをペン芯20の厚さtの40~65%(Y/tが40~65%)とすることにより、強い筆記荷重で筆記してもペン芯20の先端側の突出量Yが筆記芯の厚さとの関係から、ペン芯の強度を更に保持できると共に、突出量Yを極力保持体内面でペン芯を押さえる構造となるため、更に筆記性能を損なうことなく、ペン芯の破損を防ぎ耐久性に優れるものとしている。より好ましくは、ペン芯20の先端側の突出量Yはペン芯厚さtの48~58%とすることが望ましい。この突出量Yがペン芯の厚さtの40%未満であると、強い筆記荷重により、筆記性能を損なう可能性があり、一方、65%超過であると、保持体が厚くなり、筆記の際に紙面が見にくくなる。なお、Xはペン芯幅Xであり、上記突出量Yは、上記ペン芯の厚さtの40~65%と共に、ペン芯幅Xの50%未満(Y/Xが50%未満)であることが好ましい。
特に好ましい形態としては、保持体からの筆記芯の先端側の突出量Yを0.65mm以上、1mm未満及び筆記芯厚さtの40~65%とすることが望ましい。
【0030】
このように構成される本発明のペン先Aは、少なくとも、筆記方向を視認することができる可視部13を有する保持体10と、該保持体10に装着され上記特性のペン芯20とを備えたものであり、該ペン芯20には上述の隠蔽材料が固着、複合化などにより含むと共に、ペン芯は、L*a*b*(CIE LAB)表色系での明度(L*値)が80以上に設定されることにより、ペン先での発色を高め、ペン先における色識別性を高めることができるものとなっている。
【0031】
本発明の筆記具は、上記構成のペン先を備えたことを特徴とするものである。なお、本発明の筆記具は、上記構成のペン先を備えたことを特徴とするものであるので、ペン先以外の構成は、特に限定されるものではない。
図4は、本発明の筆記具の実施形態の一例を示すものであり、
図2のペン先Aを用いた筆記具の一例を示す部分縦断面図である。
本実施形態の筆記具Bは、上記構成のペン先A、筆記具本体となる軸体30、インク吸蔵体40、キャップ50、51を備えたものである。
【0032】
この筆記具Bは、
図4に示すように、筆記具本体となる軸体30内のインク吸蔵体40にインクを吸蔵させ、
図4右側となる一端に細字タイプのペン体31と他端(
図4左側)に上記構成のペン先Aを有し、インク吸蔵体40のインクを毛管作用により、それぞれペン体31及びペン先Aのペン芯20に供給する構成となっている。図示符号50、51は後述する軸体30の両端部側に着脱自在に嵌合するペン先A及びペン体31を保護する透明又は半島姪からなるキャップである。
【0033】
軸体30は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等で形成されるものであり、筆記具用インクを含浸したインク吸蔵体40を収容する筒状体からなると共に、
図4右側となる一端側は細字タイプのペン体31を保持する後軸32を嵌合により固着するための嵌合部を有する後軸保持部33となっており、
図4左側となる他端には、上記構成のペン先Aを固着する先軸35を有している。
軸体30は、例えば、ポリプロピレン等からなる樹脂を使用して筒状に成形され、筆記具の本体(軸体)として機能する。軸体全体30及び先軸35は不透明又は透明(及び半透明)に成形されるが、外観上や実用上の観点からいずれを採用しても良い。また、軸体30の前方側に先軸35が嵌合等により固着される構造となっている。
インク吸蔵体40は、水性インク、油性インクなどの筆記具用インクを含浸したものであり、例えば、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる繊維束、フェルト等の繊維束を加工したもの、また、スポンジ、樹脂粒子、焼結体等の多孔体を含むものである。このインク吸蔵体40は、軸体30内に収容保持されている。
【0034】
用いる筆記具用インクの組成は、特に限定されず、筆記具の用途等に応じて、水性染料インク、油性インク、熱変色性インクなどの好適な配合処方とすることができ、例えば、アンダーラインペン等ではインクに蛍光色素、例えば、ベーシックバイオレット11、ベーシックイエロー40、熱変色性マイクロカプセル顔料などの色材を含有させることできる。
好ましくは、染料インク又は染料を含む樹脂微粒子顔料インクが望ましい。
染料を含む樹脂微粒子顔料インクとしては、少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料とで構成される着色樹脂微粒子であって、前記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量が着色樹脂微粒子を構成する全ポリマー成分に対して、30質量%以上であると共に、前記塩基性染料又は油溶性染料の含有量が全ポリマー成分に対して、15質量%以上である着色樹脂微粒子が水に分散された着色樹脂微粒子の分散液と、水溶性有機溶剤と、水とを含有するものが挙げられる。
また、これらのインクは、インク配合成分種、各配合量を調整することなどにより、インク粘度(25℃:コンプレート型粘度計)1~5mPa・s、表面張力30~60mN/m、ペン芯20及びペン体31からのインク流出量を5~20mg/mに設定することが好ましい。
本発明において、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、好ましくは、筆記描線とペン芯との色差△Eが40未満であることが望ましい。色差△Eは低い方が望ましく、△Eが40以上とすると色識別性を効果的に発揮しづらくなる。
この色差の調整は、用いる色材種、インク種、隠蔽材料種及びその含有量を好適に調整等することにより、行うことができる。
また、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、好ましくは、インクを含浸した状態のペン芯の明度(L*値)が30以上であることが望ましい。
なお、筆記具用インクを熱変色性インクとした場合は、JIS S 6050-2002に規定する鉛筆描線の消し能力(消字率)が70%未満の熱可塑性エラストマーをキャップ50の頂部に形成し、擦過動作により摩擦熱を発生容易かつ低摩耗な摩擦体とすることができる。
【0035】
上記構成のペン芯20を固着した保持体10から少なくともなるペン先Aを、先軸35内に挿入すると、筆記芯20は保持体10を介して筆記具本体となる軸体30に装着(固着)されると共に、ペン芯20のインク誘導部21、21の後方側端部21a、21aはインク吸蔵体40の先端側内部に入り込む構成となっている。また、ペン体31を保持した後軸32を軸体30の後軸保持部33内に挿入すると、ペン体31は嵌合等により筆記具本体となる軸体30に装着(固着)されるものとなる。
なお、インク吸蔵体40の先端側内部にインク誘導部21、21の後方側端部21a、21aを挿入する凹部を形成してもよい。また、軸体30内の圧力等が増大にした際に、インク垂れ等がペン先から生じることがあるが、本実施形態の筆記具Bでは、
図2に示すように、空気流通溝11b,11cを介して軸体10内と外気とを調整している。
キャップ50は、視認性を有する透明樹脂等からなり、先軸15の先端側外周面に嵌合等により着脱自在に取り付けられるものであり、キャップ51は、先軸35の逆方向の軸体30の端部外周面に嵌合等により着脱自在に取り付けられるものである。
【0036】
本発明となる筆記具Bでは、筆記具の軸体30内に筆記具用インクを吸蔵したインク吸蔵体40を挿入して保持せしめ、先端側は先軸35を介して上記構成のペン先Aを順次嵌合等により固着せしめ、他端側をペン体31を固着せしめた後軸保持部33を嵌合により固着せしめることにより、簡単に筆記具Bを作製することができ、インク吸蔵体40に吸蔵されたインクは毛管力によりペン先Aのペン芯20の筆記部22、並びに、ペン体31に効率的に供給され、筆記に供されるものとなる。
【0037】
このように構成されるペン芯がツインタイプの筆記具Bでは、
図4、
図1に示すように、一端側に、少なくとも、筆記方向を視認することができる可視部13を有する保持体10と、該保持体10に装着されたペン芯20とを備えたペン先Aを有するものであり、ペン芯20には上述の隠蔽材料が固着、複合化などにより含むと共に、ペン芯は、L
*a
*b
*(CIE LAB)表色系での明度(L
*値)が80以上に設定されているので、ペン先での発色を高め、ペン先における色識別性を高めることができ、また、可視部13で視認側を見れば、ひき始めの位置を合わせやすくなるペン先を有する筆記具Bを得ることができるものとなる。
【0038】
本実施形態の筆記具Bでは、従来において、着色力の強いインク(ピンク、赤色、青色、緑色などのインク)がペン芯に染み込むと、描線が淡い色であっても、ペン芯自体は黒っぽい色となってしまい、ペン先から筆記描線の色相を識別することが困難となってしまうなどの課題があったが、上記特性のペン先Aでは、ペン先での発色を高め、筆記描線とペン先との色相に殆ど差異がなく、ペン先における色識別性を高めることができることとなる。また、可視部13で視認側を見れば、ひき始めの位置を合わせやすくなると共に、保持体10からのペン芯20の先端側の突出量Yは、保持部が長い方で0.65mm以上、保持部が短い方で1mm未満となっており、ペン芯20の先端側を保持する前方保持部14a,14bの長さを異ならしめること、具体的には、ペン芯20の先端側(端面)を保持する長さが長い前方保持部14aと短い前方保持部14bとなっているので、特に、右利きで左から右方向に筆記する際に、突出部(突出量)で描線を引くことなどができ、しかも、保持する長さが長い左側の前方保持部14aでペン芯の突出部を確実に保持(保護)して強度を高めるので、このペン芯20の先端側(端面)を保持する長さが長い前方保持部14aと短い前方保持部14bとの筆記部22の保持構造、及び上記突出量Yの限定とにより、強い筆記荷重で筆記してもペン芯20の先端側の筆記性能を損なうことなく、極力保持体10(14a)内面で筆記芯を押さえる構造となるため、ペン芯20の破損を防ぎ耐久性に優れる筆記具が提供されるものとなる。更に、本実施形態における保持体10は、筆記方向に対して反対側の保持体10端面が筆記方向側の保持体端面より突出せしめることにより、右手で左から右側に筆記する方向に特に効果を有する筆記具が提供される。なお、保持体10の端面が前記と反対側に突出して形成された際は、左手で右から左側に筆記する方向又は右手で上から下側に筆記する方向に特に効果を有する筆記具が提供される。
【0039】
また、上記筆記具Bにおいては、保持体10からの筆記芯20の先端側の突出量Yを筆記芯の厚さtの40~65%とすることで、上記実施形態と同様に、ペン芯20の破損を防ぎ耐久性に優れる筆記具となる。すなわち、この実施形態でも、ペン芯の先端側の突出量Yをペン芯の厚さtの40~65%とすることにより、強い筆記荷重で筆記してもペン芯20の先端側の突出量Yがペン芯の厚さとの関係から、ペン芯の強度を更に保持できると共に、突出量Yを極力保持体内面で筆記芯を押さえる構造となるため、更に筆記性能を損なうことなく、ペン芯の破損を防ぎ耐久性に優れる筆記具が提供されるものとなる。
【0040】
本発明のペン先、筆記具は、上記実施形態などに限定されることなく、本発明の技術思想を変更しない範囲内で種々変更することができる。
また、上記実施形態において、ペン芯20を焼結芯タイプについて詳述したが、ペン芯20は焼結体以外に、上述の如く、繊維束体、繊維芯、発泡体、海綿体、フェルト体などであってもよい。
更に、上記実施形態では、インク吸蔵体40に吸蔵されたインクを毛管力によりペン芯20の筆記部22に効率的に供給せしめる方式(中綿式)の筆記具を示したが、弁機構を備えた筆記具、例えば、筆記具本体となる軸体内に直接インクが収容されたインク室を設けて、インク室と筆記芯との間に弁機構を設け、ペン先方向の押圧移動で弁機構のスプリングの附勢力に抗して弁棒を後退させて弁部を解放してインクの導出を行い、ペン芯にインクを供給する構成の筆記具であってもよいものである。
【0041】
さらにまた、上記実施形態では、ペン先Aに、可視部13を有する保持体10に装着したペン芯20を備えたものと、反対側にペン体31とを有するツインタイプの筆記具を挙げたが、ペン体31を省略(軸体を有底筒状の軸体と)して、ペン芯20を一つのシングルタイプの筆記具としてもよいものであり、また、ノック式の筆記具であってもよいものである。
上記実施形態の筆記具Bなどでは、筆記具本体の軸体などの断面を円形軸に形成したが、三角形状、四角形以上の方形状などの異形形状、楕円形状にしてもよいものである。
更に、上記各実施形態では、筆記具用のインク(水性染料インク、油性インク、熱変色性インク、染料を含む樹脂微粒子顔料インクで説明したが、液状化粧料、液状薬剤、塗布液、修正液などの液状体としてもよいものである。
【実施例】
【0042】
次に、実施例により、本発明を更に詳述するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
下記構成及び
図1~
図4に準拠するペン先、筆記具、下記組成の処理液、筆記具用インクを使用した。ペン芯、保持体等の寸法等は下記に示す大きさ等を使用した。
【0044】
(保持体10の構成)
アクリル樹脂製、可視光線透過率85%〔スガ試験機社製、多光源分光測色計(MSC-5N)にて反射率を測定し、可視光線透過率とした。〕
ペン芯取り付け後の可視部13(四角形)の大きさ:5mm×6mm×3mm×4mm
(ペン芯20の構成)
ポリエチレン(PE)製焼結芯、(隠蔽材料固着後)気孔率60%、筆記部22:W=4mm、ナイフカット状、インク誘導部:φ(t)1.6mm、突出量Y=0.85mm(tの53%)、突出量Yの反対側の突出量Y´=0.65mm(tの40%)、筆記芯幅X=1.75mm
【0045】
(保持体10、ペン芯20以外の筆記具部材の構成)
インク吸蔵体:PET繊維束、気孔率85%、φ6×77mm
筆記具本体、キャップ:ポリプロピレン(PP)製
ペン体31:ポリエステル製繊維束芯、気孔率60%、φ2.0×40.0mm
【0046】
(ペン芯への隠蔽材料固着用の処理液組成)
ペン芯20への処理液として、下記組成の処理液(合計100質量%)を使用した。
酸化チタン(平均粒子径350nm) 3.8質量%
固着樹脂(スチレンアクリル樹脂、固形分濃度:30%) 7.7質量%
イオン交換水 残部
【0047】
(ペン芯への処理液の固着方法)
上記処理液を用いて下記方法によりペン芯20に隠蔽材料を固着せしめた。
まず、ペン芯に含浸後、80℃ドライ条件下で、2時間間乾燥して、ペン芯20に隠蔽材を含有させた。隠蔽材料(酸化チタン)の固着量は、含浸前と含浸後の質量変化(固着樹脂量除く)で約4質量%であった。
【0048】
(ペン芯20の明度(L*値)、無彩色度C*の測定等)
ペン芯20のL*a*b*(CIE LAB)表色系での明度(L*値)は下記装置を用いて測定し、無彩色度C*を算出した。
(測定機器)
日本電色工業社製、微小面分光色差計VSS7700
ペン芯20の明度(L*値)=90、無彩色度C*=10
【0049】
(筆記具用インク組成:インク色:青色、赤色)
下記製造例1、2の着色樹脂微粒子の分散液を用いた。なお、以下の「部」は質量部を表す。また、製造例1、2における各成分の全量(合計量)は500部である。
(製造例1)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、蒸留水329.5部、グリセリンモノメタクリレート〔ブレンマーGLM、日油社製〕5部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム〔アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル社製〕5部、重合性界面活性剤〔ADEKA社製、アデカリアソープSE-10N、エーテルサルフェート〕20部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
一方、メタクリル酸シクロヘキシルモノマー55部と、他のモノマーとして、メタクリル酸n-ブチル35部とからなる混合モノマーに、油溶性染料〔サビニールブルーGLS、クラリアント社製〕40部、架橋剤〔トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製、「タイク(TAIC)」〕10部を混合した液を調製した。
この調製液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、水性インク用着色樹脂微粒子の分散液(粒子1)を得た。
前記メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量は、着色樹脂微粒子を構成する全ポリマー成分に対して、50.0質量%、前記油溶性染料の含有量は全ポリマー成分に対して、36.4質量%であった。また、着色樹脂微粒子の平均粒子径は、40nmであった。
【0050】
(製造例2)
上記製造例1において、蒸溜水を340.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を30部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、染料として、油溶性染料〔バリファーストピンク2310N、オリエント化学工業社製〕20部、油溶性染料〔オイルピンンク 314、オリエント化学工業社製〕12部、油溶性染料〔バリファース レッド 3312、オリエント化学工業社製〕12部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、水性インク用着色樹脂微粒子水性分散液(粒子2)を得た。
前記メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量は着色樹脂微粒子を構成する全ポリマー成分に対して、31.6質量%、前記油溶性染料の含有量は全ポリマー成分に対して、46.3質量%であった。また、着色樹脂微粒子の平均粒子径は、82nmであった。
【0051】
上記製造例1、2により製造した各着色樹脂微粒子の分散液(粒子1、2)を用いて、下記に示す配合組成(全量100質量%)により常法により各筆記具用水性インク組成物1、2を調製した。
インク1、2の組成:(全量100質量%)
製造例1又は2の水性インク用着色樹脂微粒子の分散液 50質量%
pH調整剤(トリエタノールアミン) 1質量%
水溶性有機溶剤(エチレングリコール) 5質量%
イオン交換水 44質量%
【0052】
粘度(25℃):3.5mPa・s(コンプレート型粘度計、TOKIMEC社製、TV-20)
表面張力(25℃):35mN/m(自動表面張力計、協和界面科学社製、DY-300)
製造例1:筆跡(描線)の明度(L*値):73、無彩色度C*:65
製造例2:筆跡(描線)の明度(L*値):63、無彩色度C*:65
インクを含浸した状態のペン芯の明度(L*値):製造例1:38
インクを含浸した状態のペン芯の明度(L*値):製造例2:35
製造例1の筆跡(描線)とペン芯との色差△E:35
製造例2の筆跡(描線)とペン芯との色差△E:36
なお、色差は、日本電色工業社製、微小面分光色差計VSS7700により測定した。
【0053】
この
図1~
図4準拠の実施例1のペン先Aを用いたインク1、2の各筆記具Bでは、少なくとも、筆記方向を視認することができる可視部13を有する保持体10と、該保持体10に装着されたペン芯20とを備えたものであり、少なくともペン芯20は隠蔽材料(酸化チタン)が固着されており、L
*a
*b
*(CIE LAB)表色系での明度(L
*値)が90であり、無彩色度C
*が10となっており、この筆記具を用いて上質紙面上に筆記したところ、隠蔽材料を含まない従来のペン芯20に較べ、ペン先での発色を高め、筆記描線とペン先との色相に殆ど差異がなく、ペン先における色識別性を高めることができることが確認された。
また、可視部13で視認側を見れば、ひき始めの位置を合わせやすくなり、また、ペン芯20の外観を損なうことがないペン先を用いた筆記具となることが確認された。
【0054】
また、保持体10からの筆記芯20の先端側の突出量Y=0.85mmと1mm未満となっており、特に、右利きで左から右方向に筆記する際に、突出部(突出量)で描線を引くことができ、しかも、過度の荷重をかけても筆記性能を損なうことなく、筆記芯の破損もなく耐久性に優れる筆記具が得られることが確認された。
【0055】
更に、自動筆記装置にこの筆記具をセットして、JIS S6037に準拠した試験方法に従い、上質紙面上で筆記角度65°、筆記荷重1N、速度7cm/s、距離50mで直線筆記後、筆記した描線状態を目視にて確認したところ、上記好ましいインク組成のものを使用しているため、インク流出量(5~20mg/m)も良好で、ペン先の乾燥を抑えながらも、描線の乾燥性、インクの低温安定性に優れ、描線に滲みや裏抜けのない機能を発現することが判った。
【0056】
〔実施例2〕
図1~4に準拠する筆記具を使用した。上記実施例1との相違は、ペン芯20の構成が相違する以外の構成、インク組成等は、上記実施例1と同様であるので、省略する。
(ペン芯20の構成)
ポリエチレン(PE)製焼結芯、(隠蔽材料固着後)気孔率60%、筆記部22:W=4mm、ナイフカット状、インク誘導部:φ(t)=1.6mm、突出量Y=0.85mm(tの53%)、突出量Yの反対側の突出量Y´=0.65mm(tの40%)、筆記芯幅X=1.75mm
【0057】
(ペン芯の製造法)
平均粒子径200μmポリエチレン粉末と、隠蔽材料として平均粒子径350nmの酸化チタンとをブレンダーにより混合した後に焼結して焼結芯体を製造した。
(ペン芯20の構成)
ポリエチレン(PE)製焼結芯、(隠蔽材料焼結後)気孔率60%、筆記部22:W=4mm、ナイフカット状、インク誘導部:φ(t)1.6mm、突出量Y=0.85mm(tの53%)、突出量Yの反対側の突出量Y´=0.65mm(tの40%)、筆記芯幅X=1.75mm
【0058】
〔ペン芯20の明度(L*値)、無彩色度C*の測定等〕
ペン芯20のL*a*b*(CIE LAB)表色系での明度(L*値)を下記装置を用いて測定し、無彩色度C*を算出した。
(測定機器)
日本電色工業社製、微小面分光色差計VSS7700
ペン芯20の明度(L*値)=90、無彩色度C*=10
インクを含浸した状態のペン芯の明度(L*値):製造例1:40
インクを含浸した状態のペン芯の明度(L*値):製造例2:36
製造例1の筆跡(描線)とペン芯との色差△E:33
製造例2の筆跡(描線)とペン芯との色差△E:34
【0059】
この
図1~
図4準拠の実施例2のペン先Aを用いたインク1、2の各筆記具Bでは、少なくとも、筆記方向を視認することができる可視部13を有する保持体10と、該保持体10に装着されたペン芯20とを備えたものであり、少なくともペン芯20は隠蔽材料(酸化チタン)が焼結固着されており、L
*a
*b
*(CIE LAB)表色系での明度(L
*値)が90であり、無彩色度C
*が10となっており、この筆記具を用いて上質紙面上に筆記したところ、隠蔽材料を含まない従来のペン芯20に較べ、ペン先での発色を高め、筆記描線とペン先との色相に殆ど差異がなく、ペン先における色識別性を高めることができることが確認された。
また、可視部13で視認側を見れば、ひき始めの位置を合わせやすくなり、また、ペン芯20の外観を損なうことがないペン先を用いた筆記具となることが確認された。
【0060】
また、この実施例2においても、保持体10からの筆記芯20の先端側の突出量Y=0.85mmと突出量Yが1mm未満となっており、特に、右利きで左から右方向に筆記する際に、突出部(突出量)で描線を引くことができ、しかも、過度の荷重をかけても筆記性能を損なうことなく、筆記芯の破損もなく耐久性に優れる筆記具が得られることが確認された。更に、自動筆記装置にこの実施例2の筆記具をセットして、JIS S6037に準拠した試験方法に従い、上質紙面上で筆記角度65°、筆記荷重1N、速度7cm/s、距離50mで直線筆記後、筆記した描線状態を目視にて確認したところ、上記好ましいインク組成のものを使用しているため、インク流出量(5~20mg/m)も良好で、ペン先の乾燥を抑えながらも、描線の乾燥性、インクの低温安定性に優れ、描線に滲みや裏抜けのない機能を発現することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のペン先では、アンダーラインペン、ペイントマーカー、油性マーカー、水性マーカーと呼ばれる所謂マーキングペンタイプの筆記具に用いるペン先として好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
A ペン先
10 保持体
20 ペン芯
35 先軸
40 インク吸蔵体
50 キャップ