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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】リチウム金属電池の負極複合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20241205BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241205BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20241205BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20241205BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241205BHJP
   H01M 12/08 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/056
H01M10/0565
H01M10/058
H01M12/08 K
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020160035
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053281
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】南 浩成
(72)【発明者】
【氏名】泉 博章
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-027735(JP,A)
【文献】特開2018-022655(JP,A)
【文献】国際公開第2011/161822(WO,A1)
【文献】特開2018-147572(JP,A)
【文献】特開2010-192313(JP,A)
【文献】特開2017-091745(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203130(WO,A1)
【文献】中国実用新案第211530066(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 4/38
H01M 4/40
H01M 12/08
H01M 10/0562
H01M 10/0565
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質と、周囲に第1の熱溶着フィルムが溶着しているポリマー電解質シートと、リチウム金属を含む負極層と、第2の熱溶着フィルムとを順に備えるリチウム金属電池の負極複合体であって、
前記第1の熱溶着フィルムの外周部と前記第2の熱溶着フィルムの外周部とが熱溶着されており、前記周囲に第1の熱溶着フィルムが溶着しているポリマー電解質シートと前記第2の熱溶着フィルムとで前記負極層が包み込まれており、
前記第1の熱溶着フィルムが、前記ポリマー電解質シートの前記負極層側の面および前記固体電解質側の面の両面の周囲に溶着しているリチウム金属電池の負極複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属電池の負極複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代電池として期待されている空気電池のエネルギー密度を向上させるため、負極材料として金属リチウム(Li)の使用が期待されている。Li空気電池は、電解液の種類により、水溶液系(水系)と非水溶液(非水系)の2つに大別される。有機電解液を使用する非水系Li空気電池では、反応生成物および空気中の水分による電解液の劣化や、Liデンドライトの析出による充放電サイクル性能の低下、安全性などの多くの課題がある。
【0003】
一方、水系電解質を使用する水系Li空気電池は、非水系Li空気電池に比べて、空気中の水分の影響を受けなく、電解液が安価かつ不燃である等の長所がある。しかし、水系Li空気電池では、負極活物質であるLiは酸素や水と接触すると反応するため、リチウムイオン導電性を有する隔離層を設け、負極の金属Liを大気や水溶液から保護する必要がある。この隔離層として、ガラスセラミックス等の耐水性を有する固体電解質が用いられている。
【0004】
しかしながら、隔離層として使用する固体電解質には、金属Liと反応して劣化するものが多いため、固体電解質と負極の金属Liとの直接接触を防ぐためにLiに安定な非水系電解質または保護層を固体電解質と負極の金属Liの間に介在させる必要がある。このような固体電解質や負極の金属Li等を備えるものを、負極複合体と呼んでいる。負極複合体としては、水に安定なリチウムイオン導電性固体電解質であるLATP等をポリマー電解質シートで被覆することによる固体電解質と金属Liの安定化を図る技術開発が行われている。
【0005】
特許文献1は、高分子電解質形燃料電池に関するものであるが、高分子電解質膜を所定の面積の関係を満たすように拡大した後、中央部に開口部を有する一対の支持体で、この高分子電解質膜を挟持させ、支持体の開口部に露出した高分子電解質膜に電極を接合するという高分子電解質形燃料電池用の膜電極接合体の製造方法が記載されており、これによって、高分子電解質膜の平面方向の寸法変化(膜の膨潤・収縮)の繰り返しによる電極の破損や剥離を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-107804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Li空気電池の負極複合体内にポリマー電解質シートを設ける際、ポリマー電解質シートは、Liイオン導電率およびエネルギー密度の観点から薄くすることが望ましく、例えば50μm程度と薄くするため、剛性が低く、たわむ、すぐに丸まる、くっついてしまう、強度が弱く破れてしまう等の性質があり、取り扱いに注意を要し、作業性が悪いという問題がある。また、このような問題を解消する手段としては、Li空気電池の充放電サイクル性能を低下させてしまうような構成は採用できず、好ましくは、充放電サイクル性能を向上できる構成が望まれる。
【0008】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、リチウム金属電池の負極複合体内に用いるポリマー電解質シートを取り扱う際の作業性を改善できるとともに、リチウム金属電池の充放電サイクル性能を向上することができるリチウム金属電池の負極複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、固体電解質と、周囲に第1の熱溶着フィルムが溶着しているポリマー電解質シートと、リチウム金属を含む負極層と、第2の熱溶着フィルムとを順に備えるリチウム金属電池の負極複合体であって、前記第1の熱溶着フィルムの外周部と前記第2の熱溶着フィルムの外周部とが熱溶着されており、前記周囲に第1の熱溶着フィルムが溶着しているポリマー電解質シートと前記第2の熱溶着フィルムとで前記負極層が包み込まれているものである。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明に係るリチウム金属電池の負極複合体によれば、ポリマー電解質シートの周囲に第1の熱溶着フィルムを溶着するとともに、この周囲に第1の熱溶着フィルムが溶着しているポリマー電解質シートと第2の熱溶着フィルムとで負極層を包み込むようにして、第1の熱溶着フィルムの外周部と第2の熱溶着フィルムの外周部とを熱溶着するという構成とすることで、ポリマー電解質シートの作業性を改善できるとともに、リチウム金属電池の充放電サイクル性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るリチウム金属電池の負極複合体の一実施の形態を模式的に示す分解組立図である。
図2図1に示すリチウム金属電池の負極複合体の模式的な断面図である。
図3図2に示すリチウム金属電池の負極複合体の模式的な部分拡大断面図である。
図4図1に示すリチウム金属電池の負極複合体に用いる周囲に第1の熱溶着フィルムが溶着された電解質シートを示す平面図である。
図5図2に示すリチウム金属電池の負極複合体を用いたリチウム金属電池の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るリチウム金属電池の負極複合体の一実施形態について説明する。なお、図面は、理解のし易さを優先にして描かれており、縮尺通りに描かれたものではない。
【0013】
図1図3に示すように、本実施形態に係る負極複合体1は、2枚の金属箔ラミネートフィルム10a、10bと、それらの間に、主に、固体電解質20と、周囲に第1の熱溶着フィルム42が溶着されたポリマー電解質シート40と、負極層30と、第2の熱溶着フィルム44とが順に挟まれた積層構造となっている。リチウム金属電池の正極(図示省略)側に位置する一方の金属箔ラミネートフィルム10aには、その平面においてほぼ中央の位置に、開口部が設けられており、この開口部を塞ぐように、固体電解質20が配置されている。
【0014】
金属箔ラミネートフィルム10a、10bは、それぞれ負極複合体1の外装体となるものであり、例えば、負極複合体1の外側から内側に向けて、第1の樹脂層、金属箔層、第2の樹脂層の順に3つの層(図示省略)が積層されたシートを用いることが好ましい。金属箔層としては、ガスバリア性及び強度向上のため、例えば、アルミニウム(Al)箔、ステンレス鋼(SUS)箔、銅箔(Cu)等を使用してもよい。外装体の最外層にあたる第1の樹脂層としては、例えば、耐熱性及び強度が高いポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等のポリエステル系樹脂や、ナイロン系樹脂のフィルムを用いることが望ましい。また、外装体の最内層にあたる第2の樹脂層は、熱溶着層とするため、例えば、融点が低く、熱加工性が良く、ヒートシールに適したポリエチレン(PE)樹脂やポリプロピレン(PP)樹脂等のポリオレフィン系樹脂のフィルムを用いることが望ましい。
【0015】
2枚の金属箔ラミネートフィルム10a、10bの周縁部は熱溶着によって接合されており、これにより一体化した外装体が形成される。なお、金属箔ラミネートフィルム10a、10bは、上記の3層構造に限定されるものではなく、各層の間に、例えばナイロンフィルム等の1層又は複数層の樹脂フィルムが入った4層以上の構造としてもよい。
【0016】
固体電解質20は、電圧を印可することによりリチウムイオン等の負極活物質である金属のイオンを透過させることができる物質である。固体電解質20としては、例えば、ガラスセラミック等を用いることが好ましく、これはリチウムイオン伝導性に優れ、不燃性であるため、空気電池用途に期待されている。また、電解液に水溶液系の電解液を用いたリチウム空気電池では、LATPと呼ばれるガラスセラミックを用いることが好ましい。LATPは、NASICON型の結晶構造をもつLi、Ti、Al、P、Si、O等からなる酸化物であり、耐水性があり、比較的強度が高い材料である。但し、LATPは、金属リチウムと接触すると劣化する欠点があるため、接触を防ぐために、保護層としてポリマー電解質シート40が固体電解質20と負極層30との間に設けられている。
【0017】
固体電解質20は、上述したように、金属箔ラミネートフィルム10aの開口部を塞ぐように配置されており、固体電解質20の周縁部と金属箔ラミネートフィルム10aの開口部の内側周縁部とは、例えば、PPフィルム等の熱溶着フィルム22を介して溶着されていてもよい。熱溶着フィルム22は、環状の形状を有することが好ましく、外周の寸法は金属箔ラミネートフィルム10aの開口部よりも大きく、内周の寸法は固体電解質20よりも小さい。固体電解質20の形状は、特に限定されないが、図1に示すように、四角形でよい。金属箔ラミネートフィルム10aの開口部の形状や、環状の熱溶着フィルム22の外周および内周の形状は、固体電解質20の形状と相似形であることが好ましい。
【0018】
なお、図3では、2枚の熱溶着フィルム22a、22bに金属箔ラミネートフィルム10aと固体電解質20とが共に挟まれた配置を示しているが、本発明はこのような配置に限定されるものではない。例えば、図示しないが、同様の2枚の環状の熱溶着フィルムを用いて、金属箔ラミネートフィルム、一方の熱溶着フィルム、固体電解質、他方の熱溶着フィルムと順に積層させて、金属箔ラミネートフィルムの内側(負極層30側)に固体電解質を配置させるようにしてもよい。
【0019】
負極層30は、負極活物質である金属リチウム(Li)で構成されており、例えば、金属Li箔を用いることができる。負極層30の厚さと面積を変えることにより、電池容量の設計値をコントロールすることができる。なお、負極層30は、金属Liだけに限定されず、金属Liを主成分とする合金であってもよく、例えば、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)等の金属との合金を使用してもよい。負極層30は、特に限定されないが、図1に示すように、四角形でよい。負極層30の負極複合体1における平面上の位置は、固体電解質20の平面上の位置にほぼ対応する場所に配置されている。
【0020】
負極集電体32は、図1及び図2に示すように、負極層30に接合している集電部と、そこから外装体の外方まで延伸している端子部とから構成される。負極集電体32の集電部は、平面において四角形の形状(例えば、金属箔ラミネートフィルム10aの開口部と同様の形状および寸法)を有し、端子部は、それよりも幅の狭い線形の形状を有している。負極集電体32の材料は、空気電池の動作範囲で安定して存在でき、所望する導電性を有していればよく、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などを挙げることができる。
【0021】
ポリマー電解質シート40としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)系ポリマー、ポリプロピレンオキサイド(PPO)系ポリマー、ポリエチレンイミン系ポリマー、ポリアルキレンサルファイド系ポリマー、ポリビニルピロリドン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン系ポリマー等からなる群から選択される一種または混合物から構成されていることが好ましい。負極複合体1内の固体電解質20と負極層30との間は、ポリマー電解質シート40のみで構成されることが好ましく、難燃性および液漏れ防止等の長所を付与することができる。
【0022】
また、ポリマー電解質シート40は、LiPF(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO(過塩素酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロほう酸リチウム)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)等のLi塩を、ポリマーに分散させたものを使用することが好ましい。特に、PEOやPPO等のポリマーとLiFSIやLiTFSI等のLi塩とを組み合わせることで、Liイオン導電率および機械的強度が高いポリマー電解質シートにすることができる。
【0023】
ポリマー電解質シート40は、例えば、溶液キャスト法を用いて作製してもよい。例えば、PEO等のポリマーとアセトニトリル等の溶媒と任意のLi塩とを混合して、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のシャーレ内で溶液化し、薄く均一にした後、自然乾燥および加熱減圧乾燥して膜を作製し、加熱プレス等の適切な圧でコントロールすることで、所望の厚さのシートを得ることができる。ポリマー電解質シート40の厚さは、Liイオン導電率およびエネルギー密度の観点から、20~100μmとすることが好ましい。
【0024】
ポリマー電解質シート40の周囲には、環状の第1の熱溶着フィルム42が溶着されている。ポリマー電解質シート40は非常に薄く、たわみ易いため、その周囲に環状の第1の熱溶着フィルム42を溶着することで、剛性を付与し、ポリマー電解質シート40のたわみやしわを抑えることができる。これはポリマー電解質シート40を取り扱う際の作業性を向上させるだけではなく、ポリマー電解質シート40のたわみやしわが抑えられることで、固体電解質20と負極層30との間に隙間が生じることを防ぐことができるので、固体電解質20と金属Liとの接触による劣化も抑制することができる。更に、ポリマー電解質シート40と負極層30との密着性が高まるため、リチウム金属電池の内部抵抗を低減させることができるという効果も得られる。また、ポリマー電解質シート40のたわみやしわを抑えることで、ポリマー電解質シート40の電流分布が均一化され、よって、負極集電体32上に金属Liがデンドライト状に析出することを抑制することができる。
【0025】
ポリマー電解質シート40の形状および寸法は、固体電解質20と同様とすることが好ましく、図1に示すように、四角形でよい。環状の第1の熱溶着フィルム42の外周および内周の形状は、図4に示すように、固体電解質20の形状と相似形であることが好ましい。外周の寸法は、ポリマー電解質シート40の外周40aよりも大きく、内周の寸法は、ポリマー電解質シート40の外周40aよりも小さい。これによりポリマー電解質シート40の4辺全てが第1の熱溶着フィルム42に溶着される。
【0026】
この第1の熱溶着フィルム42を溶着させたポリマー電解質シート40と、第2の熱溶着フィルム44とで、負極層30及び負極集電体32を挟むように積層されている。また、第1の熱溶着フィルム42の外周部と第2の熱溶着フィルム44の外周部とは熱溶着されている。よって、第1の熱溶着フィルム42を溶着させたポリマー電解質シート40と第2の熱溶着フィルム44とで負極層30及び負極集電体32が包み込まれている。なお、第1の熱溶着フィルム42と第2の熱溶着フィルム44の外周部は、負極集電体32の箇所を除き、4辺全てが溶着されている。
【0027】
このように第1の熱溶着フィルム42を溶着させたポリマー電解質シート40と第2の熱溶着フィルム44とで負極層30が密閉されることで、リチウム金属電池の充放電サイクル性能を向上させることができる。充放電に伴うイオンの動きにより、放電で負極層30の金属Liが負極集電体32上から剥がれるような形になり、負極集電体32がむき出しの状態になった後、充電で再度、負極集電体32上に金属Liが析出するようになるが、負極集電体32上から剥がれた全ての金属Liが再度、負極集電体32上に析出する訳ではない。充放電を繰り返すことで、負極層30が劣化し、充放電容量が低下してしまう。本発明では、柔軟性のある第1および第2の熱溶着フィルム42、44で負極層30が密閉されるため、従来の構造よりも密閉度合いが向上し、よって、充電の際に金属Liが負極集電体32上に析出しないような状態を抑制することができ、充放電サイクル性能を向上させることができる。
【0028】
また、第1の熱溶着フィルム42と第2の熱溶着フィルム44とが外周部で溶着されているため、平面方向および垂直方向へのズレが生じにくくなり、リチウム金属電池のセルの性能を維持することができる。更に、第1および第2の熱溶着フィルム42、44で負極層30及び負極集電体32が密閉されるため、充放電で生じるLi粉の漏洩も抑制することができる。
【0029】
第1の熱溶着フィルム42及び第2の熱溶着フィルム44の材料としては、ポリマー電解質シート40に熱溶着により固定可能な材料であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン(PP)や、ポリエチレン(PE)等の樹脂フィルムなどを挙げることができる。特に、耐薬品性が高いため、酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0030】
また、図3に示すように、ポリマー電解質シート40は、2枚の第1の熱溶着フィルム42a、42bに挟まれて熱溶着されている。なお、本発明はこれに限定されず、ポリマー電解質シート40のどちらか一方の面に第1の熱溶着フィルム42を熱溶着してもよい。一方の面に設ける場合は、ポリマー電解質シート40の負極層30側の面の第1の熱溶着フィルム42bを残すことが好ましい。これにより、反対側の面に第1の熱溶着フィルム42bを残す場合に比べて、負極層30の密閉度合いを高くすることができ、よって、充電の際に金属Liが負極集電体32上に析出しないような状態をより抑制することができる。
【0031】
また、図3に示すように、ポリマー電解質シート40の両面にそれぞれ第1の熱溶着フィルム42a、42bを設けることで、一方の面に設ける場合に比べて、ポリマー電解質シート40のたわみやしわを、より効果的に抑えることができる。ポリマー電解質シート40のたわみやしわをより抑えることで、ポリマー電解質シート40の電流分布がより均一化され、よって、負極集電体32上に金属Liがデンドライト状に析出することをより抑制することができる。
【0032】
更に、固体電解質20側の第1の熱溶着フィルム42aの厚みの分、固体電解質20とポリマー電解質シート40との間に隙間50aを設けることができ、これによって、リチウムが動く空間が拡大されて、リチウム金属電池のセルの性能を向上することができる。ただし、隙間50は電解液で満たされている必要がある。電解液を使用しない場合、隙間50は真空引きなどの手段で除去する必要がある。
【0033】
また、固体電解質20側の第1の熱溶着フィルム42aが、固体電解質20の設けられた金属箔ラミネートフィルム10aと溶着していることで、充放電の過程で負極層30が膨潤、収縮を繰り返しても、この負極層30の膨潤、収縮の固体電解質20への影響を第1の熱溶着フィルム42及び第2の熱溶着フィルム44が緩衝し、ガラス質で薄い固体電解質20が割れるようなことを防止することができる。また、固体電解質20とポリマー電解質シート40との密着性が高まり、リチウム金属電池の内部抵抗をより低減することができる。
【0034】
なお、図1に示すように、負極複合体1を作製するにあたり、第1の熱溶着フィルム42を溶着させたポリマー電解質シート40と、第2の熱溶着フィルム44とで、負極層30及び負極集電体32を挟んで、第1及び第2の熱溶着フィルム42、44の外周部同士を熱溶着させて負極積層体3を作製した後に、この負極積層体3を2枚の金属箔ラミネートフィルム10a、10bで挟んで、金属箔ラミネートフィルム10a、10bの周縁部を熱溶着させることが好ましい。このように先に第1の熱溶着フィルム42を溶着させたポリマー電解質シート40及び第2の熱溶着フィルム44と負極層30とを圧着させることで、負極層30とポリマー電解質シート40との密着性を高めることができ、リチウム金属電池の内部抵抗をより低減させることができる。
【0035】
なお、本発明はこのような作製の手順に限定されず、例えば、開口部のある金属箔ラミネートフィルム10a、熱溶着フィルム22、固体電解質20、第1の熱溶着フィルム42を溶着させたポリマー電解質シート40、負極層30及び負極集電体32、第2の熱溶着フィルム44、開口部のない金属箔ラミネートフィルム10bの順に積層させて、まとめて熱溶着させてもよいし、又は、第1の熱溶着フィルム42を溶着させたポリマー電解質シート40を、固体電解質20の設けられた金属箔ラミネートフィルム10aに熱溶着させた後に、これと、負極層30及び負極集電体32と、第2の熱溶着フィルム44と、開口部のない金属箔ラミネートフィルム10bとを積層させて、まとめて熱溶着させてもよい。ただし、金属箔ラミネートフィルム10aおよび10bと熱溶着フィルム42および44のように熱溶着箇所が異なる部分には、温度や時間などを変える等の注意をする必要がある。
【0036】
2枚の金属箔ラミネートフィルム10a、10bの間の隙間50には、非水溶液系の電解液を封入してもよい。このような電解液としては、空気電池でも、リチウムイオン電池と同じものを使用することができる。例えば、PC(プロピレンカーボネート)、EC(エチレンカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)等の炭酸エステル系の有機溶媒やその混合溶媒や、DME(エチレングリコールジメチルエーテル)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル系溶媒、1,3-ジオキソランや1,4-ジオキサン等の環状エーテル系溶媒、およびそれらの混合溶媒を用いてもよく、これらに、上述したLiPF、LiFSI等のLi塩を添加したものを用いてもよい。
【0037】
なお、固体電解質20-ポリマー電解質シート40-負極層30の各界面は、抵抗が高いため、上記の非水溶液系の電解液の単体または混合物に、上記のLiFSI等のLi塩を溶解させて1~4.5M(mol/L)の濃度とし、その少量を、界面抵抗を抑制するための密着層として、上記の界面に付着させてもよい。その場合、非水溶液系の電解液の液量が多いと、難燃性および液漏れ防止等の長所が失われてしまうため、必要最小限が好ましい。密着層の液量としては、例えば、各界面の面積1cm当たり20~50μLが好ましい。
【0038】
次に、図5を用いて、本実施形態に係る負極複合体を用いたリチウム空気電池について説明する。なお、正極として空気極を用いた空気電池の例について説明するが、本発明の負極複合体は、正極が空気極に限定されず、リチウム金属電池に用い得るものである。また、本実施形態は、図1図3に示した負極複合体を用いたものであるため、重複する説明を省略し、相違点について詳細に説明する。
【0039】
図5に示すように、水溶液系の金属空気電池100は、金属箔ラミネートフィルム10aの外側に、正極(空気極)60が配置されている。正極60の形状および寸法は、固体電解質20やポリマー電解質シート40と同様でよい。正極60と金属箔ラミネートフィルム10aの間の空間には水溶液系の電解液70が封入されている。なお、正極60の周縁部は、金属箔ラミネートフィルム10aの周縁部と支持体(図示省略)を介して固定されている。
【0040】
正極60としては、例えば、白金や金などの触媒活性を示す貴金属や、それらの酸化物等、もしくは、触媒活性を示す二酸化マンガン等を、導電性の高いカーボンブラック等の導電助剤を混合して、導電性とガス拡散性を有する空気極集電体62に担持させたものを使用することができる。
【0041】
空気極集電体62には、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布、ニッケルやチタン、銅、ステンレス等の金属を使用した金属メッシュ、多孔質ニッケル(ニッケルの金属発泡体)や多孔質チタン(チタンの金属発泡体)などを用いることができる。なお、カーボンクロスとは、カーボンファイバー等で織られた布状のシートをいい、カーボン不織布は、カーボンファイバー等をランダムに絡み合わせたシート状のものである。なお、水溶液系のリチウム空気電池では、空気極集電体62には、導電性とガス拡散性に加え、水溶液系の電解液70に対する耐腐食性も求められる。金属メッシュは正極材料を圧着させる上で適した材料である。金属メッシュの中でもチタンメッシュは、アルカリ水溶液にも耐腐食性が高く、軽量であり、高い耐食性を示す白金や金などの貴金属よりも安価であるため、正極の空気極集電体として適した材料である。
【0042】
水溶液系の電解液70としては、例えば、塩化リチウム水溶液や水酸化リチウム等のリチウム塩の水溶液を単体または混合液で用いてもよい。
【0043】
金属空気電池100が、放電を行う際の反応機構には諸説あるが、多くの場合は負極層30の金属Liは、リチウムイオン(Li)と電子(e)となる。そして、リチウムイオンは電解液に溶解し、電子は負極集電体32の集電部を介して端子部に供給される。また、正極60は、電子が供給され、空気中の酸素と水が反応して水酸イオン(OH)が生じる。さらに、この水酸イオン(OH)が正極60でリチウムイオンと反応し、水酸化リチウム(LiOH)が生成するというように理解されている。
【0044】
一方、この金属空気電池100を充電する際には、負極複合体では、正極60から供給されたリチウムイオンが固体電解質20、ポリマー電解質シート40を通り抜けて負極集電体32の集電部の表面に達して、金属Liを析出する。この際、第1および第2の熱溶着フィルム42、44により固体電解質20-ポリマー電解質シート30-負極層30間が密閉され、従来の構造よりも密閉度合いが向上し、よって、金属Liが負極集電体32上に析出しないような状態を抑制することができ、充放電サイクル性能を向上させることができる。
【実施例
【0045】
[1.ポリマー電解質シートの作製]
ポリマー電解質の材料として、平均分子量が約60万の直鎖状ポリエチレンオキシド(略号:PEO)(Aldrich社製)を使用した。電解質のLi塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(略号:LiTFSI)(キシダ化学社製)を使用し、溶媒にはアセトニトリルを使用した。0.5gのPEOと、0.18gのLiTFSIを容器に入れ、アセトニトリル35mlを入れて溶解させるため、300rpmで5時間撹拌した。その溶液をPTFEシャーレに移し、Nフローでの乾燥後、60℃で24時間加熱乾燥した。その後、2.5cm×2.5cm角にカットし、80℃で8時間減圧乾燥して、厚さ50μmのポリマー電解質シートを得た。
【0046】
第1の熱溶着フィルムとして、酸変性ポリプロピレン(略号:PP)フィルムを用い、この抜き打ち品(外周3cm×3cm、内周2cm×2cm)2枚の間に、上記のポリマー電解質シートを挿入して重ねて、ポリマー電解質シートの4辺をヒートシーラーで熱溶着接合して、第1の熱溶着フィルムが周囲に溶着されたポリマー電解質シートを得た。
【0047】
[2.負極複合体の作製]
先ず、PP樹脂/Al箔/PET樹脂の金属箔ラミネートフィルムの中心部分を2cm×2cm角に打ち抜いた外装材、酸変性PPフィルム打ち抜き品(外周3cm×3cm、内周2cm×2cm)、2.5cm×2.5cm角の固体電解質(オハラ社製のLATP)、酸変性PPフィルム打ち抜き品(外周3×3cm、内周2×2cm)の順に重ねて、固体電解質4辺をヒートシーラーで熱溶着接合して上側外装体とした。
【0048】
その後、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内に移し、上記の第1の熱溶着フィルムが周囲に溶着されたポリマー電解質シートを、上記の上側外装体の酸変性PPフィルム側に接合し、負極複合体の上部構造とした。また、負極集電体及び端子が一体化された銅箔(銅箔厚さ:10μm、集電体サイズ:2cm×7cm)の先端部の2cm×2cmの部分の表面中央部に金属Li箔(サイズ1.45cm×1.4cm、厚さ0.2mm)を接合した。更に、金属Li箔とは反対側に、第2の熱溶着フィルムとして、酸変性PPフィルム(サイズ3cm×3cm)を接合した。
【0049】
そして、上記の負極複合体の上部構造の第1の熱溶着フィルムと上記の第2の熱溶着フィルムとで金属Li箔を包み込むようにして重ね合わせ、ヒートシーラーにより熱溶着接合した。更に、下側外装体として、開口部がない金属箔ラミネートフィルムを第2の熱溶着フィルム側に重ね合わせて、金属箔ラミネートフィルムの端部4辺をヒートシーラーにより熱溶着接合し、負極複合体を得た。なお、負極集電体と上側外装体および下側外装体とは、酸変性PPフィルムを介して熱溶着されている
【0050】
その後、真空シーラーで、負極複合体の内部の部材間の密着性を向上させるため、針で小さい穴をあけて、減圧後に溶着接合させた。
【0051】
なお、固体電解質-ポリマー電解質シート間、およびポリマー電解質シート-金属Li箔間の密着性およびイオン伝導性を向上させ、界面抵抗を低減するため、Li塩を溶解した有機電解液(DME/4M-LiFSI)を密着層として約150μL付着させた。
【0052】
[3.正極の作製]
正極(空気極)を、以下の手順で作製した。
(1)正極触媒として触媒活性を持つMnO(比表面積300m/g)0.8gと、導電助剤としてケッチェンブラック(比表面積800m/g)0.1gと、バインダー(結着剤)としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.1gを計り取り、メノウ乳鉢に移し、分散剤としてエタノール(濃度70%)を5ml加えて混練し、正極材料とした。
(2)上記(1)の正極材料を2等分し、2.5cm×2.5cmの圧着部と1cm×5.5cmのタブ部とが一体となったTiメッシュの圧着部の両面に配置し、20kNの力でプレスすることで圧着した。その後、空気中で24時間自然乾燥させて、正極を作製した。
【0053】
[4.空気電池の作製]
正極側の水溶液系電解液は、LiOHとLiClの混合液を用い、pHが10以下になるように調製した。LiOH水溶液を保持するため、3cm×3cmのポリアクリルアミドのシート上に1.5ml滴下し、正極と負極複合体との間に配置し、84mAh相当のセルを作製した。
【0054】
[5.比較例の空気電池の作製]
比較例として、第1の熱溶着フィルムと第2の熱溶着フィルムを用いなかった点を除き、実施例と同様の手順で負極複合体を作製した。そして、正極を組み合わせて、実施例と同様の手順で空気電池を作製した。
【0055】
[6.交流インピーダンス、放電・充電試験]
上記の通りに作製したセル(実施例および比較例)を、25℃の温度にてBiologic社製のVSP-300で交流インピーダンス測定を行い、セル総抵抗を評価した。交流インピーダンス試験条件は、周波数帯0.1Hz~5Hzで、振幅14.1mVで実施した。また、充放電サイクル試験を4mA(電流密度2mA/cm相当)で2時間の充電、放電(負極容量10%間、8mAh)を繰り返し、その際の電圧の推移を25℃の温度にて北斗電工社製のHJ1001SD8で測定した。放電時の下限電圧0V、充電時の上限電圧4.5Vに達した際に、規定の充放電容量に達していないと判断し、それらに達する直前までの充放電の繰り返しの回数を、充放電サイクル回数とした。これらの結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、実施例は、比較例と比べ、セル総抵抗が低減したとともに、充放電サイクル性能も大きく向上した。これは、実施例では第1及び第2の熱溶着フィルムによりポリマー電解質シートと金属Li箔の密着性が高まり、比較例よりも内部抵抗が低減したものと推測される。また、実施例では第1及び第2の熱溶着フィルムによって固体電解質-ポリマー電解質シート-金属Li箔間が密閉されたため、充電で析出する金属Liの漏洩が抑制されて、比較例よりも充放電サイクル回数が増加したものと推測される。
【符号の説明】
【0058】
1 負極複合体
10 ラミネート外装材
20 固体電解質
22 熱溶着フィルム
30 負極層
32 負極集電体
40 ポリマー電解質シート
42 第1の熱溶着フィルム
44 第2の熱溶着フィルム
50 セル内部の隙間
60 正極
62 空気極集電体
70 水溶液系電解液
100 リチウム金属電池
図1
図2
図3
図4
図5