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  • 特許-焼灼ヒータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】焼灼ヒータ
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/08 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A61B18/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021055256
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152470
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】592106007
【氏名又は名称】吉野川電線株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】了戒 和弘
(72)【発明者】
【氏名】平 加津雄
(72)【発明者】
【氏名】湶 孝介
(72)【発明者】
【氏名】菊田 健一郎
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-306506(JP,A)
【文献】特開2019-209141(JP,A)
【文献】特開2010-220885(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0014806(US,A1)
【文献】国際公開第2015/118757(WO,A1)
【文献】国際公開第1995/020360(WO,A1)
【文献】特表平09-501328(JP,A)
【文献】特表2005-502424(JP,A)
【文献】特表2019-528929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/08-18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のシースと、先端部が露出するように前記シースに収容された一対の電極とを備え、一対の前記電極の先端部を生体組織に接触させて通電することにより生体組織を焼灼する焼灼ヒータであって、
前記シース内に収容されて一対の前記電極間に介在されるプロテクタを更に備え、
前記プロテクタは、生体組織に当接可能となるように前記シースから突出する当接部を先端側に備えており、
前記当接部は、生体組織との当接面が湾曲面を含み、
前記プロテクタは、線状体を湾曲状に折り返した形状を有しており、折り返し部が前記当接部となる焼灼ヒータ。
【請求項2】
前記電極の先端部は、生体組織との接触面が湾曲面となるように膨出した形状を有する請求項に記載の焼灼ヒータ。
【請求項3】
前記プロテクタが生体組織に当接したことを検知する当接検知センサを更に備える請求項1または2に記載の焼灼ヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼灼ヒータに関し、より詳しくは、生体組織を焼灼して止血等を行う焼灼ヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
脳外科手術における止血等を行うための焼灼ヒータとして、特許文献1には、バイポーラ電気ピンセットが開示されている。このバイポーラ電気ピンセットは、一対の腕部の先端にそれぞれ電極部を備えており、電極部への通電によって、生体組織の出血箇所を焼灼して凝固させることができる。各電極部の内側には、吸引管が固定されるガイド機構が設けられている。吸引管は、先端部が一対の電極間に介在されており、出血を吸引管により吸引した後、電極部で出血部を凝固して止血することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-93021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のバイポーラ式の焼灼ヒータは、一対の電極が生体組織内の深い位置まで侵入し易いため、患部を正しく焼灼できないおそれがあった。特に、脳神経外科手術等に使用される内視鏡は、鉗子口径が微小(例えば2.0mm以下)であるため、これに適用される焼灼ヒータの電極も細径化が必要になる。したがって、極細の電極が生体内に入り込んで、想定よりも深い位置を焼灼する深部焼灼が発生し易いという問題があった。
【0005】
また、生体組織の広範囲において止血が必要な場合には、生体組織の表面をなぞるように一対の電極を移動させる必要があるが、電極が極細である場合には、電極の必要な移動量が大きいだけでなく、電極の先端が生体組織に刺さり易いため、迅速な止血が困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、生体組織の焼灼を容易且つ正確に行うことができる焼灼ヒータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、管状のシースと、先端部が露出するように前記シースに収容された一対の電極とを備え、一対の前記電極の先端部を生体組織に接触させて通電することにより生体組織を焼灼する焼灼ヒータであって、前記シース内に収容されて一対の前記電極間に介在されるプロテクタを更に備え、前記プロテクタは、生体組織に当接可能となるように前記シースから突出する当接部を先端側に備えており、前記当接部は、生体組織との当接面が湾曲面を含み、前記プロテクタは、線状体を湾曲状に折り返した形状を有しており、折り返し部が前記当接部となる焼灼ヒータにより達成される。
【0009】
前記電極の先端部は、生体組織との接触面が湾曲面となるように膨出した形状を有することが好ましい。
【0010】
また、前記プロテクタが生体組織に当接したことを検知する当接検知センサを更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生体組織の焼灼を容易且つ正確に行うことができる焼灼ヒータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る焼灼ヒータを備える焼灼装置の概略構成図である。
図2図1に示す焼灼ヒータの要部拡大図である。
図3図1に示す焼灼装置が備える電源装置の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る焼灼ヒータを備える焼灼装置の概略構成図である。図1に示すように、焼灼装置20は、焼灼ヒータ1と、電源装置10とを備えている。
【0014】
図2は、図1に示す焼灼ヒータ1の要部拡大図である。図1および図2に示すように、焼灼ヒータ1は、両端が開口する管状のシース2と、シース2に収容された一対の電極3,4およびプロテクタ5とを備えている。
【0015】
シース2は、金属材料や硬質樹脂等により形成することができ、屈曲性および柔軟性に優れることが好ましく、例えば、SUS304WPB等のステンレス材からなる密着コイルを好適に使用することができる。シース2は、一対の電極3,4およびプロテクタ5を保護すると共にこれらのバラケやねじれを防止して、内視鏡の鉗子チャンネルをスムーズに通過することができる。
【0016】
一対の電極3,4は、図2に示すように、SUS304等の導電性材料からなる線状の電極本体3a,4aを備えており、電極本体3a,4aの先端側がシース2の先端開口2aから外方に突出して露出する。電極3,4の先端部3b,4bは、電極本体3a,4aの先端から球状に膨出するように形成されている。電極3,4における先端部3b,4b以外の大部分は、フッ素樹脂(ETFE)等からなる絶縁層3c,4cにより被覆されている。
【0017】
プロテクタ5は、円形状の断面を有する線状体の中央部を湾曲状に折り返した形状を有しており、U字状の折り返し部からなる当接部5aが先端側となるように、一対の電極3,4の間に介在されている。プロテクタ5は、絶縁性、耐熱性および柔軟性に優れると共に、破損し難い材料からなることが好ましく、例えば、耐熱樹脂により形成することができ、あるいは、一対の電極3,4と同様に、SUS304等の金属線材をフッ素樹脂(ETFE)等の絶縁層で被覆した構成であってもよい。プロテクタ5の当接部5aは、シース2の先端開口2aから外方に突出して露出する。一対の電極3,4およびプロテクタ5は、シース2からの突出長さが同じ長さとなるように調整されて、シース2の基端側に設けられたコネクタ(図示せず)に固定されている。
【0018】
図1に示すように、プロテクタ5の基端側は、シース2から突出しており、突出部分が当接検知センサ7を介して把持部6に固定されている。当接検知センサ7は、プロテクタ5の当接部5aが生体組織に当接したことを検知するセンサであり、例えば、圧力センサ、タッチセンサ、プッシュスイッチ等を使用することができる。当接検知センサ7を備えることにより、後述するように、電極3,4の先端部3b,4bが生体組織100に到達したことを容易に把握することができる。
【0019】
図3は、図1に示す焼灼装置20が備える電源装置10の外観図である。図1および図3に示すように、電源装置10は、筐体状に構成されており、電源部11、操作部12、制御部13および出力部15を備えている。焼灼ヒータ1は、電源装置10の筐体表面に設けられた接続部14に、配線を介して着脱可能に接続される。
【0020】
電源部11は、一対の電極3,4に供給する高周波電力を発生する。電源部11は、外部の商用電源等を使用してもよい。
【0021】
操作部12は、図3に示すように、動作モードを入力可能な2つのボタン12a,12cを備えている。「output」と表示された一方のボタン12aは、焼灼モードを選択するための焼灼モード選択スイッチである。焼灼モードは、一対の電極3,4により生体組織100を焼灼するモードであり、電極3,4に印加される焼灼電力の大きさは、調整ダイヤル12bの操作により調整することができる。また、「contact output」と表示された他方のボタン12cは、探索モードを選択するための探索モード選択スイッチである。探索モードは、プロテクタ5と生体組織100との接触を探索するモードであり、当接検知センサ7の検出に基づき、プロテクタ5の当接部5aが生体組織100に接触したか否かを判別することができる。
【0022】
操作部12は、アラーム切替スイッチ12dおよびフットスイッチ12eを更に備えている。アラーム切替スイッチ12dは、出力部15からの音による通知のオンオフを切り替えるためのスイッチである。また、フットスイッチ12eは、施術者が足による操作で焼灼モードを選択可能なスイッチであり、配線を介して、電源装置10の筐体表面に設けられた接続部12fに着脱可能に接続されている。
【0023】
制御部13は、CPU等からなり、操作部12の操作により入力された動作モードに基づき、電源部11から電極3,4に供給する電力を制御する。また、制御部13は、出力部15の出力制御を行う。
【0024】
出力部15は、図3に示すように、焼灼装置20のオンオフ状態を示す電源ランプ15aと、電極3,4の通電状態を示す出力ランプ15bと、上記のアラーム切替スイッチ12dがオンの状態で音を出力するスピーカ15cとを備えている。電源ランプ15aおよび出力ランプ15bは、例えばLEDからなる。
【0025】
次に、上記の構成を備える焼灼装置20の作動を説明する。例えば、脳外科手術等において生体組織の出血箇所を焼灼する場合、施術者は、探索モード選択スイッチ12cを押圧して探索モードを選択した後、焼灼ヒータ1の把持部6を把持して焼灼ヒータ1を操作し、電極3,4の先端部3b,4bを所望の生体組織に向けて移動させる。
【0026】
探索モードにおいては、制御部13は、電極3,4への電力供給は行わず、当接検知センサ7の検出に基づいて、プロテクタ5の当接部5aが所望の生体組織に接触したか否かを判別し、判別結果を出力部15から出力する。具体的には、当接部5aが所望の生体組織に到達するまでは、出力ランプ15bから出力される点滅光の点滅周期、および、スピーカ15cから出力される断続音の断続周期を、到達前であることを示す周期(例えば、毎分48回程度)となるように制御する。一方、当接部5aが所望の生体組織に到達して接触すると、上記の点滅光の点滅周期および断続音の断続周期を変化させて、到達後であることを示す周期(例えば、毎分120回程度)となるように制御する。出力部15の出力変化は、特に限定されるものではなく、例えば、生体組織への到達前後で音の大きさや光の輝度が変化する構成であってもよい。施術者は、断続音による判別が不要な場合には、アラーム切替スイッチ12dをオフにすることで、出力部15から点滅光のみを出力させることができる。なお、出力部15は、出力ランプ15bを備えずに、音のみが出力される構成にすることもできる。出力部15は、電源装置10の筐体に設ける代わりに、焼灼ヒータ1に設けてもよく、当接検知センサ7の検出に基づいて、把持部6に設けたランプやスピーカ等から出力するように構成することができる。
【0027】
プロテクタ5の当接部5aは、円形状の断面を有する線状体を湾曲状に折り返したU字状の部分からなり、生体組織との当接面は湾曲面である。このため、当接部5aと生体組織との広い接触面積を容易に確保することができ、プロテクタ5が、生体組織との接触後に生体組織内に深く侵入するのを防止することができる。また、これによって、生体組織への電極3,4の侵入も防止することができる。
【0028】
プロテクタ5の形状は、生体組織100に当接する当接部5aの当接面が湾曲面であれば、特に限定されるものではない。例えば、帯状体や線状体を種々の形状に湾曲させて折り返したプロテクタ5を使用してもよい。あるいは、帯板の先端部を円弧状や波状等の湾曲形状として、帯板の厚み部分となる先端面を湾曲面としたプロテクタ5を使用することもできる。当接部5aは、少なくとも湾曲面を含む構成であれば、必ずしも全体が湾曲面である必要はない。例えば、直方体の先端角部にアールを付けた形状のように、当接部5aの当接面を、湾曲面に平面を組み合わせた形状にしてもよい。
【0029】
施術者は、探索モードにおいて、電極3,4の先端部3b,4bが所望の生体組織に到達したことを出力部15の出力により把握した後、焼灼モード選択スイッチ12aまたはフットスイッチ12eの操作により焼灼モードを選択し、調整ダイヤル12bの操作により、所望の生体組織の焼灼に適した焼灼電力を電極3,4に印加する。電極3,4の間にプロテクタ5が介在されることで、電極3,4間の距離が安定するため、生体組織の焼灼を確実に行うことができる。電極3,4は、一部または全体がプロテクタ5に接触していてもよく、あるいは、プロテクタ5と非接触であってもよい。
【0030】
電極3,4の先端部3b,4bは、電極本体3a,4aの先端から球状に膨出するように形成されているため、生体組織100との当接面は湾曲面である。したがって、プロテクタ5の当接部5aの形状だけでなく、電極3,4の先端部3b,4bの形状によっても、電極3,4が生体組織100を深く穿刺するのを確実に防止することができる。また、電極3,4と生体組織100との広い接触面積を確保することで、省電力且つ短時間での止血が可能になるだけでなく、生体組織の表面をなぞるように電極3,4を移動させることが容易になるため、広範囲の焼灼にも容易に対応することができる。
【0031】
電極3,4の先端部3b,4bの形状は、必ずしも限定されないが、本実施形態と同様に、生体組織との接触面が湾曲面となるように膨出する形状であることが好ましい。このような形状としては、球状以外に、楕円球状、円板状、楕円板状、円筒状、波板状などを例示することができ、あるいは、これらの一部分の形状(例えば半球状や半筒状)であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 焼灼ヒータ
2 シース
3,4 電極
3b,4b 先端部
5 プロテクタ
5a 当接部
100 生体組織
図1
図2
図3