(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】レーダシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/58 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
G01S13/58 200
(21)【出願番号】P 2021557605
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 US2020024586
(87)【国際公開番号】W WO2020198290
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-16
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507107291
【氏名又は名称】テキサス インスツルメンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】230129078
【氏名又は名称】佐藤 仁
(73)【特許権者】
【識別番号】390020248
【氏名又は名称】日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
(72)【発明者】
【氏名】カーティク スッブラジ
(72)【発明者】
【氏名】サンディープ ラオ
(72)【発明者】
【氏名】スリラム ムラリ
(72)【発明者】
【氏名】カーティク ラマスブラマニアン
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514567(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0331096(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0179582(US,A1)
【文献】特開2000-235072(JP,A)
【文献】特開2016-035440(JP,A)
【文献】特表2009-541724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ
ーシステムであって、
レーダ
ートランシーバ
ユニットであって、
1つ又は複数のチャープ制御信号を生成するように構成可能なタイミングエンジンと、
前記タイミングエンジンに結合される局部発振器であって、
前記1つ又は複数のチャープ制御信号を受け取り、
前記1つ又は複数のチャープ制御信号に従って
第1のチャープのシーケンスを含むフレームを生成する、
ように構成される
、前記局部発振器と、
前記局部発振器に結合される変調器
であって、前記フレームが
前記第1のチャープのシーケンスと第1の周波数値だけオフセットされた
第2のチャープのシーケンスとを含むように、
前記第2のチャープのシーケンスを生成するために
前記第1のチャープのシーケンスを変調するように構成される、
前記変調器と、
処理要素であって、
レンジドップラーアレイに基づいて前記レーダーシステムの視野内のオブジェクトに対する第1の速度推定を計算し、
前記第1のチャープのシーケンスに対する第1のレンジドップラーアレイにおける少なくとも1つのピークの位相と前記第2のチャープのシーケンスに対する第2のレンジドップラーアレイにおける少なくとも1つのピークの位相との間の差に基づいて前記オブジェクトに対する第2の速度推定を計算し、
前記第1の速度推定と前記第2の速度推定とに基づいて前記オブジェクトの最終速度推定を計算する、
ように構成される、前記処理要素と、
を含む、前記レーダートランシーバユニットを含む、レーダ
ーシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ
ーシステムであって、
前記レーダ
ートランシーバ
ユニットが、
前記タイミングエンジン
と前記変調器
とに結合される制御モジュール
であって、
前記チャープ制御信号の生成を少なくとも部分的に制御するように1つ又は複数のパラメータ値を前記タイミングエンジンに送信
し、
前記第1のチャープのシーケンスの変調を少なくとも部分的に制御するように1つ又は複数の信号を前記変調器に送信する
、
ように構成される、
前記制御モジュールを更に含む、レーダ
ーシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のレーダ
ーシステムであって、
前記レーダ
ートランシーバ
ユニットが、
前記オブジェクトによって反射された
前記第1のチャープのシーケンス
と前記第2のチャープのシーケンス
とを含
む反射されたチャープのフレームを受け取り、
前記反射されたチャープのフレームに対応するデジタル中間周波数(IF)信号を生成
し、
前記第1のチャープのシーケンスに対応する第1の復調されたデジタルIF信号と
前記第2のチャープのシーケンスに対応する第2の復調されたデジタルIF信号とを取得するために前記デジタルIF信号を復調する
、
ように構成される、レーダ
ーシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のレーダーシステムであって、
前記処理要素が、
前記第1の復調されたデジタルIF信号に対する第1のレンジアレイと前記第2の復調されたデジタルIF信号に対する第2のレンジアレイとを生成するために、前記第1の復調されたデジタルIF信号と前記第2の復調されたデジタルIF信号とに対してレンジ高速フーリエ変換(FFT)を実施し、
前記第1のレンジアレイに対応する前記第1のレンジドップラーアレイと前記第2のレンジアレイに対応する前記第2のレンジドップラーアレイとを生成するために、前記第1のレンジアレイと前記第2のレンジアレイとに対してドップラーFFTを実施する、
ように更に構成される、レーダーシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のレーダ
ーシステムであって、
前記第1のチャープのシーケンスを含むフレームが
、前記第1のチャープのシーケンスの周期性と前記チャープの開始周波数に対応する波長とに依存する第1の最大測定可能速度に関連し、
前記第1のチャープのシーケンスと
前記第2のチャープのシーケンスとを含む前記フレームが
、前記第1の最大測定可能速度より大きい
、前記第2のチャープのシーケンスの周期性と前記チャープの開始周波数に対応する波長とに依存する第2の最大測定可能速度に関連する、レーダ
ーシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のレーダ
ーシステムであって、
前記レーダ
ートランシーバユニットが、前記レーダ
ートランシーバ
ユニットの受信チャネル
の間の位相オフセットを判定するように構成され、前記位相オフセットが、前記オブジェクトの速度を判定する際に用いられる、レーダ
ーシステム。
【請求項7】
請求項1に記載のレーダ
ーシステムであって、
前記第1のチャープのシーケンス
と前記第2のチャープのシーケンス
とが、同じアンテナを用いて送信される、レーダ
ーシステム。
【請求項8】
レーダ
ーシステム
の視野にお
けるオブジェクトの概算速度を判定するための方法であって、
送信チャネルを介して、
第1のチャープのシーケンスと
前記第1のチャープのシーケンスから或る周波数(Δf)だけオフセットされた
第2のチャープのシーケンスとを有するチャープのフレームの送信を開始することと、
受信チャネルを介して、反射されたチャープのフレームを受信することであって、前記反射されたチャープが前記レーダ
ーシステムの視野内のオブジェクトによって反射された
前記第1のチャープのシーケンス
と前記第2のチャープのシーケンス
とを含む
、前記受信することと、
前記受信チャネルを介して、
前記反射されたチャープのフレームに対応するデジタル中間周波数(IF)信号を生成することと、
プロセッサを介して、前記第1のチャープのシーケンスに対応する第1の復調されたIF信号と
前記第2のチャープのシーケンスに対応する第2の復調されたIF信号とを形成するため
に前記デジタルIF信号を復調することと、
前記プロセッサを介して、前記第1の復調されたIF信号
と前記第2の復調されたIF信号
とに少なくとも部分的に従って前記概算速度を判定すること
であって、
第1のレンジドップラーアレイ又は第2のレンジドップラーアレイの少なくとも1つに基づいて前記オブジェクトに対する第1の速度推定を計算することと、
前記第1のレンジドップラーアレイのピークと前記第2のレンジドップラーアレイのピークとの位相差に基づいて前記オブジェクトに対する第2の速度推定を計算することと、
前記第1の速度推定と前記第2の速度推定とに基づいて前記オブジェクトの概算速度を計算することと、
を含む、前記判定することと、
を含む、方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の方法であって、
前記第1の復調されたIF信号
と前記第2の復調されたIF信号
とに少なくとも部分的に従って前記概算速度を判定することが、
前記第1の復調されたIF信号に対応する第1のレンジアレイと前記第2の復調されたIF信号に対応する第2のレンジアレイとを生成するために前記第1の復調されたIF信号
と前記第2の復調されたIF信号
とに対してレンジ高速フーリエ変換(FFT)を実施することと、
前記第1のレンジドップラーアレイと前記第2のレンジドップラーアレイとを生成するために前記第1のレンジアレイ
と前記第2のレンジアレイ
とに対してドップラーFFTを実施することと、
を
更に含む、方法。
【請求項10】
請求項
8に記載の方法であって、
レーダ
ートランシーバの受信チャネル
の間の位相オフセットを判定する
ことであって、前記位相オフセットが前記オブジェクトの概算速度を判定する際に用いられる、
前記位相オフセットを判定することを更に含む、方法。
【請求項11】
請求項
8に記載の方法であって、
前記第1のチャープのシーケンスと
第2のチャープのシーケンスとを有するチャープのフレームの送信を開始することが、
チャープパラメータ値に従って1つ又は複数のチャープ制御信号を生成することと、
前記1つ又は複数のチャープ制御信号に従って
前記第1のチャープのシーケンスを含むフレームを生成することであって、前記フレームが、
前記第1のチャープのシーケンスを含み、
前記第1のチャープのシーケンスの周期性と前記チャープの開始周波数に対応する波長とに依存する第1の最大測定可能速度に関連している
、前記フレームを生成することと、
前記フレームが
前記第1のチャープのシーケンスと前記Δfだけオフセットされた
前記第2のチャープのシーケンスとを含むように
、前記第2のチャープのシーケンスを生成する
ために
前記第1のチャープのシーケンスを変調することであって、前記フレームが
、前記第1の最大測定可能速度より大きい
、前記第2のチャープのシーケンスの周期性と前記チャープの開始周波数に対応する波長とに依存する第2の最大測定可能速度に関連している
、前記変調することと、
を含む、方法。
【請求項12】
請求項
8に記載の方法であって、
復調の前に、
前記第2のチャープのシーケンスが前記デジタルIF信号において
前記第1のチャープのシーケンスからΔfだけオフセットされている、方法。
【請求項13】
レーダ
ーシステムにおける速度を判定するための方法であって、
処理要素を介して、第1のチャープのシーケンスと
前記第1のチャープのシーケンスから或る周波数(Δf)だけオフセットされた
第2のチャープのシーケンスとを含むチャープのフレームを送信することに基づいて取得され
る少なくとも1つのレンジドップラーアレイに基づいて第1の速度推定を計算することと、
前記処理要素を介して、前記少なくとも1つのレンジドップラーアレイにおける第1のピークと前記第1のピークに対応する少なくとも第2のレンジドップラーアレイにおける第2のピークとの位相差に基づいて第2の速度推定を計算することであって、前記少なくとも第2のレンジドップラーアレイが、
前記第1のチャープのシーケンスと
前記第1のチャープのシーケンスから前記Δfだけオフセットされた
前記第2のチャープのシーケンスとを有する
前記チャープのフレームを送信することに基づいて取得される
、前記第2の速度推定を計算することと、
前記処理要素を介して、前記第1の速度推定
と前記第2の速度推定
とに基づいて前記速度を計算することと、
を含む、方法。
【請求項14】
請求項
13に記載の方法であって、
I/Q変調器を用いて
信号1+e
j2πΔftに
基づいて
前記第1のチャープのシーケンスを変調することによって
前記第2のチャープのシーケンスが
前記第1のチャープのシーケンスからオフセットされ、tが時間を表す、方法。
【請求項15】
請求項
14に記載の方法であって、
前記第1のチャープのシーケンスを変調することが、前記レーダ
ーシステムの最大測定可能速度を約Tc/ΔTのファクタだけ増加させ、Tcが
前記第1のチャープのシーケンス
と前記第2のチャープのシーケンス
との周期性であり、ΔT=Δf/sであり、sが
前記第1のチャープのシーケンスの勾配である、方法。
【請求項16】
請求項
13に記載の方法であって、
前記第1の速度推定
と前記第2の速度推定
とに基づいて前記速度を計算することが、
前記第1の速度推定
と前記第2の速度推定
とに関連する曖昧性を判定することと、
前記第1の速度推定
と前記第2の速度推定
と前記判定された曖昧性
とに基づいて前記レーダ
ーシステムの視野におけるオブジェクトの前記速度を計算することと、
を含む、方法。
【請求項17】
レーダートランシーバであって、
第1のチャープのシーケンスを含むフレームを生成するように構成される局部発振器と、
前記局部発振器に結合されるI/Q変調器であって、前記フレームが前記第1のチャープのシーケンスと第1の周波数値Δfだけオフセットされた第2のチャープのシーケンスとを含むように、前記第2のチャープのシーケンスを生成するために信号1+e
j2πΔft
に基づいて前記第1のチャープのシーケンスを変調するように構成され、tが時間を表す、前記I/Q変調器と、
を含む、レーダートランシーバ。
【請求項18】
請求項17に記載のレーダートランシーバであって、
処理要素であって、
第1のレンジドップラーアレイ又は第2のレンジドップラーアレイに基づいて視野内の物体に対する第1の速度推定を計算し、
前記第1のチャープのシーケンスに対する前記第1のレンジドップラーアレイにおける少なくとも1つのピークの位相と前記第2のチャープのシーケンスに対する前記第2のレンジドップラーアレイにおける少なくとも1つのピークの位相との間の差に基づいて前記物体に対する第2の速度推定を計算し、
前記第1の速度推定と前記第2の速度推定とに基づいて前記物体に対する最終速度推定を計算する、
ように構成される、前記処理要素を更に含む、レーダートランシーバ。
【請求項19】
請求項17に記載のレーダートランシーバであって、
1つ又はそれ以上のチャープ制御信号を生成するように構成されるタイミングエンジンと、
前記タイミングエンジンと前記I/Q変調器とに結合される制御モジュールであって、
前記1つ又はそれ以上のチャープ制御信号の生成を少なくとも部分的に制御するために1つ又はそれ以上のパラメータ値を前記タイミングエンジンに送信し、
前記第1のチャープのシーケンスの変調を少なくとも部分的に制御するために前記信号1+e
j2πΔft
を前記I/Q変調器に送信する、
ように構成される、前記制御モジュールと、
を更に含み、
前記局部発振器が、前記1つ又はそれ以上の制御信号に従って前記フレームを生成するように構成される、レーダートランシーバ。
【請求項20】
請求項17に記載のレーダートランシーバであって、
前記レーダートランシーバが、
前記物体によって反射された前記第1のチャープのシーケンスと前記第2のチャープのシーケンスとを含む反射されたチャープのフレームを受信し、
前記反射されたチャープのフレームに対応するデジタル中間周波数(IF)信号を生成し、
前記第1のチャープのシーケンスに対応する第1の復調されたデジタルIF信号と前記第2のチャープのシーケンスに対応する第2の復調されたデジタルIF信号とを得るために前記デジタルIF信号を復調する、
ように構成される、レーダートランシーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
周波数変調連続波(FMCW)レーダシステムの様々な例が、産業用応用例、オートモティブ応用例等の複数の利用応用例に埋め込まれ得る。例えば、埋め込みFMCWレーダシステムが車両に含まれて、アダプティブクルーズコントロール、衝突警告、死角支援/警告、車線変更支援、駐車支援等に用いられるデータを提供し得る。他の例において、産業用応用例における埋め込みFMCWレーダシステムは、工場における自律機器のナビゲート、移動の追跡等に役立つデータを提供し得る。
【発明の概要】
【0002】
本開示の態様は、レーダシステムを提供する。一例において、レーダシステムはレーダトランシーバ集積回路(IC)を含む。レーダトランシーバICは、タイミングエンジン、タイミングエンジンに結合される局部発振器、及び局部発振器に結合される変調器を含む。タイミングエンジンは、1つ又は複数のチャープ制御信号を生成するように構成される。局部発振器は、1つ又は複数のチャープ制御信号を受信し、1つ又は複数のチャープ制御信号に従ってチャープの第1のシーケンスを含むフレームを生成するように構成される。変調器は、フレームがチャープの第1のシーケンスと、第1の周波数値によってオフセットされたチャープの第2のシーケンスとを含むように、チャープの第1のシーケンスを変調してチャープの第2のシーケンスを生成するように構成される。
【0003】
本開示の他の態様は、レーダシステムにおいて概算速度を判定するための方法を提供する。一例において、この方法は、送信チャネルを介して、チャープの第1のシーケンスと、チャープの第1のシーケンスから或る周波数(Δf)だけオフセットされたチャープの第2のシーケンスとを有するチャープのフレームの送信を開始することを含む。この方法は、受信チャネルを介して、反射されたチャープのフレームを受信することを更に含み、反射されたチャープは、レーダシステムの視野内のオブジェクトによって反射されたチャープの第1のシーケンス及びチャープの第2のシーケンスを含む。この方法は、受信チャネルを介して、反射されたチャープのフレームに対応するデジタル中間周波数(IF)信号を生成することを更に含む。この方法は、プロセッサを介してデジタルIF信号を復調して、チャープの第1のシーケンスに対応する第1の復調されたIF信号及びチャープの第2のシーケンスに対応する第2の復調されたIF信号を生成すること、及びプロセッサを介して、第1の復調されたIF信号及び第2の復調されたIF信号に少なくとも部分的に従って概算速度を判定することを更に含む。
【0004】
本開示の他の態様は、レーダシステムにおいて速度を判定するための方法を提供する。一例において、この方法は、処理要素を介して、チャープの第1のシーケンスとチャープの第1のシーケンスからΔfだけオフセットされたチャープの第2のシーケンスとを有するチャープのフレームを送信することに基づいて取得された少なくとも1つのレンジドップラーアレイに基づいて第1の速度推定を計算することを含む。この方法は更に、処理要素を介して、少なくとも1つのレンジドップラーアレイ及び少なくとも第2のレンジドップラーアレイにおける第1のピークの位相差に基づいて、第2の速度推定を計算することを更に含み、少なくとも第2のレンジドップラーアレイは、チャープの第1のシーケンスと、チャープの第1のシーケンスからΔfだけオフセットされたチャープの第2のシーケンスとを有するチャープのフレームを送信することに基づいて取得される。この方法は、処理要素を介して、第1の速度推定及び第2の速度推定に基づいて速度を計算することを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
種々の例の詳細な説明について、添付の図面を参照する。
【0006】
【0007】
【
図2】例示的な周波数変調連続波(FMCW)レーダシステムのブロック図を示す。
【0008】
【
図3】例示的なレーダトランシーバ集積回路(IC)のブロック図を示す。
【0009】
【
図4】FMCWレーダに対する例示的な方法のフローチャートを示す。
【0010】
【
図5】例示的なレンジドップラーアレイの図を示す。
【0011】
【
図6】チャープのフレームの送信を開始するための例示的な方法のフローチャートを示す。
【0012】
【
図7】FMCWレーダシステムによって検出されたオブジェクトの速度を判定するための例示的な方法のフローチャートを示す。
【0013】
【
図8】FMCWレーダシステムを較正するための例示的な方法のフローチャートを示す。
【0014】
【
図9】FMCWレーダシステムを較正するための例示的な方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
周波数変調連続波(FMCW)レーダシステムの少なくとも幾つかの例は、チャープと呼ばれる一連の周波数ランプを含むフレームを送信する。これらのチャープは、対象オブジェクトによって反射され得、FMCWレーダシステムに戻され得る。反射されたチャープを含む信号を受信した後、FMCWレーダシステムは、受信した信号のダウンコンバート、デジタル化、及び処理を行って、対象オブジェクトの特性を判定し得る。これらの特性は、対象オブジェクトがFMCWレーダシステムの視野内にあるときの対象オブジェクトのレンジ、速度、到来角度等を含み得る。FMCWレーダシステムの少なくとも幾つかの例は、対象オブジェクトの速度を最大限に明確な速度まで正確に推定することができる。最大限に明確な速度より大きい速度を有する対象オブジェクトでは、対象オブジェクトの速度は、FMCWレーダシステムによって測定される場合、速度の大きさ及び/又は符号の一方又は両方において不正確になり得る。
【0016】
少なくとも幾つかのFMCWレーダシステムにおいて、チャープの複数のシーケンス(例えば、等間隔のチャープの連続シーケンス等)が送信され、これらのチャープの反射が受信されて、レーダ信号を生成する。チャープの各シーケンスの後、反射されたチャープから生じるレーダ信号の処理を可能にするために、或る程度のアイドル時間(例えば、フレーム間アイドル時間)が存在し得る。チャープのシーケンスの取得時間及び後続のフレーム間アイドル時間が一緒になって、レーダフレームを形成する。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムの各アンテナによって受信された反射信号は、送信信号と混合されて、中間周波数(IF)信号を生成し、中間周波数(IF)信号はフィルタリング及びデジタル化される。その後、結果として生じたデジタルIF信号(例えば、FMCWレーダシステムにおいて受信アンテナ毎に1つ)に信号処理が実施されて、レーダの視野における潜在的なオブジェクトのレンジ、速度、及び/又は角度の任意の1つ又は複数を抽出し得る。
【0017】
少なくとも1つの例において、各受信チャネル(例えば、FMCWレーダシステム及び/又は関連する処理ハードウェアにおける受信アンテナ)について、データを時間ドメインから周波数ドメインに変換するために、各反射されたチャープのデジタル化されたサンプルに対してレンジ高速フーリエ変換(FFT)が実施される。結果の周波数ドメインアレイにおける少なくとも幾つかのピーク値は、潜在的オブジェクトのレンジ(距離)に対応する。幾つかの例において、レンジFFTの結果は、例えば、更なる処理のために、メモリに保存される。幾つかの例において、FMCWレーダシステムは、FMCWレーダシステムにおける各受信アンテナに対して1セットのレンジFFT結果(例えば、1つのレンジアレイ(又はレンジマトリクス))を生成し得る。少なくとも1つの例において、或るチャープにN個の時間サンプルがある場合、各々特定のレンジビンに対応するN個のレンジ結果がチャープに対してストアされる。同様に、チャープシーケンスにおいてM個のチャープがある場合、M×N個のレンジ値のアレイがレンジFFTによって生成され、そこでは、N個の列は、M個のチャープを介する対応するレンジビンのための信号値である。
【0018】
少なくとも1つの例において、各レンジアレイについて、チャープシーケンスにおけるチャープの対応するレンジ値の各々に対してドップラーFFTが実施される。例えば、M×N個のアレイのN列の各々に対してドップラーFFTが実施される。結果のM×N個のレンジドップラー平面における少なくとも幾つかのピーク値は、レンジドップラーアレイ又はレンジドップラースライスとも呼ばれ、レーダの視野における潜在的オブジェクトのレンジ及び相対速度(例えば、速度)に対応する。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムは、FMCWレーダシステムの各受信アンテナに対して、1つのレンジドップラーアレイを生成する。
【0019】
少なくとも幾つかの例において、FMCWレーダシステムは、その後、レンジドップラーアレイを処理して、レーダの視野における少なくとも幾つかの潜在的オブジェクトの情報を判定する。各々が受信アンテナに接続された複数のレシーバが用いられる場合、反射信号は各々、信号を反射するオブジェクトの角度に応じて、異なる遅延を有し得る。少なくとも1つの例において、レーダの視野における潜在的オブジェクトは、レンジドップラーアレイにおけるピークを考慮することによって検出される。潜在的オブジェクトに関する情報は、その後、オブジェクト追跡、オブジェクトの移動の速度、移動の方向等のアプリケーション固有処理のために用いられ得る。オートモティブの文脈において、オブジェクトデータは、例えば、車線変更支援、駐車支援、死角検出、後方衝突警告、緊急ブレーキ、及び/又はクルーズコントロール等の任意の1つ又は複数のために用いられ得る。
【0020】
少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムは、連続して受信されたチャープ間の位相差を測定することによって、レーダの視野における潜在的オブジェクトの速度を推定する。幾つかの例において、大きなチャープ周期性(Tc)(例えば、チャープのシーケンスにおける1つのチャープの開始から次のチャープの開始までの経過時間)が、推定された速度における誤差を引き起こす位相ロールオーバーを生じさせ得る。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムによって達成可能な最大限に明確な速度(νmax)は、Tcに反比例する。少なくとも1つの例において、νmax=λ/4Tcであり、ここで、λはチャープの開始周波数に対応する波長である。しかしながら、種々の要因が、最小達成可能Tcを制限し得、従って、達成可能νmaxを制限する。例えば、そのような要因には、チャープがまたがる帯域幅、チャープの勾配、及び、幾つかのFMCWレーダシステムでは、シーケンスに送信する複数のトランスミッタが含まれ得る。
【0021】
幾つかの例において、チャープの帯域幅はレンジ分解能に影響を与える(例えば、チャープの帯域幅が大きくなると、レンジ分解能が良好になる)。しかしながら、レンジ分解能を改善するためにチャープ帯域幅を増加させることは、同様に、Tcを増加させ、νmaxを減少させる。また、チャープの最大勾配は、チャープ生成回路要素の帯域幅、受信チャネルのIF帯域幅、及びレーダによってサポートされる最大距離によって制限され得る。チャープの勾配が減少すると、Tcが、チャープがまたがる所与の帯域幅に対して増加し、νmaxを減少させる。時分割多重多入力及び多出力(TDM-MIMO)動作モード(例えば、それは角度分解能を改善し得る)を提供するFMCWレーダシステムにおいて、複数のトランスミッタが順に送信し、これは、有効なTcを増加させ得、νmaxを減少させ得る。TDM-MIMOの文脈において、Tcは、同じトランスミッタの1つのチャープの開始から次のチャープの開始までの経過時間として定義される。従って、FMCWレーダシステムに存在し、最小達成可能Tcによって課せられる制限内でνmaxを増加させる際に困難が生じる。
【0022】
本開示の少なくとも幾つかの態様は、FMCWレーダシステム等のレーダシステムのν
maxを増加させることを提供する。少なくとも幾つかの例において、FMCWレーダシステムは、チャープを送信し、反射されたチャープを受信するために、1つ又は複数のアンテナ(例えば、送信及び/又は受信アンテナ)に結合するように構成されるレーダトランシーバ集積回路(IC)を実装する。例えば、レーダトランシーバICは等間隔のチャープのフレームを生成し、チャープのそのフレームを、送信のために、少なくとも1つの送信アンテナに送信する。少なくとも幾つかの例において、チャープのフレームを送信アンテナに提供する前に、レーダトランシーバICは、フレームにおけるチャープを変調して、チャープの単一シーケンスを、周波数Δfによって分離されたチャープの2つのシーケンスに転換する。少なくとも幾つかの例において、レーダトランシーバICの帯域幅の観点において、Δfは比較的小さい。例えば、幾つかの実装におけるΔfは、およそ0.01ギガヘルツ(Ghz)であり、例えば、或るシステムにおいては、第1のチャープが79.1Ghzから80.1Ghzの周波数レンジにわたり、第1のチャープからΔfだけ分離された第2のチャープが79.11Ghzから80.11Ghzの周波数レンジにわたる。他の例において、Δfは任意の適切な値を取る。
図1に示されるように、第1のシーケンスにおける第1のチャープが時間t及び周波数αにおいて開始し得る。ここで、横軸は時間を表し、縦軸は周波数を表す。第2のシーケンスにおける第1のチャープが、同じ時間t及び周波数α+Δfにおいて開始し得る。同様に、第1のシーケンスにおける第2のチャープが、時間t+T
C及び周波数αにおいて開始し得る。第2のシーケンスにおける第2のチャープが、同じ時間t+T
C及び周波数α+Δfにおいて開始し得る。このように、少なくとも幾つかの例において、対応するチャープ(例えば、第1及び第2のシーケンスの同じチャープ)は、任意の所与の時間tにおいて、周波数Δfだけ周波数において分離され、任意の所与の周波数fにおいて、時間ΔTだけ、時間において分離される。ここで、ΔT=Δf/sであり、Sはチャープの勾配である。
【0023】
Δfによってオフセットされた2つのチャープの2つのシーケンスのみを含むフレームを有するものとして示されているが、本開示のFMCWレーダシステムは、2つより多くのチャープのシーケンス及び/又は各々が2つより多くのチャープを含むシーケンスを含むフレームを有するように適合され得る。ここで、チャープの各シーケンスは、或る周波数によってオフセットされており、そのような例は本開示の範囲内に含まれる。一例において、最小達成可能Tcによって課せられる制限に対して、少なくとも部分的に補償するために、フレームにおけるチャープが変調されて、およそνmax=λ/4Tcの開示されたFMCWレーダシステムのνmaxを促進する。少なくとも一例において、フレームにおけるチャープのシーケンスとその対応する変調されたチャープのシーケンスの時間分離を減少させることは、単一のレーダトランシーバICを用いながら、FMCWレーダシステムのνmaxを増加させる。ΔTがTcよりはるかに小さい1つの例において、FMCWレーダシステムのνmaxは、およそTc/ΔTの規模によって与えられるファクタだけ増加される。一例において、Δfの大きさの値は、FMCWレーダシステムから最も遠いオブジェクトまでとFMCWレーダシステムに戻るまでの最大往復遅延より、対応するΔTが大きくなるように選択され得る。一例において、これは、チャープの第1のシーケンスに対応する反射を提供し、周波数ドメインにおいてチャープの第2のシーケンスに対応する反射とオーバーラップしない。一例において、反射のこの段状化(staggering)は、更に、反射の分離を可能にして、反射に対して実施されるべきデジタル処理を可能にする。チャープの第3のシーケンスも存在する例において、チャープシーケンスの任意のペア間の時間差は、上述の往復遅延より大きい。一例において、最も遠いオブジェクトとは、FMCWレーダシステムにおいて受信される、かなりの強さの反射信号を生成する能力があるオブジェクト(存在する場合)を指す。そのかなりの強さとは、反射信号が、チャープの他のシーケンスに対応する信号のFMCWレーダシステムによる検出を破壊することが可能であるか、又は、反射信号が、チャープの複数のシーケンスからのそのような他の反射信号の存在によって破壊される可能性がある強さである。最も遠いオブジェクトがTfarthestの往復遅延に対応する場合、Ffarthest=S×Tfarthestは、FMCWレーダシステムの推定最大IF周波数であり得る。
【0024】
図2を参照すると、例示的なFMCWレーダシステム200のブロック図が示されている。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステム200は、レーダトランシーバIC205及び処理ユニット210を含む。幾つかの例において、FMCWレーダシステム200は、送信アンテナ215及び受信アンテナ220を更に含む。一方、他の例においてFMCWレーダシステム200は、送信アンテナ215及び受信アンテナ220を含まないが、それらに結合するように構成される。レーダトランシーバIC205の例示的なアーキテクチャが
図3に図示され、下記に説明される。
【0025】
少なくとも1つの例において、レーダトランシーバIC205は、FMCWレーダシステム200のフロントエンドと呼ばれ得、処理ユニット210は、FMCWレーダシステム200のバックエンドと呼ばれ得る。少なくとも1つの例において、レーダトランシーバIC205及び処理ユニット210は別々に実装され、ともに結合されるように構成され得る。一方、他の例において、レーダトランシーバIC205及び処理ユニット210は、例えば、単一チップパッケージにおいて又はシステムオンチップ(SoC)(例えば、単一の集積回路)上で、ともに実装される。レーダトランシーバIC205及び処理ユニット210がSoC上に実装されている例において、レーダトランシーバIC205は、SoCを形成するICのサブ回路に対応し得る。少なくとも1つの例において、処理ユニット210は、任意の適切な通信方法(例えば、シリアルインタフェース又はパラレルインタフェース)を促進し得るインタフェース225を介してレーダトランシーバIC205に結合され、レーダトランシーバIC205からデータを受信及び/又はレーダトランシーバIC205にデータを送信するように構成される。
【0026】
少なくとも1つの例において、インタフェース225は、低電圧差動信号(LVDS)インタフェース等の高速シリアルインタフェースであり得る。別の例において、インタフェース225は、シリアルペリフェラルインタフェース(SPI)等の低速インタフェースであり得る。少なくとも1つの例において、レーダトランシーバIC205は、受信アンテナ220を介して受信した反射されたチャープから1つ又は複数のデジタルIF信号(あるいは、デチャープされた信号、ビート信号、又は生レーダ信号と呼ばれ得る)を生成する機能を含む。また、少なくとも1つの例において、レーダトランシーバIC205は、レーダトランシーバIC205において受信したレーダ信号(例えば、反射されたチャープ及び/又はデジタルIF信号)の信号処理の少なくとも一部を実施し、この信号処理の結果を、インタフェース225を介して処理ユニット210に提供する機能を含む。少なくとも1つの例において、レーダトランシーバIC205は、レーダトランシーバIC205の各受信したフレーム(例えば、フレームのチャープの各シーケンス)に対してレンジFFTを実施する。少なくとも幾つかの例において、レーダトランシーバIC205はまた、レーダトランシーバIC205(例えば、実施後及びレンジFFTの結果に対して)の各々受信したフレームに対してドップラーFFTを実施する。
【0027】
少なくとも1つの例において、処理ユニット210は、レーダトランシーバIC205から受信したデータを処理して、例えば、FMCWレーダシステム200によって検出された任意のオブジェクトの距離、速度及び/又は角度の任意の1つ又は複数を判定する機能を含む。幾つかの例において、処理ユニット210は、更に又は代替として、オブジェクトを追跡すること、移動の速度及び方向を判定すること等、検出されたオブジェクトに関する情報の後処理を実施する機能を含み得る。少なくとも1つの例において、処理ユニット210は、例えば、FMCWレーダシステム200の増加したνmaxを提供する本開示の態様に従って、検出されたオブジェクトの速度を判定する。種々の例において、処理ユニット210は、レーダトランシーバIC205から受信したデータを処理するため、及び/又はレーダトランシーバIC205にデータを提供するために必要な、任意の1つ又は複数の適切なプロセッサ又はプロセッサの組み合わせを含む。例えば、処理ユニット210は、デジタル信号プロセッサ(DSP)、マイクロコントローラ、DSP及びマイクロコントローラ処理の両方を組み合わせたシステムオンチップ(SOC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、又は上述の任意の組み合わせの1つ又は複数を含み得る。
【0028】
図3を参照すると、例示的なレーダトランシーバIC300のブロック図が示されている。少なくとも幾つかの例において、レーダトランシーバIC300は、
図2のFMCWレーダシステム200のレーダトランシーバIC205としての実装に適している。他の例において、レーダトランシーバIC300は、他のレーダシステムに実装するために適している。少なくとも1つの例において、レーダトランシーバICは、1つ又は複数の送信チャネル304及び1つ又は複数の受信チャネル302A~302N(Nは任意の正の整数)を含む。送信チャネル304及び受信チャネル302A~302Nの各々は、それぞれ、
図3には図示されていないが
図2に関して上述したように、送信アンテナ215又は受信アンテナ220等の送信アンテナ又は受信アンテナに結合され得る。簡略化のために、2つの受信チャネル302A及び302N、及び1つの送信チャネル304を含むように図示されているが、種々の例において、レーダトランシーバIC300は、任意の適切な数の受信チャネル302N及び/又は任意の適切な数の送信チャネル304を含み得る。また、受信チャネル302Nの数及び送信チャネル304の数は異なる数であり得る。
【0029】
少なくとも1つの例において、送信チャネル304は、送信アンテナ(図示されない)とI/Q変調器350との間に結合されて、第1の送信アンテナを介して送信するためI/Q変調器350の出力を増幅するためのパワーアンプ(PA)307を含む。少なくとも幾つかの例において、各々付加的な送信チャネル304が、実質的に類似し得、それ自体のそれぞれの送信アンテナ(図示されない)に又は同じ送信アンテナに結合し得る。
【0030】
少なくとも1つの例において、第1の受信チャネル302Aが、受信アンテナ(図示されない)とミキサ306Aとの間に結合される低ノイズアンプ(LNA)303Aを含み、低ノイズアンプ(LNA)303Aは、受信アンテナを介して受信された無線周波数(RF)信号(例えば、反射されたチャープ)を増幅し、その後、増幅された信号をミキサ306Aに提供する。少なくとも1つの例において、ミキサ306Aは、クロック乗算器340に結合され、例えば、受信したRF信号と混合してIF信号を生成するために、クロック乗算器340からクロック信号を受信するように構成される。少なくとも1つの例において、ベースバンドバンドパスフィルタ310Aが、ミキサ306Aに結合され、IF信号をフィルタリングするように構成され、可変利得アンプ(VGA)314Aが、ベースバンドバンドパスフィルタ310Aに結合され、フィルタリングされたIF信号を増幅するように構成され、アナログデジタル変換器(ADC)318Aが、VGA314Aに結合され、アナログIF信号をデジタルIF信号に変換するように構成される。それぞれの受信チャネル302Aのベースバンドバンドパスフィルタ310A、VGA314A、及びADC318Aは、集合的に、アナログベースバンド、ベースバンドチェーン、複素ベースバンド、又はベースバンドフィルタチェーンと呼ばれ得る。また、ベースバンドバンドパスフィルタ310A及びVGA314Aは、集合的に、IFアンプ(IFA)と呼ばれ得る。少なくとも幾つかの例において、各付加的な受信チャネル302Nが、第1の受信チャネル302Aに実質的に類似し得、それ自体のそれぞれの受信アンテナ(図示されない)に又は同じ受信アンテナに結合し得る。例えば、各受信チャネル302Nは、LNA303N、ミキサ206N、ベースバンドバンドパスフィルタ310N、VGA314N及びADC318Nを含み得る。少なくとも1つの例において、ADC318Aは、例えば、デジタルIF信号をDFE322に提供するために、デジタルフロントエンド(DFE)322に結合される。DFE322は、デジタルベースバンドとも呼ばれ得るが、少なくとも1つの例において、例えば、デジタルIF信号のデータ転送速度を低減するために、デジタルIF信号に対して、デシメーションフィルタリング又は他の処理動作を実施する機能を含み得る。種々の例において、DFE322はまた、デジタルIF信号に対して、直流(DC)オフセット除去、及び/又は、レシーバ間利得不均衡非理想性、レシーバ間位相不均衡非理想性等の受信チャネル302A~302Nにおける非理想性の補償(例えば、デジタル補償)等、他の動作を実施し得る。少なくとも1つの例において、DFE322は、信号プロセッサ344に結合され、DFE322の出力を信号プロセッサ344に提供するように構成される。
【0031】
少なくとも1つの例において、信号プロセッサ344は、受信したレーダフレームから生じるデジタルIF信号に対する信号処理の少なくとも一部を実施し、この信号処理の結果を端子352及び/又は端子354を介して送信するように構成される。少なくとも1つの例において、信号プロセッサ344は、信号処理の結果を、
図2に関して説明された処理ユニット210等の処理ユニット(図示されない)に送信する。種々の例において、これらの結果は、信号プロセッサ344から、それぞれ、高速インタフェース324及び/又はSPI328を介して端子352及び/又は端子354に提供される。少なくとも1つの例において、信号プロセッサ344は、受信したレーダフレームにおけるチャープの各シーケンスに対して、レンジFFTを実施する。少なくとも1つの例において、信号プロセッサ344はレンジFFTの結果に対してドップラーFFTを更に実施する。
【0032】
信号プロセッサ344は、任意の適切なプロセッサ又はプロセッサの組み合わせを含み得る。例えば、信号プロセッサ344は、DSP、マイクロコントローラ、FFTエンジン、DSPプラスマイクロコントローラプロセッサ、FPGA、又は特定用途向け集積回路(ASIC)であり得る。少なくとも1つの例において、信号プロセッサ344は、例えば、デジタルIF信号に対して実施される信号処理の部分の中間結果をメモリ348にストアするように、及び/又は、信号プロセッサ344による実行のためメモリ348から命令を読み出すように、メモリ348に結合される。
【0033】
メモリ348は、少なくとも1つの例において、オンチップストレージ(例えば、非一時的コンピュータ可読媒体)を提供し、オンチップストレージは、例えば、レーダトランシーバIC300の種々の構成要素間でデータを通信するため、プロセッサによりレーダトランシーバIC300上で実行されるソフトウェアプログラムをストアするため等に用いられ得る。メモリ348は、リードオンリーメモリ(ROM)及び/又はランダムアクセスメモリ(RAM)(例えば、スタティックRAM等)の任意の適切な組み合わせを含み得る。少なくとも1つの例において、ダイレクトメモリアクセス(DMA)構成要素346が、メモリ348に結合されて、メモリ348から高速インタフェース324及び/又はSPI328へのデータ転送を実施する。
【0034】
少なくとも1つの例において、SPI328は、レーダトランシーバIC300と他のデバイス(例えば、
図2の処理ユニット210等の処理ユニット)との間の端子354を介した通信のためのインタフェースを提供する。例えば、レーダトランシーバIC300は、例えば、チャープのタイミング及び周波数、出力電力レベル、監視機能のトリガー等の制御情報を、SPI328を介して受信し得る。少なくとも1つの例において、レーダトランシーバIC300は、SPI328を介してテストデータを、例えば、処理ユニット210に送信し得る。
【0035】
少なくとも1つの例において、制御モジュール326は、レーダトランシーバIC300の動作の少なくとも一部を制御する機能を含む。制御モジュール326は、例えば、ファームウェアを実行してレーダトランシーバIC300の動作を制御するマイクロコントローラを含み得る。制御は、例えば、レーダトランシーバIC300の他の構成要素にデータパラメータを提供すること、及び/又はレーダトランシーバIC300の他の構成要素に制御信号を提供することであり得る。
【0036】
少なくとも1つの例において、プログラマブルタイミングエンジン342は、レーダフレームにおけるチャープのシーケンスに対するチャープパラメータ値を制御モジュール326から受け取り、パラメータ値に基づいて或るフレームにおけるチャープの送受信を制御するチャープ制御信号を生成する機能を含む。幾つかの例において、チャープパラメータは、レーダシステムアーキテクチャによって定義され、例えば、どの送信チャネルがイネーブルであるべきかを指示するためのトランスミッタイネーブルパラメータ、チャープ周波数開始値、チャープ周波数勾配、ADCサンプリング時間、ランプ終了時間、トランスミッタ開始時間等を含み得る。
【0037】
少なくとも1つの例において、無線周波数シンセサイザ(RFSYNTH)330は、プログラマブルタイミングエンジン342から受信したチャープ制御信号に基づく送信のための信号(例えば、チャープ及び/又はチャープシーケンス)を生成する機能を含む。幾つかの例において、RFSYNTH330は、電圧制御発振器(VCO)を備える位相同期ループ(PLL)を含む。少なくとも1つの例において、RFSYNTH330は局部発振器(LO)と呼ばれ得る。
【0038】
少なくとも1つの例において、マルチプレクサ332は、RFSYNTH330及び入力バッファ336に結合され、外部構成要素(図示されない)からの入力バッファ336から受信された信号と、RFSYNTH330によって生成された信号との間で選択するように構成可能である。少なくとも1つの例において、出力バッファ338は、マルチプレクサ332に結合され、例えば、マルチプレクサ332によって選択された信号を、別のレーダトランシーバIC(図示されない)の入力バッファに提供し得る。少なくとも1つの例において、マルチプレクサは選択信号を介して制御モジュール326によって制御される。
【0039】
少なくとも1つの例において、クロック乗算器340は、マルチプレクサ332の出力(例えば、RFSYNTH330の出力等)の周波数を、ミキサ306Aの動作の周波数に増加させる。少なくとも1つの例において、クリーンアップPLL334は、レーダトランシーバIC300によって受信した外部低周波数基準クロック(図示されない)の信号の周波数をRFSYNTH330の周波数まで増加させ、基準クロック信号から基準クロック位相ノイズをフィルタ除去するように構成される。
【0040】
少なくとも1つの例において、I/Q変調器350は、クロック乗算器340の出力(例えば、チャープ及び/又はチャープのシーケンス)を受信し、制御モジュール326から受信したデータに基づいてクロック乗算器340を変調して、クロック乗算器340の出力の周波数シフトされたレプリカを生成する。少なくとも1つの例において、I/Q変調器は、デジタルアナログ変換器(DAC)356及びDAC358に更に結合され、DAC356及びDAC358の各々は、制御モジュール326に結合され得る。少なくとも1つの例において、DAC356は、制御モジュール326から1+ej2πΔftの実数成分を受け取り、DAC358は、制御モジュール326から1+ej2πΔftの虚数成分を受け取る。ここで、tはアナログ信号における連続(例えば、実)時間であり、デジタル信号における所与のデジタルサンプルを表す。DAC356及びDAC358の各々は、それぞれの受信した信号をアナログ値に変換し、アナログ値をI/Q変調器350に提供する。例えば、DAC356は、そのアナログ値出力をI/Q変調器350の実数成分入力に提供し得、DAC358は、そのアナログ値出力を、I/Q変調器350の同相成分入力に提供し得る。
【0041】
少なくとも1つの例において、I/Q変調器350は、クロック乗算器340から受信したクロック信号の同相(I)及び直交(Q)成分を生成し、それぞれ、DAC356及びDAC358から受け取ったアナログ値によって、I及びQクロック成分を乗算し、信号をPA307に提供する前に、結果の乗算値を合計する。この乗算は、少なくとも幾つかの例において、クロック乗算器340を変調して、例えば、
図1に関連して図示及び説明されたように、クロック乗算器340の出力の周波数シフトされたレプリカを含む、結果の信号を生成する。
図1において、実線はクロック乗算器340の出力を表し、破線はクロック乗算器340の出力の周波数シフトされた(例えば、変調された)レプリカを表す。上述のように、I/Q変調器350は、チャープの第1のシーケンス及びチャープの第2のシーケンスを含む複素数値変調信号を生成し得、チャープの第2のシーケンスはチャープの第1のシーケンスに関してΔfだけ周波数シフトされている。複素数値変調信号は、複素数値信号の実数部に対応する同相成分及び複素数値信号の虚数部に対応する直交位相成分を含み得る。
【0042】
受信チャネル302Aは、
図3において実数受信チャネルとして示されている。実数受信チャネルは、少なくとも1つの例において、0から2Δfの帯域幅を有する(例えば、ベースバンドバンドパスフィルタ310A、VGA314A、及びADC318Aの帯域幅は、少なくとも0から2Δfであり得る)。他の図示されていない例において、受信チャネル302Aは、複素数受信チャネルとして実装され得る。複素数受信チャネルは、少なくとも1つの例において、LNA303A、ミキサ306A、ベースバンドバンドパスフィルタ310A、VGA314A、及び/又はADC318Aの少なくとも幾つかの複製(図示されない)を含む。複素数受信チャネルは、少なくとも1つの例において、-ΔfからΔfの帯域幅を有する。受信チャネル302Aが複素数受信チャネルとして実装されるとき、ミキサ306Aはクロック乗算器340によって生成されるクロック信号のI成分を受け取り得、ミキサ306Aの複製は、クロック乗算器340によって生成されるクロック信号のQ成分を受け取り得、そのため、ミキサ306Aとミキサ306Aの複製とが90度位相差で動作するようにする。種々の例において、クロック信号のI及びQ成分は、クロック乗算器340によって生成されるクロック信号を受信するI/Qスプリッタ(図示されない)によって生成され得る。I/Qスプリッタは、例えば、それらの間に90度位相差を有する信号を生成する。I/Qスプリッタは、幾つかの例においてレーダトランシーバIC300の個別の構成要素として実装され、他の例においてI/Q変調器350の一部として実装される。
【0043】
ここで
図4を参照すると、ν
maxを増加させ得る例示的なFMCWレーダ方法400のフローチャートが図示されている。少なくとも幾つかの例において、方法400は、
図2のFMCWレーダシステム200等のFMCWレーダシステムによって実装され、例えば、
図2のレーダトランシーバIC205及び/又は
図3のレーダトランシーバIC300等のレーダトランシーバICによって少なくとも部分的に実装される。
【0044】
動作405において、FMCWレーダシステムは、チャープの第1のシーケンスと、チャープの第1のシーケンスからΔfだけオフセットされたチャープの第2のシーケンスとを有するチャープのフレームの送信を開始する。チャープのフレームの送信を開始するプロセスは、
図6に関してこれ以降に更に説明される。
【0045】
動作410において、FMCWレーダシステムは、チャープの反射されたフレームを受信し、FMCWレーダシステムの各受信アンテナに対してデジタルIF信号を生成する。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムは、受信したチャープのフレームを、クロック乗算器340により出力されたチャープと組み合わせること(例えば、混合すること又は多重化すること)によって、デジタルIF信号を生成する。例えば、ミキサを用いること、組み合わされた信号をフィルタリングすること、フィルタリングされた信号を増幅すること、及びフィルタリングされた信号をアナログ形式からデジタル形式に変換することによって、デジタルIF信号を形成する。幾つかの例において、レーダシステムは、I/Q復調器を含み得、I/Q復調器は、クロック乗算器340によって出力されたチャープを用いて受信したチャープのフレームを復調してデジタルIF信号の同相成分を生成し、また、受信したチャープのフレームを更に、クロック乗算器340によって出力されたチャープの90度位相シフトされたバージョンを用いて復調してデジタルIF信号の直交成分を生成する。デジタルIF信号の同相及び直交位相成分は、一緒になって、複素数値のデジタルIF信号を生成し得る。
【0046】
動作415において、FMCWレーダシステムはデジタルIF信号を復調する。例えば、FMCWレーダシステムによって送信され(例えば、動作405において)、その後、反射されたチャープのフレームとして受信された(例えば、動作410において)チャームのフレームが、Δfだけオフセットされたチャープの2つのシーケンスを含むとき、デジタルIF信号は、同様に、2つのシーケンスに対応し、デジタルIF信号においてΔfだけ分離されている反射されたチャープデータを含み得る。チャープの両方のシーケンスからのデータにアクセスするために、FMCWレーダシステムは、少なくとも1つの例において、デジタルIF信号を復調し、及び/又は、デジタルIF信号に対して第1のFFTを実施して、元々チャープの第1のシーケンスに所属しているチャープからデータを取得する。少なくとも幾つかの例において、FMCWレーダシステムは更に、ΔfによってデジタルIF信号を復調して(又は等価のFFT処理を実施して)、Δfの周波数オフセットを補償し、チャープの第1のシーケンスからΔfだけオフセットされたチャープの第2のシーケンスに元々所属していたチャープからデータを取得する。少なくとも1つの例において、FFT及び/又は復調は、FMCWレーダシステムのレーダトランシーバICの信号プロセッサにおいて実施される。別の例において、デジタルIF信号は、FFT及び/又は復調を実施するFMCWレーダシステムの処理ユニットと通信する。一例において、復調及びFFTは、動作415の別個のサブセットとして実装され、他の例において、復調は、1つ又は複数のFFTの実施及び/又は1つ又は複数のFFTビンの処理を含む。
【0047】
一例において、デジタルIF信号は、チャープの第1及び第2のシーケンスの両方に対応するオブジェクトからの反射に対応する信号の合計を含む。デジタルIF信号において、チャープの第1及び第2のシーケンスに対応する信号は、Δfの周波数だけオフセットされる。任意選択的に、チャープの第2のシーケンスに対応するデジタルIF信号の新バージョンがデジタル処理(例えば、時間ドメインデジタルデータにe-j2πΔftを乗算すること(周波数シフティングとも呼ばれる))を介して生成され得る。デジタルIF信号の新バージョンにおいて、チャープの第2のシーケンスに対応する信号は、デジタルIF信号の元のバージョンにおけるチャープの第1のシーケンスに対応するものと同じ周波数レンジを占める。更なるデジタル処理(例えば、レンジ次元FFTの実施等)を可能にするため、デジタルIF信号の新バージョンは、対象の周波数(例えば、0からFfarthest)を超える周波数成分を抑制するためにデジタルフィルタを介して通過され得る。デジタルフィルタの出力において生成されるデジタルIF信号の新バージョンは、チャープの第2のシーケンスに対応する復調されたデジタルIF信号と呼ばれ得る。元のデジタルIF信号それ自体は、対象の実際の周波数を超える周波数成分を抑制するために同様のデジタルフィルタを介して(例えば、周波数シフテト無しに)通過され得、チャープの第1のシーケンスの復調されたバージョンと呼ばれ得る(又はチャープの第1のシーケンスに対応する復調されたデジタルIF信号と呼ばれ得る)。チャープの任意の第3のシーケンスは、存在する場合、Δfがチャープの第1のシーケンスとチャープの第3のシーケンスとの間の対応する周波数差によって置き換わられる以外は、チャープの第2のシーケンスと同様の処理を受け得る。幾つかの例において、チャープの第2の(及び/又は後続の)シーケンスに対する復調されたデジタルIF信号は、チャープの第1のシーケンスに対応する復調されたデジタルIF信号のサンプリングと比べてΔT(又はΔTの整数倍)の遅延を用いてサンプリングされる。幾つかの例において、サンプリングにおけるこの遅延は、チャープの第1、第2、及び任意の後続のシーケンスの復調されたデジタルIF信号を実質的に同じ開始RF周波数に対応させるためである。本明細書に記載される復調されたデジタルRF信号は、この遅延に従ってサンプリングされる。
【0048】
動作420において、FMCWレーダシステムは、復調されたデジタルIF信号の各々にレンジFFTを実施して、復調されたデジタルIF信号の各々に対してレンジアレイを生成する。例えば、レーダシステムは、第1の復調されたデジタルIF信号に対して第1のレンジFFTを実施し得、第2の復調されたデジタルIF信号に対して第2のレンジFFTを実施し得る。第2の復調されたデジタル信号は、第1のデジタル復調信号の周波数シフトバージョンである。各レンジFFT動作がM×N個のレンジアレイ(又はレンジマトリクス)を生成し得、ここで、Mはチャープシーケンスにおけるチャープの数であり、Nはチャープを受け取るための時間サンプルの数である。Nはレンジアレイにおけるレンジビンの数にも対応し得る。幾つかの例において、レンジFFT動作は、FMCWレーダシステムの受信アンテナの各々によって受信されるチャープの各シーケンスに対して実施され得る。少なくとも1つの例において、それぞれのレンジFFTは、FMCWレーダシステムのレーダトランシーバICの信号プロセッサにおいて実施され、その結果のレンジアレイは、FMCWレーダシステムの処理ユニットに通信される。別の例において、復調されたデジタルIF信号は、レンジFFTを実施するFMCWレーダシステムの処理ユニットに通信される。
【0049】
別の例において、デジタルIF信号は、上述のように復調を実施することなく直接レンジFFTを実施するように用いられ得る。そのような例において、(例えば、チャープの第1及び第2のシーケンスの両方に対応する情報を保持するために)FFTの長さが二倍にされ得る。そのような例において、例えば、0からFfarthestの周波数に対応するレンジFFTビンには、チャープの第1のシーケンスに対応するレンジFFT値を含まれる。同じ例において、例えばΔfからΔf+Ffarthestの周波数に対応するレンジFFTビンには、チャープの第2のシーケンスに対応するレンジFFT値が含まれる。任意の第3のシーケンスは、同様に、2Δfから2Δf+Ffarthestに対応する(例えば、チャープの第1、第2、及び第3のシーケンスに対応する情報を保持するためにはレンジFFTが3倍長くなる必要がある)。
【0050】
動作425において、FMCWレーダシステムは、動作420において生成されたレンジアレイの各々に対してドップラーFFTを実施して、対応するレンジドップラーアレイ(又はレンジドップラーマトリクス)を生成する。例えば、ドップラーFFTが、動作420において生成される各レンジアレイのN列の各々に対して実施される。幾つかの例において、動作425は、チャープの第1のシーケンスに対応する第1のレンジドップラーアレイ、及びチャープの第2のシーケンスに対応する第2のレンジドップラーアレイを生成し得る。
【0051】
動作430において、FMCWレーダシステムは、各レンジドップラーアレイに従って、FMCWレーダシステムの視野における潜在的オブジェクトの速度を判定する。少なくとも1つの例において、レンジドップラーアレイにおけるピークは潜在的オブジェクトを示し、これらの潜在的オブジェクトの速度は、レンジドップラーアレイにおけるそれぞれのピークの位置から判定される。レンジドップラーアレイの例が、
図5に示されている。この例において、M×N個のアレイ500は、受け取ったレーダフレームからのチャープの第1のシーケンスに対応するレンジドップラーアレイを表し、M×N個のアレイ502は、受け取ったレーダフレームからのチャープの第2のシーケンスに対応するレンジドップラーアレイを表す。少なくとも幾つかの例において、アレイ500及びアレイ502の斜線のボックスは、FMCWレーダシステムの視野における潜在的オブジェクトに対応するそれぞれのアレイにおけるピークを示す。少なくとも1つの例において、レンジドップラーアレイにおけるピークの行及び列数は、FMCWレーダシステムの視野における潜在的オブジェクトの速度及びレンジにそれぞれ対応する。少なくとも1つの例において、潜在的オブジェクトの速度は、例えば、
図7に関連してこれ以降に説明されるように、レンジドップラーアレイにおけるピークの位相間の差を見つけることによって更に改良される。復調を実施する代わりに、一層長いFFT(例えば、2NポイントFFT)が実施される例において、アレイ500は、一層長いFFTの前半(例えば、0からN-1)に対応するビンを抽出することによって生成され得、アレイ502は、一層長いFFTの後半(例えば、Nから2N-1)に対応するビンを抽出することによって生成され得る。チャープの第2のシーケンス(及び後続のチャープのシーケンス)に対応する復調されたデジタルIF信号のサンプリングを、ΔT(又はΔTの整数倍)だけ遅延させるために、一例において、アレイ502の各レンジビンの値の位相は、2×π×IF×ΔTを加算することによって変更され、ここで、IFは、Fs×n/Nによって与えられるレンジビンに対応する周波数値の値であり、Fsはサンプリングレートであり、Nはチャープ当たりのサンプリングの数であり、nは0からN-1のレンジビンインデックスである。
【0052】
一例において、レンジドップラーアレイの行数にのみ従って判定される場合のFMCWレーダシステムの視野における潜在的オブジェクトの最大限に明確な速度はV1であり得、FMCWレーダシステムは、-v1/2からv1/2の間の速度を推定する。オブジェクトが、p×V1+νの速度で、FMCWレーダシステムの視野において存在する場合、ここでpは整数(正又は負)であり、νは-v1/2からv1/2であり、FMCWレーダシステムは、pが非ゼロの時に、レンジドップラーアレイの行数に基づいて、オブジェクトの速度を誤ってνとして判定し得る。FMCWレーダシステムは、その後、オブジェクトの実際の速度の近似値を判定する(これ以降に説明する式3等を介して)。FMCWレーダシステムは、オブジェクトの実際の速度の近似値に最も近いpの値に対してオブジェクトの速度を判定することによって、レンジドップラーアレイにおけるピークの位相間の差に従ってオブジェクトの速度の計算を更に改良させる。
【0053】
ここで
図6を参照すると、チャープのフレームの送信を開始するための例示的な方法600のフローチャートが示されている。少なくとも幾つかの例において、方法600は、
図2のFMCWレーダシステム200等のFMCWレーダシステムによって実装され、例えば、少なくとも部分的に、
図2のレーダトランシーバIC205及び/又は
図3のレーダトランシーバIC300等のレーダトランシーバICによって実装される。
【0054】
動作605において、FMCWレーダシステムの制御モジュール(或いは、レーダトランシーバIC及び/又はFMCWレーダシステムの外部の構成要素)が、FMCWレーダシステムによって送信するためのチャープを生成するためのパラメータ値をタイミングエンジンに送信する。幾つかの例において、タイミングエンジンは、チャープ制御信号を生成し、チャープ制御信号は、パラメータ値に基づいて、或るフレームにおけるFMCWレーダシステムによるチャープの送信及び/又は受信を制御する。幾つかの例において、チャープパラメータは、レーダシステムアーキテクチャによって定義され、例えば、チャープ周波数開始値、チャープ周波数勾配、ADCサンプリング時間、ランプ終了時間、トランスミッタ開始時間等をどの送信チャネルがイネーブルするのかを指示するための、トランスミッタイネーブルパラメータを含み得る。
【0055】
動作610において、タイミングエンジンは、1つ又は複数のチャープを生成するために、チャープ制御信号をRFSYNTHに送信する。少なくとも幾つかの例において、RFSYNTHは、FMCWレーダシステムの局部発振器であり得る。動作615において、1つ又は複数のチャープは乗算されて、1つ又は複数のチャープの周波数を増加させ、増幅されたチャープ(又は乗算されたチャープ又は変更されたチャープ)を生成し、例えば、FMCWレーダシステムの成分を受信する動作の周波数をマッチングさせる。
【0056】
動作620において、増幅されたチャープは変調される。増幅されたチャープを変調することは、少なくとも1つの例において、周波数Δfだけオフセットされた、増幅されたチャープの周波数シフトされたレプリカを生成する。少なくとも1つの例において、変調はI/Q変調器によって実施される。少なくとも1つの実施形態において、I/Q変調器は、増幅されたチャープを変調する際に用いられるための、信号1+ej2πΔftの実数成分及び信号1+ej2πΔftの虚数成分を受け取る。動作625において、変調されたチャープは、増幅され、1つ又は複数のアンテナを介して送信される。
【0057】
ここで
図7を参照すると、FMCWレーダシステムによって検出されたオブジェクトの速度を判定するための例示的な方法700のフローチャートが示されている。少なくとも幾つかの例において、方法700は、
図2のFMCWレーダシステム200等のFMCWレーダシステムによって実装され、例えば、
図2のレーダトランシーバIC205及び/又は
図3のレーダトランシーバIC300等のレーダトランシーバICによって、少なくとも部分的に実装される。
【0058】
動作705において、FMCWレーダシステムは、レンジドップラーアレイに基づいて、FMCWレーダシステムの視野における潜在的オブジェクトに対する第1の速度推定(νest1)を計算する。一例において、レンジドップラーアレイは、受信したレーダフレームのチャープの第1のシーケンスに対応する第1のレンジドップラーアレイか又は受信したレーダフレームのチャープの第2のシーケンスに対応する第2のレンジドップラーアレイの1つである。別の例において、レンジドップラーアレイは、受信したレーダフレームのチャープの第1のシーケンスに対応する第1のレンジドップラーアレイと受信したレーダフレームのチャープの第2のシーケンスに対応する第2のレンジドップラーアレイとの間又はそれらの組み合わせの平均又はその他の関係である。例えば、FMCWレーダシステムは、上述のように、方法400に従ってνest1を計算し、それは、潜在的オブジェクトに対応するレンジドップラーアレイにおけるピークの位置に基づいて判定され得る。上述のように、レンジドップラーアレイにおけるピークの行数は、潜在的オブジェクトの速度に対応する。少なくとも1つの例において、νest1はエイリアシングされ(aliased)得る(例えば、νest1における誤差が最大測定可能速度(νmax)の整数倍になるように、位相ロールオーバーがあり得る)。
【0059】
少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムに関するオブジェクトの相対運動は、反射されたチャープの受信したフレームにおける後続のチャープにわたり位相変化Φdを導入する。ここで、位相変化は下記のように定義される。
Φd=4πνTc/λ (1)
ここで、νはオブジェクトの速度であり、Tcはチャープ周期性であり、λはチャープの開始周波数に対応する波長である。フレームにおけるチャープを介して位相において線形漸進があるので、位相変化ΦdはFFTを用いて推定され得る。位相変化Φdが推定されると、一例において、速度推定値νest1は、νest1を得るために式1を逆にすることによって下記のように推定され得る。
Vest1=λΦd/4πTc (2)
別の例において、νest1は、上述のようにドップラーFFTを実施し、結果のレンジドップラーアレイにおける対象のオブジェクトに対応するピークの位置を見つけることによって推定される。νmaxorig=λ/4Tcであり、オブジェクトの速度が+/-0.5×νmaxorigを超える場合、νest1は、νmaxorigのおよそ整数倍である誤差を含み得る。νmaxorigは、これ以降に更に詳しく説明するように、νest2を用いることなく、チャープの第1のシーケンスのみ(又はチャープの第2のシーケンスのみ)を用いた場合に、一義的に検出可能な速度である。
【0060】
動作710において、FMCWレーダシステムは、対応するレンジドップラーアレイ(例えば、チャープの第1のシーケンスに対応するレンジドップラーアレイ及びΔfだけチャープの第1のシーケンスからオフセットされたチャープの第2のシーケンスに対応するレンジドップラーアレイ)における位相差に基づいてオブジェクトに対する第2の速度推定(ν
est2)を計算する。レンジドップラーアレイは、少なくとも1つの例において、上述されたように、少なくとも部分的に方法400に従って生成される。位相差が判定されると(例えば、第2のレンジドップラーアレイのピークの位相から1つのレンジドップラーアレイのピークの位相を引くことによって)、速度推定値ν
est2は下記に従って推定され得る。
V
est2=(ΔΦk/π)×ν
maxorig (3)
ここで、ΔΦは、レンジドップラーアレイにおけるピークの位相差(又は複数の位相差の平均)(例えば、FMCWレーダシステムが複数の送信及び受信アンテナを有することを考慮するため)であり、K=Tc/ΔT、ν
maxorig=λ/4Tcであり、λは、送信が開始された時点の(例えば、
図4に関連して上述された、方法400の動作405における)、FMCWレーダシステムの送信の波長である。
【0061】
動作715において、FMCWレーダシステムは、νest1及びνest2に少なくとも部分的に従って、FMCWレーダシステムによって検出されたオブジェクトの実際の、又は真の速度(νtrue)を計算する。例えば、FMCWレーダシステムは、下記に従って、νtrueを判定し得る。
νtrue=νest1+2nνmaxorig (4)
ここで、nは、速度計算の曖昧性を推定する整数であり、n=(νest2-νest1)/2νmaxorigとして定義される。少なくとも幾つかの例において、nの計算された値は、オブジェクトの実際の速度を判定するために式4において用いる前に、最も近い整数に丸められ得る。別の例において、νmaxorigの種々の負及び正の(0を含む)整数倍がνest1に加算されて種々の合計を生成し得、νest2に数値的に最も近い合計がνtimeとして選択される。
【0062】
ここで
図8を参照すると、FMCWレーダシステムを較正するための例示的な方法800のフローチャートが示されている。少なくとも幾つかの例において、方法800は、FMCWレーダシステムの較正動作モードの間、FMCWレーダシステムによって実装される。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムは、
図2のFMCWレーダシステム200であり得、例えば、少なくとも部分的に、
図2のレーダトランシーバIC205及び/又は
図3のレーダトランシーバIC300等のレーダトランシーバICであり得る。
【0063】
動作805において、FMCWレーダシステムは、チャープの第1のシーケンスと、チャープの第1のシーケンスからΔfだけオフセットされたチャープの第2のシーケンスとを有するチャープのフレームの送信を開始することによって較正プロセスを開始する。チャープのフレームの送信の開始は、上述の方法400の動作405と実質的に同様の手法でFMCWレーダシステムによって実施され得、その詳細はここでは繰り返さない。
【0064】
動作810において、FMCWレーダシステムは、チャープの反射されたフレームを受信し、FMCWレーダシステムの各受信アンテナに対してデジタルIF信号を生成する。チャープの反射されたフレームの受信及びデジタルIF信号の生成は、上述の方法400の動作410と実質的に同様の手法でFMCWレーダシステムによって実施され得、その詳細はここでは繰り返さない。
【0065】
動作815において、FMCWレーダシステムは、デジタルIF信号を復調する。デジタルIF信号の復調は、上述の方法400の動作415と実質的に同様の手法でFMCWレーダシステムによって実施され得、その詳細はここでは繰り返さない。
【0066】
動作820において、FMCWレーダシステムは、動作815の結果の各々に対してレンジFFTを実施して、動作815の結果の各々に対してレンジアレイを生成する。レンジアレイの生成は、上述の方法400の動作420と実質的に同様の手法でFMCWレーダシステムによって実施され得、その詳細はここでは繰り返さない。
【0067】
動作825において、FMCWレーダシステムは、各レンジアレイに対してドップラーFFTを実施して、レンジドップラーアレイを生成する。レンジドップラーアレイの生成は、上述の方法400の動作425と実質的に同様の手法で、FMCWレーダシステムによって実施され得、詳細はここでは繰り返さない。
【0068】
動作830において、FMCWレーダシステムは、対応するレンジドップラーアレイにおけるオブジェクトのピークの位相差を計算する。FMCWレーダシステムは、例えば、1つのレンジドップラーアレイ(例えば、チャープの第1のシーケンスのチャープに対応するレンジドップラーアレイ)におけるオブジェクトのピークの位相を、別のレンジドップラーアレイ(例えば、チャープの第1のシーケンスからΔfだけオフセットされたチャープの第2のシーケンスに対応するもの)におけるオブジェクトのピークの位相を差し引くことによって位相差を計算する。少なくとも1つの例において、オブジェクトのピークを見つけるために、レンジドップラーアレイの各々において検索が実施され得る。静止オブジェクトは既知であるため、オブジェクトに対応する1つのピーク又は複数のピークのおよその位置は既知であり得る。従って、ピークを見つけるために、レンジドップラーアレイの各々のおよその領域において検索が実施され得る。更に、オブジェクトが大きい場合、オブジェクトに対応する多くピークがあり得る。複数のピークがある場合、任意のピークが用いられ得る。
【0069】
動作835において、計算された位相差は、FMCWレーダシステムによってストアされ得る。少なくとも1つの例において、計算された位相差は、動作810において、チャープの反射されたフレームが受信された特定の受信チャネルに対する系統的位相オフセットと呼ばれ得る。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムは、FMCWレーダシステムの通常動作の間(例えば、FMCWレーダシステムが方法700を実装しているとき等)に速度計算を実施する際に、方法800の較正の間に判定された系統的位相オフセットを用い得る。
【0070】
例えば、オブジェクトに対する速度計算の一部として、系統的位相オフセットは、
図7の方法に関連して説明されるように、ν
est2の計算において用いられ得る。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムが複数の受信チャネルを含む場合、位相差の平均を計算する前に、受信チャネルに対して計算された位相差から、受信チャネルに対する系統的位相オフセットが差し引かれる。系統的位相オフセットはまた、
図4の方法に関連して説明されるように、オブジェクトに対する速度計算の一部としても用いられ得る。例えば、系統的位相オフセットは、レンジアレイをインターリーブする前に生成された対応するレンジアレイに適用され得る。
【0071】
ここで
図9を参照すると、FMCWレーダシステムを較正するための例示的な方法900のフローチャートが示されている。少なくとも幾つかの例において、方法900は、FMCWレーダシステムの通常動作モードの間に、FMCWレーダシステムによって実装される。種々の例において、方法900は、周期的に、コマンドに対して、及び/又はレーダシステムが初期化されるときに実施され得る。少なくとも1つの例において、FMCWレーダシステムは、
図2のFMCWレーダシステム200であり得る。例えば、少なくとも部分的に、
図2のレーダトランシーバIC205及び/又は
図3のレーダトランシーバIC300等のレーダトランシーバICであり得る。
【0072】
少なくとも1つの例において、較正プロセスは、レーダトランシーバICによる、動作905におけるチャープのフレームの送信で開始する。チャープのフレームは、チャープの第1のシーケンスと、チャープの第1のシーケンスからΔf1だけオフセットされたチャープの第2のシーケンスとを含み得る。任意の適切な値のΔf1が用いられ得る。動作910において、反射されたチャープが受信されると、FMCWレーダシステムの各受信チャネルに対してデジタルIF信号が生成される。
【0073】
動作915において、デジタルIF信号は復調され、動作920において、レンジドップラーアレイが各受信チャネルに対して計算される。レンジドップラーアレイが利用可能である場合、動作925において、レンジドップラーアレイにおけるオブジェクトのピークにおける位相差が計算される。例えば、各対応する受信チャネルペアに対して、チャープのフレームにおけるチャープの第1のシーケンスから生じるレンジドップラーアレイにおけるオブジェクトピークの位相と、チャープのフレームにおけるチャープの第2のシーケンスから生じるレンジドップラーアレイとの差が計算される(例えば、一方の位相値が他方の位相差から減算される)。
【0074】
動作930において、チャープの別のフレームの送信はレーダトランシーバICによって開始される。チャープのフレームは、チャープの第1のシーケンスと、チャープの第1のシーケンスからΔf2だけオフセットされたチャープの第2のシーケンスを含み得る。任意の適切な値のΔf2が用いられ得る。動作935において、反射されたチャープが受信されると、FMCWレーダシステムの各受信チャネルに対してデジタルIF信号が生成される。
【0075】
動作940においてデジタルIF信号が復調され、動作945において、各受信チャネルに対してレンジドップラーアレイが計算される。レンジドップラーアレイが利用可能である場合、動作950において、レンジドップラーアレイにおけるオブジェクトピークの位相差が計算される。例えば、各対応する受信チャネルペアに対して、チャープのフレームにおけるチャープの第1のシーケンスから生じるレンジドップラーアレイにおけるオブジェクトピークの位相と、チャープのフレームにおけるチャープの第2のシーケンスから生じるレンジドップラーアレイにおけるオブジェクトピークの位相との間の差が計算される(例えば、一方の位相値が他方の位相値から減算される)。
【0076】
動作955において、2つのオブジェクトピーク位相差に基づいて、静止オブジェクトがシーンに存在するか否かに関して判定が行われる。例えば、両方のレンジドップラーアレイに現れるオブジェクトピークの場合、周波数オフセットΔf1を用いてピークに対して判定された位相差の各位相差と、周波数オフセットΔf2を用いてピークに対して判定された位相差のそれぞれの位相差との間の差が、信号対ノイズ比によって判定される閾値と比較される。差の各々が閾値よりも小さい場合、ピークは静止オブジェクトに対応する。オブジェクトピークは、静止オブジェクトに対応するピークが見つかるまで、又は全てのオブジェクトピークが検討されるまで検索され得る。静止オブジェクトが存在しない場合、動作960において方法900は終了する。
【0077】
静止オブジェクトに対応するピークが見つかった場合、動作965において、周波数オフセットΔf1を用いてピークに対して判定された位相差と周波数オフセットΔf2を用いてピークに対して判定された位相差とに基づいて、系統的位相オフセットが計算される。例えば、対応する位相差が平均されて、受信チャネルの各対応するペアに対して1つの系統的位相オフセットを判定する。系統的位相オフセットは、例えば、上述したようなFMCWレーダシステムの通常動作の間に実施される速度計算において用いるためにストアされる。
【0078】
幾つかの例において、複数のオブジェクトピークが静止オブジェクトに対応する場合、系統的位相オフセットは、これらのピークに対しても判定される。そのような実施形態において、ピーク全ての対応する系統的位相オフセットの平均を取ることによって最終的な系統的位相オフセットが判定される。
【0079】
実数レシーバの例では、チャープの第1及び第2のシーケンスはΔfの周波数オフセットを有し得、デジタルIF信号は、0からFfarthestにおいて第1のシーケンス情報を有し、ΔfからΔf+Ffarthestにおいて第2のシーケンスを有する。複素数レシーバの例では、同じアプローチが追従されるか又は第1のシーケンスが0からFfarthestに対応し、第2のシーケンスが-Δfから-Δf+Ffarthestに対応するようになされ得る。後者のアプローチは、幾つかの例において、複素数レシーバが自然な画像抑制を提供する(例えば、+Xヘルツ(Hz)成分が、-X Hz周波数成分に影響を与えないか、又は、複素数レシーバによって有意な画像抑制が提供された後に影響を与える)という事実に依存することによって、複素数レシーバの帯域幅を節約する(例えば、実装領域及び電力消費を低減する)。
【0080】
本開示の種々の方法の動作を説明し、数値参照によって標示してきたが、種々の方法の各々は、本明細書において記載されていない付加的な動作を含み得る。本明細書に記載される動作の任意の1つ又は複数は1つ又は複数の副動作を含み得る。本明細書に記載される動作の任意の1つ又は複数は省略され得る。本明細書に記載される動作の任意の1つ又は複数は、本明細書に提示された順序以外の順(例えば、逆の順序で、実質的に同時に、重複しながら、等)で実施され得る。それらの全てが本開示の範囲に入ることを意図されている。
【0081】
前述の説明において、用語「含む」及び「包含する」は、制限のない用法で用いられ、従って、「を含むがそれらに限定されない」を意味するように解釈されるべきである。また、用語「結合する」は、間接的又は直接的な有線接続又はワイヤレス接続のいずれかを意味するように意図されている。従って、第1のデバイス、要素、又は構成要素が、第2のデバイス、要素、又は構成要素に結合する場合、その結合は、直接的結合を介してもよく、又は他のデバイス、要素、構成要素、及び接続を介する間接的結合を介してもよい。同様に、第1の構成要素又は位置と第2の構成要素又は位置との間に結合されるデバイス、要素、又は構成要素は、直接接続を介するか、又は、他のデバイス、要素、又は構成要素及び/又は結合を介する間接接続を介してもよい。或るタスク又は機能を実施するように「構成された」デバイスは、製造時に製造者によって、そのタスク又は機能を実施するように構成可能であり(例えば、プログラミングされる及び/又はハードワイヤードされる)、或いは、それらの機能及び/又はその他の付加的な又は代替的な機能を実施するように、製造後にユーザによって構成可能(又は再構成可能)であり得る。こういった構成は、デバイスのファームウェア及び/又はソフトウェアプログラミングを介してもよく、ハードウェア構成要素の構成及び/又はレイアウトを介してもよく、デバイスの相互接続を介してもよく、又はそれらの組み合わせを介してもよい。更に、或る構成要素を含むと言われる回路又はデバイスは、代わりに、それらの構成要素に結合するように構成されて、説明された回路要素又はデバイスを形成し得る。例えば、1つ又は複数の半導体要素(トランジスタ等)、1つ又は複数の受動要素(抵抗器、キャパシタ、及び/又はインダクタ等)、及び/又は1つ又は複数の源(電圧及び/又は電流源)を含むとして記載される構造は、その代わりに、単一の物理デバイス(例えば、半導体ダイ及び/又はICパッケージ)内に半導体要素のみを含んでもよく、受動要素及び/又は源の少なくとも幾つかに結合するように構成されてもよく、それによって、製造時又は製造時以降の時点のいずれかで、例えばエンドユーザ及び/又は第三者によって、説明された構造を形成する。
【0082】
或る構成要素は、本明細書において、特定のプロセス技術(例えば、MOSFET、NMOS、PMOS、等)のものであるとして説明されているが、これらの構成要素は、他のプロセス技術の構成要素と交換可能であり得る(例えば、MOSFETをバイポーラ接合トランジスタ(BJT)に交換する、NMOSをPMOSに交換する、又はその逆等)。交換された構成要素を含む再構成回路は、構成要素の交換の前に利用可能であった機能に少なくとも部分的に類似した所望の機能を提供する。また、前述の説明において、用語「接地電圧電位」の使用は、シャーシ接地、アース接地、浮動接地、仮想接地、デジタル接地、共通接地、及び/又は、本開示の教示に適用可能な、又は適した、接地接続の任意の他の形態を含むことを意図している。特に明記されていない限り、値の前の「約」、「およそ」、又は「実質的に」は、記載された値の+/-10パーセントを意味する。
【0083】
上記の説明は、本開示の原理及び種々の例を説明することを意味する。上記の開示が完全に理解されると、多くの変形及び変更が当業者に明らかになるであろう。本開示は、そのような全ての変形及び修正を包含すると解釈されることが意図されている。