(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】多孔質アルミナ及び触媒
(51)【国際特許分類】
C01F 7/021 20220101AFI20241205BHJP
B01J 23/02 20060101ALI20241205BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C01F7/021
B01J23/02 M
B01J32/00
(21)【出願番号】P 2022509413
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006087
(87)【国際公開番号】W WO2021192752
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020056175
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305009898
【氏名又は名称】株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 章
(72)【発明者】
【氏名】門磨 義浩
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治
(72)【発明者】
【氏名】本村 加奈
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 静香
(72)【発明者】
【氏名】中村 寛美
(72)【発明者】
【氏名】野々内 保
(72)【発明者】
【氏名】松田 薫
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-171436(JP,A)
【文献】国際公開第2012/096386(WO,A1)
【文献】特開昭63-119851(JP,A)
【文献】特開昭63-242917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01F 1/00-17/38
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム(Al
2O
3)にシリカ(SiO
2)と酸化バリウム(BaO)を添加してなる多孔質アルミナであって、
前記酸化アルミニウムとSiO
2添加量の合計質量に対する前記SiO
2添加量の割合で規定されるSiO
2添加率(質量%)をXs(質量%)とし、但し、前記SiO
2添加量は、前記多孔質アルミナ中のケイ素(Si)の含有量をSiO
2の含有量に換算した量であり、
前記酸化アルミニウムと前記SiO
2添加量の合計質量に対するBaO添加量の割合で規定されるBaO添加率(質量%)をXb(質量%)とした場合、但し、前記BaO添加量は、前記多孔質アルミナ中のバリウム(Ba)の含有量をBaOの含有量に換算した量であり、
0.7質量%≦Xs<1質量%、且つ、5質量%≦Xb≦10質量%、または、
1質量%≦Xs<2質量%、且つ、3質量%≦Xb≦10質量%、または、
2質量%≦Xs≦3質量%、且つ、1質量%≦Xb≦14質量%、
となっていることを特徴とする多孔質アルミナ。
【請求項2】
1質量%≦Xs≦3質量%、且つ、3質量%≦Xb≦10質量%となっていることを特徴とする請求項
1に記載の多孔質アルミナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質アルミナと、前記多孔質アルミナに担持された触媒物質とを備えてなることを特徴とする
水蒸気改質触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化アルミニウムにシリカと固体塩基性酸化物を添加してなる多孔質アルミナ、及び、多孔質アルミナを触媒担体として用いる触媒に関し、特に、固体塩基性酸化物として酸化バリウムを添加した多孔質アルミナ及び触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
γ-アルミナ等の大きな比表面積を有する多孔質アルミナ材料は、触媒物質を担持する触媒担体、フィルター等として有用であり、従来、その特性を改良する検討がなされている(例えば、特許文献1乃至5等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-203654号公報
【文献】国際公開第2014/051091号
【文献】国際公開第2012/096386号
【文献】国際公開第2013/111457号
【文献】特開2009-061383号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】沼口徹,他「メタン水蒸気改質触媒の活性および炭素析出性の評価」,石油学会誌,Vol.39,No.3,1996.
【文献】Ki-Yong Lee, et al., "Deactivation by coke deposition on the HZSM-5 catalysts in the methanol-to-hydrocarbon conversion", Journal of Physics and Chemistry of Solids 73 (2012) 1542-1545.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、γ-アルミナ等の大きな比表面積を有する従来の多孔質アルミナ材料は、1000℃以上の高温では極めて短時間に、或いはより低い温度でも長時間を経過すると、容易にα相に転移して著しく比表面積が低下する。α相への転移は、水蒸気雰囲気下や高圧下において更に顕著となる傾向がある。
【0006】
α相への転移を抑制するために、シリカ(SiO2)等の固体酸性添加物を用いると耐熱性が大幅に向上して高温でも大きな比表面積を維持し得る反面、多孔質アルミナ材料の固体酸性が大きくなる。このため、固体酸性添加物を含む多孔質アルミナ材料を触媒担体として使用した場合、炭化水素を対象とした反応では、触媒表面に炭素析出(コーキング)が起こり易くなり、触媒失活の原因となる。従って、水蒸気改質反応等の炭化水素を用いた反応で使用する触媒担体には、耐熱性のみならず耐コーキング性も求められる。尚、多孔質担体の固体酸性が大きくなると、コーキングが起こり易くなることは、上記非特許文献1及び2にも開示されているように周知である。
【0007】
図1に、後述する比較用サンプルと同じニーディング法による調製方法で調製したシリカのみを添加した多孔質アルミナのSiO
2添加率と比表面積の関係を示す。空気中で1000℃5時間の焼成により得られた試料A、試料Aに対して1200℃5時間の熱処理を追加した試料B、試料Aに対して1200℃30時間の熱処理を追加した試料Cの各比表面積を窒素吸着BET法で測定した。
図1に示すように、SiO
2添加率の増加に伴って熱処理後の比表面積は大きく向上しており、多孔質アルミナの耐熱性向上にシリカが有効であることが明らかである。
【0008】
図2に、試料Aについて昇温脱離法(TPD、塩基プローブ分子:NH
3、酸プローブ分子:CO
2)によって多孔質アルミナ表面の固体酸量及び固体塩基量の測定結果を示す。SiO
2添加率の増加に伴い、NH
3吸着量は増加し、CO
2吸着量は低下し、多孔質アルミナ表面の固体酸量が増加して、固体塩基量が減少することが分かる。
【0009】
固体表面の酸点及び塩基点は中和し難いので共存する。シリカ、アルミナ、及び、その混合酸化物は固体酸でもあり固体塩基でもあるため、
図2に示すように、固体酸量及び固体塩基量の両方が、固体表面で中和されずに測定されている。
【0010】
図1及び
図2より、固体酸性のシリカを添加するだけでは、γ-アルミナの耐熱性の向上と固体酸性の増加抑制(耐コーキング性)の両立は困難であることが分かる。また、耐熱性を向上させる目的で、バリウムやランタン等をアルミナに添加する方法も報告されているが、何れも十分な耐熱性を有しているとは言えない(特許文献4及び5参照)。
【0011】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性と耐コーキング性に優れた多孔質アルミナを提供すること、更に、当該多孔質アルミナを触媒担体として用いた触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、γ-アルミナ等の大きな比表面積を有する多孔質アルミナに添加する添加物として、シリカと固体塩基性酸化物である酸化バリウムを組み合わせ、シリカ及び酸化バリウムの各添加量を適切に調整することにより、シリカのみを添加した多孔質アルミナよりも、耐熱性及び耐コーキング性に優れた多孔質アルミナが得られることを、鋭意研究の結果見出し、以下に示す発明に至った。
【0013】
酸化アルミニウム(Al2O3)にシリカ(SiO2)と酸化バリウム(BaO)を添加してなる多孔質アルミナであって、
前記酸化アルミニウムとSiO2添加量の合計質量に対する前記SiO2添加量の割合をSiO2添加率(質量%)とし、
前記酸化アルミニウムと前記SiO2添加量の合計質量に対するBaO添加量の割合をBaO添加率(質量%)とし、
前記SiO2添加量は、前記多孔質アルミナ中のケイ素(Si)の含有量をSiO2の含有量に換算した量であり、
前記BaO添加量は、前記多孔質アルミナ中のバリウム(Ba)の含有量をBaOの含有量に換算した量であり、
前記SiO2添加率が3質量%以下の範囲内、前記BaO添加率が14質量%以下の範囲内において、
前記多孔質アルミナの1200℃30時間の熱処理後に所定の測定方法で測定した比表面積が、前記多孔質アルミナに対して前記SiO2添加率を3質量%、前記BaO添加率を0質量%に設定した比較用の基準多孔質アルミナの同様に測定した基準比表面積以上となるように、
前記酸化アルミニウムに前記シリカと前記酸化バリウムがそれぞれ添加されていることを第1の特徴とする。
【0014】
尚、比表面積の測定方法は、本発明に係る多孔質アルミナと比較用の基準多孔質アルミナに対して同じ測定方法を使用することは当然であるが、例えば、
図1に示す比表面積の測定と同様の周知の窒素吸着BET法を使用することができる。
【0015】
また、SiO2添加量が、多孔質アルミナ中のケイ素(Si)の含有量をSiO2の含有量に換算した量として規定され、バリウムの添加量が、多孔質アルミナ中のバリウム(Ba)の含有量をBaOの含有量に換算した量として規定されているが、これらの規定は、調製後の多孔質アルミナにおいて、各添加量が、X線蛍光分析装置により、シリカ及び酸化バリウムの添加量としてではなく、ケイ素及びバリウム元素の量として測定される点、更には、添加されたシリカの一部が、ケイ素としてアルミナ骨格に入る場合、添加されたシリカ及び酸化バリウムが、アルミナとの固相反応によりアルミネート相を形成する場合が想定され得る点を考慮したものである。
【0016】
上記第1の特徴の多孔質アルミナによれば、SiO2添加率が3質量%以下の範囲内、前記BaO添加率が14質量%以下の範囲内において、固体酸量が基準固体酸量以下となり、且つ、SiO2添加率とBaO添加率が、1200℃30時間の熱処理後の比表面積が基準比表面積以上となるように設定されているため、以下に説明する理由により、シリカのみを添加した多孔質アルミナよりも、耐熱性及び耐コーキング性に優れた多孔質アルミナが得られることになる。
【0017】
先ず、耐熱性及び耐コーキング性の評価基準となる基準多孔質アルミナとして、SiO2添加率とBaO添加率がそれぞれ3質量%と0質量%の多孔質アルミナを使用する理由について説明する。
【0018】
図3に、SiO
2添加率が0.5質量%~20質量%の範囲内、BaO添加率が0質量%の多孔質アルミナを担体として、Ni(15質量%)とLa(La
2O
3換算で10質量%)を担持させた水蒸気改質触媒に対して、水蒸気改質反応を行い、コーキング量の評価を行った結果を示す。
【0019】
多孔質アルミナは、後述するニーディング法で調製されたBaO添加率が0質量%の比較用サンプルと同じ要領で調製した。
【0020】
水蒸気改質触媒は、含浸法により以下の要領で調製した。硝酸ニッケルと硝酸ランタンの混合水溶液に上記多孔質アルミナを室温で1時間含浸し、エバポレータを用いて蒸発乾固した後、450℃5時間焼成した。Ni-Laを担持した粉末触媒をプレス機で加圧成型後、顆粒状になるまで乳鉢で粉砕し、篩にかけて180μm以上250μm以下に整粒した。
【0021】
水蒸気改質反応は、以下の要領で行った。触媒0.5mlをメスシリンダーで秤量し、ステンレス製の反応管に設置した。触媒の前処理は、600℃で1時間、水素気流中で還元処理を行った。その後、C3H8:60ml/min、N2:60ml/min、H2:6ml/min、H2O:360ml/minの流量で、水蒸気改質反応を行った。この時の反応条件は、S/C=2.0、SV=60000h-1である。室温から10℃/minで昇温,600℃に達したところで43分保持した。400℃から100℃毎に生成ガスのサンプリングを行い、生成ガスの組成をガスクロマトグラフィーによって分析した。
【0022】
コーキング量の測定は、炭素硫黄分析装置(LECOジャパン合同会社製:CS-200)を用い、水蒸気改質反応を行った触媒のサンプル0.03gと助燃材(スズメッキ銅))1gを混合した試料をるつぼに入れ、高周波燃焼炉で酸素をキャリアガス(流量3L/min)に用いて試料中の炭素を燃焼させた。高温燃焼により、ガス化した炭素を赤外線吸収法で検出し、炭素量を測定した。
【0023】
図4に、
図3の水蒸気改質触媒の多孔質アルミナと同じ調製方法で調製したSiO
2添加率が0質量%~5質量%の範囲内、BaO添加率が0質量%の多孔質アルミナの5サンプル(●で図示)と、後述するニーディング法で調製された評価用サンプルと同じ要領で調製したSiO
2添加率が1質量%、BaO添加率が5質量%の多孔質アルミナの1サンプル(○で図示)を使用して、α相への相転移温度を測定した結果を示す。
【0024】
相転移温度は、熱重量測定装置(Rigaku製、差動型示差熱天秤、Thermoplus EVO2 TG-DTA TG8120)を用い、サンプル20mgをPt製のパンに入れて、室温から昇温速度20℃/minで昇温させて測定した。アルミナはδ、θ-アルミナからα-アルミナに相転移するときに発熱反応が認められる。そこで、示差熱分析(DTA)曲線の発熱ピーク温度を相転移温度として求めた。
【0025】
図3に示すコーキング量の測定結果より、SiO
2添加率が3質量%以下ではコーキングが殆ど起きていないのに対して、SiO
2添加率が3質量%を超えて増加すると、SiO
2添加率に概ね比例してコーキング量が増加することが分かる。
【0026】
図4に示す相転移温度の測定結果より、BaO添加率が0質量%の場合、SiO
2添加率が0質量%,1質量%,2質量%,3質量%,5質量%と増加するに伴い、相転移温度が、1201℃、1282℃、1290℃、1396℃、1416℃と増加し、SiO
2添加率の増加に伴い耐熱性が改善されることが分かる。ここで、SiO
2添加率が0質量%から3質量%までの増加で、相転移温度が1201℃から1396℃まで195℃増加しているのに対して、SiO
2添加率が3質量%から5質量%までの増加で、相転移温度が1396℃から1416℃までと20℃しか増加していない。従って、SiO
2添加率の増加に伴う耐熱性の改善効果は、SiO
2添加率が3質量%以下において顕著に表れている。
図4の測定結果は、上述の
図1に示す関係と符合する。
【0027】
一方、SiO2添加率が1質量%で、BaO添加率が0質量%と5質量%の2サンプルを比較すると、BaO添加率が0質量%から5質量%に増加すると、相転移温度が1282℃から1411℃まで129℃増加していることが分かる。
【0028】
図3と
図4に示す測定結果より、SiO
2添加率を3質量%以下に抑えることでコーキング量の増加を抑制しつつ、SiO
2添加率が3質量%以下において、BaO添加率を、5質量%を含む所定の好適範囲内に設定することで、耐熱性を大幅に改善できることが分かる。
【0029】
以上の説明より、SiO2添加率とBaO添加率がそれぞれ3質量%と0質量%の多孔質アルミナ(基準多孔質アルミナ)が、一応の耐熱性及び耐コーキング性を有していることが分かる。しかし、SiO2添加率が3質量%より低下すると耐熱性が低下し、逆に、SiO2添加率が3質量%より増加すると耐コーキング性が低下するため、SiO2添加率3質量%は、耐熱性及び耐コーキング性が両立し得る特異点となっている。つまり、シリカのみを添加した多孔質アルミナでは、基準多孔質アルミナを超える耐熱性と耐コーキング性の両立は実質的に不可能である。従って、シリカと酸化バリウムの両方を添加した多孔質アルミナにおいて、シリカのみを添加した多孔質アルミナより耐熱性及び耐コーキング性の両方の改善を図るに際して、基準多孔質アルミナは、耐熱性及び耐コーキング性の評価基準として適切と言える。
【0030】
シリカの添加に加えて酸化バリウムを添加することによる耐熱性向上の効果は以下のように説明できる。
【0031】
Siのイオン半径はアルミニウム(Al)のイオン半径とほぼ同じであり、Siイオンは450℃付近におけるアルミナ前駆体の分解によってγ-アルミナの構造に取り込まれる。スピネル構造を有するγ-アルミナにおいて八面体サイトには多数の空孔が存在する。アルミナにSiイオンを添加することで、四面体サイトのAlイオンがSiイオンに置換され空孔の総数が減少するため、α化が抑制され耐熱性が向上する。また、シリカの添加が、アルミナのミクロポアの閉塞防止に効果的で、1100℃以下の温度領域において耐熱性向上に効果を示す。
【0032】
Baイオンは、1000℃以上の高温でアルミナとの固相反応により、アルミネート(バリウムヘキサアルミネート:BaO・6Al
2O
3、バリウムモノアルミネート:BaO・Al
2O
3)として存在することが知られている(
図9及び
図10参照)。アルミネートはアルミナ粒子の表面に生成し、アルミナ粒子内部のα化を抑制する。粒子表面のアルミネートは立方晶(fcc)でありγ-アルミナと同じ構造であるため、アルミナ粒子表面の酸素イオンを共有することで強い相互作用が発生する。この相互作用によりアルミナ粒子内部のα化が抑制される。
【0033】
Baを単独でアルミナに添加した場合、固相反応に基づくアルミネートの生成が必要である。そのためには1000℃以上の焼成が必要であり、アルミネート生成前の昇温過程でα化が抑制されずにアルミナのミクロポアは失われ、比表面積が大きく低下する。しかし、シリカを共存させたアルミナは、シリカ添加効果によって、アルミネート生成前の昇温過程の1100℃以下の温度領域においてミクロポアの閉塞を抑制して比表面積の低下を抑制することができる。更に、該温度領域以上の高温ではBaの固相反応によってアルミネートが生成し、アルミナのα化が抑制される。
【0034】
また、3質量%以下の所与のSiO
2添加率において、14質量%以下の範囲内でBaO添加率を0質量%から増加させると、1200℃30時間の熱処理後の比表面積が、基準比表面積を超えて増加し、その極大値を超えると、基準比表面積に向かって低下することが、後述するように、本願発明者の鋭意研究によって確認されている(
図11及び
図14参照)。従って、SiO
2添加率が3質量%以下の範囲内、BaO添加率が14質量%以下の範囲内において、1200℃30時間の熱処理後の比表面積が基準比表面積以上となる、つまり、基準多孔質アルミナ(SiO
2添加率:3質量%、BaO添加率:0質量%)より耐熱性の改善されるSiO
2添加率とBaO添加率の組み合わせが確実に存在しており、当該組み合わせを採用することで、耐熱性が確実に改善される。
【0035】
また、後述する
図13及び
図15に示すSiO
2添加率及びBaO添加率と固体酸量との関係より、3質量%以下の所与のSiO
2添加率において、BaO添加率を増加させると、固体酸量が単調に減少する(固体酸性が小さくなる)ことが分かる。よって、上述したように、多孔質担体の固体酸性が大きくなるとコーキングが起こり易くなるという関係があるので、SiO
2添加率を3質量%以下に抑え、更に、BaO添加率を増加させることで、コーキング量の増加が更に抑制され、耐コーキング性が向上することになる。つまり、耐熱性の改善されるSiO
2添加率とBaO添加率の組み合わせを採用すると、耐コーキング性も確実に改善される。
【0036】
従って、シリカだけを添加した場合は、耐熱性と耐コーキング性の両立は困難であったが、シリカの添加量を抑えて、シリカに加えて酸化バリウムを添加することで、シリカだけを添加する場合に比べて、耐熱性と耐コーキング性の両方を大幅に改善することができる。
【0037】
更に、上記第1の特徴の多孔質アルミナは、前記SiO2添加率が0.7質量%以上3質量%以下の範囲内において、前記多孔質アルミナの前記比表面積が、前記基準比表面積以上となるように、前記酸化アルミニウムに前記シリカと前記酸化バリウムがそれぞれ添加されていることが好ましい。
【0038】
更に、上記第1の特徴の多孔質アルミナは、前記BaO添加率が0.5質量%以上14質量%以下の範囲内において、前記多孔質アルミナの前記比表面積が、前記基準比表面積以上となるように、前記酸化アルミニウムに前記シリカと前記酸化バリウムがそれぞれ添加されていることが好ましい。
【0039】
上記第1の特徴の多孔質アルミナの好適な実施態様によれば、SiO2添加率が0.7質量%以上3質量%以下の範囲内、或いは、BaO添加率が0.5質量%以上14質量%以下の範囲内に、耐熱性と耐コーキング性の両方が改善されるSiO2添加率とBaO添加率の組み合わせがより確実に存在することになる。
【0040】
更に、上記第1の特徴の多孔質アルミナは、前記SiO2添加率をXs(質量%)、前記BaO添加率をXb(質量%)とした場合、
0.7質量%≦Xs<1質量%、且つ、5質量%≦Xb≦10質量%、または、1質量%≦Xs<2質量%、且つ、3質量%≦Xb≦10質量%、または、2質量%≦Xs≦3質量%、且つ、1質量%≦Xb≦14質量%、となっていることを第2の特徴とする。
【0041】
更に、本発明に係る多孔質アルミナは、酸化アルミニウム(Al2O3)にシリカ(SiO2)と酸化バリウム(BaO)を添加してなる多孔質アルミナであって、
前記酸化アルミニウムとSiO2添加量の合計質量に対する前記SiO2添加量の割合で規定されるSiO2添加率(質量%)をXs(質量%)とし、但し、前記SiO2添加量は、前記多孔質アルミナ中のケイ素(Si)の含有量をSiO2の含有量に換算した量であり、
前記酸化アルミニウムと前記SiO2添加量の合計質量に対するBaO添加量の割合で規定されるBaO添加率(質量%)をXb(質量%)とした場合、但し、前記BaO添加量は、前記多孔質アルミナ中のバリウム(Ba)の含有量をBaOの含有量に換算した量であり、
0.7質量%≦Xs<1質量%、且つ、5質量%≦Xb≦10質量%、または、1質量%≦Xs<2質量%、且つ、3質量%≦Xb≦10質量%、または、2質量%≦Xs≦3質量%、且つ、1質量%≦Xb≦14質量%、となっていることを第3の特徴とする。
【0042】
上記第2または第3の特徴の多孔質アルミナによれば、SiO2添加率Xs及びBaO添加率Xbの各規定の範囲内において、基準多孔質アルミナ(SiO2添加率:3質量%、BaO添加率:0質量%)に比べて、耐熱性と耐コーキング性の両方が確実に改善される。
【0043】
更に、上記第2または第3の特徴の多孔質アルミナは、1質量%≦Xs≦3質量%、且つ、3質量%≦Xb≦10質量%となっていることが好ましい。
【0044】
上記第2または第3の特徴の多孔質アルミナの好適な実施態様によれば、耐熱性と耐コーキング性の両方が更に改善され得る。
【0045】
更に、本発明に係る触媒は、上記第1または第2の特徴の多孔質アルミナと、前記多孔質アルミナに担持された触媒物質とを備えてなることを特徴とする。
【0046】
上記特徴の触媒によれば、従来の多孔質アルミナを担体として使用する触媒に比べて、耐熱性及び耐コーキング性を改善することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る多孔質アルミナによれば、固体塩基性酸化物の酸化バリウムを使用することにより、シリカと酸化バリウムの添加量を適切に調整して、高温でも大きな比表面積を維持できる高い耐熱性を具備しつつ、シリカの添加量を抑えて、固体酸量の増加を抑制できるため、高い耐コーキング性を実現でき、耐熱性及び耐コーキング性の両方に優れた高性能な多孔質アルミナを提供することができる。更に、当該多孔質アルミナを触媒担体として用いることにより、耐熱性及び耐コーキング性の両方に優れた触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】3種類の異なる熱処理条件におけるシリカのみを添加した多孔質アルミナのSiO
2添加率と比表面積の関係を示す図
【
図2】シリカのみを添加した多孔質アルミナのSiO
2添加率と固体酸量及び固体塩基量の測定結果を示す図
【
図3】シリカのみを添加した多孔質アルミナにNi-Laを担持させた水蒸気改質触媒におけるSiO
2添加率とコーキング量の測定結果を示す図
【
図4】シリカのみを添加した多孔質アルミナと、シリカと酸化バリウムを添加した多孔質アルミナにおけるα相への相転移温度の測定結果を示す図
【
図5】ニーディング法による本発明に係る多孔質アルミナの調製方法の概要を示す工程遷移図
【
図6】第1タイプの含浸法による本発明に係る多孔質アルミナの調製方法の概要を示す工程遷移図
【
図7】第2タイプの含浸法による本発明に係る多孔質アルミナの調製方法の概要を示す工程遷移図
【
図8】3種類の異なる熱処理条件におけるニーディング法で調製した評価用サンプル及び比較用サンプルの比表面積の測定結果を示す図
【
図9】3種類の異なる熱処理条件におけるニーディング法で調製した評価用サンプル及び比較用サンプルの結晶構造を示すXRD回折パターンを示すグラフ
【
図10】
図9に示す評価用サンプルの結晶構造を示すXRD回折パターンを示すグラフ
【
図11】1200℃30時間の熱処理後のニーディング法で調製したSiO
2添加率及びBaO添加率の異なる複数の評価用サンプル及び比較用サンプルの比表面積の測定結果を示す一覧表
【
図12】ニーディング法で調製した評価用サンプル及び比較用サンプルの固体酸量及び固体塩基量の測定結果を示す図
【
図13】ニーディング法で調製したSiO
2添加率及びBaO添加率の異なる複数の評価用サンプル及び比較用サンプルの固体酸量の測定結果を示す図
【
図14】1200℃30時間の熱処理後の第1タイプの含浸法で調製したSiO
2添加率及びBaO添加率の異なる複数の評価用サンプル及び比較用サンプルの比表面積の測定結果を示す一覧表
【
図15】第1タイプの含浸法で調製したSiO
2添加率及びBaO添加率の異なる複数の評価用サンプル及び比較用サンプルの固体酸量の測定結果を示す図
【
図16】沈殿法による本発明に係る多孔質アルミナの調製方法の概要を示す工程遷移図
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明に係る多孔質アルミナの好適な実施形態(以下、適宜、「本実施形態」と称す。)について説明する。
【0050】
本実施形態に係る多孔質アルミナ(以下、適宜、「本アルミナ」と称する)は、アルミナ(酸化アルミニウム、Al2O3)にシリカ(SiO2)と酸化バリウム(BaO)の2種類の酸化物が添加された多孔質アルミナである。以下の説明では、「本アルミナ」は、シリカと酸化バリウムの添加されたアルミナであり、単に「アルミナ」という場合は、シリカと酸化バリウムの添加されていないアルミナである。
【0051】
[1]本アルミナの調製方法:
次に、本アルミナの調製方法について説明する。本アルミナの調製方法は、基本的には、アルミナにシリカを添加するための工程と、アルミナに酸化バリウムを添加するための工程とを備えて構成される。調製方法は、酸化バリウムを添加するための工程の違いによって、含浸法、ニーディング法、沈殿法、及び、ゾルゲル法等が候補となり得るが、本実施形態では、本アルミナの耐熱性及び耐コーキング性の評価用のサンプルの調製において、ニーディング法と含浸法を使用する。
【0052】
ニーディング法と含浸法の詳細を説明する前に、本実施形態における本アルミナ中に添加されるシリカと酸化バリウムの各添加率を、以下のように定義する。下記のSiO2添加率及びBaO添加率の単位は「質量%」である。
【0053】
SiO2添加率=SiO2添加量/(アルミナの質量+SiO2添加量)×100
BaO添加率=BaO添加量/(アルミナの質量+SiO2添加量)×100
【0054】
SiO2添加量は、本アルミナ中のSi含有量をSiO2の含有量に換算した量であり、BaO添加量は、本アルミナ中のBa含有量をBaOの含有量に換算した量である。Si含有量は、本アルミナ中に単体及び化合物として存在する全てのSiの含有量であり、Ba含有量は、本アルミナ中に単体及び化合物として存在する全てのBaの含有量である。
【0055】
本実施形態において、SiO2添加率及びBaO添加率の算出基準となる基準質量に、BaO添加量が含まれていないのは、以下に示す本アルミナの調製方法において、SiO2添加率及びBaO添加率の設定において、(アルミナの質量+SiO2添加量)に統一する方が便利であったためである。上記SiO2添加率及びBaO添加率は、BaO添加量を含む基準質量に基づく添加率に容易に換算可能である。また、必要に応じて、各添加率の単位を「質量%」から「モル%」にも変換可能である。
【0056】
[1.1]ニーディング法による本アルミナの調製:
図5に示すように、ニーディング法による本アルミナの調製方法は、大別すると、アルコキシシランと水及びアルコールを含む混合溶媒と無機酸とを含むアルコキシシラン溶液を、アルミニウム化合物及び水を含むアルミニウム溶液と混合して、アルミニウム化合物及びアルコキシシランが混合溶媒に溶解している混合溶液を調製する工程(ステップ#K1)と、混合溶媒中で、水酸化アルミニウムをケイ素化合物と共沈させて沈殿物を形成させる工程(ステップ#K2)と、沈殿物にバリウム化合物の水溶液を添加して混錬する工程(ステップ#K3)と、バリウム化合物が混錬した沈殿物を乾燥及び焼成して、アルミナ、シリカ及び酸化バリウムを含む多孔質アルミナ(本アルミナ)を形成させる工程(ステップ#K4)と、を備えて構成される。
【0057】
ステップ#K1のアルコキシシラン溶液に含まれるアルコキシシランは、例えば、テトラエトキシシラン(以下、「TEOS」と称す)が好適に使用され、アルコールは、例えば、エタノールが好適に使用され、無機酸は、例えば、塩酸または硝酸が好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
ステップ#K1のアルミニウム溶液は、耐熱性向上の観点から、硝酸アルミニウムを水に溶解させるか、或いは、水酸化アルミニウムを硝酸水溶液に溶解して調製するのが好ましい。
【0059】
ステップ#K1で調製される混合溶液中のアルコキシシランとアルミニウム化合物の混合比は、ステップ#K3で形成された多孔質アルミナ中のシリカの添加率(SiO2添加率)が所望値となるように調整される。
【0060】
ステップ#K1で調製される混合溶液中のアルコキシシランとアルミニウム化合物は、水及びアルコールから構成される混合溶媒に均一に溶解している。換言すれば、混合溶液は相分離することなく単一の液相を形成している。
【0061】
ステップ#K2において、酸性の混合溶液に対して、好ましくは40℃~100℃に加熱しながら(例えば、100℃に加熱還流しながら)、塩基性化合物を含む沈殿剤を加える。混合溶液のpHが8程度(例えば、8~8.5)になるまで塩基性化合物を加えることにより、水酸化アルミニウム及びケイ素化合物が共沈する。共沈により生成する沈殿物に含まれるケイ素化合物は、アルコキシシランまたはその加水分解縮合物であり得る。
【0062】
沈殿剤は、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を含む。これらの中でもアンモニア水が好ましい。
【0063】
ステップ#K3において、沈殿物を、例えば、ろ過等の通常の方法により混合溶液から取り出し、常温水(蒸留水)により洗浄することが好ましい。水洗後の沈殿物にバリウム化合物の水溶液を添加して混錬する。尚、バリウム化合物の水溶液は、硝酸バリウムを水に溶解して、硝酸バリウム水溶液として調製するか、或いは、水酸化バリウムを水に溶解して、水酸化バリウム水溶液として調製するのが好ましい。
【0064】
ステップ#K4において、バリウム化合物が混錬した沈殿物を、例えば、150℃の乾燥機で所定時間乾燥させた後、乾燥した沈殿物を、例えば、乳鉢等で粉砕して粉末化する。乾燥及び粉末化された沈殿物を、例えば、空気中1000℃で5時間焼成することにより、アルミナ、シリカ及び酸化バリウムを含む多孔質アルミナ(本アルミナ)が形成される。形成される多孔質アルミナにおいて、アルミナは、主としてγ-アルミナ、θ-アルミナ等の中間アルミナから構成される。
【0065】
[1.2]含浸法による本アルミナの調製:
含浸法による本アルミナの調製方法は、既製の多孔質アルミナに、シリカと酸化バリウムを含浸法により添加して本アルミナを調製する第1タイプの含浸法と、アルミナにシリカを添加したシリカ添加多孔質アルミナを調製し、そのシリカ添加多孔質アルミナに酸化バリウムを含浸法により添加して本アルミナを調製する第2タイプの含浸法がある。
【0066】
[1.2.1]第1タイプの含浸法:
図6に示すように、第1タイプの含浸法は、大別すると、既製の多孔質アルミナ(Al
2O
3粉末)に、アルコキシシラン溶液とバリウム化合物の水溶液を含浸する工程(ステップ#I11)と、アルコキシシラン溶液とバリウム化合物の水溶液を含浸させた多孔質アルミナを乾燥及び焼成して、アルミナ、シリカ及び酸化バリウムを含む多孔質アルミナ(本アルミナ)を形成させる工程(ステップ#I12)と、を備えて構成される。
【0067】
ステップ#I11で使用する既製の多孔質アルミナは、主としてγ-アルミナ、θ-アルミナ等の中間アルミナから構成される多孔質アルミナを使用する。例えば、本実施形態の実施例では、既製の多孔質アルミナとして日本軽金属製C20を使用するが、日本軽金属製の多孔質アルミナに限定されるものではなく、独自に調製したものであってもよい。また、ステップ#I11のアルコキシシラン溶液に含まれるアルコキシシランは、ニーディング法のステップ#K1と同様に、TEOSが好適に使用される。また、ステップ#I11のバリウム化合物の水溶液は、ニーディング法のステップ#K3と同様に、硝酸バリウムを水に溶解して、硝酸バリウム水溶液として調製するか、或いは、水酸化バリウムを水に溶解して、水酸化バリウム水溶液として調製するのが好ましい。
【0068】
ステップ#I12において、アルコキシシラン溶液とバリウム化合物の水溶液を含浸させた多孔質アルミナを、例えば、空気中150℃で、或いは、ロータリーエバポレーターで乾燥させ、その後、例えば、空気中1000℃で5時間焼成して、アルミナ、シリカ、及び酸化バリウムを含む多孔質アルミナ(本アルミナ)が得られる。
【0069】
[1.2.2]第2タイプの含浸法:
図7に示すように、第2タイプの含浸法は、大別すると、アルコキシシランと水及びアルコールを含む混合溶媒と無機酸とを含むアルコキシシラン溶液を、アルミニウム化合物及び水を含むアルミニウム溶液と混合して、アルミニウム化合物及びアルコキシシランが混合溶媒に溶解している混合溶液を調製する工程(ステップ#I21)と、混合溶媒中で、水酸化アルミニウムをケイ素化合物と共沈させて沈殿物を形成させる工程(ステップ#I22)と、沈殿物を乾燥及び焼成して、アルミナ及びシリカを含む多孔質アルミナ(シリカ添加多孔質アルミナ)を形成させる工程(ステップ#I23)と、シリカ添加多孔質アルミナにバリウム化合物の水溶液を含浸する工程(ステップ#I24)と、バリウム化合物の水溶液を含浸させたシリカ添加多孔質アルミナを乾燥及び焼成して、アルミナ、シリカ及び酸化バリウムを含む多孔質アルミナ(本アルミナ)を形成させる工程(ステップ#I25)と、を備えて構成される。
【0070】
第2タイプの含浸法のステップ#I21及びステップ#I22は、基本的に、上述のニーディング法のステップ#K1及びステップ#K2と同じであり、重複する説明は割愛する。また、ステップ#I21~ステップ#I23のシリカ添加多孔質アルミナの調製方法は、後述するBaO添加率が0質量%の比較用サンプルのニーディング法による調製方法と、ステップ#K4とステップ#I23の焼成温度の違いを除いて、同じである。
【0071】
尚、第2タイプの含浸法において、ステップ#I24で使用するシリカ添加多孔質アルミナは、ステップ#I21~ステップ#I23により調製されたものに代えて、既製のシリカ添加多孔質アルミナを使用してもよい。
【0072】
ステップ#I23において、沈殿物は、例えば、ろ過等の通常の方法により混合溶液から取り出し、常温水(蒸留水)により洗浄することが好ましい。沈殿物は乾燥され、溶媒の大部分が除去された後、乳鉢等で粉砕して粉末化する。
【0073】
乾燥及び粉末化された沈殿物を焼成することにより、シリカ添加多孔質アルミナが形成される。シリカ添加多孔質アルミナを構成するアルミナは、主としてγ-アルミナ、θ-アルミナ等の中間アルミナから構成される。
【0074】
焼成温度は、好ましくは、400~1000℃である。焼成温度が高すぎると、酸化アルミニウムのα相への転移が進行して、比表面積が低下する可能性がある。焼成時間は、好ましくは、1時間~数十時間程度である。
【0075】
ステップ#I24において、ニーディング法のステップ#K3と同様に、バリウム化合物の水溶液は、硝酸バリウムを水に溶解して、硝酸バリウム水溶液として調製するか、或いは、水酸化バリウムを水に溶解して、水酸化バリウム水溶液として調製するのが好ましい。
【0076】
ステップ#I25において、第1タイプの含浸法のステップ#I12と同様に、バリウム化合物の水溶液を含浸させたシリカ添加多孔質アルミナを、例えば、空気中150℃で、或いは、ロータリーエバポレーターで乾燥させ、その後、例えば、空気中1000℃で5時間焼成して、アルミナ、シリカ、及び酸化バリウムを含む多孔質アルミナ(本アルミナ)が得られる。
【0077】
ニーディング法、第1または第2タイプの含浸法で調製された本アルミナでは、主としてγ-アルミナ、θ-アルミナ等の中間アルミナから構成される。また、本アルミナは、一例として、針状または繊維状の1次粒子が凝集した2次粒子を粉砕して、所定の粒径範囲(例えば、100μm~500μm)に篩分けした粉末状である。尚、本アルミナの形状は、粉末状の他、ペレット状、ディスク状、ハニカム状など様々な形状を取り得る。
【0078】
上記ニーディング法、第1または第2タイプの含浸法では、アルミナに添加されるケイ素及びバリウムの量は、各溶液の添加量で規定される。つまり、添加した溶液の蒸発乾固により当該溶液中のケイ素及びバリウムの全量がアルミナに添加されるため、上述のSiO2添加率及びBaO添加率は、所与のアルミナの質量またはアルコキシシラン溶液の使用量と各溶液の添加量で一意的に決定される。
【0079】
[2]ニーディング法で調製された本アルミナの耐熱性及び耐コーキング性の評価:
[2.1]評価用サンプル及び比較用サンプルの調製:
評価用サンプルは、
図5に示したニーディング法により下記の要領で調製した。
【0080】
ステップ#K1のアルコキシシラン溶液として、TEOS5.00gにエタノール7.52gを加え、室温で5分間攪拌し、次いで、塩酸(37質量%)1.25gを加え、更に5分間室温で攪拌した。この混合溶液に対して、71.23gの水を混合して、透明で均一な5.88質量%のTEOS溶液を得た。
【0081】
ステップ#K1において、上記要領で得たTEOS溶液を所定量の20質量%の硝酸アルミニウム水溶液に加え、均一な混合溶液を得た。目的とするSiO2添加率に必要な量のTEOS溶液及び硝酸アルミニウム水溶液を用いた。この混合溶液を加熱還流し、pH8.5になるまで28質量%アンモニア水を滴下し、攪拌した。アンモニア水の滴下に伴って、水酸化アルミニウム及びケイ素化合物が共沈し、溶液中に沈殿物が生成した。この沈殿物をNo.1の濾紙を用いた吸引濾過により沈殿物を濾別した。この沈殿物を蒸留水によって水洗した。水洗後の沈殿物に所定量の硝酸バリウム水溶液を添加し混錬した。その後150℃の乾燥機で20時間乾燥した。乾燥した沈殿物を乳鉢で粉砕し、空気中1000℃で5時間焼成し、本アルミナの評価用サンプルを得た。
【0082】
比較用のサンプルとして、SiO2添加率だけが0質量%、BaO添加率だけが0質量%、SiO2添加率とBaO添加率の両方が0質量%の3種類の比較用サンプルも用意した。評価用サンプル及び比較用サンプルは、記号SK(Xs,Xb)で表記する。XsはSiO2添加率(質量%)、XbはBaO添加率(質量%)を示す。
【0083】
Xs=0質量%の比較用サンプルは、ステップ#K1において、TEOS溶液に代えて、TEOSを含まないブランク溶液(水で濃度調整したエタノール及び塩酸を含む溶液)を使用して調製した。Xb=0質量%の比較用サンプルは、ステップ#K3において、吸引濾過及び水洗後の沈殿物に対してバリウム化合物の水溶液を添加して混錬する工程を省略して調製した。
【0084】
[2.2]サンプルの評価方法:
各サンプルの比表面積の測定は、下記の3種類の熱処理条件下において、全自動ガス吸着量測定装置(MicrotracBEL製BELSORP‐max)を用いて、窒素吸着BET法により行った。第1の熱処理条件は、他の2種類の熱処理実施前の状態(熱処理前)である。第2の熱処理条件は、室温から10℃/minで1200℃まで昇温後、加熱を停止して1200℃で5時間保持した後の状態(1200℃5時間)である。第3の熱処理条件は、室温から10℃/minで1200℃まで昇温後、加熱を停止して1200℃で30時間保持した後の状態(1200℃30時間)である。
【0085】
各サンプルの結晶構造は、X線回析装置(リガク製ULTIMA III)を用い、Cukαを照射し、2次元高速検出器によって測定した。各サンプルの中のAl、Si及びBaの量は、蛍光X線分析装置(リガク製Supermini)を用い、ガラスビード法によって分析した。各サンプルの固体酸塩基量は触媒評価装置(MicrotracBEL製BELCAT)を用い昇温脱離法(TPD、塩基プローブ分子:NH3、酸プローブ分子:CO2)によって測定した。
【0086】
サンプルの評価方法は、後述する第1タイプの含浸法で調製された本アルミナの耐熱性及び耐コーキング性の評価においても同様である。
【0087】
[2.3]耐熱性の評価結果:
図8に、ニーディング法で調製された1つの評価用サンプル及び5つの比較用サンプルに対して、熱処理前、1200℃5時間、及び、1200℃30時間の各熱処理条件での比表面積を測定した結果を示す。使用した評価用サンプル及び比較用サンプルは、SK(1,7)、SK(0,0)、SK(1,0)、SK(3,0)、SK(5,0)、SK(0,7)である。
【0088】
図9に、ニーディング法で調製された1つの評価用サンプル及び3つの比較用サンプルにおける、熱処理前、1200℃5時間、及び、1200℃30時間の各熱処理条件での結晶構造を示すXRD回折パターンを示す。使用した評価用サンプル及び比較用サンプルは、SK(1,7)、SK(0,0)、SK(1,0)、SK(0,7)である。また、
図10に、
図9に示した評価用サンプルSK(1,7)の3種類の熱処理条件でのXRD回折パターンを1つのグラフに纏めて示す。
【0089】
図11に、ニーディング法で調製された評価用サンプル及び比較用サンプルに対して、1200℃30時間の熱処理後の比表面積を、サンプル数を増して測定した結果を示す。サンプル数は、評価用サンプルが90個、比較用サンプルが24個であり、SiO
2添加率及びBaO添加率の範囲は、0≦Xs≦30、0≦Xb≦100と広範囲に及んでいる。
【0090】
図8より、酸化バリウムだけを添加した比較用サンプルSK(0,7)では、何れの熱処理条件においても、シリカの添加と比べて、酸化バリウムの添加による比表面積の顕著な向上は見られなかった。しかし、1200℃5時間の熱処理後において、評価用サンプルのSK(1,7)は、比較用サンプルのSK(1,0)及びSK(0,7)よりも比表面積が向上しており、更に、1200℃30時間の熱処理後においても、評価用サンプルのSK(1,7)は、比較用サンプルのSK(1,0)及びSK(0,7)よりも大きな比表面積を維持できており、シリカと酸化バリウムの混合添加が耐熱性の向上に効果的であることが確認された。また、1200℃5時間及び1200℃30時間の各熱処理後において、評価用サンプルのSK(1,7)は、比較用サンプルのSK(3,0)よりも比表面積が向上しており、SiO
2添加率を3質量%から1質量%に低減させても、酸化バリウムを適量添加することで、シリカだけを3質量%添加した比較用サンプル(比較用の基準多孔質アルミナに相当)の比表面積(基準比表面積に相当)よりも大きな比表面積が得られることが確認された。
【0091】
図9(A)より、熱処理前では、SK(0,0)とSK(1,0)において、θ-Al
2O
3とγ-Al
2O
3のピークが確認され、また、SK(0,7)とSK(1,7)において、γ-Al
2O
3とバリウムモノアルミネート(BaO・Al
2O
3)のピークが確認された。
図9(B)より、1200℃5時間の熱処理後では、SK(0,0)とSK(1,0)において、完全にα-Al
2O
3に転移していることが確認され、SK(0,7)とSK(1,7)において、α-Al
2O
3のピークの他にバリウムモノアルミネートとバリウムヘキサアルミネート(BaO・6Al
2O
3)のピークが確認された。
図9(C)より、1200℃30時間の熱処理後では、1200℃5時間の熱処理後と同様の生成物が見られた。しかし、SK(1,7)のα-Al
2O
3のピーク強度は他の比較用サンプルに比べて低く、また、
図8に示したように1200℃30時間の熱処理後も比表面積が高いことからシリカと酸化バリウムを共存させることがα-Al
2O
3の生成を抑制し、耐熱性に寄与していることが明らかになった。
【0092】
図11より、SiO
2添加率Xsが0.7質量%以上3質量%以下、BaO添加率Xbが0.5質量%以上14質量%以下の範囲内において、1200℃30時間の熱処理後も比表面積が、基準多孔質アルミナに当たる比較用サンプルSK(3,0)の比表面積(基準比表面積に相当)以上となるSiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの第1有効範囲が広範囲に存在していることが分かる(
図11の太線枠で囲まれた領域)。また、同じSiO
2添加率Xsにおいて、BaO添加率Xbが0.5質量%から増加すると、同比表面積は、基準比表面積を超えて極大値に到達して、その後、基準比表面積以下にまで低下する。ここで、同比表面積が基準比表面積以上となるBaO添加率Xbの範囲は、SiO
2添加率Xsが大きいほど広くなることが分かる。
【0093】
図11より、SiO
2添加率Xsに応じて、以下に示すようにBaO添加率Xbを設定することで、基準多孔質アルミナに対して、1200℃30時間の熱処理後の比表面積を1~1.724倍の範囲で維持または向上できることが分かる。SiO
2添加率Xsが3質量%から0.7質量%まで低下しても、BaO添加率Xbが、5質量%≦Xb≦10質量%の範囲において、同比表面積が基準比表面積の1~1.034倍となり、基準多孔質アルミナとほぼ同等の耐熱性が可能となる。また、SiO
2添加率Xsが3質量%から1質量%まで低下しても、BaO添加率Xbが、3質量%≦Xb≦10質量%の範囲において、同比表面積が基準比表面積の1~1.414倍となり、基準多孔質アルミナとほぼ同等またはそれ以上の耐熱性が可能となる。また、SiO
2添加率Xsが3質量%から2質量%まで低下しても、BaO添加率Xbが、1質量%≦Xb≦14質量%の範囲において、同比表面積が基準比表面積の1~1.655倍となり、基準多孔質アルミナとほぼ同等またはそれ以上の耐熱性が可能となる。また、SiO
2添加率Xsが3質量%の場合は、BaO添加率Xbが、0.5質量%≦Xb≦14質量%の範囲において、同比表面積が基準比表面積の1.207~1.724倍となり、基準多孔質アルミナより20%以上高い耐熱性が可能となる。特に、SiO
2添加率Xsが1~3質量%の範囲において、BaO添加率Xbを5質量%近傍に近付けることで、基準比表面積の1.4~1.7倍程度の比表面積の改善が得られ、耐熱性の更なる改善が可能となる。
【0094】
以上より、1200℃30時間の熱処理後の比表面積が基準比表面積以上となるSiO2添加率XsとBaO添加率Xbの第1有効範囲は、概ね以下のようになる。
0.7質量%≦Xs<1質量%、且つ、5質量%≦Xb≦10質量%、または、
1質量%≦Xs<2質量%、且つ、3質量%≦Xb≦10質量%、または、
2質量%≦Xs≦3質量%、且つ、1質量%≦Xb≦14質量%。
【0095】
但し、上述の第1有効範囲外であっても、例えば、SiO
2添加率Xsが3質量%、BaO添加率Xbが0.5質量%の評価用サンプルSK(3,0.5)の同比表面積は、基準比表面積より大きくなっており、
図11の太線枠の近傍では、1200℃30時間の熱処理後の比表面積が基準比表面積以上となる可能性はある。
【0096】
[2.4]耐コーキング性の評価結果:
図12に、ニーディング法で調製された1つの評価用サンプル及び5つの比較用サンプルの固体酸量及び固体塩基量を測定した結果を示す。使用した評価用サンプル及び比較用サンプルは、SK(1,7)、SK(0,0)、SK(1,0)、SK(3,0)、SK(5,0)、SK(0,7)である。
【0097】
図13に、ニーディング法で調製された評価用サンプル及び比較用サンプルの固体酸量を、サンプル数を増して測定した結果を示す。サンプル数は、評価用サンプルが15個、比較用サンプルが9個であり、SiO
2添加率及びBaO添加率の範囲は、0≦Xs≦5、0≦Xb≦14と広範囲に及んでいる。
【0098】
図12より、BaO添加率Xbが0質量%の比較用サンプルでは、
図2に示した測定結果と同様、SiO
2添加率Xsの増加に伴い、固体酸量が増加して、固体塩基量が減少している。これに対して、BaO添加率Xbが7質量%のバリウムを添加した評価用サンプルSK(1,7)と比較用サンプルSK(0,7)では、同じSiO
2添加率Xsの比較用サンプルSK(1,0)及びSK(0,0)に比べて固体酸量が減少し、固体塩基量が増加している。評価用サンプルSK(1,7)の固体酸量は、SiO
2添加率XsとBaO添加率Xbが0質量%の比較用サンプルSK(0,0)の固体酸量と同等レベル以下まで減少している。
【0099】
図13より、SiO
2添加率Xsが0質量%から5質量%の範囲では、SiO
2添加率Xsが同じ場合、BaO添加率Xbが0質量%から14質量%まで増加するに伴い、固体酸量が単調に減少していることが確認された。また、BaO添加率Xbが0質量%から14質量%の範囲では、BaO添加率Xbが同じ場合、SiO
2添加率Xsが0質量%から5質量%まで増加するに伴い、固体酸量が単調に増加していることが確認された。
【0100】
更に、
図13より、SiO
2添加率Xsが3質量%以下、BaO添加率Xbが14質量%以下の範囲内では、本アルミナの固体酸量は、基準多孔質アルミナに当たる比較用サンプルSK(3,0)の固体酸量未満となり、基準多孔質アルミナに対して耐コーキング性が改善されることが分かる。
【0101】
[2.5]評価結果のまとめ:
図8及び
図12より、評価用サンプルSK(1,7)は、基準多孔質アルミナに相当する比較用サンプルSK(3,0)に対して、1200℃5時間及び1200℃30時間の各熱処理後において比表面積が向上し、固体酸量が減少していることが確認でき、シリカと酸化バリウムの混合添加が耐熱性向上と耐コーキング性向上の両方に効果的であることが確認された。
【0102】
更に、
図11及び
図13より、SiO
2添加率Xsが3質量%以下、BaO添加率Xbが14質量%以下の範囲内において、本アルミナの1200℃30時間の熱処理後における比表面積が比較用サンプルSK(3,0)の比表面積(基準比表面積)以上となり、且つ、本アルミナの固体酸量が比較用サンプルSK(3,0)の固体酸量以下となるSiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの有効範囲が広範囲に存在していることが分かり、当該有効範囲内でのシリカと酸化バリウムの混合添加が耐熱性向上と耐コーキング性向上の両方に効果的であることが確認された。尚、当該有効範囲は、上述した本アルミナの1200℃30時間の熱処理後における比表面積が基準比表面積以上となるSiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの第1有効範囲である。
【0103】
更に、
図11より明らかなように、上述の有効範囲に対して、SiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの範囲を、1質量%≦Xs≦3質量%、3質量%≦Xb≦10質量%に縮小することで、本アルミナの1200℃30時間の熱処理後における比表面積が更に増大し、耐コーキング性を維持したまま、耐熱性の更なる向上が図れる。
【0104】
[3]第1タイプの含浸法で調製された本アルミナの耐熱性及び耐コーキング性の評価:
[3.1]評価用サンプル及び比較用サンプルの調製:
既製の多孔質アルミナとして日本軽金属製C20を使用し、アルコキシシラン溶液とバリウム化合物の水溶液として、目的とするSiO2添加率及びBaO添加率に応じた量のTEOS溶液と硝酸バリウム水溶液を使用して、上述のステップ#I11及びステップ#I12の各処理を行い、本アルミナの評価用サンプルを得た。
【0105】
比較用のサンプルとして、SiO2添加率だけが0質量%、BaO添加率だけが0質量%、SiO2添加率とBaO添加率の両方が0質量%の3種類の比較用サンプルも用意した。上述のステップ#I11において、SiO2添加率が0質量%の比較用サンプルではTEOS溶液を使用せず、BaO添加率が0質量%の比較用サンプルでは硝酸バリウム水溶液を使用せず、含浸処理を行った。評価用サンプル及び比較用サンプルは、記号SI(Xs,Xb)で表記する。XsはSiO2添加率(質量%)、XbはBaO添加率(質量%)を示す。
【0106】
[3.2]耐熱性の評価結果:
図14に、第1タイプの含浸法で調製された評価用サンプル及び比較用サンプルに対して、1200℃30時間の熱処理後の比表面積を測定した結果を示す。サンプル数は、評価用サンプルが20個、比較用サンプルが3個であり、SiO
2添加率及びBaO添加率の範囲は、0≦Xs≦3、0≦Xb≦14である。
【0107】
図14より、SiO
2添加率Xsが0.7質量%以上3質量%以下、BaO添加率Xbが1質量%以上14質量%以下の範囲内において、1200℃30時間の熱処理後も比表面積が、基準多孔質アルミナに当たる比較用サンプルSI(3,0)の比表面積(基準比表面積に相当)以上となるSiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの第2有効範囲が広範囲に存在していることが分かる(
図14の太線枠で囲まれた領域)。当該第2有効範囲は、
図11に示すニーディング法で調製された評価用サンプルに対する第1有効範囲と一致している。また、同じSiO
2添加率Xsにおいて、BaO添加率Xbが1質量%から増加すると、同比表面積は、基準比表面積を超えて極大値に到達して、その後、基準比表面積以下にまで低下する点、同比表面積が基準比表面積以上となるBaO添加率Xbの範囲は、SiO
2添加率Xsが大きいほど広くなる点も、
図11に示す測定結果と一致している。
【0108】
従って、
図11に示すニーディング法で調製された評価用サンプルに対する耐熱性に関する説明は、
図14に示す第1タイプの含浸法で調製された評価用サンプルに対しても、そのまま妥当する。
【0109】
[3.3]耐コーキング性の評価結果:
図15に、第1タイプの含浸法で調製された評価用サンプル及び比較用サンプルの固体酸量の測定結果を示す。サンプル数は、評価用サンプルが12個、比較用サンプルが8個であり、SiO
2添加率及びBaO添加率の範囲は、0≦Xs≦5、0≦Xb≦20である。
【0110】
図15より、SiO
2添加率Xsが0質量%から5質量%の範囲では、SiO
2添加率Xsが同じ場合、BaO添加率Xbが0質量%の比較用サンプルの固体酸量に対して、BaO添加率Xbが0質量%から20質量%まで増加するに伴い、固体酸量が単調に減少していることが確認された。このように、BaO添加率Xbの増加に伴い固体酸量が単調に減少する点は、
図13に示すニーディング法で調製された評価用サンプルの場合と一致する。
【0111】
更に、
図15より、SiO
2添加率Xsが3質量%以下、BaO添加率Xbが14質量%以下の範囲内では、
図13に示すニーディング法で調製された評価用サンプルと同様、第1タイプの含浸法で調製された本アルミナにおいても、固体酸量は、基準多孔質アルミナに当たる比較用サンプルSI(3,0)の固体酸量未満となり、基準多孔質アルミナに対して耐コーキング性が改善されることが分かる。
【0112】
[3.4]評価結果のまとめ:
図14及び
図15より、
図11及び
図13に示すニーディング法で調製された評価用サンプルと同様、第1タイプの含浸法で調製された本アルミナにおいても、SiO
2添加率Xsが3質量%以下、BaO添加率Xbが14質量%以下の範囲内において、本アルミナの1200℃30時間の熱処理後における比表面積が比較用サンプルSI(3,0)の比表面積(基準比表面積)以上となり、且つ、本アルミナの固体酸量が比較用サンプルSI(3,0)の固体酸量以下となるSiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの有効範囲が、広範囲に存在していることが分かる。この結果、当該有効範囲内でのシリカと酸化バリウムの混合添加が耐熱性向上と耐コーキング性向上の両方に効果的であることが確認された。尚、当該有効範囲は、上述した本アルミナの1200℃30時間の熱処理後における比表面積が基準比表面積以上となるSiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの第2有効範囲である。
【0113】
上述のように、調製方法に依らず、SiO
2添加率XsとBaO添加率Xbの同じ有効範囲(第1有効範囲及び第2有効範囲と同じ)において、シリカと酸化バリウムの混合添加による耐熱性向上と耐コーキング性向上の両立が図れる。これは、調製方法がニーディング法であれ、含浸法であれ、1000℃で焼成したサンプル中に含まれる成分が同一であることが寄与している。そして、当該サンプルを1200℃で長時間焼成すると、シリカとアルミナ、酸化バリウムとアルミナの固相反応が始まる。上述のように、バリウム単独の添加では、焼結抑制の要となるバリウムヘキサアルミネートの生成よりもγ-アルミナのα化が速く、高温熱処理によって比表面積が減少する。また、シリカ添加は焼結初期段階では、或る程度はα化を遅らせることができるが、やはり1200℃の長時間焼成では、α化を防ぎきれない。一方、シリカと酸化バリウムの混合添加によって、シリカが初期のα化を遅らせ、続いてバリウムヘキサアルミネートの生成によってα-アルミナの生成が抑制される結果、比表面積を高く保つことができると考えられる。これらの傾向は、
図8、
図9及び
図10から説明できる。
【0114】
[4]本アルミナの調製方法の別実施態様:
上記実施形態では、本アルミナの調製方法として、ニーディング法、第1及び第2タイプの含浸法について説明したが、本アルミナの調製方法は、SiO2添加率及びBaO添加率を精度良く制御できる調製方法であれば、特定の調製方法に限定されるものではない。本アルミナの他の調製方法として、沈殿法、ゾルゲル法等による調製方法が想定される。以下、沈殿法による調製方法について簡単に説明する。
【0115】
[4.1]沈殿法による本アルミナの調製:
図16に示すように、沈殿法による本アルミナの調製方法は、大別すると、アルコキシシランと水及びアルコールを含む混合溶媒と無機酸とを含むアルコキシシラン溶液と、バリウム化合物の水溶液を、アルミニウム化合物及び水を含むアルミニウム溶液と混合して、アルミニウム化合物、アルコキシシラン、及び、バリウム化合物が混合溶媒に溶解している混合溶液を調製する工程(ステップ#P1)と、混合溶媒中で、水酸化アルミニウムをケイ素化合物と共沈させて第1の沈殿物を形成させる工程(ステップ#P2)と、一旦、沈殿物を含む溶液を60℃以下まで冷却してから炭酸アンモニウムを加えて、バリウムを炭酸塩として沈殿させて第2の沈殿物を形成させる工程(ステップ#P3)と、バリウム化合物を含む沈殿物を吸引濾過により濾別洗浄し、濾別洗浄した沈殿物を乾燥及び焼成して、酸化アルミニウム、シリカ及び酸化バリウムを含む多孔質アルミナ(本アルミナ)を形成させる工程(ステップ#P4)と、を備えて構成される。
【0116】
ステップ#P1で使用されるアルコキシシラン溶液、アルミニウム溶液、及び、バリウム化合物の水溶液は、上述のニーディング法のステップ#K1で使用されるアルコキシシラン溶液、アルミニウム溶液、及び、ステップ#K3で使用されるバリウム化合物の水溶液と同じであり、重複する説明は割愛する。尚、
図16では、アルコキシシラン溶液としてTEOS溶液が、バリウム化合物の水溶液として硝酸バリウム水溶液が、例示されている。また、ステップ#P2は、基本的に、上述のニーディング法のステップ#K2と同じであり、重複する説明は割愛する。しかし、ステップ#P2においては、バリウム化合物が、水酸化バリウムとして水酸化アルミニウム及びケイ素化合物と共沈しないため、ステップ#P3を要する。
【0117】
ステップ#P3において、沈殿物を含む溶液を60℃以下まで冷却するのは、炭酸アンモニウムが60℃以上では炭酸ガスとアンモニア、水に分解するため、当該分解を回避するためである。
【0118】
[5]本アルミナの変形例:
本アルミナは、例えば、上述したニーディング法、含浸法、沈殿法等により、SiO2添加率及びBaO添加率が上述した有効範囲内となるように調製されたアルミナにシリカと酸化バリウムの2種類の酸化物が混合添加された多孔質アルミナである。従って、調製された本アルミナの全量に対して、SiO2添加率及びBaO添加率は平均的に上述した有効範囲内にある。
【0119】
しかしながら、SiO2添加率及びBaO添加率が上述した有効範囲内にない多孔質アルミナ(アルミナ単体、アルミナにシリカのみが添加された多孔質アルミナ、アルミナに酸化バリウムのみが添加された多孔質アルミナ、アルミナにシリカと酸化バリウムが添加された多孔質アルミナ、アルミナにシリカと酸化バリウム以外の酸化物が添加された多孔質アルミナ、等)の異種多孔質アルミナが、本アルミナと混合され、部分的或いは局所的に存在している場合において、仮に、本アルミナと異種多孔質アルミナの全量に対して、SiO2添加率及びBaO添加率が平均的に上述した有効範囲外となっていても、本アルミナが、当該異種多孔質アルミナと分離して存在し所期の特性(1200℃30時間熱処理後の比表面積、固体酸量)を有する場合は、本アルミナとして存在する部分は、当然に、耐熱性と耐コーキング性に優れた多孔質アルミナを提供するという所期の効果を奏し得る。従って、本アルミナの一実施態様として、本アルミナは、上述の異種多孔質アルミナが部分的或いは局所的に存在している形態を取り得る。
【0120】
更に、本アルミナは、SiO2添加率及びBaO添加率が上述した有効範囲内にあり、所期の特性(1200℃30時間熱処理後の比表面積、固体酸量)を有する限りにおいて、アルミナにシリカと酸化バリウム以外の成分(酸化物等)が、シリカと酸化バリウムに比して少量添加されていてもよい。
【0121】
[6]本アルミナの応用例:
本アルミナは、上述したように優れた耐熱性を有するため、触媒活性成分を担持する触媒担体、フィルター等として有用である。更に、本アルミナは、上述したように優れた耐熱性に加えて、耐コーキング性にも優れているため、水蒸気改質反応等の炭化水素を用いた反応で使用する触媒担体として好適である。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、酸化アルミニウムにシリカと酸化バリウムを添加した多孔質アルミナ、及び、当該多孔質アルミナを担体とする触媒に、好適に使用される。