(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
F04D19/04 H
F04D19/04 G
F04D19/04 E
(21)【出願番号】P 2023008521
(22)【出願日】2023-01-24
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
(72)【発明者】
【氏名】中辻 重義
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-158145(JP,A)
【文献】国際公開第2022/131035(WO,A1)
【文献】特開2015-148151(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115263776(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/00-53/22
F04C 2/00-29/12
F04D 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口及び排気口のうち少なくとも前記排気口が設けられた、ケーシングと、
前記ケーシング及び前記排気口のうち少なくとも前記ケーシングの一部を高温とする加熱手段と、
を備えた真空ポンプであって、
前記真空ポンプは、
前記ケーシングの側面を覆う、環状かつ薄板状の側面カバーと、
前記排気口の周囲を覆う、薄板状の排気口カバーと、
を有し、
前記排気口カバーは、前記側面カバーとは別部品であり、かつ、前記側面カバーが取り付けられた状態でも脱着可能であることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記排気口カバーは、前記排気口の周囲を囲う様にほぼ一周をカバーし、かつ、少なくとも2部品で構成されることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記排気口カバーは、前記排気口の中心を通る中心線に対して、線対称に分割された構造であることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記側面カバーまたは前記排気口カバーと、前記ケーシングとの間に空隙を有し、
前記空隙において、前記側面カバーまたは前記排気口カバーの変形を低減させる強度向上対策が施されていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記強度向上対策は、前記側面カバーまたは前記排気口カバーにおいて、少なくとも一端が前記ケーシング側に折り曲げられている構造を用いたものであることを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記強度向上対策は、前記ケーシングと、前記側面カバーまたは前記排気口カバーとの間に配置された支柱構造を用いたものであることを特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記ケーシングにおいて、前記側面カバーまたは前記排気口カバーが配置される部分は、温度調整手段により、温度調整されていることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記ケーシングは、前記真空ポンプ内の排気流路の真空を確保する構造体である内側ケーシングと、該内側ケーシングの周囲を覆う外側ケーシングの二重構造で形成されることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子(ガス分子)を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある。
【0003】
また、後掲の特許文献1(段落0005、0006など)には、ベースを、空気断熱層を介して覆うカバー部材を備え、ユーザが高温部に触れる危険を回避することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1(段落0029など)には、カバー部材によりベースの外周側を覆ってユーザが高温部であるベースに触れる危険性を回避することや、カバー部材に熱を伝えないようにすること、及び、カバー部材を冷却すること等が開示されている。しかし、真空ポンプの安全性をより一層向上するためには、さらなる改良が必要である。
【0006】
本発明の目的とするところは、安全性をより一層向上することが可能な真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明に係る真空ポンプは、
吸気口及び排気口のうち少なくとも前記排気口が設けられた、ケーシングと、
前記ケーシング及び前記排気口のうち少なくとも前記ケーシングの一部を高温とする加熱手段と、
を備えた真空ポンプであって、
前記真空ポンプは、
前記ケーシングの側面を覆う、環状かつ薄板状の側面カバーと、
前記排気口の周囲を覆う、薄板状の排気口カバーと、
を有し、
前記排気口カバーは、前記側面カバーとは別部品であり、かつ、前記側面カバーが取り付けられた状態でも脱着可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によれば、安全性をより一層向上することが可能な真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るターボ分子ポンプの構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】
図1と同じターボ分子ポンプの構成を異なる部位に符号を付して示す説明図である。
【
図6】ターボ分子ポンプの排気ポート15が設けられた側を示す側面図である。
【
図7】ターボ分子ポンプを、排気ポート15が設けられた側を背後にして示す側面図である。
【
図8】
図6のターボ分子ポンプを、第2排気口カバー部品222Bと第2側面カバー部品224Bとを取り外して示す側面図である。
【
図9】
図7のターボ分子ポンプを、第2側面カバー部品224Bを取り外して示す側面図である。
【
図10】(a)は第2排気口カバー部品222Bを示す斜視図、(b)は第2側面カバー部品224Bを示す斜視である。
【
図11】変形例のターボ分子ポンプの構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0011】
<<ターボ分子ポンプ100の基本構成>>
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0012】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、破線で示す制御装置200に送るように構成されている。
【0013】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0014】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0015】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク(「アーマチャディスク」ともいう)111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0016】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0017】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0018】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0019】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0020】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙(所定の間隔)を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0021】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0022】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0023】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝(図示略)が複数条刻設されている。ネジ溝(図示略)の螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)が形成された回転体本体103aの下部には回転体下部円筒部103bが垂下されている。この回転体下部円筒部103bの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝(図示略)に移送されてきた排気ガスは、ネジ溝(図示略)に案内されつつベース部129へと送られる。このように、ネジ付スペーサ131と、これに対向する回転体下部円筒部103bは、ホルベック型排気機構部を構成する。ホルベック型排気機構部は、ネジ付スペーサ131に対する回転体下部円筒部103bの回転により、排気ガスに方向性を与え、ターボ分子ポンプ100の排気特性を向上する。
【0024】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0025】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子(ガス分子)などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0026】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0027】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の回転体下部円筒部103bの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝(図示略)が刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に回転体下部円筒部103bの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0028】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガス(保護ガス)にて所定圧に保たれる場合もある。
【0029】
この場合には、ベース部129にはパージガス導入用配管(「パージガスポート」ともいう、図示略)が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部(回転体下部円筒部103b)やベース部129との間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0030】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部を備えている。電子回路部は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板から構成される。この電子回路部は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0031】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0032】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0033】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状(リング状)の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;TemperatureManagement System)が行われている。
【0034】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路の回路図を
図2に示す。
【0035】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0036】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0037】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0038】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0039】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0040】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0041】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0042】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0043】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0044】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0045】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0046】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0047】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、
図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133を構成する排気ポート15が図中の右側に突出するようベース部129に設けられた側)が、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、
図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0048】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127、後述するヒータスペーサ212、後述するアウターウォール214、及び、ベース部129等とが組み合わさってケーシング215を構成している。ケーシング215については後述する。また、
図1の例のターボ分子ポンプ100は、円形な箱状の電装ケース198を備えており、前述の制御装置200は、電装ケース198の中に配置されている。
【0049】
ターボ分子ポンプ100におけるケーシング215の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、回転体下部円筒部103bやネジ付スペーサ131等により構成されるネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部)に分けて考えることができる。
【0050】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0051】
例えば、ベース部129の所定の部位(排気口133に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガスポート(図示略)を設ける。そして、このパージガスポートに対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0052】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0053】
なお、ターボ分子ポンプ100や回転体103の構造を示す
図1では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため、ヒータ148を除き省略している。
【0054】
<<ケーシング215の構成>>
図5は、
図1と同様に、本実施形態におけるターボ分子ポンプ100の内部構造を示している。
図1では図示が煩雑になるのを避けるために、ケーシング215の細部や、後述する断熱カバー210に係る符号の記載が省略されていた。
【0055】
図5では、ケーシング215の細部や、後述する断熱カバー210に係る符号が示されている。また、
図5では、一部の部品(ヒータ148、アウターウォール214、ヒート・インシュレータ・ワッシャ220)についてのみ、周囲の部品との区別を明確にするため、ハッチングが記載されている。
【0056】
ケーシング215は、部分的に二重構造を有している。ケーシング215における軸方向の途中の部位から、ベース部129までの部位は、ヒータスペーサ212と、アウターウォール214とを用いて構成されている。詳細は後述するが、ヒータスペーサ212は、ターボ分子ポンプ100内の排気流路の真空を確保する構造体であり、内側ケーシングを構成している。アウターウォール214は、ヒータスペーサ212の周囲を覆う構造体であり、外側ケーシングを構成している。
【0057】
ヒータスペーサ212と、アウターウォール214は、いずれも、例えばアルミニウム、ステンレスなどの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。ヒータスペーサ212と、アウターウォール214は、削り出し加工により、凹凸のある円筒状に加工されている。
【0058】
ヒータスペーサ212は、アウターウォール214よりも小径に形成されており、アウターウォール214の内側(内周側)に配置されている。換言すれば、アウターウォール214は、ヒータスペーサ212の外側(外周側)に配置され、ヒータスペーサ212を囲うように配置されている。
【0059】
<<ヒータスペーサ212>>
ヒータスペーサ212には、カートリッジ式のヒータ148が組み込まれている。ヒータ148は、1つのみ図示されているが、左右方向に複数(例えば4個以上など)配置されても良い。そして、ヒータ148からは、導電用のリード線148aが導出されている。リード線148aは、ヒータスペーサ212の周囲に、周回するように引き回され、制御装置200に電気的に接続されている。
【0060】
ヒータスペーサ212は、ヒータ148により、全体に亘り加熱される。ヒータスペーサ212の温度は、例えば150℃強に達する場合がある。ヒータスペーサ212は、前述したネジ付スペーサ131に、熱伝達が可能なように接している。また、ヒータスペーサ212には、排気ポート15が差し込まれて接続されている。ヒータスペーサ212の熱は、ネジ付スペーサ131や排気ポート15に伝わり、ネジ付スペーサ131や排気ポート15が加熱される。
【0061】
ヒータスペーサ212は、固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)のうち、最も排気ポート15側(ベース部129側)に位置する最下段の固定翼スペーサ125fにも熱伝達が可能なように接している。ヒータスペーサ212の熱は、最下段の固定翼スペーサ125fにも伝わり、最下段の固定翼スペーサ125fやその周辺が加熱される。
【0062】
<<アウターウォール214>>
ヒータスペーサ212の外側に位置するアウターウォール214に対しては、周囲の部品との間の熱的な絶縁が施されている。アウターウォール214と、ヒータスペーサ212との間には、隙間216が介在しており、アウターウォール214は、全周に亘りヒータスペーサ212に直接的に接触しないよう配置されている。
【0063】
<<水冷スペーサ125d>>
アウターウォール214の軸方向の一端側(
図1では上側)には、水冷スペーサ125dが設けられている。水冷スペーサ125dは、固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の1つである。
【0064】
水冷スペーサ125dは、例えば、削り出し加工により環状に形成されており、ケーシング215の、軸方向の途中の部位を構成している。水冷スペーサ125dは、今回の構造では、排気ポート15よりも、吸気口101に近い部位に位置しているが、ターボ分子ポンプ100内の温度分布により適宜位置を変えることが可能である。水冷スペーサ125dについては、作製の過程で、鋳造加工や鍛造加工が行われていてもよい。
【0065】
水冷スペーサ125dには、水冷管218が組み込まれており、水冷管218の中には冷却水が流れる。水冷スペーサ125dは、水冷管218により冷却されて温度調整される。水冷スペーサ125dは、ヒータスペーサ212に接触しておらず、水冷スペーサ125dと、ヒータスペーサ212との間には、他の固定翼スペーサ(
図5の例では固定翼スペーサ125e、125f)が介在している。
【0066】
<<ヒート・インシュレータ・ワッシャ220>>
水冷スペーサ125dとアウターウォール214との間には、環状のヒート・インシュレータ・ワッシャ(断熱リング)220が設けられている。ヒート・インシュレータ・ワッシャ220は、縦断面で、門型(コの字型)の断面を有するよう形成されている。
【0067】
ヒート・インシュレータ・ワッシャ220は、水冷スペーサ125dと、アウターウォール214との間に介在している。また、インシュレータ・ワッシャ220の外周側には、水冷スペーサ125dとアウターウォール214との間の隙間221が形成されている。ヒート・インシュレータ・ワッシャ220や隙間221により、水冷スペーサ125dの熱がアウターウォール214に伝わることが防止されている。
【0068】
<<水冷スペーサ125dによる冷却>>
多段の回転翼102(102a、102b、102c・・・)と固定翼123(123a、123b、123c・・・)のうち、排気ポート15側(ベース部129側、下流側)の回転翼102(例えば、回転翼102e、102f)や、固定翼123(例えば、固定翼123e、123f)は、排気ガスの移送に伴い、相対的に高温(例えば、100℃程度)になる場合がある。
【0069】
また、排気ポート15側(ベース部129側、下流側)の固定翼123(ここでは固定翼123e、123f)は、ヒータスペーサ212に近いことから、ヒータスペーサ212の熱によっても高温になる。さらに、固定翼123(ここでは固定翼123e、123f)からの輻射熱によっても、排気ポート15側(ベース部129側)の回転翼102(ここでは回転翼102e、102f)は高温になる。排気ポート15側(ベース部129側、下流側)の固定翼123や回転翼102を高温化することにより、排気ガスの成分による生成物の堆積を防止できる。
【0070】
このような温度環境に対して、本実施形態では、固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)には水冷スペーサ125dが含まれている。水冷スペーサ125dは、水冷管218により冷却される。このため、排気ポート15側(ベース部129側)における、固定翼スペーサ125(125e、125f)、固定翼123(ここでは固定翼123e、123f)、回転翼102(ここでは回転翼102e、102f)の熱が緩和される。
【0071】
また、水冷スペーサ125dとアウターウォール214との間には、ヒート・インシュレータ・ワッシャ220や隙間216が介在している。したがって、ヒータスペーサ212とアウターウォール214との間の熱経路では、水冷スペーサ125d、ヒート・インシュレータ・ワッシャ220、隙間216による温度調整が行われ、アウターウォール214の温度上昇が防止される。つまり、アウターウォール214は、ケーシング215の内部の熱が伝わり難いように温度調整された部品の1つとなっている。
【0072】
<<断熱カバー210による断熱>>
外筒127及びベース部129の外側には、断熱カバー210が設けられている。断熱カバー210は、外筒127における水冷スペーサ125dから、ベース部129までの範囲を、ほぼ全周に亘って覆っている。
【0073】
断熱カバー210は、
図6及び
図7に示すように、排気口カバー222と側面カバー224とにより構成されている。排気口カバー222と側面カバー224は別部品であり、いずれも、厚さが0.5mm~数mm程度の薄板(板金)を用いて形成されている。
【0074】
<<排気口カバー222>>
排気口カバー222は、排気ポート15(排気口133)の周囲を囲っており、排気ポート15の周方向に関して、ほぼ一周をカバーしている。換言すれば、排気口カバー222は、排気ポート15(排気口133)の周囲を囲う様にほぼ一周(排気ポート15における周方向の一周)をカバーしている。この排気口カバー222は、例えば、「排気ポートカバー」と称することも可能である。
【0075】
排気口カバー222は、第1排気口カバー部品222A、及び、第2排気口カバー部品222Bの複数部品(本実施形態では2部品)により構成されている。両排気口カバー部品222A、222Bは、いずれも、ステンレス製で厚みが0.5mm~数mm程度の板金部品である。但し、両排気口カバー部品222A、222Bは、側面カバー224に比べ曲面積が小さいため、厚みを増やすことが容易である。厚みは断熱性に対して優位に働くだけでなく、プレス加工などで製作した際に端部に生じるバリやエッジの対応(除去等)を容易にできる。
【0076】
図10(a)は、両排気口カバー部品222A、222Bのうち、第2排気口カバー部品222Bを示している。第2排気口カバー部品222Bは、外筒127の曲面に沿うよう湾曲している。図示は省略するが、もう一方の第1排気口カバー部品222Aも同様に、外筒127の曲面に沿うよう湾曲している。
【0077】
第1排気口カバー部品222A、及び、第2排気口カバー部品222Bは、中心線A(
図6に一点鎖線で示す)に対して、線対称に配置されている。中心線Aは、ターボ分子ポンプ100の軸心に対して平行で、正面視で排気口133の中心を通る線である。
【0078】
両排気口カバー部品222A、222Bの形状や配置は、線対称なものに限られない。例えば、図示は省略するが、中心線Aが、両排気口カバー部品222A、222Bのいずれか一方を通るように、両排気口カバー部品222A、222Bの大きさのバランスを決定してもよい。
【0079】
また、中心線Aは、ターボ分子ポンプ100の軸心に対して平行なものに限定されない。例えば、中心線Aに対して交差(例えば直交)する向きの中心線Bを定め、この中心線Bに対して、両排気口カバー部品222A、222Bを線対称に配置する、といったことも可能である。
【0080】
両排気口カバー部品222A、222Bは、側面カバー224が取り付けられた状態でも脱着可能である。このように、側面カバー224を取り付けた状態でも脱着可能とすることで、例えば、排気ポート15に排気口ヒータ226(後述する)を装着するような場合に、側面カバー224も併せて取り外すようにした場合や、断熱カバー210の全体を取り外すようにした場合に比べて、作業が容易になる。
【0081】
例えば、
図5で示すように、排気ポート15には、ターボ分子ポンプ100の用途によって、排気口ヒータ226(二点鎖線で模式的に示す)が装着される場合がある。排気口ヒータ226は、排気ポート15の周囲を覆うようにして、排気ポート15に装着される。また、排気口ヒータ226の装着や取り外しは、オンサイトでユーザにより行われることが多い。
【0082】
排気ポート15の基端部は、アウターウォール214の凹部228に進入しており、排気口ヒータ226の基端部も、アウターウォール214の凹部228の奥に到達している。排気口ヒータ226の装着の際には、排気口ヒータ226の基端部が、アウターウォール214の凹部228に差し込まれる。
【0083】
このような排気口ヒータ226の装着の際に、断熱カバー210(ここでは、両排気口カバー部品222A、222B)を取り付けたままでは、排気口ヒータ226を、断熱カバー類に干渉させたまま押し込んで、断熱カバー類を変形させてしまう、といったようなことが起きかねない。
【0084】
そこで、両排気口カバー部品222A、222Bを取り外すことにより、作業のための視野を広く確保できる。そして、排気口ヒータ226の装着作業を正確に行うことが可能となる。また、取り外しのための作業範囲が小となり、断熱カバー210全体を取り外す場合に比べて、取り外しや、再度の取り付けの作業を容易に、作業性よく行うことが可能となる。
【0085】
さらに、本実施形態においては、両排気口カバー部品222A、222Bは、アウターウォール214に取り付けられている。両排気口カバー部品222A、222Bの取り付けは、脱落防止ネジ230を用いて行われている。脱落防止ネジ230は、一般的な種々のものを採用可能である。本実施形態では、十字穴付き脱落防止鍋小ネジに、脱落防止ワッシャ(図示略)を組み合わせたものが用いられている。
【0086】
十字穴付き脱落防止鍋小ネジは、図示は省略するが、ねじ部が軸部よりも径方向に張り出している。十字穴付き脱落防止鍋小ネジは、第1排気口カバー部品222A(又は第2排気口カバー部品222B)と脱落防止ワッシャを挟むようにしてねじ込まれている。十字穴付き脱落防止鍋小ネジを緩めた場合に、ねじ部が脱落防止ワッシャの窪んだ部分に引っ掛かり、十字穴付き脱落防止鍋小ネジの脱落が防止される。
【0087】
このような十字穴付き脱落防止鍋小ネジや脱落防止ワッシャとしては、例えば、鍋屋バイテック会社製のもの等を採用することが可能である。
【0088】
なお、両排気口カバー部品222A、222Bの固定には、ねじ類に限らず、その他の固定具を用いてもよい。ねじ類以外の固定具としては、例えば、面ファスナー(十分な耐熱性のあるもの)などを例示できる。
【0089】
<<側面カバー224>>
続いて、前述の側面カバー224は、ターボ分子ポンプ100の側面を、排気ポート15の周囲を除いて覆っている。側面カバー224と、排気口カバー222とにより、ターボ分子ポンプ100の側面が、ほぼ360度に亘り覆われている。
【0090】
側面カバー224は、ターボ分子ポンプ100の周方向に関して、複数(ここでは2つ)に分割されており、第1側面カバー部品224A、及び、第2側面カバー部品224Bにより構成されている。両側面カバー部品224A、224Bは、いずれも、ステンレス製で厚みが0.5mm~数mm程度の板金部品である。
【0091】
図10(b)は、両側面カバー部品224A、224Bのうち、第2側面カバー部品224Bを示している。第2側面カバー部品224Bは、アウターウォール214、水冷スペーサ125d、及び、ベース部129の曲面に沿って湾曲している。図示は省略するが、もう一方の第1側面カバー部品224Aも同様に、アウターウォール214、水冷スペーサ125d、及び、ベース部129の曲面に沿って湾曲している。
【0092】
また、本実施形態においては、両側面カバー部品224A、224Bは、アウターウォール214に取り付けられている。両側面カバー部品224A、224Bの取り付けも、脱落防止ネジ230を用いて行われている。脱落防止ネジ230は、両排気口カバー部品222A、222Bと同様に、一般的な種々のものを採用可能である。
【0093】
<<排気口カバー222、及び、側面カバー224の表面温度抑制>>
前述のように、排気口カバー222、及び、側面カバー224は、アウターウォール214に固定されている。アウターウォール214は、ヒータスペーサ212との間に隙間216を介在させている。また、アウターウォール214は、水冷スペーサ125dとの間に、ヒート・インシュレータ・ワッシャ220を介在させている。
【0094】
前述したように、ヒータスペーサ212の温度は150℃強になる場合があり、排気ポート15側(ベース部129側、下流側)の回転翼102(例えば、回転翼102e、102f)や、固定翼123(例えば、固定翼123e、123f)の温度は、例えば100℃程度になる場合がある。
【0095】
このような温度環境下において、排気口カバー222、及び、側面カバー224の表面温度は、測定の結果、65℃以下に抑えられている。これは、本実施形態のターボ分子ポンプ100において、排気口カバー222や側面カバー224が接するアウターウォール214が、ケーシング215の内部の熱に対して温度調整されているためである。また、アウターウォール214と水冷スペーサ125dとの間に、ヒート・インシュレータ・ワッシャ220や隙間221が介在しているためでもある。
【0096】
<<側面カバー224の強度向上対策>>
側面カバー224には、強度向上対策が施されている。本実施形態においては、強度向上対策として、板金の折り曲げ加工が採用されている。強度向上対策は、側面カバー224の変形を低減させるものとなっている。
【0097】
図10(b)に示すように、第2側面カバー部品224Bの長手方向(ターボ分子ポンプ100の周方向)の一端部には、折り曲げ構造が採用されている。折り曲げ構造は、第2側面カバー部品224Bの端部を、数ミリ(例えば5mm)程度の幅で内側(内周面側)に折曲し、折り曲げ部232Bを設けることにより形成されている。
【0098】
第2側面カバー部品224Bは、
図6に示すように、折り曲げ部232Bを第2排気口カバー部品222Bの側に向けて、アウターウォール214に取り付けられている。
【0099】
第1側面カバー部品224Aにも同様な構造が採用されている。第1側面カバー部品224Aは、
図6に示すように、折り曲げ部232Aを第1排気口カバー部品222Aの側に向けて、アウターウォール214に取り付けられている。
【0100】
このような折り曲げ部232A、232Bを設けることにより、両側面カバー部品224A、224Bの、一端部における剛性が高められ、側面カバー224の強度が向上する。また、折り曲げ部232A、232Bにより、第1側面カバー部品224Aの端部にできるアウターウォール214の凹部228との間の隙間や、第2側面カバー部品224Bの端部にできるアウターウォール214の凹部228との間の隙間を、折り曲げ部232A、232Bの幅C(
図10(b)にて折り曲げ部232Bについて示す)に亘って埋めることができる。
【0101】
このような強度向上対策を施さない場合、例えば、両側面カバー部品224A、224Bと、両排気口カバー部品222A、222Bとの境界部分に、外側から過度な荷重や衝撃が加わると、両側面カバー部品224A、224Bや、両排気口カバー部品222A、222Bが変形することが考えられる。そして、隙間234A、234B(
図6)が、例えば10mm程度に拡がり、作業者の手指や工具等の進入が可能となる虞がある。
【0102】
排気ポート15の周辺は高温になり易く、隙間234A、234Bに手指や工具が進入すると、手指や工具が高温な部位に接触することが考えられる。また、ヒータスペーサ212の周囲には、ヒータ148用のリード線148aが周回していたり、電気的端子が設けられていたりするため、進入した手指が、これらの電気系統部品に接触することも考えられる。したがって、隙間234A、234Bへの手指や工具の進入を防ぐことは重要である。
【0103】
そして、上述のような強度向上対策を施すことにより、両側面カバー部品224A、224Bが補強され、両側面カバー部品224A、224Bの端部における剛性が向上する。このため、両側面カバー部品224A、224Bの変形を防止でき、隙間234A、234Bが拡大するのを防止することが可能となる。そして、隙間234A、234Bへ、作業者の手指や工具が進入するのを防止できる。
【0104】
また、剛性のみでなく、断熱性を考慮した場合、両側面カバー部品224A、224Bの、アウターウォール214に接触する部分の面積を増やさないことが望ましい。このため、例えば、折り曲げ部232A、232Bと、アウターウォール214の凹部228との関係を、折り曲げ部232A、232Bの幅C(
図10(b)にて折り曲げ部232Bについて示している)が、アウターウォール214の凹部228に収まる程度とする。
【0105】
このようにすることにより、折り曲げ部232A、232Bがアウターウォール214に接触するのを防止でき、両側面カバー部品224A、224Bの、アウターウォール214に接触する部分の面積が増えるのを防止できる。
【0106】
なお、図示は省略するが、両側面カバー部品224A、224Bの、互いに向かい合った側の端部236A、236Bに、折り曲げ部(例えば、折り曲げ部232A、232Bと同様なもの)を設けることが可能である。この場合には、両側面カバー部品224A、224Bの端部236A、236Bに衝撃が加わっても、両側面カバー部品224A、224Bの変形が防止される。
【0107】
また、上述したような強度向上対策は、両側面カバー部品224A、224Bに限らず、例えば、両排気口カバー部品222A、222Bに対しても適用することが可能である。図示は省略するが、両排気口カバー部品222A、222Bに折り曲げ部(例えば、折り曲げ部232A、232Bと同様なもの)を形成することが可能である。
【0108】
また、強度向上対策は、板金の折り曲げ加工に限定されない。例えば、強度向上対策として、
図11に変形例(第2実施形態としてもよい)を示すように、支柱部材238の設置を行うことが可能である。
図11のタイプのターボ分子ポンプ260においては、排気口カバー222とアウターウォール214との間に空隙242が形成されている。また、側面カバー224とアウターウォール214との間にも、空隙244が形成されている。
【0109】
これらの空隙242、244には、支柱部材238が設置されている。支柱部材238は、アウターウォール214周囲に複数(例えば8本など)設置されている。支柱部材238の断面形状は、例えば、真円の円筒状(カラー状、スリーブ状)である。
【0110】
図11の例において、支柱部材238には、脱落防止ネジ230の軸部が通されており、支柱部材238は、脱落防止ネジ230の軸部の全周を囲んでいる。支柱部材238の軸方向の一端は、アウターウォール214に接しており、多端は、両排気口カバー部品222A、222Bや、両側面カバー部品224A、224Bに接している。
【0111】
このような支柱部材238を設けることで、排気口カバー222とアウターウォール214との間の空隙242や、側面カバー224とアウターウォール214との間の空隙244が存在する場合に、排気口カバー222や側面カバー224が、アウターウォール214に対して、単に浮いた状態にならず、排気口カバー222や側面カバー224を補強することができる。そして、排気口カバー222や側面カバー224の変形により、作業者の手指や工具が進入し得るほどに隙間が拡大するのを防止できる。
【0112】
図11のターボ分子ポンプ260においては、上述のような強度向上対策のみでなく、支柱部材238等による断熱も行われている。
図5の例のターボ分子ポンプ100におけるヒート・インシュレータ・ワッシャ220を省略し、その代わりに、アウターウォール214と、排気口カバー222や側面カバー224との間に、空隙242、244を介在させたタイプである。
図11のターボ分子ポンプ260は、空隙242、244を形成することにより、排気口カバー222や側面カバー224の温度上昇を抑制している。
【0113】
さらに、
図11の例において、支柱部材238は、アウターウォール214と、排気口カバー222や側面カバー224とに接している。このため、支柱部材238は、補強材として機能するのみでなく、断熱材としても機能する。そして、支柱部材238により、アウターウォール214から、排気口カバー222や側面カバー224に対して熱が伝達されるのを防止できる。
【0114】
図11に示すような構成は、
図5に示すような構成に比べてアウターウォール214がより高温になり易いタイプのターボ分子ポンプに適している。
【0115】
なお、
図11の例では、支柱部材238は筒状であり、脱落防止ネジ230を介して支柱部材238の固定が行われている。しかし、これに限定されるものではなく、例えば、支柱部材238を中実な棒状の部材とすることが可能である。この場合、図示は省略するが、支柱部材238の固定は、一般的な種々の方法により行うことができる。
【0116】
例えば、支柱部材238における軸方向の両端部に雄ネジを形成する。そして、一方の雄ネジ部分を、アウターウォール214にねじ込み、アウターウォール214に連結する。さらに、他方の雄ネジ部分を、両排気口カバー部品222A、222Bや両側面カバー部品224A、224Bの孔に通し、外側からのナット締めにより、両排気口カバー部品222A、222Bや両側面カバー部品224A、224Bに固定する。
【0117】
<<ターボ分子ポンプ100、260によるその他のメリット>>
本実施形態のターボ分子ポンプ100(
図5等)や、変形例のターボ分子ポンプ260(
図11)によれば、これまでに説明したメリットのほか、例えば、アウターウォール214が、板金製の部品ではなく、削り出し加工による部品であることから、例えば、段差部分のエッジ部に、大きいR(曲率半径)の面取りを施し易い。このため、ユーザの手指がアウターウォール214のエッジ部に触れた場合の安全性を、容易に確保できる。
<<本実施形態から抽出できる発明>>
【0118】
以上説明した実施形態から以下のような発明を抽出することが可能である。
(1)吸気口(吸気口101など)及び排気口(排気口133など)のうち少なくとも前記排気口が設けられた、ケーシング(外筒127、アウターウォール214、及び、ヒータスペーサ212を含んで構成されるケーシング215など)と、
前記ケーシング及び前記排気口のうち少なくとも前記ケーシングの一部を高温とする加熱手段(ヒータ148など)と、
を備えた真空ポンプ(ターボ分子ポンプ100など)であって、
前記真空ポンプは、
前記ケーシングの側面を覆う、環状かつ薄板状の側面カバー(側面カバー224など)と、
前記排気口の周囲を覆う、薄板状の排気口カバー(排気口カバー222など)と、
を有し、
前記排気口カバーは、前記側面カバーとは別部品であり、かつ、前記側面カバーが取り付けられた状態でも脱着可能であることを特徴とする真空ポンプ。
(2)前記排気口カバーは、前記排気口の周囲を囲う様にほぼ一周をカバーし、かつ、少なくとも2部品で構成されることを特徴とする上記(1)に記載の真空ポンプ。
(3)前記排気口カバーは、前記排気口の中心を通る中心線(中心線Aなど)に対して、線対称に分割された構造であることを特徴とする上記(2)に記載の真空ポンプ。
(4)前記側面カバーまたは前記排気口カバーと、前記ケーシングとの間に空隙(空隙242、244など)を有し、
前記空隙において、前記側面カバーまたは前記排気口カバーの変形を低減させる強度向上対策(折り曲げ部232A、232Bを設けること、支柱部材238を設けること、など)が施されていることを特徴とする上記(1)に記載の真空ポンプ。
(5)前記強度向上対策は、前記側面カバーまたは前記排気口カバーにおいて、少なくとも一端が前記ケーシング側に折り曲げられている構造(折り曲げ部232A、232Bを設けた構造など)を用いたものであることを特徴とする上記(4)に記載の真空ポンプ。
(6)前記強度向上対策は、前記ケーシングと、前記側面カバーまたは前記排気口カバーとの間に配置された支柱構造(支柱部材238を設けた構造など)を用いたものであることを特徴とする上記(4)に記載の真空ポンプ。
(7)前記ケーシングにおいて、前記側面カバーまたは前記排気口カバーが配置される部分は、温度調整手段(ヒータ148など)により、温度調整されていることを特徴とする上記(1)~(6)の何れか一項に記載の真空ポンプ。
(8)前記ケーシングは、前記真空ポンプ内の排気流路の真空を確保する構造体である内側ケーシング(ヒータスペーサ212など)と、該内側ケーシングの周囲を覆う外側ケーシング(アウターウォール214など)の二重構造で形成されることを特徴とする上記(1)~(6)の何れか一項に記載の真空ポンプ。
【0119】
なお、本発明は、上述の各実施形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形や各実施形態の組合せをすることが可能である。
【符号の説明】
【0120】
15 :排気ポート
100、260 :ターボ分子ポンプ
101 :吸気口
102 :回転翼
103 :回転体
123 :固定翼
125 :固定翼スペーサ
125d :水冷スペーサ
133 :排気口
148 :ヒータ
148a :リード線
149 :水冷管
210 :断熱カバー
212 :ヒータスペーサ
214 :アウターウォール
215 :ケーシング
216 :隙間
218 :水冷管
220 :ヒート・インシュレータ・ワッシャ
222 :排気口カバー
222A :第1排気口カバー部品
222B :第2排気口カバー部品
224 :側面カバー
224A :第1側面カバー部品
224B :第2側面カバー部品
226 :排気口ヒータ
228 :凹部
230 :脱落防止ネジ
232A、232B :折り曲げ部
234A、234B :隙間
238 :支柱部材
242、244 :空隙