(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ドライエッチング方法、ドライエッチング剤、及びその保存容器
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
H01L21/302 100
(21)【出願番号】P 2020567430
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019049999
(87)【国際公開番号】W WO2020153066
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-09-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019008990
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓之
(72)【発明者】
【氏名】上田 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】池田 晋也
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】大橋 達也
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許公開第2017/0110336号明細書
【文献】国際公開第2017/159544号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の保存容器からのドライエッチング剤をプラズマ化する工程と、
プラズマ化したドライエッチング剤を用いて、シリコン酸化物又はシリコン窒化物をエッチングする工程と、を有し、
前記ドライエッチング剤が、CF
3Iと、炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物とを、CF
3Iに対する前記含フッ素直鎖ニトリル化合物の濃度が1体積ppm以上1体積%以下で含む、ドライエッチング方法。
【請求項2】
前記炭素数2又は3
の含フッ素直鎖ニトリル化合物が、CF
3C≡N又はCF
3CF
2C≡Nであり、ドライエッチング後の被処理体上に付着した鉄濃度が6.5×10
11atms/cm
2以下であることを特徴とする請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項3】
前記ドライエッチング剤に添加ガスを混合させる工程を有し、
前記添加ガスが、O
2、O
3、CO、CO
2、COCl
2、COF
2、CF
2(OF)
2、CF
3OF、NO
2、NO、F
2、NF
3、Cl
2、Br
2、I
2、及びYF
n(式中YはCl、Br、または、Iを示しnは整数を表し、1≦n≦7である。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載のドライエッチング方法。
【請求項4】
前記ドライエッチング剤に添加ガスを混合させる工程を有し、
前記添加ガスが、H
2、HF、HI、HBr、HCl、NH
3、CF
4、CF
3H、CF
2H
2、CFH
3、C
2F
6、C
2F
4H
2、C
2F
5H、C
3F
8、C
3F
7H、C
3F
6H
2、C
3F
5H
3、C
3F
4H
4、C
3F
3H
5、C
3F
5H、C
3F
3H、C
4F
8、C
4F
6、C
5F
8、C
5F
10、C
3F
6、C
3H
2F
4、及び、C
3H
3F
3からなる群から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項5】
さらに、
前記ドライエッチング剤に不活性ガスを混合させる工程を有し、
前記不活性ガスがN
2、He、Ar、Ne、Kr及びXeからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
CF
3Iと、炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物とを、CF
3Iに対する前記含フッ素直鎖ニトリル化合物の濃度が1体積ppm以上1体積%以下で含むドライエッチング剤。
【請求項7】
CF
3Iと、炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物とを、CF
3Iに対する前記含フッ素直鎖ニトリル化合物の濃度が1体積ppm以上1体積%以下で含む混合物が、充填され密閉された
金属製の保存容器。
【請求項8】
前記保存容器の材質が、マンガン鋼又はステンレス鋼であることを特徴とする請求項7に記載の保存容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコン系材料をプラズマエッチングする方法や、それに用いるドライエッチング剤とその保存容器に関する。
【0002】
近年、半導体加工においては、微細化の検討が進められ、加工線幅が細くなると共に、加工線幅とトレンチまたはホールの深さとの比であるアスペクト比が劇的に増大する傾向にある。これらの半導体加工技術の発展に伴い、エッチング工程において使用されるエッチング剤についても開発が進められている。
【0003】
このエッチング工程では、プラズマを用いたエッチング装置が広く使用され、処理ガスとしては、PR膜やa-C膜に対して、SiO2やSiN膜のみを高選択的に、例えば選択比3.0以上で、かつ高速で、例えば、SiO2エッチング速度が50nm/min以上で、エッチングすることが求められる。
【0004】
従来、このようなエッチングガスとして、例えばCF4ガス、c-C4F8ガス、C4F6ガス等の含フッ素飽和炭化水素、若しくは、含フッ素不飽和炭化水素が知られている。しかしながら、従来のガスでは、選択比が十分でなく、加工時のエッチング形状が直線性を保てない、十分なエッチング速度が得られないなど、近年の微細化技術に対応が難しくなってきている。
【0005】
また、これらの含フッ素飽和炭化水素は、大気寿命の長い物質であり、高い地球温暖化係数(GWP)を有していることから京都議定書(COP3)において排出規制物質となっている。半導体産業においては、経済性が高く、微細化が可能な低GWPの代替物質が求められてきた。
【0006】
これらの要件を満たすガスとして例えば、特許文献1には、高アスペクト比エッチングを行う上で、所望のラジカル・イオンを所望の量だけ生成する方法としてCF3Iを用いたエッチング方法が開示されている。また、特許文献2には、CF3Iは、レジスト層とシリコン含有層(有機シリコン酸化層等)とのエッチング選択比がCF4に比べて高くなることが開示されている。
【0007】
なお、特許文献3には、所定のヨウ素源と、式:CF3Rの反応物とを、金属塩触媒の存在下で反応させることを特徴とするCF3Iの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-340211号公報
【文献】特開2009-123866号公報
【文献】特表2008-523089号公報(国際公開第2006/063184号)
【発明の概要】
【0009】
通常、CF3Iなどの液化高圧ガスを保管する場合、一般的に金属容器・金属バルブが使用される。CF3Iは安定な化合物として知られており、多くの場合、価格面で有利であることからステンレス鋼、炭素鋼、真鍮、マンガン鋼などの材質が容器やバルブに用いられている。しかしながら、本発明者らが、99.99体積%以上にまで精製して得られた高純度CF3Iをマンガン鋼製ボンベに充填し、実際にエッチングガスとして使用したところ、エッチング速度やエッチング形状については想定した結果が得られたものの、ウエハ上への金属のコンタミネーションが発生することが判明した。
【0010】
エッチングガスの開発においては、エッチング形状やマスクとの選択比を向上させることに加えて、ウエハ上に発生する金属のコンタミネーションの量を半導体製造工程において0にすることはできないまでも、半導体特性に影響を及ぼすので極力低減させることが求められている。一方で、特許文献1~3には、CF3Iの純度や不純物、ウエハ上への金属のコンタミネーションに関する記載がない。
【0011】
このような背景から、CF3Iを用いたエッチングにおいて、エッチング特性に対しても影響を及ぼすことなく、金属のコンタミネーションを低減させる方法が求められていた。
【0012】
これらの背景のもと、本発明者らが金属コンタミネーションの原因調査を行ったところ、高純度化した後にCF3Iを充填していた保存容器が原因であり、マンガン鋼やステンレス鋼との接触により、CF3I中に微量の金属成分がフッ化物又はヨウ化物として混入することが判明した。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、CF3I中に、C≡N結合を有する炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物を所定量添加することにより、CF3I中への保存容器からの金属のコンタミネーションを抑制し、また、その混合ガスを用いたエッチングにおいても、十分なPRとSiO2との選択性を有し、良好なエッチング形状が得られることを見出し、本開示を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本開示は、ドライエッチング剤をプラズマ化する工程と、プラズマ化したドライエッチング剤を用いて、シリコン酸化物又はシリコン窒化物をエッチングする工程と、を有し、前記ドライエッチング剤が、CF3Iと、炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物とを、CF3Iに対する前記含フッ素直鎖ニトリル化合物の濃度が1体積ppm以上1体積%以下で含む、ドライエッチング方法などを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例・比較例で用いた保存試験容器10の概略図である。
【
図2】実施例・比較例で用いた反応装置20の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について以下に説明する。なお、本開示の範囲は、これらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本開示の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0016】
本実施形態によるドライエッチング方法では、ドライエッチング剤をプラズマ化する工程と、プラズマ化したドライエッチング剤を用いて、シリコン酸化物又はシリコン窒化物をエッチングする工程と、を有するドライエッチング方法である。前記ドライエッチング剤は、少なくともCF3Iと、C≡N結合を有する炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物とを含有する。
【0017】
本実施形態で使用するCF3Iは、トリフルオロヨードメタンまたはトリフルオロヨウ化メチルとも呼ばれ、従来公知の方法で製造することができる。例えば、特許文献4によれば、ヨウ化水素、ヨウ素および一塩化ヨウ素からなる群より選択されるヨウ素源と、式:CF3R[式中、Rは、-SH、-S-S-CF3、-S-フェニル、および-S-S-(CH3)3からなる群より選択される]の反応物からなる群より選択される反応物とを、金属塩触媒の存在下で反応させることにより得られる。
【0018】
本実施形態にて使用する炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物としては、CH2FC≡N、CHF2C≡N、CF3C≡N、CH2FCF2C≡N、CHF2CF2C≡N、CF3CF2C≡Nなどを挙げられる。その中でも、CF3C≡NとCF3CF2C≡Nを用いることが好ましい。添加量が、CF3Iに対して1体積ppm以上であれば、金属コンタミネーションの発生を抑制する十分な効果が認められた。
【0019】
一方、エッチング特性に及ぼす影響に注目すると、特許文献1の記載において、目的とする以外のラジカル種の発生源としてCF3I中の微量の不純物が影響している可能性が示唆されているが、エッチング特性に大きな影響を与えていないことがわかる。しかしながら、多すぎる不純物はCF3Iのエッチング性能に影響を及ぼすため、1体積%(1万体積ppm)以内であることが好ましく、0.1体積%(1000体積ppm)以下であることがより好ましい。本開示の別形態として、予め、炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物を容器内に封入し、容器内面にパッシベーション処理を行うことが想定される。
【0020】
シリコン酸化物はSiOx(xは1以上2以下)の化学式で表され、通常はSiO2である。また、シリコン窒化物はSiNx(xは0.3以上9以下)の化学式で表され、通常はSi3N4である。
【0021】
CF3Iの保存容器としては、大気圧以上において、気液混合物を封入することのできる密閉容器であれば、特別な構造及び構成材料を必要とせず、広い範囲の形態及び機能を有することができる。一般的な高圧ガスの保存容器であるマンガン鋼やステンレス鋼で作られたボンベを使用する際に本開示が適用できる。
【0022】
マンガン鋼は、鉄を97質量%以上含み、マンガンを1質量%以上2質量%以下含むことが好ましい。マンガン鋼にニッケルやクロムが不可避的に混入する場合であっても、ニッケルの含有量は0.25質量%以下、クロムの含有量は0.35質量%以下であることが好ましい。マンガン鋼として、例えば、JIS G 4053:2016にて規定されるSMn420、SMn433、SMn438、SMn443や、JIS G 3429:2013にて規定されるSTH11、STH12などを使用することができる。
【0023】
本実施形態において、使用するCF3Iは、99.95体積%以上に高純度化されていることが好ましい。炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物については、所定量が含まれればよいため純度が90体積%以上であれば問題ない。
【0024】
次に、本実施形態におけるドライエッチング剤を用いたエッチング方法について説明する。
【0025】
CF3Iと含フッ素直鎖ニトリル化合物の混合ガス、又は、この混合ガスに添加ガス及び/又は不活性ガスを加えたドライエッチング剤の好ましい組成比を以下に示す。なお、各種ガスの体積%の総計は100体積%である。
【0026】
CF3Iと含フッ素直鎖ニトリル化合物の混合ガスのみをドライエッチング剤に用いてもよいが、通常は費用対効果や、プラズマの安定性の観点から、添加ガス及び/又は不活性ガスと併用して用いられる。例えば、CF3Iと含フッ素直鎖ニトリル化合物の混合ガスの、混合ガス、添加ガス及び不活性ガスの合計に対する濃度は、好ましくは、1~90体積%であり、より好ましくは、5~80体積%であり、更に好ましくは10~60体積%である。
【0027】
また、添加ガスの、混合ガス、添加ガス及び不活性ガスの合計に対する濃度は、好ましくは、0~50体積%、より好ましくは、0~10体積%である。
【0028】
また、不活性ガスの、混合ガス、添加ガス及び不活性ガスの合計に対する濃度は、好ましくは、0~98体積%、より好ましくは、5~80体積%であり、更に好ましくは300~50体積%である。
【0029】
本実施形態のエッチング方法は、各種ドライエッチング条件下で実施可能である。また、例えば、添加ガスや不活性ガスを混合して所望のエッチングレート、エッチング選択比及びエッチング形状となるように種々の添加剤や不活性ガスを加えることができる。添加ガスとしては、O2、O3、CO、CO2、COCl2、COF2、CF2(OF)2、CF3OF、NO2、NO、F2、NF3、Cl2、Br2、I2、及びYFn(式中YはCl、Br、または、Iを示しnは整数を表し、1≦n≦7である。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のガスを使用することができる。また、所望のエッチング形状やエッチングレートを得るために、1種類以上の還元性ガス、フルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、含ハロゲン化合物(例えば、H2、HF、HI、HBr、HCl、NH3、CF4、CF3H、CF2H2、CFH3、C2F6、C2F4H2、C2F5H、C3F8、C3F7H、C3F6H2、C3F5H3、C3F4H4、C3F3H5、C3F5H、C3F3H、C3ClF3H、C4F8、C4F6、C5F8、C5F10、C3F6、C3HF5、C3H2F4、及び、C3H3F3からなる群から選ばれる少なくとも1種のガス)を添加ガスとして加えてエッチングを行ってもよい。不活性ガスとしては、N2、He、Ar、Ne、Kr及びXeがあげられる。
【0030】
本実施形態のエッチング方法は、容量結合型プラズマ(CCP)エッチング、反応性イオンエッチング(RIE)、誘導結合型プラズマ(ICP)エッチング、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマエッチング及びマイクロ波エッチング等の各種エッチング方法に限定されず、行うことができる。
【0031】
ドライエッチング剤に含有されるガス成分についてはそれぞれ独立してチャンバー内に導入してもよく、または保存容器の後段において予め混合ガスとして調整した上で、チャンバー内に導入しても構わない。反応チャンバーに導入するドライエッチング剤の総流量は、反応チャンバーの容積、及び排気部の排気能力により、前記の濃度条件と圧力条件を考慮して適宜選択できる。
【0032】
エッチングを行う際の圧力は、安定したプラズマを得るため、及びイオンの直進性を高めてサイドエッチを抑制するため、5Pa以下が好ましく、1Pa以下が特に好ましい。一方で、チャンバー内の圧力が低すぎると、電離イオンが少なくなり十分なプラズマ密度が得られなくなることから、0.05Pa以上であることが好ましい。
【0033】
また、エッチングを行う際の基板温度は100℃以下が好ましく、特に異方性エッチングを行うためには50℃以下、特に好ましくは、20℃以下とすることが望ましい。100℃を超える高温では、PRやa-C等のマスク材上へのフルオロカーボン由来のCFnを主成分とする保護膜の形成が十分に行われず、選択性が低下することがある。また、高温では、側壁保護膜の形成が十分に行われず、エッチング形状が丸みを帯びた形状になる、いわゆるボウイングと呼ばれる形状異常が発生することがある。
【0034】
また、エッチングを行う際に発生させる電極間の負の直流の自己バイアス電圧については、所望するエッチング形状により選択すればよい。例えば異方性エッチングを行う際には絶対値で500V~10000V程度の電極間電圧を発生させイオンを高エネルギー化させることが望ましい。負の直流の自己バイアス電圧の絶対値が大きすぎると、イオンのエネルギーを増幅し、選択性の低下を招くことがある。
【0035】
エッチング時間は素子製造プロセスの効率を考慮すると、200分以内であることが好ましい。ここで、エッチング時間とは、チャンバー内にプラズマを発生させ、ドライエッチング剤と試料とを反応させている時間である。
【実施例】
【0036】
以下に本開示の実施例を比較例とともに挙げるが、本開示は以下の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[実施例1]
(保存容器での保存)
図1は、一時的に精製後のCF
3Iを保管するために実施例・比較例で用いた保存容器10容器の概略図である。保存容器として、内容積10Lのマンガン鋼製耐圧容器10を作製した。そこに、予め精製して99.99体積%以上に高純度化したCF
3I 1000gを封入した。次に、CF
3Iに対して、CF
3C≡Nを2体積ppm含ませた。
【0038】
(エッチング試験)
添加剤がエッチング特性に及ぼす影響について調査するため、CF
3IとCF
3C≡Nとの混合ガスを用いたエッチング試験を実施した。
図2は、実施例・比較例で用いた反応装置20の概略図である。チャンバー21内には、ウエハを保持する機能を有し、ステージとしても機能する下部電極24と、上部電極25と、圧力計22が設置されている。また、チャンバー21上部には、ガス導入口26が接続されている。チャンバー21内は圧力を調整可能であると共に、高周波電源(13.56MHz)23によりドライエッチング剤を励起させることができる。これにより、下部電極24上に設置した試料28に対し励起させたドライエッチング剤を接触させ、試料28をエッチングすることができる。ドライエッチング剤を導入した状態で、高周波電源23から高周波電力を印加すると、プラズマ中のイオンと電子の移動速度の差から、上部電極25と下部電極24の間に自己バイアス電圧と呼ばれる直流電圧が発生させることができるように構成されている。チャンバー21内のガスはガス排出ライン27を経由して排出される。
【0039】
試料28として、SiO2膜を有するシリコンウエハA、SiN(Si3N4)膜を有するシリコンウエハB、PR(フォトレジスト)膜を有するシリコンウエハCを15℃に冷却したステージ上に設置した。SiO2膜とSiN膜はCVD法により作製した。また、PR膜は塗布により作製した。ここに、エッチング剤として、CF3IとCF3C≡Nとの混合物、O2及びArをそれぞれ、25sccm、25sccm、500sccmとし、十分に混合したこれらのガスをチャンバー内に流通させて高周波電力を400Wで印加してエッチング剤をプラズマ化させることにより、エッチングを行った。
【0040】
エッチング後に、シリコンウエハAのSiO2膜、シリコンウエハBのSiN膜、及びシリコンウエハCのPR膜のエッチング前後の厚さの変化からエッチング速度を求めた。さらに、SiO2とSiNのエッチング速度をPRのエッチング速度で除した値をそれぞれのエッチング選択比として求めた。
【0041】
(ウエハ上の金属量の測定)
つぎに、SiO2膜を有するシリコンウエハA上に付着した金属の量を測定した。測定においては、JIS K0160:2009に規定された方法を用いて測定した。即ち、ふっ化水素酸をプラスチック製ビーカーに入れてVPD(気相分解)容器と呼ばれるPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)製の容器内に置き,エッチング後のSiO2成膜ウエハをVPD容器内に設置したウェーハスタンドに置いた。次に、VPD容器を閉じ、ふっ化水素酸蒸気で前記ウエハ上の酸化膜を10分間分解した。酸化物を分解した後のウエハの表面に、100μLの走査溶液(超純水)を滴下し、ウエハの表面全体を走査した。走査後,走査した液滴全体を乾燥し、再び超純水で溶解したのち、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)で分析した。得られた分析値は溶解液量と、ウエハの表面積から、ウエハ1cm2あたりの金属原子数に換算した。その結果、鉄の分析値は、6.5×1011atms/cm2であった。
【0042】
(エッチング形状評価)
前述のエッチング試験を行ったのち、ウエハA~Cを一度取り出し、エッチング形状評価用のウエハDを、ステージ上に設置した。ウエハDは、シリコンウエハ上に膜厚200nmのSiO2膜を成膜したのち、直径100nmの円形のホール状の開口部を有したフォトレジスト膜300nmを塗布して得られる。エッチング試験の項目に記載した方法で、5分間のエッチングを行ったのち、断面SEM写真を撮影し、そのエッチング形状を観察した。その結果、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0043】
[実施例2]
CF3IにCF3C≡Nを加えて得られた、CF3C≡Nの含有量25体積ppmのCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0044】
[実施例3]
CF3IにCF3C≡Nを加えて得られた、CF3C≡Nの含有量129体積ppmのCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0045】
[実施例4]
CF3IにCF3C≡Nを加えて得られた、CF3C≡Nの含有量1231体積ppm(約0.1体積%)のCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0046】
[実施例5]
CF3IにCF3C≡Nを加えて得られた、CF3C≡Nの含有量7927体積ppm(約0.8体積%)のCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0047】
[実施例6]
CF3IにCF3C≡Nを加えて得られた、CF3C≡Nの含有量9328体積ppm(約0.9体積%)のCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0048】
[実施例7]
CF3IにCF3CF2C≡Nを加えて得られた、CF3CF2C≡Nの含有量235体積ppmのCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0049】
[比較例1]
精製して得られた、CF3C≡Nの含有量0.1体積ppm未満のCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0050】
[比較例2]
CF3IにCF3C≡Nを加えて得られた、CF3C≡Nの含有量25936体積ppm(約2.6体積%)のCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常はなかったが、SiO2/PR選択比の低下にともない、フォトレジストのエッチング量が実施例1から6に比べて多かった。
【0051】
[比較例3]
CF3IにCF3C≡Nを加えて得られた、CF3C≡Nの含有量111608体積ppm(約11体積%)のCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で保存試験サンプルを作製した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、ボウイングはなかったが、SiO2/PR選択比の低下にともない、フォトレジストのエッチング量が実施例1から6に比べて大幅に増加し、一部のパターンにおいて、肩落ちが見られた。
【0052】
[比較例4]
CF3C≡Nの代わりにCF3C≡CHを28体積ppm含むCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で試験を実施した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常のない、エッチングができていることを確認した。
【0053】
[比較例5]
CF3C≡Nの代わりに、フッ素を含まないCH3C≡Nを8523体積ppm含むCF3Iを使用した以外は実施例1と同じ条件で試験を実施した。また、エッチング試験も実施例1と同様に行った。エッチング形状についても実施例1と同様に評価したところ、肩落ちやボウイングといったエッチング形状異常はなかったが、SiO2/PR選択比の低下にともない、フォトレジストのエッチング量が実施例1から6に比べて多かった。
【0054】
【0055】
比較例1と比較例4においては、エッチング特性は良好であったものの、ウエハ上から鉄成分が検出された。これは、炭素数2又は3の含フッ素直鎖ニトリル化合物による鉄成分のウエハ上へのコンタミネーションの抑止が生じなかったためと考えられる。一方、実施例1~7の結果にあるように、CF3C≡N又はCF3CF2C≡Nを含有するCF3Iでは、鉄のコンタミネーションが非常に少なかった。保存容器の腐食が抑制されたプロセスについては、不明な点もあるが、含フッ素直鎖ニトリル化合物が保存容器の内面に不動態膜を形成して保存容器から鉄成分の溶出を防止することや、含フッ素直鎖ニトリル化合物がCF3I中に含まれる鉄のコンタミネーション源となる物質の蒸気圧を大幅に下げることや、含フッ素直鎖ニトリル化合物がウエハ上への鉄成分の付着を抑制することなどが考えられる。
【0056】
しかしながら、CF3I中に含フッ素直鎖ニトリル化合物を含ませた場合、含有量に応じて、PRに対するSiO2とSiNのエッチング選択比が変化した。各実施例においては、PRのSiO2に対する選択比(SiO2/PR)が十分にあり、特に含フッ素直鎖ニトリル化合物の含有量が10000体積ppm(1体積%)以下の実施例1~7は、SiO2/PRエッチング選択比が3を超えており、良好であった。また、ホールパターンエッチングにおいても、エッチング形状の異常は生じなかった。従って、1体積ppm以上10000体積ppm以下の含フッ素直鎖ニトリル化合物を含むCF3Iを用いた場合には、良好なエッチング特性が得られたといえる。
【0057】
一方、比較例2及び比較例3にあるように、10000体積ppmを超えるCF3C≡Nを含んだ場合には、SiO2/PRのエッチング選択比が低下する傾向が顕著にみられた。パターンエッチングにおいては、レジスト部分のエッチング量が目に見えて増加しており、比較例3に至ってはSiO2膜表面がエッチングされており、エッチングガスとしての性能が大きく悪化する結果となった。
【0058】
多量のCF3C≡Nが混入した場合、前述のCFnを主成分とする保護膜の形成において、分子内の窒素がCFn膜の重合の阻害剤として作用し、保護膜の形成が不十分となる。そのため、CF3C≡Nにより、マスクに対するエッチングが促進され、選択性の低下につながったと考えられる。この現象は、他の含フッ素直鎖ニトリル化合物を用いた場合も同様に生じると考えられる。
【0059】
一方、比較例4では、CF3C≡N以外の添加剤による影響について調査した。その結果、CF3C≡CHでは、CF3C≡Nで見られたような、鉄のコンタミネーションを防止する効果が認められなかった。
【0060】
一方、比較例5では、CF3C≡N以外のフッ素を含まない添加剤による影響について調査した。その結果、CH3C≡Nでは、フッ素を含まないことにより、CFn膜を主成分とする保護膜の生成が不十分だったためか、SiO2/PRのエッチング選択比が悪化した。また、鉄のコンタミネーションを防止する効果についてもCF3C≡Nに比べて、小さかった。
【0061】
上述の通り、本開示によれば、CF3Iを用いたエッチングにおいて、エッチング特性に影響を与えることなく、金属のコンタミネーション量を低減させることが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
10: 保存試験容器
11: テストピース
12: バルブ
13: 蓋
14: 耐圧容器
20: 反応装置
21: チャンバー
22: 圧力計
23: 高周波電源
24: 下部電極
25: 上部電極
26: ガス導入口
27: ガス排出ライン
28: 試料