(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20241204BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241204BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20241204BHJP
H01L 21/301 20060101ALN20241204BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/00 M
B23K26/00 N
B23K26/064 A
H01L21/78 B
(21)【出願番号】P 2021127557
(22)【出願日】2021-08-03
【審査請求日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2020140151
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】是松 克洋
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-069533(JP,A)
【文献】特開2012-238012(JP,A)
【文献】特開2020-006393(JP,A)
【文献】特開2008-049393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B23K 26/00
B23K 26/064
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザ光を照射することにより前記対象物に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記レーザ光を出射する光源と、
前記光源から出射された前記レーザ光を変調する空間光変調器と、
前記空間光変調器によって変調された前記レーザ光を前記対象物に集光する集光部と、
前記対象物における前記レーザ光の反射光を検出する検出部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記レーザ光を複数に分岐する分岐パターンであって分岐後の各レーザ光の出力目標値に応じた第1分岐パターンを前記空間光変調器に設定し表示させる第1処理と、
前記空間光変調器に前記第1分岐パターンが表示された状態において前記レーザ光が出射されるように前記光源を制御する第2処理と、
前記第1分岐パターンによる分岐後の各レーザ光の前記反射光が検出されるように前記検出部を制御する第3処理と、
前記検出部による検出結果に基づき前記分岐後の各レーザ光の反射光の輝度を導出する第4処理と、
導出した前記輝度に基づき、分岐後の各レーザ光の出力が前記出力目標値となるように前記第1分岐パターンを補正した第2分岐パターンを生成する第5処理と、を実行するように構成されている、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第2分岐パターンを前記空間光変調器に設定し表示させる第6処理と、
前記空間光変調器に前記第2分岐パターンが表示された状態において前記レーザ光が出射されて前記対象物が加工されるように前記光源を制御する第7処理と、を更に実行するように構成されている、請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2処理において、前記対象物に改質領域が形成されない出力で前記レーザ光が照射されるように前記光源を制御する、請求項1又は2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
ユーザからの入力を受け付ける入力部を更に備え、
前記制御部は、前記第1処理において、前記入力部によって受け付けられた情報に基づき前記出力目標値を決定し、決定した前記出力目標値に応じた前記第1分岐パターンを前記空間光変調器に設定する、請求項1~3のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記集光部によって集光される前記レーザ光の集光点は、前記対象物における前記レーザ光の入射面である表面に設定されており、
前記検出部は、前記表面における前記反射光を検出する、請求項1~4のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記集光部によって集光される前記レーザ光の集光点は、前記対象物における前記レーザ光の入射面の反対側の面である裏面に設定されており、
前記検出部は、前記裏面における前記反射光を検出する、請求項1~4のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1処理において、前記分岐後の各レーザ光の出力目標値を共通の値とし、該共通の値に応じた前記第1分岐パターンを前記空間光変調器に設定し表示させる、請求項1~6のいずれか一項記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
対象物にレーザ光を照射することにより前記対象物に改質領域を形成するレーザ加工方法であって、
レーザ光を複数に分岐する分岐パターンであって分岐後の各レーザ光の出力目標値に応じた第1分岐パターンを空間光変調器に設定し表示させる第1工程と、
前記第1分岐パターンが表示された前記空間光変調器にレーザ光を出射し、前記第1分岐パターンによって複数に分岐されたレーザ光を対象物に照射する第2工程と、
分岐後の各レーザ光の、前記対象物からの反射光を検出する第3工程と、
前記反射光の検出結果に基づき、前記分岐後の各レーザ光の前記反射光の輝度を導出する第4工程と、
導出した前記輝度に基づき、分岐後の各レーザ光の出力が前記出力目標値となるように前記第1分岐パターンを補正した第2分岐パターンを生成する第5工程と、を含む、レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ光源と、空間光変調器と、空間光変調器とは異なる集光補正手段とを備えるレーザ加工装置が記載されている。このようなレーザ加工装置は、レーザ光の照射によって対象物(ウエハ)の内部に改質領域を形成することにより、対象物の分割及び剥離等を行う。特許文献1に記載された技術では、レーザ光の照射によって対象物の内部に改質領域を形成すると共に、集光点からの反射光の一部を撮像し、撮像結果に基づいて集光点の位置ズレ量を検出し、位置ズレが小さくなるように空間光変調器における変調パターンを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザ加工装置では、同時に複数の改質領域が形成されるように、空間光変調器に分岐パターンが設定され、該分岐パターンに応じてレーザ光が分岐される場合がある。分岐パターンは、例えば分岐後の各レーザ光の出力目標値に応じて設定される。ここで、分岐加工を行う場合においては、例えばレンズにおける各分岐光の通過領域が互いに異なる等の光学特性の個体差の影響により、分岐後の各レーザ光の出力を上述した出力目標値に一致させることが難しい。分岐後の各レーザ光の出力が想定していた値とならないことによって、改質領域から延びる亀裂量が所望の亀裂量とならず、対象物の未分割・未剥離が生じる(加工品質が悪化する)おそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、分岐光の出力を所望の値に調整することにより加工品質を向上させることができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置は、対象物にレーザ光を照射することにより対象物に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、レーザ光を出射する光源と、光源から出射されたレーザ光を変調する空間光変調器と、空間光変調器によって変調されたレーザ光を対象物に集光する集光部と、対象物におけるレーザ光の反射光を検出する検出部と、制御部と、を備え、制御部は、レーザ光を複数に分岐する分岐パターンであって分岐後の各レーザ光の出力目標値に応じた第1分岐パターンを空間光変調器に設定し表示させる第1処理と、空間光変調器に第1分岐パターンが表示された状態においてレーザ光が出射されるように光源を制御する第2処理と、第1分岐パターンによる分岐後の各レーザ光の反射光が検出されるように検出部を制御する第3処理と、検出部による検出結果に基づき分岐後の各レーザ光の反射光の輝度を導出する第4処理と、導出した輝度に基づき、分岐後の各レーザ光の出力が出力目標値となるように第1分岐パターンを補正した第2分岐パターンを生成する第5処理と、を実行するように構成されている。
【0007】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置では、第1分岐パターンに応じて分岐された各レーザ光の対象物における反射光が検出され、検出結果に基づいて分岐後の各レーザ光の反射光の輝度が導出される。ここで、分岐後の各レーザ光の反射光の輝度は、分岐後の各レーザ光の出力(ビーム強度)に比例している。このため、輝度が導出されることにより、分岐後の各レーザ光の出力を高精度に推定することが可能となる。そして、輝度から分岐後の各レーザ光の出力を高精度に推定した上で、分岐後の各レーザ光の出力が出力目標値となるように新たな分岐パターン(第1分岐パターンを補正した第2分岐パターン)が生成されることにより、分岐後の各レーザ光(分岐光)の出力を所望の値(出力目標値)に調整する分岐パターンを生成することができる。以上のように、本発明の一態様に係るレーザ加工装置によれば、分岐光の出力を所望の値に調整し、加工品質を向上させることができる。また、このような分岐パターンの補正処理を一度行えば、その後のレーザ加工時には補正済みの分岐パターン(第2分岐パターン)を利用して加工を行うため、分岐パターン生成の時間を削減することができる。
【0008】
制御部は、第2分岐パターンを空間光変調器に設定し表示させる第6処理と、空間光変調器に第2分岐パターンが表示された状態においてレーザ光が出射されて対象物が加工されるように光源を制御する第7処理と、を更に実行するように構成されていてもよい。このように、輝度に基づいて適正化された分岐パターン(第2分岐パターン)が空間光変調器に設定されて、実際にレーザ加工が行われることにより、分岐光の出力を所望の値に調整した状態で、対象物の高品質な加工を実現することができる。
【0009】
制御部は、第2処理において、対象物に改質領域が形成されない出力でレーザ光が照射されるように光源を制御してもよい。これにより、分岐光の出力を調整している段階において対象物に改質領域が形成されてしまうことを防止することができる。このことで、対象物の高品質な加工を実現することができる。
【0010】
上記レーザ加工装置は、ユーザからの入力を受け付ける入力部を更に備え、制御部は、第1処理において、入力部によって受け付けられた情報に基づき出力目標値を決定し、決定した出力目標値に応じた第1分岐パターンを空間光変調器に設定してもよい。これにより、ユーザが設定する条件に応じた分岐パターンを設定することができる。すなわち、ユーザ所望のレーザ加工を実現することができる。
【0011】
集光部によって集光されるレーザ光の集光点は、対象物におけるレーザ光の入射面である表面に設定されており、検出部は、表面における反射光を検出してもよい。表面で反射した反射光は、比較的輝度が高い。このような輝度が高い反射光が検出されることにより、輝度に基づくレーザ光の出力推定をより高精度に行うことができる。
【0012】
集光部によって集光されるレーザ光の集光点は、対象物におけるレーザ光の入射面の反対側の面である裏面に設定されており、検出部は、裏面における反射光を検出してもよい。実際に剥離加工等のレーザ加工が行われる場合においては、空間光変調器には、分岐パターン以外の集光補正パターン等が合成された変調パターンが設定される。このような、実際のレーザ加工時の空間光変調器における変調パターンを考慮した分岐光の輝度(各分岐光の出力)を測定するという点においては、裏面における反射光の輝度が測定されることが好ましい。そのため、裏面における反射光が検出されることにより、実際のレーザ加工時を考慮して、各分岐光出力を所望の値に調整することができる。
【0013】
制御部は、第1処理において、分岐後の各レーザ光の出力目標値を共通の値とし、該共通の値に応じた第1分岐パターンを空間光変調器に設定し表示させてもよい。分岐加工においては、分岐後の各レーザ光の出力を均一化したい場合がある。このような場合において、上述したように分岐後の各レーザ光の出力目標値が共通の値とされると共に、第5処理において分岐後の各レーザ光の出力が当該共通の値となるように(すなわち各レーザ光の出力が均一化されるように)第2分岐パターンが生成されることにより、分岐後の各レーザ光の出力のばらつきを抑え、分岐光の各レーザ光の出力を均一化して、加工品質を向上させることができる。
【0014】
本発明の一態様に係るレーザ加工方法は、対象物にレーザ光を照射することにより対象物に改質領域を形成するレーザ加工方法であって、レーザ光を複数に分岐する分岐パターンであって分岐後の各レーザ光の出力目標値に応じた第1分岐パターンを空間光変調器に設定し表示させる第1工程と、第1分岐パターンが表示された空間光変調器にレーザ光を出射し、第1分岐パターンによって複数に分岐されたレーザ光を対象物に照射する第2工程と、分岐後の各レーザ光の、対象物からの反射光を検出する第3工程と、反射光の検出結果に基づき、分岐後の各レーザ光の反射光の輝度を導出する第4工程と、導出した輝度に基づき、分岐後の各レーザ光の出力が上記出力目標値となるように第1分岐パターンを補正した第2分岐パターンを生成する第5工程と、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分岐光の出力を所望の値に調整することにより加工品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1に示されるレーザ加工装置の一部分の正面図である。
【
図3】
図1に示されるレーザ加工装置のレーザ加工ヘッドの正面図である。
【
図4】
図3に示されるレーザ加工ヘッドの側面図である。
【
図5】
図3に示されるレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図6】複数の改質スポットを説明するための平面図である。
【
図8】GUIの設定画面の管理者モードの例を示す図である。
【
図9】比較例に係るレーザ加工を説明する図である。
【
図11】実施形態に係るレーザ加工を説明する図である。
【
図12】実施形態に係るレーザ加工を説明する図である。
【
図13】導出された輝度に基づく分岐パターンの補正及び補正後の結果の一例を示す表である。
【
図14】表面を集光点とした輝度測定を説明する図である。
【
図15】裏面を集光点とした輝度測定を説明する図である。
【
図16】実際の剥離加工におけるレーザ加工状態を示す模式図である。
【
図17】Z方向に均一な分岐の輝度測定ハイトの決定について説明する図である。
【
図18】Z方向に不均一な分岐の輝度測定ハイトの決定について説明する図である。
【
図19】分岐パターンの補正(補正パターンの生成)処理を示すフローチャートである。
【
図20】改質領域及び改質領域から延びる亀裂の形成状態を示す図である。
【
図22】スリットパターンの合成を説明する図である。
【
図23】横分岐パターンの合成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
まず、レーザ加工装置の基本的な構成について説明する。
【0019】
[レーザ加工装置の基本構成]
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、複数の移動機構5,6と、支持部7と、一対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと、光源ユニット8と、制御部9と、を備えている。なお、以下ではレーザ加工ヘッドが一対である例を説明するが、レーザ加工ヘッドは1つのみであってもよい。以下、第1方向をX方向、第1方向に垂直な第2方向をY方向、第1方向及び第2方向に垂直な第3方向をZ方向という。本実施形態では、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0020】
移動機構5は、固定部51と、移動部53と、取付部55と、を有している。固定部51は、装置フレーム1aに取り付けられている。移動部53は、固定部51に設けられたレールに取り付けられており、Y方向に沿って移動することができる。取付部55は、移動部53に設けられたレールに取り付けられており、X方向に沿って移動することができる。
【0021】
移動機構6は、固定部61と、一対の移動部63,64と、一対の取付部65,66と、を有している。固定部61は、装置フレーム1aに取り付けられている。一対の移動部63,64のそれぞれは、固定部61に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、Y方向に沿って移動することができる。取付部65は、移動部63に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。取付部66は、移動部64に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。つまり、装置フレーム1aに対しては、一対の取付部65,66のそれぞれが、Y方向及びZ方向のそれぞれに沿って移動することができる。
【0022】
支持部7は、移動機構5の取付部55に設けられた回転軸に取り付けられており、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。つまり、支持部7は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動することができ、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。支持部7は、対象物100を支持する。対象物100は、例えば、ウエハである。
【0023】
図1及び
図2に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、移動機構6の取付部65に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L1を照射する。レーザ加工ヘッド10Bは、移動機構6の取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L2を照射する。
【0024】
光源ユニット8は、一対の光源81,82を有している。光源81は、レーザ光L1を出力する。レーザ光L1は、光源81の出射部81aから出射され、光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Aに導光される。光源82は、レーザ光L2を出力する。レーザ光L2は、光源82の出射部82aから出射され、別の光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Bに導光される。
【0025】
制御部9は、レーザ加工装置1の各部(支持部7、複数の移動機構5,6、一対のレーザ加工ヘッド10A,10B、及び光源ユニット8等)を制御する。制御部9は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部9では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部9は、各種機能を実現する。
【0026】
以上のように構成されたレーザ加工装置1による加工の一例について説明する。当該加工の一例は、ウエハである対象物100を複数のチップに切断するために、格子状に設定された複数のラインに沿って対象物100の内部に改質領域を形成する例である。なお、レーザ加工装置1は、対象物100の一部分を剥離する剥離加工を行うものであってもよい。
【0027】
まず、対象物100を支持している支持部7がZ方向において一対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと対向するように、移動機構5が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って支持部7を移動させる。続いて、対象物100において一方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0028】
続いて、一方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点(集光領域の一部)が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、一方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0029】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、一方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し且つ一方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の内部に改質領域を形成する。
【0030】
続いて、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0031】
続いて、他方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、他方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0032】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、他方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し且つ他方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の内部に改質領域を形成する。
【0033】
なお、上述した加工の一例では、光源81は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L1を出力し、光源82は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L2を出力する。そのようなレーザ光が対象物100の内部に集光されると、レーザ光の集光点に対応する部分においてレーザ光が特に吸収され、対象物100の内部に改質領域が形成される。改質領域は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
【0034】
パルス発振方式によって出力されたレーザ光が対象物100に照射され、対象物100に設定されたラインに沿ってレーザ光の集光点が相対的に移動させられると、複数の改質スポットがラインに沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポットは、1パルスのレーザ光の照射によって形成される。1列の改質領域は、1列に並んだ複数の改質スポットの集合である。隣り合う改質スポットは、対象物100に対するレーザ光の集光点の相対的な移動速度及びレーザ光の繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。設定されるラインの形状は、格子状に限定されず、環状、直線状、曲線状及びこれらの少なくとも何れかを組合せた形状であってもよい。
【0035】
[レーザ加工ヘッドの構成]
図3及び
図4に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、を備えている。
【0036】
筐体11は、第1壁部21及び第2壁部22、第3壁部23及び第4壁部24、並びに、第5壁部25及び第6壁部26を有している。第1壁部21及び第2壁部22は、X方向において互いに対向している。第3壁部23及び第4壁部24は、Y方向において互いに対向している。第5壁部25及び第6壁部26は、Z方向において互いに対向している。
【0037】
レーザ加工ヘッド10Aでは、第1壁部21は、移動機構6の固定部61とは反対側に位置しており、第2壁部22は、固定部61側に位置している。第3壁部23は、移動機構6の取付部65側に位置しており、第4壁部24は、取付部65とは反対側であってレーザ加工ヘッド10B側に位置している(
図2参照)。第5壁部25は、支持部7とは反対側に位置しており、第6壁部26は、支持部7側に位置している。
【0038】
筐体11は、第3壁部23が移動機構6の取付部65側に配置された状態で筐体11が取付部65に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部65は、ベースプレート65aと、取付プレート65bと、を有している。ベースプレート65aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている(
図2参照)。取付プレート65bは、ベースプレート65aにおけるレーザ加工ヘッド10B側の端部に立設されている(
図2参照)。筐体11は、第3壁部23が取付プレート65bに接触した状態で、台座27を介してボルト28が取付プレート65bに螺合されることで、取付部65に取り付けられている。台座27は、第1壁部21及び第2壁部22のそれぞれに設けられている。筐体11は、取付部65に対して着脱可能である。
【0039】
入射部12は、第5壁部25に取り付けられている。入射部12は、筐体11内にレーザ光L1を入射させる。入射部12は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。
【0040】
入射部12は、光ファイバ2の接続端部2aが接続可能となるように構成されている。光ファイバ2の接続端部2aには、ファイバの出射端から出射されたレーザ光L1をコリメートするコリメータレンズが設けられており、戻り光を抑制するアイソレータが設けられていない。当該アイソレータは、接続端部2aよりも光源81側であるファイバの途中に設けられている。これにより、接続端部2aの小型化、延いては、入射部12の小型化が図られている。なお、光ファイバ2の接続端部2aにアイソレータが設けられていてもよい。
【0041】
調整部13は、筐体11内に配置されている。調整部13は、入射部12から入射したレーザ光L1を調整する。調整部13が有する各構成は、筐体11内に設けられた光学ベース29に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11内の領域を第3壁部23側の領域と第4壁部24側の領域とに仕切るように、筐体11に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11と一体となっている。調整部13が有する各構成は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。調整部13が有する各構成の詳細については後述する。
【0042】
集光部14は、第6壁部26に配置されている。具体的には、集光部14は、第6壁部26に形成された孔26aに挿通された状態で(
図5参照)、第6壁部26に配置されている。集光部14は、調整部13によって調整されたレーザ光L1を集光しつつ筐体11外に出射させる。集光部14は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。
【0043】
図5に示されるように、調整部13は、アッテネータ31と、ビームエキスパンダ32と、ミラー33と、を有している。入射部12、並びに、調整部13のアッテネータ31、ビームエキスパンダ32及びミラー33は、Z方向に沿って延在する直線(第1直線)A1上に配置されている。アッテネータ31及びビームエキスパンダ32は、直線A1上において、入射部12とミラー33との間に配置されている。アッテネータ31は、入射部12から入射したレーザ光L1の出力を調整する。ビームエキスパンダ32は、アッテネータ31で出力が調整されたレーザ光L1の径を拡大する。ミラー33は、ビームエキスパンダ32で径が拡大されたレーザ光L1を反射する。
【0044】
調整部13は、反射型空間光変調器34と、結像光学系35と、を更に有している。調整部13の反射型空間光変調器34及び結像光学系35、並びに、集光部14は、Z方向に沿って延在する直線(第2直線)A2上に配置されている。反射型空間光変調器34は、例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。反射型空間光変調器34は、ミラー33で反射されたレーザ光L1を変調する。反射型空間光変調器34は、表示された変調パターンに応じて、レーザ光L1を変調する。反射型空間光変調器34には、少なくともレーザ光L1を複数に分岐するための分岐パターンが設定・表示される。これにより、反射型空間光変調器34に入射したレーザ光L1は、反射型空間光変調器34において複数のレーザ光に分岐される(
図6参照。詳細は後述)。結像光学系35は、反射型空間光変調器34の反射面34aと集光部14の入射瞳面14aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。結像光学系35は、3つ以上のレンズによって構成されている。
【0045】
直線A1及び直線A2は、Y方向に垂直な平面上に位置している。直線A1は、直線A2に対して第2壁部22側(一方の壁部側)に位置している。レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光L1は、入射部12から筐体11内に入射して直線A1上を進行し、ミラー33及び反射型空間光変調器34で順次に反射された後、直線A2上を進行して集光部14から筐体11外に出射する。なお、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32の配列の順序は、逆であってもよい。また、アッテネータ31は、ミラー33と反射型空間光変調器34との間に配置されていてもよい。また、調整部13は、他の光学部品(例えば、ビームエキスパンダ32の前に配置されるステアリングミラー等)を有していてもよい。
【0046】
レーザ加工ヘッド10Aは、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、検出部17と、駆動部18と、回路部19と、を更に備えている。
【0047】
ダイクロイックミラー15は、直線A2上において、結像光学系35と集光部14との間に配置されている。つまり、ダイクロイックミラー15は、筐体11内において、調整部13と集光部14との間に配置されている。ダイクロイックミラー15は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。ダイクロイックミラー15は、レーザ光L1を透過させる。ダイクロイックミラー15は、非点収差を抑制する観点では、例えば、キューブ型、又は、ねじれの関係を有するように配置された2枚のプレート型が好ましい。
【0048】
測定部16は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。測定部16は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。測定部16は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)と集光部14との距離を測定するための測定光L10を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された測定光L10を検出する。つまり、測定部16から出力された測定光L10は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14を介して測定部16で検出される。
【0049】
より具体的には、測定部16から出力された測定光L10は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられたビームスプリッタ20及びダイクロイックミラー15で順次に反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15及びビームスプリッタ20で順次に反射され、測定部16に入射し、測定部16で検出される。
【0050】
検出部17は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。検出部17は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。検出部17は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)を観察するための観察光L20を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された観察光L20を検出する。つまり、検出部17から出力された観察光L20は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14を介して検出部17で検出される。検出部17は、例えば、反射された観察光L20を検出(撮像)するカメラである。
【0051】
より具体的には、検出部17から出力された観察光L20は、ビームスプリッタ20を透過してダイクロイックミラー15で反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15で反射され、ビームスプリッタ20を透過して検出部17に入射し、検出部17で検出される。なお、レーザ光L1、測定光L10及び観察光L20のそれぞれの波長は、互いに異なっている(少なくともそれぞれの中心波長が互いにずれている)。
【0052】
また、検出部17は、対象物100の表面で反射されたレーザ光L1の一部を検出する(詳細は後述)。対象物100の表面で反射されたレーザ光L1の一部とは、対象物100の表面で反射されたレーザ光L1のうち、ダイクロイックミラー15において検出部17方向に少量だけ反射されたレーザ光L1である。
【0053】
駆動部18は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。駆動部18は、例えば圧電素子の駆動力によって、第6壁部26に配置された集光部14をZ方向に沿って移動させる。
【0054】
回路部19は、筐体11内において、光学ベース29に対して第3壁部23側に配置されている。つまり、回路部19は、筐体11内において、調整部13、測定部16及び検出部17に対して第3壁部23側に配置されている。回路部19は、例えば、複数の回路基板である。回路部19は、測定部16から出力された信号、及び反射型空間光変調器34に入力する信号を処理する。回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。一例として、回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて、対象物100の表面と集光部14との距離が一定に維持されるように(すなわち、対象物100の表面とレーザ光L1の集光点との距離が一定に維持されるように)、駆動部18を制御する。なお、筐体11には、回路部19を制御部9(
図1参照)等に電気的に接続するための配線が接続されるコネクタ(図示省略)が設けられている。
【0055】
レーザ加工ヘッド10Bは、レーザ加工ヘッド10Aと同様に、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、検出部17と、駆動部18と、回路部19と、を備えている。ただし、レーザ加工ヘッド10Bの各構成は、
図2に示されるように、一対の取付部65,66間の中点を通り且つY方向に垂直な仮想平面に関して、レーザ加工ヘッド10Aの各構成と面対称の関係を有するように、配置されている。
【0056】
例えば、レーザ加工ヘッド10Aの筐体(第1筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10B側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。これに対し、レーザ加工ヘッド10Bの筐体(第2筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10A側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。
【0057】
レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付部66側に配置された状態で筐体11が取付部66に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部66は、ベースプレート66aと、取付プレート66bと、を有している。ベースプレート66aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている。取付プレート66bは、ベースプレート66aにおけるレーザ加工ヘッド10A側の端部に立設されている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付プレート66bに接触した状態で、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、取付部66に対して着脱可能である。
【0058】
[分岐パターン補正処理]
以下では、対象物100の切断及び剥離等を目的としてレーザ光を分岐して対象物100に照射する場合において、分岐された各レーザ光の出力が出力目標値となるように、反射型空間光変調器34に設定・表示される分岐パターンを補正する処理について説明する。なお、以下では、主に、分岐された各レーザ光の出力目標値が共通の値とされ、分岐された各レーザ光の出力が当該共通の値になるように(すなわち、各レーザ光の出力が均一化されるように)分岐パターンを補正する処理を説明する。当該補正処理は、対象物の切断等を目的として対象物100に改質領域が形成される前に実施される。
【0059】
最初に、
図6~
図8を参照して、レーザ光L1の分岐について説明する。上述したように、レーザ光L1は、反射型空間光変調器34に設定・表示される分岐パターンに応じて分岐される。
【0060】
図6は、レーザ光L1を4つに分岐する場合の複数の改質スポットSAを説明する図である。
図6に示される例では、加工進行方向C1と直交する直交方向に対して傾斜する傾斜方向C2に沿って一列に並ぶ複数(4つ)の改質スポットSAが対象物100に形成されるように、レーザ光L1が分岐されている。レーザ光L1の分岐は、反射型空間光変調器34(
図5参照)に設定・表示される分岐パターン(変調パターン)により実現される。
【0061】
図示される例では、レーザ光L1が4分岐され、4つの改質スポットSAが形成される。分岐された4つの改質スポットSAのうち隣接する一対の改質スポットSAについて、加工進行方向C1における間隔が分岐ピッチBPxであり、加工進行方向C1の直交方向における間隔が分岐ピッチBPyである。連続する2パルスのレーザ光L1の照射で形成される一対の改質スポットSAについて、加工進行方向C1における間隔がパルスピッチPPである。加工進行方向C1と傾斜方向C2と間の角度が分岐角度αである。
【0062】
図7は、
図6に示されるようなレーザ光L1の分岐を実現するためのGUI111の設定画面である。GUI111は、ユーザからの入力を受け付ける入力部として機能する。
図7に示されるGUI111の設定画面は、加工条件を選択する加工条件選択ボタン211と、レーザ光L1の分岐数を入力又は選択する分岐数欄212と、1本の加工用ラインに沿ったレーザ加工の後に次の加工用ラインまでの移動する距離であるインデックスを入力するインデックス欄213と、分岐数及びインデックスの入力又は表示を行うイメージ
図214と、Z方向における改質スポットSAの位置を入力する加工Zハイト欄215と、加工速度を入力する加工速度欄216と、加工条件の切替方法を選択する条件切替方法ボタン217と、を含む。
【0063】
加工条件選択ボタン211では、具体的な加工条件を複数の選択肢の中から選択できる。インデックス欄213によれば、分岐数が1の場合には、その入力値分だけ自動でインデックス方向にレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。分岐数を1よりも大きくした場合には、以下の計算式に基づくインデックスだけ、インデックス方向にレーザ加工ヘッド10Aを自動で移動させる。
インデックス=(分岐数)×インデックス入力値
【0064】
イメージ
図214は、インデックス入力値の表示部214aと、各改質スポットSAの出力を入力する出力入力欄214bと、を含む。
【0065】
図8は、GUI111の設定画面の管理者モードの例を示す図である。
図8に示される設定画面は、レーザ光L1の分岐方向を選択する分岐方向選択ボタン221と、レーザ光L1の分岐数を入力又は選択する分岐数欄222と、分岐ピッチBPxを入力する分岐ピッチ入力欄223と、分岐ピッチBPxの列数を入力する分岐ピッチ列数入力欄224と、分岐ピッチBPyを入力する分岐ピッチ入力欄225と、インデックスを入力するインデックス欄226と、分岐数に基づく光軸イメージ
図227と、レーザ光L1のスキャン方向が一方向(往路)か他方向(復路)かを選択する往路復路選択ボタン228と、各種の数値のバランスを自動で調整するバランス調整開始ボタン229と、を含む。
【0066】
制御部9は、GUI111においてユーザから受け付けられた情報に基づき分岐後の各レーザ光の出力目標値(ここでは分岐後の各レーザ光で共通の値)を決定し、決定した出力目標値に応じた、レーザ光L1を分岐するための第1分岐パターン(変調パターン)を導出する。この場合、制御部9は、予め用意されている複数の分岐パターンの中から1つの分岐パターンを選択し第1分岐パターンとしてもよいし、ユーザから受け付けられた情報に基づき新たに分岐パターンを生成し第1分岐パターンとしてもよい。制御部9は、導出した第1分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定し表示させる。
【0067】
図9(a)に示されるようにGUI111にレーザ光L1を4分岐するための情報がユーザから入力されると、制御部9によって、各分岐加工点(分岐されたレーザ光の各集光点)におけるレーザ出力が互いに同程度となるように出力目標値が決定され(
図9(b)参照)、決定した出力目標値に応じて第1分岐パターン340が生成(自動生成)されて、該第1分岐パターン340が反射型空間光変調器34に設定・表示される(
図9(c)参照)。なお、
図9(b)、
図9(e)、
図11(b)、
図11(e)、
図12(b)、及び
図12(d)のグラフでは、分岐されたレーザ光に係る各集光点についてのレーザ光の出力(又は反射光の輝度)が示されている。そして、
図9(d)に示されるように、第1分岐パターン340に応じてレーザ光L1が分岐されて対象物100に照射され対象物100の加工(自動加工)が実施される。ここで、第1分岐パターン340に応じてレーザ光L1を分岐した各レーザ光については、理論上は互いに同一の出力となるように設定されているものの、実際には、
図9(e)に示されるように出力(実投入出力)が互いに同程度とならないことが考えられる。
【0068】
図10は、第1分岐パターンに応じてレーザ光L1を4分岐して対象物100に照射した場合の打痕状態(詳細には、改質領域の発生有無)の一例を示す表である。
図10では、分岐された4つのレーザ光のそれぞれについて、理論上のパルスエネルギーの値と改質領域が発生したか否か(発生している場合には「〇」、発生していない場合には「×」)を示している。
図10に示されるように、各分岐光の出力が同程度になるように設定された第1分岐パターンによってレーザ光L1を分岐した場合であっても、集光点2及び集光点3の分岐光ではパルスエネルギーが5.71μj以上である場合に改質領域が発生しているのに対して、集光点3の分岐光ではパルスエネルギーが5.96μj以上である場合に改質領域が発生しており、また、集光点1の分岐光ではパルスエネルギーが6.48μj以上である場合に改質領域が発生している。このように、各分岐光の出力が同程度になるようにレーザ光L1を分岐した場合であっても、実際には、分岐光のレーザ出力は互いに同程度とならない場合がある。このようなレーザ出力の違いは、レンズにおける各分岐光の通過領域が互いに異なること等の光学特性の個体差の影響により生じるものであり、このような個体差の影響を完全になくすことは困難である。また、実際にレーザ照射を行うことなく、このような個体差を把握することは困難である。
【0069】
そこで、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、対象物100に改質領域を形成する加工処理を行う前段階において、第1分岐パターンによって分岐されたレーザ光を対象物100に照射し、該レーザ光の反射光を検出(撮像)して輝度を導出し、該輝度に基づいて第1分岐パターンを補正する補正処理を行う。具体的には、レーザ加工装置1は、輝度に基づき各分岐光の出力を推定し、分岐光の出力が出力目標値となる(ここでは、各分岐光の出力が均一化される)ように、第1分岐パターンを補正し新たな分岐パターンである第2分岐パターンを生成する。
【0070】
当該補正処理は、検出(撮像)される分岐光の反射光の輝度が、分岐光の出力(ビーム強度)に比例するとの前提に基づくものである。上述した
図10の例において、パルスエネルギーが5.71μj以上である場合に改質領域が発生した集光点2及び集光点3のパルスエネルギーを100%(最大の強さ)とすると、相対的に、パルスエネルギーが5.96μj以上である場合に改質領域が発生した集光点4のパルスエネルギーは96%、パルスエネルギーが6.48μj以上である場合に改質領域が発生した集光点1のパルスエネルギーは88%とみなせる。この場合において、検出部17によって検出(撮像)された分岐光の反射光の輝度は、
図13(a)に示されるように、最も大きかった集光点3の輝度を100%とすると、集光点1が89%、集光点2が98%、集光点4が96%となった。してみると、集光点1及び集光点3について、反射光の強度と出力とに少し差があるものの、概ね、反射光の輝度と出力とに比例関係があると言える。このため、輝度に基づいて各分岐光の出力を推定し、分岐光の出力が均一化されるように第1分岐パターンを補正するという処理により、レーザ加工時における分岐光の出力のばらつきを適切に低減することができる。
【0071】
図11及び
図12は、上述した補正処理を行うレーザ加工装置1の処理を説明する図である。
図11(a)に示されるようにGUI111にレーザ光L1を4分岐するための情報がユーザから入力されると、制御部9によって、各分岐加工点(分岐されたレーザ光の各集光点)におけるレーザ出力が理論上互いに同程度となるように(
図11(b)参照)、第1分岐パターン340が生成(自動生成)されて、該第1分岐パターン340が反射型空間光変調器34に設定・表示される(
図11(c)参照)。そして、第1分岐パターン340に応じてレーザ光L1が分岐され、各分岐光が対象物100に照射されて、対象物100における各分岐光の反射光が検出部17によって検出(撮像)される(
図11(d))参照。
図11(d)に示されるように、制御部9によって、検出された反射光の輝度が導出され、各点の輝度(各分岐光の輝度)が比較される(
図11(e)参照)。
【0072】
そして、制御部9によって、導出した輝度に基づき、分岐光の出力が均一化されるように第1分岐パターン340を補正した第2分岐パターン341が生成され、該第2分岐パターン341が反射型空間光変調器34に設定・表示される(
図12(a)参照)。この場合、
図12(b)に示されるように、第2分岐パターン341としては、比較的輝度が高いとされた分岐光よりも比較的輝度が低いとされた分岐光の出力が増大するように変調パターンが設定される。具体的には、例えば各分岐光の反射光の輝度について、
図13(a)に示されるように、最も大きかった集光点3の輝度を100%として、集光点1の輝度が89%、集光点2の輝度が98%、集光点4の輝度が96%であったとすると、
図13(b)に示されるように、第2分岐パターンについては、輝度の大小及び差異が考慮されて、集光点1のパルスエネルギーを100%(最大の強さ)として、集光点2のパルスエネルギーが91%、集光点3のパルスエネルギーが89%、集光点4のパルスエネルギーが93%となるように調整される。この例では、補正前の輝度の%の値と第2分岐パターン(補正後)のパルスエネルギーの%の値とを掛け合わせた値が、全集光点について同程度となるように、第2分岐パターンが生成されている。
【0073】
このようにして設定された第2分岐パターン341を利用してレーザ光L1が分岐され、分岐光が対象物100に照射されることにより、対象物100が加工される(
図12(c)参照)。この場合には、
図12(d)に示されるように、加工時における各分岐光の出力(実投入出力)を互いに同程度として、対象物100の加工が行われる。例えば、
図13(a)に示されるように輝度が測定されて
図13(b)に示されるように分岐パターンの補正が行われた場合においては、
図13(c)に示されるように、いずれの集光点もパルスエネルギーが5.71μj以上である場合に改質領域が発生することとなっている。このように、第2分岐パターンによって各分岐光の出力が均一化されることにより、各分岐光についての改質領域の発生条件を同じにすることができている。このことで、改質領域から延びる亀裂量のばらつきを抑え、対象物の未分割・未剥離が生じることを抑制し、加工品質を向上させることができる。
【0074】
以下では、上述した分岐パターン補正処理を実現する制御部9の機能について説明する。
【0075】
制御部9は、レーザ光L1を複数に分岐する分岐パターンであって分岐後の各レーザ光の出力目標値に応じた第1分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定し表示させる第1処理と、反射型空間光変調器34に第1分岐パターンが表示された状態においてレーザ光L1が出射されるように光源ユニット8を制御する第2処理と、第1分岐パターンによる分岐後の各レーザ光の反射光が検出されるように検出部17を制御する第3処理と、検出部17による検出結果に基づき分岐後の各レーザ光の反射光の輝度を導出する第4処理と、導出した輝度に基づき、分岐後の各レーザ光の出力が出力目標値となるように第1分岐パターンを補正した第2分岐パターンを生成する第5処理と、を実行するように構成されている。
【0076】
第1処理では、制御部9は、GUI111の設定画面(
図7及び
図8参照)において受付けられた情報に基づき出力目標値を決定し、決定した出力目標値に応じた第1分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定する。制御部9は、分岐後の各レーザ光の出力目標値を共通の値とし、該共通の値に応じた第1分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定し表示させる。この場合、当該第1分岐パターンは、理論上、分岐後の各レーザ光の出力が互いに同程度となる分岐パターンである。
【0077】
第2処理では、制御部9は、反射型空間光変調器34に第1分岐パターンが表示された状態において、対象物100に改質領域が形成されない出力(改質閾値以下)でレーザ光L1が照射されるように光源ユニット8を制御する。なお、分岐パターン補正処理後にレーザ加工を行う対象物100とは別の対象物(補正処理用の対象物)に分岐後のレーザ光が照射されてもよい。
【0078】
ここで、第2処理において、制御部9は、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aが移動するように移動機構6を制御することによって、分岐後の各レーザ光の集光点を、対象物100レーザ光の入射面である表面100a(
図14参照)に設定してもよい。この場合、検出部17は、表面100aにおける反射光を検出する。表面100aにおいて反射する反射光は、比較的輝度が高い。このような輝度が高い反射光が検出されることにより、輝度に基づくレーザ光の出力推定を精度良く行うことができる。
【0079】
或いは、制御部9は、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aが移動するように移動機構6を制御することによって、分岐後の各レーザ光の集光点を、対象物100レーザ光の入射面である表面100aの反対側の面である裏面100b(
図15参照)に設定してもよい。この場合、検出部17は、裏面100bにおける反射光を検出する。
図16は、実際の剥離加工におけるレーザ加工状態を示す模式図である。
図16に示されるように、実際に剥離加工等のレーザ加工が行われる場合においては、反射型空間光変調器34には、分岐パターンだけでなく、集光点の深さ(Zハイト)に応じた集光補正パターン等が合成された変調パターンが設定されることとなる。この点、
図15に示されるように、裏面100bが集光点とされる場合には、反射型空間光変調器34には分岐パターン及び対象物100の厚みtに応じた集光補正パターン等が合成された変調パターンが設定されて輝度が検出されることとなるので、実際の剥離加工等のレーザ加工時と同様に、集光補正パターンをも考慮した状態で分岐後の各レーザ光の反射光の輝度を検出することができる。このことにより、実際のレーザ加工時と類似した環境下で輝度(すなわちレーザ出力)を判断することができる。
【0080】
なお、制御部9は、移動機構6を制御することによってZ方向にレーザ加工ヘッド10Aを移動させながら、検出部17によって検出(撮像)される反射光の強度に基づいて、輝度測定ハイトを決定してもよい。すなわち、
図17に示されるように、制御部9は、Z方向において同一の高さに各分岐光が分岐されている場合には、全分岐光の強度(輝度)が大きくなるZハイトを輝度測定ハイトに決定してもよい。また、
図18に示されるように、制御部9は、Z方向において異なる高さに各分岐光が分岐されている場合には、それぞれの分岐光毎に、強度が大きくなるZハイトを輝度測定ハイトに決定してもよい。なお、制御部9は、予め集光位置のズレ量を特定できている場合には、決定した輝度測定ハイトについて当該ズレ量を考慮して、最終的な輝度測定ハイトを決定してもよい。当該ズレ量は、例えば、ハイトセット時に用いるレチクルの対物レンズの色収差によるズレ等である。
【0081】
第3処理では、制御部9は、少なくとも、分岐後の各レーザ光が対象物100に照射されている期間において、分岐後の各レーザ光の対象物100における反射光の検出(撮像)が可能となるように、検出部17を制御する。制御部9は、検出部17によって撮像された画像を検出部17から取得する。
【0082】
第4処理では、制御部9は、検出部17によって取得された撮像データにおいて、他の領域よりも輝度が高い領域を分岐数分だけ特定する。ここでの領域とは、輝度が最も高い点を中心とした周囲の領域も含む領域である。そして、制御部9は、各分岐光に対応する領域について、周囲の輝度も考慮して輝度を導出する。
【0083】
制御部9は、さらに、第2分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定し表示させる第6処理と、反射型空間光変調器34に第2分岐パターンが表示された状態においてレーザ光L1が出射されて対象物100が加工されるように光源ユニット8を制御する第7処理と、を更に実行するように構成されている。
【0084】
次に、分岐パターン補正処理について、
図19のフローチャートを参照して説明する。
【0085】
図19に示されるように、分岐パターン補正処理では、まず、GUI111の設定画面において受付けられた情報に基づき、第1分岐パターンが導出され、該第1分岐パターンが反射型空間光変調器34に設定・表示される(ステップS1:第1工程)。
【0086】
つづいて、第1分岐パターンが表示された反射型空間光変調器34にレーザ光L1が出射され、第1分岐パターンによって複数に分岐されたレーザ光が対象物100の表面100a又は裏面100bに照射される(ステップS2:第2工程)。
【0087】
つづいて、表面100a又は裏面100bからの分岐光の反射光が検出部17によって検出(撮像)される(ステップS3:第3工程)。そして、撮像データ(反射光の検出結果)に基づいて、分岐後の各レーザ光の集光点における輝度が測定される(ステップS4:第4工程)。
【0088】
最後に、導出した輝度データに基づいて、分岐後の各レーザ光の出力が出力目標値となるように(出力目標値が共通の値である場合には出力が均一化されるように)、第1分岐パターンを補正した補正パターン(第2分岐パターン)が生成される(ステップS5:第5工程)。
【0089】
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置1の作用効果について説明する。
【0090】
本実施形態に係るレーザ加工装置1は、対象物100にレーザ光を照射することにより対象物100に改質領域を形成するレーザ加工装置であって、レーザ光を出射する光源ユニット8と、光源ユニット8から出射されたレーザ光を変調する反射型空間光変調器34と、反射型空間光変調器34によって変調されたレーザ光を対象物100に集光する集光部14と、対象物100におけるレーザ光の反射光を検出する検出部17と、制御部9と、を備え、制御部9は、レーザ光を複数に分岐する分岐パターンであって分岐後の各レーザ光の出力目標値に応じた第1分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定し表示させる第1処理と、反射型空間光変調器34に第1分岐パターンが表示された状態においてレーザ光が出射されるように光源ユニット8を制御する第2処理と、第1分岐パターンによる分岐後の各レーザ光の反射光が検出されるように検出部17を制御する第3処理と、検出部17による検出結果に基づき分岐後の各レーザ光の反射光の輝度を導出する第4処理と、導出した輝度に基づき、分岐後の各レーザ光の出力が出力目標値となるように第1分岐パターンを補正した第2分岐パターンを生成する第5処理と、を実行するように構成されている。
【0091】
本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第1分岐パターンに応じて分岐された各レーザ光の対象物100における反射光が検出され、検出結果に基づいて分岐後の各レーザ光の反射光の輝度が導出される。ここで、分岐後の各レーザ光の反射光の輝度は、分岐後の各レーザ光の出力(ビーム強度)に比例している。このため、輝度が導出されることにより、分岐後の各レーザ光の出力を高精度に推定することが可能となる。そして、輝度から分岐後の各レーザ光の出力を高精度に推定した上で、分岐後の各レーザ光の出力が出力目標値となるように新たな分岐パターン(第1分岐パターンを補正した第2分岐パターン)が生成されることにより、分岐後の各レーザ光(分岐光)の出力を所望の値(出力目標値)に調整する分岐パターンを生成することができる。以上のように、本実施形態に係るレーザ加工装置1によれば、分岐光の出力を所望の値に調整し、加工品質を向上させることができる。
【0092】
制御部9は、第2分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定し表示させる第6処理と、反射型空間光変調器34に第2分岐パターンが表示された状態においてレーザ光が出射されて対象物100が加工されるように光源ユニット8を制御する第7処理と、を更に実行するように構成されていてもよい。このように、輝度に基づいて適正化された分岐パターン(第2分岐パターン)が反射型空間光変調器34に設定されて、実際にレーザ加工が行われることにより、分岐光の出力を所望の値に調整した状態で、対象物100の高品質な加工を実現することができる。
【0093】
制御部9は、第2処理において、対象物100に改質領域が形成されない出力でレーザ光が照射されるように光源ユニット8を制御してもよい。これにより、分岐光の出力を調整している段階において対象物100に改質領域が形成されてしまうことを防止することができる。このことで、対象物100の高品質な加工を実現することができる。
【0094】
上記レーザ加工装置1は、ユーザからの入力を受け付けるGUI111を更に備え、制御部9は、第1処理において、GUI111によって受け付けられた情報に基づき出力目標値を決定し、決定した出力目標値に応じた第1分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定してもよい。これにより、ユーザが設定する条件に応じた分岐パターンを設定することができる。すなわち、ユーザ所望のレーザ加工を実現することができる。
【0095】
集光部14によって集光されるレーザ光の集光点は、対象物100におけるレーザ光の入射面である表面100aに設定されており、検出部17は、表面100aにおける反射光を検出してもよい。表面100aで反射した反射光は、比較的輝度が高い。このような輝度が高い反射光が検出されることにより、輝度に基づくレーザ光の出力推定をより高精度に行うことができる。
【0096】
集光部14によって集光されるレーザ光の集光点は、対象物100における表面100aの反対側の面である裏面100bに設定されており、検出部17は、裏面100bにおける反射光を検出してもよい。実際に剥離加工等のレーザ加工が行われる場合においては、反射型空間光変調器34には、分岐パターン以外の集光補正パターン等が合成された変調パターンが設定される。このような、実際のレーザ加工時の反射型空間光変調器34における変調パターンを考慮した分岐光の輝度(各分岐光の出力)を測定するという点においては、裏面100bにおける反射光の輝度が測定されることが好ましい。そのため、裏面100bにおける反射光が検出されることにより、実際のレーザ加工時を考慮して、各分岐光の出力を所望の値に調整することができる。
【0097】
そして、本実施形態において主に説明したように、制御部9は、第1処理において、分岐後の各レーザ光の出力目標値を共通の値とし、該共通の値に応じた第1分岐パターンを反射型空間光変調器34に設定し表示させてもよい。分岐加工においては、分岐後の各レーザ光の出力を均一化したい場合がある。このような場合において、上述したように分岐後の各レーザ光の出力目標値が共通の値とされると共に、第5処理において分岐後の各レーザ光の出力が当該共通の値となるように(すなわち各レーザ光の出力が均一化されるように)第2分岐パターンが生成されることにより、分岐後の各レーザ光の出力のばらつきを抑え、分岐光の各レーザ光の出力を均一化して、加工品質を向上させることができる。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、主に、分岐された各レーザ光の出力目標値が共通の値とされ、分岐された各レーザ光の出力が当該共通の値になるように(すなわち、各レーザ光の出力が均一化されるように)第2分岐パターンを生成するとして説明したが、これに限定されず、分岐された各レーザ光の出力目標値が互いに異なる値であってもよい。この場合においても、輝度に基づき、分岐後の各レーザ光の出力が、それぞれの出力目標値となるように第2分岐パターンが生成されることにより、分岐光の出力を所望の値に調整し加工品質を向上させることができる。
【0099】
また、例えば、輝度測定が行われる対象物100については、ミラーウエハ(パターン無しのベアウエハ)であってもよいし、実際に剥離加工等が実施される実デバイス(パターン付きウエハ)であってもよい。実デバイスでは、レーザ入射面側にSiNやSiO2等の積層膜が設けられる場合があるところ、当該積層膜における多重反射の影響によって、反射率がミラーウエハと比べて低くなることが考えられる。例えば、ミラーウエハでは1099nmのレーザの反射率が30%程度であるのに対して、SiN膜100nmが設けられた実デバイスにおいては、同波長のレーザの反射率は8%程度にまで低下する。このため、このような実デバイスにおいては、輝度測定値が低下することが考えられる。この点、例えば各分岐光の出力のばらつきを特定する場合等においては、各点の輝度の相対比較ができればよいため、反射率の低下による輝度測定値の低下はあまり問題とならない。しかしながら、輝度測定が行えない程度にまで反射光量が低い場合には、測定時のレーザ出力を上げる補正を行う必要がある。この場合、輝度値をモニタリングしながらアッテネータを可変し測定に最適な輝度値になる出力を設定してもよいし、ミラーウエハの輝度値(反射率)や最適な輝度値を予め把握しておき、そこからのズレ分の出力を調整してもよい。
【0100】
なお、実デバイスを用いて上述した第7処理(レーザ光による対象物の加工)を実施する場合においては、上述した反射率を考慮して出力設定補正を行ってもよい。
【0101】
上述したように、レーザ加工装置1を用いたレーザ加工の一例として、ウエハである対象物100を複数のチップに切断するために、格子状に設定された複数のラインに沿って対象物100の内部に改質領域を形成する加工が挙げられる。当該加工の加工条件の一例を以下に示す。なお、当該加工においては、対象物100の内部に、厚さ方向に2列の改質領域を形成するとする。2列の改質領域は、別々にレーザ光が照射されることにより形成されてもよいし、2焦点分岐パターンを用いて加工点を2分岐させて1スキャンで形成されてもよい。
【0102】
加工対象材料:シリコンウエハ、ウエハ厚:300μm、結晶方位:<100>、抵抗値:1Ω・cm以上
レーザ加工装置1のレーザ波長:1099nm、パルス幅:700nsec、周波数:120kHz、ステージ速度:800mm/sec、パルスピッチ:6.67μm
入射面から遠い側の改質領域であるSD1の集光点の深さ(Zハイト):Z64、出力:2.78W、空間光変調器の表示パターン:球面収差補正パターンを使用
入射面から近い側の改質領域であるSD2の集光点の深さ(Zハイト):Z24、出力:1.85W、空間光変調器の表示パターン:球面収差補正パターンを使用
【0103】
図20(a)は、上述した加工条件で対象物100を加工した場合の、改質領域12a,12b及び改質領域12a,12bから延びる亀裂14の形成状態を示す図である。
図20(a)に示される例では、改質領域12a,12b及び改質領域12a,12bから延びる亀裂14の形成状態が良好とは言えない。具体的には、
図20(b)に示されるような改質領域12a,12b及び改質領域12a,12bから延びる亀裂14の形成状態と比較すると、
図20(a)に示される亀裂14等の形成状態は良好とは言えない。
図20(b)のように良好に亀裂14等が形成されることにより、切断した際の凹凸(端面凹凸)が少なくなり直進性の高い切断が可能となる。また、端面凹凸が抑制されることによって、分割時の割れ残りを防ぐ効果、切断面から発生する改質層片(シリコンパーティクル)の発生率を下げる効果、及び抗折強度を高める効果等がある。以下では、
図20(b)に示されるような亀裂14等の形成状態を実現させるべく、上述した加工条件に加えて、空間光変調器に所定のパターンをさらに合成し、該所定のパターンを表示させた状態で加工を行う例について説明する。
【0104】
図21は、上述した所定のパターンとして、非点収差を加えるパターンであるASパターンを合成する例を説明する図である。
図21は、集光点におけるビームL150の形状を示している。
図21に示される例では、非点収差を加えるパターンであるASパターンの合成によって、ビームL150の強度分布が楕円形状、詳細には、加工進行方向が長手方向となるような楕円形状とされている。ビーム形状の長軸÷短軸を楕円率とした場合に、当該楕円形状の楕円率は例えば1.5とされる。このように、ASパターンの合成によってレーザ光のビームが加工進行方向に楕円形状とされることにより、より直進性の高い切断が可能となる。なお、直進性を高める効果は、例えば楕円率が1.05以上とされることによって奏される。
【0105】
図22は、上述した所定のパターンとして、スリットパターンを合成する例を説明する図である。ここでのスリットパターンとは、レーザ光のビームにおける加工進行方向に交差する方向の両端部をカットするパターンである。すなわち、例えば加工進行方向を左右方向とした場合、スリットパターンは、レーザ光のビームの上下方向の端部をカットする。
図22に示される例では、図中の左から右方向が加工進行方向である場合に、スリットパターン500,600によって、ビームL180の上下端がカットされている。ここでのカットする領域の大きさは、例えばビーム全体の10%程度とされてもよい。このように、加工進行方向に交差する方向の両端部をカットするスリットパターンが合成されることにより、レーザ入射面のビーム形状が加工進行方向に長尺になるため、直進性の高い切断が可能となる。
【0106】
図23は、上述した所定のパターンとして、横分岐パターンを合成する例を説明する図である。ここでの横分岐とは、レーザ光を対象物100の厚さ方向(Z方向)に交差する方向に分岐することを言い、より詳細には、加工進行方向に分岐することを言う。
図23に示される例では、パルスピッチを6.67μmとしつつ、加工進行方向に対してビームを分岐する横分岐パターンを合成しており、2つに分岐したビームの距離が3μmになるような横分岐パターンを設定している。この場合、2つに分岐されたビームL201,L202の距離が3μmであり、ビームL201,ビームL203の距離(パルスピッチ)が6.67μmであり、2つに分岐されたビームL203,L204の距離が3μmである。このように、パルスピッチよりも少ない距離で横分岐するように加工を行うことにより、上述した直進性を高めることができる。
【0107】
上述したような各所定のパターンは、単独でそれぞれ用いても直進性を高めることができるが、それぞれを組み合わせて用いることによってより直進性を高めることができる場合がある。なお、上述した所定のパターンによる効果は、空間光変調器を用いずに実現されてもよい。すなわち、例えば、シリンドリカルレンズによってASパターンと同様の効果が実現されてもよいし、メカニカルな刃によってビーム端部のカットが行われてスリットパターンと同様の効果が実現されてもよい。
【符号の説明】
【0108】
1…レーザ加工装置、8…光源ユニット、9…制御部、14…集光部、17…検出部、34…反射型空間光変調器、100…対象物、100a…表面、100b…裏面、111…GUI。