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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】シリンジおよびシリンジ用コネクタ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/31 20060101AFI20241205BHJP
   A61M 39/10 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61M5/31 530
A61M39/10 120
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020155824
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049565
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河内 一成
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0230025(US,A1)
【文献】特表2017-506115(JP,A)
【文献】特表2017-534351(JP,A)
【文献】特開平7-313597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
A61M 39/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面が円錐台状または円筒状の被嵌合部を有するガラス製のバレルと、
内周面が円錐台状または円筒状の嵌合部を有し、前記嵌合部が前記被嵌合部に締まり嵌めで外嵌することで前記バレルに取り付けられる樹脂製のコネクタと、を備え
前記コネクタは、外部の相手側コネクタに接続される接続部と、前記嵌合部と前記接続部を繋ぐ中間部と、前記中間部から突出して前記接続部の外周を囲む筒状の外筒部と、を有し、
前記嵌合部の内周面は、径方向において前記外筒部の内周面と外周面の間に位置し、
前記嵌合部の外周面は、径方向において前記外筒部の外周面よりも外側に位置することを特徴とするシリンジ。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンジにおいて、
前記被嵌合部は、外周側に向けて凸となる角部を後端側の端に有し、
前記角部は、前記嵌合部の内周面と接触することを特徴とするシリンジ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシリンジにおいて、
前記コネクタは、ポリアミド樹脂から構成されることを特徴とするシリンジ。
【請求項4】
請求項1からまでのいずれか1項に記載のシリンジにおいて、
前記嵌合部の内径は、対応する位置の前記被嵌合部の外径の94%以上98%以下であることを特徴とするシリンジ。
【請求項5】
請求項1からまでのいずれか1項に記載のシリンジにおいて、
前記嵌合部の径方向の厚さは、軸方向の端部に設けた丸み部または面取り部以外の部分において2mm以上3mm以下であることを特徴とするシリンジ。
【請求項6】
請求項1からまでのいずれか1項に記載のシリンジにおいて、
前記コネクタは、前記バレルの内部と連通する接続流通路を有し、
前記接続流通路は、横断面形状が非円形状の非円形部を有することを特徴とするシリンジ。
【請求項7】
外周面が円錐台状または円筒状の被嵌合部を有するガラス製のバレルと、
内周面が円錐台状または円筒状の嵌合部を有し、前記嵌合部が前記被嵌合部に締まり嵌めで外嵌することで前記バレルに取り付けられる樹脂製のコネクタと、を備え
前記被嵌合部および前記嵌合部は、前記被嵌合部の外径に対する前記嵌合部の内径の比率が後端側に向けて漸次減少するように構成されることを特徴とするシリンジ。
【請求項8】
外周面が円錐台状または円筒状の被嵌合部を有するガラス製のバレルと、
内周面が円錐台状または円筒状の嵌合部を有し、前記嵌合部が前記被嵌合部に締まり嵌めで外嵌することで前記バレルに取り付けられる樹脂製のコネクタと、を備え
前記バレルと前記コネクタの間で軸方向に挟まれるように配置され、前記コネクタよりも変形しやすいシール部材を備え、
前記コネクタは、前記シール部材と接触する面において周方向に連続する溝を有することを特徴とするシリンジ。
【請求項9】
シリンジのガラス製のバレルに設けられた外周面が円錐台状または円筒状の被嵌合部に締まり嵌めで外嵌する内周面が円錐台状または円筒状の嵌合部を有し、樹脂から構成され
外部の相手側コネクタに接続される接続部と、前記嵌合部と前記接続部を繋ぐ中間部と、前記中間部から突出して前記接続部の外周を囲む筒状の外筒部と、を有し、
前記嵌合部の内周面は、径方向において前記外筒部の内周面と外周面の間に位置し、
前記嵌合部の外周面は、径方向において前記外筒部の外周面よりも外側に位置することを特徴とするシリンジ用コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種流体の吐出や吸引に使用されるシリンジ、およびこのようなシリンジに取り付けられるシリンジ用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療の分野においては、薬液の投与や採血等にシリンジ(注射筒)が使用されている。このようなシリンジは、薬液等を収容するバレル(外筒)と、バレル内に挿入されるプランジャ(押し子)から構成されている。そして、バレルの先端には、所定の規格に準拠したコネクタ(筒先)が設けられており、このコネクタに注射針の針基やカテーテルのコネクタ等が接続されるようになっている。
【0003】
医療用のシリンジとしては、バレルおよびプランジャが共にガラス製のシリンジが長年使用されていたが、近年ではウイルス等の感染防止の観点から、バレルおよびプランジャが共に樹脂製のディスポーザブルシリンジが主流となっている。但し、樹脂製のシリンジは、安価で使い捨て可能というメリットを有するものの、プランジャの摺動抵抗が大きいというデメリットを有している。これは、ガラス製と比較して樹脂製のシリンジは変形しやすく、寸法が安定しないため、プランジャの先端にゴム等の弾性材料からなるガスケットを設けることで密閉性を確保していることに起因している。
【0004】
一方、ガラス製のシリンジは、ガスケットを設けることなく密閉性を確保することが可能であるため、プランジャの摺動抵抗が小さいというメリットを有している。このため、例えば硬膜外麻酔における抵抗消失法(LOR)のように、プランジャのスムーズな摺動が必要となる用途においては、現在でも主にガラス製のシリンジが使用されている。なお、抵抗消失法とは、生理食塩水または空気を封入したシリンジのプランジャを押しながら針を硬膜外腔に向けて刺入していき、内圧の低い硬膜外腔まで針先が到達したことを、プランジャの抵抗の消失によって判断する手法である。
【0005】
このようなガラス製のシリンジのコネクタには、バレルと一体的に形成されるガラス製のものと、ガラス製のバレルの先端に取り付けられた金属製の別部材から構成されるもの(メタルチップまたはロック形)の2種類が存在する(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
シリンジのコネクタは、一般に比較的小径のオスルアーテーパ部を備えると共に、針基等の着脱時に力が加わる部位であることから、バレルと一体のガラス製のものは破損しやすい。従って、コネクタを金属製の別部材から構成することで、コネクタの強度を高め、安全性を高めることができる。
【0007】
また、誤接続防止の観点から近年新しく制定された麻酔用のコネクタの規格であるISO80369-6では、オスルアーテーパ部が旧規格よりもさらに細く設定されている。このような細いオスルアーテーパ部はガラス製のバレルと一体形成することが難しいため、抵抗消失法に使用されるガラス製のシリンジでは、一般に金属製のコネクタが設けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本産業規格(JIS)T3201-1979「ガラス注射筒」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、金属製のコネクタは、鋳造後の仕上げに機械加工が必要であり、さらに鋳造および機械加工の容易な真鍮(黄銅)を素材とする場合には、表面にメッキを施す必要があることから、製造コストが高いという問題があった。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑み、ガラス製のバレルに安全性の高いコネクタを備えながらも、低コストで製造することが可能なシリンジおよびシリンジ用コネクタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のシリンジは、外周面が円錐台状または円筒状の被嵌合部を有するガラス製のバレルと、内周面が円錐台状または円筒状の嵌合部を有し、前記嵌合部が前記被嵌合部に締まり嵌めで外嵌することで前記バレルに取り付けられる樹脂製のコネクタと、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のシリンジ用コネクタは、シリンジのガラス製のバレルに設けられた外周面が円錐台状または円筒状の被嵌合部に締まり嵌めで外嵌する内周面が円錐台状または円筒状の嵌合部を有し、樹脂から構成されることを特徴とする。
【0013】
脆性材料であるガラスよりも破損しにくい樹脂からコネクタを構成することで、ガラス製のバレルに安全性の高いコネクタを備えることができる。また、機械加工やメッキ処理等が不要となるため、従来の金属製のコネクタを備えるガラス製のシリンジよりも製造コストを低減することができる。
【0014】
さらに、麻酔用の規格であるISO80369-6に準拠したコネクタ、および血管または皮下注射用の規格であるISO80369-7に準拠したコネクタは、外観が似ていることから、色による識別が規定されているところ、コネクタを樹脂から構成することにより、低コストでコネクタを着色することができる。具体的には、射出成形時に顔料を基材に混入させることでコネクタを着色することが可能であるため、塗装工程を省略してコストを低減することができる。
【0015】
また、締まり嵌めの嵌合によってコネクタをバレルに取り付けるようにすることで、表面の平滑性により接着剤の使用が難しいガラス製のバレルに対しても、コネクタを確実に固定することができる。さらに、接着剤を使用しないことで、コネクタ内を流通する流体への接着剤の溶出を未然に防止することができる。
【0016】
すなわち、本発明のシリンジおよびシリンジ用コネクタによれば、従来の金属製のコネクタを備えるガラス製のシリンジと同様に、予めバレルにコネクタを取り付けた状態での流通および保管が可能なシリンジを、より低コストで製造することができる。
【0017】
また、本発明のシリンジにおいて、前記被嵌合部は、外周側に向けて凸となる角部を後端側の端に有し、前記角部は、前記嵌合部の内周面と接触することが好ましい。
【0018】
これによれば、ガラスと樹脂の組み合わせにより、被嵌合部の角部を嵌合部の内周面に食い込むように接触させることが可能となるため、コネクタの軸方向の位置ずれを適宜に防止し、嵌合強度を安定的に高めることができる。
【0019】
また、本発明のシリンジにおいて、前記被嵌合部および前記嵌合部は、前記被嵌合部の外径に対する前記嵌合部の内径の比率が後端側に向けて漸次減少するように構成されることが好ましい。
【0020】
これによれば、変形しやすい開口端となる嵌合部の後端側の部分における締め付け力を、コネクタの先端側の構造によって変形が拘束されやすい嵌合部の先端側の部分よりも大きくすることが可能となるため、嵌合部内への被嵌合部の挿入の容易化と、必要な嵌合強度の確保を両立させることができる。また、被嵌合部の後端側の角部が嵌合部の内周面に食い込みやすくなるため、嵌合強度をより高めることができる。
【0021】
また、本発明のシリンジにおいて、前記コネクタは、ポリアミド樹脂から構成されることが好ましい。
【0022】
これによれば、ポリアミド樹脂(PA)は十分な強度と適度な柔軟性を兼ね備えているため、金属製のコネクタと同等の嵌合強度を得ることができる。また、ポリアミド樹脂は、耐クリープ性が高いため、コネクタをバレルに嵌合した状態(すなわち、常に一定の応力が加わる状態)で長期保管しても、嵌合強度が低下しにくくなっている。さらに、ポリアミド樹脂は、加熱により収縮する性質(熱収縮性)を有しているため、コネクタをバレルに嵌合した状態でエチレンオキサイドガス滅菌(EOG滅菌)を40~60℃の温度下で行った場合にも、軟化による変形を熱収縮が適宜に打ち消し、嵌合強度が低下しにくくなっている。
【0023】
また、本発明のシリンジにおいて、前記嵌合部の内径は、対応する位置の前記被嵌合部の外径の94%以上98%以下であることが好ましい。
【0024】
これによれば、常温下での圧入によるコネクタのバレルへの取り付けを可能としながらも、十分な嵌合強度を得ることができる。すなわち、低コスト且つ容易な組立性と、クリープ変形等を考慮しても長期間に亘って安全に使用可能な嵌合強度を両立させることができる。
【0025】
また、本発明のシリンジにおいて、前記嵌合部の径方向の厚さは、軸方向の端部に設けた丸み部または面取り部以外の部分において2mm以上3mm以下であることが好ましい。
【0026】
これによれば、コネクタ各部における肉厚の変化を低減し、ソリやヒケ、ボイド等の射出成形時の成形不良を防止しつつ、長期間に亘って安全に使用可能な嵌合強度を得ることができる。また、被嵌合部への嵌合時に嵌合部を適切に変形させ、クラック(ひび割れ)の発生を防止することができる。また、射出成形時の成形不良を寸法設定によって防止することで、金型温度や保圧条件等の成形条件を緩和し、生産性を高めることができる。
【0027】
また、本発明のシリンジにおいて、前記コネクタは、前記バレルの内部と連通する接続流通路を有し、前記接続流通路は、横断面形状が非円形状の非円形部を有することが好ましい。
【0028】
これによれば、例えばコネクタがロック用のネジ部を有するような場合に、射出成形の離型時における回り止めとして流通路を機能させることが可能となる。これにより、嵌合部またはその近傍に回り止めのための凹凸形状を設ける必要がなく、適切な形状の嵌合部による十分な嵌合強度を安定的に発生させることができる。また、コネクタの外形状の自由度が高まるため、コネクタを使い勝手の良い形状にすることができる。
【0029】
また、本発明のシリンジにおいて、前記コネクタは、外部の相手側コネクタに接続される接続部と、前記嵌合部と前記接続部を繋ぐ中間部と、前記中間部から突出して前記接続部の外周を囲む筒状の外筒部と、を有し、前記嵌合部の内周面は、径方向において前記外筒部の内周面と外周面の間に位置し、前記嵌合部の外周面は、径方向において前記外筒部の外周面よりも外側に位置することが好ましい。
【0030】
これによれば、外筒部によってコネクタ全体の剛性を高めることが可能となるため、コネクタの捩れや曲り、傾き等を防止し、想定した嵌合強度を安定的に発生させることができる。また、嵌合部の内周面側の部分における変形を適度に拘束して嵌合強度を高めながらも、嵌合部の外周面側の部分における変形を阻害しないようにすることが可能となるため、嵌合部およびその周辺において局所的に過大な応力が発生するのを防止し、嵌合強度を安定的に高めることができる。
【0031】
また、本発明のシリンジにおいて、前記バレルと前記コネクタの間で軸方向に挟まれるように配置され、前記コネクタよりも変形しやすいシール部材を備え、前記コネクタは、前記シール部材と接触する面において周方向に連続する溝を有することが好ましい。
【0032】
これによれば、嵌合部と被嵌合部の締め代が大きく、コネクタの軸方向における位置決めの微調整が困難となる場合にも、シール部材によってコネクタとバレル間の密閉性を確保することができる。また、周方向に連続する溝によってシール部材を適宜に変形させることで、密閉性を高めることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のシリンジおよびシリンジ用コネクタによれば、ガラス製のバレルに安全性の高いコネクタを備えながらも、低コストで製造することが可能という優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】Aは本発明の一実施形態に係るシリンジの正面図である。Bは図1AのI-I線断面図である。
図2】Aはバレルの平面図である。Bはバレルの正面図である。
図3】Aはコネクタの平面図である。Bは図3AのII-II線断面図である。Cはコネクタの底面図である。
図4】Aはコネクタの変形例の平面図である。Bは図4AのIII-III線断面図である。Cはコネクタの変形例の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0036】
図1Aは本発明の一実施形態に係るシリンジ1の正面図であり、図1B図1AのI-I線断面図である。本実施形態のシリンジ1は、硬膜外麻酔における抵抗消失法等に使用されるものである。図1AおよびBに示されるように、シリンジ1は、円筒状のバレル(外筒)10と、バレル10に内挿されたプランジャ(押し子)20と、バレル10の先端側(図の上側)に配置されたシール部材30と、シール部材30を収容するようにしてバレル10の先端側に取り付けられたコネクタ(筒先)40と、を備えている。
【0037】
バレル10は、内部に生理食塩水や空気等の流体を収容する円筒状の部材であり、透明なホウケイ酸ガラスから構成されている。図2Aはバレル10の平面図であり、図2Bはバレル10の正面図である。バレル10は、有底円筒状の胴部11と、胴部11の先端側に設けられた突出部12と、突出部12内を軸方向に貫通して胴部11の内部と連通する流通路13と、胴部11の後端側に設けられたフランジ部14と、を有している。
【0038】
胴部11は、円筒状の筒部11aと、中央部に孔を有する円盤状の底部11bとから構成されている。筒部11aの外周面には、プランジャの先端面20aの位置に応じた内容積を表示する目盛り(図示省略)が設けられている。底部11bの先端側には、突出部12が設けられている。また、流通路13は、底部11bを軸方向に貫通している。
【0039】
突出部12は、円筒状の被嵌合部12aと、被嵌合部12aの先端側に設けられた導入部12bと、被嵌合部12aと底部11bの間のくびれ部12cと、から構成されている。
【0040】
被嵌合部12aは、外周面12a1にコネクタ40が外嵌される部分である。被嵌合部12aは、コネクタ40内への挿入を容易にすると共に、コネクタ40との密着性を高めて嵌合強度を高めるために、外周面12a1が僅かに先端側に向けて縮径するテーパ状(円錐台状)に構成されている。外周面12a1のテーパ角度(勾配の角度の2倍の角度)は、特に限定されるものではないが、挿入性および嵌合性の観点からは、0.1°以上5°以下であることが好ましく、3°以上4°以下であればより好ましい。
【0041】
また、被嵌合部12aの外径D1は、特に限定されるものではないが、シリンジ1が医療用である場合には、医療用の各種コネクタの規格に基づく寸法を考慮すると、6mm以上12mm以下であることが好ましく、8mm以上10mm以下であればより好ましい。本実施形態では、ISO80369-6に規定される麻酔用のコネクタの寸法から、被嵌合部12aの外径D1を、8.6mm以上9mm以下の範囲内において先端側から後端側に向けて漸次増大する所定値に設定している。
【0042】
また、被嵌合部12aの軸方向長さL1は、特に限定されるものではないが、コネクタ40の傾き等を防止した安定的な嵌合と、コネクタ40内への挿入性(組立性)を両立させるためには、被嵌合部12aの外径D1の最大値の40%以上70%以下であることが好ましく、50%以上60%以下であればより好ましい。本実施形態では、被嵌合部12aの軸方向長さL1を、被嵌合部12aの外径D1の最大値の52%以上56%以下の所定値に設定している。
【0043】
導入部12bは、外嵌されるコネクタ40を押し広げるための部分であり、被嵌合部12aよりもテーパ角度が大きく設定されている(本実施形態では、約90°)。くびれ部12cは、被嵌合部12aよりも後端側を部分的に被嵌合部12aよりも小径化することで、被嵌合部12aとコネクタ40の嵌合を阻害しないように設けられている。突出部12の先端面12dは、シール部材30と密着する面であり、軸方向に対して略垂直な平面となっている。
【0044】
本実施形態では、突出部12における被嵌合部12aよりも先端側および後端側の部分を小径化することで、被嵌合部12aの外周面12a1を、他の部位に阻害されることなくコネクタ40に適切に接触させ、安定的に嵌合させるようにしている。さらに、被嵌合部12aの先端側の端および後端側の端において外周側に向けて凸となる角部12a2、12a3を、コネクタ40に食い込ませるように接触させることで、嵌合強度を高めるようにしている。
【0045】
流通路13は、バレル10内とコネクタ40内を繋ぐ通路であり、プランジャ20の操作によって吐出また吸引される流体が通過する通路である。流通路13は、先端側の等径部13aと、後端側の縮径部13bと、から構成されている。等径部13aは、軸方向において略一定の内径D2を有している。また、縮径部13bは、先端側に向けて漸次縮径率が減少しながら縮径し、胴部11の底部11bの内側面と等径部13aの内周面を繋ぐように構成されている。
【0046】
本実施形態では、等径部13aの内径D2を比較的小径に設定することで、被嵌合部12aの強度を高めると共に、バレル10のデッドスペース(プランジャ20を先端側に最も押し込んだ状態において内部に流体が滞留する空間)を削減するようにしている。また、縮径部13bを底部11bの内側面と等径部13aの内周面を繋ぐように構成することで、内部の流体のスムーズな流動を可能としている。
【0047】
等径部13aの内径D2は、特に限定されるものではないが、デッドスペースの容積と通過する流体の流動性のバランスを考慮すると、1.4mm以上2.2mm以下であることが好ましく、1.6mm以上2mm以下であればより好ましい。本実施形態では、内径D2を、1.7mm以上1.9mm以下の所定値に設定している。
【0048】
フランジ部14は、使用者がプランジャ20を親指で押圧操作する際に、例えば人差し指および中指がかけられる部分である。フランジ部14は、胴部11の後端側において外周方向に張り出すように設けられている。フランジ部14の形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、フランジ部14を平面視で長円形状に構成することで、シリンジ1を横向きに置いた際の転がりを防止している。
【0049】
図1AおよびBに戻って、プランジャ20は、バレル10の後端側の開口からバレル10内に挿入され、使用者に進退操作されることでバレル10内の流体を吐出する、またはバレル10内に流体を吸引する部材である。プランジャ20は、バレル10と同様にホウケイ酸ガラスから構成され、先端側の円柱状の大径部21と、後端側の円盤状の受力部22と、大径部21と受力部22を繋ぐ円柱状の小径部23と、から構成されている。
【0050】
大径部21は、バレル10の後端側を密閉する部分である。大径部21は、バレル10の胴部11の内径よりも僅かに小さい外径に構成されると共に、胴部11と同等の軸方向長さに構成されることで、密閉性と摺動性を両立させている。これにより、本実施形態のシリンジ1は、硬膜外麻酔における抵抗消失法に使用することが可能となっている。
【0051】
受力部22は、使用者がプランジャ20を操作する際に力を受ける部分である。受力部22は、大径部21よりも大径に構成されることで、先端側に向けての押圧力および後端側に向けての引抜力の両方を受けられるようになっている。小径部23は、プランジャ20を引き抜く際に受力部22に指をかけやすくすべく小径化された部分である。小径部23の軸方向長さは、プランジャ20を最も押し込んだ状態において、バレル10のフランジ部14と受力部22の間に所定の隙間を形成する長さに設定されている。
【0052】
シール部材30は、バレル10とコネクタ40の間の密閉性を確保するためのものである。シール部材30は、軸方向に貫通する貫通孔31が中央部に設けられた円盤状の部材であり、シリコーンゴムから構成されている。すなわち、シール部材30は、コネクタ40よりも変形しやすいものとなっており、突出部12の先端面12dとコネクタ40の間で軸方向に挟まれ、適宜に圧縮変形することでバレル10とコネクタ40の間の隙間を埋め、密閉するように構成されている。
【0053】
シール部材30の外径は、突出部12の先端面12dよりも大径に設定されている。これにより本実施形態では、先端面12dの周縁の角部をシール部材30に当接させて密閉性を高めるようにしている。また、貫通孔31の内径は、流通路13の等径部13aおよびコネクタ40内の流通路よりも大径に設定されており、内部を通過する流体の流動を阻害しないようになっている。
【0054】
シール部材30の厚さは、特に限定されるものではないが、適宜に圧縮変形して適切な密閉性を確保するためには、0.2mm以上であることが好ましい。また、シリンジ1におけるバレル10の胴部11よりも先端側の長さを使い勝手の良い長さとするためには、シール部材30の厚さは1mm以下であることが好ましい。
【0055】
コネクタ40は、注射針の針基やカテーテル等のコネクタをシリンジ1に接続するための部材である。本実施形態のコネクタ40は、例えば変換コネクタや延長コネクタのように任意に着脱して使用されることを想定しておらず、従来のガラス製のシリンジにおける金属製のコネクタと同様に、原則として略永続的にバレル10に取り付けられた状態で使用されるものである。
【0056】
本実施形態では、コネクタ40をポリアミド樹脂の一種であるナイロン66から構成している。従来、医療機器の分野においては、ナイロン66等のポリアミド樹脂は、主に縫合糸やカテーテル等の素材として使用されていたが、本願発明者は、ポリアミド樹脂の強度および柔軟性のバランス、さらに耐クリープ性や熱収縮性等の特性に着目し、ガラス製シリンジのコネクタの素材として常識的に使用されていた金属に代わる素材として使用可能であることを見出した。
【0057】
樹脂は脆性材料であるガラスよりも破損しにくいため、コネクタ40を樹脂から構成することで、シリンジ1の安全性を高めることができる。また、樹脂は金属よりも成形可能な形状の自由度が高く、機械加工やメッキ処理等も不要であるため、コネクタ40を樹脂から構成することで、金属から構成する場合よりも製造コストを低減することができる。
【0058】
但し、バレル10の素材であるガラスは、表面が平滑であることから接着剤の使用が難しく、また、内部の流体へ接着剤が溶出する可能性があることから、コネクタ40のバレル10への取り付け(固定)は、嵌合により行うことが望ましい。また、ガラスは脆性材料であることから、ガラス側に圧縮応力が加わるように、コネクタ40をバレル10に外嵌することが望ましい。
【0059】
しかしながら、例えばシリンジの素材として一般に使用されているポリプロピレン(PP)は、引張強さが低く、さらに引張弾性率が低い(伸びやすい)ため、締め付け力が不足し、十分な嵌合強度(引抜強度)が得にくいという問題があった。また、医療機器の分野において各種コネクタや筐体等の素材として広く使用されているポリカーボネート(PC)は、十分な嵌合強度が得られる引張強さを有するものの、引張弾性率が高い(伸びにくい)ため、ひび割れが生じやすいという問題があった。
【0060】
これに対し、ポリアミド樹脂(PA)は、十分な引張強さと適度な柔軟性を兼ね備えているため、金属製のコネクタと同等の嵌合強度を得ることができる。また、ポリアミド樹脂は、耐クリープ性が高いため、コネクタ40をバレルに嵌合した状態(すなわち、常に一定の応力が加わる状態)で長期保管しても、嵌合強度が低下しにくくなっている。さらに、ポリアミド樹脂は、加熱により収縮する性質(熱収縮性)を有しているため、コネクタ40をバレルに嵌合した状態でエチレンオキサイドガス滅菌(EOG滅菌)を40~60℃の温度下で行った場合にも、軟化による変形を熱収縮が適宜に打ち消し、嵌合強度が低下しにくくなっている。
【0061】
すなわち、コネクタ40をポリアミド樹脂から構成することで、従来の金属製のコネクタを備えるガラス製のシリンジと同等の安全性を備えるシリンジ1を、低コストで製造することが可能となる。また、別途塗装工程を設けることなく、射出成形時に基材へ顔料を混入することでコネクタ40を着色することが可能となるため、例えば所定のISO規格に準拠した色のコネクタ40を備える識別性の高いシリンジ1を低コストで製造することができる。
【0062】
なお、コネクタ40を構成するポリアミド樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、ナイロン66以外にも、各種脂肪族ポリアミド樹脂、各種半芳香族ポリアミド樹脂、各種全芳香族ポリアミド樹脂、およびこれらの共重合体等を採用することができる。但し、引張強さおよび耐熱性を考慮すると、コネクタ40の素材はナイロン66であることが好ましい。
【0063】
図3Aはコネクタ40の平面図であり、図3B図3AのII-II線断面図であり、図3Cはコネクタ40の底面図である。なお、図3Bでは、バレル10の突出部12およびシール部材30を二点鎖線で示している。
【0064】
コネクタ40は、後端側の嵌合部41と、先端側の接続部42と、嵌合部41と接続部42を繋ぐ中間部43と、接続部42の外周を囲む外筒部44と、外筒部44の内周面に設けられた雌ネジ部45と、接続部42および中間部43を軸方向に貫通する接続流通路46と、から構成されている。
【0065】
嵌合部41は、円筒状に構成されており、内径が拡大するように変形(主に弾性変形)することで被嵌合部12aに嵌合する、すなわち締まり嵌めで外嵌する部分である。嵌合部41の内周面41aは、テーパ状の接触部41a1と、接触部41a1と中間部43の後端側端面43bを滑らかに繋ぐ丸み部41a2と、から構成されている。接触部41a1は、被嵌合部12aの外周面12a1と接触する部分である。接触部41a1は、被嵌合部12aの外周面12a1に対応させて、先端側に向けて縮径するテーパ状(円錐台状)に構成されている。
【0066】
接触部41a1のテーパ角度は、特に限定されるものではないが、挿入性および嵌合性の観点からは、被嵌合部12aの外周面12a1のテーパ角度の10%以上50%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であればより好ましい。本実施形態では、接触部41a1のテーパ角度を被嵌合部12aの外周面12a1のテーパ角度の25%以上35%以下の所定値に設定している。
【0067】
接触部41a1の内径D3は、特に限定されるものではないが、嵌合状態で対応する位置(軸方向における同位置)の被嵌合部12aの外径D1の94%以上98%以下であることが好ましく、95%以上98%以下であればより好ましい。このように内径D3を設定することで、低コスト且つ高い生産性と、長期間に亘って安全に使用可能な嵌合強度を両立させることができる。
【0068】
具体的には、内径D3が対応する位置の外径D1の94%未満の場合、常温下で被嵌合部12aを嵌合部41内に圧入することが困難となるため、コストおよび生産性が悪化することとなる。また、内径D3が対応する位置の外径D1の98%より大きい場合、嵌合部41の締め付け力が小さくなるため、長期保管時のクリープ変形等によって要求される嵌合強度(例えば、JIS T3201-1979に規定される78Nの引抜荷重に5分間耐えられる嵌合強度)を維持できなかったり、そもそも要求される嵌合強度が得られなかったりすることとなる。
【0069】
本実施形態では、接触部41a1の内径D3を、対応する位置の外径D1の96%以上98%以下の所定値に設定している。さらに、本実施形態では、上述のように接触部41a1のテーパ角度を被嵌合部12aの外周面12a1のテーパ角度よりも小さく設定することで、外径D1に対する内径D3の比率が後端側に向けて漸次減少するようにしている。換言すれば、締め代が後端側に向けて漸次増大するようにしている。嵌合部41の後端側の部分は中間部43および外筒部44によって変形が拘束される先端側よりも比較的変形しやすいことから、締め代を後端側に向けて漸次増大させることで、嵌合部41内への被嵌合部12aの挿入を容易化しつつ、必要な嵌合強度を確保することができる。
【0070】
接触部41a1の軸方向長さL2は、被嵌合部12aの軸方向長さL1よりも長く設定されている。従って、シール部材30が適切に圧縮される状態まで被嵌合部12aを嵌合部41内に挿入させた状態では、被嵌合部12aの先端側の角部12a2および後端側の角部12a3が接触部41a1に接触することとなる。すると、接触部41a1における角部12a2よりも先端側の部分および角部12a3よりも後端側の部分は、弾性変形の復元力により内径が縮小するため、角部12a2、12a3は、接触部41a1に食い込んだような状態となる。これにより本実施形態では、コネクタ40の軸方向の位置ずれを適宜に防止し、嵌合強度を高めるようにしている。
【0071】
特に本実施形態では、接触部41a1のテーパ角度を被嵌合部12aの外周面12a1のテーパ角度よりも小さく設定しているため、後端側の角部12a3がより接触部41a1に食い込みやすくなっている。また、嵌合部41に対して被嵌合部12aをより先端側へ(奥へ)押し込むほどに、締め付け力と共に食い込みも強まることとなるため、シール部材30の反力に抗してシール部材30を適切に圧縮変形させ、バレル10とコネクタ40の間をより確実に密閉することが可能となる。
【0072】
嵌合部41の外周面41bには、後端側に向けて外径D4が漸次縮小するように抜き勾配が設けられると共に、後端側の角部には丸み部41b1が設けられている。嵌合部41の径方向の厚さT1は、特に限定されるものではないが、軸方向の端部に設けた丸み部または面取り部以外の部分において2mm以上3mm以下であることが好ましく、2.2mm以上2.8mm以下であればより好ましい。このように厚さT1を設定することで、低コスト且つ高い生産性と、長期間に亘って安全に使用可能な嵌合強度を両立させることができる。
【0073】
具体的には、嵌合部41の径方向の厚さT1を大きくすることで、嵌合部41内に生じる応力を低減して要求される嵌合強度を安定的に得ることができるが、嵌合部41の径方向の厚さT1が3mmより大きい場合、ソリやヒケ、ボイド等の成形不良が生じる可能性が高まると共に、成形不良に起因する嵌合強度の低下が生じる可能性が高まることとなる。また、このような成形不良の発生を抑制すべく、金型温度や保圧条件等の成形条件の設定を厳しくすることで、コストおよび生産性が悪化することとなる。
【0074】
また、嵌合部41の径方向の厚さT1が2mm未満の場合、嵌合部41内に生じる応力が大きくなるため、長期保管時のクリープ変形等によって要求される嵌合強度を維持できなかったり、組立時(嵌合時)に生じる塑性変形によって要求される嵌合強度が得られなかったりすることとなる。
【0075】
さらに、嵌合部41の径方向の厚さT1が2mm未満の場合、組立時に嵌合部41においてクラックが生じる可能性が高まると共に、クラックが進展して嵌合部41が破断する可能性が高まることとなる。また、嵌合部41の径方向の厚さT1が3mmより大きい場合にも、嵌合部41の全体的な変形が妨げられることから、組立時に嵌合部41の内周面41a側において局所的に過大な応力が発生し、クラックが生じる可能性が高まることとなる。
【0076】
本実施形態では、嵌合部41の径方向の厚さT1を、丸み部41a2、41b1以外の部分において2.2mm以上2.3mm以下の所定値に設定している。これにより、丸み部41b1以外の部分における嵌合部41の外径D4は、対応する位置の接触部41a1の内径D3の約151~154%となっている。本実施形態ではまた、接触部41a1のテーパおよび外周面41bの抜き勾配の設定により、厚さT1が後端側に向けて漸次減少するようにしている。これにより、嵌合部41内への被嵌合部12aの挿入開始時に嵌合部41を変形しやすくし、組立性を向上させることができる。
【0077】
なお、嵌合部41において、丸み部41b1に代えて面取り部を設けたり、接触部41a1の後端側の角部に丸み部または面取り部を設けたりしてもよい。また、嵌合部41は、嵌合時の略均一な変形により安定的に嵌合強度を発生させるためには、径方向の厚さT1が周方向において略一定(すなわち、円筒状)であることが好ましいが、横断面の外形状を、円形以外の形状(例えば、多角形状等)に構成するようにしてもよい。また、外周面41bに適宜の凹凸形状を設けるようにしてもよい。
【0078】
接続部42は、外部の相手側コネクタ(例えば、注射針の針基やカテーテルのコネクタ等)に接続される部分である。本実施形態のシリンジ1は硬膜外麻酔における抵抗消失法等に使用されるものであるため、接続部42は、ISO80369-6に準拠したオスルアーテーパ部から構成されている。
【0079】
中間部43は、嵌合部41と接続部42を繋ぐ部分である。本実施形態では、接触部41a1の内径D3の最小値を接続部42の外径D5の最大値よりも大きく設定しているため、円盤状の中間部43によって嵌合部41と接続部42を繋ぐようにしている。中間部43の外周面43aは、嵌合部41の外周面41bと連続しており、後端側端面43bは、軸方向に対して略垂直な平面となっている。また、中間部43の厚さ(軸方向の厚さ)T2は、丸み部以外の部分において嵌合部41の径方向の厚さT1の最小値の約68%に設定されている。
【0080】
このような中間部43を設けることで、径方向における嵌合部41と接続部42の間で、後端側端面43bを突出部12の先端面12dと対向させることが可能となる。そして、後端側端面43bと先端面12dの間にシール部材30を挟んで、バレル10とコネクタ40の間の密閉性を確保することができる。
【0081】
本実施形態では、嵌合部41と被嵌合部12aの締め代が比較的大きいことから、中間部43の後端側端面43bと突出部12の先端面12dを適切に密着させて密閉性を確保することが困難となっている。従って、コネクタ40よりも変形しやすいシール部材30を両者の間に挟むようにすることで、突出部12に対するコネクタ40の軸方向の位置の自由度を高め、密閉性の確保を容易化している。また、コネクタ40の材質とは特性の異なる材質からなるシール部材30を配置することで、コネクタ40の材質の特性に起因する密閉性の低下をシール部材30によって補完することが可能となる。
【0082】
本実施形態ではさらに、周方向に連続する円環状の溝43cを中間部43の後端側端面43bに設けることで、シール部材30の圧縮変形に変化をつけ、密閉性をより高めるようにしている。すなわち、溝43cに対応する位置のシール部材30は、後端側端面43bと接触しないことから、膨出して溝43c内に入り込んだ状態となり、溝43cの両縁の角部がシール部材30に食い込むことで密閉性が高められるようになっている。
【0083】
外筒部44は、円筒状に構成されており、旧規格の相手側コネクタと接触して接続部42への接続を防止するカラーであると共に、正規の相手側コネクタとの接続をネジ締結によりロックするロック部として機能する部分である。すなわち、本実施形態のコネクタ40は、所謂ロックタイプのコネクタとなっている。外筒部44は、ISO80369-6に準拠して構成されており、内周面44aには相手側コネクタの雄ネジと螺合する雌ネジ部45が設けられている。
【0084】
外筒部44の内周面44aの内径D6は、軸方向に沿って略一定であり、本実施形態では、接触部41a1の内径D3の最小値の約82%に設定されている。また、外筒部44の外周面44bには、外径D7が先端側に向けて漸次縮径する抜き勾配が設けられている。外筒部44の丸み部以外の部分の外径D7は、接触部41a1の内径D3の最小値の約124~125%に設定されている。また、外筒部44の丸み部およびネジ山以外の部分における径方向の厚さT3は、嵌合部41の径方向の厚さT1の最小値の約82~84%に設定されている。
【0085】
本実施形態では、この外筒部44を活用してコネクタ40の全体的な剛性を高めるようにしている。これにより、コネクタ40をバレル10に取り付けた際の傾きや曲がり、捩れ等を防止し、被嵌合部12aに対して嵌合部41を適切に嵌合させ、想定した嵌合強度を安定的に発生させることができる。また、中間部43の厚さT2を比較的薄くすることが可能となるため、中間部43によって嵌合部41の変形が阻害されないようにすることができる。
【0086】
さらに本実施形態では、接触部41a1の内径D3を外筒部44の内径D6よりも大きく且つ外径D7よりも小さく設定すると共に、嵌合部41の外径D4を外筒部44の外径D7よりも大きく設定することで、外筒部44による嵌合部41の変形の拘束の仕方を調整し、嵌合強度を安定的に高めるようにしている。
【0087】
換言すれば、本実施形態では、嵌合部41の内周面41aは、径方向において外筒部44の内周面44aと外周面44bの間に位置しており、嵌合部41の外周面41bは、径方向において外筒部44の外周面44bよりも外側(外周側)に位置している。これにより、嵌合部41の内周面41a側の部分における変形を適度に拘束して嵌合強度を高めつつ、外周面41b側の部分における変形を阻害しないようにすることが可能となるため、嵌合部41およびその周辺において局所的に過大な応力が発生するのを防止し、嵌合強度を安定的に高めることができる。
【0088】
接続流通路46は、コネクタ40に接続された相手側コネクタの内部をバレル10の流通路13と接続する通路であり、プランジャ20の操作によって吐出また吸引される流体が通過する通路である。接続流通路46は、ISO80369-6に準拠して構成されており、接続部42内および中間部43内を軸方向に貫通して、流通路13と連通するように設けられている。また、接続流通路46は、先端側の円形部46aと、後端側の非円形部46bから構成されている。
【0089】
円形部46aは、横断面形状が円形状に構成された部分であり、接続部42および中間部43の先端側の内部に設けられている。円形部46aの内周面には、先端側に向けて内径D8が漸次縮径する抜き勾配が設けられている。また、円形部46aの内径D8は、流通路13の内径D2よりも大径となっている。
【0090】
非円形部46bは、横断面形状を非円形状に構成された部分であり、中間部43の先端側の内部に設けられている。本実施形態では、非円形部46bの横断面形状を、円形を互いに略平行な2つの直線で切り欠いた形状に構成している。また、非円形部46bは、円形部46aよりも横断面が拡大されており、内周面は2段のテーパ状に構成されている。
【0091】
本実施形態では、接続流通路46に非円形部46bを設けることで、接続流通路46を射出成形の離型時における回り止めとして機能させている。具体的には、コネクタ40は外筒部44の内側に雌ネジ部45を備えるため、雌ネジ部45を形成するコアピン(中子)からコネクタ40を離型させるには、コアピンを回転させながら退避させる必要がある。従って、コネクタ40が雌ネジ部45を形成するコアピンと共回りしないように、金型のいずれかの部分と係合して共回りを防止する形状をコネクタ40に設ける必要があるが、本実施形態では、これを接続流通路46に設けるようにしている。
【0092】
このように、接続流通路46に回り止めとして非円形部46bを設けることで、嵌合部41や中間部43等に回り止めのための凹凸形状を設ける必要がなくなる。これにより、嵌合部41等を適切な形状に構成し、必要な嵌合強度を安定的に発生させることが可能となる。また、コネクタ40の外形状の自由度が高まるため、コネクタ40を使い勝手の良い形状や識別性の高い形状に構成することができる。なお、非円形部46bの横断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば多角形状や楕円形等、コネクタ40のコアピンとの共回りを防止可能な形状であればよい。
【0093】
このように本実施形態では、コネクタ40の材質だけでなく、各部の寸法設定や形状を工夫することによっても嵌合強度を高めている。従って、各部の寸法設定や形状等によって必要な嵌合強度を確保できる場合には、ポリアミド樹脂以外の樹脂からコネクタ40を構成するようにしてもよい。
【0094】
次に、コネクタ40の変形例について説明する。図4Aはコネクタ40の変形例の平面図であり、図4B図4AのIII-III線断面図であり、図4Cはコネクタ40の変形例の底面図である。この例では、雌ネジ部45を省略することで、コネクタ40にロック部を備えないようにしている。このように、コネクタ40は、ロック部を備えない所謂スリップタイプのコネクタであってもよい。
【0095】
なお、この例では、雌ネジ部45を省略したことから、接続流通路46の非円形部46bに代えて、横断面形状が円形状に拡大された拡大部46cを設けている。その他の部分の構成は、図3A~Cに示した例と同一であるため、図4A~Cにおいて同一の符号を付すと共に説明を省略する。
【0096】
その他、図示は省略するが、コネクタ40は、外筒部44を備えないものであってもよい。また、図1~4に示した例では、外筒部44の突出量を接続部42の突出量と略一致させている(外筒部44の先端面と接続部42の先端面が略同一平面上にある)が、異ならせるようにしてもよい。また、外筒部44の形状は、円筒状以外の形状であってもよいし、接続部42の外周を断続的に囲むように構成されるものであってもよい。
【0097】
また、被嵌合部12aの外周面12a1および嵌合部41の内周面41aの接触部41a1は、それぞれ軸方向に略一定の径を有する円筒状のものであってもよいし、いずれか一方をテーパ状(円錐台状)に構成し、他方を円筒状に構成するようにしてもよい。
【0098】
また、被嵌合部12aは、後端側の角部12a3だけを有するものであってもよい。すなわち、被嵌合部12aの外周面12a1を導入部12bの外周面と滑らかに連続させ、嵌合部41内への挿入性を向上させるようにしてもよい。また、バレル10の材質は、ホウケイ酸ガラス以外のガラスであってもよい。
【0099】
また、シール部材30は、シート状のものに限定されず、例えばOリング等であってもよい。すなわち、シール部材30は、コネクタ40よりも変形しやすく構成され、自身の変形によってバレル10とコネクタ40の間の密閉性を確保可能なものであればよく、その形状や材質は特に限定されるものではない。
【0100】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明のシリンジおよびシリンジ用コネクタは、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0101】
例えば、本発明のシリンジおよびシリンジ用コネクタは、麻酔以外の用途に用いられるものであってもよい。すなわち、接続部42は、例えば経腸栄養用のISO80369-3や血管または皮下注射用のISO80369-7等、麻酔用のISO80369-6以外の規格に準拠したオスルアーテーパ部またはメスルアーテーパ部から構成されるものであってもよい。
【0102】
また、バレル10の胴部11の容量は、シリンジ1の用途等に応じた任意の容量を採用することができる。また、プランジャ20は、適宜の樹脂から構成されるものであってもよいし、例えばゴム製のガスケットを備えるものであってもよい。また、シリンジ1の各部の寸法および形状は、上述した実施の形態に示されるものに限定されず、任意の寸法および形状を採用可能であることは言うまでもない。
【0103】
また、上述の実施形態において示した作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したものに過ぎず、本発明による作用および効果は、これらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0104】
1 シリンジ
10 バレル
12a 被嵌合部
12a1 被嵌合部の外周面
12a3 被嵌合部の後端側の角部
30 シール部材
40 コネクタ
41 嵌合部
41a 嵌合部の内周面
41a1 嵌合部の接触部
41a2 嵌合部の丸み部
41b 嵌合部の外周面
41b1 嵌合部の丸み部
42 接続部
43 中間部
43c 溝
44 外筒部
44a 外筒部の内周面
44b 外筒部の外周面
46 接続流通路
46b 非円形部
D1 被嵌合部の外径
D3 嵌合部の接触部の内径
T1 嵌合部の径方向の厚さ
図1
図2
図3
図4