IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人情報通信研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図1
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図2
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図3
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図4
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図5
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図6
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図7
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図8
  • 特許-埋設物探査装置及び埋設物探査方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】埋設物探査装置及び埋設物探査方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/88 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01S13/88 200
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020123696
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020291
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2023-06-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】菅 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-028507(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002858(WO,A1)
【文献】米国特許第05327139(US,A)
【文献】特開2007-163271(JP,A)
【文献】特表2005-503539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1損失媒質の中から第2損失媒質の中に埋設されている埋設物を探査する埋設物探査 装置であって、
前記第1損失媒質中に電波を送信する送信アンテナと、
送信アンテナから送信された送信信号に対する複数の信号を要素とする信号ベクトルとして受信する受信アンテナと、
前記第1損失媒質の導電率と、前記第1損失媒質の比誘電率と、前記送信アンテナから前記第2損失媒質までの距離と、前記埋設物探査装置の傾斜とを含むセンサ信号と、
前記受信アンテナが受信した前記信号ベクトルと、
を取得する信号取得部と、
前記信号取得部により取得された前記センサ信号に基づいて予め測定した初期の前記導電率と初期の前記比誘電率と初期の前記距離とを要素とする行列を更新して得られる応答行列と、前記信号取得部により取得された前記信号ベクトルと、前記埋設物の位置を含み得る前記第2損失媒質中の位置を示す予め保存された位置候補ベクトルと、を含むノルム和を最も小さくする非ゼロ要素を1つしか持たない前記位置候補ベクトルの非ゼロ要素に対応する位置を算出する信号処理部と、を備える、埋設物探査装置。
【請求項2】
埋設物探査装置に接続されたカメラから画像を取得する画像取得部と、
前記埋設物が埋設されていると推定される推定位置を表示する推定位置表示部と、
をさらに備える、請求項1に記載の埋設物探査装置。
【請求項3】
前記位置候補ベクトルの1次ノルムと前記位置候補ベクトルの2次ノルムとの和に基づく尤度に基づいて推定される位置を1つ表示する、 請求項2に記載の埋設物探査装置。
【請求項4】
前記推定位置表示部は、前記位置候補ベクトルの1次ノルムと前記位置候補ベクトルの2次ノルムとの和に基づく尤度に基づいて埋設されている可能性の高低を表示する、請求項2に記載の埋設物探査装置。
【請求項5】
第1損失媒質の中から第2損失媒質の中に埋設されている埋設物を探査する埋設物探査装置による埋設物探査方法であって、
前記第1損失媒質中に電波を送信する送信アンテナから送信した送信信号に対する複数の信号を要素とし受信アンテナが受信する信号ベクトルと、
前記第1損失媒質の導電率前記第1損失媒質の比誘電率前記送信アンテナから前記第2損失媒質までの距離及び前記埋設物探査装置の傾斜含むセンサ信号と、
を取得する第1のステップと、
前記第1のステップにより取得された前記センサ信号に基づいて予め測定した初期の前記導電率と初期の前記比誘電率と初期の前記距離とを要素とする行列を更新して得られる応答行列と、前記第1のステップにより取得された前記信号ベクトルと、前記埋設物の位置を含み得る前記第2損失媒質中の位置を示す予め保存された位置候補ベクトルと、を含むノルム和を最も小さくする非ゼロ要素を1つしか持たない前記位置候補ベクトルの非ゼロ要素に対応する位置を算出する第2のステップと、を備える、埋設物探査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設物探査装置及び埋設物探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1には、電波を用いて海底下埋設物センシングする手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】電波を用いた海底下センシングシステムの開発、電子情報通信学会ソサイエティ大会、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら非特許文献1に記載されたような従来の手法では、海水の電気的特性が変化した際に探査装置が受信する受信信号の振幅及び位相の変化量に変化が生じ探査性能が劣化するという課題がある。
【0005】
本発明の実施の形態の一態様は、電波が送信及び受信される媒質の電気的特性が変化する環境下においても安定した探査が行える埋設物探査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1損失媒質の中から第2損失媒質の中に埋設されている埋設物を探査する埋設物探査装置であって、前記第1損失媒質中に電波を送信する送信アンテナと、送信アンテナから送信された送信信号に対する複数の信号を要素とする信号ベクトルとして受信する受信アンテナと、前記第1損失媒質の導電率と、前記第1損失媒質の比誘電率と、前記送信アンテナから前記第2損失媒質までの距離と、前記埋設物探査装置の傾斜とを含むセンサ信号と、前記受信アンテナが受信した前記信号ベクトルと、を取得する信号取得部と、前記信号取得部により取得された前記センサ信号に基づいて予め測定した初期の前記導電率と初期の前記比誘電率と初期の前記距離とを要素とする行列を更新して得られる応答行列と、前記信号取得部により取得された前記信号ベクトルと、前記埋設物の位置を含み得る前記第2損失媒質中の位置を示す予め保存された位置候補ベクトルと、を含むノルム和を最も小さくする非ゼロ要素を1つしか持たない前記位置候補ベクトルの非ゼロ要素に対応する位置を算出する信号処理部と、を備え、埋設物探査装置を提供する。
【0007】
第1損失媒質の中から第2損失媒質の中に埋設されている埋設物を探査する埋設物探査装置による埋設物探査方法であって、前記第1損失媒質中に電波を送信する送信アンテナから送信した送信信号に対する複数の信号を要素とし受信アンテナが受信する信号ベクトルと、前記第1損失媒質の導電率前記第1損失媒質の比誘電率前記送信アンテナから前記第2損失媒質までの距離及び前記埋設物探査装置の傾斜含むセンサ信号と、を取得する第1のステップと、前記第1のステップにより取得された前記センサ信号に基づいて予め測定した初期の前記導電率と初期の前記比誘電率と初期の前記距離とを要素とする行列を更新して得られる応答行列と、前記第1のステップにより取得された前記信号ベクトルと、前記埋設物の位置を含み得る前記第2損失媒質中の位置を示す予め保存された位置候補ベクトルと、を含むノルム和を最も小さくする非ゼロ要素を1つしか持たない前記位置候補ベクトルの非ゼロ要素に対応する位置を算出する第2のステップと、を備える、埋設物探査方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施の形態の一態様によれば、海水中から送信する電波を用いて、海底下に埋設されている物体を、海底面に接触することなく探査することが可能な装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の実施の形態による埋設物探査装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施の形態による埋設物探査処理の処理手順を示すフローチャートである。
図3図3は、第1の実施の形態による探査結果と従来の探査結果とを比較する図である。
図4図4は、第2の実施の形態による埋設物探査装置の構成を示すブロック図である。
図5図5は、第2の実施の形態による埋設物探査装置が取得する画像を示す図である。
図6図6は、第2の実施の形態による埋設物探査装置が算出する尤度を示す図である。
図7図7は、第2の実施の形態による埋設物探査装置が表示する画像を示す図である。
図8図8は、第2の実施の形態による埋設物探査処理の処理手順を示すフローチャートである。
図9図9は、第2の実施の形態による埋設物探査装置が表示する他の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面を用いて、本発明の実施の形態の一態様を詳述する。
【0011】
(第1の実施の形態)
まず図1を用いて本実施の形態による埋設物探査装置4について説明する。図1は、本実施の形態による埋設物探査装置4の構成を示すブロック図である。埋設物探査装置4は、例えば海水などの損失媒質1の中から、砂などの損失媒質2の中に埋設されている埋設物3の位置を推定する推定位置
を算出することで埋設物3を探査する。具体的には例えば埋設物探査装置4は、後述の信号ベクトルyと埋設物の位置候補ベクトルxと応答行列A(σ,εr,h)とから推定位置
を算出する。
【0012】
埋設物探査装置4には損失媒質1の導電率を計測する導電率計測計5、埋設物探査装置4から海底面2Aまでの距離hを測定する高度計6及び埋設物探査装置4の傾斜mを計測する傾斜計7などのセンサが接続される。
【0013】
埋設物探査装置4は、導電率σと比誘電率εr、距離h及び傾斜mを含むセンサ信号を導電率計測計5、高度計6及び傾斜計7から取得する。導電率計測計5は、例えばCTD(Conductivity Temperature Depth profiler)計のような測器としてもよい。
【0014】
埋設物探査装置4には送信アンテナ8と受信アンテナ9~12が接続されており、受信アンテナ9~12は、送信アンテナ8が送信した送信信号に対する信号y1~y4を要素とする信号ベクトルyとして受信する。
【0015】
より一般的な表現として信号ベクトルyの要素数は、受信アンテナ9~12の個数であるn個とする。n=4の場合、信号ベクトルyは信号y1~y4を要素とするベクトルとして表すことができる。
【0016】
信号ベクトルyは(1)式のように示すことができる。信号ベクトルyの要素である信号y1~y4は送信アンテナ8と受信アンテナ9~12との間で電波が伝搬したことによる振幅及び位相の変化を示す。
【数1】
………(1)
【0017】
送信アンテナ8及び受信アンテナ9~12が扱う信号は、例えば周波数が1MHzである電波とし、後述の図6に示すように、送信アンテナ8及び受信アンテナ9~12は、送信アンテナ8が受信アンテナ9~12のいずれとの距離が等しくなるように配置される。
【0018】
本実施の形態において、海水中における電波の減衰量が1mあたり35dB程度と非常に大きい周波数帯域である1MHzの電波を使用することから、埋設物3の個数は探査可能な範囲には1つであるとする。これによって、位置候補ベクトルxにはスパース性を導入することができる。具体的には位置候補ベクトルxのうち、埋設物の個数に相当する非ゼロ要素の数は1つしかないと考えることができる。
【0019】
埋設物探査装置4は、信号取得部13と、信号処理部14と、を備える。信号取得部13は、信号ベクトルy及びセンサ信号を取得する。信号処理部14は、取得した信号ベクトルy及びセンサ信号と、予め保存されている位置候補ベクトルx={x1、…、x130}及び後述の初期応答行列A(σ0,εr0,h0)と、を用いて信号処理を行う信号処理部14とを備える。
【0020】
信号取得部13は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの集積回路とし、信号処理部14は、CPU(Central Processing Unit)によって呼び出されるRAM(Random Access Memory)に記録されたプログラムとする。
【0021】
例えば位置候補ベクトルx={x1、…、x130}及び初期応答行列A(σ0,εr0,h0)などはRAMに予め保存されているものとする。信号取得部13と信号処理部14とは例えばLAN(Local Area Network)経由で情報の送受信を行うものとする。
【0022】
埋設物探査装置4は、埋設物3が位置候補ベクトルx={x1、…、x130}によって表される例えば130個のボクセル群15のいずれか1つの位置に埋設されているものと仮定することで、埋設物3を探査する。
【0023】
より一般的な表現として位置候補ベクトルの要素である位置候補x1~xlは、ボクセル群15の個数であるl個とする。このとき位置候補ベクトルx={x1、…、xl}として表すことができる。
【0024】
位置候補ベクトルxは、130個の要素からなるベクトルとして表すことができる。なお位置候補ベクトルxは、推定位置
の候補であって、推定位置
は位置候補ベクトルxの中から選択される。
【0025】
位置候補ベクトルxはそれぞれ(2)式のように示すことができる。位置候補ベクトルの要素である位置候補x1~x130は所定の点を基準とした際のそれぞれの座標軸におけるボクセルの位置を示す。
【数2】
………(2)
【0026】
応答行列A(σ,εr,h)は、位置候補ベクトルxと信号ベクトルyとを関係づける行列であって、位置候補ベクトルxと信号ベクトルyとを用いて(3)式のように表すことができる。なお応答行列A(σ,εr,h)は、金属や誘電体といったような埋設物3の材質に応じて変更する必要がある。
【数3】
………(3)
【0027】
図2を用いて本実施の形態における埋設物探査処理について説明する。図2は、本実施の形態による埋設物探査処理の処理手順を示すフローチャートである。信号取得部13は、信号ベクトルyを受信アンテナ9~12から取得する(S1)。
【0028】
次に信号取得部13は、センサ信号を導電率計測計5、高度計6及び傾斜計7から導電率σと比誘電率εr、距離h及び傾斜mを取得する(S2)。信号取得部13は、距離hと傾斜mとから、それぞれの送信アンテナ8及び受信アンテナ9~12と海底面2Aとの距離h1~h5を算出する。距離hは例えば送信アンテナ8から海底面2Aまでの距離とする。
【0029】
次に信号処理部14は応答行列A(σ,εr,h)を更新する(S3)。応答行列A(σ,εr,h)は、導電率σ、比誘電率εr及び距離hに依存する例えば4行130列の行列であって(3)式で表すことができる。ここで、演算子「.*」は、行列の要素同士の積(要素積)を求めることを意味する。応答行列A(σ,εr,h)の行数は受信アンテナ9~12の数である4であって、応答行列A(σ,εr,h)の列数はボクセル群15の数である130とする。
【数4】
………(4)
【0030】
ここで初期応答行列A(σ0,εr0,h0)は、あらかじめ測定した初期導電率σ0、初期比誘電率εr0及び初期距離h0に基づいて算出される行列であって行数と列数は応答行列A(σ,εr,h)と同じとする。第1の補正用行列f(σ,εr,h)及び第2の補正用行列g(σ,εr,h)は、導電率σ、比誘電率εr及び距離hに依存する例えば4行130列の行列とする。
【0031】
応答行列A(σ,εr,h)を更新するには初期応答行列A(σ0,εr0,h0)に対して第1の補正と第2の補正とを行う。具体的にはまず初期応答行列A(σ0,εr0,h0)と第1の補正用行列f(σ,εr,h)との要素積を求めることで初期応答行列A(σ0,εr0,h0)に対して第1の補正として積による補正を行う。次に第1の補正を行った初期応答行列A(σ0,εr0,h0)に、第2の補正用行列g(σ,εr,h)を足すことで第2の補正として和による補正を行う。
【0032】
次に信号処理部14はノルム和NSを満たす推定位置
を算出する(S4)。ノルム和NSは、(5)式で表すことができる。
【数5】
………(5)
【0033】
推定位置
は、(5)式に表すように1次ノルムと2次ノルムとの和であるノルム和NSを最も小さくする非ゼロ要素を1つしかもたない位置候補ベクトルxの非ゼロ要素に対応するボクセルの位置である。
【0034】
定数λは0以上の実数を与えることができるが、例えば定数λを100などの2次ノルムと比較して大きい値とすることで推定位置
を算出するにあたっての1次ノルムの影響を大きくする。
【0035】
1次ノルムの影響を大きくすることで算出される推定位置
の数を1つに制限することができる。なおノルム和NSが所定の閾値よりも大きい場合、信号処理部14は、埋設物3はないと判定してもよい。
【0036】
算出されるノルム和NSに対して2次ノルムの影響が大きい場合、推定位置
の数が多くなる。本実施の形態においては、送信アンテナ8から送信される電波の届く範囲を考えると、検出可能な埋設物数は多くないと考えられるため、推定位置
を算出するにあたっての1次ノルムの影響を大きくしている。このように1次ノルムによって埋設物数に制約を設けることで過学習を抑制している。
【0037】
なお埋設物の位置を推定する際は、ノルム和NSからさらに以下の(6)式を用いて尤度Lを算出してもよい。係数Kは、尤度Lが取りうる値の範囲を制限するための値であって、例えば255とする。係数Kを255とすると、ノルム和NSが0の際に尤度Lは最大値である255となる。
【数6】
………(6)
【0038】
なおステップS1とステップS2及びステップS3とは、例えば並列して処理されるため、ステップS1,S2,S3の順でなくてもよい。例えば、ステップS2,S3,S1の順でもよいし、ステップS2,S1,S3の順でもよい。
【0039】
次に図3を用いて本実施の形態の効果について説明を行う。図3は、本実施の形態による探査結果と従来の探査結果とを比較する図である。図3においてグラフ21は既存の探査結果を示しており、グラフ22は誤差がない場合を示しており、グラフ23は本実施の形態による探査結果を示している。
【0040】
図3における探査の際に使用した送信アンテナ8及び受信アンテナ9~12は微小ダイポールアンテナとし、図3における探査の際の埋設物3の材質は金属とした。グラフ21及びグラフ23は、埋設物3の位置を相対座標の(0cm,-60cm,-10cm)の地点から(0cm,60cm,-10cm)の地点まで20cm間隔でy軸方向に移動させながら、それぞれの際における探査結果を示す。
【0041】
埋設物3の埋設深さは10cmとし、高度計6で測定される距離hは50cmとした。横軸の真値は、相対座標におけるy軸の値とし、縦軸の推定値は、埋設物探査装置4によって算出された埋設物3が埋設されていると推定されるボクセル位置に対するy軸の値を示す。
【0042】
グラフ21に示す従来の探査結果における誤差としてRMSE(Root Mean Square Error)を求めたところ6.43cmとなった。これに対してグラフ21に示す本実施の形態による探査結果としてRMSEを求めたところ2.92cmとなり、半分以下の誤差となった。
【0043】
より具体的には、グラフ21の探査では導電率σ0として4.30をそのまま使用したが、グラフ22の探査ではセンサ情報によって計測された導電率σとして4.41を使用した。
【0044】
以上のように本実施の形態においては、埋設物探査装置4は、例えばステップS3によって探査の際に応答行列を更新し、埋設物探査処理を行う際の状態に即したパラメータを使用することができる。
【0045】
このため、埋設物探査装置4は、従来に比べて精度よく埋設物3を探査することが可能となる。なお本実施の形態においては、送信アンテナ8及び受信アンテナ9~12ごとに高度計6を設置するなどして、送信アンテナ8及び受信アンテナ9~12ごとの海底面2Aまでの高度を測定できれば、傾斜計7は不要となる。
【0046】
また本実施の形態においては、送信アンテナを1つとし、受信アンテナを複数としたがこれに限らず、送信アンテナは複数でもよいし、受信アンテナは1つでもよい。また本実施の形態において信号取得部13は集積回路とし、信号処理部14はプログラムとしたが、これに限らず、信号取得部13と信号処理部14とは、ともにプログラムであってもよいし、ともに集積回路であってもよい。また信号取得部13をプログラムとし、信号処理部14を集積回路としてもよい。
【0047】
信号取得部13と信号処理部14とは例えばLAN(Local Area Network)経由で情報の送受信を行うものとしたがこれに限らず、例えばデータバスなどを経由して情報の送受信を行ってもよい。
【0048】
本実施の形態においては信号ベクトルyを得るために受信アンテナ9~12で観測される受信信号を積分することで、信号ベクトルyの信号雑音比であるSNR(Signal-Noise Ratio)を改善することが可能となる。
【0049】
なお本実施の形態においては、1MHzの電波を使用する場合について述べたが、これに限らず100kHzの電波を使用してもよい。RMSEなどによってあらわされる誤差は大きくなってしまうものの、1MHzの電波を使用した場合と比べて埋設物3が深く埋設されている場合や海底面2Aからより高い高度から広い範囲を対象とする場合についても検出が可能となる。
【0050】
まず、100kHzの電波によって、深い位置にある埋設物の探査や広い範囲の探査を実施し、埋設物が検出された場合には、1MHzの電波によって、より推定精度の高い探査を行ってもよい。
【0051】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態においては、埋設物3が埋設されている位置を推定するまでとしたが、本実施の形態においては埋設物3が埋設されていると推定される位置を表示してもよい。以下では第1の実施の形態との違いに中心をおいて説明を行う。
【0052】
図4図5を用いて本実施の形態による埋設物探査装置30について説明する。図4は、本実施の形態による埋設物探査装置30の構成を示すブロック図である。図5は、本実施の形態による埋設物探査装置30が取得する画像35を示す図である。埋設物探査装置30には、画像35を撮像するカメラ33が接続されている。
【0053】
埋設物探査装置30は、カメラ33が撮像した画像35を取得する画像取得部31と埋設物3が埋設されていると推定される推定位置を表示する推定位置表示部32とを備える。例えば、画像取得部31と推定位置表示部32とは、CPUによって呼び出されるRAMに記録されたプログラムとする。
【0054】
図6を用いて推定位置表示部32が表示する推定位置について説明する。図6は、本実施の形態による埋設物探査装置30が算出する尤度Lを示す図である。図6に示す尤度マップ36は、画像35におけるそれぞれの個所の尤度分布を示す分布図である。
【0055】
なお尤度マップ36には、送信アンテナ8と受信アンテナ9~12とがTXANTとANT1~4として表されていてもよい。領域36Aは、ボクセル群15の中で最も尤度Lが高い個所を示す。
【0056】
推定位置表示部32は、尤度マップ36に基づいて例えば図7に示すような表示画像37を埋設物探査装置30に接続される図示せぬディスプレイなどに表示する。図7は、第2の実施の形態による埋設物探査装置が表示する画像を示す図である。本実施の形態による埋設物探査装置30は、表示画像37を提示することで、埋設物3が埋設されている位置を明確に使用者に提示することができる。
【0057】
図8を用いて本実施の形態における埋設物探査処理について説明する。図8は本実施の形態による埋設物探査処理の処理手順を示すフローチャートである。ステップS1~S4までは第1の実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0058】
ステップS1およびステップS4とともに、画像取得部31は、カメラ33から画像35を取得する(S10)。次に推定位置表示部32は、表示画像37を図示せぬディスプレイなどに表示する(S11)。
【0059】
なおステップS1~ステップS4とステップS10とは、例えば並列して処理されるため、ステップS1~S4,S10の順でなくてもよい。例えば、ステップS1~S3,S10,S4の順でもよい。
【0060】
なお本実施の形態においては、埋設物探査装置30は、表示画像37における領域36Aのようにボクセル1つ分の領域のみを埋設物3が埋設されているとして位置を表示してもよいがこれに限らない。例えば、図9のように複数のボクセルを表示して尤度Lをたとえば色分けして埋設されている可能性の高低を表示してもよい。
【0061】
図9は、第2の実施の形態による埋設物探査装置30が表示する他の表示画像38を示す図である。本実施の形態においては、他の表示画像38のように画像35と尤度マップ36とを重ねて表示してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1,2……損失媒質、3……埋設物、4,30……埋設物探査装置、5……導電率計測計、6……高度計、7……傾斜計、8……送信アンテナ、9~12……受信アンテナ、13……信号取得部、14……信号処理部、15……ボクセル群、33……カメラ、31……画像取得部、32……推定位置表示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9