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特許7598379耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241204BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20241204BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C22C38/00 301R
C22C38/00 301W
C22C38/60
C21D9/46 E
C21D9/46 S
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022538262
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 KR2020018284
(87)【国際公開番号】W WO2021125729
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0170978
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ビョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ヨン-クァン
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-196538(JP,A)
【文献】国際公開第2019/003856(WO,A1)
【文献】特開2017-014577(JP,A)
【文献】特開2007-224377(JP,A)
【文献】特開2002-327236(JP,A)
【文献】特開2011-026690(JP,A)
【文献】特表2022-510981(JP,A)
【文献】特表2022-511465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.1%以下(0%は除く)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、チタン(Ti):0.05~0.15%、スズ(Sn):0.07~0.22%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、および窒素(N):0.005%以下(0%は除く)を含み、残部は鉄(Fe)および不可避不純物からなり、
下記式1および式2を満たす耐食性鋼板。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48x([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
(式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]は、それぞれ鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
粒径は、1~10nmである、TiC析出物を含み、
前記TiC析出物は、1cmあたり1016個以上含まれる、請求項1に記載の耐食性鋼板。
【請求項3】
下記式3を満足する、請求項1または2に記載の耐食性鋼板。
[式3]
12x[Sn]+22x[Sb]+50x[Cu]≧15
(式3中、[Sn]、[Sb]、および[Cu]は、それぞれ鋼板内のSn、Sb、およびCuの含有量(重量%)を示す。)
【請求項4】
前記鋼板を50重量%の硫酸に50~90℃で24時間浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成される、請求項2または3に記載の耐食性鋼板。
【請求項5】
前記濃化層は、Cu、Sb、およびSnを含む、請求項4に記載の耐食性鋼板。
【請求項6】
前記濃化層の濃化量は、15重量%以上である、請求項に記載の耐食性鋼板。
(この時、濃化量は、FeとOが重量%で同一になる境界地点をとり、この時の濃化元素Mo、Cu、Sb、Snの含有量の合計(重量%)を意味する。)
【請求項7】
前記濃化層の厚さは、10nm以上である、請求項4~のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項8】
前記鋼板を焼鈍熱処理した後の再結晶分率が80%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項9】
前記鋼板を28.5重量%硫酸と0.5重量%塩酸とを含有する溶液に60℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が1.0mg/cm/hr.以下である、請求項4~のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項10】
前記鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が25mg/cm/hr以下である、請求項5~のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項11】
前記鋼板が熱延鋼板の場合、熱延鋼板の引張強度は、550MPa以上であり、表面硬度は、HRBを基準として85以上である、請求項2~10のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項12】
前記鋼板が冷延鋼板の場合、冷延鋼板の引張強度は、500MPa以上であり、表面硬度は、HRBを基準として80以上である、請求項2~10のいずれか1項に記載の耐食性鋼板。
【請求項13】
重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.1%以下(0%は除く)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、スズ(Sn):0.07~0.22%、チタン(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、および窒素(N):0.005%以下(0%は除く)を含み、残部は鉄(Fe)および不可避不純物からなり、
下記式1および式2を満足する鋼スラブを準備する段階;
前記スラブを1,200℃以上で加熱する段階;および
前記加熱されたスラブを850~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;
を含む耐食性鋼板の製造方法。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48x([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
(式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]は、それぞれ鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含有量(重量%)を示す。)
【請求項14】
前記熱延鋼板を製造する段階;の後に、
前記熱延鋼板を450~750℃で巻取る段階;
前記巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および
前記冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;
をさらに含む、請求項13に記載の耐食性鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記スラブを1,200℃以上で加熱する段階;において、
在炉時間は、150分以上である、請求項13または14に記載の耐食性鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法に関する。より具体的には、化石燃料の燃焼後、排ガスに存在するSO、Clなどが排ガス温度の低下に伴って発生する硫酸/塩酸複合凝縮水および硫酸凝縮水によって鋼板が腐食する現象に対する耐食性と同時に、強度が高く、耐摩耗性に優れた鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料にはS、Clなどの多様な不純物元素が含まれている。このような化石燃料を用いて燃焼をするため、燃焼ガスの通る通路である配管および設備は腐食により劣化する問題が常に存在する。このような腐食現象を凝縮水腐食と呼ぶが、配管および設備がこれらの腐食環境に露出する代表的な使用先が火力発電所の排ガス配管および環境設備、自動車排気系などである。凝縮腐食の種類には、排ガスに含まれているSが燃焼することによってSOが形成され、特にSOが排ガス中の水分と接して硫酸を形成する硫酸凝縮水腐食、排ガス内あるいは産業用水に含まれている塩素が多様な反応により塩酸が生成され、生成される塩酸凝縮水による腐食、このような硫酸と塩酸とが複合的に混合されている状態で発生する硫酸/塩酸複合凝縮水腐食などがある。このような酸凝縮の開始温度は、排ガス自体の温度と排ガス内のSO、Clの含有量、そして水蒸気の含有量と関係がある。
【0003】
近年、発電所などの使用先で発電効率または外部に排出される廃熱を活用しようとする目的で排ガス温度自体を低くしようとする需要が持続している。一般に、硫酸が凝縮し始める温度まで排ガス温度が低下すると、排ガス中に形成された硫酸ガスが液化して鋼材表面に凝縮して腐食を起こす量が増えるだけでなく、塩酸が凝縮しうるより低い温度まで排ガス温度が低下すると、硫酸と塩酸とが複合的に凝縮する複合腐食現象が起こる。
【0004】
また、近年、火力発電所環境設備の脱硫効率を増加させるための設備変更関連の研究が持続している。代表例として、脱硫設備の前/後段の熱交換装置であるGGH(Gas Gas Heater)のタイプ(type)が変更されている。既存のGGHは、電気集塵機(EP、Electrostatic Precipitator)の後段に位置して、これに使用される鋼材の開発は耐食性に重点をおいて研究をしていたが、近年のGGHは、電気集塵機の前段に一部の脱硫設備が配置されることによって除去できないダスト(dust)による鋼材の侵食による腐食だけでなく、摩耗による腐食が発生していて、これらの設備に用いられる鋼材は、耐食性に加えて、耐摩耗の問題まで同時に解決する必要性がある。
【0005】
このような問題を解決する方策の一例として、デュプレックス系ステレンス鋼(Duplex系STS鋼)などの高合金系高耐食鋼を用いたり、排ガス温度を上昇する方法があるが、これは設備の高費用化と発電効率の低下につながる。また、高強度鋼材を採用する動きがあるが、これは、強度問題は解決しても耐食性問題によるその他の設備の劣化問題をもたらすことがある。
【0006】
一方、耐硫酸凝縮腐食鋼として知られたCu添加耐食鋼を使用すると、鋼表面に生成されたCu濃化層が硫酸凝縮に対する耐食性を発揮して腐食を抑制する腐食抑制層を形成し、一般鋼を用いる場合に比べて設備寿命を大きく向上させる効果を発揮する。しかし、先に言及した排ガスの低温化と腐食環境の複合化、耐摩耗性の要求が既存の耐硫酸凝縮腐食鋼の耐食特性を低下させて、より性能に優れた耐食鋼に対する需要が持続的にあった。
【0007】
そして、既存の耐硫酸凝縮腐食鋼や高合金ステレンス鋼としては、複合的で苛酷な耐食環境で本来の性能を発揮できない問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法を提供しようとする。より具体的には、化石燃料の燃焼後、排ガスに存在するSO、Clなどが排ガス温度の低下に伴って発生する硫酸/塩酸複合凝縮水および硫酸凝縮水によって鋼板が腐食する現象に対する耐食性と同時に、強度が高く、耐摩耗性に優れた鋼板およびその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.1%以下(0%は除く)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、スズ(Sn):0.07~0.22%、チタン(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.005%以下(0%は除く)、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、下記式1および式2を満たす。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48x([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]は、それぞれ鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含有量(重量%)を示す。
【0010】
耐食性鋼板は、TiC析出物を含み、TiC析出物およびTiC析出物からなる集合体は、1cmあたり1016個以上含まれる。
【0011】
TiC析出物の粒径は、1~10nmであってもよい。
【0012】
耐食性鋼板は、下記式3をさらに満たすことができる。
[式3]
12x[Sn]+22x[Sb]+50x[Cu]≧15
この時、式3中、[Sn]、[Sb]、および[Cu]は、それぞれ鋼板内のSn、Sb、およびCuの含有量(重量%)を示す。
【0013】
鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液とが混合された溶液に40~80℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成される。
【0014】
鋼板を50重量%の硫酸溶液に50~90℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成される。
【0015】
濃化層は、Cu、Sb、およびSnを含むことができる。
【0016】
濃化層の濃化量は、15重量%以上であってもよい。
【0017】
この時、濃化量とは、FeとOが重量%で同一になる境界地点をとり、この時の濃化元素Mo、Cu、Sb、Snの含有量の合計(重量%)を意味する。
【0018】
濃化層の厚さは、10nm以上であってもよい。
【0019】
鋼板を焼鈍熱処理した後の再結晶分率は、80%以上であってもよい。
【0020】
鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液とが混合された溶液に60℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が1.0mg/cm/hr.以下であってもよい。
【0021】
鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃で6時間浸漬する場合の腐食減量比が25mg/cm/hr.以下であってもよい。
【0022】
鋼板が熱延鋼板の場合、熱延鋼板の引張強度は、550MPa以上であり、表面硬度は、HRBを基準として85以上であってもよい。
【0023】
鋼板が冷延鋼板の場合、冷延鋼板の引張強度は、500MPa以上であり、表面硬度は、HRBを基準として80以上であってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.1%以下(0%は除く)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、スズ(Sn):0.07~0.22%、チタン(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.005%以下(0%は除く)、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、下記式1および式2を満たす鋼スラブを準備する段階;スラブを1,200℃以上で加熱する段階;および加熱されたスラブを850~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;を含む。
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
[式2]
48x([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]は、それぞれ鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含有量(重量%)を示す。
【0025】
一方、熱延鋼板を製造する段階;の後、熱延鋼板を450~750℃で巻取る段階;巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;をさらに含むことができる。
【0026】
また、スラブを1,200℃以上で加熱する段階;において、在炉時間は、150分以上であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、化石燃料の燃焼後、排ガスの通る配管、化石燃料燃焼設備用熱間圧延製品類および冷間圧延製品類の原素材として有効に活用できる。
【0028】
火力発電所用脱硫設備に用いられる熱交換装置GGH(Gas Gas Heater)が電気集塵機(EP、Electrostatic Precipitator)の前段に設置されるか、後段に設置されるかを問わず、本発明の一実施形態による耐食性鋼板をGGH設備に適用する場合、環境変化の差が大きいにもかかわらず、耐摩耗性と複合耐食性の要件をすべて満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】発明例2の鋼板を50重量%硫酸溶液に24時間浸漬後、GDS測定により表面から内部に元素分布を測定して、鋼板表面部の元素の濃化度を示すグラフである。
図2】(a)発明例4を条件1で熱間圧延後の熱延エッジ(Edge)部のクラック(Crack)の発生傾向と、(b)発明例4を条件2で熱間圧延後の熱延エッジ(Edge)部のクラック(Crack)の発生傾向とを比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書において、第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを、他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
【0031】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0032】
本明細書において、使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0033】
本明細書において、マーカッシュ形式の表現に含まれている「これらの組み合わせ」の用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群より選択される1つ以上の混合または組み合わせを意味するものであって、前記構成要素からなる群より選択される1つ以上を含むことを意味する。
【0034】
本明細書において、ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これはまさに他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴っていてもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
【0035】
他に定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0036】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0037】
本発明の一実施形態において、追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0038】
以下、本発明の実施形態について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0039】
本発明の発明者らは、通常の中~低炭素鋼板にTiなどの析出物を形成可能な元素を添加する場合、その製造過程で適切な製造条件を利用すれば、中間素材の熱延材と最終素材の冷延材の硬度、強度を大幅に増加させることができることを確認した。
【0040】
つまり、このような鋼板が硫酸あるいは硫酸/塩酸複合腐食環境に置かれた場合、鋼板中に含有された元素の種類と含有量、そして複合関係により生成される腐食生成物によって析出物が形成されているにもかかわらず、追加的な腐食を阻害することを確認した。
【0041】
この時、鋼板中に特殊成分元素であるCu、Sb、Snなどを2つ以上複合添加すると、硫酸高濃度と硫酸/塩酸複合凝縮環境での耐食性を同時に大きく向上させることができ、これによって凝縮水腐食環境での設備の耐腐食性能を画期的に増加させることができるという結論にたどり着いた。
【0042】
このような原理を利用して、低炭素鋼板に腐食反応時、鋼材と腐食生成物との間に生成される耐食元素を含有する濃化層が緻密に形成できることを確認し、これにより、製造された鋼板が浸漬腐食環境で優れた耐食性を有することを見出した。
【0043】
以下、本発明の一実施形態として、耐摩耗性と複合耐食性に優れた鋼板およびその製造方法について詳しく説明する。
【0044】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.1%以下(0%は除く)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1%~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、スズ(Sn):0.07~0.22%、チタン(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.005%以下(0%は除く)、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、下記式1および式2を満たす。
【0045】
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
【0046】
[式2]
48x([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
【0047】
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]は、それぞれ鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含有量(重量%)を示す。
【0048】
一方、耐食性鋼板は、下記式3をさらに満たすことができる。
【0049】
[式3]
12x[Sn]+22x[Sb]+50x[Cu]≧15
【0050】
この時、式3中、[Sn]、[Sb]、および[Cu]は、それぞれ鋼板内のSn、Sb、およびCuの含有量(重量%)を示す。
【0051】
まず、鋼板の成分および式1、式2、および式3を限定した理由を説明する。
【0052】
炭素(C):0.04~0.10重量%
低炭素鋼板の炭素の含有量は0.04~0.10重量%であってもよい。鋼中の炭素の含有量が過度に多い場合、過度なTiC形成およびカーバイド(Carbide)形成による耐食性の低下、特に硫酸/塩酸複合耐食性の低下が起こることがある。逆に、炭素の含有量が過度に少ない場合、本発明で目的とする強度を確保することができない可能性がある。より具体的には、0.042~0.10重量%であってもよい。
【0053】
シリコン(Si):0.1重量%以下(0重量%は除く)
低炭素鋼板のシリコンの含有量は、0.1重量%以下であってもよい。鋼中のシリコンの含有量が過度に多い場合、表面にSiOとFe酸化物との複合相形状による多量の赤スケール(Scale)が誘発されうる。したがって、表面欠陥の解消のために前記の範囲のSi含有量である。より具体的には、0.05重量%以下であってもよい。さらに具体的には、0.01~0.05重量%であってもよい。
【0054】
銅(Cu):0.20~0.35重量%
Cuは酸浸漬環境で腐食する場合、鋼材表面と腐食生成物との間に濃化して追加的な腐食を防ぐ代表的な元素である。その効果を示すためには、適切な量のCuが添加される。ただし、過度に多く添加する時には、Cuの低い融点によって、製造時にクラックを誘発する可能性がある。
【0055】
ニッケル(Ni):0.1%~0.2重量%
NiなしにCuのみが鋼に添加される場合、Cuの低い融点によって、粒界に液状のCuが浸透してクラックを起こすことがある。Niの添加で融点を上げて、クラックの発生を制限しようとする目的でNiを添加する。Niの含有量が過度に少ない場合には、このようなCuの融点を高める役割を十分に果たせず、逆に、Niの含有量が過度に多い場合には、Niによる表面欠陥が発生することがある。より具体的には、0.11~0.19重量%であってもよい。
【0056】
[式1][Ni]/[Cu]≧0.5
Cuとともに、Niを添加する理由と同様の理由から、融点を適切に高め、Niによる表面欠陥を誘発しないために、前記の範囲でNiとCuを添加することができる。式1の数値が過度に高ければ、Niによる表面欠陥が生じることがあり、式1の数値が過度に低ければ、Niによって融点を高める効果がわずかになる可能性がある。この時、式1中、[Ni]、および[Cu]は、それぞれ鋼板内のNi、およびCuの含有量(重量%)を示す。
【0057】
アンチモン(Sb):0.05~0.15重量%
Sbは、Cuと同様に、表面に安定した濃化層を形成するために添加する。Sbの含有量が過度に少ない場合には、十分な濃化層を形成できないことがある。逆に、過度に多い場合には、表面クラックを誘発しうる。
【0058】
スズ(Sn):0.07~0.22重量%
Snは、Cu、Sbと同様に、表面に安定した濃化層を形成するために添加する。特に、Snは、硫酸などの酸浸漬環境で先に溶解して鋼種の耐食性を大きく向上させる役割が確認された。より具体的に説明すれば、明確ではないが、下記のようなメカニズムでSnが鋼種の耐食性を向上させることが考えられる。鋼板を硫酸または複合酸の浸漬環境におくと、SnとCuが溶解するが、SnはCuより先に溶解する。SnがCuより先に溶解していくにつれ、Snは溶液中に解離する。解離したSnは溶液の腐食電位を低くし、これによって鋼板の腐食現象が一部遅延すると考えられる。この時、腐食電位(Corrosion Potential)とは、腐食が進行中の金属の組み合わせ電極(Reference Electrode)に対する電位を意味する。また、鋼板表面に溶解していたSnが再融着する過程で腐食遅延層が形成できるが、このような腐食遅延層は鋼板の腐食を遅延させることができると考えられる。Snが過度に少なく含まれる場合、十分な濃化層を形成できないことがある。Snが過度に多く添加される場合には、生産過程で深刻な表面クラックを誘発しうる。より具体的には、0.073~0.22重量%であってもよい。
【0059】
[式3]12x[Sn]+22x[Sb]+50x[Cu]≧15
前記Cu、Sb、およびSnは、硫酸/塩酸複合凝縮雰囲気または硫酸凝縮雰囲気で鋼板表面に濃化層を形成する元素であるが、各元素の適切な含有量のみならず、式3の関係を満たすことができる。式3の数値が過度に少なければ、十分な濃化層が形成できないというデメリットがある。この時、式3中、[Sn]、[Sb]、および[Cu]は、それぞれ鋼板内のSn、Sb、およびCuの含有量(重量%)を示す。より具体的には、式3は、15~26であってもよい。さらに具体的には、15.2~23.44であってもよい。
【0060】
チタン(Ti):0.05~0.15重量%
Tiは、析出物を形成する元素として作用して鋼板の強度および耐摩耗性を高めるために添加する。つまり、TiはCと結合してTiC析出物を形成する。TiCは微細な析出物であって、析出硬化(Precipitation strengthening)によって鋼板の硬度および耐摩耗性を向上させることができ、同時に強度を増加させることができる。これに関連して、TiCに関する具体的事項は後述する。ここで、Tiの含有量が過度に少なければ、析出物が十分に形成できず強度増加の効果がないというデメリットがある。これに対し、過度に多ければ、過度にTiCが形成されて、圧延時にクラックが発生するというデメリットがあり、製鋼段階でTi、Al系複合酸化物が形成されて、タンディッシュノズルを詰まらせて製造不良および表面不良を起こすことがある。したがって、Tiは、より具体的には、0.05~0.145重量%含むことができる。さらに具体的には、0.052~0.145重量%含むことができる。
【0061】
硫黄(S):0.01重量%以下(0%は除く)
Sは、Ti炭化物を形成するうえで有効なTiの含有量を制限する逆効果をもたらすことがある。その理由は、本発明では、TiC析出物の形成による析出硬化で耐摩耗性を高めることを特徴とするが、TiCの形成前にTiSが先に形成されるため、Sの含有量が多ければ、TiCの形成が妨げられるからである。したがって、最大成分の範囲を前記の範囲とすることができる。より具体的には、0.0097重量%以下であってもよい。さらに具体的には、0.001~0.0097重量%であってもよい。
【0062】
窒素(N):0.005重量%以下(0%は除く)
Nは、Ti炭化物を形成するうえで有効なTiの含有量を制限する逆効果をもたらすことがある。その理由は、本発明では、TiC析出物の形成による析出硬化で耐摩耗性を高めることを特徴とするが、TiCの形成前にTiNが先に形成されるため、Nの含有量が多ければ、TiCの形成が妨げられるからである。参照として、Tiが析出物として形成される時には、TiN、TiS、TiCの順に形成される。したがって、最大成分の範囲を前記の範囲とすることができる。より具体的には、0.004重量%以下であってもよい。さらに具体的には、0.001~0.004重量%であってもよい。
【0063】
[式2]48x([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
有効なTi(Ti)の含有量は、式2で計算される。前記のS、Nの成分範囲を満たしても、式2の範囲を満たさなければ、十分なTiCを形成できず強度低下につながることがある。この時、式2中、[Ti]、[S]、および[N]は、それぞれ鋼板内のTi、S、およびNの含有量(重量%)を示す。より具体的には、式2の範囲は0.04~0.12であってもよい。
【0064】
また、前記鋼板は、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)をさらに含むことができる。
【0065】
マンガン(Mn):0.5~1.5重量%
Mnは、鋼中に固溶強化により強度を向上させる役割を果たすが、その含有量があまりにも過剰であれば、粗大なMnSが形成されて、むしろ強度を低下させる問題がある。したがって、本発明において、Mnの含有量は0.5~1.5重量%に制限することが好ましい。
【0066】
アルミニウム(Al):0.02~0.05重量%
Alは、アルミニウムキルド鋼(Al-killed)の製造時に不可避に添加される元素であって、脱酸効果のために適正含有量で添加されることが好ましい。ただし、前記Alの含有量が0.02重量%を超える場合、鋼板の表面欠陥を誘発する可能性が高まるだけでなく、溶接性が低下する問題がある。したがって、本発明では、Alの含有量を0.02~0.05重量%に制限することが好ましい。
【0067】
前記成分のほか、本発明は、Feおよび不可避不純物を含む。不可避不純物は当該技術分野にて広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施形態において、前記成分のほか、有効な成分の添加を排除するものではなく、追加成分をさらに含む場合、残部のFeを代替して含まれる。
【0068】
一方、本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、耐摩耗性に優れているという特徴を有し、これに関連してTiC析出物を含むことができる。TiC析出物および前記TiC析出物からなる集合体は、微細な析出物として析出硬化(Precipitation strengthening)によって鋼板の硬度および耐摩耗性を向上させることができ、同時に強度を増加させることができる。
【0069】
TiC析出物と複数のTiC析出物からなる集合体は、1cmあたり1016個以上含まれる。析出物の含有量が過度に少なければ、目的とする強度と耐摩耗性を確保できないというデメリットがある。より具体的には、1cmあたり1016~1018個であってもよい。
【0070】
TiC析出物は、球状であってもよい。
【0071】
TiC析出物の粒径は、1~10nmであってもよい。析出物は、鋼材内部で電位の移動を妨げ、電位帯を形成して強度を上昇させるが、析出物の粒径が過度に小さければ、電位が移動しやすくて強度上昇の効果がないというデメリットがあるのに対し、析出物の粒径が過度に大きければ、析出物を電位が切って通ることで移動を容易にするため、同じく強度上昇の効果が低下するというデメリットがある。より具体的には、2~10nmであってもよい。さらに具体的には、2~8nmであってもよい。ここで、粒径とは、粒子と同一の体積を有する球を仮定して、その球の直径を意味する。
【0072】
また、TiC析出物は、鋼板内に均一に分布できる。
【0073】
一方、本発明の一実施形態による耐食性鋼板において、Cu、Sb、およびSnなどは、硫酸/塩酸複合凝縮雰囲気または硫酸凝縮雰囲気で濃化層を形成し、これは追加的な腐食を抑制する。より具体的には、鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液とが混合された溶液に40~80℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成される。また、鋼板を50重量%の硫酸溶液に50~90℃で浸漬する場合、鋼板の表面に濃化層が生成される。より具体的には、4~8時間浸漬する場合、濃化層が生成される。
【0074】
この時、濃化層とは、Cu、Sb、Snが濃化し始める層を意味し、他の面では一般に酸化が始まる点と類似している。本発明における濃化層は、その層におけるCu、Sb、およびSnの合量が鋼板のCu、Sb、およびSnの合量の4倍を超える層を意味する。
【0075】
また、濃化層は、非晶質の濃化層であってもよい。
【0076】
濃化層は、酸に浸漬する時、腐食層の形成と共に生成される。この時、腐食層は、FeがOによって酸化した層を意味する。一般にCu、SbよりFeが先に酸化し、酸に浸漬時、FeはFeイオンに解離して酸溶液へ抜け出るが、Cu、Sbは固体状態にあった方が安定していて、表面に残留する。したがって、酸反応が持続して鋼板表面にFe含有量の減縮が持続的に生じても、Cu、Sbは表面に残って濃度の高い層が形成される。これは一定の反応時間が経過した後、濃化層という形態で表面に生成され、その濃化層は酸と内部鉄との直接的な接触を防ぐことで追加的な腐食を抑制する。
【0077】
濃化層は、Cu、Sb、およびSnを含むことができ、濃化層の濃化量は、15重量%以上であってもよい。この時、濃化量は、FeとOが重量%で同一になる境界地点をとり、この時の濃化元素Mo、Cu、Sb、Snの含有量の合計(重量%)を意味する。つまり、FeとOの含有量(重量%)が同一になる境界地点をとり、この時の濃化元素Cu、Sb、Snの含有量の合計(重量%)を意味する。濃化量が過度に少なければ、濃化層が十分に形成できず腐食減量比が増加するというデメリットがある。より具体的には、15%~22%であってもよい。
【0078】
濃化層におけるFeとOの含有量(重量%)が同一になる地点での各濃化元素の含有量は、Cu:10~15重量%、Sb:1~3重量%、およびSn:1~3重量%であってもよい。
【0079】
濃化層の厚さは、10nm以上であってもよい。より具体的には、濃化層は、10~500nmの厚さに形成される。濃化層の厚さが過度に薄い場合、前述した腐食防止の役割を果たしにくい。濃化層が過度に厚く形成される場合、濃化層の内部にCrackが発生して、本crackに沿って酸が浸透して腐食を発生させることがある。さらに具体的には、濃化層は、12~100nmの厚さに形成される。
【0080】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板は、熱延鋼板または冷延鋼板であってもよい。
【0081】
熱延鋼板の場合、鋼板の厚さは、2.5~5.5mmであってもよい。より具体的には、3.5~5.5mmであってもよい。
【0082】
冷延鋼板の場合、鋼板の厚さは、1.0~2.5mmであってもよい。より具体的には、1.0~2.0mmであってもよい。
【0083】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板が冷延鋼板の場合、鋼板を焼鈍熱処理した後の再結晶分率は、80%以上であってもよい。より具体的には、100%であってもよい。再結晶分率が過度に低い場合、強度は高まるが、延性が急激に低下して、顧客加工時に欠陥を形成するというデメリットがある。この時、再結晶分率とは、全体鋼板の面積を基準として再結晶されたグレイン(grain)の面積を意味する。
【0084】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板を28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液とが混合された溶液で60℃、6時間浸漬する場合の腐食減量比が1.0mg/cm/hr.以下であってもよい。
【0085】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板を50重量%硫酸溶液に70℃、6時間浸漬する場合の腐食減量比が25mg/cm/hr.以下であってもよい。
【0086】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板が熱延鋼板の場合、熱延鋼板の引張強度は、550MPa以上であり、表面硬度は、HRBを基準として85以上であってもよい。
【0087】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板が冷延鋼板の場合、冷延鋼板の引張強度は、500MPa以上であり、表面硬度は、HRBを基準として80以上であってもよい。
【0088】
本発明の一実施形態による耐食性鋼板の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.04~0.10%、シリコン(Si):0.1%以下(0%は除く)、銅(Cu):0.20~0.35%、ニッケル(Ni):0.1~0.2%、アンチモン(Sb):0.05~0.15%、スズ(Sn):0.07~0.22%、チタン(Ti):0.05~0.15%、硫黄(S):0.01%以下(0%は除く)、窒素(N):0.005%以下(0%は除く)、残部鉄(Fe)および不可避不純物を含み、下記式1および式2を満たす鋼スラブを準備する段階;スラブを1,200℃以上で加熱する段階;および加熱されたスラブを850~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;を含む。
【0089】
[式1]
[Ni]/[Cu]≧0.5
【0090】
[式2]
48x([Ti]/48-[S]/32-[N]/14)≧0.04
【0091】
この時、式1および式2中、[Ni]、[Cu]、[Ti]、[S]、および[N]は、それぞれ鋼板内のNi、Cu、Ti、S、およびNの含有量(重量%)を示す。
【0092】
また、熱延鋼板を製造する段階;の後、熱延鋼板を450~750℃で巻取る段階;巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;および冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;をさらに含むことができる。
【0093】
以下、各段階別に具体的に説明する。
【0094】
まず、前述した組成を満たすスラブを加熱する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は、前述した鋼板の組成の限定理由と同一であるので、繰り返しの説明を省略する。後述する熱間圧延、巻取、酸洗、冷間圧延、焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と最終製造された耐食性鋼板の組成とは実質的に同一である。
【0095】
スラブを加熱することによって後続する熱間圧延工程を円滑に行い、スラブを均質化処理することができる。より具体的には、加熱は、再加熱を意味することができる。この時、スラブの加熱温度は、1,200℃以上であってもよい。スラブの加熱温度が前記の範囲である理由は、十分なTiの再固溶のためである。十分にTiが再固溶してこそ、後にTiC析出物が析出するからである。
【0096】
一方、スラブ加熱時の在炉時間は、150分以上であってもよい。在炉時間が過度に少なければ、Tiの再固溶が十分に起こらないことがある。
【0097】
次に、加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。熱間圧延の仕上げ圧延温度は、850~1000℃であってもよい。仕上げ圧延温度が過度に低ければ、十分な圧延能力を発揮できず、これに対し、仕上げ圧延温度が過度に高ければ、鋼板の強度確保が難しいことがある。この時、熱延板の厚さは、2.5~5.5mmであってもよい。
【0098】
次に、熱延鋼板を巻取る段階を含むことができる。熱延鋼板を巻取る段階;は、450~750℃で行われる。巻取温度が過度に低ければ、熱延材の初期強度の増加によって最終冷間圧延が困難になり、これに対し、巻取温度が過度に高ければ、巻取区間での相変態による座屈発生および強度低下の問題がありうる。
【0099】
以後、巻取られた熱延鋼板を酸洗する段階;を含むことができる。
【0100】
次に、巻取られた熱延鋼板を圧下率54~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;を含むことができる。圧下率が過度に低ければ、冷間圧延時に完全再結晶を確保しにくいことがあり、これは素材の延伸率低下を誘発し、後の顧客加工時にクラックなどが誘発されうる。これに対し、圧下率が過度に高ければ、圧延過程でモータの負荷により圧延されない問題が発生することがある。
【0101】
次に、冷延鋼板を750~880℃で焼鈍熱処理する段階;を含むことができる。焼鈍熱処理温度が過度に低ければ、完全再結晶を確保しにくいことがあり、これは素材の延伸率低下を誘発し、後の顧客加工時にクラックなどが誘発されうる。これに対し、焼鈍熱処理温度が過度に高ければ、鋼板の強度を確保しにくい問題がある。
【0102】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
【実施例
【0103】
実施例
まず、下記表1にまとめられた合金成分を含む低炭素の鋼スラブを製造した。
【0104】
スラブを1250℃で200分間加熱した後、3.5mmの厚さに熱間圧延して、熱延板を製造した。仕上げ圧延温度(FDT)は920℃であり、巻取は650℃で行った。
【0105】
【表1】
【0106】
前記低炭素鋼板を製造した後、ASTM G31の標準に記載の方法で浸漬試験を行った。浸漬試験は、50重量%硫酸水溶液を製造して、70℃で6時間浸漬する方法で行った。浸漬後には、ASTM G1の試験片の表面洗浄方法により洗浄後の重量減量を測定して、単位時間あたり、単位表面積あたりの重量減量を測定した。
【0107】
また、韓国型火力発電所で低温凝縮時に置かれる硫酸/塩酸複合凝縮を模写するために、28.5重量%硫酸溶液と0.5重量%塩酸溶液とが混合された混合水溶液を製造して、60℃で6時間浸漬する試験も行った。浸漬後には、前記と同様に、ASTM G1の試験片の表面洗浄方法におり洗浄後の重量減量を測定して、単位時間あたり、単位表面積あたりの重量減量を測定した。
【0108】
その結果を下記表2に示した。単位はmg/cm/hrである。
【0109】
一方、耐食元素と表面濃化層との関係を究明するために、各発明例および比較例の熱延板を50重量%硫酸溶液に70℃で24時間浸漬後、試験片をGDS測定により表面から内部に元素分布を測定した。下記表2には、これから測定した濃化層の厚さと、表面濃化元素の濃化量を測定して示した。
【0110】
この時、濃化層とは、Cu、Sb、Snが濃化し始める層を意味し、他の面では一般に酸化が始まる点と類似している。経験的に、濃化層の厚さは、その層におけるCu、Sb、およびSnの合量が鋼板のCu、Sb、およびSnの合量の4倍を超える層の厚さとして測定した。この時、重量%で、FeとOの含有量(重量%)が同一になる境界地点でCuなどが最大濃化することを確認して、濃化量はFeとOの含有量(重量%)が同一になる地点をとり、この時の濃化元素Cu、Sb、Snの含有量の合計(重量%)で計算した。Sb、Sn、Cuからなる濃化層は約20wt%水準で鋼材と腐食生成物の表面に存在することが確認された。このような濃化層の厚さと濃化量が浸漬時の耐食性を決定することが分かった。
【0111】
これに関連して、図1は、発明例2の鋼板を50重量%硫酸溶液に24時間浸漬後、GDS測定により表面から内部に元素分布を測定して、鋼板表面部の元素の濃化度を示すグラフである。発明例2のCu、Sb、Snの含有量の合計は(0.26+0.1+0.15)で、0.51重量%であり、depth14nmでCu、Sb、Snの合量が0.51重量%の4倍の2.04重量%を超える。したがって、そのdepthの14nmを濃化層の厚さとした。(赤い点線)
【0112】
また、FeとOが接する境界地点つまり、FeとOの含有量が同一になる地点は、図1の青い点線(左側)に該当する層であり、その層におけるCu、Sb、Snの合量である濃化量は17重量%であった。
【0113】
また、製造した鋼板に対して、酸浸漬前に強度、硬度およびクラックの有無を確認した。前記発明例と比較例の熱延材をJIS13B規格に合った引張試験片に賃加工した後、圧延方向に長く引張試験を行い、Rockwell硬度基準のHRB表面硬度を測定した結果を下記表2に示した。
【0114】
さらに、熱延板の製造時、連続鋳造過程で鋳片へのクラック(Crack)発生の有無や、熱間圧延過程で熱延材エッジ(Edge)のクラック(Crack)発生の有無も下記表2に示した。ここで、濃化量は、FeとOの含有量(重量%)が同一になる地点での濃化元素Cu、Sb、Snの含有量の合計(重量%)を意味する。
【0115】
【表2】
【0116】
Cの含有量が低い比較例1の場合、低いCの含有量によるTiC析出物の含有量の低下で熱延材の引張強度が550MPaより低く、表面硬度が低くて、強度と摩耗性を確保できなかった。しかし、比較例2のようにCの含有量が過度に高い場合には、TiC析出物の増加によって複合耐食性が低下する現象が観察された。
【0117】
本発明では、特徴的にSiの含有量を大幅に下げたが、その理由は、比較例3のようにSiの含有量が高いほど、赤スケール(Scale)が熱延材表面に過度に発生し、これがクラックにつながることを確認したからである。
【0118】
Cuの含有量が少ない比較例4は、特に硫酸単独で耐食性の低下をもたらし、Cuの含有量が過度に高い比較例5の場合には、連続鋳造過程でCuの液化による鋳片のクラックが確認された。
【0119】
式1のようにNiの積極的な添加がCuの融点を高める役割を果たすので、比較例6のようにNi/Cuの比が一定以上を満たさない場合には、鋳片のクラックが発生することを確認した。
【0120】
耐食性に最も重要な元素はCu、Sb、Snで、Sbの含有量が低い比較例8の場合と、Snの含有量が低い比較例12の場合には耐食性が大きく低下し、Sbの含有量が過度に高い比較例9とSnの含有量が過度に高い比較例13の場合には、熱延材の表面欠陥とクラックが誘発されることを確認できた。
【0121】
本発明では、強度と表面硬度を確保するための析出物形成のためにTiを積極的に添加したが、Tiの含有量が比較例10のように低い場合には、熱延材の引張強度と表面硬度が急激に低下することを確認できる。一方、Tiの含有量が高い比較例11の場合、特に0.15重量%以上の場合は、連続鋳造過程でノズル詰まりを誘発することがあり、実際に比較例の試験過程でも深刻なノズル詰まりを確認した。
【0122】
TiC形成のためには、C、Tiの調整と温度調整だけが重要なわけではなく、Ti系炭化物を析出可能な有効なTiの含有量が重要である。比較例14、15のように過度な窒素と硫黄の添加は、有効Tiの含有量を低くして強度増加の効果を相殺する。
【0123】
また、比較例16のように発明例に記載のS、Nの含有量内にあるとしても、式2の有効Ti(Ti)の含有量は0.04以上でなければ、高強度および高耐摩耗性の効果を得にくい。一方、有効Tiの含有量が低い比較例16の場合、TiCの密度も小さく、TiCの粒径も過度に小さくて、所望の析出硬化効果が得られないというデメリットがあった。
【0124】
下記表3は、熱延材と冷延材の生産の可能性と強度に及ぼす製造条件の影響度を調べるために、発明例4の成分系で製造条件を異ならせて製造した後、特性を評価したものである。
【0125】
【表3】
【0126】
表3の結果をみると、再加熱温度が1200℃より低い条件10の場合、発明成分系を用いても熱延材と冷延材の引張強度が減少することを確認できるが、これはスラブ過程で析出物として形成されていたTiが再加熱過程で十分に再固溶できなかったからである。
【0127】
熱間仕上げ圧延温度(FDT)が高い条件2の場合には、熱延生産過程でエッジクラック(Edge Crack)が発生し、これは巻取温度(CT)が低い条件4の場合にも同様に起こった。これに関連して、図2は、(a)発明例4を条件1で熱間圧延後の熱延エッジ(Edge)部のクラック(Crack)の発生傾向と、(b)発明例4を条件2で熱間圧延後の熱延エッジ(Edge)部のクラック(Crack)の発生傾向とを比較した写真である。
【0128】
これに対し、熱間仕上げ圧延温度(FDT)が1050℃と高い条件3は、熱延材と冷延材の引張強度が低くて目標とする材質を確保できず、これは巻取温度(CT)が高い条件5の場合にも同様に起こった。
【0129】
本発明の鋼種は、CとTiの含有量が高くて冷間圧延後の再結晶温度が高いという特徴があるが、冷間圧下率が53%である条件6の場合には、最終冷延材の再結晶分率が70%水準と完全再結晶をなしておらず、焼鈍温度が740℃と低い条件8の場合にも、再結晶分率が65%と完全再結晶をなしていなかった。完全な再結晶が起こらない前記素材の場合には、延伸率の低下で顧客加工時にクラックなどが誘発されることがあって、本発明では、冷間圧延材として用いる場合、圧下率を54%以上、焼鈍温度を750℃以上に制限する。
【0130】
そして、熱延材の強度が高かったり、冷間圧下率が高い条件4と条件7の場合には、圧延過程でモータの負荷により圧延されない問題が発生して、最終製品を獲得できなかった。
【0131】
本発明は実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。
図1
図2(a)】
図2(b)】