(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】バレルめっき用スズめっき液
(51)【国際特許分類】
C25D 3/32 20060101AFI20241205BHJP
C25D 17/16 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C25D3/32
C25D17/16 Z
(21)【出願番号】P 2020167498
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】593174641
【氏名又は名称】メルテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 英之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和洋
(72)【発明者】
【氏名】神庭 昂平
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-293186(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108754553(CN,A)
【文献】特開2000-319796(JP,A)
【文献】特表2014-505167(JP,A)
【文献】特表2009-533548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C25D 1/00 - 3/66
C25D 9/00 - 9/12
C25D 13/00 - 21/22
A01N 1/00 - 65/48
A01P 1/00 - 23/00
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バレルめっきで用いるスズめっき液であって、
カビ防止剤として以下の化1で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上を含むことを特徴とするバレルめっき用スズめっき液。
【化1】
[式中、R
1は炭素数2~8のアルキレン基であり、nは2~18の整数である。]
【請求項2】
前記カビ防止剤の含有量は、0.1~30g/Lである請求項1に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【請求項3】
前記ポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上は、ポリヘキサメチレンビグアナイドおよびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上である請求項1又は請求項2に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【請求項4】
前記バレルめっき用スズめっき液は、メタンスルホン酸スズ、硫酸スズ、エタンスルホン酸スズ、イセチオン酸スズから選択される1種又は2種以上のスズ塩を含む請求項1から請求項3の何れか一項に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【請求項5】
前記バレルめっき用スズめっき液は、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸又はその塩、クエン酸又はその塩、ピロリン酸又はその塩から選択される1種又は2種以上の金属錯化剤を含む請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【請求項6】
前記バレルめっき用スズめっき液は、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムから選択される1種又は2種以上の導電塩を含む請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【請求項7】
前記バレルめっき用スズめっき液は、メタンスルホン酸、硫酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸から選択される1種又は2種以上の補助導電塩を含む請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【請求項8】
前記バレルめっき用スズめっき液は、イソアスコルビン酸、カテコール、ヒドロキノン、アスコルビン酸塩から選択される1種又は2種以上の酸化防止剤を含む請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【請求項9】
前記バレルめっき用スズめっき液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水から選択される1種又は2種のpH調整剤を含む請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のバレルめっき用スズめっき液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、バレルめっきに用いるスズめっき液であって、特に、従来のスズめっき液を用いた場合に見られたカビの発生を抑制するスズめっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スズめっき液は、電子部品材料の分野で端子めっき、酸化腐食防止めっきに用いるめっき液として広く使用されてきた。近年は、鉛フリー半田に対する要求から、半田めっきの代替えとして、スズめっきが使用されることも行われている。
【0003】
スズめっき液を使用する技術分野の中でも、チップ部品である積層セラミックコンデンサの分野では、当該積層セラミックコンデンサの外部電極の表面にスズめっき層を形成することが一般化している。当該積層セラミックコンデンサの外部電極のスズめっき層は、半田濡れ性に優れ、半田リフロー等の表面実装プロセスを経て、プリント配線板に表面実装する際に有用なものとして機能する。
【0004】
前述のチップ部品のような小さな部品にスズめっきする方法として、バレルと呼ばれる容器を用いる方法がある。被めっき品を投入したバレルをスズめっき液に浸漬し、バレルを回転させながらめっきすることによって、小さな被めっき品を、一度に大量にめっきすることが可能である。
【0005】
バレルめっきに用いる一般的なスズめっき液は、スズイオン供給源であるスズ塩の他に、各種無機酸及び有機酸、pH調整剤などの添加物を含むものである。具体的には、建浴後の溶液寿命が長く、長期保存性に優れ、かつ30℃を超える浴温での使用が可能なスズめっき液が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるスズめっき液を弱酸性から中性に近いpH値に調整し、30℃を超えるような浴温環境でめっき浴及びその後の水洗を行うことがある。このとき、めっき液のpHが中性に近く、30℃を超える浴温環境で、かつ、めっき液にカビの栄養素となるクエン酸などの有機酸を含むことから、めっき工程後の水洗工程における水洗水にカビが発生し、発生したカビが被めっき品に付着してめっき品質を悪化させる問題が起こる場合があった。
【0008】
そこで、水洗工程においてカビが発生することを防止するために、水洗水にカビ防止剤を投入することが考えられた。しかし、水洗水は大量に用いることから、投入するカビ防止剤が大量に必要となって、用いるカビ防止剤のコストが高くなることや、水洗水へのカビ防止剤の投入工程が必要になるなどの問題点があった。
【0009】
本件発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スズめっき工程後の水洗工程において、30℃を超える浴温環境であっても、水洗水におけるカビの発生を抑制することができるバレルめっき用スズめっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0011】
上述の目的を達成するため、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液は、バレルめっきで用いるスズめっき液であって、カビ防止剤として以下の化1で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上を含むことを特徴としている。
【化1】
[式中、R
1は炭素数2~8のアルキレン基であり、nは2~18の整数である。]
【発明の効果】
【0012】
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液は、当該スズめっき液にポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上を含むことによって、当該スズめっき液のpHが弱酸性から中性に近く、30℃を超える浴温環境であっても、スズめっき工程後の水洗工程において、水洗水におけるカビの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】スズめっき液にカビ防止剤を添加した時の浴外観における濁りや沈殿の有無を確認した結果である。
【
図2】カビ防止剤を添加したスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の外観確認結果である。
【
図3】カビ防止剤を添加したスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の膜厚を測定した結果である。
【
図4】カビ防止剤を添加したスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜のはんだ濡れ性を測定した結果である。
【
図5】カビ防止剤を添加したスズめっき液を用いてバレルめっきを行ったときの凝集率を算出した結果である。
【
図6】カビ防止剤を添加したスズめっき液を用いてバレルめっきを行った後、水洗を行った水洗水におけるカビ培養試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本件発明に係るカビ防止剤を含むバレルめっき用スズめっき液について説明する。
【0015】
1.カビ防止剤の実施形態
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液に添加して用いるカビ防止剤は、以下の化1で示されるポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上である。スズめっき液に、スズめっきに必要な成分以外の物質を加えることは、通常、スズめっき皮膜の品質へ悪い影響を与える。しかしながら、当該カビ防止剤を添加したバレルめっき用スズめっき液を用いてスズめっきを行った場合、成膜したスズめっき皮膜の品質へ悪い影響を与えない。さらに、当該カビ防止剤を添加したバレルめっき用スズめっき液を用いてスズめっきを行った後の水洗工程において、水洗水におけるカビの発生を抑制する。
【化1】
[式中、R
1は炭素数2~8のアルキレン基であり、nは2~18の整数である。]
【0016】
ポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩などのビグアナイド系の化合物は、陽イオンの性質を有しており、マイナスの電荷を有する細菌表面へ吸着して殺菌効果を発揮する。その効果から、食品製造機械や器具及び医療機器や器具などの殺菌や除菌に使用され、また、人体への影響が少なく安全性も高いことから、コンタクトレンズの洗浄液や除菌スプレーなどにも用いられていることが知られている。
【0017】
ここで、本件発明に係るカビ防止剤の、ポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上は、バレルめっきで用いるスズめっき液に添加して用いるのが好ましい。当該スズめっき液のpHが弱酸性から中性に近く、30℃を超える浴温環境であっても、スズめっき工程後の水洗工程において、水洗水におけるカビの発生を抑制することができるからである。さらに、成膜したスズめっき皮膜の品質へ悪い影響を与えない。
【0018】
そして、ポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上は、ポリヘキサメチレンビグアナイドおよびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。成膜したスズめっき皮膜の品質へ悪い影響を与えずに、スズめっき工程後の水洗工程において、水洗水におけるカビの発生をより抑制することができるからである。
【0019】
本件発明に係るカビ防止剤とは異なるカビ防止剤をスズめっき液に添加した場合、めっき液に溶けない、めっき液が白濁する、といっためっき液に浴外観として現れる問題点があり好ましくない。さらに、本件発明に係るカビ防止剤とは異なるカビ防止剤を添加したスズめっき液で成膜したスズめっき皮膜において、皮膜品質、膜厚ばらつき、はんだ濡れ性が悪化する問題点があり好ましくない。また、本件発明に係るカビ防止剤とは異なるカビ防止剤を添加したスズめっき液でバレルめっきを行った場合、被めっき品同士が張り付く二枚付着の問題が発生し歩留まりが悪化する。そのため生産性が低下する問題があり好ましくない。
【0020】
2.バレルめっき用スズめっき液の実施形態
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液は、スズイオン供給源であるスズ塩と、金属錯化剤と、導電塩と、補助導電塩と、pH調整剤と、酸化防止剤とを含むスズめっき液に、上述のカビ防止剤である、ポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上を含むものである。そして、このポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上は、ポリヘキサメチレンビグアナイドおよびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液に、前記カビ防止剤を含むことによって、当該スズめっき液のpHが弱酸性から中性に近く、30℃を超える浴温環境であっても、スズめっき工程後の水洗工程において、水洗水におけるカビの発生を抑制することができる。
【0021】
2-1.スズ塩
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液のスズイオン供給源であるスズ塩とは、水に対して可溶性の第1スズ塩である(以下、単に「スズ塩」と称する。)。そして、当該スズ塩は、メタンスルホン酸スズ、硫酸スズ、エタンスルホン酸スズ、イセチオン酸スズから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。
【0022】
そして、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液中のスズ塩の含有量は、スズ換算で4.5g/L~30g/Lであることが好ましい。スズ塩含有量がスズ換算で4.5g/L未満の場合には、電流効率が下がりめっき速度が工業的に要求される生産性を満足しなくなると同時にスズめっき層の平滑性、膜厚均一性が損なわれる。一方、スズ塩の含有量がスズ換算で30g/Lを超える場合には、めっき液中のスズ量が多くなり、スズの電着速度が速すぎてめっき層の膜厚制御が困難となると共に、スズの酸化物の沈殿生成を回避出来なくなる。
【0023】
さらに、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液中のスズ塩の含有量は、スズ換算で10g/L~20g/Lであることがより好ましい。工業生産的に見て、スズめっきを行う際のめっき条件に一定のレベルでの変動が有るのが通常であり、めっき条件の管理し得ない不可避的変動を考えると、より安定した品質のスズめっき層を形成出来るからである。
【0024】
2-2.金属錯化剤
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液の金属錯化剤は、スズめっき液中でスズ塩から供給されたスズイオンをキレート錯体として安定化させるものである。そして、当該金属錯化剤は、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸又はその塩、クエン酸又はその塩、ピロリン酸又はその塩から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。ここに記載した金属錯化剤が、スズイオン供給源であるスズ塩から溶液中に電離したスズイオンと効率よくキレート錯体を形成するからである。
【0025】
そして、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液中の金属錯化剤の含有量は、50g/L~300g/Lであることが好ましい。金属錯化剤の含有量が50g/L未満の場合には、前述のめっき液中のスズ塩の含有量を前提として、めっき液中のスズイオンの全てとのキレート錯体形成が困難となり、遊離したスズイオンが存在するため、酸化スズ沈殿の生成を防止出来ない。一方、金属錯化剤の含有量が300g/Lを超えるものとしても、前述のめっき液中のスズイオンとのキレート錯体の形成には過剰な量となり、資源の無駄遣いとなる。
【0026】
2-3.導電塩
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液の導電塩は、スズめっき液を電解する際の通電状態を安定化させ、スズ析出の電流効率を高くし、生産性を高めるものである。そして、当該導電塩は、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムから選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらが最もスズめっき液の品質変化が小さく、スズめっき層への不純物残留もないからである。
【0027】
そして、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液の導電塩の含有量は、1g/L~200g/Lであることが好ましい。導電塩の含有量が1g/L未満の場合には、電解を行ったときの通電安定性を向上させる効果は得られない。そして、導電塩の含有量が200g/Lを超えるものとしても、電解時の通電安定性はそれ以上に向上しないため、資源の無駄遣いとなる。
【0028】
2-4.補助導電塩
本件発明に係る補助導電塩は、スズめっき液を電解する際の通電状態を安定化させるために、前述の導電塩と併用して用いるものである。そして、当該補助導電塩は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、硫酸、イセチオン酸から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。前記導電塩と併用して用いることで、スズめっきを行う際のめっき液性状に影響を与えず、スズめっき液を電解する際の通電状態を安定化するからである。
【0029】
そして、本件発明に係る補助導電塩の含有量は、1.5g/L~300g/Lであることが好ましい。補助導電塩の含有量が1.5g/L未満の場合には、電解を行ったときの通電安定性を向上させる効果は得られない。そして、補助導電塩の含有量が300g/Lを超えるものとしても、電解時の通電安定性はそれ以上に向上しないため、資源の無駄遣いとなる。
【0030】
2-5.pH調整剤
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液のpH調整剤は、スズめっき液中でスズ塩から供給されたスズイオンと金属錯化剤とが反応してスズキレート錯体を形成するのに適するよう、そして、一旦生成したスズキレート錯体の安定化を図るためと、最終的に本件発明に係るスズめっき液がスズめっきを行うのに適したpHとする為に用いるものである。そして、当該pH調整剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらをpH調整剤として選択したのはスズめっきを行う際のめっき液性状に影響を与えず、良好なスズめっき層の形成が出来るからである。
【0031】
前述のpH調整剤を用いて調整された本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液のpH値は、3.5~8.0が好ましい。スズめっき液のpH値が3.5未満の強酸性領域になると、スズめっきを施す被めっき品の表面におけるめっきを施さない部分を侵食する可能性が高くなる。そして、スズめっき液のpH値が8.0を超えると、生成したスズキレート錯体の安定性が損なわれ、スズの固定化が出来ずスズイオンとなり、酸化スズの沈殿生成が起こるためスズめっき液としての溶液寿命が短命化するためである。
【0032】
2-6.酸化防止剤
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液の酸化防止剤は、イソアスコルビン酸、カテコール、ヒドロキノン、アスコルビン酸塩から選択される1種又は2種以上を用いることが好ましい。大気とめっき液との接触による自然酸化を防止して、スズ酸化物の沈殿発生を効率良く防止するためである。
【0033】
そして、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液の酸化防止剤の含有量は、0.1g/L~30g/Lであることが好ましい。酸化防止剤の含有量が0.1g/L未満の場合には十分な酸化防止効果が得られない。そして、酸化防止剤の含有量が30g/Lを超えるものとしても、それ以上に酸化防止効果を得ることが出来ず、スズめっき液の長寿命化は期待出来ない。しかも、酸化防止剤を過剰に加えることで、スズめっき液としての品質変化が起こるため好ましくない。従って、より好ましくは、上記酸化防止剤の濃度は、1g/L~10g/L濃度の範囲として用いる。確実な酸化防止効果を得ることが可能で、酸化防止剤の過剰添加によるスズめっき液としての品質変化を確実に防止出来るからである。
【0034】
2-7.カビ防止剤
本件発明に係るカビ防止剤は、前述のバレルめっき用スズめっき液に添加して用いるのが好ましい。
【0035】
そして、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液のカビ防止剤の含有量は、0.1~30g/Lであることが好ましい。当該カビ防止剤の含有量が0.1g/L未満である場合、カビの発生を防止する効果が十分に発揮されないため好ましくない。当該カビ防止剤の含有量が30g/Lを超える場合、カビの発生を防止する効果に変わりがなく、添加するカビ防止剤のコストが上昇することから好ましくない。
【0036】
カビ防止剤の含有量の上限値は、20g/Lであることがより好ましい。添加するカビ防止剤のコストを抑えることができるからである。そして、カビ防止剤の含有量の上限値は、10g/Lであることがさらに好ましい。添加するカビ防止剤のコストをより抑えることができるからである。
【0037】
3.スズめっき方法の実施形態
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液を用いたスズめっき方法は、被めっき品を投入したバレルをスズめっき液に浸漬し、浴温10℃~50℃の条件で電解することが好ましい。このめっき方法で特徴的なことは、浴温10℃~50℃の範囲でのめっき操業が可能な点にある。浴温が10℃未満の場合には、粗いスズめっき結晶が析出し、平滑で膜厚均一性に優れたスズめっき層を得にくくなる。一方、浴温が50℃を超えるものとした場合には、めっき液水分の蒸発気散が顕著になり、スズめっき液の組成変動が激しくなるに加えて、金属スズの酸化が促進され溶液寿命も短くなる。
【0038】
そして、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液を用いたスズめっき時の電流密度は、0.05A/dm2~0.5A/dm2の範囲を採用することが好ましい。当該電流密度が0.05A/dm2未満の場合には、スズの析出速度が当然に遅く、工業的生産性を満足しない。これに対し、0.5A/dm2を超える電流密度を採用すると、スズめっき被膜の平滑性が損なわれる。
【0039】
4.被めっき品の実施形態
以上に述べた本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液は、一度に大量にめっきすることが可能なバレルめっきに用いるものであって、チップ型積層セラミックコンデンサ、チップ型セラミックコイル、チップ型セラミックサーミスタ、インダクタ、バリスタ、抵抗器等に代用される小型部品のスズめっき層の形成に好適である。
【0040】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
実施例では、スズ塩と、金属錯化剤と、導電塩と、補助導電塩と、酸化防止剤とが、発明を実施するための形態で示した範囲の成分濃度となるように調整された、メルテックス株式会社製のスズめっき液メルプレートSN-2680を用いた。そして、当該スズめっき液に、カビ防止剤として、ポリヘキサメチレンビグアナイドを2g/L添加し、バレルめっき用スズめっき液を調整した。
【0042】
そして、pH調整剤として水酸化ナトリウムを用いて当該スズめっき液のpHを5.0に調整した。
【比較例】
【0043】
〔比較例1〕
比較例1では、カビ防止剤として、塩化ベンザルコニウムを2g/L用いた以外は、実施例と同様にして、バレルめっき用スズめっき液を調整した。
【0044】
〔比較例2〕
比較例2では、カビ防止剤として、次亜塩素酸ナトリウムを2g/L用いた以外は、実施例と同様にして、バレルめっき用スズめっき液を調整した。
【0045】
〔比較例3〕
比較例3では、カビ防止剤として、塩化ジデシルジメチルアンモニウムを2g/L用いた以外は、実施例と同様にして、バレルめっき用スズめっき液を調整した。
【0046】
〔比較例4〕
比較例4では、カビ防止剤として、チモールを2g/L用いた以外は、実施例と同様にして、バレルめっき用スズめっき液を調整した。
【0047】
〔評価〕
A.浴外観
実施例、及び比較例1~4のスズめっき液をビーカーに入れて、スズめっき液の浴外観における濁りや沈殿の有無を確認した結果を
図1に示す。
図1に示す浴外観の結果から、カビ防止剤として比較例3の塩化ジデシルジメチルアンモニウムを用いると、めっき液が濁ってしまうことが判明した。そして、カビ防止剤として比較例4のチモールを用いると、めっき液に沈殿が発生してしまうことが判明した。すなわち、比較例3の塩化ジデシルジメチルアンモニウム及び比較例4のチモールは、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液に添加するカビ防止剤としては適していないことが明らかとなった。したがって、以降の試験は、実施例、比較例1、2のめっき液で行うこととした。
【0048】
B.バレルめっきによるスズめっき皮膜評価
バレルめっきによって成膜したスズめっき皮膜を評価するため、実施例、及び比較例1、2のスズめっき液を用いて、バレルに2012形状MLCC(積層セラミックコンデンサ)及び抵抗器を投入し、以下のバレルめっき条件でバレルめっきを実施した。
バレル :株式会社山本鍍金試験器製 ミニバレル1-B型
浴量 :2L
浴温度 :40℃
電流密度 :0.2A/dm2
陽極 :99.99%スズ板
めっき時間 :30分
撹拌 :バレルによる回転 10rpm.
【0049】
B-1.スズめっき皮膜の外観評価
前述のバレルめっき条件で成膜したスズめっき皮膜の外観を、株式会社日立ハイテク製の走査電子顕微鏡S-3400Nを用いて観察した。スズめっき皮膜の外観確認結果を
図2に示す。カビ防止剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドを添加した実施例のスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の外観は、MLCC及び抵抗器共に、スズの結晶が均一に析出しており、かつ結晶粒が揃っていて良好であった。
【0050】
カビ防止剤として塩化ベンザルコニウムを添加した比較例1のスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の外観は、MLCC及び抵抗器共に、スズの結晶は析出しているものの、結晶粒が不揃いであった。
【0051】
カビ防止剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加した比較例2のスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の外観は、MLCC及び抵抗器共に、スズの結晶析出が不均一であり、かつ結晶粒も不揃いであった。
【0052】
B-2.スズめっき皮膜の膜厚評価
前述のバレルめっき条件で成膜した被めっき品において、無作為に選んだ被メッキ品5個のスズめっき皮膜の膜厚を、ブルカー・エイエックスエス株式会社製の蛍光X線分析装置M4 TORNADOを用いて観察した。スズめっき皮膜の膜厚測定結果を
図3に示す。ここでは、良好な膜厚範囲を3.0μm~7.0μmとした。棒グラフの先端値が被メッキ品5個のスズめっき皮膜の膜厚の平均値である。そして、棒グラフと共に表示されているエラーバーの最下点が測定した膜厚の最小値、エラーバーの最上点が測定した膜厚の最大値を示す。
【0053】
カビ防止剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドを添加した実施例のスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の膜厚測定結果から、MLCCと抵抗器の膜厚の平均値が、5.3μm、5.0μmであり、良好な膜厚範囲のほぼ中心値であった。そして、エラーバーが表示する幅から、スズめっき皮膜の膜厚のばらつき幅が1.0~1.3μm程度であることが明らかとなった。
【0054】
カビ防止剤として塩化ベンザルコニウムを添加した比較例1のスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の膜厚測定結果から、MLCC及び抵抗器共に、膜厚の平均値が、5.0μmであり、良好な膜厚範囲の中心値であった。そして、エラーバーが表示する幅から、スズめっき皮膜の膜厚のばらつき幅が1.5μm程度であることが明らかとなった。
【0055】
カビ防止剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加した比較例2のスズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の膜厚測定結果から、MLCC及び抵抗器共に、膜厚の平均値が、良好な膜厚範囲から逸脱していた。そして、エラーバーが表示する幅から、スズめっき皮膜の膜厚のばらつき幅が2.5~4.0μm程度であることが明らかとなった。
【0056】
B-3.スズめっき皮膜のはんだ濡れ性評価
はんだ濡れ性を評価するために、次のような試験を行った。最初に、前述のバレルめっき条件で成膜した被めっき品において、105℃、100%RH、4時間の条件でのプレッシャークッカー試験(PCT)によるスズめっき皮膜の加速劣化処理を行った。その後、株式会社レスカ製のソルダーチェッカー5200TNを用いて、メニスコグラフ法によって、試験片(プレッシャークッカー試験処理後の被めっき品)をはんだペーストに浸漬してから濡れ応力値がゼロになるまでの時間であるゼロクロスタイムを、以下の条件で測定した。
はんだペースト組成 :Sn:Ag:Cu=96.5;3.0:0.5
測定方法 :急加熱昇温法
槽温度 :245℃
GAP/DEPTH :0.05mm
測定回数 :5回
【0057】
ゼロクロスタイムの測定結果を
図4に示す。ここでの合格基準は、ゼロクロスタイムが3秒以下とした。棒グラフの先端値が測定5回のゼロクロスタイムの平均値である。そして、棒グラフと共に表示されているエラーバーの最下点が測定したゼロクロスタイムの5回の測定値における最小値、エラーバーの最上点がゼロクロスタイムの5回の測定値における最大値を示す。
【0058】
カビ防止剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドを添加した実施例のスズめっき液を用いて成膜した試験片のゼロクロスタイムの測定結果から、MLCC及び抵抗器共に、ゼロクロスタイムの平均値が、1.6秒であり、合格基準の3秒以下であった。そして、エラーバーが表示する幅から、ゼロクロスタイムのばらつき幅が0.5秒程度であることが明らかとなった。
【0059】
カビ防止剤として塩化ベンザルコニウムを添加した比較例1のスズめっき液を用いて成膜した試験片のゼロクロスタイムの測定結果から、ゼロクロスタイムの平均値が、MLCCでは1.7秒程であったものの、抵抗器では3.1秒と、合格基準を逸脱していた。そして、エラーバーが表示する幅から、ゼロクロスタイムのばらつき幅が1.0秒~3.0秒程度であることが明らかとなった。
【0060】
カビ防止剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加した比較例2のスズめっき液を用いて成膜した試験片のゼロクロスタイムの測定結果から、MLCCでは3.8秒と合格基準を逸脱しており、抵抗器でははんだ濡れ性を示さずゼロクロスタイムは測定不能であった。そして、エラーバーが表示する幅から、MLCCのゼロクロスタイムのばらつき幅が3.5秒程度であることが明らかとなった。
【0061】
C.凝集評価
バレルめっきにおいて、被めっき品同士が集まって凝集してしまう現象の有無を評価するために、実施例、及び比較例1、2のスズめっき液を用いて、バレルに直径が1.0mmのニッケルめっきダミーボール200gを投入し、以下のバレルめっき条件でバレルめっきを実施した。
浴量 :2L
浴温度 :40℃
電流密度 :0.2A/dm2
めっき時間 :30分
バレル :株式会社山本鍍金試験器製 ミニバレル1-B型
撹拌 :バレルによる回転 10rpm.
陽極 :99.99%スズ板
【0062】
凝集率は以下の数1に示す式に従って算出した。凝集率の評価結果を
図5に示す。ここでの合格基準は、凝集率が0.5%以下とした。
【0063】
【0064】
カビ防止剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドを添加した実施例のスズめっき液を用いてバレルめっきした凝集率の評価結果から、凝集率は0.1%であり、合格基準を満足する結果であった。
【0065】
カビ防止剤として塩化ベンザルコニウムを添加した比較例1のスズめっき液を用いて成膜したバレルめっきした凝集率の評価結果から、凝集率は28.9%であり、合格基準を満足しなかった。
【0066】
カビ防止剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加した比較例2のスズめっき液を用いて成膜したバレルめっきした凝集率の評価結果から、凝集率は0.0%であり、合格基準を満足する結果であった。
【0067】
D.カビ培養試験
バレルめっき後の水洗工程における水洗水でのカビ発生を抑制する効果を確認するために、実施例、及び比較例1、2のスズめっき液を用いて、バレルに2012形状MLCC(積層セラミックコンデンサ)及び抵抗器を投入し、前述の「バレルめっきによるスズめっき皮膜評価」に示した条件と同じバレルめっき条件でバレルめっきを実施した。その後、スズめっき後のMLCC及び抵抗器を、水洗工程で水洗した。そして、JNC株式会社製の微生物検出培地MC-Media Padに、前述の水洗後の水洗水を塗布し、35℃で48時間培養した。
【0068】
なお、比較のために、カビ防止剤を添加しない以外は実施例と同様にして調整したバレルめっき用スズめっき液を用いて、MLCC及び抵抗器のバレルめっきを行い、その後、スズめっき後のMLCC及び抵抗器を水洗した水洗工程における水洗水を用いて、前述と同様に培養した。カビ培養試験結果として微生物検出培地の培養後の写真を
図6に示す。
【0069】
カビ防止剤を添加した実施例、比較例1、2のスズめっき液を用いてスズめっきを行った後の水洗工程に用いた水洗水では、微生物検出培地にカビの発生は無かった。一方、カビ防止剤を添加しなかった場合のスズめっき液を用いてスズめっきを行った後の水洗工程に用いた水洗水では、微生物検出培地にカビが発生した。
【0070】
E.評価結果まとめ
ここまで実施した評価項目とその結果を表1にまとめた。表1から明らかなように、カビ発生を防止し、かつ、全ての評価結果が良好だったのは、添加するカビ防止剤としてポリヘキサメチレンビグアナイドを用いた実施例のスズめっき液であった。一方、比較例のスズめっき液は、評価項目のいずれか1つ以上において問題が発生しており、スズめっき液として用いることができないことが明らかとなった。
【表1】
【0071】
以上のことから、本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液は、スズめっき液に、カビ防止剤として、ポリアルキレンビグアナイド化合物およびそれらの塩よりなる群から選択される1種又は2種以上を含むことによって、当該スズめっき液のpHが弱酸性から中性に近く、30℃を超える浴温環境であっても、当該スズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の品質へ悪い影響を与えないことが明らかとなった。また、当該スズめっき液を用いたスズめっき工程後の水洗工程において、水洗水におけるカビの発生を抑制することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本件発明に係るバレルめっき用スズめっき液は、本件発明に係るカビ防止剤をスズめっき液に含むことによって、当該スズめっき液のpHが弱酸性から中性に近く、30℃を超える浴温環境であっても、スズめっき工程後の水洗工程において、水洗水におけるカビの発生を抑制し、かつ、当該スズめっき液を用いて成膜したスズめっき皮膜の品質へ悪い影響を与えない。したがって、バレルめっき工程後の水洗工程において、カビの発生を防止するために水洗水にカビ防止剤を納入する必要が無い。つまり、水洗水にカビ防止剤を投入する場合の、投入するカビ防止剤が大量に必要となってカビ防止剤のコストが高くなることや、水洗水へのカビ防止剤の投入工程が必要になること、などの問題点を解消するものである。すなわち、水洗工程におけるコストと作業負担の軽減を可能とする。