(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ナフテン系溶剤
(51)【国際特許分類】
C11D 7/24 20060101AFI20241204BHJP
C11D 7/50 20060101ALI20241204BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241204BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20241204BHJP
C09D 11/033 20140101ALI20241204BHJP
【FI】
C11D7/24
C11D7/50
C09D201/00
C09D7/20
C09D11/033
(21)【出願番号】P 2021546903
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2020034833
(87)【国際公開番号】W WO2021054308
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2019168355
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塩 敦保
(72)【発明者】
【氏名】加藤 睦美
(72)【発明者】
【氏名】立谷 尚久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 克哉
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-228897(JP,A)
【文献】特開平09-263791(JP,A)
【文献】特開2015-113367(JP,A)
【文献】特開2005-154660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/24
C11D 7/50
C09D 201/00
C09D 7/20
C09D 11/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油留分原料の水素化物、又は該水素化物の軽質分若しくは重質分の蒸留カット物であり、
沸点が190~310℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上であり、芳香族炭化水素類の含有量が1.0体積%以下であり、2環以上のナフテン類の含有量が70.0体積%以上であり、引火点が70.0℃以上であり、且つ、アニリン点が48.0~75.0℃であり、
下記式(1):
145≦X+2Y≦160 (1)
(式中、Xはアニリン点(℃)を示し、Yはカウリブタノール価を示す。)
を満たし、
該石油留分原料が、沸点が230~330℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上であり、炭素数が11~18の芳香族炭化水素成分の含有量が90.0質量%以上であり、2環以上の芳香族炭化水素成分の含有量が70.0質量%以上であり、炭素数が14~18の炭化水素成分の含有量が68.0質量%以上であり、且つ、沸点が250℃以上の炭化水素成分の含有量が50.0体積%以上である石油留分であること、
を特徴とするナフテン系溶剤。
【請求項2】
塗料用ナフテン系溶剤であることを特徴とする請求項1記載のナフテン系溶剤。
【請求項3】
ハンセン溶解度パラメーターのハンセン球半径Rが7.5以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のナフテン系溶剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素の含有量が制限されている低芳香族のナフテン系溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄用や、塗料、印刷インキ等の溶媒又は分散媒、接着剤用の溶剤などに使用される溶剤には、石油精製プロセスで製造される芳香族系炭化水素溶剤が、溶解性が高いことから、広く用いられていた。しかし、芳香族化合物は、臭気が強いことに加え、環境負荷があるため、使用が制限されるようになってきた。例えば、芳香族系溶剤であるトルエンやキシレン、含酸素系溶剤であるメチルイソブチルケトン(MIBK)は、環境負荷の点から使用が制限される傾向にある。また、芳香族化合物は有機溶剤中毒予防規則に該当するため、使用時には作業環境測定が必要であり、使用者は定期的な健康診断の受診や、これら溶剤の使用履歴の保管が要求されるなど、管理の面でも負荷が高い。
【0003】
そのため、近年は、自動車用や建築用といった塗料用途の溶剤などの分野において、芳香族炭化水素の含有量が低い低芳香族の溶剤が使用されるようになってきた。この低芳香族の溶剤としては、ナフテン系溶剤、アルコール系溶剤、パラフィン系溶剤、水系溶剤等が挙げられる。
【0004】
これらのうち、ナフテン系溶剤は、石油系溶剤の分野において、芳香族系溶剤と比較すると溶解性は高くないが、パラフィン系溶剤と比較して溶解性が高いことから、食品包装用印刷インキ溶剤、文房具溶剤、医・農薬製造用反応溶媒、金属洗浄剤、接着剤、焼付塗料溶剤などには、ナフテン系溶剤が多く用いられている。
【0005】
ナフテン系溶剤としては、例えば、特許文献1には、沸点が175~280℃で、炭素数9~14の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化して得られる芳香族成分の含有量が1容量%以下からなるナフテン系溶剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1の実施例の核水添試験1又は2のナフテン系溶剤は、引火点が40℃又は51℃と低過ぎる。これらを洗浄溶剤や反応溶媒、焼付塗料溶剤等に用いる場合は、引火点が低過ぎる、すなわち、引火性が高くなることから、使用環境の面で設備対応等が必要になり、取り扱いも十分に注意しなければならないなどの問題があり、また消防法の観点から使用量や保管量といった点で取り扱いへの制約が厳しくなる。
【0008】
一方で、特許文献1の実施例の核水添試験3のナフテン系溶剤は、引火点が68℃とある程度高いものの、アニリン点が39℃と低い。そして、アニリン点が低過ぎると、溶解性が高くなり過ぎるため、塗料等の溶剤に使用した際は、塗布する側の材質がプラスチックやポリマー樹脂の場合には、材質によって塗布面を溶剤が溶かしてしまうこともあり、きれいに塗れないという問題がある。
【0009】
従って、本発明の目的は、芳香族炭化水素類の含有量が低いナフテン系溶剤であって、引火点が高く且つアニリン点が低過ぎないナフテン系溶剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、石油留分原料の水素化物、又は該水素化物の軽質分若しくは重質分の蒸留カット物であり、
沸点が190~310℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上であり、芳香族炭化水素類の含有量が1.0体積%以下であり、2環以上のナフテン類の含有量が70.0体積%以上であり、引火点が70.0℃以上であり、且つ、アニリン点が48.0~75.0℃であり、下記式(1):
145≦X+2Y≦160 (1)
(式中、Xはアニリン点(℃)を示し、Yはカウリブタノール価を示す。)
を満たし、
該石油留分原料が、沸点が230~330℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上であり、炭素数が11~18の芳香族炭化水素成分の含有量が90.0質量%以上であり、2環以上の芳香族炭化水素成分の含有量が70.0質量%以上であり、炭素数が14~18の炭化水素成分の含有量が68.0質量%以上であり、且つ、沸点が250℃以上の炭化水素成分の含有量が50.0体積%以上である石油留分であること、
を特徴とするナフテン系溶剤を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、塗料用ナフテン系溶剤であることを特徴とする(1)のナフテン系溶剤を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、ハンセン溶解度パラメーターのハンセン球半径Rが7.5以上であることを特徴とする(1)又は(2)のナフテン系溶剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、芳香族炭化水素類の含有量が低いナフテン系溶剤であって、引火点が高く且つアニリン点が低過ぎないナフテン系溶剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ハンセン球法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のナフテン系溶剤は、石油留分原料の水素化物、又は該水素化物の軽質分若しくは重質分の蒸留カット物であり、
沸点が190~310℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上であり、芳香族炭化水素類の含有量が1.0体積%以下であり、2環以上のナフテン類の含有量が70.0体積%以上であり、引火点が70.0℃以上であり、且つ、アニリン点が48.0~75.0℃であり、
該石油留分原料が、沸点が230~330℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上であり、炭素数が11~18の芳香族炭化水素成分の含有量が90.0質量%以上であり、2環以上の芳香族炭化水素成分の含有量が70.0質量%以上であり、炭素数が14~18の炭化水素成分の含有量が68.0質量%以上であり、且つ、沸点が250℃以上の炭化水素成分の含有量が50.0体積%以上である石油留分であること、
を特徴とするナフテン系溶剤である。
【0016】
本発明のナフテン系溶剤は、石油精製プロセスで得られる石油留分原料の水素化物、あるいは、該石油留分原料の水素化物の軽質分又は重質分の蒸留カット物であり、石油精製プロセスで生成する炭素数11~18の芳香族炭化水素成分を含有する留分を核水素化して得られた水素化物、あるいは、石油留分原料を核水素化して得られる水素化物の軽質分又は重質部を、蒸留によりカットして得られる蒸留カット物である。
【0017】
本発明において、水素化の原料となる石油留分原料中、沸点が230~330℃の炭化水素成分が90.0体積%以上であり、好ましくは230~320℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上、より好ましくは230~320℃の炭化水素成分の含有量が95.0体積%以上、特に好ましくは230~320℃の炭化水素成分の含有量が98.0体積%以上である。石油留分原料の上記沸点範囲の炭化水素成分の含有量が上記範囲であることにより、引火点が高く且つアニリン点が低過ぎないナフテン系溶剤が得られる。なお、本発明において、蒸留性状は、JIS K 2254、JIS K 2435-1、JIS K 0066に準拠して求められる。
【0018】
本発明に係る石油留分原料中、炭素数が11~18の芳香族炭化水素成分の含有量は、90.0質量%以上、好ましくは94.0質量%以上、特に好ましくは98.0質量%以上である。石油留分原料中の炭素数が11~18の芳香族炭化水素成分の含有量が、上記範囲にあることにより、引火点が高いナフテン系溶剤が得られる。一方、石油留分原料の中の炭素数が11~18の芳香族炭化水素成分の含有量が、上記範囲未満だと、ナフテン系溶剤のアニリン点が高くなり過ぎる。
【0019】
炭素数が11~18の芳香族炭化水素としては、ペンタメチルベンゼン、ジエチルメチルベンゼン、メチルブチルベンゼン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、エチルナフタレン、ヘキサメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、エチルメチルナフタレン、テトラメチルナフタレン、ジエチルナフタレン、トリエチルナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ピレン、クリセン、テトラセン等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る石油留分原料中、2環以上の芳香族炭化水素成分の含有量は、70.0質量%以上、好ましくは75.0質量%以上、特に好ましくは78.0質量%以上である。石油留分原料中の2環以上の環状炭化水素成分の含有量が、上記範囲未満だと引火点が70℃を下回るため、取り扱いの制約が多くなる。
【0021】
本発明に係る石油留分原料中、炭素数が14~18の芳香族炭化水素成分の含有量は、68.0質量%以上、好ましくは70.0質量%以上、特に好ましくは73.0質量%以上である。石油留分原料中の炭素数が14~18の芳香族炭化水素成分の含有量が、上記範囲にあることにより、引火点が高く且つアニリン点が低過ぎないナフテン系溶剤が得られる。一方、石油留分原料の中の炭素数が14~18の芳香族炭化水素成分の含有量が、上記範囲未満だと、ナフテン系溶剤のアニリン点が高くなり過ぎる。
【0022】
本発明に係る石油留分原料中、沸点が250℃以上の炭化水素成分の含有量は、50.0体積%以上、好ましくは55.0体積%以上、特に好ましくは60.0体積%以上である。石油留分原料中の沸点が250℃以上の炭化水素成分の含有量が、上記範囲にあることにより、引火点が高く且つアニリン点が低過ぎないナフテン系溶剤が得られる。一方、石油留分原料中の沸点が250℃以上の炭化水素成分の含有量が、上記範囲未満だと、ナフテン系溶剤の引火点が低くなり過ぎる。
【0023】
なお、本発明において、石油留分原料中の炭素数が11~18の芳香族炭化水素成分の含有量、2環以上の芳香族炭化水素成分の含有量、炭素数が14~18の炭化水素成分の含有量については、IP548(DETERMINATION OF AROMATICHYDROCARBON TYPES IN MIDDLE DISTILLATES-HIGH PERFORMANCE LIQUID CHROMATOGRAPHY METHOD WITH REFRACTIVE INDEX DETECTION)およびASTM D 2887(Standard Test Method for Boiling Range Distribution of Petroleum Fractions by Gas Chromatography(C5-C44))で求められる。
【0024】
本発明に係る石油留分原料を核水素化するための触媒としては、特に制限されず、石油精製プロセスにおいて、芳香族炭化水素類を含有する留分中の芳香族炭化水素類を核水素化するために用いられる触媒が挙げられる。該触媒としては、例えば、ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル/けいそう土、ラネーニッケル、ニッケル/銅、白金、酸化白金、白金/活性炭、白金/ロジウム、白金/アルミナ、パラジウム/アルミナ、ルテニウム/アルミナ等が挙げられる。石油留分原料を核水素化するための条件は、特に制限されず、石油精製プロセスにおいて用いられている条件が適宜選択される。核水素化条件としては、例えば、反応温度80~280℃、水素圧1~8MPaから適宜選定された条件で行うとよい。
【0025】
本発明では、上記の石油留分原料を核水素化して得られる石油留分原料の水素化物を、本発明のナフテン系溶剤としてもよい。また、本発明では、上記の石油留分原料を核水素化して得られる石油留分原料の水素化物から、蒸留により、軽質分の一部をカットし及び/又は重質分の一部をカットして、得られる蒸留カット物を、本発明のナフテン系溶剤としてもよい。なお、どの程度、軽質分又は重質分をカットするかは、ナフテン系溶剤の要求に応じて、適宜選択される。
【0026】
本発明のナフテン系溶剤、すなわち、本発明に係る石油留分原料を水素化して得られるナフテン系溶剤中、沸点が190~310℃の炭化水素成分の含有量が、90.0体積%以上、好ましくは190~305℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上、特に好ましくは190~305℃の炭化水素成分成分の含有量が95.0体積%以上である。ナフテン系溶剤の沸点が上記範囲にある炭化水素成分の含有量が上記範囲であることにより、ナフテン系溶剤の引火点が高くなり且つアニリン点が低くなり過ぎない。
【0027】
本発明のナフテン系溶剤中、芳香族炭化水素類の含有量は、1.0体積%以下、好ましくは0.5体積%以下である。なお、本発明において、芳香族炭化水素類の含有量は、JIS K 2276 石油製品-航空燃料油試験方法のナフタレン分試験方法(紫外吸分光光度法)に準拠して求められる。
【0028】
本発明のナフテン系溶剤中、2環以上のナフテン類の含有量は、70.0体積%以上、好ましくは75.0体積%以上、特に好ましくは78.0体積%以上である。ナフテン系溶剤中の2環以上のナフテン類の含有量が上記範囲にあることにより、ナフテン系溶剤の引火点が高くなり且つアニリン点が低くなり過ぎない。一方、ナフテン系溶剤中の2環以上のナフテン類の含有量が、上記範囲未満だと、ナフテン系溶剤の引火点が低くなり、アニリン点が低くなり過ぎる。
【0029】
なお、本発明において、ナフテン系溶剤中の1環のナフテン類、2環のナフテン類、3環のナフテン類、4環のナフテン類、5環のナフテン類及び6環のナフテン類のそれぞれの含有量については、ASTM D 2786(Standard Test Method for Hydrocarbon Types Analysis of Gas-Oil Saturates Fractions by High Ionizing Voltage Mass Spectrometry)およびASTM D 3239(Standard Test Method for Aromatic Types Analysis of Gas-Oil Aromatic Fractions by High Ionizing Voltage Mass Spectrometry)に準拠して求められる。
【0030】
本発明のナフテン系溶剤の引火点は、70.0℃以上、好ましくは72.0℃以上、特に好ましくは75.0℃以上である。ナフテン系溶剤の引火点が上記範囲にあることにより、消防法の危険物の分類が第4類第3石油類に分類され、取り扱い面で制約が緩和され、より多くの溶剤を取り扱うことができ、また使用時においても引火性が低くなるため、火災などの事故も起こり難く、使い易い溶剤となる。一方、ナフテン系溶剤の引火点が、上記範囲未満だと、消防法の危険物の分類が第4類第2石油類、または第1石油類に分類されるため、取り扱い面で制約が多くなり、かつ引火性が高くなるため使用時の危険性が高くなる。なお、本発明において、引火点は、JIS K 2265に準拠して求められる。
【0031】
本発明のナフテン系溶剤のアニリン点は、48.0~75.0℃、好ましくは50.0~70.0℃、特に好ましくは50.0~60.0℃である。ナフテン系溶剤のアニリン点が、上記範囲にあることにより、程よい溶解性を有し、塗布する側の材質への影響が少ない溶剤となる。一方、ナフテン系溶剤のアニリンが、上記範囲未満だと、溶解性が高くなり過ぎるため、塗料等の溶剤に使用した際は、塗布する側の材質がプラスチックやポリマー樹脂のようなものの場合には、材質によって塗布面を溶剤が溶かしてしまうこともあり、きれいに塗れないという問題が発生し、また、上記範囲を超えると、溶解性が低くなり、塗料等の油脂が均一に溶解せず塗料溶剤として使用に制約が発生する。なお、本発明において、アニリン点は、JIS K 2256に準拠して求められる。
【0032】
本発明のナフテン系溶剤は、下記式(1):
145≦X+2Y≦160 (1)
(式中、Xはアニリン点(℃)を示し、Yはカウリブタノール価を示す。)
を満たすことが好ましく、下記式(2):
150≦X+2Y≦155 (2)
(式中、Xはアニリン点(℃)を示し、Yはカウリブタノール価を示す。)
を満たすことが特に好ましい。ナフテン系溶剤の「X+2Y」の値が上記範囲にあることにより、適度なアニリン点を持ち、カウリブタノール価を高くすることができるため、油脂の溶解性を適度に保ちつつ、塗料等の試料の油脂飽和力が強い性能を有する溶剤となる。なお、本発明において、カウリブタノール価は、ASTM D 1133(Standard Test Method for Kauri-Butanol Value of Hydrocarbon Solvents)に準拠して求められる。
【0033】
本発明のナフテン系溶剤では、ハンセン溶解度パラメーターの分子間の分散力に由来するエネルギー(δd)は、好ましくは16.6~17.5、特に好ましくは16.8~17.3である。また、本発明のナフテン系溶剤では、分子間の双極子相互作用に由来するエネルギー(δp)は、好ましくは5.5~6.5、特に好ましくは5.7~6.3である。また、本発明のナフテン系溶剤では、分子間の水素結合に由来するエネルギー(δh)は、好ましくは2.2~3.2、特に好ましくは2.4~3.0である。本発明のナフテン系溶剤のハンセン溶解度パラメーターが上記範囲にあることにより、一般的な塗料で使用される樹脂等の材料との相溶性が良い溶剤となる。
【0034】
本発明のナフテン系溶剤では、ハンセン溶解度パラメーターのハンセン球半径Rは、好ましくは7.5以上、特に好ましくは7.5~9.0である。本発明のナフテン系溶剤のハンセン溶解度パラメーターのハンセン球半径Rが上記範囲にあることにより、溶解できる物質の対象範囲を維持しつつも、塗布する側の材質等への過剰な溶解が抑制される溶剤となる。
【0035】
なお、本発明において、ハンセン溶解度パラメーター及びハンセン球半径Rは、以下の方法により測定される。
ハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter(以下、単に「HSP」ともいう。))は、分子間の相互作用が似ている2つの物質は、互いに溶解しやすいとの考えに基づいている。HSPは、分子間の分散力に由来するエネルギー(δd)、分子間の双極子相互作用に由来するエネルギー(δp)、及び分子間の水素結合に由来するエネルギー(δh)から構成される。これらの3つのパラメーターは3次元空間(ハンセン空間)における座標とみなすことができる。
そして、ハンセン溶解度パラメーター(δt)は、以下の式にて算出される。
δt=(δd
2+δp
2+δh
2)
0.5
HSP値が未知の評価試料におけるHSP値は以下の方法で算出することができる。
HSP値(δdm、δpm、δhm)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメーター空間において、既知のHPS値を有する複数の純物質(1種の化合物からなる物質)をプロットするとともに、上記純物質に対する評価試料の溶解性の有無によってハンセン球を特定し、当該ハンセン球の中心値を求めることで評価試料のHSP値を算出することが出来る(ハンセン球法)。
また、評価試料のHSP値は、平均分子構造の情報から原子団寄与法を用いて算出することも出来る。
ハンセン球法の場合も、原子団寄与法の場合も、評価試料のHSP値を算出する場合、例えばコンピューターソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を使用して算出することができる。
ハンセン球法の場合、評価試料は純物質であってもよく、混合物であってもよい。
上記ハンセン球の中心値、すなわちHSP値(δdm、δpm、δhm)の求め方について、
図1を用いて説明する。
先ず、
図1に例示する、分散力項δd、双極子間力項δp及び水素結合力項δhを座標軸とする三次元空間に既知のHSP値を有する15~30個程度の純物質のHSP値をプロットする。
このとき、
図1に示すように、例えば、評価試料に溶解性を示す純物質を○印、評価試料に溶解性を示さない純物質を×印で表記する。次いで、プロットされた評価試料の溶解性に基づき、溶解性を示した純物質(
図1で○印で示す)を包含し、かつ溶解性を示さなかった純物質(
図1に×印で示す)を包含しない仮想球のうち、最小半径を有するものを(
図1に球状に示す)ハンセン球Sとして求める。
上記ハンセン球Sを成す半径(上記最少半径)が図中に○印で示す純物質を溶解し相溶性を示す相互作用半径R、すなわち、ハンセン球半径Rとなり、また、得られたハンセン球Sの中心値(δdm、δpm、δhm)が評価試料のHSP値となる。
ハンセン球を求めるために使用する上記純物質のHSP値としては、例えば、分散力項δdが10~25MPa
1/2程度であり、双極子間力項δpが0~20MPa
1/2程度であり、水素結合力項δhが0~20MPa
1/2程度である。
また、溶解性は温度に依存するため、上記ハンセン球を求める際は、実際に溶解を行う温度にて溶解性試験を行うことが好ましい。
【0036】
本発明のナフテン系溶剤の密度は、好ましくは0.85~0.90g/cm3、特に好ましくは0.87~0.89g/cm3である。なお、本発明において、密度は、JIS K 2249に準拠して求められる。
【0037】
本発明のナフテン系溶剤の硫黄含有量は、好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下である。なお、本発明において、硫黄含有量は、JIS K 2541-6に準拠して求められる。
【0038】
本発明のナフテン系溶剤の窒素含有量は、好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下である。なお、本発明において、窒素含有量は、JIS K 2609に準拠して求められる。
【0039】
本発明のナフテン系有機溶剤は、食品包装の印刷用インキの溶剤、文房具用の溶剤、医薬又は農薬製造用の反応溶媒、金属洗浄剤等の洗浄剤、接着剤用の溶剤、焼付塗料用の溶剤など、好適に用いられる。
【0040】
本発明者らは、水素化の原料として、沸点が230~330℃、好ましくは230~320℃にあり、炭素数11~18の芳香族炭化水素成分の含有量が、90.0質量%以上、好ましくは94.0質量%以上、特に好ましくは98.0質量%以上であり、且つ、2環以上の芳香族炭化水素成分、炭素数が14~18の炭化水素成分及び沸点が250℃以上の炭化水素成分の含有量が上記範囲である石油留分を選択し、該石油留分を水素化することにより、沸点が190~310℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%以上、好ましくは沸点が190~305℃の炭化水素成分の含有量が90.0体積%、特に好ましくは沸点が190~305℃の炭化水素成分の含有量が95.0体積%であり且つ2環以上のナフテン類の含有量が70.0体積%以上、好ましくは75.0体積%以上、特に好ましくは78.0体積%以上であるナフテン系溶剤が得られ、該ナフテン系溶剤は、引火点が70.0℃以上、好ましくは72.0℃以上、特に好ましくは75.0℃以上と高く、且つ、アニリン点が48.0~75.0℃、好ましくは50.0~70.0℃、特に好ましくは50.0~60.0℃と良好な溶解性を維持しつつも、低くなり過ぎないことを見出した。
【0041】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
連続流通式の反応装置に、触媒(Ni 5256 E、エヌ・イーケムキャット社製)を50ml充填した。次いで、連続流通式の反応装置の触媒層に、表1に示す性状の石油留分を、メチルシクロヘキサンに10体積%混合したものを、反応温度180℃、水素圧2.8MPa、空間速度(LHSV)3.5h-1の条件で通液し、水素化を行い、得られた生成油を蒸留しメチルシクロヘキサンと分画しナフテン系溶剤を得た。得られたナフテン系溶剤の分析結果を表2に示す。また、得られたナフテン系溶剤のハンセン溶解度パラメーター及びハンセン球半径Rを求めた。その結果を表3に示す。
【0043】
(比較例1)
表1に示す石油留分を用いること以外は、実施例1と同様にして、水素化を行い、ナフテン系溶剤を得た。得られたナフテン系溶剤の分析結果を表2に示す。また、得られたナフテン系溶剤のハンセン溶解度パラメーター及びハンセン球半径Rを求めた。その結果を表3に示す。
【0044】
(比較例2)
AFソルベント7号(JXTGエネルギー社製)の分析を行った。その結果を表2に示す。また、AFソルベント7号のハンセン溶解度パラメーター及びハンセン球半径Rを求めた。その結果を表3に示す。
【0045】
(比較例3)
テクリーンN22(JXTGエネルギー社製)の分析を行った。その結果を表2に示す。また、テクリーンN22のハンセン溶解度パラメーター及びハンセン球半径Rを求めた。その結果を表3に示す。
【0046】
(実施例2)
連続流通式の反応装置に、触媒(Ni 5256 E、エヌ・イーケムキャット社製)を50ml充填した。次いで、連続流通式の反応装置の触媒層に、表1に示す性状の石油留分を、メチルシクロヘキサンに10体積%混合したものを、反応温度190℃、水素圧2.8MPa、空間速度(LHSV)3.5h-1の条件で通液し、水素化を行い、得られた生成油を蒸留しメチルシクロヘキサンと分画しナフテン系溶剤を得た。得られたナフテン系溶剤の分析結果を表2に示す。
【0047】
(実施例3)
連続流通式の反応装置に、触媒(Ni 5256 E、エヌ・イーケムキャット社製)を50ml充填した。次いで、連続流通式の反応装置の触媒層に、表1に示す性状の石油留分を、メチルシクロヘキサンに10体積%混合したものを、反応温度190℃、水素圧2.8MPa、空間速度(LHSV)3.5h-1の条件で通液し、水素化を行った。初期の混合原料油消費後は、得られた水素化油を希釈油とし、表1に示す性状の石油留分と混合し、リサイクル方式で通液して水素化を行った。得られた生成油を蒸留しメチルシクロヘキサンと分画しナフテン系溶剤を得た。得られたナフテン系溶剤の分析結果を表2に示す。
【0048】
(実施例4)
連続流通式の反応装置に、触媒(Ni 5256 E、エヌ・イーケムキャット社製)を50ml充填した。次いで、連続流通式の反応装置の触媒層に、表1に示す性状の石油留分を、実施例3で得たナフテン系溶剤に10体積%混合したものを、反応温度190℃、水素圧2.8MPa、空間速度(LHSV)3.5h-1の条件で通液し、水素化を行い、ナフテン系溶剤を得た。得られたナフテン系溶剤の分析結果を表2に示す。
【0049】
<ハンセン溶解度パラメーター及びハンセン球半径Rの測定方法>
ナフテン系溶剤1mlに対して、既知のHSP値を有する溶媒を1ml添加し、5分間静置させた。その後目視により親和性を評価した。親和性評価の結果について、ハンセン球法を用いてハンセン球を決定し、ハンセン溶解度パラメーター及びハンセン球径Rを算出した。なお、ハンセン球を求める際の溶解性の判断は25℃を基準に行った。
【0050】
【0051】
【0052】