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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】水系ハードコート剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/00 20060101AFI20241205BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241205BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20241205BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20241205BHJP
   C09D 179/02 20060101ALI20241205BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20241205BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241205BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C09D4/00
C09D5/00 Z
C09D7/65
C09D201/02
C09D179/02
C09D4/02
B05D5/00 B
B05D7/24 302G
B05D7/24 302P
B05D7/24 303A
B05D7/24 303E
B05D7/24 302Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021064791
(22)【出願日】2021-04-06
(65)【公開番号】P2022160186
(43)【公開日】2022-10-19
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 崇伸
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-188607(JP,A)
【文献】特開2018-197283(JP,A)
【文献】特開2000-066392(JP,A)
【文献】特開平04-364239(JP,A)
【文献】特開2011-046765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物、
(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(上記(a)に該当するものを除く。)、
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー、並びに
(d)水系溶媒、
を含有する、水系ハードコート剤であって、
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーが、(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体、(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体、又は(c3)ポリエチレンイミンであり、
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体中の、(ci)第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体から導かれる構成単位が、下記式(I’)により表される構造を有し、
【化1】

式(I’)中、HXは無機酸又は有機酸を表し、Hは水素原子であり、Xは水素と共に無機酸又は有機酸を形成し得る基であり、
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体中の、(cii)第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位が、下記式(II’a)又は(II’b)で表される構造を有し、
【化2】


【化3】

式(II’a)及び(II’b)中、HXは無機酸又は有機酸を表し、Hは水素原子であり、Xは水素と共に無機酸又は有機酸を形成し得る基であり、
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体の全構成単位に占める、(cii)第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位の割合が、89~100モル%である、
上記水系ハードコート剤
【請求項2】
更に(e)光重合開始剤を含有する、請求項1に記載の水系ハードコート剤。
【請求項3】
更に(f)熱ラジカル発生剤を含有する、請求項1又は2に記載の水系ハードコート剤。
【請求項4】
更に(g)界面活性剤を含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
【請求項5】
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーの全アミノ基に占める第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基合計の割合が、5モル%以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
【請求項6】
(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物が、ジアクリレート又はトリアクリレートである、請求項1からのいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
【請求項7】
(a)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物、並びに(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(上記(a)に該当するものを除く。)合計100質量部に対して、(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーを1.0~300量部含有する、請求項1からのいずれか一項に記載の水系ハードート
【請求項8】
無機基材のコート用である、請求項1からのいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
【請求項9】
基材上に請求項請求項1からのいずれか一項に記載の水系ハードコート剤を塗布する工程、及び該水系ハードコート剤を硬化する工程、を有するハードコート付き物品の製造方法。
【請求項10】
前記基材が無機基材である、請求項に記載のハードコート付き物品の製造方法。
【請求項11】
前記水系ハードコート剤を硬化する工程において、紫外線の照射又は加熱が行われる、請求項又は10に記載のハードコート付き物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系ハードコート剤に関し、より具体的には、紫外線、熱等により硬化してハードコート層を形成することができ、各種基材への密着性にも優れた水系ハードコート剤及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック板やプラスチックフィルム等のプラスチック基材、ガラス等の無機基材には、その表面への耐擦傷性の付与等の目的で、しばしばハードコート層が設けられる。
ハードコート層の形成に用いられるハードコート剤には従来有機溶媒が用いられていたが、環境面、安全面等への配慮から揮発性有機化合物(VOC)を削減する目的で、有機溶媒に代えて水系溶媒を使用することが求められている。
【0003】
水系溶媒を用いたハードコート剤は、有機溶媒を用いたものの様に溶媒の蒸発、乾燥により硬化させることが困難であり、このため紫外線照射や熱ラジカル発生剤による硬化が可能なハードコート剤が提案されている。
例えば特許文献1では、エチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物、エチレン性不飽和基と塩基性基を含む化合物、及び水を含む系において、更にグリセリンジアクリレート/グリセリントリアクリレート混合物等を架橋剤として用いたハードコート剤が提案されている。
しかし、上記ハードコート剤は、プラスチック基材等の有機基材への密着性には優れるものの、ガラス等の無機基材への密着性が低く、その改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-188607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術の限界に鑑み、本発明は、紫外線、熱等により硬化して高硬度のハードコート層を形成できる水系のハードコート剤であって、有機基材のみならず無機基材への密着性にも優れたハードコート剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、ハードコート剤組成物に第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーを添加することで、ガラス等の無機基材への密着性を大幅に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った
すなわち本発明は、
[1]
(a)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物、
(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(上記(a)に該当するものを除く。)、
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー、並びに
(d)水系溶媒、
を含有する、水系ハードコート剤、に関する。
【0007】
以下、[2]から[12]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
更に(e)光重合開始剤を含有する、[1]に記載の水系ハードコート剤。
[3]
更に(f)熱ラジカル発生剤を含有する、[1]又は[2]に記載の水系ハードコート剤。
[4]
更に(g)界面活性剤を含有する、[1]から[3]のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
[5]
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーが、(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体、(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体、又は(c3)ポリエチレンイミンである、[1]から[4]のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
[6]
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーの全アミノ基に占める第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基合計の割合が、5モル%以上である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
[7]
(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物が、ジアクリレート又はトリアクリレートである、[1]から[6]のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
[8]
(a)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物、並びに(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(上記(a)に該当するものを除く。)合計100質量部に対して、(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーを1.0~300質量部含有する、[1]から[7]のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
[9]
無機基材のコート用である、[1]から[8]のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤。
[10]
基材上に[1]から[8]のいずれか一項に記載の水系ハードコート剤を塗布する工程、及び該水系ハードコート剤を硬化する工程、を有するハードコート付き物品の製造方法。
[11]
前記基材が無機基材である、[10]に記載のハードコート付き物品の製造方法。
[12]
前記水系ハードコート剤を硬化する工程において、紫外線の照射又は加熱が行われる、[10]又は[11]に記載のハードコート付き物品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハードコート剤は、水系溶媒を用いるので揮発性有機化合物(VOC)を使用せず又はその使用が大幅に低減され、紫外線、熱等による硬化で高硬度のハードコート層が形成可能であり、かつ有機基材のみならず無機基材への密着性にも優れる、という実用上高い価値を有する特性を兼ね備えるものであり、各種有機基材、無機基材、有機無機複合基材上へのハードコート層形成に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水系ハードコート剤は、
(a)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物、
(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(上記(a)に該当するものを除く。)、
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー、並びに
(d)水系溶媒、
の各成分を含有する。
【0010】
(a)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物
本発明の水系ハードコート剤は、(a)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物(以下、単に「(a)成分」ともいう。)を含有する。
(a)成分は、その分子中に少なくとも1のエチレン性不飽和基と少なくとも1の酸性基を有する化合物であればよく、特にそれ以外の制限を受けない。
(a)成分は、水系ハードコート剤の硬化性を向上させる等の機能を有する成分である。
【0011】
(a)成分のエチレン性不飽和基の好ましい例としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アリル基、ビニル基及びスチリル基等を挙げることができ、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
(a)成分としては、エチレン性不飽和基を1個有する化合物が好ましく、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物がより好ましい。
【0012】
(a)成分の酸性基としては、酸性度が高い酸性基が好ましく、スルホン酸基、アルキル硫酸基及びリン酸基等が挙げられる。(a)成分としては、酸性基を1個有する化合物が好ましい。
【0013】
(a)成分として好ましい化合物の具体例としては、スルホン酸基を有する化合物として、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エタンスルホン酸等のスルホアルキル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、及びアリルスルホン酸等が挙げられる。
アルキル硫酸基を有する化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシプロピレン硫酸、ポリオキシエチレン-1-((メタ)アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アルキル(メタ)アリルスルホコハク酸、及び({α-[2-(メタ)アリルオキシ)-1-({[アルキル(C=10~14)]オキシ}メチル)エチル]-ω-ヒドロキシポリ(n=1~100)(オキシエチレン)}を主成分とする、{アルカノール(C=10~14、分岐型)と1-((メタ)アリルオキシ)-2,3-エポキシプロパンの反応生成物}のオキシラン重付加物)の硫酸エステル化物等が挙げられる。
リン酸基を有する化合物としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0014】
これらの化合物の中でも、水系ハードコート剤の硬化性がより優れるものとなる等の理由から、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が好ましく、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が特に好ましい。
【0015】
(a)成分が固体状である場合は、あらかじめ水等の水系溶媒に溶解させて使用することが好ましい。
(a)成分としては、分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物1種類のみを使用しても、2種類以上を組み合わせ使用してもよい。
(a)成分の使用量には特に制限はないが、本発明のハードコート組成物の全質量を基準として、1.0~20質量%使用することが好ましく、5~10質量%使用することが特に好ましい。
2種類以上の(a)成分を使用する場合には、その合計質量が上記範囲内になる様な量で使用することが好ましい。
【0016】
(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物
本発明の水系ハードコート剤は、(b)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(但し、上記(a)成分に該当するものを除く。以下、単に「(b)成分」ともいう。)を含有する。
(b)成分は、架橋剤等として機能し、本発明の水系ハードコート剤に適切な硬化性を付与することができる。また、水系ハードコート剤の粘度やその他の物性を調整することもできる。
(b)成分は、分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有し、かつ上記(a)成分に該当しない化合物であればよく、特にそれ以外の制限を受けない。
(b)成分は、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であるので、「多官能不飽和化合物」とも呼ぶこともできる。
【0017】
(b)成分の例としては、2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(以下、「2官能(メタ)アクリレート」という)、及び2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(以下、「3官能以上(メタ)アクリレート」という)等を挙げることができる。
【0018】
2官能(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート及びノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のジオールジ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールのジ(メタ)アクリレート等のポリオールのジ(メタ)アクリレート;これらポリオールアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。この場合において、アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイド等を挙げることができる。
【0019】
3官能以上の(メタ)アクリレートとして、具体的には、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールのポリ(メタ)アクリレート;これらポリオールアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等を充てることができる。この場合において、アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイド等を挙げることができる。
【0020】
(b)成分は水酸基を有していてもよく、その好ましい例として水酸基と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(以下、「水酸基含有多官能(メタ)アクリレート」ともいう。)等が挙げられる。
水酸基含有多官能(メタ)アクリレートの例としては、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレートのポリオールのポリ(メタ)アクリレート;これらポリオールアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート;並びにイソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。この場合において、アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイド等を挙げることができる。
【0021】
(b)成分としては、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートが(a)成分をはじめとする他の相溶性に優れるうえ、硬化により得られるハードコートが、硬度等の硬化膜性能に優れるものとなるため特に好ましい。より具体的には、グリセリンジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
(b)成分は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。3官能以上の(メタ)アクリレートと水酸基含有多官能(メタ)アクリレートとを組み合わせて使用することが特に好ましい。より具体的には、グリセリントリ(メタ)アクリレートとグリセリンジ(メタ)アクリレートとを組み合わせて使用することが特に好ましい。
【0022】
本発明の水系ハードコート剤における(b)成分の含有割合には特に制限はないが、(a)成分100質量部に対して、100~2,000質量部であることが好ましく、300~1,500質量部がより好ましく、500~1,000質量部であることが特に好ましい。上記範囲であると、本発明のハードコート剤の特徴である優れた硬化性等を損なうことなく物性の調節ができる。
2種類以上の(b)成分を使用する場合には、その合計質量が上記範囲内になる様な量で使用することが好ましい。
【0023】
(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー
本発明の水系ハードコート剤は、(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー(以下、単に「(c)成分」ともいう。)を含有する。
(c)成分を含有することで、本発明のハードコート剤は、高硬度等の従来のハードコート剤の優れた特性を維持しながら、有機基材のみならず無機基材に対しても、優れた密着性を有するハードコート層を形成することができる。
(c)成分は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
(c)成分は、その分子中に少なくとも1の(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーであればよく、特にそれ以外の制限を受けない。
(c)成分としては、密着性向上の効果、入手の容易さ、構造の制御性、水への溶解性等の観点から、(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体、(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体、及び(c3)ポリエチレンイミンを好ましく使用することができる。
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体、(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体、及び(c3)ポリエチレンイミンのうち1種類のみを使用することも好ましく、2種類以上を併用することもまた好ましい。
【0025】
(c)成分の使用量には特に制限はないが、水系ハードコート剤の良好な性能を維持したまま基材密着性を一層向上する観点からは、上記(a)成分及び(b)成分の合計100質量部に対して、(c)成分を1.0~300質量部使用することが好ましく、1.0~260質量部使用することが特に好ましい。
2種類以上の(c)成分を使用する場合には、その合計質量が上記範囲内になる様な量で使用することが好ましい。
【0026】
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体
本発明における(c)成分として好ましく用いられる(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体は、(ci)第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体から導かれる構成単位を有する。
より具体的には、(ci)第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体から導かれる構成単位は、下記式(I)で表される構造、又はその付加塩である構造、を有する。
式(I)中、Rは、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。
における炭素数1~12のアルキル基は直鎖状、枝分かれ状のいずれであってもよく、またアラルキル基であってもよい。その例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ベンジル基などが挙げられる。また、炭素数5~6のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基が挙げられるが、これらには限定されない。
【化1】
【0027】
(ci)第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体から導かれる構成単位が付加塩である場合の構造は、下記式(I’)により表される。
【化2】


式(I’)中、HXは無機酸又は有機酸を表し、Hは水素原子であり、Xは水素と共に無機酸又は有機酸を形成し得る基であれば特に限定されない。
付加塩の種類には特に制限はないが、入手性や反応の制御の容易さ等の観点から、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、亜リン酸塩、亜硝酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等を使用することができる。
中でも、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が好ましく、モノアリルアミンから導かれる構造の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が特に好ましい。
【0028】
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体は、その全てが(ci)第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体から導かれる構成単位からなっていてもよく(すなわち第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体の単独重合体であってもよく)、あるいは(ci)以外の構成単位を有していてもよい(すなわち第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体と、それ以外の単量体との共重合体であってもよい。)
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体の全構成単位に占める、構成単位(ci)の割合は、5~100モル%であることが好ましく、10~100モル%であることが特に好ましい。
【0029】
(ci)第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体から導かれる構成単位の割合が5モル%以上であることで、有機基材のみならず無機基材に対しても、一層高い基材密着性を実現することができる。
構成単位(ci)の割合は、(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体の製造の際の、第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体の使用割合や、それ以外の重合条件を調整することで、適宜調整することができる。
【0030】
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体における、構成単位(ci)以外の構成単位には特に制限は無く、第一級アミノ基又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体と共重合可能なモノマーを適宜使用して共重合することで、その様な構成単位を導くことができる。
共重合可能なモノマーの好ましい例としては、ジメチルアリルアミン等の、第一級アミノ基及又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体以外のモノアリルアミン類またはその付加塩;ジアリルアミン、ジアリルメチルアミン等のジアリルアミン類またはその付加塩;ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等のジアリルジアルキルアンモニウム塩類;アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド等のアクリルアミド類;アリルアルコール類、エチレングリコールモノアリルエーテル等のアリルエーテル類;(メタ)アリルスルホン酸(ナトリウム)等のアリルスルホン酸類またはその付加塩;ビニルスルホン酸(ナトリウム)等のビニルスルホン酸類またはその付加塩;イソプレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0031】
これらの中でも、ジアリルアミン類、第三級アミノ基を有するモノアリルアミン類、アクリルアミド等を好ましく用いることができる。
第一級アミノ基及又は第二級アミノ基を有するモノアリルアミン系単量体以外のモノマーは、1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体の分子量には特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜好適な分子量の(共)重合体を入手又は重合すればよい。
ハードコート剤の適切な粘度を実現し、かつ、実用上許容可能な時間及びコストで重合を行う観点からは、重量平均分子量(Mw)が100から150,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が500から100,000であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)は、1,000から50,000であることが特に好ましい。
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定することができる。
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体の分子量は、コモノマーの有無、種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0033】
(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体の回転粘度[η]にも特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜設定することができるが、10~700mPa・s(25℃)であることが好ましく、10~60mPa・s(25℃)であることが特に好ましい。
回転粘度[η]は、当業界において慣用される方法により測定することができるが、例えば、AMETEK Brookfield社製デジタルB型粘度計DV-3Tにより測定することができる。測定にあたっては、ULAアダプターを使用し、典型的には液量16mL、液温25℃で測定することができる。
回転粘度[η]も、希釈濃度、コモノマーの有無、種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0034】
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体
本発明の水系ハードコート剤を構成する(c)成分として好ましく用いられる、(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体は、ジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位を有する(共)重合体であって、当該ジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位の少なくとも一部が第二級アミノ基を有する(共)重合体である。
ここで「(共)重合体」とは、単独重合体及び共重合体の双方を包含する概念であり、したがって(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体は、ジアリルアミン構造を有する単量体の単独重合体であってもよく、ジアリルアミン構造を有する単量体、及びジアリルアミン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。
【0035】
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体は、(cii)第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位を有する。
より具体的には、(cii)第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位は、下記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で表される構造、又はその付加塩である構造を有する。
【化3】



【化4】

【0036】
(cii)第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位が上記の構造式(IIa)又は(IIb)で示される構造の付加塩であるときの構造は、それぞれ下記の構造式(II’a)又は(II’b)で表される。式中Xは、水素と共に無機酸又は有機酸を形成し得る基であれば特に限定されない。
【化5】


【化6】
【0037】
入手の容易さや反応の制御性等の観点から、上記の構造式(IIa)、又は(IIb)で示される構造の無機酸塩、又は有機酸塩は、塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、又はアルキルサルフェート塩であることが好ましく、塩酸塩であることが特に好ましい。
すなわち上記の構造式(IIa’)及び(IIb’)において、Xは塩素、カルボキシレート基、スルホネート基、又はアルキルサルフェート基であることが好ましく、塩素であることが特に好ましい。
【0038】
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体は、その全てが(cii)第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位からなっていてもよく(すなわち第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体の単独重合体であってもよく)、あるいは(cii)以外の構成単位を有していてもよい(すなわち第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体と、それ以外の単量体との共重合体であってもよい。)
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体の全構成単位に占める、構成単位(cii)の割合は、5~100モル%であることが好ましく、10~100モル%であることが特に好ましい。
【0039】
(cii)第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体から導かれる構成単位の割合が5モル%以上であることで、有機基材のみならず無機基材に対しても、一層高い基材密着性を実現することができる。
構成単位(cii)の割合は、(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体の製造の際の、第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体の使用割合や、それ以外の重合条件を調整することで、適宜調整することができる。
【0040】
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体における、構成単位(cii)以外の構成単位には特に制限は無く、第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体と共重合可能なモノマーを適宜使用して共重合することで、その様な構成単位を導くことができる。
共重合可能なモノマーの好ましい例としては、第三級アミノ基又は第四級アミノ基を有するジアリルアミン類等の、第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体以外のジアリルアミン類またはその付加塩;アリルアミン類またはその付加塩;アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド等のアクリルアミド類;アリルアルコール類、エチレングリコールモノアリルエーテル等のアリルエーテル類、(メタ)アリルスルホン酸(ナトリウム)等のアリルスルホン酸類またはその付加塩;ビニルスルホン酸(ナトリウム)等のビニルスルホン酸類またはその付加塩;イソプレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0041】
これらの中でも、モノアリルアミン類、第三級アミノ基又は第四級アミノ基を有するジアリルアミン類、アクリルアミド等を好ましく用いることができる。
第二級アミノ基を有するジアリルアミン系単量体以外のモノマーは、1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0042】
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体の分子量には特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜好適な分子量の(共)重合体を入手又は重合すればよい。
ハードコート剤の適切な粘度を実現し、かつ、実用上許容可能な時間及びコストで重合を行う観点からは、重量平均分子量(Mw)が500から200,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、2,000から100,000であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)は、5,000から50,000であることが特に好ましい。
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定することができる。
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体の分子量は、コモノマーの有無、種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0043】
(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体の回転粘度[η]にも特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜設定することができるが、20~220mPa・s(25℃)であることが好ましく、20~100mPa・s(25℃)であることが特に好ましい。
回転粘度[η]は、当業界において慣用される方法により測定することができるが、例えば、AMETEK Brookfield社製デジタルB型粘度計DV-3Tにより測定することができる。測定にあたっては、ULAアダプターを使用し、典型的には液量16mL、液温25℃で測定することができる。
回転粘度[η]も、コモノマーの有無、種類及び組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0044】
(c3)ポリエチレンイミン
本発明における(c)成分として好ましく用いられる(c3)ポリエチレンイミンは、エチレンイミンから導かれる構成単位を有する重合体であり、より具体的には、下式(IIIa)で表される構造の構成単位を有する。
【化7】

(c3)ポリエチレンイミンは、上式(IIIa)で表される構造の構成単位を有することで第二級アミノ基を有するので、本発明で用いられる(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーに該当する。
【0045】
(c3)ポリエチレンイミンは、上記式(IIIa)で表される構造の構成単位のみからなっていてもよく、それ以外の構造の構成単位を有していてもよい。
上記式(IIIa)で表される構造の構成単位のみからなる場合、(c3)ポリエチレンイミンは直鎖状の構造を有する。
(c3)ポリエチレンイミンは、第三級アミノ基を有することで分岐状の構造を有していてもよく、例えば下式(IIIb)で表される構造を有していてもよい。下式(IIIb)の構造においても、直鎖状の部分においては第二級アミノ基が存在し、末端においては第一級アミノ基が存在するので、(c3)ポリエチレンイミンは、やはり本発明で用いられる(c)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーに該当する。
式(IIIa)及び(IIIb)においてアミノ基はいずれも遊離の状態で表されているが、これらのアミノ基の一部または全部は付加塩であってもよい。付加塩の種類には特に制限は無く、例えば(c1)第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有するアリルアミン(共)重合体、及び(c2)第二級アミノ基を有するジアリルアミン(共)重合体に関連して上記で説明した各種有機酸塩、無機酸塩を適宜使用することができる。
【化8】
【0046】
(c3)ポリエチレンイミンの分子量には特に限定はないが、好ましくはその重量平均分子量が100~2,000,000の範囲内であり、より好ましくは500~2,000,000、特に好ましくは1,000~2,000,000の範囲内である。
(c3)ポリエチレンイミンは、例えば、エチレンイミンを酸触媒の存在下、開環重合させることにより合成することができる。
あるいは、市販のポリエチレンイミン、例えば、BASF社から市販されているLupasol (商品名:Lupasol SK(平均分子量約2,000,000)、Lupasol G20(平均分子量約1,300)、Lupasol G20 WF(平均分子量約1,300)、Lupasol P(平均分子量約 750,000)、Lupasol PS(平均分子量約750,000)、Lupasol PR 8515(2,000)、Lupasol PN 40、Lupasol WF(平均分子量約25,000)、Lupaosl SC-61B(平均分子量110,000)及び Lupasol FG)、株式会社日本触媒から市販されているエポミン(型番:SP-003(平均分子量約300)、SP-006(平均分子量約600)、SP-012(平均分子量約1,200)、SP-018(平均分子量約1,800)、SP-200(平均分子量約10,000)及びP-1000(平均分子量約70,000))、和光純薬株式会社から市販されているBPEI(販売元コード161-17831(平均分子量約600)、販売元コード167-17811(平均分子量約1,800)、及び販売元コード164-17821(平均分子量約10,000))、などを用いてもよい。
【0047】
(d)水系溶媒
本発明の水系ハードコート剤は、(d)水系溶媒を含有する。
水系溶媒を用いることで、本発明の水系ハードコート剤においては揮発性有機化合物(VOC)を使用せず又はその使用が大幅に低減され、環境面、安全面等の観点からも好適なハードコート剤が提供される。
【0048】
本実施形態の水系ハードコート剤を構成する(d)水系溶媒の種類にも特に限定はないが、水、及び水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒をその好ましい例として挙げることができる。有機溶媒の使用量を低減する等の観点から、水を用いることが特に好ましい。
ハードコート剤の性状や硬化速度を適宜調整する等の観点からは、水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒も好適に用いられる。水と混和可能な有機溶媒としては、従来公知のものが使用できる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブチルアルコール、s-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。なかでも、アルコール類が好適に用いられ、IPAが特に好適に用いられる。これらの水と混和可能な有機溶媒は単独で用いても混合して用いてもよい。
(d)水系溶媒の使用量には特に制限はないが、前記(a)成分、(b)及び(c)成分(以下、「硬化性成分」ともいう。)の合計の濃度が、30~90質量%、より好ましくは50~90質量%、特に好ましくは70~85質量%となる様な量で使用することができる。
【0049】
(e)光重合開始剤
本発明のハードコート剤を活性エネルギー線硬化型組成物として使用し、さらに電子線硬化型組成物として使用する場合は、(e)光重合開始剤を使用せず、電子線等の活性エネルギー線により硬化させることも可能である。
しかしながら、本発明のハードコート剤を活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合において、特に、活性エネルギー線として紫外線及び可視光線を用いる場合には、硬化の容易性やコスト等の観点から、(e)光重合開始剤を更に含有することが好ましい。
電子線硬化型組成物として使用する場合は、必ずしも(e)光重合開始剤を含有させる必要はないが、硬化性を改善させるため必要に応じて少量配合することもできる。
【0050】
本実施形態において用いる(e)光重合開始剤としては、種々の公知の光重合開始剤を使用することができるが、光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
(e)光重合開始剤の具体例としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}及び2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン及び4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2-(2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステル及びオキシフェニル酢酸の2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα-ケトエステル系化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;チタノセン系化合物;1-〔4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフィニル)プロパン-1-オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;2-(o-ベンゾイルオキシム)-1-〔4-(フェニルチオ)〕-1,2-オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びにカンファーキノン等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0051】
これらの中でも特に好ましい例として、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及び、フォスフィンオキサイド系化合物が挙げられ、ハードコート膜を数μm以下の薄膜で塗工したときでも空気下で良好な硬化性を容易に得ることができることから、アセトフェノン系化合物が特に好ましく用いられる。
【0052】
(e)光重合開始剤の含有割合は、(a)、(b)及び(c)の硬化性成分の合計量100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることが特に好ましい。上記範囲であると、ハードコート剤の硬化性に優れ、又、得られる硬化膜の耐擦傷性に優れる。
【0053】
(f)熱ラジカル発生剤
本発明のハードコート剤は、(f)熱ラジカル発生剤を含有していてもよい。(f)熱ラジカル発生剤を配合することで、本実施形態のハードコート剤は、熱硬化型組成物として使用することができ、加熱により硬化させることができる。
(f)熱ラジカル発生剤としては、種々の化合物を使用することができ、有機過酸化物及びアゾ系開始剤が好ましい。
【0054】
有機過酸化物の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、α、α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0055】
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾジ-t-オクタン、アゾジ-t-ブタン等が挙げられるが、これらには限定されない。
これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。又、有機過酸化物を還元剤と組み合わせることによりレドックス反応により硬化を促進することも可能である。
【0056】
(f)熱ラジカル発生剤の含有割合に特に制限はなく、目的とする性能及び用途に応じて適宜設定することができるが、例えば硬化性成分の合計量100質量部に対して、20質量部以下が好ましい。
(f)熱ラジカル発生剤を単独で用いる場合は、通常のラジカル熱重合の常套手段にしたがって行えばよいが、場合によっては(e)光重合開始剤と併用し、光硬化させた後にさらに反応率を向上させる目的で熱硬化を行うこともできる。
【0057】
(g)界面活性剤
本発明のハードコート剤は、塗布時のレベリング性を高める目的や、硬化後のハードコート膜の塗膜均一性を高める等の目的のため、(g)界面活性剤を添加してもよい。本発明において、特に(c)成分としてカチオン性ポリマーを使用する場合には、ハードコート剤の表面張力が高くなる傾向があるので、塗布時のレベリング性や硬化後のハードコート膜の塗膜均一性を損なわない様、(g)界面活性剤を使用することが特に好ましい。
本実施形態において用いる(g)界面活性剤の種類には特に制限はなく、ハードコート剤の塗工形態や、他の成分、とりわけ(d)水系溶媒との親和性などに応じて適宜選択することができる。(g)界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
【0058】
塗膜均一性、レベリング性、浸透性向上等の観点から、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキルエーテル系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を好ましく用いられる。中でも、塗膜均一性等の観点から、シリコーン系界面活性剤を用いることが特に好ましい。
好ましいシリコーン系界面活性剤の具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー等を挙げることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が特に好ましい。商業的に入手可能なものの例としては、ビックケミー・ジャパン社製「BYK-302」、「BYK-307」、「BYK-348」等、DOW社製「VORASURF SZ-1919」等を挙げることができる。
【0059】
好ましいフッ素系界面活性剤の具体例としては、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー等が挙げられる。商業的に入手可能なものの例としては、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロン」シリーズ、DIC株式会社製「メガファック」シリーズ、株式会社ネオス製「フタージェント」シリーズ等を挙げることができる。
【0060】
(g)界面活性剤の添加量には特に制限はなく、ハードコート剤の塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
ハードコート剤の一般的な使用形態を前提とすれば、(g)界面活性剤の使用量が、硬化性成分(a)から(c)の合計量100質量部に対して、0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることが特に好ましい。
(g)界面活性剤は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本発明のハードコート剤は、上記(a)成分~(d)成分の各構成成分、及び存在する場合には(e)成分~(g)成分の好ましい成分に加えて、それ以外の成分を含有していてもよい。
それ以外の成分としては、公知の添加剤を用いることができるが、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸性物質、無機粒子、酸化防止剤、シランカップリング剤、ポリマー、酸発生剤、顔料、染料、粘着性付与剤及び重合禁止剤等を挙げることができる。
【0062】
紫外線吸収剤の具体例としては、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビスブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン系紫外線吸収剤;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-5-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、オクチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化錫粒子等の紫外線を吸収する無機粒子等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0063】
前記化合物の中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。これら紫外線吸収剤は、活性エネルギー線の照射により黄変しやすいプラスチック基材等の変色を抑える目的で使用できるほか、ハードコート膜が形成された物品を屋外で使用する際に、太陽光による物品の劣化を防ぐ目的でも使用できる。
紫外線吸収剤の含有割合は、硬化性成分(a)から(c)の合計量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~2質量部であることがさらに好ましい。
【0064】
光安定剤としては、公知の光安定剤を用いることができるが、中でも、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が好ましく挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、2,4-ビス[N-ブチル-N-(1-シクロヘキシロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ]-6-(2-ヒドロキシエチルアミン)-1,3,5-トリアジン、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチロキシ)-4-ピペリジニル)エステル等が挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としては、BASF社製、TINUVIN 111FDL、TINUVIN123、TINUVIN 144、TINUVIN 152、TINUVIN 292、TINUVIN 5100等が挙げられる。
【0065】
光安定剤の含有割合は、硬化性成分(a)から(c)の合計量100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.1~1質量部であることがさらに好ましい。
【0066】
本発明の水系ハードコート剤は、有機基材、無機基材等への密着性に優れるものであるが、酸性物質を添加することで、さらに基材密着性を向上させることができる。
酸性物質としては、活性エネルギー線の照射により酸を発生する光酸発生剤や、硫酸、硝酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸等が挙げられる。
これらの中でも、無機酸又は有機酸が好ましく、有機スルホン酸化合物がより好ましく、芳香族スルホン酸化合物がさらに好ましく、p-トルエンスルホン酸が特に好ましい。
酸性物質の含有割合は、硬化性成分(a)から(c)の合計量100質量部に対して、0.0001~200質量部であることが好ましく、0.0005~100質量部であることがさらに好ましい。上記範囲であると、基材との密着性により優れ、基材の腐蝕や他の成分の分解といった問題の発生を防ぐことができる。
【0067】
本発明の水系ハードコート剤は、ハードコート膜の耐熱性や耐候性を良好にする目的で、酸化防止剤をさらに含有していてもよい。
本実施形態に用いられる酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、又は、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン等のヒンダードフェノール類を好ましく挙げることができる。市販されているものとしては、株式会社アデカ製のAO-20、AO-30、AO-40、AO-50、AO-60、AO-70、AO-80等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン等のホスフィン類や、亜リン酸トリアルキルや亜リン酸トリアリール等が好ましく挙げられる。これらの誘導体で市販品としては、例えば株式会社アデカ製、アデカスタブPEP-4C、PEP-8、PEP-24G、PEP-36、HP-10、260、522A、329K、1178、1500、135A、3010等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、チオエーテル系化合物が挙げられ、市販品としては株式会社アデカ製AO-23、AO-412S、AO-503A等が挙げられる。
【0068】
酸化防止剤の含有割合は、硬化性成分(a)~(c)の合計量100質量部に対して、0.001~5質量部であることが好ましく、0.001~1質量部であることがより好ましい。上記添加量であると、ハードコート剤の安定性に優れ、また硬化性及び接着力も良好である。
【0069】
本発明の水系ハードコート剤の使用方法には特に制限はなく、当該技術分野において通常用いられる方法に従い使用することができる。
例えば、適用される基材に水系ハードコート剤を通常の塗装方法により塗布した後、当該水系ハードコート剤を硬化することで、ハードコート付き物品を製造することができる。
水系ハードコート剤の硬化にあたっては、活性エネルギー線を照射するか又は加熱して硬化させることができる。
活性エネルギー線の照射方法は、従来の硬化方法として知られている一般的な方法を採用すれば良い。
水系ハードコート剤において(e)光重合開始剤及び(f)熱ラジカル発生剤を使用し、これに活性エネルギー線照射した後、加熱硬化させることにより、基材との密着性を向上させる方法も採用することができる。
【0070】
本発明の水系ハードコート剤が適用できる基材としては、種々の材料を挙げることができ、無機材料、プラスチック等の有機材料、及び紙等が挙げられる。
無機材料としては、ガラス、金属、モルタル、コンクリート及び石材等が挙げられる
金属としては、鋼板、アルミ及びクロム等の金属、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化物等が挙げられる。
プラスチックの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ABS樹脂、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース及びジアセチルセルロース等のセルロースアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルホン、ノルボルネン等の環状オレフィンをモノマーとする環状ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂等が挙げられる。
本発明の水系ハードコート剤は、プラスチック等の有機基材への密着性に優れるばかりか、ガラス等の無機基材への密着性に優れるという優れた特性を有するものであり、無機基材のコート用に特に好ましく用いられる。
【0071】
本発明の水系ハードコート剤の基材への塗工方法としては、目的に応じて適宜設定すればよいが、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ディップコーター、ロールコーター、スピンコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、リップコーター、スプレーコーター、グラビアコーター及びマイクログラビアコーター等で塗工する方法を例示することができる。
【0072】
ハードコート膜の膜厚は、目的に応じて適宜設定すればよい。硬化後の膜厚としては、使用する基材や製造したハードコート膜を有する基材の用途に応じて選択すればよいが、1~100μmであることが好ましく、2~40μmであることがより好ましい。
【0073】
ハードコート剤が有機溶媒を含む場合は、基材に塗工した後、加熱・乾燥させ、有機溶媒を蒸発させることが好ましい。
乾燥温度は、適用する基材が変形等の問題を生じない温度以下であれば特に限定されるものではない。好ましい加熱温度としては、40~100℃である。乾燥時間は適用する基材及び加熱温度によって適宜設定すれば良く、好ましくは0.5~20分である。
【0074】
本発明のハードコート剤を活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合において、硬化させるための活性エネルギー線としては、電子線、紫外線及び可視光線が挙げられるが、紫外線又は可視光線が好ましく、紫外線が特に好ましい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線(UV)無電極ランプ、UV-LED(紫外線発光ダイオード)等が挙げられる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV-A領域の照射エネルギーで100~8,000mJ/cmが好ましく、200~3,000mJ/cmがより好ましい。
又、UV-LEDを使用する場合は、365nmのUV-LEDを使用するクリアニスの場合を挙げると、365nmで、100~1,000mJ/cmが好ましく、200~700mJ/cmがより好ましい。
【0075】
本発明のハードコート剤を熱硬化型組成物として使用する場合は、加熱可能な乾燥機等に硬化膜を静置することで硬化膜を得ることができる。
加熱温度としては、使用する基材や目的に応じて適宜設定すれば良く、40~180℃が好ましい。基材がプラスチックの場合は、温度が高すぎると基材が変形するおそれがあるため、100℃以下であることが好ましい。
加熱時間は適用する基材及び加熱温度によって適宜設定すれば良く、好ましくは0.5~60分である。
【0076】
本発明のハードコート剤は、水系溶媒を用いるので揮発性有機化合物(VOC)を使用せず又はその使用が大幅に低減され、高硬度のハードコート層が形成可能であり、かつ有機基材のみならず無機基材への密着性にも優れるので、PET、PVC、アクリル樹脂等の各種有機基材、ガラス、SUS等の各種無機基材、GFRP(エポキシ樹脂)等の各種有機無機複合基材上へのハードコート層形成に好適に使用することができる。
特に無機部分と有機部分とを有する基材、例えば周縁部に接着剤、シール材、硬化樹脂等の有機部分を有するディスプレイ用のガラス基材、窓材ガラス等へのハードコート層形成に好適に使用することができる。
更に本発明のハードコート剤は、(g)界面活性剤を使用することでハードコート層表面の平滑性を向上することができるので、透明基材の表面に塗布された場合でも表面の凹凸による曇りや歪みの抑制されたハードコート層を形成することが可能であり、視認性が有用である表示機器、電気電子機器、輸送機械、光学機器、建築部材等における各種有機基材、無機基材、有機無機複合基材等へのハードコート層形成に好適に使用することができる。
より具体的なハードコート層の適用箇所としては、タッチパネル用ガラス、輸送機器用樹脂ガラス、樹脂床材等を挙げることができる。
【実施例
【0077】
以下、実施例/比較例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、いかなる意味においても、これらの実施例/比較例により限定されるものではない。
【0078】
下記実施例/比較例においては、以下の方法にしたがって特性の測定、評価を行った。
(硬化時間)
各実施例/比較例のハードコート組成物を、バーコーター(No.16)を用い、笠井産業株式会社製PET板K-GPET(75mm×25mm×2.0mm)又は松浪硝子工業株式会社製スライドガラス(76mm×26mm×1.2~1.5mm)に膜厚約32μmになるよう塗工し、試験体とした。
この試験体を、ハンディ型紫外線硬化装置[セン特殊光源(株)製、光源HLR100T-2、電源装置HB100A-1(5/6)、スタンドA100]を用いて試験体上空約10cmから紫外線を照射して硬化した。指触にて塗膜表面が硬化したことが確認できたとき迄の合計紫外線照射時間を、硬化時間(min.)とした。
【0079】
(塗膜均一性)
上記で得られた硬化後の塗膜を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
◎:無色透明かつ表面平滑
〇:透明だが、表面が粗い
△:凹凸、又は曇りあり
×:クラック、又は剥離あり
【0080】
(鉛筆硬度)
上記で得られた硬化後の塗膜の鉛筆硬度を、JIS K5600-5-4の方法にて評価した(荷重750±10g)。
【0081】
(基材密着性)
上記で得られた硬化後の試験体の基材密着性を、JIS K5600-5-6の方法にて評価した。すなわち、JIS K5600-5-6(塗料一般試験法付着性)に基づき、硬化後の塗膜を1mm間隔に碁盤目にカットして100マス作製し、その上にニチバン株式会社製セロハンテープを貼り付けて素早く剥がし、「正常なマス数/100マス」で判定した。
【0082】
(実施例1)
(a)成分として2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(東京化成株式会社製、以下「AMPS」ともいう、濃度98%)0.38g(8質量%(但し、ハードコート組成物全体の質量を100質量%とする。以下同じ。))を(d)水系溶媒である水0.37g(8.5質量%)に溶解させ、AMPS水溶液とした。
得られたAMPS水溶液に(b)成分としてグリセリンジアクリレート/グリセリントリアクリレートの混合物(東亞合成株式会社製、商品名:アロニックスM920、以下「M920」ともいう)3.0質量部(65質量%)、(b)成分のカチオン性ポリマーとしてジアリルアミン塩酸塩/アクリルアミド共重合体(共重合モル比率8/1)(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAS-2141CL、以下「PAS-2141CL」ともいう、濃度25%)を溶媒込みで0.74g(16質量%)、(e)光重合開始剤として2-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(東京化成株式会社製、以下「HCPK」ともいう)0.11g(2質量%)、(g)界面活性剤としてBYK-302(ビックケミー・ジャパン株式会社製、以下「BYK-302」ともいう)を0.025g (0.5質量%)加え、40℃で10分加熱・攪拌を行い、ハードコート組成物を得た。
評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例2~5、比較例1~4)
表1に示す各成分を、表1に示す量(ハードコート組成物全体100質量%に基づく質量%)使用したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート組成物を調製し、評価した。
表1中、実施例1と異なる成分の詳細は以下のとおりである。なお、これらの成分の使用量は、溶媒込みで表1に示す。
・PAS-21CL:ジアリルアミン塩酸塩重合体(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAS-21CL、濃度26%)
・PAA-HCL-03:アリルアミン塩酸塩重合体(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAA-HCL-03、濃度39%)
・Lupasol SK:ポリエチレンイミン(BASF製、商品名:Lupasol SK、濃度24%)
・PAS-M-1:メチルジアリルアミン塩酸塩重合体(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAS-M-1、濃度50%)
・PAS-H-1L:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAS-H-1L、濃度28%)
評価結果を表1に示す。
【0084】
(合成例1)ジアリルアミン塩酸塩/アクリルアミド共重合体の合成(共重合モル比率10/90)
冷却管、温度計、定量ポンプを備えた300mLセパラブルフラスコにジアリルアミン塩酸塩(濃度66%)を14g計量した。その後、内温を60℃まで加温し、内温が安定してから、20%に希釈したアクリルアミド(次亜リン酸含有)(アクリルアミド(濃度40%)112g、次亜リン酸ナトリウム(1.1g)、水112g)水溶液を定量ポンプを用いて6時間滴下した。アクリルアミド水溶液滴下開始後、2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(以下、「V-50」ともいう)を0.57g(ジアリルアミン塩酸塩に対して3mol%)添加して重合を開始した。さらに、V-50を2時間ごとに0.38g、0.38g、0.57g添加し、合計1.90g(ジアリルアミン塩酸塩に対して10mol%)加えた。滴下終了後、60℃で一晩加温したのち、淡黄色透明均一溶液を得た。下記の方法で測定した重合収率及び質量平均分子量(Mw)は、それぞれ100%、48360であった。
(重合体の重量平均分子量)
重合体の重量平均分子量(Mw)は、日立ハイテクサイエンス製Chromaster(登録商標) 5450高速液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定した。
検出器はRI示差屈折率検出器、カラムはショーデックスアサヒパックの水系ゲル濾過タイプのGS-220HQ(排除限界分子量3,000)とGS-620HQ(排除限界分子量200万)とを直列に接続したものを用いた。サンプルは溶離液で0.5g/100mlの濃度に調製し、20μLを用いた。溶離液には、0.4mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を使用した。カラム温度は30℃で、流速は1.0ml/分で実施した。
標準物質として、分子量106、194、440、600、1470、4100、7100、10300、12600、23000などのポリエチレングリコールを用いて較正曲線を求め、その較正曲線を基に重合体の重量平均分子量(Mw)を求めた。
(重合体の重合収率)
GPC法により得られたチャート中のピーク面積比により求めた。
【0085】
参考例6)
PAS-2141CLに代えて、合成例1で得られた共重合体(濃度26%)を溶媒込みで0.72g(ハードコート組成物全体100質量%に基づき16質量%)用いたこと、及びそれ以外の成分の配合を表1に示す通り変更したこと以外は、実施例1と同様にして、組成物を調製し、評価した。
評価結果を表1に示す。
【0086】
参考例7)
PAS-2141CLに代えて、アリルアミン重合体(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAA-05、以下「PAA-05」ともいう、濃度20.23%)を溶媒込みで0.51g(12質量%)用いたこと、及びそれ以外の成分の配合を表1に示す通り変更したこと以外は、実施例1と同様にして、組成物を調製し、評価した。
評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のハードコート剤は、揮発性有機化合物(VOC)を使用せず又はその使用が大幅に低減され、紫外線、熱等による硬化で高硬度のハードコート層が形成可能であり、かつ有機基材のみならず無機基材への密着性にも優れるので、表示機器、電気電子機器、輸送機械、光学機器、建築部材等における各種有機基材、無機基材、有機無機複合基材等へのハードコート層形成に好適に使用することができ、電気電子産業、自動車産業、光学産業、建築建設産業をはじめとする産業の各分野において高い利用可能性を有する。