(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】エレベータ
(51)【国際特許分類】
B66B 13/16 20060101AFI20241205BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B66B13/16 Z
B66B5/00 D
(21)【出願番号】P 2023135374
(22)【出願日】2023-08-23
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】片山 知
(72)【発明者】
【氏名】玉置 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】物部 愛
(72)【発明者】
【氏名】水戸 陵人
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-1854(JP,A)
【文献】特開2019-119592(JP,A)
【文献】特開2017-1853(JP,A)
【文献】特開2017-24853(JP,A)
【文献】特開2012-121683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 13/16
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗場ドアに設けられていて、前記乗場ドアに対して収納状態と作用状態とで異なる姿勢となる移動部材を備え、
前記移動部材は、乗場における前記乗場ドアの周囲に位置するドア周囲構成部材に対して係止する係止部を有し、
前記移動部材は、
前記収納状態では、前記乗場ドアに対して正面視及び背面視で重なる部分に配置され、
前記作用状態では、前記乗場ドアに対して正面視及び背面視で重なる部分から、前記係止部が突出するように移動した状態となって、この状態で前記ドア周囲構成部材に対する係合により前記乗場ドアの戸開状態から戸閉状態への移動を阻止する、
エレベータ。
【請求項2】
前記係止部は、前記ドア周囲構成部材に対する当接により摩擦力を生じさせることで前記係合がなされて、前記乗場ドアの前記移動を阻止する、請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記係止部は、前記ドア周囲構成部材に対して、前記乗場ドアの移動方向に沿う方向で当接することで前記係合がなされて、前記乗場ドアの前記移動を阻止する、請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
前記移動部材は、付勢力を発する付勢部を有し、
前記係止部は、前記作用状態で、前記付勢部から前記付勢力を受ける、請求項1に記載のエレベータ。
【請求項5】
前記移動部材は、前記乗場ドアにおいて戸開時に形成される開口に近い側に設けられる、請求項1に記載のエレベータ。
【請求項6】
前記移動部材は、前記収納状態から前記作用状態への移動が一動作によってなされる、請求項1に記載のエレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗場ドアの戸開状態を保つことができるエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのメンテナンス等を行う際に、乗場ドアを戸開状態で保持することがある。例えば、乗場と昇降路内を作業者が出入りすること、また、乗場から昇降路内に物品を搬入することを目的として戸開状態とされる。乗場ドアは、かごが乗場に停止した場合にのみ戸開状態とされ、それ以外の場合は戸閉状態となるよう、ばね等を設けることによって戸閉力が働いている。このため、戸開保持するために、作業者は、ドアのシル溝に嵌めることのできるゴム片等の固定具を携帯していた(例えば特許文献1に記載の「戸閉阻止装置」)。この固定具は、シル溝に嵌められることで、シル溝に沿って移動するように設けられた乗場ドアが戸閉力によって戸開状態から戸閉状態に移動することを阻止し、戸開状態を保つことができる。
【0003】
しかし、前述した従来方法では、次のような問題があった。例えば、固定具を携帯し忘れると、あり合わせの代替品を作業現場で探さなければならない等によりメンテナンス等の作業性が低下する。また、固定具のシル溝への着脱の際に、誤って昇降路内に落下させてしまい、紛失することがあった。このように、従来方法は不便な点があり、改善すべき余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明は、従来の固定具が有していた不便な点を改善した、乗場ドアの戸開状態を保つことができるエレベータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、乗場ドアに設けられていて、前記乗場ドアに対して収納状態と作用状態とで異なる姿勢となる移動部材を備え、前記移動部材は、乗場における前記乗場ドアの周囲に位置するドア周囲構成部材に対して係止する係止部を有し、前記移動部材は、前記収納状態では、前記乗場ドアに対して正面視及び背面視で重なる部分に配置され、前記作用状態では、前記乗場ドアに対して正面視及び背面視で重なる部分から、前記係止部が突出するように移動した状態となって、この状態で前記ドア周囲構成部材に対する係合により前記乗場ドアの戸開状態から戸閉状態への移動を阻止する、エレベータである。
【0007】
この構成では、例えばエレベータのメンテナンス時に、移動部材における係止部を突出するように移動させることで、乗場ドアの戸開状態を保つことが容易にできる。
【0008】
また、前記係止部は、前記ドア周囲構成部材に対する当接により摩擦力を生じさせることで前記係合がなされて、前記乗場ドアの前記移動を阻止するものとできる。
【0009】
この構成では、摩擦力を利用して乗場ドアの移動を阻止するので、移動部材を簡単な構成とできる。
【0010】
また、前記係止部は、前記ドア周囲構成部材に対して、前記乗場ドアの移動方向に沿う方向で当接することで前記係合がなされて、前記乗場ドアの前記移動を阻止するものとできる。
【0011】
この構成では、当接により乗場ドアの移動を阻止するので、移動部材を簡単な構成とできる。
【0012】
また、前記移動部材は、付勢力を発する付勢部を有し、前記係止部は、前記作用状態で、前記付勢部から前記付勢力を受けるものとできる。
【0013】
この構成では、付勢部により、作用状態の係止部を安定させられる。
【0014】
また、前記移動部材は、前記乗場ドアにおいて戸開時に形成される開口に近い側に設けられるものとできる。
【0015】
この構成では、移動部材が手の届きやすい位置にあるため、作業者が移動部材を操作しやすい。
【0016】
また、前記移動部材は、前記収納状態から前記作用状態への移動が一動作によってなされるものとできる。
【0017】
この構成では、移動部材の操作が容易なため使い勝手が良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、乗場ドアに設けられた移動部材により、乗場ドアの戸開状態を保つことが容易にできる。よって、従来の固定具が有していた不便な点を改善した、乗場ドアの戸開状態を保つことができるエレベータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の各実施形態に係るエレベータを示す概略図である。
【
図2】
図2(A)は、本発明の第1実施形態(基本的な例)に係るエレベータにおける乗場ドアの構成を簡略的に示した、右側面が現れた斜視図であり、
図2(B)は、第1実施形態(変形例)に係るエレベータにおける乗場ドアの構成を簡略的に示した、底面が現れた斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係るエレベータにおける乗場ドアの要部構成を簡略的に示した図である。
【
図4】
図4は、本発明の第3実施形態に係るエレベータにおける乗場ドアの要部構成を簡略的に示した図である。
【
図5】
図5は、本発明の第4実施形態に係るエレベータにおける乗場ドアの要部構成を簡略的に示しており、(A)は収納状態を示す縦断面図、(B)は収納状態を示し、乗場ドアの内部から下方を見た場合の平面図、(C)は作用状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の四つについて、
図1~
図5を参照しつつ説明する。
【0021】
各実施形態に係るエレベータ1自体の構成は公知のものと同じであって、概略図である
図1に示すように、建物内を複数の階床(フロア)にわたって上下方向に延びる昇降路2と、昇降路2を昇降するかご3と、を備える。かご3は、昇降路2内を昇降して建物の各階に設けられる乗場4に停止可能である。
【0022】
かご3は、開閉によりかご3の内外を連通させるかごドア31を備える。各実施形態のかごドア31は、例えば開閉単位(一枚のドア、または、開閉の際の移動方向が同じ複数枚のドアから構成される単位)が対称に一対(二つ)設けられた両開きとされている。
【0023】
乗場4には、かごドア31と同じ開閉単位とされた乗場ドア41が設けられている。乗場ドア41は、乗場ドア41を支持しているドアハンガー等に設けられたばね等(図示しない)により戸閉力がかかることによって常時戸閉状態とされており、かご3が乗場4に停止した際には、かごドア31と係合状態となって、自らが駆動するかごドア31と連動して開閉する。
【0024】
[第1実施形態]
まず第1実施形態について説明する。第1実施形態の乗場ドア41(2枚一組のうち1枚だけを図示)は移動部材5を備えている。この移動部材5は、乗場ドア41に対して収納状態と作用状態とで異なる姿勢となるように構成されている。
図2(A)は作用状態を示している。
【0025】
移動部材5は、本体部51と係止部52を有する。本体部51は、乗場ドア41での戸当たり面411(戸開時にかご内部と連通するように形成される開口に近い側の面)に対して出没可能に設けられている。第1実施形態の本体部51は棒状とされている。しかしこれに限定されず、板状等の他形状であってもよい。棒状とされた本体部51の基端部が回動可能な状態で乗場ドア41に支持されている。棒状とされた本体部51の先端部に係止部52が設けられている。係止部52は、乗場4における乗場ドア41の周囲に位置するドア周囲構成部材に対して係止する部分である。係止部52も本体部51と共に、乗場ドア41での戸当たり面411に対して出没可能とされている。ドア周囲構成部材は、第1実施形態では、乗場ドア41を開閉時にスライド可能に支持するシル溝421が形成された、乗場側シル(敷居)42のことである(
図3参照)。係止部52は例えばゴム等の、圧縮により弾性力を発する材料から形成されており、本体部51の先端部を覆うように設けられる。係止部52は本体部51に対して、例えば嵌め込みにより取り付けられる。第1実施形態の係止部52は略球状とされているが、形状は特に限定されない。
【0026】
移動部材5は、収納状態では、乗場ドア41(そのうち昇降路2側の面)に対して正面視(乗場ドア41に乗場4側から正対する場合)及び背面視(乗場ドア41に昇降路2側から正対する場合)で重なる部分に配置される。第1実施形態では乗場ドア41の内部に収納され、乗場ドア41の外部からは見えないようになる。一方、作用状態では、
図2(A)に示すように、乗場ドア41に対して正面視及び背面視で重なる部分から、係止部52が突出するように移動する。このように収納状態と作用状態との間で移動部材5を移動させられるよう、乗場ドア41の戸当たり面411に設けられた開口部412を通して出し入れできるようにされている。開口部412には、移動部材5の収納状態で蓋(図示しない)を取り付けることもできる。つまり移動部材5は、乗場ドア41において戸開時に形成される開口に近い側に設けられる。この配置では、移動部材5の操作が容易なため使い勝手が良い。作用状態では、棒状とされた本体部51は、乗場ドア41の戸当たり面411(垂直面)と、乗場側シル42の上面(水平面)を斜めに連結するようにして軸方向が延びる。作用状態の係止部52は、乗場側シル42の上面に当接する、または、シル溝421に一部が入り込んで、シル溝421の内面に対して当接する。なお、シル溝421に一部が入り込んでシル溝421の内面に対して当接する構成の場合、係止部52の厚み寸法は、圧縮によって後述の摩擦力を生じさせることができる程度に、シル溝421の幅寸法よりも大きく形成されている。これらの当接により、係止部52と乗場側シル42との間で摩擦力を生じさせることで両者間での係合がなされるようにできる。このように摩擦力が生じた状態で、乗場ドア41と乗場側シル42との間に移動部材5が介在することにより、乗場ドア41に戸閉力がかかっていても、ドア周囲構成部材である乗場側シル42に対する係合により乗場ドア41の戸開状態から戸閉状態への移動を阻止できる。摩擦力による係合であるから、乗場ドア41を任意の開度で止めることが可能である。
【0027】
ここで、
図2(A)に示した第1実施形態(基本的な例)の移動部材5は、乗場ドア41の戸当たり面411から出没するように設けられていたため、開口部412越しでエレベータ1の乗客から見える位置に移動部材5(を収納した部分)が存在している。このため、乗客等によりいたずらをされる可能性がある。これに対応するため、第1実施形態の変形例として、
図2(B)に示すように、乗場ドア41の下面に対して移動部材5が出没するように構成することもできる。この場合、乗場ドア41の下面には下部開口部415が設けられており、移動部材5は下部開口部415を通して出し入れできる。この変形例において、下部開口部415は乗客から見えない位置にあることから、移動部材5を収納状態で乗場ドア41の昇降路2側に完全に隠すことができるため、いたずら(勝手に移動部材5を作用状態とされる等)をされる可能性をなくすことができる。
【0028】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と相違する点を中心に説明し、特に説明していない構成、機能、作用は第1実施形態と同様である(第3及び第4実施形態でも同じ)。第2実施形態の乗場ドア41は、少なくとも移動部材5が設けられた部分において、昇降路2側に板が設けられていない構成とされている(
図3は全面的に板が設けられていない構成で示した)。第2実施形態の移動部材5は、乗場ドア41の下部に、一対が固定されたブロック状の軸支持部53と、一対の軸支持部53,53によって、乗場ドア41の下部から離れて支持された軸部54とを有する。軸部54の軸中心は、乗場ドア41の下部に対して平行である水平方向であって、乗場ドア41の開閉方向に沿って設けられている。軸部54は縦断面形状が「コ」字状の部材である係止部55を貫通している。係止部55は、
図3に矢印で示すように、軸部54により回動可能に支持されている。「コ」字状としている理由は、乗場ドア41の下部及び乗場側シル42に、作用状態の係止部55が干渉しないようにするためである。ただし、軸部54が設けられた位置等に応じ、係止部55は縦断面形状が「L」字状や「C」字状等の他形状の部材としてもよい。係止部55は、鋼板や硬質樹脂等の硬質材料から形成できる。
【0029】
係止部55は、収納状態では、
図3に二点鎖線で示したように、乗場ドア41の下部よりも上方に位置する。一方、作用状態では、
図3に実線で示したように、係止部55のうち一部が乗場ドア41の下部よりも下方に位置する。なお、このような作用状態とできるように、乗場側シル42の側方及び下方には、係止部55の回動を許容する空間が設けられている。この空間は例えば昇降路2の空間と連続している。また、
図3に示すように、乗場側シル42の昇降路2側の側方にはトーガード43が設けられている。トーガード43は、かご3が乗場4より例えば数十mm低い位置で停止したまま扉が開いた場合、乗場側シル42の下方部分に現れている隙間に乗客の足が挟まってしまうことを防止するため、乗場側シル42の下方に連続して設けられた板である。このトーガード43は乗場側シル42よりもシル長さの基準で短く形成されており、端部が開状態の乗場ドア41における開口側端部と、乗場ドア41の移動方向で重なる位置に設けられている。係止部55のうち作用状態における下部は、戸開状態でトーガード43の端部に当接する。このため係止部55は、ドア周囲構成部材であるトーガード43に対して、乗場ドア41の移動方向に沿う方向で、端面551で当接することで両者間での係合がなされて、乗場ドア41の移動を阻止する。つまり、乗場ドア41の移動に伴って係止部55が移動したと仮定した場合の移動軌跡に重なるようにトーガード43が位置するようにされるから、係止部55とトーガード43が当接して、係止部55を介して乗場ドア41の移動が阻止される。この構成では、摩擦力を利用していない点で、第1実施形態とはドア移動阻止の原理が異なっている。また、乗場ドア41を止める位置が、トーガード43との当接位置によって決まることになる。この構成では、当接により乗場ドア41の移動を阻止するので、移動部材5を簡単な構成とできる。トーガード43の場合、係止部55における縦断面形状「コ」字状部分の先端部(作用状態で略水平方向となる板状部)と、上下方向に延びるトーガード43(ドア周囲構成部材)の端面とが交わるような状態(第2実施形態では略直交する状態)で当接する。このため、係止部55が回動方向で多少位置ずれしていても、当接状態とできる。係止部55の当接対象物は、前記トーガード43の他、例えば、フェッシャープレートであってもよい。フェッシャープレートは、トーガード43の場合に比べ、かご3が乗場4と大きくずれて停止した場合で、乗客が脱出のために扉をこじ開けた際に、乗客が昇降路2の空間に落下してしまうことを防止するため、乗場側シル42の下方に設けられた板である。フェッシャープレートはトーガード43の下方に設けることができる。また、トーガード43、フェッシャープレートのうち一方だけを乗場側シル42の下方に設けることもできる。これらの他、乗場側シル42における昇降路2に面した部分に、係止部55の当接対象物として行き止まりの溝を形成しておき、この溝に係止部55が嵌まり込むように構成することもできる。
【0030】
ここで前述のように、
図2(A)に示した第1実施形態の移動部材5は、乗場ドア41の戸当たり面411から出没するように設けられていたため、乗客等によりいたずらをされる可能性がある。これに対し、第2実施形態の移動部材5は、収納状態で乗場ドア41の昇降路2側に完全に隠すことができるため、いたずらをされる可能性をなくすことができる。
【0031】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、基本的な構成は第2実施形態と似ている。第3実施形態の乗場ドア41も、少なくとも移動部材5が設けられた部分において、昇降路2側に板が設けられていない構成とされている(
図4は全面的に板が設けられていない構成で示した)。第3実施形態の移動部材5は、乗場ドア41における下方角部にて、乗場ドア41の下部と側部に亘るように斜め向きに設けられた軸部56を有する。軸部56は、縦断面形状が「コ」字状の部材である回動部57を貫通しており、回動部57は軸部56に回動可能に支持されている。「コ」字状としている理由は、乗場ドア41の側部に、作用状態の回動部57が干渉しないようにするためである。ただし、軸部56が設けられた位置等に応じ、回動部57は縦断面形状が「L」字状や「C」字状等の他形状の部材としてもよい。回動部57は、鋼板や硬質樹脂等の硬質材料から形成できる。回動部57の回動基準で径外位置には係止部58が固定されている。係止部58は、例えばゴム等の、圧縮により弾性力を発する材料から形成されている。係止部58は回動部57に対して、例えば接着や嵌め込みにより取り付けられる。係止部58は、例えば乗場ドア41(昇降路2側の面)に対して正面視及び背面視で三角形(具体的には直角三角形)とされている。係止部58の厚み寸法は、圧縮によって後述の摩擦力を生じさせることができる程度に、シル溝421の幅寸法よりも大きく形成されている。
【0032】
係止部58は、収納状態では、
図4に二点鎖線で示したように、乗場ドア41の下部よりも上方に位置する。一方、作用状態では、
図4に実線で示したように、係止部58の一部が乗場ドア41の下部よりも下方に位置する。なお、このような作用状態とできるように、乗場側シル42の側方及び下方には、係止部58の回動を許容する空間が設けられている。この空間は例えば昇降路2の空間と連続している。作用状態の係止部58における一部581は、シル溝421に前記三角形における一辺側の一部が入り込んで、シル溝421の内面に対して当接する。この当接により、係止部58と乗場側シル42との間で摩擦力を生じさせることができ、ドア周囲構成部材である乗場側シル42に対する乗場ドア41の戸開状態から戸閉状態への移動を阻止できる。
【0033】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、移動部材5が回動しない点で、基本的な構成が第1~第3実施形態とは異なっている。第4実施形態の移動部材5は、付勢力を発する付勢部59と係止部510を有する。付勢部59には、例えば板ばねが用いられていて、基端部が乗場ドア41の下部に固定されている。付勢部59は、収納状態では、
図5(A)に示すように長手方向で直線方向に延びた状態であり、作用状態では
図5(C)に示すように長手方向で、上向きの山を有するように湾曲した状態となる。この湾曲した状態で、付勢部59は付勢力を発する。係止部510は例えばゴム等の、圧縮により弾性力を発する材料から形成されており、付勢部59の先端部を覆うように設けられる。係止部510は付勢部59に対して、例えば嵌め込みにより取り付けられる。よって係止部510は、作用状態で、付勢部59から付勢力を受ける。付勢力により、作用状態の係止部510を安定させられる。特に、付勢部59が発する付勢力が大きい場合には、ドア周囲構成部材である乗場側シル42に対する係止部510の係合が強化される作用を奏する。第4実施形態の係止部510は立方体形状とされているが、形状は特に限定されない。係止部510の厚み寸法(作用状態でシル溝421の幅方向に一致する寸法)は、圧縮によって後述の摩擦力を生じさせることができる程度に、シル溝421の幅寸法よりも大きく形成されている。係止部510は、乗場ドア41の下部に対して出没可能に設けられている。これに応じ、乗場ドア41の下部には、略正方形の穴であって上下方向に貫通する係止部用貫通穴413が設けられており、係止部510は収納状態では、
図5(A)に示すように乗場ドア41の下端面から突出していない状態となっており、作用状態では
図5(C)に示すように係止部用貫通穴413を通って乗場ドア41の下端面から突出した状態となる。この際、係止部510が係止部用貫通穴413に嵌まり込むことで、係止部510の位置保持がされる。なお、乗場ドア41の下部には係止部用貫通穴413に並ぶように、長方形の付勢部側貫通穴414が設けられている。この付勢部側貫通穴414は、例えば付勢部59を湾曲させる際に用いられる。更に、付勢部側貫通穴414を形成するために切り抜いた板材を、付勢部59の構成材料として利用することもできる。収納状態の係止部510は、
図5(A)に示すように乗場ドア41の下部の上面に当接する。このため、収納状態が維持される。作用状態の係止部510における一部5101は、シル溝421に一部が入り込んで、シル溝421の内面に対して当接する。この当接により、係止部510と乗場側シル42との間で摩擦力を生じさせることができる。このように摩擦力が生じた状態で、乗場ドア41と乗場側シル42との間に移動部材5が介在することにより、乗場ドア41に戸閉力がかかっていても、ドア周囲構成部材である乗場側シル42に対する乗場ドア41の戸開状態から戸閉状態への移動を阻止できる。
【0034】
[作用]
以上のように構成された各実施形態によると、例えばエレベータ1のメンテナンス時に、移動部材5における係止部52,55,58,510を突出するように移動させることで、戸閉力に抗して乗場ドア41の戸開状態を保つことが容易にできる。
【0035】
また、第1~第3実施形態の移動部材5は、収納状態から作用状態への移動が一動作である回動動作によってなされる。作用状態から収納状態への移動も同様に一動作によってなされる。第4実施形態の移動部材5も同様に、収納状態から作用状態への移動が一動作である、付勢部59を湾曲させる動作によってなされる。このように構成された各実施形態は、移動部材5の操作が容易なため使い勝手が良く有利である。
【0036】
これらによって、従来、作業者が固定具を携帯していた場合のように、固定具を携帯し忘れて戸開状態を保つことが簡単にできないことにならず、また、固定具のシル溝への着脱の際に、誤って昇降路内に落下させてしまい、紛失するようなこともない。従って、従来の固定具が有していた不便な点を改善できる。
【0037】
なお、本発明のエレベータ1は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。
【0038】
例えば、移動部材5を収納状態で動かないようにするため、例えば、第1実施形態では本体部51、第2実施形態では係止部52、第3実施形態では回動部57、第4実施形態では付勢部59に対して係合状態と非係合状態を切り替えることのできるストッパーを設けることもできる。このようにストッパーを設けることで、例えば乗場ドア41の開閉移動の際に、不意に移動部材5が作用状態となるような移動をしてしまうことを抑制できる。
【0039】
また、移動部材5は作業者により直接的に操作される構成に限定されず、操作部材を設けておき、この操作部材を介して間接的に操作されるよう構成することもできる。この場合、操作部材を、作業者が操作しやすい位置に設けておくことにより、メンテナンス等の場合の作業性を向上できる。
【0040】
また、第4実施形態では、付勢部59に直接的に係止部が設けられていた。しかしこれに限定されず、例えば、第1実施形態の本体部51、第2実施形態の係止部52、第3実施形態の回動部57に対し、別に構成された付勢部59を連結し、前記各部に付勢力を及ぼしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…エレベータ、2…昇降路、3…かご、31…かごドア、4…乗場、41…乗場ドア、42…乗場側シル、421…シル溝(乗場側シル)、43…トーガード、5…移動部材、51…本体部(第1実施形態)、52…係止部(第1実施形態)、53…軸支持部(第2実施形態)、54…軸部(第2実施形態)、55…係止部(第2実施形態)、56…軸部(第3実施形態)、57…回動部(第3実施形態)、58…係止部(第4実施形態)、59…付勢部(第4実施形態)、510係止部(第4実施形態)
【要約】
【課題】乗場ドアの戸開状態を保つこと。
【解決手段】乗場ドア41に設けられていて、前記乗場ドア41に対して収納状態と作用状態とで異なる姿勢となる移動部材5を備え、前記移動部材5は、乗場における前記乗場ドア41の周囲に位置するドア周囲構成部材に対して係止する係止部を有し、前記移動部材5は、前記収納状態では、前記乗場ドア41に対して正面視及び背面視で重なる部分に配置され、前記作用状態では、前記乗場ドア41に対して正面視及び背面視で重なる部分から、前記係止部が突出するように移動した状態となって、この状態で前記ドア周囲構成部材に対する係合により前記乗場ドア41の戸開状態から戸閉状態への移動を阻止するエレベータ1である。
【選択図】
図2