(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-03
(45)【発行日】2024-12-11
(54)【発明の名称】電子材料用フィラー及びその製造方法、電子材料用スラリー、並びに電子材料用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20241204BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241204BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20241204BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241204BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20241204BHJP
C09C 3/12 20060101ALI20241204BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20241204BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C01B33/18 C
C01B33/18 E
C08K3/36
C08K9/06
C08L101/00
C09C1/28
C09C3/12
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2023567458
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046624
(87)【国際公開番号】W WO2023112281
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2024-11-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 康平
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友祐
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-003213(JP,A)
【文献】国際公開第2020/065872(WO,A1)
【文献】特開2005-146141(JP,A)
【文献】特開2000-007319(JP,A)
【文献】特開2011-173779(JP,A)
【文献】特開2000-191316(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031267(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/210260(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
C08K 3/36
C08K 9/06
C08L 101/00
C09C 1/28
C09C 3/12
H01L 23/14
H01L 23/18 - 23/26
H01L 23/29 - 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D50が0.2μm以上7.0μm以下、
(BET比表面積)/(D50から算出される理論比表面積)が0.85以上1.2以下であり、且つ、D10/D50が0.55以上0.75以下であり、
BET比表面積に基づく単位表面積(1m
2)当たりの25℃から200℃まで加熱したときに発生する水分量が90ppm以下、
BET比表面積に基づく単位表面積(1m
2)当たりの200℃から550°まで加熱したときに発生する水分量が150ppm以下である、
乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を有する電子材料用フィラー。
【請求項2】
D50が0.2μm以上
2.5μm以下、
D10/D50が0.62以上0.75以下であ
り、
BET比表面積が4.5m
2
/g以下である、
乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を有する電子材料用フィラー。
【請求項3】
BET比表面積に基づく単位表面積(1m
2)当たりの25℃から200℃まで加熱したときに生成する水分量が90ppm以下、
BET比表面積に基づく単位表面積(1m
2)当たりの200℃から550°まで加熱したときに生成する水分量が150ppm以下である、
請求項2に記載の電子材料用フィラー。
【請求項4】
前記電子材料は、高周波基板である請求項1~3のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラー。
【請求項5】
ビニル基
及びフェニル
基からなる群より選択される1以上の官能基を有するシラン化合物により表面処理されている請求項1~4のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラー。
【請求項6】
請求項1~5のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散する分散媒と、
を有する電子材料用スラリー。
【請求項7】
請求項1~5のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーと、
前記電子材料用フィラーを分散する樹脂材料と、
を有する電子材料用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~5のうちの何れか1項に記載の電子材料用フィラーを製造する方法であって、
乾式法にて原料シリカ粒子材料を製造する原料シリカ粒子材料調製工程と、
前記原料シリカ粒子材料を粒径が大きい分画を分離する分級工程と、
を有し、
前記分級工程は、
前記原料シリカ粒子材料を気体中に分散させた状態で遠心分級を行う工程または分散媒中に分散させた後に沈降速度の差により分離する沈降分級工程をもつ電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項9】
前記分級工程後に乾燥工程を有する請求項8に記載の電子材料用フィラーの製造方法。
【請求項10】
(BET比表面積)/(D50から算出される理論比表面積)が0.85以上1.2以下である請求項2に記載の電子材料用フィラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用フィラー及びその製造方法、電子材料用スラリー、並びに電子材料用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の封止材、基板材料、その他の電子材料として金属酸化物粒子材料からなる電子材料用フィラーが採用されており、特に樹脂材料中に電子材料用フィラーを分散させた樹脂組成物が知られている(特許文献1、2など)。
【0003】
ところで、特許文献2には、金属酸化物粒子材料を樹脂材料中に分散させた樹脂組成物を電子材料に応用する際に、分散させる金属酸化物粒子材料について物理吸着水の量を50ppm以下にすることによりプレッシャークッカ試験の結果が好ましくなることが開示されている。なお、シリカは200℃を超えて加熱すると表面OH基(結合水)が除去され始めるため(例えば非特許文献1参照)、シリカの物理吸着水は200℃まで加熱することで測定する。
【0004】
ここで、特許文献2に開示の発明においては、請求項1に粒径が20~100μmと規定されている通り、比較的粒径の大きな粒子を扱うことを想定している。近年の電子材料用フィラーは半導体素子構造や回路の微細化に伴い粒径がサブミクロンからナノメートルオーダーにまで小さくなっている。物理吸着している水分量は粒子材料の表面積に比例して大きくなるため、粒径が小さくなると表面積も大きくなって物理吸着水の量も大きくなる。例えば、粒径がサブミクロンからナノメートルオーダーになった粒子材料では、特許文献2にて規定するところの「水分量を50ppm以下」と同等の水分量は数十倍となって1000ppmを超えるような量となった。その程度の水分量を目指して水分量を減少させることを目的として加熱しても電気的特性の向上が実現できるほどにまで含まれる水分(結合水など)を減少することは期待できず、充分な電気的特性とはならなかった。特に物理吸着水の量を減らしても、その後に空気中の水分が速やかに再結合することもあった。
【0005】
そこで特許文献3では、特定の表面処理とその他の構成とを組み合わせることで水分の含有量を低減したシリカ粒子材料からなる電子材料用フィラーを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-138740号公報
【文献】特開昭60-199020号公報 (請求項1、2など)
【文献】特開2020-097498号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】粉粒体の表面化学と付着現象、近沢 正敏、武井 孝、日本海水学会誌、1987年41巻4号p.168-180
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年の電子材料に対する要求はとどまるところを知らず、従来よりも高い性能をもつ材料が渇望されている。特許文献3にて提供された電子材料用フィラーについても更に高性能なものが要求されている。
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み、電気的特性に優れた電子材料用フィラー及びその製造方法、電子材料用フィラー、電子材料用樹脂組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決する本発明の電子材料用フィラーは、乾式法にて製造されたシリカ粒子材料を有し、D50が0.2μm以上7.0μm以下である。更に本発明の電子材料用フィラーは、(BET比表面積)/(D50から算出される理論比表面積)が0.85以上1.2以下であるか(要件1)、及び/又は、D10/D50が0.55以上0.75以下である(要件2)。
【0011】
上述の要件1及び2のうちの少なくとも一方を満たすことでDf値などの電気的特性が向上できる。ここでBET比表面積は窒素を用いて測定した値であり、D50は、50質量%積算径、すなわちメジアン径であり、粒径が小さい方から粒子の質量を順次積算したときの50質量%における粒径を意味する。同様に、D10は10質量%積算径である。
(2)上記課題を解決する本発明の電子材料用フィラーの製造方法は、上述の(1)の電子材料用フィラーを製造する方法であって、乾式法にて原料シリカ粒子材料を製造する原料シリカ粒子材料調製工程と、前記原料シリカ粒子材料を粒径が大きい分画を分離する分級工程とを有する。
【0012】
分級工程では、粒径が小さい粒子を除去している。粒径が小さい粒子は粒径が大きい粒子よりも相対的に水分の含有量が多いため、粒度分布を調節することで水分の含有量を少なく出来、電気的特性を向上することができる。また、粒径が小さい粒子は粒径が大きい粒子よりも相対的にシラノール基が多く存在するため、粒度分布を調節することで電気的特性を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子材料用フィラーは、上記構成を有することによりDf値などの電気的特性に優れている。特に本発明の電子材料用フィラーの製造方法により好適に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電子材料用フィラー及びその製造方法、電子材料用スラリー、並びに電子材料用樹脂組成物について、以下実施形態に基づき詳細に説明を行う。
(電子材料用フィラー)
本実施形態の電子材料用フィラーは、半導体などの電子部品の封止材、アンダーフィル、基板材料、伝熱材料などの材料として用いることができる。特に高周波(例えば1GHz以上)用の電子部品に関連する用途に用いることが望ましい。例えば、高周波を扱う電子機器の基板を構成するために好適に採用できる。また、後述する電子材料用スラリー、電子材料用樹脂組成物に用いるフィラーとして用いることが好ましい。
【0015】
本実施形態の電子材料用フィラーは、D50が0.2μm以上7.0μm以下である。D50は、LA750 500モード(堀場製作所)により測定した値である。D50としては、下限値が0.3μm、0.5μm、1.0μmであることが好ましく、上限値が5.0μm、3.5μm、2.5μmであることが好ましい。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。粒径はレーザー散乱法にて測定できる。シリカ粒子材料は、以下の要件1及び2のうちの少なくとも一方を満たし、好ましくは要件1及び2の双方を満たす。
【0016】
要件1は、(BET比表面積)/(D50から算出される理論比表面積)が0.85以上1.2以下である。比表面積の測定は窒素によるBET法にて測定した値である。D50から算出される理論比表面積とは、シリカ粒子材料が球であると仮定したときにD50の値から算出される表面積であり、具体的には、比表面積=6/(D50×真比重)の式により算出される。
【0017】
(BET比表面積)/(D50から算出される理論比表面積)については、明細書中において適宜「比表面積係数」と称することがある。比表面積係数は、下限値が、0.90、0.95、上限値が、1.18、1.15、1.10が例示でき、それらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。比表面積係数は1に近い方が好ましい。
【0018】
比表面積係数が、1より大きい場合には、小粒径の粒子を除去することで1に近づけることができ、1より小さい場合には、粗大粒子を除去することで1に近づけることができる。
【0019】
BET比表面積については特に限定しないが、0.3m2/g以上、10m2/g以下であることが好ましい。比表面積の下限値としては、0.7m2/gが例示でき、上限ととしては、1.5m2/g、4.5m2/g、8m2/gが例示できる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。
【0020】
要件2は、D10/D50が0.55以上0.75以下であり、下限値は、0.60、0.65、上限値は、0.70であり、下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。D10/D50の最大値は1であり、1に近づけるには小粒径の粒子を除去することで達成できる。
【0021】
本実施形態の電子材料用フィラーは、乾式方法により製造されたシリカ粒子材料を有する粒子材料である。中実であっても中空であってもそれらの混合物であっても構わない。粒子材料は、球形であることが好ましい。例えば球形度の下限値が0.9、0.95、0.98、0.99であることが好ましい。
【0022】
電子材料用フィラー中に含有されるシリカ粒子材料の含有量は特に限定しないが、含有量の下限値が50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%を例示することができる。シリカ粒子材料以外に含有できる粒子材料としては、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの無機酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムなど、フッ素樹脂などの樹脂材料であり、シリカ粒子材料とは別の粒子材料として混合しても、シリカ粒子材料中に含有されていても構わない。無機酸化物については、それらやシリカなどの複合酸化物を採用することができる。
【0023】
乾式法とは、水との接触をすることなしにシリカ粒子材料を形成する方法である。具体的な乾式法としては、金属ケイ素からなる粉粒体を酸化雰囲気ガス中にて燃焼、急冷することでシリカ粒子材料を調製するVMC法や、シリカからなる粉粒体を火炎中に投入することにより溶融させた後に急冷してシリカ粒子材料とする溶融法などがある。その後においても水に接触させずにいることが好ましい。水に接触した場合には加熱により水分量を減少させていることが好ましい。好ましい水分量としては後述する。
【0024】
VMC法、溶融法は、火炎などの高温雰囲気下に投入して燃焼させたり、加熱溶融させたりするとき以降において水に接触させないことで乾式での製造方法(本明細書における乾式法)として扱われる。VMC法、溶融法共に、投入する粉粒体の粒度分布や、投入する量を調節することにより調製されるシリカ粒子材料の粒度分布が制御できる。例えば、投入する粉粒体の粒径が小さかったり、投入する量が少なかったりするほど調製されるシリカ粒子材料の粒径も小さくなる。
【0025】
なお、VMC法、溶融法において、原料となる粉粒体を投入する高温雰囲気に存在する水分量を低くすることが好ましい。例えば、原料となる粉粒体は、何らかの分散媒に分散させて搬送するが、その分散媒中の水分を除去することが望ましい。また、VMC法における酸化雰囲気ガス、溶融法における高温雰囲気において含有する水分を除去することが好ましい。水分の除去は一般的な除湿法(温度を低下させて含有する水分を凝縮除去する、乾燥剤にて水分を除去するなど)が採用できる他、もともと含まれる水分量が低いとき(季節や天候などにより変化する空気を利用する)に操作を行うことでも達成できる。
【0026】
本実施形態の電子材料用フィラーは、BET比表面積に基づく単位表面積当たりで加熱により発生する水分量が以下の範囲にあることが好ましい。まず、25℃から200℃まで加熱したときに発生する水分量(以下「発生水量200℃」と称する)が、90ppm/m2以下であることが好ましく、更には80ppm/m2、60ppm/m2以下であることが好ましい。また、200℃から550℃まで加熱したときに発生する水分量(以下「発生水量550℃」と称する)が、100ppm/m2、150ppm/m2以下であることが好ましく、更には120ppm/m2以下であることが好ましい。
【0027】
発生水量200℃は、常温(25℃)から200℃までの昇温に伴い発生する水分量の百万分率をBET比表面積に基づく単位表面積で除した値である。発生水量200℃における水分量の百万分率は、常温(25℃)から200℃までの昇温に伴い発生する水分の量をカールフィッシャー法により測定し、測定した対象の電子材料用フィラーの質量を基準として算出する。
【0028】
発生水量550℃は、200℃から550℃までの昇温に伴い発生する水分量の百万分率をBET比表面積に基づく単位表面積で除した値である。発生水量550℃における水分量の百万分率は、200℃から550℃までの昇温に伴い発生する水分の量をカールフィッシャー法により測定し、測定した対象の電子材料用フィラーの質量を基準として算出する。
【0029】
本実施形態の電子材料用フィラーは、表面処理されていることが好ましい。表面処理は特に限定しないが、ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数四以上のアルキル基、メタクリル基、及びエポキシ基からなる群より選択される1以上の官能基を有するシラン化合物により表面処理されていることが好ましい。シラン化合物の処理量としては後述する電子材料用フィラーの製造方法にて説明するため省略する。
(電子材料用フィラーの製造方法)
本実施形態の電子材料用フィラーの製造方法は、上述した本実施形態の電子材料用フィラーを好適に製造できる製造方法であり、原料シリカ粒子材料調製工程と、分級工程とその他必要により採用される工程とを有する。
【0030】
原料シリカ粒子材料調製工程は、原料シリカ粒子材料を乾式法により製造する工程である。乾式法としては、金属ケイ素を含む原料粒子材料を高温の酸化雰囲気下に投入することで金属ケイ素を酸化させて爆発的に燃焼させた後に急冷することでシリカを形成するいわゆるVMC法、シリカからなる原料粒子材料をシリカの融点以上の高温雰囲気下に投入することで溶融させた後に急冷することでシリカを形成するいわゆる溶融法などが採用できる。VMC法の原料である金属ケイ素、溶融法の原料であるシリカからなる、原料粒子材料は、金属ケイ素やシリカ以外の材料を含有することもできる。得られた原料シリカ粒子材料は、水分に接触させないことが好ましい。水分に接触させないとは、液体の水に接触させず、更には結露するような条件の雰囲気下に曝さないことを意味する。
【0031】
分級工程は、原料シリカ粒子材料を粒径が大きい分画を分離する工程である。分級工程は、原料シリカ粒子材料から粒径が大きい分画を取り出す方法、粒径が小さい分画を除去することで粒径が大きい分画を残す方法を分級操作として採用できる。分級操作は、液体中、気体中のいずれの雰囲気下でも行うことができる。必要な粒度分布になるまでを分級操作を繰り返す。遠心力などの加速度を加えることで分級速度及び精度が向上できる。
【0032】
分級工程は水分を含まない雰囲気下で行うことが好ましい。水分を含む雰囲気下で分級工程を行った場合には、加熱工程により水分を除去する水分除去工程ことが好ましい。水分除去工程における加熱温度の下限値としては、200℃、550℃などが例示でき、上限値としては原料シリカ粒子材料が焼結しない温度にする。焼結するかどうかは加熱時間によっても異なり、解砕により一次粒子にまで分離できる場合には焼結していないと判断できる。
【0033】
「水分を含まない雰囲気」とは、分級工程を液体中で行う場合には、その液体に含まれる水分の含有量が1000ppm以下(好ましくは500ppm以下)であることを意味する。
【0034】
分級工程として具体的に採用できる方法としては、旋回流などの流れを用いて分級する方法(気流分級法)、原料シリカ粒子材料をそのまま用いて篩により分級する方法、沈降速度の差により分級する方法などの一般的な分級方法の他、原料シリカ粒子材料をアルカリ溶液に浸漬し溶解させることで粒径が小さい粒子が先に溶けてなくなることを利用して粒径が小さい分画を選択的に除去する方法が例示できる。
【0035】
特に気流分級法を採用することが望ましい。気流分級法は、水分に接触するおそれが少なく、分級中に篩などに接触して不純物が混入するおそれも少ない分級方法である。
【0036】
また原料シリカ粒子材料を分散媒中に分散させた後に粒径の大小による沈降速度の差を利用して粒径が大きい分画を分離する工程を採用することもできる。具体的には粒径が大きい分画である沈降層を回収することが好ましい。採用する分散媒としては特に限定されず、水や有機溶媒を単独又は混合物として採用することができる。有機溶媒を採用する場合には、水分の含有量が少ないものが望ましい。有機溶媒中に含まれる水分の含有量の上限値としては、1000ppm、500ppmが例示できる。有機溶媒を選択する理由は、原料シリカ粒子材料への水の吸湿を防ぐためである。
【0037】
有機溶媒としては、乾燥によりシリカ粒子材料から除去することが容易な物が好ましい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類が例示できる。
【0038】
分散媒中に原料シリカ粒子材料を分散させる濃度としては特に限定しないが、全体の質量を基準として、10%、20%、30%、40%、50%、60%,70%が例示できる。
【0039】
液体を用いて分級する場合には用いた液体を除去する工程(液体除去工程)をもつ。気流分級法であっても液体除去工程に類する乾燥工程をもつことができる。液体として有機溶媒を用いた場合には液体除去工程としての有機溶媒除去工程を備える。除去工程は、分級された粒径が大きい分画から液体を除去する工程である。液体の具体的な除去方法は特に限定しないが、液体を蒸発させることで除去する乾燥工程を採用することが好ましい。
【0040】
乾燥工程は、加熱したり、乾燥した気体を送ったり、減圧したり、これらの操作を組み合わせたりして行うことができる。乾燥工程により粒子が凝集することがあるため、乾燥工程後に解砕する工程を有することもできる。先述した水分除去工程として乾燥工程を採用する場合には、水分除去工程と同時に行っても良い。
【0041】
その他の工程として表面処理工程を有することができる。表面処理は特に限定しないが、ビニル基、フェニル基、フェニルアミノ基、炭素数四以上のアルキル基、メタクリル基、及びエポキシ基からなる群より選択される1以上の官能基を有するシラン化合物により表面処理することが好ましい。表面処理は、乾燥工程後の乾燥状態のシリカ粒子材料に行っても良いし、分級工程中の有機溶媒に分散された状態で行っても良い。
【0042】
表面処理は、2回以上に分けて行うこともできる。例えば、先述の表面処理を行った後に、オルガノシラザンにて表面処理を行うことで表面に存在するOH基を減少できる。表面に存在するOH基は結合水にも関連するため、オルガノシラザンを表面のOH基に反応させることで結合水の量を減少することができる。ここで、反応させるオルガノシラザンは特に限定しないがヘキサメチルジシラザンが例示できる。オルガノシラザンにて表面処理する量としては表面に存在するOH基を全て反応できる量又は過剰量にすることが好ましい。
【0043】
シラン化合物による表面処理は、シラン化合物を直接シリカ粒子材料に接触させたり、シラン化合物含む表面処理剤(例えばシラン化合物を溶媒に溶解した溶液)をシリカ粒子材料の表面に接触することで行う。
【0044】
シラン化合物の処理量としては、表面処理前の電子材料用フィラーの表面に存在するOH基の全てと反応できる量を100%として、200%、150%、120%、100%、80%、50%などが採用できる。これらの下限値及び上限値は任意に組み合わせ可能である。
(電子材料用スラリー)
本実施形態の電子材料用スラリーは、上述した本実施形態の電子材料用フィラーを分散媒中に分散した組成物である。本実施形態の電子材料用スラリーは半導体基板材料などに用いることができ、特に高周波基板材料に用いることが好ましい。分散媒は、水分を実質的に含有せず、特に水分の含有量が1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。
【0045】
電子材料用スラリーにおける、電子材料用フィラーと分散媒との混合比は特に限定しないが電子材料用フィラーの含有量はできるだけ多い方が好ましい。なお、電子材料用フィラーの混合量が多くなると粘度が高くなる傾向にあるため、取り扱い性を考慮して許される限りの粘度になるまで電子材料用フィラーを混合することができる。例えば(電子材料用フィラー):(分散媒)は質量比で20:80~80:20程度で混合することができる。
【0046】
分散媒としては特に限定しないが、シリコーンオイル、メチルエチルケトン、アルコール、ヘキサンなどの有機溶媒や、エポキシ樹脂前駆体、ポリエステル前駆体、シリコーン樹脂前駆体などの樹脂前駆体などが挙げられる。
【0047】
電子材料用フィラーは表面処理がなされていることが好ましい。表面処理では用いる分散媒や最終的に使用されるときに電子材料用フィラーが接触する相手部材との間での親和性が向上できるような官能基を導入することが好ましい。
(電子材料用樹脂組成物)
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、前述の電子材料用フィラーとその電子材料用フィラーを分散する樹脂材料とからなる硬化物である。樹脂材料は、水分の含有量が1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。
【0048】
電子材料としては、高周波基板などの高周波用途に用いるものに適用することが好ましい。本実施形態の電子材料用フィラーはDf値が低いため高周波を流すような用途に
用いても損失の発生が少なくできる。
【0049】
電子材料用樹脂組成物における電子材料用フィラーと樹脂材料との混合比は特に限定しないが電子材料用フィラーの含有量はできるだけ多い方が好ましい。例えば電子材料用フィラー:樹脂材料は質量比で10:90~90:10程度で混合することができる。
【0050】
樹脂材料としては特に限定しないが、熱硬化性樹脂(混合する際には、硬化前、硬化後の何れの状態でも良い)、熱可塑性樹脂などの一般的な樹脂材料、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル、シリコーン樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリイミド、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリフェニレンオキシド(PPO)が挙げられる。樹脂材料は、単一で用いたり、又は、複数種類の樹脂材料を混合(アロイ化など)して用いたりすることができる。樹脂材料は、水分の含有量が1000ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。
【0051】
電子材料用フィラーは表面処理がなされていることが好ましい。表面処理では用いる樹脂材料との間での親和性が向上できるような官能基を導入することが好ましい。
【0052】
更にその他の工程として加熱工程を有することができる。加熱工程は加熱により電子材料用フィラー中に含有する水分を除去する工程である。乾式法により原料シリカ粒子材料を製造した場合でも雰囲気中に存在する水分が原料シリカ粒子材料の表面に付着することがあるため、加熱により水分の含有量を減少させる。
【0053】
例えば、550℃程度、更には550℃以上にて加熱することで発生水量550℃や、発生水量200℃の値を効果的に減少することができる。加熱工程はシリカ粒子材料が溶融したり、焼結したりしない程度の温度で行う。加熱工程を採用するのは製造工程中の何時でも良いが、特に原料シリカ粒子材料調製工程にてシリカ粒子材料を調製するのと同時に加熱を行うことが好ましい。
【0054】
具体的な加熱方法としては、電熱炉、ガス炉を用いて加熱する方法である。具体的な装置としては、ロータリーキルンや、流動層炉、焼成炉などが挙げられる。加熱時の雰囲気としては特に限定しないが、例えば、加熱雰囲気として、窒素・アルゴン・乾燥空気などを採用することができる。
【実施例】
【0055】
本発明の電子材料用フィラー及びその製造方法について実施例に基づき以下詳細に説明を行う。
【0056】
(試料の調製)
・試験例1、10(D10:1.7μm、D50:2.5μm)
VMC法により製造したシリカを原料シリカ粒子材料とした(原料シリカ粒子材料調製工程)。原料シリカ粒子材料は、D50が1.9μm、D10が1.0μmであった。この原料シリカ粒子材料を気流分級により粒径が大きい分画を分級した。(分級工程)。得られた粒径が大きい分画に含まれるシリカ粒子材料に対してシラン化合物としてのビニルトリメトキシシランを反応させた(第1表面処理工程)。ヘキサメチルジシラザンを反応させて本試験例の試験試料とした(第2表面処理工程)。このシリカ粒子材料の比表面積は、1.1m2/gであった。表面処理工程を行わないものを試験例10の試験試料とした。
【0057】
・試験例2、3(D10:1.7μm、D50:2.5μm)
ビニルトリメトキシシランに変えてフェニルトリメトキシシランを用いた以外は試験例1と同様の方法で電子材料用フィラーを製造して試験例2の試験試料とした。ビニルトリメトキシシランに変えてN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いた以外は試験例1と同様の方法で電子材料用フィラーを製造して試験例2の試験試料とした。
【0058】
・試験例4、5、12(D10:0.4μm、D50:0.7μm)
VMC法で製造し、D50が0.5μm、D10が0.3μmである原料シリカ粒子材料を用いた以外は試験例1、2と同様にして電子材料用フィラーを製造し、それぞれ試験例4(ビニルトリメトキシシラン)、試験例5(フェニルトリメトキシシラン)の試験試料とした。表面処理に用いた処理剤の量は単位表面積で同じ量とした。表面処理工程を行わないものを試験例12の試験試料とした。
【0059】
・試験例6、7、11(D10:1.4μm、D50:2.3μm)
VMC法で製造し、D50が2.0μm、D10が1.1μmである原料シリカ粒子材料を用いた以外は試験例1、2と同様にして電子材料用フィラーを製造し、それぞれ試験例6(ビニルトリメトキシシラン)、試験例7(フェニルトリメトキシシラン)の試験試料とした。表面処理に用いた処理剤の量は単位表面積で同じ量とした。表面処理工程を行わないものを試験例11の試験試料とした。
【0060】
・試験例8、13(D10:2.7μm、D50:4.8μm)
溶融法で製造し、D50が4.4μm、D10が1.5μmである原料シリカ粒子材料を用いた以外は試験例1と同様にして電子材料用フィラーを製造し、試験例8の試験試料とした。表面処理に用いた処理剤の量は単位表面積で同じ量とした。表面処理工程を行わないものを試験例13の試験試料とした。
【0061】
・試験例9、14(D10:3.8μm、D50:7.0μm)
溶融法で製造し、D50が6.8μm、D10が2.4μmである原料シリカ粒子材料を用いた以外は試験例1と同様にして電子材料用フィラーを製造し、試験例9の試験試料とした。表面処理に用いた処理剤の量は単位表面積で同じ量とした。表面処理工程を行わないものを試験例14の試験試料とした。
【0062】
・試験例15(D10:1.3μm、D50:2.2μm)
VMC法で製造し、D50が1.9μm、D10が1.0μmである原料シリカ粒子材料を用いたこと、水を用いて分級したこと、及び表面処理を行わないこと以外は試験例1と同様にして電子材料用フィラーを製造し、試験例15の試験試料とした。水に分散をさせて分級することで、水分量が高くなった。
【0063】
・試験例16-20
VMC法で製造し、表4に示すD50及びD10である原料シリカ粒子材料をそのまま各試験例の試験試料とした。D50及びD10は、金属ケイ素の投入量(雰囲気濃度)や金属ケイ素の粒径を変化させることで行った。試験例20については、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランにて表面処理を行った。
【0064】
・試験例21(原料シリカ粒子材料を湿式法で製造)
オルトケイ酸テトラエチルをアルカリ触媒存在下で加水分解することにより原料シリカ粒子材料を合成し、本試験例の試験試料とした。得られた原料シリカ粒子材料は、D10が0.2μm、D50が0.4μmであった。
【0065】
・試験例22(水分の存在下で表面処理工程)
試験例12の試験試料について、ビニルトリメトキシシラン水溶液を加え、反応させて表面処理工程を行い、本試験例の試験試料とした。
【0066】
・試験例23、24(D10:1.7μm、D50:2.6μm)
VMC法により製造したシリカを原料シリカ粒子材料とした(原料シリカ粒子材料調製工程)。原料シリカ粒子材料は、D50が1.9μm、D10が1.0μmであった。この原料シリカ粒子材料を有機溶媒中に分散させて原料スラリーとした。原料スラリーに対して一定時間静置させて、粒径が大きい分画を沈降させた。(分級工程)。得られた粒径が大きい分画を乾燥工程により有機溶媒を除去してシリカ粒子材料を得た(有機溶媒除去工程)。このシリカ粒子材料に対してシラン化合物としてのビニルトリメトキシシランを反応させた(第1表面処理工程)。ヘキサメチルジシラザンを反応させて試験例23の試験試料とした(第2表面処理工程)。このシリカ粒子材料の比表面積は、1.1m2/gであった。表面処理工程を行わないものを試験例24の試験試料とした。
【0067】
(試験)
各試験例の試験試料について、D10、D50を堀場製作所社製LA-750により測定し、比表面積を窒素ガスを用いたBET法により測定し、発生水量200℃及び発生水量550℃をカールフィッシャー法にて測定し単位表面積あたりに換算し、それぞれ表に示した。
【0068】
測定したD10、D50からD10/D50の値を算出し、測定した比表面積(実測値:SSA)とD50から算出した比表面積(計算値:ssa)とからSSA/ssaを算出し、それぞれ表に示した。
【0069】
更に、各試験例の試料について1GHzにおける誘電正接(Df)を測定した。誘電正接の測定はJIS C 2138に準拠して行った。具体的には、ネットワークアナライザー(キーサイト社製、E5071C)と空洞共振器摂動法を用いて、1GHzにおける比誘電率、誘電正接を測定した。この測定はASTMD2520(JIS C2565)に準拠して行った。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【表4】
表より明らかなように、試験例1~14については、要件1:比表面積係数(SSA/ssa)、並びに、要件2:D10/D50を満たしており、要件1及び要件2を満たしていない試験例16~22と比べてDfが小さいことが分かった。なお、試験例15については要件1及び2を満たしているが、発生水量200℃及び発生水量550℃が多いため試験例15に比べて試験例1~14のDfの値が小さく優れたものになったと考えられる。
【0074】
試験例1~14のうち、シラン化合物により表面処理を行っている試験例1~8は、それぞれD10、D50の値が同じで対応する試験例10(試験例1~3に対応)、試験例11(試験例6、7に対応)、試験例12(試験例4、5に対応)、試験例13(試験例8に対応)と比べてDfが小さいことが分かった。従って、表面処理を行うことでDfが小さくなることが分かった。
【0075】
また、シラン化合物としてビニル基を有するものとフェニル基を有する物とを比較した場合にDf値は同じであるため両者共に優れていることが分かった。なお、ビニル基、フェニル基を有するシラン化合物で処理した試験例2、3は、フェニルアミノ基をもつシラン化合物で処理した試験例3と比べてDfが小さいため、シラン化合物としては、フェニルアミノ基をもつ物よりもビニル基、フェニル基をもつ物の方が優れていることが分かった。
【0076】
試験例23及び24は液体中での沈降速度の差を利用した分級を行ったが、気流分級法を採用した試験例と同様に要件1及び2を満たしており、Dfが小さいものが得られることが分かった。