(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】胸腺癌の診断薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01N33/574 A
(21)【出願番号】P 2021000806
(22)【出願日】2021-01-06
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宿谷 威仁
(72)【発明者】
【氏名】金森 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和久
(72)【発明者】
【氏名】川路 英哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌可
(72)【発明者】
【氏名】推名 健太郎
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-091175(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0277851(US,A1)
【文献】特開2017-201225(JP,A)
【文献】Hirose Yukiko,Aberrant methylation of tumour-related genes in thymic epithelial tumours,Lung cancer,2008年09月07日,Vol.64 No.2,Page.155-159
【文献】Kanamori, Koichiro,CALML5 is a novel diagnostic marker for differentiating thymic squamous cell carcinoma from type B3 thymoma,Thoracic Cancer,2023年03月16日,Vol.14 No.12,Page.1089-1097
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者由来の胸腺の組織試料におけるカルモジュリン様タンパク質5又はそのmRNAの量を指標として
、当該組織試料が胸腺癌組織か否かを検査することを特徴とする胸腺癌
に関する情報の検査方法。
【請求項2】
前記組織試料について胸腺腫と胸腺癌を鑑別して
検査する請求項1記載の
検査方法。
【請求項3】
カルモジュリン様タンパク質5の量の検出が、免疫染色によるものである請求項1又は2記載の
検査方法。
【請求項4】
胸腺の組織試料中のカルモジュリン様タンパク質5又はそのmRNAの量の検出試薬を含有する胸腺癌診断薬。
【請求項5】
カルモジュリン様タンパク質5の量の検出試薬が、抗カルモジュリン様タンパク質5抗体を含む検出試薬である請求項4記載の診断薬。
【請求項6】
胸腺腫と胸腺癌を鑑別するものである請求項4又は5記載の診断薬。
【請求項7】
胸腺の組織試料中のカルモジュリン様タンパク質5又はそのmRNAからなる、胸腺癌のバイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸腺癌の診断薬及び胸腺癌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胸腺上皮性腫瘍は人口10万対0.44~0.68人発生する稀な腫瘍である。WHO分類で胸腺腫は腫瘍細胞の形態、非腫瘍性リンパ球の相対量等により、A、AB、B1、B2、B3型に分けられる。一方、胸腺癌は胸腺腫よりも予後が悪く、治療方法についても、化学療法のレジメンが異なり、胸腺腫と胸腺癌の鑑別は重要な課題である。
一方で、B3型胸腺腫は胸腺腫の中で最も悪性度が高く、異型性を伴うため胸腺癌との鑑別が困難な場合がある。CD5やc-kitが胸腺腫と胸腺癌の鑑別で胸腺癌のマーカーとして免疫染色で現在使用されているが、感度はCD5が30%-70%、c-kitは70%-80%であり、また胸腺腫でも染まる場合がある(非特許文献1~3)。また、PRAMEが胸腺癌のバイオマーカーとして有用であることも報告されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】K Nakagawa, et al. Immunohistochemical KIT (CD117) Expression in Thymic Epithelial Tumors. CHEST 2005; 128: 140-144
【文献】M Kojika, et al. Immunohistochemical differential diagnosis between thymic carcinoma and type B3 thymoma: diagnostic utility of hypoxic marker, GLUT-1, in thymic epithelial neoplasms. Modern Pathology. 2009; 22; 1341-1350
【文献】Y Yamada, et al. Expression of Proteasome Subunit β5t in Thymic Epithelial Tumors. Am J Surg Pathol 2011; 35: 1296-1304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のバイオマーカーによる感度はCD5が30%-70%、c-kitは70%-80%であり、また胸腺腫でも染まる場合があるなどの点で未だ十分とは言えなかった。
従って、本発明の課題は、さらに新たな胸腺癌のバイオマーカー、特に胸腺腫と胸腺癌とを明確に鑑別できる新たな胸腺癌のバイオマーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、外科的手術を施行された胸腺癌とB3型胸腺腫を用いてCAGE(Cap Analysis of Gene Expression)を行い、それぞれの腫瘍で発現の高いバイオマーカー候補を抽出し、さらにそのバイオマーカー候補の抗体を用いて免疫染色を行うことにより、胸腺癌特異的なバイオマーカーのスクリーニングを行った。その結果、カルモジュリン様タンパク質5が、胸腺癌で強く発現しており、胸腺腫と区別して診断できる優れたバイオマーカーであることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[7]を提供するものである。
[1]被検者由来の生体試料におけるカルモジュリン様タンパク質5を検出することを特徴とする胸腺癌の検出方法。
[2]胸腺腫と胸腺癌を鑑別して胸腺癌を検出する[1]記載の検出方法。
[3]カルモジュリン様タンパク質5の検出が、免疫染色によるものである[1]又は[2]記載の検出方法。
[4]カルモジュリン様タンパク質5の検出試薬を含有する胸腺癌診断薬。
[5]カルモジュリン様タンパク質5の検出試薬が、抗カルモジュリン様タンパク質5抗体を含む検出試薬である[4]記載の診断薬。
[6]胸腺腫と胸腺癌を鑑別するものである[4]又は[5]記載の診断薬。
[7]カルモジュリン様タンパク質5からなる胸腺癌のバイオマーカー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、胸腺癌が、B3型胸腺腫と区別して検出できるので、胸腺癌を正確に診断でき、化学療法のレジメン設定も明確になる。また、CD5、c-kitは腫瘍細胞の細胞膜に染まるが、本発明のバイオマーカーは細胞質や核に染まるため染まる範囲が広く、判定しやすいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】CALML5の胸腺癌(Thymic cancer)と胸腺腫(Thymoma)におけるCAGEのlоgCPMを示す図である。
【
図4】抗CALML5抗体による免疫染色の結果を示す。
【
図5】抗CALML5抗体による免疫染色の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の胸腺癌のバイオマーカーは、カルモジュリン様タンパク質5(CALML5)である。
CALML5は、カルシウム結合性タンパク質であり、ケラチノサイトの最終分化に関与していることが知られているが、胸腺癌や胸腺腫における分布については全く知られていない。
【0011】
胸腺腫は、胸腺に存在する細胞に由来する腫瘍である限り制限されない。胸腺腫には胸腺腫、胸腺内分泌腫瘍等が含まれ得る。胸腺腫はしばしば重症筋無力症等の自己免疫疾患を合併する。胸膜や肺などへの局所浸潤を来すことがあるが、所属リンパ節転移や胸腔外への転移はまれである。
胸腺癌は、胸腺腫と比べて進行が速い腫瘍であり、所属リンパ節や胸腔外に転移することが多く、そのため胸腺腫よりも予後が不良である。大半が扁平上皮癌及び未分化癌である。胸腺腫とは異なり、腫瘍随伴症候群は非常にまれである。
【0012】
本発明の胸腺癌の検出方法は、被検者由来の生体試料におけるCALML5を検出することを特徴とする。
被検者としては、胸腺癌若しくは胸腺腫患者、又は胸腺癌若しくは胸腺腫が疑われるヒトが挙げられる。
被験者由来の生体試料としては、胸腺癌細胞又は胸腺腫細胞が含まれる組織であればよく、胸腺だけでなく、胸腺癌や胸腺腫が転移した組織などでもよく、リンパ節も挙げることができるが、胸腺組織の一部が好ましい。
【0013】
CALML5の検出は、CALML5自体でもよいが、そのmRNAであってもよい。
【0014】
CALML5をタンパク質として検出する方法として、免疫染色、ウエスタンブロッティング等の公知の方法を挙げることができる。また、CALML5をmRNAとして検出する方法として、in situ ハイブリダイゼーション、RT-PCR(定量的RT-PCRを含む)、マイクロアレイ、RNA-Seq等の公知の方法を挙げることができる。
【0015】
胸腺組織を使って、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、前処理として、胸腺組織をホルマリン、及びパラホルムアルデヒド等の公知の固定液で固定してから、パラフィン包埋ブロックを作製する。あるいは、胸腺組織を固定してから、あるいは固定せずに、OCTコンパウンド(登録商標)等の凍結ブロック作製用の樹脂に包埋し、凍結ブロックを作製する。次に、作製したパラフィン包埋ブロック、又は凍結ブロックを薄切して組織切片を作製し、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションに供する。ここで、ブロックに包埋されている胸腺組織は、腫瘍部のみであっても良いが例えば正常部位等を含んでいてもよい。
【0016】
胸腺細胞を使って、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、前処理として、細胞をスライドグラスに塗抹又は収集し、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、及びエタノール等で固定する。
【0017】
CALML5をタンパク質としてウエスタンブロッティング等で検出する場合には、前処理として、胸腺細胞又は胸腺組織を所定の溶解バッファーで溶解する。溶解バッファーで溶解されたサンプルを検査サンプルとする。
【0018】
CALML5をmRNAとしてRT-PCR、マイクロアレイ、RNA-Seq等で検出する場合には、前処理として、胸腺細胞又は胸腺組織からtotal RNA又はmRNAを抽出する。また、必要に応じて、抽出したtotal RNA又はmRNAを鋳型として逆転写を行い、相補的DNA(cDNA)を合成しても良い。total RNA若しくはmRNA、又はcDNAを検査サンプルとする。
【0019】
免疫染色又はウエスタンブロッティングによってCALML5を検出するための一次抗体は、CALML5を検出できる限り制限されず、市販の抗CALML5抗体を使用することができる。
CALML5と結合した一次抗体は、一次抗体と結合する酵素標識二次抗体と、前記酵素と基質の反応により検出することができる。免疫染色を行う場合に
は、脱パラフィン及び浸水処理を行った後に、組織切片をトリプシン等のタンパク分解酵素で処理してから、免疫染色を行ってもよい。
【0020】
in situ ハイブリダイゼーションに使用するプローブの作製方法は公知である。また、市販のプローブを使用してもよい。
【0021】
RT-PCRに使用するプライマー(定量的RT-PCRの場合にはプローブを含んでいても良い)は市販されているものを使用することができる。また、マイクロアレイも市販されているものを使用することができる。
【0022】
RNA-Seqは、次世代シーケンサー(例えば、イルミナ社製)等を使用して、CALML5 mRNAのリード数を得ることができる。
【0023】
免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションによってCALML5を検出する場合、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションが施された組織標本を顕微鏡、又はスライドスキャナ等を使ってヒトが観察することにより、CALML5の有無を検出することができる。組織標本内の腫瘍細胞内に免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションのシグナルが確認された場合に、CALML5が検出されたと判定( 決定)することができる。例えば顕微鏡、又はスライドスキャナの所定の区画に存在している腫瘍細胞の個数を100%とした時に、細胞内にCALML5を有する腫瘍細胞が50%以上、好ましくは100%存在している場合に「CALML5が検出された」又は、「CALML5の発現が陽性である」と決定してもよい。
【0024】
ウエスタンブロッティング、RT-PCR、RNA-Seqによって、CALML5を検出する場合、腫瘍細胞又は腫瘍組織から抽出されたサンプルにおいてCALML5が検出された場合に、「CALML5が検出された」又は、「CALML5の発現が陽性である」と決定してもよい。あるいは、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプルと正常細胞又は正常組織由来するCALML5のタンパク質量、又はCALML5mRNA量を比較して、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプルにおけるCALML5のタンパク質量、又はCALML5のmRNA量が正常細胞又は正常組織由来するCALML5のタンパク質量、又はCALML5のmRNA量よりも高値を示す場合に、「CALML5が検出された」又は、「CALML5の発現が陽性である」と決定してもよい。また、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプルにおけるCALML5のタンパク質量、又はCALML5のmRNA量が正常細胞又は正常組織由来するCALML5のタンパク質量、又はCALML5のmRNA量と同程度である場合に、「CALML5が検出されていない」又は、「CALML5の発現が陰性である」と決定してもよい。ここで、「高値を示す」とは、1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは5倍以上高い値を示す場合を例示できる。「同程度」とは、0.8倍から1.1倍程度を例示できる。また、CALML5のタンパク質量、又はCALML5のmRNA量を比較する前に、各検査サンプル中のタンパク質量、又はRNA量を、GAPDH、β2-ミクログロブリン、β-アクチン等のハウスキーピング遺伝子由来のタンパク質量又はmRNA量で正規化してもよい。タンパク質量は質量、又は濃度で表されても良いが、基質の発光強度等で表されても良い。mRNA量は、mRNAのコピー数又はリード数であっても良いが、蛍光強度等で表されてもよい。
【0025】
また、胸腺癌の検出方法は、胸腺腫と胸腺癌とを区別して、被験腫瘍細胞が胸腺癌であると、判定することもできる。例えば、腫瘍細胞の50%以上が染色されている場合を、陽性として判断して胸腺癌であると診断することもできる。
【0026】
本発明により、胸腺に存在する腫瘍細胞が胸腺癌であると診断された場合は、その後の治療方針を決定することができる。また、本発明により、胸腺に存在する腫瘍細胞が胸腺癌であると診断された場合は、その予後も予測することができる。
【0027】
本発明の胸腺癌診断薬は、CALML5の検出試薬を含有する。
CALML5の検出試薬は、CALML5のタンパク質を検出する試薬でもよいし、CALML5のmRNAを検出する試薬であてもよい、
【0028】
CALML5のタンパク質を検出する試薬は、抗CALML5抗体を含有する。抗CALML5抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab’)、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。
検出試薬に含まれる抗体は、乾燥状態であってもよく、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファーに溶解されていてもよい。さらに、検出試薬は、β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0029】
抗CALML5抗体は、酵素や蛍光色素で標識されていてもよい。抗CALML5抗体マイクロプレート、磁気ビーズ等に固定されていてもよい。
【0030】
CALML5のタンパク質検出用試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、抗CALML5抗体未標識の一次抗体である場合には、検査キットに酵素又は蛍光色素で標識された二次抗体が含まれていてもよい。さらに、検査キットには前記酵素と反応する基質が含まれていてもよい。
【0031】
CALML5のmRNA検出用試薬は、CALML5のmRNA又はCALML5のcDNAの全体又は一部とハイブリダイズする核酸を含む。核酸は、プライマー、及び/又はプローブとしての機能を有する検出用の核酸(DNA又はRNA)であることが好ましい。検出用核酸の長さは、特に制限されない。
【0032】
CALML5のmRNA検出用試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、RT-PCRによりCALML5のmRNA又はCALML5のcDNAを検出する場合には、検査キットに核酸増幅試薬(耐熱性DNAであってもポリメラーゼ、バッファー、dNTP等を含む)、逆転写酵素等を含んでいてもよい。核酸増幅試薬には、必要に応じてSYBER GREEN(登録商標)等の色素が含まれていてもよい。マイクロアレイによりCALML5のmRNA又はCALML5のcDNAを検出する場合には、検査キットにハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。in situハイブリダイゼーションによりCALML5のmRNAを検出する場合には、検査キットに、プロティナーゼK等のタンパク質分解酵素、ハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0034】
実施例1
順天堂大学病院で2010年3月から2012年10月までに外科的手術を施行された胸腺癌4例、B3型胸腺腫3例を用いてCAGE(Cap Analysis of Gene Expression)を施行し、mRNAの定量を行った。CAGEを行った患者7例の背景を
図1に示す。
CAGEにより胸腺癌とB3型胸腺腫を比較し、それぞれに発現がより高い鑑別マーカー候補を抽出した。まず、76595個の候補から、少なくとも1検体で10CPM(Count per million)以上、FDR(False discovry rate)<0.01の条件で、胸腺腫でより発現が高い1146個、胸腺癌でより発現が高い722個の候補を選出した。さらに、これらの候補の中からlоgFC(Fold Change)のTOP20、免疫染色に適した抗体の有無などにより、胸腺癌で発現の高い候補2個、胸腺腫で発現の高い候補2個を選出した。このうち、胸腺癌で発現の高かったCALML5のlоgCPMを
図2に示す。
【0035】
実施例2
実施例1で得られた候補を、抗体を用いて免疫染色を行い、タンパク質の発現を評価した。免疫染色は1986年5月から2017年11月までに順天堂大学病院で外科的手術が施行された胸腺癌27例、B3型胸腺腫36例で施行した。
図3に、患者の背景を示す。
CAGEにより抽出した胸腺癌で発現が高い鑑別マーカー候補の一つであるCALML5は、免疫染色により、腫瘍上皮細胞の100%が染まっている場合を陽性とすると、胸腺癌で感度72.0%(18/25例)、特異度94.7%(36/38例)という結果を得た。すでに胸腺癌マーカーとして使用されているCD5、c-kit抗体の過去の報告と比較して同等の結果だった(
図4)。
CD5、c-kitは腫瘍細胞の細胞膜に染まるが、CALML5は細胞質や核に染まるため染まる範囲が広く、判定しやすいという利点がある。また、CD5、c-kitが陰性でCALML5のみ陽性の胸腺癌の症例も存在した。また、CD5はTリンパ球にも染まってしまう(
図5)。
なお、免疫染色は、3μmの厚さのパラフィン包埋切片を脱パラフィンし、クエン酸緩衝液(pH6.0)でオートクレーブを行い、抗原賦活化を行った。内因性ペルオキシダーゼ除去後に一次抗体反応を行い、4℃で一晩反応させ、翌日シンプルステイン反応を行い、DABで発色して行った。