(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得方法、SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体のモニタリング方法、COVID-19の重症化リスクの判定を補助する方法、試薬キット、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得装置及びCOVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20241205BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/569 L
(21)【出願番号】P 2021026649
(22)【出願日】2021-02-22
【審査請求日】2024-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】満屋 裕明
(72)【発明者】
【氏名】前田 賢次
(72)【発明者】
【氏名】濱田 哲暢
(72)【発明者】
【氏名】野田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山下 和人
(72)【発明者】
【氏名】新 勇介
(72)【発明者】
【氏名】井出 信幸
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0386766(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03715847(EP,A1)
【文献】Xuemei Liua et al.,Patterns of IgG and IgM Antibody Response in COVID-19 Patients,Emerging Microbes and Infections,2020年06月09日,Vol.9,DOI: 10.1080/22221 751.2020.1773324
【文献】Huan Ma et al.,Serum IgA, IgM, and IgG Responses in COVID-19,Cellular and Molecular Immunology,2020年05月28日,Vol.17,pp.773-775,DOI: 10.1038/s41423-020-0474-z
【文献】Hongyan Hou et al.,Detection of IgM and IgG Antibodies in Patients with Coronavirus Disease 2019,Clinical and Translational Immunology,2020年05月06日,Vol.9,e1136,DOI: 10.1002/cti2.1136
【文献】Xintian Liu et al.,Serum IgM against SARS-CoV-2 correlates with in-hospital mortality in severe/critical patients with COVID-19 in Wuhan, China,Aging,2020年07月06日,Vol.12, No.13,pp.12432-12440,DOI: 10.18632/aging.103417
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
COVID-19
患者である被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体を測定することを含み、
前記IgM抗体の測定により得られた値が
所定の閾値以上である場合、
前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19
が重症化
することが示唆され、
前記IgM抗体の測定により得られた値が前記所定の閾値未満である場合、前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19が重症化しないことが示唆される、
COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得方法。
【請求項2】
COVID-19
患者である被検者から
第1の時点において採取された
第1の検体
と、前記第1の時点とは異なる第2の時点において前記被検者から採取された第2の検体とを用い、前記各検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体を測定することを含み、
前記第1の検体及び前記第2の検体のうち少なくとも1つの検体において、前記IgM抗体の測定により得られた値が
所定の閾値以上である場合、
前記少なくとも1つの検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19
が重症化
することが示唆され、
前記第1の検体及び第2の検体において、前記IgM抗体の測定により得られた値が所定の閾値未満である場合、前記第1の検体及び前記第2の検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19が重症化しないことが示唆される、
SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体のモニタリング方法。
【請求項3】
COVID-19
患者である被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体を測定する工程と、
前記IgM抗体の測定により得られた値
が所定の閾値以上である場合、
前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19
が重症化
すると判定
し、前記IgM抗体の測定により得られた値が前記所定の閾値未満である場合、前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19が重症化しないと判定する工程と
を含む、COVID-19の重症化リスクの判定を補助する方法。
【請求項4】
前記検体が、全血、血漿又は血清である請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記被検者が、呼吸不全のない中等症又は呼吸不全のある中等症のCOVID-19患者である請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
COVID-19の重症化が、人工呼吸管理を含む集中治療管理が必要な状態又は体外式膜型人工肺の導入が必要な状態となることである請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体と特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法に用いられる試薬キット。
【請求項8】
プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、前記メモリには、下記のステップ:
COVID-19
患者である被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体の測定により得られた値を取得するステップと、
前記値が所定の閾値以上である場合、前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19が重症化すると判定し、前記値が前記所定の閾値未満である場合、前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19が重症化しないと判定するステップと、
前記
判定の結果を出力するステップと
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されて
いる、
COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得装置。
【請求項9】
前記被検者が、呼吸不全のない中等症又は呼吸不全のある中等症のCOVID-19患者である請求項
8に記載の装置。
【請求項10】
COVID-19の重症化が、人工呼吸管理を含む集中治療管理が必要な状態又は体外式膜型人工肺の導入が必要な状態となることである請求項
8又は9に記載の装置。
【請求項11】
コンピュータに読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムが、下記のステップ:
COVID-19
患者である被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体の測定により得られた値を取得するステップと、
前記値が所定の閾値以上である場合、前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19が重症化すると判定し、前記値が前記所定の閾値未満である場合、前記検体を採取した後に前記被検者のCOVID-19が重症化しないと判定するステップと、
前記
判定の結果を出力するステップと
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されて
いる、
COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記被検者が、呼吸不全のない中等症又は呼吸不全のある中等症のCOVID-19患者である請求項
11に記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
COVID-19の重症化が、人工呼吸管理を含む集中治療管理が必要な状態又は体外式膜型人工肺の導入が必要な状態となることである請求項
11又は12に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COVID-19(Coronavirus disease 2019)の重症化リスクに関する情報の取得方法に関する。本発明は、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)のS抗原に対するIgM抗体の測定値のモニタリング方法に関する。本発明は、COVID-19の重症化リスクの判定を補助する方法に関する。本発明は、これらの方法に用いられる試薬キットに関する。本発明は、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得装置に関する。本発明は、COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19患者は、多くの場合は軽症で入院の必要はないが、一部の患者は重症化し、入院して治療を受ける必要がある。COVID-19が最も重症化した場合、当該患者に対しては人工呼吸管理などの高度な治療を優先的に行う必要がある。そのため、COVID-19の重症化を予測する手段のニーズは高い。非特許文献1には、COVID-19患者を軽症、中等症及び重症に分類して、各患者の血清中の種々のサイトカインを測定したところ、重症患者群のIL(Interleukin)-6及びIL-10の測定値が、軽症及び中等症の患者群に比べて有意に高いことが記載されている。この結果から、非特許文献1では、IL-6及びIL-10が、COVID-19の重症化の予測マーカーになり得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Han H.ら, Profiling serum cytokines in COVID-19 patients reveals IL-6 and IL-10 are disease severity predictors, Emerg Microbes Infect., 2020, vol.9, pp.1123-1130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1では、COVID-19の重症化に関連するバイオマーカーとして、SARS-CoV-2感染により患者に生じる炎症性サイトカインに着目している。一方、SARS-CoV-2も含め、一般にウイルスに感染すると、患者の体内では当該ウイルスのタンパク質(抗原)に対する抗体が生じることが知られている。本発明者らは、バイオマーカーとして、SARS-CoV-2感染により患者に生じる、SARS-CoV-2抗原に対する抗体に着目した。本発明は、検体におけるSARS-CoV-2抗原に対する抗体の測定値を指標として、COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するための新たな手段を提供することを目的とする。すなわち、本発明の課題は、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得方法、SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体のモニタリング方法、COVID-19の重症化リスクの判定を補助する方法、試薬キット、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得装置及びCOVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体を測定することを含み、該IgM抗体の測定により得られた値が、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となる、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得方法を提供する。
【0006】
本発明は、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から複数の時点において採取された検体を用い、各検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体を測定することを含み、該IgM抗体の測定により得られた値が、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となる、SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体のモニタリング方法を提供する。
【0007】
本発明は、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体を測定する工程と、該IgM抗体の測定により得られた値に基づいて、被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定する工程とを含む、COVID-19の重症化リスクの判定を補助する方法を提供する。
【0008】
本発明は、SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体と特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む、上記の方法に用いられる試薬キットを提供する。
【0009】
本発明は、プロセッサ及びプロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、メモリには、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体の測定により得られた値を取得するステップと、この値を出力するステップとをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されており、上記の値が、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となる、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得装置を提供する。
【0010】
本発明は、コンピュータに読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムが、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から採取された検体に含まれるSARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体の測定により得られた値を取得するステップと、この値を出力するステップとをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されており、上記の測定値が、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となる、COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図1B】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図1C】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
【
図2】本実施形態の取得装置の一例を示す概略図である。
【
図3】本実施形態の取得装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4A】本実施形態の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図4B】本実施形態の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図4C】本実施形態の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態のCOVID-19の重症化リスクに関する情報の取得方法(以下、「取得方法」ともいう)では、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から採取された検体に含まれる、SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体(以下、「S-IgM」ともいう)を測定する。本実施形態においてSARS-CoV-2は、最初にゲノム配列が明らかにされたウイルス(Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 isolate Wuhan-Hu-1, GenBankのアクセッション番号:MN908947.3)だけでなく、その亜種も包含する。
【0014】
本実施形態における被検者としては、SARS-CoV-2に感染した被検者及びCOVID-19の罹患が疑われる被検者が挙げられる。SARS-CoV-2に感染した被検者は、PCR検査、抗原検査などの公知の検査でSARS-CoV-2が検出されたことにより感染が確認された者をいう。SARS-CoV-2に感染した被検者は、COVID-19を発症した者(COVID-19患者)及び無症状の者を含む。被検者がCOVID-19患者である場合、その重症度は、軽症、呼吸不全のない中等症、又は呼吸不全のある中等症であることが好ましい。軽症とは、例えば酸素飽和度(SpO2)が96%以上であり、呼吸器症状がなく、咳のみで息切れがない状態をいう。呼吸不全のない中等症とは、例えばSpO2が93%より高く且つ96%未満であり、息切れがあり、肺炎が見られる状態をいう。呼吸不全のある中等症とは、例えばSpO2が93%以下であり、酸素投与が必要な状態をいう。
【0015】
COVID-19の罹患が疑われる被検者は、COVID-19で見られる症状が出ているがSARS-CoV-2の検査を受けていない者、SARS-CoV-2感染者又はCOVID-19患者と接触した者及び接触が疑われる者を含む。COVID-19の罹患が疑われる被検者は、SARS-CoV-2の感染が疑われる者ともいえる。COVID-19で見られる症状としては、例えば発熱、咳、鼻水、咽頭痛などの風邪症状及び/又は息苦しさ、労作時の息切れ、味覚及び嗅覚の異常などが挙げられる。感染者又は患者との接触とは、例えば、感染者又は患者と1m以内の距離で会話をすること、感染者又は患者が存在する密閉空間内に滞在すること、感染者又は患者の唾液、せき等の飛沫を浴びることなどの行為をいう。
【0016】
検体は、被検者から採取され且つS-IgM抗体を含み得る試料であれば、特に限定されない。そのような試料としては、例えば血液試料、リンパ液、脳脊髄液、唾液、鼻咽頭拭い液、喀痰、気管支肺胞洗浄液、尿、大便などが挙げられる。血液試料としては、例えば、被検者から採取した血液(全血)、及びその血液から調製した血漿又は血清が挙げられる。本実施形態では、全血、血漿及び血清が好ましく、血漿及び血清が特に好ましい。
【0017】
検体に細胞などの不溶性の夾雑物が含まれる場合、例えば遠心分離、ろ過などの公知の手段により、検体から夾雑物を除去してもよい。また、検体は、必要に応じて適切な水性媒体で希釈してもよい。そのような水性媒体は、後述のバイオマーカーの測定を妨げないかぎり特に限定されず、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有するかぎり特に限定されない。そのような緩衝液は、例えばHEPES、MES、PIPESなどのグッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス塩酸緩衝液、トリス緩衝生理食塩水(TBS)などが挙げられる。
【0018】
本実施形態の取得方法では、バイオマーカーとしてS-IgMが測定される。S-IgMは、SARS-CoV-2に感染したことにより被検者の体内に生じる、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対するIgM抗体である。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質はS抗原とも呼ばれる。SARS-CoV-2のS抗原自体は公知であり、そのアミノ酸配列は例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)などの公知のデータベースから取得できる。
【0019】
本明細書において「SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体を測定する」とは、S-IgMの量又は濃度を反映する値を取得すること、及び、S-IgMの量又は濃度の値を決定することを含む。「S-IgMの量又は濃度を反映する値」は、後述の標識物質の種類に依る値であり、標識物質の種類に応じた測定装置により取得できる。そのような値としては、例えば、発光強度の測定値、蛍光強度の測定値、放射線強度の測定値、光学密度の測定値などが挙げられる。「S-IgMの量又は濃度の値」は、S-IgMの量又は濃度を反映する値と、キャリブレータの測定結果とに基づいて決定できる。キャリブレータとは、対照試料の一種であり、被検物質又はそれに対応する標準物質を既知濃度で含む、被検物質の定量用試料である。本実施形態では、例えば、市販のSARS-CoV-2 IgM陽性検体(血漿又は血清)をキャリブレータとして用いることができる。
【0020】
本実施形態では、S-IgMの測定により得られた値(以下、「S-IgMの測定値」ともいう)は、検体中のS-IgMの量又は濃度を反映する値であり得る。また、S-IgMの測定値は、キャリブレータの測定結果に基づいて決定された、検体中のS-IgMの量又は濃度の値であり得る。
【0021】
S-IgMを測定する手段は特に限定されず、公知の測定方法から適宜選択できる。本実施形態では、S-IgMと特異的に結合可能な物質を用いて、S-IgMを捕捉することを含む方法が好ましい。このような物質により捕捉されたS-IgMを公知の方法で検出することにより、検体に含まれるS-IgMを測定できる。
【0022】
S-IgMと特異的に結合可能な物質としては、例えばSARS-CoV-2のS抗原(以下、単に「S抗原」ともいう)、抗体、アプタマーなどが挙げられる。それらの中でもS抗原が好ましく、特にS抗原のS1サブユニットが好ましい。S抗原は、天然に存在するタンパク質でもよいし、組換え型タンパク質であってもよい。天然のS抗原は、例えば、SARS-CoV-2陽性検体から常法により単離できる。組換え型S抗原は、DNA組み換え技術及びその他の分子生物学的技術などの公知の方法により得ることができる。まず、S抗原をコードするポリヌクレオチドを、公知のタンパク質発現用ベクターに組み込んで、S抗原発現ベクターを得る。得られたS抗原発現ベクターを適当な宿主細胞に形質転換又はトランスフェクションすることにより、組換え型S抗原を得ることができる。S抗原をコードするポリヌクレオチドの塩基配列自体は公知であり、NCBIなどの公知のデータベースから取得できる。タンパク質発現用ベクターの種類は特に限定されず、哺乳動物細胞用ベクターであってもよいし、大腸菌用ベクターであってもよい。
【0023】
S抗原を用いてS-IgMを測定する方法は特に限定されず、酵素結合免疫吸着法(ELISA法)、酵素免疫測定法、免疫比濁法、免疫比ろう法、ラテックス凝集法などの公知の免疫学的測定法から適宜選択できる。本実施形態ではELISA法が好ましい。ELISA法の種類は、サンドイッチ法、競合法、直接法、間接法などのいずれであってもよいが、サンドイッチ法が特に好ましい。一例として、サンドイッチELISA法により、検体中のS-IgMを測定する場合について、以下に説明する。
【0024】
S抗原を用いるサンドイッチELISA法によるS-IgMの測定は、S抗原とS-IgMとの複合体の形成工程と、該複合体の検出工程とを含む。複合体の形成工程では、S-IgMと、S抗原と、S-IgMを検出するための抗体(以下、「S-IgM検出用抗体」ともいう)とを含む複合体を固相上に形成する。このサンドイッチELISA法において、S抗原は、S-IgMを捕捉するための物質として機能する。検体がS-IgMを含む場合、当該検体とS抗原とS-IgM検出用抗体とを混合することにより、S-IgMとS抗原とS-IgM検出用抗体とを含む複合体が形成され得る。そして、複合体を含む溶液と、S抗原を固定できる固相とを接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成できる。あるいは、S抗原があらかじめ固定された固相を用いてもよい。すなわち、検体と、S抗原が固定された固相と、S-IgM検出用抗体とを接触することにより、上記の複合体を固相上に形成できる。別の実施形態では、複合体の形成工程では、S-IgMと、S-IgMを検出するためのS抗原と、S-IgMを捕捉するための抗体(以下、「S-IgM捕捉用抗体」ともいう)とを含む複合体を固相上に形成する。
【0025】
S-IgM検出用抗体及びS-IgM捕捉用抗体は、S-IgM又はヒトIgMと特異的に結合できる抗体であれば特に限定されない。本明細書において「抗体」との用語は、全長の抗体及びそのフラグメントを包含する。抗体のフラグメントとしては、例えば還元型IgG(rIgG)、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、一本鎖抗体(scFv)、ダイアボディ、トリアボディなどが挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれであってもよい。S-IgMと特異的に結合できる抗体は、例えば、Kohler G.及びMilstein C., Nature, vol.256, pp.495-497, 1975に記載の方法により、当該抗体を産生するハイブリドーマを作製して取得してもよい。ヒトIgMと特異的に結合できる抗体自体は公知であり、市販されている。
【0026】
固相は、S抗原又はS-IgM捕捉用抗体を固定可能な不溶性の担体であればよい。S抗原又はS-IgM捕捉用抗体の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、S抗原又はS-IgM捕捉用抗体と固相とを直接結合させてもよいし、S抗原又はS-IgM捕捉用抗体と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば、物理的吸着、架橋剤による共有結合などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、S抗原又はS-IgM捕捉用抗体と固相との間を介在する物質の組み合わせを用いて、S抗原又はS-IgM捕捉用抗体を固相上に固定することもできる。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチン類とアビジン類、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。ビオチン類とは、ビオチン、並びにデスチオビオチン及びオキシビオチンなどのビオチン類縁体を含む。アビジン類とは、アビジン、並びにストレプトアビジン及びタマビジン(登録商標)などのアビジン類縁体を含む。ハプテンと抗ハプテン抗体の組み合わせとしては、2, 4-ジニトロフェニル(DNP)基を有する化合物と抗DNP抗体との組み合わせが挙げられる。例えば、あらかじめビオチン類(又はDNP基を有する化合物)で修飾したS抗原又はS-IgM捕捉用抗体と、あらかじめアビジン類(又は抗DNP抗体)を結合した固相とを用いることにより、ビオチン類とアビジン類との結合(又はDNP基と抗DNP抗体との結合)を介して、S抗原又はS-IgM捕捉用抗体を固相上に固定できる。
【0027】
固相の素材は特に限定されず、例えば有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましく、磁性粒子が特に好ましい。
【0028】
本実施形態においては、複合体の形成工程と複合体の検出工程との間に、複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、S-IgMと結合しなかったS抗原及び検出用抗体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0029】
複合体の検出工程では、固相上に形成された複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、S-IgMの測定値を取得できる。例えば、S-IgM検出用抗体として、標識物質で標識した抗体を用いた場合は、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、S-IgMの測定値を取得できる。あるいは、S-IgM検出用抗体に対する標識二次抗体を用いた場合も、同様にしてS-IgMの測定値を取得できる。
【0030】
本明細書において「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましく、定量的に検出することが特に好ましい。
【0031】
標識物質は特に限定されず、例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。標識物質としては、酵素が好ましく、ALPが特に好ましい。
【0032】
シグナルを検出する方法自体は、当該技術において公知である。本実施形態では、上記の標識物質に由来するシグナルの種類に応じた測定方法を適宜選択すればよい。例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を反応させることによって発生する光、色などのシグナルを、分光光度計などの公知の装置を用いて測定することにより行うことができる。
【0033】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0034】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0035】
シグナルの検出結果は、S-IgMの測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、S-IgMの測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。陰性対照試料は適宜選択することができ、例えば、S-IgMを含まない緩衝液、SARS-CoV-2に感染したことのない健常人から得た検体などが挙げられる。
【0036】
本実施形態では、磁性粒子に固定されたS抗原と、酵素標識された検出用抗体とを用いるサンドイッチELISA法により、検体に含まれるS-IgMを測定することが好ましい。測定は、HISCL(登録商標)シリーズ(シスメックス株式会社製)などの市販の測定装置を用いて行ってもよい。
【0037】
後述の実施例に示されるように、COVID-19が重症化した患者群の血清中S-IgM濃度は、COVID-19が重症化しなかった患者群に比べて有意に高かった。このように、S-IgMの測定結果は、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標として利用できる。本実施形態では、被検者のCOVID-19の重症化リスクとは、被検者から検体を採取した日から所定の期間(例えば1日~1ヶ月)の経過後に、該被検者のCOVID-19が重症化する可能性である。一実施形態では、COVID-19の重症化とは、人工呼吸管理を含む集中治療管理が必要な状態、又は体外式膜型人工肺(ECMO:Extracorporeal membrane oxygenation)の導入が必要な状態となることを指す。
【0038】
本実施形態では、S-IgMの測定値と所定の閾値とを比較することにより、S-IgMの測定値を、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標として利用してもよい。一実施形態では、S-IgMの測定値が所定の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆される。さらなる実施形態では、S-IgMの測定値が所定の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0039】
さらなる実施形態では、S-IgMと、他のバイオマーカーとを組み合わせてもよい。他のバイオマーカーとしては、例えばIL-4が挙げられる。IL-4は、Th2サイトカインの一つであり、IgMからIgGへのクラススイッチに関与することが知られている。IL-4のアミノ酸配列は、例えばNCBIなどの公知のデータベースから取得できる。一実施形態は、SARS-CoV-2に感染した被検者から採取された検体に含まれるバイオマーカーを測定することを含み、前記バイオマーカーの測定により得られた値が、前記被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となり、前記バイオマーカーが、SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体及びIL-4を含む、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得方法である。
【0040】
別の実施形態では、S-IgMに替えてIL-4を測定してもよい。この場合、IL-4の測定値が、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となる。一実施形態は、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から採取された検体に含まれるIL-4を測定することを含み、前記IL-4の測定により得られた値が、前記被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となる、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得方法である。
【0041】
本明細書において「IL-4を測定する」とは、IL-4の量又は濃度を反映する値を取得すること、及び、IL-4の量又は濃度の値を決定することを含む。「IL-4の量又は濃度を反映する値」とは、上記の標識物質の種類に依る値であり、標識物質の種類に応じた測定装置により取得できる。「IL-4の量又は濃度の値」は、IL-4の量又は濃度を反映する値と、キャリブレータの測定結果とに基づいて決定できる。本実施形態では、例えばIL-4の組換え型タンパク質をキャリブレータとして用いることができる。
【0042】
本実施形態では、IL-4の測定により得られた値(以下、「IL-4の測定値」ともいう)、検体中のIL-4の量又は濃度を反映する値であり得る。また、IL-4の測定値は、キャリブレータの測定結果に基づいて決定された、検体中のIL-4の量又は濃度の値であり得る。
【0043】
IL-4を測定する手段は特に限定されず、公知の測定方法から適宜選択できる。本実施形態では、IL-4と特異的に結合可能な物質を用いて、IL-4を捕捉することを含む方法が好ましい。このような物質により捕捉されたIL-4を、公知の方法で検出することにより、検体に含まれるIL-4を測定できる。IL-4と特異的に結合可能な物質としては、例えば抗体、アプタマーなどが挙げられる。それらの中でも抗体が特に好ましい。IL-4と特異的に結合する抗体自体は公知であり、市販されている。抗体を用いてIL-4を測定する方法は特に限定されず、公知の免疫学的測定法から適宜選択できる。本実施形態ではELISA法が好ましい。
【0044】
一例として、サンドイッチELISA法によるIL-4の測定について、以下に説明する。この測定は、抗体とIL-4との複合体の形成工程と、該複合体の検出工程とを含む。複合体の形成工程では、IL-4と、IL-4を捕捉するための抗体(以下、「捕捉用抗体」ともいう)と、IL-4を検出するための抗体(以下、「IL-4検出用抗体」ともいう)とを含む複合体を固相上に形成する。固相の詳細は上記のとおりである。検体がIL-4を含む場合、当該検体と捕捉用抗体とIL-4検出用抗体とを混合することにより、IL-4と捕捉用抗体とIL-4検出用抗体とを含む複合体が形成され得る。そして、複合体を含む溶液と、捕捉用抗体を固定できる固相とを接触させることにより、上記の複合体を固相上に形成できる。あるいは、捕捉用抗体があらかじめ固定された固相を用いてもよい。すなわち、捕捉用抗体が固定された固相と、検体と、IL-4検出用抗体とを接触することにより、上記の複合体を固相上に形成できる。なお、捕捉用抗体及びIL-4検出用抗体がいずれもモノクローナル抗体の場合は、互いのエピトープが異なっていることが好ましい。
【0045】
IL-4と捕捉用抗体とIL-4検出用抗体とを含む複合体の検出工程の詳細は、S-IgMの測定について述べたことと同様である。好ましい実施形態では、標識物質で標識したIL-4検出用抗体を用い、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、IL-4の測定値を取得する。あるいは、IL-4検出用抗体に対する標識二次抗体を用いた場合も、同様にしてIL-4の測定値を取得できる。シグナルの検出結果は、IL-4の測定結果として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、IL-4の測定値として用いることができる。
【0046】
本実施形態では、磁性粒子に固定された捕捉用抗体と、酵素標識された検出用抗体とを用いるサンドイッチELISA法により、検体に含まれるIL-4を測定することが好ましい。
【0047】
S-IgMと同様に、COVID-19が重症化した患者群の血清中IL-4濃度は、COVID-19が重症化しなかった患者群に比べて有意に高かった。よって、IL-4の測定結果も、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標として利用できる。
【0048】
さらなる実施形態では、S-IgM及びIL-4の測定値と、それぞれに対応する所定の閾値とを比較することにより、S-IgM及びIL-4の測定値を、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標として利用してもよい。以下、S-IgMに対応する所定の閾値を「第1の閾値」と呼び、IL-4に対応する所定の閾値を「第2の閾値」と呼ぶ。一実施形態では、S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるか、又はIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆される。一実施形態では、S-IgMの測定値が第1の閾値未満であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0049】
さらなる実施形態では、取得方法は、被検者から採取された検体に含まれるS-IgM及びIL-4を測定することを含み、S-IgM及びIL-4の測定値により、被検者のCOVID-19の重症化リスクを3段階に分類する。具体的には、下記のとおりである:
・S-IgMの測定値が第1の閾値以上であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆され;
・S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるか、又はIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが中程度であることが示唆され;
・S-IgMの測定値が第1の閾値未満であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0050】
別の実施形態では、IL-4の測定値と第2の閾値とを比較することにより、IL-4の測定値を、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標として利用してもよい。一実施形態では、IL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆される。一実施形態では、IL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0051】
S-IgM及びIL-4のそれぞれに対応する閾値は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、複数のSARS-CoV-2感染者又はCOVID-19患者から検体を採取し、検体中のS-IgM及びIL-4を測定する。検体採取から所定の期間(例えば2週間)の経過後、COVID-19が重症化したか否かを確認する。S-IgM及びIL-4の測定値のデータを、重症化した患者群のデータと、重症化しなかった患者群のデータとに分類する。そして、S-IgM及びIL-4のそれぞれについて、重症化した患者群と重症化しなかった患者群とを最も精度よく区別可能な値を求め、その値を閾値として設定する。閾値の設定においては、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮することができる。
【0052】
一実施形態では、S-IgMに対応する所定の閾値は、例えば35 AU/mL以上42 AU/mL以下、好ましくは37 AU/mL以上41 AU/mL以下、より好ましくは38 AU/mL以上41 AU/mL以下の範囲から設定される。IL-4については、重症化リスクが低い被検者ではほとんど検出されないと考えられるため、IL-4に対応する所定の閾値は、例えば測定キットの検出限界とすることができる。具体的には、IL-4に対応する所定の閾値は、0.1 pg/mL以上2 pg/mL以下、好ましくは0.5 pg/mL以上1.5 pg/mL以下、より好ましくは0.8 pg/mL以上1.2 pg/mL以下の範囲から設定される。
【0053】
医師などの医療従事者は、S-IgM及び/又はIL-4の測定値による示唆と他の情報とを組み合わせて、被検者のCOVID-19が重症化するリスクを判定してもよい。ここで、「他の情報」とは、肺のX線画像又はCT画像の所見、その他の医学的所見を含む。
【0054】
本実施形態では、S-IgM及び/又はIL-4の測定値の経時変化を取得してもよい。この場合、S-IgM及び/又はIL-4の測定値の経時変化が、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標となる。測定値の経時変化は、同一の被検者から定期的又は不定期に複数回採取した検体中のS-IgM及び/又はIL-4の測定値の推移を示す情報であれば、特に限定されない。そのような経時変化としては、例えば、複数の測定値から算出される値(例えば、任意の2つの時点で被検者から採取した2つの検体の測定値の差、比など)、測定値の記録(例えば、測定値の表や測定値をプロットしたグラフなど)などが挙げられる。
【0055】
本実施形態では、S-IgM及び/又はIL-4の測定値により、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いと示唆された場合、該被検者には、重症COVID-19に対する医学的介入を行うことができる。医学的介入の例は、薬剤の投与、外科手術、免疫療法、遺伝子治療、酸素供給処置、人工心肺装置を用いた処置などが含まれる。薬剤は、COVID-19に対する公知の治療薬又はその候補となる医薬から適宜選択できる。例えば、抗ウイルス作用のある薬剤、炎症を軽減する薬剤、ACE阻害薬などが挙げられる。具体的には、ファビピラビル、ロピナビル、リトナビル、ナファモスタット、カモスタット、レムデシビル、リバビリン、イベルメクチン、シクレソニド、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、インターフェロン、トシリズマブ、サリルマブ、トファシチニブ、バリシチニブ、ルキソリチニブ、アカラブルチニブ、ラブリズマブ、エリトラン、イブジラスト、HLCM051、LY3127804などが挙げられる。また、別の実施形態では、薬剤はワクチンである。ワクチンの例としては、ウイルスベクターワクチン、mRNAワクチン、DNAワクチン、組換えタンパク質ワクチン、VLPワクチン、不活化ワクチンなどが挙げられる。
【0056】
一実施形態は、被検者のCOVID-19の重症化リスクの判定を補助する方法である(以下、「判定方法」ともいう)。この方法では、本実施形態の取得方法と同様にして、被検者から採取された検体に含まれるS-IgMを測定する。そして、S-IgMの測定により得られた値に基づいて、被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定する。例えば、S-IgMの測定値と所定の閾値とを比較し、その比較結果に基づいて、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いか又は低いかを判定してもよい。S-IgMに対応する所定の閾値の詳細は上記のとおりである。
【0057】
一実施形態では、S-IgMの測定値が所定の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いと判定され得る。さらなる実施形態では、S-IgMの測定値が所定の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いと判定され得る。
【0058】
さらなる実施形態では、判定方法は、被検者から採取された検体に含まれるS-IgM及びIL-4を測定することを含み、S-IgM及びIL-4の測定値と、それぞれに対応する所定の閾値とを比較することにより、被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定してもよい。一実施形態では、S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるか、又はIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いと判定され得る。一実施形態では、S-IgMの測定値が第1の閾値未満であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いと判定され得る。
【0059】
一実施形態では、判定方法は、被検者から採取された検体に含まれるS-IgM及びIL-4を測定することを含み、S-IgM及びIL-4の測定値により、被検者のCOVID-19の重症化リスクを下記のとおり判定してもよい:
・S-IgMの測定値が第1の閾値以上であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いと判定し;
・S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるか、又はIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが中程度であると判定し;
・S-IgMの測定値が第1の閾値未満であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いと判定する。
【0060】
別の実施形態では、IL-4の測定値と第2の閾値とを比較することにより、被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定してもよい。一実施形態では、IL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いと判定し得る。一実施形態では、IL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いと判定し得る。
【0061】
本実施形態では、COVID-19の重症化リスクが高いと判定された被検者に、急性腎障害又は肺の線維化に対する医学的介入を行うことができる。一実施形態は、重症化リスクの高いCOVID-19患者の治療方法(以下、「治療方法」ともいう)に関する。本実施形態の治療方法は、SARS-CoV-2に感染した被検者又はCOVID-19の罹患が疑われる被検者から採取された検体に含まれるS-IgMを測定する工程と、前記S-IgMの測定により得られた値に基づいて、前記被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定する工程と、前記リスクが高いと判定された被検者に、重症COVID-19に対する医学的介入を行う工程とを含む。被検者、検体、S-IgM及びその測定、医学的介入などの詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0062】
さらなる実施形態では、治療方法は、被検者から採取された検体に含まれるS-IgM及びIL-4を測定することを含み、S-IgM及びIL-4の測定値と、それぞれに対応する所定の閾値とを比較することにより、被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定してもよい。IL-4とその測定、及び判定の詳細は、本実施形態の取得方法及び判定方法について述べたことと同じである。
【0063】
一実施形態は、SARS-CoV-2のS抗原に対するIgM抗体のモニタリング方法(以下、「モニタリング方法」ともいう)である。本実施形態のモニタリング方法では、被検者から複数の時点において採取された検体を用い、各検体に含まれるS-IgMを測定する。ここで、被検者、検体、S-IgM及びその測定の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同じである。
【0064】
本実施形態において、複数の時点は、2以上の互いに異なる時点であればよい。例えば、複数の時点は、第1の時点と、該第1の時点とは異なる第2の時点とを含む。第1の時点は、特に限定されず、任意の時点である。例えば、第1の時点は、被検者がSARS-CoV-2に感染していることが判明した時点、被検者にCOVID-19の症状が現れた時点、被検者が入院した時点などであってもよい。第2の時点は、第1の時点とは異なる限り、特に限定されない。好ましくは、第2の時点は、第1の時点から1ヶ月以内の期間が経過した時点である。例えば、第2の時点は、第1の時点から0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、12時間、15時間、18時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、12日、2週間、3週間、4週間又は1ヶ月が経過した時点である。
【0065】
本実施形態において「被検者から複数の時点において採取された検体」は、複数の時点のそれぞれにおいて同一の被検者から採取された検体である。例えば、被検者から複数の時点において採取された検体は、第1の時点において被検者から採取した第1の検体と、該第1の時点とは異なる第2の時点において該被検者から採取された第2の検体とを含む。本実施形態のモニタリング方法では、検体を採取する度にS-IgMを測定してもよいし、採取した各検体を保存しておき、それらをまとめて測定してもよい。
【0066】
本実施形態のモニタリング方法では、同一の被検者におけるS-IgMの測定値がモニターされ、COVID-19の重症化リスクの指標となる。各検体のS-IgMの測定値と所定の閾値とを比較することにより、S-IgMの測定値を、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標として利用してもよい。所定の閾値の詳細は、本実施形態の取得方法について述べたことと同様である。
【0067】
一実施形態では、複数の時点のうち少なくとも1つの時点において、S-IgMの測定値が所定の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆される。さらなる実施形態では、複数の時点のうち全ての時点において、S-IgMの測定値が所定の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0068】
さらなる実施形態では、判定方法は、被検者から複数の時点において採取された各検体に含まれるS-IgM及びIL-4を測定することを含み、S-IgM及びIL-4の測定値と、それぞれに対応する所定の閾値とを比較することにより、被検者のCOVID-19の重症化リスクを判定してもよい。一実施形態では、複数の時点のうち少なくとも1つの時点において、S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるか、又はIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆される。一実施形態では、複数の時点のうち全ての時点において、S-IgMの測定値が第1の閾値未満であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0069】
一実施形態では、モニタリング方法は、被検者から採取された検体に含まれるS-IgM及びIL-4を測定することを含み、S-IgM及びIL-4の測定値により、被検者のCOVID-19の重症化リスクを3段階に分類する。具体的には、下記のとおりである:
・複数の時点のうち少なくとも1つの時点において、S-IgMの測定値が第1の閾値以上であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆され;
・複数の時点のうち少なくとも1つの時点において、S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるか、又はIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが中程度であることが示唆され;
・複数の時点のうち全ての時点において、S-IgMの測定値が第1の閾値未満であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0070】
別の実施形態では、複数の時点において採取した各検体のIL-4の測定値と第2の閾値とを比較することにより、IL-4の測定値を、被検者のCOVID-19の重症化リスクの指標として利用してもよい。一実施形態では、複数の時点のうち少なくとも1つの時点において、IL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆される。一実施形態では、複数の時点のうち全ての時点において、IL-4の測定値が第2の閾値未満である場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いことが示唆される。
【0071】
本実施形態のモニタリング方法を終了する条件は、特に限定されず、医師などの医療従事者が適宜決定してもよい。例えば、被検者から複数の時点において採取された検体のS-IgM及び/又はIL-4の測定値により、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いと示唆された場合、本実施形態のモニタリング方法を終了してもよい。この場合、該被検者には、重症COVID-19に対する医学的介入を行うことが好ましい。医学的介入の詳細は上記のとおりである。あるいは、被検者から複数の時点において採取された検体のS-IgM及び/又はIL-4の測定値により、被検者のCOVID-19の重症化リスクが低いと示唆され、且つ、該被検者にCOVID-19の症状が認められない場合、本実施形態のモニタリング方法を終了してもよい。
【0072】
上記の各実施形態では、S-IgM及びIL-4の測定値が、それぞれに対応する閾値と同じである場合、被検者のCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆又は判定されるとしたが、当該リスクが低いことが示唆又は判定されてもよい。
【0073】
一実施形態は、上記の本実施形態の取得方法、判定方法、モニタリング方法又は治療方法に用いるための試薬キットである。本実施形態の試薬キットは、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬を含む。さらなる実施形態では、試薬キットは、IL-4と特異的に結合可能な物質を含む試薬さらに含んでもよい。別の実施形態では、試薬キットは、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬に替えて、IL-4と特異的に結合可能な物質を含む試薬さらに含んでもよい。S-IgM及びIL-4のそれぞれと特異的に結合可能な物質については、上記のとおりである。
【0074】
本実施形態では、試薬キットは、各試薬を収容した容器が箱に梱包されて、ユーザーに提供されてもよい。箱には、添付文書を同梱していてもよい。添付文書には、試薬キットの構成、各試薬の組成、使用方法などが記載されていてもよい。本実施形態の試薬キットの一例を、
図1Aに示す。
図1Aにおいて、11は、試薬キットを示し、12は、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬を収容した容器を示し、13は、梱包箱を示し、14は、添付文書を示す。
【0075】
さらなる実施形態では、試薬キットは、IL-4と特異的に結合可能な物質を含む試薬をさらに含んでもよい。この場合、添付文書には、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬と、IL-4と特異的に結合可能な物質を含む試薬とについて、試薬組成、使用方法などが記載される。別の実施形態では、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬に替えて、IL-4と特異的に結合可能な物質を含む試薬が含まれてもよい。この場合、添付文書には、IL-4と特異的に結合可能な物質を含む試薬について、試薬組成、使用方法などが記載される。
【0076】
好ましい実施形態では、本実施形態の試薬キットは、S-IgMを捕捉するためのS抗原及びS-IgM検出用抗体を含む。S抗原は、固相、好ましくは磁性粒子に固定されていてもよい。この実施形態の試薬キットの一例を、
図1Bに示す。
図1Bにおいて、21は、試薬キットを示し、22は、S-IgMを捕捉するためのS抗原を含む試薬を収容した第1容器を示し、23は、S-IgM検出用標識抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、24は、梱包箱を示し、25は、添付文書を示す。
【0077】
さらなる実施形態では、試薬キットは、IL-4の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬をさらに含んでもよい。別の実施形態では、S抗原を含む試薬及びS-IgM検出用標識抗体を含む試薬に替えて、IL-4の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬が含まれてもよい。
【0078】
上記のいずれの試薬キットにおいても、キャリブレータを含むことが好ましい。キャリブレータとしては、例えばS-IgMの定量のためのキャリブレータ(S-IgM用キャリブレータ)及びIL-4の定量のためのキャリブレータ(IL-4用キャリブレータ)が挙げられる。S-IgM用キャリブレータは、例えば、S-IgMを含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、SARS-CoV-2 IgM陽性検体(血漿又は血清)とを備えていてもよい。IL-4用キャリブレータは、例えば、IL-4を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、IL-4を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。
【0079】
キャリブレータを含む試薬キットの一例を、
図1Cに示す。
図1Cにおいて、31は、試薬キットを示し、32は、S抗原を含む試薬を収容した第1容器を示し、33は、S-IgM検出用標識抗体を含む試薬を収容した第2容器を示し、34は、S-IgMを含まない緩衝液を収容した第3容器を示し、35は、SARS-CoV-2 IgM陽性検体を収容した第4容器を示し、36は、梱包箱を示し、37は、添付文書を示す。S-IgMを含まない緩衝液及びSARS-CoV-2 IgM陽性検体は、S-IgM用キャリブレータとして用いることができる。
【0080】
さらなる実施形態では、試薬キットは、IL-4の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬と、IL-4用キャリブレータとをさらに含んでもよい。別の実施形態では、S抗原を含む試薬、S-IgM検出用標識抗体を含む試薬及びS-IgM用キャリブレータに替えて、IL-4の捕捉用抗体及び検出用標識抗体のそれぞれを含む試薬と、IL-4用キャリブレータとが含まれてもよい。
【0081】
本実施形態には、上記の試薬キットの製造のための、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬の使用も含まれる。一実施形態は、COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するための試薬キットの製造のための試薬の使用であって、前記試薬が、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬である。さらなる実施形態は、COVID-19の重症化リスクの判定を補助するための試薬キットの製造のための試薬の使用であって、前記試薬が、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬である。さらなる実施形態は、S-IgMをモニタリングするための試薬キットの製造のための試薬の使用であって、前記試薬が、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬である。これらの実施形態において、試薬は、IL-4と特異的に結合可能な物質を含む試薬をさらに含んでもよい。あるいは、試薬は、S-IgMと特異的に結合可能な物質を含む試薬に替えて、IL-4と特異的に結合可能な物質を含んでもよい。
【0082】
一実施形態は、COVID-19の重症化リスクに関する情報の取得装置である。また、別の実施形態は、COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラムである。
【0083】
本実施形態の取得装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態は、この例に示される形態のみに限定されない。
図2に示された取得装置10は、免疫測定装置20と、コンピュータシステム30とを含む。
【0084】
免疫測定装置の種類は特に限定されず、S-IgM及びIL-4の測定方法に応じて適宜選択できる。S-IgM及びIL-4をELISA法により測定する場合、免疫測定装置は、用いた標識物質に基づくシグナルの検出が可能であれば特に限定されない。
図2に示される例では、免疫測定装置20は、S抗原又は抗IL-4抗体を固定した磁性粒子、及び酵素標識されたS-IgM又はIL-4検出用抗体を用いるサンドイッチELISA法により生じる化学発光シグナルを検出可能な市販の自動免疫測定装置である。
【0085】
免疫測定装置20は、検出部201を含む。検体、上記の磁性粒子を含む試薬及び検出用抗体を含む試薬を免疫測定装置20にセットすると、免疫測定装置20は、各試薬を用いて抗原抗体反応を実行し、S-IgM又はIL-4と特異的に結合した酵素標識抗体に基づく化学発光シグナルを検出部201により検出し、検出した化学発光シグナルを、その強度を示すデジタル信号に変換し、得られたデジタル信号(以下、「光学的情報」という)をコンピュータシステム30に送信する。
【0086】
コンピュータシステム30は、コンピュータ本体301と、表示入力部302とを含む。コンピュータシステム30は、免疫測定装置20から光学的情報を受信する。そして、コンピュータシステム30のプロセッサは、光学的情報に基づいて、ソリッドステートドライブ(以下、「SSD」という)313にインストールされた、COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラムを実行する。表示入力部302は、表示部の表面に入力部が配置されたタッチパネルであり得、表示部と入力部を兼ねる。タッチパネルとしては、例えば静電容量方式などの周知の方式のタッチパネルが挙げられる。なお、
図2に示された取得装置10は、免疫測定装置20とコンピュータシステム30とが一体的に構成されているが、免疫測定装置20とコンピュータシステム30とは別個の機器であってもよい。
【0087】
図3を参照して、コンピュータ本体301は、CPU(Central Processing Unit)310と、ROM(Read Only Memory)311と、RAM(Random Access Memory)312と、SSD313と、読取装置314と、通信インターフェイス315と、画像出力インターフェイス316と、入力インターフェイス317とを備えている。CPU310、ROM311、RAM312、SSD313、読取装置314、通信インターフェイス315、画像出力インターフェイス316及び入力インターフェイス317は、バス318によってデータ通信可能に接続されている。また、免疫測定装置20は、通信インターフェイス315により、コンピュータシステム30と通信可能に接続されている。
【0088】
CPU310は、ROM311又はSSD313に記憶されているプログラム及びRAM312にロードされたプログラムを実行することが可能である。CPU310は、S-IgMの測定値を算出し、表示入力部302に表示させる。
【0089】
ROM311は、マスクROM、PROM、EPROM又はEEPROMによって構成され得る。ROM311には、BIOS(Basic Input Output System)が記憶されている。
【0090】
RAM312は、SRAM又はDRAMによって構成され得る。RAM312は、ROM311及びSSD313に記録されているプログラムの読み出しに用いられる。RAM312はまた、これらのプログラムを実行するときに、CPU310の作業領域として利用される。
【0091】
SSD313は、CPU310に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラムなどのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。なお、SSDに替えてハードディスクドライブを用いてもよい。アプリケーションプログラムには、COVID-19の重症化リスクに関する情報を取得するためのコンピュータプログラムが含まれる。コンピュータプログラムの実行に用いるデータには、COVID-19の重症化リスクを判定するための閾値が含まれる。
【0092】
読取装置314は、可搬型記録媒体40に記録されたプログラム又はデータを読み取ることができる装置である。読取装置314は、例えばフレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブ、USBポート、SDカードリーダ、CFカードリーダ、又はメモリースティックリーダで構成され得る。
【0093】
通信インターフェイス315は、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどの規格に準拠した有線インターフェイスなどである。コンピュータ本体301は、通信インターフェイス315により、プリンタなどへの印刷データの送信も可能である。
【0094】
画像出力インターフェイス316は、所定の規格に準拠したインターフェイスである。所定の規格とは、D-Sub、DVI-I、DVI-D、HDMI(登録商標)、又はDisplayPortであり得る。画像出力インターフェイス316は、その規格に対応したケーブルを介して、表示入力部302に接続されている。これにより、表示入力部302は、CPU310から与えられた画像データに応じた映像信号を出力できる。表示入力部302は、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。CPU310が表示入力部302に表示させる画面は、操作ボタンなどの操作に係る要素を含む。
【0095】
入力インターフェイス317は、表示入力部302が検出するユーザーの操作をCPU310が認識できるようにするインターフェイス回路である。表示入力部302は、表示された操作ボタンなどの要素に対するユーザーの操作を検出して、検出信号を入力インターフェイス317に出力する。入力インターフェイス317は、表示入力部302を駆動し、表示入力部302からの検出信号を、例えばタッチの有無、タッチの位置などとしてCPU310が認識できるようにする。ユーザーは、表示入力部302により、コンピュータ本体301に各種の指令を入力することが可能である。
【0096】
本実施形態の取得装置10より実行される処理手順について、図面を参照して説明する。
図4Aを参照して、S-IgMの測定値を取得して出力する場合の処理手順を説明する。この例では、S抗原を固定した磁性粒子及び酵素標識されたS-IgM検出用抗体を用いるサンドイッチELISA法により生じる化学発光シグナルからS-IgMの測定値を取得し、出力する。別の実施形態では、S-IgMの測定値に替えて、IL-4の測定値を取得してもよい。
【0097】
ステップS101において、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報を受信する。ステップS102において、CPU310は、受信した光学的情報からS-IgMの測定値を取得する。具体的には、CPU310は、既知濃度のS-IgMを含有するキャリブレータを測定し、予め作成しておいた検量線に、ステップS101において取得した光学的情報を適用し、当該光学的情報をS-IgMの濃度に変換し、当該濃度を測定値として取得する。CPU310は、当該測定値をSSD313に記憶する。ステップS103において、CPU310は、S-IgMの測定値を出力する。例えば、CPU310は、S-IgMの測定値を表示入力部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。S-IgMの測定値を出力する際に、参照情報としてS-IgMに対応する所定の閾値も出力してもよい。このように、本実施形態の取得装置は、COVID-19の重症化リスクに関する情報として、S-IgMの測定値を医師などに提供できる。上記のとおり、S-IgMの測定値は、COVID-19の重症化リスクの指標となる。
【0098】
さらなる実施形態では、S-IgM及びIL-4の測定値を取得して出力する。例えば、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報(化学発光シグナル)を取得し、取得した光学的情報からS-IgM及びIL-4の測定値を算出してSSD313に記憶する。CPU310は、S-IgM及びIL-4の測定値を出力する。例えば、CPU310は、S-IgM及びIL-4の測定値を表示入力部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。S-IgM及びIL-4の測定値を出力する際に、参照情報として第1の閾値及び第2の閾値も出力してもよい。
【0099】
図4Bを参照して、S-IgMの測定値に基づいて、COVID-19の重症化リスクを判定する場合のフローについて説明する。ステップS201において、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報を受信する。ステップS202において、CPU310は、受信した光学的情報から、ステップS102と同様の方法によりS-IgMの測定値を取得する。CPU310は、当該測定値をSSD313に記憶する。ステップS203において、CPU310は、取得したS-IgMの測定値と、SSD313に記憶された所定の閾値とを比較する。S-IgMの測定値が所定の閾値以上であるとき、処理はステップS204に進行する。ステップS204において、CPU310は、COVID-19の重症化リスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。ステップS203において、S-IgMの測定値が閾値より低いとき、処理はステップS205に進行する。ステップS205において、CPU310は、COVID-19の重症化リスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。ステップS206において、CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示入力部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。この例では、S-IgMの測定値に替えて、IL-4の測定値を取得してもよい。このように、本実施形態の取得装置は、COVID-19の重症化リスクの判定結果を医師などに提供できる。
【0100】
図4Cを参照して、S-IgM及びIL-4の測定値に基づいて、COVID-19の重症化リスクを判定する場合のフローについて説明する。ステップS301において、CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報を受信する。ステップS302において、CPU310は、受信した光学的情報から、ステップS102と同様の方法によりS-IgM及びIL-4の測定値を取得する。CPU310は、当該測定値をSSD313に記憶する。ステップS303において、CPU310は、取得したS-IgMの測定値と、SSD313に記憶された第1の閾値とを比較する。S-IgMの測定値が第1の閾値より低いとき、処理はステップS304に進行する。ステップS304において、取得したIL-4の測定値と、SSD313に記憶された第2の閾値とを比較する。IL-4の測定値が第2の閾値より低いとき、処理はステップS305に進行する。ステップS305において、CPU310は、COVID-19の重症化リスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。
【0101】
ステップS303において、S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるとき、処理はステップS306に進行する。ステップS304において、IL-4の測定値が第2の閾値以上であるとき、処理はステップS306に進行する。ステップS306において、CPU310は、COVID-19の重症化リスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。ステップS307において、CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示入力部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。この例では、ステップS303及びステップS304の処理は順序を入れ替えることができる。
【0102】
別の実施形態では、取得装置は、S-IgMの測定値が第1の閾値以上であり、且つIL-4の測定値が第2の閾値以上である場合、COVID-19の重症化リスクが高いと判定してもよい。この場合のフローについて説明する。CPU310は、免疫測定装置20から光学的情報を受信し、受信した光学的情報から、ステップS102と同様の方法によりS-IgM及びIL-4の測定値を取得してSSD313に記憶する。CPU310は、S-IgMの測定値と第1の閾値とを比較する。S-IgMの測定値が第1の閾値以上であるとき、CPU310は、IL-4の測定値と第2の閾値とを比較する。IL-4の測定値が第2の閾値以上であるとき、CPU310は、COVID-19の重症化リスクが高いとの判定結果をSSD313に記憶する。S-IgMの測定値が第1の閾値より低いとき、又はIL-4の測定値が第2の閾値より低いとき、CPU310は、COVID-19の重症化リスクが低いとの判定結果をSSD313に記憶する。CPU310は、判定結果を出力する。例えば、CPU310は、判定結果を表示入力部302に表示したり、プリンタで印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。
【0103】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「HISCL」はシスメックス株式会社の登録商標である。
【実施例】
【0104】
実施例1
(1) 検体
PCR検査によりSARS-CoV-2の感染が確認された24名の患者から得た血清を検体として用いた。血清は、各患者が入院した日に採取した血液から調製した。患者の入院後の最終的な病状について、24名の患者のうち、5名が「Critical」となり、19名が「Severe」となった。「Critical」とは、人工呼吸管理を含む集中治療管理が必要であるか又はECMOの導入が検討される重症肺炎のある症例であり、「Severe」とは、酸素投与が必要な肺炎(SpO2≦93%)のある中等症の症例である。
【0105】
(2) 検体中のバイオマーカーの測定
(2.1) SARS-CoV-2抗原に対する抗体の測定
SARS-CoV-2抗原に対する抗体として、SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質(N抗原)に対するIgG抗体及びIgM抗体(以下、それぞれ「N-IgG」及び「N-IgM」と呼ぶ)と、スパイクタンパク質(S抗原)に対するIgG抗体及びIgM抗体(以下、それぞれ「S-IgG」及び「S-IgM」と呼ぶ)との血清中の濃度を測定した。測定は、全自動免疫測定装置HISCL-5000(シスメックス株式会社)により行った。測定には、下記の試薬等を用いた。
【0106】
・SARS-CoV-2抗原が固定された磁性粒子を含む試薬(第1試薬)
SARS-CoV2のゲノムRNA配列(NCBIのアクセッション番号:YP_009724397及びYP_009724390)に基づいて、SARS-CoV-2のN抗原及びS抗原(S1サブユニット)のそれぞれを次のようにして調製した。各配列にHisタグ配列を付加してpcDNA3.4ベクター(Thermo Fisher Scientific社)にクローニングし、得られた発現ベクターをExpi293細胞(Thermo Fisher Scientific社)にトランスフェクションした。6日後、培養上清を回収した。培養上清中の組換え型抗原をHisTrap HPカラム(Cytiva社)及びHiLoad 26/600 Superdex 200 pgカラム(Cytiva社)を用いて精製した。精製した組換え型N抗原及びS抗原のそれぞれを、1-エチルl-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(Dojindo Molecular Technologies Inc.)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(Sigma-Aldrich社)を用いて、磁性粒子の表面に固定した。各抗原が固定された磁性粒子を10 mM HEPES緩衝液(pH 7.5)で3回洗浄した。洗浄後の磁性粒子を、磁性粒子の濃度が0.48~0.52 mg/mLとなるように10 mM HEPES(pH 7.5)に添加して、組換え型N抗原が固定された磁性粒子を含む試薬と、組換え型S抗原が固定された磁性粒子を含む試薬とを得た。
【0107】
・ヒトIgG又はヒトIgMに対するALP標識抗体を含む試薬(第2試薬)
ヒトIgGに特異的に結合する抗体を慣用の手法によりALPで標識して、1%BSA及び0.5%カゼイン含有バッファーに溶解した。ヒトIgMに特異的に結合する抗体についても同様にした。
【0108】
・測定用バッファー及びALP基質溶液
測定用バッファーとして、HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。ALPの化学発光基質の溶液として、CDP-Star(登録商標)(アプライドバイオシステムズ社)を含むHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。
【0109】
HISCL-5000による測定手順は、次のとおりであった。血清(20μL)と第1試薬(50μL)とを混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子に第2試薬(100μL)を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子に測定用バッファー(50μL)及びALP基質溶液(100μL)を添加して、化学発光強度を測定した。キャリブレータとして、SARS-CoV-2陽性検体(Cantor Bioconnect社及びTRINA BIOREACTIVES社)をリン酸緩衝液で段階希釈して用いた。キャリブレータを3回測定し、ロジスティクス回帰分析により検量線を作成した。各血清の測定で得られた化学発光強度を検量線に当てはめて、抗体の濃度を決定した。
【0110】
(2.2) IL-4の測定
Human IL-4 SimpleStep ELISAキット(ab215089, Abcam社)を用いて、血清中のIL-4濃度を測定した。希釈した標準サンプル(50μL)及び各患者の血清(50μL)をプレートの各ウェルに添加した。次に、抗体カクテル(50μL)を各ウェルに加えた。プレートを密封し、400rpmに設定したプレートシェーカー上で室温にて1時間インキュベートした。プレートを1×Wash Buffer PTで3回洗浄した。各洗浄ステップでは、Wash Buffer PTを添加し、30秒間静置した。次に、TMB Development Solution(100μL)を各ウェルに加え、プレートシェーカー上で暗所にて10分間インキュベートした。その後、Stop Solution(100μL)を各ウェルに加え、プレートシェーカーで1分間混合した。450 nmでのODをVmax microplate reader(Molecular Devices社)で測定した。標準サンプルの測定値から作成した標準曲線に基づいて、各患者の血清中のIL-4濃度を算出した。
【0111】
(3) 測定結果
抗体の測定結果を表1に示す。表中、抗体濃度の値は中央値であり、括弧内の値は分布範囲を示し、「n.s.」は有意差がなかったこと(not significant)を示す。IL-4の測定結果を表2に示す。表中、IL-4濃度の値は中央値であり、括弧内の値は分布範囲を示す。
【0112】
【0113】
【0114】
表1に示されるように、SARS-CoV-2抗原に対する4種の抗体の濃度はいずれも、Severe群に比べてCritical群において高い傾向にあった。しかし、Critical群とSevere群との間で有意差が認められた抗体は、S-IgMのみであった。この結果より、S-IgMは、COVID-19の重症化リスクを判定するためのバイオマーカーとして利用できることが示唆された。表2に示されるように、IL-4濃度は、Severe群に比べてCritical群において有意に高かった。IL-4は、IgMからIgGへのクラススイッチに重要であると考えられているところ、Critical群におけるIL-4の測定結果は、同群におけるS-IgMの測定結果と何らかの関連が考えられる。いずれにしても、IL-4もCOVID-19の重症化リスクを判定するためのバイオマーカーとして利用できることが示唆された。
【符号の説明】
【0115】
11、21、31: 試薬キット
12、22、32: 第1容器
23、33: 第2容器
34: 第3容器
35: 第4容器
13、24、36: 梱包箱
14、25、37: 添付文書
10: 取得装置
20: 免疫測定装置
30: コンピュータシステム
40: 記録媒体
201: 検出部
301: コンピュータ本体
302: 表示入力部
310: CPU
311: ROM
312: RAM
313: SSD
314: 読取装置
315: 通信インターフェイス
316: 画像出力インターフェイス
317: 入力インターフェイス
318: バス