(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】併用療法用DNAワクチンを標的とするネオアンチゲン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20241204BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241204BHJP
C12N 15/74 20060101ALI20241204BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241204BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241204BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241204BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241204BHJP
A61K 35/66 20150101ALI20241204BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20241204BHJP
A61K 35/17 20150101ALN20241204BHJP
【FI】
A61K39/00 Z
C12N15/12
C12N15/74 Z
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
C12N1/21 ZNA
A61K35/66
C07K14/47
A61K35/17
(21)【出願番号】P 2021512220
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2019073564
(87)【国際公開番号】W WO2020049036
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-07-28
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522173262
【氏名又は名称】エンエーセー オンコイミュニティ アクスイェ セルスカプ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ リュベナウ
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/011289(WO,A1)
【文献】特表2018-522822(JP,A)
【文献】国際公開第2017/173321(WO,A1)
【文献】VAXIMM catalog, Fast and cost-effective oral delivery technology of personalized T-cell vaccines based on a live attenuatedbacteria platform,VAXIMM,2018年04月26日,https://www.vaximm.com/wp-content/uploads/2018/05/VAXIMM_Presentation_European-Neoantigen-Summit_180410.pdf
【文献】Cancer Res,Vol. 78 Suppl 13,Abstract 733
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の養子細胞移植後に、対象における固形腫瘍を治療するための医薬組成物であって、医薬組成物が、5つ以上のネオアンチゲンを含むポリペプチドをコードする真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を含み、腫瘍抗原結合細胞表面受容体がキメラ抗原受容体(CAR)である、前記医薬組成物。
【請求項2】
5つ以上のネオアンチゲンが、前記対象の固形腫瘍において同定された腫瘍特異的抗原である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
5つ以上のネオアンチゲン
が、
(a)CD8 T細胞抗原;又は
(b)CD8及びCD4 T細胞抗原
を含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
治療が、チェックポイント阻害剤の投与をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1、CTLA-4、IDO、GITR、OX40、TIM-3、LAG-3、KIR、CSF1R及びCD137に対する抗体からなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞が、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
チフス菌Ty21a株が、
(a)腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の最初の養子細胞移植から約2週間~4ヶ月後;又は
(b)腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の最初の養子細胞移植から約2~3ヵ月後
に投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
対象が、腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の養子細胞移植の前にリンパ球除去化学療法を受けている、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
リンパ球及び/又は白血球数が、チフス菌Ty21a株が投与される前に標準化されている、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
チフス菌Ty21a株が経口投与される、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
治療が、ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、ヒトメソテリン(MSLN)、ヒトCEA、CMV pp65、ヒトPD-L1、VEGFR-2及びヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)からなる群から選択される抗原をコードする真核性発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株の投与をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
固形腫瘍が、大腸癌、膵臓癌、肺癌、卵巣癌、中皮腫、神経膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、腎細胞癌、前立腺癌、子宮頸癌、乳癌及び黒色腫から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
(a)チフス菌Ty21a株の単回用量が、約10
6~約10
9コロニー形成単位(CFU)を含み;及び/又は
(b)チフス菌Ty21a株を最初の週に2~4回投与され、続いて2~4週間ごとに単回用量で追加投与する、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
チフス菌Ty21a株が医薬組成物の形態であり、さらに少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌(Salmonella typhi)Ty21a株、ならびに対象における固形腫瘍の治療に組み合わせて使用するための少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍が免疫原性であり得るという知見は、正常組織を温存しながら悪性細胞を選択的に排除するために免疫系を利用するよう設計された多くの癌免疫療法の開発をもたらした。しかしながら、腫瘍抗原に対するワクチン接種のみから得られる生存利益は依然としてわずかである。抗癌ワクチンは多くの課題に直面しており、その一つが免疫抑制微小環境である。腫瘍の異常な脈管構造は、免疫抑制に向けて炎症細胞を分極させる低酸素微小環境を作り出す。さらに、腫瘍は、増殖因子及びサイトカインの分泌を介して、免疫細胞の増殖、分化、及び機能を全身的に変化させる。
【0003】
癌の治癒のためには、癌幹細胞の完全な根絶が極めて重要である。ヒト腫瘍の多くの免疫逃避メカニズムは、癌免疫療法において依然として主要な課題である。このように、これまで満たされていない癌治療の併用アプローチを含めて、癌治療アプローチの改善が非常に必要である。
【0004】
最近、CAR-T細胞及びCAR-NKT細胞のような再プログラミングされたT細胞、ならびに再プログラミングされたNK細胞(CAR-NK細胞)を用いた癌の養子細胞治療が有望であることが示された。初期の試みでは、様々な固形腫瘍及び液体腫瘍に罹患した患者を治療したが、CAR-T細胞療法によるブレークスルーはB細胞性血液腫瘍を標的として達成された。抗CD19修飾T細胞、KYMRIAH(チサゲンレクロイセル)及びYESCARTA(アキシカブタゲンシロルユーセル)を用いた2種類の免疫療法が、最近、FDAにより承認された。しかし、CAR-T細胞療法は一部の血液癌に有効であるが、一般的な固形癌に対する有効性はわずかであり、特に持続的な完全奏効はまれである。
【0005】
これまでCAR-T細胞の改良が主な焦点となってきたが、γδT細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞などの従来のαβT細胞以外の細胞型へのCARの導入は重要性を増してきた。
【0006】
癌治療に関心を集めている別の免疫療法アプローチは、癌に対するワクチン接種である。癌に対する免疫にはいくつかの方法があるが、非常に有望な方法は、腫瘍抗原又は間質抗原に対するDNAワクチンの担体としてのサルモネラ菌のような細菌の使用である。例えば、WO2014/005683は、癌免疫療法、特に膵臓癌の治療に使用するためのVEGF受容体タンパク質をコードする組換えDNA分子を含むサルモネラ菌の弱毒化株を開示している。
【0007】
さらに、WO2014/173542及びWO2015/090584は、癌免疫療法に使用するためのウィルムス腫瘍タンパク質又はメソテリンをコードする組換えDNA分子を含むサルモネラ菌の弱毒化株を開示している。
【0008】
WO2013/09189は、ガラクトースエピメラーゼ活性を欠損し、組換えDNA分子を保持する弱毒化突然変異体チフス菌株を増殖させる方法を開示し、WO2018/011289は、弱毒化サルモネラ菌株を含む個別化癌ワクチンを生成する迅速かつ効果的な方法を開示している。
【発明の概要】
【0009】
発明の目的
先行技術に照らして、新規な癌治療を提供することが本発明の目的である。このような新規な治療法は、固形腫瘍を有する癌患者の治療選択肢を改善するための主要な利点を提供する。
【0010】
発明の概要
1つの態様において、本発明は、対象における固形腫瘍の治療に使用するための、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株に関する。ここで、対象は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているか又は処理される。
【0011】
別の態様において、本発明は、対象における固形腫瘍の治療に使用するための、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞と組み合わせて、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株に関する。
【0012】
本発明によれば、少なくとも5つ以上のネオアンチゲンは、前記対象の固形腫瘍において同定される腫瘍特異的抗原である。好ましくは、5つ以上のネオアンチゲンは、CD8 T細胞抗原又はCD8及びCD4 T細胞抗原を含む。1つの実施形態において、少なくとも1つのポリペプチドは、10個以上、好ましくは20個以上のネオアンチゲン、好ましくは30個以上のネオアンチゲン、好ましくは50個以上のネオアンチゲンを含む。別の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、5~300個のネオアンチゲン、10~300個のネオアンチゲン、20~300個のネオアンチゲン、好ましくは30~300個のネオアンチゲン、好ましくは50~300個のネオアンチゲンを含む。さらに別の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、10~200個のネオアンチゲン、10~200個のネオアンチゲン、20~200個のネオアンチゲン、好ましくは30~200個のネオアンチゲン、好ましくは50~200個のネオアンチゲンを含む。
【0013】
チフス菌Ty21a株は、ネオアンチゲンではない腫瘍特異的抗原及び/又は腫瘍関連抗原を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするDNA分子をさらに含むことができ、ネオアンチゲンではない前記腫瘍特異的抗原及び/又は腫瘍関連抗原は、前記固形腫瘍において発現され、ネオアンチゲンではない腫瘍特異的抗原及び/又は腫瘍関連抗原を含む少なくとも1つのポリペプチドは、(a)5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含む同DNA分子によってコードされるか、又はさらなる別個のDNA分子によってコードされ、(b)5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットによってコードされるか、又はさらなる別個の発現カセットによってコードされ、又は(c)5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチド又はさらなる別個のポリペプチドである。
【0014】
本発明によれば、チフス菌Ty21a株は、少なくとも1つのチェックポイント阻害剤と同時に投与することができる。好ましくは、少なくとも1つのチェックポイント阻害剤は、PD-1、PD-L1、CTLA-4、IDO、GITR、OX40、TIM-3、LAG-3、KIR、CSF1R及びCD137に対する抗体からなる群から選択される。
【0015】
少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、それぞれキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞とも呼ばれる、キメラ抗原受容体(CAR)を含むT細胞、NKT細胞又はNK細胞であり得る。1つの実施形態において、チフス菌Ty21a株は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の養子細胞移植後に投与される。好ましくは、チフス菌Ty21a株は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の最初の養子細胞移植後の約2週間~4ヵ月、好ましくは2~3ヵ月で投与される。
【0016】
1つの実施形態において、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞、又はNK細胞の養子細胞移植の前に、対象はリンパ球除去化学療法を受けている。この場合、治療を必要とする対象は免疫不全であり、チフス菌Ty21a株を投与する前にリンパ球及び/又は白血球数を標準化する必要がある。
【0017】
本発明によれば、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株は、腫瘍抗原、腫瘍間質抗原及び/又はチェックポイント阻害剤抗原、好ましくはヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、ヒトメソテリン(MSLN)、ヒトCEA、CMV pp65、ヒトPD-L1、VEGFR-2及びヒト線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)からなる群から選択される抗原をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む、少なくとも1つのチフス菌Ty21a株とともに同時投与される。より具体的には、VEGFR-2は、配列番号1のアミノ酸配列、又は配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得て;WT1は、配列番号3のアミノ酸配列、又は配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得て;MSLNは、配列番号4のアミノ酸配列、又は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得て;ヒトCEAは、配列番号5のアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得て;CMV pp65は、配列番号6、7若しくは8のアミノ酸配列、又は配列番号6、7若しくは8のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得て;及び/又はヒトPD-L1は、配列番号9のアミノ酸配列、又は配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0018】
1つの実施形態において、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株は、医薬組成物の形態であり、さらに、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み得る。医薬組成物は、腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原、好ましくはWT1、MSLN、CEA、CMV pp65、PD-L1、VEGFR-2及びFAPからなる群から選択される抗原をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む、少なくとも1つのチフス菌Ty21a株をさらに含むことができる。
【0019】
治療される固形腫瘍は、大腸癌、膵臓癌、肺癌、卵巣癌、中皮腫、神経膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、腎細胞癌、前立腺癌、子宮頸癌、乳癌又は黒色腫のような任意の固形腫瘍であり得る。
【0020】
本発明によるチフス菌Ty21a菌株の単回用量は、約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約106~約108、最も具体的には約107~約108コロニー形成単位を含む。一実施形態では、本発明のチフス菌Ty21a株を、最初の週に2~4回、好ましくは最初の週に4回投与し、続いて、2~4週間ごと、特に1日目及び7日目に、好ましくは1日目、3日目、5日目及び7日目に単回用量で追加投与し、続いて、2~4週間ごとに単回用量で追加投与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A-B】(A)空ベクター、及び(B)VXMNeo1mを用いて経口で免疫されたC57BL/6マウスの脾細胞における示されたエピトープ特異的CD8+T細胞集団の頻度。示されているエピトープの全CD8+T細胞のうち、エピトープ特異的な五量体陽性のCD8+T細胞の割合%を示す。
【
図1C】(C)VXM06mを用いて経口で免疫されたC57BL/6マウスの脾細胞における示されたエピトープ特異的CD8+T細胞集団の頻度。示されているエピトープの全CD8+T細胞のうち、エピトープ特異的な五量体陽性のCD8+T細胞の割合%を示す。
【
図2】医薬品の安定性試験。10
4(P4)、10
5(P5)、10
6(P6)又は10
7(P7)CFU/mlのチフス菌Ty21a送達プラットフォームに基づく3種類の標的抗原をコードする3種類の構築物から製造された最終の医薬品(製造品1、製造品2及び製造品3)を指示された時間、70℃以下でインキュベートした。生菌数(CFU/ml)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、本発明の以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0023】
1つの態様において、本発明は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株に関する。5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株を対象における固形腫瘍の治療に用いることができる。特に、少なくとも5つ以上のネオアンチゲンは、前記対象の固形腫瘍において同定された腫瘍特異的抗原である。
【0024】
本発明は、さらに、対象における固形腫瘍の治療に使用するための、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株に関し、ここで、対象は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているか又は処理される。特に、少なくとも5つ以上のネオアンチゲンは、前記対象の固形腫瘍において同定された腫瘍特異的抗原である。さらに、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体は、対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されると同定された少なくとも1つの腫瘍抗原に結合する。従って、好ましくは、少なくとも1つの腫瘍抗原が、前記対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されることが同定され、対象は、前記対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されることが同定された少なくとも1つの腫瘍抗原を標的とする少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているかまたは処理される。
【0025】
さらに、本発明は、対象における固形腫瘍の治療に使用するための、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞と組み合わせて、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株に関する。あるいは、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞と組み合わせて、対象における固形腫瘍の治療に使用される。特に、少なくとも5つ以上のネオアンチゲンは、前記対象の固形腫瘍において同定された腫瘍特異的抗原である。さらに、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体は、対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されると同定された少なくとも1つの腫瘍抗原に結合する。従って、好ましくは、少なくとも1つの腫瘍抗原が、前記対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されるように同定され、前記対象は、前記対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されるように同定された少なくとも1つの腫瘍抗原を標的とする少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているか又は処理される。
【0026】
別の態様では、本発明は、対象における固形腫瘍を治療する方法に関し、本方法は、対象に5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を投与することを含み、対象は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているか又は処理される。より具体的には、本方法は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞を投与し、次いで、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を対象に投与することを含む。少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞を養子細胞移植によって対象に投与する。本方法は、さらに、少なくとも5つ以上のネオアンチゲンが、前記対象の固形腫瘍中の腫瘍特異的抗原であることを同定し、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を生成する工程を含むことができる。本方法は、さらに、前記対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されると同定された少なくとも1つの腫瘍抗原を同定する工程と、前記対象の固形腫瘍において発現又は過剰発現されると同定された少なくとも1つの腫瘍抗原を標的とする少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞を投与する工程とを含み得る。
【0027】
本発明によれば、弱毒化サルモネラ菌株は、標的細胞への前記DNA分子の送達のための5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子の細菌担体として機能する。好ましくは、DNA分子は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むプラスミドの一部である。5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むそのような細菌担体又はデリバリーベクターもまたDNAワクチンと称され得る。
【0028】
本発明の文脈において、用語「ワクチン」は、投与時に対象において免疫応答を誘導することができる薬剤を指す。ワクチンは、好ましくは、疾患を予防し、改善し又は治療することができる。本発明の文脈において、ワクチンは、好ましくは経口ワクチンである。本発明による5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株は、「5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株」又は「ネオアンチゲン癌ワクチン」と略記することができる。
【0029】
ネオアンチゲン癌ワクチン
本発明による生弱毒化サルモネラ菌株、より詳細にはチフス菌Ty21a株は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含む組換えDNA分子を安定的に保有する。それは、この組換えDNA分子の経口送達のための担体として使用される。用語「チフス菌Ty21aの弱毒株」は、本明細書で使用される場合、サルモネラ菌の弱毒株、より具体的にはチフス菌を指し、ここで、弱毒株はTy21aであり、本明細書中では「チフス菌Ty21a」と同義に使用される。
【0030】
遺伝的免疫化は、従来のワクチン接種よりも有利である可能性がある。標的DNAは、かなりの期間にわたって検出することができ、かくして、抗原のデポとして作用する。いくつかのプラスミドの配列モチーフは、CpGアイランドのように、免疫刺激性であり、LPS及び他の細菌成分による免疫刺激によって促進されるアジュバントとして機能することができる。
【0031】
生きた弱毒化サルモネラ菌ベクターは、インサイチュでリポ多糖(LPS)のような自己免疫調節因子を産生し、これはマイクロカプセル化のような他の投与形態よりも有利である。さらに、本発明による粘膜ワクチンは、有益であることが証明されたリンパ管内作用モードを有する。本発明による弱毒化ワクチンの摂取後、腸のパイエル板中のマクロファージ及び他の細胞は、改変された細菌によって侵入される。細菌はこれらの食細胞に取り込まれる。チフス菌Ty21株の細菌は、その弱毒化突然変異のために、これらの食細胞内に存続できず、死滅する。組換えDNA分子は放出され、その後、特異的輸送系又はエンドソーム漏出によって食細胞性免疫細胞の細胞質に移される。最後に、組換えDNA分子は核内に入り、そこで転写され、食細胞の細胞質中に5つ以上のネオアンチゲンを含むポリペプチドを大量に発現させる。感染細胞はアポトーシスを起こし、5つ以上のネオアンチゲンを含むポリペプチドで負荷され、腸の免疫系によって取り込まれ、プロセシングされる。細菌感染の危険シグナルはこの過程で強力なアジュバントとして働き、全身及び粘膜コンパートメントのレベルで強力な標的抗原特異的CD8+T細胞及び抗体反応を引き起こす。免疫応答はワクチン接種10日後にピークに達する。抗担体応答の欠如は、同じワクチンで数回ブーストすることを可能にする。
【0032】
本発明の文脈において、用語「弱毒化された」とは、弱毒化突然変異を有しない親細菌株と比較して弱毒化突然変異による毒性が低下した細菌株を指す。弱毒化された細菌株は、病原性を失っているが、防御免疫を誘導する能力を保持していることが好ましい。弱毒化は、毒性遺伝子、調節遺伝子、及び代謝遺伝子を含む種々の遺伝子の欠失によって達成することができる。弱毒化細菌は、天然に見出されてもよく、又は、例えば、新しい培地又は細胞培養物への適応によって、実験室で人工的に産生されてもよく、又は、組換えDNA技術によって産生されてもよい。本発明によるサルモネラ菌の弱毒化株の約1011CFUの投与は、好ましくは、5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは1%未満の対象においてサルモネラ菌症を引き起こす。本発明のTy21a株は、チフス菌の弱毒化株である
【0033】
本発明の文脈において、用語「含む(comprise)」又は「含んでいる(comprising)」は、「限定されないが、含んでいる(including)」を意味する。用語は、任意の記載された特徴、要素、整数、ステップ又はコンポーネントの存在を指定するために、オープンエンドであることが意図されているが、1つ以上の他の特徴、エレメント、整数、ステップ、コンポーネント又はグループの存在又は追加を排除するものではない。したがって、用語「含んでいる(comprising)」は、より限定的な用語「からなる(consisting of)」及び「本質的にからなる」を含む。一実施形態では、出願全体、特にクレーム内で使用される「含む」という用語は、「からなる」という用語に置き換えることができる。本明細書中で使用される用語「ある(a)」は、複数を含むことができ、「1つ」を含むが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書中で使用される用語「ネオアンチゲン」は、癌細胞においてのみ発現されるが、同一患者の正常組織においては発現されない体細胞突然変異遺伝子から生成されるペプチドに関する。遺伝子と染色体は、体細胞組織でも胚組織でも突然変異を起こすことができる。生殖細胞系突然変異とは反対に、体細胞突然変異は子孫に伝達されない。このように、遺伝子の体細胞突然変異は、癌細胞及び癌発生中に獲得されている。典型的には、突然変異は、突然変異エピトープ又は点突然変異ペプチドとも呼ばれるネオエピトープを生成する腫瘍特異的点突然変異である。これらは、正常組織には存在せず、したがって中枢性胸腺寛容をバイパスするため、高度に免疫原性である。ネオアンチゲンは、好ましくは、MHC I又はMHC IIによってペプチドとして提示される新エピトープからなる。突然変異はまた、フレームシフトペプチド(FSP)抗原を生じるフレームシフト突然変異であってもよい。FSPネオアンチゲンは、単一ヌクレオチドの挿入又は欠失によって引き起こされるが、複数の免疫学的に関連する新生エピトープを含むことができる、長い抗原性アミノ酸ストレッチを包含する。特定の実施形態では、用語「ネオアンチゲン」は、ペプチドプロセシング(TEIPP)に関連するT細胞エピトープをさらに含む。TEIPPは、健常細胞においてMHC Iに装填されていない、普遍的に発現される非突然変異「自己」タンパク質に由来する。免疫を逃れる癌では、抗原プロセシングに関連するトランスポーター(TAP)のような抗原プロセシング成分がしばしばダウンレギュレートされる。したがって、突然変異又はエピジェネティックサイレンシングによるTAPの非存在下など、抗原処理装置に欠陥を有する細胞においてのみ、TEIPPを癌細胞の表面に提示することができる(Marjitら、Journal of Experimental Medicine,2018, 215(9):2325)。
【0035】
癌の進行中に、癌ゲノムに蓄積する突然変異がタンパク質をコードする遺伝子に影響を及ぼし、タンパク質配列の変化をもたらすことがある。突然変異タンパク質は、タンパク質分解的に短いペプチドに切断され、ヒトのMHC(ヒト白血球抗原(HLA))によって腫瘍細胞表面に提示される。これらの体細胞突然変異遺伝子、すなわち、悪性細胞には存在するが正常細胞には存在しないネオアンチゲンは、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)によって異物として認識され得る。従って、用語「ネオアンチゲン」は、好ましくは、MHC I又はIIによって提示される体細胞突然変異を含むペプチドからなるペプチドを意味する。MHC Iによって提示される抗原は、CD8 T細胞抗原とも呼ばれる。MHC IIによって提示される抗原は、CD4 T細胞抗原(又はTヘルパー抗原)とも呼ばれる。ネオアンチゲンはTILによって異物として認識され得るので、それらは強力な腫瘍特異的免疫応答を誘導することができる。腫瘍細胞死後に放出されたネオアンチゲンは、特異的なT細胞受容体(TCR)と特異的なネオアンチゲン-MHC複合体との相互作用を介して、最終的に癌細胞を認識するT細胞に導く多くのプロセスを開始する。
【0036】
用語「5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチド」とは、本明細書で使用される場合、5つ以上のネオアンチゲンを共に含む1つのポリペプチド又は1つ以上のポリペプチドを指す。5つ以上のネオアンチゲンが同じポリペプチドの一部であるか、あるいは異なるポリペプチドの一部であるかは、重要ではない。したがって、5つ以上のネオアンチゲンは、1つのポリペプチドとして、又は2つ以上のポリペプチドとして発現され得る。好ましくは、少なくとも1つ以上のポリペプチド内に含まれるネオアンチゲンは、10以上、20以上、30以上、50以上、又は50を超えるネオアンチゲンである。本明細書で使用されるチフス菌Ty21a株の文脈において、少なくとも1つのポリペプチドをコードする挿入物は、300個までのネオアンチゲン、好ましくは200個までのネオアンチゲンを含み得る。MHCクラスI又はII(ヒトHLA)上のペプチドとして提示される抗原は、典型的には、MHC II(CD4抗原)については11~30アミノ酸、MHC I(CD8抗原)については8~10アミノ酸である。従って、少なくとも1つのポリペプチド内に含まれるネオアンチゲンの好ましい範囲は、5~300個、10~300個、20~300個、30~300個、50~300個、又は50~300個を超えるネオアンチゲンである。少なくとも1つのポリペプチド内に含まれるネオアンチゲンのより好ましい範囲は、5~200個、10~200個、20~200個、30~200個、50~200個、又は50~200個を超えるネオアンチゲンである。融合したネオアンチゲンを含む各ポリペプチドは、抗原提示細胞内のネオアンチゲンにタンパク質分解的に切断され、HLAを介して提示され、T細胞応答を誘導する。
【0037】
本発明によれば、5つ以上のネオアンチゲンは、CD8 T細胞抗原及び/又はCD4 T細胞抗原を含み得る。好ましくは、5つ以上のネオアンチゲンは、CD8 T細胞抗原及びCD4 T細胞抗原を含む。
【0038】
ネオアンチゲンによるワクチン接種は、既存のネオアンチゲン特異的T細胞集団を拡大し、癌患者においてより広いレパートリーの新たなT細胞特異性を誘導することができるという仮説が立てられている。
【0039】
ネオアンチゲンは、典型的には、8~30個のアミノ酸、好ましくは8~20個のアミノ酸、より好ましくは8~12個のアミノ酸を有するペプチドである。
【0040】
ネオアンチゲン癌ワクチンでは、ワクチンが複数のネオアンチゲンを標的とする場合に有益であり、その結果、ネオアンチゲンのサブセットの発現の喪失による免疫回避のリスクが低下する。また、腫瘍進行中に選択されたネオアンチゲン又はネオアンチゲンの新規サブセットを標的とすることを含む、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む別のチフス菌Ty21a株で患者を連続的に治療することも本発明に包含される。
【0041】
チフス菌Ty21aの弱毒化株(「チフス菌Ty21a」とも呼ばれる)が、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドの担体として有利であることは、確立された品質管理アッセイであり、1つ以上のネオアンチゲンをコードする挿入物中にのみプラスミドの個体差、増殖の必要性及び経口投与による無菌試験に関する必要性がないことである。さらに、形質転換に適した発現プラスミド、ならびに担体としてのチフス菌Ty21a株は、多数(最大300個)のエピトープ(ネオアンチゲン)を可能にする。ネオアンチゲンは、所望によりリンカーによって分離されたビーズのストリング(1つ以上のポリペプチドとして発現される)としてプラスミドに挿入され得る。リンカーは、限定されるものではないが、GSリンカー、2A切断部位、又はIRES配列であり得る。迅速な生成及び限定された品質管理の必要性のために、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を生成する時間は短く、例えば、15日以内、好ましくはネオアンチゲンの同定後14日以内に達成することができる。1L培養では1011の集落形成単位(CFU)の純収量を有するバクテリアが高収率であるため、一晩発酵で十分であり、アップスケーリングは不要である。これは、製造時間が短く、製造コストが低いことを可能にする。さらに、各ロットは何年にもわたる治療に十分であり、製剤は少なくとも3年間安定であることが示された。従って、1つのバッチは固形腫瘍を有する対象の全治療の間持続するので、バッチ変動は起こらない。
【0042】
固形腫瘍を有する個体対象のための5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を生成する方法は、(a)腫瘍細胞試料及び前記対象からの対照試料を提供する工程;(b)対照試料に存在しない腫瘍細胞試料中に存在する5つ以上のネオアンチゲンを同定する工程;(c)5つ以上のネオアンチゲンをコードするcDNAを選択する工程;(d)5つ以上のネオアンチゲンを含むcDNAを合成する工程;(e)cDNAを少なくとも1つの真核生物発現カセットにクローニングする工程;(f)5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含む少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子でチフス菌Ty21a受容菌株を形質転換する工程;(f)工程(f)で得られた株を発酵させ、CFUに基づいて標的濃度まで希釈する工程;及び(g)5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするcDNAを配列決定することを含む、前記形質転換されたチフス菌Ty21aを分析する工程を含む。対照試料は、治療対象の対象からの正常組織又は血液の任意の試料であり得る。好ましくは、対照試料は血液試料である。血液試料は、さらに、患者のHLAタイピングのために使用され得る。腫瘍細胞の試料は、腫瘍の生検である場合がある。
【0043】
腫瘍内の突然変異を検出(全て)し、自己ヒト白血球抗原(HLA)分子の高親和性結合を有する突然変異ペプチドを確実に予測又は決定する方法は、当該技術分野で公知である。例えば、個々の患者からの適合腫瘍及び正常細胞DNAの全エキソーム配列決定(WES)を実施することができる。同定された体細胞突然変異は、次いで、直交的に検証され、腫瘍のRNA配列決定によって突然変異対立遺伝子の発現について評価される。次いで、患者の自己HLA-A又はHLA-Bタンパク質に結合すると予測されるペプチドが選択される。これは、例えば、エクスビボでのインターフェロンγ酵素結合免疫スポット(ELISPOT)によって確認することができる。あるいは、HLA-ペプチドリガンドを細胞培地から単離することができ、同定はLC-MS/MS分析によって行うことができる。
【0044】
ポリペプチドは、互いに融合した複数のネオアンチゲン、好ましくは5個以上、10個以上、20個以上、30個以上、又は50個以上のネオアンチゲンを含み得る。pVAX1(商標)発現プラスミド(Invitrogen,San Diego,California)又はその誘導されたpVAX10のようなチフス菌Ty21a株をトランスフェクトするために使用される典型的なプラスミドにおいて、約300個までのネオアンチゲンが発現され得る。したがって、ポリペプチドは、約5~300、10~300、20~300、300~300又は50~300個のネオアンチゲン、好ましくは10~200、20~200、30~300又は50~200個のネオアンチゲンを含み得る。ポリペプチドは、細胞内でペプチドに切断され、ネオアンチゲンのタイプに応じて、MHC I又はMHC II分子上に提示される。個々のネオアンチゲンは、リンカー、例えばGSリンカー、特異的に設計されたリンカー又は2A切断部位によって分離することができる。ネオアンチゲンをコードするDNA分子はまた、IRES配列によって分離され得、その結果、別々のポリペプチドが得られる。
【0045】
5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株は、ネオアンチゲンではない少なくとも1つの腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子をさらに含み、ここで、ネオアンチゲンではない前記少なくとも1つの腫瘍抗原は、治療される患者の固形腫瘍において発現される。ネオアンチゲン及び/又は腫瘍間質抗原ではない少なくとも1つの腫瘍抗原を含む少なくとも1つのポリペプチドは、(a)5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドを含む少なくとも1つの真核生物発現カセットを含む同一DNA分子によって、又はさらなる別個のDNA分子によってコードされてもよく、(b)5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットによって、又はさらなる別個の発現カセットによってコードされてもよく、又は(c)5つ以上のネオアンチゲン又はさらなる別個のポリペプチドを含む少なくとも1つのポリペプチドであってもよい。したがって、チフス菌Ty21a株を2つのDNA分子で形質転換することができ、第1のものは5つ以上のネオアンチゲンをコードし、第2のものはネオアンチゲン及び/又は腫瘍間質抗原ではない少なくとも1つの腫瘍抗原をコードする。あるいは、チフス菌Ty21a株は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセット、及びネオアンチゲン及び/又は腫瘍間質抗原ではない少なくとも1つの腫瘍抗原をコードする少なくとも1つのさらなる真核生物発現カセットを含む1つのDNA分子で形質転換され得る。あるいは、チフス菌Ty21a株を、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含み、さらに、ネオアンチゲン及び/又は腫瘍間質抗原ではない少なくとも1つの腫瘍抗原を含む1つのDNA分子で形質転換することもできる。この文脈における腫瘍抗原の例は、限定されるものではないが、WT1、MSLN、CEA、HER2、EGFR、FBP、GD2、GD3、MAGE-A1、PSCA、PSMA、MUC1、GPC3及びCMVpp65である。腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原又は腫瘍関連抗原であり得る。本明細書中で使用される「腫瘍特異的抗原」という用語は、腫瘍内で発現されるが、正常組織内では発現されない抗原に関する。本明細書中で使用される「腫瘍関連抗原」という用語は、正常組織と比較して腫瘍内で過剰発現された抗原に関する。本明細書中で使用される「腫瘍間質抗原」という用語は、限定されるものではないが、VEGFR-2及びFAPを含む、腫瘍間質において発現される抗原を指す。5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株は、チェックポイント阻害抗原を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含んでもよく、ここで、該少なくとも1つのチェックポイント阻害抗原又はそのリガンドは、治療される患者の固形腫瘍において過剰発現される。5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株におけるチェックポイント阻害剤抗原の発現に関して、ネオアンチゲン及び/又は腫瘍間質抗原ではない少なくとも1つの腫瘍抗原についても同様である。チェックポイント阻害剤抗原の例は、PD-1又はPD-L1である。この文脈で使用されるDNA分子は、好ましくは発現プラスミドである。
【0046】
5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子はまた、組換えDNA分子、すなわち、好ましくは異なる起源のDNA断片から構成される操作されたDNA構築物と称され得る。DNA分子は、線状核酸、又は好ましくは、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームをプラスミドの真核生物発現カセットに導入することによって生成される環状DNAプラスミドであり得る。真核生物発現カセットを含むプラスミドは、真核生物発現プラスミドとも呼ばれ得る。
【0047】
本発明の文脈において、用語「発現カセット」は、その発現を制御する調節配列の制御下にある少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む核酸ユニットを指す。発現カセットは、好ましくは、真核生物標的細胞において、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする包含されたオープンリーディングフレームの転写を媒介することができる。真核生物発現カセットは、典型的には、プロモーター、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム、及び真核生物標的細胞での発現を可能にする転写終結シグナルを含む。
【0048】
特定の実施形態では、チフス菌Ty21a株の単回用量は、約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約107~約109、より具体的には約106~約108、最も具体的には約106~約107のコロニー形成単位を含む。
【0049】
より詳細には、チフス菌Ty21a株の単回用量は、約1×106~約1×1010、より詳細には約1×106~約1×109、より詳細には約1×107~約1×109、より詳細には約1×106~約1×108、特に詳細には約1×106~約1×107のコロニー形成単位(CFU)を含む。
【0050】
さらに、本発明のチフス菌株チフス菌Ty21aは、好ましくは第1週に2~4回、好ましくは第1週に4回投与し、続いて、2~4週間ごと、特に第1日及び第7日に、好ましくは第1日、第3日、第5日及び第7日に単回用量で追加投与し、続いて2~4週間ごとに単回用量で追加投与する。
【0051】
この文脈において、用語「約」又は「ほぼ」は、3の係数内、又は所与の値又は範囲の1.5の係数内を含む2の係数内を意味する。
【0052】
特別な実施形態において、処置は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチド又は本発明による医薬組成物をコードするチフス菌Ty21a株の単一又は複数の投与を含む。投与の単回用量は、本明細書に開示されているものと同じ又は異なるものであってもよく、好ましくは同じものであり、好ましくは、本明細書に開示されている範囲内であってもよい。特に、治療は、治療の最初の週に2~4回の初回ワクチン接種を含み、続いて、本発明による5以上のネオアンチゲン又は医薬組成物を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株を2~4週間ごとに単回追加投与することを含む。
【0053】
5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株は、対象における固形腫瘍の治療に使用するためであり、対象は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているか又は処理される。
【0054】
本発明に従って治療される固形腫瘍は、任意の固形腫瘍、特に大腸癌、膵臓癌、肺癌、卵巣癌、中皮腫、神経膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、腎細胞癌、前立腺癌、子宮頸癌、乳癌及び黒色腫から選択される固形腫瘍であり得る。
【0055】
操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞
5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を固形腫瘍の治療に使用するために固形腫瘍を有する対象に投与する。1つの実施形態において、対象は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているか又はさらに処理される。好ましくは、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、養子細胞移植(ACT)、すなわち、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の静脈内注射によって、固形腫瘍を有する対象に提供される。本明細書中で使用される用語「養子細胞移入」は、患者又は対象への細胞の移入を指す。少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の文脈において、それは「投与」又は「投与すべき」と同義で使用される。用語「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞」とは、本明細書で使用される場合、「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたNKT細胞、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたNK細胞」を意味し、「少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞、又は「少なくとも1つの操作されたT細胞、少なくとも1つの操作されたNKT細胞、又は少なくとも1つの操作されたNK細胞」に略することができる。より詳細には、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞は、操作された従来のαβT細胞又は操作されたγδT細胞であり得、好ましくは、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞は、操作された従来のαβT細胞である。
【0056】
少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、通常、カスタム製造される。これには、治療対象の固形腫瘍中に発現された腫瘍抗原を同定することが必要である。治療される対象の固形腫瘍中に発現される腫瘍抗原を同定する工程は、(a)前記対象からの腫瘍細胞試料及び対照試料を提供する工程と、(b)対照試料中に存在しない腫瘍細胞試料中に発現される腫瘍抗原を同定する工程とを含む。腫瘍細胞の試料は、腫瘍の生検である場合がある。さらに、腫瘍細胞試料は、固形腫瘍組織ならびに腫瘍間質組織を含むと理解されるべきである。少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞を生成するために治療される対象の固形腫瘍に発現される腫瘍抗原を同定し、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株を生成するために治療される対象の固形腫瘍に発現される5つ以上のネオアンチゲンを同定することは、同時に又は別々の時点で実施することができ、及び/又は同一の腫瘍細胞試料又は異なる腫瘍細胞試料において実施することができる。好ましくは、治療される対象の固形腫瘍又は固形腫瘍の間質に発現される5つ以上のネオアンチゲン、及び腫瘍抗原及び/又は腫瘍間質抗原の同定には、(a)前記対象からの腫瘍細胞試料及び対照試料を提供する工程;ならびに(b)対照試料中に存在しない、腫瘍細胞試料中に存在する5つ以上のネオアンチゲン及び/又は腫瘍間質抗原及び/又は腫瘍間質抗原を同定する工程を含む。少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体によって標的化される腫瘍抗原は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株によって標的化されるネオアンチゲンの少なくとも1つと同一であってもよく、又は異なるものであってもよい。
【0057】
少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、自己又は同種T細胞、NKT細胞又はNK細胞であり得る。用語「自己」は、T細胞、NKT細胞又はNK細胞が、患者から得られ、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体をコードする核酸分子を導入することによって遺伝的に操作され、インビトロで拡大され、治療される対象に戻されることを意味する。好ましくは、操作されたT細胞は、自己T細胞であり、すなわち、治療される対象に由来する。T細胞、特に、操作された従来のαβT細胞は、治療される対象に対して同種異系であり、すなわち、別の健康なドナー由来であってもよい。操作されたNKT細胞ならびに操作されたNK細胞は、それぞれ、自家又は同種NKT細胞又はNK細胞であり得る。T細胞(特に通常のαβT細胞)の養子細胞移植は、移植片対宿主病(GvHD)のリスクがあるが、これはNKT細胞、NK細胞又はγδT細胞の養子細胞移植の場合よりも少ない。少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、同種の操作されたT細胞、NKT細胞、又はNK細胞は、予め作製され得るか、又は市販製造品であり得る。さらに、NK細胞については、同種異系細胞の使用は、NK細胞が自己MHC分子によって誘発されるKIRシグナル伝達によって抑制されにくいという利点を有する。
【0058】
本明細書で使用される用語「操作された」は、細胞表面上に少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を発現するための「修飾された」を意味する。細胞表面上の少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体をコードする遺伝子又はmRNAを、好ましくはトランスフェクション又はトランスダクションにより、T細胞、NKT細胞又はNK細胞に導入する。T細胞、NKT細胞又はNK細胞は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体をコードするRNA又はDNAでトランスフェクト又は形質導入され得る。次いで、操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞を、エクスビボで増殖又は拡大させ、その後、対象に再注入する。遺伝子送達のための適切なベクターは、当該技術分野で公知であり、例えば、レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターのようなウイルスベクター、又はPiggy-Bac(PB)及びSleeping Beauty(SB)のようなトランスポゾンを含む。RNA一時的に操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞、好ましくはCAR-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞もまた、本発明によって想定される。
【0059】
ある態様において、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、その細胞表面上に少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含み、ここで、腫瘍抗原は、癌胎児性抗原(CEA)、上皮増殖因子受容体(EGFR)、葉酸結合タンパク質(FBP)、GD2、GD3、ヒト上皮増殖因子受容体2(HER2、erb-B2)、メラノーマ抗原A1(MAGE-A1)、メソテリン(MSLN)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、ムチン-1(MUC1)、グリピカン-3(GPC3)、ウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、B細胞成熟抗原(BCMA)及びチロシンタンパク質キナーゼ膜貫通受容体(ROR1)から選択される。腫瘍抗原は、それに限定されるものではないが、例えば、表1に列挙される固形腫瘍によって発現され得る。
【0060】
【0061】
用語「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞」とは、腫瘍抗原に結合する組換えT細胞受容体を有するT細胞を指す。特に、これは、少なくとも1つの腫瘍抗原結合ドメイン、活性化ドメイン、及び共刺激ドメインを含む組換え表面受容体を有するT細胞を意味する。好ましくは、これは、キメラ抗原受容体(CAR)、いわゆる「CAR-T細胞」を担持するT細胞を意味する。本明細書において使用される場合、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体又はCAR-T細胞を含む操作されたT細胞は、それぞれ、操作された従来のαβT細胞又はCAR-αβT細胞を指すと理解することができる。さらに、又は代替的に、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞又はCAR-T細胞は、操作された従来のαβT細胞又はCAR-αβT細胞、又は操作されたγδT細胞又はCAR-γδT細胞であり得る。本発明の文脈において、操作されたT細胞又はCAR-T細胞は、少量の他のT細胞のサブセット、例えばNKT細胞又はCAR-NKT細胞を含み得る。典型的には、本発明による操作されたT細胞又はCAR-T細胞は、それぞれ5%未満、2%未満、1%未満又は0.5%未満のNKT細胞又はCAR-NKT細胞を含む。用語「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞」は、操作されたT細胞の集団、好ましくは操作されたT細胞の実質的に純粋な集団、より好ましくは50%超、60%超、70%超、80%超、90%超又は95%超のT細胞を含む細胞の混合物を含む。操作されたT細胞は、好ましくは、異なるドナー又は治療される対象からの末梢血(PB)、骨髄(BM)、臍帯血(CB)、胎盤又は誘導多能性幹細胞(iPSC)から生成される。
【0062】
用語「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたNKT細胞」とは、腫瘍抗原に結合する組換え表面受容体を有するNKT細胞、特に、少なくとも1つの腫瘍抗原結合ドメイン、活性化ドメイン及び共刺激ドメインを含む組換え表面受容体を有するNKT細胞をいう。好ましくは、これは、キメラ抗原受容体(CAR)、いわゆる「CAR-NKT細胞」を担持するNKT細胞を意味する。NKT細胞は、非古典的MHCタンパク質CD1dを介して提示される糖脂質及び脂質を認識するT細胞受容体を有する。本明細書で使用される用語「NKT細胞」は、CD1d制限T細胞を指す。NKT細胞は、αβT細胞受容体を共発現するT細胞のサブセットであるが、NK1.1のようなNK細胞に典型的に関連する種々の分子マーカーも発現する。NKT細胞は、不変T細胞受容体(不変又は1型NKT細胞)と多様なNKT細胞(2型NKT細胞)をもつNKT細胞に細分される。CAR-NKT細胞は、CAR活性がNKT細胞の固有の抗腫瘍活性と相乗的に作用し得るという利点を有する。用語「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたNKT細胞」は、操作されたNKT細胞の集団、好ましくは操作されたNKT細胞の実質的に純粋な集団、より好ましくは50%、60%超、70%超、80%超、90%超又は95%超のNKT細胞を含む細胞の混合物を含む。操作されたNKT細胞は、好ましくは、異なるドナー又は治療される対象からの末梢血(PB)、骨髄(BM)、臍帯血(CB)、胎盤又は誘導された多能性幹細胞(iPSC)から生成される。
【0063】
用語「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたNK細胞」とは、腫瘍抗原に結合する組換え表面受容体を有するNK細胞、特に、少なくとも1つの腫瘍抗原結合ドメイン、活性化ドメイン及び共刺激ドメインを含む組換え表面受容体を有するNK細胞をいう。好ましくは、これは、キメラ抗原受容体(CAR)、いわゆる「CAR-NK細胞」を担持するNK細胞を意味する。NK細胞は、多数の活性化及び抑制性生殖細胞系にコードされた受容体を含むリンパ球である。これらの受容体には、腫瘍細胞上のストレスリガンドMIC-A及びMIC-Bを認識するNKG2D受容体、ならびに天然の細胞毒性受容体NKp30、46及びp44が含まれる。一方、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリーはクラスI MHC分子に結合し、NK細胞活性化を阻害する。NKエフェクター機能を誘発する2つの主要なメカニズムが存在する:(i)自己欠損:ダウンレギュレートされたMHC提示の結果のような抑制性リガンドの欠如、及び(ii)自己誘導:プロ活性化刺激は、ストレスリガンドのアップレギュレーション又は抗体によりコーティングされた細胞のような、それらの抑制性の対応物を上回る。用語「少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたNK細胞」は、操作されたNK細胞の集団、好ましくは、操作されたNK細胞の実質的に純粋な集団、より好ましくは、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超又は95%超のNK細胞の混合物を含む。操作されたNK細胞は、好ましくは、異なるドナー又は治療される対象から、又はNK細胞株(例えば、NK-92細胞)から、末梢血(PB)、骨髄(BM)、臍帯血(CB)、胎盤又は誘導された多能性幹細胞(iPSC)から生成される。CAR-NK細胞は、CAR活性がNK細胞の固有の抗腫瘍活性と相乗的に作用し得るという利点を有する。
【0064】
好ましい実施形態において、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、CAR-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞である。
【0065】
用語「腫瘍抗原結合細胞表面受容体」は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合ドメイン、好ましくはキメラ抗原受容体(CAR)を含む組換え表面受容体を指す。CAR構築物は、典型的には、3つの成分、すなわち、細胞外抗原認識ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインからなる。細胞外ドメインは抗原認識部位を含み、通常は一本鎖可変断片(scFv)で構成される。ある態様において、細胞外ドメインはまた、同一又は好ましくは異なる抗原特異性を有する2つ以上のscFvを含み得る。これは、典型的には、ヒンジ領域を介して膜貫通ドメインに連結され、これは、適切な配向及び抗原への結合のための柔軟性を付与する。細胞内シグナル伝達ドメインは、活性化受容体(例えば、CD3ζ又はFcRγ)の細胞内ドメインなどの刺激ドメイン、好ましくは補助刺激受容体(例えば、CD38又は4-1BB)の細胞内ドメインなどの少なくとも1つの共刺激ドメインを含む。CARは、細胞外リガンド認識ドメイン、各細胞を活性化する細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ζ又はFcRγ)、好ましくは補助刺激受容体(例えば、CD28又は4-1BB)の少なくとも1つの細胞内ドメインを含む、人工細胞表面受容体、すなわち膜貫通タンパク質である。それらはキメラと呼ばれ、これは、異なる供給源からの部分が融合しているからである。細胞外リガンド認識ドメインは、好ましくは、モノクローナル抗体の特異性に基づいており、典型的には、一本鎖可変断片である。
【0066】
CARは、二重の機能を有する膜貫通キメラ分子をコードする:(a)腫瘍細胞の表面に発現される腫瘍抗原の免疫認識、及び(b)活性化及び/又は溶解機構の活性化を制御するシグナル伝達事象の積極的な促進及び伝播。このシステムは、いくつかの利点を有する:(1)エクスビボでの活性化メカニズムの「再プログラミングされたT細胞」、「再プログラミングされたNKT細胞」又は「再プログラミングされたNK細胞」を提供すること、(2)腫瘍細胞によって獲得された耐性を破壊すること、及び(3)HLA媒介抗原認識の制限を回避し、細胞性免疫療法のより広範な適用への障壁の1つを超えること。
【0067】
T細胞については、CARは、例えば、細胞外リガンド認識ドメインとしてscFvを含むキメラ融合タンパク質、及びCD3ζ鎖シグナリングドメイン又はFcRγ鎖シグナリングドメインを含む細胞内シグナリングドメインであり得る。これは、Tリンパ球に抗体型特異性を与え、IL-2のようなサイトカインの産生や標的細胞の溶解を含むエフェクター細胞のすべての機能を活性化する。CARは、さらに、CD27、4-1BB、CD40L、PD-1又はOX40からのような細胞内CD28共刺激ドメイン及び/又は追加のトランスデューサードメインを含み得る。典型的には、CARは、予め設計され、及び/又はCARをコードするDNA又はRNA分子として提供される。このように、CAR-T細胞によって標的化される腫瘍抗原は、理論的にはネオアンチゲンでもあり得るが、典型的には、ある固形腫瘍において発現又は過剰発現され、治療される対象の固形腫瘍において発現されることが同定される腫瘍抗原である。
【0068】
本発明によれば、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む操作されたT細胞は「外装CAR-T細胞」も含む。外装CAR-T細胞は、有効性及び持続性を改善するために、インターロイキンのような活性サイトカインを誘導するか又は恒常的に分泌するか、又はCAR-T細胞をさらに外装するリガンドを発現するようにさらに最適化されている。「外装」剤の選択は、腫瘍微小環境の知識、及び自然免疫系及び適応免疫系の他の要素の役割に基づいている。例は、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-15(IL-15)、CD40L及び4-1BBLである。これらの薬剤は、異なるメカニズムを介して、CAR T細胞の有効性及び腫瘍微小環境における持続性をさらに増強することが示されている。これらは、典型的には、同一のCARベクター中で独立した遺伝子として発現される。
【0069】
最近承認された2つのCAR-T細胞KYMRIAH(チサゲンレクロイセル)及びYESCARTA(アキシカブタゲンシロルユーセル)はいずれも抗CD19マウスscFvを含むが、それらはCD3ζ鎖と融合した異なる共刺激ドメイン:KYMRIAHについては4-1BB、YESCARTAについてはCD28を介してシグナルを伝える。
【0070】
NKT細胞については、CARは、例えば、細胞外リガンド認識ドメインとしてscFvを含むキメラ融合タンパク質、及びCD3ζ鎖シグナル伝達ドメイン又はFcRγ鎖シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインであり得る。これはNKT細胞に抗体型特異性を与え、エフェクター細胞のすべての機能を活性化する。NKT細胞では、IFNγ及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の産生、パーフォリン及びFasリガンドによる殺傷に基づく標的細胞の溶解がこれに含まれる。CARは、さらに、CD27、CD40L、PD-1、4-1BB又はOX40からのような、細胞内CD28共刺激ドメイン及び/又は追加のトランスデューサードメインを含み得る。典型的には、CARは、予め設計され、及び/又はCARをコードするDNA又はRNA分子として提供される。このように、CAR-NKT細胞によって標的化される腫瘍抗原は、理論的にはネオアンチゲンでもあり得るが、典型的には、ある固形腫瘍において発現又は過剰発現され、治療される対象の固形腫瘍において発現されることが同定される腫瘍抗原である。
【0071】
NK細胞については、CARは、例えば、細胞外リガンド認識ドメインとしてscFvを含むキメラ融合タンパク質、及びCD3ζ鎖シグナリングドメイン又はFcRγ鎖シグナリングドメインを含む細胞内シグナリングドメインであり得る。これはNK細胞に抗体型特異性を与え、エフェクター細胞のすべての機能を活性化する。NK細胞では、IFNγ及び顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の産生及び標的細胞の溶解がこれに含まれる。CARは、さらに、CD27、CD40L、PD-1、4-1BB、4-1BB、OX40又は2B4(CD244)又はDNAX活性化タンパク質12(DAP12)ドメインからのような、細胞内CD28共刺激ドメイン及び/又はさらなるトランスデューサードメインを含み得る。保護的腫瘍微小環境における重要なサイトカインは、NK細胞を阻害する形質転換増殖因子β(TGF-β)である。このように、TGF-β受容体の細胞外ドメインをNKG2D受容体の細胞内ドメインに融合させることは、CAR-NK細胞の効果をさらに改善する可能性がある。典型的には、CARは、予め設計され、及び/又はCARをコードするDNA又はRNA分子として提供される。このように、CAR-NK細胞によって標的化される腫瘍抗原は、理論的にはネオアンチゲンでもあり得るが、典型的には、ある固形腫瘍において発現又は過剰発現され、治療される対象の固形腫瘍において発現されることが同定される腫瘍抗原である。
【0072】
少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含むNK細胞又はCAR-NK細胞は、さらに、CD3ζのシグナル伝達ドメインに融合され、さらにDAP10を発現するNKG2Dを含むCARを含んでもよい。NKG2DはC型レクチン様受容体である。ヒトNKG2D受容体単量体は、膜貫通ドメインとDAP10二量体との会合を介して六量体構造に集合する。DAP10はアダプタータンパク質として機能し、リガンドがNKG2Dに結合した後にシグナルを伝達する。NKG2Dリガンドは、誘導された自己タンパク質であり、正常細胞の表面には完全に存在しないか、又は低いレベルでのみ存在するが、例えば形質転換細胞(腫瘍抗原)によって過剰発現される。このように、CARは、細胞外ドメイン及び天然受容体からの膜貫通ドメインを、CD3ζシグナル伝達ドメインに融合され、さらにDAP10に結合することができる。NKG2D受容体がいくつかの異なるリガンドを認識し、それらは細胞ストレス中にしばしばアップレギュレートされるので、NKG2D-CAR-NK細胞もまた多特異的であり、腫瘍細胞の抗原喪失に対してより少ない傾向がある。この受容体は、CAR-NK細胞のために開発されたが、CAR-T細胞及びCAR-NKT細胞にも適している。
【0073】
本発明によれば、その細胞表面上に少なくとも1つの腫瘍抗原結合タンパク質を含む操作されたNKT細胞又はNK細胞は、「外装CAR-NK細胞」又は「外装CAR-NKT細胞」も含む。外装されたCAR-NK細胞は、さらに、活性サイトカインを誘導又は恒常的に分泌するために、又はリガンドを発現するために最適化されており、そのリガンドは、有効性及び持続性を改善するために、CAR細胞をさらに外装する。「外装」剤の選択は、腫瘍微小環境の知識、及び自然免疫系及び適応免疫系の他の要素の役割に基づいている。例は、NK細胞についてはIL-2及びIL-15のようなインターロイキン、及びNKT細胞についてはIL-15である。これらの薬剤は、異なるメカニズムを介して、CAR-NKT細胞及びCAR-NK細胞の有効性及び腫瘍微小環境における持続性をさらに増強することが示されている。これらは、典型的には、同一のCARベクター中で独立した遺伝子として発現される。
【0074】
NK細胞は、サイトカインの支持なしに養子移入後も存続しない。NK細胞のより短い寿命は有利であり、抗腫瘍活性を可能にする一方で、正常組織に対するオンターゲット/オフ腫瘍毒性によって引き起こされる長期の血球減少症のような長期の有害事象の確率を低下させるが、NK細胞はまた、それらの効力を制限し得る。インビボでの生存と増殖のためには、NK細胞は持続的なサイトカイン支持を必要とし、それがなければ循環血中でわずか1~2週間しか検出できない。養子移入されたNK細胞の存続を支持するために最も一般的に使用される2つのサイトカインは、IL-2及びIL-15である。したがって、IL-2及び/又はIL-15の遺伝子は、CAR-NK細胞のCAR構築物内に組み込まれ得る。これにより、CARで形質導入された細胞に常にサイトカインを支持することができる。
【0075】
インターロイキンを外因的に投与してもよいが、IL-2又はIL-15の注入にはかなりの副作用がある。サイトカインの外因性投与に対する別の又は追加のアプローチは、シクロホスファミド及びフルダラビンのようなNK細胞の養子細胞移植の前のリンパ球除去化学療法である。これは、成熟リンパ球(IL-15を消費する)を枯渇させ、結果として内因性IL-15レベルの顕著な増加をもたらすことによって、NK細胞増殖の好ましい環境を提供する。標的エピトープの選択、CARデザイン、及び適用される投与量及び投与レジメン以外にも、固形腫瘍のCAR-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞療法の成功のために、腫瘍環境における効率的な腫瘍ホーミング及び長期生存が重要である。ほとんどの場合、CAR-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞の投与前に対象はリンパ球減少しており、その後のサイトカイン支持の可能性がさらに重要である。
【0076】
液体腫瘍におけるCAR-T細胞の一般的な副作用は、重度のサイトカイン放出症候群(CRS)を引き起こすサイトカインの豊富な産生である。このリスクは固形腫瘍ではそれほど顕著ではない。理論に拘束されることなく、これは、固形腫瘍と比較して典型的に液体腫瘍においてより高い、異なるエフェクター-標的細胞化学量論によって説明され得る。さらに、このリスクは、一般に、T細胞、特に慣用的なαβT細胞と比較して、NKT細胞又はNK細胞の養子細胞移植では低いと考えられている。
【0077】
さらに、ほとんどの腫瘍抗原は、特に固形腫瘍において、腫瘍選択性(腫瘍特異的抗原)ではなく、しばしば単に過剰発現(腫瘍関連抗原)である。したがって、腫瘍外毒性のリスクがある。しかしながら、腫瘍外毒性を低減する方法は、当該技術分野で公知である。例えば、腫瘍外毒性は、必要な数の細胞を2、3又はそれ以上の用量で投与することによって制御することができる。また、一過性に操作されたRNACAR-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞を用いて、腫瘍外毒性を最小限にすることができる。また、腫瘍発生の初期段階で治療を開始する場合、癌細胞数が過剰になる前に治療を開始することは、治療成績に有益であり、腫瘍外毒性を減少させる。
【0078】
さらに、同一細胞上に発現された2つの腫瘍抗原の認識によって、標的選択性を確保することができる。これは、別々のCARにおいて、刺激シグナル及び共刺激シグナルを送達するように設計された2つのキメラ受容体、例えば、CD3ζ鎖シグナル伝達ドメイン及びCD28共刺激ドメインの結合を介して、T細胞、NKT細胞又はNK細胞の二重特異的活性化を媒介するタンデムCARを使用して達成され得、効率的なシグナル伝達のために2つの異なる腫瘍抗原の独立した結合を必要とする。また、阻害性キメラ抗原受容体(iCAR)を使用して、CAR-T細胞、CAR-NKT細胞、又はCAR-NK細胞活性を正常組織から転用することもできる。iCARは、天然抗原(すなわち、正常組織のみに提示される)と結合し、PD-1又はCTLA-4からのような抑制性シグナル伝達ドメインを含み、活性CARの活性化を停止する。このように、両アプローチ、タンデムCAR及びiCARは、2つのキメラ抗原受容体の活性を結合する。
【0079】
CAR-T細胞免疫療法に特に関連するが、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞免疫療法にも関連する1つの問題は、CAR-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞を癌細胞に対して非効率にすることができる抗原逃避である。さらに、CAR-T細胞、CAR-NKT細胞又はCAR-NK細胞は、典型的には、繰り返し投与されない。従って、他の腫瘍抗原、好ましくは複数の腫瘍抗原、例えばネオアンチゲンを標的とすることを可能にするフォローアップ療法の必要性がある。
【0080】
安全上の理由から、CAR修飾T細胞、及びおそらくNKT及びNK細胞は、誘導性カスパーゼ-9(iCasp9)又は切断型上皮増殖因子受容体(シグナル伝達ドメインを欠き、トランスジェニック細胞の迅速な除去のために抗EGFR抗体を標的とすることができるEGFR)のような自殺系をさらに含むことができる。これは、CAR-T及びCAR-NKT細胞に特に関連している可能性がある。成熟CAR-NK細胞は限定された残存性を有するが、臍帯血又は造血幹細胞由来のNK細胞は、長期毒性に対するより高いリスクを有し、従って、自殺システムも、これらの細胞において利用され得る。
【0081】
本発明者らは、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株が、固形腫瘍内で発現される複数のネオアンチゲンを標的とすることができるため、フォローアップ療法として特に適していることを見出した。したがって、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株は、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又は少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含むNK細胞の養子細胞移植後に投与される。対象が、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞、又は少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含むNK細胞の養子細胞移植の前にリンパ球除去化学療法を受けていない場合、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株を、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞、又は少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含むNK細胞の養子細胞移植後(例えば、数時間又は数日以内)一緒に、又は直後に投与してもよい。
【0082】
少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、典型的には、1つの養子細胞移植において投与され、繰り返し投与されない。しかしながら、必要な数の操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞を、2回又は3回のその後の養子細胞移植において分割投与として投与することができる。従って、治療は、第1の、及び所望により第2の、第3の、可能であれば、2日又はそれ以上の期間内にさらに投与することを含むことができる。養子移入された細胞の残存期間は、最大3ヶ月、最大4ヶ月、又は最大6ヶ月とすることができる。生涯存在する生きた細胞であると主張する研究者もいる。
【0083】
少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の養子細胞移植の前に、対象は、VEGFR-2をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21aで処理することができる(例えば、WO2014/005683に開示されている)。一実施形態では、VEGFR-2は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。このワクチン(VXM01)は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の数を増強することが知られている。従って、このワクチンは、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の効力を増強することができる。さらに、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、典型的にはオンデマンドで製造されるので、このワクチンは、癌免疫療法を提供し、一方、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞は、調製される。従って、特定の実施形態では、対象は、まず、VEGFR-2をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21aで処理され、次いで、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体(リンパ球除去化学療法を伴う又は伴わない)を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞、及び5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21aの養子細胞移入が行われる。
【0084】
ある種の実施形態において、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の最初の養子細胞移入後、同時又は約2週間~4ヵ月、好ましくは2~3ヵ月で投与される。一方、同時刻とは、数時間又は数日以内、好ましくは同じ日又は1週間以内を意味する。
【0085】
ある種の実施形態において、対象は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の養子細胞移植の前に、リンパ球除去、特にリンパ球除去化学療法を受けている。本明細書で使用される「リンパ球除去化学療法」という用語は、養子細胞移植の前に対象においてリンパ球減少をもたらす化学療法を指す。また、骨髄非破壊的リンパ球除去化学療法も含まれ、養子細胞移植療法の有効性も改善する可能性がある。リンパ球除去化学療法は、「コンディショニング」とも呼ばれる。リンパ球除去化学療法は当該技術分野で知られており、例えば7日間のシクロホスファミド(CTX)又はCXT及びフルダラビンの使用を含み得る。CTXは初期の造血骨髄前駆細胞に影響を及ぼさない。
【0086】
養子細胞移植の前にリンパ球除去化学療法を受けた対象においてネオアンチゲンに対する免疫応答を誘導するためには、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を投与する前に、リンパ球を補充するか、言い換えれば、対象が免疫能力を回復する必要がある。リンパ球除去化学療法の種類に応じて、リンパ球除去化学療法後約1ヵ月~2ヵ月でリンパ球が補充される。典型的には、リンパ球はリンパ球除去化学療法後、約2週間から16週間、4週間から16週間、2週間から16週間、又は8週間から12週間で補充される。好ましくは、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株は、リンパ球除去化学療法後、より好ましくはリンパ球数がリンパ球除去化学療法後、より好ましくは対象が免疫能を回復した後に、リンパ球数が正常化した後に、対象に投与される。正常なリンパ球数は1000/mm3以上である。正常な白血球数は4000/mm3以上である。免疫能は、白血球数2000/mm3以上に基づいて決定される。
【0087】
養子細胞移植の前にリンパ球除去を受けた場合、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞の最初の養子細胞移植の後、約2週間から4ヵ月、好ましくは1ヵ月から4ヵ月、好ましくは2ヵ月から4ヵ月、より好ましくは2ヵ月から3ヵ月に投与される。
【0088】
ネオアンチゲン癌ワクチンとの併用療法
本発明によれば、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を、さらに、少なくとも1つのチェックポイント阻害剤と同時投与することができる。用語「チェックポイント阻害剤」は、本明細書中で「免疫チェックポイント阻害剤」と同義で使用される。典型的には、チェックポイント療法は抑制性チェックポイントを遮断し、免疫系機能を回復させる。具体的には、少なくとも1つのチェックポイント阻害剤は、抗体、特にPD-1、PD-L1、CTLA-4、IDO、GITR、OX40、TIM-3、LAG-3、KIR、CSF1R及びCD137に対する抗体からなる群から選択され得る。チェックポイント阻害剤は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む少なくとも1つのチフス菌Ty21a株と同時に、又は別々に投与することができる。
【0089】
少なくとも1つのチェックポイント阻害剤は、市販製造品の承認されたガレン製剤中で投与されることが好ましい。
【0090】
本発明の文脈において、用語「同時」は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチド及びチェックポイント阻害剤をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含む、チフス菌Ty21aの弱毒化株の同日、より具体的には12時間以内、より具体的には2時間以内の投与を意味する。この文脈で使用される用語「別々に」は、異なる日、より具体的には異なる投与レジメン、及び異なる投与形態での投与を意味する。
【0091】
少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む、少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞で処理されているかまたは処理される対象における、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株と、少なくとも1つのチェックポイント阻害剤とは、驚くべきことに、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする、比較的低用量のチフス菌Ty21a株で、T細胞、NKT細胞またはNK細胞応答、及び/又は全生存に相乗効果を示す。低用量の生菌ワクチンの投与は、排出のリスクを最小限に抑え、したがって第三者への伝播のリスクを最小限に抑える。
【0092】
本発明によれば、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を受け取る対象は、さらに、少なくとも1つの腫瘍抗原、腫瘍間質抗原及び/又はチェックポイント阻害抗原をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む少なくとも1つのチフス菌Ty21aで処理することができる。1つの実施形態において、特に、処置が、対象に投与されるWT1、MSLN、CEA、CMV pp65、PD-L1、VEGFR-2及びFAPからなる群から選択される抗原をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む少なくとも1つのチフス菌Ty21aをさらに含む。WT1、MSLN、CEA、CMV pp65、PD-L1、VEGFR-2及びFAPからなる群から選択される抗原をコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む少なくとも1つのチフス菌Ty21aを、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含む少なくとも1つのチフス菌Ty21aと同時に又は別々に投与することができる。
【0093】
本発明の文脈において、用語「同時」は、同日、より具体的には12時間以内、より具体的には2時間以内に、チフス菌Ty21aの異なる弱毒化株を投与することを意味する。チフス菌Ty21aの異なる弱毒化株は、同じ剤型である可能性があるが、必ずしもそうである必要はない。この文脈で使用される用語「別々に」は、異なる日、より具体的には異なる投与レジメン、及び異なる投与形態での投与を意味する。
【0094】
特定の実施形態では、ヒトVEGFR-2は、配列番号1のアミノ酸配列、又は配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、ヒトウィルムス腫瘍タンパク質(WT1)は、配列番号3のアミノ酸配列、又は配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、ヒトメソテリン(MSLN)は、配列番号4のアミノ酸配列、又は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、ヒトCEAは、配列番号5のアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施態様において、CMV pp65は、配列番号6、7若しくは8のアミノ酸配列、又は配列番号6、7若しくは8のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、ヒトPD-L1は、配列番号9もしくは10のアミノ酸配列、又は配列番号9、10もしくは11のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0095】
好ましくは、VEGFR-2は配列番号1のアミノ酸配列を有し、WT1は配列番号3のアミノ酸配列を有し、MSLNは配列番号4のアミノ酸配列を有し、CEAは配列番号5のアミノ酸配列を有し、CMV pp65は配列番号6、7又は8のアミノ酸配列を有し、及び/又はPD-L1は配列番号9、10又は11のアミノ酸配列を有する。
【0096】
VEGFR-2はキナーゼ挿入ドメイン含有受容体(KDR)としても知られており、VEGFに対する既知の細胞応答のほとんどすべてを媒介しているようである。例えば、血管新生におけるVEGFの役割は、このタンパク質とVEGFR-2との相互作用を介しているようである。VEGFR-2は、VEGFに対する1356アミノ酸の長さ200~230kDaの分子量の高親和性受容体であり、VEGF-C及びVEGF-Dに対する受容体であり、チロシンキナーゼ受容体に対する内皮cDNAのスクリーニングによってヒトで同定されたものであり、以前に発見されたマウス胎児肝キナーゼ1(Flk-1)と85%の配列同一性を有する。VEGFR-2は通常、内皮細胞、造血前駆細胞、ならびに内皮細胞、新生造血幹細胞及び臍帯間質において発現される。しかし、静止期の成人血管系では、VEGFR-2 mRNAはダウンレギュレートされているようである。
【0097】
VEGFR-2の細胞外ドメインには、18の潜在的なN結合型グリコシル化部位がある。VEGFR-2は、最初は150kDaのタンパク質として合成され、200kDaの中間体に急速にグリコシル化され、次いでより遅い速度でさらにグリコシル化されて、細胞表面に発現される成熟230kDaのタンパク質となる。
【0098】
メソテリンは、正常な中皮細胞上に存在する40kDaの細胞表面糖タンパク質であり、中皮腫、卵巣及び膵腺癌を含むいくつかのヒト腫瘍において過剰発現される。メソテリン遺伝子は、71kDaの前駆体タンパク質をコードし、プロセシングを受けて、巨核球増強因子(MPF)と名付けられた31kDaの小型タンパク質と、40kDaの細胞結合断片メソテリンとを生じる。メソテリンは、インターロイキン-3の存在下で巨核球コロニー形成活性を示すことが示された。メソセリンは、中皮などの制限された正常成人組織上に低レベルで存在するが、中皮腫、卵巣及び膵臓癌、子宮頸部、頭頸部、外陰部、肺及び食道の扁平上皮癌、肺腺癌、子宮内膜癌、二相性滑膜肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍及び胃腺癌などの広範なヒト腫瘍において異常に過剰発現される腫瘍分化抗原である。メソテリンの正常な生物学的機能は不明である。メソテリンノックアウトマウスを用いた試験では、検出可能な表現型は認められず、雌雄ともに健康な子孫が産生された。膵癌の研究から、メソテリンは、細胞増殖、遊走、及びS期細胞集団を増加させることにより、腫瘍形成に役割を果たすことが示唆されている。さらに、メソテリンが免疫原性タンパク質であるという証拠がある。その発現プロファイル、発癌機能及び免疫原性のため、腫瘍抗原メソテリンは癌ワクチン開発の有望な候補である。
【0099】
ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)は、細胞増殖及び分化に関与するジンクフィンガー転写因子をコードする。WT1タンパク質は、C末端に4つのジンクフィンガーモチーフ、N末端にプロリン/グルタミンに富むDNA結合ドメインを含む。2つのコードエキソンにおける選択的スプライシングの結果として生じる複数の転写変異体は、十分に特徴づけられている。WT1は、泌尿生殖器系の発達において不可欠な役割を果たし、細胞増殖及び分化に関与する。WT1遺伝子は、小児腎新生物であるウィルムス腫瘍の原因となる遺伝子として単離された。これは、いくつかのタイプの血液悪性腫瘍及び種々の固形腫瘍を含む、広範囲の悪性腫瘍において高度に発現される。対照的に、成人におけるWT1の正常組織発現は、様々なタイプの組織における生殖腺、子宮、腎臓、中皮及び前駆細胞に限定される。WT-1は分化に負の影響を与え、前駆細胞の増殖を促進する。さらに、過剰発現されたWT1は免疫原性であり、癌患者において、WT1特異的T細胞及びIgG抗WT1抗体が観察されている。その発現プロファイル、その発癌機能及びその免疫原性のために、腫瘍抗原WT1は癌ワクチン開発の有望な候補である。特定の実施形態では、WT1は切断される。特定の態様において、WT1のジンクフィンガードメインは、欠失される。特定の実施形態では、切断されたWT1は、配列番号3に見られるアミノ酸配列を有する。
【0100】
WT1のC末端におけるジンクフィンガードメインは、4つのジンクフィンガーモチーフを含む。配列番号3に見られるアミノ酸配列の切断されたWT1は、UniProtref P19544-7のアミノ酸1~371を表す。ジンクフィンガードメインの欠失は、転写因子を含む他のジンクフィンガーとの免疫学的交差反応性のリスクを最小限にする。さらに、ジンクフィンガードメインを欠損する切断型WT1は、完全長WT1よりも免疫原性が高い。さらに、DNA結合に不可欠なジンクフィンガーモチーフを欠失させると、WT1の発癌能が失われ、発癌リスクが最小限に抑えられる。
【0101】
外皮タンパク質CMV pp65は、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)の主要な免疫優性タンパク質である。CMV pp65の生物学的機能は不明であるが、細胞周期の調節に関与していると考えられている。CMV pp65は、polo様キナーゼ1(PLK-1)に結合することができるプロテインキナーゼ活性を示す核親和性タンパク質である。HCMV pp65は、神経膠芽腫標本の90%以上で発現するが、周囲の正常脳では発現しない。このように、このウイルスタンパク質は、癌免疫療法の新規開発のための腫瘍特異的標的として有望な候補である。
【0102】
CMV pp65タンパク質は、アミノ酸415~438に2つの二分核局在化シグナル(NLS)と、カルボキシ末端近傍のアミノ酸537~561と、リジン436におけるそのキナーゼ活性に関連するリン酸結合部位を含む。436位のリジンをアスパラギンに突然変異させ、537~561位のアミノ酸を欠失させると、キナーゼ活性のないタンパク質が生じ、核局在が著しく低下する。この突然変異タンパク質は、変化しない免疫原性を示す。
【0103】
特定の実施形態では、CMV pp65は、配列番号6に見られるアミノ酸配列を有する。配列番号6は、野生型CMVpp65のアミノ酸配列を表す。特定の他の実施態様において、CMV pp65は、配列番号7に見られるアミノ酸配列を有する。配列番号7は、配列番号6の野生型ヒトCMV pp65に対して突然変異K436Nを有するCMV pp65のアミノ酸配列を表す。特定の他の実施態様において、CMV pp65は、配列番号8に見られるアミノ酸配列を有する。配列番号8は、第2のよりC末端のNLS(核局在配列)(すなわち、配列番号7のCMVp65のアミノ酸537~561)を欠く、配列番号7のCMVpp65の切断されたバージョンのアミノ酸配列を表す。
【0104】
癌胎児性抗原(CEACAM5及びCD66eとしても知られる)は、細胞接着に関与する高度に関連したグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)細胞表面アンカー糖タンパク質のファミリーのメンバーである。CEAは通常、胎児の発達中に消化管組織で産生され、タンパク質の発現は出生前に終了する。したがって、CEAは通常、健康な成人の血中濃度が非常に低い場合にのみ存在する。しかし、一部の癌、特に大腸癌では血清濃度が上昇するため、腫瘍マーカーとなる。CEA値は、胃癌、膵癌、肺癌、乳癌、甲状腺髄様癌、及び潰瘍性大腸炎、膵炎、肝硬変、COPD、クローン病、甲状腺機能低下症などの非腫瘍性疾患でも上昇する。
【0105】
プログラムされた細胞死1(PD-1)は、T細胞の表面に発現され、同族抗原に対するT細胞の機能的サイレンスを維持する阻害シグナルを伝達する。そのリガンドPD-L1は、正常では、炎症微小環境において、抗原提示細胞、胎盤細胞、及び非造血細胞上に発現される。PD-L1は免疫抑制性骨髄由来抑制細胞(MDSC)に発現することが報告されている。さらに、PD-L1は、宿主免疫系を逃れるためにPD-1/PD-L1シグナル伝達軸を使用する種々のタイプの癌細胞の表面に広く発現される。癌細胞によるPD-L1の発現は、疾患の病期及び患者の予後不良と相関することが示された。
【0106】
特定の実施形態では、PD-L1は、完全長PDL1及びPD-L1の細胞外ドメインを含む切断PD-L1からなる群から選択される。切断型PD-L1は、配列番号11のアミノ酸19~238のアミノ酸配列、配列番号11のアミノ酸配列、配列番号10のアミノ酸配列、又は配列番号11のアミノ酸19~238と少なくとも80%の配列同一性を共有する、配列番号11のアミノ酸配列、又は配列番号10と少なくとも80%の配列同一性を共有するアミノ酸配列を含み得る。特定の実施形態では、PD-L1は、配列番号9に見られるアミノ酸配列を有するPD-L1、及びそれと少なくとも80%の配列同一性を共有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号10に見られるアミノ酸配列を有するPD-L1、及びそれと少なくとも80%の配列同一性を共有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号11に見出されるアミノ酸配列を有するPD-L1、及びそれと少なくとも80%の配列同一性を共有するタンパク質からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、PD-L1は、配列番号11のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を有するPD-L1、及びそれと少なくとも80%の配列同一性を共有するタンパク質からなる群から選択される。特に、PD-L1は、配列番号9、配列番号10又は配列番号11に見られるアミノ酸配列を有し、好ましくはPD-L1は、配列番号11のアミノ酸19~238のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、PD-L1は、シグナル伝達ペプチドを伴う又は伴わない少なくとも細胞外ドメインを含む。
【0107】
本明細書中で使用される場合、用語「約」又は「約」は、所与の値又は範囲の95%~105%を含む、80%~120%、代替的に90%~110%を意味する。
【0108】
本発明の文脈において、「配列番号Xのアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を共有するタンパク質」という用語は、提供されるアミノ酸配列と整列させた場合に、80%を超えるアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を指す。タンパク質は、例えば、野生型タンパク質の突然変異体、例えば、野生型VEGFR-2タンパク質の突然変異体、又は異なる種のホモログ、又は操作されたタンパク質、例えば、操作されたVEGFR-2タンパク質であり得る。所与のタンパク質の誘導体を設計及び構築する方法は、当業者に周知である。
【0109】
所定のアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を共有するタンパク質は、参照アミノ酸配列と比較して、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換を含む1つ以上の突然変異を含み得る。本発明の教示によれば、前記欠失、付加及び/又は置換されたアミノ酸は、連続したアミノ酸であってもよく、又は所与の参照タンパク質と少なくとも約80%の配列同一性を共有するタンパク質のアミノ酸配列の長さにわたって散在されてもよい。本発明の教示によれば、参照アミノ酸配列とのアミノ酸配列同一性が少なくとも約80%であり、突然変異タンパク質が免疫原性である限り、任意の数のアミノ酸を付加、欠失、及び/又は置換することができる。好ましくは、参照アミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を共有するタンパク質の免疫原性は、ELISAにより測定すると、参照アミノ酸配列と比較して、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、又は1%未満減少する。タンパク質相同体を設計及び構築し、その免疫原性についてそのような相同体を試験する方法は、当業者に周知である。特定の実施形態において、参照アミノ酸との配列同一性は、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、最も特に少なくとも約99%である。親タンパク質及び親配列に対する欠失、付加及び/又は置換を有する親タンパク質及びその誘導体の比較を含む配列同一性を決定するための方法及びアルゴリズムは、当業者に周知である。DNAレベルでは、参照アミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を共有するタンパク質をコードする核酸配列は、遺伝暗号の縮重のために、より大きく異なる場合がある。
【0110】
特定の実施形態では、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株の投与は、WT1、MSLN、CEA、CMV pp65、PD-L1、VEGFR-2及びFAPから選択される腫瘍抗原又は腫瘍間質抗原をコードするサルモネラ菌の弱毒化株、ならびに1つのチェックポイント阻害剤の投与と組み合わされる。
【0111】
特別な態様において、治療は、化学療法又は放射線療法を伴ってもよい。癌の治癒には、癌幹細胞を完全に根絶することが不可欠です。したがって、最大の効果を得るためには、異なる治療アプローチを組み合わせることが有益である。
【0112】
本発明のチフス菌Ty21a株と組み合わせて使用することができる化学療法剤は、例えば、アミホスチン(ethyol)、カバジタキセル、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、ドセタキセル、メクロールエサミン、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(adriamycin)、ドキソルビシン脂肪(doxil)、フォリン酸、ゲムシタビン(gemzar)、ダウノルビシン、ダウノルビシン脂肪(daunoxome)、プロカルバジン、ケトコナゾール、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキサート、5-フルオロウラシル(5-FU)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(taxol)、ドセタキセル(taxotere)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、CPT-11、10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン(SN38)、ダカルバジン、フロクシウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イホスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、イリノテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、オキサリプラチン、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパルガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル及びその組み合わせが挙げられる。
【0113】
本発明による最も好ましい化学療法剤は、カバジタキセル、カルボプラチン、オキサリプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ドセタキセル、ゲムシタビン、ドキソルビシン、パクリタキセル(taxol)、イリノテカン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、フォリン酸、5-フルオロウラシル及びブレオマイシンであり、特にゲムシタビンである。
【0114】
特に、チフス菌Ty21a株は、化学療法又は放射線療法の前又は間に投与される。他の特定の実施形態では、チフス菌Ty21a株は、化学療法又は放射線療法治療の前及びその間に投与される。
【0115】
チフス菌Ty21a
サルモネラ菌株、特にサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)菌種の弱毒化株は、非経口投与と比較して簡便性と安全性の利点を提供する粘膜の免疫経路、すなわち経口又は鼻腔を介してS.エンテリカ菌株を送達できる可能性があるため、哺乳類免疫系への異種抗原の送達のための魅力的な媒体である。さらに、サルモネラ菌株は、全身及び粘膜コンパートメントの両方のレベルで強い体液性及び細胞性免疫応答を誘発する。バッチ調製コストは低く、生菌ワクチンの製剤は非常に安定している。弱毒化は、毒性遺伝子、調節遺伝子、及び代謝遺伝子を含む種々の遺伝子の欠失によって達成することができる。
【0116】
aro突然変異により弱毒化されたいくつかのネズミチフス菌株は、動物モデルにおいて異種抗原に対する安全で効果的な送達媒体であることが示されている。
【0117】
本発明によれば、サルモネラ菌の弱毒化株は、チフス菌Ty21aとも呼ばれるサルモネラ・エンテリカ血清型チフス株Ty21aである。生きた弱毒化チフス菌Ty21aは、Vivotif(登録商標)(Berna Biotech Ltd.,a Crucell Company,Switzerlandにより製造される)としても知られるTyphoral L(登録商標)の活性成分である。これは現在、腸チフスに対する唯一の認可された経口生ワクチンである。このワクチンは広範に試験されており、患者の毒性及び第三者への伝播に関して安全であることが証明されている(Wahdan et al.,J.Infectious Diseases 1982,145:292-295)。このワクチンは40カ国以上で認可されており、数千人の小児を含む何百万人もの個人に腸チフスの予防接種に使用されている。それは、他に類を見ない安全実績を有しています。チフス菌Ty21aが全身的に血流に入ることを示すデータは入手できない。このように、弱毒化チフス菌Ty21a生ワクチン株は、安全で忍容性が良好である一方で、腸内の免疫系を特異的に標的化することを可能にする。Typhoral L(登録商標)の販売承認番号は、1996年12月16日付PL15747/0001である。ワクチンの1回量は、少なくとも2×109の生存チフス菌Ty21aコロニー形成単位及び少なくとも5×109の生存できないチフス菌Ty21a細胞を含む。
【0118】
この耐容性の高い腸チフスに対する経口生ワクチンは、野生型の病原性細菌分離株チフス菌Ty2の化学的突然変異誘発によって得られ、galE遺伝子に機能欠損突然変異を有し、その結果ガラクトースを代謝することができない。弱毒化細菌株はまた、硫酸塩を硫化物に還元することができず、この硫化物は野生型チフス菌Ty2株と区別される。血清学的特徴に関して、チフス菌Ty21a株は細菌の外膜の多糖であり、ネズミチフス菌の特徴的な成分であるO5抗原を欠いているO9抗原を含む。この血清学的特性は、バッチ出荷時の確認試験のパネルにそれぞれの試験を含める根拠を裏付けるものである。
【0119】
本発明によるチフス菌Ty21a株で使用される発現カセットは、真核生物発現カセットであり、特にCMVプロモーターを含む。本発明の文脈において、用語「真核生物発現カセット」は、真核生物細胞におけるオープンリーディングフレームの発現を可能にする発現カセットを指す。適切な免疫応答を誘導するのに必要な異種抗原の量は、細菌に対して毒性であり得、異種抗原の細胞死、過剰減衰又は発現の喪失をもたらすことが示されている。細菌ベクターでは発現しないが、標的細胞でのみ発現する真核生物発現カセットを使用することにより、この毒性問題を克服することができ、発現されるタンパク質は、典型的には、真核生物のグリコシル化パターンを示す。
【0120】
真核性発現カセットは、真核細胞でオープンリーディングフレームの発現を制御できる調節配列、好ましくはプロモーター及びポリアデニル化シグナルを含む。本発明のチフス菌Ty21a株によって構成される真核生物発現カセットに含まれるプロモーター及びポリアデニル化シグナルは、好ましくは、免疫化される対象の細胞内で機能的であるように選択される。好適なプロモーターの例としては、サイトメガロウイルス(CMV)からのプロモーター、例えば、強力なCMV前初期プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、例えばHIVロングターミナルリピート(LTR)プロモーター、モロニーウイルス、エプスタインバーウイルス(EBV)、及びロウスサルコマウイルス(RSV)、CMV初期エンハンサーエレメント、プロモーター、ニワトリβ-アクチン遺伝子の第一エキソン及び第一イントロン、ならびにウサギβ-アクチン遺伝子のスプライス受容体からなる合成CAGプロモーター、ならびにヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋クレアチン、及びヒトメタロチオネインからのプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、真核生物発現カセットは、CMVプロモーターを含む。本発明の文脈において、「CMVプロモーター」という用語は、強力な即初期サイトメガロウイルスプロモーターを指す。
【0121】
具体的にはヒトのためのDNAワクチンの製造のための、好適なポリアデニル化シグナルに関する例としては、これだけに限定されるものではないが、ウシ増殖ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位、SV40ポリアデニル化シグナル、及びLTRポリアデニル化シグナルが挙げられる。具体的な態様によれば、本発明のサルモネラ弱毒化変異株によって含まれる組換DNA分子に含まれている真核性発現カセットには、BGHポリアデニル化部位が含まれる。
【0122】
プロモーターやポリアデニル化シグナルのようなVEGF受容体タンパク質の発現に必要な調節エレメントに加えて、他の要素もまた組換DNA分子に含まれている。そういった追加要素としては、エンハンサーが挙げられる。例えば、エンハンサーは、ヒトアクチン、ヒトミオシン、ヒトヘモグロビン、ヒト筋クレアチンのエンハンサー、及びウイルス性エンハンサー、例えばCMV、RSV及びEBV等である
【0123】
調節配列及びコドンは、一般に種に依存するので、タンパク質産生を最大にするために、調節配列及びコドンは、好ましくは、免疫される種において有効であるように選択される。当業者は、所定の対象種、例えばヒト対象において機能性である組換えDNA分子を製造することができる。
【0124】
特定の実施形態では、少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子又はDNA分子は、カナマイシン抗生物質耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、pMB1 ori又はpUCなどのori、及びCMVプロモーターなどの強力なプロモーターを含む。特定の実施形態では、組換えDNA分子又は少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子は、市販のpVAX1(商標)発現プラスミド(Invitrogen,San Diego,California)に基づく又はそれに由来するプラスミドなどのプラスミドである。
【0125】
この発現ベクターは、高コピーpUC複製起点をpBR322の低コピーpMB1複製起点に置き換えることによって改変することができる。低コピー修飾は、代謝負荷を低減し、構築物をより安定にするために行われた。生成した発現ベクター骨格をpVAX10と命名した。
【0126】
特定の実施形態では、発現プラスミドは、配列番号2(ベクター骨格pVAX10)のDNA分子を含み、これは、制限部位NheI及びXhoIの間に位置する多重クローニング部位の一部を伴わない発現ベクターpVAX10の配列と相関する。
【0127】
特定の実施形態では、チフス菌Ty21a株を経口投与する。経口投与は、非経口投与よりも簡単で、安全で、快適である。しかしながら、本発明のチフス菌Ty21株は、任意の他の適切な経路によって投与することもできることに留意しなければならない。好ましくは、治療的に有効な用量が対象に投与され、この用量は、特定の適用、悪性腫瘍のタイプ、対象の体重、年齢、性別及び健康状態、投与方法及び製剤などに依存する。必要に応じて、投与は単回又は複数回であってもよい。
【0128】
5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株は、溶液、懸濁液、凍結乾燥物、腸溶被覆カプセル、又は任意の他の適当な形態で提供することができる。典型的には、チフス菌Ty21a株は飲料溶液として処方される。この実施形態は、改善された患者コンプライアンスの利点を提供する。好ましくは、飲料溶液は、胃酸を少なくともある程度中和する手段、すなわち、胃液のpHを7のpHに近づける手段を含む。好ましくは、飲料溶液は、本発明によるチフス菌Ty21a株を含む緩衝懸濁液である。特定の実施形態において、緩衝懸濁液は、チフス菌Ty21a株を、好ましくは2.6gの炭酸水素ナトリウム、1.7gのL-アスコルビン酸、0.2gの乳糖一水和物、及び100mlの飲料水を含有する、適切な緩衝液中に懸濁することによって得られる。
【0129】
特定の実施形態では、チフス菌Ty21a株の単回用量は、約106~約1010、より具体的には約106~約109、より具体的には約107~約109、より具体的には約106~約108、最も具体的には約106~約106のコロニー形成単位を含む。
【0130】
より詳細には、チフス菌Ty21a株の単回用量は、約1×106~約1×1010、より詳細には約1×106~約1×109、より詳細には約1×107~約1×109、より詳細には約1×106~約1×108、特に約1×106~約1×106のコロニー形成単位を含む。
【0131】
さらに、本発明のチフス菌Ty21a株は、好ましくは第1週に2~4回、好ましくは第1週に4回投与し、続いて、2~4週間ごと、特に第1日及び第7日に、好ましくは第1日、第3日、第5日及び第7日に単回用量を追加投与し、続いて2~4週間ごとに単回用量を追加投与する。
【0132】
この文脈において、用語「約」又は「ほぼ」は、3の係数内、又は所与の値又は範囲の1.5の係数内を含む2の係数内を意味する。
【0133】
特別な態様において、処置は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチド又は本発明による医薬組成物をコードするチフス菌Ty21a株の単一又は複数の投与を含む。投与の単回用量は、本明細書に開示されている範囲内で、同じであっても、異なっていてもよく、好ましくは本明細書に開示される範囲内である。特に、治療は、治療の最初の週に2~4回の初回ワクチン接種を含み、続いて、5つ以上のネオアンチゲン又は本発明の医薬組成物を含む少なくとも1つのポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株を2~4週間ごとに単回追加投与することを含み、好ましくは、複数回投与は3~6ヵ月間連続して行われる。
【0134】
可能性のある副作用の発生によっては、抗生物質又は抗炎症薬での処置を含めることも好ましい。
【0135】
ヒスタミン、ロイコトリエン又はサイトカインによって媒介される過敏反応に類似する有害事象が生じる場合には、発熱、過敏症、血圧不安定、気管支痙攣、及び呼吸困難のための処置の選択肢が利用可能である。望ましくないT細胞由来自動攻撃性における処置の選択肢は、幹細胞移植後に適用される急性及び慢性の移植片対宿主疾患に対する標準的療法スキームに由来する。シクロスポリン及びグルココルチコイドが、処置の選択肢として提案される。
【0136】
全身性チフス菌Ty21a型感染の可能性が低い症例では、シプロフロキサシン又はオフロキサシンを含むフルオロキノロン系薬剤による適切な抗生物質療法が推奨される。消化管の細菌感染症は、リファキシミンなどの各薬剤で治療する。
【0137】
医薬組成物
さらなる態様において、本発明は、5つ以上のネオアンチゲンを含む少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つの真核生物発現カセットを含むDNA分子を含むチフス菌Ty21a株を含む医薬組成物に関する。
【0138】
本発明の医薬組成物は、溶液、懸濁液、腸溶被覆カプセル、凍結乾燥粉末、又は意図された用途に適した任意の他の形態であってもよい。本発明の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤をさらに含むことができる。
【0139】
本発明の文脈において、用語「賦形剤」は、薬剤の活性成分と共に製剤化された天然又は合成物質を指す。適切な賦形剤には、抗付着剤、結合剤、コーティング、崩壊剤、フレーバー、着色剤、潤滑剤、グリダント、吸着剤、保存剤及び甘味料が含まれる。
【0140】
本発明の文脈において、用語「薬学的に許容される」は、生理学的に許容可能であり、哺乳動物(例えば、ヒト)に投与された場合に典型的に好ましくない反応を生じない医薬組成物の分子実体及び他の成分を指す。用語「薬学的に許容される」はまた、哺乳動物、より詳細にはヒトにおける使用のために、連邦又は州政府の規制機関により承認されるか、又は米国薬局方又はその他一般に認知されている薬局方に記載されていることを意味し得る。
【0141】
特に、適当な飲料溶液は、胃酸を少なくともある程度中和する手段、すなわち、胃液のpHを7のpHに近づける手段を含む。特定の実施形態では、飲料溶液は、本発明のチフス菌Ty21a株を、好ましくは胃酸を少なくともある程度、好ましくは炭酸水素ナトリウム2.6g、L-アスコルビン酸1.7g、ラクトース一水和物0.2g、及び100mlの飲料水を含有する緩衝液中で、適当な緩衝液中に、好ましくは緩衝液中に懸濁することによって得られる緩衝懸濁液である。
【0142】
特定の態様において、医薬組成物は、医薬として、特に本発明による対象における固形腫瘍の治療に使用するために使用される。特定の実施形態では、医薬組成物は、薬剤としての使用、特に対象における固形腫瘍の治療に使用するためであり、対象は、少なくとも1つの腫瘍抗原結合細胞表面受容体を含む少なくとも1つの操作されたT細胞、NKT細胞又はNK細胞、又は本明細書中に開示されたいずれかの他の使用又は方法で処理されているか、又は処理される。
【実施例】
【0143】
実施例1:複数の抗原を含むポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株を用いて免疫応答を誘導するための概念の証明
複数の抗原を含むポリペプチドをコードするチフス菌Ty21a株の作製
9つの優性CD8エピトープ(VEGFR-2の2つのエピトープ(KDR2、KDR3と呼ばれる)、MSLNの2つのエピトープ(MSLN GSL、MSLN IQLと呼ばれる)、WT-1の1つのエピトープ、CEAの3つのエピトープ(CEA-CSA、CEA CSV、CEA LTLと呼ばれる)及びOVAの1つのエピトープを含む構築物をクローニングした。エピトープは、文献に基づいて、又は予測される結合特性に基づいて、モデル抗原として選択された。概念の証明のために選択されたモデルエピトープは、突然変異又はネオアンチゲンではなく、メソテリン(MSLN)、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、癌胎児性抗原(CEA)、腫瘍間質抗原(VEGFR-2)又は卵白アルブミン(OVA)のような既知の腫瘍関連抗原からの優性CD8エピトープであることに注意することが重要である。
【0144】
ワクチン接種後の複数の抗原に対するT細胞応答の評価
この初回動物実験では、C57BL/6マウスにVXMNeo1m又はVXM空ベクターワクチンを1010CFU/投与で1週間以内に2回(q7dx2)経口投与した(経口)。陽性対照として、一群のマウスに、ウィルムス腫瘍(WT1)全タンパク質をコードするVXM06mをプライムワクチン接種(q7dx2)した。陰性対照群にはVXMNeo1mベクターワクチン(1010CFU/投与、q7dx2)と同じスケジュール及び投与量の空ベクター。をp.o投与した。試験第17日、すなわち最後のワクチン接種の10日後に、マウスを安楽死させ、脾臓をフローサイトメトリー(FC)による五量体分析のために除去した。
【0145】
【0146】
被験物質を強制経口投与管を介して強制経口投与した。動物群に関係なく、胃酸を中和するために、各動物に事前投与用緩衝液を強制経口投与した(100μL/動物/投与)。この緩衝液は、炭酸水素ナトリウム2.6g、L-アスコルビン酸1.7g、乳糖一水和物0.2gを100mLの飲料水に溶解し、被験物質を塗布する30分以内に塗布したものである。申請日に新たに申請書類を作成した。
【0147】
エピトープ特異的CD8 T細胞を、一組の特異的五量体を用いて、最後のワクチン接種から10日後に採取した脾細胞上のフローサイトメトリーにより分析した。関連性のない五量体、すなわち、HPV16 E7 49-57を用いてバックグラウンド閾値を設定した。
【0148】
9つの同一ペプチド五量体フローサイトメトリー試薬及び追加のHPV試薬を陰性対照として用いて測定したCD8 T細胞応答の結果を
図1に示す。
【0149】
実施例2:医薬品の安定性試験
最終医薬品は、同一の製剤及び容器/施栓系における同一のチフス菌Ty21a送達プラットフォームに基づいて、3種類の異なる標的抗原をコードする3種類の構築物から製造された。充填容量1.3mL/バイアルの10
4、10
5、10
6、10
7CFU/mLの強度を製造した。バイアルを70℃以下で安定化させた。異なる安定性評価時点において、同一性、含量、力価、pH、微生物学的純度について、あらかじめ定めた安定性試験プロトコールに従って試験を行った。あらかじめ定義された規格をすべての時点で満たし、クローン化した挿入物に関係なく70℃以下で保存した場合、3年間にわたりVaximmのプラットフォーム構築物の安定性を確認する3つの構築物すべてからの試料を得た。生菌数試験の結果を
図2に示す。
【0150】
配列表
配列番号1 ヒトVEGFR-2のアミノ酸配列
配列番号2 制限部位NheIとXhoIの間に位置する多重クローニング部位を伴わない発現ベクターpVAX10のヌクレオチド配列
配列番号3 切断型(ジンクフィンガードメイン欠失)ヒトWT1のアミノ酸配列
配列番号4 ヒトMSLNのアミノ酸配列
配列番号5 ヒトCEAのアミノ酸配列
配列番号6 野生型CMVpp65のアミノ酸配列
配列番号7 突然変異K436Nを有するCMV pp65のアミノ酸配列
配列番号8 突然変異K436Nを有し、C末端NLS(配列番号7のaa537-561)を欠く切断型CMV pp65のアミノ酸配列
配列番号9 ヒト全長ヒトPD-L1のアミノ酸配列
配列番号10 シグナルペプチドを欠損するヒトPD-L1のアミノ酸配列
配列番号11 細胞外ドメイン及びシグナル伝達ペプチドを含む切断されたヒトPD-L1のアミノ酸配列
【配列表】