(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】機能性粘着組成物、機能性粘着フィルム及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C09J 121/00 20060101AFI20241204BHJP
C09J 123/22 20060101ALI20241204BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20241204BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241204BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C09J121/00
C09J123/22
C09J133/06
C09J7/38
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2021030619
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】浜岡 弘一
(72)【発明者】
【氏名】大谷 紀昭
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-132886(JP,A)
【文献】特開2019-157350(JP,A)
【文献】特開2018-150448(JP,A)
【文献】特開2000-355684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖結晶化ポリマーと、温度-1℃~40℃において流動性を有さない第1のゴム系樹脂と、温度-1℃~40℃において流動性を有する第2のゴム系樹脂と、粘着付与剤とを含む機能性粘着組成物であって、
前記第1のゴム系樹脂と前記第2のゴム系樹脂との含有割合が、質量比で8:2から4:6であり、
前記側鎖結晶化ポリマーの含有量が、前記第1のゴム系樹脂と前記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、1~20質量部であり、
前記粘着付与剤の含有量が、前記第1のゴム系樹脂と前記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、5~15質量部である機能性粘着組成物。
【請求項2】
前記側鎖結晶化ポリマーが、炭素数18以上のアルカン鎖を有する直鎖アクリレートと、溶解度パラメータが7.3~9.5のアクリル系モノマーとの共重合体であり、
前記側鎖結晶化ポリマーの重量平均分子量が、1000~15000である請求項1に記載の機能性粘着組成物。
【請求項3】
示差走査熱量測定法で測定した前記側鎖結晶化ポリマーの吸熱ピークが、50℃以上である請求項1又は2に記載の機能性粘着組成物。
【請求項4】
前記第1のゴム系樹脂及び前記第2のゴム系樹脂が、共にブチルゴム系樹脂である請求項1~3のいずれか1項に記載の機能性粘着組成物。
【請求項5】
外部刺激による加熱が可能な材料を更に含む請求項1~4のいずれか1項に記載の機能性粘着組成物。
【請求項6】
前記外部刺激による加熱が可能な材料の含有量が、前記第1のゴム系樹脂と前記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、1~20質量部である請求項
5に記載の機能性粘着組成物。
【請求項7】
前記外部刺激による加熱が可能な材料が、電磁誘導加熱が可能な材料又はマイクロ波加熱が可能な材料である請求項5又は6に記載の機能性粘着組成物。
【請求項8】
基材と、粘着層と、機能性粘着層とをこの順に含む機能性粘着フィルムであって、
前記粘着層は、粘着剤を含み、
前記機能性粘着層は、請求項1~7のいずれか1項に記載の機能性粘着組成物を含む機能性粘着フィルム。
【請求項9】
表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対して、500gのローラを用いて10往復させて圧着した後の、前記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度-1℃に冷却した試料を測定した場合に、1N/10mm以上であり、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、3N/10mm以上であり、温度60℃、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下である請求項8に記載の機能性粘着フィルム。
【請求項10】
前記機能性粘着層の厚さが、5~20μmである請求項8又は9に記載の機能性粘着フィルム。
【請求項11】
前記粘着層の厚さが、300~800μmである請求項8~10のいずれか1項に記載の機能性粘着フィルム。
【請求項12】
前記粘着層及び前記機能性粘着層から選ばれる少なくとも一方が、外部刺激による加熱が可能な材料を含む請求項8~11のいずれか1項に記載の機能性粘着フィルム。
【請求項13】
前記粘着層に含まれる粘着剤が、天然ゴム系粘着成分、合成ゴム系粘着成分、シリコーン系粘着成分、アクリル系粘着成分、及びポリエステル系粘着成分からなる群から選択される少なくとも1種の粘着成分を含む請求項8~12のいずれか1項に記載の機能性粘着フィルム。
【請求項14】
請求項
8~13のいずれか1項に記載の機能性粘着フィルムを準備する工程と、
前記機能性粘着フィルムの機能性粘着層側を、セメント系構造物の劣化部分に貼り合わせた後、所定の圧力で圧着する工程と、
前記機能性粘着フィルムを貼り合わせて圧着した前記セメント系構造物を、一定期間、自然環境下で放置する工程と、
前記放置後に、前記機能性粘着フィルムを加熱して、前記機能性粘着フィルムの粘着力を低下させる工程と、
前記セメント系構造物から、粘着力が低下した前記機能性粘着フィルムを剥離する工程とを含む機能性粘着フィルムの使用方法。
【請求項15】
前記圧着は、500gのローラを用いて10往復させて行なう請求項14に記載の機能性粘着フィルムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ひび割れしたセメント系構造物に対して、点検時に簡単に施工でき、必要時に剥離でき、施工中はセメント系構造物のひび割れの拡大を防止可能な機能性粘着フィルム及びその使用方法並びにその機能性粘着フィルムに用いる機能性粘着組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁やトンネル等に使用されているコンクリート構造物は、時間とともに疲労や塩害やアルカリ骨材反応等によりひび割れが発生することがある。ひび割れた状態で長期間経過すると、ひび割れ部分から雨水や炭酸ガス等がコンクリートの深部まで進入し、鉄筋が腐食することによりコンクリートそのものの強度が低下し、橋梁やトンネルの崩落といった重大な事故を引き起こす可能性がある。このような状況において、コンクリート構造物をはじめとしたインフラの点検が5年に1回確実に行われる枠組みが構築されている。
【0003】
環境条件にもよるが、ひび割れを放置することはコンクリートの劣化の進行を意味することから、何らかの対処ができることが望ましい。このため、コンクリートにひび割れが生じた早い段階での補修対策が必要となる。コンクリートのひび割れの補修方法として、アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液からなる下地処理剤を塗布してひび割れの内部に浸入させた後、無機フィラーが分散したパテ材を上記ひび割れの内部に充填して補修する方法(例えば、特許文献1)や、コンクリートのひび割れ部分に沿って、自己修復材料を含むペーストを塗布する方法(例えば、特許文献2)が提案されている。
【0004】
また、本願で開示する発明に関連する技術文献として易剥離性粘着テープに関する特許文献3、粘着剤組成物及び粘着テープに関する特許文献4及び粘着テープ及びその使用方法に関する特許文献5がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-001195号公報
【文献】特開2013-014453号公報
【文献】特開2017-222799号公報
【文献】特開2002-069405号公報
【文献】特開2020-132886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2に記載のようにひび割れ部に補修材料を直接的に充填又は塗布する方法では、その実施に際して、作業用の足場を設けたり、専門家による補修作業を伴うような大規模工事が必要となる。一方、地方自治体におけるコンクリート構造物の維持管理では、補修費が十分に確保できなかったり、ひび割れに伴う劣化グレードの判断が曖昧になったりするなど、点検者が点検時に発見した比較的幅の広いひび割れにその場で対応できないといった問題があった。
【0007】
上記問題を解決するために、本発明者らは、必要時に糊残りなく簡単に剥離でき、セメント系構造物の劣化が抑制可能な粘着テープを提案していた(例えば、特許文献5)。この従来提案の粘着テープでは、セメント系構造物に対する圧着条件として、2kgのローラを用いて1往復させる圧着条件を基準として設計されていた。
【0008】
しかし、実際の橋梁やトンネル等に対して粘着テープを貼り付ける際には、天井面や側壁面への貼り付けが多く、その場合には2kgのローラを用いて1往復させる圧着条件と同等の圧着力で実際の補修現場において圧着を行うことが困難な場合があった。このため、粘着テープの密着が不十分となり、長期間にわたってセメント系構造物に対する粘着テープの密着性を維持することが困難となる場合があることが判明した。
【0009】
本願は、上記問題を解消するためになされたものであり、セメント系構造物のひび割れを発見した点検者が簡単に施工でき、必要に応じて糊残りなく簡単に剥離でき、施工中はセメント系構造物の劣化を抑制すことができると共に、より小さな圧着力でセメント系構造物に圧着しても、長期間にわたって密着性を維持できる機能性粘着フィルム及びその使用方法並びにその機能性粘着フィルムに用いる機能性粘着組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の機能性粘着組成物は、側鎖結晶化ポリマーと、温度-1℃~40℃において流動性を有さない第1のゴム系樹脂と、温度-1℃~40℃において流動性を有する第2のゴム系樹脂と、粘着付与剤とを含み、前記第1のゴム系樹脂と前記第2のゴム系樹脂との含有割合が、質量比で8:2から4:6であり、前記側鎖結晶化ポリマーの含有量が、前記第1のゴム系樹脂と前記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、1~20質量部であり、前記粘着付与剤の含有量が、前記第1のゴム系樹脂と前記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、5~15質量部である。
【0011】
本願の機能性粘着フィルムは、基材と、粘着層と、機能性粘着層とをこの順に含み、前記粘着層は、粘着剤を含み、前記機能性粘着層は、前記本願の機能性粘着組成物を含んでいる。
【0012】
本願の機能性粘着フィルムの使用方法は、前記本願の機能性粘着フィルムを準備する工程と、前記機能性粘着フィルムの機能性粘着層側を、セメント系構造物の劣化部分に貼り合わせた後、所定の圧力で圧着する工程と、前記機能性粘着フィルムを貼り合わせて圧着した前記セメント系構造物を、一定期間、自然環境下で放置する工程と、前記放置後に、前記機能性粘着フィルムを加熱して、前記機能性粘着フィルムの粘着力を低下させる工程と、前記セメント系構造物から、粘着力が低下した前記機能性粘着フィルムを剥離する工程とを含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本願によれば、セメント系構造物の点検者が、点検直後に簡便な方法で貼り付けでき、必要時に糊残りなく簡単に剥離でき、ひび割れを起因とするセメント系構造物の劣化を十分に抑制可能であると共に、より小さな圧着力でセメント系構造物に圧着しても、長期間にわたって密着性を維持できる機能性粘着フィルム及びその使用方法並びにその機能性粘着フィルムに用いる機能性粘着組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態の機能性粘着フィルムの一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の機能性粘着フィルムの他の例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の機能性粘着フィルムをセメント系構造物のひび割れ部に貼り合わせた状態の一例を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、セメント系構造物に貼り合わせた実施形態の機能性粘着フィルムを加熱している状態の一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、セメント系構造物のひび割れ部から実施形態の機能性粘着フィルムを剥離した状態の一例を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、セメント系構造物のひび割れ部から従来の粘着フィルムを剥離した状態の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(機能性粘着組成物)
本願の機能性粘着組成物の実施形態を説明する。本実施形態の機能性粘着組成物は、側鎖結晶化ポリマーと、温度-1℃~40℃において流動性を有さない第1のゴム系樹脂と、温度-1℃~40℃において流動性を有する第2のゴム系樹脂と、粘着付与剤とを含み、上記第1のゴム系樹脂と上記第2のゴム系樹脂との含有割合が、質量比で8:2から4:6であり、上記側鎖結晶化ポリマーの含有量が、上記第1のゴム系樹脂と上記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、1~20質量部であり、上記粘着付与剤の含有量が、上記第1のゴム系樹脂と上記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、5~15質量部である。
【0016】
本実施形態の機能性粘着組成物は、温度-1℃~40℃において流動性を有さない第1のゴム系樹脂と、温度-1℃~40℃において流動性を有する第2のゴム系樹脂と、粘着付与剤とを含んでいるので、より小さな圧着力でセメント系構造物に付与しても、長期間にわたって密着性を維持できると共に、50℃以上で加熱した際にその粘着力を低下させることができる。
【0017】
以下、本実施形態の機能性粘着組成物の各成分について説明する。
【0018】
[側鎖結晶化ポリマー]
上記側鎖結晶化ポリマーは、上記機能性粘着組成物の粘着力を、50℃以上で加熱した際に低下させる機能を付与する成分である。
【0019】
上記側鎖結晶化ポリマーは、示差走査熱量測定法(DSC)で測定した吸熱ピークが50℃以上であることが好ましい。DSCは、測定試料と基準物質との間の熱量の差を示差走査熱量計で計測することで、測定試料の融点等を測定する熱分析手法であり、上記基準物質としてα-アルミナ等を用いることができる。
【0020】
上記側鎖結晶化ポリマーは、炭素数18以上のアルカン鎖を有する直鎖アクリレートと、溶解度パラメータ(SP値)が7.3~9.5のアクリル系モノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0021】
上記炭素数18以上のアルカン鎖を有する直鎖アクリレートとしては、例えば、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、リグノセリチルアクリレート、セロチニルアクリレート、モンタンニルアクリレート、メリシンニルアクリレート等を使用できる。上記直鎖アクリレートを用いることにより、上記側鎖結晶化ポリマーのDSCで測定した吸熱ピークを50℃以上とすることができる。
【0022】
また、上記溶解度パラメータが7.3~9.5のアクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等を使用できる。上記アクリル系モノマーを用いることにより、上記側鎖結晶化ポリマーと、上記機能性粘着組成物の他の成分との相溶性を向上できる。
【0023】
また、上記側鎖結晶化ポリマーの重量平均分子量は、1000~15000であることが好ましく、5000~12000がより好ましい。
【0024】
上記機能性粘着組成物における上記側鎖結晶化ポリマーの含有量は、上記第1のゴム系樹脂と上記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、1~20質量部であり、1~7質量部であることがより好ましい。上記含有量が1質量部より少ないと、50℃以上で加熱しても粘着力が低下しない。また、上記含有量が20質量部より多いと、50℃まで加熱する前に粘着力が低下してしまう恐れがある。
【0025】
[第1のゴム系樹脂及び第2のゴム系樹脂]
上記第1のゴム系樹脂は、温度-1℃~40℃において流動性を有さないゴム系樹脂であり、上記第2のゴム系樹脂は、温度-1℃~40℃において流動性を有するゴム系樹脂である。上記第1のゴム系樹脂及び上記第2のゴム系樹脂は、本実施形態の機能性粘着組成物を、より小さな圧着力でセメント系構造物に付与しても、長期間にわたって密着性を維持できる機能を付与する成分である。
【0026】
上記第1のゴム系樹脂は、温度-1℃~40℃において流動性を有さないゴム系樹脂であれば特に限定されず、例えば、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等が使用できるが、コスト、耐久性、可撓性等の点からブチルゴム系樹脂であることが好ましい。
【0027】
また、上記第2のゴム系樹脂は、温度-1℃~40℃において流動性を有するゴム系樹脂であれば特に限定されず、例えば、液状ブチルゴム、オレフィン系液状ゴム、ウレタン系液状ゴム、シリコーン系液状ゴム、フッ素系液状ゴム等が使用できるが、液状ブチルゴム系樹脂であることが好ましい。更に、上記第2のゴム系樹脂のショア硬度は、ASTM D2240に規定される方法にて、Aタイプ・温度25℃で25~35であることが好ましい。
【0028】
上記第1のゴム系樹脂と上記第2のゴム系樹脂との含有割合は、質量比で8:2から4:6であり、6:4から4:6であることがより好ましい。
【0029】
[粘着付与剤]
上記粘着付与剤は、上記機能性粘着組成物の初期接着性を高める機能を付与する成分である。上記粘着付与剤としては、特に限定されるものではなく、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール系樹脂、不均化ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等が使用できる。上記粘着付与剤の含有量は、上記第1のゴム系樹脂と上記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、5~15質量部であり、8~12質量部がより好ましい。上記含有量が5質量部未満では、所望の粘着力を発揮できない傾向があり、また、上記含有量が15質量部を超えると、低温条件下での使用において、初期接着性が低下する傾向にある。
【0030】
[外部刺激による加熱が可能な材料]
上記機能性粘着組成物は、外部刺激による加熱が可能な材料を更に含むことが好ましい。これにより、上記機能性粘着フィルムの加熱方法として、例えば、電磁誘導加熱又はマイクロ波加熱という比較的簡便な加熱方法を採用することができる。このため、上記機能性粘着フィルムを簡便に加熱して、上記機能性粘着フィルムの粘着力を低下させることができ、セメント系構造物から上記機能性粘着フィルムを残渣(糊残り)なく剥がすことができる。
【0031】
上記外部刺激による加熱が可能な材料としては特に限定されないが、電磁誘導加熱が可能な材料、マイクロ波加熱が可能な材料等が挙げられる。この中でも、特に電磁誘導加熱が可能な材料が好ましい。電磁誘導加熱は、電磁誘導を利用した直接加熱方式であり、加熱したい材料だけを選択的に加熱可能である。また、上記外部刺激による加熱が可能な材料は、最終的に機能性粘着組成部に均一に含有させるため、その形態は粉体であることが好ましい。
【0032】
上記電磁誘導加熱は、電磁誘導により被加熱物に電流を流して発熱させるため、被加熱物は導電体であることが必要である。よって、上記電磁誘導加熱が可能な材料は、導電体から構成される。上記導電体としては、金属材料、導電性非金属材料等を使用できる。上記金属材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、銀、金、ニッケル、白金、亜鉛、鉛、ステンレス鋼等が好ましく、上記導電性非金属材料としては、例えば、カーボンブラック、炭素繊維、グラフェン等が好ましい。
【0033】
上記マイクロ波加熱は、5~40KHzの電磁波の作用により被加熱物の分子運動とイオン伝導により発熱させるため、誘電体、導電体、磁性体の加熱が可能であるが、現実的には、主として誘電体の加熱に適している。上記誘電体としては、例えば、各種合成樹脂;炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス;雲母等が使用でき、上記導電体としては、前述の電磁誘導加熱が可能な材料と同様の金属材料、導電性非金属材料等を使用でき、上記磁性体としては、例えば、酸化鉄、各種フェライト材料等を使用できる。
【0034】
上記機能性粘着組成物における上記外部刺激による加熱が可能な材料の含有量は、上記側鎖結晶化ポリマーを50℃以上の温度で加熱できる量であれば特に限定されないが、例えば、上記第1のゴム系樹脂と上記第2のゴム系樹脂との合計質量100質量部に対して、1~20質量部とすればよい。
【0035】
(機能性粘着フィルム)
本願で開示する機能性粘着フィルムの実施形態について説明する。本実施形態の機能性粘着フィルムは、基材と、粘着層と、機能性粘着層とをこの順に備え、上記粘着層は、粘着剤を含み、上記機能性粘着層は、前述の実施形態の機能性粘着組成物を含んでいる。
【0036】
上記機能性粘着フィルムは、その機能性粘着層に前述の機能性粘着組成物を含んでいるので、従来より小さな圧着力でセメント系構造物に圧着しても、長期間にわたって密着性を維持できる。具体的には、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対して、500gのローラを用いて10往復させて圧着した後の、上記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度-1℃に冷却した試料を測定した場合に、1N/10mm以上、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、3N/10mm以上とすることができる。
【0037】
また、上記機能性粘着フィルムは、その機能性粘着層に前述の機能性粘着組成物を含んでいるので、上記機能性粘着フィルムを50℃以上に加熱することにより、上記機能性粘着フィルムの粘着力を低下させることができ、セメント系構造物側に粘着層の残渣(糊残り)を生じることなく、セメント系構造物から上記機能性粘着フィルムを剥がすことができる。具体的には、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対して、500gのローラを用いて10往復させて圧着した後の、上記粘着層側の粘着力が、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度60℃、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下にすることができ、上記機能性粘着フィルムを50℃以上に加熱することにより、粘着力を低下させることができ、必要に応じて糊残りなく簡単に剥離できる。
【0038】
また、上記機能性粘着フィルムは、その粘着層に粘着剤を含むことにより、セメント系構造物といった凹凸面に追従可能で、且つ、上記機能性粘着フィルムとセメント系構造物とを確実に接着でき、広い温度領域で外気とセメント系構造物との接触を遮断できる。これにより、セメント系構造物のひび割れ等の劣化部分から雨水やCO2の侵入を抑制できると共に、セメント系構造物の塩害やアルカリ骨材反応を防止することが可能となり、セメント系構造物内に鉄筋等が存在する場合でも、その鉄筋等の腐食を防止でき、ひび割れしたセメント系構造物に対しての保護性能を確保することができる。
【0039】
更に、上記機能性粘着フィルムは、基材を備えているため、その基材の色を各種調整することにより、セメント系構造物に貼り付けた場合の美観を損なわずに、点検者が点検直後に簡便な方法で貼り付けでき、必要時に糊残りなく簡単に剥離でき、ひび割れを起因とするセメント系構造物の劣化抑制が可能となる。
【0040】
上記機能性粘着フィルムは、通常、上記基材と上記粘着層とが接触し、上記粘着層と上記機能性粘着層とが接触している。
【0041】
本願において、セメント系構造物には、コンクリート構造物及びモルタル構造物が含まれる。
【0042】
以下、本実施形態の機能性粘着フィルムの各構成部材について説明する。
【0043】
(機能性粘着層)
本実施形態の機能性粘着フィルムに用いる機能性粘着層は、上記機能性粘着フィルムを50℃以上で加熱した際に上記機能性粘着フィルムの粘着力を低下させる機能を付与するためのものである。具体的には、上記機能性粘着層は、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対して、500gのローラを用いて10往復させて圧着した後の、上記粘着層側の粘着力を、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、上記機能性粘着フィルムを温度60℃、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下とする機能を付与できる。
【0044】
上記機能性粘着層は、前述のとおり、側鎖結晶化ポリマーと、温度-1℃~40℃において流動性を有さない第1のゴム系樹脂と、温度-1℃~40℃において流動性を有する第2のゴム系樹脂と、粘着付与剤とを含む機能性粘着組成物で構成されている。
【0045】
このような側鎖結晶化ポリマーを用いると、温度を50℃まで上げた場合に粘着力が低下する理由は定かではないが、次のように考えている。即ち、上記側鎖結晶化ポリマーは粘着力が小さく、通常、上記側鎖結晶化ポリマーの温度が示差走査熱量測定法で測定したポリマー融点より低い場合には、機能性粘着層の他の樹脂成分の中に埋まった状態で存在しているが、上記側鎖結晶化ポリマーの温度が高くなると、上記側鎖結晶化ポリマーの粘度が低下して、分子量が小さい側鎖結晶化ポリマーが、被着体と機能性粘着層との界面に移動して、上記機能性粘着フィルムの粘着力が低下するものと考えられる。
【0046】
上記機能性粘着層の厚さは特に限定されないが、通常、5~20μmに設定される。上記機能性粘着層の厚さが上記範囲内であれば、前述の、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対して、500gのローラを用いて10往復させて圧着した後の、上記粘着層側の粘着力を、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、上記機能性粘着フィルムを温度60℃、相対湿度5%以下の環境下で測定した場合に、1N/10mm以下とする機能を発揮できるからである。
【0047】
(粘着層)
本実施形態の機能性粘着フィルムに用いる粘着層は、上記機能性粘着フィルムに本来の粘着力を付与するためのものであり、より具体的には、表面粗さRaが100μm以下のセメント系構造物に対する上記機能性粘着フィルムの粘着層側の粘着力を、JIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力として、温度-1℃に冷却した試料を測定した場合に、1N/10mm以上、温度23℃、相対湿度50%の環境下で測定した場合に、6N/10mm以上とするために設けるものである。
【0048】
上記粘着剤は、天然ゴム系粘着成分、合成ゴム系粘着成分、シリコーン系粘着成分、アクリル系粘着成分、及びポリエステル系粘着成分からなる群から選択される少なくとも1種の粘着成分を含んでいる。
【0049】
[天然ゴム系粘着成分]
天然ゴム系粘着成分としては、ゴムの木(ヘベアブラジリエンシス)の樹脂液のみから採取されるシス-1,4-ポリプレン系からなるゴム等が挙げられる。
【0050】
[合成ゴム系粘着成分]
合成ゴム系粘着成分としては、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム等が挙げられる。
【0051】
[シリコーン系粘着成分]
シリコーン系粘着成分としては、付加反応型シリコーン系粘着成分及び過酸化物硬化型シリコーン系粘着成分が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0052】
上記付加反応型シリコーン系粘着成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、信越化学工業社製のKR3700、KR3701、X-40-3237-1、X-40-3240、X-40-3291-1、X-40-3229、X-40-3270、X-40-3306(いずれも商品名)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のTSR1512、TSR1516、XR37-B9204(いずれも商品名)、東レ・ダウコーニング社製のSD4584、SD4585、SD4560、SD4570、SD4600PFC、SD4593(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0053】
上記付加反応型シリコーン系粘着成分は架橋剤と共に用いられ、その架橋剤としては特に限定されるものではないが、例えば、信越化学工業社製のX-92-122(商品名)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のCR50(商品名)、東レ・ダウコーニング社製のBY24-741(商品名)等を用いることができる。
【0054】
上記過酸化物硬化型シリコーン系粘着成分としては、信越化学工業社製のKR100、KR101-10(いずれも商品名)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のYR3340、YR3286、PSA610-SM、XR37-B6722(いずれも商品名)、東レ・ダウコーニング社製のSH4280(商品名)等が挙げられる。
【0055】
上記過酸化物硬化型シリコーン系粘着成分は架橋剤と共に用いられ、その架橋剤としては特に限定されるものではないが、例えば、ベンゾイールペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1’-ジ-t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチレンシクロヘキサン、1,3-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0056】
[アクリル系粘着成分]
アクリル系粘着成分としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを共重合させることにより得られるものが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル等が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーに、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)マレイン酸等の官能基を含むモノマーや、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、2-メチロールエチルアクリルアミド等を添加して共重合させてもよい。
【0057】
[ポリエステル系粘着成分]
ポリエステル系粘着成分としては、多価カルボン酸(例えば、ジカルボン酸)とポリアルコール(例えば、ジオール)とを重縮合体化させることにより得られるものが挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデセニル無水琥珀酸、フマル酸、琥珀酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等や、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。上記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコール等が挙げられる。
【0058】
上記粘着剤は、上記粘着成分と共に架橋剤を含むことが好ましく、更に必要に応じて架橋促進剤、充填剤、軟化剤、粘着付与剤、老化防止剤等とを含むことができる。
【0059】
[架橋剤]
上記架橋剤としては、硫黄や、チウラム系のテトラメチルチウラムスルフィド(TMTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、p-キノンジオキシム等が一般的に使用されるが、その中でもTMTDを使用するのが望ましい。
【0060】
上記架橋剤の添加量は、上記粘着成分100質量部に対して、少なくとも0.05質量部以上が必要であり、0.1~10質量部が望ましい。上記添加量が0.05質量部未満では架橋度が低くなり、粘着剤の作製時に架橋工程に時間を要する傾向がある。また、粘着成分の凝集力が低下するため、機能性粘着フィルムを剥離した際に被着体に糊残りが生じてしまう傾向がある。一方、上記添加量が10質量部を超えると、架橋度が高くなりすぎて、初期の練り落とし時間が長くなる傾向がある。
【0061】
[架橋促進剤]
上記架橋促進剤としては、チウラム系、チアゾール系、あるいはジチオカルバミン酸塩等が使用され、それぞれ併用して使用できる。上記架橋促進剤の添加量は、上記粘着成分100質量部に対して、上記架橋剤の種類及び添加量に合わせて添加されるため、通常2~10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0062】
[充填剤]
上記充填剤は、上記粘着剤に任意の色彩を持たせるために使用され、また、上記粘着成分の補強性を高めるためにも使用される。上記充填剤としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、クレー、シリカ、タルク、カーボンブラック等が使用できるが、特に、炭酸カルシウムや酸化チタンを用いることが望ましい。上記充填剤は、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
上記充填剤の添加量は、上記粘着成分100質量部に対して、少なくとも60質量部以上が必要であり、特に、70~250質量部が望ましい。上記添加量が60質量部未満では、粘着成分の凝集力が低下し、250質量部を超えると、ゴム弾性に劣る上、ムーニー粘度が高くなり過ぎ、上記粘着剤の原料としては好ましくない。
【0064】
[軟化剤]
上記軟化剤は、通常、上記充填剤と共に用いられ、上記軟化剤としては、プロセスオイル、液状ポリブテン、液状ポリブタジエン等が使用できるが、本粘着層の効果が好適に得られるという理由でプロセスオイルを使用するのが望ましい。上記軟化剤の添加量は、上記粘着成分100質量部に対して、少なくとも30質量部以上が必要であり、30~400質量部が望ましい。上記添加量が30質量部未満では、上記粘着成分と上記充填剤とが均一になりにくく、加工性に劣るものとなり、上記添加量が400質量部を超えると、ムーニー粘度が低くなり過ぎる傾向がある。
【0065】
[粘着付与剤]
上記粘着付与剤としては、特に限定されるものではなく、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール系樹脂、不均化ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等が使用できる。上記粘着付与剤の添加量は、上記粘着成分100質量部に対して、15~70質量部が望ましい。上記添加量が15質量部未満では、所望の粘着力を発揮できない傾向があり、また、上記添加量が70質量部を超えると、低温条件下での使用において、初期接着性が低下する傾向にある。
【0066】
[老化防止剤]
上記粘着層を構成する粘着剤の耐老化性向上のためには老化防止剤の添加が効果的である。上記老化防止剤としては、例えばフェノール系、アミン系、ベンズイミダゾール系、硫黄系、燐系の老化防止剤を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。これらの中でも、フェノール系、硫黄系の老化防止剤を用いることが好ましい。これらの老化防止剤を1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0067】
粘着剤の老化の主な要因は、主に粘着剤を構成する粘着成分の酸化劣化である。老化防止剤は、粘着成分の酸化劣化を抑制する機構の違いから分類され、ラジカル連鎖禁止型と過酸化物分解型とに分けられる。
【0068】
上記ラジカル連鎖禁止型の老化防止剤は、分子内にラジカルと反応しやすいフェノール性の「-OH」や「-NH」を有している。そして、劣化によりポリマー中に生成したラジカル等と反応して、不活性化することで自動酸化を停止する効果がある。フェノール系、アミン系の老化防止剤は、ラジカル連鎖禁止型である。
【0069】
一方、過酸化物分解型の老化防止剤は、硫黄あるいは燐を含む化合物、ベンズイミダゾール系化合物が代表的であり、ポリマー中に生成したヒドロペルオキシド(ROOH)を分解し、安定な物質(ROH等)に変える。
【0070】
上記老化防止剤としては、上記粘着剤を任意の色に着色することを考えると、非汚染性のフェノール系老化防止剤が望ましい。上記老化防止剤の添加量は、上記粘着成分100質量部に対して、2~10質量部が望ましい。上記添加量が2質量部未満では、上記粘着剤が劣化する傾向があり、上記添加量が10質量部を超えても、添加効果に大きな変化はない。
【0071】
上記粘着層の厚さは、セメント系構造物の凹凸面への追従性に応じて決定でき、特に制限されるものではないが、200~5000μmが好ましく、300~800μmがより好ましい。上記粘着層の厚さが、200μm未満だと、セメント系構造物のひび割れ表面の凹凸に追従できない傾向があり、また、温度23℃、相対湿度50%の環境下でのJIS Z0237の規定に準じて測定した180°ピール力が3N/10mmを得られない傾向にある。一方、上記粘着層の厚さが、5000μmを超えても、ひび割れ表面の凹凸に対する追従性に大きな変化はないが、剥離時にセメント系構造物に糊残りが生じる傾向がある。
【0072】
上記粘着層にも前述の外部刺激による加熱が可能な材料を更に含むことができる。上記粘着層における上記外部刺激による加熱が可能な材料の含有量も、上記機能性粘着フィルムの機能性粘着層に含まれる側鎖結晶化ポリマーを50℃以上の温度で加熱できる量であれば特に限定されないが、例えば、上記粘着成分100質量部に対して、1~20質量部とすればよい。
【0073】
(基材)
本実施形態の機能性粘着フィルムに用いる基材は、上記機能性粘着層及び上記粘着層を形成する基体となるものである。
【0074】
上記基材としては、樹脂製基材が挙げられ、その樹脂製基材としては、具体的には、ポリオレフィン系樹脂(低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー系樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート:PET、ポリエチレンナフタレート:PEN、ポリブチレンテレフタレート:PBT、ポリブチレンナフタレート:PBN等)、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン等)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、及び、これらの樹脂の架橋体等の構成材料からなる基材が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)が機械的特性及び価格面からより好ましい。これらの構成材料は、1種又は2種以上を使用できる。また、上記構成材料は、必要に応じて、官能基を有していてもよい。また、機能性モノマーや改質性モノマーが構成材料にグラフトされていてもよい。
【0075】
上記基材の表面は、隣接する粘着層との密着性を向上させるために、公知の表面処理が施されていてもよい。上記表面処理としては、具体的には、例えば、コロナ放電処理、オゾン暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理等が挙げられる。また、下塗り剤によるコーティング処理(シリコーン処理等)、プライマー処理、マット処理、架橋処理等が上記基材に施されていてもよい。
【0076】
上記基材の形態は、単層でもよいし、2層以上積層された積層体でもよい。また、上記基材中には、必要に応じて、充填剤、難燃剤、劣化防止剤、帯電防止剤、軟化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤等の公知の助剤が添加されていてもよい。
【0077】
上記基材の厚さは、特に制限されるものではないが、好ましくは30~300μmであり、より好ましくは50~150μmである。上記基材の厚さが30μm未満の場合、本実施形態の機能性粘着フィルム自体の強度が不足する傾向があり、300μmを超えると、コストが高くなる。
【0078】
(樹脂層)
上記基材の耐候性及び耐薬品性を確保するために、上記機能性粘着層及び上記粘着層が形成される基材の主面とは反対側の主面上に、樹脂層を配置することが好ましい。上記樹脂層を構成する樹脂としては、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂が好ましい。
【0079】
続いて、本実施形態の機能性粘着フィルムの製造方法について説明する。本実施形態の機能性粘着フィルムの製造方法は特に限定されないが、例えば、下記の工程を組み合わせることにより製造できる。
(1)前述の基材と、前述の粘着層の成分を含む粘着層形成塗料と、前述の機能性粘着層の成分を含む機能性粘着層形成塗料とを準備する工程
(2)上記基材の片面に上記粘着層形成塗料を塗布して粘着層を作製した後、その粘着層の上に離型フィルムを貼り合わせる工程
(3)別の離型フィルムに上記機能性粘着層形成塗料を塗布して離型フィルム付き機能性粘着層を作製する工程
(4)上記粘着層の離型フィルムを剥がしながら、上記粘着層に上記離型フィルム付き機能性粘着層の機能性粘着層側を貼り合わせる工程
【0080】
上記工程で製造した機能性粘着フィルムは、上記機能性粘着層の離型フィルムを剥がして使用する。
【0081】
次に、本実施形態の機能性粘着フィルムを図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の機能性粘着フィルムの一例を示す概略断面図である。
図1において、機能性粘着フィルム10は、基材11の上に粘着層12を備え、粘着層12の上に機能性粘着層13を備えている。また、
図2は、本実施形態の機能性粘着フィルムの他の例を示す概略断面図である。
図2において、機能性粘着フィルム20は、基材11の上に粘着層12を備え、粘着層12の上に機能性粘着層13を備え、更に機能性粘着層13の上に剥離シート14を備えている。
【0082】
本実施形態の機能性粘着フィルムは、JIS K7126に規定する20℃での二酸化炭素透過率が、0.5g/(m2・24hr・1atm)以下であることが好ましい。上記二酸化炭素透過率が上記範囲内であれば、セメント系構造物の劣化を促進する二酸化炭素は勿論、セメント系構造物の劣化を促進する塩素イオン、水、酸素等も遮断することができる。
【0083】
(機能性粘着フィルムの使用方法)
本願で開示する機能性粘着フィルムの使用方法の実施形態について説明する。本実施形態の機能性粘着フィルムの使用方法は、前述の実施形態の機能性粘着フィルムを準備する工程と、上記機能性粘着フィルムの機能性粘着層側を、セメント系構造物の劣化部分に貼り合わせた後、所定の圧力で圧着する工程と、上記機能性粘着フィルムを貼り合わせて圧着した上記セメント系構造物を、一定期間、自然環境下で放置する工程と、上記放置後に、上記機能性粘着フィルムを加熱して、上記機能性粘着フィルムの粘着力を低下させる工程と、上記セメント系構造物から、粘着力が低下した上記機能性粘着フィルムを剥離する工程とを備えている。
【0084】
また、上記機能性粘着フィルムの使用方法において上記圧着は、500gのローラを用いて10往復させて行なうことができる。
【0085】
本実施形態の機能性粘着フィルムの使用方法によれば、セメント系構造物の点検直後に簡便に上記機能性粘着フィルムをセメント系構造物の劣化部分に常温で貼り付けて、確実に接着を維持できると共に、必要に応じて加熱することにより糊残りなく簡単に剥がすことができる。また、上記機能性粘着フィルムをセメント系構造物の劣化部分に貼り付けている間、セメント系構造物の劣化を防止できると共に、上記機能性粘着フィルム自体の耐久性及び耐疲労性が大きいため、長期間に渡ってセメント系構造物の劣化を防止できる。更に、上記機能性粘着フィルムは、その粘着層に着色可能なため、上記機能性粘着フィルム自体の色を、セメント系構造物の色に合わせることができるため、セメント系構造物に貼り付けても美観を損ねない。
【0086】
また、本実施形態に使用する機能性粘着フィルムは、その粘着層に粘着剤を含むことにより、セメント系構造物の表面といった凹凸面に追従可能で、広い温度領域で外気とセメント系構造物との接触を遮断でき、セメント系構造物のひび割れ等の劣化部分から雨水やCO2の侵入を抑制できると共に、セメント系構造物の塩害やアルカリ骨材反応を防止することが可能となり、セメント系構造物内に鉄筋等が存在する場合でも、その鉄筋等の腐食を防止でき、ひび割れしたセメント系構造物に対しての保護性能を確保することができる。
【0087】
また、上記機能性粘着フィルムの機能性粘着層は、側鎖結晶化ポリマーを含んでいるので、上記機能性粘着フィルムを、上記側鎖結晶化ポリマーの50℃以上の温度で加熱することにより、上記機能性粘着フィルムの粘着力を低下させることができ、セメント系構造物側に粘着層の残渣(糊残り)を生じることなく、セメント系構造物から上記機能性粘着フィルムを剥がすことができる。これにより、セメント系構造物のひび割れ部等の劣化部分の大きさを目視で容易に確認でき、その時点(通常は前回の点検時から5年経過時)において本格的な補修工事が必要か否か判断できる。一般的には、この時点で当該セメント系構造物の劣化(ひび割れ)が大きく進んでいる場合には、補修工事がなされ、当該セメント系構造物の劣化が進んでいない場合には、更に5年間の経過観察が行われる。
【0088】
更に、本実施形態に使用する機能性粘着フィルムは500gのローラを用いて10往復させて行なうような小さな圧着力でセメント系構造物に圧着しても、長期間にわたって密着性を維持できる。
【0089】
続いて、本実施形態の機能性粘着フィルムの使用方法について図面に基づき説明する。以下の機能性粘着フィルムの使用方法では、セメント系構造物として、コンクリート構造物を用いた例について説明する。先ず、
図3に示すように、コンクリート15のひび割れ部16の上に、前述の
図1に示した本実施形態の機能性粘着フィルム10の機能性粘着層13側を貼り合わせる。その後、機能性粘着フィルム10を基材11側から所定の圧力で圧着する。
【0090】
図3の状態で、次回の点検時まで一定期間放置する。その放置期間、例えば、5年間は、コンクリート15のひび割れ部16が機能性粘着フィルム10で覆われているため、それ以上コンクリートの劣化は進行しないか、又はその進行が遅くなる。
【0091】
次に、例えば、5年後の次回点検時に、
図4に示すように、機能性粘着フィルム10に熱17を加えて、例えば、機能性粘着フィルム10を50~60℃に加熱する。その際、機能性粘着フィルム10の機能性粘着層13には、前述の側鎖結晶化ポリマーを含んでいるため、上記加熱時に機能性粘着フィルム10の粘着力が低下する。そのため、その後にコンクリート15から機能性粘着フィルム10を剥離しても、
図5に示すように、コンクリート15の表面に上記粘着層の糊残りが生じることがない。これにより、コンクリートの劣化状態の確認が容易となる。その後、コンクリート15のひび割れ部16の大きさ、深さ等を中心に、コンクリート構造物の全体の劣化状況を検討し、その後の補修計画を作成する。例えば、ひび割れ部16が、機能性粘着フィルム10を貼り合わせた5年前と比べて著しく拡大している場合は、至急補修計画を立てることができる。
【0092】
以上の工程により、簡便な方法でコンクリートの劣化防止と、コンクリート構造物の修復の必要性の判断が可能となる。
【0093】
上記工程では、
図1に示した機能性粘着フィルム10を用いた例を示したが、
図2に示した機能性粘着フィルム20を用いる場合には、剥離シート14を剥がした後、機能性粘着フィルム20の機能性粘着層13側をコンクリートに貼り合わせればよい。
【0094】
また、
図6は、コンクリートのひび割れ部から従来の粘着フィルムを剥離した状態の一例を示す概略断面図である。従来の粘着フィルムは、側鎖結晶化ポリマー含む機能性粘着層を備えていないので、常温でそのまま剥離する場合は勿論、加熱して剥離する場合でも、
図6に示すように、コンクリート15の表面に粘着層の糊残り12aが生じやすい。
【実施例】
【0095】
以下、本願で開示する機能性粘着フィルムを実施例に基づいて詳細に説明する。但し、以下の実施例は、本願で開示する機能性粘着フィルムを制限するものではない。また、実施例中の「部」は「質量部」を示す。
【0096】
(実施例1)
<機能性粘着層形成塗料の作製>
先ず、以下に示す材料をミキサーで十分に溶解・混合して機能性粘着層形成塗料を作製した。
(1)固形ブチルゴム(第1のゴム系樹脂:温度-1℃~40℃で流動性を有さないブチルゴム、ランクセス社製、商品名“X_ブチルRB301”、24.4℃でのショア硬度:72):70部
(2)液状ブチルゴム(第2のゴム系樹脂:温度-1℃~40℃で流動性を有するブチルゴム、伸工貿易社製、商品名“カレン800”、24.4℃でのショア硬度:32):30部
(3)ベヘニルアクリレート(炭素数:25)/アクリル酸共重合体(側鎖結晶化ポリマー、重量平均分子量:7500):10部
(4)粘着付与剤(脂環族飽和炭化水素樹脂、荒川化学社製、商品名“アルコンP125”):10部
(5)トルエン:480部
【0097】
<粘着層形成塗料の作製>
次に、以下に示す材料をニーダーで十分に混練して粘着層形成塗料(ブチルゴム系粘着剤)を作製した。
(1)部分架橋ブチルゴム(伸工貿易社製、商品名“ケーラー5215A”):100部
(2)架橋剤(大内新興化学工業社製、商品名“バルノックGM”):0.1部
(3)充填剤(炭酸カルシウム):209.4部
(4)軟化剤(プロセスオイル):386.6部
(5)粘着付与剤(C5樹脂、日本ゼオン社製、商品名“クイントンA100”):21.8部
【0098】
<機能性粘着フィルムの作製>
先ず、基材PETフィルム(東レ社製、商品名“S-10”、厚さ:50μm)の片面に、上記粘着層形成塗料を、厚さが600μmとなるようにカレンダ塗布して粘着層を形成し、その後、その粘着層の上に、離型PETフィルム(中本パックス社製、商品名“NS-50-ZW”、厚さ:50μm)を、ニップ圧0.5MPaで貼り合わせて、基材PETフィルム/粘着層/離型PETフィルムからなる粘着層積層体を作製した。
【0099】
次に、離型PETフィルム(中本パックス社製、商品名“NS-50-ZW”、厚さ:50μm)の片面に、上記機能性粘着層形成塗料を塗布し、110℃で5分乾燥することにより、乾燥後の厚さが7μmの機能性粘着層を備えた機能性粘着層積層体を形成した。
【0100】
続いて、上記機能性粘着層積層体から離型PETフィルムを剥離しながら、粘着層の上に上記機能性粘着層積層体の機能性粘着層側を、ニップ圧0.5MPaで貼り合わせることにより、実施例1の機能性粘着フィルムを作製した。
【0101】
(実施例2)
固形ブチルゴムの配合量を60部に、液状ブチルゴムの配合量を40部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の機能性粘着フィルムを作製した。
【0102】
(実施例3)
固形ブチルゴムの配合量を40部に、液状ブチルゴムの配合量を60部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の機能性粘着フィルムを作製した。
【0103】
(実施例4)
固形ブチルゴムの配合量を60部に、液状ブチルゴムの配合量を40部に、ベヘニルアクリレートの配合量を5部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の機能性粘着フィルムを作製した。
【0104】
(実施例5)
固形ブチルゴムの配合量を60部に、液状ブチルゴムの配合量を40部に、ベヘニルアクリレートの配合量を20部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の機能性粘着フィルムを作製した。
【0105】
(実施例6)
固形ブチルゴムの配合量を60部に、液状ブチルゴムの配合量を40部に、粘着付与剤の配合量を5部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の機能性粘着フィルムを作製した。
【0106】
(実施例7)
固形ブチルゴムの配合量を60部に、液状ブチルゴムの配合量を40部に、粘着付与剤の配合量を15部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の機能性粘着フィルムを作製した。
【0107】
(比較例1)
固形ブチルゴムの配合量を100部に変更し、液状ブチルゴムを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の機能性粘着フィルムを作製した。
【0108】
(比較例2)
固形ブチルゴムの配合量を30部に、液状ブチルゴムの配合量を70部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の機能性粘着フィルムを作製した。
【0109】
(比較例3)
固形ブチルゴムの配合量を60部に、液状ブチルゴムの配合量を40部に、それぞれ変更し、ベヘニルアクリレートを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の機能性粘着フィルムを作製した。
【0110】
(比較例4)
固形ブチルゴムの配合量を60部に、液状ブチルゴムの配合量を40部に、ベヘニルアクリレートの配合量を40部に、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして機能性粘着層形成塗料を作製し、この機能性粘着層形成塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例4の機能性粘着フィルムを作製した。
【0111】
次に、上記実施例1~7及び上記比較例1~4で作製した機能性粘着フィルムについて、粘着力を下記のように評価した。
【0112】
<モルタルに対する粘着力>
先ず、エンジニアリングテストサービス社製のモルタル板(150mm×70mm×10mm)を33枚準備し、その各モルタル板の被着面の任意の3点の表面粗さRaをキーエンス社製のレーザー顕微鏡“VK-9710”で測定した。その結果、全てのモルタル板の各測定点の表面粗さRaは、15.3~84.3μm(全て100μm以下)の範囲内にあった。
【0113】
次に、準備した33枚のモルタル板について、それぞれ3枚ずつを実施例1~7、比較例1~4の被着体に割り当てた。
【0114】
続いて、作製した機能性粘着フィルムから離型PETフィルムを剥離し、機能性粘着フィルムの機能性粘着層側を上記モルタル板の被着面に貼り付けて、500gのローラを用いて10往復させて圧着して測定サンプルを作製した。次に、温度-1℃に冷却した測定サンプルをJIS Z0237の規定に準じて粘着力(180°ピール力)を測定した。また、同様にして作製した別の測定サンプルを温度23℃、相対湿度50%に設定した恒温槽の中に入れて、JIS Z0237の規定に準じて粘着力(180°ピール力)を測定した。更に、同様にして作製した別の測定サンプルを温度60℃、相対湿度5%に設定した恒温槽の中に入れて、JIS Z0237の規定に準じて粘着力(180°ピール力)を測定した。
【0115】
<コンクリートに対する粘着力>
先ず、土木学会のコンクリート標準示方書(基準編)の表面被覆材の耐候性試験方法(JSCE-K 511-2018)に記載の試験用基板の作製方法に準じて、コンクリート板(150mm×70mm×10mm)を1枚作製し、そのコンクリート板の被着面の任意の3点の表面粗さRaをキーエンス社製のレーザー顕微鏡“VK-9710”で測定した。その結果、コンクリート板の各測定点の表面粗さRaは、24.7~84.2μm(全て100μm以下)の範囲内にあった。
【0116】
次に、上記モルタル板の場合と同様にして、上記コンクリート板に対する実施例1の機能性粘着フィルムの温度-1℃、温度23℃及び温度60℃での粘着力を測定した。
【0117】
最後に、全ての測定サンプルの粘着力の測定の後に、機能性粘着フィルムを完全に剥がした後のモルタル板及びコンクリート板の被着面を観察し、粘着剤の糊残りの有無を確認した。
【0118】
上記結果を表1~表2に示す。
【0119】
【0120】
【0121】
表1~表4において、糊残り「無し」とは、被着面に糊残りが全く観察されなかったものであり、糊残り「一部有り」とは、被着面の一部に糊残りが観察されたものである。
【0122】
モルタル板を用いた表1から、実施例1~7の機能性粘着フィルムは、-1℃粘着力において1N/10mm以上、23℃粘着力において3N/10mm以上の高い粘着性を得たことが分かる。また、実施例1~7の60℃加熱後の粘着力は、1N/10mm未満に低下しており、加熱により糊残りなく粘着テープを剥がすことができた。
【0123】
また、コンクリート板を用いた表2から、実施例1の機能性粘着フィルムは、コンクリート板に対する粘着力についても、モルタル板に対する粘着力と同様の結果を得たことが分かる。
【0124】
一方、比較例1及び比較例3の機能性粘着フィルムは、60℃粘着力が実施例1~7に比べて高くなり、剥離しにくかった。また、比較例2の機能性粘着フィルムは、23℃粘着力が3N/10mmを下回り、常温状態での粘着性が低下した。更に、比較例4の機能性粘着フィルムは、-1℃粘着力が1N/10mmを下回り、23℃粘着力も3N/10mmを下回り、低温及び常温での粘着性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本願で開示する機能性粘着フィルムは、簡便な方法でセメント系構造物の劣化防止が可能であると共に、より小さな圧着力でセメント系構造物に圧着しても、長期間にわたって密着性を維持できる機能性粘着フィルムとして幅広く利用でき、特に土木・建設分野において有用である。
【符号の説明】
【0126】
10、20 機能性粘着フィルム
11 基材
12 粘着層
13 機能性粘着層
12a 糊残り
14 剥離シート
15 コンクリート
16 ひび割れ部
17 熱