(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20241204BHJP
【FI】
B23K26/21 A
(21)【出願番号】P 2021049528
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】坂井 哲男
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-191090(JP,A)
【文献】国際公開第2020/246618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム
の組成比が90wt%以上である被溶接部材を準備し、
前記被溶接部材の表面の溶接領域に酸素を含むガスを供給した状態で前記溶接領域にレーザを照射して前記溶接領域を溶接し、
前記ガスにおける前記酸素の濃度は、1.5vol%以上10vol%以下であり、
前記レーザが照射された後の前記溶接領域は酸化アルミニウムを含
み、
前記レーザの波長は、450nm以上1090nm以下であり、
前記レーザの出力は、500W以上20,000W以下であり、
前記表面に沿う面内で、前記被溶接部材と前記レーザとの間の相対的な位置を変化させ、
前記変化の速度は、50mm/s以上2,000mm/s以下である、溶接方法。
【請求項2】
前記ガスは、窒素及びアルゴンよりなる群から選択された少なくとも1つをさらに含む、請求項1記載の溶接方法。
【請求項3】
空気と酸素とを混合して前記ガスを準備することをさらに行う、請求項1記載の溶接方法。
【請求項4】
前記ガスにおける前記酸素の前記濃度は、2.7vol%以上である、請求項1~
3のいずれか1つに記載の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電池などの筐体が溶接により製造される。溶接において、品質の向上が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、品質を向上できる溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、溶接方法は、アルミニウムを含む被溶接部材を準備することを含む。前記溶接方法は、前記被溶接部材の表面の溶接領域に酸素を含むガスを供給した状態で前記溶接領域にレーザを照射して前記溶接領域を溶接することを含む。前記ガスにおける前記酸素の濃度は、1.5vol%以上10vol%以下である。前記レーザが照射された後の前記溶接領域は酸化アルミニウムを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る溶接方法を例示する模式的斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る溶接方法を例示するフローチャート図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、溶接状態を例示する模式図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、溶接状態を例示する模式図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、溶接状態を例示する模式図である。
【
図6】
図6(a)~
図6(c)は、溶接の評価結果を例示するグラフ図である。
【
図7】
図7(a)~
図7(i)は、溶接状態を例示する写真像である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る溶接方法を例示する模式的斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る溶接方法を例示するフローチャート図である。
図1に示すように、実施形態に係る溶接方法においては、被溶接部材50にガス20を供給した状態で、被溶接部材50にレーザ10を照射する。実施形態に係る溶接方法は、例えば、溶接装置110を用いて行われる。
【0009】
溶接装置110は、例えば、レーザ出射部10L、照射ヘッド10H、ガス供給部20s、駆動部75、及び、制御部70などを含んでも良い。レーザ出射部10Lはレーザ10(レーザ光)を出射させる。レーザ10は、照射ヘッド10Hを介して、被溶接部材50に照射される。例えば、照射ヘッド10Hは、ガス供給部20sを支持する。ガス供給部20sから、ガス20が被溶接部材50に向けて供給される。駆動部75は、照射ヘッド10Hと被溶接部材50との間の相対的な位置を変更可能である。駆動部75は、照射ヘッド10Hを走査可能である。制御部70は、レーザ出射部10L、照射ヘッド10H、ガス供給部20s及び駆動部75の少なくともいずれかを制御する。
【0010】
例えば、被溶接部材50は、アルミニウムを含む。被溶接部材50は、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn、Ti、V、Bi、Pb及びZrよりなる群から選択された少なくとも1つをさらに含んでも良い。被溶接部材50におけるアルミニウムの組成比は、90wt%以上である。例えば、被溶接部材50の複数の部分が、溶接されて接合される。
【0011】
被溶接部材50の表面50sの少なくとも一部に沿う面をX-Y平面とする。X-Y平面に対して垂直な方向をZ軸方向とする。例えば、照射ヘッド10Hは、表面50sに沿う面内(X-Y平面内)で、方向ARに沿って被溶接部材50に対して走査される。走査において、照射ヘッド10Hが移動しても良く、被溶接部材50が移動しても良い。方向ARは、例えば、X軸方向である。
【0012】
実施形態においては、被溶接部材50の表面50sの溶接領域50rに酸素を含むガス20を供給した状態で、溶接領域50rにレーザ10が照射される。これにより、溶接領域50rが溶接される。
【0013】
ガス20は、酸素21を含む。他のガス22をさらに含む。他のガス22は、例えば、窒素及びアルゴンよりなる群から選択された少なくとも1つを含む。他のガス22は、空気でも良い。
【0014】
実施形態において、ガス20における酸素21の濃度は、1.5vol%以上10vol%以下である。他のガス22が空気である場合、空気に含まれる酸素の成分も含めて、酸素21の濃度として算出される。このような酸素21の濃度のときに、良好な溶接が可能であることが分かった。本願明細書及び図面において、ガスの濃度に関して、「vol%」が「%」と省略される場合がある。
【0015】
図2に示すように、実施形態に係る溶接方法は、アルミニウムを含む被溶接部材50を準備すること(ステップS110)を含む。
【0016】
図2に示すように、実施形態に係る溶接方法は、被溶接部材50の表面50sの溶接領域50rに酸素21を含むガス20を供給した状態で、溶接領域50rにレーザ10を照射して溶接領域50rを溶接すること(ステップS120)を含む。実施形態において、ガス20における酸素21の濃度は、1.5vol%以上10vol%以下である。
【0017】
実施形態に係る溶接方法は、他のガス22と酸素21とを混合してガス20を準備することをさらに行っても良い。
【0018】
以下、溶接の状態の例について説明する。
図3(a)及び
図3(b)は、溶接状態を例示する模式図である。
これらの図において、ガス20は、酸素21を含まない。ガス20は、実質的に窒素だけを含む。ガス20における酸素21の濃度C1は、0.0vol%である。
図3(a)は、溶接中の溶接領域50rの光学顕微鏡写真像である。
図3(b)は、光学顕微鏡観察結果を基に描かれた模式図である。ガス20の流量は、30L/分(リットル/分)である。
【0019】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、溶接領域50rにおいて、レーザ10の照射により液状となった被溶接部材50の波55が生じる。波55は、端部55aからキーホール56に向かって移動する。移動は、例えば、マランゴニ対流に基づくと考えられる。波55の一部は、キーホール56の一部を覆う。波55がキーホール56の一部に入ると、液面の振動により、キーホール56の形状が乱れる。多重反射したレーザ10がキーホール56の内側に照射され、液状の被溶接部材50が、蒸気圧により飛散する。例えば、スパッタが生じる。これにより、溶接が不安定となる。溶接欠陥が発生し易い。例えば、溶接の品質が低くなりやすい。
【0020】
図4(a)及び
図4(b)は、溶接状態を例示する模式図である。
これらの図において、ガス20は、酸素21と窒素とを含む。ガス20における酸素21の濃度C1は、10.0vol%である。
図4(a)は、溶接中の溶接領域50rの光学顕微鏡写真像である。
図4(b)は、光学顕微鏡観察結果を基に描かれた模式図である。ガス20の流量は、30L/分である。
【0021】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、溶接領域50rにおいて、レーザ10の照射により液状となった被溶接部材50の波55の移動は僅かである。例えば、マランゴニ対流が実質的に生じない。このため、波55の一部が、キーホール56の一部を覆うことが抑制される。スパッタが抑制される。これにより、溶接が安定になる。溶接欠陥が抑制できる。例えば、高品質の溶接が得られる。
【0022】
上記のように、ガス20が酸素21を含む場合に波55の移動が抑制される。波55の移動が抑制されるのは、被溶接部材50に含まれるアルミニウムの一部が酸素21により酸化されることが原因であると考えられる。酸化アルミニウムの融点が高いため、液状の被溶接部材50の移動が抑制できると考えられる。
【0023】
このように、実施形態においては、ガス20が酸素21を含むことで、波55の移動が抑制できる。例えば、レーザ10が照射された後の溶接領域50rは酸化アルミニウムを含む。実施形態によれば、品質を向上できる溶接方法が提供できる。
【0024】
例えば、参考例として、鉄を主成分とする鋼材の溶接において、酸素を含むシールドガスを用いて溶接することが提案されている。参考例においては、溶接後の熱処理を省略すること、または、溶融金属の流動性を向上させることが目的である。
【0025】
これに対して、実施形態においては、アルミニウムを含む被溶接部材50の溶接が行われる。一般に、アルミニウムを含む材料を溶接する場合に、酸素を含むガスを用いることは、行われない。これは、酸素によりアルミニウムを含む材料が酸化され、特性が変化することが考えられ、酸化が避けるべきであると考えられていたからである。
【0026】
実施形態においては、アルミニウムを含む材料を溶接する場合に、一般には行われない酸素21を含むガス20が用いられる。例えば、アルミニウムの酸化が安定した溶接のために利用される。これにより、上記のように、安定な溶接が可能なる。酸素21を含むガス20により、波55の移動を抑制するという新しい効果が利用される。この効果は、鋼材の溶接において酸素を含むシールドガスを用いる場合の効果とは異なる効果である。
【0027】
実施形態において、酸素21の濃度が過度に高いと、特性が劣化する。このため、ガス20における酸素21の濃度C1は、10vol%以下とする。これにより、過度な酸化が抑制され、良好な品質の溶接が得られる。以下、酸素21の濃度C1の例について説明する。
【0028】
図5(a)及び
図5(b)は、溶接状態を例示する模式図である。
これらの図は、溶接後における被溶接部材50の顕微鏡観察像を例示している。
図5(a)において、酸素の濃度C1は、4.0vol%である。
図5(b)において、酸素の濃度C1は、20.0vol%である。
【0029】
図5(a)に示すように、酸素の濃度C1が4.0vol%の場合、波55の跡が明確に観察される。複数の波55は、X軸方向に沿って並ぶ。X軸方向は、走査方向(方向AR:
図1参照)に沿っている。酸素の濃度C1が4.0vol%においては、良好な溶接が得られる。
【0030】
図5(b)に示すように、酸素の濃度C1が20.0vol%の場合、波55の跡が実質的に観察されない。ランダムな凹凸が観察される。酸素の濃度C1が20.0vol%においては、溶接不良が発生することが分かった。酸素の濃度C1が過度に高いことが原因であると考えられる。
【0031】
図6(a)~
図6(c)は、溶接の評価結果を例示するグラフ図である。
図7(a)~
図7(i)は、溶接状態を例示する写真像である。
図7(a)~
図7(i)に示すように、酸素の濃度C1が変化すると、溶接部分の状態が変化する。
図6(a)~
図6(c)の横軸は、ガス20における酸素21の濃度C1である。
図6(a)の縦軸は、溶接における欠陥発生度DF1である。欠陥発生度DF1は、1.6mの溶接の長さにおいて発生する欠陥の数である。
図6(a)に示すように、酸素21の濃度C1が10vol%以下の領域において、濃度C1が上昇すると、欠陥発生度DF1は小さくなる。濃度C1が20.0vol%の場合、溶接の多くの位置で溶接不良が発生する。酸素21の濃度C1は、1.5vol%以上であることが好ましい。溶接不良を低減できる。
【0032】
図6(b)の縦軸は、酸化に関する第1パラメータP1である。酸化の程度により、溶接部分の光学的特性(色または反射率)が変化する。この例においては、第1パラメータP1は、被溶接部材50の表面50s(
図1参照)に対して傾斜した方向における光反射率に対応する。第1パラメータP1が小さいときに酸化の程度が低い。第1パラメータP1が大きいときに酸化の程度が高い。
図6(b)に示すように、酸素21の濃度C1が2.7vol%以上において、第1パラメータP1が大きくなる。酸素21の濃度C1が2.7vol%以上において、酸化が進行すると考えられる。濃度C1が20.0vol%のときは、過度な酸化が発生していると考えられる。実施形態において、濃度C1は、1.5vol%以上10vol%以下であることが好ましい。溶接が安定になる。溶接欠陥が抑制できる。例えば、高品質の溶接が得られる。
【0033】
図6(c)の縦軸は、複数の波55に関する第2パラメータP2である。既に説明したように、良好な溶接が得られるときに、複数の波55は、走査方向に沿って並ぶ(
図5(a)参照)。第2パラメータP2は、複数の波55の配列の均一性に関係する。第2パラメータP2は、溶接領域50rに形成される複数の凹凸(波55)の走査方向に沿う間隔の揺らぎに対応する。
図6(c)に示すように、濃度C1が低いと、第2パラメータP2は小さい。濃度C1が大きくなると、第2パラメータP2は大きくなる。例えば、
図5(b)に関して説明したように、濃度C1が20.0vol%のときはランダムな凹凸が観察される。この場合、第2パラメータP2は非常に大きくなる。実施形態において、第2パラメータP2は、20%以下であることが好ましい。
【0034】
このように、実施形態に係る溶接方法においては、表面50sに沿う面内で、被溶接部材50とレーザ10との間の相対的な位置を第1方向(X軸方向であり、方向AR)に沿って変化(走査)させる。この例では、溶接領域50rに形成される複数の凹凸(波55)の第1方向に沿う間隔の揺らぎは、20%以下であることが好ましい。溶接が安定になる。溶接欠陥が抑制できる。例えば、高品質の溶接が得られる。
図6(c)から、濃度C1は、10vol%以下であることが好ましい。
【0035】
実施形態に係る1つの例において、レーザ10の波長は、例えば、450nm以上1090nm以下である。1つの例において、レーザ10の出力は、例えば、500W以上20,000W以下である。1つの例において、被溶接部材50とレーザ10との間の相対的な位置を変化(走査)の速度(走査速度)は、例えば、50mm/s以上2,000mm/s以下である。
【0036】
(第2実施形態)
第2実施形態は、溶接装置110に係る。
図1に関して説明したように、溶接装置110は、例えば、レーザ出射部10L、照射ヘッド10H、ガス供給部20s、駆動部75、及び、制御部70などを含む。溶接装置110において、第1実施形態に関して説明した溶接方法が実施される。品質を向上できる溶接装置が提供できる。
【0037】
実施形態によれば、品質を向上できる溶接方法を提供できる。
【0038】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、溶接方法で用いられるレーザなどの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0039】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0040】
その他、本発明の実施の形態として上述した品質を向上できる溶接方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての品質を向上できる溶接方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0041】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
10…レーザ、 10H…照射ヘッド、 10L…レーザ出射部、 20…ガス、 20s…ガス供給部、 21…酸素、 22…他のガス、 50…被溶接部材、 50s…表面、 55…波、 55a…端部、 56…キーホール、 70…制御部、 75…駆動部、 110…溶接装置、 AR…方向、 C1…濃度、 DF1…欠陥発生度、 P1、P2…第1、第2パラメータ