(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241204BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241204BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C22C38/00 301R
C22C38/00 301W
C22C38/60
C21D9/46 E
C21D9/46 S
(21)【出願番号】P 2022538245
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 KR2020018285
(87)【国際公開番号】W WO2021125730
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172315
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ビョン ホ
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-196538(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003856(WO,A1)
【文献】特開2017-014577(JP,A)
【文献】特開2011-058038(JP,A)
【文献】特開2002-327236(JP,A)
【文献】特開2011-026690(JP,A)
【文献】特表2022-510981(JP,A)
【文献】特表2022-511465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.10%以下(0%は除外)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、錫(Sn):0.07~0.22%、チタニウム(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除外)、窒素(N):0.005%以下(0%は除外)、およびモリブデン(Mo):0.05~0.15%を含み、残部は鉄(Fe)および不可避不純物からなり、
下記式1および式2を満たす、耐食性鋼板。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48×([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
(式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]はそれぞれ、鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含量(重量%)を示す。)
【請求項2】
粒径は1~10nmである、TiC析出物を含み、
前記TiC析出
物は、1cm
3当り10
16個以上で含まれる、請求項1に記載の耐食性鋼板。
【請求項3】
下記式3を満たす、請求項1または2に記載の耐食性鋼板。
[式3]
10×[Mo]+12×[Sn]+22×[Sb]+50×[Cu]≧16
(式3中、[Mo]、[Sn]、[Sb]、および[Cu]はそれぞれ、鋼板内のMo、Sn、Sb、およびCuの含量(重量%)を示す。)
【請求項4】
前記鋼板を28.5重量%硫
酸と0.5重量%塩酸
を含有する溶液に40~80℃で
24時間浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成される、請求項2または3に記載の耐食性鋼板。
【請求項5】
前記濃化層はMo、Cu、Sb、およびSnを含む、請求項
4に記載の耐食性鋼板。
【請求項6】
前記濃化層の濃化量は10重量%以上である、請求項
5に記載の耐食性鋼板。
(この時、濃化量は、FeとOが重量%で同一になる境界地点を取って、この時の濃化元素Mo、Cu、Sb、Sn含量の合計(重量%)を意味する。)
【請求項7】
前記濃化層の厚さは10nm以上である、請求項
4に記載の耐食性鋼板。
【請求項8】
前記鋼板を焼鈍熱処理した後の再結晶分率が80%以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項9】
前記鋼板を28.5重量%硫
酸と0.5重量%塩酸
を含有する溶液に60℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が0.8mg/cm
2/hr以下である、請求項4~
8のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項10】
前記鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が37mg/cm
2/hr以下である、請求項5~
9のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項11】
前記鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比と、鋼板を28.5重量%硫
酸と0.5重量%塩酸
を含有する溶液に60℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比との積が20以下である、請求項
4に記載の耐食性鋼板。
【請求項12】
前記鋼板が熱延鋼板である場合、熱延鋼板の引張強度は580MPa以上であり、表面硬度はHRB基準で85以上である、請求項2~
11のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項13】
前記鋼板が冷延鋼板である場合、冷延鋼板の引張強度は540MPa以上であり、表面硬度はHRB基準で80以上である、請求項2~
11のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項14】
重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.10%以下(0%は除外)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、錫(Sn):0.07~0.22%、チタニウム(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除外)、窒素(N):0.005%以下(0%は除外)、およびモリブデン(Mo):0.05~0.15%を含み、残部は鉄(Fe)および不可避不純物からなり、
下記式1および式2を満たす鋼スラブを準備する段階;
前記スラブを1,200℃以上で加熱する段階;および
前記加熱されたスラブを850~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;
を含む耐食性鋼板の製造方法。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48×([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
(式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]はそれぞれ、鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含量(重量%)を示す。)
【請求項15】
前記熱延鋼板を製造する段階;以後に、
前記熱延鋼板を450~750℃で巻き取る段階;
前記巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階
;および
前記冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;
をさらに含む、請求項
14に記載の耐食性鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記スラブを1,200℃以上で加熱する段階;において、
在炉時間は150分以上である、請求項
14または
15に記載の耐食性鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法に関するものである。より具体的には、化石燃料燃焼後排ガスに存在するSOx、Clなどの排ガス温度が低下することによって発生する硫酸/塩酸複合凝縮水および硫酸凝縮水によって鋼板が腐食される現象に対する耐食性と同時に強度が高く耐摩耗性に優れた鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化石燃料にはS、Clなど多様な不純物元素が含まれている。このような化石燃料を使用して燃焼を行うため、燃焼ガスが通っていく通路である配管および設備は腐食によって劣化する問題が常に存在する。このような腐食現象を凝縮水腐食と呼び、配管および設備がこれら腐食環境に露出される代表的な使用先が火力発電所の排ガス配管および環境設備、自動車排気系などである。凝縮腐食の種類としては、排ガスに含まれているSが燃焼することによってSOxが形成されるようになり、特にSO3が排ガス中の水分と接して硫酸を形成する硫酸凝縮水腐食、排ガス内あるいは産業用水に含まれている塩素が多様な反応を通じて塩酸が生成され、生成される塩酸凝縮水による腐食、このような硫酸と塩酸が複合的に混合されている状態で発生する硫酸/塩酸複合凝縮水腐食などがある。このような酸凝縮の開始温度は排ガス自体の温度と排ガス内SOx、Clの含量、そして水蒸気含量と関係がある。
【0003】
近年、発電所などの使用先で発電効率または外部に排出される廃熱を活用しようとする目的で排ガス温度自体を低めようとする需要が持続している。一般に、硫酸が凝縮され始める温度まで排ガス温度が低下するようになれば、排ガス中に形成された硫酸ガスが液化して鋼材表面に凝縮されて腐食を起こす量が増加するだけでなく、塩酸が凝縮されるさらに低い温度まで排ガス温度が低下するようになれば、硫酸と塩酸が複合的に凝縮される複合腐食現象が起こるようになる。
【0004】
また、近年、火力発電所環境設備の脱硫効率を増加させるための設備変更関連研究が持続している。代表的な例として、脱硫設備前/後端の熱交換装置であるGGH(Gas Gas Heater)のタイプ(type)が変更されている。既存のGGHは電気集塵機(EP、Electrostatic Precipitator)後端に位置して、ここに使用される鋼材の開発は耐食性に重点を置いて研究をしたが、近年、GGHは電気集塵機前端に一部脱硫設備が配置されることによって除去されなかったダスト(dust)による鋼材の浸食による腐食だけでなく、摩耗による腐食が発生していて、これら設備に使用される鋼材は耐食性に加えて耐磨耗問題まで同時に解決する必要性がある。
【0005】
このような問題を解決する方案の一例として、デュプレックス系ステンレス鋼(Duplex系STS鋼)などの高合金系高耐食鋼を用いるか、排ガス温度を上昇する方法があるが、これは設備の高費用化と発電効率の低下を招くようになる。また、高強度鋼材を採用する動きがあるが、これは、強度問題は解決しても耐食性問題によるその他の設備の劣化問題をもたらすことがある。
【0006】
一方、耐硫酸凝縮腐食鋼と知られたCu添加耐食鋼を使用するようになれば、鋼表面に生成されたCu濃化層が硫酸凝縮に対する耐食性を発揮して腐食を抑制する腐食抑制層を形成するようになり、一般鋼を使用する場合に対比して設備寿命を大きく向上させる効果を発揮する。しかし、先に言及した排ガスの低温化と腐食環境の複合化、耐摩耗性の要求が既存の耐硫酸凝縮腐食鋼の耐食特性を低下させて、より性能に優れた耐食鋼に対する需要が持続的にあった。
【0007】
そして、既存の耐硫酸凝縮腐食鋼や高合金ステンレス鋼では複合的且つ苛酷な耐食環境で本来の性能を発揮することができない問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法を提供しようとする。より具体的には、化石燃料燃焼後排ガスに存在するSOx、Clなどの排ガス温度が低下することによって発生する硫酸/塩酸複合凝縮水および硫酸凝縮水によって鋼板が腐食される現象に対する耐食性と同時に強度が高く耐摩耗性に優れた鋼板およびその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による耐摩耗性と複合耐食性に優れた耐食性鋼板は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.10%以下(0%は除外)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、錫(Sn):0.07~0.22%、チタニウム(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除外)、窒素(N):0.005%以下(0%は除外)、モリブデン(Mo):0.05~0.15%および残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、下記式1および式2を満たす。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48×([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]はそれぞれ、鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含量(重量%)を示す。
【0010】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、TiC析出物を含み、TiC析出物およびTiC析出物からなる集合体は、1cm3当り1016個以上で含まれてもよい。
【0011】
TiC析出物の粒径は1~10nmであってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、下記式3を満たすことができる。
[式3]
10×[Mo]+12×[Sn]+22×[Sb]+50×[Cu]≧16
この時、式3中、[Mo]、[Sn]、[Sb]、および[Cu]はそれぞれ、鋼板内のMo、Sn、Sb、およびCuの含量(重量%)を示す。
【0013】
鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液が混合された溶液に40~80℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成されるものであってもよい。
【0014】
鋼板を50重量%の硫酸溶液に50~90℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成されるものであってもよい。
【0015】
濃化層はMo、Cu、Sb、およびSnを含むことができる。
【0016】
濃化層の濃化量は10重量%以上であってもよい。
【0017】
この時、濃化量は、FeとOが重量%で同一になる境界地点を取って、この時の濃化元素Mo、Cu、Sb、Sn含量の合計(重量%)を意味する。
【0018】
濃化層の厚さは10nm以上であってもよい。
【0019】
鋼板を焼鈍熱処理した後の再結晶分率が80%以上であってもよい。
【0020】
鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液が混合された溶液に60℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が0.8mg/cm2/hr以下であってもよい。
【0021】
鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が37mg/cm2/hr以下であってもよい。
【0022】
鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比と、鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液が混合された溶液に60℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比との積が20以下であってもよい。
【0023】
鋼板が熱延鋼板である場合、熱延鋼板の引張強度は580MPa以上であり、表面硬度はHRB基準で85以上であってもよい。
【0024】
鋼板が冷延鋼板である場合、冷延鋼板の引張強度は540MPa以上であり、表面硬度はHRB基準で80以上であってもよい。
【0025】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.10%以下(0%は除外)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、錫(Sn):0.07~0.22%、チタニウム(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除外)、窒素(N):0.005%以下(0%は除外)、モリブデン(Mo):0.05~0.15%、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、式1および式2を満たす鋼スラブを準備する段階;スラブを1,200℃以上で加熱する段階;および加熱されたスラブを850~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;を含む。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48×([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]はそれぞれ、鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含量(重量%)を示す。
【0026】
熱延鋼板を製造する段階;以後に、熱延鋼板を450~750℃で巻き取る段階;巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;をさらに含むことができる。
【0027】
スラブを1,200℃以上で加熱する段階;において、在炉時間は150分以上であってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、化石燃料の燃焼後排ガスが通っていく配管、化石燃料燃焼設備用熱間圧延製品類および冷間圧延製品類の原材料として有効に活用することができる。
【0029】
火力発電所用脱硫設備に使用される熱交換装置GGH(Gas Gas Heater)が電気集塵器(EP、Electrostatic Precipitator)前端に設置されるとか後端に設置されるとか関係なく本発明の一実施形態による耐食性鋼板をGGH設備に適用する場合、環境変化差が大きいにもかかわらず、耐摩耗性と複合耐食性要件を全て充足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】発明例2の鋼板を50重量%硫酸溶液に24時間浸漬後、GDS測定を通じて表面から内部に元素分布を測定して、鋼板表面部の元素濃化度を示すグラフである。
【
図2】(a)は発明例4を条件1の熱延巻取り温度で巻き取った場合の微細組織を、(b)は発明例4の成分系を条件4の低い巻取り温度で巻き取った場合の微細組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書では、第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及することができる。
【0032】
本明細書では、ある部分がある構成要素を“含む”という時、これは特に反対になる記載がない限り他の構成要素を除くのではなく他の構成要素をさらに含むことができるのを意味する。
【0033】
本明細書では、使用される専門用語はただ特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0034】
本明細書では、マーカッシュ形式の表現に含まれている“これらの組み合わせ”の用語はマーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される一つ以上の混合または組み合わせを意味するものであって、前記構成要素からなる群より選択される一つ以上を含むことを意味する。
【0035】
本明細書では、ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあるか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分“の真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0036】
異なって定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
【0037】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0038】
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0039】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々の異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0040】
本発明の発明者らは、通常の中~低炭素鋼板にTiなど析出物を形成することができる元素を添加する場合、その製造過程で適切な製造条件を用いるようになれば、中間素材である熱延材と最終素材である冷延材の硬度、強度を大幅増加させることができるのを確認した。
【0041】
即ち、このような鋼板が硫酸あるいは硫酸/塩酸複合腐食環境に置かれた場合、鋼板中に含有された元素の種類と含量、そして複合関係により生成される腐食生成物によって析出物が形成されていても追加的な腐食を阻害することを確認した。
【0042】
この時、鋼板中に特殊成分元素であるMo、Cu、Sb、Snなどを二つ以上複合添加するようになれば、硫酸高濃度と硫酸/塩酸複合凝縮環境での耐食性を同時に大きく向上させることができ、これにより、凝縮水腐食環境での設備耐腐食性能を画期的に増大させることができるという結論に達した。
【0043】
前記のような原理を用いて低炭素鋼板に腐食反応時、鋼材と腐食生成物の間に生成される耐食元素を含有する濃化層が緻密に形成されることを確認し、これによって製造された鋼板が浸漬腐食環境で優れた耐食性を有することが分かった。
【0044】
以下、本発明の一実施形態として、耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
【0045】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.10%以下(0%は除外)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、錫(Sn):0.07~0.22%、チタニウム(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除外)、窒素(N):0.005%以下(0%は除外)、モリブデン(Mo):0.05~0.15%、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、下記式1および式2を満たす。
【0046】
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
【0047】
[式2]
48×([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
【0048】
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]はそれぞれ、鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含量(重量%)を示す。
【0049】
一方、耐食性鋼板は、下記式3をさらに満たすことができる。
【0050】
[式3]
10×[Mo]+12×[Sn]+22×[Sb]+50×[Cu]≧16
【0051】
この時、式3中、[Mo]、[Sn]、[Sb]、および[Cu]はそれぞれ、鋼板内のMo、Sn、Sb、およびCuの含量(重量%)を示す。
【0052】
まず、鋼板の成分および式1、式2、および式3を限定した理由を説明する。
【0053】
炭素(C):0.04~0.10重量%
低炭素鋼板の炭素含量は0.04~0.10重量%であってもよい。鋼中炭素の含量が過度に多い場合、過度なTiC形成およびカーバイド(Carbide)形成による耐食性低下、特に硫酸/塩酸複合耐食性の低下が起こることがある。逆に、炭素含量が過度に少ない場合、本発明で目的とする強度を確保することができないことがある。より具体的には、0.042~0.10重量%であってもよい。
【0054】
シリコン(Si):0.10重量%以下(0重量%は除外)
低炭素鋼板のシリコン含量は0.10重量%以下であってもよい。鋼中シリコン含量が過度に多い場合、表面にSiO2とFe酸化物の複合相形状による多量の赤スケール(Scale)が誘発されることがある。したがって、表面欠陥の解消のために前記の範囲のSi含量であってもよい。より具体的には、0.05重量%以下であってもよい。さらに具体的には、0.045重量%以下であってもよい。さらに具体的には、0.01~0.045重量%であってもよい。
【0055】
銅(Cu):0.20~0.35重量%
Cuは酸浸漬環境で腐食される場合、鋼材表面と腐食生成物の間に濃化されて追加的な腐食を遮断する代表的な元素である。その効果を示すためには適切な量のCuを添加することができる。但し、過度に多く添加する時にはCuの低い融点によって製造時クラックを誘発する可能性がある。
【0056】
ニッケル(Ni):0.1%~0.2重量%
Niが無くCuのみが鋼に添加される場合、Cuの低い融点によって粒界に液状Cuが浸透してクラックを起こすことがある。Niの添加で融点を上げて、クラックの発生を制限しようとする目的でNiを添加する。Niの含量が過度に少ない場合にはこのようなCuの融点を高める役割を十分に果たすことができなく、逆にNi含量が過度に多い場合にはNiによる表面欠陥が発生することがある。より具体的には、0.11~0.19重量%であってもよい。
【0057】
[式1][Ni]/[Cu]≧0.5
Cuと共にNiを添加する理由と同一な理由で、融点を適切に高めNiによる表面欠陥を誘発しないために、前記の範囲でNiとCuを添加することができる。式1の数値が過度に高ければ、Niによる表面欠陥が発生することがあり、式1の数値が過度に低ければ、Niによって融点を高める効果が微小であることがある。この時、式1中、[Ni]、および[Cu]はそれぞれ、鋼板内のNi、およびCuの含量(重量%)を示す。
【0058】
アンチモン(Sb):0.05~0.15重量%
SbはCuのように表面に安定した濃化層を形成するために添加する。Sbの含量が過度に少ない場合には、十分な濃化層を形成することができないことがある。逆に、過度に多い場合には表面クラックを誘発することがある。
【0059】
錫(Sn):0.07~0.22重量%
SnはCu、Sbのように表面に安定した濃化層を形成するために添加する。特に、Snは硫酸など酸浸漬環境で優先溶解されて鋼種耐食性を大きく向上させる役割が確認された。より具体的に説明すれば、明確ではないが、下記のようなメカニズムでSnが鋼種耐食性を向上させると考えられる。鋼板を硫酸または複合酸の浸漬環境に置けば、SnとCuが溶解され、SnはCuより優先溶解される。SnがCuより優先溶解されながら、Snは溶液中に解離される。解離されたSnは溶液の腐食電位を低めるようになり、これによって鋼板の腐食現象が一部遅延されると考えられる。この時、腐食電位(Corrosion Potential)とは、腐食が進行中の金属の照合電極(Reference Electrode)に対する電位を意味する。また、鋼板表面に溶解されたSnが再融着される過程で腐食遅延層が形成され、このような腐食遅延層は鋼板の腐食を遅延させることができると考えられる。Snが過度に少なく含まれる場合、十分な濃化層を形成することができないことがある。Snが過度に多く添加される場合には生産過程で深刻な表面クラックを誘発することがある。より具体的には、0.073~0.22重量%であってもよい。
【0060】
モリブデン(Mo):0.05~0.15重量%
MoはSn、Sb、Cuなどのように表面に安定した濃化層を形成するために添加する。特に、Moは硫酸だけでなく硫酸に塩酸が複合的に凝縮する環境で特に優れた耐食性を示すことが確認された。Moの含量が過度に少なく含まれる場合には複合酸耐食に対して十分な耐食性を確保することができず、Clの介入による持続的な濃化層の脱落をMoが防止する役割を十分に果たすことができないと判断される。しかし、Moは硬化能を画期的に上昇させる元素であるので、過度に多く添加される場合には鋼内マルテンサイトやベイナイト相を形成することがあり、これによって耐食性を減少させる現象を招く。また、冷間圧延後焼鈍工程で再結晶温度を過度に上昇させて冷間圧延後軟性の急激な低下をもたらす。より具体的には、0.07~0.15重量%であってもよい。
【0061】
[式3]10×[Mo]+12×[Sn]+22×[Sb]+50×[Cu]≧16
前記Mo、Cu、Sb、およびSnは硫酸/塩酸複合凝縮雰囲気または硫酸凝縮雰囲気で鋼板表面に濃化層を形成する元素であり、各元素の適切な含量だけでなく、式3の関係を満たすことができる。式3の数値が過度に少なければ、十分な濃化層が形成されないという短所がある。この時、式3中、[Mo]、[Sn]、[Sb]、および[Cu]はそれぞれ、鋼板内のMo、Sn、Sb、およびCuの含量(重量%)を示す。より具体的に、式3は16~27であってもよい。さらに具体的には、16.3~21.86であってもよい。
【0062】
チタニウム(Ti):0.05~0.15重量%
Tiは、析出物を形成する元素として作用して鋼板の強度および耐摩耗性を高めるために添加する。即ち、TiはCと結合してTiC析出物を形成する。TiCは微細な析出物として析出硬化(Precipitation strengthening)によって鋼板の硬度および耐摩耗性を向上させることができ、これと共に強度を増加させることができる。これと関連して、TiCに対する具体的事項は後述する。ここで、Tiの含量が過度に少なければ、析出物が十分に形成されなくて強度増加効果がないという短所がある。反面、過度に多ければ、過度にTiCが形成されて圧延時クラックが発生する短所があり、製鋼段階でTi、Al系複合酸化物が形成されタンディッシュノズルが詰まって製造不良および表面不良を起こすことがある。したがって、Tiはより具体的には、0.05~0.145重量%含むことができる。さらに具体的には、0.052~0.145重量%含むことができる。
【0063】
硫黄(S):0.01重量%以下(0%は除外)
Sは、Ti炭化物を形成することにおいて有効なTiの含量を制限する逆効果をもたらすことがある。その理由は、本発明ではTiC析出物形成による析出硬化で耐摩耗性を高めることを特徴とするが、TiC形成以前にTiSが先に形成されるため、Sの含量が多ければTiCの形成に妨害になるためである。したがって、最大成分の範囲を前記の範囲とすることができる。より具体的には、0.0097重量%以下であってもよい。さらに具体的には、0.001~0.0097重量%であってもよい。
【0064】
窒素(N):0.005重量%以下(0%は除外)
NはTi炭化物を形成することにおいて有効なTiの含量を制限する逆効果をもたらすことがある。その理由は、本発明ではTiC析出物形成による析出硬化で耐摩耗性を高めることを特徴とするが、TiC形成以前にTiNが先に形成されるため、Nの含量が多ければTiCの形成に妨害になるためである。参考として、Tiが析出物として形成される時にはTiN、TiS、TiCの順序に形成される。したがって、最大成分の範囲を前記の範囲とすることができる。より具体的には、0.004重量%以下であってもよい。さらに具体的には、0.001~0.004重量%であってもよい。
【0065】
[式2]48×([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
有効なTi(Ti*)の含量は式2で計算することができる。前記のS、Nの成分範囲を満たしても式2の範囲を満たさなければ十分なTiCを形成することができなくて強度下落を招くことがある。この時、式2中、[Ti]、[S]、および[N]はそれぞれ、鋼板内のTi、S、およびNの含量(重量%)を示す。より具体的には、式2の範囲は0.04~0.12であってもよい。
【0066】
また、前記鋼板はマンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)をさらに含むことができる。
【0067】
マンガン(Mn):0.5~1.5重量%
Mnは鋼中に固溶強化を通じて強度を向上させる役割を果たすが、その含量が過度に多ければ粗大なMnSが形成されてむしろ強度を低下させる問題がある。したがって、本発明でMnの含量は0.5~1.5重量%で制限するのが好ましい。
【0068】
アルミニウム(Al):0.02~0.05重量%
Alは、アルミニウムキルド鋼(Al-killed)の製造時、不可避的に添加される元素であって、脱酸効果のために適正含量で添加されるのが好ましい。但し、前記Alの含量が0.02重量%を超過する場合、鋼板の表面欠陥を誘発する可能性が高まるだけでなく、溶接性が低下する問題がある。したがって、本発明ではAl含量を0.02~0.05重量%に制限するのが好ましい。
【0069】
前記成分以外に、本発明はFeおよび不可避不純物を含む。不可避不純物は当該技術分野で広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施形態で前記成分以外に有効な成分の添加を排除するのではなく、追加成分をさらに含む場合、残部のFeを代替して含まれる。
【0070】
一方、本発明の一実施形態による耐食性鋼板は耐摩耗性に優れるという特徴を有し、関連してTiC析出物を含む。TiC析出物は微細な析出物として析出硬化(Precipitation hardening)によって鋼板の硬度および耐摩耗性を向上させることができ、これと共に強度を増加させることができる。
【0071】
TiC析出物とTiC析出物からなる集合体は1cm3当り1016個以上で含まれてもよい。析出物の含量が過度に少なければ、目的とする強度と耐摩耗性を確保することができない短所がある。より具体的には、1cm3当り1016~1018個であってもよい。
【0072】
TiC析出物は球形であってもよい。
【0073】
TiC析出物の粒径は、1~10nmであってもよい。析出物は鋼材内部で電位の移動を妨害し、電位の帯を形成して強度を上昇させ、析出物の粒径が過度に小さければ、電位が移動しやすくて強度上昇効果がない短所がある反面、析出物の粒径が過度に大きければ、析出物を電位が切断して通って移動を容易にするためまた強度上昇の効果が低下する短所がある。より具体的には、2~8nmであってもよい。ここで粒径とは、粒子と同一な体積を有する球を仮定して、その球の直径を意味する。
【0074】
また、TiC析出物は鋼板内に均一に分布できる。
【0075】
一方、本発明の一実施形態による耐食性鋼板でCu、Sb、およびSnなどは硫酸/塩酸複合凝縮雰囲気または硫酸凝縮雰囲気で濃化層を形成し、これは追加的な腐食を抑制する。より具体的には、鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液が混合された溶液に40~80℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層を生成することができる。また、鋼板を50重量%の硫酸溶液に50~90℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層を生成することができる。より具体的には、4~8時間浸漬する場合、濃化層を生成することができる。
【0076】
この時、濃化層とは、Mo、Cu、Sb、Snが濃化され始める層を意味し、他の面には一般に酸化が始まる点と類似している。本発明での濃化層は、その層のMo、Cu、Sb、およびSnの合計量が鋼板のMo、Cu、Sb、およびSnの合計量の4倍を超過する層を意味する。
【0077】
また、濃化層は非晶質の濃化層であってもよい。
【0078】
濃化層は酸に浸漬する時、腐食層の形成と共に生成される。この時、腐食層はFeがOによって酸化された層を意味する。一般に、Mo、Cu、SbよりFeが先に酸化され、酸に浸漬時、FeはFeイオンとして解離されて酸溶液に抜け出るが、Mo、Cu、Sbは固体状態であることが安定して、表面に残留するようになる。したがって、酸反応が持続されて鋼板表面にFe含量減縮が持続的に発生しても、Mo、Cu、Sbは表面に残って濃度の高い層が形成される。これは一定の反応時間が過ぎた後に濃化層という形態に表面に生成され、その濃化層は酸と内部鉄の直接的な接触を遮断して追加的な腐食を抑制するようになる。
【0079】
濃化層はMo、Cu、Sb、およびSnを含むことができ、濃化層の濃化量はMo、Cu、Sb、およびSnの合計量が10重量%以上であるものであってもよい。この時、濃化量は、FeとOが重量%で同一になる境界地点を取って、この時の濃化元素Mo、Cu、Sb、Sn含量の合計(重量%)を意味する。濃化量が過度に少なければ、濃化層が十分に形成されなくて腐食減量比が増加する短所がある。より具体的には、11~17重量%であってもよい。
【0080】
濃化層の厚さは10nm以上であってもよい。より具体的には、濃化層は10~500nm厚さで形成することができる。濃化層の厚さが過度に薄い場合、前述の腐食防止役割を果たしにくい。濃化層が過度に厚く形成される場合、濃化層内部にCrackが発生して、該crackに沿って酸が浸透して腐食を発生させることがある。さらに具体的には、濃化層は12~100nm厚さで形成することができる。
【0081】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、熱延鋼板または冷延鋼板であってもよい。
【0082】
熱延鋼板である場合、鋼板の厚さは2.5~5.5mmであってもよい。より具体的には、3.5~5.5mmであってもよい。
【0083】
冷延鋼板である場合、鋼板の厚さは1.0~2.5mmであってもよい。より具体的には、1.0~2.0mmであってもよい。
【0084】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板が冷延鋼板である場合、鋼板を焼鈍熱処理した後の再結晶分率は80%以上であってもよい。より具体的には、100%であってもよい。再結晶分率が過度に低い場合、強度は高まるが、軟性が急激に下落して顧客加工時欠陥を形成する短所がある。この時、再結晶分率とは、全体鋼板面積を基準にして再結晶になったグレイン(grain)の面積を意味する。
【0085】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液が混合された溶液で60℃、6時間浸漬する場合の腐食減量比が0.8mg/cm2/hr以下であってもよい。
【0086】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃、6時間浸漬する場合の腐食減量比が37mg/cm2/hr以下であってもよい。
【0087】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比と、鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液が混合された溶液に60℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比の積が20以下であってもよい。
【0088】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板が熱延鋼板である場合、熱延鋼板の引張強度は580MPa以上であり、表面硬度はHRB基準で85以上であってもよい。
【0089】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板が冷延鋼板である場合、冷延鋼板の引張強度は540MPa以上であり、表面硬度はHRB基準で80以上であってもよい。
【0090】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.10%以下(0%は除外)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、錫(Sn):0.07~0.22%、チタニウム(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除外)、窒素(N):0.005%以下(0%は除外)、モリブデン(Mo):0.05~0.15%、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、下記式1および式2を満たす鋼スラブを準備する段階;スラブを1,200℃以上で加熱する段階;および加熱されたスラブを850~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;を含む。
【0091】
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
【0092】
[式2]
48×([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
【0093】
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]はそれぞれ、鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含量(重量%)を示す。
【0094】
また、熱延鋼板を製造する段階;以後、熱延鋼板を450~750℃で巻き取る段階;巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;をさらに含むことができる。
【0095】
以下、各段階別に具体的に説明する。
【0096】
まず、前述の組成を満たすスラブを加熱する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は前述の鋼板の組成限定理由と同一なので、繰り返される説明を省略する。後述する熱間圧延、巻取り、酸洗、冷間圧延、焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と最終製造された耐食性鋼板の組成は実質的に同一である。
【0097】
スラブを加熱することによって後続の熱間圧延工程を円滑に行い、スラブを均質化処理することができる。より具体的には、加熱は再加熱を意味することができる。この時、スラブ加熱温度は1,200℃以上であってもよい。スラブの加熱温度が前記の範囲である理由は、十分なTi再固溶のためである。十分にTiが再固溶されてこそ、以後にTiC析出物が析出されるためである。
【0098】
一方、スラブ加熱時の在炉時間は150分以上であってもよい。在炉時間が過度に少なければ、Tiの再固溶が十分に起こらないことがある。
【0099】
その次に、加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。熱間圧延の仕上げ圧延温度は850~1000℃であってもよい。仕上げ圧延温度が過度に低ければ、十分な圧延能力を発揮することができなく、反面、仕上げ圧延温度が過度に高ければ、鋼板の強度確保が難しいことがある。この時、熱延板厚さは2.5~5.5mmであってもよい。
【0100】
その次に、熱延鋼板を巻き取る段階を含むことができる。熱延鋼板を巻き取る段階;は、450~750℃で行うことができる。巻取り温度が過度に低ければ、熱延材初期強度の増加によって最終冷間圧延が難しくなることがあり、反面、巻取り温度が過度に高ければ、巻取り区間での相変態による座屈発生および強度下落の問題があることがある。
【0101】
その後、巻取られた熱延鋼板を酸洗する段階;を含むことができる。
【0102】
その次に、巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;を含むことができる。圧下率が過度に低ければ、冷間圧延時完全再結晶を確保し難いことがあり、これは素材の延伸率下落を誘発し、以後の顧客加工時、クラックなどが誘発されることがある。反面、圧下率が過度に高ければ、圧延過程におけるモータ負荷で圧延されない問題が発生することがある。
【0103】
その次に、冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;を含むことができる。焼鈍熱処理温度が過度に低ければ、完全再結晶を確保し難いことがあり、これは素材の延伸率下落を誘発し、以後の顧客加工時、クラックなどが誘発されることがある。反面、焼鈍熱処理温度が過度に高ければ、鋼板の強度を確保し難い問題がある。
【0104】
以下では実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるのではない。
【実施例】
【0105】
実施例
先ず、下記表1に整理された合金成分を含む低炭素の鋼スラブを製造した。
【0106】
スラブを1250℃で200分間加熱した後、3.5mm厚さで熱間圧延して、熱延板を製造した。仕上げ圧延温度(FDT)は920℃であり、巻取りは650℃で行った。
【0107】
【0108】
前記低炭素鋼板を製造した後、ASTM G31の標準に記載された方法で浸漬試験を行った。浸漬試験は50重量%硫酸水溶液を製造して70℃で6時間浸漬する方法で行った。浸漬後にはASTM G1の試験片表面洗浄方法を通じて洗浄後、重量減量を測定して、単位時間当り、単位表面積当り重量減量を測定した。
【0109】
また、韓国型火力発電所で低温凝縮時に置かれる硫酸/塩酸複合凝縮を模写するために28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液が混合された混合水溶液を製造して、60℃で6時間浸漬する試験も行った。浸漬後には前記と同様にASTM G1の試験片表面洗浄方法を通じて洗浄後、重量減量を測定して、単位時間当り、単位表面積当り重量減量を測定した。
【0110】
その結果を下記表2に示した。単位は、mg/(cm2*hr)である。
【0111】
一方、耐食元素と表面濃化層の関係を糾明するために、各発明例および比較例の熱延板を28.5重量%硫酸溶液と0.55wt%塩酸溶液の混合水溶液に60℃で24時間浸漬後、試片をGDS測定を通じて表面から内部への元素分布を測定した。下記表2にはこれから測定した濃化層の厚さと、表面濃化元素の濃化量を測定して示した。
【0112】
この時、濃化層とは、Mo、Cu、Sb、Snが濃化され始める層を意味し、他の面には一般に酸化が始まる点と類似している。経験的に、濃化層の厚さはその層のMO、Cu、Sb、およびSnの合計量が鋼板のMo、Cu、Sb、およびSnの合計量の4倍を超過する層の厚さで測定した。この時、重量%でFeとOが接する境界地点でCuなどが最大濃化されることを確認して、最大濃化量はFeとOの含量(重量%)が同一になる地点を取って、この時の濃化元素Cu、Sb、Sn含量の合計(重量%)で計算した。Mo、Sb、Sn、Cuからなる濃化層は、約10wt%水準で鋼材と腐食生成物表面に存在することが確認された。このような濃化層の厚さと濃化量が浸漬時耐食性を決定するということが分かった。
【0113】
関連して、
図1は、発明例2の鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.55wt%塩酸溶液の混合水溶液に24時間浸漬後、GDS測定を通じて表面から内部への元素分布を測定して、鋼板表面部の元素濃化度を示すグラフである。この時、FeとOが接する境界地点は
図1の赤い点線に該当する層であり、その層でのMo、Cu、Sb、Snの合計量である濃化量は13.03重量%であった。
【0114】
また、製造した鋼板に対して、酸浸漬前に強度、硬度およびクラックの有無を確認した。前記発明例と比較例の熱延材をJIS13B規格に合う引張試験片として賃加工した後、圧延方向に長く引張試験を行い、Rockwell硬度基準であるHRB表面硬度を測定した結果を下記表2に示した。
【0115】
また、熱延板製造時、連続鋳造過程で鋳片にクラック(Crack)発生有無や、熱間圧延過程で熱延材エッジ(Edge)のクラック(Crack)発生有無も下記表2に示した。
【0116】
【0117】
C含量が低い比較例1の場合、低いC含量によるTiC析出物含量の低下で熱延材の引張強度が580MPaより低く表面硬度が低くて強度と摩耗性を確保することができなかった。しかし、比較例2のようにC含量が過度に高い場合には、TiC析出物増加によって複合耐食性が低下する現象が観察された。
【0118】
本発明では特徴的にSiの含量を大幅に下げており、その理由は比較例3のようにSi含量が高いほど赤スケール(Scale)が熱延材表面に過度に発生し、これがクラックにつながることを確認したためである。
【0119】
Cu含量が少ない比較例4は特に硫酸単独耐食性の低下をもたらし、Cu含量が過度に高い比較例5の場合には連続鋳造過程でCuの液化による鋳片のクラックが確認された。
【0120】
式1のようにNiの積極的な添加がCuの融点を高める役割を果たすので、比較例6のようにNi/Cuの比が一定の以上を満たさない場合には鋳片のクラックが発生することを確認した。
【0121】
耐食性に最も重要な元素はMo、Cu、Sb、Snであって、Sb含量が低い比較例8の場合と、Sn含量が低い比較例12の場合には硫酸単独耐食性が大きく低下し、Mo含量が低い比較例17の場合には硫酸単独耐食性は類似の値を示すが、硫酸/塩酸複合耐食性が減少することが分かった。Sb含量が過度に高い比較例9とSn含量が過度に高い比較例13およびMo含量が過度に高い比較例18の場合には熱延材の表面欠陥とクラックが誘発されるのを確認することができた。特に、MoはCと共にMoC炭化物を形成すると同時に、ベイナイト、マルテンサイトなど硬質相を形成することができる元素である。発明例2、12と比較例2のように硬質相は熱延材強度を増加させることができるが、比較例18のようにMo含量が高ければ、高い分率で形成された硬質相が耐食性を硫酸単独耐食性を低下させると知られている。
【0122】
本発明では強度と表面硬度を確保するための析出物形成のためにTiを積極的に添加したが、Ti含量が比較例10のように低い場合には熱延材の引張強度と表面硬度が急激に下落するのを確認することができる。一方、Ti含量の高い比較例11のような場合、特に0.15重量%以上である場合は、連続鋳造過程でノズル詰りを誘発することがあり、実際比較例の試験過程でも深刻なノズル詰りを確認した。
【0123】
TiC形成のためにはC、Ti調整と温度調整のみが重要なわけではなく、Ti系炭化物を析出することができる有効なTi含量が重要である。比較例14、15のように過度な窒素と硫黄の添加は有効Tiの含量を低めて強度増加効果を相殺する。
【0124】
また、比較例16のように発明例に記載されたS、Nの含量内にあっても式2の有効Ti(Ti*)含量は0.04以上でなければ高強度および高耐摩耗性の効果を得にくい。
【0125】
下記表3は、熱延材と冷延材生産可能性と強度に与える製造条件の影響度を確認するために、発明例4の成分系で製造条件を異にして製造した後、特性を評価したものである。
【0126】
【0127】
表3の結果を見れば、再加熱温度が1200℃より低い条件10の場合、発明成分系を使用しても熱延材と冷延材の引張強度が減少するのを確認することができ、これはスラブ過程で析出物として形成されたTiが再加熱過程で十分に再固溶されなかったためである。
【0128】
熱間仕上げ圧延温度(FDT)が高い条件2の場合には熱延生産過程でエッジクラック(Edge Crack)が発生し、これは巻取り温度(CT)が低い条件4の場合にも同様に起こった。関連して、
図2は(a)発明例4を条件1で熱間圧延後微細組織写真と(b)発明例4を条件4で熱間圧延後微細組織を比較した写真である。これを見れば、CTが低くて巻取りまでの冷却速度が相対的に速い素材の場合、熱延材引張強度が高くて、冷間圧延時所望の厚さで圧延されなかった。特に、条件4のように微細なbainite相が多量形成される場合には耐食性が劣位する特徴がある。
【0129】
反面、熱間仕上げ圧延温度(FDT)が1050℃で高かった条件3は熱延材と冷延材引張強度が低くて目標とする材質を確保することができなく、これは巻取り温度(CT)が高かった条件5場合にも同じである。
【0130】
本発明鋼種はCとTi含量が高くて冷間圧延後再結晶温度が高いという特徴があり、冷間圧下率が53%であった条件6の場合には最終冷延材の再結晶分率が70%水準であって完全再結晶を成さなく、焼鈍温度が740℃で低かった条件8の場合にも再結晶分率が65%であって完全再結晶を成すことができなかった。完全な再結晶が起こらない前記素材の場合には延伸率下落で顧客加工時クラックなどが誘発することがあって、本発明では冷間圧延材に使用する場合、圧下率を54%以上、焼鈍温度を750℃以上で制限する。
【0131】
そして、熱延材の強度が高いか冷間圧下率が高い条件4と条件7の場合には圧延過程におけるモータ負荷で圧延されない問題が発生して、最終製品を獲得することができなかった。
【0132】
本発明は実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造することができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せず他の具体的な形態に実施することができるというのを理解することができるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。