IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特許-ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図1
  • 特許-ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/62 20220101AFI20241204BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241204BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241204BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20241204BHJP
   C12P 7/625 20220101ALI20241204BHJP
【FI】
C12P7/62 ZNA
C12N1/21
C12N15/31
C12N15/52 Z
C12P7/625
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021548406
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020029960
(87)【国際公開番号】W WO2021059762
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019173869
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】毛利 佳弘
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/067541(WO,A1)
【文献】特開2007-028987(JP,A)
【文献】特開平11-266891(JP,A)
【文献】SEDLACEK, Petr et al.,What keeps polyhydroxyalkanoates in bacterial cells amorphous? A derivation from stress exposure exp,Applied Microbiology and Biotechnology,2019年01月08日,Vol.103,p.1905-1917
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N 1/21
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸生産微生物を培養して、ポリヒドロキシアルカン酸粒子を蓄積した平均細胞径が2μm以上の菌体を得る工程、
前記菌体を、前記培養時の温度よりも高い温度で熱処理して、前記菌体内で、ポリヒドロキシアルカン酸粒子の平均粒子径を1.8μm以上かつ平均細胞径以下にする工程、を含み、
前記熱処理を、前記培養後の菌体を含む培養液に対して実施する、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理前のポリヒドロキシアルカン酸粒子の平均粒子径に対する前記熱処理後のポリヒドロキシアルカン酸粒子の平均粒子径の比率が、1.1以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記培養後の菌体の乾燥重量に対してポリヒドロキシアルカン酸重量が占める割合が80%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理後のポリヒドロキシアルカン酸粒子の粒度分布において、粒子径1μm以下のポリヒドロキシアルカン酸粒子の割合が2.0体積%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシアルカン酸粒子を蓄積した前記菌体の平均細胞径が、2.2μm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理を、40~100℃の温度で5分間以上実施する、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理を、pH7.0以上の条件で実施する、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理後の菌体を破砕して細胞破砕液を得る工程と、前記細胞破砕液の水相からポリヒドロキシアルカン酸粒子を分離する工程をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、2種以上のヒドロキシアルカン酸の共重合体である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシヘキサン酸をモノマーユニットとして含有する共重合体である、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ポリヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸との共重合体である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ポリヒドロキシアルカン酸生産微生物がカプリアビダス属に属する、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリヒドロキシアルカン酸生産微生物がカプリアビダス・ネカトールの形質転換微生物である、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸生産微生物を培養することによるポリヒドロキシアルカン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題、食糧問題、健康及び安全に対する意識の高まり、天然又は自然志向の高まりなどを背景に、微生物を利用した物質製造(発酵生産、バイオ変換など)の意義及び重要性が益々高まっており、タンパク質医薬品や遺伝子治療用の核酸などの製造にも、微生物による物質生産が応用されている。例えば、酵母やバクテリアなどの微生物を利用したエタノール、酢酸、医療用タンパク質の生産などが活発に産業応用されている。
【0003】
その一例として、生分解性プラスチックとしての産業利用が期待されているポリヒドロキシアルカン酸(以下、PHAともいう)の微生物による生産が挙げられる(非特許文献1を参照)。PHAは、多くの微生物種の細胞(以下、菌体ともいう)にエネルギー蓄積物質として産生、蓄積される熱可塑性ポリエステルであり、生分解性を有している。現在、環境への意識の高まりから非石油由来のプラスチックが注目されるなか、特に、微生物が菌体内に産生、蓄積するPHAは、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることから生態系への悪影響が小さいと予想されており、その実用化が切望されている。微生物を利用したPHA生産では、例えば、カプリアビダス属細菌に炭素源として糖、植物油脂や脂肪酸を与え、細胞内にPHAを蓄積させることでPHAを生産することが知られている(非特許文献2及び3を参照)。
【0004】
しかしながら、微生物を利用した物質生産においては、目的生産物の分離回収工程が煩雑となり、生産コストが高くなることが問題になるケースがある。従って、目的生産物の分離回収効率を向上させることは、生産コストの低減のための大きな課題である。
【0005】
非特許文献4には、カプリアビダス属細菌においてフェイシンタンパク質をコードする遺伝子phaP1を破壊することで、非破壊の場合より大粒子径のPHAを蓄積したことが報告されている。しかし、該phaP1破壊株はPHA蓄積量が著しく減少することが示されており、工業生産に適したものではなかった。
【0006】
また、非特許文献5には、PHAを蓄積した菌体に温度やpHなどのストレスを与えることで、細胞内部のPHAが凝集したとの記載がある。しかし、顕微鏡写真からはごく一部のPHA粒子が細胞内で互いに付着している様子が観察されるに留まっており、PHA粒子の平均粒子径の変化までを読み取ることはできない。さらに、本文献では全体として細胞自体が小さいため、PHA粒子の平均粒子径に対する影響は限定的と考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Anderson AJ.,et al.,Int.J.Biol.Macromol.,12,102-105(1990)
【文献】Sato S.,et al.,J.Biosci.Bioeng.,120(3),246-251(2015)
【文献】Insomphun C.,et al.,Metab.Eng.,27,38-45(2015)
【文献】Potter M.,et al.,Microbiology,151(Pt 3),825-833(2005)
【文献】Sedlacek P.,et al.,Appl. Microbiol. Biotechnol.,103(4),1905-1917(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PHAは微生物細胞内において粒子状に蓄積される。微生物細胞内に蓄積されたPHAを生分解性プラスチックとして利用するためには、細胞を破砕してPHA粒子を取り出し、他の細胞成分から分離し、回収する必要がある。分離回収の手法は、大きくは有機溶媒系による方法と水系による方法に分けられるが、有機溶媒の使用は高環境負荷、高コストとなるため、工業的には水系による方法が好ましい。水系による方法では、例えば、PHA粒子を含む細胞破砕液から、遠心分離機や分離膜等によってPHA粒子を分離することができる。このような場合、分離回収の効率はPHA粒子の大きさに依存することになる。即ち、分離工程前のPHA粒子が大きいほど、遠心分離機や分離膜等を用いた分離回収を容易に実施でき、生産コストの低減につながる。
【0009】
PHA粒子を蓄積した微生物細胞を破砕した後、細胞破砕液中のPHA粒子を分離前に凝集させて該粒子を大きくする試みが行われている。しかし、凝集度の制御が難しく、また、破砕によって断片化された細胞成分などの夾雑物を巻き込みながらPHA粒子が凝集し、その後の不純物除去が困難となることから、細胞破砕液中のPHA粒子を凝集させる方法は工業生産には適していない。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、微生物細胞内でPHA粒子を凝集させて、平均粒子径が大きなPHA粒子を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、PHA生産微生物を培養して、PHA粒子を蓄積した平均細胞径が2μm以上の菌体を取得し、当該菌体に対して熱処理を行うことで、前記菌体内で、平均粒子径が1.8μm以上のPHA粒子が形成されることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸生産微生物を培養して、ポリヒドロキシアルカン酸粒子を蓄積した平均細胞径が2μm以上の菌体を得る工程、前記菌体を、前記培養時の温度よりも高い温度で熱処理して、前記菌体内で、ポリヒドロキシアルカン酸粒子の平均粒子径を1.8μm以上かつ平均細胞径以下にする工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法に関する。
好ましくは、前記熱処理前のポリヒドロキシアルカン酸粒子の平均粒子径に対する前記熱処理後のポリヒドロキシアルカン酸粒子の平均粒子径の比率が、1.1以上である。
好ましくは、前記培養後の菌体の乾燥重量に対してポリヒドロキシアルカン酸重量が占める割合が80%以上である。
好ましくは、前記熱処理後のポリヒドロキシアルカン酸粒子の粒度分布において、粒子径1μm以下のポリヒドロキシアルカン酸粒子の割合が2.0体積%以下である。
好ましくは、前記ポリヒドロキシアルカン酸粒子を蓄積した前記菌体の平均細胞径が、2.2μm以上である。
好ましくは、前記熱処理を、40~100℃の温度で5分間以上実施する。
好ましくは、前記熱処理を、pH7.0以上の条件で実施する。
好ましくは、前記熱処理を、前記培養後の菌体を含む培養液に対して実施する。
好ましくは、前記製造方法は、前記熱処理後の菌体を破砕して細胞破砕液を得る工程と、前記細胞破砕液の水相からポリヒドロキシアルカン酸粒子を分離する工程をさらに含む。
好ましくは、前記ポリヒドロキシアルカン酸が、2種以上のヒドロキシアルカン酸の共重合体であり、より好ましくは、3-ヒドロキシヘキサン酸をモノマーユニットとして含有する共重合体であり、さらに好ましくは、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸との共重合体である。
好ましくは、前記ポリヒドロキシアルカン酸生産微生物がカプリアビダス属に属し、より好ましくは、前記ポリヒドロキシアルカン酸生産微生物がカプリアビダス・ネカトールの形質転換微生物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、微生物細胞内でPHA粒子を凝集させて、平均粒子径が大きなPHA粒子を得る方法を提供することができる。本発明によると、菌体を破砕する前に、微生物細胞内において平均粒子径が大きなPHA粒子を形成することができるため、破砕によって断片化された細胞成分などの夾雑物を巻き込みながらPHA粒子が凝集するのを回避できる。更に、平均粒子径が大きなPHA粒子は、細胞成分からの分離回収を効率的に実施できるため、生産コストの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の培養後、熱処理前(左側)又は熱処理後(右側)の細胞を撮影した顕微鏡写真
図2】実施例2の培養後、熱処理前(左側)又は熱処理後(右側)の細胞を撮影した顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態は、PHA生産微生物を培養して、PHA粒子を蓄積した平均細胞径が2μm以上の菌体を得る工程と、前記菌体を熱処理して、前記菌体内で、平均粒子径が1.8μm以上のPHA粒子を形成する工程を含む。尚、本願における平均粒子径は、すべて体積平均粒子径を意味する。
【0016】
(PHA生産微生物)
PHA生産微生物は、PHA蓄積能を有し、PHA蓄積後の平均細胞径が2μm以上となり得る微生物であれば良く、特に限定されない。当該微生物の平均細胞径は、培養中、常に2μm以上である必要はなく、当該微生物を熱処理工程に付す前のPHAを蓄積した段階で、2μm以上となっていれば良い。PHA蓄積後の平均細胞径が2μm未満であると、後述する熱処理を行っても、平均粒子径が1.8μm以上のPHA粒子を形成することが困難となる。前記平均細胞径は2.2μm以上がより好ましく、2.4μm以上がさらに好ましく、2.6μm以上がより更に好ましく、2.8μm以上が特に好ましい。前記平均細胞径の上限は特に限定されないが、例えば、10μm以下であってよく、また、5μm以下であってもよい。
【0017】
前記PHA生産微生物が蓄積するPHAの量は特に限定されないが、熱処理工程に付す前のPHAを蓄積した段階で、菌体乾燥重量に対してPHA重量が占める割合が80%以上であることが好ましく、85%以上がさらに好ましい。前記割合の上限値は100%未満であれば特に限定されないが、例えば、98%以下であってよく、また、95%以下であってもよい。
【0018】
前記PHA生産微生物は、PHA合成酵素遺伝子を有しPHAを蓄積する微生物であれば特に限定されないが、例えば、ラルストニア(Ralstonia)属、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ワウテルシア(Wautersia)属、アエロモナス(Aeromonas)属、エシェリキア(Escherichia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、シュードモナス(Pseudomonas)属等に属する細菌類が好ましい例として挙げられる。安全性及びPHA生産性の観点から、より好ましくはラルストニア属、カプリアビダス属、アエロモナス属、ワウテルシア属に属する細菌であり、さらに好ましくはカプリアビダス属又はアエロモナス属に属する細菌であり、さらにより好ましくはカプリアビダス属に属する細菌であり、特に好ましくはカプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)である。
【0019】
前記PHA生産微生物は、PHAを本来的に蓄積する野生株であってもよいし、そのような野生株を人工的に突然変異処理して得られる変異株や、あるいは、遺伝子工学的手法により外来のPHA合成酵素遺伝子を導入することで、PHA蓄積能が付与された菌株であってもよい。
【0020】
前記PHA生産微生物としては、例えば、後述するカプリアビダス・ネカトールの形質転換体であるminCD発現A2405破壊株やA1386欠失破壊株などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
前記PHA生産微生物が生産するPHAの種類としては、微生物が生産し得るPHAである限り特に限定されないが、炭素数4~16の3-ヒドロキシアルカン酸から選択される1種のモノマーの単独重合体、炭素数4~16の3-ヒドロキシアルカン酸から選択される1種のモノマーとその他のヒドロキシアルカン酸(例えば、炭素数4~16の2-ヒドロキシアルカン酸、4-ヒドロキシアルカン酸、5-ヒドロキシアルカン酸、6-ヒドロキシアルカン酸など)の共重合体、及び、炭素数4~16の3-ヒドロキシアルカン酸から選択される2種以上のモノマーの共重合体が好ましい。例えば、3-ヒドロキシ酪酸(略称:3HB)のホモポリマーであるP(3HB)、3HBと3-ヒドロキシ吉草酸(略称:3HV)の共重合体P(3HB-co-3HV)、3HBと3-ヒドロキシヘキサン酸(略称:3HH)の共重合体P(3HB-co-3HH)(略称:PHBH)、3HBと4-ヒドロキシ酪酸(略称:4HB)の共重合体P(3HB-co-4HB)、乳酸(略称:LA)を構成成分として含むPHA、例えば3HBとLAの共重合体P(LA-co-3HB)などが挙げられるが、これらに限定されない。この中でも、ポリマーとしての応用範囲が広いという観点から、PHBHが好ましい。なお、生産されるPHAの種類は、目的に応じて、使用する微生物の保有するあるいは別途導入されたPHA合成酵素遺伝子の種類や、その合成に関与する代謝系の遺伝子の種類、培養条件などによって適宜選択しうる。
【0022】
(PHA生産微生物の培養)
前記PHA生産微生物を培養することで、菌体内にPHA粒子を蓄積させることができる。培養する方法としては、常法の微生物培養法に従うことができ、適切な炭素源が存在する培地中で培養を行なえばよい。培地組成、炭素源の添加方法、培養スケール、通気攪拌条件や、培養温度、培養時間などは特に限定されないが、十分な量のPHAを蓄積させることを考慮すると、炭素源を連続的または間欠的に培地に添加する培養方法が好ましい。
【0023】
培養時の炭素源としては、PHA生産微生物が資化可能であればどのような炭素源でも使用可能である。特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、シュークロースなどの糖類;パーム油やパーム核油(これらを分別した低融点分画であるパームオレイン、パームダブルオレイン、パーム核油オレインなども含む)、コーン油、やし油、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤトロファ油などの油脂やその分画油類、あるいはその精製副産物;ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリンスチン酸などの脂肪酸やそれらの誘導体、あるいはグリセロール等が挙げられる。また、前記PHA生産微生物が二酸化炭素、一酸化炭素、メタン、メタノール、エタノールなどのガスやアルコール類を利用可能である場合、これらを炭素源として使用することもできる。
【0024】
前記PHA生産微生物の培養では、上記炭素源、炭素源以外の栄養源である窒素源、無機塩類、その他の有機栄養源を含む培地を用いて、前記微生物を培養することが好ましい。下記に限定されないが、窒素源としては、例えば、アンモニア;塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。無機塩類としては、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。その他の有機栄養源としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸、ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。
【0025】
(熱処理)
PHA粒子を蓄積した平均細胞径が2μm以上の微生物細胞を、当該微生物細胞の培養時の温度よりも高い温度で熱処理することで、前記微生物細胞内においてPHA粒子の平均粒子径を大きくすることができる。前記熱処理は、前記微生物細胞を破砕する前に行えばよく、PHA生産微生物の培養を行った後の、菌体を含む培養液に対して行ってもよいし、当該培養液から菌体を回収して、水や緩衝液などに再懸濁した懸濁液に対して行ってもよい。容易に実施できることから、培養後の培養液に対して熱処理を行うことが好ましい。
【0026】
前記熱処理の条件は、菌体内でPHA粒子の平均粒子径を1.8μm以上とすることができる条件であれば特に限定されないが、細胞骨格が破壊されてPHAが細胞外に漏出しない条件が望ましい。具体的には、前記熱処理の温度は、前記微生物細胞の培養時の温度よりも高い温度であって、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましく、70℃以上がさらにより好ましい。前記熱処理の温度の上限値は、特に限定されないが、例えば100℃以下であってよく、90℃以下が好ましい。
【0027】
前記熱処理の時間としては、5分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、180分以上がさらに好ましく、360分以上がさらにより好ましい。前記熱処理の温度の上限値は、特に限定されないが、例えば、1日以下であって良く、720分以下が好ましい。
【0028】
前記熱処理を行う際、菌体を含む液(例えば、菌体を含む培養液、又は、菌体を含む懸濁液)が示すpHは特に限定されず、7.0未満であってもよいし、7.0以上であってもよい。しかし、熱処理によってPHA粒子の平均粒子径がより大きくなることから、7.0以上が好ましく、7.5以上がより好ましく、8.0以上がさらに好ましく、8.5以上がさらにより好ましい。前記pHは菌体が破砕されない範囲にあればよく、その上限値は特に限定されないが、例えば、12以下であって良く、11以下が好ましい。尚、pHは、菌体を含む液に酸やアルカリなどを適切な量添加することで制御できる。
【0029】
前記熱処理後の菌体内のPHA粒子の平均粒子径は、1.8μm以上で、かつ平均細胞径以下であれば特に限定されない。前記平均粒子径は1.9μm以上が好ましく、2.0μm以上がより好ましく、2.1μm以上がさらに好ましい。
【0030】
前記熱処理によって、前記菌体内のPHA粒子の平均粒子径を大きくする。具体的に述べると、前記熱処理前の菌体内のPHA粒子の平均粒子径に対する前記熱処理後の菌体内のPHA粒子の平均粒子径の比率(熱処理後の平均粒子径/熱処理前の平均粒子径)は、1.0を超える数値となり、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましく、1.4以上がさらにより好ましく、1.5以上が最も好ましい。
【0031】
前記熱処理によって前記菌体内でPHA粒子が凝集するため、PHA粒子全体に対して、粒子径が小さなPHA粒子が占める割合が小さい値となる。具体的に述べると、前記熱処理後の菌体内のPHA粒子について測定した粒度分布において、PHA粒子全体に対する粒子径1μm以下のPHA粒子の割合が2.5体積%以下であることが好ましく、2.0体積%以下であることがより好ましく、1.5体積%以下であることがさらに好ましく、1.0体積%以下であることが更により好ましく、0.5体積%以下であることが特に好ましい。
【0032】
本実施形態では、PHA粒子を蓄積した菌体の平均細胞径が2μm以上と大きいが、このように細胞径が大きい菌体では、熱処理前に、粒子径が小さなPHA粒子が占める割合が大きくなる傾向がある。このように、粒子径が小さなPHA粒子が占める割合が熱処理前に大きな数値(例えば、3.0体積%以上、あるいは、4.0体積%以上)であっても、熱処理を行うことで、前述のような小さい値まで低下させることができる。このように、本実施形態によると粒子径が小さなPHA粒子の割合が少なくなるため、PHA粒子の、細胞成分からの分離回収が効率的になる利点を得ることができる。
【0033】
(細胞の破砕及びPHAの分離回収)
以上のとおりPHA粒子を蓄積した菌体の熱処理を行って当該菌体内でPHA粒子の平均粒子径を大きくした後、周知の方法を用いて当該菌体を破砕し、得られた細胞破砕液の水相からPHA粒子を分離回収することができる。
【0034】
菌体の破砕方法としては特に限定されず、公知の方法を適用することができ、例えば、機械的なせん断力を加えたり、界面活性剤やアルカリ、酵素などを用いて細胞を破砕することで、PHA以外の細胞成分が水に溶解した細胞破砕液を得ることができる。
【0035】
PHAの分離回収方法としても特に限定されず、公知の方法を適用することができ、例えば、前記細胞破砕液の濾過や遠心分離によってPHA粒子を水相から分離した後、乾燥させることで、PHAを回収することができる。本実施形態により製造される平均粒子径が大きいPHA粒子は、このような水系による分離回収を効率的に実施できるため好ましい。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお全体的な遺伝子操作は、例えばMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に記載されているように行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主等は、市場の供給者から購入し、その説明に従い使用することができる。なお、酵素としては、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0037】
(製造例1)minCD発現A2405破壊株の作製
まず、遺伝子欠失用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A2405構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号1)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A2405構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A2405UDを作製した。
【0038】
次に、遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A2405UDを用いて、以下のようにしてA2405欠失破壊株の作製を行った。
遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A2405UDで大腸菌S17-1株(ATCC47055)を形質転換し、それによって得た形質転換微生物を、KNK-005株とNutrient Agar培地(Difco社製)上で混合培養して接合伝達を行った。KNK-005株は、カプリアビダス・ネカトールH16株の染色体上にアエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素遺伝子(配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子)が導入された形質転換体であり、米国特許第7384766号明細書に記載の方法に準じて作製することができる。
【0039】
得られた培養菌体を、250mg/Lのカナマイシンを含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム・7水塩0.2g/L、りん酸二水素アンモニウム1g/L、りん酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)に播種し、寒天培地上で生育してきた菌株を選択して、プラスミドがKNK-005株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(Difco社製)で2世代培養した後、15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地上に希釈して塗布し、生育してきた菌株をプラスミドが脱落した株として取得した。さらにPCRおよびDNAシーケンサーによる解析により染色体上のA2405構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このA2405遺伝子欠失株をA2405欠失破壊株と命名した。
【0040】
次に、minCD遺伝子発現用プラスミドベクターpNS2X-sacB-PA-minCDの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、プロモーター配列とminCD遺伝子配列およびゲノム上の組込み領域の塩基配列を有するDNA断片(配列番号3)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、minCD遺伝子発現用プラスミドベクターpNS2X-PA-minCDを作製した。
【0041】
作製したminCD遺伝子発現用プラスミドベクターpNS2X-sacB-PA-minCDを、上記と同様の接合伝達を用いた方法によって、A2405欠失破壊株に導入した。さらに上記と同様の培養及び15%のシュークロースを含むNutrient Agar培地による選抜で、染色体上にプロモーター配列とminCD遺伝子配列が挿入された菌株1株を単離した。得られた菌株をminCD発現A2405破壊株と命名した。
【0042】
(製造例2)A1386欠失破壊株の作製
まず、遺伝子欠失用プラスミドの作製を行った。作製は以下のように行った。合成オリゴDNAを用いたPCRにより、A1386構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有するDNA断片(配列番号4)を得た。このDNA断片を制限酵素SwaIで消化し、得られたDNA断片を、同じくSwaI消化した特開2007-259708号公報に記載のベクターpNS2X-sacBとDNAリガーゼ(Ligation High(東洋紡社製))にて連結し、A1386構造遺伝子より上流および下流の塩基配列を有する遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1386UDを作製した。
【0043】
次に、A1386遺伝子欠失用プラスミドベクターpNS2X-sacB+A1386UDを、製造例1と同様の方法でKNK-005株に導入した。さらに、製造例1と同様の方法で、染色体上のA1386構造遺伝子の開始コドンから終止コドンまでを欠失した菌株1株を単離した。このA1386遺伝子欠失株をA1386欠失破壊株と命名した。
【0044】
(比較例1)KNK-005株によるPHA生産
下記の条件でKNK-005株の培養を行なった。
【0045】
(培地)
種母培地の組成は1w/v% Meat-extract、1w/v% Bacto-Tryptone、0.2w/v% Yeast-extract、0.9w/v% NaHPO・12HO 、0.15w/v% KHPO、(pH6.8)とした。
【0046】
前培養培地の組成は1.1w/v% NaHPO・12HO、0.19w/v%KHPO、1.29 w/v%(NHSO 、0.1w/v% MgSO・7HO、2.5w/v% パームオレインオイル、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)とした。炭素源としてパームオレインオイルを10g/Lの濃度で一括添加した。
【0047】
PHA生産培地の組成は0.385w/v% NaHPO・12HO、0.067w/v% KHPO、0.291w/v%(NHSO、0.1w/v% MgSO・7HO、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl・6HO、1w/v% CaCl・2HO、0.02w/v% CoCl・6HO、0.016w/v% CuSO・5HO、0.012w/v% NiCl・6HOを溶かしたもの)とした。
【0048】
(乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合の測定方法)
乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合は次のように測定した。遠心分離によって培養液から菌体を回収、エタノールで洗浄、凍結乾燥し、乾燥菌体を取得し、重量を測定した。得られた乾燥菌体1gに100mlのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣をろ別後、エバポレーターで総容量が30mlになるまで濃縮後、90mlのヘキサンを徐々に加え、ゆっくり攪拌しながら、1時間放置した。析出したPHAをろ別後、50℃で3時間真空乾燥した。乾燥PHAの重量を測定し、乾燥菌体量に対してPHA蓄積量が占める割合を算出した。
【0049】
(平均細胞径の測定方法)
平均細胞径は次のように測定した。培養終了後の培養液を60℃で10分処理し、菌体細胞不活化を行った後、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac MT3300EXII)により解析し、PHA蓄積細胞の体積平均粒子径(MV)を測定した。測定は標準的な設定(粒子透過性:透過、粒子屈折率:1.81、粒子形状:非球形、溶媒屈折率:1.333)で行った。
【0050】
(PHA平均粒子径の測定方法)
PHA平均粒子径は次のように測定した。培養終了後で熱処理前又は熱処理後の培養液0.2mlを分取し、20mlの0.02w/v% 塩化ベンザルコニウム水溶液に懸濁した。さらに10mlの10w/v% ドデシル硫酸ナトリウム水溶液を加え混合し、超音波破砕によりPHA抽出液を得た。得られたPHA抽出液をレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac MT3300EXII)により解析し、PHA粒子の体積平均粒子径(MV)、及び、PHA粒子全体に対する粒子径1μm以下のPHA粒子の割合(体積%)を測定した。測定は標準的な設定(粒子透過性:透過、粒子屈折率:1.81、粒子形状:非球形、溶媒屈折率:1.333)で行った。
【0051】
(PHA生産培養)
PHA生産培養は次のように行った。まず、KNK-005株のグリセロールストック(50μl)を種母培地(10ml)に接種して24時間培養し種母培養を行なった。次に種母培養液を、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL-300型)に1.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.7~6.8の間でコントロールしながら28時間培養し、前培養を行なった。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0052】
次に、前培養液を、2.5LのPHA生産培地を入れた5Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDS-U50型)に5.0v/v%接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度420rpm、通気量2.1L/minとし、pHは6.7~6.8の間でコントロールした。pHコントロールには25%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源は断続的に添加した。炭素源としてはパームオレインオイルを使用した。培養は、乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合が80%以上に達するまで行った。得られた培養液に対して、表1-1に記載の時間及び温度で熱処理を行った。
【0053】
乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合、平均細胞径、熱処理前及び熱処理後のPHA平均粒子径、及び、熱処理前及び熱処理後の1μm以下のPHA粒子の割合を前述のように測定した。また、熱処理によるPHA平均粒子径の増大率(熱処理後のPHA平均粒子径/熱処理前のPHA平均粒子径)を計算した。結果を表1-1に示す。
【0054】
培養後のKNK-005株の平均細胞径は1.89μm、乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合は89%、熱処理前のPHA平均粒子径は1.72μm、熱処理前の1μm以下のPHA粒子の割合は2.45体積%であった。本比較例では培養後のPHA産生微生物の平均細胞径が1.89μmであったため、熱処理を行っても、表1-1に示すようにPHA平均粒子径は増大せず、1μm以下のPHA粒子の割合もほとんど減少しなかった。
【0055】
(実施例1)minCD発現A2405破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でminCD発現A2405破壊株の培養を行なった。得られた培養液に対して、表1-1に記載の時間及び温度で熱処理を行った。乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合、平均細胞径、熱処理前及び熱処理後のPHA平均粒子径、熱処理前及び熱処理後の1μm以下のPHA粒子の割合、及び、熱処理によるPHA平均粒子径の増大率を表1-1に示す。また、熱処理前後の細胞をスライドガラスにのせて乾燥させた後、フクシンによって染色し、光学顕微鏡によって観察した。顕微鏡観察時に撮影した写真を図1に示す。熱処理前後で細胞は形状を保っていた。
【0056】
培養後のminCD発現A2405破壊株の平均細胞径は2.95μm、乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合は86%、熱処理前のPHA平均粒子径は1.62μm、熱処理前の1μm以下のPHA粒子の割合は5.08体積%であった。本実施例では、熱処理を行うことで、表1-1に示すようにPHA平均粒子径は増大し、増大率は最大で1.72となった。また、1μm以下のPHA粒子の割合は熱処理前の5.08体積%から大きく減少し、最少で0.00体積%となった。
【0057】
(実施例2)A1386欠失破壊株によるPHA生産
比較例1と同様の条件でA1386欠失破壊株の培養を行なった。得られた培養液に対して、表1-2に記載の時間及び温度で熱処理を行った。乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合、平均細胞径、熱処理前及び熱処理後のPHA平均粒子径、熱処理前及び熱処理後の1μm以下のPHA粒子の割合、熱処理によるPHA平均粒子径の増大率を表1-2に示す。また、熱処理前後の細胞をスライドガラスにのせて乾燥させた後、フクシンによって染色し、光学顕微鏡によって観察した。顕微鏡観察時に撮影した写真を図2に示す。熱処理前後で細胞は形状を保っていた。
【0058】
培養後のA1386欠失破壊株の平均細胞径は2.48μm、乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合は88%、熱処理前のPHA平均粒子径は1.48μm、熱処理前の1μm以下のPHA粒子の割合は10.86体積%であった。本実施例では、熱処理を行うことで、表1-2に示すようにPHA平均粒子径は増大し、増大率は最大で1.59となった。また、1μm以下のPHA粒子の割合は熱処理前の10.86体積%から大きく減少し、最少で0.00体積%となった。
【0059】
なお、比較例1並びに実施例1及び2によって生産されたPHAはPHBHであることをHPLC分析にて確認した。
【0060】
【表1-1】
【0061】
【表1-2】
【0062】
(実施例3)熱処理時のpH条件
実施例2と同様にA1386欠失破壊株の培養を行い、得られた培養液を分取した。分取した培養液のpHを表2に記載の値(+0.1以内)にコントロールしながら、同表に記載の時間及び温度で熱処理を行った。pHコントロールには10%水酸化ナトリウム水溶液を使用した。平均細胞径、熱処理前及び熱処理後のPHA平均粒子径、熱処理前及び熱処理後の1μm以下のPHA粒子の割合、熱処理によるPHA平均粒子径の増大率を表2に示す。
【0063】
培養後のA1386欠失破壊株の平均細胞径は2.60μm、乾燥菌体に対するPHA蓄積量の割合は89%、熱処理前のPHA平均粒子径は1.55μm、熱処理前の1μm以下のPHA粒子の割合は7.08体積%であった。本実施例では、pHを7.0以上にコントロールしながら熱処理を行うことで、表2に示すようにPHA平均粒子径は効率的に増大した。なお、pHコントロール後、熱処理前の状態で、PHA平均粒子径の変化率は5%以内であった。熱処理時pH8.5では70℃、30分の処理で増大率1.58となった。また、1μm以下のPHA粒子の割合は熱処理前の7.08体積%から大きく減少し、0.02体積%となった。
【0064】
なお、実施例3によって生産されたPHAはPHBHであることをHPLC分析にて確認した。
【0065】
【表2】
図1
図2
【配列表】
0007598323000001.app