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特許7598454熱伝導部材、熱伝導部材の製造方法およびバッテリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】熱伝導部材、熱伝導部材の製造方法およびバッテリー
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20241204BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20241204BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20241204BHJP
【FI】
H05K7/20 F
H01M10/613
H01M10/6554
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023520711
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2021018347
(87)【国際公開番号】W WO2022239221
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 均
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-113387(JP,A)
【文献】特開2020-128463(JP,A)
【文献】特開2019-210442(JP,A)
【文献】特表2019-530251(JP,A)
【文献】特開2019-165081(JP,A)
【文献】特開2012-031242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H01M 10/653
H01M 10/613
H01M 10/6554
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と冷却部材との間に介在させて前記熱源から前記冷却部材へと熱を移動させることのできる熱伝導部材であって、
少なくとも厚さ方向に弾性変形可能な弾性シートと、
前記弾性シートの厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら、前記弾性シートの前記厚さ方向と直角の長さ方向に蛇行して進行するように備えられる熱伝導フィルムと、
を備え、
前記弾性シートは、前記熱伝導フィルムと接する縁にテーパー部位若しくはカーブ部位を備え、
前記熱伝導フィルムは、前記弾性シートの前記テーパー部若しくは前記カーブ部位を覆っており、
前記弾性シートは、前記長さ方向に、前記熱伝導フィルムを挟んで硬度の異なる部材を備え、
前記熱伝導部材は、前記長さ方向の一端から他端に向かって、前記硬度の異なる部材における高硬度の前記弾性シート、前記熱伝導フィルム、前記硬度の異なる部材における低硬度の前記弾性シート、前記熱伝導フィルム、高硬度の前記弾性シート、前記熱伝導フィルムという順にて繰り返し構造を有しており、
前記弾性シートの厚さ方向の片面は、より硬度の高い部材の表面を前記熱伝導フィルムにて覆った面であることを特徴とする熱伝導部材。
【請求項2】
前記熱伝導フィルムが覆う領域は、前記熱伝導フィルムの厚さ以上に突出していることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導部材。
【請求項3】
前記弾性シートは、前記弾性シートの厚さ方向の片面において前記熱伝導フィルムが覆う領域に、前記熱伝導フィルムが覆わない領域よりも突出する突出部を有することを特徴とする請求項2に記載の熱伝導部材。
【請求項4】
前記弾性シートは、前記弾性シートの厚さ方向の両面において前記熱伝導フィルムが覆う領域に、前記熱伝導フィルムが覆わない領域よりも突出する突出部を有することを特徴とする請求項2に記載の熱伝導部材。
【請求項5】
前記弾性シートは、その厚さ方向の少なくとも片面において、前記熱伝導フィルムによって覆われている領域を除く領域の一部若しくは全部に、前記熱源または前記冷却部材と粘着可能な粘着層を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項6】
前記弾性シート上の前記粘着層の高さは、前記熱伝導フィルムと同一若しくはそれ以下の高さであることを特徴とする請求項5に記載の熱伝導部材。
【請求項7】
前記弾性シートは、発泡シートであって、主に前記弾性シートの厚さ方向に長い孔を有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の熱伝導部材。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の熱伝導部材を製造する方法であって、
前記弾性シートに、厚さ方向の表側の面から裏側の面に貫通する貫通孔を所定間隔おきに複数形成する貫通孔形成工程と、
前記弾性シートの前記表側の面に、前記貫通孔を覆うように前記熱伝導フィルムを配置する熱伝導フィルム配置工程と、
前記熱伝導フィルムの上から、弾性シート片を前記貫通孔に挿入して前記裏側の面から前記熱伝導フィルムを露出させる弾性シート片挿入工程と、
を含むことを特徴とする熱伝導部材の製造方法。
【請求項9】
前記貫通孔形成工程は、前記貫通孔の形成、および前記貫通孔の開口部の一部につながる前記弾性シート片を回動させて前記貫通孔から退避させる工程であり、
前記弾性シート片挿入工程は、前記弾性シート片を前記貫通孔に向けて回動させて前記貫通孔に挿入する工程であることを特徴とする請求項に記載の熱伝導部材の製造方法。
【請求項10】
前記熱源は1または2以上のバッテリーセルであり、かつ前記冷却部材は前記バッテリーセルを入れた筐体であり、請求項1からのいずれか1項に記載の熱伝導部材を前記バッテリーセルと前記筐体との間に介在させていることを特徴とするバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本願において引用した特許、特許出願及び文献に記載された内容は、本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、熱伝導部材、その製造方法および当該熱伝導部材を備えるバッテリーに関する。
【背景技術】
【0003】
自動車、航空機、船舶あるいは家庭用若しくは業務用電子機器の制御システムは、より高精度かつ複雑化してきており、それに伴って、回路基板上の小型電子部品の集積密度が増加の一途を辿っている。この結果、回路基板周辺の発熱による電子部品の故障や短寿命化を解決することが強く望まれている。
【0004】
回路基板からの速やかな放熱を実現するには、従来から、回路基板自体を放熱性に優れた材料で構成し、ヒートシンクを取り付け、あるいは冷却ファンを駆動するといった手段を単一で若しくは複数組み合わせて行われている。これらの内、回路基板自体を放熱性に優れた材料、例えばダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(cBN)などから構成する方法は、回路基板のコストを極めて高くしてしまう。また、冷却ファンの配置は、ファンという回転機器の故障、故障防止のためのメンテナンスの必要性や設置スペースの確保が難しいという問題を生じる。これに対して、放熱フィンは、熱伝導性の高い金属(例えば、アルミニウム)を用いた柱状あるいは平板状の突出部位を数多く形成することによって表面積を大きくして放熱性をより高めることのできる簡易な部材であるため、放熱部品として汎用的に用いられている。
【0005】
ところで、現在、世界中で、地球環境への負荷軽減を目的として、従来からのガソリン車あるいはディーゼル車を徐々に電気自動車に転換しようとする動きが活発化している。特に、フランス、オランダ、ドイツをはじめとする欧州諸国の他、中国でも、電気自動車の普及が進行してきている。電気自動車の普及には、高性能バッテリーの開発の他、多数の充電スタンドの設置などが必要となる。特に、リチウム系の自動車用バッテリーの充放電機能を高めるための技術開発は重要である。上記自動車バッテリーは、摂氏60度以上の高温下では充放電の機能を十分に発揮できないことが良く知られている。また、現在、バッテリーの高速かつ非接触での充電を実現する試験が進行しており、バッテリーの寿命を損なわないように、バッテリーの過充電に伴う発熱への対処も必要になる。このような事情から、先に説明した回路基板と同様、バッテリーにおいても、放熱性を高めることが重要視されている。
【0006】
上述した熱源からの放熱を促進するための熱伝導部材としては、例えば、熱伝導性に優れる薄いシートを樹脂製のシートの表裏方向に交互に露出させるように備える部材が知られている(特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-201534号公報
【文献】特開2012-031242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来から公知の熱伝導部材には次のような課題がある。熱源と冷却部材との間に熱伝導部材を介在させる場合、熱源から冷却部材への熱伝導性能を上げるには、熱伝導部材と熱源あるいは冷却部材との密着が重要である。このため、熱伝導部材の厚さ方向に加圧して熱伝導部材を圧縮するのが好ましい。しかし、熱伝導部材が熱源と冷却部材との間に挟持されている状況下にて、熱伝導部材の表側の面または裏側の面に露出している熱伝導フィルムが破損する可能性がある。この結果、熱源から熱伝導部材を介して冷却部材への熱伝導が低下する可能性がある。
【0009】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、熱源と冷却部材との間に介在する熱伝導部材の熱伝導を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る熱伝導部材は、熱源と冷却部材との間に介在させて前記熱源から前記冷却部材へと熱を移動させることのできる熱伝導部材であって、
少なくとも厚さ方向に弾性変形可能な弾性シートと、
前記弾性シートの厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら前記弾性シートの前記厚さ方向と直角でシート面内の所定方向に蛇行して進行するように備えられる熱伝導フィルムと、
を備え、
前記弾性シートは、前記熱伝導フィルムと接する縁にテーパー部位若しくはカーブ部位を備え、
前記熱伝導フィルムは、前記弾性シートの前記テーパー部材若しくは前記カーブ部位を覆っている。
(2)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記熱伝導フィルムが覆う領域は、前記熱伝導フィルムの厚さ以上に突出していても良い。
(3)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シートは、前記弾性シートの厚さ方向の片面において前記熱伝導フィルムが覆う領域に、前記熱伝導フィルムが覆わない領域よりも突出する突出部を有していても良い。
(4)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シートは、前記弾性シートの厚さ方向の両面において前記熱伝導フィルムが覆う領域に、前記熱伝導フィルムが覆わない領域よりも突出する突出部を有していても良い。
(5)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シートは、その厚さ方向の少なくとも片面において、前記熱伝導フィルムによって覆われている領域を除く領域の一部若しくは全部に、前記熱源または前記冷却部材と粘着可能な粘着層を備えていても良い。
(6)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シート上の前記粘着層の高さは、前記熱伝導フィルムと同一若しくはそれ以下の高さでも良い。
(7)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シートは、前記熱伝導フィルムを挟んで硬度の異なる部材を備えており、前記弾性シートの厚さ方向の片面は、より硬度の高い部材の表面を前記熱伝導フィルムにて覆った面であっても良い。
(8)別の実施形態に係る熱伝導部材において、好ましくは、前記弾性シートは、発泡シートであって、主に前記弾性シートの厚さ方向に長い孔を有しても良い。
(9)一実施形態に係る熱伝導部材の製造方法は、上述のいずれかの熱伝導部材を製造する方法であって、
前記弾性シートに、厚さ方向の表側の面から裏側の面に貫通する貫通孔を所定間隔おきに複数形成する貫通孔形成工程と、
前記弾性シートの前記表側の面に、前記貫通孔を覆うように前記熱伝導フィルムを配置する熱伝導フィルム配置工程と、
前記熱伝導フィルムの上から、弾性シート片を前記貫通孔に挿入して前記裏側の面から前記熱伝導フィルムを露出させる弾性シート片挿入工程と、
を含む。
(10)別の実施形態に係る熱伝導部材の製造方法において、好ましくは、前記貫通孔形成工程は、前記貫通孔の形成、および前記貫通孔の開口部の一部につながる前記弾性シート片を回動させて前記貫通孔から退避させる工程であり、
前記弾性シート片挿入工程は、前記弾性シート片を前記貫通孔に向けて回動させて前記貫通孔に挿入する工程でも良い。
(11)一実施形態に係るバッテリーは、前記熱源を、1または2以上のバッテリーセルとし、かつ前記冷却部材を、前記バッテリーセルを入れた筐体とし、上述のいずれかの熱伝導部材を前記バッテリーセルと前記筐体との間に介在させている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱源と冷却部材との間に介在する熱伝導部材の熱伝導を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係る熱伝導部材の平面図、右側面図および正面図(1A)と、当該熱伝導部材の斜視図(1B)とを示す。
図2図2は、図1の熱伝導部材をその平面図におけるA-A線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(2A)と、当該熱伝導部材の製造工程の一部状況の拡大断面図(2B)とを示す。
図3図3は、図1の熱伝導部材の製造方法の一例を説明するための斜視図を示す。
図4図4は、図3の製造方法の変形例を説明するための斜視図を示す。
図5図5は、第2実施形態に係る熱伝導部材の斜視図(5A)と、当該熱伝導部材の斜視図におけるA-A線断面図およびその一部Bの拡大図(5B)とを示す。
図6図6は、図5の熱伝導部材の製造工程の一部状況の拡大断面図を示す。
図7図7は、図5の熱伝導部材の製造方法の一例を説明するための斜視図を示す。
図8図8は、図7の製造方法の変形例を説明するための斜視図を示す。
図9図9は、図1の第1実施形態に係る熱伝導部材の熱伝導フィルム以外の領域に粘着層を備えた変形例に係る熱伝導部材をその厚さ方向に切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(9A)と、当該粘着層を備えた熱伝導部材の斜視図(9B)とを示す。
図10図10は、図5の第2実施形態に係る熱伝導部材の熱伝導フィルム以外の領域に粘着層を備えた変形例に係る熱伝導部材をその厚さ方向に切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(10A)と、当該粘着層を備えた熱伝導部材の斜視図(10B)とを示す。
図11図11は、第3実施形態に係る熱伝導部材をその厚さ方向であって、その長さ方向に平行に切断したときの断面図(11A)と、当該熱伝導部材を熱源としてのバッテリーセルと冷却部材としての筐体との間に挟むように配置した状態の断面図(11B)とを示す。
図12図12は、第4実施形態に係る熱伝導部材をその厚さ方向であって、その長さ方向に平行に切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(12A)と、当該熱伝導部材の弾性シート断面の電子顕微鏡写真(12B)とを示す。
図13図13は、熱伝導部材を備えるバッテリーの縦断面図を示す。
図14図14は、熱伝導部材の上に、バッテリーセルの側面を接触させるように横置きにしたときの断面図、その一部拡大図および充放電時にバッテリーセルが膨張した際の一部断面図を示す。
【符号の説明】
【0013】
1,1a,1b,1c・・・熱伝導部材、10,10a・・・弾性シート(一例として発泡シート),10d・・・弾性シート(より硬度の高い部材、一例として発泡シート)、10e・・・弾性シート(一例として発泡シート)、10b・・・弾性シート片(一例として発泡シート)、11・・・細長貫通孔(貫通孔の一例)、13・・・短辺(開口部の一部の例)、15・・・テーパー部位(若しくはカーブ部位)、16・・・粘着層、17・・・孔、20・・・熱伝導フィルム、30,31・・・バッテリーセル(熱源の一例)、40・・・バッテリー(熱源の一例)、41・・・筐体、42・・・底部(冷却部材の一例)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
<熱伝導部材およびその製造方法>
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る熱伝導部材の平面図、右側面図および正面図(1A)と、当該熱伝導部材の斜視図(1B)とを示す。以後、厚さ方向、幅方向および長さ方向は、それぞれ、直方体の最も短い辺の方向、厚さ方向の次に長い辺の方向および最も長い辺の方向をいう。
【0016】
第1実施形態に係る熱伝導部材1は、熱源と冷却部材との間に介在させて熱源から冷却部材へと熱を移動させることのできる部材である。熱伝導部材1は、弾性シート10と、熱伝導フィルム20と、を備える。弾性シート10は、少なくとも厚さ方向に弾性変形可能なシートである。弾性シート10は、厚さ方向に弾性変形可能であれば、幅方向および長さ方向にも弾性変形可能であっても良い。熱伝導フィルム20は、弾性シート10の厚さ方向の表側の面と裏側の面に交互に露出しながら弾性シート10の厚さ方向と直角でシート面内の所定方向(ここでは、弾性シート10の長さ方向)に蛇行して進行するように備えられるフィルムである。弾性シート10は、好ましくは、その厚さ方向に熱伝導フィルム20を貫通させて凹凸を繰り返すよう配置させることにより熱伝導フィルム20を保持する。すなわち、弾性シート10は、熱源と対向する面および冷却部材と対向する面において、所定間隔を空けて熱伝導フィルム20が露出するように、熱伝導フィルム20を保持する。
【0017】
この実施形態では、弾性シート10は、好ましくは、幅方向および長さ方向に比べて厚さ方向の長さが極端に小さい薄いシートである。この実施形態に係る熱伝導フィルム20は、弾性シート10に比べて、熱伝導性が高くて伸縮性が低いフィルムである。熱伝導フィルム20は、表側の面において、弾性シート10の長さ方向に、好ましくは一定のピッチにて露出している。同様に、熱伝導フィルム20は、裏側の面においても、弾性シート10の長さ方向に、好ましくは一定のピッチにて露出している。ただし、ピッチは、一定ではなく、異なっていても良い。
【0018】
弾性シート10の重要な機能は、熱伝導部材1に、変形容易性と回復力を付与することである。回復力は、弾性シート10の弾性変形性に起因する。変形容易性は、弾性シート10の柔軟性に起因する。弾性シート10は、その厚さに制約はないが、好ましくは0.2~20mm、より好ましくは0.5~10mmの厚さを有する。また、弾性シート10の厚さは、熱伝導フィルム20の厚さより大きいのが好ましい。
【0019】
弾性シート10は、好ましくは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム(NBR)あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の熱硬化性エラストマー; ウレタン系、エステル系、スチレン系、オレフィン系、ブタジエン系、フッ素系等の熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの複合物等を含むように構成される。弾性シート10は、熱伝導フィルム20を伝わる熱によって溶融あるいは分解等せずにその形態を維持できる程度の耐熱性の高い材料から構成されるのが好ましい。この実施形態では、弾性シート10は、より好ましくは、ウレタン系エラストマー中にシリコーンを含浸したもの、あるいはシリコーンゴムにより構成される。この実施形態では、弾性シート10は、シリコーンゴムシートである。弾性シート10は、その熱伝導性を少しでも高めるために、ゴム中にAl、AlN、cBN、hBN、ダイヤモンドの粒子等に代表されるフィラーを分散して構成されていても良い。弾性シート10は、より好ましくは、その内部に気泡を含むクッション性の高いスポンジである。この実施形態では、弾性シート10は、発泡シートである。また、「弾性シート」は、柔軟性に富み、弾性変形可能な部材を意味し、かかる意味では「クッション部材」、「クッションシート」或いは「ゴム状弾性体」と読み替えることもできる。
【0020】
熱伝導フィルム20の材料は、特に制約はないが、好ましくは、金属、炭素若しくはセラミックスの少なくとも1つを含み、可撓性を有する部材である。熱伝導フィルム20は、より好ましくは、炭素フィルム若しくは炭素含有樹脂フィルムである。熱伝導フィルム20は、好ましくは、90質量%以上を炭素から構成されるフィルムである。例えば、熱伝導フィルム20に、樹脂を焼成して成るグラファイト製のフィルムを用いることもできる。ただし、熱伝導フィルム20は、炭素と樹脂とを含むフィルムであっても良い。その場合、樹脂は、合成繊維でも良く、その場合には、樹脂として好適にはアラミド繊維を用いることができる。本願でいう「炭素」は、グラフェン、グラファイト、グラファイトより結晶性の低いカーボンブラック、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ダイヤモンドに近い構造を持つダイヤモンドライクカーボン等の炭素(元素記号:C)から成る如何なる構造のものも含むように広義に解釈される。熱伝導フィルム20は、この実施形態では、樹脂に、グラファイト繊維やカーボン粒子を配合分散した材料を硬化させた薄いフィルムとすることができる。熱伝導フィルム20は、メッシュ状に編んだカーボンファイバーであっても良く、さらには混紡してあっても混編みしてあっても良い。なお、グラファイト繊維、カーボン粒子あるいはカーボンファイバーといった各種フィラーも、すべて、炭素フィラーの概念に含まれる。また、熱伝導フィルム20は、「熱伝導シート」と称しても良い。
【0021】
熱伝導フィルム20を炭素と樹脂とを備えるフィルムとする場合には、当該樹脂が熱伝導フィルム20の全質量に対して50質量%を超えていても、あるいは50質量%以下であっても良い。すなわち、熱伝導フィルム20は、熱伝導に大きな支障が無い限り、樹脂を主材とするか否かを問わない。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂を好適に使用できる。熱可塑性樹脂としては、熱源からの熱を伝導する際に溶融しない程度の高融点を備える樹脂が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド(アラミド繊維)等を好適に挙げることができる。樹脂は、熱伝導フィルム20の成形前の状態において、炭素フィラーの隙間に、例えば粒子状あるいは繊維状に分散している。熱伝導フィルム20は、炭素フィラー、樹脂の他、熱伝導をより高めるためのフィラーとして、Al、AlNあるいはダイヤモンドを分散していても良い。また、樹脂に代えて、樹脂よりも柔軟なゴムを用いても良い。熱伝導フィルム20は、また、上述のような炭素に代えて若しくは炭素と共に、金属および/またはセラミックスを含むフィルムとすることができる。金属としては、アルミニウム、銅、それらの内の少なくとも1つを含む合金などの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、セラミックスとしては、Al、AlN、cBN、hBNなどの熱伝導性の比較的高いものを選択できる。また、上記フィラーに熱伝導の異方性がある場合には、熱伝導フィルム成型時に流動配向、延伸配向、磁場配向などの方法によりフィラーの配向方向を制御して特定方向への熱伝導性をより高める手法を用いても良い。
【0022】
熱伝導フィルム20は、導電性に優れるか否かは問わない。熱伝導フィルム20の熱伝導率は、好ましくは10W/mK以上である。この実施形態では、熱伝導フィルム20は、好ましくは、グラファイト製のフィルムであり、熱伝導性と導電性に優れる材料から成る。熱伝導フィルム20は、湾曲性(若しくは屈曲性)に優れるフィルムであるのが好ましく、その厚さに制約はないが、0.02~3mmが好ましく、0.03~0.5mmがより好ましい。この実施形態では、弾性シート10の表側の面および裏側の面における熱伝導フィルム20が覆う領域は、弾性シート10の表側の面および裏側の面から少なくとも熱伝導フィルム20の厚さだけ突出している。なお、弾性シート10の表側の面および裏側の面のいずれか1つの面における熱伝導フィルム20の領域を、弾性シート10の当該いずれか1つの面から少なくとも熱伝導フィルム20の厚さだけ突出させても良い。
【0023】
図2は、図1の熱伝導部材をその平面図におけるA-A線にて切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(2A)と、当該熱伝導部材の製造工程の一部状況の拡大断面図(2B)とを示す。
【0024】
弾性シート10は、好ましくは、熱伝導フィルムと20接する縁にテーパー部位15を備えている。弾性シート10は、テーパー部位に代えて、カーブ部位を備えても良い。ここで、テーパー部位とは、略直角の縁の角を平面状に除して傾斜面とした部位をいう。カーブ部位とは、略直角の縁の角を弧状、すなわちカーブを描くようにした部位をいう。熱伝導フィルム20は、弾性シート10のテーパー部材(若しくはカーブ部位)15を覆っている。ここでは、熱伝導フィルム20は、テーパー部位15の箇所にて、テーパー部位21を備える。弾性シート10にカーブ部位を備える場合にも、熱伝導フィルム20は、当該カーブ部位の箇所にてカーブ部位を備える。このように、熱伝導部材1において、弾性シート10が熱伝導フィルム20と接する縁にテーパー部位15若しくはカーブ部位を備え、熱伝導フィルム20が弾性シート10のテーパー部材15若しくはカーブ部位を覆う形態とすると、熱伝導部材1の厚さ方向を熱源と冷却部材とで挟んで圧縮しても、熱伝導フィルム20が弾性シート10の縁で破損するリスクを低減できる。
【0025】
次に、熱伝導部材1の一部Bの拡大図の領域を示す図2(2B)を参照して、弾性シート10の厚さ方向両面に交互に熱伝導フィルム20を露出させる製造方法を説明する。
【0026】
まず、弾性シート10の長さ方向に一定の間隔をあけて、弾性シート10の幅方向に長い細長貫通孔11(貫通孔の一例)を形成する。この実施形態では、弾性シート10は、その長さ方向に、合計11個の細長貫通孔11を備える。図2(2B)は、1つの細長貫通孔11の近傍を図示して、一部製造工程を示す。
【0027】
細長貫通孔11の表側の開口部の縁を削ってテーパー部位15を形成する。テーパー部位15は、上記開口部の全周囲でも良いが、ここでは弾性シート10の長さ方向の縁のみをテーパー部位15としている。これによって、テーパー部位15を有する細長貫通孔11が形成された弾性シート10aができる。なお、細長貫通孔11の裏側の開口部の縁にもテーパー部位15を形成しても良い。また、テーパー部位15に代えてカーブ部位を備えても良い。
【0028】
次に、弾性シート10aの表側の面に、熱伝導フィルム20を配置する。熱伝導フィルム20は、好ましくは、11個の細長貫通孔11を全て覆うように弾性シート10aを覆う。次に、熱伝導フィルム20を挟んで、弾性シート片10bを細長貫通孔11内に挿入する。弾性シート片10bは、挿入方向の面の縁にテーパー部位15を備える。この結果、細長貫通孔11に弾性シート片10bを挿入すると、弾性シート片10bによって熱伝導フィルム20を弾性シート10aの裏面側に露出させることができる。また、弾性シート10aの表側の面および裏側の面において、熱伝導フィルム20は、弾性シート10のテーパー部材15を覆うと共に、テーパー部位15の箇所にてテーパー部位21を備える。弾性シート10aと弾性シート片10b、および/または熱伝導フィルム20に接着層を備えておくと、熱伝導部材1は、弾性シート10と熱伝導フィルム20とが固定された部材となる。なお、弾性シート片10bは、細長貫通孔11の形成時に弾性シート10から切り取った部位であるのが好ましい。
【0029】
図3は、図1の熱伝導部材の製造方法の一例を説明するための斜視図を示す。図2(2B)では、一部Bの領域だけで製造工程を説明したが、図3では、熱伝導部材の全領域にて製造工程を説明する。
【0030】
熱伝導部材1の製造方法は、次の各工程(1)、(2)および(3)を含む。
(1)貫通孔形成工程
この工程は、弾性シート10に、厚さ方向の表側の面から裏側の面に貫通する細長貫通孔11を所定間隔おきに複数形成する工程である。また、この工程において、細長貫通孔11の開口部の縁にテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。また、弾性シート片10bの縁にもテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。
(2)熱伝導フィルム配置工程
この工程は、弾性シート10の表側の面に、好ましくは全ての細長貫通孔11を覆うように熱伝導フィルム20を配置する工程である。ただし、熱伝導フィルム20は、複数ある細長貫通孔11の一部を覆うように配置されても良い。その場合、全ての細長貫通孔11を覆うために複数の熱伝導フィルム20を用いても良い。この点は、以後の実施形態または変形例における同工程でも同様である。
(3)弾性シート片挿入工程
この工程は、熱伝導フィルム20の上から、弾性シート片10bを細長貫通孔11に挿入して裏側の面から熱伝導フィルム20を露出させる工程である。
【0031】
図3に示す製造工程では、細長貫通孔11の開口部の一部(ここでは、開口部の1つの短辺13)と弾性シート片10bとを連接しておき、弾性シート片10bを、回動軸として機能する短辺13に対して回動することにより、細長貫通孔11に対して弾性シート片10bを着脱可能にしている。すなわち、弾性シート10に細長貫通孔11を形成する際に、弾性シート片10bを細長貫通孔11から完全に分離せず、短辺13の箇所だけ残すようにカットしている。
【0032】
このように、弾性シート片10bを細長貫通孔11の短辺13に連接しておくと、熱伝導部材1は、次のように製造できる。前述の貫通孔形成工程は、細長貫通孔11の形成、および細長貫通孔11の開口部の一部(短辺13)につながる弾性シート片10bを回動させて細長貫通孔11から退避させる工程とすることができる。上述の熱伝導フィルム配置工程は、弾性シート片10bを弾性シート10aの外方向に回動させた状態の弾性シート10の表側の面に、細長貫通孔11を覆うように熱伝導フィルム20を配置する工程とすることができる。また、上述の弾性シート片挿入工程は、弾性シート片10bを細長貫通孔11に向けて回動させて細長貫通孔11に挿入する工程とすることができる(矢印Cを参照)。
【0033】
こうして完成した熱伝導部材1では、弾性シート片10bの先端側の短辺12は、切り込みの形態となっており、その反対側の短辺13は、弾性シート10aと連接状態となっており、切り込まれていない。
【0034】
なお、細長貫通孔11の開口部の縁および弾性シート片10bにテーパー部位15またはカーブ部位を形成する工程を、貫通孔形成工程の後に別途設けても良い。
【0035】
図4は、図3の製造方法の変形例を説明するための斜視図を示す。図2(2B)では、一部Bの領域だけで製造工程を説明したが、図4では、熱伝導部材の全領域にて製造工程を説明する。
【0036】
この変形例に係る製造方法は、図3の製造方法と異なり、弾性シート片10bが細長貫通孔11から完全に分離されている。このため、変形例に係る製造方法は、次の通りとなる。まず、弾性シート10に細長貫通孔11を形成する。このとき、弾性シート片10bは細長貫通孔11から完全に分離される。また、細長貫通孔11の開口部の縁にテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。さらには、弾性シート片10bの縁にもテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。次に、細長貫通孔11を形成した弾性シート10aの表側の面に、好ましくは全ての細長貫通孔11を覆うように熱伝導フィルム20を配置する。最後に、弾性シート片10bを熱伝導フィルム20の上から、細長貫通孔11に向けて挿入する。
【0037】
こうして完成した熱伝導部材1では、弾性シート片10bの先端側の短辺12およびその反対側の短辺13は、切り込みの形態となっている。
【0038】
なお、細長貫通孔11の開口部の縁および弾性シート片10bにテーパー部位15またはカーブ部位を形成する工程を、貫通孔形成工程の後に別途設けても良い。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る熱伝導部材およびその製造方法について説明する。第1実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0040】
図5は、第2実施形態に係る熱伝導部材の斜視図(5A)と、当該熱伝導部材の斜視図におけるA-A線断面図およびその一部Bの拡大図(5B)とを示す。
【0041】
第2実施形態に係る熱伝導部材1aは、第1実施形態に係る熱伝導部材1と同様に、熱伝導フィルム20が覆う領域を、それ以外の領域に比べて熱伝導フィルム20の厚さ以上に突出させている。熱伝導部材1aでは、さらに、弾性シート10は、その厚さ方向の両面において、熱伝導フィルム20が覆う領域を、熱伝導フィルム20が覆わない領域よりも突出させている。より具体的には、この実施形態に係る弾性シート10は、その長さ方向に所定間隔で、弾性シート10の幅方向に長い突出部14を12個備える。なお、突出部14は、2個以上であれば、12個に限定されない。熱伝導フィルム20は、弾性シート10の厚さ方向に貫通しながら突出部14の表面を覆っている。熱伝導部材1aにおける熱伝導フィルム20が覆っている領域は、突出部14(弾性シート10の表側の面からの高さ:H1、裏側の面からの高さH2)と熱伝導フィルム20の厚さの合計分だけ、弾性シート10の表面よりも突出している。この実施形態では、H1>H2であるが、H1=H2、またはH1<H2でも良い。なお、弾性シート10は、その表側の面および裏側の面のいずれか1つの面における熱伝導フィルム20の領域に、突出部14を備えていても良い。
【0042】
この実施形態に係る熱伝導部材1aでは、第1実施形態に係る熱伝導部材1と同様、弾性シート10は、好ましくは、熱伝導フィルムと20接する縁にテーパー部位15を備えている。弾性シート10は、テーパー部位15に代えて、カーブ部位を備えても良い。熱伝導フィルム20は、弾性シート10のテーパー部材15(若しくはカーブ部位)を覆っている。熱伝導フィルム20は、テーパー部位15の箇所にて、テーパー部位21を備える。弾性シート10にカーブ部位を備える場合にも、熱伝導フィルム20は、当該カーブ部位の箇所にてカーブ部位を備える。このように、熱伝導部材1aにおいて、弾性シート10が熱伝導フィルム20と接する縁にテーパー部位15若しくはカーブ部位を備え、熱伝導フィルム20が弾性シート10のテーパー部材15若しくはカーブ部位を覆う形態とすると、熱伝導部材1aの厚さ方向を熱源と冷却部材とで挟んで圧縮しても、熱伝導フィルム20が弾性シート10の縁で破損するリスクを低減できる。
【0043】
また、熱伝導部材1aでは、熱伝導フィルム20の存在する領域が突出部14と熱伝導フィルム20の厚さとの合計分だけ突出しており、シート面より高くなっている。このため、熱伝導部材1aの厚さ方向の面に接する熱源(若しくは冷却部材)の面に多少の凹凸があっても、熱伝導フィルム20を熱源や冷却部材に確実に接触させることができる。
【0044】
図6は、図5の熱伝導部材の製造工程の一部状況の拡大断面図を示す。
【0045】
ここでは、弾性シート10の厚さ方向両面に交互に熱伝導フィルム20を露出させる製造方法を説明する。まず、弾性シート10の長さ方向に一定の間隔をあけて、弾性シート10の幅方向に長い細長貫通孔11を形成する。この実施形態では、弾性シート10は、その長さ方向に、合計11個の細長貫通孔11を備える。図6は、1つの細長貫通孔11の近傍を図示して、一部製造工程を示す。
【0046】
細長貫通孔11の表側の開口部の縁を削ってテーパー部位15を形成する。テーパー部位15は、上記開口部の全周囲でも良いが、ここでは弾性シート10の長さ方向の縁のみをテーパー部位15としている。これによって、テーパー部位15を有する細長貫通孔11が形成された弾性シート10aができる。なお、細長貫通孔11の裏側の開口部の縁にもテーパー部位15を形成しても良い。また、テーパー部位15に代えてカーブ部位を備えても良い。
【0047】
次に、弾性シート10aの表側の面に、熱伝導フィルム20を配置する。熱伝導フィルム20は、好ましくは、11個の細長貫通孔11を全て覆うように弾性シート10aを覆う。次に、熱伝導フィルム20を挟んで、弾性シート片10bを細長貫通孔11内に挿入する。弾性シート片10bは、挿入方向の面の縁にテーパー部位15を備える。この結果、細長貫通孔11に弾性シート片10bを挿入すると、弾性シート片10bによって熱伝導フィルム20を弾性シート10aの裏面側に露出させることができる。また、弾性シート10aの表側の面および裏側の面において、熱伝導フィルム20は、弾性シート10のテーパー部材15を覆うと共に、テーパー部位15の箇所にてテーパー部位21を備える。弾性シート10aと弾性シート片10b、および/または熱伝導フィルム20に接着層を備えておくと、熱伝導部材1aは、弾性シート10と熱伝導フィルム20とが固定された部材となる。なお、弾性シート片10bは、細長貫通孔11の形成時に弾性シート10から切り取った部位であるのが好ましい。
【0048】
図7は、図5の熱伝導部材の製造方法の一例を説明するための斜視図を示す。図6では、一部Bの領域だけで製造工程を説明したが、図7では、熱伝導部材の全領域にて製造工程を説明する。
【0049】
熱伝導部材1の製造方法は、次の各工程(1)、(2)および(3)を含む。
(1)貫通孔形成工程
この工程は、弾性シート10に、厚さ方向の表側の面から裏側の面に貫通する細長貫通孔11を所定間隔おきに複数形成する工程である。弾性シート10は、細長貫通孔11の幅方向隣に、突出部14を有する。この実施形態では、弾性シート10は、2つの突出部14の間に、1個の細長貫通孔11を備えている、ただし、突出部14同士の間以外に、突出部14の隣に細長貫通孔11を形成することもできる。細長貫通孔11の形成後、弾性シート10は、シート面10cから厚さ方向に貫通する細長貫通孔11と、シート面10cから突出した突出部14とを備えたシートとなる。また、この工程において、細長貫通孔11の開口部の縁にテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。また、弾性シート片10bの縁にもテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。
(2)熱伝導フィルム配置工程
この工程は、弾性シート10の表側の面に、全ての細長貫通孔11を覆うように熱伝導フィルム20を配置する工程である。
(3)弾性シート片挿入工程
この工程は、熱伝導フィルム20の上から、弾性シート片10bを細長貫通孔11に挿入して裏側の面から熱伝導フィルム20を露出させる工程である。
【0050】
図7に示す製造工程では、細長貫通孔11の開口部の一部(ここでは、開口部の1つの短辺13)と弾性シート片10bとを連接しておき、弾性シート片10bを、回動軸として機能する短辺13に対して回動することにより、細長貫通孔11に対して弾性シート片10bを着脱可能にしている。すなわち、弾性シート10に細長貫通孔11を形成する際に、弾性シート片10bを細長貫通孔11から完全に分離せず、短辺13の箇所だけ残すようにカットしている。
【0051】
このように、弾性シート片10bを細長貫通孔11の短辺13に連接しておくと、熱伝導部材1aは、次のように製造できる。前述の貫通孔形成工程は、細長貫通孔11の形成、および細長貫通孔11の開口部の一部(短辺13)につながる弾性シート片10bを回動させて細長貫通孔11から退避させる工程とすることができる。上述の熱伝導フィルム配置工程は、弾性シート片10bを弾性シート10aの外方向に回動させた状態の弾性シート10の表側の面に、細長貫通孔11を覆うように熱伝導フィルム20を配置する工程とすることができる。また、上述の弾性シート片挿入工程は、弾性シート片10bを細長貫通孔11に向けて回動させて細長貫通孔11に挿入する工程とすることができる(矢印Cを参照)。
【0052】
こうして完成した熱伝導部材1aでは、弾性シート片10bの先端側の短辺12は、切り込みの形態となっており、その反対側の短辺13は、弾性シート10aと連接状態となっており、切り込まれていない。
【0053】
なお、細長貫通孔11の開口部の縁および弾性シート片10bにテーパー部位15またはカーブ部位を形成する工程を、貫通孔形成工程の後に別途設けても良い。また、突出部14を形成する突出部形成工程を、貫通孔形成工程の前に別途設けても良い。
【0054】
図8は、図7の製造方法の変形例を説明するための斜視図を示す。図6では、一部Bの領域だけで製造工程を説明したが、図8では、熱伝導部材の全領域にて製造工程を説明する。
【0055】
この変形例に係る製造方法は、図7の製造方法と異なり、弾性シート片10bが細長貫通孔11から完全に分離されている。このため、変形例に係る製造方法は、次の通りとなる。まず、弾性シート10に細長貫通孔11を形成する。このとき、弾性シート片10bは細長貫通孔11から完全に分離される。また、細長貫通孔11の開口部の縁にテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。さらには、弾性シート片10bの縁にもテーパー部位15またはカーブ部位が形成される。次に、細長貫通孔11を形成した弾性シート10aの表側の面に、好ましくは全ての細長貫通孔11を覆うように熱伝導フィルム20を配置する。最後に、弾性シート片10bを熱伝導フィルム20の上から、細長貫通孔11に向けて挿入する。
【0056】
こうして完成した熱伝導部材1aでは、弾性シート片10bの先端側の短辺12およびその反対側の短辺13は、切り込みの形態となっている。
【0057】
なお、細長貫通孔11の開口部の縁および弾性シート片10bにテーパー部位15またはカーブ部位を形成する工程を、貫通孔形成工程の後に別途設けても良い。また、突出部14を形成する突出部形成工程を、貫通孔形成工程の前に別途設けても良い。
【0058】
(第1および第2実施形態の変形例)
図9は、図1の第1実施形態に係る熱伝導部材の熱伝導フィルム以外の領域に粘着層を備えた変形例に係る熱伝導部材をその厚さ方向に切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(9A)と、当該粘着層を備えた熱伝導部材の斜視図(9B)とを示す。
【0059】
変形例に係る熱伝導部材1における弾性シート10は、その厚さ方向の少なくとも片面において、熱伝導フィルム20によって覆われている領域を除く領域の全部に、熱源または冷却部材と粘着可能な粘着層16を備えている。ここでは、粘着層16は、弾性シート10の厚さ方向両側の面に備えられている。弾性シート10上の粘着層16の高さは、好ましくは、熱伝導フィルム20と同一若しくはそれ以下の高さである。粘着層16の表面の位置を、熱伝導フィルム20の表面の位置と同一若しくはそれ以下とすると、熱伝導部材1を熱源と冷却部材との間で圧縮した際に、粘着層16が圧縮されて熱伝導フィルム20側に侵出するリスクを低減できる。なお、粘着層16は、熱伝導部材1を熱源と冷却部材との間に装着し、その後に剥がす動作を繰り返し行うことのできる層であるのが好ましい。
【0060】
粘着層16の装着場所は、図9(9B)に示すように、熱伝導フィルム20の領域を除く全領域でも良いが、これに代えて、熱伝導フィルム20の領域を除く一部の領域、例えば、2つの熱伝導フィルム20の間のみでも良く、または弾性シート10の幅方向両端(12個の熱伝導フィルム20の長さ方向両側)のみでも良い。
【0061】
図10は、図5の第2実施形態に係る熱伝導部材の熱伝導フィルム以外の領域に粘着層を備えた変形例に係る熱伝導部材をその厚さ方向に切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(10A)と、当該粘着層を備えた熱伝導部材の斜視図(10B)とを示す。
【0062】
変形例に係る熱伝導部材1aにおける弾性シート10は、その厚さ方向の少なくとも片面において、熱伝導フィルム20によって覆われている領域を除く領域の全部に、熱源または冷却部材と粘着可能な粘着層16を備えている。ここでは、粘着層16は、弾性シート10の厚さ方向両側の面に備えられている。弾性シート10上の粘着層16の高さは、好ましくは、熱伝導フィルム20と同一若しくはそれ以下の高さである。粘着層16の高さは、突出部14の高さ以下でも良い。粘着層16の表面の位置を、熱伝導フィルム20の表面の位置と同一若しくはそれ以下とすると、熱伝導部材1aを熱源と冷却部材との間で圧縮した際に、粘着層16が圧縮されて熱伝導フィルム20側に侵出するリスクを低減できる。
【0063】
粘着層16の装着場所は、図10(10B)に示すように、熱伝導フィルム20の領域を除く全領域でも良いが、これに代えて、熱伝導フィルム20の領域を除く一部の領域、例えば、2つの熱伝導フィルム20の間のみでも良く、または弾性シート10の幅方向両端(12個の熱伝導フィルム20の長さ方向両側)のみでも良い。
【0064】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る熱伝導部材およびその製造方法について説明する。先の各実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0065】
図11は、第3実施形態に係る熱伝導部材をその厚さ方向であって、その長さ方向に平行に切断したときの断面図(11A)と、当該熱伝導部材を熱源としてのバッテリーセルと冷却部材としての筐体との間に挟むように配置した状態の断面図(11B)とを示す。
【0066】
第3実施形態に係る熱伝導部材1bの弾性シート10は、その長さ方向において、熱伝導フィルム20を挟んで硬度の異なる部材を備えている。弾性シート10の厚さ方向の片面(熱源側の面)は、より硬度の高い部材の表面を熱伝導フィルム20にて覆った面である。熱伝導部材1bは、その長さ方向の一端から他端に向かって、高硬度の弾性シート10d、熱伝導フィルム20、低硬度の弾性シート10e、熱伝導フィルム20、高硬度の弾性シート10d、熱伝導フィルム20、低硬度の弾性シート10e、・・・のように繰り返し備えられている。熱伝導部材1bの高硬度の弾性シート10上に熱伝導フィルム20を被せた部分をバッテリーセル30側にして、低硬度の弾性シート10上に熱伝導フィルム20を被せた部分を筐体41側にすると、バッテリーセル30と熱伝導フィルム20とをより確実に接触させることができる。なお、この実施形態において、熱伝導部材1bは、好ましくは、粘着層16を備える。
【0067】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る熱伝導部材およびその製造方法について説明する。先の各実施形態と共通する部分については同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0068】
図12は、第4実施形態に係る熱伝導部材をその厚さ方向であって、その長さ方向に平行に切断したときの断面図およびその一部Bの拡大図(12A)と、当該熱伝導部材の弾性シート断面の電子顕微鏡写真(12B)とを示す。
【0069】
第4実施形態に係る熱伝導部材1cの弾性シート10は、発泡シートであって、主に弾性シート10の厚さ方向に長い孔17を有している。ここで、「主に」とは、孔17の総数に占める当該厚さ方向に長い孔17の数の割合が50%を超えていることを意味する。当該割合は、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上である。孔17は、典型的には、短径wに比べて長径lの大きな形状を有する(図12(12B)の写真を参照)。
【0070】
一方向に長い孔17を有する発泡シートは、例えば、次のような製法にて得ることができる。加硫化前のシート組成物の両面に樹脂シート(例えば、PETシート)を貼ってから加硫化する。加硫化後、PETシートで挟まれた領域を切り出すと、PETシートで挟んだ方向に長い孔17を有する発泡シートが得られる。
【0071】
弾性シート10をその厚さ方向に長い孔17を多数備える発泡シートとすると、当該シートの面に沿う方向に比べてその面に沿う方向と直角である厚さ方向の方が、熱伝導に優れ、かつ厚さ方向に圧縮されにくくなる。このため、熱源から冷却部材への熱移動の際に、熱伝導フィルム20および弾性シート10の両方の熱伝導を期待できる。加えて、弾性シート10が確実に熱伝導フィルム20を保持して、熱源および冷却部材と熱伝導フィルム20との密着を実現しやすくなる。
【0072】
<バッテリー>
次に、本実施形態に係るバッテリーについて説明する。
【0073】
図13は、熱伝導部材を備えるバッテリーの縦断面図を示す。ここで、「縦断面図」は、バッテリーの筐体内部の上方開口面から底部へと垂直に切断する図を意味する。
【0074】
この実施形態に係るバッテリー40において、熱源は1または2以上のバッテリーセル30である。また、冷却部材はバッテリーセル30を入れた筐体41である。前述の熱伝導部材1は、バッテリーセル30と筐体41との間に介在している。以下、バッテリー40の構造について説明する。
【0075】
この実施形態において、バッテリー40は、例えば、電気自動車用のバッテリーであって、多数のバッテリーセル30を備える。バッテリー40の好適な例としては、リチウムイオンバッテリーを挙げることができる。バッテリー40は、一方に開口する有底型の筐体41を備える。筐体41は、好ましくは、アルミニウム若しくはアルミニウム基合金から成る。バッテリーセル30は、筐体41の内部44に配置される。バッテリーセル30の上方には、電極(不図示)が突出して設けられている。複数のバッテリーセル30は、好ましくは、筐体41内において、その両側からネジ等を利用して圧縮する方向に力を与えられて、互いに密着するようになっている(不図示)。筐体41の底部42には、冷却水45を流すために、1または複数の水冷パイプ43が備えられている。バッテリーセル30は、筐体41の一部を構成する底部42(冷却部材の一例)との間に、熱伝導部材1を挟むようにして、筐体41内に配置される。
【0076】
上記構造のバッテリー40では、バッテリーセル30は、熱伝導部材1を通じて筐体41に伝熱して、水冷によって効果的に除熱される。なお、冷却水45は、「冷却媒体」あるいは「冷却剤」と読み替えても良い。冷却水45に代えて、液体窒素、エタノール等の有機溶剤を用いても良い。
【0077】
バッテリーセル30を筐体41内にセットした状態では(図13を参照)、熱伝導部材1は、バッテリーセル30と、水冷パイプ43を備える底部42(筐体41の一部)との間において、熱伝導部材1の厚さ方向に圧縮される。この結果、バッテリーセル30からの熱は、熱伝導フィルム20、底部42、水冷パイプ43、冷却水45へと伝わりやすくなる。バッテリー40は、熱伝導部材1に代えて、先述の熱伝導部材1a,1b,1cを備えていても良い。
【0078】
図14は、熱伝導部材の上に、バッテリーセルの側面を接触させるように横置きにしたときの断面図、その一部拡大図および充放電時にバッテリーセルが膨張した際の一部断面図を示す。
【0079】
先述の実施形態では、バッテリーセル30を縦にしてその下端に熱伝導部材1を接触せしめている状況について説明したが、バッテリーセルの構造および配置の形態は、これに限定されない。図14に示すように、パウチ袋内にバッテリー液を封入したバッテリーセル31の側面を熱伝導部材1の熱伝導フィルム20に接触させるように、バッテリーセル31を配置しても良い。バッテリーセル31は、充電および放電の際に温度上昇する。バッテリーセル31の容器自体が柔軟性に富む材料にて形成されていると、バッテリーセル31の特に側面が膨らむ可能性がある。そのような場合でも、図14に示すように、熱伝導部材1がバッテリーセル31の外面の形状に合わせて変形できるので、充放電時にも放熱性を高く維持できる。また、熱伝導部材1に代えて、熱伝導部材1a,1b,1cにバッテリーセル31の側面を接触させても良い。
【0080】
(その他実施形態)
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0081】
熱伝導部材1,1a,1b,1cは、熱伝導フィルム20と弾性シート10との間に、例えば接着層を介在させずに製造されていても良い。また、弾性シート10は、その形状に特に制約はなく、少なくともバッテリーセル30,31と対向する面および底部42と対向する面において、所定間隔を空けて熱伝導フィルム20が露出するように熱伝導フィルム20を保持可能な形状であれば、例えば、楕円、台形、円、多角形状等であっても良い。細長貫通孔11は、貫通孔の一例にすぎず、平面視にて細長くない形状の貫通孔でも良い。
【0082】
また、熱源は、バッテリーセル30,31のみならず、回路基板や電子機器本体などの熱を発する対象物を全て含む。例えば、熱源は、キャパシタおよびICチップ等の電子部品であっても良い。また、熱伝導部材1、1a,1b,1cは、バッテリー40以外の構造物、例えば、電子機器、家電、発電装置等に配置されていても良い。
【0083】
また、上述の各実施形態の複数の構成要素は、互いに組み合わせ不可能な場合を除いて、自由に組み合わせ可能である。例えば、熱伝導部材1cは、熱伝導部材1bのように、異なる硬度の弾性シート10d,10eが熱伝導フィルム20を挟むように配置されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、熱源と当該熱源より低温の冷却部材との間に配置され、熱源から冷却部材へと熱伝導を促進する分野にて利用可能である。

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