(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】固形バイオマス燃料の製造方法及び吸水添加材
(51)【国際特許分類】
C10L 5/44 20060101AFI20241204BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20241204BHJP
B09B 3/20 20220101ALI20241204BHJP
【FI】
C10L5/44
B09B3/00 ZAB
B09B3/20
(21)【出願番号】P 2022506141
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041118
(87)【国際公開番号】W WO2023084572
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2022-01-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】沖原 潤
(72)【発明者】
【氏名】引野 健治
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】光本 美奈子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/142161(WO,A1)
【文献】特開2013-256565(JP,A)
【文献】特開2006-141218(JP,A)
【文献】特開2009-62531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B3/00
C10L5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形バイオマス燃料の製造方法であって、
廃菌床を加圧する、加圧成形工程と、
前記廃菌床に吸水添加材を添加する、吸水添加材添加工程と、を備え、
前記吸水添加材添加工程は、前記廃菌床と前記吸水添加材との混合物の含水率が
50.36~57.60%となるように、前記吸水添加材を添加し、前記廃菌床に対する質量比が、1/
8~1/20の範囲内となるように、
前記吸水添加材を添加
し、
前記加圧成形工程は、前記吸水添加材添加工程を経た前記廃菌床と前記吸水添加材との混合物を加圧成形する、固形バイオマス燃料の製造方法。
【請求項2】
前記吸水添加材添加工程は、前記吸水添加材として粉砕もみ殻を用いる、請求項
1に記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形バイオマス燃料の製造方法及び吸水添加材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石油、石炭、天然ガス等の化石燃料の大量消費による地球温暖化や資源枯渇といった問題に対応するため、一般廃棄物、産業廃棄物等の廃棄物をエネルギー源として再利用する技術の開発が課題となっている。
【0003】
一般廃棄物として、例えばキノコの人工栽培に用いられるキノコ培地(菌床)が挙げられる。キノコ培地(菌床)としては、コーンコブ(トウモロコシの芯)、おが屑等を主成分とした培地材料が用いられる。新しくキノコ栽培を行う度に新しいキノコ培地(菌床)が使用されるため、キノコ栽培後に大量の廃培地(廃菌床)が発生するという問題がある。廃培地(廃菌床)をバイオマス燃料として使用することが考えられるが、廃培地(廃菌床)は含水率が高いため、そのままでは成形し燃料化することが困難であるという課題がある。
【0004】
上記課題を解決する技術として、草木質破砕物等の有機骨材と粘結材とを混合することで可燃性の混合物を得る混合工程と、前記混合物について含まれる水成分を利用して練ることで成形性の生じた混練物を得る混練工程と、前記混練物に圧力を加えることで成形物を得る成形工程と、前記成形物を乾燥する乾燥工程とを有する固形燃料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、成形物を乾燥する乾燥工程を有するため、乾燥に手間とコストを要するという課題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、廃菌床を乾燥する工程を省略でき、かつ廃菌床の好ましい成形性及び耐久性が得られる、固形バイオマス燃料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、固形バイオマス燃料の製造方法であって、廃菌床を加圧する、加圧成形工程と、前記廃菌床に吸水添加材を添加する、吸水添加材添加工程と、を含む、固形バイオマス燃料の製造方法に関する。
【0009】
(2) 前記吸水添加材添加工程は、前記廃菌床に対する質量比が、1/2~1/20の範囲内となるように、吸水添加材を添加する、(1)に記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【0010】
(3) 前記吸水添加材添加工程は、前記廃菌床と前記吸水添加材との混合物の含水率が40%~60%となるように、前記吸水添加材を添加する、(1)又は(2)に記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【0011】
(4) 前記吸水添加材添加工程は、前記吸水添加材として粉砕もみ殻を用いる、(1)~(3)のいずれかに記載の固形バイオマス燃料の製造方法。
【0012】
(5) また、本発明は、廃菌床を成形して固形バイオマス燃料を製造する際に用いられる、吸水添加材であって、前記吸水添加材は、前記廃菌床に対する質量比が、1/2~1/20の範囲内となるように、前記廃菌床に添加して用いられる、吸水添加材に関する。
【0013】
(6) 前記吸水添加材は、前記廃菌床と前記吸水添加材との混合物の含水率が40%~60%となるように、前記廃菌床に添加して用いられる、(5)に記載の吸水添加材。
【0014】
(7) 前記吸水添加材は、粉砕もみ殻である、(6)又は(7)に記載の吸水添加材。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、廃菌床を乾燥する工程を省略でき、かつ廃菌床の好ましい成形性及び耐久性が得られる、固形バイオマス燃料の製造に用いられる吸水添加材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に制限されず、適宜変更が可能である。
【0017】
<固形バイオマス燃料>
本実施形態に係る固形バイオマス燃料は、廃菌床を主原料とし、成形性を向上させるために吸水添加材が添加されて成形されるものである。
【0018】
(廃菌床)
本実施形態において、固形バイオマス燃料の主原料として用いられる廃菌床は、シイタケ、ヒラタケ、マイタケ、エリンギ、シメジ等のキノコを人工栽培する際に廃棄物として発生するものである。廃菌床は、例えば、コーンコブ(トウモロコシの芯)、米ぬか、破砕木材、オガクズ、キノコ等を含む。
【0019】
上記廃菌床は多くの水分を含んだ状態、例えば含水率が50%~70%程度の状態で排出される。本実施形態に係る固形バイオマス燃料は、原料となる廃菌床の含水率が60%超~70%程度であっても好ましい成形性が得られる。
【0020】
(吸水添加材)
吸水添加材は、廃菌床に添加して用いられる。吸水添加材は、廃菌床に添加されることで、廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率を低下させ、成形性を向上させる。吸水添加材としては、粉砕もみ殻を用いることが好ましい。粉砕もみ殻は、含水率が5~15%程度と低く、廃菌床に含まれるコーンコブと、他の材料との間に親和性を発現させる繋ぎの役割を有しているものと推察される。また、粉砕もみ殻の原料であるもみ殻は廃棄物として発生するものであり廃菌床と混合して固形バイオマス燃料を作成する際に、原料の全てを生物由来の有機性資源とすることができる。粉砕もみ殻は、もみ殻を粉砕加工したものであり、もみ殻が粉砕されることで表面積が増大し、吸水量・保水量が増大する上に、体積が低下することから、製造される固形バイオマス燃料の発熱量を向上させることができる、という利点を有する。
【0021】
吸水添加材としては、上記以外に、オガクズ、破砕木材、木質チップ等の有機性資源や、吸水性樹脂等により構成される吸水材を用いてもよい。上記吸水添加材は、1種又は2種以上を併用してもよい。上記吸水添加材は、所定の大きさ未満に粉砕されて用いられることが、成形性の観点から好ましい。
【0022】
吸水添加材は、廃菌床に対する質量比が、吸水添加材/廃菌床で、1/2~1/20の範囲内となるように、前記廃菌床に添加して用いられることが好ましい。これにより、吸水添加材は、製造される固形バイオマス燃料の成形性及び耐久性を好ましいものとすることができる。上記質量比は、1/4~1/20の範囲内であることがより好ましく、1/8~1/20の範囲内であることが更に好ましい。なお、吸水添加材を成形された廃菌床の表面にまぶすように、廃菌床の表面に吸水添加材を付着させることで添加する場合、吸水添加材の上記質量比を1/20未満とすることもできる。
【0023】
吸水添加材は、廃菌床に添加されることで、廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率を、例えば40~60%にまで低下させる。これにより、固形バイオマス燃料の成形性が向上すると共に、固形バイオマス燃料の耐久性を確保できる。上記廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率は、45~55%であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態に係る固形バイオマス燃料は、上記廃菌床と上記吸水添加材とを必須として含むこと以外は、本発明の効果を阻害しない限り、上記以外の成分が含まれていてもよい。しかし、本実施形態に係る固形バイオマス燃料は、吸水添加材により好ましい成形性が得られるため、成形性を向上させるための粘結性を有する成分(バインダー成分及び/又は粘結性を有する生物由来の有機性資源等)が含まれていなくてもよい。
【0025】
<固形バイオマス燃料の製造方法>
本実施形態に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、廃菌床を混練する混練工程と、廃菌床を加圧する、加圧成形工程と、廃菌床に吸水添加材を添加する、吸水添加材添加工程と、を備える。
【0026】
(混練工程)
混練工程は、廃菌床を混練することで均一化する工程である。混練工程の前に吸水添加材添加工程を設け、混練工程において、廃菌床と吸水添加材との混合物を混練してもよい。混練の具体的方法としては特に限定されず、例えば、ミキサー、ニーダー等の混練機を用いる方法が挙げられる。混練時間は、廃菌床の均一化の度合いによって任意に変更可能であり、例えば数十秒から数分間とすることができる。
【0027】
(加圧成形工程)
加圧成形工程は、混練工程を経た廃菌床、又は廃菌床と吸水添加材との混合物を、加圧してペレット状に成形する工程である。加圧成形工程は、例えば、所定の大きさ及び形状を有する型枠に上記廃菌床、又は廃菌床と吸水添加材を充填して加圧する工程が挙げられる。混練工程を経た廃菌床、又は廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率や粘性にもよるが、加圧成型工程は、上記以外に、造粒装置を用いる工程であってもよい。加圧時の力は、例えば、2MPa以下とすることができる。
【0028】
(吸水添加材添加工程)
吸水添加材添加工程は、廃菌床に吸水添加材を添加する工程である。吸水添加材添加工程は、混練工程の前に設け、廃菌床と吸水添加材とを均一に混合するものであってもよい。これにより、廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率を均一化し、加圧成形工程における成形性を向上させることができる。上記以外に、吸水添加材添加工程は、混練工程、及び加圧成形工程の後に設け、加圧成形工程を経た成形された廃菌床の表面に吸水添加材を均一に付着させるものであってもよい。これにより、成形された廃菌床の表面付近の含水率を低下させ、ペレット状に成形された固形バイオマス燃料の耐久性を向上できる。吸水添加材添加工程は、混練工程の前に設け、かつ加圧成形工程の後にも設けてもよい。この場合、添加される吸水添加材の質量の合計が、上記廃菌床に対する質量比の条件を満たすことが好ましい。
【0029】
吸水添加材添加工程は、廃菌床に対する質量比が、吸水添加材/廃菌床で、1/2~1/20の範囲内となるように、吸水添加材を添加することが好ましい。これにより、製造される固形バイオマス燃料の成形性及び耐久性を好ましいものとすることができる。上記質量比は、1/4~1/20の範囲内であることが好ましく、1/8~1/20の範囲内であることがより好ましい。なお、加圧成形工程を経た成形された廃菌床の表面に吸水添加材を付着させる場合、上記質量比を1/20未満とすることもできる。
【0030】
吸水添加材添加工程により、廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率は、例えば40~60%にまで低下する。これにより、製造される固形バイオマス燃料の成形性が向上すると共に、固形バイオマス燃料の耐久性を確保できる。上記廃菌床と吸水添加材との混合物の含水率は、45~55%であることがより好ましい。
【0031】
本実施形に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記以外の工程を備えていてもよい。例えば、廃菌床を所定の目開き(例えば、3~6mm)を有する篩により分離する、分級工程を含んでいてもよい。これにより、廃菌床の成形性を更に向上させることができる。固形バイオマス燃料の製造方法として、上記分級工程を備える場合、固形バイオマス燃料の製造方法は、混練工程を有していなくてもよい。一方で、本実施形に係る固形バイオマス燃料の製造方法は、吸水添加材添加工程を有することから、廃菌床を乾燥させる乾燥工程を有していなくてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を更に詳細に説明する。本発明の内容は以下の実施例の記載に限定されない。
【0033】
(固形バイオマス燃料の製造)
<実施例1>
廃菌床に対して、吸水添加材としての粉砕もみ殻(含水率:10.18%)を添加して手作業で混練した。具体的には,廃菌床をステンレス製トレー上で軽くほぐした後,上部より吸水添加材を投入し、トレー上で手指による軽い振動、掻き混ぜを約20秒程度行った。混練後の廃菌床と吸水添加材の混合物の含水率は52.39%であった。上記混練後の廃菌床と吸水添加材の混合物を、加圧して成形し、実施例1に係る固形バイオマス燃料を得た。加圧成形方法としては、手指にて球状に成形(直径約14mm)する方法を用いた。なお、含水率の測定は、水分計MOC63u(島津製作所社製)を用いて行った。
【0034】
<実施例2、8~9、参考例3~7、比較例1~2>
吸水添加材と廃菌床の質量比を表1に示す比率としたこと以外は、実施例1と同様として、各実施例、参考例及び比較例に係る固形バイオマス燃料を得た。比較例1及び比較例2については、吸水添加材の添加を行わなかった。
【0035】
<実施例8~9>
目開きが2.9mmの篩を用い、径が2.9mmを超えるコーンコブを除去した廃菌床を、混練を行わずに加圧して成形した後、吸水添加材としての粉砕もみ殻を表1に示す質量比で表面にまぶして、実施例8及び9に係る固形バイオマス燃料を得た。上記加圧して成形する方法としては、円筒形状の塩ビ管(直径16mm、高さ20mm)の内部に上記廃菌床を充填し、棒状のステンレス部材を用いて上記廃菌床を圧縮する方法を用いた。この際に、廃菌床から水分が放出されない程度に、廃菌床を圧縮する圧力を調整した。
【0036】
(評価)
[成形性評価]
以下の基準により、固形バイオマス燃料の成形性について評価を行った。評価2以上を合格とした。結果を表1に示した。
3: 亀裂発生なし
2: 亀裂発生数が1箇所
1: 亀裂発生数が2箇所以上
【0037】
[耐久性評価]
各実施例、参考例、及び比較例に係る固形バイオマス燃料を、5mの高さから落下させて衝撃を加え、試験後の固形バイオマス燃料の状態を観察し、以下の基準により耐久性について評価を行った。評価2以上を合格とした。結果を表1に示した。なお、以下の評価基準における重量減少率は、以下の式(1)により算出される。また、以下の評価基準における変形率は、落下時の衝撃で固形バイオマス燃料が押し潰されて変形した場合の、元の形状からの変形度合いを観察して以下の式(2)により数値化したものである。
【0038】
重量減少率=(落下試験直前の重量-落下試験直後の最も大きな破片の重量)/落下試験直前の重量*100 (1)
変形率=(1-落下試験後の固形バイオマス燃料の短軸の長さ/落下試験前の固形バイオマス燃料の平均径)*100 (2)
【0039】
(評価基準)
3: 重量減少率5%未満,かつ変形率25%未満
2: 重量減少率5%以上10%未満,または変形率25%以上50%未満
1: 上記評価3、及び評価2以外
【0040】
【0041】
表1に示す結果より、各実施例に係る固形バイオマス燃料は、各比較例に係る固形バイオマス燃料と比較して、好ましい成形性及び耐久性が得られる結果が確認された。