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特許7598262回転機構付きスペーサ、スペーサ付きデッキプレートおよび合成スラブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】回転機構付きスペーサ、スペーサ付きデッキプレートおよび合成スラブ
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20241204BHJP
   E04B 5/40 20060101ALI20241204BHJP
   E04B 1/16 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
E04C5/18 104
E04B5/40 D
E04B1/16 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021030972
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131825
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】山本 歩未
(72)【発明者】
【氏名】関 勝輝
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-131666(JP,A)
【文献】特開平11-131667(JP,A)
【文献】特開2010-121271(JP,A)
【文献】実開昭60-083119(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18
E04B 5/40
E04B 1/16
E04B 1/00
E04C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山頂部と谷底部とが傾斜部を介して交互に連なった断面波型形状の波型部を有する波型鋼板からなるデッキプレートの前記傾斜部に係合することにより組み付けられ、前記山頂部と対向して設けられる橋部と、前記橋部と繋がり前記傾斜部と係合可能に設けられる脚部とを有するスペーサと、
前記橋部に対して鉄筋を前記山頂部の長手方向に沿って保持し、その保持した状態で前記山頂部と平行な水平方向または前記山頂部と直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部と、を備え、
前記スペーサは、
前記橋部に対して鉄筋を載置するために当該橋部と一体に固定され、前記回転機構部と平行に設けられて前記鉄筋を保持する鉄筋受け
を備える回転機構付きスペーサ。
【請求項2】
前記回転機構部は、前記デッキプレートの前記山頂部に設けられた溝部からずれた前記橋部の位置に設けられている
請求項1に記載の回転機構付きスペーサ。
【請求項3】
デッキプレートに取り付けられ又は載置され、平坦な橋部と、前記橋部と繋がって起立する脚部とを有するスペーサと、
前記橋部に対して鉄筋を保持しその保持した状態で前記デッキプレートと平行な水平方向または前記デッキプレートと直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部と、を備え、
前記スペーサは、
前記橋部に対して鉄筋を載置するために当該橋部と一体に固定され、前記回転機構部と平行に設けられて前記鉄筋を保持する鉄筋受け
を備える回転機構付きスペーサ。
【請求項4】
山頂部と谷底部とが傾斜部を介して交互に連なった断面波型形状の波型部を有する波型鋼板からなるデッキプレートと、
前記デッキプレートの前記傾斜部に係合することにより組み付けられ、前記山頂部と対向して設けられる橋部と、前記橋部と繋がり前記傾斜部と係合可能に設けられる脚部とを有するスペーサと、
前記橋部に対して鉄筋を前記山頂部の長手方向に沿って保持し、その保持した状態で前記山頂部と平行な水平方向または前記山頂部と直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部と
を備えるスペーサ付きデッキプレート。
【請求項5】
山頂部と谷底部とが傾斜部を介して交互に連なった断面波型形状の波型部を有する波型鋼板からなるデッキプレートと、
前記デッキプレートの前記傾斜部に係合することにより組み付けられ、前記山頂部と対向して設けられる橋部と、前記橋部と繋がり前記傾斜部と係合可能に設けられる脚部とを有するスペーサと、
前記橋部に対して鉄筋を前記山頂部の長手方向に沿って保持し、その保持した状態で前記山頂部と平行な水平方向または前記山頂部と直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部と、
前記回転機構部に回転可能に保持された鉄筋と、
前記デッキプレートの上面に打設されて固化されたコンクリートと
を備える合成スラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機構付きスペーサ、スペーサ付きデッキプレートおよび合成スラブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨造建築物の床構法の過半数を占める標準的工法の床スラブとして、デッキプレートとコンクリートとの合成構造であり、簡易な構成、施工により実現することが可能で強度と靭性に優れたデッキ合成スラブがある。
【0003】
このようなデッキ合成スラブは、従来の鉄筋コンクリートスラブに比べて鉄筋の量を削減することができる等のメリットが存在するが、そのためにコンクリートがひび割れし易いというデメリットも存在している。
【0004】
そのような点から、デッキプレートの上に、コンクリートのひび割れ防止を目的とする溶接金網を配置した状態でコンクリートを打設することにより合成スラブを構築することが一般的に行われている。
【0005】
このような合成スラブにおいては、デッキプレート上面から溶接金網までの高さを確保するため、デッキプレート上にスペーサを配置し、このスペーサ上に溶接金網を載置している。
【0006】
近年、デッキプレート上にスペーサを介して載置した溶接金網を補強する目的で補強用の鉄筋を追加した合成デッキスラブが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-041348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の合成デッキスラブにおいては、補強用の鉄筋を追加する工程が煩雑であるうえ、施工現場で容易に補強用の鉄筋を追加することは困難であった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成でありながら鉄筋を容易かつ確実に精度良く施工し得る施工性に優れた回転機構付きスペーサ、スペーサ付きデッキプレートおよび合成スラブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため本発明の回転機構付きスペーサにおいては、山頂部と谷底部とが傾斜部を介して交互に連なった断面波型形状の波型部を有する波型鋼板からなるデッキプレートの前記傾斜部に係合することにより組み付けられ、前記山頂部と対向して設けられる橋部と、前記橋部と繋がり前記傾斜部と係合可能に設けられる脚部とを有するスペーサと、前記橋部に対して鉄筋を前記山頂部の長手方向に沿って保持し、その保持した状態で前記山頂部と平行な水平方向または前記山頂部と直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部とを備える。
【0011】
本発明において、前記スペーサは、前記橋部に対して鉄筋を載置するために当該橋部と一体に固定され、前記回転機構部と平行に設けられて前記鉄筋を保持する鉄筋受けを更に備えることが好ましい。
【0012】
本発明において、前記回転機構部は、前記デッキプレートの前記山頂部に設けられた溝部からずれた前記橋部の位置に設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明の回転機構付きスペーサにおいては、デッキプレートに取り付けられ又は載置され、平坦な橋部と、前記橋部と繋がって起立する脚部とを有するスペーサと、前記橋部に対して鉄筋を保持しその保持した状態で前記デッキプレートと平行な水平方向または前記デッキプレートと直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部とを備える。
【0014】
本発明のスペーサ付きデッキプレートは、山頂部と谷底部とが傾斜部を介して交互に連なった断面波型形状の波型部を有する波型鋼板からなるデッキプレートと、前記デッキプレートの前記傾斜部に係合することにより組み付けられ、前記山頂部と対向して設けられる橋部と、前記橋部と繋がり前記傾斜部と係合可能に設けられる脚部とを有するスペーサと、前記橋部に対して鉄筋を前記山頂部の長手方向に沿って保持し、その保持した状態で前記山頂部と平行な水平方向または前記山頂部と直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部とを備える。
【0015】
本発明の合成スラブは、山頂部と谷底部とが傾斜部を介して交互に連なった断面波型形状の波型部を有する波型鋼板からなるデッキプレートと、前記デッキプレートの前記傾斜部に係合することにより組み付けられ、前記山頂部と対向して設けられる橋部と、前記橋部と繋がり前記傾斜部と係合可能に設けられる脚部とを有するスペーサと、前記橋部に対して鉄筋を前記山頂部の長手方向に沿って保持し、その保持した状態で前記山頂部と平行な水平方向または前記山頂部と直交する垂直方向へ回転可能な回転機構部と、前記回転機構部に回転可能に保持された鉄筋と、前記デッキプレートの上面に打設されて個化されたコンクリートとを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成でありながら鉄筋を容易かつ確実に精度良く施工し得る施工性に優れた回転機構付きスペーサ、スペーサ付きデッキプレートおよび合成スラブを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの全体構成を示す略線的斜視図である。
図2】本発明の第1の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの全体構成を示す略線的断面図である。
図3】本発明の第1の実施の形態における回転機構付きスペーサの構成を示す略線的断面図である。
図4】本発明の第2の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの構成を示す略線的斜視図である。
図5】本発明の第2の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの全体構成を示す略線的断面図である。
図6】本発明の第2の実施の形態における回転機構付きスペーサの構成を示す略線的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)第1の実施の形態
以下、本発明の第1の実施の形態にかかるスペーサ付きデッキプレートの構成について図1乃至図3を参照しながら詳細に説明する。ここで、図1は、本発明の第1の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの全体構成を示す略線的斜視図である。図2は、本発明の第1の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの全体構成を示す略線的断面図である。図3は、本発明の第1の実施の形態における回転機構付きスペーサの構成を示す略線的断面図である。
【0019】
図1に示すように、スペーサ付きデッキプレート100は、デッキプレート20、スペーサ30、および、回転機構付きスペーサ30Sが一体となって構成されており、互いに対向配置された例えばH型鋼からなる梁と梁との間にデッキプレート20が架け渡される。回転機構付きスペーサ30Sは、基本構造がスペーサ30と同じであるが、後述する回転機構部40を有している点が相違する。
【0020】
図2に示すように、デッキプレート20は、薄板状の鋼板をプレス加工等することによって形成された波型鋼板である。なお、鋼板には亜鉛メッキ等の表面処理が施されていても良い。デッキプレート20は、山頂部分に位置する平坦な面を持つ山頂部21と、当該山頂部21と平行又は略平行であり谷底部分に位置する平坦な面を持つ1対の谷底部22と、山頂部21と谷底部22とを連結し所定角度に傾斜した傾斜面を持つ1対の傾斜部23とを有している。
【0021】
この場合、デッキプレート20は、1つの山頂部21、1対の谷底部22、および、1対の傾斜部23からなるプレート単体の端部同志を長手方向および短手方向において複数連結することにより形成される。図2においては、デッキプレート20のプレート単体のみが表示されている。
【0022】
デッキプレート20のプレート単体では、1つの山頂部21と、1対の谷底部22と、1対の傾斜部23とからなる断面波型形状の波型部24を有している。ただし、これに限るものではなく、デッキプレート20のプレート単体としては、2対の谷底部22と、2つの山頂部21と2対の傾斜部23からなる2つの波型部24が連続した断面波型形状を有していてもよい。さらに、デッキプレート20としては、長手方向の両端部に対して、いわゆるエンドクローズ加工が施されていてもよい。
【0023】
デッキプレート20の山頂部21には、当該山頂部21の強度を向上させるべく、そのほぼ中央に長手方向に沿って僅かに下方に凹んだ凹状の1つの溝部21mが形成されている。なお、溝部21mは、山頂部21に1つ形成されている場合に限らず、その他の数だけ形成されていてもよい。因みに、デッキプレート20の山頂部21において溝部21mが形成されている必要は必ずしもない。
【0024】
デッキプレート20の1対の傾斜部23における下方端部には、当該傾斜部23と谷底部22とが連結される部分の近傍において、波型部24(1つの山頂部21、一対の谷底部22および1対の傾斜部23)の外側すなわち波型部24が形成する内側空間とは反対の外側へ向かって断面山型形状に僅かに突出した突部23cが形成されている。
【0025】
この傾斜部23の突部23cは、後述するスペーサ30および回転機構付きスペーサ30Sをデッキプレート20に係合して一体に取り付ける際に用いられる係合部分であり、その形状は断面山型形状に限らず、係合可能な形状であれば任意の形状であってよい。
【0026】
突部23cは、傾斜部23と谷底部22とが連結される部分の近傍に形成されているが、これに限るものではなく、傾斜部23と山頂部21とが連結される部分の近傍や、傾斜部23の中腹近傍に形成されていてもよい。
【0027】
デッキプレート20には、スペーサ30、および、回転機構付きスペーサ30Sが一体に取り付けられている。例えば、この場合ではスペーサ30と回転機構付きスペーサ30Sとが交互に一定の間隔でデッキプレート20に取り付けられている。ただし、これに限らず、全て回転機構付きスペーサ30Sが一定の間隔でデッキプレート20に取り付けられていてもよく、また例えば3本のスペーサ30毎に回転機構付きスペーサ30Sがデッキプレート20に取り付けられていてもよい。
【0028】
次にスペーサ30および回転機構付きスペーサ30Sの構成について説明するが、スペーサ30には鉄筋受け35が一体に設けられているのに対し、回転機構付きスペーサ30Sには鉄筋受け35に加えて回転機構部40が一体に設けられている点が相違するだけである。したがって、ここでは回転機構付きスペーサ30Sの構成について説明することにより、スペーサ30の構成についても説明したものとする。
【0029】
回転機構付きスペーサ30Sは、スペーサ30、鉄筋受け35、および、回転機構部40を有している。スペーサ30は、棒型鋼(鉄筋)を屈曲加工して形成されたものであり、デッキプレート20の形状に合わせて下方の底辺が存在しない台形状を有している。スペーサ30は、デッキプレート20の傾斜部23の突部23cと係合することにより一体に組み付けられる。
【0030】
スペーサ30は、デッキプレート20の山頂部21と対向して設けられた棒状かつ直線状の橋部31と、当該橋部31と繋がりデッキプレート20の傾斜部23と係合可能に設けられた棒状の脚部32とを有している。
【0031】
スペーサ30の橋部31は、デッキプレート20の山頂部21と平行かつ当該山頂部21よりも僅かに長く形成された棒状部分である。スペーサ30の橋部31は、回転機構付きスペーサ30Sがデッキプレート20に取り付けられた際、デッキプレート20の山頂部21と当接することなく僅かに上方へ離間した位置に配置される。
【0032】
スペーサ30における1対の脚部32は、デッキプレート20の傾斜部23とほぼ平行になるように、橋部31の両側端部から外側かつ下方へ向かって延びた棒状部分である。脚部32は、デッキプレート20の傾斜部23の突部23cと係合可能にその先端部分が所定の角度に折り曲げられた屈曲部32cを有している。
【0033】
また、脚部32は、その長さがデッキプレート20の傾斜部23よりも僅かに長く形成されている。したがって、脚部32の屈曲部32cがデッキプレート20の傾斜部23の突部23cと係合して係止された状態において、橋部31がデッキプレート20の山頂部21から上方へ離間した位置に配置される。
【0034】
したがって、スペーサ30の橋部31とデッキプレート20の山頂部21の溝部21mとの間には空間が形成されるため、施工時には作業者がその空間に指を差し込むことができる。これにより作業者は、スペーサ30の橋部31をスペーサ付きデッキプレート100を持ち運ぶ際の持ち手とすることができる。
【0035】
また、スペーサ30の脚部32はデッキプレート20の傾斜部23の上方端部と部分的に当接されるため、回転機構付きスペーサ30Sがデッキプレート20に一体に取り付けられた場合に倒れることなく維持される。
【0036】
さらに、スペーサ30の橋部31には、鉄筋受け35および回転機構部40が溶接等によって固定されている。回転機構付きスペーサ30Sは、スペーサ30の橋部31に鉄筋受け35および回転機構部40が一体に固定されることにより形成される。
【0037】
スペーサ30の橋部31に固定された鉄筋受け35と回転機構部40とは、互いに一定の間隔を開けて配置されており、この場合、鉄筋受け35と回転機構部40との間にデッキプレート20の山頂部21の溝部21mが位置付けられる。すなわち、スペーサ30の橋部31に固定された鉄筋受け35および回転機構部40は、デッキプレート20の山頂部21の溝部21mから所定の距離だけずれた位置に配置されている。
【0038】
鉄筋受け35は、スペーサ30とほぼ同じ太さまたは僅かに細い棒型鋼(鉄筋)を屈曲加工することにより断面略U字状に形成されている。鉄筋受け35は、スペーサ30の橋部31に対して溶接等により一体に固定されている。鉄筋受け35は、補強用の鉄筋50を嵌合によって強固に保持可能な当該鉄筋50の直径と同一または僅かに小さな鉄筋保持幅となっている。
【0039】
図3に示すように、回転機構部40は、立方体形状または直方体形状からなる本体部41、および、当該本体部41に対して水平方向へ回転自在に支持された回転部42を有する。本体部41および回転部42は、金属製であり、本体部41がスペーサ30の橋部31に対して溶接等により一体に固定されている。
【0040】
回転部42は、回転軸42aと、略U字状の回転保持部42bとが一体に形成されている。回転部42の回転軸42aは、本体部41の中央に設けられた貫通孔に挿入され、その貫通孔に取り付けられた軸受(図示せず)によって回転自在に軸支されている。
【0041】
回転部42の回転保持部42bは、回転軸42aの上方端部に取り付けられており、本体部41の上面から突出した状態で回転軸42aと一体化されている。回転保持部42bは、補強用の鉄筋51を強固に保持可能な当該鉄筋51の直径と同一または僅かに小さな鉄筋保持幅を有している。
【0042】
補強用の鉄筋50および鉄筋51は、例えば鋼を圧延して表面にリブや節と呼ばれる凹凸の突起を設けた異形鉄筋である。ただし、これに限らず、補強用の鉄筋50および鉄筋51としては、例えば丸鋼や角鋼等のその他種々の形状および種類の鉄筋を用いるようにしてもよい。なお、鉄筋50と鉄筋51とは同じ種類かつ同一径である必要はなく、互いに異なる種類および異なる直径であってもよい。
【0043】
したがって、回転機構部40は、スペーサ30の橋部31に固定された本体部41に対して回転部42の回転保持部42bが補強用の鉄筋51を保持した状態のままデッキプレート20の山頂部21の平坦面と平行な水平方向(矢印X方向)へ回転可能となる。
【0044】
回転機構部40は、スペーサ付きデッキプレート100の工場出荷時において、図1に示したように、補強用の鉄筋51をデッキプレート20の山頂部21の長手方向に沿った状態で保持している。
【0045】
その後、施工現場においては、回転機構部40は、本体部41に対して回転部42の回転保持部42bを約90度回転させることにより、補強用の鉄筋51をデッキプレート20の山頂部21の長手方向とは直交する短手方向すなわち橋部31に沿うように配置することが可能となる。ここで、回転機構部40は、回転機構部40の回転保持部42bを90度回転させた位置で固定するために所定のストッパ(図示せず)が取り付けられていることが好ましい。
【0046】
以上の構成において、スペーサ付きデッキプレート100は、回転機構付きスペーサ30Sをデッキプレート20に対して一体に取り付けることができる。このとき、回転機構付きスペーサ30Sは、スペーサ30の脚部32の屈曲部32cをデッキプレート20の傾斜部23の突部23cに係合するだけで、倒れることのない安定した状態で容易に取り付けることができる。
【0047】
その取付状態において、回転機構付きスペーサ30Sは、スペーサ30の橋部31に固定された鉄筋受け35に補強用の鉄筋50を押し込んで強固に保持させる。その後、回転機構部40の回転部42の回転保持部42bに対して補強用の鉄筋51を押し込んで強固に保持させる。
【0048】
このとき、鉄筋51がデッキプレート20の山頂部21の長手方向に沿うように回転保持部42bを回転させておき、補強用の鉄筋50と補強用の鉄筋51とを互いに平行な状態に配置する。すなわち、鉄筋50、51は図1のように互いに平行な配置状態となる。
【0049】
これにより、作業者が工場出荷時においてスペーサ付きデッキプレート100を搬送する際に、補強用の鉄筋50および鉄筋51が搬送の邪魔になることがなく、安全かつ容易に搬送可能となる。
【0050】
施工現場においては、作業者は、回転機構部40の回転部42の回転保持部42bを本体部41に対して約90度回転させることにより、回転保持部42bとともに補強用の鉄筋51をデッキプレート20の山頂部21の長手方向とは直交する短手方向へ向けてスペーサ30の橋部31と平行に配置することができる。
【0051】
すなわち、施工現場において作業者は、デッキプレート20の山頂部21に対し回転機構付きスペーサ30Sの鉄筋受け35を介して、補強用の鉄筋50を長手方向に配置することに加えて、回転機構部40を介して補強用の鉄筋51を短手方向に配置した状態を容易に形成することができる。
【0052】
かくしてスペーサ付きデッキプレート100は、長手方向に固定した状態で配置した補強用の鉄筋50、および、短手方向に配置変更した補強用の鉄筋51によって格子状の補強部を構築することができるので、従来に比して容易かつ簡単、確実に合成スラブを補強することができる。
【0053】
その後、溶接金網を載置したデッキプレート20の上面にコンクリートを打設して固化させることによりスペーサ付きデッキプレート100を用いた合成スラブを形成することができる。
【0054】
(2)第2の実施の形態
以下、本発明の第2の実施の形態にかかるスペーサ付きデッキプレートの構成について図4乃至図6を参照しながら詳細に説明する。ここで、図4は、本発明の第2の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの構成を示す略線的斜視図である。図5は、本発明の第2の実施の形態におけるスペーサ付きデッキプレートの全体構成を示す略線的断面図である。図6は、本発明の第2の実施の形態における回転機構付きスペーサの構成を示す略線的断面図である。
【0055】
図1との対応部分に同一符号を付した図4に示すように、スペーサ付きデッキプレート200は、デッキプレート20、スペーサ30、および、回転機構付きスペーサ30Vが一体となって構成されており、互いに対向配置された例えばH型鋼からなる梁と梁との間にデッキプレート20が架け渡される。回転機構付きスペーサ30Vは、基本構造がスペーサ30と同じであるが、後述する回転機構部60を有している点が相違する。
【0056】
デッキプレート20については、第1の実施の形態と同じ構成であるため、ここではその説明を省略する。回転機構付きスペーサ30Vは、第1の実施の形態における回転機構付きスペーサ30Sと基本構成は同様であるが、第1の実施の形態における回転機構部40に代えて回転機構部60が橋部31に固定されている点が異なり、その他の橋部31、脚部32および鉄筋受け35の構成は共通である。
【0057】
図5および図6に示すように、回転機構部60は、あたかも第1の実施の形態における回転機構部40を90度倒したような構成である。この回転機構部60においても、立方体形状または直方体形状からなる本体部61、および、当該本体部61に対して図中左側(すなわち鉄筋受け35とは反対側)の側面上で回転自在に支持された回転部62を有する。本体部61および回転部62は、金属製であり、本体部61がスペーサ30の橋部31に対して溶接等により一体に固定されている。
【0058】
回転部62は、回転軸62aと、略U字状の回転保持部62bとが一体に形成されている。回転部62の回転軸62aは、本体部61の側面中央に対し橋部31に沿って水平に設けられた貫通孔に挿入され、その貫通孔に取り付けられた軸受(図示せず)により橋部31とは直交する垂直方向(矢印Y方向)に対して回転自在に軸支されている。
【0059】
回転部62の回転保持部62bは、回転軸62aの左側端部に取り付けられており、本体部61の側面から外側へ突出した状態で一体に固定されている。回転保持部62bは、補強用の鉄筋51を強固に保持可能な当該鉄筋51の直径と同一または僅かに小さな鉄筋保持幅を有している。
【0060】
したがって、回転機構部60は、スペーサ30の橋部31に固定された本体部61に対して回転部62の回転保持部62bが補強用の鉄筋51を保持した状態のまま橋部31とは直交する垂直方向(矢印Y方向)へ回転可能である。
【0061】
回転機構部60は、スペーサ付きデッキプレート200の工場出荷時において、図4に示したように、補強用の鉄筋51の端部がデッキプレート20の山頂部21と平行で、かつ、山頂部21の端部から破線で示すように外側へ突出することのないように保持している。
【0062】
その後、施工現場においては、作業者は、本体部61に対して回転機構部60の回転保持部62bを橋部31とは直交する垂直方向(矢印Y方向)に約180度回転させる。これにより、回転機構部60は、補強用の鉄筋51をデッキプレート20の山頂部21の端部から外側へ突出するように配置し直すことが可能となる。ここで、回転機構部60は、回転機構部60の回転保持部62bを180度回転させた位置で固定するための所定のストッパ(図示せず)が取り付けられていることが好ましい。
【0063】
以上の構成において、スペーサ付きデッキプレート200は、回転機構付きスペーサ30Vをデッキプレート20に対して一体に取り付けることができる。このとき、回転機構付きスペーサ30Vは、スペーサ30の脚部32の屈曲部32cをデッキプレート20の傾斜部23の突部23cに係合するだけで倒れることのない安定した状態に容易に取り付けることができる。
【0064】
その取付状態において、回転機構付きスペーサ30Vはスペーサ30の橋部31に固定された鉄筋受け35に補強用の鉄筋50を押し込んで強固に保持させる。その後、回転機構部60の回転部62の回転保持部62bに対して補強用の鉄筋51を押し込んで強固に保持させる。
【0065】
このとき、鉄筋51がデッキプレート20の山頂部21と平行で、かつ、山頂部21の端部から外側へ突出することのないように回転保持部62bを回転させておき、鉄筋50と鉄筋51とを互いに平行な状態に配置する。すなわち、補強用の鉄筋50および鉄筋51は、図4に示したように互いに平行に配置された状態となる。
【0066】
これにより、作業者が工場出荷時においてスペーサ付きデッキプレート200を搬送する際に、補強用の鉄筋51が搬送の邪魔になることがなく、安全かつ容易に搬送可能となる。
【0067】
施工現場においては、作業者は、回転機構部60の回転部62の回転保持部62bをデッキプレート20の山頂部21の平坦面とは直交する垂直方向(矢印Y方向)へ約180度回転させることにより、図1に示したようにデッキプレート20の山頂部21の端部から補強用の鉄筋51を部分的に外側へ突出した状態に配置し直すことができる。
【0068】
すなわち、デッキプレート20の山頂部21に対し回転機構付きスペーサ30Vを介して補強用の鉄筋50を長手方向に配置することに加えて、補強用の鉄筋51をデッキプレート20の山頂部21の端部から外側へ突出するように配置することができる。
【0069】
かくしてスペーサ付きデッキプレート200は、デッキプレート20同志を長手方向に連結させた際、補強用の鉄筋51と長手方向において隣り合うデッキプレート20の鉄筋50とを同一方向に沿ってあたかも連続するかのように配置することができる。
【0070】
この結果、複数のデッキプレート20を長手方向に連結させた際、同一方向に沿って途切れることなく鉄筋50および鉄筋51を連続させることができ、かつ、その上に溶接金網(図示せず)を載置することができるので、合成スラブを十分に補強することができる。
【0071】
その後、溶接金網を載置したデッキプレート20の上面にコンクリートを打設して固化させることによりスペーサ付きデッキプレート200を用いた合成スラブを形成することができる。
【0072】
(3)他の実施の形態
なお、第1および第2の実施の形態においては、上述したような構成の回転機構部40、60を用いるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、他の種々の構成からなる回転機構部を用いるようにしてもよい。
【0073】
また、上述した第1および第2の実施の形態においては、断面波型形状の波型部24を有する波型鋼板からなるデッキプレート20を適用対象とするようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、平坦な面に取り付けられ又は載置され、平坦な橋部と、当該橋部と繋がって起立する脚部とを有するスペーサであれば、波型鋼板からなるデッキプレート以外のフラットな面を有する鋼板を適用対象とするようにしてもよい。
【0074】
なお、その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明のスペーサ付きデッキプレート100、200を適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0075】
100,200……スペーサ付きデッキプレート、20……デッキプレート、21……山頂部、22……谷底部、23……傾斜部、24……波型部、30……スペーサ、30S,30V……回転機構付きスペーサ、31……橋部、32……脚部、35……鉄筋受け、40,60……回転機構部、41,61……本体部、42,62……回転部、42a,62a……回転軸、42b,62b……回転保持部、50,51……鉄筋。
図1
図2
図3
図4
図5
図6