(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】窒化ホウ素繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/08 20060101AFI20241204BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
D01F9/08 Z
C01B21/064 G
(21)【出願番号】P 2021054892
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】宮田 建治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道治
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-167329(JP,A)
【文献】特開2006-240942(JP,A)
【文献】特開2004-148214(JP,A)
【文献】特開2009-155176(JP,A)
【文献】特開2022-152054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C04B 35/583 - 35/5835
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素基材、前記窒化ホウ素基材上に配置された容器、及び前記容器内に収容されたホウ酸を反応器内に配置する工程と、
前記反応器内に窒素ガス及びアンモニアガスを通気しながら、前記反応器を1450~1800℃で加熱して、前記窒化ホウ素基材上に窒化ホウ素繊維を生成する工程と、を備え、
前記窒素ガスの通気量が、前記ホウ酸1gに対して、0.1~2.0L/minであり、
前記アンモニアガスの通気量が、前記ホウ酸1gに対して、0.05~1.0L/minである、窒化ホウ素繊維の製造方法。
【請求項2】
一端から他端に向けて延びる主部と、前記主部から分岐する分岐部とを有する、窒化ホウ素繊維。
【請求項3】
前記主部の長さが50μm以上である、請求項2に記載の窒化ホウ素繊維。
【請求項4】
前記主部の径が1μm以上である、請求項2又は3に記載の窒化ホウ素繊維。
【請求項5】
前記主部の径が30μm以下である、請求項2又は3に記載の窒化ホウ素繊維。
【請求項6】
前記主部のアスペクト比が10以上である、請求項2~5のいずれか一項に記載の窒化ホウ素繊維。
【請求項7】
前記分岐部の長さが10μm以上である、請求項2~6のいずれか一項に記載の窒化ホウ素繊維。
【請求項8】
前記窒化ホウ素繊維が、空隙率が5%以下である断面を有する、請求項2~7のいずれか一項に記載の窒化ホウ素繊維。
【請求項9】
前記窒化ホウ素繊維が、前記窒化ホウ素繊維の径方向に重なる複数の層で構成された多層構造を有する、請求項2~8のいずれか一項に記載の窒化ホウ素繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性を有しており、固体潤滑材、離型材、化粧料の原料、放熱材、並びに、耐熱性を有する絶縁性焼結体等の種々の用途に利用されている。
【0003】
窒化ホウ素としては、鱗片状の窒化ホウ素粒子、窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子、窒化ホウ素繊維等が知られている。窒化ホウ素繊維としては、ホウ酸と、ジオール、トリオールおよびポリオールから選ばれた少なくとも1種以上と、フェノール類とを反応させて得られた、ホウ素-酸素-炭素結合を含む高分子化合物よりなる繊維を窒素元素を含むガスの存在下で焼成することを特徴とする製造方法で得られることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の主な目的は、新たな窒化ホウ素繊維及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、窒化ホウ素基材、窒化ホウ素基材上に配置された容器、及び容器内に収容されたホウ酸を反応器内に配置する工程と、反応器内に窒素ガス及びアンモニアガスを通気しながら、反応器を1450~1800℃で加熱して、窒化ホウ素基材上に窒化ホウ素繊維を生成する工程と、を備え、窒素ガスの通気量が、ホウ酸1gに対して、0.1~2.0L/minであり、アンモニアガスの通気量が、ホウ酸1gに対して、0.05~1.0L/minである、窒化ホウ素繊維の製造方法である。
【0007】
本開示の他の一側面は、一端から他端に向けて延びる主部と、主部から分岐する分岐部とを有する、窒化ホウ素繊維である。
【0008】
上記主部の長さは、50μm以上であってよい。
【0009】
上記主部の径は、1μm以上であってよい。
【0010】
上記主部の径は、30μm以下であってよい。
【0011】
上記主部のアスペクト比は、10以上であってよい。
【0012】
上記分岐部の長さは、10μm以上であってよい。
【0013】
窒化ホウ素繊維は、空隙率が5%以下である断面を有していてもよい。
【0014】
窒化ホウ素繊維は、窒化ホウ素繊維の径方向に重なる複数の層で構成された多層構造を有してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、新たな窒化ホウ素繊維及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】窒化ホウ素繊維の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】実施例1の窒化ホウ素繊維のX線回折測定結果のグラフである。
【
図3】実施例1の窒化ホウ素繊維のデジタルマイクロスコープを用いた観察画像である。
【
図4】実施例1の窒化ホウ素繊維の主部から分岐部が分岐する箇所のデジタルマイクロスコープを用いた観察画像である。
【
図5】実施例2の窒化ホウ素繊維のデジタルマイクロスコープを用いた観察画像である。
【
図6】実施例1の窒化ホウ素繊維と樹脂との混合物の硬化物の断面のSEM画像である。
【
図7】実施例1の窒化ホウ素繊維の径方向に沿った断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本開示の一実施形態に係る窒化ホウ素繊維の製造方法は、窒化ホウ素基材、窒化ホウ素基材上に配置された容器、及び容器内に収容されたホウ酸を反応器内に配置する工程(配置工程)と、反応器内に窒素ガス及びアンモニアガスを通気しながら、反応器を1450~1800℃で加熱して、窒化ホウ素基材上に窒化ホウ素繊維を生成する工程(生成工程)と、を備える。
【0019】
配置工程で用いられる窒化ホウ素基材は、例えば、窒化ホウ素で形成された板状の基材であってよい。窒化ホウ素基材における窒化ホウ素の純度は、例えば95質量%以上であってよく、100質量%(実質的に基材が窒化ホウ素からなる態様)でもあってもよい。窒化ホウ素基材の大きさは、容器を窒化ホウ素基材の上に配置でき、かつ反応器内に収まる大きさであればよい。窒化ホウ素基材の厚さは、例えば、5mm以上であってよく、20mm以下であってよい。
【0020】
配置工程で用いられる容器は、ホウ酸と反応しない材料で形成された容器であればよく、アルミナ容器、窒化ホウ素容器等であってよい。容器の大きさは、所望の量のホウ酸を収容でき、かつ反応器内に収まる大きさであればよく、例えば、皿状の容器であってよい。容器としては、例えば、アルミナで形成された皿状の容器(アルミナボート等)であってよい。容器がアルミナで形成されている場合、容器におけるアルミナの純度は、例えば95質量%以上であってよく、100質量%(実質的に容器がアルミナからなる態様)であってもよい。
【0021】
配置工程で用いられるホウ酸は、例えば、粉末状(ホウ酸粉末)であってよい。ホウ酸に加えて酸化ホウ素が容器に収容されていてもよい。
【0022】
配置工程で用いられる反応器は、生成工程における窒素ガス及びアンモニアガスを通気する流入口及び排出口を有する。反応器は、例えば、管状の反応器であってよい。反応器は、例えば、アルミナで形成された反応器であってよい。反応器におけるアルミナの純度は、例えば、95質量%以上であってよく、100質量%(実質的に容器がアルミナからなる態様)であってもよい。反応器の大きさは、その内部に窒化ホウ素基材及び容器を配置できる大きさであればよい。反応器の容積は、例えば、0.2L以上、1L以上又は5L以上であってよく、30L以下、20L以下又は10L以下であってよい。反応器の断面積(窒素ガス及びアンモニアガスの通気方向に対して垂直な断面の面積)は、3cm2以上、15cm2以上又は30cm2以上であってよく、180cm2以下、100cm2以下又は50cm2以下であってよい。
【0023】
生成工程における窒素ガスの通気量(流速)は、ホウ酸1gに対して、0.1~2.0L/minである。当該窒素ガスの通気量の下限値は、揮発したホウ酸を窒化ホウ素基材と接触させやすくして、ホウ酸と窒素ガスとを効率的に反応させる観点から、ホウ酸1gに対して、0.2L/min以上、0.5L/min以上又は0.8L/min以上であってもよい。当該窒素ガスの通気量の上限値は、同様の観点から、1.8L/min以下、1.5L/min以下又は1.2L/min以下であってもよい。
【0024】
生成工程における窒素ガスの通気量(流速)は、反応器内を窒素ガスで充分に満たして、窒化ホウ素繊維の生成反応を進行させやすくする観点から、反応器の容積1Lに対して、0.1L/min以上又は0.2L/min以上であってよく、1.0L/min以下又は0.5L/min以下であってよい。生成工程における窒素ガスの通気量(流速)は、同様の観点から、反応器の断面積1cm2に対して、0.01L/min以上又は0.02L/min以上であってよく、0.5L/min以下又は0.2L/min以下であってよい。
【0025】
生成工程におけるアンモニアガスの通気量(流速)は、ホウ酸1gに対して、0.05~1.0L/minである。当該アンモニアガスの通気量の下限値は、揮発したホウ酸を窒化ホウ素基材と接触させやすくして、ホウ酸とアンモニアガスとを効率的に反応させる観点から、ホウ酸1gに対して、0.07L/min以上、0.1L/min以上又は0.3L/min以上であってもよい。当該アンモニアガスの通気量の上限値は、同様の観点から、0.9L/min以下又は0.8L/min以下であってもよい。ホウ酸1gに対するアンモニアガスの通気量を0.05~1.0L/minとすることで分岐部を有する窒化ホウ素繊維が得られるが、アンモニアガスの通気量を上記の範囲内で調整することにより、得られる窒化ホウ素繊維の分岐部の数を調整することができる。例えば、アンモニアガスの通気量を多くすると分岐部の数が少ない窒化ホウ素繊維を得やすくなり、アンモニアガスの通気量を少なくすると分岐部の数が多い窒化ホウ素繊維を得やすくなる。
【0026】
生成工程におけるアンモニアガスの通気量(流速)は、反応器内をアンモニアガスで充分に満たして、窒化ホウ素繊維の生成反応を進行させやすくする観点から、反応器の容積1Lに対して、0.05L/min以上又は0.1L/min以上であってよく、1.0L/min以下又は0.5L/min以下であってよい。生成工程におけるアンモニアガスの通気量(流速)は、同様の観点から、反応器の断面積1cm2に対して、0.01L/min以上又は0.02L/min以上であってよく、1.0L/min以下又は0.5L/min以下であってよい。
【0027】
生成工程において、反応器は、例えば、抵抗加熱炉内に設置されて加熱される。生成工程における加熱温度は、ホウ酸の揮発を促進し、窒化ホウ素繊維の生成を促進する観点から、1450℃以上、1500℃以上又は1600℃以上であってよい。生成工程における加熱温度は、反応器の使用可能温度の観点から、1800℃以下又は1600℃以下であってよい。
【0028】
生成工程における加熱時間は、充分な大きさの窒化ホウ素繊維を生成しやすい観点から、0.5時間以上又は1時間以上であってよい。生成工程における加熱時間は、窒化ホウ素繊維の製造効率を高める観点から、5時間以下、4時間以下、3時間以下又は2時間以下であってよい。
【0029】
生成工程において、窒化ホウ素繊維は、窒化ホウ素基材上に生成する。基材上の窒化ホウ素繊維を回収することにより、窒化ホウ素繊維が得られる。基材上に生成した繊維が窒化ホウ素繊維であることは、基材から回収した繊維についてX線回折測定を行い、窒化ホウ素に由来するピークが検出されることにより確認することができる。
【0030】
上述した製造方法により得られる窒化ホウ素繊維は、分岐構造を有するものであり、一端から他端に向けて延びる主部と、主部から分岐する分岐部とを有する。すなわち、本開示の他の一実施形態は、一端から他端に向けて延びる主部と、主部から分岐する分岐部とを有する窒化ホウ素繊維である。窒化ホウ素繊維が、一端から他端に向けて延びる主部と、主部から分岐する分岐部とを有することは、窒化ホウ素繊維をデジタルマイクロスコープで観察することにより確認することができる。
【0031】
このような窒化ホウ素繊維は、従来の窒化ホウ素繊維の製造方法では得られなかったものである。例えば、上記の特許文献1に記載の窒化ホウ素繊維の製造方法では、溶融紡糸により繊維状にした化合物を得た後に、当該化合物を焼成して窒化ホウ素繊維を得ているが、溶融紡糸により得られる繊維状の化合物は分岐部を有するものではない。そのため、当該化合物を焼成して得られる窒化ホウ素繊維も同様に、分岐部を有するものではない。
【0032】
この窒化ホウ素繊維は分岐構造を有しているため、窒化ホウ素繊維同士が接触しやすくなる。そのため、例えば、このような窒化ホウ素繊維を樹脂と混合して放熱材(放熱シート)としたときに、窒化ホウ素繊維による伝熱経路が三次元的に形成されることから、当該放熱材が優れた熱伝導性を有すると考えられる。また、この窒化ホウ素繊維同士が絡み合うことで、網状の立体構造を形成しやすいと考えられる。そのため、例えば、放熱材が当該窒化ホウ素繊維以外の充填材(例えば、熱伝導性に優れる充填材)を更に含む場合、窒化ホウ素繊維による立体構造が当該充填材を捕捉し、窒化ホウ素繊維と充填材とで更に好適に伝熱経路が形成され、放熱材が優れた熱伝導性を有すると考えられる。また、窒化ホウ素繊維は、分岐構造を有することで、同一方向に配向しにくくなると考えられ、同一方向に配向することによる熱伝導率の低下を抑制することができる。したがって、この窒化ホウ素繊維は、放熱材に好適に用いることができる。なお、窒化ホウ素繊維の用途として放熱材を例示したが、この窒化ホウ素繊維は、放熱材に限らず種々の用途に利用することができる。
【0033】
図1は、窒化ホウ素繊維の一実施形態を示す模式図である。
図1に示されるように、一実施形態において、窒化ホウ素繊維1は、例えば、一端(第一の端部)E1から他端(第二の端部)E2に向けて延びる主部1aと、主部1aの分岐点Pから第三の端部E3に向けて分岐する分岐部1bとを有している。
【0034】
図1に示す実施形態では、窒化ホウ素繊維1は一つの分岐部1bを有しているが、他の一実施形態では、窒化ホウ素繊維は、複数の分岐部(主部の複数の箇所からそれぞれ分岐する複数の分岐部)を有してもよい。また、
図1に示す実施形態では、窒化ホウ素繊維1における分岐部1b自体は分岐していないが、他の一実施形態では、窒化ホウ素繊維における一つの分岐部自体が更に分岐していてもよい。
【0035】
本明細書において、窒化ホウ素繊維の複数の端部のうち、任意の二つの端部間の窒化ホウ素繊維の形状に沿った長さのうち、最大となる長さを有する部分を主部と定義し、当該長さを主部の長さと定義する。例えば、
図1において、窒化ホウ素繊維1の端部E1~E3のうちの二つの端部間の窒化ホウ素繊維1の形状に沿った長さのうち、端部E1と端部E2とを結ぶ線L1の長さが最大である場合、主部1aの長さは線L1の長さである。
【0036】
窒化ホウ素繊維の主部の長さは、50μm以上、200μm以上、300μm以上又は400μm以上であってよく、2000μm以下、1500μm以下、1000μm以下又は800μm以下であってよい。
【0037】
窒化ホウ素繊維の主部の長さは、デジタルマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製の「VHX-7000」)を用いて、倍率100倍で窒化ホウ素繊維を観察した観察画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込み、当該観察画像において窒化ホウ繊維の複数の端部のうち、窒化ホウ素繊維の形状に沿った長さが最大となる二つの端部を選択して、端部間の長さを測定することで確認することができる。
【0038】
窒化ホウ素繊維の主部の径は、1μm以上、2μm以上、3μm以上、5μm以上、7μm以上又は9μm以上であってよく、30μm以下、25μm以下、20μm以下又は15μm以下であってよい。
【0039】
窒化ホウ素繊維の主部の径は、デジタルマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製の「VHX-7000」)を用いて、倍率500倍で窒化ホウ素繊維を観察した観察画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込み、当該観察画像において測定される窒化ホウ素繊維の主部の20点の径の平均値として定義される。
【0040】
窒化ホウ素繊維の主部のアスペクト比は、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上又は70以上であってよく、1000以下、800以下、600以下、400以下、200以下、100以下又は80以下であってよい。窒化ホウ素繊維のアスペクト比は、窒化ホウ素繊維の主部の長さと主部の径との比(主部の長さ/主部の径)として定義される。
【0041】
本明細書において、窒化ホウ素繊維の分岐部の長さは、主部から分岐する分岐部の分岐点から、分岐部の端部(分岐部が複数の端部を有する場合は、主部からの窒化ホウ素繊維の形状に沿った長さが最大となる端部)までの長さと定義する。例えば、
図1において、窒化ホウ素繊維1の主部1aから分岐部1bが分岐する分岐点Pから分岐部1bの端部E3までを結ぶ線L2の長さが分岐部1bの長さである。
【0042】
窒化ホウ素繊維の分岐部の長さは、10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上又は60μm以上であってよく、1000μm以下、800μm以下、600μm以下、400μm以下、200μm以下又は100μm以下であってよい。
【0043】
窒化ホウ素繊維の分岐部の長さは、デジタルマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製の「VHX-7000」)を用いて、倍率100倍で窒化ホウ素繊維を観察した観察画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込み、当該観察画像において窒化ホウ繊維の主部から分岐部が分岐する分岐点から、分岐部の端部までの長さを測定することで確認することができる。
【0044】
窒化ホウ素繊維の分岐部の径は、1μm以上、2μm以上、3μm以上、5μm以上又は7μm以上であってよく、35μm以下、25μm以下、20μm以下、15μm以下又は12μm以下であってよい。窒化ホウ素繊維の分岐部の径は、主部の径と同様の方法により測定することができる。
【0045】
窒化ホウ素繊維の分岐部のアスペクト比は、1以上、3以上、5以上又は10以上であってよく、1000以下、800以下、600以下、400以下、200以下、100以下又は50以下であってよい。窒化ホウ素繊維のアスペクト比は、窒化ホウ素繊維の分岐部の長さと分岐部の径との比(分岐部の長さ/分岐部の径)として定義される。
【0046】
窒化ホウ素繊維は、中実であってよい。窒化ホウ素繊維が中実であることは、窒化ホウ素繊維の径方向(主部又は分岐部の径方向)に沿った断面をデジタルマイクロスコープで観察することにより確認することができる。
【0047】
窒化ホウ素繊維は、空隙率(窒化ホウ素繊維全体の断面積に対する空隙部の面積の割合)が5%以下である断面を有していてもよい。空隙率は、3%以下、1%以下又は0%(実質的に空隙が存在しない態様)であってよい。窒化ホウ素繊維は、空隙率が5%以下である断面を有していることにより、当該窒化ホウ素繊維と樹脂とを混合して得られる放熱材の熱伝導率をより向上させることができると考えられる。空隙率は、後述の実施例の方法により測定することができる。
【0048】
窒化ホウ素繊維は、窒化ホウ素繊維の径方向に重なる複数の層で構成された多層構造を有してよい。例えば、窒化ホウ素繊維は、窒化ホウ素繊維の径方向に沿った断面において、窒化ホウ素からなる複数の層が同心円状に配置された構造を有してよい。窒化ホウ素繊維が多層構造を有することは、窒化ホウ素繊維の径方向に沿った断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。窒化ホウ素繊維が多層構造を有することで、径方向に対して垂直方向に窒化ホウ素からなる層による伝熱経路が形成されるため、窒化ホウ素繊維の径方向に対して垂直方向の熱伝導率をより向上させることができると考えられる。
【0049】
窒化ホウ素繊維は、実質的に窒化ホウ素のみからなってよい。窒化ホウ素繊維が実質的に窒化ホウ素のみからなることは、X線回折測定において、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出されることにより確認することができる。
【0050】
上述した窒化ホウ素繊維は、例えば、樹脂と混合して樹脂組成物として用いることができる。すなわち、本開示の他の一実施形態は、上記の窒化ホウ素繊維と、樹脂と、を含有する樹脂組成物である。
【0051】
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂を用いることができる。
【0052】
窒化ホウ素繊維の含有量は、樹脂組成物の用途、要求特性などに応じて適宜調整してよい。窒化ホウ素繊維の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、5体積%以上、10体積%以上、15体積%以上又は20体積%以上であってよい。窒化ホウ素繊維の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、70体積%以下、60体積%以下又は50体積%以下であってよい。
【0053】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の用途、要求特性などに応じて適宜調整してよい。樹脂の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、30体積%以上、35体積%以上、40体積%以上又は50体積%以上であってよく、95体積%以下、90体積%以下又は80体積%以下であってよい。
【0054】
樹脂組成物は、樹脂を硬化させる硬化剤を更に含有していてよい。硬化剤は、樹脂の種類によって適宜選択される。エポキシ樹脂と共に用いられる硬化剤としては、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。硬化剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上又は1.0質量部以上であってよく、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0055】
樹脂組成物は、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分は、例えば、窒化ホウ素繊維以外の無機充填材、硬化促進剤(硬化触媒)、カップリング剤、湿潤分散剤、表面調整剤であってよい。
【0056】
窒化ホウ素繊維以外の無機充填材としては、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、酸化珪素、酸化亜鉛等から構成される無機充填材が挙げられる。無機充填材の形状は特に限定されず、球状、鱗片状等であってよい。無機充填材は、窒化ホウ素粒子であってよい。
【0057】
窒化ホウ素粒子は、複数の窒化ホウ素片で構成されていてよい。窒化ホウ素片は、窒化ホウ素により形成されており、例えば鱗片状の形状を有するものであってよい。この場合、窒化ホウ素片の長手方向の長さは、例えば、1μm以上であってよく、10μm以下であってよい。窒化ホウ素粒子を構成する複数の窒化ホウ素片同士は、物理的に接触していてよく、化学的に結合していてもよい。
【0058】
窒化ホウ素粒子の最大長さは、50μm以上、75μm以上、又は100μm以上であってよい。窒化ホウ素粒子の最大長さとは、窒化ホウ素粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したときに、一つの窒化ホウ素粒子上の任意の二点間の直線距離のうち最大となる長さを意味する。最大長さの測定は、SEM画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込んで行ってもよい。
【0059】
無機充填材(窒化ホウ素粒子)の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、10体積%以上、30体積%以上、50体積%以上又は60体積%以上であってよい。無機充填材(窒化ホウ素粒子)の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、85体積%以下、70体積%以下又は60体積%以下であってよい。
【0060】
硬化促進剤(硬化触媒)としては、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルフォスフェイト等のリン系硬化促進剤、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等のアミン系硬化促進剤などが挙げられる。
【0061】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられる。これらのカップリング剤に含まれる化学結合基としては、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0062】
湿潤分散剤としては、リン酸エステル塩、カルボン酸エステル、ポリエステル、アクリル共重合物、ブロック共重合物等が挙げられる。
【0063】
表面調整剤としては、アクリル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、ビニル系調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。
【0064】
樹脂組成物は、例えば、上述した窒化ホウ素繊維を用意する工程(用意工程)と、窒化ホウ素繊維を樹脂と混合する工程(混合工程)と、を備える、樹脂組成物の製造方法により製造することができる。すなわち、本開示の他の一実施形態は、上記の樹脂組成物の製造方法である。混合工程では、窒化ホウ素繊維及び樹脂に加えて、上述した硬化剤やその他の成分を更に混合してもよい。
【0065】
一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、窒化ホウ素繊維を粉砕する工程(粉砕工程)を更に備えてよい。粉砕工程は、用意工程と混合工程との間に行われてよく、混合工程と同時に行われてもよい(窒化ホウ素繊維を樹脂と混合すると同時に、窒化ホウ素繊維を粉砕してもよい)。
【0066】
上記の樹脂組成物は、例えば、放熱材として用いることができる。放熱材は、例えば、樹脂組成物を硬化させることにより製造することができる。樹脂組成物を硬化させる方法は、樹脂組成物が含有する樹脂(及び必要に応じて用いられる硬化剤)の種類に応じて適宜選択される。例えば、樹脂がエポキシ樹脂であり、上述した硬化剤が共に用いられる場合、加熱により樹脂を硬化させることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により上述した窒化ホウ素繊維を更に具体的に説明する。但し、本開示に係る窒化ホウ素繊維は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
ホウ酸2gをアルミナボート(ニッカトー社製、SSA-Sボート)に収容し、ホウ酸を収容したアルミナボートを窒化ホウ素板(デンカ製、N-1)に配置して、窒化ホウ素板をアルミナ製の管状の反応器(容積5.4L、内径70mm、長さ1400mm、ニッカトー社製、SSA-Sチューブ)内に配置した。反応器に窒素ガスを2L/minの流量で、アンモニアガスを1L/minの流量でそれぞれ導入し、1500~1600℃で1時間加熱したところ、窒化ホウ素板上に繊維が生成した。
【0069】
窒化ホウ素板上に生成した繊維の一部を回収し、X線回折装置(株式会社リガク製、「ULTIMA-IV」)を用いてX線回折測定した。このX線回折測定結果、及び比較対象としてデンカ株式会社製の窒化ホウ素粉末(GPグレード)のX線回折測定結果をそれぞれ
図2に示す。
図2から分かるように、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出され、窒化ホウ素繊維が生成したことを確認できた。また、得られた窒化ホウ素繊維の一部をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、「VHX-7000」)により倍率100倍で観察したときの観察画像を
図3に示す。また、
図3において矢印で示した窒化ホウ素繊維の主部から分岐部が分岐する箇所をデジタルマイクロスコープにより倍率1000倍で観察したときの観察画像を
図4に示す。得られた窒化ホウ素繊維の一つ(
図3において矢印で示した窒化ホウ素繊維)の主部の長さが1080μmであり、径が14μmであり、アスペクト比が77であった。当該窒化ホウ素繊維の分岐部の長さが158μmであり、径が13μmであり、アスペクト比が12であった。
【0070】
(実施例2)
加熱時間を0.5時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして窒化ホウ素繊維を得た。得られた窒化ホウ素繊維の一部をデジタルマイクロスコープにより倍率300倍で観察したときの観察画像を
図5に示す。得られた窒化ホウ素繊維の一つ(
図5において矢印で示した窒化ホウ素繊維)の主部の長さが289μmであり、径が9μmであり、アスペクト比が31であった。当該窒化ホウ素繊維の分岐部の長さが69μmであり、径が7μmであり、アスペクト比が9であった。
【0071】
(比較例1)
加熱温度を1300℃に変更したこと以外は実施例1と同様にしてホウ酸を反応器内で加熱した。しかし、窒化ホウ素基材上に繊維が生成せず、窒化ホウ素繊維は得られなかった。
【0072】
(比較例2)
アンモニアガスを通気させず、窒素ガスのみを2L/minの流量で通気させたこと以外は実施例1と同様にしてホウ酸を反応器内で加熱した。しかし、窒化ホウ素基材上に繊維が生成せず、窒化ホウ素繊維は得られなかった。
【0073】
各実施例において得られた窒化ホウ素繊維をエポキシ樹脂と混合して、混合物を得て、得られた混合物を25℃にて12時間保持することにより硬化させた。得られた硬化物において、樹脂と混合した窒化ホウ素繊維の断面が含まれる任意の断面に対して鏡面研磨を行った。鏡面研磨を行った硬化物の断面における窒化ホウ素繊維の断面を走査型電子顕微鏡(JEOL社製、「JSM-7001F」)により観察して、観察画像を得た。得られた観察画像を
図6に示す。得られた観察画像を画像解析ソフトウェア(マウンテック社製、「Mac-view」)に取り込んで、窒化ホウ素繊維の断面における窒化ホウ素からなる領域と、それ以外との領域(空隙部)とに二値化処理をすることにより、窒化ホウ素繊維の断面積に対する空隙部の面積の割合(空隙率)を測定した。10本の窒化ホウ素繊維に対して空隙率の測定を行ったところ、各窒化ホウ素繊維は、空隙率が5%以下の断面を有しており、10本の窒化ホウ素繊維の空隙率の平均値も5%以下であった。
【0074】
各実施例において得られた窒化ホウ素繊維の径方向に沿った断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製、商品名「JSM-7001F」)により観察したところ、得られた窒化ホウ素繊維は、窒化ホウ素繊維の径方向に重なる複数の層で構成された多層構造を有することを確認することができた。実施例1で得られた窒化ホウ素繊維の径方向に沿った断面のSEM画像を
図7に示す。窒化ホウ素繊維は多層構造を有することで、窒化ホウ素繊維の径方向に対して垂直方向に窒化ホウ素からなる層による伝熱経路が形成されるため、窒化ホウ素繊維の径方向に対して垂直方向の熱伝導率をより向上させることができると考えられる。
【符号の説明】
【0075】
1…窒化ホウ素繊維、1a…主部、1b…分岐部、E1,E2,E3…端部、P…分岐点。