(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】走行特性特定方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
G08G1/01 A
(21)【出願番号】P 2022089971
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2023-03-17
【審判番号】
【審判請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501271479
【氏名又は名称】株式会社トヨタマップマスター
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】太田 洋介
【合議体】
【審判長】相崎 裕恒
【審判官】間野 裕一
【審判官】梶尾 誠哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-82117(JP,A)
【文献】特開2007-26301(JP,A)
【文献】特開2022-136885(JP,A)
【文献】特開2012-252377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1抽出部、第1領域統計処理部及び第1領域クラスタ判定部を備える第1領域特性判定部、第2領域特性判定部並びに走行特性特定部を備える走行特性特定装置を用い、道路の任意の領域に設定される第1領域Aにおいて同一方向に進行する車両群の集団的走行特性を特定する方法であって、前記道路において車両の進行方向の前方の任意の領域に第2領域Bが設定され、
前記第1抽出部に、前記第1領域Aにおいて第1時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第1車両群を抽出させ、
前記第1領域統計処理部に、前記抽出された第1車両群を第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、クラスタ処理された車両群の第1-1~第1-n集団的走行特性を特定させ、ただし、nは1以上の自然数、
前記第1領域クラスタ判定部に、前記第1領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、前記第1車両群の走行特性のクラスタとして有意に分離された複数のクラスタが存在するとき、第1フラグを生成させ、
前記第2領域特性判定部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域B
において前記第1時間帯と同一若しくは近似する第2時間帯に存在する車両群の第2集団的走行特性を判定させて、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第2フラグが存在するとき、前記第2集団的走行特性に基づいて、前記複数のクラスタから1つのクラスタkを選択させ、該選択されたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、
走行特性特定方法。
【請求項2】
第1抽出部、第1領域統計処理部及び第1領域クラスタ判定部を備える第1領域特性判定部、第2領域特性判定部並びに走行特性特定部を備える走行特性特定装置を用い、道路の任意の領域に設定される第1領域Aにおいて同一方向に進行する車両群の集団的走行特性を特定する方法であって、前記道路において車両の進行方向の前方の任意の領域に第2領域Bが設定され、
前記第1抽出部に、前記第1領域Aにおいて第1時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第1車両群を抽出させ、
前記第1領域統計処理部に、前記抽出された第1車両群を第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、クラスタ処理された車両群の第1-1~第1-n集団的走行特性を特定させ、ただし、nは1以上の自然数、
前記第1領域クラスタ判定部に、前記第1領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、前記第1車両群の走行特性のクラスタとして有意に分離された複数のクラスタが存在するとき、第1フラグを生成させ、
前記第2領域特性判定部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおいて前記第1時間帯と同一若しくは近似する第2時間帯に存在する車両群の第2集団的走行特性を判定させて、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第2フラグが存在するとき、前記第2集団的走行特性に基づいて、前記複数のクラスタから1つのクラスタkを選択させ、該選択されたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、
走行特性特定方法において、
前記第2領域特性判定部は第2抽出部、第2領域統計処理部及び第2領域クラスタ判定部を備え、
前記第2抽出部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおいて前記第2時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第2車両群を抽出させ、
前記第2領域統計処理部に、前記抽出された第2車両群の集団的走行特性を前記第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、
前記第2領域クラスタ判定部に、前記第2領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、第2車両群の走行特性のクラスタとして1つの第2基準クラスタのみが存在するとき、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第1車両群の複数のクラスタから、前記第2基準クラスタの集団的走行特性を参照して1つのクラスタkを選択させ、該選択させたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を
特定させる、
走行特性特定方法。
【請求項3】
第3抽出部、第3領域統計処理部及び第3領域クラスタ判定部を備える第3領域特性判定部を更に備え、
前記第1領域Aから車両の進行方向の前方において前記道路は分岐しており、第1分岐道路に前記第2領域Bが設定され、第2分岐道路に第3領域Cが更に設定され、
前記第3抽出部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第3領域Cにおいて前記第1時間帯と同一若しくは近似する第3時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第3車両群を抽出させ、
前記第3領域統計処理部に、前記抽出された第3車両群の集団的走行特性を前記第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、
前記第3領域クラスタ判定部に、前記第3領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、第3車両群の走行特性のクラスタとして1つの第3基準クラスタのみが存在するとき、第3フラグを出力させ、
前記走行特性特定部に、前記第2及び第3フラグが受信されたとき、前記第1車両群の複数のクラスタから、前記第2基準クラスタの集団的走行特性及び前記第3基準クラスタの集団的走行特性を参照して1つのクラスタを選択し、該クラスタの集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、
請求項2に記載の走行特性特定方法。
【請求項4】
前記車両の走行特性は各車両の走行速度であり、前記集団的走行特性はクラスタに含まれる車両の平均速度である、請求項1~3のいずれかに記載の走行特性特定方法。
【請求項5】
第1抽出部、第1領域統計処理部及び第1領域クラスタ判定部を備える第1領域特性判定部、第2領域特性判定部並びに走行特性特定部を備え、道路の任意の領域に設定される第1領域Aにおいて同一方向に進行する車両群の集団的走行特性を特定する走行特性特定装置であって、前記道路において車両の進行方向の前方の任意の領域に第2領域Bが設定され、
前記第1抽出部に、前記第1領域Aにおいて第1時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第1車両群を抽出させ、
前記第1領域統計処理部に、前記抽出された第1車両群を第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、クラスタ処理された車両群の第1-1~第1-n集団的走行特性を特定させ、ただし、nは1以上の自然数、
前記第1領域クラスタ判定部に、前記第1領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、前記第1車両群の走行特性のクラスタとして有意に分離された複数のクラスタが存在するとき、第1フラグを生成させ、
前記第2領域特性判定部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおいて前記第1時間帯と同一若しくは近似する第2時間帯に存在する車両群の第2集団的走行特性を判定させて、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第2フラグが存在するとき、前記第2集団的走行特性に基づいて、前記複数のクラスタから1つのクラスタkを選択させ、該選択されたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、走行特性特定装置。
【請求項6】
第1抽出部、第1領域統計処理部及び第1領域クラスタ判定部を備える第1領域特性判定部、第2領域特性判定部並びに走行特性特定部を備える走行特性特定装置のコンピュータ装置を制御するコンピュータに用いられ、道路の任意の領域に設定される第1領域Aにおいて同一方向に進行する車両群の集団的走行特性を特定させるコンピュータ用のプログラムであって、前記道路において車両の進行方向の前方の任意の領域に第2領域Bが設定され、
前記第1抽出部に、前記第1領域Aにおいて第1時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第1車両群を抽出させ、
前記第1領域統計処理部に、前記抽出された第1車両群を第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、クラスタ処理された車両群の第1-1~第1-n集団的走行特性を特定させ、ただし、nは1以上の自然数、
前記第1領域クラスタ判定部に、前記第1領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、前記第1車両群の走行特性のクラスタとして有意に分離された複数のクラスタが存在するとき、第1フラグを生成させ、
前記第2領域特性判定部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおいて前記第1時間帯と同一若しくは近似する第2時間帯に存在する車両群の第2集団的走行特性を判定させて、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第2フラグが存在するとき、前記第2集団的走行特性に基づいて、前記複数のクラスタから1つのクラスタkを選択させ、該選択されたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、コンピュータ用のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は走行特性特定方法に関する。ここに、走行特性とは、道路の所定の領域を通過する車両群の集団としての走行特性を指し、例えば、車両群を構成する各車両の速度の平均等が該当する。
【背景技術】
【0002】
道路の所定領域における車両群の集団的走行特性に基づき、当該領域における渋滞情報を生成する方法が特許文献1に開示されている。
特許文献1の記載によれば、道路の所定領域を走行する車両群の走行特性をクラスタ処理して、クラスタごとに速度が算出される。算出された速度が所定の閾値以下であるクラスタが存在する場合、当該領域において渋滞情報が生成される。
その他、この発明に関連する技術を開示する文献として、特許文献2及び特許文献3を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-252377号公報
【文献】特開2020-004235号公報
【文献】特開2019-109708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数車線の道路が、その進行方向先方において、車線ごとに分岐することがある。一方の分岐路は渋滞しておらず、他方の分岐路は渋滞している場合、分岐点への到達前の道路の領域(第1領域)では、渋滞していない分岐路に続く車線(渋滞していない)において車両は通常速度で走行できる一方、渋滞している分岐路に続く車線(渋滞中)において車両は渋滞速度となる場合がある。
かかる第1領域に特許文献1に記載の渋滞情報生成方法を適用すると、渋滞中の車両と通常走行する車両とが混在するので、更には、渋滞していない車線から渋滞している車線へ割り込みしようとする車両等が存在するので、車両の速度分布の分散が大きく、得られたクラスタに高い信頼性が得られないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、クラスタ処理の対象となる第1領域より車両進行方向先方の位置に第2領域を設定し、この第2領域を走行する車両群の集団的走行特性を用いて、第1領域を走行する車両群のクラスタを評価することに気がついた。
例えば、先方位置の道路に第2領域を設定し、この第2領域を走行する車両群の平均速度と同一若しくは近似する平均速度のクラスタには高い信頼性がある。よって、このクラスタに基づき、第1領域における渋滞情報(集団的走行特性)を特定する。
【0006】
よって、この発明の第1局面は次のように規定される。
第1抽出部、第1領域統計処理部及び第1領域クラスタ判定部を備える第1領域特性判定部、第2領域特性判定部並びに走行特性特定部を備える走行特性特定装置を用い、道路の任意の領域に設定される第1領域Aにおいて同一方向に進行する車両群の集団的走行特性を特定する方法であって、前記道路において車両の進行方向の前方の任意の領域に第2領域Bが設定され、
前記第1抽出部に、前記第1領域Aにおいて第1時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第1車両群を抽出させ、
前記第1領域統計処理部に、前記抽出された第1車両群を第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、クラスタ処理された車両群の第1-1~第1-n集団的走行特性を特定させ、ただし、nは1以上の自然数、
前記第1領域クラスタ判定部に、前記第1領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、前記第1車両群の走行特性のクラスタとして有意に分離された複数のクラスタが存在するとき、第1フラグを生成させ、
前記第2領域特性判定部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおける車両群の第2集団的走行特性を判定させて、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第2フラグが存在するとき、前記第2集団的走行特性に基づいて、前記複数のクラスタから1つのクラスタkを選択させ、該選択されたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、
走行特性特定方法。
【0007】
上記において、第1領域統計処理部と同様にして、第1ルールに従う統計処理によるクラスタ処理を第2領域特性判定部に実行させ、もって、第2領域における車両群の第2集団的走行特性を特定することができる。
第1領域と第2領域において同一のクラスタ処理が実行されるので、その結果であるクラスタから特定される集団的走行特性は親和性が高い。よって、第1領域に複数のクラスタが存在したとき、それぞれの集団的走行特性と第2領域のクラスタによる集団的走行特性とを比較し、より近い集団的走行特性を持つ第1領域のクラスタを選択する。このように選択されたクラスタの集団的走行特性をもって、第1領域の集団的走行特性として、代表させることができる。
【0008】
よって、この発明の第2局面は次のように規定される。
第1局面に規定の走行特性特定装置において、
前記第2領域特性判定部は第2抽出部、第2領域統計処理部及び第2領域クラスタ判定部を備え、
前記第2抽出部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおいて第2時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第2車両群を抽出させ、
前記第2領域統計処理部に、前記抽出された第2車両群の集団的走行特性を前記第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、
前記第2領域クラスタ判定部に、前記第2領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、第2車両群の走行特性のクラスタとして1つの第2基準クラスタのみが存在するとき、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第1車両群の複数のクラスタから、前記第2基準クラスタの集団的走行特性を参照して1つのクラスタkを選択させ、該選択させたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる。
【0009】
分岐路が存在するとき、一方の分岐路に第2領域を設定し、他方の分岐路に第3領域を設定し、それぞれの領域の車両群に対して、第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理を実行することができる。
これにより、第1領域の車線毎に分岐路の影響が生じて車両の速度分布が拡散していても、分岐路毎に設置された第2領域及び第3領域におけるクラスタ処理の結果に基づき第1領域のクラスタを選択することで、選択されたクラスタには高い信頼性が得られる。
【0010】
よって、この発明の第3局面は次のように規定される。
第2局面に規定の走行特性特定装置において、
第3抽出部、第3領域統計処理部及び第3領域クラスタ判定部を備える第3領域特性判定部を更に備え、
前記第1領域Aから車両の進行方向の前方において前記道路は分岐しており、第1分岐道路に前記第2領域Bが設定され、第2分岐道路に第3領域Cが更に設定され、
前記第3抽出部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第3領域Cにおいて第3時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第3車両群を抽出させ、
前記第3領域統計処理部に、前記抽出された第3車両群の集団的走行特性を前記第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、
前記第3領域クラスタ判定部に、前記第3領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、第3車両群の走行特性のクラスタとして1つの第3基準クラスタのみが存在するとき、第3フラグを出力させ、
前記走行特性特定部に、前記第2及び第3フラグが受信されたとき、前記第1車両群の複数のクラスタから、前記第2基準クラスタの集団的走行特性及び前記第3基準クラスタの集団的走行特性を参照して1つのクラスタを選択し、該クラスタの集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる。
【0011】
上記において、車両の走行特性は各車両の走行速度であり、前記集団的走行特性はクラスタに含まれる車両の平均速度を指す(第4局面)。
【0012】
この発明の第5局面は第1局面に規定の走行特性特定方法を実行するための走行特性特定装置であり、次のように規定される。
第1抽出部、第1領域統計処理部及び第1領域クラスタ判定部を備える第1領域特性判定部、第2領域特性判定部並びに走行特性特定部を備え、道路の任意の領域に設定される第1領域Aにおいて同一方向に進行する車両群の集団的走行特性を特定する走行特性特定装置であって、前記道路において車両の進行方向の前方の任意の領域に第2領域Bが設定され、
前記第1抽出部に、前記第1領域Aにおいて第1時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第1車両群を抽出させ、
前記第1領域統計処理部に、前記抽出された第1車両群を第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、クラスタ処理された車両群の第1-1~第1-n集団的走行特性を特定させ、ただし、nは1以上の自然数、
前記第1領域クラスタ判定部に、前記第1領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、前記第1車両群の走行特性のクラスタとして有意に分離された複数のクラスタが存在するとき、第1フラグを生成させ、
前記第2領域特性判定部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおける車両群の第2集団的走行特性を判定させて、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第2フラグが存在するとき、前記第2集団的走行特性に基づいて、前記複数のクラスタから1つのクラスタkを選択させ、該選択されたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、
走行特性特定装置。
【0013】
この発明の第6局面は第1局面に規定の走行特性特定方法を、コンピュータシステムからなる走行特性特定装置に実行させるためのコンピュータ用のプログラムであり、次の様に規定される。
第1抽出部、第1領域統計処理部及び第1領域クラスタ判定部を備える第1領域特性判定部、第2領域特性判定部並びに走行特性特定部を備える走行特性特定装置のコンピュータ装置を制御するコンピュータに用いられ、道路の任意の領域に設定される第1領域Aにおいて同一方向に進行する車両群の集団的走行特性を特定させるコンピュータ用のプログラムであって、前記道路において車両の進行方向の前方の任意の領域に第2領域Bが設定され、
前記第1抽出部に、前記第1領域Aにおいて第1時間帯に存在しかつ進行方向を同一とする第1車両群を抽出させ、
前記第1領域統計処理部に、前記抽出された第1車両群を第1ルールに従う統計処理によりクラスタ処理させ、クラスタ処理された車両群の第1-1~第1-n集団的走行特性を特定させ、ただし、nは1以上の自然数、
前記第1領域クラスタ判定部に、前記第1領域統計処理部によるクラスタ処理の結果、前記第1車両群の走行特性のクラスタとして有意に分離された複数のクラスタが存在するとき、第1フラグを生成させ、
前記第2領域特性判定部に、前記第1フラグが存在するとき、前記第2領域Bにおける車両群の第2集団的走行特性を判定させて、第2フラグを生成させ、
前記走行特性特定部に、前記第2フラグが存在するとき、前記第2集団的走行特性に基づいて、前記複数のクラスタから1つのクラスタkを選択させ、該選択されたクラスタkの第1-k集団的走行特性に基づき、前記第1領域Aにおける車両群の集団的走行特性を特定させる、
コンピュータ用のプログラム。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は道路における第1領域Aと第2領域Bとの関係を示す概念図である。
【
図2】
図2はこの発明の実施形態の走行特性特定装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は
図2の走行特性特定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は分岐点を持つ道路における第1領域A、第2領域B及び第3領域Cの関係を示す概念図である。
【
図5】
図5はこの発明の他の実施形態の走行特性特定装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は
図5の走行特性特定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は実施形態の走行特性特定装置を動作させるコンピュータ装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1にこの発明の実施形態の走行特性特定方法が適用される道路Iを示す。
この道路Iは3つの車線I―1、I-2、I-3を備える。
図1に示すように、車線I-2、I-3は渋滞しているが、車線I-1は渋滞していない。なお、車線I-1は先方で消滅している。
かかる道路Iに第1領域Aが設定される。
第1領域Aに対して、車両進行方向先方に第2領域Bが設定される。この第2領域Bは任意に設定可能であるが、この例では、第1領域Aにおける渋滞の影響が反映される領域を選択している。
【0016】
図2に実施形態の走行特性特定装置1を示す。
この走行特性特定装置1は、車両走行情報保存部3、第1領域特性判定部10、第2領域特性判定部20、及び走行特性特定部30を備える。
車両走行情報保存部3には車両の走行情報が保存される。この車両走行情報は、道路Iを走行中の車両であって走行情報を取得できるもの、いわゆるプローブカーの走行情報である。
【0017】
走行情報とは、プローブカーから汎用的に得られるプローブ情報(位置情報、時間情報)の他、プローブカーの車両インナー情報も該当する。ここに、車両インナー情報とは、車両が備えるセンサ、コントロールユニットその他から出力される当該車両の各種状態に関する情報であって、当該車両に搭載されたネットワーク上でCAN(Controller Area Network)をはじめとした各種通信プロトコルにより伝送可能な情報をいう。この車両インナー情報には、走行速度情報、加速度情報、ブレーキ操作情報、ハンドルの切れ角情報、その他の情報が含まれる。
【0018】
第1領域特性判定部10の第1抽出部11は、車両走行情報保存部3に保存されている車両走行情報より、第1時間帯に第1領域Aに存在し、同一方向に進行する車両群(第1車両群)を抽出する。ここに、第1時間帯は、処理を開始する時刻から、例えば5分前までとすることができる。この第1車両群には車線I-2、I-3を走行する渋滞速度の車両と車線I―1を走行する通常速度の車両とが混在する。
第1領域統計処理部13は、第1抽出部11が抽出した第1車両群を第1ルールに従ってクラスタ処理する。第1領域の集団的走行特性として渋滞状態をみるとき、この第1のルールは、特許文献1と同様に、各車両の走行速度をクラスタ処理の基準とすることができる。この実施形態では密度準拠クラスタ処理を採用する。
【0019】
第1領域統計処理部13による統計処理の結果、第1車両群が複数のクラスタに分類される場合、第1領域クラスタ判定部15は第1フラグを発出し、この第1フラグは第2抽出部21へ送られる。
図1の例の場合、車線I-1と、車線I-2及びI-3とでは車両の速度が異なるので、第1領域Aの第1車両群には少なくとも複数のクラスタが存在する可能性が高い。
【0020】
第1フラグを受けた第2抽出部21は、第2領域Bに第2間帯に存在した車両群(第2車両群)を抽出する。この第2時間帯は任意に設定可能であるが、第1領域Aの集団的走行特性を評価する目的から、第2時間帯は第1時間帯と同一若しくは近似させることが好ましい。このように抽出された第2車両群は第2領域統計処理部23において、第1領域統計処理部13による統計処理と同様の第1のルールに従って統計処理される。その結果として得られたクラスタが1つのみであると第2領域クラスタ判定部25が判定したとき、この第2領域クラスタ判定部25から第2フラグが発出される。それと共に、そのクラスタの情報は第2基準クラスタとして走行特性特定部30の第2基準クラスタの集団的走行特性判定部31へ送られる。
ここにおいて、クラスタが1つのみであるとは、第2車両群の車両の全てが当該1つのクラスタに含まれることを意味するものではない。換言すれば、第2車両群の車両には、該1つのクラスタから外れるものがあってもよい。外れた車両の数が少ないか、若しくは外れた車両同士の速度差が大きく、第1ルールに従えば他のクラスタを生成する要素となり得ない場合である。
【0021】
第2基準クラスタの集団的走行特性判定部31は、第2基準クラスタに含まれる車両の集団的走行特性として、その平均速度を算出する。
走行特性特定部30のクラスタ選択部33は、第1領域統計処理部13による統計処理で得られた複数のクラスタ1~nごとに、そこに含まれる車両の平均速度v-1~v-nを算出する。この算出結果と、第2基準クラスタの平均速度とを比較する。比較の結果、第2基準クラスタの平均速度と最も近い平均速度である、第1領域のクラスタkが選択される。
選択された第1領域Aのクラスタkの平均速度v-kは第1領域の集団的走行特性判定部35へ送られ、第1領域Aの第1車両群を代表する平均速度となる。
【0022】
図1の場合、車線I-1は渋滞していないが、車線I-2、I-3の渋滞の状態が優先され、第1領域Aは全体として渋滞していると判断される。よって、ナビゲーション装置において、第1領域Aは渋滞領域として案内される。
なお、上記の例では、第2領域Bにおいて、第1領域Aと同様の統計処理を行っているが、第2領域Bに存在する第2車両群の平均速度を第2領域特性判定部20が他の方法で演算できれば、統計処理は特に要請されない。
【0023】
以下、この走行特性特定装置1の動作を
図3のフローチャートに基づき説明する。
ステップ1では、第1抽出部11が、車両走行情報保存部3に保存されている車両走行情報から第1領域A、第1時間帯に存在する第1車両群を抽出する。
ステップ3において、抽出された第1車両群を構成する各車両の走行速度に基づき、周知の第1のルールに従って、各車両をクラスタ処理する。
【0024】
ステップ3におけるクラスタ処理の結果、第1車両群が複数のクラスタ1~nに分類されたとき(ステップ5:Y)、ステップ7及びステップ9に進む。ステップ7では、クラスタ選択部33によりクラスタ毎にその平均速度v-1~v-nが算出される。ステップ9では、第2抽出部21が、車両走行情報保存部3に保存されている車両走行情報から第2領域B、第2時間帯に存在する第2車両群を抽出する。この例では、第2時間帯を第1時間帯と同じとする。
【0025】
ステップ3におけるクラスタ処理の結果、第1車両群が1つのみのクラスタに分類されたときや、クラスタ処理が不能な場合には(ステップ5:N)、処理を終了する。第1車両群から1つのクラスタのみが生成されたときは、当該クラスタに基づき、第1領域Aの第1車両群の平均速度が高い信頼性で算出される。
【0026】
ステップ11では、第2領域統計処理部23が、ステップ9で抽出され第2車両群を構成する各車両の走行速度に基づき、各車両をクラスタ処理する。クラスタ処理の方法は、第1領域統計処理部13と同じ第1ルールに従うことが好ましい。
ステップ12において、第2領域クラスタ判定部25がステップ11のクラスタ処理結果を判定する。クラスタが1つの場合(ステップ12:Y)、これを第2基準クラスタとしてステップ13に進む。クラスタが複数であるかクラスタが生成できないときは(ステップ12:N)、処理を終了する。
【0027】
ステップ13において、第2基準クラスタの集団的走行特性判定部31により第2基準クラスタに含まれる車両の平均速度を算出する。
ステップ15では、ステップ7において算出した第1車両群の複数のクラスタの平均速度v-1~v-nと、ステップ13で算出した第2基準クラスタの平均速度と、選択部33に比較させる。
このステップ15において、第1車両群のクラスタにおいて、第2基準クラスタの平均速度と等しいか若しくは最も近い平均速度v-kを持つクラスタkが選択される。
選択されたクラスタkの平均速度v-kをもって、第1領域Aに存在する第1車両群の平均速度とする(ステップ17)。
【0028】
図4~6を用いてこの発明の他の実施形態を説明する。なお、
図4~6において、
図1~3と同一の要素には同一の符号を付してその説明を部分的に省略する。
図4の道路IIには分岐路II(1)と分岐路II(2)が存在する。分岐路II(1)に第2領域Bが設定され、分岐路II(2)に新たに第3領域Cが設定される。道路IIにおいて第1領域Aが設定される車線II-2、II-3は分岐路II(1)のみに続き、渋滞している。車線II―1は分岐路II(2)のみに続き、渋滞していない。
【0029】
図5に他の実施形態の走行特性特定装置2を示す。
この走行特性特定装置2には第3領域特性判定部40が備えられる。この第3領域特性判定部40は、第2領域特性判定部20と同様の作用を奏する。即ち、第1領域クラスタ判定部15からの第1フラグを受けた第3抽出部41は、第3領域Cに第3時間帯に存在した車両群(第3車両群)を抽出する。この第3時間帯は任意に設定可能であるが、第1領域Aの集団的走行特性を評価する目的から、第3時間帯は第1時間帯と同一若しくは近似させることが好ましい。このように抽出された第3車両群は第3領域統計処理部43において、第1領域統計処理部13による統計処理と同様の第1のルールに従って統計処理される。その結果として得られたクラスタが1つのみであると第3領域クラスタ判定部45が判定したとき、この第3領域クラスタ判定部45から第3フラグが発出される。それと共に、そのクラスタの情報は第3基準クラスタとして走行特性特定部30の第3基準クラスタの集団的走行特性判定部36へ送られる。
【0030】
第3基準クラスタの集団的走行特性判定部36は、第3基準クラスタに含まれる車両の集団的走行特性として、その平均速度を算出する。
クラスタ選択部37は、第1領域統計処理部13による統計処理で得られた複数のクラスタごとに、そこに含まれる車両の平均速度を算出する。この算出結果と、第2基準クラスタの平均速度及び第3基準クラスタの平均速度とを比較する。比較の結果、第2基準クラスタの平均速度と最も近い平均速度である、第1領域のクラスタk-1と、第3基準クラスタの平均速度と最も近い平均速度である、第1領域のクラスタk-2とが選択される。
【0031】
車両数比較部39は、クラスタk-1に含まれる車両数とクラスタk-2に含まれる車両数とを比較し、車両数の多いクラスタを選択する。
その結果とともに、選択したクラスタの平均速度を第1領域の集団的走行特性判定部35へ送り、第1領域Aの第1車両群を代表する平均速度とする。
【0032】
以下、この走行特性特定装置2の動作について
図6のフローチャートに基づき説明をする。なお、
図3のフローチャートと同一のステップはその説明を省略する。
ステップ3におけるクラスタ処理の結果、第1車両群が複数のクラスタに分類されたとき(ステップ5:Y)、ステップ7及びステップ9に加えてステップ29に進む。ステップ29では、第3抽出部41が、車両走行情報保存部3に保存されている車両走行情報から第3領域C、第1の時間帯に存在する第3車両群を抽出する。
【0033】
ステップ31では、第3領域統計処理部43が、ステップ29で抽出された第3車両群を構成する各車両の走行速度に基づき、各車両をクラスタ処理する。クラスタ処理の方法は、第1領域統計処理部13と同じ第1ルールに従うことが好ましい。
ステップ32において、第3領域クラスタ判定部45がステップ31のクラスタ処理結果を判定する。クラスタが1つの場合(ステップ32:Y)、これを第3基準クラスタとしてステップ33に進む。クラスタが複数であるかクラスタが生成できないときは(ステップ32:N)、処理を終了する。
ステップ33において、第3基準クラスタの集団的走行特性判定部36により、第3基準クラスタに含まれる車両の平均速度を算出する。
【0034】
ステップ35では、ステップ7において算出した第1車両群の複数のクラスタの平均速度v-1~v-nと、ステップ13で算出した第2基準クラスタの平均速度と、を比較する。同様にして、ステップ7において算出した第1車両群の複数のクラスタの平均速度v-1~v-nと、ステップ33で算出した第3基準クラスタの平均速度と、を比較する。
更に、第1車両群のクラスタにおいて第2基準クラスタの平均速度と等しいか若しくは最も近いクラスタk-1と、第3基準クラスタの平均速度と等しいか若しくは最も近いクラスタk-2と、が選択される。
【0035】
ステップ37では、クラスタk-1とクラスタk―2に含まれる車両の数が比較され、車両数の多いクラスタが選択される。
選択されたクラスタの平均速度をもって、第1車両群を代表する平均速度とする(ステップ39)。この平均速度が所定値以下であれば、渋滞と判断することができる。
【0036】
上記の他、第2基準クラスタの平均速度と第3基準クラスタの平均速度とに最も近い平均速度を有する第1車両群のクラスタを選択し、そのクラスタの平均速度を選択することもできる。
更には、第2基準クラスタの平均速度と第3基準クラスタの平均速度と第1車両群のクラスタの平均速度とを比較し、両者の差が所定の閾値以内にあるものを選択することもできる。
第2基準クラスタの平均速度と第3基準クラスタの平均速度とがともに所定の閾値内にあるとき、各クラスタに含まれる車両数を比較する、
図6に示す処理を実行することもできる。
【0037】
このようにして、第1領域Aの渋滞状況の結果はサーバへ送られ、ナビゲーション装置に表示される渋滞状況に反映される。
上記
図4の例では、第2領域Bより第1領域Aにおいて車線II-2、II-3の渋滞状況を特定し、第3領域Cより第1領域Aにおいて車線II-1の渋滞状況を特定することが可能となる。
このように車線毎の渋滞状況が特定できておれば、ナビゲーション装置が案内ルートに応じて優先すべき車線を選択しているとき、より正確に渋滞状況を案内可能である。例えば、
図4の例において、案内ルートが分岐路II(2)を選択しているとき、第1領域Aでは渋滞していないと案内可能である。
【0038】
図7に走行特性特定装置2のハード構成を示す。
演算部300はCPU301、ROM303及びRAM305を備え、システム全体の制御をつかさどる。それとともに、
図5の第1~第3領域特性判定部10、20、40及び走行特性特定部30として機能する。ROM303は、演算部300を制御する制御プログラム等が格納された不揮発性メモリである。RAM305は、キーボード等の入力装置330を介して利用者により予め設定された各種設定値を読み出し可能に格納したり、CPU301に対してワーキングエリアを提供したりする。演算部300を制御する制御プログラムはROM303に限らずRAM305や第1記憶装置350に格納されていてもよい。ディスプレイ等からなる出力装置320を介して第1領域Aの走行特性(渋滞情報等)の結果が出力される。入力装置330を介して車両走行情報を取得する条件などが入力される。
【0039】
第1記憶装置350は車両走行情報保存部3として機能する。
第1記憶装置350はハードメモリやフラッシュメモリなど、サーバシステムのメモリの一部の領域を利用することが好ましい。
【0040】
データを一時的に保存する、いわゆるバッファメモリには、演算部のRAMの一部領域を利用できる。
通信インターフェース360を介して、プローブカーの車両走行情報を受け入れる。また、第1領域Aの走行特性(渋滞情報等)の結果をナビゲーション装置のサーバへ送出する。
コンピュータを構成する各装置はシステムバス370で連結されている。
【0041】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1、2 走行特性特定装置
3 車両走行情報保存部
10 第1領域特性判定部
20 第2領域特性判定部
30 走行特性特定部
40 第3領域特性判定部