(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】耐熱金属部材およびその製造方法ならびに高温装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20241205BHJP
C23C 10/38 20060101ALI20241205BHJP
C23C 10/48 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C23C28/02
C23C10/38
C23C10/48
(21)【出願番号】P 2020174038
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】509326809
【氏名又は名称】株式会社ディ・ビー・シー・システム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】成田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】成田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰道
(72)【発明者】
【氏名】荒 真由美
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/068685(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/059971(WO,A1)
【文献】特開2008-156697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C24/00-30/00
C23C8/00-12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
上記金属基材上の、
W含有合金相またはRe含有合金相を有するW系またはRe系の多目的合金層と、
上記多目的合金層上のCr含有合金層と、
上記金属基材と上記多目的合金層との間の遷移層と、
を有する耐熱金属部材。
【請求項2】
上記多目的合金層はWおよびNiとCo、Al、Cr、Reおよび上記金属基材を構成する元素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素とを含有する請求項1記載の耐熱金属部材。
【請求項3】
上記多目的合金層はReおよびNiとCo、Al、Cr、Wおよび上記金属基材を構成する元素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素とを含有する請求項1記載の耐熱金属部材。
【請求項4】
上記Cr含有合金層はNi-Cr系合金からなる請求項1~3のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項5】
金属基材と、
上記金属基材上の、
W含有合金相またはRe含有合金相を有するW系またはRe系の多目的合金層と、
上記多目的合金層上のAlおよび/またはCr含有合金層と、
上記金属基材と上記多目的合金層との間の遷移層と、
上記多目的合金層と上記Alおよび/またはCr含有合金層との間の、
Cr含有合金相を有するCr系の多目的合金層と、
を有する耐熱金属部材。
【請求項6】
上記遷移層はNiと上記金属基材を構成する元素のうちの少なくとも一種の元素と上記多目的合金層を構成する元素のうちの少なくとも一種の元素とを含有する請求項1~5のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項7】
上記金属基材はFe、Co、Ni、Fe基合金、Co基合金またはNi基合金からなる請求項1~6のいずれか一項記載の耐熱金属部材。
【請求項8】
金属基材上に少なくともNi層およびWを含有するNi層またはReを含有するNi層をめっきにより順次形成する工程と、
Al蒸気源としてFeAlまたはNiAlを用いたAl拡散処理またはCr拡散処理を施すことにより上記金属基材上に遷移層を介して、
W含有合金相またはRe含有合金相を有するW系またはRe系の多目的合金層およびAlおよび/またはCr含有合金層を順次形成する工程と、
を有する耐熱金属部材の製造方法。
【請求項9】
上記Wを含有するNi層またはReを含有するNi層上にさらにNi層、Co層またはCoを含有するNi層をめっきにより形成する請求項8記載の耐熱金属部材の製造方法。
【請求項10】
金属基材と、
上記金属基材上の、
W含有合金相またはRe含有合金相を有するW系またはRe系の多目的合金層と、
上記多目的合金層上のCr含有合金層と、
上記金属基材と上記多目的合金層との間の遷移層と、
を有する耐熱金属部材
を有する高温装置。
【請求項11】
金属基材と、
上記金属基材上の、
W含有合金相またはRe含有合金相を有するW系またはRe系の多目的合金層と、
上記多目的合金層上のAlおよび/またはCr含有合金層と、
上記金属基材と上記多目的合金層との間の遷移層と、
上記多目的合金層と上記Alおよび/またはCr含有合金層との間の、
Cr含有合金相を有するCr系の多目的合金層と、
を有する耐熱金属部材
を有する高温装置。
【請求項12】
金属基材上に少なくともNi層およびWを含有するNi層またはReを含有するNi層をめっきにより順次形成する工程と、
Al蒸気源としてFeAlまたはNiAlを用いたAl拡散処理またはCr拡散処理を施すことにより上記金属基材上に遷移層を介して、
W含有合金相またはRe含有合金相を有するW系またはRe系の多目的合金層およびAlおよび/またはCr含有合金層を順次形成する工程と、を実行することにより耐熱金属部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱金属部材およびその製造方法ならびに高温装置およびその製造方法に関し、特に、高温酸化性雰囲気または高温腐食性雰囲気において加熱・冷却が繰り返される環境下で使用される、焼却炉、排ガス系部材、ボイラー、内燃機関、ガスタービン、ジェットエンジン、等に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
各種燃焼機器、内燃機関、ボイラー、焼却炉、排ガス系部材、タービン、ジェットエンジン、等に使用される耐熱合金基材には耐酸化コーティングが施工されている。代表的な耐酸化コーティングはAlおよび/またはCrを含有する合金皮膜であって、特に、高温の過酷な腐食環境ではAl含有合金が使用され、Alの拡散浸透処理、溶射、等によって基材表面に形成され、保護的アルミナ(Al2 O3 )スケールを形成して基材を高温腐食から保護する。
【0003】
耐熱合金基材では、しかしながら、特に高温で使用中に、コーティング皮膜のAlが基材側に、基材の元素がコーティング皮膜側に、それぞれ相互拡散するため、コーティング皮膜のAl濃度は早期に低下し、非保護的酸化物が形成・成長することによって、コーティング皮膜はその耐酸化能を喪失することから、その解決が求められている。
【0004】
上述の元素の相互拡散を抑制するために、本発明者らにより、Re等、W等、Cr等を含有する拡散バリア層(DBL:Diffusion Barrier Layer)を基材上に形成した後、その表面にAl含有合金層を積層する技術が提案されている。拡散バリア層とAl含有合金層とを含めて拡散バリアコーティング(DBC:Diffusion Barrier Coating)および基材と拡散バリア層とAl含有合金層とを総称して拡散バリアコーティングシステム(DBCシステム)、とそれぞれ呼称している。拡散バリア層の詳細については特許文献1~4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3857689号公報
【文献】特許第3857690号公報
【文献】特許第3910588号公報
【文献】特許第4753720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の拡散バリアコーティングは、使用可能な基材が特定の合金基材に限定されてしまい、例えばFe、Ni、ステンレス鋼、等からなる汎用基材を使用することができないだけでなく、拡散バリア層の形成に有効な方法はスラリー塗布およびその後の加熱処理等に限られてしまっていた。
【0007】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、汎用基材を含む各種の金属基材を使用することができ、製造に必要なプロセスもめっきとその後の拡散処理という簡便なプロセスで済み、高温酸化性雰囲気あるいは高温腐食性雰囲気中において加熱・冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、拡散バリア機能に加えて金属基材の機械的特性の向上を図ることができ、金属基材の有する高温特性を長期に亘って維持することができる耐熱金属部材およびその製造方法ならびにそのような耐熱金属部材を含む高温装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、
金属基材と、
上記金属基材上のW系またはRe系の多目的合金層と、
上記多目的合金層上のAlおよび/またはCr含有合金層と、
上記金属基材と上記多目的合金層との間の遷移層と、
を有する耐熱金属部材である。
【0009】
この発明において、W系またはRe系の多目的合金層(Multi-Purpose Layer;MPL)は、Alおよび/またはCr含有合金層を構成する元素が金属基材側へ、金属基材を構成する元素がAlおよび/またはCr含有合金層側にそれぞれ相互拡散するのを抑制する障壁機能、すなわち拡散バリア能に加えて、金属基材の機械的特性(引張強度、クリープ強度、等)の改善、等の多機能性を有し、多目的に使用できる合金層を意味する。W系の多目的合金層は、WおよびNiとCo、Al、Cr、Reおよび上記金属基材を構成する元素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素とを含有する。Re系の多目的合金層は、ReおよびNiとCo、Al、Cr、Wおよび上記金属基材を構成する元素からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素とを含有する。多目的合金層とAlおよび/またはCr含有合金層との間にCr系の多目的合金層をさらに有することもある。多目的合金層の厚さは、必要に応じて選ばれるが、一般的には10μm以上50μm以下である。
【0010】
Alおよび/またはCr含有合金層は、Crを含有しないAl含有合金層、Alを含有しないCr含有合金層、AlおよびCrを含有する合金層の三種類がある。Al含有合金層は、特に制限はないが、例えば、β-NiAl、γ’-Ni3 Al、CoAl、FeAl、等からなる。Al含有合金層は、金属基材および多目的合金層が含有する元素を不可避的に含有することもある。Al含有合金層はまた、Cr粒子を含有することもある。Al含有合金層は、最表面に保護的アルミナ(Al2 O3 )を形成して金属基材を含む耐熱金属部材の全体を高温酸化性雰囲気から保護する機能を有する。Cr含有合金層は、特に制限はないが、例えばNi-Cr系合金、好適にはγ-Ni(Cr)からなる。ここで、Ni(Cr)は、Crを含有するNiを意味する(一般にX(Z)はZを含有するXを意味する)。Cr含有合金層は、金属基材および多目的合金層が含有する元素を不可避的に含有することもある。Cr含有合金層は、最表面に保護的クロミア(Cr2 O3 )を形成して金属基材を含む耐熱金属部材の全体を高温腐食性雰囲気から保護する機能を有する。AlおよびCrを含有する合金層は、特に制限はないが、例えば、FeCrAl、Cr粒子を含有するAl含有合金、等からなる。AlおよびCrを含有する合金層は、金属基材および多目的合金層が含有する元素を不可避的に含有することもある。AlおよびCrを含有する合金層は、最表面に保護的アルミナ(Al2 O3 )および保護的クロミア(Cr2 O3 )を形成して金属基材を含む耐熱金属部材の全体を高温酸化性雰囲気および高温腐食性雰囲気から保護する機能を有する。Alおよび/またはCr含有合金層の厚さは、必要に応じて選ばれるが、一般的には20μm以上60μm以下である。
【0011】
金属基材と多目的合金層との間の遷移層は、金属基材と多目的合金層との両者の密着性を確保するとともに、両者が融合(相互拡散)して形成された領域である。遷移層は、Niと金属基材を構成する元素のうちの少なくとも一種の元素と多目的合金層を構成する元素のうちの少なくとも一種の元素とを含有する。遷移層の厚さは、一般的には5μm以上100μm以下、好適には10μm以上60μm以下であるが、これに限定されるものではない。
【0012】
金属基材は、必要に応じて選ばれ、各種のものを使用することができるが、例えば、Fe、Co、Ni、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金等からなる。このうち、Fe基合金は、具体的には、例えば、SUS430、SUS304、SUS310、Alloy-X、FSX-414等からなる。金属基材の形状は特に限定されず、用途等に応じて選ばれるが、例えば、平板状、棒状(角棒、丸棒、等)、管状、箱状、等である。
【0013】
耐熱金属部材は、特に限定されないが、具体的には、例えば、焼却炉、ボイラー、ガスタービンの部材、ジェットエンジンの部材、排ガス系部材、等が挙げられる。
【0014】
また、この発明は、
金属基材上に少なくともNi層およびWを含有するNi層(すなわちNi(W)層)またはReを含有するNi層(すなわちNi(Re)層)をめっきにより順次形成する工程と、
Al蒸気源としてFeAlまたはNiAlを用いたAl拡散処理またはCr拡散処理を施すことにより上記金属基材上に遷移層を介してW系またはRe系の多目的合金層およびAlおよび/またはCr含有合金層を順次形成する工程と、
を有する耐熱金属部材の製造方法である。
【0015】
必要に応じて、多目的合金層を形成するに際し、Ni(W)層またはNi(Re)層上にさらにNi層、Co層またはNi(Co)層をめっきにより形成する。これらのめっき層の厚さは、特に限定されないが、例えば、最下層のNi層(内側Ni層)は10μm以上60μm以下、Ni(W)層またはNi(Re)層は20μm以上50μm以下、最上層のNi層(外側Ni層)は30μm以上60μm以下である。Al拡散処理は、典型的には、めっき層を形成した金属基材を、Al蒸気源としてのFeAlまたはNiAlと塩化アンモニウム(NH4 Cl)とアルミナ(Al2 O3 )との混合粉末に埋没させ、真空中または不活性ガス雰囲気中において950℃以上1050℃以下の温度で1時間以上10時間以下加熱することにより行う。これらの粉末の混合割合に特に制限はないが、好適には、FeAlまたはNiAlは5重量%以上30重量%以下、NH4 Clは1重量%以上5重量%以下、残Al2 O3 である。Al蒸気源としてのFeAlまたはNiAlの組成は必要に応じて選ばれるが、好適にはFe-50原子%AlまたはNi-50原子%Alである。Cr拡散処理は、典型的には、めっき層を形成した金属基材を、Cr蒸気源、例えばCrとNH4 ClとAl2 O3 との混合粉末に埋没させ、真空中または不活性ガス雰囲気中において1000℃以上1100℃以下の温度で1時間以上10時間以下加熱することにより行う。これらの粉末の混合割合に特に制限はないが、好適には、Cr蒸気源、例えばCrは5重量%以上30重量%以下、NH4 Clは1重量%以上5重量%以下、残Al2 O3 である。
【0016】
この発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、上記の耐熱金属部材の発明に関連して説明したことが成立する。
【0017】
また、この発明は、
金属基材と、
上記金属基材上のW系またはRe系の多目的合金層と、
上記多目的合金層上のAlおよび/またはCr含有合金層と、
上記金属基材と上記多目的合金層との間の遷移層と、を有する耐熱金属基材
を有する高温装置である。
【0018】
高温装置は、上記の耐熱金属部材を一部または全部に含む各種のものであってよいが、具体的には、例えば、ガスタービン、ジェットエンジン、排ガス装置、ボイラー、等である。
【0019】
また、この発明は、
金属基材上に少なくともNi層およびWを含有するNi層(すなわちNi(W)層)またはReを含有するNi層(すなわちNi(Re)層)をめっきにより順次形成する工程と、
Al蒸気源としてFeAlまたはNiAlを用いたAl拡散処理またはCr拡散処理を施すことにより上記金属基材上に遷移層を介してW系またはRe系の多目的合金層およびAlおよび/またはCr含有合金層を順次形成する工程と、を実行することにより耐熱金属部材を製造する工程を有する高温装置の製造方法である。
【0020】
上記の高温装置の発明および高温装置の製造方法の発明においては、上記以外のことは、特にその性質に反しない限り、上記の耐熱金属部材の発明および耐熱金属部材の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、W系またはRe系の多目的合金層とAlおよび/またはCr含有合金層とを有することにより、汎用基材を含む各種の金属基材を使用することができ、製造に必要なプロセスもめっきとその後の拡散処理という簡便なプロセスで済み、高温酸化性雰囲気あるいは高温腐食性雰囲気中において加熱・冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、拡散バリア機能に加えて金属基材の機械的特性の向上を図ることができ、金属基材の有する高温特性を長期に亘って維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の第1の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図2】この発明の第1の実施の形態による耐熱金属部材の製造方法を示す断面図である。
【
図3】この発明の第2の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図4】この発明の第2の実施の形態による耐熱金属部材の製造方法を示す断面図である。
【
図5】この発明の第3の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図6】この発明の第3の実施の形態による耐熱金属部材の製造方法を示す断面図である。
【
図7】この発明の第4の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図8】この発明の第5の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図9】この発明の第6の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図10】この発明の第7の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図11】この発明の第8の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図12】この発明の第8の実施の形態による耐熱金属部材の製造方法を示す断面図である。
【
図13】この発明の第9の実施の形態による耐熱金属部材を示す断面図である。
【
図14】この発明の第9の実施の形態による耐熱金属部材の製造方法を示す断面図である。
【
図15】実施例1の試験片のめっき後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図16】実施例1の試験片のAl拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図17】実施例2の試験片のめっき後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図18】実施例2の試験片のAl拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図19】実施例3の試験片のCr拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図20】実施例4の試験片のCr拡散処理およびAl拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図21】実施例5の試験片のCr拡散処理およびAl拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図22】実施例6の試験片の均質化処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図23】実施例7の試験片の均質化処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図24】比較例1の試験片のAl拡散処理後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図25】加熱・冷却サイクル酸化を行った実施例1、3および比較例2の試験片の酸化量のサイクル数依存性を示す略線図である。
【
図26】実施例1の試験片の1サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図27】実施例1の試験片の34サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図28】実施例1の試験片の132サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図29】実施例1の試験片の608サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図30】実施例3の試験片の608サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図31】実施例8の試験片の酸化前の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図32】実施例9の試験片の酸化前の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図33】実施例10の試験片の酸化前の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図34】実施例11の試験片の酸化前の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図35】実施例12の試験片の酸化前の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図36】実施例13の試験片の酸化前の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図37】実施例14の試験片の酸化前の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図38】実施例8の試験片の63サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図39】実施例9の試験片の63サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図40】実施例10の試験片の63サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図41】実施例11の試験片の63サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図42】実施例12の試験片の63サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図43】実施例13の試験片の63サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図44】実施例14の試験片の63サイクル酸化後の断面構造を示す図面代用写真およびこの断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す略線図である。
【
図45】実施例8~14の試験片の4サイクル酸化後の酸化量を示す略線図である。
【
図46】実施例8~14の試験片の63サイクル酸化後の酸化量を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明を実施するための形態(以下、単に「実施の形態」という。)について説明する。
【0024】
〈第1の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図1は第1の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図1に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、W系多目的合金層30およびAl含有合金層としてのβ-NiAl層40が順次積層されている。
【0025】
金属基材10は必要に応じて選ばれ、例えば、既に挙げたものの中から選ばれるが、具体的には、例えば、Fe、Ni、Co、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金、等からなるものである。遷移層20は、金属基材10を構成する元素と多目的合金層30を構成する元素とを含む合金層からなる。多目的合金層30は、W、W(Cr)、等からなる。β-NiAl層40のAl濃度は特に限定されないが、典型的には、30原子%以上70原子%以下である。遷移層20の厚さは、好適には、10μm以上60μm以下である。多目的合金層30の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。β-NiAl層40の厚さは、典型的には、20μm以上60μm以下である。
【0026】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0027】
図2に示すように、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50およびNi(W)層60を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(W)層60の厚さは例えば10μm以上40μm以下である。
【0028】
次に、Ni層50およびNi(W)層60が形成された金属基材10に対し、Al蒸気源としてFeAlを用いたAl拡散処理を施すことにより、
図1に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、W系多目的合金層30およびβ-NiAl層40を形成する。Al拡散処理は、Ni層50およびNi(W)層60が形成された金属基材10を、例えば(FeAl+NH
4 Cl+Al
2 O
3 )混合粉末に埋没させ、真空中または不活性ガス雰囲気、好適にはAr+3vol%H
2 雰囲気中において950~1050℃の温度で1~10時間加熱することにより行う。
【0029】
以上により、
図1に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0030】
第1の実施の形態によれば、耐熱金属部材がW系多目的合金層30およびβ-NiAl層40を有することにより、例えばFe、Ni、ステンレス鋼、等からなる汎用基材を含む各種の金属基材10を用いた場合において、高温酸化性雰囲気において加熱・冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、最表面に保護的Al2 O3 皮膜を形成することができることにより優れた耐高温酸化性を得ることができ、拡散バリア機能に加えて金属基材10の機械的特性の向上を図ることができることにより金属基材10の機械的強度の低下を抑制することができ、金属基材10の有する高温特性を長期に亘って維持することができる。
【0031】
〈第2の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図3は第2の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図3に示すように、この耐熱金属部材においては、第1の実施の形態による耐熱金属部材と同様に、金属基材10の表面に遷移層20、W系多目的合金層30およびβ-NiAl層40が順次積層されているが、β-NiAl層40の厚さが第1の実施の形態による耐熱金属部材に比べてずっと大きい、具体的には例えば2~3倍大きいことが異なる。その他のことは第1の実施の形態による耐熱金属部材と同様である。
【0032】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0033】
図4に示すように、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Ni(W)層60およびNi層70を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(W)層60の厚さは例えば10μm以上40μm以下、Ni層70の厚さは例えば20μm以上50μm以下である。
【0034】
次に、Ni層50、Ni(W)層60およびNi層70が形成された金属基材10に対し、Al蒸気源としてFeAlを用いたAl拡散処理を行うことにより、
図3に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、W系多目的合金層30およびβ-NiAl層40を形成する。Al拡散処理は、第1の実施の形態と同様に行う。
【0035】
以上により、
図3に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0036】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、β-NiAl層40の厚さが大きいことにより、さらに長期間に亘って最表面に保護的Al2 O3 皮膜を形成することができ、従ってさらに長期間に亘って耐高温酸化性を維持することができるという利点を得ることができる。
【0037】
〈第3の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図5は第3の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図5に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、Re系多目的合金層80およびβ-NiAl層40が順次積層されている。金属基材10、遷移層20およびβ-NiAl層40については第1の実施の形態と同様である。Re系多目的合金層80の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。
【0038】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0039】
図6に示すように、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Ni(Re)層90およびNi層70を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(Re)層90の厚さは例えば10μm以上40μm以下、Ni層70の厚さは例えば20μm以上50μm以下である。
【0040】
次に、Ni層50、Ni(Re)層90およびNi層70が形成された金属基材10に対し、Al蒸気源としてFeAlを用いたAl拡散処理を行うことにより、
図5に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、Re系多目的合金層80およびβ-NiAl層40を形成する。Al拡散処理は、第1の実施の形態と同様に行う。
【0041】
以上により、
図5に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0042】
第3の実施の形態によれば、耐熱金属部材がRe系多目的合金層80およびβ-NiAl層40を有することにより、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0043】
〈第4の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図7は第4の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図7に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、W(Cr)系多目的合金層100およびCr含有合金層としてのγ-Ni(Cr)層110が順次積層されている。金属基材10および遷移層20については第1の実施の形態と同様である。W(Cr)系多目的合金層100の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。γ-Ni(Cr)層110の厚さは、典型的には、5μm以上60μm以下である。
【0044】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0045】
図4に示すと同様に、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Ni(W)層60およびNi層70を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(W)層60の厚さは例えば10μm以上40μm以下、Ni層70の厚さは例えば20μm以上50μm以下である。
【0046】
次に、Ni層50、Ni(W)層60およびNi層70が形成された金属基材10に対し、Cr拡散処理を行うことにより、
図7に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、W(Cr)系多目的合金層100およびγ-Ni(Cr)層110を形成する。Cr拡散処理は、Ni層50、Ni(W)層60およびNi層70が形成された金属基材10を、例えば(Cr+Ni+NH
4 Cl+Al
2 O
3 )混合粉末に埋没させ、真空中または不活性ガス雰囲気、好適にはAr+3vol%H
2 雰囲気中において1000~1100℃の温度で1~10時間加熱することにより行う。
【0047】
以上により、
図7に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0048】
第4の実施の形態によれば、耐熱金属部材がW(Cr)系多目的合金層100およびγ-Ni(Cr)層110を有することにより、例えばFe、Ni、ステンレス鋼、等からなる汎用基材を含む各種の金属基材10を用いた場合において、高温腐食性雰囲気において加熱・冷却サイクルが付加された環境下で使用された場合に、最表面に保護的クロミア(Cr2 O3 )が形成されることにより優れた耐高温腐食性を得ることができ、拡散バリア機能に加えて金属基材10の機械的特性の向上を図ることができることにより金属基材10の機械的強度の低下を抑制することができ、金属基材10の有する高温特性を長期に亘って維持することができる。
【0049】
〈第5の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図8は第5の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図8に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、Re(Cr)系多目的合金層120およびγ-Ni(Cr)層110が順次積層されている。金属基材10および遷移層20については第1の実施の形態と同様である。Re(Cr)系多目的合金層120の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。γ-Ni(Cr)層110の厚さは、典型的には、5μm以上60μm以下である。
【0050】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0051】
図6に示すと同様に、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Ni(Re)層90およびNi層70を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(Re)層90の厚さは例えば10μm以上40μm以下、Ni層70の厚さは例えば20μm以上50μm以下である。
【0052】
次に、Ni層50、Ni(Re)層90およびNi層70が形成された金属基材10に対し、Cr拡散処理を行うことにより、
図8に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、Re(Cr)系多目的合金層120およびγ-Ni(Cr)層110を形成する。Cr拡散処理は、第4の実施の形態と同様に行う。
【0053】
以上により、
図8に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0054】
第5の実施の形態によれば、耐熱金属部材がRe(Cr)系多目的合金層120およびγ-Ni(Cr)層110を有することにより、第4の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0055】
〈第6の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図9は第6の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図9に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、W(Cr)系多目的合金層100、Cr系多目的合金層130および、AlおよびCrを含有する合金層としてのCr粒子含有β-NiAl層140が順次積層されている。金属基材10および遷移層20については第1の実施の形態と同様である。W(Cr)系多目的合金層100の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。Cr系多目的合金層130の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。Cr粒子含有β-NiAl層140の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。
【0056】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0057】
図4に示すと同様に、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Ni(W)層60およびNi層70を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(W)層60の厚さは例えば10μm以上40μm以下、Ni層70の厚さは例えば20μm以上50μm以下である。
【0058】
次に、Ni層50、Ni(W)層60およびNi層70が形成された金属基材10に対し、Cr拡散処理を行うことにより、
図7に示すと同様に、金属基材10の表面に遷移層20、W(Cr)系多目的合金層100およびγ-Ni(Cr)層110を形成する。Cr拡散処理は、第4の実施の形態と同様に行う。
【0059】
次に、遷移層20、W(Cr)系多目的合金層100およびγ-Ni(Cr)層110が形成された金属基材10に対し、Al蒸気源としてFeAlを用いたAl拡散処理を行うことにより、
図9に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、W(Cr)系多目的合金層100、Cr系多目的合金層130およびCr粒子含有β-NiAl層140を形成する。Al拡散処理は、第1の実施の形態と同様に行う。
【0060】
以上により、
図9に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0061】
第6の実施の形態によれば、W(Cr)系多目的合金層100、Cr系多目的合金層130およびCr粒子含有β-NiAl層140により、第1および第4の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0062】
〈第7の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図10は第7の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図10に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、Re(Cr)系多目的合金層120、Cr系多目的合金層130およびCr粒子含有β-NiAl層140が順次積層されている。金属基材10および遷移層20については第1の実施の形態と同様である。Re(Cr)系多目的合金層120の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。Cr系多目的合金層130およびCr粒子含有β-NiAl層140の厚さは第6の実施の形態と同様である。
【0063】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0064】
図6に示すと同様に、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Ni(Re)層90およびNi層70を順次形成する。
【0065】
次に、Ni層50、Ni(Re)層90およびNi層70が形成された金属基材10に対し、Cr拡散処理を行うことにより、
図8に示すと同様に、金属基材10の表面に遷移層20、Re(Cr)系多目的合金層120およびγ-Ni(Cr)層110を形成する。Cr拡散処理は、第4の実施の形態と同様に行う。
【0066】
次に、遷移層20、Re(Cr)系多目的合金層120およびγ-Ni(Cr)層110が形成された金属基材10に対し、Al蒸気源としてFeAlを用いたAl拡散処理を行うことにより、
図10に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、Re(Cr)系多目的合金層120、Cr系多目的合金層130およびCr粒子含有β-NiAl層140を形成する。Al拡散処理は、第1の実施の形態と同様に行う。
【0067】
以上により、
図10に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0068】
第7の実施の形態によれば、耐熱金属部材がRe(Cr)系多目的合金層120、Cr系多目的合金層100およびCr粒子含有β-NiAl層140を有することにより、第1および第4の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0069】
〈第8の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図11は第8の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図11に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、Re系多目的合金層80、W系多目的合金層30、γ’-(Ni,Co)
3 Al層150およびβ-CoAl層160が順次積層されている。γ’-(Ni,Co)
3 Al層150およびβ-CoAl層160はAl含有合金層を構成する。金属基材10および遷移層20については第1の実施の形態と同様である。Re系多目的合金層80およびW系多目的合金層30の厚さは、第1~第3の実施の形態と同様である。γ’-(Ni,Co)
3 Al層150の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。β-CoAl層160の厚さは、β-NiAl層40の厚さと同様である。
【0070】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0071】
図12に示すように、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Re(Ni)層170、Ni(W)層60、Ni層70およびCo層180を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Re(Ni)層170の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(W)層60の厚さは例えば10μm以上40μm以下、Ni層70の厚さは例えば20μm以上50μm以下、Co層180の厚さは例えば20μm以上50μm以下である。
【0072】
次に、Ni層50、Re(Ni)層170、Ni(W)層60、Ni層70およびCo層180が形成された金属基材10に対し、Al蒸気源としてFeAlを用いたAl拡散処理を行った後、均質化処理を行うことにより、
図11に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、Re系多目的合金層80、W系多目的合金層30、γ’-(Ni,Co)
3 Al層150およびβ-CoAl層160を形成する。Al拡散処理は、第1の実施の形態と同様に行う。均質化処理は、例えば大気中において1000~1200℃の温度で0.5~3時間加熱することにより行う。
【0073】
以上により、
図11に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0074】
第8の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0075】
〈第9の実施の形態〉
[耐熱金属部材]
図13は第9の実施の形態による耐熱金属部材を示す。
図13に示すように、この耐熱金属部材においては、金属基材10の表面に遷移層20、Re系多目的合金層80、W系多目的合金層30、γ’-(Ni,Fe)
3 Al層190およびβ-NiAl層40が順次積層されている。金属基材10および遷移層20については第1の実施の形態と同様である。Re系多目的合金層80およびW系多目的合金層30の厚さは、第1~第3の実施の形態と同様である。γ’-(Ni,Fe)
3 Al層190の厚さは、典型的には、10μm以上50μm以下である。β-NiAl層40の厚さは、第1の実施の形態と同様である。
【0076】
[耐熱金属部材の製造方法]
この耐熱金属部材の製造方法について説明する。
【0077】
図14に示すように、まず、金属基材10の表面に電気めっきによりNi層50、Re(Ni)層170、Ni(W)層60およびNi層70を順次形成する。Ni層50の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Re(Ni)層170の厚さは例えば5μm以上20μm以下、Ni(W)層60の厚さは例えば10μm以上40μm以下、Ni層70の厚さは例えば20μm以上50μm以下である。
【0078】
次に、Ni層50、Re(Ni)層170、Ni(W)層60およびNi層70が形成された金属基材10に対し、Al蒸気源としてFeAlを用いたAl拡散処理を行った後、均質化処理を行うことにより、
図13に示すように、金属基材10の表面に遷移層20、Re系多目的合金層80、W系多目的合金層30、γ’-(Ni,Fe)
3 Al層190およびβ-NiAl層40を形成する。Al拡散処理は、第1の実施の形態と同様に行う。均質化処理は、第8の実施の形態と同様に行う。
【0079】
以上により、
図13に示す目的とする耐熱金属部材が製造される。
【0080】
第9の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0081】
実施例について説明する。
【実施例】
【0082】
金属基材10として表1に記載の(1)~(7)を用いた。
(1)Alloy-X
(2)Ni
(3)Fe
(4)SUS310
(5)SUS430
(6)SUH446
(7)FSX414
【0083】
【0084】
(実施例1)
実施例1は第1の実施の形態に対応するものである。
【0085】
金属基材10として表1に記載のSUS310基材を用いた。このSUS310基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、(Niストライクめっき 電流密度0.5A/cm2 厚さ1μm)→(Niめっき 電流密度0.06A/cm2 厚さ10μm)→(Ni(W)めっき 電流密度0.15A/cm2 厚さ30μm)を行い、Ni層およびNi(W)層が順に積層された合計の厚さ約40μmのめっき層を形成した。
【0086】
試験片の基材/めっき層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散分光装置)で行った。
図15AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図15Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図15AおよびBに示すように、試験片の表面にNi層およびNi(W)層が順次形成された。
図15Bから分かるように、Ni(W)層のW濃度は約18~20原子%である。
【0087】
次に、試験片の表面にAl拡散処理を施した。すなわち、めっき層を形成した試験片をFe-50原子%Al:NH4 Cl:Al2 O3 =20:3:77(重量比)の混合粉末に埋没させ、Ar+3vol%H2 雰囲気中において1000℃で4時間加熱することによりAl拡散処理を施した。
【0088】
Al拡散処理を施した試験片の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図16AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図16Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図16AおよびBに示すように、試験片の表面に基材側から、遷移層を介してW系MPL層およびβ-NiAl層が順次形成された。
図16Bから分かるように、W系MPL層は、Ni-Al合金相(γ-Ni(Al)とγ’-Ni
3 Alとからなる)とW含有合金相との混合組織となっており、Al濃度は9.9~15.7原子%、Ni濃度は9.6~57.2原子%、W濃度は24.7~80.8原子%である。β-NiAl層のAl濃度は35~58原子%であり、特に、W系MPL層側の厚さ約10μmの範囲のAl濃度は50原子%以下である。
【0089】
(実施例2)
実施例2は第3の実施の形態に対応するものである。
【0090】
まず、実施例1と同様にして、表1に記載のSUS310基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、(Niストライクめっき 電流密度0.5A/cm2 厚さ1μm)→(Niめっき 電流密度0.06A/cm2 厚さ10μm)→(Ni(Re)めっき 電流密度0.15A/cm2 厚さ30μm)→(Niめっき
電流密度0.06A/cm2 厚さ30μm)を行い、Ni層、Ni(Re)層およびNi層が順に積層された合計の厚さ約70μmのめっき層を形成した。
【0091】
試験片の基材/めっき層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図17AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図17Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図17AおよびBに示すように、試験片の表面にNi層、Ni(Re)層およびNi層が順次形成された。
図17Bから分かるように、Ni(Re)層のRe濃度は基材側から25.1~27.5原子%の範囲にある。
【0092】
次に、実施例1と同様の条件で試験片の表面にAl拡散処理を施した。
【0093】
Al拡散処理を施した試験片の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図18AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図18Aに示す写真の分析線に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図18AおよびBに示すように、試験片の上端面に基材側から、遷移層を介してRe系MPL層およびβ-NiAl層が形成された。
図18Bから分かるように、Re系MPL層のRe濃度は5.8~26.7原子%である。β-NiAl層のAl濃度は35.9~56.6原子%である。
【0094】
(実施例3)
実施例3は第4の実施の形態に対応するものである。
【0095】
金属基材10として表1に記載のSUS310基材を用いた。このSUS310基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、実施例2と同様にしてNi層、Ni(W)層およびNi層が順に積層された合計の厚さ約40μmのめっき層を形成した。
【0096】
次に、試験片の表面にCr拡散処理を施した。すなわち、めっき層を形成した試験片をCr:NH4 Cl:Al2 O3 =20:3:77(重量比)の混合粉末に埋没させ、Ar+3vol%H2 雰囲気中において1100℃で4時間加熱することによりCr拡散処理を施した。
【0097】
試験片の基材10/めっき層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図19AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図19Aに示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図19AおよびBに示すように、試験片の上端面に基材側から、遷移層を介してW(Cr)系MPL層、γ-Ni(Cr)層(表面に一部α-Cr(Ni)が存在する)が形成された。また、
図19Bから分かるように、W(Cr)系MPL層のW濃度は2.0~19.0原子%、Cr濃度は10.1~12.4原子%、Fe濃度は6.6~22.2原子%である。γ-Ni(Cr)層のCr濃度は19.7~31.9原子%である。
【0098】
(実施例4)
実施例4は第6の実施の形態に対応するものである。
【0099】
合金基材10として表1に記載のAlloy-X基材を用いた。このAlloy-X基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、実施例1と同様にして合計の厚さ約40μmのめっき層を形成した。
【0100】
次に、実施例3と同様の条件で試験片の表面にCr拡散処理を施した。
【0101】
次に、実施例1と同様の条件で試験片の表面にAl拡散処理を施した。
【0102】
試験片の基材/めっき層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図20AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図20Aに示す写真の分析線LG6に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図20AおよびBに示すように、試験片の上端面に基材側から、遷移層を介してW(Cr)系MPL層、Cr系MPL層およびCr粒子(白色点)が分散したβ-NiAl層が形成された。また、
図20Bから分かるように、W(Cr)系MPL層のW濃度は17.0~42.1原子%、Cr濃度は5.1~18.0原子%、Al濃度は11.6~23.3原子%、Ni濃度は33.6~44.8原子%である。また、Cr系MPL層のCr濃度は52.0~73.3原子%である。β-NiAl層のAl濃度は43.7~56.7原子%、Cr濃度は1.0~11.4原子%である。
【0103】
(実施例5)
実施例5は第7の実施の形態に対応するものである。
【0104】
合金基材10として表1に記載のSUS310基材を用いた。このSUS310基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、実施例2と同様にして合計の厚さ約40μmのめっき層を形成した。
【0105】
次に、実施例3と同様の条件で試験片の表面にCr拡散処理を施した。
【0106】
次に、実施例1と同様の条件で試験片の表面にAl拡散処理を施した。
【0107】
試験片の基材/めっき層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図21AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図21Aに示す写真の分析線に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図21AおよびBに示すように、試験片の上端面に基材側から、遷移層を介してRe(Cr)系MPL層、Cr系MPL層およびα-Cr含有β-NiAl層が形成された。また、
図21Bから分かるように、Re(Cr)系MPL層のRe濃度は47.9~51.3原子%、Cr濃度は4.3~5.1原子%、Al濃度は0.0原子%、Ni濃度は36.1~36.9原子%、Cr系MPL層のCr濃度は8.5~80.3原子%、Al濃度は1.0~7.1原子%、Re濃度は0.0~0.3原子%である。β-NiAl層のAl濃度は23.0~39.7原子%、Cr濃度は4.1~61.4原子%、Re濃度は0.0原子%、Ni濃度は2.8~54.3原子%である。
【0108】
(実施例6)
実施例6は第8の実施の形態に対応するものである。
【0109】
金属基材10として表1に記載のSUS310基材を用いた。このSUS310基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、次に、(Niストライクめっき 電流密度0.5A/cm2 1分)→(Re(Ni)めっき 電流密度0.06A/cm2 20分)→(Ni(W)めっき 電流密度0.06A/cm2 20分)→(Niめっき 電流密度0.06A/cm2 10分)→(Coめっき 電流密度0.06A/cm2 10分)を行い、Ni層、Re(Ni)層、Ni(W)層、Ni層およびCo層が順に積層されためっき層を形成した。
【0110】
次に、実施例1と同様の条件で試験片の表面にAl拡散処理を施した。
【0111】
この後、めっき層を形成した試験片を大気中において1100℃で1時間加熱することにより均質化処理を施した。
【0112】
均質化処理を施した試験片の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図22AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図22Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図22AおよびBに示すように、試験片の上端面に基材側から、遷移層を介してRe系MPL層、W系MPL層、γ’-(Ni,Co)
3 Al層およびβ-CoAl層が形成された。β-CoAl層の表面にはAl
2 O
3 層が形成されている。
図22Bから分かるように、Re系MPL層のRe濃度は3~35原子%、W系MPL層のW濃度は1~27原子%である。β-CoAl層のAl濃度は38~42原子%である。
【0113】
(実施例7)
実施例7は第9の実施の形態に対応するものである。
【0114】
金属基材10として表1に記載のSUS310基材を用いた。このSUS310基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、次に、(Niストライクめっき 電流密度0.5A/cm2 1分)→(Re(Ni)めっき 電流密度0.06A/cm2 20分)→(Ni(W)めっき 電流密度0.06A/cm2 20分)→(Niめっき 電流密度0.06A/cm2 20分)を行い、Ni層、Re(Ni)層、Ni(W)層およびNi層が順に積層されためっき層を形成した。
【0115】
次に、実施例1と同様の条件で試験片の表面にAl拡散処理を施した。
【0116】
この後、めっき層を形成した試験片を大気中において1100℃で1時間加熱することにより均質化処理を施した。
【0117】
均質化処理を施した試験片の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図23AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図23Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図23AおよびBに示すように、試験片の上端面に基材側から、遷移層を介してRe系MPL層、W系MPL層、γ’-(Ni,Fe)
3 Al層およびβ-NiAl層が形成された。β-NiAl層の表面にはAl
2 O
3 層が形成されている。
図23Bから分かるように、Re系MPL層のRe濃度は3~37原子%、W系MPL層のW濃度は2原子%である。β-NiAl層のAl濃度は40~42原子%である。
【0118】
(比較例1)
比較例1は、実施例1ではAl拡散処理の際のAl蒸気源としてFeAlを用いたのに対し、Al拡散処理の際のAl蒸気源としてAlを用いたことが実施例1と異なる。
【0119】
すなわち、まず、実施例1と同様に、金属基材10として表1に記載のSUS310基材を用い、このSUS310基材により形成した試験片の表面にNi層およびNi(W)層が順に積層された合計の厚さ約40μmのめっき層を形成した。
【0120】
次に、試験片の表面にAl拡散処理を施した。すなわち、めっき層を形成した試験片をAl:NH4 Cl:Al2 O3 =15:2:83(重量比)の混合粉末に埋没し、Ar+3vol%H2 雰囲気中において1000℃で4時間加熱することによりAl拡散処理を施した。
【0121】
試験片の基材/めっき層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
図24AおよびBにそれぞれ断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図24Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図24AおよびBに示すように、実施例1と異なり、試験片の表面に基材側から、遷移層を介してW粒子が(白色点)が分散したAl含有合金層(Al濃度は56~67原子%)が形成され、
図16Aに示すようなW系MPL層は形成されない。すなわち、Al粉末をAl蒸気源とした場合、50原子%以上の高Al濃度のAl含有合金層(β-NiAl相とNi
2 Al
3 相)が形成され、Ni-Al系において、約50原子%以上のAl濃度では、Alの固有拡散係数がNiのそれよりも大きいことから、Al含有合金層はAlの内方拡散によって成長するため、W等が内在したAl含有合金層が形成されるものと、理解される。
【0122】
[高温酸化試験]
高温酸化試験は、加熱・冷却繰り返しの条件下で、大気中で行った。具体的には、水平移動式試料台(アルミナ棒) に試験片を載せ、1100℃に制御した電気炉内に挿入し、45分経過後、大気中で15分間冷却した後、再び電気炉に挿入する、いわゆるサイクル酸化試験である。
【0123】
実施例1、3の試験片の所定のサイクル数経過後に測定した重量変化、すなわち酸化量のサイクル数依存性を
図25に示す。
図25には、比較のために、SUS310基材により形成した試験片(比較例2)についての同様なサイクル数依存性も示す。
【0124】
図25より、耐酸化性を酸化重量が減少に転じて酸化量=0の時のサイクル数で比較すると、比較例2の試験片に比較して、実施例3の試験片では約2.5倍、実施例1の試験片では約4.5倍に延長されていることが分かる。
【0125】
以上の高温酸化試験の結果から、以下のサイクル数経過後の実施例1、3の試験片の基材/めっき層施工面の一部を切断し、その断面組織観察と各元素の濃度分布の測定とをSEM-EDX装置で行った。
【0126】
図26AおよびBはそれぞれ実施例1の試験片の1サイクル後の断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図26Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
【0127】
図27AおよびBはそれぞれ実施例1の試験片の34サイクル後の断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図27Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
【0128】
図28AおよびBはそれぞれ実施例1の試験片の132サイクル後の断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図28Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
図28Bに示すように、132サイクル後では、β-NiAl層のAl濃度は29.8~31.2原子%の範囲にあり、W濃度は無視できる程度である。これはβ-NiAl層にWは固溶しないためである。
【0129】
図29AおよびBはそれぞれ実施例1の試験片の608サイクル後の断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図29Aに示す写真の分析線LG1に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
【0130】
図30AおよびBはそれぞれ実施例3の試験片の608サイクル後の断面SEM写真およびEDXを用いて測定した各元素の濃度分布(
図30Aに示す写真の分析線LG2に沿っての濃度分布)の測定結果を示す。
【0131】
図29Bおよび
図30Bに示すように、608サイクル後では、実施例1の試験片のAl濃度は3.4~3.9原子%、実施例3の試験片のAl濃度は2.3~2.9原子%である。実施例1、3の試験片とも、AlNが形成され、W濃度は2.1~2.6原子%である。
【0132】
[試験片の酸化特性の金属基材依存性]
試験片の酸化特性の金属基材依存性を調べるために、表1に記載の7種類の金属基材にそれぞれ同一のW系MPL/β-NiAlコーティングを施工した試験片を作製した。
【0133】
すなわち、金属基材10としてFe基材(実施例8)、Ni基材(実施例9)、SUS430基材(実施例10)、SUH446基材(実施例11)、SUS310基材(実施例12)、Alloy-X基材(実施例13)、FSX414基材(実施例14)を用い、これらの基材により形成した試験片の表面を平滑研磨し、脱脂を行った。次に、(Niストライクめっき 電流密度0.5A/cm2 厚さ1μm)→(Niめっき 電流密度0.06A/cm2 厚さ10μm)→(Ni(W)めっき 電流密度0.15A/cm2 厚さ30μm)→(Niめっき 電流密度0.06A/cm2 厚さ20μm)を行い、Ni層、Ni(W)およびNi層が順に積層された合計の厚さ約60μmのめっき層を形成した。
【0134】
この後、実施例1と同様の条件で試験片の表面にAl拡散処理を施した。
【0135】
【0136】
実施例8~14の各試験片に対して高温酸化試験を行った。高温酸化試験の方法は先に述べた通りである。酸化は63サイクル行った。
【0137】
【0138】
実施例8~14の各試験片の4サイクル経過後および63サイクル経過後に測定した酸化量の金属基材依存性をそれぞれ
図45および
図46に示す。
図45および
図46より、実施例8~14の各試験片の金属基材に対する酸化量は以下のようになる。
【0139】
酸化量(mg/cm2 )
4サイクル後 63サイクル後
実施例8 Fe基材 1.5×10-3 1.6×10-3
実施例9 Ni基材 0.13 0.09
実施例10 SUS430基材 6.0×10-2
実施例11 SUH446基材 0.3
実施例12 SUS310基材 0.8
実施例13 Alloy-X基材 0.8
実施例14 FSX414基材 0.7
【0140】
これらの結果から、W系MPL層およびβ-NiAl層からなるコーティングは、Fe基材、Ni基材およびFe含有合金基材(SUS430基材およびSUH446基材)に対して、サイクル酸化の初期から、優れた耐高温酸化性を示していることが分かる。特に、Fe基材およびNi基材では、63サイクル後においても、優れた耐高温酸化性を維持している。
【0141】
[試験片の強度測定]
SUS310基材に遷移層を介してW系MPL層およびβ-NiAl層を形成した試験片の室温における引張強度および破断歪を測定した。ただし、W系MPL層およびβ-NiAl層の形成には、実施例1と同様にSUS310基材上にNi層およびNi(W)層を形成し(実施例15)、あるいは実施例2と同様にSUS310基材上にNi層、Ni(W)層およびNi層を形成した(実施例16)。Al拡散処理は、実施例15、16とも、めっき層を形成した試験片をFeAl:NH4 Cl:Al2 O3 =15:2:60(重量比)の混合粉末に埋没させ、Ar+3vol%H2 雰囲気中において900℃で6時間加熱することにより行った。比較のため、SUS310基材そのものを用いた試験片(比較例3)、SUS310基材に熱処理(試験片をAl2 O3 粉末に埋没させ、Ar+3vol%H2 雰囲気中において900℃で6時間加熱する)を行った試験片(比較例4)も用いた。表2に引張強度および破断歪の測定結果を示す。表2より、熱処理のみを施したSUS310基材試験片(比較例4)に比較して、W系MPL層およびβ-NiAl層を形成した試験片では、最大応力が高く、歪量が低くなっており、W系MPL層およびβ-NiAl層を形成することにより、機械的特性が高強度化されたことになる。
【0142】
【0143】
[試験片のクリープ強度]
実施例15、16の試験片のクリープ挙動を900℃、大気中、応力30MPaで調査した。その結果、破断時間は、比較例3、4の試験片に対しては180時間、実施例15、16のW系MPL層およびβ-NiAl層を形成した試験片では160~190時間であった。この結果から分かるように、実施例15、16の試験片の破断時間は比較例3~4とも、破断時間は金属基材10に同一のW系MPL層およびβ-NiAl層を形成した試験片の破断時間は金属基材10と同等であり、クリープ破断時間の低下は確認されなかった。
【0144】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0145】
10…金属基材、20…遷移層、30…W系多目的合金層、40…β-NiAl層、50、70…Ni層、60…Ni(W)層、80…Re系多目的合金層、90…Ni(Re)層、100…W(Cr)系多目的合金層、110…γ-Ni(Cr)層、120…Re(Cr)系多目的合金層、130…Cr系多目的合金層、140…Cr含有β-NiAl層、150…γ’-(Ni,Co)3 Al層、160…β-CoAl層、170…Re(Ni)層、180…Co層