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特許7598429スリットダイヘッドおよび該スリットダイヘッドを備える塗工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】スリットダイヘッドおよび該スリットダイヘッドを備える塗工装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/02 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
B05C5/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023174538
(22)【出願日】2023-10-06
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100144200
【弁理士】
【氏名又は名称】奥西 祐之
(72)【発明者】
【氏名】福井 慎也
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0038903(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0085555(KR,A)
【文献】特表2016-500552(JP,A)
【文献】国際公開第2022/050077(WO,A1)
【文献】特開2010-253328(JP,A)
【文献】国際公開第2022/070665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリット状の吐出口から吐出される塗工液によって、塗工方向と交差する交差方向に延在する交差塗工部を塗工するスリットダイヘッドであって、
前記スリットダイヘッドの内部に形成されて前記塗工液を貯留する貯留部と、
前記交差方向に延在するロールと、を備え、
前記ロールは、
前記貯留部の中に回動自在に配設される胴部と、
前記胴部の胴表面に形成され、前記交差方向に延在して前記交差塗工部に対応した形状を有する交差溝と、
前記胴表面に形成され、前記貯留部に貯留された前記塗工液を導入する導入口と、
前記交差溝と前記導入口とを連通する連通部と、を有し、
前記ロールは、前記塗工方向と平行に延在する平行溝をさらに備え、
前記吐出口には、離間している前記交差溝および前記平行溝を合流させる合流部を有するシム板が配設されることを特徴とする、スリットダイヘッド。
【請求項2】
前記連通部は、前記胴部を径方向に直線状に延在する貫通孔であることを特徴とする、請求項1に記載のスリットダイヘッド。
【請求項3】
前記合流部の高さは、前記シム板の高さに対して30%以内であることを特徴とする、請求項1に記載のスリットダイヘッド。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のスリットダイヘッドを備えることを特徴とする、塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スリットダイヘッドおよび該スリットダイヘッドを備える塗工装置に関し、特に、矩形状の周縁部によって囲まれる、いわゆる「額縁状」の塗工パターンを塗工するための塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
額縁状の塗工パターンは、塗工方向と平行に延在する平行塗工部と、塗工方向と交差する交差方向に延在する交差塗工部と、平行塗工部および交差塗工部によって囲まれた非塗工部と、を有する。額縁状の塗工パターンを塗工する従来技術として、例えば、特許文献1では、ディスペンサーを用いて一筆書きで塗工することが開示されている。ディスペンサーを用いた塗工は、一筆書きの始点と終点とが重なるつなぎ目部分では、塗工厚みが厚くなり、膜厚が不均一になるという問題を有する。
【0003】
特許文献2では、所定形状の塗液収容凹部を塗液供給体の外周面に設けた塗布用ノズルが開示されている。特許文献3では、溝部および非溝部を含む塗布液受容部をドラムの外周面に備える塗工装置が開示されている。すなわち、特許文献2および特許文献3では、塗工液を一時的に貯留する所定形状の溝が彫刻されたロールを内部に有するスリットダイヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-49500号公報
【文献】特開2021-98154号公報
【文献】特開2017-109151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロールの外周面に溝を有するスリットダイヘッドを用いて額縁状の塗工パターン70を基材に塗工する場合、例えば図18のG-G断面に示すように、交差塗工部71,74において中央部膜厚が端部膜厚よりも薄くなるという交差方向における厚みムラの現象が発生した。このような厚みムラは、交差塗工部71,74の幅が狭い場合、塗工を高速で行う場合、あるいは、塗工液の粘性が高い場合などにおいて、顕著に発生した。
【0006】
発明者が上記現象を鋭意検討したところ、以下のことが判明した。すなわち、交差塗工部71,74に対応する交差溝では平行塗工部に対応する平行溝を経由して塗工液が間接的に供給されるために、交差塗工部71,74の中央部では塗工液の供給が追いつかないことに起因して、交差方向での厚みムラが発生している。
【0007】
そこで、この発明の課題は、交差塗工部における交差方向の厚みムラを低減させるスリットダイヘッドおよび塗工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明の一態様に係るスリットダイヘッドは、
スリット状の吐出口から吐出される塗工液によって、塗工方向と交差する交差方向に延在する交差塗工部を塗工するスリットダイヘッドであって、
前記スリットダイヘッドの内部に形成されて前記塗工液を貯留する貯留部と、
前記交差方向に延在するロールと、を備え、
前記ロールは、
前記貯留部の中に回動自在に配設される胴部と、
前記胴部の胴表面に形成され、前記交差方向に延在して前記交差塗工部に対応した形状を有する交差溝と、
前記胴表面に形成され、前記貯留部に貯留された前記塗工液を導入する導入口と、
前記交差溝と前記導入口とを連通する連通部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、貯留部に貯留された塗工液が、連通部を通じて、ロールの胴表面に形成された交差溝に対してダイレクトに且つスムーズに供給されるので、交差塗工部における交差方向の厚みムラを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係るスリットダイヘッドを含む塗工装置を模式的に説明する図である。
図2図1に示したスリットダイヘッドにおけるロールを説明する図である。
図3図2に示したロールの胴表面を展開した図である。
図4図2に示したロールの中央部の側断面を概略的に示す図である。
図5図1に示したスリットダイヘッドにおけるシム板を説明する図である。
図6図5に示したシム板の要部拡大図である。
図7図6に示したシム板のVII-VII矢視図である。
図8図1に示したスリットダイヘッドによる交差塗工部の塗工を説明する図である。
図9図1に示したスリットダイヘッドによる平行塗工部の塗工を説明する図である。
図10】ロの字形状の塗工パターンを説明する図である。
図11】実施の形態2に係るスリットダイヘッドを模式的に説明する断面図である。
図12】実施の形態3に係るスリットダイヘッドにおけるロールの胴表面を展開した図である。
図13図12に対応するロールの中央部の側断面を概略的に示す図である。
図14】実施の形態4に係るスリットダイヘッドにおけるロールの胴表面を展開した図である。
図15図14に対応するロールの中央部の側断面を概略的に示す図である。
図16】実施の形態5に係るスリットダイヘッドにおけるロールの胴表面を展開した図である。
図17図16に対応するロールの中央部の側断面を概略的に示す図である。
図18】変形例1に係る日の字形状の塗工パターンを説明する図である。
図19】変形例2に係る田の字形状の塗工パターンを説明する図である。
図20図19に示した田の字形状の塗工パターンに対応するスリットダイヘッドにおけるロールの胴表面を展開した図である。
図21】変形例3に係るスリットダイヘッドを模式的に説明する図である。
図22図21に示したスリットダイヘッドの底面図である。
図23】変形例4に係る塗工装置を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、この発明に係るスリットダイヘッド20および塗工装置1の実施の形態を説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向あるいは位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、「後」を含む用語)を用いるが、それらの用語の使用は、図面を参照した本開示の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本開示の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
〔塗工装置の全体構成〕
図1は、実施の形態1に係るスリットダイヘッド20を含む塗工装置1を模式的に説明する図である。図1を参照しながら、塗工装置1の全体構成を説明する。なお、図1において、弁の開いた状態を白抜きで示し、弁の閉じた状態を黒塗りで示す。
【0013】
図1に示すように、塗工装置1は、塗工液供給装置3とスリットダイヘッド20とを備える。塗工液供給装置3は、塗工液用配管4を介して、スリットダイヘッド20に接続される。貯留部22に貯留された塗工液が減少すると、塗工液供給弁5を開にすることによって、塗工液供給装置3に貯留された塗工液Pをスリットダイヘッド20に供給する。このとき、気体供給調節弁14を閉にするとともに気体排出弁15を開にすることにより、貯留部22のエアを排出させる。塗工液Pは、水状の液体、ペースト状の高粘度液状物、高濃度のスラリー物などのような、流動性を有する液状物の総称である。
【0014】
スリットダイヘッド20は、ダイ21とロール30とシム板40とを有する。ダイ21は、塗工方向Aと交差する交差方向Bに沿って2分割可能である第1ダイ21aおよび第2ダイ21bを有する。シム板40は、第1ダイ21aおよび第2ダイ21bによって挟持されるように構成される。ダイ21は、その内部空間に貯留部22を有し、塗工液供給装置3から供給された塗工液Pは、貯留部22に貯留される。ロール30が貯留部22に貯留された塗工液Pの中に浸漬されるように、ロール30は貯留部22に配設される。
【0015】
気体用配管12がダイ21の上部に接続され、気体供給調整弁14および気体排出弁15が気体用配管12に配設される。気体供給調整弁14を開にするとともに塗工液供給弁5および気体排出弁15を閉にすると、気体供給装置10によって加圧されたエアが供給される。加圧されたエアによって、貯留部22に貯留された塗工液Pが加圧される。塗工溝に充填された塗工液Pは、シム板40を介して、スリット状の吐出口24から吐出される。このとき、気体供給調整弁14を閉にするとともに気体排出弁15を開にすることにより、貯留部22のエアを排出させる。
【0016】
〔実施の形態1〕
次に、図2から図4を参照しながら、実施の形態1に係るスリットダイヘッド20を説明する。図2は、図1に示したスリットダイヘッド20におけるロール30を説明する図である。図3は、図2に示したロール30の胴表面33を展開した図である。図4は、図2に示したロール30の中央部の側断面を概略的に示す図である。
【0017】
図2に示すように、ロール30は、例えば、円柱状の胴部31と、軸部32とを有する。胴部31および軸部32は、円柱形状または円筒形状を有し、塗工方向Aと交差する交差方向Bに延在する。交差方向Bは、例えば、塗工方向Aに対して垂直に交差する。胴部31は、貯留部22の底部に摺接している。胴部31の左端部および右端部のそれぞれからは、軸部32が延在する。各軸部32は、ダイ21の左側部および右側部によって回動自在に支持される。
【0018】
図2から図4に示すように、胴部31の胴表面33には、交差溝36と左右一対の平行溝37,37とが所定の深さで彫刻される。交差溝36は、交差方向Bにおいて第1交差長さb1で延在する概略矩形状を有する。例えば、交差溝36の端部には、突出溝39が形成される。突出溝39は、図10に示す塗工パターン70のように内周に曲面が形成されるために、例えば、中央部から端部に向けて円弧状に突出した形状を有する。平行溝37は、交差方向Bにおいて第1平行長さb2で延在するとともに塗工方向Aに延在する矩形状を有する。交差溝36の側縁と左右一対の平行溝37,37の側縁とは、所定の距離で離間している。これにより、図10に示す塗工パターン70における非塗工部75に不要な塗工がなされることを防止できる。
【0019】
図3および図4に示すように、交差溝36の反対側にあって180度点対称の位置には、導入口34が形成されている。導入口34は、交差溝36に対応する矩形状を有する。胴部31は、その径方向において、胴部31を直線状に延在して貫通する連通部35を有する。これにより、交差溝36における圧力損失を低減できる。連通部35は、導入口34および交差溝36に対応する矩形状を有する。したがって、導入口34および交差溝36は、胴部31の内部に形成された連通部35によって連通している。
【0020】
図5は、図1に示したスリットダイヘッド20におけるシム板40を説明する図である。図6は、図5に示したシム板40の要部拡大図である。図7は、図6に示したシム板40のVII-VII矢視図である。
【0021】
図5に示すように、シム板40は、板状体41と交差溝用流路42と平行溝用流路44とを有し、塗工液Pの交差方向Bの流れを制御する整流板である。板状体41は、交差方向Bに延在する概略矩形状を有する。シム板40は、ダイ21の下流側に形成される吐出口24に配設されるとともに、ダイ21の第1ダイ21aおよび第2ダイ21bによって挟持される。
【0022】
図6および図7に示すように、板状体41の一面側には、交差溝用流路42および左右の平行溝用流路44が凹設されている。交差溝用流路42の上流側には、交差溝36に対応して第1交差長さb1を有する第1交差溝開口61が形成されている。交差溝用流路42の下流側には、交差塗工部71,74(図10に図示)に対応して第2交差長さB1を有する第2交差溝開口63が形成されている。平行溝用流路44の上流側には、平行溝37に対応して第1平行長さb2を有する第1平行溝開口62が形成されている。平行溝用流路44の下流側は、平行塗工部72,73(図10に図示)に対応して第2平行長さB2を有する第2平行溝開口64が形成されている。
【0023】
交差溝用流路42および平行溝用流路44は、隔壁部43によって隔てられている。隔壁部43は、その下流側において合流規制部48を有する。板状体41の下流側の端部と、合流規制部48の先端との間で、合流部45が形成される。合流部45では、交差溝用流路42と平行溝用流路44とがつながることによって、交差溝用流路42からの塗工液Pと平行溝用流路44からの塗工液Pとが合流する。これにより、交差塗工部71,74の端部と、平行塗工部72,73の端部とがつながることができる。合流部45の高さは、シム板40の高さに対して30%以内である。これにより、合流部45による塗工液Pの合流を確実にするとともに、交差溝用流路42からの塗工液Pと平行溝用流路44からの塗工液Pとが合流部45に至るまでに干渉することを防止できる。
【0024】
交差溝用流路42には、板状体41の他面側から一面側に厚み方向に突出する間隙保持部47が、分散して複数個形成される。これにより、シム板40がダイ21の第1ダイ21aおよび第2ダイ21bによって挟持される場合に、シム板40の交差溝用流路42における変形が抑制され、交差塗工部71、74の塗工方向Aの塗工幅が適切になる。隔壁部43および間隙保持部47は、例えば、板状体41の一面側において面一であるように構成される。
【0025】
図8は、図1に示したスリットダイヘッド20による交差塗工部71,74の塗工を説明する図である。図9は、図1に示したスリットダイヘッド20による平行塗工部72,73の塗工を説明する図である。図10は、額縁状の塗工パターン70を説明する図である。
【0026】
図10に示すように、被塗工体(図示せず)の表面に塗工される塗工パターン70は、交差方向Bに延在する前交差塗工部71および後交差塗工部74と、塗工方向Aに延在する左平行塗工部72および右平行塗工部73とによって画定される額縁状を有する。前交差塗工部71および後交差塗工部74は、交差方向Bにおいて第2交差長さB1で延在する。左平行塗工部72および右平行塗工部73は、交差方向Bにおいて第2平行長さB2で延在する。塗工パターン70は、その内側部分において非塗工部75を有する。非塗工部75は、塗工液Pが塗工されていない部分である。また、図10に示す塗工パターン70の内周部分のコーナーは、交差溝36の突出溝39に対応したR面で丸まった形状を有する。なお、交差溝36が単純な矩形状である場合、塗工パターン70の内周部分のコーナーは、尖っているピン角(面取りをしていない角)の形状を有する。
【0027】
図8に示すように、ロール30の胴部31は、貯留部22に貯留された塗工液Pの中に十分に浸漬された状態にあるように配設される。加圧されたエアが供給されると、加圧されたエアによって、貯留部22に貯留された塗工液Pが加圧される。加圧された塗工液Pは、導入口34および連通部35を通じて、交差溝36に対してダイレクトに且つスムーズに供給され、交差溝36に充填される。交差溝36に充填された塗工液Pは、シム板40を介して、スリット状の吐出口24から吐出される。これにより、図10に示す前交差塗工部71(交差塗工部)が、被塗工体(図示せず)の表面に塗工される。塗工液Pは、導入口34および連通部35を通じて交差溝36に補充される。このとき、貯留部22の塗工液Pの液面がロール30の高さよりも上方に位置するように、貯留部22における塗工液Pの貯留量が制御される。
【0028】
図8に示すように、胴部31が塗工液Pの中に浸漬された状態では、左右一対の平行溝37,37の周囲にある塗工液Pは、左右一対の平行溝37,37に面している。したがって、塗工液Pは、左右一対の平行溝37,37に対して容易に且つスムーズに供給される。そして、図9に示すように、ロール30を回動させるとともに被塗工体(図示せず)を塗工方向Aに搬送することにより、図10に示す左平行塗工部72および右平行塗工部73(平行塗工部)の略半分が、被塗工体(図示せず)の表面に塗工される。
【0029】
被塗工体(図示せず)が左平行塗工部72および右平行塗工部73(平行塗工部)の全長の半分の位置に到達すると、ロール30を逆方向に回動させるとともに被塗工体(図示せず)を塗工方向Aに搬送することにより、図10に示す左平行塗工部72および右平行塗工部73(平行塗工部)が、被塗工体(図示せず)の表面に塗工される。さらに逆方向に回動して、図8に示す状態に戻るように、ロール30の回動が制御される。これにより、図10に示す塗工パターン70の後交差塗工部74(交差塗工部)が被塗工体(図示せず)に塗工される。このような一連の動作により、図10に示す額縁状の塗工パターン70の形成が完成する。
【0030】
したがって、貯留部22に貯留された塗工液Pが、連通部35を通じて、ロール30の胴表面33に形成された交差溝36に対してダイレクトに且つスムーズに供給されるので、交差塗工部71,74における厚みムラを低減できる。
【0031】
〔実施の形態2〕
図11を参照しながら、実施の形態2に係るスリットダイヘッド20を説明する。図11は、実施の形態2に係るスリットダイヘッド20を模式的に説明する断面図である。
【0032】
図11に示すように、スリットダイヘッド20の貯留部22の底部には、シールシム50が配設されていることを特徴とする。上述した実施の形態1に係るスリットダイヘッド20との相違点を中心に説明する。
【0033】
シールシム50は、弾性を有して、例えばゴムやエラストマーからなる。シールシム50は、その上流側部分においてシール部51を有する。シール部51の上面には、湾曲した摺接面52を有する。摺接面52の曲率半径は、ロール30の胴部31の曲率半径と同じかまたは該曲率半径よりも大きい。胴部31の胴表面33は、摺接面52に摺接するように構成されている。湾曲した摺接面52は、胴部31の胴表面33に対する密着シール性を向上させる。したがって、シールシム50は、シムの機能とシールの機能とを有するので、塗工液Pが交差溝36および平行溝37以外から流出することを確実に防止し、塗工パターン70の変形を抑制し、塗工液Pが非塗工部75に付着することを防止できる。
【0034】
〔実施の形態3〕
図12および図13を参照しながら、実施の形態3に係るスリットダイヘッド20を説明する。図12は、実施の形態3に係るスリットダイヘッド20におけるロール30の胴表面33を展開した図である。図13は、図12に対応するロール30の中央部の側断面を概略的に示す図である。
【0035】
図12および図13に示すように、導入口34および交差溝36を連通する連通部35は、幅広連通部35gと幅狭連通部35hとを有することを特徴とする。上述した実施の形態1に係るスリットダイヘッド20との相違点を中心に説明する。
【0036】
導入口34は、胴部31の周方向において、交差溝36よりも幅広であるように構成されている。幅広連通部35gは、導入口34の周方向の幅および軸方向の長さに対応した幅および長さを有する矩形の貫通孔である。幅狭連通部35hは、交差溝36の周方向の幅および軸方向の長さに対応した幅および長さを有する矩形の貫通孔である。幅広連通部35gと幅狭連通部35hとの境界は、幅狭連通部35hの側に寄った位置にある。境界において、塗工方向Aの幅が急峻に変化する段差形状を有するが、塗工方向Aの幅がなだらかに変化する形状であってもよい。
【0037】
幅狭の交差塗工部71,74を塗工する場合、交差溝36は幅狭に構成されるが、導入口34も幅狭に構成すると、塗工液Pの導入が難しくなる。そこで、導入口34を幅広に構成すると、連通部35における圧力損失が減少するので、塗工液Pの供給が容易に且つスムーズになる。したがって、導入口34は交差溝36よりも幅広であり、幅広連通部35gは幅狭連通部35hよりも幅広であるように構成される。これにより、幅狭の交差塗工部71,74を塗工する場合でも、塗工液Pを連通部35に容易に且つスムーズに供給できる。また、連通部35の長手方向(交差方向B)長さは、交差溝36の長手方向(交差方向B)長さよりも長尺に構成されてもよい。これにより、連通部35における圧力損失が減少することによって、塗工液Pの供給が容易に且つスムーズになる。
【0038】
〔実施の形態4〕
図14および図15を参照しながら、実施の形態4に係るスリットダイヘッド20を説明する。図14は、実施の形態4に係るスリットダイヘッド20におけるロール30の胴表面33を展開した図である。図15は、図14に対応するロール30の中央部の側断面を概略的に示す図である。
【0039】
図14および図15に示すように、第1連通部35aおよび第2連通部35bが、胴部31の内部において径方向に交差することを特徴とする。上述した実施の形態1に係るスリットダイヘッド20との相違点を中心に説明する。
【0040】
胴部31の胴表面33には、第1交差溝36aおよび左右一対の第1平行溝37a,37aと、第2交差溝36bおよび左右一対の第2平行溝37b,37bとが、所定の深さで彫刻される。
【0041】
第1の彫刻グループの反対側にあって180度点対称の位置には、第2の彫刻グループとして、第1導入口34aおよび左右一対の第2平行溝37b,37bと、第2交差溝36bおよび左右一対の第2平行溝37b,37bとが、所定の深さで彫刻される。
【0042】
第1交差溝36aの反対側にあって180度点対称の位置には、第1導入口34aが配設される。第1導入口34aおよび第1交差溝36aは、同じサイズの矩形状を有し、第1連通部35aによって連通される。したがって、第1連通部35aは、胴部31を径方向に直線状に延在して貫通する貫通孔である。第2交差溝36bの反対側にあって180度点対称の位置には、第2導入口34bが配設される。第2導入口34bおよび第2交差溝36bは、同じサイズの矩形状を有し、第2連通部35bによって連通される。したがって、第2連通部35bは、胴部31を径方向に直線状に延在して貫通する貫通孔である。そして、第1連通部35aおよび第2連通部35bは、胴部31の内部において径方向に垂直に交差している。なお、第1交差溝36aおよび第1導入口34aは相補的に連携する機能を有し、第2交差溝36bおよび第2導入口34bも相補的に連携する機能を有する。
【0043】
ロール30が1回転することにより、第1交差溝36aと左右一対の第1平行溝37a,37aと第2導入口34bとによる第1の塗工パターンと、第1導入口34aと左右一対の第2平行溝37b,37bと第2交差溝36bとによる第2の塗工パターンという2つの塗工パターン70が被塗工体の表面に形成される。これにより、ロール30を反転させる動作が不要になり、塗工動作を単純化でき、被塗工体としての長尺フィルムを搬送させながら同じ塗工パターン70を連続して繰り返し塗工できるようになる。
【0044】
〔実施の形態5〕
図16および図17を参照しながら、実施の形態5に係るスリットダイヘッド20を説明する。図16は、実施の形態5に係るスリットダイヘッド20におけるロール30の胴表面33を展開した図である。図17は、図16に対応するロール30の中央部の側断面を概略的に示す図である。
【0045】
図16および図17に示すように、胴部31の内部において径方向に交差する第1連通部35aおよび第2連通部35bにおいて、導入口34の側が交差塗工部36の側よりも幅広であることを特徴とする。実施の形態5は、いわば、上述した実施の形態3と実施の形態4とを組み合わせた態様に相当する。
【0046】
胴部31の胴表面33には、第1交差溝36aおよび左右一対の第1平行溝37a,37aと、第2交差溝36bおよび左右一対の第2平行溝37b,37bとが、所定の深さで彫刻される。
【0047】
第1交差溝36aの反対側にあって180度点対称の位置には、第1導入口34aが配設される。第1導入口34aおよび第1交差溝36aは、矩形状を有し、第1連通部35aによって連通される。第1連通部35aは、幅広連通部35gおよび幅狭連通部35hを有し、胴部31を径方向に直線状に延在して貫通する貫通孔である。第1連通部35aの幅広連通部35gは、第1導入口34aの周方向の幅および軸方向の長さに対応した幅および長さを有する矩形の貫通孔である。第1連通部35aの幅狭連通部35hは、第1交差溝36aの周方向の幅および軸方向の長さに対応した幅および長さを有する矩形の貫通孔である。
【0048】
第2交差溝36bの反対側にあって180度点対称の位置には、第2導入口34bが配設される。第2導入口34bおよび第2交差溝36bは、矩形状を有し、第2連通部35bによって連通される。第2連通部35bは、幅広連通部35gおよび幅狭連通部35hを有し、胴部31を径方向に直線状に延在して貫通する貫通孔である。第2連通部35bの幅広連通部35gは、第2導入口34bの周方向の幅および軸方向の長さに対応した幅および長さを有する矩形の貫通孔である。第2連通部35bの幅狭連通部35hは、第2交差溝36bの周方向の幅および軸方向の長さに対応した幅および長さを有する矩形の貫通孔である。
【0049】
〔変形例1〕
図18を参照しながら、変形例1に係る日の字形状の塗工パターン70を説明する。
【0050】
図18に示すように、塗工パターン70は、交差方向Bに延在する前交差塗工部71、中間交差塗工部76および後交差塗工部74と、塗工方向Aに延在する左平行塗工部72および右平行塗工部73と、によって画定される日の字形状を有する。塗工パターン70は、その内側部分において、2つの非塗工部75を有する。
【0051】
図18に示す塗工パターン70は、前交差塗工部71を塗工し、左平行塗工部72および右平行塗工部73の略半分を塗工し、中間交差塗工部76を塗工し、左平行塗工部72および右平行塗工部73の残り半分を塗工し、後交差塗工部74を塗工するというプロセスによって形成される。
【0052】
〔変形例2〕
図19および図20を参照しながら、変形例2に係る田の字形状の塗工パターン70を説明する。
【0053】
図19に示すように、塗工パターン70は、交差方向Bに延在する前交差塗工部71、中間交差塗工部76および後交差塗工部74と、塗工方向Aに延在する左平行塗工部72、中間平行塗工部77および右平行塗工部73と、によって画定される田の字形状を有する。塗工パターン70は、その内側部分において、4つの非塗工部75を有する。
【0054】
図19に示す塗工パターン70は、例えば、図20に示すスリットダイヘッド20におけるロール30を用いて形成される。ロール30の胴表面33には、交差溝36と、左右一対の平行溝37,37と、中間平行溝38とが所定の深さで彫刻される。交差溝36の反対側にあって180度点対称の位置には、導入口34が配設される。導入口34および交差溝36は、同じサイズの矩形状を有し、連通部35によって連通される。したがって、連通部35は、胴部31を径方向に直線状に延在して貫通する貫通孔である。
【0055】
ロール30が略半回転することにより、交差溝36と左右一対の平行溝37,37と中間平行溝38と導入口34とによる半分の塗工と、ロール30が逆回転することにより、左右一対の平行溝37,37と交差溝36とによる残りの塗工がなされる。これにより、図19に示す田の字形状の塗工パターン70が形成される。
【0056】
〔変形例3〕
図21および図22を参照しながら、変形例3に係るスリットダイヘッド20を説明する。
【0057】
図21および図22に示すように、スリットダイヘッド20のシム板40は、仕切部46を有する。仕切部46は、例えば、櫛歯形状、ジグザグ形状または波形状などの種々の形状を有するとともに、交差方向Bに沿って延在する。仕切部46は、吐出口24を交差方向Bにおいて複数の吐出流路49に分離する機能を有して、隣り合う吐出流路49が干渉することを防止する。
【0058】
〔変形例4〕
図23を参照しながら、変形例4に係る塗工装置1を説明する。
【0059】
図23に示すように、塗工装置1は、紙やフィルムや箔などのロール状の被塗工体(図示せず)をバックロール7に巻き回して、スリットダイヘッド20の吐出口24から塗工液Pを押し出すことによって、連続した塗工を行うロールtoロール方式のものにも適用可能である。
【0060】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0061】
この発明を限定するものではないが、例えば、塗工速度が5m/分以上の高速塗工の場合、塗工液Pの粘度が1000cps以上の高粘度塗工の場合、あるいは、交差塗工部71,74の幅が10mm以下の幅狭塗工の場合のそれぞれにおいて、顕著な効果を奏する。また、交差塗工部71,74の幅が3mm~5mmである場合において、より顕著な効果を奏する。
【0062】
上記実施の形態では、2つの交差塗工部71,74および2つの平行塗工部72,73を有するロの字形状の塗工パターン70を塗工する態様について説明したが、複数の交差塗工部71,74が塗工方向Aに離間して平行に並んだストライプ形状の塗工パターン70を塗工する態様にも適用可能である。
【0063】
上記実施の形態では、ロール30の胴部31の内部において、連通部35が径方向に直線状に延在する態様を例示した。しかしながら、連通部35は、ロール30の胴部31の内部(例えばロール30の軸心)において、径方向にくの字状に(例えば鈍角で)折れ曲がった態様であってもよい、
【0064】
上記実施の形態では、ロール30が2つの連通部35a,35bを備えて、2つの連通部35a,35bがロール30の軸心において直交する態様を例示した。しかしながら、2つの連通部35a,35bがロール30の軸心において鋭角で交わる態様であってもよいし、3つ以上の連通部35がロール30の軸心において鋭角で交わる態様であってもよい。
【0065】
この発明および実施形態をまとめると、次のようになる。
【0066】
この発明の第1態様に係るスリットダイヘッド20は、
スリット状の吐出口24から吐出される塗工液Pによって、塗工方向Aと交差する交差方向Bに延在する交差塗工部71,74を塗工するスリットダイヘッド20であって、
前記スリットダイヘッド20の内部に形成されて前記塗工液Pを貯留する貯留部22と、
前記交差方向Bに延在するロール30と、を備え、
前記ロール30は、
前記貯留部22の中に回動自在に配設される胴部31と、
前記胴部31の胴表面33に形成され、前記交差方向Bに延在して前記交差塗工部71,74に対応した形状を有する交差溝36と、
前記胴表面33に形成され、前記貯留部22に貯留された前記塗工液Pを導入する導入口34と、
前記交差溝36と前記導入口34とを連通する連通部35と、を有することを特徴とする。
【0067】
上記態様によれば、貯留部22に貯留された塗工液Pが、連通部35を通じて、ロール30の胴表面33に形成された交差溝36に対してダイレクトに且つスムーズに供給されるので、交差塗工部71,74における厚みムラを低減できる。
【0068】
また、第2態様に係るスリットダイヘッド20は、上記第1態様において、
前記連通部35は、前記胴部31を径方向に直線状に延在する貫通孔である。
【0069】
上記態様によれば、交差溝36における圧力損失を低減できる。
【0070】
また、第3態様に係るスリットダイヘッド20は、上記第1態様において、
前記ロール30は、前記塗工方向Aと平行に延在する平行溝37をさらに備える。
【0071】
上記態様によれば、2つの交差塗工部71,74および2つの平行塗工部72,73を有する額縁状の塗工パターン70を塗工できる。
【0072】
また、第4態様に係るスリットダイヘッド20は、上記第3態様において、
前記吐出口24には、離間している前記交差溝36および前記平行溝37をつなげる合流部45を有するシム板40が配設される。
【0073】
上記態様によれば、交差溝用流路42からの塗工液Pと平行溝用流路44からの塗工液Pとが合流して、交差塗工部71,74の端部と、平行塗工部72,73の端部とをつなげることができる
【0074】
また、第5態様に係るスリットダイヘッド20は、上記第4態様において、
前記合流部45の高さは、前記シム板40の高さに対して30%以内である。
【0075】
上記態様によれば、合流部45による塗工液Pの合流を確実にするとともに、交差溝用流路42からの塗工液Pと平行溝用流路44からの塗工液Pとが干渉することを防止できる。
【0076】
別の局面では、塗工装置1は、
上記第1態様から上記第5態様のいずれか1つのスリットダイヘッド20を備えることを特徴とする。
【0077】
上記塗工装置1によれば、貯留部22に貯留された塗工液Pが、連通部35を通じて、ロール30の胴表面33に形成された交差溝36に対してダイレクトに且つスムーズに供給されるので、交差塗工部71,74における厚みムラを低減できる。
【符号の説明】
【0078】
1…塗工装置
3…塗工液供給装置
4…塗工液用配管
5…塗工液供給弁
7…バックロール
10…気体供給装置
12…気体用配管
14…気体供給調整弁
15…気体排出弁
20…スリットダイヘッド
21…ダイ
21a…第1ダイ
21b…第2ダイ
22…貯留部
24…吐出口
30…ロール
31…胴部
32…軸部
33…胴表面
34…導入口
34a…第1導入口
34b…第2導入口
35…連通部
35a…第1連通部
35b…第2連通部
35g…幅広連通部
35h…幅狭連通部
36…交差溝
36a…第1交差溝
36b…第2交差溝
37…平行溝
37a…第1平行溝
37b…第2平行溝
38…中間平行溝
39…突出溝
40…シム板
41…板状体
42…交差溝用流路
43…隔壁部
44…平行溝用流路
45…合流部
46…仕切部
47…間隙保持部
48…合流規制部
49…吐出流路
50…シールシム
51…シール部
52…摺接面
61…第1交差溝開口
62…第1平行溝開口
63…第2交差溝開口
64…第2平行溝開口
70…塗工パターン
71…前交差塗工部(交差塗工部)
72…左平行塗工部(平行塗工部)
73…右平行塗工部(平行塗工部)
74…後交差塗工部(交差塗工部)
75…非塗工部
76…中間交差塗工部(交差塗工部)
77…中間平行塗工部(平行塗工部)
A…塗工方向
B…交差方向
b1…第1交差長さ
B1…第2交差長さ
b2…第1平行長さ
B2…第2平行長さ
P…塗工液
【要約】
【課題】塗工方向と交差する交差方向に延在する交差塗工部における厚みムラを低減させるスリットダイヘッドおよび塗工装置を提供する。
【解決手段】スリット状の吐出口24から吐出される塗工液Pによって、塗工方向Aと交差する交差方向Bに延在する交差塗工部71,74を塗工するスリットダイヘッド20であって、スリットダイヘッド20の内部に形成されて塗工液Pを貯留する貯留部22と、交差方向Bに延在するロール30と、を備え、ロール30は、貯留部22の中に回動自在に配設される胴部31と、胴部31の胴表面33に形成され、交差方向Bに延在して交差塗工部71,74に対応した形状を有する交差溝36と、胴表面33に形成され、貯留部22に貯留された塗工液Pを導入する導入口34と、交差溝36と導入口34とを連通する連通部35と、を有する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23