(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】エンジンの診断装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241204BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20241204BHJP
F02P 5/152 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D45/00 368A
F02D41/22
F02P5/152
(21)【出願番号】P 2021020164
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晃志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】飯島 克典
(72)【発明者】
【氏名】矢島 健一
(72)【発明者】
【氏名】本郷 謙二
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034500(JP,A)
【文献】特開2010-210121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
F02P 5/152
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノック検出センサからの信号に基づいてノックを検出するノック検出部と、
前記ノック検出部でノックが検出された場合の点火時期リタード量を読込み、該点火時期リタード量の積分値であるリタード量積分値を算出
し、前記ノック検出部でノックが検出されなかった場合に該リタード量積分値をクリアするリタード量積分値演算部と、
エンジンの劣化度合いの因子であるパラメータを累積して累積パラメータを算出する累積パラメータ演算部と、
前記累積パラメータ演算部で算出した前記累積パラメータに基づいて異常燃焼判定しきい値を設定する異常燃焼判定しきい値設定部と、
前記リタード量積分値演算部で算出した前記リタード量積分値と前記異常燃焼判定しきい値設定部で設定した前記異常燃焼判定しきい値とを比較してエンジンの燃焼が異常か否かを判定する異常燃焼判定部と
を備えるエンジンの診断装置において、
前記異常燃焼判定しきい値設定部
は、前記累積パラメータと予め設定されている劣化判定しきい値とを比較して該累積パラメータが該劣化判定しきい値を越えていない場合、前記異常燃焼判定しきい値を予め設定されている基準値で設定し、又該累積パラメータが該劣化判定しきい値を超えており、且つ前記リタード量積分値演算部で算出した前記リタード量積分値が前記異常燃焼判定しきい値設定部で設定した前記異常燃焼判定しきい値を超えていない場合は、前記異常燃焼判定しきい値を
前記基準値よりも絶対値で高い値に設定する
ことを特徴とするエンジンの診断装置。
【請求項2】
前記累積パラメータ演算部で算出する前記累積パラメータは、前記リタード量積分値演算部でノック検出時に算出した前記リタード量積分値を累積した累積リタード量積分値である
ことを特徴とする請求項1記載のエンジンの診断装置。
【請求項3】
前記累積パラメータ演算部で算出する前記累積パラメータは、累積走行距離である
ことを特徴とする請求項1記載のエンジンの診断装置。
【請求項4】
前記リタード量積分値演算部で算出する前記リタード量積分値は、前記ノック検出部でノックが検出されなかった場合はクリアされる
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のエンジンの診断装置。
【請求項5】
前記異常燃焼判定部でエンジンの燃焼が異常と判定された場合、異常燃焼気筒に対する燃料を増量させる
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のエンジンの診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの異常燃焼を、劣化度合いに応じて適正に判定できるようにしたエンジンの診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの点火時期は、トレースノック制御やMBT(Minimum advance for the Best Torque)制御等をエンジン負荷に応じて実行すること最適に設定される。エンジンの点火時期がノック限界を超えて進角されると燃焼室内(筒内)でノックが発生し易くなるため、ノックセンサがノックを検出した際には点火時期を直ちに遅角補正し、ノックを回避する必要がある。
【0003】
筒内での燃焼が正常であれば、ノックセンサがノックを検出した際に、点火時期を数deg程度、遅角(リタード)させれば、ノックが回避され、直ちに正常な燃焼に復帰させることができる。
【0004】
しかし、燃料の性状が粗悪であったり、点火系の故障(点火コイル端子摩耗による電流瞬断等)や空燃比センサの劣化による実空燃比との乖離が生じたりした場合、点火時期が正常に制御されなくなる。その結果、ノックセンサが異常燃焼によるノックを検出した際に、点火時期を数deg遅角させたとしても、ノックの発生を有効に回避することが困難となる。更に、点火時期のリタードにより、連続して後燃え状態となり、排気温度を異常に上昇させてしまう不具合が生じ易くなる。
【0005】
この対策として、例えば、特許文献1(特許第4262260号公報)には、点火時期の遅角量を積算し、予め設定したしきい値と比較して、遅角量の積算値がしきい値を超えた場合、エンジンの燃費悪化異常と判定し、異常回復処理を行うようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジンの劣化が進行した場合、ノックによるエンジン故障の確率は次第に高くなる。しかし、上述した文献に開示されている技術では、エンジンの劣化度合いに関係なく、遅角量の積算値と予め設定したしきい値とを比較して、異常判定を一義的に行うようにしているため、エンジンの劣化度合いに応じた異常判定を適正に行うことが困難となる場合が生じる不都合がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、エンジンの異常燃焼を、エンジンの劣化度合いに応じて適正に判定できるようにしたエンジンの診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ノック検出センサからの信号に基づいてノックを検出するノック検出部と、
前記ノック検出部でノックが検出された場合の点火時期リタード量を読込み、該点火時期リタード量の積分値であるリタード量積分値を算出し、前記ノック検出部でノックが検出されなかった場合に該リタード量積分値クリアするリタード量積分値演算部と、エンジンの劣化度合いの因子であるパラメータを累積して累積パラメータを算出する累積パラメータ演算部と、前記累積パラメータ演算部で算出した前記累積パラメータに基づいて異常燃焼判定しきい値を設定する異常燃焼判定しきい値設定部と、前記リタード量積分値演算部で算出した前記リタード量積分値と前記異常燃焼判定しきい値設定部で設定した前記異常燃焼判定しきい値とを比較してエンジンの燃焼が異常か否かを判定する異常燃焼判定部とを備えるエンジンの診断装置において、前記異常燃焼判定しきい値設定部は、前記累積パラメータと予め設定されている劣化判定しきい値とを比較して該累積パラメータが該劣化判定しきい値を越えていない場合、前記異常燃焼判定しきい値を予め設定されている基準値で設定し、又該累積パラメータが該劣化判定しきい値を超えており、且つ前記リタード量積分値演算部で算出した前記リタード量積分値が前記異常燃焼判定しきい値設定部で設定した前記異常燃焼判定しきい値を超えていない場合は、前記異常燃焼判定しきい値を前記基準値よりも絶対値で高い値に設定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンジンの劣化度合いの因子であるパラメータを累積して算出した累積パラメータに基づいて異常燃焼判定しきい値を設定し、この異常燃焼判定しきい値とノックを検出した際に読込んだ点火時期リタード量を積分値したリタード量積分値とを比較してエンジンの燃焼が異常か否かを判定するに際し、累積パラメータと予め設定されている劣化判定しきい値とを比較して、累積パラメータが該劣化判定しきい値を超えており、且つリタード量積分値が異常燃焼判定しきい値を超えていない場合は、異常燃焼判定しきい値を高い値に設定するようにしたので、エンジンの異常燃焼を、エンジンの劣化度合いに応じて適正に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】ノックセンサ出力値とノック判定しきい値との関係を示すタイムチャート
【
図4】(a)は全負荷でのエンジン回転数の変化を示すタイムチャート、(b)ノックを検出した際の点火時期リタード量の変化を示すタイムチャート、(c)はリタード量積分値、及び累積リタード量積分値の変化を示すタイムチャート、(d)はチェックエンジンフラグの切り替わりを示すタイムチャート、(e)は点火進角度の変化を示すタイムチャート
【
図5】変形例による劣化診断ルーチンを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
図1に示すエンジンの診断装置1は異常燃焼診断部11を有している。この異常燃焼診断部11は、周知のCPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを備えるマイクロコンピュータ、及びその周辺機器で構成されている。
【0013】
又、この異常燃焼診断部11の入力側にノック検出部としてのノックセンサ21が接続されていると共に、図示しない点火制御ユニット側で求めた点火時期リタード量データと、コンビネーションメータ制御ユニット側で求めてオドメータに表示させる累積走行距離データとが入力される。一方、異常燃焼診断部11の出力側に、燃料噴射装置31、チェックエンジンランプ32、及び外部接続コネクタ33が接続されている。尚、ノックセンサ21は点火時期制御ユニットと共用している。
【0014】
異常燃焼診断部11は、ノックセンサ21でノックが検出された際に、図示しない点火時期制御ユニットで求めた、負の符号を付した点火時期リタード量-RETを読込み、それを演算周期で積分して、負の符号を付したリタード量積分値-SRETを求める(-SRET←-SRET-RET)。このリタード量積分値-SRETは、後述する劣化診断ルーチンのステップS9において、異常燃焼判定しきい値-SREOと、ノックが検出された都度に比較される。
【0015】
ところで、点火時期制御ユニットでは、後述するように、
図3に示すようなノックセンサ21からの信号に基づいて、ノックの強度や頻度が予め設定されているノック判定しきい値以内に収まる範囲で点火時期を進角(アドバンス)側へフィードフォワード制御し、ノック判定しきい値を超えるノックが検出された場合には、点火時期を可及的に所定角度リタードさせる、いわゆるトレースノック制御が行われている。従って、異常燃焼診断部11は、ノック発生の情報を点火時期制御ユニットから取得するようにしてもよい。
【0016】
一方、演算時においてノックセンサ21でノックが検出されなかった場合はリタード量積分値-SRETをクリアする(-SRET←0)。又、このリタード量積分値-SRETが劣化判定しきい値-SREOを超えた場合(-SRET≦-SREO)、エンジンの劣化による異常燃焼と判定する。
【0017】
異常燃焼診断部11がエンジンの劣化による異常燃焼と判定した場合、燃料噴射装置31に対し、燃料増量信号を送信し、対象気筒に噴射する燃料を一時的に増量させ、その気化熱で筒内を燃料冷却させる。そして、コンビネーションメータ等に配設されているチェックエンジンランプ32を点灯或いは点滅させて、運転者に異常燃焼を報知すると共に、不揮発性メモリにエンジンの劣化による異常燃焼を示すトラブルコードを記憶させる。
【0018】
一方、外部接続コネクタ33には、ディーラにおいて故障診断装置34が接続され、異常燃焼診断部11の不揮発性メモリに記憶されているトラブルコードを読み取ることで、作業者に不具合の原因を把握させる。
【0019】
上述した異常燃焼診断部11で実行するエンジンの劣化診断は、具体的には、
図2に示す劣化診断ルーチンに従って実行される。このルーチンでは、先ず、ステップS1で、ノックセンサ21で検出した出力値(ノックセンサ出力値)を読込み、ステップS2でノックが検出されたか否かを調べる。
図3にノックセンサ出力値を示す。ノックセンサ21は圧電素子等で構成されており、エンジンブロックに取付けられて、エンジンブロックの振動波形を検出する。異常燃焼診断部11はノックセンサ21で検出した振動波形と予め設定したノック判定しきい値とを比較し、振動波形の振幅がノック判定しきい値を超えた場合、ノック検出と判定する。
【0020】
そして、異常燃焼診断部11がノック検出と判定した場合、ステップS3へ進み、点火時期制御ユニットで求めた、負の符号が付されたリタード量-RETを読込み、ステップS5へ進む。又、ノックセンサ出力値がノック判定しきい値以内の場合は、ノックが発生していないと判定し、ステップS4へ分岐し、リタード量積分値-SRETをクリアして(-SRET←0)、ルーチンを抜ける。尚、このリタード量積分値-SRETは、後述するステップS5で算出される。
【0021】
ステップS5へ進むと、ステップS3で読込んだリタード量-RETを積分して、負の符号を付したリタード量積分値-SRETを求め(-SRET←-SRET-RET)、ステップS6へ進む。尚、このステップS3,S5での処理が、本発明のリタード量積分値演算部に対応している。又、このリタード量-RETがエンジンの劣化度合いの因子であるパラメータに対応している。
【0022】
ステップS6では、ステップS5で求めたリタード量積分値-SRETを累積した累積リタード量積分値-TSRETを求める(-TSRET←-TSRET-SRET)。尚、このステップS6での処理が、本発明の累積パラメータ演算部に対応しており、累積リタード量積分値-TSRETが累積パラメータに対応している。
【0023】
次いで、ステップS7へ進み、累積リタード量積分値-TSRETと劣化判定しきい値-TSREOとを比較する。この劣化判定しきい値-TSREOは、エンジンの劣化を推定する値であり、予め実験などから求めて設定されている。
【0024】
エンジンの劣化度合いが進行するとノックによる故障が発生し易くなる。そのため、累積リタード量積分値-TSRETが劣化判定しきい値-TSREOを超えたか否かで、後述する異常燃焼判定しきい値-SREOを可変する。因みに、本実施形態では、-TSREO=-800~-1500[deg・sec]程度の値に設定している。
【0025】
そして、累積リタード量積分値-TSRETが劣化判定しきい値-TSREOに達していない場合(-TSRET>-TSREO)、ステップS8へ分岐し、異常燃焼判定しきい値-SREOを基準レベル判定値-SRES(
図4(c)参照)で設定して(-SREO←-SRES)、ステップS9へ進む。一方、累積リタード量積分値-TSRETが劣化判定しきい値-TSREOに達した場合(-TSRET≦-TSREO)、ステップS9へ進む。尚、本実施形態では、基準レベル判定値-SRESを-120[deg・sec]程度に設定している。
【0026】
その後、ステップS7、或いはステップS8からステップS9へ進むと、リタード量積分値-SRETと異常燃焼判定しきい値-SREOとを比較する。そして、-SRET>-SREOの場合、エンジンの燃焼状態は正常と判定し、ステップS10へ進む。又、-SRET≦-SREOの場合、ステップS12へ分岐する。尚、このステップS9での処理が、本発明の異常燃焼判定部に対応している。
【0027】
ステップS10へ進むと、異常燃焼判定しきい値-SREOを、基準レベル判定値-SRESよりも(絶対値の)高い、高レベル判定値-SREH(
図4(c)参照)で設定して(-SREO←-SREH)、ステップS11へ進む。エンジンの劣化が進行しても、基準レベル判定値-SRESで設定した異常燃焼判定しきい値-SRESを超えていない場合、ノックによる故障の発生する可能性が低いと判断し、異常燃焼判定しきい値-SREOを、基準レベル判定値-SRESよりも高い、高レベル判定値-SREHで設定する。これにより、エンジンの異常燃焼を、エンジンの劣化度合いに応じて適正に判定することができる。尚、本実施形態では、高レベル判定値-SREHを-150[deg・sec]程度に設定している。又、このステップS7,S8,S10での処理が、本発明の異常燃焼判定しきい値設定部に対応している。又、ステップS7,S8,S10での処理が、本発明の異常燃焼判定しきい値設定部に対応している。
【0028】
その後、ステップS10からステップS11へ進むと、チェックエンジンフラグFwをクリアして(Fw←0)、ルーチンを抜ける。
【0029】
又、ステップS9からステップS12へ進むと、燃料噴射装置31に対して燃料増量信号を送信して、ステップS13へ進む。これにより、燃料噴射装置31から異常燃焼と判定された気筒に対して噴射する燃料を増量させ、燃料冷却により筒内温度を低下させる。
【0030】
その後、ステップS13へ進むと、チェックエンジンフラグFwをセットして(Fw←0)、ステップS14へ進む。チェックエンジンフラグFwがセットされると、異常燃焼診断部11は、コンビネーションメータ等に配設されているチェックエンジンランプ32を点灯、或いは点滅させて運転者にエンジン異常を報知する。
【0031】
次いで、ステップS14へ進むと、エンジンの異常燃焼に対応するトラブルコードを、不揮発性メモリに記憶させて、ルーチンを抜ける。この不揮発性メモリに記憶されたトラブルコードは、ディーラにおいて故障診断装置34を外部接続コネクタ33に接続することで読み取られる。
【0032】
次に、
図4に示すタイムチャートを参照して、
図2に示す劣化診断ルーチンによるエンジンの劣化診断の一例について説明する。
図4(a)に示すように、高負荷高回転を一定時間継続させた際に、異常燃焼診断部11が、ノックセンサ出力値に基づいてノックを検出した場合、同図(b)に示すような点火時期制御ユニットで求めたリタード量-RETを読込む(S3)。
【0033】
すると、
図4(c)に細実線で示すように、このリタード量-RETを積分したリタード量積分値-SRETが設定されると共に(S5)、太実践で示す累積リタード量積分値-TSRETが設定される(S6)。その後、ノックが検出されなくなると、リタード量積分値-SRETはクリアされるが(S4)、累積リタード量積分値-TSRETは維持される。
【0034】
そして、リタード量積分値-SRETが劣化判定しきい値-SREOを下回った場合(S9)、異常燃焼と判定して、
図4(d)に示すようにチェックエンジンフラグFwをセットし(S13)、チェックエンジンランプ32を点灯、或いは点滅させる。
【0035】
又、異常燃焼判定しきい値-SREOは、
図4(c)に示すように、累積リタード量積分値-TSRETが劣化判定しきい値-TSREOに達するまでは、基準レベル判定値-SRESで設定され(S8)、累積リタード量積分値-TSRETが劣化判定しきい値-TSREOを超えた場合、高レベル判定値-SREHに設定される(S10)。尚、
図4(e)に、点火時期リタード量-ERTに同期する点火進角度[BTDCdeg]を示す。
【0036】
このように、本実施形態によれば、エンジンの劣化度合いの因子である累積リタード量積分値-TSRETが予め設定されている劣化判定しきい値-TSREOを超えても、リタード量積分値-SRETが、基準レベル判定値-SRESで設定した異常燃焼判定しきい値-SREOを超えない場合は、この異常燃焼判定しきい値-SREOを、基準レベル判定値-SRESよりも高い、高レベル判定値-SREHで設定するようにしたので、エンジンの劣化が進行した場合であってもエンジンの異常燃焼を適正に判定することができる。尚、異常燃焼判定しきい値-SREOが高レベル判定値-SREHで設定された後は、この異常燃焼判定しきい値-SREOが、基準レベル判定値-SRESに戻されることはない。
[変形例]
図5に本実施形態の変形例を示す。上述した実施形態では、異常燃焼判定しきい値-SREOを累積リタード量積分値-TSRETに応じて切換えているが、本実施形態では、異常燃焼判定しきい値-SREOを累積走行距離TDに応じて切換えている。
【0037】
すなわち、
図5のフローチャートに示すように、ステップS1~S5までは、
図2に示すフローチャートと同じ処理を実行し、ステップS5からステップS21へ進むと、コンビネーションメータ制御ユニット側で算出した自車両の累積走行距離TDを読込む。従って、このステップS21での処理が、本発明の累積パラメータ演算部に対応しており、累積走行距離TDが累積パラメータに対応している。
【0038】
そして、ステップS22で、累積走行距離TDと予め設定されている劣化判定しきい値DOとを比較する。この劣化判定しきい値DOは、エンジンの劣化を推定する値であり、予め実験などから求めて設定されている。因みに、本実施形態では、DO=40000~60000[Km]程度の距離に設定している。エンジンの劣化度合いは累積走行距離TDからおおよそ推定することができ、劣化が進行するとノックによる故障が発生し易くなる。この場合、逆に、累積走行距離TDが劣化判定しきい値DOを超えても、リタード量積分値-SRETが、基準レベル判定値-SRESで設定した異常燃焼判定しきい値-SREOを超えない場合は、ノックによる故障の発生する可能性が低いと判断することができる。
【0039】
そして、累積走行距離TDが劣化判定しきい値DOに達していない場合(TD<DO)、ステップS8へ進む。又、累積走行距離TDが劣化判定しきい値DOに達した場合(TD≧DO)、ステップS9へ分岐する。続く、ステップS8,S9以降においては、上述した
図2での処理と同様の処理を実行する。尚、このステップS22,S8,S10での処理が、本発明の異常燃焼判定しきい値設定部に対応している。
【0040】
このように、上述した変形例では、累積走行距離TDに基づいてエンジンの劣化度合いを推定するようにしているので、上述した実施形態に比し、比較的容易にエンジンの劣化度合いを推定することができる。
【0041】
尚、本発明は、上述した実施形態、及び変形例に限るものではなく、例えば、異常燃焼判定しきい値-SREOは、累積リタード量積分値-TSRET、或いは累積走行距離TDに応じて、より細分化した値で可変設定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…診断装置、
11…異常燃焼診断部、
21…ノックセンサ、
31…燃料噴射装置、
32…チェックエンジンランプ、
33…外部接続コネクタ、
DO…劣化判定しきい値、
Fw…チェックエンジンフラグ、
-RET…点火時期リタード量、
-SREH…高レベル判定値、
-SREO…異常燃焼判定しきい値、
-SRES…基準レベル判定値、
-SRET…リタード量積分値、
-TSREO…劣化判定しきい値、
-TSRET…累積リタード量積分値、
TD…累積走行距離