(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】抗体発現を最適化するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/70 20060101AFI20241204BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241204BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241204BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241204BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241204BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241204BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241204BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20241204BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241204BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C12N15/70 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/31
C12P21/02 C
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020560954
(86)(22)【出願日】2019-05-01
(86)【国際出願番号】 US2019030295
(87)【国際公開番号】W WO2019213331
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-26
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508048481
【氏名又は名称】アンブルックス,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ambrx,Inc.
【住所又は居所原語表記】10975 North Torrey Pines Road,Suite 100,La Jolla,California 92037,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド,ムハンマド ハルナル
(72)【発明者】
【氏名】シマヅ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ティエン,フェン
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特公平07-059192(JP,B2)
【文献】特表2014-505482(JP,A)
【文献】特表2017-501728(JP,A)
【文献】Applied Microbiology and Biotechnology,1992年,Vol.38,p.91-93
【文献】Microbial Cell Factories,2010年,Vol.9, No.1,Article No.22
【文献】NEWS LETTER(社団法人 日本化学会,生体機能関連化学部会),2007年,Vol.22, No.3,p.2-5
【文献】蚕意図・昆虫バイオテック,2017年,Vol.86, No.1,p.25-38
【文献】The Journal of Biological Chemistry,2000年,Vol.275, No.22,p.17100-17105
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1986年,Vol.83,p.3116-3120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部位特異的に組み込まれた天然にコードされていないアミノ酸を含んでいる組換えタンパク質を発現させるためのベクターであって、
i. 前記組換えタンパク質をコードする核酸配列
、
ii. 配列番号12の核酸塩基配列を有している分配B(parB)遺伝子座を含んでいる核酸配列であり、前記parB遺伝子座は
、前記組換えタンパク質をコードする前記核酸配列に対して順転写方向および下
流に位置する、核酸配列
、ならびに
iii. 配列番号16のポリペプチド配列を有しているFkpAシャペロンをコードする核酸配列であって、前記FkpAシャペロンをコードする前記核酸配列は、前記組換えタンパク質をコードする前記核酸配列に対して下流に位置し、
(a)前記parB遺伝子座に対して順転写方向または逆転写方向および上流に位置するか、または
(b)前記parB遺伝子座に対して逆転写方向および下流に位置する、核酸配列
を含んでいるベクター。
【請求項2】
前記組換えタンパク質をコードする前記核酸配列の下流にZra1制限酵素サイトを有している核酸配列であり、ここでは前記parB遺伝子座は、前記Zra1制限酵素サイト
に位置する、核酸配列
を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記
FkpAシャペロンをコードする前記核酸配列は、当該シャペロンの天然のプロモーター配列を含んでいる、請求項
1または
2に記載のベクター。
【請求項4】
前記
FkpAシャペロン
をコードする前記核酸配列は
、配列番号15の核酸塩基配列を含
む、請求項
1から
3のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
前記組換えタンパク質をコードする前記核酸配列、前記parB遺伝子座を含む前記核酸配列、および前記
FkpAシャペロンをコードする前記核酸配列は
、天然のプロモーターを有している単一発現プラスミドに含まれ
る、請求項
1から
4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項6】
前記組換えタンパク質をコードする前記核酸配列、前記parB遺伝子座を含む前記核酸配列、および前記FkpAシャペロンをコードする前記核酸配列は、誘導性プロモーターを有している2プラスミド系に含まれる、請求項1から4のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記組換えタンパク質をコードする前記核酸配列は、抗体重鎖C末端伸長変異体
をコードする配列を含
む、請求項1から
6のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
前記抗体重鎖C末端伸長は、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上のアミノ酸を含む、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
i. 前記組換えタンパク質は、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、成長因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、炎症性分子、がん遺伝子産物、ペプチドホルモン、シグナル伝達分子、またはステロイドホルモン受容体である;または
ii. 前記組換えタンパク質は、HER2、CD-70、PSMA、5T4、EGFR、TROP2、CD3、IL-2、IL-3、IL-10、IL-12、IL-15、IL-21、GPC3、DLL3、ROR1、レプチン、グレリン、FGF-1、FGF-19、FGF-21、FGF-23、HGH、FcR、インスリン、IGF1、TNFR1、TRAIL、EPO、またはそれらのアナログもしくは断片である;
請求項1から8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項10】
前記組換えタンパク質は、バイオセラピューティック、免疫原、抗体、抗体断片またはそれらの変異体から選択される、請求項1から
8のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項11】
i. 前記バイオセラピューティックは、ワクチンである;
ii. 前
記抗体は、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体である;
iii. 前記抗体断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、一本鎖抗体断片(scFv)、ジスルフィド安定化scFv(dsFv))、ダイアボディ(Db)、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)、DART(二重親和性再ターゲティング)、またはタンデムダイアボディ(TandAb)である;
iv. 前記抗体断片は、Fabである;または
v. 前記抗体断片は、抗CD3 Fabであり、任意で、前記抗CD3 Fabは、
抗CD3 Fab重鎖定常ドメイン(CH1)の129位のリジン(K)残基に部位特異的に組み込まれたパラ-アセチルフェニルアラニンを有している、
請求項
10に記載のベクター。
【請求項12】
前記天然にコードされていないアミノ酸は、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、p-プロパルギルオキシ-L-フェニルアラニン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、パラ-アセチルフェニルアラニン、p-ニトロフェニルアラニン、p-スルホチロシン、p-カルボキシフェニルアラニン、o-ニトロフェニルアラニン、m-ニトロフェニルアラニン、p-ボロニルフェニルアラニン、o-ボロニルフェニルアラニン、m-ボロニルフェニルアラニン、p-アミノフェニルアラニン、o-アミノフェニルアラニン、m-アミノフェニルアラニン、p-アシルフェニルアラニン、o-アシルフェニルアラニン、m-アシルフェニルアラニン、p-OMeフェニルアラニン、o-OMeフェニルアラニン、m-OMeフェニルアラニン、p-スルホフェニルアラニン、o-スルホフェニルアラニン、m-スルホフェニルアラニン、5-ニトロHis、3-ニトロTyr、2-ニトロTyr、ニトロ置換Leu、ニトロ置換His、ニトロ置換De、ニトロ置換Trp、2-ニトロTrp、4-ニトロTrp、5-ニトロTrp、6-ニトロTrp、7-ニトロTrp、3-アミノチロシン、2-アミノチロシン、O-スルホチロシン、2-スルホオキシフェニルアラニン、3-スルホオキシフェニルアラニン、o-カルボキシフェニルアラニン、m-カルボキシフェニルアラニン、p-アセチル-L-フェニルアラニン、p-プロパルギル-フェニルアラニン、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニンまたはp-プロパルギルオキシ-フェニルアラニンである、請求項1から
11のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項13】
前記天然にコードされていないアミノ酸は、パラ-アセチルフェニルアラニンである、請求項1から
12のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項14】
請求項1から
13のいずれか1項に記載のベクターを含んでいる、組換え細胞または細胞株。
【請求項15】
前記組換え細胞または前記細胞株中のプラスミド保持率を最適化するための、請求項
14に記載の組換え細胞または細胞株。
【請求項16】
前記天然にコードされていないアミノ酸は、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、p-プロパルギルオキシ-L-フェニルアラニン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、パラ-アセチルフェニルアラニン、p-ニトロフェニルアラニン、p-スルホチロシン、p-カルボキシフェニルアラニン、o-ニトロフェニルアラニン、m-ニトロフェニルアラニン、p-ボロニルフェニルアラニン、o-ボロニルフェニルアラニン、m-ボロニルフェニルアラニン、p-アミノフェニルアラニン、o-アミノフェニルアラニン、m-アミノフェニルアラニン、p-アシルフェニルアラニン、o-アシルフェニルアラニン、m-アシルフェニルアラニン、p-OMeフェニルアラニン、o-OMeフェニルアラニン、m-OMeフェニルアラニン、p-スルホフェニルアラニン、o-スルホフェニルアラニン、m-スルホフェニルアラニン、5-ニトロHis、3-ニトロTyr、2-ニトロTyr、ニトロ置換Leu、ニトロ置換His、ニトロ置換De、ニトロ置換Trp、2-ニトロTrp、4-ニトロTrp、5-ニトロTrp、6-ニトロTrp、7-ニトロTrp、3-アミノチロシン、2-アミノチロシン、O-スルホチロシン、2-スルホオキシフェニルアラニン、3-スルホオキシフェニルアラニン、o-カルボキシフェニルアラニン、m-カルボキシフェニルアラニン、p-アセチル-L-フェニルアラニン、p-プロパルギル-フェニルアラニン、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニンまたはp-プロパルギルオキシ-フェニルアラニンである、請求項
14または
15に記載の組換え細胞または細胞株。
【請求項17】
前記天然にコードされていないアミノ酸は、パラ-アセチルフェニルアラニンである、請求項
14から
16のいずれか1項に記載の組換え細胞または細胞株。
【請求項18】
部位特異的に組み込まれた天然にコードされていないアミノ酸を含んでいる組換えタンパク質を産生する方法であって、
当該方法は、細菌細胞中で、請求項1から
13のいずれか1項のベクターから前記組換えタンパク質を発現させる工程を含んでいる、方法。
【請求項19】
部位特異的に組み込まれた天然にコードされていないアミノ酸を含んでいる前記組換えタンパク質の収量を改善するための方法であり、
任意で、前記部位特異的に組み込まれた天然にコードされていないアミノ酸を含んでいる前記組換えタンパク質の前記収量を、少なくとも0.2倍まで増加させる、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記天然にコードされていないアミノ酸は、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、p-プロパルギルオキシ-L-フェニルアラニン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、パラ-アセチルフェニルアラニン、p-ニトロフェニルアラニン、p-スルホチロシン、p-カルボキシフェニルアラニン、o-ニトロフェニルアラニン、m-ニトロフェニルアラニン、p-ボロニルフェニルアラニン、o-ボロニルフェニルアラニン、m-ボロニルフェニルアラニン、p-アミノフェニルアラニン、o-アミノフェニルアラニン、m-アミノフェニルアラニン、p-アシルフェニルアラニン、o-アシルフェニルアラニン、m-アシルフェニルアラニン、p-OMeフェニルアラニン、o-OMeフェニルアラニン、m-OMeフェニルアラニン、p-スルホフェニルアラニン、o-スルホフェニルアラニン、m-スルホフェニルアラニン、5-ニトロHis、3-ニトロTyr、2-ニトロTyr、ニトロ置換Leu、ニトロ置換His、ニトロ置換De、ニトロ置換Trp、2-ニトロTrp、4-ニトロTrp、5-ニトロTrp、6-ニトロTrp、7-ニトロTrp、3-アミノチロシン、2-アミノチロシン、O-スルホチロシン、2-スルホオキシフェニルアラニン、3-スルホオキシフェニルアラニン、o-カルボキシフェニルアラニン、m-カルボキシフェニルアラニン、p-アセチル-L-フェニルアラニン、p-プロパルギル-フェニルアラニン、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニンまたはp-プロパルギルオキシ-フェニルアラニンである、請求項
18または
19に記載の方法。
【請求項21】
前記天然にコードされていないアミノ酸は、パラ-アセチルフェニルアラニンである、請求項
18から
20のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の参照〕
本出願は、2018年5月1日に出願された「A Method for Optimizing Antibody Expression」という名称の米国仮出願第62/665,093号の利益を主張するものであり、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔配列表〕
本出願は、EFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる配列表を含む。2019年4月30日に作成されたASCIIコピーの名称は、_AMBX_0226_00PCT_ST25.txtであり、サイズは15,184バイトである。
【0003】
〔発明の分野〕
本開示は、分子生物学の分野に関する。本発明の開示は、ベクターおよびプラスミドの設計および操作に関する。本発明はまた、天然にコードされていないアミノ酸を組み込んだ新規な産生株または細胞にも関し、およびそれらから組み換えタンパク質を産生する方法にも関する。
【0004】
〔発明の背景〕
大腸菌(E. coli)ペリプラズムにおける、適切に組み立てられた無傷の活性抗体フラグメントの蓄積が正確に発生するためには、以下を含む複数の段階が必要である:転写、翻訳、非天然アミノ酸取り込みのための終止コドンの抑制、内膜を横断する移動、シグナルペプチドの切断、適切な折り畳み、プロリン残基の正確なシスまたはトランス異性化、重鎖との軽鎖の組み立て、ジスルフィド内結合およびジスルフィド間結合の正確な形成、およびペリプラズムにおける保持(外膜を越えて培地への漏出がない)。細胞質またはペリプラズムにおけるポリペプチドの代替経路は、切断、誤った折り畳み、凝集、およびタンパク質分解を含む(Miot M. & Betton J.M., Microbial Cell Factories, 3, 4, 2004; Yoon, S. H. et al., Recent Patents in Biotech, 4, 23, 2010)。
【0005】
大腸菌における多くのクラスのヘルパータンパク質および/または因子は、適切に折り畳まれて且つ活性な状態においては、タンパク質を生成することを助けるように働く。これらのタンパク質は、シャペロン、フォールダーゼ(foldase)、イソメラーゼ等を含むが、これに限定されない。シャペロンは、誤って折り畳まれた、または折り畳まれていないタンパク質に結合し、適切な折り畳みを促進する。他のヘルパータンパク質および/または因子は、ジスルフィド結合の還元/酸化または異性化に関与するタンパク質、シス/トランスペプチジル-プロリル結合を相互変換するペプチジル-プロリルイソメラーゼ、および誤って折り畳みされたタンパク質または凝集したタンパク質を分解するプロテアーゼを含む。これらのタンパク質の多くの過剰発現は、大腸菌における抗体断片を含む異種タンパク質の力価を増加させるために使用されている(Thomas et al., Applied Biochemistry and Biotechnology, 66, 197, 1997; Kolaj et. al., Microbial Cell Factories, 8, 2009; Merdanovic et. al., Annu. Rev. Microbiol. 65, 149, 2011)。
【0006】
産業界において、選択された部位または特定の部位に組み込まれた非天然アミノ酸を有する抗体または抗体断片の原核生物発現を達成することは困難である。これは、大腸菌における抗体断片について特に見られることである。これまでのところ、一握りのバイオテクノロジー企業や製薬企業しか、大腸菌において野生型の抗体断片を高力価で発現させることには成功していない。
【0007】
発現が困難な(difficult-to-express、DTE)タンパク質を発現するという直面した課題を克服するために、本発明は、シャペロンを含む、ヘルパータンパク質および/または因子を利用し、それらからのベクターおよびプラスミドの設計および操作において、天然にコードされていないアミノ酸が組み込まれた抗体断片の力価の最適化を達成する。
【0008】
〔発明の概要〕
本発明は、新規の操作されたベクター、プラスミドおよび産生株を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、タンパク質発現最適化および力価収率のための新規の発現プラスミドおよび対応する産生株を提供する。本発明の実施形態において、操作されたベクターおよび株は、部位特異的に組み込まれた非天然アミノ酸を有する目的のタンパク質をコードする核酸配列と、1つ以上の成分をコードする核酸配列とを含む。ここで、当該成分は、ヘルパータンパク質もしくは因子または遺伝要素(genetic element)である。他の実施形態において、本発明の開示は、大腸菌に限定されない原核生物系におけるタンパク質発現を最適化するための方法、ならびに発現プラスミドおよび産生株を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態において、1つ以上の成分は、真核生物成分または原核生物成分である。いくつかの実施形態において、1つ以上の成分は、ヘルパータンパク質もしくは因子または遺伝要素である。遺伝要素は、タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または調節要素(regulatory element)であり得る。
【0010】
一実施形態において、本発明は、部位特異的に組み込まれた天然にコードされていないアミノ酸を有している目的のタンパク質をコードする核酸配列と、1つ以上の成分をコードする核酸配列と、を含み、当該1つ以上の成分は、配列番号12、15、または17から選択される、タンパク質発現を最適化するためのベクターを提供する。
【0011】
他の実施形態において、1つ以上の成分は、タンパク質折り畳み、ペリプラズムシャペロン、DNAコード配列を含む遺伝要素、Fab重鎖(HC)カルボキシ末端伸長、およびプラスミド分配遺伝子座parBに関与し得る。いくつかの実施形態において、これらの成分の1つは、目的のタンパク質と共に発現プラスミド中に含まれ得る。他の実施形態において、これらの成分の2つまたは3つ以上は、目的のタンパク質と共にプラスミド中に含まれ得る。いくつかの実施形態において、成分の全ては、天然プロモーターを有する単一発現プラスミド中に含まれ得るか、または誘導性プロモーターを有する2プラスミド系に含まれ得る。
【0012】
他の実施形態において、1つ以上の成分は、ヘルパータンパク質もしくは因子または遺伝要素である。他の実施形態において、ヘルパータンパク質または因子は、シャペロンである。シャペロンは、SkpもしくはFkpAであるか、またはSkpおよびFkpAである。他の一実施形態において、遺伝要素は、分配B遺伝子座(parB)である。
【0013】
一実施形態において、本発明のベクターは、重鎖C末端伸長変異体をさらに含む。他の一実施形態において、重鎖C末端伸長変異体は、抗体重鎖C末端伸長変異体である。他の実施形態において、重鎖C末端伸長変異体は、1つ以上のアミノ酸を含む。
【0014】
他の実施形態において、parBは、目的のタンパク質をコードする核酸配列のAfe1サイトとNot1サイトとの間において、順転写方向に位置する。別の実施形態において、parBは、目的のタンパク質をコードする核酸配列のAfe1サイトまたはZra1サイトにおいて、順転写方向に位置する。1つの他の実施形態において、parBは、目的のタンパク質をコードする核酸配列のAfe1サイトまたはZra1サイトにおいて、逆転写方向に位置する。別の実施形態において、ベクターは、分配B遺伝子座(parB)をさらに含む。
【0015】
一実施形態において、タンパク質折り畳みを促進することができる1つ以上のタンパク質は、FkpA、Skp、SurA、PPiAおよびPPiDである。他の実施形態において、タンパク質の分泌または移動を促進することができる1つ以上のタンパク質は、SecY、SecE、SecG、SecYEG、SecA、SecB、FtsYおよびLepである。他の一実施形態において、ジスルフィド結合形成を促進することができる1つ以上のタンパク質は、DsbA、DsbB、DsbD、DsbGである。いくつかの実施形態において、シャペロンは、SkpまたはFpkAを含み得る。他の実施形態において、parBは、Afe1サイトとNot1サイトとの間の、Zra1サイトにおいて、またはAfe1サイトにおいて、順方向にクローニングされ得る。他の実施形態において、プラスミドは、271塩基対の配列欠失を含む。別の実施形態において、プラスミドは、parBを順方向に含み、SkpまたはFpkAシャペロンは、Zra1サイトにクローニングされる。他の実施形態において、プラスミドは、上流位置または下流位置にparBまたはFkpAのいずれかを含み、順方向にparBを含む。さらなる実施形態において、プラスミドは、上流位置または下流位置および順方向または逆方向のいずれかに、FkpAを含む。他の一実施形態において、プラスミドは、上流位置にparBを含み、下流位置にFkpAを含む。別の実施形態において、プラスミドは、下流位置にparBを含み、上流位置にFkpAを含む。いくつかの実施形態において、重鎖カルボキシ末端伸長は、1個、2個、3個、4個、5個またはそれ以上のアミノ酸を含んでいてもよく、またはそれらからなり得る。いくつかの実施形態において、重鎖カルボキシ末端伸長は、その中に少なくとも1つの変異を有する5つ以上のアミノ酸を含んでいてもよく、またはそれらからなり得る。
【0016】
他の実施形態において、目的のタンパク質は、バイオセラピューティック(biotherapeutic)、生物学的に活性な分子、免疫原、抗体、抗体断片またはそれらの変異体から選択される。他の実施形態において、バイオセラピューティックは、ワクチンである。1つの他の実施形態において、目的のタンパク質は、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、成長因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、炎症性分子、がん遺伝子産物、ペプチドホルモン、シグナル伝達分子、またはステロイドホルモン受容体である。他の実施形態において、目的のタンパク質は、HER2、CD-70、PSMA、5T4、EGFR、TROP2、CD3、IL-2、IL-3、IL-10、IL-12、IL-15、IL-21、GPC3、DLL3、ROR1、レプチン、グレリン、FGF-1、FGF-19、FGF-21、FGF-23、HGH、FcR、インスリン、IGF1、TNFR1、TRAIL、EPO、およびそれらのアナログ、二重特異性体(bispecific)または断片である。
【0017】
一実施形態において、抗体は、完全長抗体または抗体断片である。他の実施形態において、抗体は、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体である。他の実施形態において、抗体断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、一本鎖抗体断片(scFv)、ジスルフィド安定化scFv(dsFv))、ダイアボディ(diabody、Db)、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T-cell Engager))、DART(二重親和性再ターゲティング(Dual Affinity Re-Targeting))、またはタンデムダイアボディ(TandAb(Tandem Diabody))である。いくつかの実施形態において、抗体断片はFabである。
【0018】
本発明の実施形態において、操作されたプラスミドおよび株は、部位特異的に組み込まれた非天然アミノ酸を有している目的のタンパク質またはポリペプチド(HER2、CD-70、PSMA、5T4、EGFR、TROP2、CD3、IL-2、IL-3、IL-10、IL-12、IL-15、IL-21、GPC3、DLL3、ROR1、レプチン、グレリン、FGF-1、FGF-19、FGF-21、FGF-23、HGH、FcR、インスリン、IGF1、TNFR1、TRAIL、EPO、およびそれらのアナログ、二重特異性体またはその断片を含むがこれらに限定されない)を標的とする抗体をコードする核酸配列と、1つ以上の成分をコードする核酸配列とを含む。ここで、前記1つ以上の成分は、ヘルパータンパク質もしくは因子または遺伝要素である。本発明の他の実施形態において、操作されたプラスミドは、部位特異的に組み込まれた非天然アミノ酸を有している任意の標的抗原(HER2、CD-70、PSMA、5T4、EGFR、TROP2、CD3、IL-2、IL-3、IL-10、IL-12、IL-15、IL-21、GPC3、DLL3、ROR1、レプチン、グレリン、FGF-1、FGF-19、FGF-21、FGF-23、HGH、FcR、インスリン、IGF1、TNFR1、TRAIL、EPO、ならびに、アナログ、二重特異性体またはその断片を含むがこれらに限定されない。)に対して特異的な抗体をコードする核酸配列と、1つ以上の成分をコードする核酸配列と、を含む。ここで、ここで、前記断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、一本鎖抗体断片(scFv)、ジスルフィド安定化scFv(dsFv))、ダイアボディ(Db)、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)、DART(二重親和性再ターゲティング)、またはタンデムダイアボディ(TandAb)等であり、前記1つ以上の成分は、ヘルパータンパク質もしくは因子または遺伝要素である。他の実施形態において、核酸配列は、HER2、CD-70、PSMA、5T4、EGFR、TROP2、CD3、IL-2、IL-3、IL-10、IL-12、IL-15、IL-21、GPC3、DLL3、ROR1、レプチン、グレリン、FGF-1、FGF-19、FGF-21、FGF-23、HGH、FcR、インスリン、IGF1、TNFR1、TRAIL、EPO、およびアナログ、二重特異性体または抗体断片をコードするがこれに限定されない。他の実施形態において、抗体断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、一本鎖抗体断片(scFv)、ジスルフィド安定化scFv(dsFv))、ダイアボディ(Db)、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)、DART(二重親和性再ターゲティング)、またはタンデムダイアボディ(TandAb)であるが、これに限定されない。他の実施形態において、抗体またはその断片は、ペグ化Fab分子である。他の実施形態において、抗体断片は、抗CD3Fabである。
【0019】
一実施形態において、操作された産生株または細胞は、本明細書中の図、表および実施例に例示されるとおり、2797、2835、2884、2885、2886、2887、2909、2910、2914、2915、2916、2917、2918、2839、2840、2841、3004、3005または3006である。別の実施形態において、発現プラスミドは、本明細書中の図、表および実施例に例示されるとおり、プラスミドp56、p96、p117、p118、p119、p120、p134、p135、p141、p142、p143、p144、p145、p94、p199、p200またはp201である。
【0020】
一実施形態において、本発明は、部位特異的に組み込まれた天然にコードされていないアミノ酸を有している目的のタンパク質をコードする核酸配列と、1つ以上の成分をコードする核酸配列と、を含み、当該1つ以上の成分が配列番号12、15、または17から選択される、組換え細胞を提供する。一実施形態において、組換え細胞は、株2797、株2835、株2884、株2885、株2886、株2887、株2909、株2910、株2914、株2915、株2916、株2917、株2918、株2839、株2840、株2841、株3004、株3005または株3006である。他の実施形態において、組換え細胞は、シャペロンSkpおよび分配B遺伝子座(parB)を含む。細胞は、株2910または株2841から選択される。他の実施形態において、組換え細胞は、シャペロンFkpAおよび分配B遺伝子座(parB)を含む。細胞は、株2909、株2840、株3004、株3005または株3006から選択される。他の実施形態において、組換え細胞は、重鎖C末端伸長変異体を含む。細胞は、株2914、株2915、株2916、株2917、または株2918から選択される。
【0021】
一実施形態において、本発明は、プラスミドが、p56、p94、p96、p117、p118、p119、p120、p134、p135、p141、p142、p143、p144、p145、p199、p200またはp201である、請求項のいずれかに記載の発現プラスミドを提供する。
【0022】
他の実施形態において、大腸菌等の原核生物系における目的のタンパク質、ポリペプチド、または抗体断片の発現力価を最適化または増加させることは、出発株に対して少なくとも0.2倍、少なくとも0.5倍、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、またはそれ以上、発現収量を最適化または増加させることを含み得る。他の実施形態において、大腸菌等の原核生物系における目的のタンパク質、ポリペプチド、抗体断片の発現力価を最適化または増加させることは、約、またはおおよそ、0.25g/L、0.5g/L、1.0g/L、1.5g/L、2.0g/L、2.5g/L、3.0g/L、3.5g/L、4.0g/L、4.5g/L、5.0g/L以上、10g/L以上、20g/L以上、発現収量を最適化または増加させることを含み得る。
【0023】
1つの実施形態において、本発明は、天然にコードされていないアミノ酸を組み込んでいる目的の組換えタンパク質を産生する方法を提供し、この方法は、細菌細胞中でタンパク質を発現させる工程、および1つ以上の成分をコードする核酸配列を導入する工程を包含し、ここで、1つ以上の成分は、配列番号12、15、または17から選択される。他の一実施形態において、部位特異的に組み込まれた非天然アミノ酸を有しているタンパク質の収量を改善するための方法が提供される。いくつかの実施形態において、本発明は、発現が困難な目的のタンパク質の組み換えタンパク質発現を最適化または増加させるための方法を提供し、当該タンパク質は、天然にコードされていないアミノ酸を組み込んでいる。他の実施形態において、目的の遺伝子に関して、シャペロン遺伝子の位置および向きは、組み換えタンパク質収量を最適化し得る。
【0024】
他の実施形態において、目的のタンパク質、ポリペプチド、抗体または遺伝子は、サイトカイン、成長因子、成長因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、炎症性分子、がん遺伝子産物、ペプチドホルモン、シグナル伝達分子、ステロイドホルモン受容体、転写アクチベーター、転写サプレッサー、エリスロポエチン(EPO)、インスリン、ヒト成長ホルモン、上皮好中球活性化ペプチド-78、GROα/MGSA、GROβ、GRO、MIP-1α、MIP-1&、MCP-1、肝細胞成長因子、インスリン様成長因子、白血病阻害因子、オンコスタチンM、PD-ECSF、PDGF、プレイオトロピン、SCF、c-kitリガンド、VEGF、G-CSF、IL-1、IL-2、IL-8、IGF-I、IGF-II、FGF(線維芽細胞成長因子)、TNF、TGF-α、TGF-β、EGF(上皮成長因子)、KGF(ケラチノサイト成長因子)、SCF/c-Kit、CD40L/CD40、VLA-4/VCAM-1、ICAM-1/LFA-1、ヒアルリン/CD44、Mos、Ras、Raf、Met、p53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、テストステロン受容体、アルドステロン受容体、LDL受容体、ならびに、コルチコステロン、アルファ-1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗溶血因子、アポリポタンパク質、アポタンパク質、心房性ナトリウム排泄増加因子、心房性ナトリウム排泄増加ポリペプチド、心房性ペプチド、C-X-Cケモカイン、T39765、NAP-2、ENA-78、Gro-aまたはGro-c、IP-10、GCP-2、NAP-4、SDF-1、PF4、MIG、カルシトニン、c-kitリガンド、サイトカイン、CCケモカイン、単球走化性タンパク質-1、単球走化性タンパク質-2、単球走化性タンパク質-3、単球炎症性タンパク質-1アルファ、単球炎症性タンパク質-1ベータ、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262、C-kitリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補因子5a、補阻害剤、補受容体1、サイトカイン、上皮好中球活性化ペプチド-78、上皮成長因子(EGF)、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン(EPO)、剥離性トキシン、因子IX、因子VII、因子VIII、因子X、線維芽細胞成長因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G-CSF、GM-CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、成長因子、成長因子受容体、ヘッジホッグタンパク質、ヘモグロビン、肝細胞成長因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、ICAM-1、ICAM-1受容体、LFA-1、LFA-1受容体、インスリン、インスリン様成長因子(IGF)、IGF-I、IGF-II、インターフェロン、IFN-α、IFN-ベータ、IFN-γ、インターロイキン、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、ケラチノサイト成長因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールツリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチン、M骨形成タンパク質、がん遺伝子産物、副甲状腺ホルモン、PD-ECSF、PDGF、ペプチドホルモン、ヒト成長ホルモン、プレイオトロピン、タンパク質A、タンパク質G、発熱性エクソトキシンA、BまたはC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補受容体I、可溶性I-CAM1、可溶性インターロイキン受容体、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原、ブドウ球菌エンテロトキシン、SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE、ステロイドホルモン受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、毒性ショック症候群トキシン、チモシンアルファ1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍成長因子(TGF)、TGF-α、TGF-β、腫瘍壊死因子、腫瘍壊死因子アルファ、腫瘍壊死因子ベータ、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、VLA-4タンパク質、VCAM-1タンパク質、血管内皮成長因子(VEGF)、ウロキナーゼ、Mos、Ras、Raf、Met、p53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、テストステロン受容体、アルドステロン受容体、LDL受容体、ならびに、コルチコステロン等である。
【0025】
他の実施形態において、非天然アミノ酸は、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、トリ-O-アセチル-GlcNAcβ-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、チロシンアミノ酸の非天然アナログ;グルタミンアミノ酸の非天然アナログ;フェニルアラニンアミノ酸の非天然アナログ;セリンアミノ酸の非天然アナログ;スレオニンアミノ酸の非天然アナログ;アルキル、アリール、アシル、アジド、シアノ、ハロ、ヒドラジン、ヒドラジド、ヒドロキシル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオール、スルホニル、セレノ、エステル、チオ酸、ボレート、ボロネート、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、ヘテロサイクリック、エノン、イミン、アルデヒド、ヒドロキシルアミン、ケト、もしくはアミノ置換アミノ酸、またはそれらの任意の組み合わせ;光活性化可能な架橋剤を有するアミノ酸;スピン標識アミノ酸;蛍光アミノ酸;新規の官能基を有するアミノ酸;別の分子と共有結合的または非共有結合的に相互作用するアミノ酸;金属結合アミノ酸;金属含有アミノ酸;放射性アミノ酸;フォトケージされたおよび/または光異性化可能なアミノ酸;ビオチンまたはビオチンアナログ含有アミノ酸;グリコシル化または糖質(carbohydrate)修飾アミノ酸;ケト含有アミノ酸;ポリエチレングリコールまたはポリエーテルを含むアミノ酸;重原子置換アミノ酸;化学的に切断可能なまたは光切断可能なアミノ酸;伸長側鎖を有するアミノ酸;毒性基含有アミノ酸;例えば糖(sugar)
置換セリン等の糖置換アミノ酸;炭素結合糖含有アミノ酸;酸化還元活性アミノ酸;α-ヒドロキシ含有酸;アミノチオ酸含有アミノ酸;α,α-二置換アミノ酸;β-アミノ酸;およびプロリン以外の環状アミノ酸からなる群から選択される。
【0026】
他の実施形態において、本発明は、単離された細胞または細胞株を提供する。いくつかの実施形態において、単離された細胞または細胞株は、非天然アミノ酸含有タンパク質またはポリペプチドを産生するためのものである。1つの他の実施形態において、本発明は、非天然アミノ酸含有タンパク質の収量が、1つ以上のシャペロンおよびparB遺伝子座の存在下で少なくとも0.25倍以上多い、単離された細胞または細胞株を提供する。他の実施形態において、非天然アミノ酸含有タンパク質の収量が、1つ以上のシャペロンの存在下で少なくとも0.25倍以上多く、そして、parB遺伝子座は、目的のタンパク質をコードする核酸配列のAfe1サイトにおいて、逆転写方向に位置する。他の実施形態において、単離された細胞または細胞系は、産生細胞または細胞株におけるプラスミド保持率を最適化する。
【0027】
〔図面の簡単な説明〕
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載される。本発明の原理が利用される例示的な実施形態が記載されている以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することによって、本発明の開示の特徴および利点のより良い理解が得られるであろう。
【0028】
(
図1)重鎖定常ドメイン(CH1)領域内に示される非天然アミノ酸pAcF組み込み部位を有する抗CD3 Fab-HK129pAcF発現カセットの模式図。
【0029】
(
図2)発現プラスミドおよびそれらの対応する産生株の構築のための一般的スキーム。
【0030】
(
図3)種々の発現要素の名称、位置および転写方向を示す、プラスミドp56の環状マップ。
【0031】
(
図4)親プラスミドp56を保有する親株2797に加えて、プラスミドp96を保有する産生株2835の発酵力価。プラスミドp96において、parB遺伝子座は、AfeI制限酵素サイトとNotI制限酵素サイトとの間において、順方向にクローニングされ、それによりプラスミド骨格から271bpのヌクレオチド配列を欠失する。産生株2797および2835の細胞ペレット力価を示す。
【0032】
(
図5A~B)プラスミド骨格配列の欠失を有さない4つの新しいparB含有産生株の発酵力価。株2884(p117)および株2885(p118)において、parB遺伝子座は、AfeI制限酵素サイトにおいて、それぞれ順方向または逆方向のいずれかにクローニングされた。株2886(p119)および株2887(p120)において、parB遺伝子座は、ZraI制限酵素サイトにおいて、それぞれ順方向または逆方向のいずれかにクローニングされた。細胞ペレット力価(
図5A)および培地力価(
図5B)の両方を示す。
【0033】
(
図6)parB遺伝子座の最適な位置および方向を示した、株2886に含有されるプラスミドp119のマップ。
【0034】
(
図7A~B)ペリプラズムシャペロン発現の効果を試験するための、和合性を有する2プラスミド発現系(
図7A)および単一プラスミド発現系(
図7B)の模式図。2プラスミド系において、FabベクターはAmpRマーカーを含み、シャペロンベクターはKanRマーカーを含む。単一プラスミド系については、シャペロン遺伝子は、KanRマーカーを有する標準的なFabベクターにクローニングされる。
【0035】
(
図8)和合性を有する2プラスミド発現系における、シャペロン遺伝子を有さないコントロール株2839に加えて、2つのペリプラズムシャペロン発現株2840および2841の発酵力価。
【0036】
(
図9A~B)単一プラスミド発現系における、親株2886(p119)に加えて、株2909(p134)および株2910(p135)の2つのペリプラズムシャペロン発現株の発酵力価。細胞ペレット力価(
図9A)および培地力価(
図9B)の両方を示す。
【0037】
(
図10)FkpAシャペロンおよびparB遺伝子座の位置および方向を示した、株2909に含まれているプラスミドp134のマップ。
【0038】
(
図11)プラスミドにおける位置および方向が異なるヘルパー因子parB遺伝子座およびFkpAシャペロンを発現する様々な株の細胞ペレット力価。
【0039】
(
図12A~B)Capto Sカラム溶出画分に捕捉された、株2886由来のFab重鎖(
図12A)および軽鎖(
図12B)の種々の翻訳段階で切断された断片(点線矢印)およびタンパク質分解的に切り取られた断片(実線矢印)の模式図。この株において、典型的な無傷のFabリカバリーは、捕捉されたタンパク質全体の20~25%であった。
【0040】
(
図13A~B)種々の重鎖(HC)カルボキシ末端(C末端)伸長変異体の回収可能力価(
図13A)および純度分析(
図13B)。新規株2914~2918(それぞれプラスミドp141~p145を保有する)は、HCのC末端伸長が全くないコントロール株2909(プラスミドp134を保有する)と比較される。
図13Aは、重鎖(HC)変異体のCapto Sカラムによる回収可能力価を示す。
図13Bは、重鎖(HC)伸長変異体のCapto Sカラムプールの純度分析を示す。
【0041】
〔発明の詳細な説明〕
本発明を詳細に説明する前に、本発明は、特定の方法論、または組成物、または生物学的系に限定されず、これらは当然、変化し得ることが理解されるべきである。また、本明細書中で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことを理解されたい。本明細書中および添付の特許請求の範囲中で使用されるとおり、単数形「a」、「an」、および「the」は、内容が別段の明確な指示をしない限り、複数の対象を含む。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、2つ以上の細胞の組合せ等を含む。
【0042】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に示され説明されてきたが、そのような実施形態が単なる例として提供されることは、当業者には明らかであろう。当業者は、本発明を逸脱しない範囲で、多くの変化、変更、置き換えを実施してもよい。本明細書で説明した本発明の実施形態の様々な代替物を採用して本発明を実施し得ることが、理解されるべきである。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義し、それにより、これらの特許請求の範囲の範囲内の方法および構造、ならびにその等価物が保護されることが意図される。
【0043】
本明細書中または本明細書中の残りの以降の部分において別段の定義がない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0044】
〔定義〕
用語「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸、および非天然(non-natural)アミノ酸または非天然(unnatural)アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣物をいう。天然にコードされたアミノ酸は、20個の共通アミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリン)、ピロリジン、およびセレノシステインである。アミノ酸アナログは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造、ほんの一例として、水素、カルボキシル基、アミノ基、および官能R基に結合したα-炭素を有する化合物をいう。そのようなアナログは、修飾されたR基(例として、ノルロイシン)を有し得、または天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造をなお保持しつつ修飾されたペプチド骨格を有し得る。アミノ酸アナログの非限定的な例は、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを含む。アミノ酸は、それらの名称、それらの一般に知られている3文字記号、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される1文字記号のいずれかによって、本明細書中で言及され得る。さらに、ヌクレオチドは、それらの一般に受け入れられている一文字コードによって、言及されてもよい。
【0045】
本明細書中の用語「抗体」は、抗体遺伝子の全体または一部によって実質的にコードされた、1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質をいう。免疫グロブリン遺伝子は、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、ならびに、無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含むが、これに限定されない。本明細書において、抗体はまた、完全長抗体および抗体断片を含むことが意図され、任意の生物中に天然に存在する抗体、抗体変異体、操作された抗体、および抗体断片を含むことが意図される。本明細書において、抗体はまた、無傷の抗体、モノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体を含むことが意図される。本明細書において、抗体はまた、多重特異性抗体および/または二重特異性抗体を包含する。本発明の抗体は、ヒト抗体を含む。ヒト抗体は、通常、それぞれ可変領域および定常領域を含む2つの軽鎖および2つの重鎖から作製される。軽鎖可変領域は、フレームワーク領域に隣接するCDRL1、CDRL2およびCDRL3として本明細書中で同定される3つのCDRを含む。重鎖可変領域は、フレームワーク領域に隣接するCDRH1、CDRH2およびCDRH3として本明細書中で同定される3つのCDRを含む。
【0046】
本明細書において、用語「抗体断片」は、完全長の形態以外の任意の形態の抗体をいう。本明細書において、抗体断片は、完全長抗体内に存在するより小さい成分である抗体、および抗体変異体のような操作された抗体を含む。抗体断片は、Fv、Fc、Fab、および(Fab’)2、一本鎖Fv(scFv)、ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディ、二重機能性ハイブリッド抗体、CDR1、CDR2、CDR3、CDRの組み合わせ、可変領域、フレームワーク領域、定常領域、重鎖、軽鎖、および可変領域、並びに代替的なスキャフォールド(scaffold)非抗体分子、二重特異性抗体等を含むが、これらに限定されない(Maynard & Georgiou, Annu. Rev. Biomed. Eng. 2:339-76, 2000; Hudson, Curr. Opin. Biotechnol. 9:395-402, 1998)。別の機能的なサブ構造(substructure)は、ペプチドリンカーによって共有結合された、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変領域に含まれる一本鎖Fv(scFv)である(Hu et al., Cancer Research, 56, 3055-3061, 1996)。これらの小さな(Mr25,000)タンパク質は一般に、単一のポリペプチド中の抗原に対する特異性および親和性を保持し、より大きな抗原特異的分子のための便利な構成ブロックを提供し得る。特に断らない限り、用語「抗体」または「抗体」を使用する記載および請求項は、具体的には「抗体断片」および「抗体断片」を含む。本明細書中で使用される場合、用語「抗体断片」は、抗体の文脈において使用される場合、完全な抗体の長さの約10%~約99%である抗体の部分をいう。例えば、抗体の断片は、完全な抗体の長さの少なくとも約10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、または25%であり得る。抗体の断片はまた、完全な抗体の長さの少なくとも約25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%であり得る。いくつかの実施形態において、抗体断片は、ダイアボディ(Db)、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)、DART(二重親和性再ターゲティング)、またはタンデムダイアボディ(TandAb)である。
【0047】
いくつかの実施形態において、本開示は、抗体に生合成的に組み込まれたアミノ酸に関する。本明細書中で使用される場合、用語「生合成的に」は、以下の成分:ポリヌクレオチド、コドン、tRNA、およびリボソーム;の内の少なくとも1つの使用を含む、(細胞性または非細胞性)翻訳系を利用する任意の方法をいう。例として、非天然アミノ酸は、本明細書中に記載される方法および技術を使用して、非天然アミノ酸ポリペプチドに「生合成的に組み込まれ」てもよく、当技術分野で公知である方法および技術を使用して、非天然アミノ酸ポリペプチドに「生合成的に組み込まれ」てもよい。例えば、WO2010/011735およびWO2005/074650を参照されたい。
【0048】
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的に活性な分子」、「生物学的に活性な部分」または「生物学的に活性な物質」とは、ウイルス、細菌、バクテリオファージ、トランスポゾン、プリオン、昆虫、真菌、植物、動物、およびヒトを含むがこれに限定されない生物に関連する生物系、経路、分子、または相互作用の任意の物理的特性または生化学的特性に影響を及ぼすことができる任意の物質を意味する。特に、本明細書中で使用される場合、生物学的に活性な分子は、ヒトまたは他の動物における疾患の診断、治療、緩和、処置、もしくは予防が意図される任意の物質、または、そうでなければヒトまたは動物の身体的または精神的健康を増進することが意図される任意の物質を含むが、これに限定されない。生物学的に活性な分子の例は、ペプチド、タンパク質、酵素、低分子薬、ワクチン、イムノゲン、ハードドラッグ、ソフトドラッグ、糖質、無機原子または無機分子、染料、脂質、ヌクレオシド、放射性核種、オリゴヌクレオチド、トキソイド、生物学的に活性な分子、原核生物細胞および真核生物細胞、ウイルス、多糖類、ウイルスから得られる、またはウイルス由来の核酸およびその部分、細菌、昆虫、動物または他の細胞または細胞型、リポソーム、微粒子およびミセルを含むが、これらに限定されない。本発明における使用に適した生物学的に活性な物質のクラスは、薬、プロドラッグ、放射性核種、造影剤、ポリマー、抗生物質、殺菌剤、胆汁酸樹脂、ナイアシン、および/またはスタチン、抗炎症剤、抗腫瘍剤、心血管作動剤、抗不安剤、ホルモン、成長因子、ステロイド剤、チェックポイントタンパク質阻害剤、シグナル経路阻害剤、微生物由来の生物的に活性な分子等を含むがこれに限定されない。生物学的に活性な物質はまた、米国特許出願公開第20080221112号に記載されているようなアミド化合物も含む。
【0049】
タンパク質再折り畳みに関して本明細書中で使用される場合、「還元剤」は、メルカプト基を還元状態で維持し、そして分子内または分子間ジスルフィド結合を還元する任意の化合物または材料として定義される。適切な還元剤は、ジチオトレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール、ジチオエリスリトール、システイン、システアミン(2-アミノエタンチオール)、および還元型グルタチオンを含むが、これに限定されない。多種多様な還元剤が本発明の方法および組成物における使用に対して適切であることは、当業者には容易に明らかである。
【0050】
タンパク質再折り畳みに関して本明細書中で使用される場合、「酸化剤」は、酸化される化合物から電子を除去することができる任意の化合物または材料として定義される。適切な酸化剤は、酸化型グルタチオン、シスチン、シスタミン、酸化型ジチオトレイトール、酸化型エリスレイトール、および酸素を含むが、これに限定されない。多種多様な酸化剤が本発明の方法における使用に対して適切であることは、当業者には容易に明らかである。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「変性剤(Denaturing agent)」または「変性剤(denaturant)」は、タンパク質の可逆的なアンフォールディングを引き起こす任意の化合物または材料として定義される。変性剤または変性剤の強度は、特定の変性剤または変性剤の特性および濃度の両方によって決定される。適切な変性剤または変性剤は、カオトロープ、界面活性剤、有機溶媒、水混和性溶媒、リン脂質、または2つ以上のこのような薬剤の組み合わせであり得る。適切なカオトロープは、尿素、グアニジン、およびチオシアン酸ナトリウムを含むが、これに限定されない。有用な界面活性剤は、以下を含むがこれに限定されない:ドデシル硫酸ナトリウム、またはポリオキシエチレンエーテル(例えば、Tween、またはTriton界面活性剤)等の強力な界面活性剤、サルコシル、穏やかな非イオン性界面活性剤(例えば、ジギトニン)、N->2,3-(ジオレイオキシ)-プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム等の穏やかなカチオン性界面活性剤、穏やかなイオン性界面活性剤(例えば、コール酸ナトリウム、またはデオキシコール酸ナトリウム)、またはスルホベタイン(双性イオン性界面活性剤)、3-(3-クロルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ-1-プロパン硫酸(CHAPS)、および3-(3-クロルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ-2-ヒドロキシ-1-プロパン硫酸(CHAPSO)を含むが、これに限定されない双性イオン性界面活性剤。有機溶媒、水混和性溶媒、例えばアセトニトリル、低級アルカノール(特にエタノールまたはイソプロパノール等のC2~C4アルカノール)、または低級アルカンジオール(特にエチレングリコール等のC2~C4アルカンジオール)を変性剤として使用してもよい。本発明において有用なリン脂質は、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、およびホスファチジルイノシトール等の天然に存在するリン脂質、またはジヘキサノイルホスファチジルコリンまたはジヘプタノイルホスファチジルコリンのような合成リン脂質誘導体または変異体であり得る。
【0052】
本明細書中で使用される場合、「再折り畳み」は、ジスルフィド結合形成を含むポリペプチドを、不適切に折り畳まれた状態または折り畳まれていない状態から、ジスルフィド結合形成に関して天然の立体配座または適切に折り畳まれた立体配座へと変換する、任意のプロセス、反応または方法を表す。
【0053】
本明細書中で使用される場合、「共折り畳み」は具体的には、互いに相互作用し折り畳まれていない、または不適切に折り畳みされたポリペプチドが、天然の適切に折り畳みされたポリペプチドへと変換することをもたらす、少なくとも2つのポリペプチドを使用する再折り畳みプロセス、反応、または方法をいう。
【0054】
「保存的に修飾された変異体」は、アミノ酸および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、「保存的に修飾された変異体」は、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、または核酸がアミノ酸配列をコードしない本質的に同一の配列をいう。用語「保存的に修飾された変異体」は、天然および非天然アミノ酸、天然および非天然核酸配列の両方、ならびにそれらの組み合わせに適用される。特定の核酸配列に関して、「保存的に修飾された変異体」は、同一もしくは本質的に同一の天然および非天然アミノ酸配列をコードする天然および非天然核酸、または天然および非天然核酸が天然および非天然アミノ酸配列をコードしない本質的に同一の配列をいう。例として、遺伝子コードの縮重のために、多数の機能的に同一な核酸が、任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、コドンによってアラニンが特定されるあらゆる位置において、コドンは、コードされるポリペプチドを変化させることなく、記載される対応するコドンのいずれかに変更され得る。このような核酸変異体は「サイレント変異体(silent variations)」であり、これは、保存的に修飾された変異体の1種である。したがって、例として、天然または非天然ポリペプチドをコードする本明細書中のあらゆる天然または非天然核酸配列もまた、天然または非天然核酸のあらゆる可能なサイレント変異体を表す。天然または非天然核酸中の各コドン(通常はメチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常はトリプトファンの唯一のコドンであるUGGを除く)を修飾して、機能的に同一の分子を得ることができることを、当業者は認識するのであろう。したがって、天然および非天然ポリペプチドをコードする天然および非天然核酸の各サイレント変異体は、記載された各配列において暗黙のうちに存在する。アミノ酸配列に関して、コードされた配列中の単一の天然および非天然アミノ酸またはわずかなパーセンテージの天然および非天然アミノ酸を変化、付加または欠失させる核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加は、「保存的に修飾された変異体」であり、ここで、変異は、アミノ酸の欠失、アミノ酸の付加、または天然および非天然アミノ酸の化学的に類似したアミノ酸での置換を生じる。機能的に類似した天然アミノ酸を提供する保存的置換表は、当該技術分野で公知である。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当業者に公知である。以下の8つのグループは、それぞれ、別のアミノ酸に対して保存的置換であるアミノ酸を含む:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、スレオニン(T);8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins: Structures and Molecular Properties, W H Freeman & Co. 2nd edition,1993を参照)。このような保存的に修飾された変異体は、本明細書中に記載される組成物の多型変異体、種間ホモログ、および対立遺伝子に対して加えられ、これらを排除しない。
【0055】
本明細書中で使用される場合、用語「同一」は、同一である2つ以上の配列(核酸またはポリペプチド)、またはサブ配列をいう。さらに、本明細書中で使用される場合、用語「実質的に同一」は、比較ウィンドウにわたって、または比較アルゴリズムを使用して、もしくは手動アライメントおよび目視検査によって測定される指定領域にわたって、最大一致のために比較およびアライメントされた場合に、同一である配列単位をあるパーセンテージで有する2つ以上の配列をいう。単なる例として、配列単位が特定の領域にわたって約60%同一、約65%同一、約70%同一、約75%同一、約80%同一、約85%同一、約90%同一、または約95%同一である場合に、2つ以上の配列は「実質的に同一」であり得る。このようなパーセンテージは、2つ以上の配列の「同一性パーセント」を表す。配列の同一性は、少なくとも約75~100の配列単位長の領域にわたって、約50の配列単位長の領域にわたって、または特定されない、配列全体を横断して、存在し得る。単なる例として、アミノ酸残基が同一である場合、2つ以上のポリペプチド配列は同一である一方で、アミノ酸残基が特定の領域にわたって約60%同一、約65%同一、約70%同一、約75%同一、約80%同一、約85%同一、約90%同一、または約95%同一である場合、2つ以上のポリペプチド配列は「実質的に同一」である。同一性は、少なくとも約75~約100のアミノ酸長の領域にわたって、約50のアミノ酸長の領域にわたって、または特定されない、ポリペプチド配列の配列全体を横断して、存在し得る。さらに、単なる例として、核酸残基が同一である場合、2つ以上のポリヌクレオチド配列は同一である一方で、アミノ酸残基が特定の領域にわたって約60%同一、約65%同一、約70%同一、約75%同一、約80%同一、約85%同一、約90%同一、または約95%同一である場合、2つ以上のポリヌクレオチド配列は「実質的に同一」である。同一性は、少なくとも約75~約100の核酸長の領域にわたって、約50の核酸長の領域にわたって、または特定されない、ポリヌクレオチド配列の配列全体を横断して、存在し得る。
【0056】
本明細書中で使用される場合、用語「単離された」は、目的の成分を目的でない成分から分離および除去することをいう。核酸またはタンパク質に適用される場合、用語「単離された」は、核酸またはタンパク質が、それが天然の状態で会合する少なくともいくつかの細胞成分を含まないこと、または核酸またはタンパク質が、そのin vivoまたはin vitro産生の濃度よりも高いレベルに濃縮されていることを意味する。単離された物質は、乾燥状態または半乾燥状態のいずれかであり得るか、または水溶液を含むがこれに限定されない溶液中であり得る。単離された成分は均質な状態であり得、または単離された成分は追加の薬学的に許容可能なキャリアおよび/または賦形剤を含む薬学的組成物の一部であり得る。純度および均質性は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーを含むがこれに限定されない分析化学技術を使用して決定され得る。さらに、目的の成分が単離され、調製物中に存在する支配的な種である場合には、当該成分は実質的に精製されていると本明細書中に記載される。本明細書中で使用される場合、用語「精製された」は、少なくとも85%純粋な、少なくとも90%純粋な、少なくとも95%純粋な、少なくとも99%以上純粋な目的の成分に言及することがある。単なる例として、核酸またはタンパク質は、そのような核酸またはタンパク質が、それと天然の状態で会合する少なくともいくつかの細胞成分を含まない場合、または核酸またはタンパク質がそのインビボまたはインビトロ産生の濃度よりも高いレベルに濃縮されている場合、「単離された」ものである。また、例として、遺伝子は、当該遺伝子に隣接し、目的の遺伝子以外のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームから分離されている場合、単離されたものである。
【0057】
本明細書中で使用される場合、用語「修飾された」は、ポリペプチドの長さ、アミノ酸配列、化学構造に対する変化、ポリペプチドの共翻訳修飾または翻訳後修飾等、所与のポリペプチドに対してなされた任意の変化をいう。場合によっては、ポリペプチドは任意に修飾されている、すなわち、ポリペプチドは修飾されていても修飾されていなくてもよい。
【0058】
「非天然アミノ酸」は、20個の共通アミノ酸、またはピロリジン、またはセレノシステインのいずれでもないアミノ酸をいう。用語「非天然アミノ酸」に同義語として使用され得る他の用語は、「天然にコードされていないアミノ酸」、「非天然アミノ酸」、「天然に存在しないアミノ酸」、ならびにその種々のハイフン付き、およびハイフン無しバージョンである。用語「非天然アミノ酸」は、天然にコードされるアミノ酸(20個の共通アミノ酸またはピロリジンおよびセレノシステインを含むがこれに限定されない)の修飾によって天然に存在するが翻訳複合体によって成長するポリペプチド鎖にはそれら自身は組み込まれないアミノ酸を含む。天然にコードされていない天然に存在するアミノ酸の例は、N-アセチルグルコサミニル-L-セリン、N-アセチルグルコサミニル-L-スレオニン、およびO-ホスホチロシンを含むが、これに限定されない。さらに、用語「非天然アミノ酸」は、天然に存在せず、合成的に得ることができるか、または非天然アミノ酸の修飾によって得ることができるアミノ酸を含むが、これに限定されない。
【0059】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」は、デオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシドまたはリボヌクレオチド、および一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のそれらのポリマーをいう。単なる例として、このような核酸および核酸ポリマーは、以下を含むがこれに限定されない:(i)参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で代謝される天然ヌクレオチドのアナログ;(ii)PNA(ペプチド核酸)、アンチセンス技術において使用されるDNAのアナログ(ホスホロチオエート、ホスホロアミデート等)を含むがこれに限定されないオリゴヌクレオチドアナログ;(iii)それらの保存的に修飾された変異体(縮重コドン置換体を含むがこれに限定されない)ならびに明示的に示される相補配列および配列。例として、縮重コドン置換体は、1つ以上の選択された(またはすべての)コドンの第3の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を生成することによって達成され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081, 1991; Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608, 1985; および Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98, 1994)。
【0060】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、本明細書において、アミノ酸残基のポリマーに言及するために互換的に使用される。すなわち、ポリペプチドを指す説明は、ペプチドの説明およびタンパク質の説明に対して等しく適用され、逆もまた同様である。当該用語は、天然に存在するアミノ酸ポリマー、および1つ以上のアミノ酸残基が非天然アミノ酸であるアミノ酸ポリマーに適用される。さらに、このような「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、アミノ酸残基がペプチド共有結合によって連結されている完全長タンパク質を含む、任意の長さのアミノ酸鎖を含む。本発明の実施形態において、目的のタンパク質は、サイトカイン、成長因子、成長因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、炎症性分子、がん遺伝子産物、ペプチドホルモン、シグナル伝達分子、ステロイドホルモン受容体、転写アクチベーター、転写サプレッサー、エリスロポエチン(EPO)、インスリン、ヒト成長ホルモン、上皮好中球活性化ペプチド-78、GROα/MGSA、GROβ、GRO、MIP-1α、MIP-1&、MCP-1、肝細胞成長因子、インスリン様成長因子、白血病阻害因子、オンコスタチンM、PD-ECSF、PDGF、プレイオトロピン、SCF、c-kitリガンド、VEGF、G-CSF、IL-1、IL-2、IL-8、IGF-I、IGF-II、FGF(線維芽細胞成長因子)、TNF、TGF-α、TGF-β、EGF(上皮成長因子)、KGF(ケラチノサイト成長因子)、SCF/c-Kit、CD40L/CD40、VLA-4/VCAM-1、ICAM-1/LFA-1、ヒアルリン/CD44、Mos、Ras、Raf、Met、p53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、テストステロン受容体、アルドステロン受容体、LDL受容体、ならびに、コルチコステロン、アルファ-1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗溶血因子、アポリポタンパク質、アポタンパク質、心房性ナトリウム排泄増加因子、心房性ナトリウム排泄増加ポリペプチド、心房性ペプチド、C-X-Cケモカイン、T39765、NAP-2、ENA-78、Gro-aまたはGro-c、IP-10、GCP-2、NAP-4、SDF-1、PF4、MIG、カルシトニン、c-kitリガンド、サイトカイン、CCケモカイン、単球走化性タンパク質-1、単球走化性タンパク質-2、単球走化性タンパク質-3、単球炎症性タンパク質-1アルファ、単球炎症性タンパク質-1ベータ、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262、C-kitリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補因子5a、補阻害剤、補受容体1、サイトカイン、上皮好中球活性化ペプチド-78、上皮成長因子(EGF)、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン(EPO)、剥離性トキシン、因子IX、因子VII、因子VIII、因子X、線維芽細胞成長因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G-CSF、GM-CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、成長因子、成長因子受容体、ヘッジホッグタンパク質、ヘモグロビン、肝細胞成長因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、ICAM-1、ICAM-1受容体、LFA-1、LFA-1受容体、インスリン、インスリン様成長因子(IGF)、IGF-I、IGF-II、インターフェロン、IFN-α、IFN-ベータ、IFN-γ、インターロイキン、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、ケラチノサイト成長因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールツリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチン、M骨形成タンパク質、がん遺伝子産物、副甲状腺ホルモン、PD-ECSF、PDGF、ペプチドホルモン、ヒト成長ホルモン、プレイオトロピン、タンパク質A、タンパク質G、発熱性エクソトキシンA、BまたはC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補受容体I、可溶性I-CAM1、可溶性インターロイキン受容体、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原、ブドウ球菌エンテロトキシン、SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE、ステロイドホルモン受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、毒性ショック症候群トキシン、チモシンアルファ1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍成長因子(TGF)、TGF-α、TGF-β、腫瘍壊死因子、腫瘍壊死因子アルファ、腫瘍壊死因子ベータ、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、VLA-4タンパク質、VCAM-1タンパク質、血管内皮成長因子(VEGF)、ウロキナーゼ、Mos、Ras、Raf、Met、p53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、テストステロン受容体、アルドステロン受容体、LDL受容体、コルチコステロン等である。
【0061】
用語「翻訳後修飾」は、そのようなアミノ酸がポリペプチド鎖に翻訳的に組み込まれた後に生じる、天然または非天然アミノ酸の任意の修飾をいう。このような修飾は、共翻訳インビボ修飾、共翻訳インビトロ修飾(無細胞翻訳系等)、翻訳後インビボ修飾、および翻訳後インビトロ修飾を含むが、これに限定されない。
【0062】
用語「組換え宿主細胞」は、「宿主細胞」とも呼ばれ、外因性ポリヌクレオチドを含む細胞をいう。ここで、外因性ポリヌクレオチドを細胞に挿入するために使用される方法は、直接取り込み、形質導入、f接合、または組換え宿主細胞を作製するための当技術分野で公知の他の方法を含むが、これに限定されない。単なる例として、このような外因性ポリヌクレオチドは、プラスミドを含むがこれに限定されない非組み込みベクターであり得るか、または宿主ゲノムに組み込まれ得る。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「培地(medium)」または「培地(media)」は、細菌宿主細胞、酵母宿主細胞、昆虫宿主細胞、植物宿主細胞、真核生物宿主細胞、哺乳類宿主細胞、CHO細胞、原核生物宿主細胞、大腸菌、またはシュードモナス宿主細胞を含む任意の宿主細胞、および細胞内容物を支持または含有する任意の培養培地、溶液、固体、半固体または剛性支持体を含む。したがって、当該用語は、宿主細胞が増殖している培地、例えば、増殖工程の前または後のいずれかの培地を含む目的のタンパク質が分泌された培地を包含し得る。当該用語はまた、宿主細胞溶解物を含有するバッファまたは試薬(例えば、目的のタンパク質が細胞内で産生され、宿主細胞が溶解または破壊されてそのようなものを放出する場合)を包含し得る。
【0064】
本明細書中で使用される場合、用語「実質的に精製された」は、精製の前には通常、目的の成分に付随または相互作用する他の成分を、実質的にまたは本質的に含まない目的の成分をいう。単なる例として、目的の成分の調製物が約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満(乾燥重量による)の汚染成分を含有する場合、目的の成分は「実質的に精製され」得る。したがって、「実質的に精製された」目的の成分は、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはそれ以上の純度レベルを有し得る。単なる例として、天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドは、組み換え的に産生された天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドの場合には、天然細胞または宿主細胞から精製され得る。例として、天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドの調製物は、当該調製物が約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満(乾燥重量による)の汚染材料を含有する場合、「実質的に精製され」得る。例として、天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドが宿主細胞によって組み換え的に産生された場合、天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドは、細胞の乾燥重量で約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、もしくは約1%、またはそれ以下で存在し得る。例として、天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドが宿主細胞によって組み換え的に産生される場合、天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドは、細胞の乾燥重量で約5g/L、約4g/L、約3g/L、約2g/L、約1g/L、約750mg/L、約500mg/L、約250mg/L、約100mg/L、約50mg/L、約10mg/L、もしくは約1mg/L、またはそれ以下で培養培地中に存在し得る。例として、「実質的に精製された」天然アミノ酸ポリペプチドまたは非天然アミノ酸ポリペプチドは、SDS/PAGE分析、RP-HPLC、SEC、およびキャピラリー電気泳動を含むがこれに限定されない適切な方法によって決定されるように、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%、またはそれ以上の純度レベルを有し得る。
【0065】
本発明において、発現される目的のタンパク質、ペプチド、ポリペプチドは、大腸菌において、不安定化形態で、ならびに/または不溶化形態もしくは可溶化形態で発現される任意のタンパク質、ペプチド、ポリペプチドであり得る。いくつかの実施形態において、不溶性タンパク質は、細胞質に位置する大腸菌における任意のタンパク質、ペプチド、ポリペプチドであり得る。本発明の他の態様において、可溶性タンパク質は、ペリプラズムまたは細胞質または細胞外培地に位置する大腸菌における任意のタンパク質、ペプチド、ポリペプチドであり得る。いくつかの実施形態において、このようなタンパク質、ペプチド、ポリペプチドは、治療用、予防用または診断用のタンパク質、ペプチド、ポリペプチドを含む。他の実施形態において、このようなタンパク質、ペプチド、ポリペプチドは、インターフェロン、インターロイキン、インターロイキン受容体、インターロイキン受容体拮抗薬、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、白血病阻害剤、幹細胞成長因子、腫瘍壊死因子、成長ホルモン、プロインスリン、インスリン様成長因子、繊維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、骨形成因子、神経成長因子、毛様体神経栄養因子、脳由来神経栄養因子、グリア細胞株由来神経栄養因子、ニューロトロフィン、プロウロキナーゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、血液凝固因子、タンパク質C、グルコセレブロシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レニン、リゾチーム、P450、プロキモシン、トリプシン阻害剤、エラスターゼ阻害剤、リポコルチン、レプチン、免疫グロブリン、一本鎖抗体、補成分、血清アルブミン、スギ花粉アレルゲン、低酸素誘導ストレスタンパク質、プロテインキナーゼ、プロトがん遺伝子産物、転写因子、およびウイルス構成タンパク質を含むがこれに限定されない。
【0066】
用語「に由来する」は、生物から単離されるか、または単離され修飾されるか、または、生物からの成分の情報を使用して、例えば化学的に合成された、生成された成分をいう。
【0067】
用語「翻訳系」は、天然に存在するアミノ酸を成長ポリペプチド鎖(タンパク質)に組み込むために必要な成分をいう。例えば、当該成分は、リボソーム、tRNA、シンセターゼ、mRNA等を含み得る。本発明の成分は、インビボまたはインビトロにおいて、翻訳系に添加され得る。
【0068】
用語「原核生物」は、真正細菌(エスケリキアコリ(Escherichia coli)、サームスサーモフィルス(Thermus thermophilus)、バシルスステロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)、シュードモナスフルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナスアエルジノサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等を含むがこれに限定されない)系統発生ドメイン、または古細菌(メタノコッカスジャナスキー(Methanococcus jannaschii)、メタノバクテリウムサーモアウトトロフィクム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、ハロフェラクスボルカニー(Haloferax volcanii)およびハロバクテリウム(Halobacterium)種NRC-1等のハロバクテリウム(Halobacterium)、アーキオグロブスフルジヅス(Archaeoglobus fulgidus)、パイロコッカスフリオサス(Pyrococcus furiosus)、パイロコッカスホリコシー(Pyrococcus horikoshii)、アエロパイラムペルニクス(Aeuropyrum pernix)等を含むがこれに限定されない)系統発生ドメインに属する非真核生物をいう。
【0069】
本発明は、Fabをコードする「オペロン」を提供する。本発明において使用される場合、用語「オペロン」は、それぞれが上記のFab重鎖および軽鎖をコードし、単一のプロモーターの制御下で転写単位を形成する遺伝子の群として定義され、天然または人工オペロンを含む。本発明のいくつかの実施形態において、オペロンは、大腸菌アルカリホスファターゼ(phoA)プロモーターによって駆動されるバイシストニックオペロンである。
【0070】
本明細書中で使用される場合、用語「プロモーター」は、それに作動可能に連結された核酸の発現を調節する核酸配列をいう。このようなプロモーターは、その下流に存在する配列を転写するDNA依存性RNAポリメラーゼと結合する役目を果たすので、転写に必要なシス作用性配列要素であることが知られている。本発明の目的のタンパク質(または遺伝子)の発現レベルの調節のためには、転写を制御するプロモーターは、誘導性プロモーターであることが好ましい。誘導性プロモーターの例は、例えば、lac、tac、trc、trp、araB、Pzt-1、λPL等を含む。lac、tacおよびtrcプロモーターは、イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)を使用することによって誘導することができ;trp、araBおよびPzt-1プロモーターは、それぞれ3-インドールアクリル酸(IAA)、L-アラビノースおよびテトラサイクリンを使用することによって誘導することができ;εPLプロモーターは、高温(42℃)で誘導することができる。また、T7RNAポリメラーゼによって特異的にかつ強力に転写されるT7プロモーターも使用可能である。T7RNAポリメラーゼによる転写において、lacプロモーターの下流に位置するT7RNAポリメラーゼ遺伝子を有する溶原化ラムダファージを有する大腸菌株を使用すると、IPTGを使用することによる上記T7RNAポリメラーゼの誘導が可能となる。いくつかの実施形態において、誘導性プロモーターは、誘導性テトラサイクリンプロモーター(pTc)である。本発明のいくつかの実施形態において、シャペロン等の遺伝要素の発現に使用される誘導性プロモーターは、目的のタンパク質を発現させるために使用されるプロモーターと同一であっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態において、所望のタンパク質の発現レベルを低下させることなくシャペロンの発現レベルおよび発現タイミングを最適化するにあたって、シャペロン等の遺伝要素の発現、および所望のタンパク質の発現を独立して制御することは、有利であり得る。
【0071】
他の実施形態において、用語「プロモーター」は、転写に必要とされる、一般に上流に(遺伝子の5’領域に向かって)位置するDNAの領域をいう。プロモーターは、それらが制御する遺伝子の適切な活性化または抑制を可能にする。プロモーターは、転写因子によって認識される特異的配列を含有する。これらの因子は、プロモーターDNA配列に結合し、遺伝子のコード領域からRNAを合成する酵素であるRNAポリメラーゼの動員をもたらす。原核生物において、プロモーターは、RNAポリメラーゼおよび結合したシグマ因子によって認識され、次いで、近くのそれ自身のDNA配列に結合するアクチベータータンパク質によって、プロモーターDNAに運ばれる。真核生物において、当該過程はより複雑である。例えば、RNAポリメラーゼIIプロモーターの転写には、少なくとも7つの異なる因子が必要である。プロモーターは、他の調節領域(エンハンサー、サイレンサー、境界要素/インシュレーター)と協調して働いて、所定の遺伝子の転写レベルを導くことができる要素を表す。本明細書に記載される方法を実施するにあたって有用なプロモーターは、DNAを転写してリボソーム5SrRNA、tRNA、および他の小さなRNAを合成するRNAポリメラーゼIII(Pol IIIとも呼ばれる)プロモーターを含む。Pol IIIは、遺伝子の上流に制御配列を必要としないという点で(Pol IIと比較して)独特である。その代わりに、それは、内部制御配列に依存し得る。RNAポリメラーゼIIIプロモーターは、均質なRNAポリメラーゼIプロモーターよりも構造が多様であり、RNAポリメラーゼIIプロモーターほど多様ではない。それらは、3つの主要なタイプ(タイプ1~3)に分けられ、そのうちの2つは遺伝子内部型および一般にTATAレスであり、1つは遺伝子外部型でTATAボックスを含有する。
【0072】
本明細書中で使用される場合、用語「コードする」は、特定のアミノ酸配列をコードする核酸がポリペプチドを特定するコドンからなり得るか、または翻訳可能なさらなる配列も含み得るか、あるいはその存在が転写、翻訳、もしくは複製の制御に有用であるか、またはいくつかの宿主核酸コンストラクトの操作を促進することに有用であるような、非限定的(open-ended)な用語である。本明細書中で使用される場合、当該用語は、広義に解釈され、種々の用途を有し得る。いくつかの場合において、用語「コードする」は、半保存的DNA複製のプロセスを記載し、ここで、二本鎖DNA分子のうちの一本鎖は、DNA依存性DNAポリメラーゼによって新たに合成された相補的姉妹鎖をコードするためのテンプレートとして使用される。翻訳のプロセスを記載するために使用される場合、用語「コードする」はまた、アミノ酸をコードするトリプレットコドンにまで及ぶ。いくつかの場合において、RNA分子は、例えばRNA依存性DNAポリメラーゼを組み込む逆転写のプロセスによって、DNA分子をコードし得る。別の態様において、DNA分子は、ペプチドをコードすることができ、ここで、その場合に使用される「コードする」は転写および翻訳の両方のプロセスを組み込む、と理解される。別の態様において、用語「コードする」は、1つの分子中の情報が第1の分子とは異なる化学的性質を有する第2の分子の産生を指示するために使用される任意のプロセスをいう。
【0073】
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子発現」は、核酸転写単位(例えば、ゲノムDNAまたはcDNAを含む)のコードされた情報が、細胞の操作的、非操作的、または構造的な部分に変換されるプロセスをいい、しばしばタンパク質の合成を含む。遺伝子発現は、外部シグナル;例えば、細胞、組織の露出、または遺伝子発現を増加もしくは低下させる薬剤への曝露によって、影響され得る。遺伝子の発現は、DNAからRNAを経るタンパク質への経路のどこででも調節され得る。遺伝子発現の調節は、例えば、転写、翻訳、RNA伝達および処理、mRNA等の中間分子の劣化に作用する制御を介して、または特定のタンパク質分子が作製された後の活性化、不活性化、区画化もしくは劣化を介して、またはそれらの組み合わせによって、生じる。遺伝子発現は、RNAレベルまたはタンパク質レベルで測定され得、ノーザンブロット、RT-PCR、ウェスタンブロット、またはin vitro、in situ、もしくはin vivoでのタンパク質活性アッセイを含むがこれに限定されない当技術分野で公知の任意の方法によって測定され得る。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「単離された」は、生物学的成分(核酸分子、ペプチド、または細胞等)が混合試料(細胞抽出物等)中の他の生物学的成分から精製されていることをいう。例えば、「単離された」ペプチドまたは核酸分子とは、ペプチドまたは核酸分子が存在した細胞(組み換えペプチドまたは核酸分子の発現宿主細胞等)の他の成分から分離されたペプチドまたは核酸分子である。
【0075】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドのポリマー形態をいい、RNA、cDNA、ゲノムDNA、および前記のものの合成された形態および混合ポリマーの、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含み得る。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾形態を指す。本明細書中で使用される場合、「核酸分子」は、「核酸」および「ポリヌクレオチド」と同義である。核酸分子は、特に明記しない限り、通常、少なくとも10塩基長である。当該用語は、DNAの一本鎖形態および二本鎖形態を含む。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド結合および/または天然に存在しないヌクレオチド結合によって一緒に連結された、天然に存在するヌクレオチドおよび修飾されたヌクレオチドのいずれかまたは両方を含み得る。核酸分子は、当業者には容易に理解されるように、化学的または生化学的に修飾され得るか、または非天然または誘導体化ヌクレオチド塩基を含み得る。このような修飾は、例えば、以下を含む:標識、メチル化、アナログでの1つ以上の天然に存在するヌクレオチドの置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電結合(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、スホラミデート、カルバメート等)、荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)、ペンダント部分(例えば、ペプチド)、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレン等)、キレート剤、アルキル化剤、および修飾された結合(例えば、αアノマー核酸等)。用語「核酸分子」はまた、一本鎖型、二本鎖型、部分的二重鎖型、三重鎖型、ヘアピン型、環状型、および南京錠型の立体構造を含む、任意の位相幾何学立体構造も含む。
【0076】
本明細書中で使用される場合、用語「原核生物」または「原核生物の」は、モネラ界に属する生物をいう(原核生物(Procarya)とも呼ばれる)。原核生物は、その単細胞構成、出芽または核分裂による無性生殖、膜結合型核または他の膜結合型オルガネラの欠如、環状染色体、オペロンの存在、イントロンの欠如、メッセージキャッピングおよびポリ-A mRNA、並びに特徴的なリボソーム構造等の他の生化学的特性によって、真核生物と、通常、区別可能である。原核生物は、真正細菌亜界および古細菌亜界(ときに「古細菌(Archaebacteria)」と呼ばれる)を含む。シアノバクテリア(青緑藻)およびマイコプラズマは、ときにモネラ界の下で別々の分類を与えられる。
【0077】
本明細書中で使用される場合、用語「形質導入」は、遺伝物質(例えば、DNAまたは他の核酸分子)が細胞に挿入されるプロセスをいう。一般的な形質導入技術は、ウイルスベクター(バクテリオファージを含む)、エレクトロポレーション、および細胞透過性を増加させる化学試薬の使用を含む。トランスフェクションおよび形質転換は、形質導入の他の用語であるが、これらはときに遺伝物質の発現を意味することもある。
【0078】
用語「形質転換」、「形質転換された」または「核酸を宿主細胞に導入する」は、ベクターのような細胞外核酸(外因性または異種性のDNA)が、付随する物質の有無にかかわらず、細胞(例えば宿主細胞)に入るあらゆるプロセスを意味する。形質転換DNAは、細胞のゲノムに(共有結合によって)組み込まれていてもいなくてもよい。例えば原核細胞において、形質転換DNAは、ベクターまたはプラスミド等のエピソームエレメント上に維持されていてもよい。用語「形質転換された細胞」または「形質転換細胞」は、細胞外核酸が導入された細胞またはその子孫を意味し、従って細胞外核酸を内部に有している。核酸は、当該核酸が染色体成分または染色体外エレメントのいずれかとして複製可能であるように、細胞に導入され得る。例えば発現ベクターによる適切な宿主細胞の形質転換は、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、微粒子銃等の周知の方法によって、または例えばManiatis et al., Molecular Cloning, A laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1982、またはAusubel et al., Current protocols in molecular biology, John Wiley and Sons, 1994に記載されたリン酸カルシウム媒介型形質転換等の化学的方法によって達成することができる。
【0079】
「組換えDNA技術」は通常、異なる生物由来のDNAをin vitroでライゲーションした結果として、2つの異種DNA分子を結合させる技術をいう。組換えDNA分子は一般に、遺伝子操作における実験によって生成される。同義語には「遺伝子スプライシング」、「分子クローニング」および「遺伝子操作」が含まれる。これらの操作の産物は、「組換え」または「組換え分子」をもたらす。用語「組換えタンパク質」または「組換えポリペプチド」は、本明細書中で使用される場合、組換えDNA分子から発現されるタンパク質分子をいう。
【0080】
用語「ベクターまたはコンストラクト」は、本明細書中で使用される場合、ベクターに導入されたベクターではない核酸配列を輸送することができる核酸分子をいう。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、非プラスミドDNAセグメントが連結され得る環状の二本鎖DNAをいう。他のベクターには、コスミド、細菌人工染色体(BAC)および酵母人工染色体(YAC)が含まれる。ベクターの別のタイプはウイルスベクターであり、ここでは、さらなるDNAセグメントが、ウイルスゲノムの全部または一部に連結され得る。ある種のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自律的な複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有するベクターは、細菌宿主内で複製する)。他のベクターは、宿主細胞へ導入されると、宿主細胞のゲノムへと組み込まれ得て、宿主ゲノムと共に複製される。いくつかのベクターは、発現制御配列(プロモーター等)を含み、ベクターに導入された発現可能な核酸配列の転写を指示することができ、そのようなベクターは「発現ベクター」と呼ばれる。ベクターはまた、1つ以上の選択マーカー遺伝子および/または当技術分野において公知の遺伝要素を含み得る。
【0081】
用語「プラスミド」は、本明細書中で使用される場合、染色体DNAから分離し、且つ自律的な複製が可能なDNA分子をいう。それは、典型的には環状且つ二本鎖であり、細菌において、ときには真核生物においても天然に存在する(例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)における2マイクロメートル環)。プラスミドのサイズは、約1~400キロ塩基対超まで変化し得る。プラスミドはしばしば、細菌(または他の細胞)を抗生物質耐性にする能力等、それらを有する細菌(または他の細胞)に選択的優位性を与える遺伝子または遺伝子カセットを含む。プラスミドは、複製起点として働く少なくとも1つのDNA配列を含み、これによってプラスミドDNAは染色体DNAとは独立に複製できるようになる。ほとんどの細菌の染色体は環状であるが、線状プラスミドも知られている。遺伝子操作において用いられるプラスミドはベクターと呼ばれる。それらは、1つの生物から別の生物へと遺伝子を移入するために使用され得、そして典型的には、そのために選択され得るかまたはそれに対して選択され得る表現型を付与する遺伝子マーカーを含む。大部分はまた、ポリリンカーまたは多重クローニングサイトを含み、これは、この位置にDNAフラグメントを容易に挿入できるようにする、数個の一般的に使用される制限酵素サイトを含む短い領域である。本発明のプラスミドは、形質転換時の選択を容易にするために、選択マーカー遺伝子をさらに含んでいてもよい。そのような選択マーカー遺伝子の例は、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、およびクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む。使用されるプラスミド選択マーカー遺伝子は、株の染色体に含まれる選択マーカー遺伝子(もしあれば)とは異なることが望ましい。前述のプラスミドは、標準的な技術によって宿主に導入することができる。原核生物の宿主細胞の形質転換に関しては、例えば、Cohen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 69, 2110, 1972およびSambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3.sup.rd Ed. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 2001を参照のこと。
【0082】
本明細書中で使用される場合、用語「発現カセット」は、プロモーター、並びに他の転写および翻訳制御エレメント(エンハンサー、終結コドン、内部リボソーム侵入サイト、またはポリアデニル化サイトを含むがこれらに限定されない)に作動可能に連結された、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列をいう。前記カセットはまた、1つの宿主分子から別の宿主分子へのカセットの移動を容易にする配列を含み得る。
【0083】
用語「発現コンストラクト」は、本明細書中で使用される場合、所望のコード配列および特定の宿主生物において作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切な核酸配列を含んでいる組換えDNA分子または合成DNA分子から構成される発現モジュールまたは発現カセットをいう。原核生物における発現に必要な核酸配列は、通常、しばしば他の配列と共に、プロモーターおよびリボソーム結合サイトを含む。典型的には、発現ベクターは、プロモーターに作動可能に連結された、転写される特定の核酸配列を含む転写ユニットを含む。宿主中のベクターは例えば、自律的または自己複製プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたはレトロウイルスであり得る。
【0084】
用語「宿主」、「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」は、本発明の1つ以上のベクターまたは単離および精製された核酸配列が導入された原核細胞を示すために、本明細書において置き換え可能に使用される。そのようなタームは、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫または可能性がある子孫にも言及することが理解される。突然変異または環境の影響のいずれかが原因で、ある種の修飾が次世代で起こり得るので、そのような子孫は実際には親細胞と同一ではないかもしれないが、それでもなお、本明細書中で使用される場合、前記用語の技術的範囲内に含まれる。
【0085】
遺伝要素または遺伝成分
本明細書中で使用される場合、「遺伝要素(genetic elements)」または「遺伝要素(genetic element)」は、タンパク質発現を促進するために、ヘルパータンパク質またはヘルパー因子と共に促進、増進、増強または相乗作用を与え得る任意の分子を含み得る。遺伝要素は、タンパク質発現に関連するまたは関与する1つ以上の遺伝子の転写を促進し得る。そのような要素は、非真核生物源または真核生物源由来であり得る。
【0086】
本発明は、原核生物系における発現困難な(difficult-to-express、DTE)タンパク質、タンパク質折り畳み、およびプラスミドの保持および安定化を含む、タンパク質発現に関与する1つ以上の遺伝要素を利用する。そのような遺伝要素は、DNAコード配列、およびヘルパータンパク質並びに/またはシャペロン、フォールダーゼおよびイソメラーゼを含む因子が含まれるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態において、そのような遺伝要素は、ペリプラズムシャペロン、重鎖(HC)カルボキシ末端伸長およびプラスミド分配遺伝子座parBの存在を含む。大腸菌における多くのクラスのヘルパータンパク質および/または因子は、適切に折り畳まれた活性タンパク質の生成を助ける。シャペロンは例えば、誤って折り畳まれたまたは折り畳まれていないタンパク質に結合し、そして適切な折り畳みを促進する。他のヘルパータンパク質は、ジスルフィド結合の還元/酸化または異性化において役割を果たす。ペプチジル-プロリルイソメラーゼは、シス/トランスペプチジル-プロリル結合相互変換に関与し、プロテアーゼは、誤って折り畳まれたまたは凝集したタンパク質を分解するために機能する。
【0087】
種々のクラスの分子シャペロンの過剰発現が大腸菌における抗体フラグメントを含む異種タンパク質の力価を増加させることが、当技術分野において実証されている(Thomas et al., Applied Biochemistry and Biotechnology 66, 197, 1997;Kolaj et. al., Microbial Cell Factories, 2009;Merdanovic et. al., Annu. Rev. Microbiol. 65, 149, 2011)。抗体重鎖(HC)ポリペプチドは折り畳みが困難であり、ペプチジルプロリル異性化はHC折り畳みの律速段階として提案されていることも当業者に公知である(Feige et al., Mol. Cell 34, 569, 2009)。さらに、選択された部位に組み込まれた非天然アミノ酸を有する抗体または抗体断片の原核生物発現を達成することは困難であった。
【0088】
本発明は非天然アミノ酸を組み込むタンパク質の力価の増加を達成するために、ベクターおよびそれらからのプラスミドの設計および操作において、ヘルパータンパク質および/または因子あるいは遺伝要素を利用する。
【0089】
いくつかのヘルパータンパク質および/またはタンパク質折り畳み因子およびシャペロンを含む因子のペリプラズム局在が、機能的抗体フラグメントの適切な集合および折り畳みを触媒することは、当技術分野において周知である。例えば、シャペロンは、折り畳み中間体と一時的に相互作用することによって、適切な異性化および細胞標的化を促進し;そしてフォールダーゼは、折り畳み経路に沿って律速段階を加速する。また、大腸菌が組換えタンパク質の産生のために最も広く使用される宿主の1つであることは、当技術分野において周知である。大腸菌は、高密度に容易に増殖させることができ、宿主-ベクター系における研究が最も進歩しており、且つ多くの高発現ベクターが開発されているので、低コスト且つ高収量にて異種タンパク質を産生するための宿主として理想的に役立つ。大腸菌は、したがって、大腸菌宿主ベクター系は、それゆえ、異種遺伝子のための発現系として最も広く利用される。
【0090】
大腸菌のペリプラズムは、ジスルフィド結合形成を促進する細胞質ゾルよりも多くの酸化環境を提供し、ペリプラズム空間はまた、細胞質と比較してより少ない宿主タンパク質を含み、従って、後続の精製プロセスを容易にする。しかしながら、十分な収量の正しく折り畳まれたタンパク質を回収することには、しばしば問題がある。例えば、抗体断片等のタンパク質の高発現は、タンパク質折り畳みに対する要求を増加させ、細胞における未同定の代謝負担(metabolic burden)を促進し、タンパク質の誤った折り畳みおよび凝集を引き起こす。いくつかのタンパク質折り畳み因子およびシャペロンのペリプラズム局在は、抗体断片等の機能性タンパク質の適切な集合および折り畳みを触媒する。低い~乏しいタンパク質収量の問題を解決する1つのアプローチは、組換えタンパク質をペリプラズム空間または培養培地に分泌させることである。したがって、大腸菌におけるタンパク質収量を増加、改善および/または最適化するために、ペリプラズムタンパク質折り畳み因子を利用することができる。
【0091】
低い~乏しいタンパク質収量を改善するための別のアプローチは、ヘルパータンパク質および/または組換えタンパク質産物の溶解性および機能性の回復に関与し且つペリプラズム抗体断片発現の間の細胞代謝に影響を及ぼす、タンパク質折り畳み因子(例えば、シャペロン)を含む因子を利用することである。本発明のシャペロンは、タンパク質折り畳みに関与する任意のタンパク質であり得、当該タンパク質は大腸菌由来のシャペロンを含むがこれに限定されない。そのようなシャペロンの例は、例えば、DnaK、DnaJ、GrpE、GroEL、GroES、HscA/Hsc66、ClpA、ClpB、ClpS、ClpX、HtpG、HdeA、HdeB、HtpG、HslO、HscC osmY、SecB、Spy、Tig等を含む。他のシャペロンは、ペリプラズムシャペロンSkp、FkpA、SurA、PPiA、PPiDを含むが、それらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態において、1つ以上のシャペロンを組み合わせて使用することができる。1つ以上のヘルパータンパク質および/または因子(例えばシャペロン等)と標的タンパク質との共発現は、可溶性タンパク質のレベルを増加させることができる。一実施形態において、タンパク質折り畳みを促進することができる1つ以上のタンパク質は、FkpA、Skp、SurA、PPiAおよびPPiDである。他の実施形態において、タンパク質の分泌または移動を促進することができる1つ以上のタンパク質は、SecY、SecE、SecG、SecYEG、SecA、SecB、FtsYおよびLepである。他の一実施形態において、ジスルフィド結合形成を促進することができる1つ以上のタンパク質は、DsbA、DsbB、DsbD、DsbGである。いくつかの実施形態において、ジスルフィド結合酸化および異性化成分は、酵母またはヒト由来のタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)等の真核生物源由来であり得る。
【0092】
ペリプラズムシャペロン(SkpおよびFkpAを含むがこれらに限定されない)は、抗体断片のペリプラズム産生を改善することが示されている(Hayhurst et al., Protein Expr. Purif., 15, 336-343, 1999;Hayhurst et al., J. Immunol. Meth., 276, 185-196, 2003;Padiolleau-Lefevre et al., Immunol. Lett., 103, 39-44, 2006;Zhang, et al., Biotechniques, 35, 1032-1038, 2003;Bothmann et al., J. Biol. Chem., 275, 17100-17105, 2000;Ow et al., Microb. Cell Fact., 9, 22, 2010)。大腸菌において、FkpAおよびSkpは、ペプチジルプロリルイソメラーゼ活性を有する2つの周知の二機能性ペリプラズムシャペロンである。SkpおよびFkpAは、誤って折り畳まれたタンパク質を再折り畳みし、且つペリプラズムにおける不溶性封入体へのそれらの凝集を防止する、一般的能力を有する分子シャペロンである。Skpは、新たに合成された外膜タンパク質の適切な折り畳みを容易にし、且つその溶解性を維持することを助ける17kDaホモ三量体タンパク質であり、FkpAは、シャペロン活性およびペプチジル-プロリルイソメラーゼ(PPlase)活性を示す26kDaホモ二量体タンパク質である。
【0093】
いくつかの実施形態において、ジスルフィド結合酸化および異性化シャペロンおよび酵素を含む、ジスルフィド結合形成を促進することができるタンパク質を利用することができる。タンパク質ジスルフィドイソメラーゼは、タンパク質が折り畳まれる際に、タンパク質内のシステイン残基間のジスルフィド結合の形成および切断を触媒する酵素である。大腸菌において、そのようなジスルフィドイソメラーゼ(ヘルパータンパク質)は、DsbA、DsbB、DsbC、DsbD、またはDsbGを含む。宿主細胞におけるタンパク質発現を改善するために、ジスルフィド結合の形成を触媒するタンパク質の共発現は、当業者に周知である。例えば、WO1998/56930は、細菌細胞において異種ジスルフィド結合含有ポリペプチドを産生するための方法を開示しており、ここでは、原核生物のジスルフィドイソメラーゼ(例えば、DsbCまたはDsbG等)が真核生物のポリペプチドと共発現される;米国特許第6673569号は、外来タンパク質を産生する際に使用するためのDsbA、DsbB、DsbCおよびDsbDの各々をコードするポリヌクレオチドを含む人工オペロンを開示している;EP特許第0786009号は、細菌において異種ポリペプチドを産生するためのプロセスを開示しており、ここでは、DsbAまたはDsbCをコードする核酸の発現は、異種ポリペプチドをコードする核酸の発現の誘導の前に誘導される。さらに、いくつかのタンパク質イソメラーゼ(例えば、DsbC)は、二官能性であり、そしてFkpAについての技術分野で観察されるように、タンパク質発現において重要である。
【0094】
いくつかの細菌性プラスミド分離システムにおいて、プラスミド分配遺伝子座(par)として知られる特定の遺伝子が細胞分裂の間にプラスミドを失った娘細胞の殺傷に関与することが、当技術分野において知られている(Ebersbach G. and Gerdes K., Annu. Rev. Genet. 2005 39, 453)。さらに、文献における他の知見は、もとは大腸菌プラスミドR1に由来する580bpの最小分配B(parB)遺伝子座が、大腸菌を含む多くの細菌における維持および安定性を媒介することを実証した(Gerdes K., Nature Biotech. 1988 6, 1402-1405;Gerdes K. et. al., Mol. Microbiol. 1990 4, 1807;Gerdes K. and Neilsen Al, J. Mol. Biol. 1992 226, 637)。プラスミドRlのparB(分配B)遺伝子座は、プラスミドの安定性を制御し、そしてhok遺伝子およびsok遺伝子をコードしている。細胞分裂時にparB運搬プラスミドを失ったこれらの細胞は、急速に死滅する(いわゆる分離後細胞死(post-segregational killing);Gerdes et al., 1986a)。宿主細胞の殺傷を担うhok遺伝子は、parB領域の左側に位置している。この遺伝子は、hok mRNAに相補的な小さなアンチセンスRNAであるsok遺伝子にコードされたリプレッサーによって翻訳レベルで調節されている。hok遺伝子活性のトランス作用性アンタゴニストをコードするsok遺伝子(殺傷の抑制)は、全遺伝子コードフレームからすぐ上流に位置する(Gerdes et al., 1986a)。hok mRNAは非常に安定であるが、sok RNAは急速に劣化する。この作用機序、すなわち分離後細胞死は、parBを有しているプラスミドを失った細胞においてsok RNA分子が急速に消失するため起こる。これは、次に、安定なhok mRNAの翻訳を引き起こす。その後、Hokタンパク質が合成され、そしてプラスミドを含まない細胞の殺傷を促進する。従って、本発明の開示の産生株におけるプラスミド保持率を改善するために、parB遺伝子座の遺伝子を、合成発現プラスミドの設計および操作において利用した。本明細書中の実施例において観察されるとおり、parB遺伝子座は、組換えタンパク質発現の収量の増加において有意であった。本発明のいくつかの実施形態において、目的の遺伝子に対するparB遺伝子座の位置および方向もまた、組換えタンパク質発現の増加に影響を及ぼした。
【0095】
プロテアーゼは、大腸菌のペリプラズムおよび細胞質中の古く、誤って折り畳まれたタンパク質を入れ替えるのに重要な役割を果たしている。細菌性プロテアーゼは、目的の組換えタンパク質を分解するように作用し、それによって、しばしば、活性タンパク質の収量を有意に減少させる。そのようなプロテアーゼは、限定されるものではないが、プロテアーゼIII(ptr)、DegP、OppT、Tsp、prlC、ptrA、ptrB、pepA-T、tsh、espc、eatA、clpPおよびイオンを含む。尾部特異的プロテアーゼ(Tsp)としても知られるペリプラズムセリンエンドプロテアーゼPrc(C末端のプロセシングのための)は、Fab切断の原因であると考えられている(Chen C. et al. Biotechnology and Bioengineering 2004 85, 463)。Prcは、タンパク質のC末端を認識し、且つそれに結合し、次いで、タンパク質配列内の緩い領域または折り畳まれていない領域で切断すると考えられている(Keiler et al. Protein Science 1995 4, 1507)。切断サイトは、タンパク質の二次構造または三次構造によって決定され、一次配列によっては決定されない。Prcは、タンパク質分解サイトに関して広範な配列特異性を有する。タンパク質のC末端配列はPrcによるその切断に影響を及ぼすことができ、そしてC末端配列の修飾は、Prcによるそのタンパク質の切断の量を変化させ得ることが当技術分野で知られている(Keiler KC and Sauer RT, The Journal of Biological Chemistry 1996 271, 2589)。従って、いくつかの実施形態において、本発明は、タンパク質収量の調節または制御におけるプロテアーゼの関与を試験する。
【0096】
直交tRNA技術
原核生物系(例えば大腸菌)におけるタンパク質発現の最適化において、本発明は、天然にコードされていないアミノ酸が組み込まれている発現困難な(DTE)抗体断片を含むタンパク質を利用する。大腸菌における非天然アミノ酸取り込み技術の使用は、当技術分野で周知である。この技術は、原核生物種において機能する直交tRNA/アミノアシルtRNA合成酵素ペアを用いて、セレクターコドンに応答して非天然アミノ酸を部位特異的に組み込む。例えば、WO2002/085923、WO2002/086075、WO2004/09459、WO2005/019415、WO2005/007870およびWO2005/007624を参照されたい。これらの文献は、その内容全体が参照により組み込まれる。Wang and Schultz, "Expanding the Genetic Code," Angewandte Chemie Int. Ed., 44(1):34-66, 2005(その内容は、その全体が参照により組み込まれる)も参照されたい。非天然アミノ酸のタンパク質への組み込みは、非天然アミノ酸の組み込みをシグナル伝達するセレクターコドンを含むように目的のタンパク質(または遺伝子)をコードするポリヌクレオチドを操作することによって、任意の所望の位置で生じるようにプログラムされ得る。本発明のセレクターコドンは例えば、ユニークな3塩基コドン、ナンセンスコドン(例えば、終止コドン)を含む。
【0097】
付加的な反応性の非天然アミノ酸を遺伝暗号に付加するために、アミノアシルtRNA合成酵素と適切なtRNAとを含む新しい直交なペアは、宿主の翻訳機構において効率的に機能できるが、問題になっている翻訳系に「直交」であることが必要である。これは翻訳系に内在する合成酵素とtRNAとが独立に機能することを意味する。直交なペアの所望の特徴は、あらゆる内因性tRNAによってデコードされない特定のコドン(例えば、セレクターコドン)のみをデコードまたは認識するtRNAと、その同族のtRNAを1つの特異的な非天然アミノ酸のみで優先的にアミノアシル化(または「荷電」)するアミノアシルtRNA合成酵素とを含む。O-tRNAはまた、通常は、内因性合成酵素によってアミノアシル化されない。例えば、大腸菌において、直交ペアは、例えば大腸菌において40個ある内因性tRNAのいずれとも交差反応しないアミノアシルtRNA合成酵素と、例えば大腸菌において21個ある内因性合成酵素のいずれかによってアミノアシル化されない直交tRNAとを含むであろう。
【0098】
多種多様な直交tRNAおよびアミノアシルtRNA合成酵素は、特定の合成アミノ酸をポリペプチドに挿入するために当該技術分野で記載されており、そして一般に、本発明における使用に適切である。例えば、ケト特異的O-tRNA/アミノアシルtRNA合成酵素は、Wang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:56-61 (2003)およびZhang et al., Biochem. 42(22):6735-6746 (2003)において記載されている。例示的なO-RS、またはその部分は、ポリヌクレオチド配列によってコードされ、そして米国特許第7,045,337号および同第7,083,970号において開示されたアミノ酸配列を含む。これらの文献はそれぞれが参照により本明細書中に組み込まれる。O-RSと共に使用するための対応するO-tRNA分子も、米国特許第7,045,337号および同第7,083,970号に記載されている。これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。O-tRNA/アミノアシルtRNA合成酵素ペアのさらなる例は、WO2005/007870、WO2005/007624;およびWO2005/019415において記載されている。
【0099】
いくつかの他の直交ペアが報告されている。出芽酵母のtRNAおよび合成酵素に由来する、グルタミニル系(例えば、Liu et al., (1999) PNAS 96:4780-4785を参照のこと)、アスパルチル系(例えば、Pastrnak et al., (2000) Helv. Chim. Acta 83:2277-2286を参照のこと)、およびチロシル系(例えば、Ohno et al., (1998) J. Biochem. (Tokyo, Jpn.) 124:1065-1068;およびKowal et al., (2001) PNAS 98:2268-2273を参照のこと)は、大腸菌における非天然アミノ酸の潜在的な取り込みについて記載されている。大腸菌のグルタミニル合成酵素(例えば、Kowal et al., (2001) PNAS 98:2268-2273を参照のこと)およびチロシル合成酵素(例えば、Edwards et al., (1990) Mol. Cell. Biol. 10:1633-1641)に由来する系は、出芽酵母における使用について記載されている。大腸菌のチロシル系は、哺乳動物細胞におけるin vivoでの3-ヨード-L-チロシンの取り込みのために用いられている。Sakamoto et al., (2002) Nucleic Acids Res. 30:4692-4699を参照のこと。
【0100】
一般に、直交ペアがセレクターコドンを認識し、セレクターコドンに応答してアミノ酸をロードする場合、直交ペアは、セレクターコドンを「抑制」すると言われる。すなわち、翻訳系の(例えば、細胞の)内因性機構によって認識されないセレクターコドンは、通常は翻訳されず、これは別の面では核酸から翻訳されるポリペプチドの産生をブロックする結果をもたらし得る。本発明のO-tRNAは、セレクターコドンを認識し、そしてポリヌクレオチド配列を含むかまたはそれによってコードされるO-tRNAの抑制効率と比較して、セレクターコドンに応答する同族の合成酵素の存在下で、少なくともおよそ45%、50%、60%、75%、80%、または90%またはそれより多い抑制効率を含む。O-RSは、目的の非天然アミノ酸でO-tRNAをアミノアシル化する。細胞は、O-tRNA/O-RSペアを使用して、例えば、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を介して、伸長中のポリペプチド鎖に非天然アミノ酸を取り込む。ここで、ポリヌクレオチドは、O-tRNAによって認識されるセレクターコドンを含む。特定の望ましい態様において、細胞は、追加のO-tRNA/O-RSペアを含むことができ、ここで、追加のO-tRNAは、異なる非天然アミノ酸を伴う追加のO-RSによってロードされる。例えば、O-tRNAの一方は4塩基コドンを認識し、他方は終止コドンを認識し得る。別の方法として、複数の異なる終止コドンまたは複数の異なる4塩基コドンは、異なるセレクターコドンを特異的に認識することができる。
【0101】
本発明のセレクターコドンは、タンパク質生合成機構の遺伝子コドンフレームワークを拡張する。例えば、セレクターコドンは、限定されないが、ユニークな3塩基コドン、ナンセンスコドン(例えば、アンバーコドン(UAG)、オーカーコドン、またはオパールコドン(UGA)を含むがこれに限定されない、終止コドン等)、非天然コドン、4塩基以上のコドン、レアコドン等を含む。所望の遺伝子またはポリヌクレオチドに導入され得るセレクターコドンの数に広い範囲が存在することは当業者に容易に明らかであり、目的のタンパク質をコードする単一のポリヌクレオチドにおいて、1つ以上、2つ以上、3つ以上含むがこれに限定されない。
【0102】
1つの実施形態において、この方法は、in vivoでの1つ以上の非天然アミノ酸の組み込みのための終止コドンであるセレクターコドンの使用を含む。O-tRNAが産生され、これは、例えば、UAGを含むがこれに限定されない終止コドンを認識し、且つ所望の非天然アミノ酸を有するO-RSによってアミノアシル化される。このO-tRNAは、天然に存在する宿主のアミノアシルtRNA合成酵素によって認識されない。従来の部位特異的突然変異誘発は、TAGを含むがこれに限定されない終止コドンを、目的のポリペプチド中の目的のサイトに導入するために使用することができる。例えば、Sayers, J.R., et al. (1988), 5’-3’ Exonucleases in phosphorothioate-based oligonucleotide-directed mutagenesis. Nucleic Acids Res, 16:791-802を参照のこと。O-RSと、O-tRNAと、目的のポリペプチドをコードする核酸とをin vivoで組み合わせると、非天然アミノ酸は、UAGコドンに応答して取り込まれて、特定の位置に非天然アミノ酸を含有するポリペプチドが得られる。
【0103】
in vivoでの非天然アミノ酸の取り込みは、真核生物の宿主細胞の有意な摂動なしに行われ得る。例えば、UAGコドンに対する抑制効率は、O-tRNA(アンバーサプレッサーtRNAを含むがこれに限定されない)と、真核生物の放出因子(eRFを含むがこれに限定されない)(これは終止コドンに結合し、そして伸長するペプチドのリボソームからの放出を開始する)との間の競合に依存するので、抑制効率は、O-tRNA、および/またはサプレッサーtRNAの発現レベルを増加させることを含むがこれに限定されるわけではない手段によって調節され得る。
【0104】
非天然アミノ酸は、レアコドンでコードされ得る。例えば、in vitroでのタンパク質合成反応におけるアルギニン濃度が減少する場合、レアアルギニンコドンAGGは、アラニンでアシル化された合成tRNAによるAlaの挿入に有効であることが証明されている。例えば、Ma et al., Biochemistry, 32:7939 (1993)を参照のこと。この場合、合成されたtRNAは、大腸菌おける少数の種として存在する天然に生じるtRNAArgと競合する。いくつかの生物は、すべてのトリプレットコドンを使用しない。ミクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)における未割り当てコドンAGAは、in vitro転写/翻訳抽出物におけるアミノ酸の挿入に利用されている。例えば、Kowal and Oliver, Nucl. Acid. Res., 25:4685 (1997)を参照のこと。本発明の成分は、これらのレアコドンをin vivoで使用するために生成され得る。
【0105】
セレクターコドンはまた、塩基以上のコドン(例えば、4塩基、5塩基、6塩基またはそれより多いコドン)を含むがこれに限定されない拡張コドンを含む。4塩基コドンの例は、AGGA、CUAG、UAGA、CCCU等を含むが、これらに限定されない。5塩基コドンの例は、AGGAC、CCCCU、CCCUC、CUAGA、CUACU、UAGGC等を含むが、これらに限定されない。本発明の特徴は、フレームシフトサプレッションに基づく拡張コドンの使用を含む。4塩基以上のコドンは、1つまたは複数の非天然アミノ酸を含むがこれに限定されないアミノ酸を同じタンパク質に挿入し得る。例えば、アンチコドンループを有する(例えば、少なくとも8~10ntアンチコドンループを有する)特殊なフレームシフトサプレッサーtRNAを含むがこれに限定されない変異O-tRNAの存在下で、4塩基以上のコドンは単一のアミノ酸として読み取られる。他の実施形態において、アンチコドンループは、少なくとも4塩基コドン、少なくとも5塩基コドン、または少なくとも6塩基コドン以上またはそれより多くを含むがこれらに限定されないコドンをデコードすることができる。256の可能な4塩基コドンが存在するので、複数の非天然アミノ酸は、4塩基以上のコドンを使用して同じ細胞内でコードされ得る。Anderson et al., Exploring the Limits of Codon and Anticodon Size, Chemistry and Biology, 9:237-244. 2002;Magliery, Expanding the Genetic Code: Selection of Efficient Suppressors of Four-base Codons and Identification of “Shifty” Four-base Codons with a Library Approach in Escherichia coli, J. Mol. Biol. 307: 755-769, 2001を参照されたい。
【0106】
例えば、4塩基コドンは、in vitro生合成法を使用して、タンパク質に非天然アミノ酸を組み込むために使用されている。例えば、Ma et al., Biochemistry, 32:7939, 1993;およびHohsaka et al., J. Am. Chem. Soc., 121(51), pp 12194-12195, 1999を参照のこと。CGGGおよびAGGUは、2つの化学的にアシル化されたフレームシフトサプレッサーtRNAを用いて、2-ナフチルアラニンおよびリジンのNBD誘導体をin vitroでストレプトアビジンに同時に組み込むために使用される。(例えば、Hohsaka et al.、前出を参照のこと)。in vivo研究において、Mooreらは、NCUAアンチコドンを有するtRNALeu誘導体がUAGNコドン(NはU、A、G、またはCであり得る)を抑制する能力を試験し、そして四つ組のUAGAは、0または-1フレームにおいてほとんどデコードされずに、13~26%の効率で、UCUAアンチコドンを有するtRNALeuによってデコードされ得ることを見出した。Moore et al., J. Mol. Biol., 298:195, 2000を参照のこと。一実施形態において、レアコドンまたはナンセンスコドンに基づく拡張コドンを本発明において使用することができ、これは他の望ましくない部位でのミスセンスリードスルーおよびフレームシフトサプレッションを低減し得る。
【0107】
所定の系のために、セレクターコドンはまた、天然の3塩基コドンのうちの1つを含むことができ、ここでは、内在系は天然の塩基コドンを使用しない(または稀に使用する)。例えば、これには、天然の3塩基コドンを認識するtRNAを欠失している系、および/または3塩基コドンがレアコドンである系が含まれる。
【0108】
セレクターコドンは任意に、非天然塩基対を含む。これらの非天然塩基対は、既存の遺伝子アルファベットをさらに拡張する。1つの余分な塩基対は、トリプレットコドンの数を64から125に増加させる。第3の塩基対の特性には、安定かつ選択的な塩基対形成、ポリメラーゼによる高忠実度でのDNAへの効率的な酵素の取り込み、および新生非天然塩基対の合成後の効率的な継続するプライマー伸長が含まれる。方法および組成物に適合させ得る非天然塩基対の説明は、例えば、Hirao, et al., An unnatural base pair for incorporating amino acid analogues into protein, Nature Biotechnology, 20:177-182, 2002を含む。Wu, Y., et al., J. Am. Chem. Soc. 124:14626-14630, 2002も参照されたい。その他の関連刊行物を以下に列挙する。
【0109】
本発明の特定の実施形態において、例えば大腸菌細胞等の細胞は、直交tRNA(O-tRNA)、直交アミノアシル-tRNA合成酵素(O-RS)、非天然アミノ酸および目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含み、前記ポリヌクレオチドはO-tRNAによって認識されるセレクターコドンを含む。翻訳系はまた、無細胞系、例えば、種々の市販の「in vitro」転写/翻訳系のいずれかであり得る。前記ペアの例は、mutRNATyr-mutTyrRSペア、例えばmutRNATyr-SS12TyrRSペア、mutRNALeu-mutLeuRSペア、mutRNAThr-mutThrRSペア、mutRNAGlu-mutGluRSペア等を含む。
【0110】
非天然アミノ酸
本開示は、その中に部位特異的に組み込まれた非天然に(non-naturally)または非天然に(unnaturally)コードされたアミノ酸を有する抗体断片を含む。抗体または抗体断片中に非天然アミノ酸を部位特異的に導入するための方法が当技術分野に記載されており、例えば、WO2010/011735およびWO2005/074650を参照のこと。典型的には、本発明の非天然アミノ酸は、20個の天然アミノ酸において利用できない追加の特徴を提供するように選択または設計される。例えば、非天然アミノ酸は、それらが組み込まれるタンパク質の生物学的特性を改変するように任意に設計または選択される。例えば、以下の特性は、タンパク質中に非天然アミノ酸を含めることによって任意に改変される:毒性、生体内分布、溶解度、安定性(例えば、耐熱性、耐加水分解性、酸化耐性、酵素分解に対する耐性等)、精製および加工の容易さ、構造特性、分光特性、化学的および/または光化学的特性、触媒活性、酸化還元電位、半減期、(共有結合または非共有結合のいずれかで)他の分子と反応する能力等。
【0111】
本明細書中で使用される場合、用語「非天然または非天然アミノ酸」は、任意のアミノ酸、修飾アミノ酸、および/またはアミノ酸アナログをいい、これは、20の一般的な天然に存在するアミノ酸またはセレノシステインまたはピロリシンの内の1つではない。本発明の非天然アミノ酸は、当技術分野で公知の20個のα-アミノ酸以外の天然に存在する化合物であり得る。非天然型のアミノ酸は、p-エチルチオカルボニル-L-フェニルアラニン、p-(3-オキソブタノイル)-L-フェニルアラニン、1,5-ダンシル-アラニン、7-アミノ-クマリンアミノ酸、7-ヒドロキシクマリンアミノ酸、ニトロベンジルセリン、O-(2-ニトロベンジル)-L-チロシン、p-カルボキシメチル-L-フェニルアラニン、p-シアノ-L-フェニルアラニン、m-シアノ-L-フェニルアラニン、ビフェニルアラニン、3-アミノ-L-チロシン、ビピリジルアラニン、p-(2-アミノ-1-ヒドロキシエチル)-L-フェニルアラニン、p-イソプロピルチオカルボニル-L-フェニルアラニン、3-ニトロ-L-チロシンおよびp-ニトロ-L-フェニルアラニンを含むことができるがこれらに限定されず、そして、そのようなL-エナンチオマーおよびD-エナンチオマーを含むことができる。本発明の非天然アミノ酸は、アルキル-、アリール-、アシル-、ヒドラジン、シアノ-、ハロ-、ヒドラジド、アルケニル、エーテル、ボレート、ボロネート、ホスホ、ホスホノ、ホスフィン、エノン、イミン、エステル、ヒドロキシルアミン、アミン等またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。目的の他の非天然アミノ酸は、光活性化可能なクロスリンカー、スピン標識アミノ酸、蛍光アミノ酸、金属結合アミノ酸、金属含有アミノ酸、放射性アミノ酸、新規な官能基を有するアミノ酸、他の分子と共有結合的または非共有結合的に相互作用するアミノ酸、フォトケージされたおよび/または光異性化可能なアミノ酸、ビオチンまたはビオチンアナログ含有アミノ酸、ケト含有アミノ酸、グリコシル化アミノ酸、アミノ酸側鎖に結合した糖類(saccharide)部分、ポリエチレングリコールまたはポリエーテルを含むアミノ酸、重原子置換アミノ酸、化学的に切断可能なまたは光切断可能なアミノ酸、天然のアミノ酸と比較して伸長した側鎖を有するアミノ酸(例えば、ポリエーテルまたは長鎖炭化水素、約5個の炭素よりも多い、約10個の炭素よりも多い等)、炭素結合糖含有アミノ酸、アミノチオ酸含有アミノ酸、および1つ以上の毒性部分を含むアミノ酸を含むが、これらに限定されない。
【0112】
チロシン、グルタミン、フェニルアラニン等の天然アミノ酸に基づく非天然アミノ酸も本発明に含まれる。チロシンアナログには、パラ置換チロシン、オルト置換チロシン、およびメタ置換チロシンが含まれ、ここでは、置換チロシンは、アセチル基、ベンゾイル基、アミノ基、ヒドラジン、ヒドロキシアミン、チオール基、カルボキシ基、イソプロピル基、メチル基、C6-C20の直鎖または分岐の炭化水素、飽和または不飽和炭化水素、O-メチル基、ポリエーテル基、ニトロ基等を含む。さらに、多重置換アリール環も意図される。本発明のグルタミンアナログはα-ヒドロキシ誘導体、β-置換誘導体、環状誘導体、およびアミド置換グルタミン誘導体を含むが、これらに限定されない。フェニルアラニンアナログの例は、メタ置換フェニルアラニンを含むが、これらに限定されず、ここで、置換基は、ヒドロキシ基、メトキシ基、メチル基、アリル基、アセチル基等を含む。非天然アミノ酸の具体例は、O-メチル-L-チロシン、L-3-(2-ナフチル)アラニン、3-メチル-フェニルアラニン、O-4-アリル-L-チロシン、4-プロピル-L-チロシン、トリ-O-アセチル-GlcNAc β-セリン、L-Dopa、フッ素化フェニルアラニン、イソプロピル-L-フェニルアラニン、p-アジド-L-フェニルアラニン、p-アシル-L-フェニルアラニン、p-ベンゾイル-L-フェニルアラニン、L-ホスホセリン、ホスホノセリン、ホスホノチロシン、p-ヨード-フェニルアラニン、p-ブロモフェニルアラニン、p-アミノ-L-フェニルアラニン、およびイソプロピル-L-フェニルアラニン等を含むが、これらに限定されない。
【0113】
前記で提供される非天然アミノ酸の多くは、例えば、Sigma(USA)またはAldrich(Milwaukee, Wis., USA)から市販されている。市販されていないものは、種々の刊行物において提供されるように、または当業者に公知の標準的な方法を使用して、任意に合成される。有機合成技術については、例えば、Fessenden, R & Fessenden, J, Organic Chemistry, Secod Edition, Willard Grant Press, Boston Mass., 1982;March, J., Advanced Organic Chemistry, Third Edition, Wiley and Sons, New York, 1985;およびCarey, F. & Sundberg, R., Advanced Organic Chemistry, Third Edition, Parts A and B, Plenum Press, New York, 1990)を参照されたい。非天然アミノ酸の合成を記載するさらなる刊行物には、例えば、「In vivo incorporation of Unnatural Amino Acids」と題するWO2002/085923;Matsoukas et al., J. Med. Chem., 38, 4660-4669, 1995;King, F. E. & Kidd, D. A. A., A New Synthesis of Glutamine and of gamma-Dipeptides of Glutamic Acid from Phthylated Intermediates, J. Chem. Soc., 3315-3319, 1949;Friedman, O. M. & Chatterrji, R., Synthesis of Derivatives of Glutamine as Model Substrates for Anti-Tumor Agents, J. Am. Chem. Soc. 81, 3750-3752, 1959;Craig, J. C. et al., Absolute Configuration of the Enantiomers of 7-Chloro-4 [[4-(diethylamino)-1-methylbutyl]amino]quinoline (Chloroquine), J. Org. Chem. 53, 1167-1170, 1988;Azoulay, M., Vilmont, M. & Frappier, F., Glutamine analogues as Potential Antimalarials, Eur. J. Med. Chem. 26, 201-5, 1991;Koskinen, A. M. P. & Rapoport, H. Synthesis of 4-Substituted Prolines as Conformationally Constrained Amino Acid Analogues, J. Org. Chem., 54, 1859-1866, 1989; Christie, B. D. & Rapoport, H., Synthesis of Optically Pure Pipecolates from L-Asparagine. Application to the Total Synthesis of (+)-Apovincamine through Amino Acid Decarbonylation and Iminium Ion Cyclization, J. Org. Chem. 1989:1859-1866, 1985;Barton et al., Synthesis of Novel a-Amino-Acids and Derivatives Using Radical Chemistry: Synthesis of L-and D-a-Amino-Adipic Acids, L-a-aminopimelic Acid and Appropriate Unsaturated Derivatives, Tetrahedron Lett, 43:4297-4308, 1987;およびSubasinghe et al., Quisqualic acid analogues: synthesis of beta-heterocyclic 2-aminopropanoic acid derivatives and their activity at a novel quisqualate-sensitized site, J. Med. Chem. 35:4602-7, 1992が含まれる。2003年12月22日に出願された「Protein Arrays」と題するWO2004/058946も参照されたい。
【0114】
非天然アミノ酸の取り込みは、種々の目的のために行うことができ、タンパク質とその受容体またはその受容体の1つ以上のサブユニットとの相互作用の調節、タンパク質の構造および/または機能における変化の調整、サイズの変更、酸性度、求核性、水素結合、疎水性、プロテアーゼ標的部位の接近容易性、ある部分(タンパク質配列に関する部分を含むが、これに限定されない)の標的化、生物活性分子の添加、ポリマーの付着、放射性核種の付着、血清半減期の調節、組織浸透の調節(例えば、腫瘍)、能動輸送の調節、組織、細胞または臓器特異性または分布の調節、免疫原性の調節、プロテアーゼ耐性の調節等を含むが、これらに限定されない。非天然アミノ酸を含むタンパク質は、増強されたまたは全く新しい触媒特性または生物物理学的特性を有することができる。例えば、以下の特性は、タンパク質中に非天然アミノ酸を含めることによって任意に改変される:受容体結合、毒性、生体内分布、構造特性、分光特性、化学的および/または光化学的特性、触媒能、半減期(血清半減期を含むが、これに限定されない)、これに限定されないが、共有結合的または非共有結合的に他の分子と反応する能力等。少なくとも1つの非天然アミノ酸を含むタンパク質を含む組成物は、新規な治療薬、診断薬、触媒酵素、工業用酵素、結合タンパク質(抗体を含むが、これらに限定されない)を含むがこれらに限定されないもの、およびタンパク質の構造および機能の研究を含むがこれらに限定されないものに有用である。例えば、Dougherty, (2000) Unnatural Amino Acids as Probes of Protein Structure and Function, Current Opinion in Chemical Biology, 4:645-652を参照のこと。
【0115】
本発明の1つの態様において、組成物は、少なくとも1個(少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または少なくとも10個以上を含むが、これらに限定されない)の非天然アミノ酸を有する少なくとも1つのタンパク質を含む。非天然アミノ酸は、同一または異なるものであり得、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個以上の異なる非天然アミノ酸を含むタンパク質中に、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個以上の異なる部位が存在し得るが、これらに限定されない。別の態様において、組成物は、少なくとも1つのアミノ酸を有するタンパク質を含むが、当該タンパク質中に存在する特定のアミノ酸の内の全てよりも少ないアミノ酸が非天然アミノ酸で置換されている。1つより多い非天然アミノ酸を有する所与のタンパク質について、非天然アミノ酸は同一であっても異なっていてもよい(タンパク質は、2つ以上の異なる型の非天然アミノ酸を含み得るか、または2つの同じ非天然アミノ酸を含み得るが、これらに限定されない)。2つより多い非天然アミノ酸を有する所与のタンパク質について、非天然アミノ酸は、同じ、異なる、または同じ種類の複数の非天然アミノ酸と少なくとも1つの異なる非天然アミノ酸との組み合わせであり得る。
【0116】
少なくとも1つの非天然アミノ酸を有する目的のタンパク質またはポリペプチドは、本発明の特徴である。本発明はまた、本発明の組成物および方法を用いて産生された少なくとも1つの非天然アミノ酸を有するポリペプチドまたはタンパク質を含む。賦形剤(薬学的に受容可能な賦形剤を含むが、これに限定されない)もまた、タンパク質と共に存在し得る。真核細胞において少なくとも1つの非天然アミノ酸を有する目的のタンパク質またはポリペプチドを産生することによって、タンパク質またはポリペプチドは、通常、真核生物の翻訳後修飾を含むであろう。特定の実施形態において、タンパク質は、少なくとも1つの非天然アミノ酸と、真核細胞によってin vivoで行われる少なくとも1つの翻訳後修飾とを含み、当該翻訳後修飾は原核細胞によっては行われない。例えば、翻訳後修飾は、アセチル化、アシル化、脂質修飾、パルミトイル化、パルミテート付加、リン酸化、糖脂質結合修飾、グリコシル化等を含むが、これに限定されない。
【0117】
非天然アミノ酸の1つの利点は、それが、追加の分子を付加するために使用され得る追加の化学的部分を提示することである。これらの修飾は、真核細胞または非真核細胞においてin vivoで、またはin vitroで行うことができる。従って、特定の実施形態において、翻訳後修飾は、非天然アミノ酸を介する。例えば、翻訳後修飾は、求核-求電子反応によるものであり得る。タンパク質の選択的修飾のために現在使用されているほとんどの反応は、求核反応パートナーと求電子反応パートナーとの間の共有結合形成を含み、α-ハロケトンとヒスチジンまたはシステイン側鎖との反応を含むが、これらに限定されない。これらの場合の選択性は、タンパク質中の求核性残基の数および接近容易性によって決定される。本発明のタンパク質において、他のより選択的な反応(例えば、非天然のケトアミノ酸とヒドラジドまたはアミノオキシ化合物との反応)が、in vitroおよびin vivoで使用され得る。例えば、Cornish et al., (1996) J. Am. Chem. Soc., 118:8150-8151;Mahal et al., (1997) Science, 276:1125-1128;Wang et al., (2001) Science 292:498-500; Chin et al., (2002) J. Am. Chem. Soc. 124:9026-9027;Chin et al., (2002) Proc. Natl. Acad. Sci., 99:11020-11024;Wang et al., (2003) Proc. Natl. Acad. Sci., 100:56-61;Zhang et al., (2003) Biochemistry, 42:6735-6746;およびChin et al., (2003) Science, 301:964-7を参照のこと(これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる)。これは、フルオロフォア、架橋剤、糖類誘導体および細胞毒性分子を含む多数の試薬を用いて、実質的にあらゆるタンパク質を選択的に標識することを可能にする。「Glycoprotein synthesis」と題する米国特許第6,927,042号(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。翻訳後修飾(アジドアミノ酸を介するものを含むがこれに限定されない)は、Staudingerライゲーション(トリアリールホスフィン試薬を用いるものを含むがこれに限定されない)を介して行うこともできる。例えば、Kiick et al., Incorporation of azides into recombinant proteins for chemoselective modification by the Staudinger ligation, PNAS 99:19-24, 2002を参照のこと。
【0118】
発現系
クローン化ポリヌクレオチドの高レベル発現を得るために、通常は、転写を指示する強力なプロモーター、転写/翻訳ターミネーター、およびタンパク質をコードする核酸については翻訳開始のためのリボソーム結合部位を含む発現ベクターに、目的のタンパク質またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをサブクローニングする。適切な細菌プロモーターは当業者に公知であり、そして例えば、Sambrook et al.およびAusubel et al.に記載される。
【0119】
本発明の目的のタンパク質を発現するための細菌発現系は、大腸菌、バシルスsp.(Bacillus sp.)、シュードモナスフルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナスアエルジノサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)、およびサルモネラ菌(Salmonella)において利用可能であるが、これらに限定されない(Palva et al., Gene 22:229-235, 1983; Mosbach et al., Nature 302:543-545, 1983)。そのような発現系のためのキットは市販されている。
【0120】
本発明の組換え宿主細胞は、大量の有用な量の非天然アミノ酸を含むタンパク質を合成する能力を提供する。1つの態様において、組成物は、少なくとも2マイクログラム、少なくとも5マイクログラム、少なくとも10マイクログラム、少なくとも50マイクログラム、少なくとも75マイクログラム、少なくとも100マイクログラム、少なくとも200マイクログラム、少なくとも250マイクログラム、少なくとも500マイクログラム、少なくとも1ミリグラム、少なくとも10ミリグラム、少なくとも100ミリグラム、少なくとも1グラムまたはそれより多い量を含むがこれらに限定されない非天然アミノ酸を含むタンパク質、またはin vivoタンパク質産生法で達成され得る量を任意に含む(組換えタンパク質産生および精製についての詳細は本明細書中に提供される)。別の態様において、タンパク質は、以下の濃度で組成物中に任意に存在する:細胞溶解物、バッファ、医薬バッファ、または他の液体懸濁液を含むがこれらに限定されないものの中に、1リットル当たり少なくとも2マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり5マイクログラムのタンパク質、1リットル当たりの10マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり少なくとも50マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり少なくとも75マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり少なくとも100マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり少なくとも200マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり少なくとも250マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり少なくとも500マイクログラムのタンパク質、1リットル当たり少なくとも1ミリグラムのタンパク質、または1リットル当たり少なくとも10ミリグラムのタンパク質、またはそれよりも多いものを含むがこれらに限定されない(約1nl~約100Lまたはそれより多い範囲を含むがこれに限定されない体積において)。
【0121】
本発明の目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列はまた、シグナルペプチドをコードする配列を含んでも含まなくてもよい。シグナルペプチドは、ポリペプチドが発現される細胞から分泌されるときに存在する。そのようなシグナルペプチドは、任意の配列であり得る。シグナルペプチドは、原核生物のものであっても真核生物のものであってもよい。(Coloma, J. Imm. Methods, 152, 89 - 104, 1992)は、哺乳動物細胞において使用するためのシグナルペプチド(マウスIgカッパL鎖シグナルペプチド)を記載している。他のシグナルペプチドは、出芽酵母由来のα因子シグナルペプチド(米国特許第4,870,008号、参照により本明細書に組み込まれる)、マウス唾液アミラーゼのシグナルペプチド(Hagenbuchle et al., Nature 289, 643-646, 1981)、改変カルボキシペプチダーゼシグナルペプチド(Valls et al., Cell 48, 887-897, 1987)、酵母BAR1シグナルペプチド(WO87/02670、参照により本明細書に組み込まれる)、および酵母アスパラギン酸プロテアーゼ3(YAP3)シグナルペプチド(Egel-Mitani et al., Yeast 6, 127-137, 1990を参照のこと)を含むが、これらに限定されない。
【0122】
細菌発現技術は、当業者に公知である。多種多様なベクターが、細菌宿主における使用のために利用可能である。ベクターは、単一コピーまたは低いマルチコピーもしくは高いマルチコピーベクターであり得る。ベクターは、クローニングおよび/または発現のために役立つことができる。ベクターに関する十分な文献、多くのベクターの商業的入手可能性、ならびにベクターおよびそれらの制限マップおよび特性を記載するマニュアルさえも考慮しても、広範囲にわたる議論はここでは必要とされない。周知のように、ベクターは通常、選択を可能にするマーカーを含み、このマーカーは、細胞毒性剤耐性、原栄養性または免疫性を提供し得る。しばしば、異なる特性を提供する複数のマーカーが存在する。
【0123】
細菌プロモーターは、細菌のRNAポリメラーゼに結合し、mRNAへのコード配列(例えば構造遺伝子)の下流(3’)の転写を開始することができる任意のDNA配列である。プロモーターは、通常はコード配列の5’末端の近位に配置される転写開始領域を有するであろう。この転写開始領域は、典型的にはRNAポリメラーゼ結合部位および転写開始部位を含む。細菌のプロモーターはまた、オペレーターと称される第二のドメインを有していてもよく、当該オペレーターは、RNA合成が開始する隣接するRNAポリメラーゼ結合部位と重複してもよい。遺伝子リプレッサータンパク質はオペレーターに結合し、それによって特定の遺伝子の転写を阻害することがあるので、オペレーターは負の調節を受ける(誘導性の)転写を可能にしている。構成的発現は、オペレーター等の負の調節要素の非存在下で生じ得る。さらに、正の調節は、遺伝子アクチベータータンパク質結合配列によって達成され得るが、これは存在する場合には通常、RNAポリメラーゼ結合配列の近位(5’)に存在する。遺伝子アクチベータータンパク質の例は、大腸菌(E. coli)におけるlacオペロンの転写開始を助けるカタボライトアクチベータータンパク質(catabolite activator protein、CAP)である(Raibaud et al., Annu.Rev.Genet, 18:173, 1984)。したがって、調節された発現は正または負のいずれかであってもよく、それによって転写を増強または減少させることができる。
【0124】
用語「細菌宿主」または「細菌宿主細胞」は、組換えベクターまたは他のトランスファーDNAのレシピエントとして使用され得るか、または使用された細菌をいう。この用語は、トランスフェクトされた元の細菌宿主細胞の子孫を含む。偶発的または意図的な突然変異のために、単一の親細胞の子孫が、形態学的にまたはゲノムもしくは全DNA相補体(DNA complement)において、必ずしも元の親と完全に同一ではない可能性があることは理解される。例えば、本発明の目的のタンパク質をコードするヌクレオチド配列の存在等の関連する特性によって特徴付けられる、親細胞に十分に類似する親細胞の子孫は、この定義によって意図される子孫に含まれる。
【0125】
本発明の発現タンパク質のための適切な宿主細菌の選択は、当業者に公知である。発現のための細菌宿主の選択において、適切な宿主は、とりわけ、良好な封入体形成能力、低いタンパク質分解活性、および全体的な堅牢性を有することが示された宿主を含み得る。細菌宿主は一般に、限定されないが、以下を含む種々の供給源から入手可能である:Bacterial Genetic Stock Center、Department of Biophysics and Medical Physics、University of California(Berkeley, CA);およびAmerican Type Culture Collection(「ATCC」)(Manassas, VA)。工業/医薬発酵は一般に、K株(例えば、W3110)に由来する細菌、またはB株(例えば、BL21)に由来する細菌を使用する。これらの株は、それらの成長パラメーターが非常によく知られており、そして堅牢であるので、特に有用である。さらに、これらの株は非病原性であり、これは安全性および環境上の理由から商業的に重要である。適切な大腸菌宿主の他の例は、BL21、DH10B、またはそれらの派生物の株を含むが、これらに限定されない。本発明の方法の別の実施形態において、大腸菌宿主は、プロテアーゼマイナス株(OMP-およびLON-を含むが、これらに限定されない)である。宿主細胞株は、以下を含むシュードモナスの種であり得るが、これらに限定されない:シュードモナスフルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナスアエルジノサ(Pseudomonas aeruginosa)、およびシュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)。MB101株と命名されたシュードモナスフルオレセンス次亜種1(Pseudomonas fluorescens biovar 1)は、組換え産生に有用であることが知られており、そして治療的タンパク質産生プロセスに利用可能である。シュードモナス発現系の例は、宿主株としてThe Dow Chemical Companyから入手可能な系(Midland, MI、dow.comのワールドワイドウェブ上で入手可能)を含む。
【0126】
一旦、組換え宿主細胞株が確立されると(すなわち、発現コンストラクトが宿主細胞に導入され、そして適切な発現コンストラクトを有する宿主細胞が単離されると)、組換え宿主細胞株は、目的のタンパク質またはポリペプチドの産生に適切な条件下で培養される。当業者に明らかであるように、組換え宿主細胞株の培養方法は、利用される発現コンストラクトの性質および宿主細胞の固有性(identity)に依存するであろう。組換え宿主株は通常、当業者に公知の方法を用いて培養される。組換え宿主細胞は、典型的には、炭素、窒素、および無機塩の同化可能な供給源を含有し、場合により、ビタミン、アミノ酸、成長因子、および当業者に公知の他のタンパク質性培養補助剤を含有する液体培地中で培養される。宿主細胞の培養のための液体培地は、望ましくない微生物の成長を防ぐための抗生物質もしくは抗真菌剤および/または化合物(発現ベクターを含む宿主細胞について選択するための抗生物質を含むが、これらに限定されない)を任意に含み得る。
【0127】
組換え宿主細胞は、バッチ式または連続式のいずれかにおいて細胞採取または培養上清の採取のいずれかを行いながら、バッチ式または連続式で培養され得る。原核生物宿主細胞における産生のためには、バッチ式の培養および細胞採取が好ましい。
【0128】
本発明の目的のタンパク質は、組換え系における発現後に精製され得る。目的のタンパク質は、当技術分野で公知の種々の方法によって、宿主細胞または培養培地から精製され得る。細菌宿主細胞中で産生される本発明の目的のタンパク質は、(封入体の形態で)難溶性または不溶性であり得る。本発明の一実施形態において、アミノ酸置換は、本明細書中に開示された方法および当技術分野で公知の方法を利用して組換えにより産生されたタンパク質の溶解度を増大させる目的で選択されるタンパク質またはポリペプチドにおいて、容易に行われ得る。不溶性タンパク質の場合、タンパク質は、遠心分離によって宿主細胞溶解物から収集されてもよく、そしてさらに、細胞のホモジナイゼーションが続いてもよい。難溶性タンパク質の場合、ポリエチレンイミン(PEI)を含むがこれに限定されない化合物を添加して、部分的に可溶性のタンパク質の沈殿を誘導することができる。沈殿したタンパク質は、その後、遠心分離によって都合よく回収され得る。組換え宿主細胞は、当業者に公知の種々の方法を使用して細胞内から封入体を放出するために、破壊またはホモジナイズされ得る。宿主細胞の破壊またはホモジナイゼーションは、酵素による細胞破壊、超音波処理、Dounceホモジナイゼーション、または高圧放出破壊を含むがこれらに限定されない周知の技術を使用して実施され得る。
【0129】
次いで、不溶性または沈殿したタンパク質またはポリペプチドは、当技術分野で公知の任意の数の適切な可溶化剤を使用して可溶化され得る。タンパク質またはポリペプチドは、尿素または塩酸グアニジンで可溶化され得る。可溶化されたタンパク質またはポリペプチドの体積は、都合よく扱いやすいバッチサイズを用いて大きなバッチを製造することができるように、最小限にすべきである。この要因は、組換え宿主が数千リットルの体積のバッチにおいて増殖され得る大規模な商業的環境において有意であり得る。さらに、特にヒトの医薬用途のための大規模な商業的環境においてタンパク質またはポリペプチドを製造する場合、機械および容器、またはタンパク質産物自体を損傷し得る有害な化学物質(harsh chemicals)の回避は、可能であれば回避されるべきである。
【0130】
いくつかの例において、可溶性タンパク質は、ペリプラズム空間中にまたは培養培地中に分泌され得る。さらに、可溶性タンパク質は、宿主細胞の細胞質に存在し得る。精製工程を行う前に可溶性タンパク質を濃縮することが望ましい場合がある。当業者に公知の標準的な技術を使用して、可溶性タンパク質、例えば、細胞溶解物または培養培地を濃縮することができる。さらに、当業者に公知の標準的な技術を使用して、宿主細胞を破壊し、そして宿主細胞の細胞質またはペリプラズム空間から可溶性タンパク質を放出することができる。
【0131】
方法論と技術
本開示は、当技術分野で周知の方法論およびルーチン技術を包含する。これらには、分子生物学、組換えDNA技術、生化学および細胞生物学の従来の方法が含まれ、これらは全て当技術分野の技術の範囲内である。そのような技術は、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition (Sambrook et al., Eds., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001);Oligonucleotide Synthesis: Methods And Applications (Methods in Molecular Biology), (Herdewijn, P., Ed., Humana Press, Totowa, NJ);Oligonucleotide Synthesis (Gait, M. J., Ed., 1984);Methods In Molecular Biology, (Humana Press, Totowa, NJ);Cell Biology: A Laboratory Notebook (Cellis, J. E., Ed., Academic Press, New York, NY, 1998);Animal Cell Culture (Freshney, R. I., Ed., 1987); Introduction To Cell And Tissue Culture (Mather, J. P. and Roberts, P. E., Eds., Plenum Press, New York, NY, 1998);Cell And Tissue Culture: Laboratory Procedures (Doyle, A. et al., Eds., John Wiley and Sons, Hoboken, NJ, 1993-8);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (Miller, J. M. et al. Eds., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 1987);Current Protocols In Molecular Biology (Ausubel, F. M. et al., Eds., Greene Pub. Associates, New York, NY, 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis, K. et al., Eds., Birkhauser, Boston, MA, 1994);Short Protocols In Molecular Biology (John Wiley and Sons, Hoboken, NJ, 1999);Immunobiology 7 (Janeway, C. A. et al., Garland Science, London, UK, 2007);Antibodies (P. Finch, Stride Publications, Devoran, UK, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., Oxford University Press, USA, New York, NY, 1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (Shepherd, P. et al. Eds., Oxford University Press, USA, New York NY, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (Harlow, E. et al. Eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1998);The Antibodies (Zanetti, M. et al. Eds., Harwood Academic Publishers, London, UK, 1995)等の文献において十分に説明されている。
【0132】
本発明はまた、真核生物宿主細胞、非真核生物宿主細胞、および直交tRNA/RSペアを介した非天然アミノ酸のin vivo取り込みのための生物に関する。宿主細胞は、本発明のポリヌクレオチドまたは本発明のポリヌクレオチドを含むコンストラクト(例えばクローニングベクターまたは発現ベクターであり得る本発明のベクターを含むが、これらに限定されない)を用いて遺伝子操作される(形質転換される、形質導入される、またはトランスフェクトされることを含むが、これらに限定されない)。
【0133】
標的核酸を細胞に導入するいくつかの周知の方法が利用可能であり、そのいずれも本発明において使用することができる。これらには、レシピエント細胞とDNAを含有する細菌プロトプラストとの融合、エレクトロポレーション、発射体衝撃法(projectile bombardment)、およびウイルスベクターによる感染等が含まれる。細菌細胞を使用して、本発明のDNAコンストラクトを含有するプラスミドの数を増幅することができる。細菌を対数増殖期まで増殖させ、そして細菌内のプラスミドを、当技術分野で公知の種々の方法によって単離し得る(例えば、Sambrookを参照のこと)。さらに、細菌からプラスミドを精製するためのキットが市販されている(例えば、EasyPrepTM、FlexiPrepTM、どちらもPharmacia Biotech製;Stratagene製のStrataCleanTM;およびQiagen製 QIAprepTM参照)。次いで、単離および精製されたプラスミドを、その後さらに操作して、他のプラスミドを産生し、細胞をトランスフェクトするために使用するか、または関連するベクターに組み込んで、生物を感染させる。典型的なベクターは、転写および翻訳ターミネーター、転写および翻訳開始配列、ならびに特定の標的核酸の発現の調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは任意に、少なくとも1つの独立したターミネーター配列、真核生物もしくは原核生物、またはその両方におけるカセットの複製を可能にする配列(シャトルベクターを含むが、これらに限定されない)、および原核生物系および真核生物系の両方のための選択マーカーを含む一般的な発現カセットを含む。ベクターは、原核生物、真核生物、またはその両方における複製および組込みに適している。Gillam & Smith, Gene 8:81, 1979;Roberts, et al., Nature, 328:731, 1987;Schneider, E., et al., Protein Expr. Purif. 6(1):10-14, 1995;Ausubel, Sambrook, Berger(全て前記)を参照されたい。クローニングに有用な細菌およびバクテリオファージのカタログは、例えば、ATCCによって、例えばATCCによって公開されたThe ATCC Catalogue of Bacteria and Bacteriophage (1992) Gherna et al. (eds)によって提供される。シークエンシング、クローニング、および分子生物学の他の局面のためのさらなる基本的な手順および基礎的な理論的考察もまた、Watson et al. (1992) Recombinant DNA Second Edition Scientific American Books, NYにおいて見出される。加えて、本質的に、任意の核酸(および実質的に任意の標識核酸、標準であるか非標準であるかを問わず)は、例えば、Midland Certified Reagent Company(Midland, TX mcrc.comでのワールドワイドウェブにおいて入手可能)、The Great American Gene Company(Ramona, CA genco.comでのワールドワイドウェブにおいて入手可能)、ExpressGen Inc.(Chicago, IL expressgen.comでのワールドワイドウェブにおいて入手可能)、Operon Technologies Inc.(Alameda, CA)および他の多く等の種々の商業的供給源のいずれかから、特別なまたは標準的な注文をすることができる。
【0134】
キット
本明細書中に記載される組成物のいずれも、適切な容器手段において、キット中で一緒に組み立てられ得る。より詳細には、本発明のベクターおよび/またはプラスミドを設計および構築するまたは操作するための構成要素の全てまたはサブセットが、キット中に一緒にパッケージングされ得る。本発明の1つまたは複数の構成要素は、別々にまたは一緒にパッケージングされ得る。いくつかの実施形態において、ベクターおよび/またはプラスミドを、本明細書中に開示される1つ以上の構成要素と一緒にパッケージングすることが好ましい。本発明の実施形態において、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド(抗体断片を含む)、またはそれらをコードする核酸は、一緒に、または単一分子として、または分子のセットとしてパッケージングされ得る。また、本明細書中に開示される構成要素は、印刷物または機械で読み取り可能な媒体における説明書と共に個々にパッケージされ、そして販売され得、当該説明書は、本明細書中に開示されるように、ベクターおよび/またはプラスミドを設計および構築するために、それらが互いに関連してどのように使用され得るかを記載している。
【0135】
一実施形態において、キットは、単一の容器手段を有し得る、および/または追加の化合物のための別個の容器手段を有し得る。本発明の構成要素は、液体の形態または乾燥粉末の形態において提供され得る。構成要素が1つ以上の溶液中で提供される場合、当該溶液は水溶液であり、滅菌水溶液が特に好ましい。他の例において、キットの構成要素は、乾燥粉末として提供され得る。構成要素(例えば、試薬)が乾燥粉末として提供される場合、当該粉末は、適切な溶媒の添加によって再構成され得る。溶媒はまた、別の容器手段中に提供され得ることが想定される。本明細書中で意図される容器手段は、非限定的な様式で、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、瓶、および/または他の容器手段を含む。
【0136】
実施例
本明細書中に記述された実施例および実施形態は、説明のみを目的とするものであり、それらに関する様々な改変または変更が当業者に示唆され、そして本出願の精神および範囲、ならびに添付された特許請求の範囲の内に含まれるべきであると理解される。
【0137】
実施例1:発現ベクターの操作
本発明の抗CD3 Fab発現プラスミドを、Gibson アセンブリキット(New England Biolabs、MA)を使用する組換えに基づくクローニング法によって、または以下に記載されるとおり、大腸菌NEB5αクローニング株(New England Biolabs、MA)においてQuikChange変異誘発キット(Agilent Technologies、CA)を使用することによって操作した。表1は、本研究で使用した3つの大腸菌クローニング宿主および産生宿主、そしてそれらの詳細な遺伝子型を示している。
【0138】
【0139】
Gibsonアセンブリ:ドナー断片を含む目的の種々の遺伝子(gene of interests、GOIs)を増幅するためのプライマーは、相同組換えのためのアクセプターベクター配列を伴って、5’末端に約18~24塩基対(bp)の重複配列を有し、そしてIntegrated DNA Technologies((IDT)、San Diego, CA)で合成した。PCRフラグメントを、高忠実度DNAポリメラーゼミックス、Pfu Ultra II Hotstart PCR Master Mix(Agilent Technologies、CA)を使用して増幅した。PCR産物をDpn1制限酵素(NEB)で37℃で2時間消化して、プラスミドバックグラウンドを除去し、続いてQiagen PCRカラム精製キット(Qiagen)を使用してカラム精製し、そしてNanodrop(ThermoFisher)によって定量した。アクセプターベクターを、サプライヤーの推奨温度で3~5時間にわたってベクター内でユニークな制限酵素(NEB、MA)で消化することによって線状化し、PCRカラムを精製し、定量した。ドナー挿入および適切に調製されたアクセプターベクターを、3:1のモル比で混合し、Gibsonアセンブリキット(NEB)を使用して50℃で15分間インキュベートし、次いで大腸菌NEB5α株(NEB)への形質転換に使用した。
【0140】
組換え体は、適切な抗生物質を含有するLB寒天プレート上にGibsonアセンブリミックスをプレーティングすることによって回収した。翌日、4~6ウェルの単離した単一コロニーを5mL LB+50μg/mL硫酸カナマイシン(Sigma)またはカルベニシリン100μg/mL(Teknova)培地に播種し、そして37℃で一晩増殖させた。QiagenプラスミドDNAミニプレップキット(Qiagen)を用いて組換えプラスミドを単離し、そしてDNAシークエンシング(Eton Biosciences、CA)によって確認した。完全なGOI領域+100bp上流配列および100bp下流配列を、遺伝子特異的シークエンシングプライマーを用いることにより確認した。
【0141】
QuikChange変異誘発(QuikChange Mutagenesis、QCM):QuikChange Lightning部位特異的変異誘発キット(Agilent Technologies)を使用することによって、TAG終止コドンを含むアンバー変異体を作製した。QCMオリゴヌクレオチドは、QuikChange Web Portal(Agilent Technologies Inc.)を使用して設計し、そしてIDT(San Diego, CA)から注文した。QCM PCRミックスは、5μlの10×バッファ、2.5μlのdNTPミックス、1μl(100ng)のプラスミドテンプレート、1μlのオリゴミックス(各10uM濃度)、1μlのQuikChange Lightning酵素、2.5μlのQuick溶液および37μlの蒸留水(DW)を含んでいた。DNAを、キットによって推奨されるPCRプログラムを用いて18サイクルのみ増幅した。
【0142】
PCR反応完了後、キット(Agilent Technologies)に付属のDpn1酵素で混合物を37℃で2~3時間消化し、ゲル上で泳動して、増幅されたPCR産物の存在を確認した。次に、2.5~5μlのPCR産物を、大腸菌NEB5α株に形質転換した。次いで、4~6個のコロニーから組換えプラスミドを単離し、そして前記のGibsonアセンブリについて記載したとおりに配列を確認した。
【0143】
実施例2:発現株の操作
本発明の産生株を調製するために、化学的にコンピテントな大腸菌W3110B60宿主細胞を、配列が確認されたプラスミドDNA(50ng)で形質転換し、組換え細胞を、50μg/mLの硫酸カナマイシン(Sigma)(またはカルベニシリン100μg/mL、Teknova)を含有する2×YT+1%グルコース寒天プレート上で選択し、そして37℃で一晩インキュベートした。次いで、新鮮な形質転換プレートからの単一コロニーを、50μg/mLの硫酸カナマイシンまたはカルベニシリン100μg/mLを含有する2×YT+1%グルコース寒天プレート上で、連続する三重画線(triple-streaking)および37℃で一晩インキュベートすることによって、3回増殖させた。最後に、第3回目の画線プレートからの単一コロニーを、50μg/mL硫酸カナマイシン(Sigma)(またはカルベニシリン100μg/mL、Teknova)を含有する20mL Super Broth(Fisher-OptiglowTM)に播種し、そして37℃および250rpmで一晩インキュベートした。次いで、一晩生育させた培養物を、最終グリセロール濃度を20%(w/v)になるようにグリセロールで希釈した。次いで、この細胞懸濁液を、いくつかのクライオバイアル中に1mlアリコートに分注し、そして産生株バイアルとして-80℃で凍結させた。
【0144】
前述のとおり産生株のグリセロールバイアルを作製した後、産生株を、DNAシークエンシングおよび抗生物質耐性マーカーの表現型の特徴によってさらに確認した。産生株バイアルが産生宿主において正しいプラスミドを有していることを確認するために、プラスミドを配列確認した。50μg/mLの硫酸カナマイシン(またはカルベニシリン100μg/mL)を含有する20mLのLBに、クローンのグリセロールバイアルから、穿刺によって播種し、そして37℃、250rpmで一晩増殖させた。Qiagenミニプレップキットを用いてプラスミドDNAを単離し、そしてDNAシークエンシング(Eton Biosciences、CA)によって、単離プラスミド中の無傷のGOI ORFの存在を確認した。
【0145】
各産生株の株遺伝子型をさらに検証するために、同バイアル由来の細胞を、以下の4つの別々のプレート上に画線した:50ug/mLの硫酸カナマイシンを含有するLB、15ug/mLのテトラサイクリンを含有するLB、34ug/mLのクロラムフェニコールを含有するLB、および75ug/mLのトリメトプリムを含有するLB。次いで、全てのプレートを、表1に開示したW3110B60産生宿主株の株遺伝子型で予想されるように、陽性成長について確認した。
【0146】
実施例3:発酵プロセス
抗CD3 Fab-pAcFの産生のための発酵プロセスは、以下の2つのステージからなる:(i)播種材料調製および(ii)発酵槽産生。播種材料を単一のグリセロールバイアルから開始し、解凍し、250mLバッフル付き三角フラスコ中の50mLの規定種培地中に1:1000(v/v)に希釈し、そして37℃および250rpmでインキュベートする。使用前に、発酵槽を清潔にし、オートクレーブ処理する。特定量の基礎培地を発酵槽に添加し、蒸気滅菌する。特定量の硫酸カナマイシン溶液、フィード培地およびP2000消泡剤を、播種前に基礎培地に添加する。オートクレーブ処理後に発酵槽に添加した全ての溶液は、0.2μmフィルター濾過するか、または無菌添加の前にオートクレーブ処理する。産生発酵槽は、播種材料の内容物を無菌的に移すことによって、0.0004の標的OD600で播種される。播種後、OD600を決定するために適切なインターバルで培養物をサンプリングする。温度、pHおよび溶存酸素をモニターし、それぞれ37℃、7.0および≧30%の特定の設定点で制御する。pHは、水酸化アンモニウム溶液または硫酸の添加によって制御する。溶存酸素は、撹拌速度を変化させることによって、およびスパージした(sparged)空気/酸素混合物中の酸素の組成を増加させることによって制御する。発酵プロセスの間に消泡剤を添加して、発泡を制御する。
【0147】
細胞密度が>25のOD600に達すると、フィード培地のボーラスを追加する。細胞密度が>50のOD600に達すると、フィード培地を、0.094mL/L開始体積/分の一定流速で32時間にわたって、発酵の終わりまでそれが0.052mL/L開始体積/分に減少するまで添加する。供給開始直後に、特定量のpAcF溶液を無菌的に添加して、タンパク質アミノ酸配列へのpAcFの取り込みを可能にする。同時に、温度を、増殖の間に使用される37℃から産生のための27℃にシフトする。産生は、phoAプロモーターによって制御され、そして培地中のリン酸塩のレベルが激減したときに開始する。収穫は、短い発酵プロセスおよび長い発酵プロセスの誘導の約24時間後および48時間後にそれぞれ開始される。
【0148】
実施例4:プラスミド保持率アッセイ
発酵試料のプラスミド保持率を測定するために、グリセロール(20%v/v)を、収穫時に1mL発酵培養液に添加し、そして将来の分析のために-80℃で保存した。この試料から100μLを採取し、そしてLB培養液900μLに、10-1希釈、10-2希釈、10-3希釈、10-4希釈、10-5希釈、10-6希釈、10-7希釈および10-8希釈によって連続希釈した。100μLの10-4希釈、10-5希釈、10-6希釈、10-7希釈および10-8希釈を、2×YT+1%グルコース寒天プレート上にプレートした。プレートを30℃で一晩インキュベートした。翌日、100個のコロニーを、ウェル単離されたコロニーを有する希釈プレートから拾い、そしてレプリカを、2×YT+1%グルコース寒天および2×YT+1%グルコース+カナマイシン(50μg/mL)プレート上にプレーティングした。プレートを30℃で一晩インキュベートした。一晩インキュベートした後、コロニーを計数し、そして2×YT+1%グルコースプレートと2×YT+1%グルコース+カナマイシン(50μg/mL)プレートとの間で比較した。プラスミド保持率は、2×YT+1%グルコース+カナマイシン(50μg/mL)プレートと比較した、2×YT+1%グルコースプレート上で増殖したコロニーのパーセンテージとして報告される。
【0149】
実施例5:産物力価定量
産物力価を定量するために、1mLの発酵培養液を、発酵プロセス全体の様々な時点で遠心分離した(18,000×g、5分間)。上清を別の1.5mL遠心管に移し、ペレットおよび上清の両方を保持し、そして将来の分析のために-80℃で保存した。細胞ペレットを溶解し、そして以下に記載されるとおりELISAまたはCEXアッセイを使用して力価を決定した。
【0150】
試料調製:発酵試料(細胞ペースト)由来の前述の大腸菌細胞ペレット1.0mLを乾燥させ、そして秤量して、試料の質量を決定した。リゾナーゼバイオプロセシング試薬(Novagen)およびベンゾナーゼヌクレアーゼ試薬(Novagen)を使用して、細胞ペーストを化学的に溶解し、そしてそれぞれBugBusterタンパク質抽出試薬(Novagen)中で1:500に希釈した。1.0mLのBugbuster/リゾナーゼ/ベンゾナーゼ混合物を1.0mLの乾燥細胞ペーストに添加し、得られた混合物を激しくボルテックスし、次いで、1000回転/分(rpm)で振盪しながら、22℃のThermos振盪機上に20分間置いた。インキュベーションが完了した後、細胞溶解物を18,000×gで3分間遠心分離して、細胞の残骸をペレット化した。
【0151】
ELISAアッセイ:ELISA、すなわち酵素結合免疫吸着アッセイは、抗CD3 Fabの存在を定量的に測定するために、免疫酵素アッセイによって試料を分析する。次いで、ELISA分析の前に、前述のサンプルをCaseinバッファ(ThermoFisher)中に希釈した。MSDプレート(MSD)を、抗CD3 Fabの重鎖部分に特異的なヤギ抗ヒトIgG Fd(Southern Biotech)でコーティングした。次に、コーティングしたELISAプレートを、1×KPLバッファ(KPL)で洗浄し、そしてCaseinブロッキングバッファでブロックした。次いで、抗CD3 Fabおよび精製した標準物質を含む試料を、振盪しながら室温で2時間にわたってプレート上でインキュベートする。プレートを1×KPLバッファで洗浄し、そして抗CD3 Fabの軽鎖部分に特異的なヤギ抗ヒトカッパビオチン化(Southern Biotech)抗体によるさらなる結合工程を実施して、無傷のFabのみが検出されることを確実にした。捕捉された抗CD3 Fabタンパク質の同定および定量のために、スルホタグストレパビジン(MSD)を使用した。4×MSD読み取りバッファ(MSD)を1×に希釈し、そして各ウェルに添加した。試料中の抗CD3 Fabの量を、標準曲線に対する外挿によって決定する。
【0152】
CEXアッセイ:前述のとおりに細胞溶解物上清の200μLアリコートを、次いで、0.22μmPVDF遠心フィルター(Millipore)を通して、18,000×gで3分間濾過した。次いで、濾過した産物を陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)によって分析して、発酵試料中に存在する抗CD3 Fabの量を決定した。ProPac WCX-10、4×100mm CEXカラム(ThermoFisher)を使用して、宿主細胞タンパク質汚染物質から抗CD3 Fabを分離した。移動相Aは、抗CD3 Fabを捕捉するために使用され、pH6.5の20mMリン酸ナトリウムからなり、一方、移動相Bは、抗CD3 Fabを溶出するために使用され、pH6.5の20mMリン酸ナトリウム、200mM塩化ナトリウムからなった。試料中の抗CD3 Fabの量を、標準曲線に対する観察されたピーク面積の内挿によって決定する。
【0153】
実施例6:産物品質および力価回復
本発明の抗CD3 Fabを、大腸菌細胞中でそれぞれ産生させ、全細胞溶解物(WCL)上清から回収した。細胞溶解を4℃で行った。細胞を100mM酢酸、100mM NaCl、1mM EDTA(pH3.5)中に、もとの発酵体積に等しい体積で溶解し、溶解後pH4.1~4.2となる。溶解後、WCLを15,900×gで30分間、4℃で遠心分離し、そして濾過して(0.8/0.2ミクロン)、沈殿したタンパク質および細胞の残骸を除去する。Capto Sカチオン交換クロマトグラフィーを使用して、大腸菌WCL上清から抗CD3 Fabを捕捉した。RP-HPLC分析をCapto Sプールで行って、さらに切り取られ且つ切断された重鎖および軽鎖種に対する無傷のFabの純度を決定した。前記さらに切り取られ且つ切断された重鎖および軽鎖種は、前記無傷のFabと共にCapto Sカラムで共精製される。回復可能力価はまた、Capto S捕捉カラムから回収されたタンパク質の総量を計算し、それにCapto S溶出プール中の無傷のFabのパーセンテージを乗じることによって推定した。溶解および精製のために収穫した細胞ペレットを再び懸濁して発酵収穫体積に戻したので、無傷のFabの量を初期Capto Sにロードした体積で割って、発酵力価を推定した。
【0154】
質量分析:5~10μgの抗CD3 Fab試料を、分析のための逆相PLRP-S 2.1mm×150mm、8μμm、4000オングストローム(A)分析用HPLCカラム(Agilent)にロードした。精製された試料および画分収集された試料の両方を、そのまま分析用カラムに注入した。移動相Aは、LC/MSグレードHPLC水(FisherSci)中の0.05%LC/MSグレードTFA(FisherSci)からなり、一方、移動相Bは、LC/MSグレードアセトニトリル(FisherSci)中の0.05%LC/MSグレードTFAからなった。Agilent 6510 ESI Q-Toff-LC/MSシステムに結合したバイナリーポンプを備えたAgilent 1200シリーズHPLCシステムを、質量スペクトル分析に使用した。Agilent Mass Hunter分析ソフトウェアを用いて、クロマトグラフィーによって分離したピークの質量を定性的に同定した。質量スペクトルタンパク質分析ソフトウェアGPMAWを用いて、抗CD3 Fabタンパク質の一次配列の理論質量を決定した。理論質量を測定質量と比較して、各ピークの同一性を決定した。
【0155】
実施例7:大腸菌における抗CD3 Fab発現系
図1は、示した重鎖定常ドメイン(CH1)内のUAA取り込み部位の位置を有する抗CD3 Fab発現カセットの模式図を示す。このバイシストロニックオペロンは大腸菌のアルカリホスファターゼ(phoA)プロモーターによって駆動され、培地中のリン酸塩が枯渇すると誘導される。抗CD3 Fabのアミノ酸配列は、vHおよびvL(それぞれ免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変領域)コード配列+ヒトγ1(CH1)およびκ(CL)定常領域から構成される。重鎖および軽鎖の両方に付加された分泌シグナルペプチドSTIIは、適切な折り畳みおよびジスルフィド結合形成のために、酸化ペリプラズムへのFabの分泌を指示する。アンバー終止コドン(TAG)を、抗CD3 Fab中の重鎖定常ドメイン(CH1)の129位におけるリジン(K)残基129で操作した(以下、HK129アンバーまたはHK129amと呼ぶ)(
図1に示す)。このTAG終止コドンは、進化したM.ヤンナスキイ(M. jannaschii)のpAcF tyrRS/tRNA機構を用いてこの部位でpAcFをコードした(例えば、Wang L. et al., Science, 292, 498, 2001; Zhang Z. et. al., Biochemistry, 42, 6735, 2003を参照のこと)。
【0156】
発現ベクターおよび対応する産生株の構築の一般的スキーム:
図2は、発現ベクターおよびそれらの対応する産生株の構築の一般的スキームを示す。表2は、本研究において使用したすべての発現ベクターおよびそれらに対応する株を記載している。簡潔には、前述のとおり、Gibsonアセンブリ方法によって、または大腸菌NEB5α(New England Biolabs、MA)クローニング株におけるQuikChange変異誘発プロトコルによって、発現ベクターを、最初に構築した。次いで、配列が確認された発現ベクターDNAを、プラットフォーム産生宿主W3110株またはW3110B60株(表1)に形質転換し、本明細書中に記載のとおり対応する産生株(表2)を得た。
【0157】
【0158】
実施例8:プラスミドp56を用いて操作された2797株
図3は、発現プラスミドp56のマップを示す。このプラスミドの設計および操作において、プラスミド内に含まれるE9 RS合成酵素およびtRNAクラスターを有する直交系を利用した(例えば、米国特許公開第2003010885号、同第20050009049号、同第20050208536号、同第20060233744号を参照のこと)。また、本発明のプラスミドの設計および操作において利用したのは、プロリン誤取り込みを防止するとともに、独自のプラットフォーム産生宿主W3110B60株の染色体内の温度感受性proS変異を補完してプラスミド維持を確実にするための、大腸菌プロリン合成酵素、ProS、タンパク質の独自のプラスミドへの過剰発現であった(例えば、Javahishvili, T. et. al., ACS Chem. Biol., 9, 87, 2014に記載されている)。
【0159】
フランキングSnaBIおよびSpeI制限酵素サイトを有する重鎖アミノ酸位置HK129にアンバーTAG終止コドンを有するヒト化抗CD3 Fab配列のための合成遺伝子を操作した(
図1)。操作したFab遺伝子を、Gibsonアセンブリキット(New England Biolabs、MA)を用いて、独自の大腸菌発現ベクターにクローニングした。配列確認後、プラスミドを大腸菌産生宿主W3110B60株に形質転換し、そして単離された単一コロニーを精製してグリセロールバイアルを作製した。これらのグリセロールバイアルは、Fab分子の大腸菌発酵のための2797産生クローンとして役立った。このFabの重鎖および軽鎖の両方のDNA配列およびアミノ酸配列を配列番号1~11として表3に示す。
【0160】
【0161】
株2797の発酵力価およびプラスミド保持率を、
図4、
図5A~Bおよび以下の表4に示す。
【0162】
【0163】
実施例9:種々の分配遺伝子座B(parB)の位置決めおよび方向付けによって操作された株
産生ホスト細胞株W3110B60は、株2797を作製するために使用され、ゲノムのproSプロリン合成酵素遺伝子における変異を含む(W375R)。この変異は、34℃超でゲノムのProSタンパク質を不活性にし、従って、37℃で成長が阻害された温度感受性W3110B60細胞株を作製する。目的の抗CD3 Fab遺伝子(GOI)に加えて、2797株中のp56プラスミドはまた、野生型大腸菌ProSタンパク質の発現のための大腸菌proS遺伝子も含んでいる。これは成長を可能にし、GOIプラスミドを37℃で維持するための選択圧を提供する。しかし、産生温度が34℃より低い場合には、プラスミドの維持に有利ではないかもしれない。カナマイシン耐性のためのkanR遺伝子はまたp56プラスミド上に存在し(
図3)、抗生物質のカナマイシンを培地に添加したときにプラスミド維持のための選択圧を与える。これらの構成要素の両方を用いても、発酵の間の種々の時点で収集した2797細胞において、乏しいプラスミド保持率が観察された(表4)。
【0164】
Fab産生温度または任意の他のプロセス制限にかかわらず、全発酵実行の間の強固なプラスミド維持を確実にするために、種々のストラテジーを調査した。1つのストラテジーは、それぞれの娘細胞が同じプラスミドを受け継ぐように、細菌の細胞分裂の間の適切なプラスミド分離を保証することであった。いくつかの細菌のプラスミド分離システムにおいて、プラスミド分配遺伝子座(par)として公知の特定の遺伝子が、細胞分裂の間にプラスミドを失った娘細胞を殺傷することによってこれを保証することが文献中に示されている(Ebersbach G. & Gerdes K., Annu. Rev. Genet. 39, 453, 2005)。さらに、文献中の他の知見は、プラスミド上の大腸菌プラスミドR1にもともと由来する580bpの最小分配B parB(hok/sok)遺伝子座(配列番号12)の組み込みが、大腸菌を含む多くの細菌におけるそれらの維持および安定性を改善し得ることを実証した(Gerdes K., Nature Biotech. 6,1402, 1988;Gerdes K. et. al., Mol. Microbiol. 4, 1807, 1990;Gerdes K. and Neilsen Al, J. Mol. Biol. 226, 637, 1992)。
【0165】
従って、本発明者らは、プラスミドp56におけるAfeI制限酵素サイトとNotI制限酵素サイトとの間の下流Fab遺伝子転写方向に関して、その宿主殺傷(hok)遺伝子(配列番号13)の順(F)転写方向を有する合成580bpのparB遺伝子座遺伝子(DNA2.0、Menlo Park、CA)およびアミノ酸(配列番号14)をクローニングしようとした。このストラテジーにより、phoAプロモーター領域のすぐ上流のプラスミド骨格に271bpの欠失を有する、合成の操作されたプラスミドp96が作製された。Fab遺伝子、kanR遺伝子、およびproS遺伝子を含む他の全てのコード領域(CDS)およびそれらの転写方向は、変化しないままである。次いで、プラスミドp96を、前記の実施例に記載されたとおり、標準的な産生宿主W3110B60株に形質転換して、産生株2835を得た。
【0166】
【0167】
次いで、産生株2797および2835を、前述のとおり高細胞密度発酵プロセスにおいて比較した。
図4は、短い発酵条件および長い発酵条件の両方の下での株2797および株2835の産生力価を比較する。表6は、2つの異なる発酵プロセス下でのこれらの2つの株についてのプラスミド保持率データを示す。株2797についての典型的なプラスミド保持率は、プラスミドを保持するための長期発酵プロセス最適化において、48時間で0%~44%の間で変化し、54時間で測定されたプラスミド保持率は1%のみであった。予想され、そして示されたとおり、株2835中にparB遺伝子座を組み込むと、プラスミド保持率が有意に改善した。2835株を用いた両方の発酵実行は、両方のプロセスおよび両方の時点(22時間および54時間;表6)で100%のプラスミド保持率を示した。
【0168】
【0169】
プラスミド維持が改善されたにもかかわらず、細胞ペレット力価は、短期発酵プロセスおよび長期発酵プロセスの両方について、2835細胞株で約40%低かった(
図4)。プラスミド保持率の改善によって、もし全く改善されていないとしても、理論的には少なくとも同じ生産性を維持するはずであるので、これは予想外であった。力価の改善は、後に、以下に記載されるプラスミド骨格配列を少しも欠失しないparB遺伝子座の挿入で観察された。
【0170】
実施例10:プラスミド配列欠失のないParB含有ベクターおよび株の操作
前述のとおり、AfeI制限酵素サイトとNotI制限酵素サイトとの間において、parB遺伝子座を順方向(F)に挿入すると、文献から予想されるとおり、プラスミド保持率が改善された(100%)。しかし、予想外に、それはまた、細胞ペレット中で無傷のFab力価を約40%まで低下させた。この産生の損失を取り戻すために、プラスミド骨格配列を少しも欠失しない4種類の新しい発現プラスミド(p117、p118、p119およびp120;表2)を操作した。プラスミド骨格内のAfeIユニーク制限酵素サイトおよびZraIユニーク制限酵素サイトを利用した。同じparB遺伝子座を、Fab CDSに対して順方向(F)または逆方向(R)のいずれかの両方の位置にクローニングした。このストラテジーは、4つの新しい産生株、2884、2885、2886および2887(表2)を生じ、これらを、その後、プラスミド保持率および産生力価の両方について、元の株2797と高細胞密度発酵において比較した(
図5A~Bおよび表6)。
【0171】
新しい産生細胞株は2884(抗CD3 Fab、parB-AfeI-F)、2885(抗CD3 Fab、parB-AfeI-R)、2886(抗CD3 Fab、parB-ZraI-F)、および2887(抗CD3 Fab、parB-ZraI-R)であり、ここでは、AfeIまたはZraIは、parB遺伝子座がクローニングされた制限酵素サイトを示し、そして、F(順)はhok遺伝子の転写がFab CDSと同じ向きにあることを示し、R(逆)は、hok遺伝子の転写がFab CDSと比較して逆向きであることを示す。これらの産生細胞株を、parB遺伝子座を有さない2797(抗CD3 Fab)と比較した。
【0172】
予想どおり、4種類の新しいparB細胞株は全て、誘導48時間後に100%のプラスミド保持率を示した(表6)。これは、parB遺伝子座を有さない2797を超える有意な改善を示し、ここで、発酵の終わりにおけるプラスミド保持率は、使用する発酵プロセスに依存して、0%程度の低いものから44%で測定される最も高いものまで変化した(表6および前記の実施例を参照のこと)。驚くべきことに、プラスミド内のparB遺伝子座の位置および向きは、抗CD3 Fab力価に対して有意な効果を有した。4つの新規株中の3株(株2885、株2886、および株2887)は、2797対照株よりも有意に改良された細胞ペレット力価(
図5A)および培地力価(
図5B)を示した。前述の2835からのparB遺伝子座の位置および向きの変化に加えて、株2884から株2887において、プラスミド配列のいかなる部分も欠失させないようにparBをクローニングした。別の研究において、phoAプロモーター領域の上流のプラスミド配列の一部を欠失させると、Fab力価に負の影響を及ぼすことが観察された(データは示していない)。parBをこの領域から離して再配置し、この配列を無傷のままにすることによって、これらのコンストラクトの大部分で観察されるFab力価の増加がサポートされるようである。
【0173】
株2884のみが、対照株2797よりも低い細胞ペレット力価および培地力価の両方を有した(
図5A~5B)。本明細書中に記載される株2884と株2835との間の唯一の相違点は、同じparB-F方向を有するAfeI制限酵素サイトとNotI制限酵素サイトとの間の271bpプラスミド配列の欠失である。したがって、この位置でのプラスミド配列の欠失またはその欠如はより低いFab力価をもたらしたので(2884と比較した株2835)、parB-F方向を有する株2885は力価が改善されたことを考慮すると、力価を増加させるためには、parBの向きが位置よりもより重要であると結論付けられた。
【0174】
parBがphoAプロモーター領域からさらに離れて位置する株2886および株2887を用いてさらなる研究を実施して、発現プロセスの最適化のための最良の株を決定した。最も高い力価を与えたため株2886が選択され、236mg/Lが誘導後32時間で測定された(n=3発酵の平均;データは示さず)。株2886中に含まれるプラスミドp119マップを、クローニングされたparB遺伝子座の最適な位置および向きと共に
図6に示す。
【0175】
実施例11:和合性を有する2プラスミド発現系におけるペリプラズムシャペロンの設計および効果
大腸菌におけるタンパク質力価の最適化または増加における分子シャペロンの関与を決定するために、ペプチジルプロリルイソメラーゼ活性を有する2つの周知の二機能性ペリプラズムシャペロン、FkpAおよびSkpを分析した。
【0176】
この目的に向けて、FkpA遺伝子またはSkp遺伝子をクローニングすることによって、p15A複製起点(10~15コピー数/細胞)を有する2つの和合性プラスミドを構築した。これらのカナマイシン耐性(KanR)プラスミドを、pBR322複製起点(30~50コピー数/細胞)を有するアンピシリン耐性(AmpR)を有する抗CD3 Fab発現プラスミドと共形質転換して、ペリプラズムシャペロン共発現の影響を試験した(
図7A)。
【0177】
この研究のために、標準産生宿主W3110B60株が染色体中に挿入されたKanRマーカーを有していることを考慮して、野生型W3110発現宿主株(表1)を利用した。この研究における3つの独自の細胞株は全て、
図7Aに示すとおり、2つのプラスミドと共形質転換された。プラスミド1は、3つの産生株全てにおいて、抗CD3 Fab+ampR+parB(AfeI制限酵素サイトとNotI制限酵素サイトとの間の271bpの欠失を伴ってクローニングされたparBを有する)を含む。ペリプラズムシャペロン株2840および2841について、プラスミド2は、カナマイシン耐性(kanR)マーカーを有する誘導性テトラサイクリンプロモーター(pTetA)の後ろに、シャペロンFkpAおよびシャペロンSkpをそれぞれ含み、ここでは、培地中に50/10億(ppb)のテトラサイクリンを添加することによって、fkpA遺伝子およびskp遺伝子が誘導される(
図7A)。対照株2939については、プラスミド2はカナマイシン耐性(kanR)マーカーを含むが、シャペロンは含まない。FkpAシャペロンおよびSkpシャペロンのDNA配列およびタンパク質配列は、表5中に配列番号15~18として含まれる。
【0178】
全ての発酵は、前記実施例に記載され、そして
図4に示されるとおり、短期発酵プロセスを使用して行われた。3つの株全てについて、50μg/mLのカルベニシリンおよび50μg/mLのカナマイシンを培地に添加して、両方のプラスミドを維持した。株2840および2841(表7)について、2mLの50μg/mLテトラサイクリン(最終濃度50ng/mL)を、リン酸(PO
4)枯渇においてpAcFと共に添加して、シャペロンの発現を誘導した。細胞ペレットELISA力価を
図8に示す。予想に反して、ペリプラズムシャペロンFkpAおよびSkpの共発現について観察されたペレット力価の増加はなかった。これらの株のいずれについても培地への漏出はなかった(データは示さず)。
【0179】
【0180】
観察されたFab発現改善の欠如は、ペリプラズムシャペロンの発現に起因し得ることが注目されている。ペリプラズムシャペロンは、本明細書中に開示されるとおり、誘導性テトラサイクリンプロモーター(pTetA)によって人工的に駆動されるため、それらの天然の大腸菌プロモーターから分離されている。大腸菌において、FkpA遺伝子およびSkp遺伝子の発現は、誤って折り畳まれた/折り畳まれていないタンパク質ストレスを含む種々のペリプラズムストレス感知に関与する代替シグマ因子E(シグマE)によって駆動される(Merdanovic M. et. al., Annu. Rev. Microbiol. 2011, 65, 149)。これは、これらのシャペロンの発現が必要な場合、すなわち、細胞が誤って折り畳まれた/折り畳まれていないタンパク質ストレスを感知する場合に、これらのシャペロンの発現が誘導されることを可能にする。この理論的根拠に基づいて、本発明者らは、以下に開示される天然プロモーター系の影響を決定しようとした。
【0181】
実施例12:単一プラスミド発現系におけるペリプラズムシャペロンの設計および効果
上に開示したとおり、和合性を有する2プラスミド系においてFab力価の改善が観察されなかったことを考慮して、単一のプラスミド系を試験した。この系において、2886株における場合と同様、parB-ZraI-Fを有する抗CD3 Fabと同じプラスミド中に、シャペロン遺伝子FkpAおよびSkpを、天然プロモーターの後ろにクローニングした(
図7B参照)。
【0182】
この研究において使用した細胞株は、対照としての2886(抗CD3 Fab、parB-ZraI-F)、FkpA共発現のための2909(抗CD3 Fab、parB-ZraI-F、fkpA)、およびSkp共発現のための2910(抗CD3 Fab、parB-ZraI-F、skp)であった。プラスミドp134およびp135(表2)は、FkpAシャペロンおよびSkpシャペロンを含み、これらは、それぞれ、parB遺伝子座およびFab方向に関して順方向(F)にそれらの天然プロモーター配列を伴ってクローニングされた。従って、このストラテジーは、2プラスミド系(
図10、p134プラスミドマップ参照)における場合と同様、分離されたテトラサイクリン誘導性の発現よりもむしろ細胞生理(すなわち、ミスフォールド/ほどけたタンパク質ストレス)と発現とをひも付けた。
【0183】
この様式におけるペリプラズムシャペロンFkpAまたはSkpのいずれかの共発現は、2886力価を上回って全Fab産生を有意に増加させた(
図9A~9B)。しかし、Skp共発現は、培地中への有意なFab漏出をもたらし、そして誘導後48時間での2910細胞ペレット力価は、2886以下であった。FkpA共発現と共に、Fabの大部分が細胞ペレット中に保持された。424mg/LのELISA力価が2909について測定されたのに対し、2886のELISA力価については245mg/Lが同日に測定された。従って、シャペロンが組換えタンパク質産生のために共発現される様式が非常に重要であることは明らかであった。このデータから、FkpAシャペロンを有する2909を、さらなる開発のために選択した。
【0184】
実施例13:プラスミド内のFab遺伝子座およびParB遺伝子座に対するFkpAシャペロンの位置および方向の最適化
株2909において上に開示したとおり、FkpAシャペロンを、単一プラスミド発現系において、parB遺伝子座の後ろに順方向にクローン化した(
図10)。株2840における2プラスミド発現系のように別々のプラスミドから発現させた場合(
図7A~Bおよび
図8を参照)、同じFkpAシャペロン遺伝子はFab力価を改善せず、これは、ヘルパーシャペロン発現を細胞生理と連携させることの重要性を強調するものである。
【0185】
発現プラスミドにおけるFab方向に対するparB遺伝子座の位置および方向の効果について得られたデータに基づいて、前記の実施例において記載されるとおり、本発明者らは、FkpAを含むシャペロン遺伝子の位置および方向もまた、Fab力価に影響を及ぼし得ると推測した。本発明のこの局面を試験するために、順方向および逆方向の両方の方向で、parB遺伝子座の前または後ろにfkpA遺伝子をクローニングすることによってプラスミドを設計し、そして操作した。このストラテジーは、以下の3つの異なるレベルにおける組換えタンパク質産生に対するシャペロン遺伝子共発現の効果、すなわち1)プロモーター効果、2)位置効果、および3)方向効果の評価を可能にした。
【0186】
この目的のために、3つの新しいプラスミド(p199、p200およびp201)を設計し、そして表8に示すとおり、parB-F位置に対するFkpAシャペロンの位置および方向を変化させることによって構築した。これらの新しいプラスミドを有する3つの新しい産生株(株3004、3005および3006)を、Fab発現力価に対するそれらの効果について試験した。
図11に示すとおり、parB-F方向に対するFkpAシャペロンの位置および方向は、Fab力価に有意に影響した。培地へのFabの漏出は観察されなかった(データは示さず)。
【0187】
【0188】
実施例14:抗CD3 Fab力価および産生物の品質に及ぼす宿主株の効果
抗体Fabは、大腸菌において産生される場合、いかなる非天然アミノ酸の挿入もない産生条件下でペリプラズム中のプロテアーゼによって切り取られることが、文献において知られている(Battersby, J. E. et. al., Journal of Chromatography A, 927, 61, 2001)。Fab産生物の品質が直交アンバー抑制系によってどのように影響されるかを調べるために、無傷のFabならびにいくつかの追加の断片を捕捉するCapto S樹脂を使用するカチオン交換によって、Fab捕捉カラムを開発した。parB遺伝子座を有するプラスミドp119(表2)を保有する株2886由来のタンパク質を、本研究に利用した。
【0189】
株2886由来のRP-HPLC+質量分析(MS)によるCapto S溶出プールの分析的特徴付けにより、2つの捕捉されたフラグメントは、文献報告(Battersby, J. E. et. al., Journal of Chromatography A, 927, 61, 2001)と一致するタンパク質分解によって切り取られたHC Fab断片およびLC Fab断片であること、ならびにアンバー終止コドンがHCに位置するため、1つのさらなる翻訳段階で切断されたHCフラグメントであること、を明らかにした(
図12A~B)。無傷のFabは、Capto SプールにおけるRP-HPLCからのA
280吸光度%面積によって、捕捉されたタンパク質の約20%にすぎないことが見出された。捕捉された残りのFab断片は、N末端から切り取られた軽鎖(約20%)(aa1~110)、N末端から切り取られた重鎖(約20%)(aa1~217)、そしてpAcF取り込みのためにHK129位置におけるアンバー終止コドンで切断された重鎖(約40%)(aa1~141)であった(
図12A~B)。このCapto Sカラム中に捕捉されなかった唯一の断片は、C末端軽鎖切り取り断片(aa111~217)であった。
【0190】
実施例15:種々の重鎖伸長を伴うベクターの設計、操作および発現分析
重鎖(HC)C末端伸長株の構築:前記の実施例に開示されるとおり、Capto S溶出プールにおけるRP-HPLCおよびインタクトマス(intact mass)は、全Fabタンパク質の内、高いパーセンテージで存在する種々のFab断片を同定した。Fab切断に関与する可能性のあるプロテアーゼは、尾部特異的プロテアーゼ(Tsp:tail-specific protease)としても知られる、ペリプラズムセリンエンドプロテアーゼPrc(C末端のプロセシングのための)である(Chen C. et al., Biotechnology and Bioengineering, 85, 463, 2004)。Prcは、タンパク質のC末端を認識し、そしてそれに結合し、次いで、タンパク質配列内の緩い領域または折り畳まれていない領域で切断すると考えられている(Keiler et al., Protein Science, 4, 1507, 1995)。切断サイトは、タンパク質の二次構造または三次構造によって決定され、一次配列によっては決定されず、従って、Prcは、タンパク質分解部位に関して広い配列特異性を有している。しかしながら、タンパク質のC末端配列は、Prcによるその切断に影響を及ぼし、そしてタンパク質のC末端配列を修飾することは、Prcによるそのタンパク質の切断量を変化させ得ることが示されている(Keiler K.C. & Sauer R.T., The Journal of Biological Chemistry, 271, 2589, 1996)。
【0191】
この研究において、Fab重鎖C末端配列は、PrcのC末端結合を減少させ、それによってPrc切断を減少させる目的で修飾された。このストラテジーは、精製のためのCapto S捕捉カラムの出発物質の純度を改善すること、および切り取られた種として生成されたHCのパーセンテージを減少させ、それによって無傷のFabへのアセンブリに利用可能なHC量を増加させることによって、無傷のFab力価を増加させることを目的とした。Fab設計において、重鎖配列はKSC220で終わる(C220は、軽鎖との唯一の鎖間ジスルフィド結合形成に関与する)。C214で終わる軽鎖(LC)配列とは異なり、天然のHC配列は、Fabフラグメント中のCH1ドメインを越えてヒンジ領域、CH2ドメインに伸長し、最後にCH3ドメインで終わる。文献(Keiler K.C. & Sauer R.T., The Journal of Biological Chemistry, 271, 2589, 1996)において報告されている基準に基づいて、HCのC末端配列でのPrc認識がC220残基を越えてそれを伸長することによって変えられ得るかどうかを決定するために、いくつかの重鎖配列変異体を、配列D221KTHT225(ヒンジ領域への天然配列)を用いてC末端を1~5アミノ酸(表2参照)に伸長させることによって設計した。GenentechのLucentis Fab(ラニビズマブ)について報告されたT225からL225への置換を有する変異体(表2)も設計した(ワールドワイドウェブdrugbank.ca/drugs/DB01270を参照されたい)。この研究において使用した細胞株は全て、2909として、抗CD3 Fabプラスミドから共発現されるparB遺伝子座およびFkpAシャペロンを有していた(抗CD3 Fab、parB-ZraI-F、fkpA)。
【0192】
HCのC末端伸長の効果の試験:一組の50ml試料を、Capto Sカラムによって精製し、回収可能力価は、Capto SのA
280リカバリーにCapto SプールにおけるRP-HPLC純度を乗じることによって評価した(
図13A)。50mLの精製物からのCapto SプールにおけるRP-HPLC純度の結果を
図13Bに示す。
【0193】
5つの重鎖C
末端伸長変異体の全ては、対照2909と比較した場合、より高い回収可能力価(2918に関しては610mg/Lまで)を与えた(
図13A)。これらの重鎖変異体はまた、対照2909よりもCapto Sプール中の無傷のFabのパーセンテージがより高かった(重鎖変異体に関しては30%~42%が無傷、対して、対照2909に関しては25%が無傷、
図13B)。驚くべきことに、切り取られた重鎖種のパーセンテージにおいてわずかな減少があったが(減少したPrcタンパク質分解から予想されるとおり)、切断された重鎖のパーセンテージにおいてより大きな減少が見られた(重鎖変異体に関しては31%~38%が切断され、対して、対照2909に関しては39%が切断された)。このことは、「切断された」HC種の全てが、必ずしも低い抑制効率およびpAcF取り込みの結果に由来するわけではないこと、そしてこれらの種のいくつかは、同様にタンパク質分解に起因し得ることを示唆する。また、重鎖C末端配列における変化は、抑制効率に独立して影響を及ぼし得た。
【0194】
重鎖C末端伸長変異体は、より高い力価およびより高いパーセンテージの無傷のFabを示し、これはPrcによる結合およびタンパク質分解が減少したことを示唆するが、無傷のFabのパーセンテージとFab力価との間に直接的な相関はなかった。重鎖伸長変異体の内、2918は、最も高い回収可能力価(610mg/L)を有したが、無傷のFabのパーセンテージは最も低かった(30%)。力価に影響を及ぼす多くの変数が存在し、タンパク質配列の変化は、例えば、Prcによるタンパク質分解に影響を及ぼすことに加えて、発現、ペリプラズムへの分泌、シス-トランスプロリン異性化およびジスルフィド結合形成を含む折り畳みに影響を及ぼし得る。
【0195】
図13Bに見られるとおり、重鎖C末端配列KSC
220DKTHT
225を有する2917は、最も高いパーセンテージの無傷のFab力価であると共に、最も低いパーセンテージの切り取られたLC断片、切り取られたHC断片および切断されたHC断片を有した。株2917のFab力価は、他の変異体と比較して低かったが、この株は、全体的なタンパク質品質がより良好であったため、さらなるプロセス開発、細胞株産生およびin vivo研究を前進させるために選択された。
【0196】
本明細書中に記載される方法および組成物は、本明細書中に記載される特定の方法論、プロトコル、細胞株、コンストラクト、および試薬に限定されず、それ自体は変化してもよいことが理解されるべきである。また、本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態のみを記載するために用いられているのであって、本明細書中に記載の方法および組成物の範囲を限定することを意図していないことを理解されたい。なお、本明細書中に記載の方法および組成物は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるであろう。
【0197】
本明細書中および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他を示唆していない限り、複数形の言及を含む。
【0198】
別段の規定がない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本明細書中に開示され且つ説明される発明が属する技術分野における当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと類似または同等のあらゆる方法、装置、および材料が、本明細書中に記載される本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法、装置、および材料がここに記載される。
【0199】
本明細書中で言及される全ての刊行物および特許は、例えば、現在記載されている発明に関連して使用され得る刊行物に記載のコンストラクトおよび方法論を記載および開示する目的のために、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。明細書中で議論した刊行物は、本願の出願日以前の開示のためだけに提供される。本明細書中のいかなるものも、本明細書中に記載された発明者が先行発明によってまたは任意の他の理由のためにそのような開示に先行する資格を有さないことの承認として解釈されるべきではない。
【0200】
前述の発明は、明確性および理解の目的のためにある程度詳細に記載されているが、本発明の真の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更がなされ得ることが、本開示を読むことから当業者に明らかであろう。例えば、本明細書中で説明される全ての技術および装置は、様々な組合せにおいて使用することができる。本明細書中に記述された実施例および実施形態は説明のみを目的とするものであり、それらに関する種々の改変または変更は、当業者に対して示唆され、そして本願の精神および範囲、ならびに添付された特許請求の範囲の内に含まれるべきであると理解される。
【0201】
参照による組み込み
本願において引用される全ての刊行物、特許、特許出願、および/または他の文献は、あたかも個々の刊行物、特許、特許出願、および/または他の文献が全ての目的のために参照により組み込まれることが個別に示されたかのように、同じ程度まで全ての目的のためにその全体が参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【
図1】重鎖定常ドメイン(CH1)領域内に示される非天然アミノ酸pAcF組み込み部位を有する抗CD3 Fab-HK129pAcF発現カセットの模式図。
【
図2】発現プラスミドおよびそれらの対応する産生株の構築のための一般的スキーム。
【
図3】種々の発現要素の名称、位置および転写方向を示す、プラスミドp56の環状マップ。
【
図4】親プラスミドp56を保有する親株2797に加えて、プラスミドp96を保有する産生株2835の発酵力価。プラスミドp96において、parB遺伝子座は、AfeI制限酵素サイトとNotI制限酵素サイトとの間において、順方向にクローニングされ、それによりプラスミド骨格から271bpのヌクレオチド配列を欠失する。産生株2797および2835の細胞ペレット力価を示す。〔
図5A~B〕プラスミド骨格配列の欠失を有さない4つの新しいparB含有産生株の発酵力価。株2884(p117)および株2885(p118)において、parB遺伝子座は、AfeI制限酵素サイトにおいて、それぞれ順方向または逆方向のいずれかにクローニングされた。株2886(p119)および株2887(p120)において、parB遺伝子座は、ZraI制限酵素サイトにおいて、それぞれ順方向または逆方向のいずれかにクローニングされた。細胞ペレット力価(
図5A)および培地力価(
図5B)の両方を示す。
【
図6】parB遺伝子座の最適な位置および方向を示した、株2886に含有されるプラスミドp119のマップ。〔
図7A~B〕ペリプラズムシャペロン発現の効果を試験するための、和合性を有する2プラスミド発現系(
図7A)および単一プラスミド発現系(
図7B)の模式図。2プラスミド系において、FabベクターはAmpRマーカーを含み、シャペロンベクターはKanRマーカーを含む。単一プラスミド系については、シャペロン遺伝子は、KanRマーカーを有する標準的なFabベクターにクローニングされる。
【
図8】和合性を有する2プラスミド発現系における、シャペロン遺伝子を有さないコントロール株2839に加えて、2つのペリプラズムシャペロン発現株2840および2841の発酵力価。〔
図9A~B〕単一プラスミド発現系における、親株2886(p119)に加えて、株2909(p134)および株2910(p135)の2つのペリプラズムシャペロン発現株の発酵力価。細胞ペレット力価(
図9A)および培地力価(
図9B)の両方を示す。
【
図10】FkpAシャペロンおよびparB遺伝子座の位置および方向を示した、株2909に含まれているプラスミドp134のマップ。
【
図11】プラスミドにおける位置および方向が異なるヘルパー因子parB遺伝子座およびFkpAシャペロンを発現する様々な株の細胞ペレット力価。〔
図12A~B〕Capto Sカラム溶出画分に捕捉された、株2886由来のFab重鎖(
図12A)および軽鎖(
図12B)の種々の翻訳段階で切断された断片(点線矢印)およびタンパク質分解的に切り取られた断片(実線矢印)の模式図。この株において、典型的な無傷のFabリカバリーは、捕捉されたタンパク質全体の20~25%であった。〔
図13A~B〕種々の重鎖(HC)カルボキシ末端(C末端)伸長変異体の回収可能力価(
図13A)および純度分析(
図13B)。新規株2914~2918(それぞれプラスミドp141~p145を保有する)は、HCのC末端伸長が全くないコントロール株2909(プラスミドp134を保有する)と比較される。
図13Aは、重鎖(HC)変異体のCapto Sカラムによる回収可能力価を示す。
図13Bは、重鎖(HC)伸長変異体のCapto Sカラムプールの純度分析を示す。
【配列表】