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特許7598246エキスパンド方法及び半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】エキスパンド方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
H01L21/78 W
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020569660
(86)(22)【出願日】2020-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2020003071
(87)【国際公開番号】W WO2020158766
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019015818
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】布施 啓示
(72)【発明者】
【氏名】稲男 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠知
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-127115(JP,A)
【文献】特開2018-081954(JP,A)
【文献】国際公開第2017/078050(WO,A1)
【文献】特開2017-204526(JP,A)
【文献】国際公開第2010/058646(WO,A1)
【文献】特開2017-076748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半導体装置が貼着された第1シートを伸張させて、前記複数の半導体装置の間隔を拡げる工程を含み、
前記複数の半導体装置のそれぞれは、第1半導体装置面と前記第1半導体装置面の反対側の第2半導体装置面とを有し、
前記複数の半導体装置のそれぞれは、前記第1半導体装置面又は前記第2半導体装置面と前記第1シートとの間に保護層を含んで、貼着されており、
加工対象物には、前記保護層が形成され、
前記保護層が形成された前記加工対象物を、第2粘着剤層と第2基材とを有する第2粘着シートの前記第2粘着剤層に貼着し、
前記保護層及び前記加工対象物をダイシングして、前記複数の半導体装置を得て、
ダイシング後の前記保護層に前記第1シートを貼着し、
前記保護層は、粘着剤層と基材とを有する粘着シートである、
エキスパンド方法。
【請求項2】
請求項に記載のエキスパンド方法において、
ダイシング後の前記保護層に前記第1シートを貼着した後、前記第2粘着シートを剥離する、
エキスパンド方法。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載のエキスパンド方法において、
前記加工対象物は、半導体ウエハである、
エキスパンド方法。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記第1シートは、エキスパンドシートである、
エキスパンド方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のエキスパンド方法において、
前記第1半導体装置面は、回路を有する、
エキスパンド方法。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキスパンド方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、及び高機能化が進んでいる。電子機器に搭載される半導体装置にも、小型化、薄型化、及び高密度化が求められている。半導体チップは、そのサイズに近いパッケージに実装されることがある。このようなパッケージは、チップスケールパッケージ(Chip Scale Package;CSP)と称されることもある。CSPの一つとして、ウエハレベルパッケージ(Wafer Level Package;WLP)が挙げられる。WLPにおいては、ダイシングにより個片化する前に、ウエハに外部電極等を形成し、最終的にはウエハをダイシングして、個片化する。WLPとしては、ファンイン(Fan-In)型とファンアウト(Fan-Out)型が挙げられる。ファンアウト型のWLP(以下、「FO-WLP」と略記する場合がある。)においては、半導体チップを、チップサイズよりも大きな領域となるように封止部材で覆って半導体チップ封止体を形成し、再配線層や外部電極を、半導体チップの回路面だけでなく封止部材の表面領域においても形成する。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体ウエハから個片化された複数の半導体チップについて、その回路形成面を残し、モールド部材を用いて周りを囲んで拡張ウエハを形成し、半導体チップ外の領域に再配線パターンを延在させて形成する半導体パッケージの製造方法が記載されている。特許文献1に記載の製造方法において、個片化された複数の半導体チップをモールド部材で囲う前に、エキスパンド用のウエハマウントテープに貼り替え、ウエハマウントテープを展延して複数の半導体チップの間の距離を拡大させている。
【0004】
また、特許文献2には、第二基材層と、第一基材層と、第一粘着剤層と、をこの順に備え、第二基材層の破断伸度が400%以上である粘着シートが記載されている。特許文献2に記載の半導体装置の製造方法は、この粘着シートの第一粘着剤層に半導体ウエハを貼着する工程と、半導体ウエハをダイシングにより個片化し、複数の半導体チップを形成する工程と、粘着シートを引き延ばして、半導体チップ同士の間隔を拡げる工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/058646号
【文献】特開2017-076748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エキスパンド工程に用いられるテープは、通常、テープ上の半導体チップを固定するために粘着剤層と、粘着剤層を支持するための基材と、を有する。特許文献1に記載のようにエキスパンド用のウエハマウントテープを引き延ばすと、テープの基材だけでなく、粘着剤層も引き延ばされる。エキスパンド工程後、半導体チップを粘着剤層から剥離すると、粘着剤層と接していた半導体チップの表面に粘着剤層が残る不具合が生じる場合がある。このような不具合を、本明細書においては、糊残りと称する場合がある。
なお、特許文献2に記載の粘着シートを用いてエキスパンド工程を実施すると、半導体チップと接している粘着剤層は引き延ばされないため、糊残りが生じ難いと考えられる。しかしながら、特許文献2に記載の粘着シートは、第二基材層と、第一基材層と、第一粘着剤層と、を積層させたテープ構成であるため、より簡略なテープ構成を用いて糊残りを防止できるエキスパンド方法に対する要望がある。また、特許文献2に記載のプロセスでは、粘着シート上の半導体ウエハをダイシングし、他の粘着シートに転写することなく、そのまま粘着シートを引き延ばしてエキスパンド工程を実施する。そのため、ダイシングの際のダイシングブレードが第二基材層に到達しないように、ダイシングブレードの切込み深さを慎重に制御する必要があり、より簡略な方法によって糊残りを防止できるエキスパンド方法に対する要望もある。
なお、エキスパンド方法において粘着シートの上に支持する被着体としては、半導体チップだけでなく、例えば、ウエハ、半導体装置パッケージ、及びマイクロLED等の半導体装置が挙げられる。これら半導体装置についても、半導体チップと同様、半導体装置同士の間隔を拡張させることがある。
【0007】
本発明の目的は、従来に比べてテープ構成及びプロセスの少なくともいずれかを簡略化しつつ、かつ、糊残りを抑制できるエキスパンド方法を提供すること、並びに当該エキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、複数の半導体装置が貼着された第1シートを伸張させて、前記複数の半導体装置の間隔を拡げる工程を含み、前記複数の半導体装置のそれぞれは、第1半導体装置面と前記第1半導体装置面の反対側の第2半導体装置面とを有し、前記複数の半導体装置のそれぞれは、前記第1半導体装置面又は前記第2半導体装置面と前記第1シートとの間に保護層を含んで、貼着されているエキスパンド方法が提供される。
【0009】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第1半導体装置面に前記保護層が形成された後、前記複数の半導体装置を前記第1シートに貼着することが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、加工対象物をダイシングして前記複数の半導体装置を得ることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記加工対象物には、前記保護層が形成され、前記加工対象物及び前記保護層をダイシングして、前記複数の半導体装置を得ることが好ましい。
【0012】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記保護層が形成された前記加工対象物を、第2粘着剤層と第2基材とを有する第2粘着シートの前記第2粘着剤層に貼着し、前記保護層及び前記加工対象物をダイシングして、前記複数の半導体装置を得て、ダイシング後の前記保護層に前記第1シートを貼着することが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、ダイシング後の前記保護層に前記第1シートを貼着した後、前記第2粘着シートを剥離することが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記加工対象物を、前記保護層と第3シートとを有する複合シートの前記保護層に貼着し、前記加工対象物及び前記保護層をダイシングして、前記複数の半導体装置を得て、前記第3シートを前記保護層から剥離することが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記保護層と前記第1シートとが予め積層され、前記加工対象物を前記保護層にて支持し、前記加工対象物及び前記保護層をダイシングして、前記複数の半導体装置を得ることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記加工対象物は、半導体ウエハであることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第1シートは、エキスパンドシートであることが好ましい。
【0018】
本発明の一態様に係るエキスパンド方法において、前記第1半導体装置面は、回路を有することが好ましい。
【0019】
本発明の一態様によれば、前述の本発明の一態様に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法が提供される。
【0020】
本発明の一態様によれば、従来に比べてテープ構成及びプロセスの少なくともいずれかを簡略化しつつ、かつ、糊残りを抑制できるエキスパンド方法を提供できる。本発明の別の一態様によれば、当該エキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図1B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図1C】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図2A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図2B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図3】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図4A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図4B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図5A】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図5B】第1実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図6A】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図6B】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図6C】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図7A】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図7B】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図7C】第2実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図8A】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図8B】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図8C】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図9】第3実施形態に係る製造方法を説明する断面図。
図10】実施例で使用した2軸延伸エキスパンド装置を説明する平面図。
図11】チップ整列性の測定方法を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下、本実施形態に係るエキスパンド方法及び当該エキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法について説明する。
【0023】
図1図1A図1B及び図1C)、図2図2A及び図2B)、図3図4図4A及び図4B)及び図5図5A及び図5B)は、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を説明する断面概略図である。
【0024】
本実施形態に係るエキスパンド方法は、少なくとも、次の工程(P1)~(P2)を備える。
(P1)第1シートに貼着された複数の半導体装置を準備する工程。複数の半導体装置は、第1シートとの間に保護層を含んで貼着されている。
(P2)第1シートを伸張させて、複数の半導体装置の間隔を拡げる工程。
【0025】
図1A図1B図1C図2A及び図2Bは、工程(P1)を説明するための図である。
【0026】
(加工対象物)
図1Aには、保護層を有する加工対象物の断面概略図が示されている。
本実施形態においては、加工対象物としての半導体ウエハWを例に挙げて説明する。本発明において、加工対象物は、ウエハに限定されない。
半導体ウエハWは、第1加工対象物面としての回路面W1と、第2加工対象物面としての裏面W3と、を有する。回路面W1には、回路W2が形成されている。本実施形態においては、回路面W1に保護層100が設けられている。
【0027】
半導体ウエハWは、例えば、シリコンウエハであってもよいし、ガリウム・砒素等の化合物半導体ウエハであってもよい。半導体ウエハWの回路面W1に回路W2を形成する方法としては、汎用されている方法が挙げられ、例えば、エッチング法及びリフトオフ法等が挙げられる。
【0028】
(保護層)
保護層100は、回路面W1及び回路W2を覆う層である。保護層100は、回路面W1及び回路W2を保護できれば、特に限定されない。保護層100の厚さは、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。保護層100の厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0029】
保護層100としては、例えば、保護膜、及び保護シートが挙げられる。
保護膜としては、例えば、樹脂材料を回路面W1に成膜して得た膜であることが好ましい。保護膜を構成する層は、1層でもよいし、2層以上でもよい。成膜方法としては、例えば、印刷法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法及び浸漬法が挙げられる。
保護シートとしては、例えば、粘着剤層と基材とを有する粘着シートが挙げられる。保護シートにおける基材としては、保護層を構成する部材の一つとして適切に機能し、かつ、粘着剤層を支持できれば、その構成材料は特に限定されない。保護シートにおける基材は、樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成されることが好ましい。樹脂系の材料を主材とするフィルムとしては、例えば、エチレン系共重合フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリウレタンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びフッ素樹脂フィルムが挙げられる。
保護シートにおける粘着剤層としては、保護層を構成する部材の一つとして適切に機能し、かつ、基材及び回路面W1に密着できれば、その構成材料は特に限定されない。保護シートにおける粘着剤層としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも一種の粘着剤で構成されることが好ましく、アクリル系粘着剤で構成されることがより好ましい。
【0030】
本実施形態の説明においては、保護層100が1層からなる保護膜である場合を例に挙げるが、本発明はこのような態様に限定されない。
【0031】
[バックグラインド工程]
半導体ウエハWは、バックグラインド工程を経ることにより得られたウエハであることが好ましい。第1シートに貼着された複数の半導体装置を準備する工程(P1)は、このバックグラインド工程を工程(P1-1)として含むことが好ましい。
バックグラインド工程においては、半導体ウエハWの回路面W1とは反対側の面を所定の厚さに研削する。裏面W3は、半導体ウエハWを裏面研削して形成した面であることが好ましい。半導体ウエハWを研削した後に露出する面を裏面W3とする。
【0032】
半導体ウエハWを研削する方法としては、特に限定されず、例えば、グラインダー等を用いた公知の方法が挙げられる。半導体ウエハWを研削する際には、回路W2を保護するために、バックグラインドシートと呼ばれる粘着シートを回路面W1に貼着することが好ましい。ウエハの裏面研削は、半導体ウエハWの回路面W1側、すなわちバックグラインドシート側をチャックテーブル等により固定し、回路が形成されていない裏面側をグラインダーにより研削する。バックグラインドシートを回路面W1に貼着する工程をバックグラインドシートの貼着工程と称する場合がある。
【0033】
研削前の半導体ウエハWの厚さは、特に限定されず、通常、500μm以上、1000μm以下である。
研削後の半導体ウエハWの厚さは、特に限定されず、通常、20μm以上、500μm以下である。
【0034】
[第2粘着シートの貼着工程]
図1Bには、裏面W3に第2粘着シート20が貼着された半導体ウエハWが示されている。
工程(P1)で準備する半導体ウエハWは、バックグラインド工程を経て、さらに、裏面W3に第2粘着シート20を貼着する貼着工程を経て得られたウエハであることが好ましい。この貼着工程を第2粘着シートの貼着工程と称する場合がある。
後述するように、工程(P2)において、半導体ウエハWは、ダイシングにより複数の半導体チップCPに個片化される。半導体ウエハWをダイシングする際には、半導体ウエハWを保持するために、ダイシングシートと呼ばれる粘着シートを裏面W3に貼着することが好ましい。本実施形態においては、第2粘着シート20がダイシングシートであることが好ましい。ダイシングシートとして第2粘着シート20が用いられる場合、半導体ウエハWは、裏面W3を第2粘着シート20の第2粘着剤層22に向けて貼着される。半導体ウエハWの回路面W1は、半導体チップCPの回路面W1に相当する。半導体ウエハWの裏面W3は、半導体チップCPの裏面W3に相当する。
【0035】
[ダイシング工程]
図1Cは、加工対象物としての半導体ウエハWをダイシングするダイシング工程を説明するための図である。図1Cには、第2粘着シート20に保持された複数の半導体チップCPが示されている。本実施形態においては、半導体装置の一例として半導体チップCPを例に挙げて説明するが、本発明はこのような態様に限定されない。半導体装置としては、例えば、ウエハ、半導体装置パッケージ、及びマイクロLEDが挙げられる。
【0036】
工程(P1)で準備する複数の半導体装置は、ダイシング工程において半導体ウエハWをダイシングすることにより得られた複数の半導体チップCPであることが好ましい。工程(P1)は、第2粘着シート20に支持された半導体ウエハWをダイシングするダイシング工程を工程(P1-2)として含むことが好ましい。
回路面W1に保護層100が設けられ、裏面W3に第2粘着シート20が貼着された状態の半導体ウエハWは、ダイシングにより個片化され、複数の半導体チップCPが形成される。本実施形態では、保護層100側から切込みを入れて、保護層100を切断し、さらに半導体ウエハWを切断する。ダイシング工程後の複数の半導体チップCPの回路面W1は、それぞれ、切断された保護層100によって覆われた状態である。
ダイシングには、ダイシングソー等の切断手段が用いられる。
ダイシングの際の切断深さは、保護層100及び半導体ウエハWを個片化できる深さであれば特に限定されない。半導体ウエハWを確実に切断するという観点から、ダイシング工程における切込みは、保護層100側から第2粘着シート20に到達するまでの深さで形成することが好ましく、第2粘着シート20の第2粘着剤層22に到達する深さで形成することがより好ましい。ダイシングによって、第2粘着剤層22も半導体チップCPと同じサイズに切断される。さらに、ダイシングによって第2基材21にも切込みが形成される場合がある。
【0037】
[第1シートの貼着工程]
図2Aは、ダイシング工程の後に複数の半導体チップCPに第1シート10を貼着する工程を説明するための図である。図2Aには、ダイシング工程によって得た複数の半導体チップCPに第1シート10が貼付された状態が示されている。本実施形態に係る第1シート10は、第1粘着剤層12と第1基材11とを有する粘着シートである。第1シート10の詳細は、後述する。なお、本発明において、第1シートは、第1粘着剤層と第1基材とを有する2層構成の粘着シートに限定されない。
【0038】
本実施形態では、第1シート10が複数の半導体チップCPの回路面W1側に貼着されると、複数の半導体チップCPと第1シート10の第1粘着剤層12との間に個片化された保護層100が介在した積層構造が得られる。
【0039】
[第2粘着シートの剥離工程]
図2Bは、第1シートの貼着工程の後に、第2粘着シート20を剥離する工程を説明するための図である。この工程を第2粘着シートの剥離工程と称する場合がある。図2Bには、第1シート10を貼着後に第2粘着シート20を半導体ウエハWの裏面W3から剥離した状態が示されている。
第1シート10を貼着した後、第2粘着シート20を剥離すると、複数の半導体チップCPの裏面W3が露出する。
なお、第2粘着剤層22にエネルギー線重合性化合物が配合されている場合には、第2粘着剤層22に第2基材21側からエネルギー線を照射し、エネルギー線重合性化合物を硬化させてから第2粘着シート20を剥離することが好ましい。
【0040】
[エキスパンド工程]
図3は、工程(P2)を説明するための図である。工程(P2)をエキスパンド工程と称する場合がある。図3には、第2粘着シート20を剥離後に、第1シート10を伸張させて、複数の半導体チップCPの間隔を拡げた状態が示されている。
複数の半導体チップCPの間隔を拡げる際には、エキスパンドシートと呼ばれる粘着シートにより複数の半導体チップCPを保持した状態で、エキスパンドシートを伸張することが好ましい。本実施形態においては、第1シート10がエキスパンドシートであることが好ましい。
エキスパンド工程において第1シート10を引き延ばす方法は、特に限定されない。第1シート10を引き延ばす方法としては、例えば、環状もしくは円状のエキスパンダを押し当てて第1シート10を引き延ばす方法、及び把持部材等を用いて第1シート10の外周部を掴んで引き延ばす方法等が挙げられる。本実施形態では、複数の半導体チップCPの間隔D1は、半導体チップCPのサイズに依存するため、特に制限されない。特に、粘着シートの片面に貼着された複数の半導体チップCPにおける、隣り合う半導体チップCPの相互の間隔D1は、200μm以上であることが好ましい。なお、当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、特に制限されない。当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、例えば、6000μmであってもよい。
【0041】
[第1転写工程]
本実施形態においては、エキスパンド工程の後、第1シート10に貼着されていた複数の半導体チップCPを、別の粘着シート(例えば、第5粘着シート)に転写する工程(以下「第1転写工程」という場合がある。)を実施してもよい。
図4Aには、第1シート10に貼着されていた複数の半導体チップCPを、第5粘着シート50に転写する工程(以下「転写工程」という場合がある。)を説明する図が示されている。
第5粘着シート50は、複数の半導体チップCPを保持できれば特に限定されない。第5粘着シート50は、第5基材51と、第5粘着剤層52とを有する。
本実施形態において転写工程を実施する場合は、例えば、エキスパンド工程の後、複数の半導体チップCPの裏面W3に第5粘着シート50を貼着し、その後、第1シート10を剥離することが好ましい。
【0042】
第5粘着シート50は、複数の半導体チップCPとともに、第二のリングフレームに貼着されていてもよい。この場合、第5粘着シート50の第5粘着剤層52の上に、リングフレームを載置し、これを軽く押圧し、固定する。その後、リングフレームの環形状の内側にて露出する第5粘着剤層52を半導体チップCPの裏面W3に押し当てて、第5粘着シート50に複数の半導体チップCPを固定する。
【0043】
図4Bには、第5粘着シート50の貼着後、第1シート10を剥離する工程を説明する図が示されている。
本実施形態では、第1シート10を剥離する際に、半導体チップCPの回路面W1を覆う個片化された第1シート10を保護層100とともにまとめて剥離する態様を例に挙げて説明する。なお、回路面W1を覆う個片化された保護層100を半導体チップCPに残したまま、第1シート10だけを剥離する態様でもよい。
第5粘着シート50を貼着した後、第1シート10及び保護層100を剥離すると、複数の半導体チップCPの回路面W1が露出する。第1シート10及び保護層100を剥離した後も、エキスパンド工程において拡張させた複数の半導体チップCP間の間隔D1が維持されていることが好ましい。
【0044】
[第2転写工程]
図5Aには、第5粘着シート50に貼着されていた複数の半導体チップCPを、第6粘着シート60に転写する工程(以下「第2転写工程」という場合がある。)を説明する図が示されている。
第5粘着シート50から第6粘着シート60に転写された複数の半導体チップCPは、半導体チップCP間の間隔D1が維持されていることが好ましい。
【0045】
第6粘着シート60は、複数の半導体チップCPを保持できれば特に限定されない。第6粘着シート60は、第6基材61と、第6粘着剤層62とを有する。
第6粘着シート60上の複数の半導体チップCPを封止したい場合には、第6粘着シート60として、封止工程用の粘着シートを用いることが好ましく、耐熱性を有する粘着シートを用いることがより好ましい。また、第6粘着シート60として耐熱性を有する粘着シートを用いる場合は、第6基材61及び第6粘着剤層62は、それぞれ、封止工程で課される温度に耐え得る耐熱性を有する材料で形成されていることが好ましい。
【0046】
第5粘着シート50から第6粘着シート60に転写された複数の半導体チップCPは、回路面W1を第6粘着剤層62に向けて貼着されている。
【0047】
[封止工程]
図5Bには、封止部材300を用いて複数の半導体チップCPを封止する工程(以下「封止工程」という場合がある。)を説明する図が示されている。
【0048】
本実施形態において、封止工程は、複数の半導体チップCPが第6粘着シート60に転写された後に実施される。
封止工程において、回路面W1が第6粘着シート60に保護された状態で、複数の半導体チップCPを封止部材300によって覆うことにより封止体3が形成される。複数の半導体チップCPの間にも封止部材300が充填されている。第6粘着シート60により回路面W1及び回路W2が覆われているので、封止部材300で回路面W1が覆われることを防止できる。
【0049】
封止工程により、所定距離ずつ離間した複数の半導体チップCPが封止部材300に埋め込まれた封止体3が得られる。封止工程においては、複数の半導体チップCPは、エキスパンド工程を実施後の間隔D1が維持された状態で、封止部材300により覆われることが好ましい。
【0050】
封止工程の後、第6粘着シート60を剥離する。第6粘着シート60を剥離すると、半導体チップCPの回路面W1及び封止体3の第6粘着シート60と接触していた面3Aが露出する。
【0051】
前述のエキスパンド工程の後、転写工程及びエキスパンド工程を任意の回数繰り返すことで、半導体チップCP間の距離を所望の距離とし、半導体チップCPを封止する際の回路面の向きを所望の向きとすることができる。
【0052】
[その他の工程]
封止体3から粘着シートを剥離した後、この封止体3に対して、半導体チップCPと電気的に接続する再配線層を形成する再配線層形成工程と、再配線層と外部端子電極とを電気的に接続する接続工程とが順に行われる。再配線層形成工程及び外部端子電極との接続工程によって、半導体チップCPの回路と外部端子電極とが電気的に接続される。
外部端子電極が接続された封止体3を半導体チップCP単位で個片化する。封止体3を個片化させる方法は、特に限定されない。封止体3を個片化することで、半導体チップCP単位の半導体パッケージが製造される。半導体チップCPの領域外にファンアウトさせた外部電極を接続させた半導体パッケージは、ファンアウト型のウエハレベルパッケージ(FO-WLP)として製造される。
【0053】
(第1シート)
本実施形態に係る第1シート10は、第1基材11と、第1粘着剤層12とを有する。第1粘着剤層12は、第1基材11に積層されている。
【0054】
・第1基材
第1基材11は、エキスパンド工程等の所望の工程(例えば、工程(P2))において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
第1基材11は、第1基材表面及び第1基材裏面を有する。第1基材裏面は、第1基材表面とは反対側の面である。
第1シート10において、第1基材表面及び第1基材裏面の一方の面に第1粘着剤層12が設けられていることが好ましく、他方の面には粘着剤層が設けられていないことが好ましい。
【0055】
第1基材11の材料は、大きく延伸させ易いという観点から、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料であることが好ましく、熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。
【0056】
また、第1基材11の材料としては、大きく延伸させ易いという観点から、ガラス転移温度(Tg)が比較的低い樹脂を使用することが好ましい。このような樹脂のガラス転移温度(Tg)は、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることがさらに好ましい。
【0057】
熱可塑性エラストマーとしては、ウレタン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、及びアミド系エラストマー等が挙げられる。熱可塑性エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。熱可塑性エラストマーとしては、大きく延伸させ易いという観点から、ウレタン系エラストマーを使用することが好ましい。
【0058】
ウレタン系エラストマーは、一般に、長鎖ポリオール、鎖延長剤、及びジイソシアネートを反応させて得られる。ウレタン系エラストマーは、長鎖ポリオールから誘導される構成単位を有するソフトセグメントと、鎖延長剤とジイソシアネートとの反応から得られるポリウレタン構造を有するハードセグメントとからなる。
【0059】
ウレタン系エラストマーを、長鎖ポリオールの種類によって分類すると、ポリエステル系ポリウレタンエラストマー、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマー、及びポリカーボネート系ポリウレタンエラストマー等に分けられる。ウレタン系エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。本実施形態では、ウレタン系エラストマーは、大きく延伸させ易いという観点から、ポリエーテル系ポリウレタンエラストマーであることが好ましい。
【0060】
長鎖ポリオールの例としては、ラクトン系ポリエステルポリオール、及びアジペート系ポリエステルポリオール等のポリエステルポリオール;ポリプロピレン(エチレン)ポリオール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。本実施形態では、長鎖ポリオールは、大きく延伸させ易いという観点から、アジペート系ポリエステルポリオールであることが好ましい。
【0061】
ジイソシアネートの例としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。本実施形態では、ジイソシアネートは、大きく延伸させ易いという観点から、ヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。
【0062】
鎖延長剤としては、低分子多価アルコール(例えば、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオール等)、及び芳香族ジアミン等が挙げられる。これらのうち、大きく延伸させ易いという観点から、1,6-ヘキサンジオールを使用することが好ましい。
【0063】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・ブテン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・ブテン-αオレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-α・オレフィン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、及びスチレン・エチレン・ブチレン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むエラストマーが挙げられる。オレフィン系エラストマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
オレフィン系エラストマーの密度は、特に限定されない。例えば、オレフィン系エラストマーの密度は、0.860g/cm以上、0.905g/cm未満であることが好ましく、0.862g/cm以上、0.900g/cm未満であることがより好ましく、0.864g/cm以上、0.895g/cm未満であることが特に好ましい。オレフィン系エラストマーの密度が上記範囲を満たすことで、基材は、被着体としての半導体装置を粘着シートに貼付する時の凹凸追従性等に優れる。
【0065】
オレフィン系エラストマーは、このエラストマーを形成するために用いた全単量体のうち、オレフィン系化合物からなる単量体の質量比率(本明細書において「オレフィン含有率」ともいう。)が50質量%以上、100質量%以下であることが好ましい。
オレフィン含有率が過度に低い場合には、オレフィンに由来する構造単位を含むエラストマーとしての性質が現れにくくなり、基材は、柔軟性及びゴム弾性を示し難くなる。
柔軟性及びゴム弾性を安定的に得る観点から、オレフィン含有率は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0066】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-共役ジエン共重合体、及びスチレン-オレフィン共重合体等が挙げられる。スチレン-共役ジエン共重合体の具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-イソプレン-スチレン共重合体等の未水添スチレン-共役ジエン共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン共重合体(SEPS、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体の水添加物)、及びスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS、スチレン-ブタジエン共重合体の水素添加物)等の水添スチレン-共役ジエン共重合体等を挙げることができる。また、工業的には、スチレン系エラストマーとしては、タフプレン(旭化成株式会社製)、クレイトン(クレイトンポリマージャパン株式会社製)、住友TPE-SB(住友化学株式会社製)、エポフレンド(株式会社ダイセル製)、ラバロン(三菱ケミカル株式会社製)、セプトン(株式会社クラレ製)、及びタフテック(旭化成株式会社製)等の商品名が挙げられる。スチレン系エラストマーは、水素添加物でも未水添物であってもよい。
【0067】
ゴム系材料としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、及び多硫化ゴム等が挙げられる。ゴム系材料は、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】
第1基材11は、上記のような材料(例えば、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料)からなるフィルムが、複数、積層された積層フィルムでもよい。また、第1基材11は、上記のような材料(例えば、熱可塑性エラストマー、またはゴム系材料)からなるフィルムと、その他のフィルムとが積層された積層フィルムでもよい。
【0069】
第1基材11は、上記の樹脂系材料を主材料とするフィルム内に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤の具体例としては、第1基材11の説明で挙げた添加剤と同様である。添加剤としては、例えば、顔料、染料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、及びフィラー等が挙げられる。顔料としては、例えば、二酸化チタン、及びカーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーとしては、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料、及びニッケル粒子のような金属系材料が例示される。フィルム内に含有させてもよい添加剤の含有量は、特に限定されないが、第1基材11が所望の機能を発揮し得る範囲に留めることが好ましい。
【0070】
第1基材11は、第1基材11の片面または両面に、第1基材11の表面に積層される第1粘着剤層12との密着性を向上させるための処理が施されていてもよい。
【0071】
第1粘着剤層12がエネルギー線硬化性粘着剤を含有する場合、第1基材11は、エネルギー線に対する透過性を有することが好ましい。エネルギー線として紫外線を用いる場合には、第1基材11は、紫外線に対して透過性を有することが好ましい。エネルギー線として電子線を用いる場合には、第1基材11は、電子線の透過性を有することが好ましい。
【0072】
第1基材11の厚さは、第1シート10が所望の工程において適切に機能できる限り、限定されない。第1基材11の厚さは、20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましい。また、第1基材11の厚さは、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0073】
また、第1基材11の第1基材表面または第1基材裏面の面内方向において2cm間隔で複数箇所の厚さを測定した際の、第1基材11の厚さの標準偏差は、2μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。当該標準偏差が2μm以下であることで、第1シート10は、精度の高い厚さを有しており、第1シート10を均一に延伸することが可能となる。
【0074】
23℃において第1基材11のMD方向及びCD方向の引張弾性率が、それぞれ10MPa以上、350MPa以下であり、23℃において第1基材11のMD方向及びCD方向の100%応力が、それぞれ3MPa以上、20MPa以下であることが好ましい。
引張弾性率及び100%応力が上記範囲であることで、第1シート10を大きく延伸することが可能となる。
第1基材11の100%応力は、次のようにして得られる値である。150mm(長さ方向)×15mm(幅方向)の大きさの試験片を第1基材11から切り出す。切り出した試験片の長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかむ。つかみ具で試験片をつかんだ後、速度200mm/minで長さ方向に引張り、つかみ具間の長さが200mmとなったときの引張力の測定値を読み取る。第1基材11の100%応力は、読み取った引張力の測定値を、基材の断面積で除算することで得られる値である。第1基材11の断面積は、幅方向長さ15mm×第1基材11(試験片)の厚みで算出される。当該切り出しは、基材の製造時における流れ方向(MD方向)またはMD方向に直交する方向(CD方向)と、試験片の長さ方向とが一致するように行う。なお、この引張試験において、試験片の厚さは特別に制限されず、試験の対象とする基材の厚さと同じであってよい。
【0075】
23℃において第1基材11のMD方向及びCD方向の破断伸度が、それぞれ100%以上であることが好ましい。
第1基材11のMD方向及びCD方向の破断伸度が、それぞれ100%以上であることで、破断が生じることなく、第1シート10を大きく延伸することが可能となる。
【0076】
基材の引張弾性率(MPa)及び基材の破断伸度(%)は、次のようにして測定できる。基材を15mm×140mmに裁断して試験片を得る。当該試験片について、JIS K7161:2014およびJIS K7127:1999に準拠して、23℃における破断伸度および引張弾性率を測定する。具体的には、上記試験片を、引張試験機(株式会社島津製作所製,製品名「オートグラフAG-IS 500N」)にて、チャック間距離100mmに設定した後、200mm/minの速度で引張試験を行い、破断伸度(%)および引張弾性率(MPa)を測定する。なお、測定は、基材の製造時の流れ方向(MD)およびこれに直角の方向(CD)の双方で行う。
【0077】
・第1粘着剤層
第1粘着剤層12は、エキスパンド工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。第1粘着剤層12に含まれる粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤及びウレタン系粘着剤が挙げられる。
【0078】
・エネルギー線硬化性樹脂(ax1)
第1粘着剤層12は、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)を含有することが好ましい。エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、分子内に、エネルギー線硬化性の二重結合を有する。
エネルギー線硬化性樹脂を含有する粘着剤層は、エネルギー線照射により硬化して粘着力が低下する。被着体と粘着シートとを分離したい場合、エネルギー線を粘着剤層に照射することにより、容易に分離できる。
【0079】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、(メタ)アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0080】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、紫外線硬化性樹脂であることが好ましく、紫外線硬化性の(メタ)アクリル系樹脂であることがより好ましい。
【0081】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、エネルギー線の照射を受けると重合硬化する樹脂である。エネルギー線としては、例えば、紫外線、及び電子線等が挙げられる。
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)の例としては、エネルギー線重合性基を有する低分子量化合物(単官能のモノマー、多官能のモノマー、単官能のオリゴマー、及び多官能のオリゴマー)が挙げられる。エネルギー線硬化性樹脂(ax1)は、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4-ブチレングリコールジアクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等のアクリレート、ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート、及びイソボルニルアクリレート等の環状脂肪族骨格含有アクリレート、並びにポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート、及びイタコン酸オリゴマー等のアクリレート系化合物が用いられる。エネルギー線硬化性樹脂(a1)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0082】
エネルギー線硬化性樹脂(ax1)の分子量は、通常、100以上、30000以下であり、300以上、10000以下程度であることが好ましい。
【0083】
・(メタ)アクリル系共重合体(b1)
第1粘着剤層12は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)をさらに含んでいることが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体は、前述したエネルギー線硬化性樹脂(ax1)とは異なる。
【0084】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)は、エネルギー線硬化性の炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。すなわち、本実施形態において、第1粘着剤層12は、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)と、エネルギー線硬化性の(メタ)アクリル系共重合体(b1)とを含有することが好ましい。
【0085】
第1粘着剤層12は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対し、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)を10質量部以上の割合で含有することが好ましく、20質量部以上の割合で含有することがより好ましく、25質量部以上の割合で含有することがさらに好ましい。
第1粘着剤層12は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対し、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)を80質量部以下の割合で含有することが好ましく、70質量部以下の割合で含有することがより好ましく、60質量部以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0086】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
また、(メタ)アクリル系共重合体(b1)の重量平均分子量(Mw)は、150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0087】
(メタ)アクリル系共重合体(b1)は、側鎖にエネルギー線硬化性を有する官能基(エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体(b2)(以下「エネルギー線硬化性重合体(b2)」という場合がある。)であることが好ましい。
【0088】
・エネルギー線硬化性重合体(b2)
エネルギー線硬化性重合体(b2)は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(b21)と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(b22)とを反応させて得られる共重合体であることが好ましい。
【0089】
本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0090】
アクリル系共重合体(b21)は、官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、または(メタ)アクリル酸エステルモノマーの誘導体から導かれる構成単位とを含むことが好ましい。
【0091】
アクリル系共重合体(b21)の構成単位としての官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、官能基と、を分子内に有するモノマーであることが好ましい。官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、置換アミノ基、及びエポキシ基等からなる群から選択される少なくともいずれかの官能基であることが好ましい。
【0092】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0093】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、及びシトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0094】
アミノ基含有モノマーまたは置換アミノ基含有モノマーとしては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、及びn-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アミノ基含有モノマーまたは置換アミノ基含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0095】
アクリル系共重合体(b21)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1以上20以下であるアルキル(メタ)アクリレートの他、例えば、分子内に脂環式構造を有するモノマー(脂環式構造含有モノマー)が好ましく用いられる。
【0096】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1以上18以下であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等がより好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0097】
脂環式構造含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等が好ましく用いられる。脂環式構造含有モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0098】
アクリル系共重合体(b21)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、1質量%以上の割合で含有することが好ましく、5質量%以上の割合で含有することがより好ましく、10質量%以上の割合で含有することがさらに好ましい。
また、アクリル系共重合体(b21)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を、35質量%以下の割合で含有することが好ましく、30質量%以下の割合で含有することがより好ましく、25質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0099】
さらに、アクリル系共重合体(b21)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、50質量%以上の割合で含有することが好ましく、60質量%以上の割合で含有することがより好ましく、70質量%以上の割合で含有することがさらに好ましい。
また、アクリル系共重合体(b21)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を、99質量%以下の割合で含有することが好ましく、95質量%以下の割合で含有することがより好ましく、90質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
【0100】
アクリル系共重合体(b21)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とを常法で共重合することにより得られる。
アクリル系共重合体(b21)は、上述のモノマーの他にも、ジメチルアクリルアミド、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、及びスチレン等からなる群から選択される少なくともいずれかの構成単位を含有していてもよい。
【0101】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(b21)を、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物(b22)と反応させることにより、エネルギー線硬化性重合体(b2)が得られる。
【0102】
不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基は、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基含有モノマー単位の官能基の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基がヒドロキシ基、アミノ基又は置換アミノ基の場合、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基としてはイソシアネート基又はエポキシ基が好ましく、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基がエポキシ基の場合、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基としてはアミノ基、カルボキシ基またはアジリジニル基が好ましい。
【0103】
不飽和基含有化合物(b22)は、エネルギー線重合性の炭素-炭素二重結合を、1分子中に少なくとも1個含み、1個以上、6個以下含むことが好ましく、1個以上、4個以下含むことがより好ましい。
【0104】
不飽和基含有化合物(b22)としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(2-イソシアナトエチルメタクリレート)、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
【0105】
不飽和基含有化合物(b22)は、アクリル系共重合体(b21)の官能基含有モノマーのモル数に対して、50モル%以上の割合(付加率)で用いられることが好ましく、60モル%以上の割合で用いられることがより好ましく、70モル%以上の割合で用いられることが更に好ましい。
また、不飽和基含有化合物(b22)は、アクリル系共重合体(b21)の官能基含有モノマーモル数に対して、95モル%以下の割合で用いられることが好ましく、93モル%以下の割合で用いられることがより好ましく、90モル%以下の割合で用いられることがさらに好ましい。
【0106】
アクリル系共重合体(b21)と不飽和基含有化合物(b22)との反応においては、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基と不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基との組合せに応じて、反応の温度、圧力、溶媒、時間、触媒の有無、及び触媒の種類を適宜選択することができる。これにより、アクリル系共重合体(b21)が有する官能基と、不飽和基含有化合物(b22)が有する官能基とが反応し、不飽和基がアクリル系共重合体(b21)の側鎖に導入され、エネルギー線硬化性重合体(b2)が得られる。
【0107】
エネルギー線硬化性重合体(b2)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
また、エネルギー線硬化性重合体(b2)の重量平均分子量(Mw)は、150万以下であることが好ましく、100万以下であることがより好ましい。
【0108】
・光重合開始剤(C)
第1粘着剤層12が紫外線硬化性の化合物(例えば、紫外線硬化性樹脂)を含有する場合、第1粘着剤層12は、光重合開始剤(C)を含有することが好ましい。
第1粘着剤層12が光重合開始剤(C)を含有することにより、重合硬化時間及び光線照射量を少なくすることができる。
【0109】
光重合開始剤(C)の具体例は、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物及びパーオキサイド化合物が挙げられる。さらには、光重合開始剤(C)としては、例えば、アミン又はキノン等の光増感剤等が挙げられる。
より具体的な光重合開始剤(C)としては、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロルニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロールアンスラキノン及びビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシドが挙げられる。光重合開始剤(C)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0110】
光重合開始剤(C)の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上、10質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上、5質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以上、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0111】
光重合開始剤(C)は、粘着剤層にエネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)を配合する場合には、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)の合計量100質量部に対して0.1質量部以上の量で用いられることが好ましく、0.5質量部以上の量で用いられることがより好ましい。
また、光重合開始剤(C)は、粘着剤層にエネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)を配合する場合には、エネルギー線硬化性樹脂(ax1)、及び(メタ)アクリル系共重合体(b1)の合計量100質量部に対して10質量部以下の量で用いられることが好ましく、6質量部以下の量で用いられることがより好ましい。
【0112】
第1粘着剤層12は、上記成分以外にも、適宜他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、架橋剤(E)等が挙げられる。
【0113】
・架橋剤(E)
架橋剤(E)としては、(メタ)アクリル系共重合体(b1)等が有する官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。第1シート10における多官能性化合物の例としては、イソシアナート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物、金属アルコキシド化合物、金属キレート化合物、金属塩、アンモニウム塩及び反応性フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0114】
架橋剤(E)の配合量は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、0.04質量部以上であることがさらに好ましい。
また、架橋剤(E)の配合量は、(メタ)アクリル系共重合体(b1)100質量部に対して、8質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3.5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0115】
第1粘着剤層12の厚さは、特に限定されない。第1粘着剤層12の厚さは、例えば、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。また、第1粘着剤層12の厚さは、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0116】
第1シート10の復元率が、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。第1シート10の復元率は、100%以下であることが好ましい。復元率が上記範囲であることで、粘着シートを大きく延伸することができる。
復元率は、粘着シートを150mm(長さ方向)×15mm(幅方向)に切り出した試験片において、長さ方向の両端を、つかみ具間の長さが100mmとなるようにつかみ具でつかみ、その後、つかみ具間の長さが200mmとなるまで200mm/minの速度で引張り、つかみ具間の長さが200mmに拡張された状態で1分間保持し、その後、つかみ具間の長さが100mmとなるまで200mm/minの速度で長さ方向に戻し、つかみ具間の長さが100mmに戻された状態で1分間保持し、その後、60mm/minの速度で長さ方向に引張り、引張力の測定値が0.1N/15mmを示した時のつかみ具間の長さを測定し、当該長さから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL2(mm)とし、前記拡張された状態におけるつかみ具間の長さ200mmから初期のつかみ具間の長さ100mmを引いた長さをL1(mm)としたとき、下記数式(数2)で算出される。
復元率(%)={1-(L2÷L1)}×100 ・・・ (数2)
【0117】
復元率が上記範囲である場合、粘着シートは大きく延伸された後においても復元し易いことを意味する。一般に、降伏点を有するシートを降伏点以上に延伸すると、シートは塑性変形を起こし、塑性変形を起こした部分、即ち極端に延伸された部分が偏在した状態となる。そのような状態のシートをさらに延伸すると、上記の極端に延伸された部分から破断が生じたり、破断が生じなくても、エキスパンドが不均一になる。また、ひずみをx軸、伸びをy軸にそれぞれプロットした応力-ひずみ線図において、傾きdx/dyが、正の値から0または負の値に変化する応力値をとらず、明確な降伏点を示さないシートであっても、引張量が大きくなるにつれてシートは塑性変形を起こし、同様に破断が生じたり、エキスパンドが不均一になる。一方、塑性変形ではなく弾性変形が生じる場合には、応力を取り除くことでシートが元の形状に復元し易い。そこで、十分大きい引張量である100%伸長後にどの程度復元するかを表す指標である復元率が、上記範囲であることにより、粘着シートを大きく延伸する際に、フィルムの塑性変形が最小限に抑えられ、破断が生じ難く、且つ均一なエキスパンドが可能となる。
【0118】
(剥離シート)
第1シート10の表面には、剥離シートが貼付されていてもよい。剥離シートは、具体的には、第1シート10の第1粘着剤層12の表面に貼付される。剥離シートは、第1粘着剤層12の表面に貼付されることで輸送時及び保管時に第1粘着剤層12を保護する。剥離シートは、剥離可能に第1シート10に貼付されており、第1シート10が使用される前には、第1シート10から剥離されて取り除かれる。
【0119】
剥離シートは、少なくとも一方の面が剥離処理をされた剥離シートが用いられる。具体的には、例えば、剥離シート用基材と、この基材の表面上に剥離剤を塗布して形成した剥離剤層とを備える剥離シートが挙げられる。
【0120】
剥離シート用基材としては、樹脂フィルムが好ましい。剥離シート用基材としての樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂フィルム、並びにポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂及びフッ素系樹脂が挙げられる。
【0121】
剥離シートの厚さは、特に制限はないが、10μm以上、200μm以下であることが好ましく、20μm以上、150μm以下であることがより好ましい。
【0122】
(粘着シートの製造方法)
第1シート10及びその他の本明細書に記載の粘着シートの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により製造できる。
【0123】
例えば、剥離シート上に設けた粘着剤層を、基材の片面に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着シートを製造できる。また、剥離シート上に設けた緩衝層と、基材とを貼り合わせ、剥離シートを除去することで、緩衝層と基材との積層体が得られる。そして、剥離シート上に設けた粘着剤層を、積層体の基材側に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着シートを製造できる。なお、緩衝層を基材の両面に設けた場合には、粘着剤層は緩衝層の上に形成される。粘着剤層の表面に貼付される剥離シートは、粘着シートの使用前に適宜剥離して除去すればよい。
【0124】
粘着シートの製造方法のより具体的な一例としては、次のような方法が挙げられる。まず、粘着剤層を構成する粘着性組成物、及び所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗工液を調製する。次に、塗工液を、基材の一の面上に、塗布手段により塗布して塗膜を形成する。塗布手段としては、例えば、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、及びナイフコーター等が挙げられる。次に、当該塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層を形成できる。塗工液は、塗布を行うことが可能であれば、その性状は特に限定されない。塗工液は、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、粘着剤層を形成するための成分を分散質として含有する場合もある。同様に、基材の片面または緩衝層の上に、粘着剤組成物を直接塗布して、粘着剤層を形成してもよい。
【0125】
また、粘着シートの製造方法のより具体的な別の一例としては、次のような方法が挙げられる。まず、前述の剥離シートの剥離面上に塗工液を塗布して塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥させて粘着剤層と剥離シートとからなる積層体を形成する。次に、この積層体の粘着剤層における剥離シート側の面と反対側の面に、基材を貼付して、粘着シートと剥離シートとの積層体を得てもよい。この積層体における剥離シートは、工程材料として剥離してもよいし、粘着剤層に被着体(例えば、半導体チップ、及び半導体ウエハ等)が貼付されるまで、粘着剤層を保護していてもよい。
【0126】
塗工液が架橋剤を含有する場合には、塗膜の乾燥の条件(例えば、温度、及び時間等)を変えることにより、または加熱処理を、別途、行うことにより、例えば、塗膜内の(メタ)アクリル系共重合体と架橋剤との架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成させればよい。この架橋反応を十分に進行させるために、上述の方法等によって基材に粘着剤層を積層させた後、得られた粘着シートを、例えば、23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0127】
第1シート10の厚さは、30μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。第1シート10の厚さは、400μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0128】
(第2粘着シート)
本実施形態に係る第2粘着シート20は、第2基材21と、第2粘着剤層22とを有する。第2粘着剤層22は、第2基材21に積層されている。
【0129】
・第2基材
本実施形態に係る第2基材21は、ダイシング工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
第2基材21は、樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成されることが好ましい。樹脂系の材料を主材とするフィルムとしては、例えば、エチレン系共重合フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリウレタンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びフッ素樹脂フィルムが挙げられる。
【0130】
・第2粘着剤層
第2粘着剤層22は、ダイシング工程等の所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
【0131】
第2粘着剤層22としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも一種の粘着剤で構成されることが好ましく、アクリル系粘着剤で構成されることがより好ましい。
【0132】
第2粘着剤層22は、非エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよいし、エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。
【0133】
[本実施形態に係る効果]
本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、第1シート10を伸張させる際に、半導体チップCPの回路面W1は、第1シート10の第1粘着剤層12と接していない。半導体チップCPのそれぞれにおいては、回路面W1と第1粘着剤層12との間にダイシング工程で個片化された保護層100が介在しているため、第1シート10を伸張させても回路面W1に接している保護層100は、引き延ばされない。その結果、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、糊残りを抑制できる。
また、本実施形態に係るエキスパンド方法において用いる粘着シートは、いずれも基材と粘着剤層とからなる簡易な構成である。また、エキスパンド工程を実施する前に、ダイシング工程を実施した際に用いた粘着シートから、エキスパンド工程用の粘着シートへと貼り替えるため、ダイシング工程においてダイシングブレードがダイシングシートの基材に到達しないように、切込み深さを慎重に制御する必要がない。
したがって、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、従来に比べて粘着シート構成及びプロセスを簡略化し、かつ、糊残りを抑制できる。
さらには、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【0134】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態と第2実施形態とは主に次の点で相違する。第1実施形態においては加工対象物(半導体ウエハW)の第1加工対象物面(回路面W1)に保護層が設けられていたのに対し、第2実施形態においては、保護層と第3シートとを有する複合シートの当該保護層に加工対象物(半導体ウエハW)の第2加工対象物面(裏面W3)を貼着することにより、加工対象物に保護層を設ける。
以下の説明では、第1実施形態との相違に係る部分を主に説明し、重複する説明については省略又は簡略化する。第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0135】
図6図6A図6B及び図6C)及び図7図7A図7B及び図7C)は、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を説明する断面概略図である。
【0136】
本実施形態に係るエキスパンド方法は、次の工程(PX1)~(PX5)の工程を備える。
(PX1)保護層と第3シートとを有する複合シートの当該保護層に加工対象物を貼着する工程。
(PX2)加工対象物の第1加工対象物面側から切込みを入れて、ウエハを切断し、さらに、少なくとも保護層を切断して複数の半導体装置に個片化する工程。第1加工対象物面が半導体装置の回路面になり、第2加工対象物面が半導体装置の裏面となる。
(PX3)保護層を半導体装置の裏面に残したまま、第3シートを剥離する工程。
(PX4)半導体装置の裏面側の保護層に第1シートを貼付する工程。
(PX5)第1シートを伸張させて、複数の半導体装置の間隔を拡げる工程。
【0137】
(複合シート)
図6Aには、本実施形態で用いる複合シート130の断面概略図が示されている。
複合シート130は、保護層100Aと第3シート30とを有する。複合シート130は、半導体ウエハWをダイシングする際に、半導体ウエハWを保持する。半導体ウエハWは、裏面W3を複合シート130の保護層100Aに向けて貼着される。
【0138】
(保護層)
複合シート130における保護層100Aは、第3シート30の上に積層されている。保護層100Aは、加工対象物としての半導体ウエハW及び半導体装置としての半導体チップCPの裏面W3(半導体装置の裏面)に貼着して、裏面W3を保護できれば、特に限定されない。保護層100Aとしては、例えば、保護膜、及び保護シートが挙げられる。保護層100Aの厚さは、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。保護層100Aの厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
保護層100Aとしては、例えば、第1実施形態において説明した保護層100と同様の保護層でもよい。
【0139】
(第3シート)
複合シート130における第3シート30は、保護層100Aを支持する部材である。第3シート30は、保護層100Aを支持できれば、その構成材料は特に限定されない。本実施形態の工程(PX3)においては、保護層100Aを半導体チップCPの裏面W3に残したまま第3シート30を剥離するため、第3シート30は、保護層100Aから剥離可能な材質等で構成されていることが好ましい。
【0140】
複合シート130のより詳細な例については、後述する。
【0141】
[複合シートの貼着工程]
図6Bは、工程(PX1)を説明するための図である。図6Bには、複合シート130が貼着された半導体ウエハWが記載されている。本実施形態における半導体ウエハWも、バックグラインド工程を経ることにより得られたウエハであることが好ましい。この工程(PX1)を複合シートの貼着工程と称する場合がある。
後述するように、工程(PX2)において、半導体ウエハWは、ダイシングにより複数の半導体チップCPに個片化される。本実施形態では、半導体ウエハWをダイシングする際に、半導体ウエハWを保持するために、裏面W3に複合シート130を貼着する。半導体ウエハWは、裏面W3を複合シート130の保護層100に向けて貼着される。
【0142】
本実施形態では、回路面W1が露出した状態でプロセスを進める態様を例に挙げて説明するが、その他の態様の例としては、例えば、回路面W1に、保護層100Aとは別の保護シート又は保護膜等の保護部材が貼着された状態でプロセスを進める態様が挙げられる。
【0143】
[ダイシング工程]
図6Cは、工程(PX2)を説明するための図である。工程(PX2)をダイシング工程と称する場合がある。図6Cには、複合シート130に保持された複数の半導体チップCPが示されている。
裏面W3に複合シート130が貼着された状態の半導体ウエハWは、ダイシングにより個片化され、複数の半導体チップCPが形成される。第1半導体装置面としての回路面W1は、チップの回路面に相当する。第2半導体装置面としての裏面W3がチップ裏面に相当する。
本実施形態では、回路面W1側から切込みを入れて、半導体ウエハWを切断し、さらに複合シート130の少なくとも保護層100Aを切断する。
ダイシングの際の切断深さは、半導体ウエハW及び保護層100Aを個片化できる深さであれば特に限定されない。本実施形態では、第3シート30まで切込みを入れない態様を例に挙げて説明するが、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、別の実施形態においては、半導体ウエハW及び保護層100Aを確実に切断するという観点から、ダイシングによって、第3シート30に到達するまでの深さで切込みを形成してもよい。
【0144】
[第3シートの剥離工程]
図7Aは、工程(PX3)を説明するための図である。工程(PX3)を第3シートの剥離工程と称する場合がある。図7Aには、ダイシング工程後に個片化された半導体チップCPの裏面W3に保護層100Aを残したまま、第3シート30を剥離する工程が示されている。
複合シート130の一態様として、第3シート30の上に、直接、保護層100Aが積層されている場合には、第3シートの剥離工程においては、保護層100Aと第3シート30との界面で剥離することが好ましい。第3シート30を剥離すると、裏面W3に保護層100Aが貼着された複数の半導体チップCPが得られる。
【0145】
第3シート30を保護層100Aから剥離する際の剥離力は、10mN/25mm以上、2000mN/25mm以下であることが好ましい。第3シート30を保護層100Aから剥離する際の剥離力が10mN/25mm以上であることにより、ダイシング時の半導体チップ保持性に優れるという効果が得られる。第3シート30を保護層100Aから剥離する際の剥離力が2000mN/25mm以下であることにより、ダイシング後の半導体チップのピックアップ性に優れるという効果が得られる。第3シート30を保護層100Aから剥離する際の剥離力は、30mN/25mm以上、1000mN/25mm以下であることがより好ましく、50mN/25mm以上、500mN/25mm以下であることがさらに好ましい。
【0146】
[第1シートの貼着工程]
図7Bは、工程(PX4)を説明するための図である。工程(PX4)を第1シートの貼着工程と称する場合がある。図7Bには、ダイシング工程によって得た複数の半導体チップCPに第1シート10が貼付された状態が示されている。本実施形態に係る第1シート10は、第1実施形態で用いた第1シート10と同様である。
本実施形態では、第1シート10が複数の半導体チップCPの裏面W3側に貼着されると、複数の半導体チップCPと第1シート10の第1粘着剤層12との間に個片化された保護層100Aが介在した積層構造が得られる。
【0147】
[エキスパンド工程]
図7Cは、工程(PX5)を説明するための図である。工程(PX5)をエキスパンド工程と称する場合がある。図7Cには、第1シート10を貼着後に、第1シート10を伸張させて、複数の半導体チップCPの間隔を拡げた状態が示されている。
本実施形態におけるエキスパンド工程においても、第1シート10を引き延ばす方法は、第1実施形態と同様である。本実施形態においても、複数の半導体チップCPの間隔D1は、半導体チップCPのサイズに依存するため、特に制限されない。隣り合う半導体チップCPの相互の間隔D1は、200μm以上であることが好ましい。なお、当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、特に制限されない。当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、例えば、6000μmであってもよい。
【0148】
[第1転写工程]
本実施形態においては、エキスパンド工程の後、第1シート10に貼着されていた複数の半導体チップCPを、第1実施形態と同様に第6粘着シート60に転写する工程(以下「第1転写工程」という場合がある。)を実施してもよい。
【0149】
本実施形態において転写工程を実施する場合は、例えば、エキスパンド工程の後、複数の半導体チップCPの回路面W1に第6粘着シート60を貼着し、その後、第1シート10及び保護層100Aを裏面W3から剥離することが好ましい。第1シート10及び保護層100Aをまとめて裏面W3から剥離してもよいし、第1シート10を先に剥離して後に保護層100Aを裏面W3から剥離してもよい。保護層100Aを裏面W3から剥離する工程を、保護層の剥離工程と称する場合がある。
保護層100Aの剥離工程の後も、エキスパンド工程において拡張させた複数の半導体チップCP間の間隔D1が維持されていることが好ましい。
【0150】
保護層100Aを裏面W3から剥離する際に、裏面W3への糊残りを抑制するという一つの観点から、保護層100Aは、第1エネルギー線硬化性樹脂を含有することが好ましい。保護層100Aが第1エネルギー線硬化性樹脂を含有している場合には、保護層100Aにエネルギー線を照射し、第1エネルギー線硬化性樹脂を硬化させる。第1エネルギー線硬化性樹脂を硬化させると、保護層100Aの凝集力が高まり、保護層100Aと半導体チップCPの裏面W3との間の粘着力を低下又は消失させることができる。エネルギー線としては、例えば、紫外線(UV)や電子線(EB)等が挙げられ、紫外線が好ましい。したがって、第1エネルギー線硬化性樹脂は、紫外線硬化型の樹脂であることが好ましい。
【0151】
第1シート10を保護層100Aとまとめて裏面W3から剥離するという一つの観点から、第1シート10が第1粘着剤層12を備える場合、第1粘着剤層12は、第2エネルギー線硬化性樹脂を含有することが好ましい。保護層100Aが第1エネルギー線硬化性樹脂を含有し、かつ、第1粘着剤層12が第2エネルギー線硬化性樹脂を含有している場合には、第1基材11側から第1粘着剤層12及び保護層100Aにエネルギー線を照射し、第2エネルギー線硬化性樹脂及び第1エネルギー線硬化性樹脂を硬化させる。第2エネルギー線硬化性樹脂を硬化させるためのエネルギー線としては、例えば、紫外線(UV)や電子線(EB)等が挙げられ、紫外線が好ましい。したがって、第2エネルギー線硬化性樹脂は、紫外線硬化型の樹脂であることが好ましい。第1基材11は、エネルギー線の透過性を有することが好ましい。
【0152】
なお、本実施形態とは異なる態様としては、保護層100Aを半導体チップCPの裏面W3から剥離せずに、半導体チップCPの裏面W3を保護するための保護膜として用いてもよい。保護層100Aを裏面W3の保護膜として用いる場合は、保護層100Aは、硬化性の粘着剤組成物を含有することが好ましい。
【0153】
[封止工程及びその他の工程]
本実施形態においても、第1実施形態と同様、封止工程、並びにその他の工程(再配線層形成工程及び外部端子電極との接続工程)を実施してもよい。
【0154】
(複合シート)
本実施形態の一態様においては、複合シート130の保護層100Aが第3粘着剤層であり、第3シート30が第3基材であることも好ましい。すなわち、複合シート130が、第3基材と第3粘着剤層とを有する粘着シートであって、第3基材と第3粘着剤層との間で剥離可能であることが好ましい。
【0155】
・第3基材
本実施形態に係る第3基材は、所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。第3基材は、第3粘着剤層を支持する部材である。
第3基材は、例えば、樹脂フィルムである。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、及びフッ素樹脂フィルムからなる群から選択される少なくともいずれかのフィルムが用いられる。また、第3基材として、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、第3基材は、これらの積層フィルムであってもよい。
【0156】
また、第3基材は、例えば、硬質支持体であってもよい。硬質支持体の材質は、機械的強度、及び耐熱性等を考慮して適宜決定すればよい。硬質支持体の材質は、例えば、SUS等の金属材料;ガラス、シリコンウエハ等の非金属無機材料;エポキシ、ABS、アクリル、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック、ポリイミド、ポリアミドイミド等の樹脂材料;ガラスエポキシ樹脂等の複合材料等が挙げられ、これらの中でも、SUS、ガラス、及びシリコンウエハ等が好ましい。エンジニアリングプラスチックとしては、ナイロン、ポリカーボネート(PC)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0157】
第3基材の厚さは特に限定されない。第3基材の厚さは、好ましくは20μm以上、50mm以下であり、より好ましくは60μm以上、20mm以下である。第3基材の厚さを上記範囲とすることで、第3基材が樹脂フィルムである場合は、第3シート30が十分な可撓性を有するため、加工対象物(ワーク)に対して良好な貼付性を示す。加工対象物としては、例えば、ウエハ又は半導体素子であり、より具体的な例としては、半導体ウエハ又は半導体チップ等である。第3基材が硬質支持体である場合、硬質支持体の厚さは、機械的強度、及び取り扱い性等を考慮して適宜決定すればよい。硬質支持体の厚さは、例えば、100μm以上、50mm以下である。
【0158】
・第3粘着剤層
第3粘着剤層は、所望の工程において適切に機能できる限り、その構成材料は特に限定されない。
第3粘着剤層の一態様においては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤及びシリコーン系粘着剤からなる群から選択される少なくとも一種の粘着剤で構成されることが好ましく、アクリル系粘着剤で構成されることがより好ましい。
【0159】
第3粘着剤層の一態様においては、外部からエネルギーを受けて硬化する硬化性の粘着剤組成物を含有することが好ましい。外部から供給されるエネルギーとしては、例えば、紫外線、電子線、及び熱などが挙げられる。第3粘着剤層は、紫外線硬化型粘着剤、及び熱硬化型粘着剤の少なくともいずれか一種を含有していることが好ましい。第3基材が、耐熱性を備えている場合は、熱硬化時の残存応力の発生を抑制できることから、粘着剤層は、熱硬化型粘着剤を含有する熱硬化性の粘着剤層であることが好ましい。
【0160】
第3粘着剤層は、例えば、第一の接着剤組成物を含有する。第一の接着剤組成物は、バインダーポリマー成分(A)及び硬化性成分(B)を含有する。
【0161】
(A)バインダーポリマー成分
第3粘着剤層に十分な粘着性及び造膜性(シート形成性)を付与するためにバインダーポリマー成分(A)が用いられる。バインダーポリマー成分(A)としては、従来公知のアクリルポリマー、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系ポリマー等を用いることができる。
【0162】
バインダーポリマー成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、1万以上、200万以下であることが好ましく、10万以上、120万以下であることがより好ましい。本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0163】
バインダーポリマー成分(A)として、アクリルポリマーが好ましく用いられる。アクリルポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-60℃以上、50℃以下、より好ましくは-50℃以上、40℃以下、さらに好ましくは-40℃以上、30℃以下の範囲にある。
【0164】
上記アクリルポリマーを構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体が挙げられる。例えば、アルキル基の炭素数が1~18であるアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、環状骨格を有する(メタ)アクリレート、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに官能基を有するモノマーとして、水酸基を有するヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられ;その他、エポキシ基を有するグリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。アクリルポリマーは、水酸基を有しているモノマーを含有しているアクリルポリマーが、後述する硬化性成分(B)との相溶性が良いため好ましい。また、上記アクリルポリマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、アクリロニトリル、及びスチレンからなる群から選択される少なくとも1種が共重合されていてもよい。
【0165】
さらに、バインダーポリマー成分(A)として、硬化後の第3粘着剤層の膜の可とう性を保持するための熱可塑性樹脂を配合してもよい。そのような熱可塑性樹脂としては、重量平均分子量が1000以上、10万以下の樹脂が好ましく、3000以上、8万以下の樹脂がさらに好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、好ましくは-30℃以上、120℃以下、さらに好ましくは-20℃以上、120℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブテン、ポリブタジエン、又はポリスチレンなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0166】
(B)硬化性成分
硬化性成分(B)は、熱硬化性成分及びエネルギー線硬化性成分のうち少なくともいずれかの成分が用いられる。硬化性成分(B)として熱硬化性成分及びエネルギー線硬化性成分を用いてもよい。
【0167】
熱硬化性成分としては、熱硬化樹脂及び熱硬化剤が用いられる。熱硬化樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂が好ましい。
【0168】
エポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、具体的には、多官能系エポキシ樹脂や、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0169】
第3粘着剤層には、バインダーポリマー成分(A)100質量部に対して、熱硬化樹脂が、好ましくは1質量部以上、1000質量部以下含まれ、より好ましくは10質量部以上、500質量部以下含まれ、さらに好ましくは20質量部以上、200質量部以下含まれる。熱硬化樹脂の含有量が1質量部以上であれば、十分な粘着性が得られないという不具合を抑制できる。熱硬化樹脂の含有量が1000質量部以下であれば、第3粘着剤層と第3基材との剥離力が高くなりすぎることを防止できる。当該剥離力が高くなりすぎることを防止すれば、第3粘着剤層の半導体チップCPの裏面W3に対する転写不良を防止できる。
【0170】
熱硬化剤は、熱硬化樹脂、特にエポキシ樹脂に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤としては、エポキシ基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物が挙げられる。エポキシ基と反応し得る官能基としては、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、及び酸無水物基などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、及び酸無水物基などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、及びアミノ基が挙げられる。
【0171】
フェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、及びアラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミン系硬化剤の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。これら熱硬化剤は、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0172】
熱硬化剤の含有量は、熱硬化樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上、500質量部以下であることが好ましく、1質量部以上、200質量部以下であることがより好ましい。
【0173】
第3粘着剤層が、硬化性成分(B)として、熱硬化性成分を含有する場合、第3粘着剤層は熱硬化性を有する。この場合、第3粘着剤層を加熱により硬化することが可能となるが、本実施形態の第1シート10において、第3基材が耐熱性を有している場合には、第3粘着剤層の熱硬化の際に、基材に残存応力が発生して不具合を生じることが起こりにくい。
【0174】
エネルギー線硬化性成分としては、エネルギー線重合性基を含み、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する低分子化合物(エネルギー線重合性化合物)を用いることができる。このようなエネルギー線硬化性成分として具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、あるいは1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシ変性アクリレート、ポリエーテルアクリレート及びイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物が挙げられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、通常は、重量平均分子量が100以上、30000以下、好ましくは300以上、10000以下である。エネルギー線重合性化合物の配合量は、バインダーポリマー成分(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、1500質量部以下であり、より好ましくは10質量部以上、500質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以上、200質量部以下である。
【0175】
また、エネルギー線硬化性成分として、バインダーポリマー成分(A)の主鎖または側鎖に、エネルギー線重合性基が結合されてなるエネルギー線硬化型重合体を用いてもよい。このようなエネルギー線硬化型重合体は、バインダーポリマー成分(A)としての機能と、硬化性成分(B)としての機能を兼ね備える。
【0176】
エネルギー線硬化型重合体の主骨格は、特に限定はされず、バインダーポリマー成分(A)として汎用されているアクリルポリマーであってもよく、またポリエステル、ポリエーテル等であっても良いが、合成及び物性の制御が容易であることから、アクリルポリマーを主骨格とすることが好ましい。
【0177】
エネルギー線硬化型重合体の主鎖または側鎖に結合するエネルギー線重合性基は、例えば、エネルギー線重合性の炭素-炭素二重結合を含む基であり、具体的には(メタ)アクリロイル基等を例示することができる。エネルギー線重合性基は、アルキレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基を介してエネルギー線硬化型重合体に結合していてもよい。
【0178】
エネルギー線重合性基が結合されたエネルギー線硬化型重合体の重量平均分子量(Mw)は、1万以上、200万以下であることが好ましく、10万以上、150万以下であることがより好ましい。また、エネルギー線硬化型重合体のガラス転移温度(Tg)は、-60℃以上、50℃以下であることが好ましく、-50℃以上、40℃以下であることがより好ましく、-40℃以上、30℃以下であることがさらに好ましい。
【0179】
エネルギー線硬化型重合体は、例えば、官能基を含有するアクリルポリマーと、重合性基含有化合物とを反応させて得られる。この官能基を含有するアクリルポリマーが有する官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、及びエポキシ基等が挙げられる。この重合性基含有化合物は、アクリルポリマーが有する当該置換基と反応する置換基とエネルギー線重合性炭素-炭素二重結合を1分子毎に1~5個有する重合性基含有化合物である。該官能基と反応する置換基としては、イソシアネート基、グリシジル基、及びカルボキシル基等が挙げられる。
【0180】
重合性基含有化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0181】
アクリルポリマーは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、及びエポキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはその誘導体と、これと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とからなる共重合体であることが好ましい。
【0182】
ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリルモノマーまたはその誘導体としては、例えば、ヒドロキシル基を有する2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;カルボキシル基を有するアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸;エポキシ基を有するグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。
【0183】
上記(メタ)アクリルモノマーと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体としては、例えば、アルキル基の炭素数が1~18であるアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
上記(メタ)アクリルモノマーと共重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体としては、例えば、環状骨格を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、具体的には、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、及びイミドアクリレートなどが挙げられる。また、上記アクリルポリマーには、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、及びスチレンからなる群から選択される少なくともいずれかが共重合されていてもよい。
【0184】
エネルギー線硬化型重合体を使用する場合であっても、前記したエネルギー線重合性化合物を併用してもよく、またバインダーポリマー成分(A)を併用してもよい。本実施形態における第3粘着剤層中のこれら三者の配合量の関係は、エネルギー線硬化型重合体及びバインダーポリマー成分(A)の質量の合計100質量部に対して、エネルギー線重合性化合物が好ましくは1質量部以上、1500質量部以下含まれ、より好ましくは10質量部以上、500質量部以下含まれ、さらに好ましくは20質量部以上、200質量部以下含まれる。
【0185】
第3粘着剤層にエネルギー線硬化性を付与することで、第3粘着剤層を簡便かつ短時間で硬化でき、硬化粘着剤層付チップの生産効率が向上する。硬化粘着剤層は、半導体素子を保護するための保護膜としても機能し得る。従来、チップ等の半導体素子用の保護膜は、一般にエポキシ樹脂などの熱硬化樹脂により形成されていたが、熱硬化樹脂の硬化温度は200℃を超え、また硬化時間は2時間程度を要しているため、生産効率向上の障害となっていた。しかし、エネルギー線硬化性の粘着剤層は、エネルギー線照射により短時間で硬化するため、簡便に保護膜を形成でき、生産効率の向上に寄与し得る。
【0186】
・その他の成分
第3粘着剤層は、上記バインダーポリマー成分(A)及び硬化性成分(B)に加えて下記成分を含むことができる。
【0187】
(CX)着色剤
第3粘着剤層は、一態様において、着色剤(CX)を含有する。第3粘着剤層に着色剤を配合することで、第3粘着剤層を硬化させて半導体チップCPの保護膜とする場合に、半導体装置を機器に組み込んだ際に、保護膜は、周囲の装置から発生する赤外線等を遮蔽し、それら赤外線等による半導体装置の誤作動を防止することができる。また、着色剤(CX)を含有する第3粘着剤層を硬化して得た硬化粘着剤層(保護膜)に、製品番号等を印字した際の文字の視認性が向上する。すなわち、保護膜が形成された半導体装置や半導体チップでは、保護膜の表面に品番等が、通常、レーザーマーキング法(レーザ光により保護膜表面を削り取り印字を行う方法)により印字される。保護膜が着色剤(CX)を含有することで、保護膜のレーザ光により削り取られた部分と、削り取られていない部分とののコントラスト差が充分に得られ、視認性が向上する。着色剤(CX)としては、有機顔料、無機顔料、有機染料、及び無機染料の少なくともいずれかが用いられる。着色剤(CX)としては、電磁波や赤外線遮蔽性の点から黒色顔料が好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、及び活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。半導体装置の信頼性を高める観点からは、着色剤(CX)としては、カーボンブラックが特に好ましい。着色剤(CX)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態における第3粘着剤層の高い硬化性は、可視光及び赤外線の少なくともいずれかと紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤を用い、紫外線の透過性が低下した場合に、特に好ましく発揮される。可視光及び赤外線の少なくともいずれかと紫外線との両方の透過性を低下させる着色剤としては、上記の黒色顔料のほか、可視光及び赤外線の少なくともいずれかと紫外線との両方の波長領域で吸収性または反射性を有する着色剤であれば特に限定されない。
【0188】
着色剤(CX)の配合量は、第3粘着剤層を構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、35質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上、25質量部以下、さらに好ましくは1質量部以上、15質量部以下である。
【0189】
(D)硬化促進剤
硬化促進剤(D)は、第3粘着剤層の硬化速度を調整するために用いられる。硬化促進剤(D)は、特に、硬化性成分(B)において、エポキシ樹脂と熱硬化剤とを併用する場合に好ましく用いられる。
【0190】
好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これら硬化促進剤は、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0191】
硬化促進剤(D)は、硬化性成分(B)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、10質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以上、1質量部以下の量で含まれる。
【0192】
(EX)カップリング剤
カップリング剤(EX)は、第3粘着剤層の半導体素子に対する粘着性、密着性及び硬化粘着剤層(保護膜)の凝集性の少なくともいずれかを向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(EX)を使用することで、第3粘着剤層を硬化して得られる硬化粘着剤層(保護膜)の耐熱性を損なうことなく、その耐水性を向上することができる。
【0193】
カップリング剤(EX)としては、バインダーポリマー成分(A)、硬化性成分(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤(EX)としては、シランカップリング剤が望ましい。このようなカップリング剤としてはγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらカップリング剤(EX)は、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0194】
カップリング剤(EX)は、バインダーポリマー成分(A)及び硬化性成分(B)の合計100質量部に対して、通常、0.1質量部以上、20質量部以下含まれ、好ましくは0.2質量部以上、10質量部以下含まれ、より好ましくは0.3質量部以上、5質量部以下の割合で含まれる。
【0195】
(F)無機充填材
無機充填材(F)を第3粘着剤層に配合することにより、硬化後の硬化粘着剤層(保護膜)における熱膨張係数を調整することが可能となる。
【0196】
好ましい無機充填材としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、及び窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維並びにガラス繊維等が挙げられる。これら無機充填材のなかでも、シリカフィラー及びアルミナフィラーが好ましい。上記無機充填材(F)は、1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。無機充填材(F)の含有量は、接着剤層を構成する全固形分100質量部に対して、通常、1質量部以上、80質量部以下の範囲で調整が可能である。
【0197】
(G)光重合開始剤
第3粘着剤層が、前述した硬化性成分(B)としてエネルギー線硬化性成分を含有する場合には、その使用に際して、紫外線等のエネルギー線を照射して、エネルギー線硬化性成分を硬化させる。この際、第3粘着剤層を構成する組成物中に光重合開始剤(G)を含有させることで、重合硬化時間を短くすることができ、さらに、光線照射量を少なくすることができる。
【0198】
このような光重合開始剤(G)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2-ジフェニルメタン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド及びβ-クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(G)は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0199】
光重合開始剤(G)の配合割合は、エネルギー線硬化性成分100質量部に対して0.1質量部以上、10質量部以下含まれることが好ましく、1質量部以上、5質量部以下含まれることがより好ましい。光重合開始剤(G)の配合割合が0.1質量部以上であれば、光重合の不足で満足な転写性が得られないという不具合を防止できる。光重合開始剤(G)の配合割合が10質量部以下であれば、光重合に寄与しない残留物が生成して第3粘着剤層の硬化性が不十分となるという不具合を防止できる。
【0200】
(H)架橋剤
第3粘着剤層の初期粘着力及び凝集力を調節するために、第3粘着剤層に架橋剤を添加することもできる。架橋剤(H)としては、有機多価イソシアネート化合物、及び有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0201】
上記有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物及びこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、並びにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0202】
有機多価イソシアネート化合物としては、例えば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、トリメチロールプロパンアダクトトリレンジイソシアネート及びリジンイソシアネートが挙げられる。
【0203】
上記有機多価イミン化合物としては、N,N’-ジフェニルメタン-4,4’-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン-トリ-β-アジリジニルプロピオネート及びN,N’-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0204】
架橋剤(H)はバインダーポリマー成分(A)及びエネルギー線硬化型重合体の合計量100質量部に対して、通常、0.01質量部以上、20質量部以下の比率で用いられ、好ましくは0.1質量部以上、10質量部以下の比率で用いられ、より好ましくは0.5質量部以上、5質量部以下の比率で用いられる。
【0205】
(I)汎用添加剤
第3粘着剤層には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、ゲッタリング剤、及び連鎖移動剤などが挙げられる。
【0206】
上記のような各成分からなる第3粘着剤層は、粘着性と硬化性とを有し、未硬化状態では加工対象物(半導体ウエハ又はチップ等)を押圧することで容易に接着する。なお、第3粘着剤層は単層構造であってもよく、また上記成分を含む層を1層以上含む限りにおいて多層構造であってもよい。
【0207】
第3粘着剤層の厚さは、特に限定されない。第3粘着剤層の厚さは、好ましくは3μm以上、300μm以下であり、より好ましくは5μm以上、250μm以下であり、さらに好ましくは7μm以上、200μm以下である。
【0208】
以上が第3粘着剤層に関する説明である。
【0209】
・剥離シート
複合シート130の表面には、剥離シートが貼付されていてもよい。剥離シートは、具体的には、複合シート130の第3粘着剤層の表面に貼付される。剥離シートは、第3粘着剤層の表面に貼付されることで輸送時及び保管時に第3粘着剤層を保護する。剥離シートは、剥離可能に複合シート130に貼付されており、複合シート130が使用される前には、複合シート130から剥離されて取り除かれる。
【0210】
剥離シートは、少なくとも一方の面が剥離処理をされた剥離シートが用いられる。具体的には、例えば、剥離シート用基材と、この基材の表面上に剥離剤を塗布して形成した剥離剤層とを備える剥離シートが挙げられる。
【0211】
剥離シート用基材としては、樹脂フィルムが好ましい。剥離シート用基材としての樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂フィルム、並びにポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂及びフッ素系樹脂が挙げられる。
【0212】
剥離シートの厚さは、特に制限はないが、10μm以上、200μm以下であることが好ましく、20μm以上、150μm以下であることがより好ましい。
【0213】
[本実施形態に係る効果]
本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、第1シート10を伸張させる際に、半導体チップCPの裏面W3は、第1シート10の第1粘着剤層12と接していない。半導体チップCPのそれぞれにおいては、裏面W3と第1粘着剤層12との間にダイシング工程で個片化された保護層100Aが介在しているため、第1シート10を伸張させても裏面W3に接している第1粘着剤層12は、引き延ばされない。その結果、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、糊残りを抑制できる。
また、本実施形態においては、ダイシング工程の際に、半導体ウエハWをダイシングシートで支持するのではなく、複合シート130で支持する。そのため、ダイシング後の半導体チップCPの裏面W3を保護するための層(本実施形態では保護層100A)を形成するために、ダイシング工程で用いる粘着シートから、別の粘着シートへと貼り替える工程を実施しなくても、保護層100Aと第3シート30との間で剥離すれば、裏面W3を保護するための層を形成できる。
さらに、エキスパンド工程を実施する前に、ダイシング工程を実施した際に用いた粘着シートから、エキスパンド工程用の粘着シートへと貼り替えるため、ダイシング工程においてダイシングブレードがダイシングシートの基材に到達しないように、切込み深さを慎重に制御する必要がない。
したがって、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、従来に比べてテープ構成及びプロセスを簡略化し、かつ、糊残りを抑制できる。
さらには、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【0214】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
第1実施形態と第3実施形態とは主に次の点で相違する。
第1実施形態においては加工対象物(半導体ウエハW)の第1加工対象物面(回路面W1)に保護層が設けられ、ダイシング工程の後、エキスパンド工程の前にダイシングシート(第2粘着シート20)から、エキスパンドシート(第1シート)へ貼り替えた。これに対し、第3実施形態においては、保護層と第1シートとを有する複合シートの当該保護層に加工対象物(半導体ウエハW)の第2加工対象物面(裏面W3)を貼着することにより、加工対象物に保護層が設けられ、ダイシング工程の後、第1シートを別のシートに貼り替えずにエキスパンド工程を実施する。
以下の説明では、第1実施形態との相違に係る部分を主に説明し、重複する説明については省略又は簡略化する。第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する。
【0215】
本実施形態に係るエキスパンド方法は、次の工程(PY1)~(PY3)の工程を備える。
(PY1)保護層と第1シートとを有する複合シートの当該保護層に加工対象物を貼着する工程。保護層は、加工対象物と略同形状である。
(PY2)加工対象物の第1加工対象物面側から切込みを入れて、ウエハを切断し、さらに、少なくとも保護層を切断して複数の半導体装置に個片化する工程。第1加工対象物面が半導体装置の回路面になり、第2加工対象物面が半導体装置の裏面となる。
(PY3)第1シートを伸張させて、複数の半導体装置の間隔を拡げる工程。
【0216】
図8図8A図8B及び図8C)及び図9は、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を説明する断面概略図である。
【0217】
(複合シート)
図8Aには、本実施形態で用いる複合シート140の断面概略図が示されている。
複合シート140は、保護層100Bと第1シート10とを有する。複合シート140は、半導体ウエハWをダイシングする際に半導体ウエハWを保持し、エキスパンド工程を実施する際に半導体チップCPを保持する。半導体ウエハWは、裏面W3を複合シート140の保護層100Bに向けて貼着される。
裏面W3に貼着する第1シート10及び保護層100Bは、予め、積層された積層型の複合シート140であることが好ましい。
【0218】
(保護層)
複合シート140における保護層100Bは、第1シート10の上に積層されている。保護層100Bは、加工対象物としての半導体ウエハW及び半導体装置としての半導体チップCPの裏面W3(半導体装置の裏面)に貼着して、裏面W3を保護できれば、特に限定されない。
【0219】
本実施形態においては、保護層100Bは、半導体ウエハWの裏面W3と略同形状である。保護層100Bの形状は、半導体ウエハWの裏面W3を覆うことができる形状であることが好ましい。そのため、保護層100Bは、半導体ウエハWの裏面W3とほぼ同じか、裏面W3よりも少し大きく形成されていることが好ましい。
また、保護層100Bは、シートの面方向において、第1シート10よりも小さく形成されていることが好ましい。第1シート10の第1粘着剤層12のうち保護層100Bが積層されていない部分には、リングフレーム等の治具を貼付できる。
本実施形態に係る保護層100Bは、単層からなる。なお、保護層100Bは、複数の層が積層されてなるシートでもよい。光線透過率の制御の容易性および製造コストの観点においては、保護層100Bは、単層からなることが好ましい。
保護層100Bの厚さは、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。保護層100Bの厚さは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
保護層100Bとしては、例えば、保護膜、及び保護シートが挙げられる。保護層100Bとしては、例えば、第1実施形態において説明した保護層100と同様の保護層でもよい。また、保護層100Bの別の好ましい態様について後述する。
【0220】
(第1シート)
複合シート140における第1シート10は、保護層100Bを支持する部材である。第1シート10は、保護層100Bを支持できれば、その構成材料は特に限定されない。
複合シート140における第1シート10は、第1粘着剤層12と第1基材11とを有する。第1シート10は、第1実施形態の第1シート10と同様である。
本実施形態においては、第1シート10が保護層100Bから剥離可能な材質等で構成されている場合、保護層100Bを半導体チップCPの裏面W3に残したまま第1シート10を剥離することもできる。
【0221】
[複合シートの貼着工程]
図8Bは、工程(PY1)を説明するための図である。図8Bには、第1シート10及び保護層100Bを有する複合シート140が貼着された半導体ウエハWが記載されている。本実施形態における半導体ウエハWも、バックグラインド工程を経ることにより得られたウエハであることが好ましい。この工程(PY1)を複合シートの貼着工程と称する場合がある。
後述するように、工程(PY2)において、半導体ウエハWは、ダイシングにより複数の半導体チップCPに個片化される。本実施形態では、半導体ウエハWをダイシングする際に、半導体ウエハWを保持するために、裏面W3に複合シート140を貼着する。半導体ウエハWは、裏面W3を複合シート140の保護層100Bに向けて貼着される。保護層100Bは、裏面W3と略同形状に形成されているため、裏面W3を覆うことができる。本実施形態では、半導体ウエハWと第1シート10との間に保護層100Bが挟持されている。
【0222】
本実施形態では、回路面W1が露出した状態でプロセスを進める態様を例に挙げて説明するが、その他の態様の例としては、例えば、回路面W1に保護層100Bとは別の保護シート又は保護膜等の保護部材が貼着された状態でプロセスを進める態様が挙げられる。
【0223】
なお、裏面W3に第1シート10及び保護層100Bを貼着する工程は、積層型の複合シート140を用いる態様に限定されず、例えば、半導体ウエハWの裏面W3に保護層100Bを貼着した後に、第1シート10を保護層100Bに貼り合わせる態様でもよい。
【0224】
[ダイシング工程]
図8Cは、工程(PY2)を説明するための図である。工程(PY2)をダイシング工程と称する場合がある。図8Cには、第1シート10に保持された複数の半導体チップCPが示されている。
裏面W3に第1シート10及び保護層100Bが貼着された状態の半導体ウエハWは、ダイシングにより個片化され、複数の半導体チップCPが形成される。
本実施形態では、回路面W1側から切込みを入れて、半導体ウエハWを切断し、さらに保護層100Bを切断し、さらに第1粘着剤層12まで切込みを到達させる。このダイシングによって、保護層100Bも半導体チップCPと同じサイズに切断される。
ダイシングの際の切断深さは、半導体ウエハW及び保護層100Bを個片化できる深さであれば特に限定されない。本実施形態では、第1基材11まで切込みを入れない態様を例に挙げて説明するが、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、別の実施形態においては、半導体ウエハW及び保護層100Bをより確実に切断するという観点から、ダイシングによって、第1基材11に到達するまでの深さで切込みを形成してもよい。また、第1粘着剤層12まで切込みを到達させずに、保護層100Bを切断してもよい。
【0225】
本実施形態では、ダイシング工程によって、半導体チップCPの裏面W3側において、複数の半導体チップCPと第1シート10の第1粘着剤層12との間に個片化された保護層100Bが介在した積層構造が得られる。
【0226】
[エキスパンド工程]
図9は、工程(PY3)を説明するための図である。工程(PY3)をエキスパンド工程と称する場合がある。図9には、ダイシング工程の後に、第1シート10を伸張させて、複数の半導体チップCPの間隔を拡げた状態が示されている。
本実施形態におけるエキスパンド工程においても、第1シート10を引き延ばす方法は、第1実施形態と同様である。本実施形態においても、複数の半導体チップCPの間隔D1は、半導体チップCPのサイズに依存するため、特に制限されない。隣り合う半導体チップCPの相互の間隔D1は、200μm以上であることが好ましい。なお、当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、特に制限されない。当該半導体チップCPの相互の間隔の上限は、例えば、6000μmであってもよい。
【0227】
[転写工程、封止工程及びその他の工程]
本実施形態においても、第1実施形態又は第2実施形態と同様、転写工程、封止工程、並びにその他の工程(再配線層形成工程及び外部端子電極との接続工程)を実施してもよい。
【0228】
(保護層)
保護層100Bの一態様においては、未硬化の硬化性接着剤から形成されることが好ましい。この場合、保護層100Bに半導体ウエハW等の加工対象物(ワーク)を重ね合わせた後、保護層100Bを硬化させることにより、保護層100Bの硬化物(保護膜)を加工対象物に強固に接着することができ、半導体チップCP等の半導体装置に対して、耐久性を有する保護膜を形成できる。
【0229】
保護層100Bは、常温で粘着性を有するか、加熱により粘着性を発揮することが好ましい。これにより、上記のように保護層100Bに半導体ウエハW等の加工対象物を重ね合わせるときに、両者を貼合させることができる。したがって、保護層100Bを硬化させる前に位置決めを確実に行うことができる。
【0230】
上記のような特性を有する保護層100Bを構成する硬化性接着剤は、硬化性成分とバインダーポリマー成分とを含有することが好ましい。硬化性成分としては、熱硬化性成分、エネルギー線硬化性成分、または、これらの混合物を用いることができるが、熱硬化性成分を用いることが特に好ましい。すなわち、保護層100Bは、熱硬化性接着剤から構成されることが好ましい。
【0231】
熱硬化性成分としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等、および、これらの混合物が挙げられる。これらの中でも、熱硬化性成分として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0232】
エポキシ樹脂は、加熱を受けると三次元網状化し、強固な被膜を形成する性質を有する。このようなエポキシ樹脂としては、従来より公知の種々のエポキシ樹脂が用いられる。通常は、数平均分子量300~2000程度のエポキシ樹脂が好ましく、数平均分子量300~500のエポキシ樹脂がより好ましい。さらには、数平均分子量330~400の常態で液状のエポキシ樹脂と、数平均分子量400~2500(好ましくは、数平均分子量500~2000)の常温で固体のエポキシ樹脂とをブレンドしたブレンド型のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、50g/eq~5000g/eqであることが好ましい。また、エポキシ樹脂の数平均分子量は、GPC法を用いた方法で求めることができる。
【0233】
このようなエポキシ樹脂としては、具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェニルノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレート等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等のように、分子内の炭素-炭素二重結合を、例えば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。その他、例えば、ビフェニル骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、及びナフタレン骨格からなる群から選択される少なくとも1種の骨格を有するエポキシ樹脂を用いることもできる。
【0234】
これらエポキシ樹脂の具体例の中でも、エポキシ樹脂として、ビスフェノール系グリシジル型エポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、および、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。これらエポキシ樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0235】
エポキシ樹脂を用いる場合には、助剤として、熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤を併用することが好ましい。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤とは、室温ではエポキシ樹脂と反応せず、ある温度以上の加熱により活性化し、エポキシ樹脂と反応するタイプの硬化剤である。熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の活性化方法には、加熱による化学反応で活性種(アニオン、カチオン)を生成する方法;室温付近ではエポキシ樹脂中に安定に分散しており高温でエポキシ樹脂と相溶・溶解し、硬化反応を開始する方法;モレキュラーシーブ封入タイプの硬化剤で、高温で溶出して硬化反応を開始する方法;マイクロカプセルによる方法等が存在する。
【0236】
熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤の具体例としては、各種オニウム塩や、二塩基酸ジヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、アミンアダクト硬化剤、イミダゾール化合物等の高融点活性水素化合物等を挙げることができる。これら熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。上記のような熱活性型潜在性エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上20重量部以下、より好ましくは0.2重量部以上10重量部以下、さらに好ましくは0.3重量部以上5重量部以下の割合で用いられる。
【0237】
フェノール系樹脂としては、アルキルフェノール、多価フェノール、ナフトール等のフェノール類とアルデヒド類との縮合物などが特に制限されることなく用いられる。具体的には、例えば、フェノールノボラック樹脂、o-クレゾールノボラック樹脂、p-クレゾールノボラック樹脂、t-ブチルフェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンクレゾール樹脂、ポリパラビニルフェノール樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、あるいはこれらの変性物等が用いられる。
【0238】
これらのフェノール系樹脂に含まれるフェノール性水酸基は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基と、加熱により容易に付加反応して、耐衝撃性の高い硬化物を形成することができる。このため、熱硬化性成分として、エポキシ樹脂とフェノール系樹脂とを併用してもよい。
【0239】
バインダーポリマー成分は、保護層100Bに適度なタックを与えることができる。バインダーポリマーの重量平均分子量(Mw)は、通常は、5万以上、200万以下であり、好ましくは10万以上、150万以下であり、より好ましくは20万以上、100万以下の範囲にある。分子量が低過ぎると、保護層100Bのフィルム形成が不十分となり、高過ぎると他の成分との相溶性が悪くなることから、結果として均一なフィルム形成が妨げられる。このようなバインダーポリマー成分としては、例えば、アクリル系ポリマー、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、及びゴム系ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が用いられ、特にアクリル系ポリマーが好ましく用いられる。
【0240】
アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸誘導体から導かれる構成単位とからなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、好ましくはアルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が用いられる。また、(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0241】
上記の中でも、メタクリル酸グリシジル等を構成単位として用いてアクリル系ポリマーにグリシジル基を導入すると、前述した熱硬化性成分としてのエポキシ樹脂との相溶性が向上し、保護層100Bの硬化後のガラス転移温度(Tg)が高くなり、耐熱性が向上する。また、上記の中でも、アクリル酸ヒドロキシエチル等を構成単位として用いてアクリル系ポリマーに水酸基を導入すると、加工対象物への密着性や粘着物性をコントロールすることができる。
【0242】
バインダーポリマーとしてアクリル系ポリマーを使用した場合における前記ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万以上であり、より好ましくは15万以上100万以下である。アクリル系ポリマーのガラス転移温度は、通常は20℃以下、好ましくは-70℃~0℃程度であり、アクリル系ポリマーは、常温(23℃)においては粘着性を有する。
【0243】
熱硬化性成分とバインダーポリマー成分との配合比率は、バインダーポリマー成分100重量部に対して、熱硬化性成分を、好ましくは50重量部以上1500重量部以下、より好ましくは70重量部以上1000重量部以下、さらに好ましくは80重量部以上800重量部以下配合することが好ましい。このような割合で熱硬化性成分とバインダーポリマー成分とを配合すると、硬化前には適度なタックを示し、貼付作業を安定して行うことができ、また硬化後には、被膜強度に優れた保護膜が得られる。
【0244】
保護層100Bは、着色剤およびフィラーの少なくともいずれかを含有することが好ましく、特に着色剤およびフィラーの両者を含有することが好ましい。
【0245】
着色剤としては、例えば、無機系顔料、有機系顔料、有機系染料など公知の着色剤を使用できるが、光線透過率の制御性を高める観点から、着色剤は有機系の着色剤を含有することが好ましい。着色剤の化学的安定性(具体的には、溶出しにくさ、色移りの生じにくさ、経時変化の少なさが例示される。)を高める観点から、着色剤は顔料からなることが好ましい。
【0246】
フィラーとしては、例えば、結晶シリカ、溶融シリカ、合成シリカ等のシリカや、アルミナ、ガラスバルーン等の無機フィラーが挙げられる。これら無機フィラーの中でも、フィラーとしては、シリカが好ましく、合成シリカがより好ましく、半導体装置の誤作動の要因となるα線の線源を極力除去したタイプの合成シリカが好ましい。フィラーの形状としては、球形、針状、不定形等が挙げられるが、球形であることが好ましく、真球形であることがより好ましい。
【0247】
また、保護層100Bは、カップリング剤を含有してもよい。カップリング剤を含有することにより、保護層100Bの硬化後において、保護膜の耐熱性を損なわずに、保護膜と加工対象物との接着性・密着性を向上させることができるとともに、耐水性(耐湿熱性)を向上させることができる。カップリング剤としては、その汎用性とコストメリットなどからシランカップリング剤が好ましい。
【0248】
シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-6-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。シランカップリング剤としては、これらシランカップリング剤のうちの1種を単独で、または2種以上混合して使用できる。
【0249】
保護層100Bは、硬化前の凝集力を調節するために、有機多価イソシアナート化合物、有機多価イミン化合物、有機金属キレート化合物等の架橋剤を含有してもよい。また、保護層100Bは、静電気を抑制し、チップの信頼性を向上させるために、帯電防止剤を含有してもよい。さらに、保護層100Bは、保護膜の難燃性能を高め、パッケージとしての信頼性を向上させるために、リン酸化合物、ブロム化合物、リン系化合物等の難燃剤を含有してもよい。
【0250】
保護層100Bの厚さは、特に限定されない。保護層100Bを硬化させて保護膜として用いる場合、保護膜としての機能を効果的に発揮させるために、保護層100Bの厚さは、3μm以上、300μm以下であることが好ましく、5μm以上、200μm以下であることがより好ましく、7μm以上、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0251】
[本実施形態に係る効果]
本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、第1シート10を伸張させる際に、半導体チップCPの裏面W3は、第1シート10の第1粘着剤層12と接していない。半導体チップCPのそれぞれにおいては、裏面W3と第1粘着剤層12との間にダイシング工程で個片化された保護層100Bが介在しているため、第1シート10を伸張させても裏面W3に接している保護層100Bは、引き延ばされない。その結果、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、糊残りを抑制できる。
また、本実施形態においては、保護層100Bが、半導体ウエハWの裏面W3と略同形状であり、ダイシングによって半導体ウエハWの端部側に由来して形成された半導体チップCP(外周側の半導体チップ)の裏面W3についても保護層100Bが個片化されるため、半導体チップCP同士の間隔を十分に拡張できる。
【0252】
また、本実施形態においては、ダイシング工程の際に、半導体ウエハWをダイシングシートで支持するのではなく、第1シート10及び保護層100Bを有する複合シート140で支持する。そのため、ダイシング後の半導体チップCPの裏面W3を保護するための層(本実施形態では保護層100B)を形成するために、ダイシング工程で用いる粘着シートから、別の粘着シートへと貼り替える工程を実施しなくてもよく、プロセスを簡略化できる。
さらに、エキスパンド工程を実施する前に、ダイシング工程を実施した際に用いた粘着シートから、エキスパンド工程用の粘着シートへと貼り替える必要がない。
したがって、本実施形態に係るエキスパンド方法によれば、従来に比べてプロセスを簡略化し、かつ、チップ同士の間隔を充分に拡張しつつ、糊残りを抑制できる。
さらには、本実施形態に係るエキスパンド方法を含む半導体装置の製造方法を提供できる。
【0253】
[実施形態の変形]
本発明は、上述の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲で、上述の実施形態を変形した態様等を含む。
【0254】
例えば、半導体ウエハや半導体チップにおける回路等は、図示した配列や形状等に限定されない。半導体パッケージにおける外部端子電極との接続構造等も、前述の実施形態で説明した態様に限定されない。前述の実施形態では、FO-WLPタイプの半導体パッケージを製造する態様を例に挙げて説明したが、本発明は、ファンイン型のWLP等のその他の半導体パッケージを製造する態様にも適用できる。
【0255】
上述したFO-WLPの製造方法は、一部の工程を変更したり、一部の工程を省略したりしてもよい。
【0256】
ダイシング工程におけるダイシングは、上述の切断手段を用いる代わりに、半導体ウエハに対してレーザ光を照射して行ってもよい。例えば、レーザ光の照射により、半導体ウエハを完全に分断し、複数の半導体チップに個片化してもよい。これらの方法においては、レーザ光の照射は、半導体ウエハのいずれの側から行ってもよい。
【0257】
第2実施形態においては、複合シート130として、保護層100Aと第3シート30とを有する態様、又は保護層100Aが第3粘着剤層であり、第3シート30が第3基材である態様を例に挙げて説明したが、本発明はこれらの態様に限定されない。例えば、第3粘着剤層と第3基材との間に剥離層を有する粘着シートであってもよい。剥離層は、第1実施形態の説明中の剥離シートと同様の材料を用いて構成されることが好ましい。
【実施例
【0258】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0259】
(粘着シートの作製)
[実施例1]
ブチルアクリレート(BA)62質量部、メタクリル酸メチル(MMA)10質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)28質量部を共重合してアクリル系共重合体を得た。このアクリル系共重合体に対して、2-イソシアナートエチルメタクリレート(昭和電工株式会社製、製品名「カレンズMOI」(登録商標))を付加した樹脂(アクリルA)の溶液(粘着剤主剤、固形分35.0質量%)を調製した。付加率は、アクリル系共重合体の2HEA100モル%に対して、2-イソシアナートエチルメタクリレートを90モル%とした。
得られた樹脂(アクリルA)の重量平均分子量(Mw)は、60万、Mw/Mnは4.5であった。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mw、及び数平均分子量Mnを測定し、それぞれの測定値から分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
この粘着剤主剤に、UV樹脂A(10官能ウレタンアクリレート、三菱ケミカル株式会社製、製品名「UV-5806」、Mw=1740、光重合開始剤を含む。)、及び架橋剤としてのトリレンジイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製、製品名「コロネートL」)を添加した。粘着剤主剤中の固形分100質量部に対して、UV樹脂Aを50質量部添加し、架橋剤を0.2質量部添加した。添加後、30分間攪拌して、粘着剤組成物A1を調製した。
次いで、調製した粘着剤組成物A1の溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)系剥離フィルム(リンテック株式会社製、製品名「SP-PET381031」、厚さ38μm)に塗布して乾燥させ、厚さ40μmの粘着剤層を剥離フィルム上に形成した。
当該粘着剤層に、基材としてのポリエステル系ポリウレタンエラストマーシート(シーダム株式会社製,製品名「ハイグレスDUS202」,厚さ100μm)を貼り合わせた後、幅方向における端部の不要部分を裁断除去して粘着シートSA1を作製した。
【0260】
(チップ間隔の測定方法)
実施例1で得られた粘着シートを210mm×210mmに切断し試験用シートを得た。このとき、裁断後のシートの各辺が、粘着シートにおける基材のMD方向と平行または垂直となるように裁断した。
粘着シートに貼着する半導体チップを次に示す手順により準備した。保護層としてのシート(実施例において、保護シートと称する場合がある。)を6インチシリコンウエハに貼着した。保護シートとしてリンテック株式会社製の「E-3125KL」(製品名)を用いた。次に、保護シート側から6インチシリコンウエハをダイシングして、3mm×3mmのサイズのチップがX軸方向に5列、及びY軸方向に5列となるように、計25個のチップを切り出した。チップのそれぞれには、ダイシングされた保護シートが貼着していた。
試験用シートの剥離フィルムを剥離し、露出した粘着剤層の中心部に、上述の通り切り出した計25個のチップの保護シート側を貼付した。このとき、チップがX軸方向に5列、及びY軸方向に5列で並んでいた。
【0261】
次に、チップが貼付された試験用シートを、2軸延伸可能なエキスパンド装置(離間装置)に設置した。図10には、当該エキスパンド装置400を説明する平面図が示される。図10中、X軸及びY軸は、互いに直交する関係にあり、当該X軸の正の方向を+X軸方向、当該X軸の負の方向を-X軸方向、当該Y軸の正の方向を+Y軸方向、当該Y軸の負の方向を-Y軸方向とする。試験用シート500は、各辺がX軸またはY軸と平行となるように、エキスパンド装置400に設置した。その結果、試験用シート500における基材のMD方向は、X軸またはY軸と平行となる。なお、図10中、チップは省略されている。
【0262】
図10に示されるように、エキスパンド装置400は、+X軸方向、-X軸方向、+Y軸方向及び-Y軸方向のそれぞれに5つの保持手段401(計20個の保持手段401)を備える。各方向における5つの保持手段401のうち、保持手段401Aは、両端に位置し、保持手段401Cは、中央に位置し、保持手段401Bは、保持手段401Aと保持手段401Cとの間に位置する。試験用シート500の各辺を、これらの保持手段401によって把持させた。
【0263】
ここで、図10に示されるように、試験用シート500の一辺は210mmである。また、各辺における保持手段401同士の間隔は40mmである。また、試験用シート500の一辺における端部(シートの頂点)と、当該辺に存在し、当該端部に最も近い保持手段401Aとの間隔は25mmである。
【0264】
続いて、保持手段401のそれぞれに対応する、図示されていない複数の張力付与手段を駆動させて、保持手段401をそれぞれ独立に移動させた。試験用シートの四辺をつかみ治具で固定し、X軸方向、及びY軸方向にそれぞれ5mm/sの速度で、200mmの拡張量で試験用シートをエキスパンドした。その後、リングフレームにより試験用シート500の拡張状態を保持した。
拡張状態を保持した状態で、各チップ間の距離をデジタル顕微鏡で測定し、各チップ間の距離の平均値をチップ間隔とした。
チップ間隔が1800μm以上であれば合格「A」と判定し、チップ間隔が1800μm未満であれば不合格「B」と判定した。
【0265】
(チップ整列性の測定方法)
上記チップ間隔を測定したワークのX軸及びY軸方向の隣り合うチップの中心線からのズレ率を測定した。
図11に具体的な測定方法の概略図を示す。
X軸方向に5個のチップが並んだ一つの列を選び、当該列の中で、チップの最上端と、チップの最下端との距離Dyをデジタル顕微鏡で測定した。Y軸方向のズレ率は、下記数式(数3)に基づいて算出した。Syは、Y軸方向のチップサイズであり、本実施例では、3mmとした。
Y軸方向のズレ率[%]=[(Dy-Sy)/2]/Sy×100…(数3)
X軸方向に5個のチップが並んだその他の4列についても、同様にしてY軸方向のズレ率を算出した。
Y軸方向に5個のチップが並んだ一つの列を選び、当該列の中で、チップの最左端と、チップの最右端との距離Dxをデジタル顕微鏡で測定した。X軸方向のズレ率は、下記数式(数4)に基づいて算出した。Sxは、X軸方向のチップサイズであり、本実施例では、3mmとした。
X軸方向のズレ率[%]=[(Dx-Sx)/2]/Sx×100…(数4)
Y軸方向に5個のチップが並んだその他の4列についても、同様にしてX軸方向のズレ率を算出した。
数式(数3)及び(数4)において、2で除するのは、拡張後におけるチップの所定位置からずれた最大距離を絶対値にて表現するためである。
X軸方向及びY軸方向のすべての列(計10列)において、ズレ率が±10%未満の場合を合格「A」と判定し、1つ以上の列において±10%以上であれば不合格「B」と判定した。
【0266】
(糊残りの評価方法)
前述のチップ間隔の測定方法に記載の条件でエキスパンド後、紫外線照射装置(リンテック株式会社製「RAD-2000 m/12」)を用いて、実施例1に係る粘着シートのチップが搭載されている面とは反対側の面から照度220mW/cm、光量460mJ/cmの条件で紫外線照射した。紫外線照射の後、チップを吸着テーブルに保持し、粘着シートを剥離した。粘着シートを剥離した後、粘着シートが貼着されていたチップ表面を光学顕微鏡で観察した。チップ表面に糊残りが観察されなかった場合を合格「A」と判定し、糊残りが観察された場合を不合格「B」と判定した。
【0267】
実施例1に係る粘着シートを用いてエキスパンドしたところ、チップ間隔の評価結果が合格「A」判定であり、チップ整列性の評価結果が合格「A」判定であった。
チップと実施例に係る粘着シートとの間に保護シートを介在させて粘着シートをエキスパンドしたところ、チップ表面の糊残り評価結果が合格「A」判定であった。
【符号の説明】
【0268】
10…第1シート、100、100A、100B…保護層、11…第1基材、12…第1粘着剤層、130、140…複合シート、20…第2粘着シート、W…半導体ウエハ(加工対象物)、W1…回路面(第1半導体装置面)、W3…裏面(第2半導体装置面)。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11