(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
A01C 15/00 20060101AFI20241205BHJP
A01C 11/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A01C15/00 G
A01C11/00 302
(21)【出願番号】P 2022127901
(22)【出願日】2022-08-10
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳菜子
(72)【発明者】
【氏名】小佐野 光
(72)【発明者】
【氏名】堀田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】飛田 秀平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】川上 修平
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡良
(72)【発明者】
【氏名】三宅 浩喜
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-106896(JP,A)
【文献】特開2005-341872(JP,A)
【文献】特開2006-129782(JP,A)
【文献】特開2016-036269(JP,A)
【文献】特開2017-060444(JP,A)
【文献】特開2003-304792(JP,A)
【文献】特開2013-000071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 7/06-7/16
A01C 11/00-11/04
A01C 15/00-15/18
A01C 19/00-19/04
A01M 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行する走行車体と、
前記走行車体に装着され、圃場に肥料を供給する施肥装置と、
前記施肥装置の施肥量を制御する施肥量制御手段とを備えた作業車両であって、
前記施肥装置は、肥料を貯留する施肥ホッパと、
前記施肥ホッパから供給される肥料を、圃場に施肥する施肥ホースへと繰り出す繰出ロールを内部に有する繰出装置と、
前記作業車両の動力源から伝達される動力を受けて上下動する駆動ロッドと、
前記繰出ロールを回転させる回転軸と連結されるとともに、駆動ロッドの上部に取付けられ、回動支点部材を中心に上下に回動する繰出回動アームと、
前記回動支点部材を移動させるボールネジと、
前記ボールネジを回転させる施肥量調節モータと、
前記施肥量調節モータの回転量を検出する回転量検出センサと、
前記施肥量調節モータの回転駆動力を前記ボールネジ及び前記回転量検出センサに伝達するギアケースとを備え、
前記施肥量制御手段が前記施肥量調節モータを駆動すると、前記ボールネジが前記回動支点部材を移動させて、前記繰出回動アームの回動量及び前記回転軸の回転量を変化させ、前記繰出ロールの繰出量を変更することで、前記施肥装置による施肥量が変更されるよう構成され、
前記ギアケースは、前記施肥量調節モータの駆動力を受けて回転する第1伝達軸と、前記第1伝達軸から回転動力を受けて回転し前記ボールネジに回転動力を伝達する第2伝達軸と、前記第1伝達軸から回転動力を受けて回転し前記回転量検出センサに回転動力を伝達する第3伝達軸とを備え、前記第1ないし第3伝達軸が互いに軸心をずらすように略平行に配置されたことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記ギアケースは、前記施肥量調節モータと前記回転量検出センサとの間に介装され、かつ、前記ボールネジ、前記回転量検出センサ及び前記繰出装置よりも前方に配置され、
前記第2伝達軸、前記第3伝達軸は、前記ギアケース内部から後方へと外部に露出させた露出部を備え、
前記露出部と、前記回転量検出センサとが、前記施肥ホッパの下方に位置し、
前記繰出装置は、前記施肥ホッパから前記繰出装置の前記内部に肥料を受け入れる開口部を上部に備えるとともに、前方へスライドされることで前記開口部を塞ぐ平板状のシャッターを備え、
前記ボールネジ、前記施肥量調節モータ、前記回転量検出センサ及び前記ギアケースが、左右方向において、左右に隣り合う前記繰出装置の前記開口部同士の間に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記ギアケースを支持する支持ステーを備え、前記支持ステーは、前方へ突出する突出部を備え、
前記ギアケースの下面に、前記ギアケースの内部に侵入した泥を排出するための開口部が形成されており、前記突出部が、前記開口部に臨むように近接して配置されたことを特徴とする請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
作業車両が、圃場を走行しつつ稲の苗を圃場に移植する田植機として構成され、
移植される苗が載置される苗タンクと、前記苗タンクから苗を掻き取り圃場に移植する植付具と、前記植付具により一度に掻き取られる苗の量である苗取量を変更する苗取量変更手段とを有する苗植付部と、
前記苗取量変更手段を制御する苗取量制御手段と、
前記走行車体の位置を示す位置情報を取得する測位装置とを備え、
前記苗取量制御手段は、圃場の各地点の位置情報と、前記各地点の地力の高さを示す評価値とが紐付けられた地力マップデータを、外部サーバーから無線通信により取得可能に構成され、前記走行車体が圃場内を走行しつつ前記苗植付部が圃場に苗を移植する間に、前記測位装置により取得された前記走行車体の位置情報に基づき、地力マップデータに記録された圃場の地点を判断して当該地点の前記評価値を取得し、取得された前記評価値が高いほど、苗取量を減少させるよう前記苗取量変更手段を制御するよう構成されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行車体の位置を示す位置情報を取得する測位装置と、
圃場の地力の高さを検出する地力センサとを備え、
前記施肥量制御手段は、圃場の各地点の位置情報と、前記各地点の地力の高さを示す評価値とが紐付けられた地力マップデータを、外部サーバーから無線通信により取得可能に構成され、前記走行車体が圃場内を走行する間に、前記測位装置により取得された前記走行車体の位置情報に基づき、地力マップデータに記録された圃場の地点を判断して当該地点の前記評価値を取得し、取得された前記評価値から判断される第1施肥量と、前記地力センサの検出信号に基づき判断される第2施肥量との平均値を算出し、前記施肥装置による施肥量が当該平均値となるよう前記施肥量調節モータの回転量を制御するよう構成されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に肥料を供給する施肥装置を備えた作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場を走行しつつ、施肥量を変更可能な施肥装置により圃場に肥料を供給する作業車両(以下、単に「車両」ともいう。)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された作業車両は、施肥量調節モータの駆動により、施肥装置が施肥量を変更できるよう構成されている。より詳細には、車両の動力源から動力を受けて上下動するサブ駆動ロッドの上端部に連結された繰出回動アームの回動支点を、施肥量調節モータにより回転駆動されるボールネジにより略前後方向に移動させるよう構成されている。さらに、この繰出回動アームは、施肥駆動アームにより、施肥ホッパ内に貯留された肥料を下方へ繰り出す繰出ロールの繰出軸と連結されており、回動支点が略前後方向に移動されることで繰出回動アームの回動量が変化する。これにより、サブ駆動ロッドの上下動の頻度に対する繰出軸及び繰出ロールの回転量が変更されるため、繰出ロールから下方へ繰り出される肥料の量、すなわち施肥量が変更される仕組みとなっている。
【0004】
この作業車両においては、ボールネジに螺合するボールナットの前後移動量をストロークセンサにより検出するよう構成されており、ストロークセンサの検出結果に基づき、施肥量調節モータの回転量が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1の作業車両は、ボールネジが施肥量調節モータに接続されており、施肥量調節モータのメンテナンス時に、ボールネジと施肥量調節モータを一体的に施肥装置から取り外す必要があり、メンテナンスに手間がかかるという問題が存在した。加えて、ストロークセンサは一般的に高価であるため、施肥装置の製造コストが高くなってしまうというデメリットも存在するものであった。
【0007】
以上のような状況に鑑みて、本発明は、施肥装置の製造コストを抑えつつ、施肥量調節モータのメンテナンスを容易に行うことができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のかかる目的は、
圃場を走行する走行車体と、
前記走行車体に装着され、圃場に肥料を供給する施肥装置と、
前記施肥装置の施肥量を制御する施肥量制御手段とを備えた作業車両であって、
前記施肥装置は、肥料を貯留する施肥ホッパと、
前記施肥ホッパから供給される肥料を、圃場に施肥する施肥ホースへと繰り出す繰出ロールを内部に有する繰出装置と、
前記作業車両の動力源から伝達される動力を受けて上下動する駆動ロッドと、
前記繰出ロールを回転させる回転軸と連結されるとともに、駆動ロッドの上部に取付けられ、回動支点部材を中心に上下に回動する繰出回動アームと、
前記回動支点部材を移動させるボールネジと、
前記ボールネジを回転させる施肥量調節モータと、
前記施肥量調節モータの回転量を検出する回転量検出センサと、
前記施肥量調節モータの回転駆動力を前記ボールネジ及び前記回転量検出センサに伝達するギアケースとを備え、
前記施肥量制御手段が前記施肥量調節モータを駆動すると、前記ボールネジが前記回動支点部材を移動させて、前記繰出回動アームの回動量及び前記回転軸の回転量を変化させ、前記繰出ロールの繰出量を変更することで、前記施肥装置による施肥量が変更されるよう構成され、
前記ギアケースは、前記施肥量調節モータの駆動力を受けて回転する第1伝達軸と、前記第1伝達軸から回転動力を受けて回転し前記ボールネジに回転動力を伝達する第2伝達軸と、前記第1伝達軸から回転動力を受けて回転し前記回転量検出センサに回転動力を伝達する第3伝達軸とを備え、前記第1ないし第3伝達軸が互いに軸心をずらすように略平行に配置されたことを特徴とする作業車両によって達成される。
【0009】
本発明によれば、施肥量調節モータの駆動力を受けて回転する第1伝達軸と、ボールネジに回転動力を伝達する第2伝達軸と、回転量検出センサに回転動力を伝達する第3伝達軸とが、別部材として構成され、互いに軸心をずらして配置されているから、施肥量調節モータのメンテナンス時に、施肥量調節モータとともにボールネジ及び回転量検出センサを施肥装置から取り外す必要がなく、したがって、施肥量調節モータのメンテナンスを容易に行うことができる。
【0010】
さらに、本発明によれば、施肥量調節モータの駆動力が、ギアケースに設けられた第1伝達軸及び第2伝達軸を介してボールネジに、第1伝達軸及び第3伝達軸を介して回転量検出センサに、それぞれ伝達され、回転量検出センサの検出結果に基づき、施肥量調節モータの回転量が制御されるから、ストロークセンサを用いて施肥量調節モータの回転量を制御する場合に比して、施肥装置の製造コストを抑えることができる。
【0011】
加えて、本発明によれば、第1ないし第3伝達軸が略平行に配置されているから、第1ないし第3伝達軸と、施肥量調節モータ、ボールネジ及び回転量検出センサをコンパクトに配置することが可能になる。
【0012】
前記ギアケースは、前記施肥量調節モータと前記回転量検出センサとの間に介装され、かつ、前記ボールネジ、前記回転量検出センサ及び前記繰出装置よりも前方に配置され、
前記第2伝達軸、前記第3伝達軸は、前記ギアケース内部から後方へと外部に露出させた露出部を備え、
前記露出部と、前記回転量検出センサとが、前記施肥ホッパの下方に位置し、
前記繰出装置は、前記施肥ホッパから前記繰出装置の前記内部に肥料を受け入れる開口部を上部に備えるとともに、前方へスライドされることで前記開口部を塞ぐ平板状のシャッターを備え、
前記ボールネジ、前記施肥量調節モータ、前記回転量検出センサ及び前記ギアケースが、左右方向において、左右に隣り合う前記繰出装置の前記開口部同士の間に配置されている。
【0013】
本発明のこの好ましい実施例によれば、施肥量調節モータが、ギアケースを挟んで回転量検出センサと反対側に配置されているから、施肥量調節モータのメンテナンス時などに、施肥量調節モータが回転量検出センサに干渉してしまうことを防止できる。
【0014】
加えて、回転量検出センサと、第2伝達軸及び第3伝達軸におけるギアケースから後方へ露出した部分とが、施肥ホッパの下方に配置されているから、施肥ホッパに肥料が補充される際に、回転量検出センサや第2、第3伝達軸の露出部分に肥料がかかってしまうことを防止できる。
【0015】
さらに、ボールネジ、施肥量調節モータ、回転量検出センサ及びギアケースが、左右方向において、左右に隣り合う繰出装置の開口部同士の間に配置されているから、繰出装置の開口部の開閉時にシャッターが前後にスライドされても、ボールネジ、施肥量調節モータ、回転量検出センサ及びギアケースに干渉しない。したがって、シャッターをスムーズにスライドできる。
【0016】
本発明のさらに好ましい実施例においては、
前記ギアケースを支持する支持ステーを備え、前記支持ステーは、前方へ突出する突出部を備え、
前記ギアケースの下面に、前記ギアケースの内部に侵入した泥を排出するための開口部が形成されており、前記突出部が、前記開口部に臨むように近接して配置されている。
【0017】
本発明のこの好ましい実施例によれば、ギアケースの下面に形成された開口部から泥の排出を可能にしつつ、ギアケースを支持する支持ステーの突出部を開口部に臨むよう近接させることで、作業者の手指が開口部を通じてギアケース内に入ってしまうことを防止でき、安全性を高めることができる。
【0018】
加えて、ギアケースを支持する部材と、開口部に臨む部材とを単一の部材で構成することにより、部品点数を抑えることができる。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施例においては、
作業車両が、圃場を走行しつつ稲の苗を圃場に移植する田植機として構成され、
移植される苗が載置される苗タンクと、前記苗タンクから苗を掻き取り圃場に移植する植付具と、前記植付具により一度に掻き取られる苗の量である苗取量を変更する苗取量変更手段とを有する苗植付部と、
前記苗取量変更手段を制御する苗取量制御手段と、
前記走行車体の位置を示す位置情報を取得する測位装置とを備え、
前記苗取量制御手段は、圃場の各地点の位置情報と、前記各地点の地力の高さを示す評価値とが紐付けられた地力マップデータを、外部サーバーから無線通信により取得可能に構成され、前記走行車体が圃場内を走行しつつ前記苗植付部が圃場に苗を移植する間に、前記測位装置により取得された前記走行車体の位置情報に基づき、地力マップデータに記録された圃場の地点を判断して当該地点の前記評価値を取得し、取得された前記評価値が高いほど、苗取量を減少させるよう前記苗取量変更手段を制御するよう構成されている。
【0020】
本発明のこの好ましい実施例によれば、苗の植付けを伴う走行中に、地力マップデータと走行車体の位置情報に基づき、地力が高い地点では苗取量を少なくし、地力が低い地点では苗取量を多くすることができるから、圃場の各地点の地力を検出するセンサを用いることなく、安価に、圃場の単位面積当たりの収量を一定にすることができ、稲の倒伏を防止できる。
【0021】
本発明のさらに好ましい実施例においては、
前記走行車体の位置を示す位置情報を取得する測位装置と、
圃場の地力の高さを検出する地力センサとを備え、
前記施肥量制御手段は、圃場の各地点の位置情報と、前記各地点の地力の高さを示す評価値とが紐付けられた地力マップデータを、外部サーバーから無線通信により取得可能に構成され、前記走行車体が圃場内を走行する間に、前記測位装置により取得された前記走行車体の位置情報に基づき、地力マップデータに記録された圃場の地点を判断して当該地点の前記評価値を取得し、取得された前記評価値から判断される第1施肥量と、前記地力センサの検出信号に基づき判断される第2施肥量との平均値を算出し、前記施肥装置による施肥量が当該平均値となるよう前記施肥量調節モータの回転量を制御するよう構成されている。
【0022】
本発明のこの好ましい実施例によれば、走行車体が圃場内を走行する間に、走行車体の位置情報と地力マップデータから判断される第1施肥量と、地力センサの検出信号から判断される第2施肥量の平均値を算出し、施肥装置による施肥量を当該平均値に制御するよう構成されているから、地力マップデータの地力評価と地力センサによる地力評価の計2種類の地力評価を加味した量の肥料を圃場に供給できる。したがって、圃場の単位面積当たりの収量を一定にでき、稲の倒伏を防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、施肥装置の製造コストを抑えつつ、施肥量調節モータのメンテナンスを容易に行うことができる作業車両を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施例にかかる作業車両の略左側面図である。
【
図3】
図1に示された作業車両の制御ブロック図である。
【
図4】
図1に示された施肥装置の近傍の略正面図である。
【
図5】
図1に示された施肥装置の要部左側面図である。
【
図6】
図1に示された施肥装置の右部を右後方から見た拡大斜視図である。
【
図7】
図1に示された施肥装置の施肥量調節機構の近傍の略平面図である。
【
図8】繰出回動ピンの位置と繰出回動アームの前部の回動量との関係を示す説明図である。
【
図9】
図7に示されたギアケース内に収容されたシザーズギアを示す図面である。
【
図10】第1ないし第3伝達軸の位置関係を示す略正面図である。
【
図11】左前方から見たギアケースの近傍の拡大斜視図である。
【
図12】ギアケースと施肥ホッパと回転量検出センサと施肥量調節モータの位置関係を示す模式的左側面図である。
【
図13】ギアケースを左前下方から見た略斜視図である。
【
図14】ギアケースの近傍を右前下方から見た略斜視図である。
【
図15】
図6に示された連結プレートの上面に配置された目盛プレートを示す平面図である。
【
図16】マップベース可変施肥制御に用いられる地力マップデータを示す図面である。
【
図17】ハイブリッド可変施肥制御を行うのに先立って、地力マップデータに基づく施肥量と地力センサの検出結果に基づく施肥量との間の重み付けの比率を設定するモニター画面を示す図面である。
【
図18】タブレット端末に表示される走行車体の位置情報補正画面を示す図面である。
【
図19】走行車体の位置情報を移動させる様子を示す図面である。
【
図20】本発明の第2実施例における目盛プレートの近傍の略斜視図である。
【
図21】
図20に示された目盛プレートの内側に配置されたゲージプレートの近傍の略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施例につき、詳細に説明を加える。
図1は、本発明の第1実施例にかかる作業車両1の略左側面図であり、
図2は、
図1に示された作業車両1の略平面図である。
【0026】
本明細書においては、
図1及び
図2に矢印で示されるように、作業車両1の進行方向を「前」、その反対側を「後」といい、作業車両1の進行方向である前方に向かって左側を「左」といい、その反対側を「右」という。
【0027】
作業車両1は、圃場を走行する走行車体2と、走行車体2の後部に取り付けられた苗植付部63と、苗植付部63に供給される予備の苗を収容する予備苗枠74と、圃場に肥料を供給する施肥装置26と、車両全体を制御する制御装置87と、GNSS信号を受信し走行車体2の位置を示す位置情報を取得するGNSS受信機32を備えている。本実施例にかかる作業車両1は田植機として構成されているが、作業車両の種類は田植機に限定されるものではない。以下において、走行車体2を単に「車体」ともいう。
【0028】
走行車体2は、車体2の略中央に配置されたメインフレーム3と、メインフレーム3の後端部に取り付けられ、作業車両1の幅方向に延びる後部フレーム6と、後部フレーム6に固定されたリンクベースフレーム10と、メインフレーム3の上方に配置されたフロアステップ60と、フロアステップ60の上方に設けられた操縦席48と、作業車両1を操縦する操縦部49と、車両1の動力源であるエンジン7と、走行車輪としての左右一対の前輪8および左右一対の後輪9と、エンジン7から出力される回転動力を左右一対の前輪8および後輪9に伝達する動力伝達機構15と、制御装置87を覆うフロントカバー47を備えている。
【0029】
操縦部49は、走行車体2の前後進と車速を変更する主変速レバー35と、左右一対の前輪8を操舵するステアリングホイール55を含む操舵機構28を備えている。操舵機構28は、ステアリングホイール55の他、ステアリングシャフト83、ピットマンアーム、タイロッド、ナックルアーム等を備えている。
【0030】
動力伝達機構15は、
図1に示されるフロアステップ60の下方に設けられたベルト式動力伝達機構4と、ベルト式動力伝達機構4により伝達された回転動力を受ける静油圧式無段変速機25と、静油圧式無段変速機25から出力された動力を走行車輪8,9及び苗植付部63へ分配出力するミッションケース30を備えている。
【0031】
エンジン7から出力された回転動力は、ベルト式動力伝達機構4を介して静油圧式無段変速機25に伝達された後に、静油圧式無段変速機25内で変速されて、ミッションケース30に伝達される。以下において、静油圧式無段変速機を「HST」という。
【0032】
ミッションケース30に伝達された回転動力は、ミッションケース30の内部で一対の前輪8及び一対の後輪9を駆動する走行用の動力と、苗植付部63を駆動する作業用の動力とに分けて伝達される。ミッションケース30はメインフレーム3の前部に固定されている。
【0033】
走行用の動力は、前輪ファイナルケース13及び前輪車軸31を介して、左右一対の前輪8に伝達される他、左右一対の後輪伝動軸14、左右一対の後輪ギアケース51及び左右一対の車軸82を介して、一対の後輪9に伝達される。その結果、走行車体2が前進又は後進する。なお、走行用の動力の一部は、後に詳述するように、施肥装置26に伝達される。
【0034】
一方、作業用の動力は、走行車体2の後部に設けられた植付クラッチ(図示せず)まで伝達され、植付クラッチが入れられた際に、さらに苗植付部63へ伝達される。植付クラッチの入切は、主変速レバー35に設けられた植付入切スイッチ19(
図3参照)の押圧操作に基づき、制御装置87により植付クラッチモータ81が駆動されることにより切り換えられる。
【0035】
苗植付部63は、
図1に示されるように、昇降リンク装置5により上下に回動可能に走行車体2の後部に取り付けられている。昇降リンク装置5は、上部リンクアーム85及び左右一対の下部リンクアーム86を備えている。
【0036】
上部リンクアーム85及び下部リンクアーム86の前側の端部は、車体2のリンクベースフレーム10に取り付けられ、他端部は苗植付部63の下部に位置する上下リンクアーム11に取り付けられている。
【0037】
制御装置87によって電子油圧バルブ88(
図3参照)が制御されて、
図1に示される昇降油圧シリンダ12が油圧で縮められると、上部リンクアーム85が後ろ上がりに回動され、苗植付部63が非作業位置まで上昇される。苗植付部63が非作業位置にあるときには、その下端部がメインフレーム3の底部と略同一の高さに位置する。
【0038】
これに対して、制御装置87により電子油圧バルブ88が制御されて、昇降油圧シリンダ12が油圧で伸ばされると、上部リンクアーム85が後ろ下がりに回動され、苗植付部63が、苗の植付けが可能な作業位置(
図1参照)まで下降される。
【0039】
電子油圧バルブ88の制御は、主変速レバー35に設けられたフィンガーレバー(図示せず)の操作を検出するフィンガーレバーセンサ16(
図3参照)の検出信号に基づき行われる。
【0040】
苗植付部63は、土付きのマット状の苗(以下、「苗マット」という。)が載置される苗タンク65と、苗タンク65の後方かつ下方に設けられた複数の植付装置64と、油圧シリンダにより構成される苗取量アクチュエータ154(
図3参照)を備えている。
【0041】
複数の植付装置64は作業車両1の幅方向に並べて配置され、各植付装置64は、前後方向に並ぶ左右二対の植付具69を備えている。
【0042】
植付クラッチが入れられて、
図1に示される駆動軸67が回転すると、
図1および
図2に示される前側の植付具69と後ろ側の植付具69とが、駆動軸67まわりに回転しつつ、交互に苗タンク65の下端部に位置する苗を取出し、圃場に植え付ける。
【0043】
苗取量アクチュエータ154は、制御装置87の制御信号に基づき伸縮し、苗タンク65の傾斜角度を変更する。これにより、植付具69によって苗タンク65の下端部から一度に掻き取られる苗の量、すなわち苗取量を変更することができる。苗取量アクチュエータ154は本発明の「苗取量変更手段」の一例である。
図3は、
図1に示された作業車両1の制御ブロック図である。
【0044】
制御装置87は、CPU(Central Processing Unit)を有する処理部91と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有する記憶部92と、外部サーバー及びタブレット端末と無線通信可能な通信部93を備えている(
図3参照)。記憶部92には、作業車両1全体を制御する種々のプログラム及びデータが格納されている。制御装置87は本発明の「苗取量制御手段」及び「施肥量制御手段」の一例である。
【0045】
制御装置87の入力側には、走行車体2の位置情報を取得するGNSS受信機32と、ステアリングホイール55の舵角を検出するステアリングセンサ53と、後輪ギアケース51に内装され、後輪9の回転数をカウントする後輪回転センサ29と、繰出ロール33が回転される量を検出する繰出検知センサ107と、施肥量調節モータ78の回転量、より詳細には第3伝達軸73の回転量を検出する回転量検出センサ79と、超音波センサにより構成され、圃場の深さを検出する深度センサ152と、圃場の土壌の電気伝導度を検出する電気伝導度センサ151と、圃場の土壌の温度を検出する温度センサ153と、入力装置としてのモニター54が接続されている。深度センサ152、電気伝導度センサ151、及び温度センサ153は、各々本発明の「地力センサ」の一例であり、これらのセンサにより、走行中に圃場の各地点の地力の高さを検出する。モニター54は、操縦部49に配置されている。
【0046】
制御装置87の出力側には、エンジン7の吸気量を調節するスロットルモータ46と、苗植付部63が昇降される際に昇降油圧シリンダ12を伸縮させる電子油圧バルブ88と、静油圧式無段変速機25内のトラニオン軸の開度を調整し、作業車両1の前後進および車速を変更するHSTサーボモータ150と、ステアリングシャフト83およびステアリングホイール55を回動させるステアリングモータ45と、植付クラッチを作動させる植付クラッチモータ81と、施肥装置26による施肥量を調節する施肥量調節モータ78と、油圧シリンダにより構成される苗取量アクチュエータ154が接続されている。
【0047】
本実施例に係る制御装置87は、自動で走行と操舵を行う自動運転と、作業者の運転に基づく手動運転を実行可能に構成されている。自動運転において、制御装置87は、後輪回転センサ29の検出信号に基づき、HSTサーボモータ150を制御して車両を自動走行させつつ、ステアリングセンサ53の検出信号に基づき、ステアリングモータ45を制御して自動操舵を行う。
【0048】
図4は、
図1に示された施肥装置26の近傍の略正面図であり、
図5は、
図1に示された施肥装置26の要部左側面図である。また、
図6は、
図1に示された施肥装置26の右部を右後方から見た拡大斜視図であり、
図7は、
図1に示された施肥装置26の施肥量調節機構200の近傍の略平面図である。
図5においては、後に詳述する施肥量調節モータ78、回転量検出センサ79、ギアケース80等は説明の便宜上省略されている。また、
図6においては施肥ホース62が説明の便宜上省かれており、
図7においては施肥ホッパ27及びシャッター39が説明の便宜上省かれている。
【0049】
施肥装置26は、左右方向に延びるエアチャンバー42と、エアチャンバー42を通じて左方から右方へエアを圧送するブロワ41と、圃場に供給する肥料を貯留する施肥ホッパ27と、施肥ホッパ27の下方に設けられた複数の繰出装置34と、各繰出装置34の下方に設けられ、前端部がエアチャンバー42に接続された複数の接続管38と、各接続管38の後端部に接続され、苗植付部63の下部へ延びる複数の施肥ホース62(
図5および
図4参照)と、繰出装置34を駆動するための施肥伝動機構100(
図4参照)と、圃場への施肥量を調節する施肥量調節機構200(
図4、
図7等参照)を備えている。
【0050】
ブロワ41は、ブロワモータ43と、吸気ダクト40を備え、制御装置87の制御信号に基づき、ブロワモータ43が駆動されると、吸気ダクト40を通じて吸引されたエアが、エアチャンバー42内へ供給される。エアチャンバー42内へ供給されたエアは、右方へ圧送される間に、各接続管38を通じて、各施肥ホース62内へ供給される。
【0051】
一方、施肥ホッパ27の下方に設けられた複数の繰出装置34は各々、
図7に示されるように、施肥ホッパ27から落下供給される肥料を内部に受け入れる開口部34aを上部に備えるとともに、外周面に繰出溝37を有する繰出ロール33を内部に備えている。施肥ホッパ27に貯留された肥料は、重力により、開口部34aを通じて繰出ロール33の繰出溝37内に落下供給される。また、各繰出装置34は、前後にスライド可能なシャッター39(
図6参照)を備えている。シャッター39が前方へスライドされたとき、開口部34aが塞がれて施肥ホッパ27から繰出装置34の内部への肥料の供給が遮断される。反対に、シャッター39が後方へスライドされたとき、繰出装置34の内部と施肥ホッパ27の内部とが連通し、施肥ホッパ27内の肥料が繰出装置34の内部の繰出ロール33へ供給される。
【0052】
後に詳述する施肥伝動機構100により繰出装置34が駆動される際には、各繰出ロール33を左右方向に貫通する孔(図示せず)に挿通された繰出軸36が回転するのに伴い、繰出ロール33が回転する。これにより、繰出溝37内の肥料が繰出装置34の下方へ繰り出され、繰出ロール33の回転速度に応じて、繰出装置34の肥料の繰出量が決定され、施肥装置26の施肥量が決定される仕組みとなっている。
【0053】
各繰出ロール33によって繰り出された肥料は、各接続管38(
図5、
図6等参照)内に供給される。このとき、接続管38内には、前方のエアチャンバー42からエアが供給されているので、各接続管38内に供給された肥料が、各施肥ホース62を通じて、圃場へ供給される。すなわち、繰出ロール33から接続管38を介して施肥ホース62へと肥料が繰り出される。
【0054】
一方、ミッションケース30から後輪ギアケース51に伝達された走行用の動力の一部は、以下のように構成された施肥伝動機構100によって、繰出ロール33を回転させる繰出軸36へ伝達される。繰出軸36は本発明の「回転軸」に相当し、繰出ロール33の回転中心に位置する。
【0055】
図4に示されるように、右側の後輪ギアケース51の上部には、エンジン7から出力される動力を施肥装置26に伝達するか否かを切換える施肥クラッチ155が設けられている。施肥クラッチ155の左端部には施肥伝動出力軸105が接続されており、施肥クラッチ155が繋がれた際に、エンジン7から出力される動力が施肥伝動出力軸105に伝達される。
【0056】
施肥伝動出力軸105には、施肥伝動駆動ロッド96が上下に往復移動可能に取り付けられており、施肥伝動駆動ロッド96を介して、左右方向に延びる中継ロッド104に動力が伝達される。
【0057】
中継ロッド104と施肥伝動駆動ロッド96との間には、回動連結支点ピン94を支点として上下に回動する連結プレート95(
図5及び
図4参照)が配置され、中継ロッド104の右側端部には、サブ駆動ロッド98(
図5、
図4及び
図7参照)が連結されている。
【0058】
サブ駆動ロッド98の上端部には、繰出回動ピン101(
図5、
図7及び
図8参照)を中心に上下方向に回動可能な繰出回動アーム99の後端部が、連結軸106を用いて連結されている(
図7参照)。そして、繰出回動アーム99の前端部と、繰出ロール33を回転駆動させる繰出軸36が、施肥駆動アーム97によって連結されている。換言すれば、繰出回動アーム99は、施肥駆動アーム97を介して繰出軸36に連結されている。エンジン7から出力される動力によりサブ駆動ロッド98が上下にスライドされると、繰出回動アーム99が繰出回動ピン101を中心に回動し、その結果、繰出軸36が回転する。繰出回動ピン101は、本発明の「回動支点部材」の一例である。
【0059】
以上のように構成された施肥伝動機構100によって、走行用の動力の一部が、施肥クラッチ155(
図4参照)が繋がれたときに、繰出軸36へ伝達される。これにより、各繰出装置34の繰出ロール33が回転し、圃場に肥料が供給される。
一方、以上のようにして施肥装置26により圃場へ供給される肥料の量は、以下のようにして、施肥量調節機構200により調節される。
【0060】
施肥量調節機構200は、
図7に示されるように、外側の一部にカバー18aを有し前後方向に延びるボールネジ18と、ボールネジ18を正逆自在に回転させる施肥量調節モータ78と、施肥量調節モータ78の回転駆動力をボールネジ18に伝達するギアケース80と、施肥量調節モータ78の回転量を検出する回転量検出センサ79を備えている。施肥量調節モータ78は後に詳述するモータ取付プレート75(
図10ないし
図12等参照)を介してギアケース80に取り付けられている。
図7及び後に説明を加える
図11に示されるように、ギアケース80はエアチャンバー42の上方に位置し、第1ないし第3伝達軸71~73を備えている。施肥量調節モータ78はエアチャンバー42よりも上方に位置している。
【0061】
制御装置87の制御信号に基づき、施肥量調節モータ78が駆動されると、まず、施肥量調節モータ78により、ギアケース80内を前後方向に延びる第1伝達軸71が回転駆動される(
図7参照)。そして、第1伝達軸71の回転が、ギアケース80内に配置されたギア(不図示)を介して、前部がギアケース80内に位置する第2伝達軸72に伝達された後、第2伝達軸72を通じてボールネジ18に伝達される。第2伝達軸72とボールネジ18とは互いに同軸に配置されている。
【0062】
こうしてボールネジ18が回転すると、その回転方向に応じて、ボールネジ18の表面に形成された螺旋状の溝18bに螺合するボールナット17及びそのケースが、前後いずれかの方向に移動する。このとき、ボールナット17は回転しながら前後いずれかに移動するが、軸受を介しているためボールナット17のケースは回転しない。ボールナット17のケースは連結シャフト23を介して上述の繰出回動ピン101に連結されており、ボールナット17が前後に移動すると、繰出回動ピン101が前後方向に移動される。
【0063】
図8は、繰出回動ピン101の位置と繰出回動アーム99の前部の回動量との関係を示す説明図であり、
図8(a)は、繰出回動ピン101が比較的後方に位置する場合の繰出回動アーム99の前部の回動量を示す説明図であり、
図8(b)は、繰出回動ピン101が比較的前方に位置する場合の繰出回動アーム99前部の回動量を示す説明図である。
【0064】
繰出回動アーム99には、
図8(a)及び
図8(b)に示されるように、略前後方向に延びる長穴102が形成されており、この長穴102内を挿通するように繰出回動ピン101が配置されている。したがって、上述のようにサブ駆動ロッド98が上下にスライドすると、繰出回動アーム99が繰出回動ピン101を中心に上下方向に回動する。繰出回動ピン101の径は、長穴102の上端部および下端部に当接する大きさに設定されている。
【0065】
施肥量調節モータ78の駆動によって、繰出回動ピン101が後方に移動すると(
図8(a)参照)、繰出回動ピン101がより前方に位置している場合(
図8(b)参照)に比して、繰出回動アーム99の前部の上下方向の回動量が増大する。これにより、繰出回動アーム99の前端部に取り付けられた施肥駆動アーム97(
図5参照)の回動量が増大し、回動に要する時間が長くなる。その結果、
図4に示された施肥伝動駆動ロッド96が上下方向に往復移動する頻度に対して、
図5に示された繰出軸36が回転する頻度が低くなるため、各繰出装置34において、一定の時間に繰り出される肥料の量が少なくなり、施肥量が減少する。
【0066】
これに対して、施肥量調節モータ78の駆動によって、繰出回動ピン101が前方に移動すると(
図8(b)参照)、繰出回動ピン101がより後方に位置している場合(
図8(a)参照)に比して、繰出回動アーム99前部の上下方向の回動量が減少する。
【0067】
繰出回動アーム99前部の上下方向の回動量が減少すると、繰出回動アーム99の前端部に取り付けられた施肥駆動アーム97(
図5参照)の回動量が減少され、回動に要する時間が短くなる。その結果、
図4に示された施肥伝動駆動ロッド96が、上下方向に往復移動する頻度に対して、
図5に示された繰出軸36が回転する頻度が高くなるため、各繰出装置34において、一定の時間に繰り出される肥料の量が多くなり、施肥量が増加する。
【0068】
このように、施肥量調節モータ78の駆動によりボールネジ18を回転させ、繰出回動ピン101を前後方向に移動させることで、施肥装置26の各繰出装置34(
図4参照)における肥料の繰出量を増大させ、又は減少させることができる。
一方、
図9は、
図7に示されたギアケース80内に収容された伝達ギア77を示す図面である。
【0069】
施肥量調節モータ78の駆動による第1伝達軸71の回転は、第2伝達軸72に伝達されるのに加え、
図7及び
図9に示される伝達ギア77を介して、前部がギアケース80内に位置する第3伝達軸73へ伝達される。第3伝達軸73は施肥量調節モータ78に接続されている。回転量検出センサ79は第3伝達軸73の角度の変化から回転量を検出することで、間接的に施肥量調節モータ78の回転量を検出し、制御装置87に出力する。制御装置87は、施肥装置26による施肥量が目標施肥量となるよう、回転量検出センサ79から受信する検出信号に基づき、施肥量調節モータ78の駆動とその回転量(=駆動量)を制御する。このように、回転量検出センサ79を用いて施肥量調節モータ78の回転量を制御することで、ストロークセンサを用いる場合に比して、製造コストを下げることができる。第1ないし第3伝達軸71~73は互いに略平行に、軸心をずらして配置されている。なお、「軸心をずらして」とは、換言すれば、同軸上に配置されていないという意味である。
【0070】
本実施例においては、伝達ギア77はシザーズギアにより構成されている。これにより、伝達ギア77と第1伝達軸71、及び伝達ギア77と第3伝達軸73とのギア歯同士の噛み合い箇所のガタを常に寄せることができ、回転量検出センサ79の検出値の変化が滑らかになり、施肥量調節モータ78の制御を精密且つ円滑に行うことができる。
【0071】
回転量検出センサ79の配線79aは制御装置87へ延びており、回転量検出センサ79から出力される検出信号を制御装置87へ送信することができる。配線79aは、
図7及び
図11に示されるように、回転量検出センサ79から左右方向外側(詳細には左方)且つやや下方へ斜めに延びており、これによりカプラや配線79aを最短で配策できる。加えて、カプラの取外しが容易となり、メンテナンス性が良い。
図10は、第1ないし第3伝達軸71~73の位置関係を示す略正面図である。
【0072】
ボールネジ18と同軸に配置された第2伝達軸72と、第1伝達軸71とは、軸心をずらして配置されており、同軸上に位置していない。より詳細には、正面視で、第1伝達軸71は、ボールネジ18及び第2伝達軸72に対して右上方(すなわち背面視では左上方)に配置されている。
【0073】
このように、施肥量調節モータ78により回転駆動される第1伝達軸71と、ボールネジ18に回転動力を伝達する第2伝達軸72とを直接繋がずに、ずらして配置することで、施肥量調節モータ78の故障時等に、施肥量調節モータ78とともにボールネジ18を施肥装置26から取り外す必要がないため、施肥量調節モータ78のみをギアケース80から容易に付け外しでき、メンテナンス性が良い。
【0074】
同様に、回転量検出センサ79に接続された第3伝達軸73と、第1伝達軸71とは、正面視において、互いに位置をずらして配置されており、同軸上に位置していない。詳細には、正面視で、第3伝達軸73及び回転量検出センサ79は、第1伝達軸71の右下方(すなわち背面視では左下方)に配置されており、ボールネジ18及び第2伝達軸72の左方に配置されている。
【0075】
このように、施肥量調節モータ78により回転駆動される第1伝達軸71と、回転量検出センサ79に接続された第3伝達軸73とを直接繋がずに、ずらして配置することで、施肥量調節モータ78の故障時等に、施肥量調節モータ78とともに回転量検出センサ79を施肥装置26から取り外す必要がないため、施肥量調節モータ78のみをギアケース80から容易に付け外しでき、メンテナンス性が良い。
【0076】
さらに、ボールネジ18及びボールネジ18に回転動力を伝達する第2伝達軸72に対し、第1伝達軸71を左上方(正面視で右上方)に配置し、第3伝達軸73及び回転量検出センサ79を左方(正面視で右方)に配置することで、限られたスペース内に、施肥量調節モータ78、ギアケース80、回転量検出センサ79、及びボールネジ18を効率的に配置することが可能になる。
【0077】
また、
図7に示されるように、施肥量調節モータ78、ギアケース80、回転量検出センサ79、及びボールネジ18は、各々、左右方向において、互いに隣接する2つの繰出装置34の開口部34a同士の間に配置されている。この配置により、施肥量調節モータ78、ギアケース80、回転量検出センサ79、及びボールネジ18が施肥ホッパ27の組付けの妨げとならず、生産時やメンテナンス時に勝手が良い。加えて、このような配置により、施肥量調節モータ78、ギアケース80、回転量検出センサ79、及びボールネジ18が、各繰出装置34の開口部34aを塞ぐシャッター39(
図6参照)を開閉する際に妨げにならない。なお、シャッター39は、
図6に示された状態から前方へスライドされて挿し込まれることで、各開口部34aが塞がれ、施肥ホッパ27から繰出装置34へ落下する肥料を遮断することができる。すなわち
図6に示されるように、各シャッター39が各開口部34aを塞がない後方位置にある状態においては施肥ホッパ27から繰出装置34へ肥料が落下供給される。
【0078】
図11は、左前方から見たギアケース80の近傍の拡大斜視図である。
図11においては、施肥量調節モータ78がギアケース80から取り外された状態が示されている。
【0079】
施肥量調節モータ78は、
図11に示されるモータ取付プレート75を介してギアケース80に取り付けられている。このように、施肥量調節モータ78とギアケース80との間にモータ取付プレート75を配置することで、ギアケース80の主に上部や側面部からギアケース80の内部へ泥水や肥料等が侵入してしまうことを防止できる。
【0080】
モータ取付プレート75には、軸受76aを備えた受け部76が設けられており、この軸受76aとギアケース80内に配置された図示しない軸受とによって、前後両持ちの状態で第1伝達軸71を回転可能に支持している。このように、第1伝達軸71を両持ちで支持することで、施肥量調節モータ78の制御を安定させることができる。
【0081】
また、モータ取付プレート75には施肥量調節モータ78を取付けるための取付孔とギアケース80を取付けるための取付孔とが別々に形成されている。これにより、施肥量調節モータ78をモータ取付プレート75に取付けた後に、施肥量調節モータ78及びモータ取付プレート75をギアケース80に取付けることができるため、組立てを容易に行うことができる。
【0082】
モータ取付プレート75の左部及び右部には、モータカバーを取付けるための耳部75aが設けられており、施肥量調節モータ78及びギアケース80内に泥水や肥料が侵入してしまうことを防止できる。加えて、このように、単一のモータ取付プレート75が複数の役割を担うため、施肥装置26の部品点数を抑えることができる。
図12は、ギアケース80と施肥ホッパ27と回転量検出センサ79と施肥量調節モータ78の位置関係を示す模式的左側面図である。
ギアケース80は、ボールネジ18、回転量検出センサ79、及び繰出装置34よりも前方に配置されている。
【0083】
一方、回転量検出センサ79は施肥ホッパ27の前部の下方に配置されている。これにより、作業者が肥料を施肥ホッパ27に補充する際に、肥料が回転量検出センサ79にかかってしまうことを防止できる。同様に、回転量検出センサ79へ延びる第3伝達軸73や、回転量検出センサ79及び第3伝達軸73の右方に位置する第2伝達軸72において、ギアケース80から後方へ露出した部分についても、施肥ホッパ27の前部の下方に位置している。このため、ギアケース80と第2、第3伝達軸72、73との間の隙間などに肥料が侵入し挟まってしまう事を防止できる。
【0084】
施肥量調節モータ78は、ギアケース80を挟んで回転量検出センサ79と反対側、すなわち、ギアケース80よりも前方に配置されている。このため、施肥量調節モータ78のメンテナンス時等に、施肥量調節モータ78が回転量検出センサ79と干渉してしまうことがない。
図13は、ギアケース80を左前下方から見た略斜視図であり、
図14は、ギアケース80の近傍を右前下方から見た略斜視図である。
【0085】
ギアケース80は、前側に位置する前側ケース80aと後側に位置する後側ケース80bとがつなぎ合わされて形成されており、ギアケース80の下面のつなぎ合わせ位置に、ギアケース80内に浸入した泥等を排出するための開口部80cが形成されている。開口部80cは10×15(mm)の大きさに設定されている。
【0086】
本実施例においては、ギアケース80は、施肥装置26を支持する施肥フレーム61に装着された左側支持ステー58及び右側支持ステー59により支持されている。このように、左側支持ステー58及び右側支持ステー59を、強度の高い施肥フレーム61に装着することで、施肥量調節モータ78等を安定的に支持することができる。
【0087】
左側支持ステー58と右側支持ステー59はL字プレート57により互いに固定されており、当該L字プレート57によって、ボールネジ18を覆うカバー18aが支持されている。このように、L字プレート57が複数の役割を担うため、施肥装置26の部品点数を抑えることができる。
【0088】
一方、
図6に示されるように、ボールネジ18を覆うカバー18aの上面と、繰出回動アーム99を回動可能に支持するクランク駆動ステー103の上面は、背面視略Z形状をなす連結プレート70により連結されている。連結プレート70をこのように略Z形状に形成することで、曲げ工程を容易に行うことができる。
【0089】
左側支持ステー58は、
図14に示されるように、前方へ突出する突出部58aを備えている。この突出部58aは、ギアケース80に形成された開口部80cに臨むように近接して配置されており、作業者の手指が開口部80cを通じてギアケース80内に入るのを防いでいる。これにより、ギアケース80内に侵入した泥等の排出を可能にしつつ、安全性を高めることができる。
【0090】
図15は、
図6に示された連結プレート70の上面に配置された目盛プレート68を示す平面図である。目盛プレート68には、繰出回動ピン101の前後移動に連動して移動し施肥装置26による施肥量を示す検出ピン66が設けられている。このように、目盛プレート68を、真上から見ることができるように配置することで、作業者がしゃがむ必要がなく、施肥量を容易に確認できる。加えて、目盛プレート68を連結プレート70の上面に配置することで、高さが低くなる分、施肥ホッパ27と干渉しないため、目盛プレート68に被る部分を削った施肥ホッパを用意する必要がなく、製造コストを抑えることができる。なお、目盛プレート68に検出ピン66を設ける代わりに、施肥量を示すピアノ線で形成された指示線を設けてもよい。細いピアノ線で示すことで、施肥量の値が読み取りやすくなる。また、施肥量の目盛プレート68を、
図20に示されるように、ギアケース80及び施肥量調節モータ78の側方に配置してもよい。これにより、施肥ホッパ27よりも前方に目盛プレート68を位置させることができ、後に詳述するモニター54により施肥量を設定しつつ、実際の施肥量の値を目盛プレート68で確認することができる。目盛プレート68は、上述のL字プレート57と共締めすることで、安定的に支持することができる。この場合、
図21に示されるように、施肥装置26の施肥量を示すゲージプレート56を、目盛プレート68の内側に配置することが好ましい。ゲージプレート56は、見易さとスペースの兼ね合いから細長い形状となるが、目盛プレート68の内側に配置することで、外力により曲がってしまうことを防止できる。
【0091】
一方、制御装置87は、苗植付部63により苗の植付けを行いつつ、圃場上を自動運転又は手動運転により走行する間に、以下に詳述する3種類の制御のいずれかを実行することにより、施肥装置26による施肥量を、各地点の地力に応じて調節することができる。実際に実行される制御は、モニター54の操作により設定される。
【0092】
図16は、マップベース可変施肥制御に用いられる地力マップデータを示す図面であり、
図17は、ハイブリッド可変施肥制御を行うのに先立って、地力マップデータに基づく施肥量と地力センサの検出結果に基づく施肥量との間の重み付けの比率を設定するモニター画面を示す図面である。
図16の略矩形の圃場内において、色が濃い部分ほど地力が高いことが示されている。
【0093】
制御装置87は、圃場の地力を表すマップデータに基づき施肥量を調節するマップベース可変施肥制御と、従来の可変施肥制御と同様に、圃場の実際の地力をリアルタイムに検知して施肥量を調節するリアルタイム可変施肥制御と、圃場の地力を表すマップデータと実際の圃場でリアルタイムに検出された地力とに基づき施肥量を調節するハイブリッド可変施肥制御を実行可能に構成されている。
【0094】
マップベース可変施肥制御において、制御装置87は予め通信部93を通じて外部サーバーから無線通信により取得した地力マップデータ(
図16参照)から読み出される(=取得される)各地点の地力の高さを示す評価値に応じて都度、目標施肥量を設定し、施肥量を調節する。地力マップデータとは、圃場の各地点(=後に説明を加えるメッシュ区画)の位置情報と、各地点の地力の高さを示す評価値とが紐付けられたデータであり、外部サーバーから取得後に記憶部92に一時記録される。地力の高さを示す評価値が高いほど、その地点の地力が高く、肥沃であることが分かる。地力の高さを示す評価値には、例えば、苗の植付けを行う圃場が写された前年度の収穫前の圃場の衛星画像に基づき、赤外線の反射率等から算出されるNDVI(正規化植生指数)を用いることができる。以下において、地力の高さを示す評価値を「地力の評価値」という。
【0095】
制御装置87は、苗植付部63による植付けと施肥装置26による施肥を伴う走行中に、GNSS受信機32により所定の時間間隔で取得される走行車体2の位置情報に基づき、地力マップデータに記録された圃場の地点を判断して当該地点の位置情報に紐付く地力の評価値を都度、地力マップデータから読み出し(=取得し)、地力の評価値に応じて目標施肥量を判断して設定し、施肥装置26による施肥量が当該目標施肥量となるよう施肥量調節モータ78を制御する。制御装置87は、都度読み出される地力の評価値が高いほど目標施肥量を少なく設定し、地力の評価値が低いほど目標施肥量を多く調節する。当該目標施肥量は、後に説明を加える「第1施肥量」に等しい。なお、「走行車体2の位置情報に基づき、地力マップデータに記録された圃場の地点を判断する、」とは、換言すれば、地力マップデータにおいて、走行車体2の位置情報により示される地点と同一の地点を指す位置情報を判断するものである。
【0096】
リアルタイム可変施肥制御において、制御装置87は、施肥装置26による施肥を伴う走行中に、所定の時間間隔で出力される深度センサ152、電気伝導度センサ151、及び温度センサ153の検出信号に基づき、目標施肥量を判断して設定する。目標施肥量は、これらのセンサにより検出される地力の高さが高いほど少なく設定され、地力の高さが低いほど多く設定される。平たく言えば、制御装置87は、地力が高いほど施肥量が少なくなるよう調節し、地力が低いほど施肥量が多くなるよう調節する。ここにいう目標施肥量は、後に説明を加える「第2施肥量」に等しい。例えば、圃場のある地点を走行中に、その場所の地力を検出し、当該地力が高い場合、制御装置87は、施肥量調節モータ78を駆動し、施肥量を少なく調節する。その後、圃場の他の地点を走行中に、その地点の地力を検出し、地力が低い場合、制御装置87は、施肥量調節モータ78を駆動し、施肥量を多く調節する。
【0097】
ハイブリッド可変施肥制御において、制御装置87は、外部サーバーから取得した地力マップデータの地力の評価値に基づく施肥量と、実際の圃場で検出された地力の高さに基づく施肥量の両方を加味して施肥量を調節する。
【0098】
より詳細には、圃場の各地点における施肥量について、制御装置87は、予め作業者によるモニター54(
図17参照)のジョグダイヤル54aの操作によって設定される、地力マップデータの地力の評価値に基づき判断される施肥量(以下、「第1施肥量」という。)と、深度センサ152、電気伝導度センサ151、及び温度センサ153の検出結果に基づき判断される施肥量(以下、「第2施肥量」という。)との間の重み付けの比率に基づき、両方の施肥量を加味した目標施肥量を算定する。そして、施肥装置26による施肥量が、算定された目標施肥量となるよう施肥量調節モータ78の回転量を制御する。なお、ここにいう「回転量を制御」とは、施肥量調節モータ78の回転速度を所定の速度に維持する意味ではなく目標施肥量となるまで施肥量調節モータ78を回転させる意味である。
【0099】
例えば、モニター54のジョグダイヤル54aの操作により、ディスプレイ54bに表示されるように、第1施肥量と、第2施肥量とが、3:7の比率に設定された場合で、且つ、車両1が位置する圃場のある地点における第1施肥量が42[kg/10a]であり、第2施肥量が36[kg/10a]である場合、制御装置87は、以下の式(1)により、目標施肥量Fを算定する。「・」は乗算記号である。
F=42・0.3+36・0.7[kg/10a]=37.8[kg/10a] ...(1)
【0100】
上述の例においては、第1施肥量が第2施肥量よりも多い。この場合、深度センサ152により検出される実際の圃場の深さが比較的深く、衛星写真から判断される地力よりも高いため、第2施肥量が少なく判断されたことが認められる。
【0101】
こうして目標施肥量Fが37.8[kg/10a]として算定されると、制御装置87は、実際の施肥量が37.8[kg/10a]となるよう、施肥量調節モータ78を駆動し、施肥量を調節する。このように、本実施例に係るハイブリッド可変施肥制御においては、2種類の地力評価に基づき判断される2つの施肥量に対し、作業者が任意の比率の重み付けを行うことで、マップベース可変施肥制御とリアルタイム可変施肥制御の両方の強みを生かすことができる。加えて、このように、圃場の各地点の地力に応じて施肥量を調節することで、単位面積当たりの収量を一定にでき、稲の苗の倒伏を防止することができる。なお、モニター54のジョグダイヤル54aの操作により設定された上記比率のデータは、記憶部92の不揮発領域に保存される。したがって、上記比率の設定後、作業車両1のキーがオフされて制御装置87がオフされ、再び制御装置87が作動した場合でも、上記比率を記憶部92から読み出して利用することができ、利便性が良い。
一方、本実施例においては、マップベース可変施肥制御がモニター54で選択され、実行される間、施肥量の調節とともに、苗取量の調節も行われる。
【0102】
具体的には、制御装置87は、マップベース可変施肥制御と同様に、施肥装置26による可変施肥を伴う走行中に、
図16に示された地力マップデータにおいて、GNSS受信機32により取得される走行車体2の位置情報により示される地点と同一の地点を指す位置情報に紐付く地力の評価値を都度、地力マップデータから取得する。そして、地力の評価値に応じて苗取量アクチュエータ154を伸縮制御することで、地力の評価値が高い地点ほど、苗取量を少なく調節し、地力の評価値が低い地点ほど苗取量を多く調節する。苗取量の調節は、基準となる苗取量から、±7.5%、又は±15%等の範囲で苗取量を調節することが好ましい。例えば基準となる苗取量を11mmとした場合、9.35mm~12.65mmの範囲で、苗取量を地力の評価値に応じてリニアに変更しながら走行する。このように、可変施肥と併せて苗取量の調節制御を行うことで、圃場の単位面積当たりの収量をより一層一定にすることができる。
【0103】
ここで、苗取量の調節に先立ち、作業者によるモニター54の操作によって、株間と横送り回数、及び使用する苗箱の枚数が入力されており、制御装置87は、苗取量をリニアに調節しながら苗の植付けを行う。このように、苗使用枚数を変更することなく、苗取量を調節するため、苗箱の過不足が発生しない。なお、地力マップデータに基づく苗取量の調節制御を、マップベース可変施肥制御とともに行うことは必ずしも必要でなく、地力マップデータに基づく苗取量の調節制御のみを行うことも可能に構成することが好ましい。また、苗植付部63に代えて、籾を圃場に播く直播機を作業車両1に搭載した場合には、地力マップデータに基づき、播種量を自動的に調節することが好ましい。地力が低く分けつが進まない地点には播種量を多くし、地力が高い地点には播種量を少なくすることで、収量を一定にすることができる。この場合には、播種に先立って、株間と使用する籾の量をモニター54を用いて入力可能とし、地力マップデータに基づき播種量を自動的且つリニアに変更することが好ましい。これにより、従来の直播に対して籾の使用量が変わらないため、籾の過不足なく播種量を変更することができる。
<マップベースでの可変施肥の精度向上>
【0104】
マップベース可変施肥制御及びハイブリッド可変施肥制御に用いられる地力マップデータについては、メッシュ区画(=各地点)の粗さやメッシュ区画を跨ぐ際の施肥量変化の遅れなどが懸念される。そこで、本実施例においては、マップベース可変施肥制御及びハイブリッド可変施肥制御について、車体2の位置情報と地力マップデータからある地点での適切な施肥量を算出することで、リアルタイム性が高く精度の高い精度向上モードを実行可能に構成されている。
【0105】
精度向上モードにおいては、走行車体2が現在位置するメッシュ区画とそれに隣接するメッシュ区画の形状を決定する代表点の重心を算出し、当該重心点の重心座標(X,Y)に対し、メッシュ区画に紐付けられた施肥量(Z)を属性として紐付け、これを施肥データMAP(地力マップデータ)として一時記憶する。これにより、制御装置87の計算量を削減することができ、施肥量変化の遅れを防止できる。そして、当該施肥データMAP(地力マップデータ)に対し、GNSS受信機32により取得した車体2の位置情報(X,Y)での施肥量について、二次元MAPの線形補間により算出する。これにより、規格化された施肥MAP情報との通信速度に依存せず、GNSS情報の取得サンプルレートに依存した速い可変施肥が可能になる。また、二次元の線形補間とすることで、前後左右へのあらゆる動きに対し、次の制御周期での施肥量を考慮した施肥量の決定が可能になる。
【0106】
なお、GNSS情報の変化量から算出した車体2の速度に応じて、施肥データMAP情報として一時記憶するメッシュ数を可変とする構成としてもよい。通常、メッシュサイズ及び車速によっては一時記憶した範囲外への移動が発生し得るが、このように構成することで、発生し得る移動に対して必要十分な量の計算処理が可能になる。また、この場合には、車体2の進行方向に対し、前方、左右、後方で異なる範囲のメッシュにより、施肥データMAPを生成する構成とすることが好ましい。車体に対する向きによって発生し得る速度ベクトルは異なるため、これを考慮することで、無駄なく正確に計算処理を行うことができる。言うまでもないが、進行方向(前方)のメッシュ数を最も多くとることが好ましい。
<マップベースでの可変施肥の精度向上>
【0107】
地力マップデータの位置情報と車体2の位置情報には差がある場合があり、誤って地力マップデータの外に逸脱すると、地力マップデータに基づき計画的な可変施肥が行えない。そこで本実施例においては、GNSS受信機32により取得される車体2の位置情報を補正する補正モードを実行可能に構成されている。位置情報を補正することで、地力マップデータからの逸脱を防止でき、地力マップデータに基づき計画的に可変施肥が行えるとともに、地力マップデータのファイル形式を問わず、逸脱を防止できる。
【0108】
図18は、タブレット端末に表示される走行車体2の位置情報補正画面を示す図面であり、
図19は、走行車体2の位置情報を移動させる様子を示す図面である。
図19には、位置情報の移動が図面右上の矢印により示されている。
【0109】
位置補正値としては、東方向の距離と北方向の距離を用いる。このように2つのパラメータを用いることで、緯度・経度への変換が容易となるとともに、最低限のパラメータ数で位置情報を補正することができる。以下において、東方向の距離の位置補正値を「東補正値」といい、北方向の距離の位置補正値を「北補正値」という。
【0110】
緯度への変換においては、北補正値と現在地からヒュベニの公式を用いて緯度の位置補正値(以下、「緯度補正値」という。)を算出する。メートル座標系のままではGNSS位置情報を補正できず、緯度へ変換することで補正が可能になる。
【0111】
経度への変換においては、東補正値と現在地からヒュベニの公式を用いて経度の位置補正値(以下、「経度補正値」という。)を算出する。メートル座標系のままではGNSS位置情報を補正できず、経度へ変換することで補正が可能になる。
【0112】
こうして緯度補正値及び経度補正値を算出すると、制御装置87は、施肥作業中に、常時、GNSS受信機32により取得される車体2の位置情報に、経度補正値と緯度補正値とを加算し位置情報を補正する。これにより、現在地が更新されても位置ずれを修正できる。なお、地力マップデータを読み込み済みで、且つ、位置補正値が決定したときに、地力マップデータの基準点にのみ、又はすべての点に対し、緯度補正値と経度補正値を加算する構成としてもよい。これにより、1回の補正処理で位置ずれを修正できる。地力マップデータのファイル形式によっては基準点の位置情報を変更するだけで補正が可能である。
【0113】
また、補正においては、現在地と地力マップデータの最近傍の点との間の距離である位置補正値を算出することも可能である。この場合には、算出した距離をタブレット端末上に表示させることが望ましい。これにより、位置補正値が適切か否かを作業者が判断することができる。
【0114】
また、本実施例においては、地力マップデータを読み込んだ際に、位置補正値を初期化するよう構成されている。地力マップデータによって位置ずれ量が異なるため、位置補正値を初期化することで、作業ごとに適切な位置補正値を算出し、用いることができる。なお、地力マップデータを読み込んだ際でなく、作業終了時に位置補正値を初期化する構成としてもよい。
<第1実施例の技術的意義>
【0115】
図1ないし
図19に示された本実施例においては、施肥量調節モータ78の駆動力が、ギアケース80の第1伝達軸71及び第2伝達軸72を介してボールネジ18に、第1伝達軸71及び第3伝達軸73を介して回転量検出センサ79に、それぞれ伝達され、第3伝達軸73の回転量を検出する回転量検出センサ79の検出結果に基づき、施肥量調節モータ78の回転量が制御されるから、ストロークセンサを用いて施肥量調節モータの回転量を制御する場合に比して、施肥装置26の製造コストを抑えつつ、施肥量調節モータ78の回転量を制御することができる。
【0116】
さらに、本実施例によれば、施肥量調節モータ78の駆動力を受けて回転する第1伝達軸71と、ボールネジ18に回転動力を伝達する第2伝達軸72と、回転量検出センサ79に回転動力を伝達する第3伝達軸73とが、別部材として構成され、
図10に示されるように、互いに軸心をずらして配置されているから、施肥量調節モータ78のメンテナンス時に、施肥量調節モータ78とともにボールネジ18及び回転量検出センサ79を施肥装置26から取り外す必要がなく、したがって、施肥量調節モータ78のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0117】
加えて、本実施例によれば、第1ないし第3伝達軸71~73が略平行に延びるように配置されているから、第1ないし第3伝達軸71~73と、施肥量調節モータ78、ボールネジ18及び回転量検出センサ79をコンパクトに配置することが可能になる。
【0118】
また、本実施例によれば、施肥量調節モータ78が、ギアケース80を挟んで回転量検出センサ79と反対側に配置されているから、施肥量調節モータ78のメンテナンス時などに、施肥量調節モータ78が回転量検出センサ79に干渉してしまうことを防止できる。
【0119】
加えて、本実施例によれば、
図7及び
図12から認められるように、回転量検出センサ79と、第2伝達軸72及び第3伝達軸73におけるギアケース80から後方へ露出した露出部とが、施肥ホッパ27の下方に配置されているから、施肥ホッパ27に肥料が補充される際に、回転量検出センサ79や第2、第3伝達軸72,73の露出部に肥料がかかってしまうことを防止できる。
【0120】
さらに、本実施例によれば、
図7に示されるように、ボールネジ18、施肥量調節モータ78、回転量検出センサ79及びギアケース80が、左右方向において、左右に隣り合う繰出装置34の開口部34a同士の間に配置されているから、繰出装置34の開口部34aの開閉時にシャッター39(
図6参照)が前後にスライドされても、ボールネジ18、施肥量調節モータ78、回転量検出センサ79及びギアケース80がシャッター39に干渉しない。なお、この構成については、施肥量調節モータ78、回転量検出センサ79及びギアケース80の左右方向の位置のみについて言及した構成であり、これらの部材の前後方向の位置についてまで言及したものではない。
【0121】
また、本実施例によれば、ギアケース80の下面に形成された開口部80c(
図13参照)から泥の排出を可能にしつつ、ギアケース80を支持する左側支持ステー58の突出部58aを開口部80cに臨むよう近接させることで、作業者の手指が開口部80cを通じてギアケース80内に入ってしまうことを防止でき、安全性を高めることができる。
加えて、ギアケース80を支持する部材と、開口部80cに臨む部材とを単一の部材で構成することにより、部品点数を抑えることができる。
【0122】
さらに、本実施例によれば、苗の植付けを伴う走行中に、地力マップデータと走行車体2の位置情報に基づき、地力が高い地点では苗取量を少なくし、地力が低い地点では苗取量を多くすることができるから、圃場の各地点の地力を検出するセンサを用いなくても、安価に、圃場の単位面積当たりの収量を一定にすることができ、稲の倒伏を防止できる。
【0123】
本発明は、以上の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0124】
例えば、
図1ないし
図19に示された第1実施例においては、作業車両1が田植機により構成されているが、施肥装置を備えた作業車両であればよく、その種類は田植機に限定されるものではない。
【0125】
さらに、第1実施例においては、車両1の動力源としてエンジン7が用いられているが、作業車両の動力源をエンジンにより構成することは必ずしも必要でなく、電動モータ等の他の動力源を用いてもよい。
【0126】
加えて、第1実施例においては、地力マップデータに基づき苗取量アクチュエータ154を制御する苗取量制御手段が、施肥量調節モータ87を制御する施肥量制御手段と同一の場所(制御装置87、
図1参照)に配置されているが、これらを別々のECUにより構成し、車両1の別々の場所に配置してもよい。
【0127】
また、第1実施例に係るリアルタイム可変施肥制御において、制御装置87は、深度センサ152、電気伝導度センサ151、及び温度センサ153の検出信号に基づき、圃場の各地点の目標施肥量を判断(算出)するよう構成されているが、いずれか1つ又は2つのセンサの検出信号に基づき、圃場の各地点の目標施肥量を判断(算出)するよう構成してもよい。例えば、深度センサ152の検出信号のみに基づき算出するよう構成してもよい。深度センサ152さえあれば、NDVI等では測れない圃場の深さを反映できるためである。この場合には、電気伝導度センサ151及び温度センサ153を車両1に搭載する必要がないため、車両1の製造コストが抑えられ、ハイブリッド可変施肥制御を安価に実行することができる。さらにこの場合には、深度センサ152により検出される圃場の深さが所定値以上に深いと判断された地点のみにおいて、地力マップデータの地力の評価値に基づく施肥量を考慮せずに、深度センサ152の検出信号に基づき算出される地力の評価値のみに応じて、目標施肥量を判断(算定)するよう構成することも可能である。このように構成することによって、地力マップデータを加味した可変施肥を行いながらも、圃場が深い地点で大きく減肥することができ、稲の倒伏を効果的に抑制できるとともに、米の品質を安定化させることができる。
【0128】
さらに、第1実施例に係るハイブリッド可変施肥制御において、予め作業者によるモニター54(
図17参照)の操作によって設定される、地力マップデータの地力の評価値に基づく第1施肥量と、実際の圃場で検出される地力に基づく第2施肥量との間の重み付けの比率に基づき、両方の施肥量を加味した目標施肥量を算定するよう構成されているが、第1、第2施肥量を平均することにより目標施肥量を算定するよう構成してもよい。この場合で、且つ、例えば上述のように第1施肥量が42[kg/10a]、第2施肥量が36[kg/10a]である場合、制御装置87は、目標施肥量を以下の式(2)により算出することとなる。
F=(42+36)/2[kg/10a]=39[kg/10a]...(2)
【0129】
このように、2種類の地力の評価値に基づく施肥量を平均することで、地力マップデータに基づく施肥量と、地力センサによる地力評価に基づく施肥量の両方を加味した目標施肥量を設定することができる。目標施肥量の設定後には、制御装置87は、施肥装置26による施肥量が目標施肥量となるよう施肥量調節モータ78の駆動を開始し、その回転量を制御することとなる。これにより、圃場の単位面積当たりの収量を一定にでき、稲の倒伏を防止することができる。
【0130】
また、第1実施例においては、リアルタイム可変施肥制御とマップベース可変施肥制御とハイブリッド可変施肥制御のうちから実行する制御を作業者がモニター54の操作により選択可能に構成されているが、リアルタイム可変施肥制御が選択され、実行される場合でも、リアルタイム可変施肥制御に先立って行われる、圃場の地力のデータの平均値と標準偏差を算出するためのティーチング走行が完了するまでは、マップベース可変施肥制御を行うよう構成してもよい。従来の可変施肥制御と同様にして行われるリアルタイム可変施肥制御は、通常、圃場の地力のデータの平均値と標準偏差を算出する必要があり、ティーチング走行時にはこれらのデータが算出されていないため、リアルタイム可変施肥による減肥が行われない状態となるが、ティーチング走行時にマップベース可変施肥制御を実行することで、ティーチング走行時にも適切な減肥を行うことができる。
【符号の説明】
【0131】
1 作業車両
2 走行車体
3 メインフレーム
4 ベルト式動力伝達機構
5 昇降リンク装置
6 後部フレーム
7 エンジン
8 前輪
9 後輪
10 リンクベースフレーム
11 上下リンクアーム
12 昇降油圧シリンダ
13 前輪ファイナルケース
14 後輪伝動軸
15 動力伝達機構
16 フィンガーレバーセンサ
17 ボールナット
18 ボールネジ
19 植付入切スイッチ
20 副変速機構
21 前輪回転センサ
23 連結シャフト
24 副変速レバー
25 HST
26 施肥装置
27 施肥ホッパ
28 操舵機構
29 後輪回転センサ
30 ミッションケース
31 前輪車軸
32 GNSS受信機
33 繰出ロール
34 繰出装置
35 主変速レバー
36 繰出軸
37 繰出溝
38 接続管
39 シャッター
40 吸気ダクト
41 ブロワ
42 エアチャンバー
43 スロットルモータ
45 ステアリングモータ
47 フロントカバー
48 操縦席
49 操縦部
51 後輪ギアケース
53 ステアリングセンサ
54 モニター
55 ステアリングホイール
56 ゲージプレート
57 L字プレート
58 左側支持ステー
59 右側支持ステー
60 フロアステップ
61 施肥フレーム
62 施肥ホース
63 苗植付部
64 植付装置
65 苗タンク
66 検出ピン
67 駆動軸
68 目盛プレート
69 植付具
70 連結プレート
71 第1伝達軸
72 第2伝達軸
73 第3伝達軸
74 予備苗枠
75 モータ取付プレート
76 受け部材
77 伝達ギア
78 施肥量調節モータ
79 回転量検出センサ
80 ギアケース
81 植付クラッチモータ
82 後輪車軸
83 ステアリングシャフト
84 連動ロッド
85 上部リンクアーム
86 下部リンクアーム
87 制御部
88 電子油圧バルブ
89 ブレーキステー
90 ブレーキシャフト
91 処理部
92 記憶部
93 通信部
94 揺動連結支点ピン
95 連結プレート
96 施肥伝動駆動ロッド
97 施肥駆動アーム
98 サブ駆動ロッド
99 繰出回動アーム
100 施肥伝動機構
101 繰出回動ピン
102 長穴
103 クランク駆動ステー
104 中継ロッド
105 施肥伝動出力軸
106 連結軸
107 繰出検知センサ
150 HSTサーボモータ
151 電気伝導度センサ
152 深度センサ
153 温度センサ
154 苗取量アクチュエータ
155 施肥クラッチ