(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】RI製造装置、及びターゲット収容装置
(51)【国際特許分類】
G21K 5/08 20060101AFI20241204BHJP
G21G 1/10 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
G21K5/08 C
G21G1/10
G21K5/08 R
(21)【出願番号】P 2021055409
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆正
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0294655(US,A1)
【文献】特開平09-310703(JP,A)
【文献】特開2020-159931(JP,A)
【文献】特表2020-514706(JP,A)
【文献】特開昭63-193095(JP,A)
【文献】特表2006-509202(JP,A)
【文献】特開2017-069018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/00
G21G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線が照射されるターゲットの核反応により放射性同位元素を製造するRI製造装置であって、
前記粒子線の照射位置で前記ターゲットを収容する収容部と、
前記粒子線の照射軸に対する一方側から、前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路と、
前記収容部に対して前記照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、前記照射軸を基準として前記収容部よりも外側から前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路と、を備え
、
前記第2の流路は、前記収容部のうち、気体ターゲットを収容可能な部分を冷却可能である、RI製造装置。
【請求項2】
粒子線が照射されるターゲットの核反応により放射性同位元素を製造するRI製造装置であって、
前記粒子線の照射位置で前記ターゲットを収容する収容部と、
前記粒子線の照射軸に対する一方側から、前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路と、
前記収容部に対して前記照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、前記照射軸を基準として前記収容部よりも外側から前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路と、を備え
、
前記収容部は、液体ターゲットを収容可能な部分と、気体ターゲットを収容可能な部分と、を有する、RI製造装置。
【請求項3】
前記第2の流路は、前記収容部のうち、液体ターゲットを収容可能な部分を冷却可能である、請求項1
又は2に記載のRI製造装置。
【請求項4】
前記第2の流路には、冷却媒体の流れを阻害する部材が設けられる、請求項1
又は2に記載のRI製造装置。
【請求項5】
粒子線が照射されることで核反応により放射性同位元素を製造可能なターゲットを収容するターゲット収容装置であって、
前記ターゲットを収容する収容部と、
前記ターゲットへ前記粒子線が照射される場合に、当該粒子線の照射軸に対する一方側から、前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路と、
前記収容部に対して前記照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、前記照射軸を基準として前記収容部よりも外側から前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路と、を備え
、
前記第2の流路は、前記収容部のうち、気体ターゲットを収容可能な部分を冷却可能である、ターゲット収容装置。
【請求項6】
粒子線が照射されることで核反応により放射性同位元素を製造可能なターゲットを収容するターゲット収容装置であって、
前記ターゲットを収容する収容部と、
前記ターゲットへ前記粒子線が照射される場合に、当該粒子線の照射軸に対する一方側から、前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路と、
前記収容部に対して前記照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、前記照射軸を基準として前記収容部よりも外側から前記収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路と、を備え
、
前記収容部は、液体ターゲットを収容可能な部分と、気体ターゲットを収容可能な部分と、を有する、ターゲット収容装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット収容装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポジトロン断層撮影法(PET:Positron Emission Tomography)を用いたPET検査の検査用薬剤に使用される放射性同位元素は、病院内の検査室に近い場所に設置されるサイクロトロン等の放射線源を用いて製造される。具体的には、放射線源からの粒子線(例えば、陽子線や重陽子線等の粒子線)をターゲット収容装置に導き、ターゲット収容装置に収容されているターゲット(例えば、ターゲット水(18O水))との核反応により放射性同位元素を製造する。そして、製造された放射性同位元素を所定の化合物(例えば、フルオロデオキシグルコース(FDG:Fluoro-Deoxy-Glucose))に組み込んだり、その一部を置き換えたりして合成することで、検査用薬剤を製造する。
【0003】
このような放射性同位元素を製造するためのRI製造装置として、液体ターゲットを収容する収容部と、当該収容部を粒子線の照射軸の一方側から冷却する流路を備えた装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ターゲットは、粒子線を照射されることで高温となる。これに対し、ターゲットを冷却する冷却効率を向上することで、核反応の効率を向上できる。従って、冷却効率を向上できるターゲット収容装置、及び核反応の効率を向上できるRI製造装置が求められていた。
【0006】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、冷却効率を向上できるターゲット収容装置、及び核反応の効率を向上できるRI製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るRI製造装置は、粒子線が照射されるターゲットの核反応により放射性同位元素を製造するRI製造装置であって、粒子線の照射位置でターゲットを収容する収容部と、粒子線の照射軸に対する一方側から、収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路と、収容部に対して照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、照射軸を基準として収容部よりも外側から収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路と、を備える。
【0008】
RI製造装置は、粒子線の照射軸に対する一方側から、収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路を備える。これにより、第1の流路に冷却媒体を流すことで、収容部のターゲットを照射軸に対する一方側から冷却することができる。更にRI製造装置は、収容部に対して照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、照射軸を基準として収容部よりも外側から収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路を備える。この場合、第2の流路に冷却媒体を流すことで、照射軸周りの壁部を介して、照射軸を基準として内側から外側へ向けて、収容部から抜熱することで、収容部のターゲットを冷却することができる。このように、第1の流路及び第2の流路によって、異なる方向からターゲットを冷却することが可能となる。そのため、ターゲットの冷却効率を向上することができ、これによって、ターゲットの核反応の効率を向上することができる。
【0009】
第2の流路は、収容部のうち、液体ターゲットを収容可能な部分を冷却可能であってよい。この場合、第2の流路は、粒子線を照射されることで高温となる液体ターゲットを冷却することで、液体ターゲットの蒸発を抑制することができる。そのため、液体ターゲットの核反応の効率を向上できる。
【0010】
第2の流路は、収容部のうち、気体ターゲットを収容可能な部分を冷却可能であってよい。この場合、第2の流路は、気体ターゲットを冷却することで、液化させることができる。そのため、液体ターゲットの量を増やすことで核反応の効率を向上できる。
【0011】
収容部は、液体ターゲットを収容可能な第1の収容部分と、第1の収容部分に連通して気体ターゲットを収容可能な第2の収容部分と、を有し、第2の流路は、第2の収容部分を挟んで第1の流路とは照射軸に対する反対側から収容部を冷却可能であってよい。この場合、第1の収容部分の液体ターゲットが粒子線を照射されることで蒸発して、第2の収容部分に気体ターゲットとして溜まる。これに対し、第1の流路と第2の流路は、照射軸に対して両側から気体ターゲットを冷却することができる。これにより、気体ターゲットを冷却することで液化させて、液体ターゲットとして、第1の収容部分に戻すことができる。そのため、液体ターゲットの量を増やすことで核反応の効率を向上できる。
【0012】
第2の流路には、冷却媒体の流れを阻害する部材が設けられてよい。この場合、部材は、第2の流路における冷却媒体の流れを阻害することで、層流を乱流に代えて、冷却効率を向上することができる。
【0013】
本発明の一形態に係るターゲット収容装置は、粒子線が照射されることで核反応により放射性同位元素を製造可能なターゲットを収容するターゲット収容装置であって、ターゲットを収容する収容部と、ターゲットへ粒子線が照射される場合に、当該粒子線の照射軸に対する一方側から、収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路と、収容部に対して照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、当該壁部の外周側から収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路と、を備える。
【0014】
ターゲット収容装置は、粒子線の照射軸に対する一方側から、収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第1の流路を備える。これにより、第1の流路に冷却媒体を流すことで、収容部のターゲットを照射軸に対する一方側から冷却することができる。更にターゲット収容装置は、収容部に対して照射軸周りに設けられた壁部の少なくとも一部を介して、照射軸を基準として収容部よりも外側から収容部を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする第2の流路を備える。この場合、第2の流路に冷却媒体を流すことで、照射軸周りの壁部を介して、外周側から収容部のターゲットを冷却することができる。このように、第1の流路及び第2の流路によって、異なる方向からターゲットを冷却することが可能となる。そのため、ターゲットの冷却効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷却効率を向上できるターゲット収容装置、及び核反応の効率を向上できるRI製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るRI製造装置の断面図である。
【
図3】本実施形態に係るターゲット収容装置の断面図である。
【
図5】ターゲット収容装置の冷却媒体の流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、RI製造装置1の断面図である。RI製造装置1は、本発明のRI製造装置の実施形態であるターゲット収容装置10を備えている。RI製造装置1は、放射性同位元素(RI)を製造するものである。RI製造装置1は、例えばPET用サイクロトロンとして使用可能であり、RI製造装置1で製造されたRIは、例えば放射性同位元素標識化合物(RI化合物)である放射性薬剤(放射性医薬品を含む)の製造に用いられる。病院等のPET検査(陽電子断層撮影検査)に使用される放射性同位元素標識化合物としては、
18F-FLT(フルオロチミジン)、
18F-FMISO(フルオロソニダゾール)、
11C-ラクロプライド等がある。
【0019】
RI製造装置1は、いわゆる自己シールド型の粒子加速器システムであり、荷電粒子を加速させる加速器(サイクロトロン)2と、この加速器2を取り囲んで放射線を遮蔽するための放射線シールド(壁体)である自己シールド6とを備えている。自己シールド6によって囲まれるように形成された内部空間Sには、加速器2の他に、RIを製造するために用いられるターゲット収容装置10、加速器2の内部を真空にするための真空ポンプ4などが配置されている。さらに、内部空間には、加速器2の運転に必要な付属品、ターゲット収容装置10の冷却に用いられる付属機器などが配置されている。
【0020】
加速器2は、いわゆる縦型のサイクロトロンであり、一対の磁極と、真空箱と、これらの一対の磁極及び真空箱を取り囲む環状のヨークとを有している。一対の磁極は、一部が真空箱内で上面同士が所定間隔空けて対面している。これらの一対の磁極の隙間内で、水素イオン等の荷電粒子が多重加速される。真空ポンプ4は、加速器2内の真空環境を維持するために使用されるものであり、例えば加速器2の側部に固定されている。加速器2は図中に矢印Bで示す照射方向に荷電粒子粒子線を出射する。
【0021】
ターゲット収容装置10は、加速器2から照射された荷電粒子粒子線を受けてRIを製造するためのものであり、内部に原料(例えばターゲット水;
18O水)を収容する収容部が形成されている。ターゲット収容装置10は、一般的に、
図1及び
図2に示すように加速器2の側部に固定されている。本実施形態のRI製造装置1は、加速器2を挟んで両側に配置された2つのターゲット収容装置10を備えている。例えば、図示左側に配置されたターゲット収容装置10は上段側に配置され、図示右側に配置されたターゲット収容装置10は下段側に配置されている(
図2参照)。ターゲット収容装置10は、加速器2に設けられたターゲットシールド7に覆われている。自己シールド6は、複数のパーツからなり加速器2及びターゲット収容装置10を覆うように形成されている。
【0022】
続いて、本発明のRI製造装置1が備える上記ターゲット収容装置10について、
図3及び
図4を参照しながら更に詳細に説明する。
図3は、本実施形態に係るターゲット収容装置10の断面図である。
図3は、照射軸RLの位置でターゲット収容装置10を切断した断面図である。
図4は、ターゲット収容装置10の一部を切断した断面斜視図である。主に
図3を参照し、適宜
図4を参照する。
【0023】
図3に示すように、本実施形態に係るターゲット収容装置10は、フォイル2と、収容部3と、冷却機構4A,4Bと、を備える。放射性同位元素製造装置は、上述のターゲット収容装置10と、図示されない加速器とを備える。加速器として例えばサイクロトロンなどが採用され、当該加速器は、荷電粒子線(以下、「粒子線」という。)を生成し、生成された粒子線Bは、照射軸RLに沿ってターゲット収容装置10に照射される。ターゲット収容装置10に照射される粒子線Bとしては、例えば、陽子線や重陽子線などの粒子線が挙げられる。ターゲット収容装置10は、加速器との間に配置されたマニホールド(不図示)を介して、加速器の粒子線Bが導出される導出口に装着される。なお、以降の説明においては、照射軸RLが延びる方向を、ターゲット収容装置10の奥行方向D1と称する場合がある。また、奥行方向D1において粒子線Bが照射される側(粒子線の進行方向の上流側)をターゲット収容装置10の前側と称し、反対側をターゲット収容装置10の後側と称する場合がある。また、ターゲット収容装置10の奥行方向D1及び上下方向と直交する方向を幅方向D2と称する場合がある。
【0024】
また、位置関係の説明を行うとき、照射軸RLを基準とした「外側」「内側」という語を用いる場合がある。照射軸RLを基準とした外側は、照射軸RLと直交する方向において、照射軸RLからの距離が離れる側である。照射軸RLを基準とした外側を単に「外周側」と称する場合がある。照射軸RLを基準とした内側は、照射軸RLと直交する方向において、照射軸RLからの距離が近付く側である。照射軸RLを基準とした内側を単に「内周側」と称する場合がある。
【0025】
ターゲット収容装置10は、例えば、円柱状の外形を有している。ターゲット収容装置10は、主に収容部3を形成するためのターゲット容器12と、主に冷却機構4Aを形成するための冷却機構形成部材13と、主に冷却機構4Bを形成するための内リング14及び外リング15と、を備える。前面フランジ11、ターゲット容器12、及び冷却機構形成部材13は、金属製のブロック体によって構成される。また、前面フランジ11、ターゲット容器12、及び冷却機構形成部材13は、奥行方向D1において、前側から後側へ向かって順に重ね合わせられる。
【0026】
フォイル2は、前側で収容部3を仕切る部材である。フォイル2は、ターゲット容器12に対して設けられる。フォイル2は、粒子線Bの通過を許容する一方、液体ターゲット101やHeガスといった流体の通過を遮断する。従って、粒子線Bは、フォイル2に照射された後、当該フォイル2を通過して液体ターゲット101に照射される。例えばHeガスは、フォイル2の前面に吹き付けられて、フォイル2の冷却用ガスとして用いられる。フォイル2は、例えばTi等の金属又は合金から形成された薄い箔であり、その厚さが10μm~50μm程度となっている。フォイル2は、少なくとも収容部3の全域を覆うように設けられる。
【0027】
収容部3は、液体ターゲット101を収容する部分である。収容部3は、ターゲット容器12に形成された凹部22と、ターゲット容器12に形成されて凹部22に連通する空洞部25と、フォイル2と、によって囲まれる空間によって構成される。ターゲット容器12は、例えばNbによって形成することができる。収容部3内には、液体ターゲット101として、
18O(ターゲット水)が封入される。凹部22は、ターゲット容器12の前面のうち、例えば、フォイル2が固定される固定面12aから奥行方向D1における後側へ窪んでいる。凹部22は、底面22aと、当該底面22aの外周縁から奥行方向D1における前側へ延びる周面22bと、を有する。収容部3は、奥行方向D1から見て、円形をなしている(
図4参照)。空洞部25は、凹部22の上端から斜め上方へ延びる空間である。空洞部25は、奥行方向D1における後側へ向かうに従って上方へ延びるように傾斜している。空洞部25は、凹部22の上端と連通している。奥行方向D1から見て、空洞部25は、扇状の形状を有している(
図5参照)。
【0028】
ターゲット容器12には、収容部3内に不活性ガス(例えばHeガス)を導入するためのガス導入孔(不図示)が形成されている。ターゲット容器12には、収容部3内に液体ターゲット101を充填する際に利用されると共に、収容部3内の液体ターゲット101を排出する際に利用される流通孔26(
図4参照)が形成されている。
【0029】
収容部3は、液体ターゲット101を収容する第1の収容部分E1、及び第1の収容部分E1の上方であって沸騰した液体ターゲット101が蒸発した気体ターゲットを受け入れる第2の収容部分E2を有する。第2の収容部分E2は、第1の収容部分E1の上側に連続的に形成される。ここでは、凹部22によって形成される空間が第1の収容部分E1に該当し、空洞部25によって形成される空間が第2の収容部分E2に該当する。
【0030】
冷却機構4Aは、液体ターゲット101に対して照射される粒子線Bの照射方向と反対側(すなわち後面側)において、冷却媒体によって収容部3を冷却する。冷却機構4Aは、第1の収容部分E1を冷却する第1の冷却部30A、及び第2の収容部分E2を冷却する第2の冷却部30Bを備える。第1の冷却部30Aは、第1の内部空間31A(第1の流路)に配置されたノズル部32Aを備える。また、第2の冷却部30Bは、第2の内部空間31B(第1の流路)に配置されたノズル部32Bを備える。
【0031】
第1の内部空間31A及び第2の内部空間31Bは、内部に冷却媒体を流すための空間である。第1の内部空間31A及び第2の内部空間31Bは、ターゲット容器12の後側の凹部30に、冷却機構形成部材13を取り付けることにより、ターゲット容器12と冷却機構形成部材13との間の空間によって構成される。第1の内部空間31Aは、収容部3の第1の収容部分E1に対して、奥行方向D1における後側に形成される。第2の内部空間31Bは、収容部3の第2の収容部分E2に対して、奥行方向D1における後側に形成される。すなわち、第2の内部空間31Bは、第1の内部空間31Aの上側に設けられる。内部空間31Aと第1の収容部分E1との間には、伝熱壁部34Aが設けられている。内部空間31Bと第2の収容部分E2との間には、伝熱壁部34Bが設けられている。また、第1の内部空間31Aと第2の内部空間31Bとは、隔壁36によって互いに仕切られている。
【0032】
第1のノズル部32Aは、第1の収容部分E1との間の伝熱壁部34Aに対して冷却媒体を噴射する部材である。第1のノズル部32Aは、伝熱壁部34に対して垂直に冷却媒体を噴射する。第1のノズル部32Aは、伝熱壁部34から離間している。第2のノズル部32Bは、第2の収容部分E2との間の伝熱壁部34Bに対して冷却媒体を噴射する部材である。第2のノズル部32Bは、伝熱壁部34Bに対して垂直に冷却媒体を噴射する。第2のノズル部32Bは、伝熱壁部34Bから離間している。
【0033】
次に、冷却機構4Bについて説明する。まず、ターゲット容器12には、収容部3を照射軸RL周りに取り囲むように内リング14が取り付けられる。従って、ターゲット容器12には、内リング14を外周側から取付可能なように、円環状の凹部40が形成される(特に
図4参照)。なお、内リング14は、半円状の部材14A,14Bに分割された半割構造を有しており、凹部40に対して外周側から取り付けられる(
図5参照)。内リング14は、断面が略四角形の円環状をなしている。ただし、空洞部25に対応する箇所では、内リング14は、部分的に内径が小さくなり(
図5参照)、内周側に傾斜面14bが形成される(
図4参照)。ターゲット容器12には、内リング14と後側で対向する座面40aが形成される。外リング15は、凹部40に取り付けられた内リング14を外周側から支持するように、座面40aに取り付けられる。
【0034】
ターゲット容器12は、収容部3の凹部22の位置にて、内リング14の内周面14aと対向する壁部を有する。当該壁部は、第1の収容部分E1の照射軸RL周りに形成される伝熱壁部41として構成される。伝熱壁部41は、円筒状の薄肉の壁部として形成される。また、ターゲット容器12は、空洞部25の位置にて、内リング14の傾斜面14bと対向する壁部を有する。当該壁部は、第2の収容部分E2の照射軸RL周りに形成される伝熱壁部42として構成される。伝熱壁部41は、伝熱壁部34Bに対して外周側で対向する位置に、薄肉の壁部として形成される。奥行方向から見て伝熱壁部42は扇状に形成され、伝熱壁部41は伝熱壁部42以外の部分全周に形成される(
図5参照)。なお、伝熱壁部41と、伝熱壁部42との間には、座面40aから伝熱壁部42へ向かって立ち上がる段差壁部44が形成される(
図5参照)。
【0035】
第1の収容部分E1周りの伝熱壁部41と、内リング14の内周面14aの間には、冷却媒体を流すための冷却流路46(第2の流路)が形成される。収容部3の第1の収容部分E1は、照射軸RLを基準として、伝熱壁部41よりも内側に設けられる。また、冷却流路46は、照射軸RLを基準として、伝熱壁部41よりも外側に設けられる。従って、冷却流路46は、収容部3に対して照射軸RL周りに設けられた伝熱壁部41を介して、照射軸RLを基準として収容部3の第1の収容部分E1よりも外側から、収容部3の第1の収容部分E1を冷却するように、冷却媒体を流通可能である。冷却流路46は、収容部3に対して照射軸RL周りに設けられた伝熱壁部41を介して、当該伝熱壁部41の外周側から収容部3の第1の収容部分E1を冷却するように、冷却媒体を流通可能である。冷却流路46は、収容部3のうち、液体ターゲット101を収容可能な第1の収容部分E1を冷却可能である。このような構成によれば、冷却流路46は、伝熱壁部41を介して、照射軸RLを基準として内側から外側へ向けて、収容部3の第1の収容部分E1から抜熱するように、冷却媒体を流通可能である。
【0036】
第2の収容部分E2周りの伝熱壁部42と、内リング14の傾斜面14bの間には、冷却媒体を流すための冷却流路48(第2の流路)が形成される。収容部3の第2の収容部分E2は、照射軸RLを基準として、伝熱壁部42よりも内側に設けられる。また、冷却流路48は、照射軸RLを基準として、伝熱壁部42よりも外側に設けられる。従って、冷却流路48は、収容部3に対して照射軸RL周りに設けられた伝熱壁部42を介して、照射軸RLを基準として収容部3の第2の収容部分E2よりも外側から、収容部3の第2の収容部分E2を冷却するように、冷却媒体を流通可能である。冷却流路48は、収容部3に対して照射軸RL周りに設けられた伝熱壁部42を介して、当該伝熱壁部42の外周側から収容部3の第2の収容部分E2を冷却するように、冷却媒体を流通可能である。冷却流路48は、収容部3のうち、気体ターゲット102を収容可能な第2の収容部分E2を冷却可能である。冷却流路48は、第2の収容部分E2を挟んで内部空間31Bとは照射軸RLに対する反対側から収容部3の第2の収容部分E2を冷却可能である。このような構成によれば、冷却流路48は、伝熱壁部42を介して、照射軸RLを基準として内側から外側へ向けて、収容部3の第2の収容部分E2から抜熱するように、冷却媒体を流通可能である。なお、第2の内部空間31Bは、収容部3に対して照射軸RL周りに設けられた伝熱壁部34Bを介して、照射軸RLを基準として収容部3の第2の収容部分E2よりも内側から、収容部3の第2の収容部分E2を冷却するように、冷却媒体を流通可能である。第2の内部空間31Bは、伝熱壁部34Bを介して、照射軸RLを基準として外側から内側へ向けて、収容部3の第2の収容部分E2から抜熱するように、冷却媒体を流通可能である。
【0037】
なお、座面40aと内リング14との間には、冷却流路46と連通する流路47が形成される。当該流路47は、冷却媒体の供給管51及び排出管52と連通されている。従って、流路47は、冷却流路46,48に対する冷却媒体の供給及び回収を行う。
【0038】
次に、
図3及び
図5を参照して、冷却流路46,48に対する冷却媒体の流れについて説明する。なお、供給管51及び排出管52は、座面40aにおける下端付近の領域に設けられている。また、供給管51と排出管52との間には、冷却媒体の流れを遮断する隔壁54が設けられる。まず、供給管51から供給された冷却媒体は、流路47を流れることで(F1)、冷却流路46へ供給される。これにより、一部の冷却媒体は、冷却流路46を流れる(F2)。冷却媒体は、段差壁部44では、当該段差壁部44を乗り越えるように流れて(F3)、冷却流路48へ供給される。これにより、冷却媒体は、冷却流路48を流れる(F4)。冷却媒体は、次の段差壁部44では、当該段差壁部44を下るように流れて(F5)、冷却流路46及び流路47へ供給される。これにより、冷却媒体は、冷却流路46を流れて(F6)、冷却流路46を流れる(F7)。
【0039】
次に、本実施形態に係るRI製造装置1、及びターゲット収容装置10の作用・効果について説明する。
【0040】
RI製造装置1は、粒子線Bの照射軸RLに対する一方側(後側)から、収容部3を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする内部空間31A,31Bを備える。これにより、内部空間31A,31Bに冷却媒体を流すことで、収容部3のターゲットを照射軸RLに対する一方側から冷却することができる。更にRI製造装置1は、収容部3に対して照射軸RL周りに設けられた伝熱壁部41,42を介して、照射軸RLを基準として収容部3よりも外側から、収容部3を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする冷却流路46,48を備える。この場合、冷却流路46,48に冷却媒体を流すことで、照射軸RL周りの伝熱壁部41,42を介して、照射軸RLを基準として内側から外側へ向けて、収容部3から抜熱することで、収容部3のターゲットを冷却することができる。このように、内部空間31A,31B及び冷却流路46,48によって、異なる方向からターゲットを冷却することが可能となる。そのため、ターゲットの冷却効率を向上することができ、これによって、ターゲットの核反応の効率を向上することができる。
【0041】
冷却流路46は、収容部3のうち、液体ターゲット101を収容可能な第1の収容部分E1を冷却可能であってよい。この場合、冷却流路46は、粒子線Bを照射されることで高温となる液体ターゲット101を冷却することで、液体ターゲット101の蒸発を抑制することができる。そのため、液体ターゲット101の核反応の効率を向上できる。
【0042】
冷却流路48は、収容部3のうち、気体ターゲット102を収容可能な第2の収容部分E2を冷却可能であってよい。この場合、冷却流路48は、気体ターゲット102を冷却することで、液化させることができる。そのため、液体ターゲット101の量を増やすことで核反応の効率を向上できる。
【0043】
収容部3は、液体ターゲット101を収容可能な第1の収容部分E1と、第1の収容部分E1に連通して気体ターゲット102を収容可能な第2の収容部分E2と、を有し、冷却流路48は、第2の収容部分E2を挟んで内部空間31Bとは照射軸RLに対する反対側から収容部3を冷却可能であってよい。この場合、第1の収容部分E1の液体ターゲット101が粒子線Bを照射されることで蒸発して、第2の収容部分E2に気体ターゲット102として溜まる。これに対し、内部空間31Bと冷却流路48は、照射軸RLに対して両側から気体ターゲット102を冷却することができる。これにより、気体ターゲット102を冷却することで液化させて、液体ターゲット101として、第1の収容部分E1に戻すことができる。そのため、液体ターゲット101の量を増やすことで核反応の効率を向上できる。
【0044】
また、ターゲット収容装置10は、粒子線Bの照射軸RLに対する一方側(後側)から、収容部3を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする内部空間31A,31Bを備える。これにより、内部空間31A,31Bに冷却媒体を流すことで、収容部3のターゲットを照射軸RLに対する一方側から冷却することができる。更にターゲット収容装置10は、収容部3に対して照射軸RL周りに設けられた伝熱壁部41,42を介して、照射軸RLを基準として収容部3よりも外側から収容部3を冷却するように、冷却媒体を流通可能とする冷却流路46,48を備える。この場合、冷却流路46,48に冷却媒体を流すことで、照射軸RL周りの伝熱壁部41,42を介して、照射軸RLを基準として内側から外側へ向けて、収容部3から抜熱することで、収容部3のターゲットを冷却することができる。このように、内部空間31A,31B及び冷却流路46,48によって、異なる方向からターゲットを冷却することが可能となる。そのため、ターゲットの冷却効率を向上することができ、これによって、ターゲットの核反応の効率を向上することができる。そのため、ターゲットの冷却効率を向上することができる。
【0045】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。
【0046】
例えば、冷却流路46,48には、冷却媒体の流れを阻害する部材が設けられてよい。この場合、部材は、冷却流路46,48における冷却媒体の流れを阻害することで、層流を乱流に代えて、冷却効率を向上することができる。例えば、
図6に示すように、内リング14の内周面14a、及び伝熱壁部41の少なくとも一方に冷却媒体の流れを阻害する部材60が設けられる。この場合、部材60によって冷却流路46内にスリットが形成される。このようなスリット構造に流れを阻害されることで、冷却媒体が乱流となる。
【0047】
本発明のRI製造装置、及びターゲット収容装置の具体的な構造は、上述の実施形態に限定されない。
【0048】
冷却流路46,48は、少なく一方が設けられていればよく、他方を省略してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…RL製造装置、3…収容部、10…ターゲット収容装置、31A,31B…内部空間(第1の流路)、伝熱壁部…41,42、46,48…冷却流路(第2の流路)。