(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】尿道狭窄治療剤および尿道狭窄治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/06 20060101AFI20241205BHJP
A61K 35/38 20150101ALI20241205BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241205BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20241205BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20241205BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20241205BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20241205BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20241205BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K35/38
A61K47/32
A61L31/04 100
A61L31/06
A61L31/14 300
A61P13/02
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2020081974
(22)【出願日】2020-05-07
(62)【分割の表示】P 2017195713の分割
【原出願日】2017-10-06
【審査請求日】2020-05-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】518332181
【氏名又は名称】株式会社JBM
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 浩
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル アブラハム
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】前田 佳与子
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/006081(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/120493(WO,A1)
【文献】J Inj Violence Res., 2016, Vol.8 No.2, p.75-79
【文献】岡野光夫 監修,2.7 ヒドロゲル・インテリジェントヒドロゲル,バイオマテリアル-その基礎と先端研究への展開-,第1版 第1刷,株式会社化学同人,2016年02月20日,p.91-93
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 35/38
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可逆性ハイドロゲル形成性高分子含有液に、ヒト口腔粘膜細胞を、該細胞と等量の血清と共に添加したヒト用医薬組成物であって、
前記熱可逆性ハイドロゲル形成性高分子含有液の10℃における貯蔵弾性率が
43Pa
、25℃
における貯蔵弾性率が680Pa、および37℃における貯蔵弾性率が
1310Pa
であり、
前記ヒト用医薬組成物が尿道狭窄治療用であって、マイトマイシンCを含まず、
ここで、該熱可逆性ハイドロゲル形成性高分子は
、N-イソプロピルアクリルアミドとn-ブチルメタクリレートとポリエチレングリコールジメタクリレートとの重合体である熱可逆性ハイドロゲル形成性高分子である、
前記
ヒト用医薬組成物。
【請求項2】
ヒト口腔粘膜細胞が、自家細胞である、請求項
1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の
医薬組成物を含むヒト尿道狭窄治療剤。
【請求項4】
ヒト尿道狭窄治療剤が、治療剤を10℃以下の温度に冷却して尿道内面に注入し、尿道内面に留置するための、請求項
3に記載の
ヒト尿道狭窄治療剤。
【請求項5】
尿道内面が、経尿道内視鏡的手技で切開処置した部位を含む、請求項
4に記載の
ヒト尿道狭窄治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿道狭窄症の治療に有用な治療剤に関する。本発明はまた尿道狭窄症の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿道狭窄症は、前立腺肥大症や膀胱がんに対する尿道内視鏡による手術の後遺症、交通事故や労働作業中の事故の外傷、先天的な尿道の疾患である尿道下裂など、さまざまな要因で生じる。怪我や炎症により尿道粘膜に傷がついて、その傷が修復される過程で尿道粘膜や尿道粘膜を取り囲む尿道海綿体に瘢痕化が起こり、尿道が狭くなる疾患である。
【0003】
尿道狭窄症の治療方法として、外科的に尿道を再建する治療法が存在するが、侵襲性が高く長期の入院が必要とされることになるため、近年は低侵襲で簡便なブジー(尿道拡張具)やバルーンカテーテル、コールドナイフ、レーザー等を利用した経尿道内視鏡的拡張手技が実施されている(林田重昭、桐山啻夫、広中弘、吉川静、男子尿道狭窄症に対する内尿道切開術の経験、泌尿器科紀要(1972)、18(8):588-593)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】林田重昭、桐山啻夫、広中弘、吉川静、男子尿道狭窄症に対する内尿道切開術の経験、泌尿器科紀要(1972)、18(8):588-593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の治療法では、瘢痕組織化した尿道内面に上皮細胞を再建する能力が極めて低いために、尿道狭窄を再発してしまうことが問題となっている。本発明は、尿道狭窄治療において低侵襲性の経尿道内視鏡的手技で再狭窄を回避できる尿道狭窄治療剤および尿道狭窄治療方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、尿道狭窄症の治療法として、経尿道内視鏡的手技で切開処置した尿道内面に特定の物性を持ったハイドロゲルを留置することが、切開処置部位の上皮化を促進し、該部位が瘢痕組織化によって尿道狭窄を再発することを有効に防止することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
さらに本発明者らは、動物細胞を上記ハイドロゲル中に含有させることが、上記課題の解決に効果的であることを見出した。特に動物細胞が患者自身の口腔粘膜細胞であることが効果的であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、ハイドロゲル形成性高分子を少なくとも含み、10℃における貯蔵弾性率が50Pa以下かつ37℃における貯蔵弾性率が100Pa以上であることを特徴とする尿道狭窄治療剤によって解決される。
【0009】
さらに本発明の課題は、上記尿道狭窄治療剤が動物細胞を含むことを特徴とする尿道狭窄治療剤によって解決される。
【0010】
また、本発明の課題は、前記動物細胞が患者自身の口腔粘膜細胞であることを特徴とする尿道狭窄治療剤によって解決される。
【0011】
さらに本発明の課題は、経尿道内視鏡的手技で切開処置した尿道内面に、ハイドロゲル形成性高分子を少なくとも含み、10℃における貯蔵弾性率が50Pa以下かつ37℃における貯蔵弾性率が100Pa以上であることを特徴とする尿道狭窄治療剤を10℃以下の温度に冷却して注入し、室温以上の温度で該尿道内面に留置する操作を少なくとも含むことを特徴とする尿道狭窄治療方法によって解決される。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、経尿道内視鏡的手技で切開処置した尿道内面に特定の物性を持ったハイドロゲルを留置することによって、切開処置部位の上皮化を促進し、該部位が瘢痕組織化によって尿道狭窄を再発することを有効に防止することができる。
【0013】
さらに、該ハイドロゲルが動物細胞(特に患者自身の口腔粘膜細胞)を含有することによって、尿道内面の切開処置部位の上皮化がより促進される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
(ハイドロゲル形成性の高分子)
本発明の「ハイドロゲル形成性高分子」とは、架橋(crosslinking)構造ないし網目構造を熱可逆的に生成し、該構造に基づき、その内部に水等の分散液体を保持するハイドロゲルを熱可逆的に形成可能な性質を有する高分子をいう。又、「ハイドロゲル」とは高分子からなる架橋ないし網目構造と該構造中に支持ないし保持された水を含むゲルをいう。
【0015】
(貯蔵弾性率)
本発明においてハイドロゲルの貯蔵弾性率の測定は、文献(H.Yoshioka ら、Journal of Macromolecular Science, A31(1), 113 (1994))に記載された方法により行うことができる。即ち、観測周波数1Hzにおける試料の動的弾性率を所定の温度(10℃、25℃または37℃)で測定し、該試料の貯蔵弾性率(G′、弾性項)を求める。この測定に際しては、下記の測定条件が好適に使用可能である。
【0016】
く動的・損失弾性率の測定条件>
測定機器(商品名):ストレス制御式レオメーター AR500、TAインスツルメント社製
試料溶液の量:約0.8g
測定用セルの形状・寸法:アクリル製平行円盤(直径4.0cm)、ギャップ600μm
測定周波数:1Hz
適用ストレス:線形領域内。
【0017】
本発明の尿道狭窄治療剤は、その貯蔵弾性率が10℃において50Pa以下、好ましくは30Pa以下(特には10Pa以下)であり、かつその貯蔵弾性率が37℃において100Pa以上、好ましくは200Pa以上(特には300Pa以上)であることが好ましい。
【0018】
本発明の尿道狭窄治療剤は10℃以下の低温で尿道狭窄治療部位に注入し、体温で尿道狭窄治療剤を尿道狭窄治療部位に留置する。尿道狭窄治療剤の10℃における貯蔵弾性率が50Paを超えるとその固さが大き過ぎ、カテーテルを介しての注入が困難となる。
【0019】
一方、本発明の尿道狭窄治療剤の37℃における貯蔵弾性率がl00Paを下回る場合、その強度が不足し、尿道狭窄治療部位に長期間留置することが困難となる。
【0020】
さらに男性患者の場合は尿道狭窄治療部位が陰茎部にあることが多く、体外に露出するため外気温の影響を受け易い。本発明の「ハイドロゲル形成性高分子」水溶液の室温(25℃)における貯蔵弾性率が100Paを下回る場合、外気温の低下により容易に流動化するため、動物細胞の尿道狭窄治療部位への留置が不完全となる。その結果、瘢痕組織化した尿道内面に上皮細胞を再建する能力が低いために、尿道狭窄を再発してしまうことが問題となる。従って、本発明の尿道狭窄治療剤の貯蔵弾性率は25℃において100Pa以上、好ましくは200Pa以上(特には300Pa以上)であることが好ましい。
【0021】
本発明の尿道狭窄治療剤に上記のような好適な貯蔵弾性率を与える「ハイドロゲル形成性の高分子」は、後述するような具体的な化合物の中から、上記したスクリーニング方法(貯蔵弾性率測定法)に従って容易に選択することができる。
【0022】
そのハイドロゲルがより低い温度で可逆的に流動性を示す高分子の具体例としては、例えば、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等に代表されるポリアルキレンオキサイドブロック共重合体;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のエーテル化セルロース;キトサン誘導体(K,R,Holme,et al. Macromolecules,24,3828(1991))等が知られている。
【0023】
(好適なハイドロゲル形成性高分子)
本発明の「ハイドロゲル形成性の高分子」として好適に使用可能な、架橋形成に疎水結合を利用したハイドロゲル形成性高分子は、曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合してなることが好ましい。
【0024】
該親水性のブロックは、より低い温度で該ハイドロゲルが水溶性になるために存在することが好ましく、また曇点を有する複数のブロックは、ハイドロゲルがより高い温度でゲル状態に変化するために存在することが好ましい。
換言すれば、曇点を有するブロックは該曇点より低い温度では水に溶解し、該曇点より高い温度では水に不溶性に変化するために、曇点より高い温度で、該ブロックはゲルを形成するための疎水結合からなる架橋点としての役割を果たす。
【0025】
本発明に用いるハイドロゲルは、疎水性結合が温度の上昇と共に強くなるのみならず、その変化が温度に対して可逆的であるという性質を利用したものである。1分子内に複数個の架橋点が形成され、安定性に優れたゲルが形成される点からは、「ハイドロゲル形成性の高分子」が「曇点を有するブロック」を複数個有することが好ましい。
【0026】
一方、上記「ハイドロゲル形成性の高分子」中の親水性ブロックは、前述したように、該「ハイドロゲル形成性の高分子」がより低い温度で水溶性に変化させる機能を有し、上記転移温度より高い温度で疎水性結合力が増大しすぎて上記ハイドロゲルが凝集沈澱してしまうことを防止しつつ、含水ゲルの状態を形成させる機能を有する。
【0027】
さらに本発明に用いる「ハイドロゲル形成性の高分子」は、生体内で分解、吸収されるものであることが望ましい。すなわち、本発明の「ハイドロゲル形成性の高分子」が生体内で加水分解反応や酵素反応により分解されて、生体に無害な低分子量体となって吸収、排泄されることが好ましい。
【0028】
本発明の「ハイドロゲル形成性の高分子」が曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合してなるものである場合には、曇点を有するブロックと親水性のブロックの少なくともいずれか、好ましくは両方が生体内で分解、吸収されるものであることが好ましい。
【0029】
(曇点を有する複数のブロック)
曇点を有するブロックとしては、水に対する溶解度-温度係数が負を示す高分子のブロックであることが好ましく、より具体的には、ポリプロピレンオキサイド、プロピレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの共重合体、ポリN-置換アクリルアミド誘導体、ポリN-置換メタアクリルアミド誘導体、N-置換アクリルアミド誘導体とN-置換メタアクリルアミド誘導体との共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物からなる群より選ばれる高分子が好ましく使用可能である。
【0030】
曇点を有するブロックを生体内で分解、吸収されるものとするには、曇点を有するブロックを疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸から成るポリペプチドとすることが有効である。あるいはポリ乳酸やポリグリコール酸などのポリエステル型生分解性ポリマーを生体内で分解、吸収される曇点を有するブロックとして利用することもできる。
【0031】
上記の高分子(曇点を有するブロック)の曇点が4℃より高く40℃以下であることが、本発明に用いる高分子(曇点を有する複数のブロックと親水性のブロックが結合した化合物)の貯蔵弾性率を所定温度で所望の値とする点から好ましい。
【0032】
ここで曇点の測定は、例えば、上記の高分子(曇点を有するブロック)の約1質量%の水溶液を冷却して透明な均一溶液とした後、除々に昇温(昇温速度約1℃/min)して、該溶液がはじめて白濁する点を曇点とすることによって行うことが可能である。
【0033】
本発明に使用可能なポリN-置換アクリルアミド誘導体、ポリN-置換メタアクリルアミド誘導体の具体的な例を以下に列挙する。
ポリ-N-アクロイルピペリジン;ポリ-N-n-プロピルメタアクリルアミド;ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド;ポリ-N,N-ジエチルアクリルアミド;ポリ-N-イソプロピルメタアクリルアミド;ポリ-N-シクロプロピルアクリルアミド;ポリ-N-アクリロイルピロリジン;ボリ-N,N-エチルメチルアクリルアミド;ポリ-N-シクロプロピルメタアクリルアミド;ポリ-N-エチルアクリルアミド。
上記の高分子は単独重合体(ホモポリマー)であっても、上記重合体を構成する単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。このような共重合体を構成する他の単量体としては、親水性単量体、疎水性単量体のいずれも用いることができる。一般的には、親水性単量体と共重合すると生成物の曇点は上昇し、疎水性単量体と共重合すると生成物の曇点は下降する。従って、これらの共重合すべき単量体を選択することによっても、所望の曇点(例えば4℃より高く40℃以下の曇点)を有する高分子を得ることができる。
【0034】
(親水性単量体)
上記親水性単量体としては、N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタアクリレート、ヒドロキシメチルアクリレート、酸性基を有するアクリル酸、メタアクリル酸およびそれらの塩、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸等、並びに塩基性基を有するN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
(疎水性単量体)
一方、上記疎水性単量体としては、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレト等のアクリレート誘導体およびメタクリレート誘導体、N-n-ブチルメタアクリルアミド等のN-置換アルキルメタアクリルアミド誘導体、塩化ビニル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
(親水性のブロック)
一方、上記した曇点を有するブロックと結合すべき親水性のブロックとしては、具体的には、メチルセルロース、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN-ビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリN-メチルアクリルアミド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩;ポリN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられる。
【0037】
また親水性のブロックは生体内で分解、代謝、排泄されることが望ましく、アルブミン、ゼラチンなどのたんぱく質、ヒアルロン酸、ヘパリン、キチン、キトサンなどの多糖類などの親水性生体高分子が好ましく用いられる。
【0038】
曇点を有するブロックと上記の親水性のブロックとを結合する方法は特に制限されないが、例えば、上記いずれかのブロック中に重合性官能基(例えばアクリロイル基)を導入し、他方のブロックを与える単量体を共重合させることによって行うことができる。また、最点を有するブロックと上記の親水性のブロックとの結合物は、曇点を有するブロックを与える単量体と、親水性のブロックを与える単量体とのブロック共重合によって得ることも可能である。また、曇点を有するブロックと親水性のブロックとの結合は、予め両者に反応活性な官能基(例えば水酸基、アミノ基、力ルポキシル基、イソシアネート基等)を導入し、両者を化学反応により結合させることによって行うこともできる。この際、親水性のブロック中には通常、反応活性な官能基を複数導入する。また、曇点を有するポリプロピレンオキサイドと親水性のブロックとの結合は、例えば、アニオン重合またはカチオン重合で、プロピレンオキサイドと「他の親水性ブロック」を構成するモノマー(例えばエチレンオキサイド)とを繰り返し逐次重合させることで、ポリプロピレンオキサイドと「親水性ブロック」(例えばポリエチレンオキサイド)が結合したブロック共重合体を得ることができる。このようなブロック共重合体は、ポリプロピレンオキサイドの末端に重合性基(例えばアクリロイル基)を導入後、親水性のブロックを構成するモノマーを共重合させることによっても得ることができる。更には、親水性のブロック中に、ポリプロピレンオキサイド末端の官能基(例えば水酸基)と結合反応し得る官能基を導入し、両者を反応させることによっても、本発明に用いる高分子を得ることができる。また、ポリプロピレングリコールの両端にポリエチレングリコールが結合した、プルロニック F-127(商品名、旭電化工業株式会社製)等の材料を連結させることによっても、本発明に用いる「ハイドロゲル形成性の高分子」を得ることができる。
【0039】
この曇点を有するブロックを含む態様における本発明の高分子は、曇点より低い温度においては、分子内に存在する上記「曇点を有するブロック」が親水性のブロックとともに水溶性であるので、完全に水に溶解し、ゾル状態を示す。しかし、この高分子の水溶液の温度を上記曇点より高い温度に加温すると、分子内に存在する「曇点を有するブロック」が疎水性となり、疎水的相互作用によって、別個の分子間で会合する。
【0040】
一方、親水性のブロックは、この時(曇点より高い温度に加温された際)でも水溶性であるので、本発明の高分子は水中において、曇点を有するブロック間の疎水性会合部を架橋点とした三次元網目構造を持つハイドロゲルを生成する。このハイドロゲルの温度を再び、分子内に存在する「曇点を有するブロック」の曇点より低い温度に冷却すると、該曇点を有するブロックが水溶性となり、疎水性会合による架橋点が解放され、ハイドロゲル構造が消失して、本発明の「ハイドロゲル形成性の高分子」は、再び完全な水溶液となる。このように、好適な態様における本発明の高分子の物性変化は、分子内に存在する曇点を有するブロックの該曇点における可逆的な親水性、疎水性の変化に基づくものであるので、温度変化に対応して、完全な可逆性を有する。
【0041】
本発明者らの検討によれば、上記した「ハイドロゲル形成性の高分子」の水中における微妙な親水性-疎水性のバランスは、細胞を培養する際の細胞の安定性に寄与しているものと考えられる。
【0042】
(ゲルの溶解性)
上述したように本発明のハイドロゲル形成性の高分子は、体温(37℃)で実質的に水不溶性を示し、氷冷下で可逆的に水可溶性を示す。上記「実質的に水不溶性」とは、37℃において、水l00mLに溶解する上記高分子の量が、5.0g以下(更には0.5g以下、特に0.1g以下)であることが好ましい。
【0043】
一方、上記氷冷下「水可溶性」とは、10℃において、水l00mLに溶解する上記高分子の量が、0.5g以上(更には1.0g以上)であることが好ましい。
更に「可逆的に水可溶性を示す」とは、上記「ハイドロゲル形成性の高分子」の水溶液が一旦37℃で「実質的に水不溶性」のゲル状態となった後においても、10℃においては、上記した水可溶性を示すことをいう。
【0044】
上記高分子は、その10%水溶液が5℃で、10~3,000センチポイズ(更には50~1.000センチポイズ)の粘度を示すことが好ましい。このような粘度は、例えば以下のような測定条件下で測定することが好ましい。
粘度計:ストレス制御式レオメータ(機種名:AR500、TAインスツルメンツ社製)
ローター直径:60mm
ローター形状:平行平板
【0045】
本発明の「ハイドロゲル形成性の高分子」の水溶液は、37℃で多量の水中に浸潰しても、該ゲルは実質的に溶解しない。上記「ハイドロゲル形成性の高分子」が形成するハイドロゲルの上記特性は、例えば、以下のようにして確認することが可能である。すなわち、「ハイドロゲル形成性の高分子」0.15gを、氷冷下で、蒸留水1.35gに溶解してl0wt%の水溶液を作製し、該水溶液を径が35mmのプラスチックシャーレ中に注入し、37℃に加湿することによって、厚さ約1.5mmのゲルを該シャーレ中に形成させた後、該ゲルを含むシャーレ全体の重量(fグラム)を測定する。次いで、該ゲルを含むシャーレ全体を250ml中の水中に37℃で10時間静置した後、該ゲルを含むシャーレ全体の重量(gグラム)を測定して、ゲル表面からの該ゲルの溶解の有無を評価する。この際、本発明のハイドロゲル形成性の高分子においては、上記ゲルの重量減少率、すなわち(f-g)/fが、5.0%以下であることが好ましく、更には1.0%以下(特に0.1%以下)であることが好ましい。
【0046】
本発明の「ハイドロゲル形成性の高分子」の水溶液は、37℃でゲル化させた後、多量(体積比で、ゲルの0.1~100倍程度)の水中に浸潰しても、長期間に亘って該ゲルは溶解することがない。このような本発明に用いる高分子の性質は、例えば、該高分子内に曇点を有するブロックが2個以上(複数個)存在することによって達成される。
【0047】
これに対して、ポリプロピレンオキサイドの両端にポリエチレン才キサイドが結合してなる前述のプルロニック F-127を用いて同様のゲルを作成した場合には、数時間の静置で該ゲルは完全に水に溶解することを、本発明者らは見出している。
【0048】
非ゲル化時の細胞毒性をできる限り低いレベルに抑える点からは、水に対する濃度、すなわち{(高分子)/(高分子+水)}×100(%)で、20%以下(更には15%以下、特に10%以下)の濃度でゲル化が可能な「ハイドロゲル形成性の高分子」を用いることが好ましい。
【0049】
本発明に用いられる「ハイドロゲル形成性の高分子」の分子量は3万以上3,000万以下が好ましく、より好ましくは10万以上1,000万以下、さらに好ましくは50万以上500万以下である。
【0050】
本発明の尿道狭窄治療剤の貯蔵弾性率を好ましい範囲に調整するには、上記したように「ハイドロゲル形成性の高分子」の種類を選択することと合わせ、尿道狭窄治療剤中の「ハイドロゲル形成性の高分子」の濃度を調整することによっても行うことができる。通常、本発明の尿道狭窄治療剤の貯蔵弾性率は、「ハイドロゲル形成性の高分子」の濃度を上げると増大し、該濃度を下げると減少する。
【0051】
(添加塩)
本発明の尿道狭窄治療剤は、上記した「ハイドロゲル形成性の高分子」を少なくとも含むものであるが、生体の体液に近いpHや浸透圧を持たせるために、pH緩衝液や生理食塩水などの塩類を添加することが望ましい。
【0052】
(動物細胞)
本発明の尿道狭窄治療剤は動物細胞を分散させて使用することができる。動物細胞としては、尿道粘膜上皮細胞が最も好ましい。採取の容易性と免疫拒絶反応を避けるためには、自己口腔粘膜細胞が好ましく利用される。
【0053】
動物細胞として免疫寛容性が高いという観点から、分化細胞以外に未分化細胞を利用することもできる。未分化細胞の例として、ES細胞、iPS細胞などの多分化能幹細胞や間葉系幹細胞を挙げることができる。
【0054】
本発明の尿道狭窄治療剤では、動物細胞を尿道狭窄治療剤として使用する直前に混合することも出来るが、予備的に細胞を尿道狭窄治療剤に分散させ、細胞を増殖させてから尿道狭窄部位に適用することもできる。
【0055】
上記細胞が未分化細胞の場合には、未分化のまま増殖させた後に粘膜上皮細胞への系譜に分化誘導しておくこともできる。
【0056】
(サイトカイン)
本発明の尿道狭窄治療剤には、尿道狭窄部位の粘膜細胞上皮化を促進させる目的で、各種サイトカインを含有させても良い。サイトカインは水溶性であるので、そのまま尿道狭窄部位に注入しても容易に拡散してしまうが、本発明の尿道狭窄治療剤は「ハイドロゲル形成性の高分子」により繊密な高分子網目を形成しているので、サイトカインの拡散を抑制する。そのため、尿道狭窄部位周辺にサイトカインを高濃度で保持することが出来るため、サイトカインの効果を長期間維持することができる。
【0057】
本発明で好適に用いられるサイトカインは、尿道狭窄部位の粘膜細胞上皮化を促進するものであれば特に制限なく用いることが出来るが、その作用として細胞の未分化維持、増殖促進、尿道粘膜上皮細胞系譜への分化誘導促進などの作用を持つものが好ましく用いられる。
【0058】
(尿道狭窄治療方法)
本発明の尿道狭窄治療剤は、経尿道内視鏡的手技で切開処置した尿道内面に留置することで切開処置部位の上皮化を促進し、該部位の瘢痕組織化によって尿道狭窄が再発することを有効に防止する。
【0059】
患者に対し、通常の経尿道内視鏡的切開術により、尿道狭窄部位の切開を行い、尿道カテーテルを挿入後、尿道カテーテル周囲と尿道内面切開部位の間に氷冷した本発明の尿道狭窄治療剤を尿道カテーテルとは別のカテーテルを介して注入する。本発明の尿道狭窄治療剤は体温により暖められて即座にゲル化、尿道内面切開部位全体を覆うように留置される。術後約3週間で尿道カテーテルを抜去すると、狭窄切開部位は瘢痕化することなく粘膜上皮細胞で覆われ、良好な尿の流通が確保される。
【0060】
本発明の尿道狭窄治療剤は、氷冷水に溶解する性質を有するので、術後何らかの理由で本発明の尿道狭窄治療剤を除去したい場合には氷冷水で容易に洗い流すことができる。
【実施例】
【0061】
以下に「ハイドロゲル形成性の高分子」の製造例および本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は特許請求の範囲により限定されるものであり、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0062】
製造例1
ポリプロピレンオキサイド-ポリエチレンオキサイド共重合体(プロピレンオキサイド/エチレンオキサイド平均重合度約60/180、旭電化工業株式会社製:プルロニック F-127)l0gを乾燥クロロホルム30mlに溶解し、五酸化リン共存下、ヘキサメチレンジイソシアネート0.13gを加え、沸点還流下に6時間反応させた。溶媒を減圧留去後、残さを蒸留水に溶解し、分画分子量50万の限外濾過膜を用いて限外濾過を行い、高分子量重合体と低分子量重合体を分画した。得られた水溶液を凍結して、F-127高重合体およびF-127低重合体を得た。
【0063】
上記により得たF-127高重合体(本発明のハイドロゲル形成性高分子、「ハイドロゲル形成性の高分子」-1)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解し、l0wt%の水溶液を得た。この水溶液の貯蔵弾性率をストレス制御式レオメーター(AR500、TAインスツルメント社製)を用い、適用周波数1Hzで測定したところ、10℃で4Pa、25℃で1890Pa、37℃で6660Paであった。この温度依存性貯蔵弾性率変化は、可逆的に繰り返し観測された。一方、上記F-127低重合体を、氷点下l0wt%の濃度で蒸留水に溶解したものは、60℃以上に加熱しても全くゲル化しなかった。
【0064】
製造例2
トリメチロールプロパン1モルに対し、エチレンオキサイド160モルをカチオン重合により付加して、平均分子量約7000のポリエチレンオキサイドトリオールを得た。
上記により得たポリエチレンオキサイドトリオール100gを蒸留水1000mlに溶解した後、室温で濾過マンガン酸カリウム12gを徐々に加えて、そのまま約1時間、酸化反応させた。固形物を濾過により除いた後、生成物をクロロホルムで抽出し、溶媒(クロロホルム)を減圧留去してポリエチレンオキサイドトリカルボキシル体90gを得た。
上記により得たポリエチレンオキサイドトリカルボキシル体l0gと、ポリプロピレンオキサイドジアミノ体(プロピレンオキサイド平均重合度約65、米国ジェファーソンケミカル社製、商品名:ジェファーミンD-4000、曇点:約9℃)l0gとを四塩化炭素1000mlに溶解し、ジシクロヘキシルカルボジイミド1.2gを加えた後、沸点還流下に6時間反応させた。反応液を冷却し、固形物を濾過により除いた後、溶媒(四塩化炭素)を減圧留去し、残さを真空乾燥して、複数のポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとが結合した本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-2)を得た。この高分子1gを、19gの蒸留水に氷冷下で溶解し、5wt%の水溶液を得た。この水溶液の貯蔵弾性率をストレス制御式レオメーター(AR500、TAインスツルメント社製)を用い、適用周波数1Hzで測定したところ、10℃でlPa、25℃で550Pa、37℃で3360Paであった。この温度依存性貯蔵弾性率変化は、可逆的に繰り返し観測された。
【0065】
製造例3
N-イソプロピルアクリルアミド(イーストマンコダック社製)96g、N-アクリロキシスクシンイミド(国産化学株式会社製)17g、およびn-ブチルメタクリレート(関東化学株式会社製)7gをクロロホルム4000mlに溶解し、窒素置換後、N,N´-アゾビスイソブチロニトリル1.5gを加え、60℃で6時間重合させた。反応液を濃縮した後、ジエチルエーテルに再沈(再沈殿)した。濾過により固形物を回収した後、真空乾燥して、78gのポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-N-アクリロキシスクシンイミド-コ-n-ブチルメタクリレート)を得た。
上記により得たポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-N-アクリロキシスクシンイミド-コ-n-ブチルメタクリレート)に、過剰のイソプロピルアミンを加えてポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-n-ブチルメタクリレート)を得た。このポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-n-ブチルメタクリレート)の水溶液の曇点は19℃であった。
【0066】
前記のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-N-アクリロキシスクシンイミド-コ-n-ブチルメタクリレート)l0g、および両末端アミノ化ポリエチレンオキサイド(分子量6,000、川研ファインケミカル株式会社製)5gをクロロホルム1000mlに溶解し、50℃で3時間反応させた。室温まで冷却した後、イソプロピルアミン1gを加え、1時間放置した後、反応液を濃縮し、残渣をジエチルエーテル中に沈澱させた。濾過により固形物を回収した後、真空乾燥して、複数のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-n-ブチルメタクリレート)とポリエチレンオキサイドとが結合した本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-3)を得た。
この高分子1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解し、l0wt%)水溶液を得た。この水溶液の貯蔵弾性率をストレス制御式レオメーター(AR500、TAインスツルメント社製)を用い、適用周波数lHzで測定したところ、10℃でlPa以下、25℃で30Pa、37℃で250Paであった。この温度依存性貯蔵弾性率変化は、可逆的に繰り返し観測された。
【0067】
製造例4
(滅菌方法)
上記した本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-3)の2.0gを、EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌バッグ(ホギメディカル社製、商品名:ハイブリッド滅菌バッグ)に入れ、EOG滅菌装置(イージーパック、井内盛栄堂製)でEOGをバッグに充填し、室温にて一昼夜放置した。さらに40℃で半日放置した後、EOGをバッグから抜き、エアレーションを行った。バッグを真空乾燥器(40℃)に入れ、時々エアレーションしながら半日放置することにより滅菌した。
この滅菌操作により高分子水溶液の貯蔵弾性率が変化しないことを、別途確認した。
【0068】
製造例5
N-イソプロピルアクリルアミド71.0gおよびn-ブチルメタクリレート4,4gをエタノール1117gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂株式会社製)22.6gを水773gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加湿した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N´,N´-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.8mlと10%濾過硫酸アンモニウム(APS)水溶液8mlを加え30分間機梓反応させた。さらにTEMED O.8mlと10%APS水溶液8mlを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液をl0℃以下に冷却後、10℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外濾過膜を用いて10℃で2Lまで濃縮した。
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外濾過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外濾過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量I0万以下のものを除去した。この限外濾過により濾過されなかったもの(限外濾過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-5)72gを得た。
【0069】
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-5)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解し、l0wt%もの水溶液を得た。この水溶液の貯蔵弾性率をストレス制御式レオメーター(AR500、TAインスツルメント社製)を用い、適用周波数1Hzで測定したところ、10℃でlPa以下、25℃で80Pa、37℃で460Paであった。この温度依存性貯蔵弾性率変化は、可逆的に繰り返し観測された。
【0070】
製造例6
N-イソプロピルアクリルアミド42,0gおよびn-ブチルメタクリレート4,0gをエタノール592gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂株式会社製)11.5gを水65.1gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N´,N´-テトラメチルエチレンジアミン(TENED)0.4mlと10%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液4mlを加え30分間隔で反応させた。さらにTENED 0.4mlと10%APS水溶液4mlを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を59C以下に冷却後、5℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の眼外濾過膜を用いて5℃で2Lまで濃縮した。
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記眼外濾過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外濾過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外濾過により濾過されなかったもの(限外濾過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-6)40gを得た。
上記により得た本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-6)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解しl0wt%の水溶液を得た。この水溶液の貯蔵弾性率をストレス制御式レオメーター(AR500、TAインスツルメント社製)を用い、適用周波数1Hzで測定したところ、10℃で43Pa、25℃で680Pa、37℃で1310Paであった。この温度依存性貯蔵弾性率変化は、可逆的に繰り返し観測された。
【0071】
製造例7
N-イソプロピルアクリルアミド45,5gおよびn-ブチルメタクリレート0.56gをエタノール592gに溶解した。これにポリエチレングリコールジメタクリレート(PDE6000、日本油脂株式会社製)I1.5gを水65,1gに溶解した水溶液を加え、窒素気流下70℃に加温した。窒素気流下70℃を保ちながら、N,N,N´,N´-テトラメチルエチレンジアミン(TENED)0.4mlと10%濾過硫酸アンモニウム(APS)水溶液4mlを加え30分間撹拌反応させた。さらにTENED 4.0mlと10%APS水溶液4mlを30分間隔で4回加えて重合反応を完結させた。反応液を10℃以下に冷却後、10℃の冷却蒸留水5Lを加えて希釈し、分画分子量10万の限外濾過膜を用いて10℃で2Lまで濃縮した。
該濃縮液に冷却蒸留水4Lを加えて希釈し、上記限外濾過濃縮操作を再度行った。上記の希釈、限外濾過濃縮操作を更に5回繰り返し、分子量10万以下のものを除去した。この限外濾過により濾過されなかったもの(限外濾過膜内に残留したもの)を回収して凍結乾燥し、分子量10万以上の本発明のハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-7)22gを得た。
上記により得たハイドロゲル形成性高分子(「ハイドロゲル形成性の高分子」-7)1gを、9gの蒸留水に氷冷下で溶解しl0wt%)水溶液を得た。この水溶液の貯蔵弾性率をストレス制御式レオメーター(AR500、TAインスツルメント社製)を用い、適用周波数1Hzで測定したところ、10℃でlPa以下、25℃でlPa以下、37℃で90Paであった。この温度依存性貯蔵弾性率変化は、可逆的に繰り返し観測された。
【0072】
実施例1
製造例6で得た凍結乾燥ハイドロゲル形成性高分子-6を製造例4と同様にしてEOG滅菌した。EOG滅菌後のハイドロゲル形成性高分子-6をl0wt%の濃度でリン酸緩衝液に氷冷下で溶解した。男性尿管狭窄患者の口腔粘膜組織(2cm×lcm)を採取し、コラゲナーゼ処理した細胞に患者本人の血清(細胞と等量)を添加し、上記ハイドロゲル形成性高分子-6のリン酸緩衝液に氷冷下で分散させた。この細胞分散液を37℃に昇温してゲル化させ、そのまま10日間培養し細胞数を約10倍に増殖させた。患者に対し、経尿道内視鏡的切開術により、尿道狭窄部位の切開を行い、尿道カテーテルを挿入後、尿道カテーテル周囲と尿道内面切開部位の間に氷冷した前記細胞培養後の本発明の尿道狭窄治療剤を注入した。本発明の尿道狭窄治療剤は体温により暖められて即座にゲル化、尿道内面切開部位全体を覆うように留置された。術後3週間で尿道カテーテルを抜去した。狭窄切開部位は癒痕化することなく粘膜上皮細胞で覆われ、良好な尿の流通が確保された。10名の患者に同様の治療を行い、全ての患者で再狭窄は認められなかった。
【0073】
実施例2
男性尿管狭窄患者の口腔粘膜細胞と血清を添加しないこと以外は実施例1と同じ治療を10人の患者に行った結果、全ての患者で再狭窄は認められなかったが、2例で狭窄切開部位の癒痕化を認めた。
【0074】
実施例3
製造例6で得た凍結乾燥ハイドロゲル形成性高分子-6の代わりに製造例5で得た凍結乾燥ハイドロゲル形成性高分子-5を使用すること以外は実施例2と同じ治療を10人の患者に行った結果、2例で再狭窄を認めた。
【0075】
比較例1
製造例6で得た凍結乾燥ハイドロゲル形成性高分子-6の代わりに製造例7で得た凍結乾燥ハイドロゲル形成性高分子-7を使用すること以外は実施例1と同じ治療を10人の患者に行った結果、全ての患者で狭窄切開部位の瘢痕化を認めた。ハイドロゲル形成性高分子-7の37℃での貯蔵弾性率が100Pa未満と低いため、本発明の尿道狭窄治療剤として機能しなかったものと考えられる。
【0076】
比較例2
実施例1において、EOG滅菌後の凍結乾燥ハイドロゲル形成性高分子-6を11wt%の濃度でリン酸緩衝液に氷冷下で溶解した。この水溶液の貯蔵弾性率をストレス制御式レオメーター(AR500、TAインスツルメント社製)を用い、適用周波数1Hzで測定したところ、10℃で75Paであった。この溶液は氷冷下でも流動性が低く、カテーテルを介して尿道狭窄部位へ注入することが出来ず、本発明の尿道狭窄治療剤として機能しなかった。