IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
  • 特許-回転式熱交換器 図1
  • 特許-回転式熱交換器 図2
  • 特許-回転式熱交換器 図3
  • 特許-回転式熱交換器 図4
  • 特許-回転式熱交換器 図5
  • 特許-回転式熱交換器 図6
  • 特許-回転式熱交換器 図7
  • 特許-回転式熱交換器 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】回転式熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28D 11/04 20060101AFI20241205BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F28D11/04
F28D20/02 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020064475
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162233
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構先導研究プログラム、エネルギー・環境新技術先導研究プログラム、固相生成制御型回転式高耐久・高速熱交換器の研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】小野 寿光
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】相澤 直信
(72)【発明者】
【氏名】今野 花織
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-080657(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第00345312(GB,A)
【文献】特許第6630946(JP,B2)
【文献】特開昭51-094161(JP,A)
【文献】特開2011-149637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 11/04
F28D 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を回転中心として回転可能な筒状に形成され、内部を第一媒体が流通可能であり、外部に前記第一媒体と温度が異なる第二媒体が配置される伝熱筒体と、
前記伝熱筒体より径方向の内側に設けられ、前記伝熱筒体と同軸上に固定される中心部材であって、その内部を前記第一媒体が軸方向の一方から他方へ向かって流通する中心部材と、
前記中心部材の軸方向の前記一方及び前記他方の端部にそれぞれ配置された軸受と、
前記伝熱筒体の外周面に摺接する外側摺接部材と、
を備え、
前記伝熱筒体は、前記中心部材の軸方向の前記一方及び前記他方の端部に配置された前記軸受を介して、前記中心部材に対して回転可能に支持され、
前記軸受は、前記中心部材と前記伝熱筒体との間に配置されるとともに、前記伝熱筒体の内部に配置されており、
前記伝熱筒体は、前記中心部材の前記他方の端部に設けられ、前記中心部材の内部を流通する前記第一媒体を前記伝熱筒体と前記中心部材との間に供給する中継部材を有し、
前記中継部材は、前記第一媒体が流通し、かつ前記伝熱筒体の本体部とともに回転するものであって、前記第一媒体を前記中心部材の前記他方の端部よりも軸方向の前記他方側に供給することを特徴とする回転式熱交換器。
【請求項2】
前記中心部材に取り付けられ、前記伝熱筒体の内周面に摺接する内側摺接部材を有することを特徴とする請求項1に記載の回転式熱交換器。
【請求項3】
中心軸線を回転中心として回転可能な筒状に形成され、内部を第一媒体が流通可能であり、外部に前記第一媒体と温度が異なる第二媒体が配置される伝熱筒体と、
前記伝熱筒体の外周面に摺接する外側摺接部材及び前記伝熱筒体の内周面に摺接する内側摺接部材の少なくとも一方と、
前記伝熱筒体より径方向の内側において前記中心軸線と同軸上に設けられ、前記伝熱筒体を回転可能に支持する中心部材であって、その内部を前記第一媒体が軸方向の一方から他方へ向かって流通する中心部材と、
前記中心部材の軸方向の前記一方及び前記他方の端部にそれぞれ配置された軸受と、
を備え、
前記伝熱筒体は、前記伝熱筒体の軸方向の前記一方及び前記他方の端部に配置された前記軸受を介して、前記中心部材に対して回転可能に支持され、
前記軸受は、前記中心部材と前記伝熱筒体との間に配置されるとともに、前記伝熱筒体の内部に配置されており、
前記伝熱筒体は、前記中心部材の前記他方の端部に設けられ、前記中心部材の内部を流通する前記第一媒体を前記伝熱筒体と前記中心部材との間に供給する中継部材を有し、
前記中継部材は、前記第一媒体が流通し、かつ前記伝熱筒体の本体部とともに回転するものであって、前記第一媒体を前記中心部材の前記他方の端部よりも軸方向の前記他方側に供給することを特徴とする回転式熱交換器。
【請求項4】
前記内側摺接部材は、前記径方向における前記中心部材側に位置する基端部と比較して、前記伝熱筒体に摺接する先端部の方が高い柔軟性を有していることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の回転式熱交換器。
【請求項5】
前記中心部材は、
前記軸方向の一端部から前記伝熱筒体の内部に前記第一媒体を導入する導入管と、
前記軸方向の一端部に設けられ、熱交換が行われた前記第一媒体を前記伝熱筒体の内部から排出する排出管と、
を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の回転式熱交換器。
【請求項6】
前記第二媒体は、固液相変態時の潜熱を利用して蓄熱可能な潜熱蓄熱材であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の回転式熱交換器。
【請求項7】
前記伝熱筒体と同軸に設けられ、前記伝熱筒体より径方向の外側に所定の間隔をあけて配置された外筒を備え、
前記伝熱筒体と前記外筒との間に前記外側摺接部材が配置されるとともに前記第二媒体が流通することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の回転式熱交換器。
【請求項8】
前記軸方向から見て、前記外側摺接部材は、前記伝熱筒体の回転方向における上流側から下流側へ向かうにつれて、前記中心軸線と前記外側摺接部材の基端部を結ぶ直線から遠ざかるように傾斜していることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の回転式熱交換器。
【請求項9】
前記外側摺接部材を支持する底板を備え、
前記伝熱筒体は、前記底板に回転可能に支持されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の回転式熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを効率的に使用するための技術として、温度差のある流体同士の間で熱交換させ、蓄えられた熱エネルギーを段階的に放熱可能な熱交換器が知られている。特許第6630946号公報(特許文献1)には、このような熱交換器の構成として、内側に熱媒体が流通可能な伝熱筒体と、伝熱筒体の外側に配置される潜熱蓄熱材と、伝熱筒体の回転に伴って伝熱筒体の外周部と摺接する外部固定羽根と、伝熱筒体の回転に伴って伝熱筒体の内周部と摺接する内部固定羽根と、を備えた回転式熱交換器の構成が開示されている。各固定羽根は、伝熱筒体の表面に形成された凝固層を剥ぎ取ることにより、熱媒体と潜熱蓄熱材との間の伝熱抵抗を減少させ、回転式熱交換器の伝熱効率を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6630946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これらの熱交換器は、液体同士で熱交換する液-液系の他に、気体と液体とで熱交換する気-液系等、種々の媒体の組み合わせで使用される可能性がある。媒体の種類によっては、凝固層の代わりに、或いは凝固層と併せて境膜が形成される場合がある。これらの境膜も伝熱抵抗を増加させるため、伝熱筒体の外表面から剥ぎ取ることが望ましい。
しかしながら、特許文献1に記載の技術にあっては、伝熱筒体が軸方向の片側だけで支持されているため、伝熱筒体が回転する際の振れ回りにより、伝熱筒体と各固定羽根との間に隙間が生じる場合があった。隙間が生じると、伝熱筒体の外周面の凝固層や境膜等を各固定羽根により十分に剥ぎ取ることができず、凝固層や境膜等が残留し易い。このため、従来技術にあっては、凝固層や境膜等の残留を抑制し、伝熱抵抗をより減少させることにより、伝熱抵抗を向上する点において改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来技術と比較して伝熱効率をより向上した回転式熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る回転式熱交換器は、中心軸線を回転中心として回転可能な筒状に形成され、内部を第一媒体が流通可能であり、外部に第一媒体と温度が異なる第二媒体が配置される伝熱筒体と、前記伝熱筒体より径方向の内側に設けられ、前記伝熱筒体と同軸上に固定される中心部材と、前記伝熱筒体の外周面に摺接する外側摺接部材と、を備え、前記伝熱筒体は、前記中心部材の軸方向の両端部に配置された軸受を介して、前記中心部材に対して回転可能に支持されている。
【0008】
(2)上記(1)に記載の回転式熱交換器において、前記中心部材に取り付けられ、前記伝熱筒体の内周面に摺接する内側摺接部材を有することが好ましい。
【0009】
(3)本発明の一態様に係る回転式熱交換器は、中心軸線を回転中心として回転可能な筒状に形成され、内部を第一媒体が流通可能であり、外部に第一媒体と温度が異なる第二媒体が配置される伝熱筒体と、前記伝熱筒体の外周面に摺接する外側摺接部材及び前記伝熱筒体の内周面に摺接する内側摺接部材の少なくとも一方と、を備え、前記伝熱筒体は、前記伝熱筒体の軸方向の両端部において回転可能に支持されている。
【0010】
(4)上記(3)に記載の回転式熱交換器において、前記伝熱筒体より径方向の内側において前記中心軸線と同軸上に設けられ、前記伝熱筒体を回転可能に支持する中心部材を備えることが好ましい。
【0011】
(5)上記(2)又は(4)に記載の回転式熱交換器において、前記内側摺接部材は、前記径方向における前記中心部材側に位置する基端部と比較して、前記伝熱筒体に摺接する先端部の方が高い柔軟性を有していることが好ましい。
【0012】
(6)上記(1)、(2)、(4)及び(5)のいずれか一つに記載の回転式熱交換器において、前記中心部材は、前記軸方向の一端部から前記伝熱筒体の内部に前記第一媒体を導入する導入管と、前記軸方向の一端部に設けられ、熱交換が行われた前記第一媒体を前記伝熱筒体の内部から排出する排出管と、を有することが好ましい。
【0013】
(7)上記(1)から(6)のいずれか一つに記載の回転式熱交換器において、前記第二媒体は、固液相変態時の潜熱を利用して蓄熱可能な潜熱蓄熱材であることが好ましい。
【0014】
(8)上記(1)から(7)のいずれか一つに記載の回転式熱交換器において、前記伝熱筒体と同軸に設けられ、前記伝熱筒体より径方向の外側に所定の間隔をあけて配置された外筒を備え、前記伝熱筒体と前記外筒との間に前記外側摺接部材が配置されるとともに前記第二媒体が流通することが好ましい。
【0015】
(9)上記(1)から(8)のいずれか一つに記載の回転式熱交換器において、前記軸方向から見て、前記外側摺接部材は、前記伝熱筒体の回転方向における上流側から下流側へ向かうにつれて、前記中心軸線から遠ざかるように傾斜していることが好ましい。
【0016】
(10)上記(1)から(9)のいずれか一つに記載の回転式熱交換器において、前記外側摺接部材を支持する底板を備え、前記伝熱筒体は、前記底板に回転可能に支持されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来技術と比較して伝熱効率をより向上した回転式熱交換器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る回転式熱交換器の断面図である。
図2図1のII-II線に沿う断面図である。
図3】放熱試験において、伝熱筒体と内側摺接部材とが接触している場合における伝熱筒体の回転数と総括伝熱係数との関係を示すグラフである。
図4】放熱試験において、伝熱筒体と内側摺接部材との間に隙間が生じた場合における伝熱筒体の回転数と総括伝熱係数との関係を示すグラフである。
図5】第2実施形態に係る回転式熱交換器の断面図である。
図6図5のVI部拡大図である。
図7】第3実施形態に係る回転式熱交換器の軸方向と直交する平面で切った断面図。
図8】変形例に係る回転式熱交換器の軸方向と直交する平面で切った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明は図面に限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る回転式熱交換器1の断面図である。図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
図1に示す回転式熱交換器1は、温度の異なる第一媒体11及び第二媒体12間で熱交換させることにより、熱エネルギーを伝達(蓄熱及び放熱)して利用するための装置である。回転式熱交換器1は、中心部材2と、伝熱筒体3と、外筒4と、内側摺接部材5と、外側摺接部材6と、を備える。
【0021】
中心部材2は、中心軸線Cを中心とする円筒状に形成されている。中心部材2は、中心軸線Cに沿う方向を長軸方向として延びている。中心部材2は、ステンレス等の強度の高い材料により形成されている。以下の説明において、中心部材2の中心軸線Cに沿う方向を軸方向といい、軸方向と直交する方向を径方向といい、軸方向回りの方向を周方向という場合がある。
【0022】
中心部材2は、取付基部13と、中心部材本体14と、導入管15と、排出管16と、を有する。
取付基部13は、軸方向の一端部に設けられている。取付基部13は、中心軸線Cを中心とする円筒状に形成されている。取付基部13は、中心部材2よりも軸方向の一方側に設けられたハウジング20に固定されている。具体的に、ハウジング20は、中心軸線Cと同軸上に設けられた筒状突出部21を有し、筒状突出部21の内周部に取付基部13の一端部が挿入されている。取付基部13は、筒状突出部21に挿入された状態でボルト等の締結部材によりハウジング20と固定されている。なお、取付基部13は、例えば溶接等、締結以外の方法によりハウジング20に固定されてもよい。また、取付基部13及びハウジング20が一体形成されてもよい。
【0023】
中心部材本体14は、取付基部13の他端部に接続されている。中心部材本体14は、取付基部13から軸方向の他方へ向かって延びている。中心部材本体14は、取付基部13よりも直径の小さい円筒状に形成されている。このように形成された取付基部13及び中心部材本体14の内側は、第一媒体11が流通可能な空洞となっている。第一媒体11は、中心部材2の内部を軸方向の一方から他方へ向かって流通する。なお、中心部材2及び取付基部13は、例えば別々に形成された後に締結部材により互いに固定されてもよく、一体形成されていてもよい。また、取付基部13と中心部材本体14の外径を同等にしてもよい。例えば、取付基部13及び中心部材本体14の一方を軸方向に延長して取付基部13及び中心部材本体14の他方を兼ねる構成としてもよい。
【0024】
導入管15及び排出管16は、中心部材2の軸方向におけるハウジング20側の端部(一端部)に設けられている。導入管15及び排出管16は、取付基部13の内側に設けられている。導入管15は、中心部材本体14の一端部に連結されている。導入管15は、中心部材本体14の内部へ第一媒体11を供給する。排出管16は、中心部材本体14より径方向の外側において、軸方向の他方から一方へ移動してきた第一媒体11を排出する。
【0025】
図1及び図2に示すように、伝熱筒体3は、中心部材2より径方向の外側に配置されている。伝熱筒体3は、中心軸線Cと同軸な円筒状に形成されている。伝熱筒体3の軸方向に沿う長さは、中心部材2の軸方向に沿う長さより長い。伝熱筒体3より径方向の内側、すなわち伝熱筒体3と中心部材2との間は、第一媒体11が流通可能な第一領域25となっている。伝熱筒体3より径方向の外側は、第一媒体11と温度が異なる第二媒体12が流通可能な第二領域26となっている。つまり、伝熱筒体3を介して、第一媒体11と第二媒体12との間で熱交換が行われる。
【0026】
伝熱筒体3は、本体部30と、第一閉塞部材31と、第二閉塞部材32と、を有する。
本体部30は、中心軸線Cと同軸な円筒状に形成されている。本体部30は、熱伝導性が良好な材料により形成されている。伝熱筒体3の材料としては、例えばアルミニウムや銅等が挙げられる。なお、伝熱筒体3の材料としては、上述した材料以外に、例えばステンレスやチタンなどを用いてもよい。この場合、特に耐食性が要求される環境下で好適である。さらに、媒体が溶融塩等である場合には、伝熱筒体3の材料としてセラミックス等を用いてもよい。
【0027】
第一閉塞部材31は、本体部30の軸方向におけるハウジング20側の開口を閉塞している。第一閉塞部材31は、本体部30と接続されている。第一閉塞部材31と中心部材2との間の所定の箇所には、シール部27が設けられている。シール部27は、伝熱筒体3内の第一媒体11が外部に漏洩することを抑制している。
第二閉塞部材32は、本体部30の軸方向におけるハウジング20とは反対側の開口を閉塞している。第二閉塞部材32は、本体部30と接続されている。第一閉塞部材31及び第二閉塞部材32が設けられることにより、伝熱筒体3内の第一媒体11は、中心部材2の導入管15及び排出管16を通じてのみ内外と連通可能となっている。
【0028】
第二閉塞部材32は、中継部材33を有する。中継部材33は、中心部材2と同軸な筒状に形成されている。中継部材33は、第二閉塞部材32から軸方向の中心部材2側に向かって突出している。中継部材33の内周部には、詳しくは後述する第二軸受18を介して中心部材2の他端部が挿入されている。中継部材33の側部には、中継部材33の内外を連通する複数の孔34が形成されている。これらの孔34は、中心部材2の内部を流通する第一媒体11を伝熱筒体3の内部である第一領域25へ供給している。
【0029】
なお、中継部材33を設けることなく第二閉塞部材32と中心部材本体14とを直接接続してもよい。すなわち、例えば第二閉塞部材32に軸受(不図示)を設け、この軸受を介して第二閉塞部材32に対して回転可能に中心部材本体14を取り付ける構成としてもよい。この場合、中心部材本体14の側面に孔34を形成することにより、中心部材2内の第一媒体11を第一領域25へ供給できる。
【0030】
このように形成された伝熱筒体3は、中心軸線Cを回転中心として回転可能に構成されている。具体的に、図1に示すように、伝熱筒体3は、中心部材2の軸方向の両端部にそれぞれ配置された軸受17,18を介して、中心部材2に対して回転可能に支持されている。両端部に配置された軸受のうちハウジング20側に位置する第一軸受17は、例えば内輪、外輪及び転動体を有して構成される転がり軸受である。第一軸受17の内輪は、取付基部13に挿入されて固定されている。第一軸受17の外輪は、伝熱筒体3の第一閉塞部材31の内周面に固定されている。なお、第一軸受17は、環状に形成された滑り軸受であってもよい。
【0031】
両端部に配置された軸受のうちハウジング20と反対側に位置する第二軸受18は、例えば中心軸線Cと同軸上に配置された環状の滑り軸受である。第二軸受18の外周面は、伝熱筒体3の第二閉塞部材32に設けられた中継部材33に固定されている。第二軸受18の内周面には、中心部材本体14の他端部が摺接可能に挿入されている。
伝熱筒体3の外周部には、駆動ベルト22が巻回されている。駆動ベルト22は、ハウジング20に設けられたモータ23に連結されている。モータ23が駆動することにより、伝熱筒体3は、駆動ベルト22によって駆動され、中心軸線Cを中心として回転する。なお、駆動ベルト22の駆動動力は、モータに限られず、例えば水力や風力等の動力であってもよい。
【0032】
外筒4は、伝熱筒体3と同軸な円筒状に形成されている。外筒4は、伝熱筒体3より径方向の外側に所定の間隔をあけて配置されている。外筒4の内部には、第二媒体12が流通可能となっている。換言すれば、径方向において伝熱筒体3と外筒4との間は、第二媒体12が存在する第二領域26となっている。外筒4は、上部が開放され、下端部の開口が閉塞された容器状に形成されている。なお、外筒4は、例えば第二領域26の軸方向における両端部が不図示の閉塞板により閉塞されていてもよい。また、外筒4を設けずに、媒体で満たされた水槽やプール、自然の池等に回転式熱交換器1を浸けるように構成してもよい。
【0033】
図2に示すように、内側摺接部材5は、中心部材2と伝熱筒体3との間に配置されている。換言すれば、内側摺接部材5は、第一領域25に配置されている。内側摺接部材5は、中心部材2に取り付けられている。内側摺接部材5は、伝熱筒体3が回転した際に伝熱筒体3の内周面に摺接する。内側摺接部材5は、内羽固定部35と、内羽36と、を有する。
【0034】
内羽固定部35は、中心部材2の外周部に固定されている。図1に示すように、内羽固定部35の軸方向におけるハウジング20側の端部には、周方向に複数の貫通孔37が形成されている。貫通孔37は、内羽固定部35の外周部と、中心部材2に設けられた排出管16と、を連通している。よって、貫通孔37により、内羽固定部35は、第一領域25内を流通する第一媒体11を排出管16へ導いて外部へ排出している。貫通孔37は、後述する内羽36と軸方向に重ならない位置に形成されている。
【0035】
図2に示すように、内羽36は、内羽固定部35の外周部に取り付けられている。内羽36は、周方向において等間隔に複数(本実施形態では8個)設けられている。内羽36は、周方向を板厚方向とし、軸方向に長い長方形板状に形成されている。内羽36の1個の長辺が内羽固定部35の外周部と接続されている。内羽36は、軸方向から見て、内羽固定部35から径方向の外側に向かって放射状に延びている。内羽36は、伝熱筒体3の径方向に沿って延びている。内羽36は、樹脂材料やゴム等の弾性体により形成されている。より好ましくは、内羽36は、自己潤滑性を有するテフロン(登録商標)やPOM等の材料により形成されている。
【0036】
内羽36の径方向における外側に位置する先端部36aは、内羽36の径方向における内側に位置する基端部36bよりも高い柔軟性を有している。高い柔軟性を有するとは、外部から作用した応力に対して変形量が大きいことを言い、例えばブラシのように、固定端に接続された基端部よりも自由端である先端部ほど変位量が大きくなるような構成を含む。また、例えば基端部36bから先端部36aへ向かうにつれて材料の強度が低下するように形成することで先端部36aに高い柔軟性を持たせるようにしてもよい。また、先端部36aにスリットや孔等を形成することにより、先端部36aに高い柔軟性を持たせるようにしてもよい。
内羽36の先端部36aは、伝熱筒体3に摺接する。より具体的に、伝熱筒体3が回転すると、内羽36は、伝熱筒体3の回転方向Wにおける進行方向側に沿って湾曲した状態で、伝熱筒体3の内周面に摺接する。よって、内羽36は、伝熱筒体3の回転中において常に伝熱筒体3に摺接することが可能となっている。
【0037】
このように形成された内側摺接部材5は、伝熱筒体3の内周面近傍に形成される第一媒体11の境膜を、伝熱筒体3が回転することによって剥ぎ取る役割を果たすものである。これにより、伝熱筒体3の内周面近傍の伝熱抵抗が低減され、伝熱筒体3と第一媒体11との間の熱移動速度が速くなる。なお、軸方向の片側で伝熱筒体が支持される従来技術においては、伝熱筒体のブレや伝熱筒体が真円でないことにより、内側摺接部材5を極近接させて配置しても隙間が発生する場合があった。また、長期間の使用により徐々に隙間が生じる場合があった。これに対して、本実施形態の内側摺接部材5の構成によれば、内羽36が弾性変形することにより確実に隙間の発生を抑制し、常に内羽36が伝熱筒体3の表面上を擦れるように配置することが可能となる。
【0038】
外側摺接部材6は、伝熱筒体3と外筒4との間に配置されている。換言すれば、外側摺接部材6は、第二領域26に配置されている。図1に示すように、外側摺接部材6は、ハウジング20に取り付けられている。外側摺接部材6は、伝熱筒体3が回転した際に伝熱筒体3の外周面に摺接する。外側摺接部材6は、外羽固定部41と、外羽42と、を有する。
【0039】
図1及び図2に示すように、外羽固定部41は、伝熱筒体3より径方向の外側において、軸方向に沿って延びている。外羽固定部41は、周方向に複数(本実施形態では8個)設けられている。外羽固定部41は、軸方向から見て断面扇形状に形成されている。なお、外羽固定部41の断面形状は断面扇形状に限定されない。各外羽固定部41の軸方向における一端部は、ハウジング20と連結されている。これにより、伝熱筒体3が回転した際、外羽固定部41は非回転となっている。各外羽固定部41の軸方向における他端部は、共通の底板43にそれぞれ連結されている。底板43は、伝熱筒体3と同軸な環状に形成されている。底板43は、伝熱筒体3の外周部に配置される非回転の部材である。
【0040】
図2に示すように、外羽42は、各外羽固定部41に取り付けられている。本実施形態において、外羽42は、軸方向に長い長方形板状に形成されている。外羽42は、外羽固定部41から径方向の内側に向かって突出している。外羽42は、内羽36と同様に、伝熱筒体3の回転に伴って湾曲可能な樹脂材料やゴム等の弾性体により形成されている。外羽42の径方向内側に位置する先端部42aは、伝熱筒体3の外周面に近接又は摺接する。
なお、外羽42の形状は、上述した軸方向に沿う長方形板状に限定されない。外羽42は、例えば軸方向に沿って螺旋状に形成されたスクリュー形状となっていてもよい。
【0041】
このように形成された外側摺接部材6は、伝熱筒体3の外周面近傍に形成される第二媒体12の境膜を、伝熱筒体3が回転することによって剥ぎ取る役割を果たすものである。これにより、伝熱筒体3の外周面近傍の伝熱抵抗が低減され、伝熱筒体3と第二媒体12との間の熱移動速度が速くなる。また、伝熱筒体3の回転により第二媒体12の流動が生起すると、外側摺接部材6が第二媒体12を攪拌する。このため、第二媒体12全体の保有熱量を利用することが可能となり、放熱量が増大される。さらに、外側摺接部材6は、外羽42に沿って第二媒体12が流動することにより、径方向に沿う第二媒体12の流動を生じさせる。これにより、外側摺接部材6は、第二媒体12の攪拌を強化する役割を果たす。
【0042】
(回転式熱交換器を用いた熱交換)
次に、上述の回転式熱交換器1を用いた熱交換について説明する。
初めに、第一媒体11の温度が第二媒体12の温度よりも低い場合の熱交換について説明する。
本実施形態において、蓄熱時の第一媒体11は、例えば水である。第二媒体12は、例えば第一媒体11より高温な温泉の源泉水である。伝熱筒体3の内部を流通する第一媒体11は、第二媒体12と比較して不純物が少なく、受熱により凝固相等を生成することがない比較的清浄な流体とされている。よって、第一媒体11に晒される第二軸受18として、安価で水中使用が可能な滑り軸受等の部品を用いることが可能となる。
【0043】
第二媒体12は、伝熱筒体3と外筒4との間の第二領域26に存在している。第二媒体12は、不図示のポンプ等により、第二領域26内を循環又は流通している。伝熱筒体3は、中心軸線C回りに回転している。
第一媒体11は、まず、導入管15から中心部材2の内部に導入されて、中心部材2の内部を軸方向の一方から他方へ向かって移動する。中心部材2の他端部に到達した第一媒体11は、中継部材33の孔34から排出されて、伝熱筒体3より内側かつ中心部材2より外側の領域である第一領域25に流入する。次に、第一媒体11は、第一領域25内を軸方向の他方から一方へ向けて流通する。このとき、伝熱筒体3より内側を流通する第一媒体11と、伝熱筒体3より外側を流通する第二媒体12と、の間で伝熱筒体3を介して熱交換が行われる。これにより、第一媒体11の温度が上昇し、第二媒体12の温度が低下する。
【0044】
このとき、伝熱筒体3の内周面の近傍には、第一媒体11及び伝熱筒体3が相対移動することにより、相境界部分に極薄い領域として第一媒体11の境膜が形成される。同様に、伝熱筒体3の外周面の近傍には、第二媒体12の境膜及び凝固層の少なくとも一方が形成される。これらの境膜が形成された領域では、境膜が形成されない他の領域と比較して熱伝導率が低下する。
ここで、本実施形態の回転式熱交換器1では、伝熱筒体3が回転する際、伝熱筒体3の内周面を内側摺接部材5が摺接し、伝熱筒体3の外周面を外側摺接部材6が摺接する。これにより、伝熱筒体3の内周面及び外周面の境膜が内側摺接部材5及び外側摺接部材6により剥ぎ取られる。よって、熱伝導率の低下が抑制される。
【0045】
次に、伝熱筒体3の内部を流通して軸方向の一方へ移動した第一媒体11は、内羽固定部35に形成された貫通孔37を通って排出管16内へ導かれる。第一媒体11は、排出管16を通って伝熱筒体3の外部へ排出される。
なお、上述のように第二媒体12として境膜が形成される源泉水を利用する場合、外側摺接部材6としてブラシを用いてもよい。これにより、外側摺接部材6を確実に伝熱筒体3の外周面に摺接させることが可能となり、湯の華等の固体生成物が伝熱筒体3に付着して伝熱効率が低下することを抑制できる。また、外側摺接部材6を金属等、上述の弾性体よりも高硬度な材料により形成してもよい。
【0046】
次に、第一媒体11の温度が第二媒体の温度よりも高い場合の熱交換について説明する。
第一媒体11は、例えば上述の熱交換により加熱された湯である。第二媒体12は、例えば第一媒体11より低温な水である。なお、第二媒体12の温度が第一媒体11の温度より低温であれば、各媒体の種類は上述した媒体の種類に限定されない。但し、伝熱筒体3内の軸受が汚染されて動作不良となることを抑制するため、第一領域25内を流通する第一媒体11は、第二媒体12と比較して清浄な流体であることが望ましい。
【0047】
第一媒体11及び第二媒体12の流通経路は、上述した第一媒体11及び第二媒体12の流通経路と同様である。すなわち、第二媒体12は、第二領域26に存在している。第一媒体11は、導入管15から中心部材2内へ供給された後、中心部材2の内部及び伝熱筒体3の内部を順に流通し、最後に排出管16から排出される。第一媒体11が伝熱筒体3の内部を流通する際に、伝熱筒体3を介して第一媒体11と第二媒体12との間で熱交換が行われる。これにより、第一媒体11の温度が低下し、第二媒体12の温度が上昇する。
なお、第一媒体11の温度が第二媒体の温度よりも高い場合においても、上述の場合と同様、外側摺接部材6としてブラシを用いてもよい。
【0048】
(作用、効果)
次に、上述の回転式熱交換器1の作用、効果について説明する。
本実施形態の回転式熱交換器1は、内部を第一媒体11が流通可能であり、外部を第一媒体11と温度が異なる第二媒体12が流通可能な伝熱筒体3を備える。このように温度の異なる第一媒体11と第二媒体12とが伝熱筒体3の内外にそれぞれ配置されるので、伝熱筒体3を介して第一媒体11と第二媒体12との間で熱交換が行われる。伝熱筒体3の外周部には外側摺接部材6が配置されるので、伝熱筒体3が回転すると、伝熱筒体3の外周面を外側摺接部材6が摺接する。これにより、第二媒体12と伝熱筒体3との境界部分に位置する第二媒体12の境膜及び凝固層の少なくとも一方が外側摺接部材6により剥ぎ取られ、第二媒体12と伝熱筒体3との間の伝熱抵抗が減少する。よって、境膜及び凝固層の少なくとも一方の形成による伝熱効率の低下を抑制できる。
【0049】
伝熱筒体3は、伝熱筒体3と同軸上に固定された中心部材2の軸方向の両端部に配置された軸受17,18を介して、中心部材2に対して回転可能に支持されている。伝熱筒体3は軸方向の両端部で中心部材2に支持されるので、軸方向の片側のみで支持される従来技術と比較して、伝熱筒体3が回転する際の伝熱筒体3の振れ回りが抑制される。このため、従来技術と比較して、伝熱筒体3の回転時に伝熱筒体3と外側摺接部材6との間に隙間が生じることを抑制できる。これにより、外側摺接部材6を伝熱筒体3の外周面に安定的に摺接させることができる。よって、伝熱筒体3の外周面の境膜を確実に剥ぎ取ることができ、伝熱筒体3と第二媒体12との間の伝熱抵抗を減少させることができる。さらに、伝熱筒体3と外側摺接部材6とのクリアランスを制御し易くなるので、従来技術と比較して外側摺接部材6をより高強度な部材により形成することができる。よって、境膜等をより効果的に除去できる。
したがって、従来技術と比較して伝熱効率をより向上した回転式熱交換器1を提供できる。
また、伝熱筒体3の振れ回りを抑制することにより、各軸受17,18やシール部27の耐久性を向上できるとともに、回転動力すなわち消費電力を削減し、或いは騒音を低減させることができる。
【0050】
回転式熱交換器1は、伝熱筒体3の内周面に摺接する内側摺接部材5を有する。伝熱筒体3が回転すると、伝熱筒体3の内周面を内側摺接部材5が摺接することにより、第一媒体11と伝熱筒体3との境界部分に位置する第一媒体11の境膜が内側摺接部材5により剥ぎ取られる。これにより、第一媒体11と伝熱筒体3との間の伝熱抵抗が減少する。よって、境膜の形成による伝熱効率の低下を抑制できる。内側摺接部材5は中心部材2に取り付けられており、伝熱筒体3は、中心部材2に対して軸方向の両側で支持されている。これにより、伝熱筒体3が回転した場合であっても、伝熱筒体3と内側摺接部材5との間に隙間が生じることを抑制し、安定的に内側摺接部材5を伝熱筒体3に摺接させることができる。よって、境膜の残留を抑制し、伝熱抵抗を減少させることにより、回転式熱交換器1の伝熱効率を向上できる。
【0051】
ここで、内側摺接部材5の構成が回転式熱交換器1の伝熱効率に与える影響について説明する。図3は、放熱試験において、伝熱筒体3と内側摺接部材5とが接触している場合における伝熱筒体3の回転数Rと総括伝熱係数Uとの関係を示すグラフである。図4は、放熱試験において、伝熱筒体3と内側摺接部材5との間に隙間が生じた場合における伝熱筒体3の回転数Rと総括伝熱係数Uとの関係を示すグラフである。図中の総括伝熱係数Uは、総括伝熱抵抗の逆数であり、総括伝熱係数Uが大きいほど総括伝熱抵抗が小さくなり、熱交換時の伝熱効率が向上する。また、図中の複数のグラフG1~G8は、伝熱筒体3内を流通する第一媒体11の流速毎に実験した際の結果を表している。具体的に、グラフG1及びG5は流速1L/min、グラフG2及びG6は流速2L/min、グラフG3及びG7は流速5L/min、グラフG4及びG8は流速10L/min、のときの実験結果を表している。
【0052】
図3及び図4に示すように、内側摺接部材5が伝熱筒体3と接触している場合(図3参照)の総括伝熱係数Uは、内側摺接部材5と伝熱筒体3との間に隙間が生じている場合(図4参照)の総括伝熱係数Uよりも大きい。すなわち、内側摺接部材5と伝熱筒体3との間に隙間が生じた場合と比較して、内側摺接部材5が伝熱筒体3と接触している場合には、境膜がより確実に剥ぎ取られることにより、伝熱効率が向上し易い。特に低回転時において、内側摺接部材5が伝熱筒体3と接触している場合に顕著な効果を奏する。また、本実験の範囲においては、第一媒体11の流速によらずこれらの効果を奏することが分かる。
【0053】
本実施形態の内側摺接部材5によれば、内側摺接部材5の先端部36aは、基端部36bよりも柔らかいので、伝熱筒体3の回転動作に追従して先端部36aが柔軟に変形する。これにより、伝熱筒体3が回転した際、常に伝熱筒体3と内側摺接部材5とを接触させておくことができる。よって、図3及び図4の実験結果に示すように、より一層境膜の残留を抑制することで、総括伝熱係数Uを大きくできる。したがって、伝熱抵抗を減少させ、熱交換時における伝熱効率を向上することができる。
【0054】
回転式熱交換器1は、伝熱筒体3と同軸に設けられ、伝熱筒体3より径方向の外側に所定の間隔をあけて配置された外筒4を備える。伝熱筒体3及び外筒4に囲まれた第二領域26内に外側摺接部材6が配置されるとともに第二媒体12が流通するので、伝熱筒体3が回転した際に、外側摺接部材6による第二媒体12の流動が起こり易い。よって、伝熱筒体3と第二媒体12との間の伝熱効率をより一層向上できる。また、第二媒体12の熱容量を最大限有効に利用できる。
【0055】
中心部材2には、第一媒体11を導入及び排出するための導入管15及び排出管16が設けられる。中心部材2は固定されているので、例えば回転する伝熱筒体3に導入管15及び排出管16が接続される場合と比較して、容易に導入管15及び排出管16を設置することができる。また、第一媒体11の導入時及び排出時に伝熱筒体3に伝わる振動を低減できる。よって、より伝熱筒体3の振れ回りや振動等を抑制できる。なお、導入管15及び排出管16は、二重管となるように形状されてもよい。
【0056】
伝熱筒体3は、伝熱筒体3の内部に配置される中心部材2に対して回転可能に支持される。伝熱筒体3の内部には、第二媒体12と比較して清浄な第一媒体11が流通する。これにより、中心部材2と伝熱筒体3との間に配置された軸受17,18が汚染されにくくなり、寸法精度の高い転がり軸受や滑り軸受等の軸受を用いた場合であっても軸受17,18の動作を良好に保つことができる。よって、伝熱筒体3の振れ回りや振動等をより一層抑制できる。さらに、伝熱筒体3の振れ回りが抑制されることにより、これらの軸受17,18やシール部27の耐久性を向上できる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。図5は、第2実施形態に係る回転式熱交換器1の断面図である。図6は、図5のVI部拡大図である。以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
第2実施形態では、伝熱筒体3が外側摺接部材6の底板43に回転可能に支持されている点において上述した第1実施形態と相違している。
【0058】
図5及び図6に示すように、第2実施形態において、伝熱筒体3は、外側摺接部材6を支持する底板43に対して回転可能に支持されている。具体的に、底板43には、嵌合部245が設けられている。嵌合部245は、中心軸線と同軸な筒状に形成されている。嵌合部245は、底板43に接続されて固定されている。
伝熱筒体3の第二閉塞部材32は、軸方向において中継部材33と反対側に向かって突出する突起部230を有する。図6に示すように、突起部230は、嵌合部245と同軸上に設けられている。突起部230は、嵌合部245に挿入されている。突起部230と嵌合部245との間には、環状のブッシュ246が介在されている。ブッシュ246は、嵌合部245に対して突起部230が中心軸線Cを中心とする回転方向にスリップ可能となるように、摩擦係数の小さい材料により形成されている。これにより、伝熱筒体3は、第一軸受17及び第二軸受18に加えて、底板43の嵌合部245に対して突起部230がスリップすることで、第二閉塞部材32を挟んで伝熱筒体3の軸方向における内側及び外側の両方から回転可能に支持される。
【0059】
第2実施形態によれば、伝熱筒体3は、伝熱筒体3より外側に位置する底板43によって回転可能に支持される。これにより、伝熱筒体3の内側に位置する中心部材2と、伝熱筒体3の外側に位置する底板43と、によって内側及び外側からそれぞれ伝熱筒体3を支持できる。よって、より安定的に伝熱筒体3を支持し、伝熱筒体3の回転時における伝熱筒体3の振れ回りを一層抑制できる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について説明する。図7は、第3実施形態に係る回転式熱交換器の軸方向と直交する平面で切った断面図である。以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
第3実施形態では、第二媒体12として潜熱蓄熱材312が用いられる点及び外側摺接部材6が所定の角度で配置される点において上述した第1実施形態と相違している。
【0061】
第3実施形態において、第二領域26には、第二媒体12として潜熱蓄熱材312が配置されている。潜熱蓄熱材312は、固液相変態時の潜熱を利用して高密度に蓄熱可能な材料である。潜熱蓄熱材312の種類としては、固液相変態時の潜熱を利用して高密度に蓄熱することが可能な相変化物質であれば特に制限はなく、例えば、パラフィン、酢酸ナトリウム三水塩、エリスリトール、溶融塩等が挙げられる。
【0062】
蓄熱時には、潜熱蓄熱材312の凝固相は、伝熱筒体3の外周面近傍から徐々に液状に変化する。第一媒体11から供給される熱は、液状の潜熱蓄熱材312を通して凝固相に移動する。このとき、伝熱筒体3の回転によって、伝熱筒体3の外周面近傍で凝固相から液状に変化した潜熱蓄熱材312が流動する。液状化した潜熱蓄熱材312の流れによる対流伝熱速度は、静止した潜熱蓄熱材312中の伝導伝熱速度よりも大きいため、蓄熱速度が速くなる。さらに、この流れが外側摺接部材6に衝突することによって伝熱筒体3の外周面に垂直な方向の流れが生じる。これにより、潜熱蓄熱材312が均一に撹拌され、伝熱筒体3から潜熱蓄熱材312の凝固相への熱移動が促進されるので、蓄熱速度がより一層増大する。
一方、放熱時には、伝熱筒体3の外周面に付着する潜熱蓄熱材312の凝固相は、伝熱筒体3が回転することによって外側摺接部材6により伝熱筒体3の外周面から剥ぎ取られる。これにより、伝熱筒体3の外周面近傍の伝熱抵抗が低減され、伝熱筒体3と潜熱蓄熱材312との間の熱移動速度が速くなる。
【0063】
このように潜熱蓄熱材312を用いた第3実施形態において、外側摺接部材6は、潜熱蓄熱材312の凝固相を剥ぎ取る効果を高めた形状とすることが望ましい。具体的に、第3実施形態において、外側摺接部材6の外羽42は、第1実施形態における外羽42の弾性体よりも高硬度な金属や樹脂等の板状部材により形成されている。軸方向から見て、外羽42は、伝熱筒体3の回転方向Wにおける上流側から下流側へ向かうにつれて、中心軸線Cから遠ざかるように傾斜している。軸方向から見た伝熱筒体3の法線方向(径方向)に対する外羽42の傾斜角度は、潜熱蓄熱材312の種類に応じて、凝固相を剥ぎ取りやすい角度に調整されることが望ましい。
【0064】
上述したように、外側摺接部材6は、基端部42bから先端部42aへ向かうにつれて回転方向Wと対向する方向に向かって延びている。これにより、伝熱筒体3の外周面から剥ぎ取られた境膜や凝固相等が外側摺接部材6を伝って径方向の外側に移動し易い。よって、伝熱筒体3の外周面から境膜や凝固相等を剥ぎ取る際に伝熱筒体3に作用する回転抵抗を減少させることができる。伝熱筒体3の回転抵抗が減少することにより、回転式熱交換器1の駆動に係る消費電力を少なくできる。
【0065】
第二媒体12として潜熱蓄熱材312が用いられる。これにより、蓄熱時に第一媒体11から受け取った熱をより多く蓄熱することができるとともに、放熱時にはより多くの熱を放熱できる。つまり、有効熱利用率を向上できる。また、回転式熱交換器1は外側摺接部材6を有するので、例えば潜熱蓄熱材312の凝固相が生成された場合に、外側摺接部材6により伝熱筒体3の外周面に付着した凝固相を剥ぎ取ることができる。これにより、伝熱筒体3及び潜熱蓄熱材312間の伝熱効率を高い状態に維持できる。さらに、外側摺接部材6で撹拌して潜熱蓄熱材312の流動を生起させることで、伝熱速度を向上できる。
【0066】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態では、外側摺接部材6として、ブラシや板状の羽部材を使用する構成について説明したが、これに限られない。外側摺接部材6は、例えば伝熱筒体3の外周面に接触し、伝熱筒体3の回転に合わせて回転するローラ等であってもよい。これらのローラは、伝熱筒体3の軸方向又は周方向に沿って複数設けられていてもよい。
【0067】
第2実施形態において、伝熱筒体3の外周面と潜熱蓄熱材312との間に、潜熱蓄熱材312と混和せず、熱交換時(放熱時及び蓄熱時)の温度条件下で液状の充填剤が配置されていてもよい。液状充填剤としては、潜熱蓄熱材312に比べて融点が低く、密度が小さく、粘度が低く、比熱が大きく、蒸気圧が低いものが好ましい。また、液状充填剤の沸点・引火点は熱交換時の上限温度以上であることが好ましい。このような液状充填剤としては、例えば、シリコーンオイル、鉱物油、化学合成油等の各種熱媒油・潤滑油、パラフィン等のオイルが挙げられる。液状充填剤が、設けられることにより、蓄熱速度が更に速くなる。また、潜熱蓄熱材312として、酢酸ナトリウム三水塩等の水和物系の潜熱蓄熱材312を用いた場合には、水分の蒸発を抑制することができ、エリスリトール等の糖や糖アルコール系の潜熱蓄熱材312を用いた場合には、空気による酸化を抑制することができる。
【0068】
図8は、変形例に係る回転式熱交換器の軸方向と直交する平面で切った断面図である。図8では、伝熱筒体3より径方向の外側の部品を省略して図示している。上述の実施形態では、内羽36は、軸方向から見て、径方向の内側から外側へ向かって放射状に延びている構成について説明したが、内羽36の形状はこれに限定されない。例えば図8に示すように、内羽36は、軸方向から見て中心部材の接線方向に沿って延びるように形成されてもよい。このような内羽36は、中心部材2の外表面に打ち付けられることにより中心部材2に固定されてもよい。
内羽36及び外羽42の個数は上述した実施形態の個数に限定されない。
軸方向から見た外羽42の傾斜角度は、上述の角度及び図面に図示した傾斜角度に限定されない。媒体の種類によって外羽42の傾斜角度を変更してもよい。また、第3実施形態に示す潜熱蓄熱材312を用いる場合の他、例えば析出物等の固体生成物が生成される媒体を用いた場合にも適用可能である。
外側摺接部材6の外羽固定部41や底板43と、外筒4と、が接続されていてもよい。
第一軸受17及び第二軸受18の種類及び個数は上述の実施形態における種類及び個数に限定されない。
【0069】
第一媒体11及び第二媒体12として、上述した媒体以外の種類の媒体を用いてもよい。具体的に、第一媒体11及び第二媒体12の組み合わせとして、例えば水や油、温泉などの汚濁水、高粘度の油、油脂、潜熱蓄熱材等を組み合わせて用いてもよい。また、第一媒体11と第二媒体12とは異なる温度であればよく、第一媒体11に対して第二媒体12の温度が高くても低くてもよい。
【0070】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明によれば、従来技術と比較して伝熱効率をより向上した回転式熱交換器1を得ることが可能となる。
【0072】
したがって、本発明の回転式熱交換器1は、第一媒体11と第二媒体12との間の伝熱性能に優れるため、熱のカスケード利用において有効であり、例えば工業排熱を蓄熱・輸送し民生で利用する熱輸送システムや、工業排熱を蓄熱し、吸収式冷凍機などの熱源としてその場利用するシステム、単価の安い深夜電力を用いて蓄熱し、単価の高い日中に熱利用するシステム、太陽光発電の余剰電力や太陽光集光熱を用いて蓄熱し、日中・夜間を問わず太陽光が遮られた時に熱供給をする日照変動の緩和システム等の用途に有用である。さらに、潜熱蓄熱材312や温泉の源泉水等、熱交換時に凝固相や固体生成物が生成される場面において、これらの凝固相や固体生成物等が伝熱筒体3の表面に付着することを抑制できるため、潜熱蓄熱材312や温泉の源泉水等を媒体として使用する熱交換器として有用である。
【符号の説明】
【0073】
1:回転式熱交換器
2:中心部材
3:伝熱筒体
4:外筒
5:内側摺接部材
6:外側摺接部材
11:第一媒体
12:第二媒体
15:導入管
16:排出管
17;第一軸受(軸受)
18:第二軸受(軸受)
36a:先端部
36b:基端部
43:底板
312:潜熱蓄熱材
C:中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8