(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電解槽ユニットの構成部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/00 20060101AFI20241205BHJP
B23K 11/14 20060101ALI20241205BHJP
C25B 1/46 20060101ALI20241205BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241205BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K11/00 510
B23K11/14
C25B1/46
C25B9/00 E
C25B9/77
(21)【出願番号】P 2021059629
(22)【出願日】2021-03-31
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】515065729
【氏名又は名称】株式会社藤田ワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100096002
【氏名又は名称】奥田 弘之
(74)【代理人】
【識別番号】100091650
【氏名又は名称】奥田 規之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸二
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-155388(JP,A)
【文献】特開2000-026987(JP,A)
【文献】特開昭55-005154(JP,A)
【文献】特開昭62-212076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
C25B 9/00-9/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極パンと、
陰極パンと、
上記陽極パン及び陰極パンの間に介装された複数本のクラッド板と、
上記陽極パンの表面に配置された、断面I字形状の複数本の陽極リブと、
上記陰極パンの表面に配置された、断面I字形状の複数本の陰極リブとを備え、
上記陽極リブは、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部を備え、
上記陰極リブは、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部を備え、
上記陽極リブの各スペーサ部の端面と陽極パンの表面間、陽極パンの背面と上記クラッド板の第1の層間、当該クラッド板の第2の層と上記陰極パンの背面間、及び陰極パンの表面と上記陰極リブの各スペーサ部間が、溶接によって接合されていることを特徴とする電解槽ユニットの構成部品。
【請求項2】
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、
水平に配置された陰極パンの下面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陰極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、
上記の各クラッド板の上に、陽極パンを被せる工程と、
上記陽極パンの上面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陰極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陽極リブの電極接触部に溶接機上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陽極リブの各スペーサ部の端面と陽極パンの上面間、陽極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間、当該クラッド板の第2の層と上記陰極パンの上面間、及び陰極パンの下面と上記陰極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程と、
を備えたことを特徴とする電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項3】
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、
水平に配置された陽極パンの下面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陽極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、
上記の各クラッド板の上に、陰極パンを被せる工程と、
上記陰極パンの上面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陽極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陰極リブの電極接触部に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陰極リブの各スペーサ部の端面と陰極パンの上面間、陰極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間、当該クラッド板の第2の層と上記陽極パンの上面間、及び陽極パンの下面と上記陽極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程と、
を備えたことを特徴とする電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項4】
上記上側溶接電極及び下側溶接電極を備えた溶接機を複数台用意し、
陰極リブ-陰極パン-クラッド板-陽極パン-陽極リブ間の溶接を、複数列において同時並行的に実行することを特徴とする請求項2または3に記載の電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項5】
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、
水平に配置された陰極パンの下面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陰極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、
上記陰極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記クラッド板の上面に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記クラッド板の第2の層と上記陰極パンの上面間、及び陰極パンの下面と上記陰極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程と、
上記の各クラッド板の上に、陽極パンを被せる工程と、
上記陽極パンの上面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陰極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陽極リブの電極接触部に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陽極リブの各スペーサ部の端面と陽極パンの上面間、及び陽極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間を同時に溶接する工程と、
を備えたことを特徴とする電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項6】
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、
平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、
水平に配置された陽極パンの下面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陽極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、
上記陽極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記クラッド板の上面に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記クラッド板の第2の層と上記陽極パンの上面間、及び陽極パンの下面と上記陽極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程と、
上記の各クラッド板の上に、陰極パンを被せる工程と、
上記陰極パンの上面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、
上記陽極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陰極リブの電極接触部に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陰極リブの各スペーサ部の端面と陰極パンの上面間、及び陰極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間を同時に溶接する工程と、
を備えたことを特徴とする電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項7】
上記陽極リブの両側面に、導電性を備えた一対の当接板を密着させる工程と、
上記陰極リブの両側面を、導電性を備えた一対の当接板に密着させる工程を備え、
上記上側溶接電極及び下側溶接電極による加圧及び通電は、上記当接板を介して施されることを特徴とする請求項2~6の何れかに記載の電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項8】
上記一対の当接板が、予め陽極リブ及び陰極リブの両面に装着されており、
上記陽極リブ及び陰極リブを絶縁性のリブ保持部材に形成された貫通溝内に圧入することにより、上記の密着状態が実現されることを特徴とする請求項7に記載の電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項9】
上記一対の当接板が、相互に一定の間隙を隔てた状態で上側溶接電極及び下側溶接電極に予め開閉可能に係合されており、
上側溶接電極を陽極リブまたは陰極リブに接触させる際に、上記間隙内に陽極リブまたは陰極リブが挿入されると共に、閉塞手段によって上記の密着状態が実現され、
下側溶接電極を陰極リブまたは陽極リブに当接させる際に、上記間隙内に陰極リブまたは陽極リブが挿入されると共に、閉塞手段によって上記の密着状態が実現されることを特徴とする請求項7に記載の電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【請求項10】
上記上側溶接電極及び下側溶接電極が、それぞれ陽極リブ及び陰極リブの複数のスペーサ部をカバーする長さ寸法を備えており、
1回の通電によって複数のスペーサ部の溶接が実現されることを特徴とする請求項2~9の何れかに記載の電解槽ユニットの構成部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルカリ金属塩化物水溶液を電解して塩素とアルカリ金属水酸化物を生成する電解槽ユニットの主要な構成部品である陽極パン、陽極リブ、クラッド板、陰極パン、陰極リブの接合に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩水溶液等のアルカリ金属塩化物水溶液を、イオン交換膜法を用いて電解する複極式の電解槽ユニットについては、特許文献1にその基本構造が詳しく解説されている。
【文献】特開2002-155388 すなわち、電解槽ユニットは一般に、周縁にフランジ部が形成された平鍋状の陽極パンと、陽極パンの表面に電気的に接続された複数本の陽極リブと、各陽極リブに電気的に接続された多孔板または網状の陽極と、周縁にフランジ部が形成された平鍋状の陰極パンと、陰極パンの表面に電気的に接続された複数本の陰極リブと、各陰極リブに電気的に接続された多孔板または網状の陰極とを備え、陽極パンの背面と陰極パンの背面との間がクラッド板を介して電気的に接続されると共に、陽極パンのフランジ部と陰極パンのフランジ部との間に形成される空間にフレーム材が装填されることによって形成される。
【0003】
陽極パン、陽極リブ及び陽極は、それぞれ耐蝕性に優れたチタンより構成されており、陰極パン、陰極リブ及び陰極は、それぞれ耐アルカリ性に優れたニッケルやステンレス、鉄、鉄-ニッケル合金等(以下「ニッケル等」)より構成されている。
また、チタンとニッケル間を直接溶接することが困難であるため、チタン層とニッケル層(あるいは鉄層)とを爆発圧着させて形成したクラッド板を介して、陽極パンと陰極パン間が接合されている。
【0004】
陽極リブ及び陰極リブは、同文献の
図1や
図16に示されるように、直線上の電極接触部と、この電極接触部から櫛歯状に突出した多数のスペーサ部を備えており、各スペーサ部の先端側を直角に折り曲げることでフランジ状のパン接触部が形成される構造となっている。各パン接触部には、プロジェクション溶接用の突起部が形成されている。
このようにスペーサ部を櫛歯状としたため、各パン接触部をパンの表面に固定した際には、各スペーサ部間の間隙によって気液の流通路が形成されることとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、スペーサ部の先端を直角に折り曲げて平板状のパン接触部となし、全体として断面L字形状を備えているため、パンとの接触面積を比較的広く確保できると共に、プロジェクション溶接用の突起部の形成も容易となり、溶接電極の圧力を安定的に伝達して確実な溶接が可能となる利点を有している。
この結果、同文献の
図14に示されるように、「陰極リブ-陰極パン-クラッド板-陽極パン-陽極リブ」間の溶接を一度に行うことも可能となる(5層同時溶接)。
【0006】
しかしながら、リブとしての機能上不可欠なスペーサ部の他に、溶接のためだけに必要なパン接触部を設ける必要があり、これがコストダウンの阻害要因となっていた。
また、原料板からリブを切り出した後に、各ペーサ部の先端を折り曲げてパン接触部を形成する必要があり、これが工程簡素化の阻害要因となっていた。
この発明は、従来の上記問題を解決するために案出されたものであり、電解槽ユニット用リブの形状を簡素化することにより、材料コストの削減と製造工程の簡素化を実現可能な技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載した電解槽ユニットの構成部品は、陽極パンと、陰極パンと、上記陽極パン及び陰極パンの間に介装された複数本のクラッド板と、上記陽極パンの表面に配置された、断面I字形状の複数本の陽極リブと、上記陰極パンの表面に配置された、断面I字形状の複数本の陰極リブとを備え、上記陽極リブは、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部を備え、上記陰極リブは、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部を備え、上記陽極リブの各スペーサ部の端面と陽極パンの表面間、陽極パンの背面と上記クラッド板の第1の層間、当該クラッド板の第2の層と上記陰極パンの背面間、及び陰極パンの表面と上記陰極リブの各スペーサ部間が、溶接によって接合されていることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、水平に配置された陰極パンの下面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陰極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、上記の各クラッド板の上に、陽極パンを被せる工程と、上記陽極パンの上面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陰極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陽極リブの電極接触部に溶接機上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陽極リブの各スペーサ部の端面と陽極パンの上面間、陽極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間、当該クラッド板の第2の層と上記陰極パンの上面間、及び陰極パンの下面と上記陰極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程を備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、水平に配置された陽極パンの下面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陽極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、上記の各クラッド板の上に、陰極パンを被せる工程と、上記陰極パンの上面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陽極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陰極リブの電極接触部に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陰極リブの各スペーサ部の端面と陰極パンの上面間、陰極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間、当該クラッド板の第2の層と上記陽極パンの上面間、及び陽極パンの下面と上記陽極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程を備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、請求項2または3の製造方法であって、さらに、上記上側溶接電極及び下側溶接電極を備えた溶接機を複数台用意し、陰極リブ-陰極パン-クラッド板-陽極パン-陽極リブ間の溶接を、複数列において同時並行的に実行することを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、水平に配置された陰極パンの下面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陰極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、上記陰極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記クラッド板の上面に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記クラッド板の第2の層と上記陰極パンの上面間、及び陰極パンの下面と上記陰極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程と、上記の各クラッド板の上に、陽極パンを被せる工程と、上記陽極パンの上面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陰極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陽極リブの電極接触部に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陽極リブの各スペーサ部の端面と陽極パンの上面間、及び陽極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間を同時に溶接する工程を備えたことを特徴としている。
【0012】
請求項6に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陽極リブを準備する工程と、平板状の電極接触部と、当該電極接触部から櫛歯状に突出した複数のスペーサ部と、各スペーサ部の端面に形成された突起部を備えた、断面I字形状の陰極リブを準備する工程と、水平に配置された陽極パンの下面に、複数本の陽極リブを、それぞれの突起部が陽極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陽極パンの上面に、複数本のクラッド板を、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように配置する工程と、上記陽極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記クラッド板の上面に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記クラッド板の第2の層と上記陽極パンの上面間、及び陽極パンの下面と上記陽極リブの各スペーサ部間を同時に溶接する工程と、上記の各クラッド板の上に、陰極パンを被せる工程と、上記陰極パンの上面に、複数本の陰極リブを、それぞれの突起部が陰極パンに接するように、かつ、それぞれが所定の間隔をおいて平行するように立設配置する工程と、上記陽陰極リブの電極接触部に溶接機の下側溶接電極を当接させると共に、上記陰極リブの電極接触部に溶接機の上側溶接電極を当接させ、両電極間に所定の圧力を加えた状態で通電することにより、上記陰極リブの各スペーサ部の端面と陰極パンの上面間、及び陰極パンの下面と上記クラッド板の第1の層間を同時に溶接する工程を備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項7に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、請求項2~6の製造方法であって、さらに、上記陽極リブの両側面に、導電性を備えた一対の当接板を密着させる工程と、上記陰極リブの両側面を、導電性を備えた一対の当接板に密着させる工程を備え、上記上側溶接電極及び下側溶接電極による加圧及び通電は、上記当接板を介して施されることを特徴としている。
【0014】
請求項8に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、請求項7の製造方法であって、さらに、上記一対の当接板が、予め陽極リブ及び陰極リブの両面に装着されており、上記陽極リブ及び陰極リブを絶縁性のリブ保持部材に形成された貫通溝内に圧入することにより、上記の密着状態が実現されることを特徴としている。
【0015】
請求項9に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、請求項7の製造方法であって、さらに、上記一対の当接板が、相互に一定の間隙を隔てた状態で上側溶接電極及び下側溶接電極に予め開閉可能に係合されており、上側溶接電極を陽極リブまたは陰極リブに接触させる際に、上記間隙内に陽極リブまたは陰極リブが挿入されると共に、閉塞手段によって上記の密着状態が実現され、下側溶接電極を陰極リブまたは陽極リブに当接させる際に、上記間隙内に陰極リブまたは陽極リブが挿入されると共に、閉塞手段によって上記の密着状態が実現されることを特徴としている。
【0016】
請求項10に記載した電解槽ユニットの構成部品の製造方法は、請求項2~9の製造方法であって、さらに、上記上側溶接電極及び下側溶接電極が、それぞれ陽極リブ及び陰極リブの複数のスペーサ部をカバーする長さ寸法を備えており、1回の通電によって複数のスペーサ部の溶接が実現されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の電解槽ユニットの構成部品にあっては、陽極リブ及び陰極リブがそれぞれ簡素な断面I字形状を備えており、従来のようにランジ状のパン接触部を備えた断面L字形状ではないため、その分、余計な材料費と加工費を抑えることができ、低コスト化を実現できる。
また、請求項2~10の製造方法に従えば、このような電解槽ユニットの構成部品をより効果的に製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明に係る溶接の概要を示す模式図である。
【
図2】この発明に係る溶接の概要を示す模式図である。
【
図3】第1の実施形態における陰極側枠部材の構成を示す断面図である。
【
図4】第1の実施形態におけるリブ拡張部材の構成を示す図である。
【
図5】第1の実施形態における陰極側枠部材を下方から観察した平面図である。
【
図6】第1の実施形態における陽極側枠部材等の構成を示す断面図である。
【
図7】第1の実施形態における陽極側枠部材を上方から観察した平面図である。
【
図8】第1の実施形態における溶接工程を示す断面図である。
【
図9】電解槽ユニットの主要構成部品が完成した状態を示す断面図である。
【
図10】第2の実施形態における溶接電極の両側に一対の当接板を配置した状態を示す斜視図である。
【
図11】第2の実施形態における溶接電極と一対の当接板との係合関係を示す図である。
【
図12】第2の実施形態における陰極側枠部材を下方から観察した平面図である。
【
図13】第2の実施形態における陽極側枠部材を上方から観察した平面図である。
【
図14】第2の実施形態における溶接工程を示す部分断面図である。
【
図15】第2の実施形態における溶接工程を示す部分断面図である。
【
図16】第2の実施形態における溶接工程を示す部分断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1及び
図2は、この発明に係る溶接の概要を示す模式図である。
まず、溶接の対象となるのは、
図1(a)に示すように、チタンよりなる平板状の陽極リブ10と、チタンよりなる陽極パン11と、クラッド板12と、ニッケルよりなる平板状の陰極パン13と、ニッケルよりなる陰極リブ14である。
クラッド板12は、チタン層12a及び鉄層(あるいはニッケル層)12bを備えている。
【0020】
陽極リブ10は、平板状の電極接触部10aと、この電極接触部10aから櫛歯状に突出した多数のスペーサ部10bを備えており、各スペーサ部10bの先端(下端)には、プロジェクション溶接用の半円状の突起部15が形成されている。
各スペーサ部10b, 10b間には一定の間隔16が設けられており、この間隔16が電解槽ユニット内における液体及び気体の流路となる。
図2(a)に示すように、陽極リブ10は従来の陽極リブのようにフランジ状のパン接触部を備えた断面L字形状ではなく、より簡素な断面I字形状を呈している。
【0021】
陰極リブ14も同様に、平板状の電極接触部14aと、この電極接触部14aから櫛歯状に突出した多数のスペーサ部14bを備えており、各スペーサ部14bの先端(上端)には、プロジェクション溶接用の半円状の突起部15が形成されている。
スペーサ部14b, 14b間には一定の間隔16が設けられており、この間隔16が電解槽ユニット内における液体及び気体の流路となる。
陰極リブ14も、従来の陰極リブのようにフランジ状のパン接触部を備えた断面L字形状ではなく、より単純な断面I字形状を呈している。
【0022】
つぎに、
図1(b)及び
図2(b)に示すように、水平に配置した陰極パン13の下面(裏面)に、複数本の陰極リブ14を図示しない整列治具によって立設状態で配置すると共に、その上面(表面)にクラッド板12を配置し、さらにクラッド板12の表面に陽極パン11を重ねた上で、その上面(表面)に陽極リブ10を図示しない整列治具によって立設状態で配置する。そして、陽極リブ10の電極接触部10a及び陰極リブ14の電極接触部14aにコンデンサ式溶接機の上部溶接電極(図示省略)及び下部溶接電極(図示省略)を当接させ、所定の圧力で加圧しつつ通電する。
【0023】
この結果、
図1(c)及び
図2(c)に示すように、陽極リブ10の各突起部15と陽極パン11間の接触抵抗に基づくジュール熱と加圧力とによって突起部15が瞬間的に溶融し、陽極リブ10と陽極パン11間が溶接される。
同様に、陰極リブ14の各突起部15と陰極パン13間の溶接も実現される。
さらに、クラッド板12のチタン層12aと陽極パン11の下面間、及び鉄層12bと陰極パン13の上面間も、接触抵抗に基づく発熱によって溶接される。
【0024】
この発明では、このような所謂「5層同時溶接」の他にも、1回の通電によって、陽極リブ10及び陰極リブ14の複数の突起部15を同時に溶接する「多点同時溶接」を企図している。
また、陽極パン11の表面及び陰極パン13の表面に整列配置した複数本の陽極リブ10及び陰極リブ14に対し、同時並行的に溶接処理を施す「多列同時溶接」をも企図している。
【0025】
パンとの接触面積が小さい断面I字形状の陽極リブ10及び陰極リブ14を複数本ずつ、陽極パン11及び陰極パン13の表面に整列配置させた上で、これらに対して効果的な通電及び加圧を施すためには、整列治具や溶接電極側の構造に工夫を凝らすことが望ましい。
以下、
図3~
図16に従い、この発明の実施形態について詳細に説明する。
【0026】
[第1の実施形態]
まず、
図3に示すように、複数本のフレーム材20を一定の間隔を置いて一方向(縦方向)に整列配置し、それぞれの両端を他方向(横方向)に配置したフレーム材(図示省略)で連結した陰極側枠部材21を準備する。
各フレーム材20の間には、絶縁材よりなる陰極リブ保持部材22が配置されている。
各陰極リブ保持部材22は、落下しないよう両端の突出部22aがフレーム材20の凹溝20a内に嵌合されている。
各陰極リブ保持部材22には、長手方向に沿って延びる貫通溝22bが形成されている。
【0027】
つぎに、複数本の陰極リブ14を各貫通溝22bに嵌め入れていくのであるが、この際、陰極リブ14には導電材よりなるリブ拡張部材23が装着される。
このリブ拡張部材23は、
図4に示すように、陰極リブ14の一方の側面と接する第1の当接板24と、他方の側面と接する第2の当接板25を備えている。
第1の当接板24及び第2の当接板25は、それぞれ長方形状の平板部24a, 25aと、陰極リブ14の頂面(下端面)の一部(略半分)と接する長方形状の庇部24b, 25bを備えており、第1の当接板24及び第2の当接板25によって陰極リブ14の両側面を挟み込むと、リブ拡張部材23の上端面から陰極リブ14の上端の一部及び突起部15が露出する。
また、
図3の部分拡大図に示されるように、第1の当接板24の庇部24b及び第2の当接板25の庇部25b間は密着することなく、両者間には僅かな隙間26が設けられている。
【0028】
このリブ拡張部材23を装着した陰極リブ14を陰極リブ保持部材22の貫通溝22b内に挿入すると、陰極リブ保持部材22によってリブ拡張部材23が圧迫され、第1の当接板24及び第2の当接板25の内面が陰極リブ14の側面に密着する挟持状態となる。
【0029】
図5は、陰極側枠部材21を下方から観察した図である。
図示の通り、比較的長尺な1本の陰極リブ14に対して、より短尺なリブ拡張部材23を縦に複数継ぎ足して陰極リブ14の長さ寸法をカバーしていることが看取できる。
なお、リブ拡張部材23の両端部分には、それぞれ絶縁材よりなる落下防止カバー27が装着されている。このため、リブ拡張部材23の下端が陰極リブ保持部材22の表面から下方に向けて突出していても、陰極リブ14及びリブ拡張部材23が落下することはない。
詳細は後述するが、この陰極リブ保持部材22の表面から突出したリブ拡張部材23の部分(一対の落下防止カバー27に挟まれた領域)が、一回の溶接範囲となる。
【0030】
つぎに、
図6に示すように、陰極側枠部材21の上面に平板状の陰極パン13を水平に載置し、この陰極パン13の上面に複数本のクラッド板12を、相互に所定の間隔をおいて配置する。
この際、各クラッド板12は陰極リブ14と重なる位置に、鉄層12bが下を向くように配置される。
【0031】
つぎに、各クラッド板12の上面に平板状の陽極パン11を載置し、その上面に陽極側枠部材30が載置される。
陽極側枠部材30も、複数本のフレーム材20を一定の間隔をおいて縦方向に整列配置し、それぞれの両端を横方向に配置したフレーム材(図示省略)に連結させた構造を備えている。
各フレーム材20の間には、絶縁材よりなる陽極リブ保持部材31が配置される。各陽極リブ保持部材31には、長手方向に沿って延びる貫通溝31bが形成されている。
【0032】
つぎに、複数本の陽極リブ10を各貫通溝31bに嵌め入れていくのであるが、この際にも、陽極リブ10には導電材よりなるリブ拡張部材23が装着される。
このリブ拡張部材23は上記と同様、陽極リブ10の一方の側面と接する第1の当接板24と、他方の側面と接する第2の当接板25を備えている。
第1の当接板24及び第2の当接板25は、それぞれ長方形状の平板部24a, 25aと、陽極リブ10の頂面(上端面)の一部(略半分)と接する長方形状の庇部24b, 25bを備えており、第1の当接板24及び第2の当接板25によって陽極リブ10の両側面を挟み込むと、リブ拡張部材23の下端面から陽極リブ10の下端の一部及び突起部15が露出する。
また、
図6の部分拡大図に示されるように、第1の当接板24の庇部24b及び第2の当接板25の庇部25b間は密着することなく、両者間には僅かな隙間26が設けられている。
【0033】
このリブ拡張部材23を装着した陽極リブ10を陽極リブ保持部材31の貫通溝31bに挿入すると、陽極リブ保持部材31によってリブ拡張部材23が圧迫され、第1の当接板24及び第2の当接板25の内面が陽極リブ10の側面に密着する挟持状態となる。
【0034】
図7は、陽極側枠部材30を上方から観察した図である。
図示の通り、比較的長尺な1本の陽極リブ10に対して、より短尺なリブ拡張部材23を縦に複数継ぎ足して陽極リブ10の長さ寸法をカバーしていることが看取できる。
詳細は後述するが、この陽極リブ保持部材31の表面から突出したリブ拡張部材23の部分が、一回の溶接範囲となる。
なお、陽極側のリブ拡張部材23は陽極パン11の上に載置されており、落下のおそれがないため、陰極側のように落下防止カバー27を設ける必要はない。
【0035】
つぎに、
図8に示すように、コンデンサ式溶接機(図示省略)の下部電極に接続された下側溶接電極40Bを上昇させ、その上端面を陰極側のリブ拡張部材23の下端面に当接させた後、同溶接機の上部電極に接続された上側溶接電極40Aを下降させ、所定の圧力で陽極側のリブ拡張部材23の上端面を加圧しつつ通電すると、陽極リブ10の各突起部15及び陰極リブ14の各突起部15が瞬間的に溶融し、陽極リブ10のスペーサ部10b-陽極パン11の上面間、陽極パン11の下面-クラッド板12のチタン層12a間、クラッド板12の鉄層12b-陰極パン13の上面間、陰極パン13の下面-陰極リブ14のスペーサ部14b間の溶接が一度に完了する。
【0036】
コンデンサ式溶接機の上側溶接電極40A及び下側溶接電極40Bは、比較的長尺(リブ拡張部材23と略等しい長さ寸法)に構成されているため、上記の通り、一度の通電によって複数のスペーサ部10b, 14bに係る突起部15を溶接することが可能となる。
【0037】
陽極リブ10及び陰極リブ14は比較的薄い断面I字形状を備えているが、それぞれリブ拡張部材23が装着されて横幅が拡大されると共に、陰極リブ保持部材22及び陽極リブ保持部材31によって立設状態が安定的に保持されるため、上側溶接電極40A及び下側溶接電極40Bからの加圧力を受け止め易くなっている。
また、陰極リブ保持部材22及び陽極リブ保持部材31からの圧力によって第1の当接板24及び第2の当接板25が陽極リブ10及び陰極リブ14の両側面に密着されるため、溶接機からの電流も溶接箇所に効率的に供給される。
【0038】
一般的な交流式スポット溶接機が昇圧トランスを利用してある一定の通電時間中に高電圧を発生させて溶接を可能とするのに対し、コンデンサ式溶接機は一旦コンデンサに蓄積させた大電流を瞬間的に流す仕組みを備えており、極めて短時間で局所的に溶接材料を発熱させることができ、効率的な溶接を可能とするものである。
また、分流(既に溶接が完了し電気抵抗が低くなっている部分を通じて電流が漏れてしまい、効果的な抵抗溶接を阻害する現象)が起こりにくく安定した電流が流れるため、溶接品質が均一化するという特性を備えている。
【0039】
上記のように溶接対象材に予め突起部を形成しておき、溶接時の発熱と先端がフラットな電極の加圧力とによって突起を潰すことで溶接を実現する方式を「プロジェクション溶接」という。
【0040】
このプロジェクション溶接を、コンデンサ式溶接機を用いて実行することにより、上記のように一回の溶接動作によって「陰極リブ14-陰極パン13-クラッド板12-陽極パン11-陽極リブ10」間の溶接を同時に完了させることが可能となる。
また、発熱が局所的に、しかも瞬時に生じるため、他の部分への熱的影響が少なく、陰極パン13や陽極パン11の熱歪みを最小限に抑えることができる利点や、分流の影響が少ないため比較的狭いピッチでの多点溶接が可能となる利点もある。
【0041】
陽極リブ10及び陰極リブ14として櫛歯状の形状を採用しているため、溶接時の分流をさらに低減することが可能となっている。
すなわち、元々コンデンサ式溶接機にあっては通電時間が短くて済むため分流が生じ難いという特性があるが、櫛歯状電極の場合には隣の溶接点までの導電距離が必然的に長くなるため、抵抗値の低い溶接完了部からの電流のリーク(分流)が生じ難くなる。
その上、一回の溶接範囲間には、絶縁性の部材(落下防止カバー27、陰極リブ保持部材22、陽極リブ保持部材31)が介装されているため、さらに分流が抑制され得る。
【0042】
一回分の溶接処理が完了すると、上側溶接電極40Aが上昇すると同時に下側溶接電極40Bが下降し、XYテーブル(図示省略)によって陰極側枠部材21及び陽極側枠部材30がXYの必要方向に必要量移動され、陽極リブ10及び陰極リブ14の次の溶接範囲が上側溶接電極40A及び下側溶接電極40Bの間に移送される。
そして、再度、下側溶接電極40Bが上昇すると共に上側溶接電極40Aが下降し、連続的な溶接が実行される。
こうして1本分の陽極リブ10及び陰極リブ14の溶接が完了した時点で、上側溶接電極40Aが上昇すると同時に下側溶接電極40Bが下降し、XYテーブルによって次の列の陽極リブ10及び陰極リブ14が溶接対象として上側溶接電極40A及び下側溶接電極40B間に移送される。
【0043】
以上の動作を繰り返すことにより、陽極パン11の上面に配置された複数本の陽極リブ10と、陰極パン13の下面に配置された複数本の陰極リブ14を、極めて効率的に溶接することが可能となる。
全ての溶接が完了した時点で、陰極側枠部材21、落下防止カバー27、陰極リブ保持部材22、陰極側のリブ拡張部材23、陽極側枠部材30、陽極リブ保持部材31、陽極側のリブ拡張部材23を取り払うと、
図9に示すように、陽極パン11の上面に複数本の断面I字形状の陽極リブ10が立設した状態で溶接されると共に、陰極パン13の下面に複数本の断面I字形状の陰極リブ14が立設した状態で溶接され、さらに陽極パン11と陰極パン13間がクラッド板12を介して溶接された、電解槽ユニットの主要構成部品42が得られる。
【0044】
上記においては、「(1)陽極リブ10、(2)陽極パン11、(3)クラッド板12、(4)陰極パン13、(5)陰極リブ14」間を一度に溶接する「5層同時溶接」を例示したが、この発明はこれに限定されるものではない。
例えば、最初にリブ拡張部材23を装着した陰極リブ14を陰極側枠部材21にセットし、その上に陰極パン13及びクラッド板12を積層させた状態で、下側溶接電極40Bを上昇させると共に上側溶接電極40Aを下降させ、加圧及び通電を行うことにより、まず「(1)陰極リブ14、(2)陰極パン13、(3)クラッド板12」間の3層同時溶接を行った後、クラッド板12上に陽極パン11及び陽極側枠部材30(陽極リブ10及びリブ拡張部材23)を積層させ、下側溶接電極40Bを上昇させると共に上側溶接電極40Aを下降させ、加圧及び通電を行うことにより、「(1)陽極リブ10、(2)陽極パン11、(3)クラッド板12」間の3層同時溶接を行うこともできる。
【0045】
[第2の実施形態]
上記した第1の実施形態においては、断面I字形状の陽極リブ10及び陰極リブ14に対してリブ拡張部材23を装着し、これらを絶縁性の陽極リブ保持部材31または陰極リブ保持部材22に挿入することにより、溶接電極40との電気的接続性を高めると共に、溶接電極40からの加圧力を受け易くしていた。
これに対し第2の実施形態の場合には、溶接電極40側に陽極リブ10及び陰極リブ14を挟持する手段を設けておき、溶接時にこれを溶接範囲内にある陽極リブ10及び陰極リブ14に一時的に装着し、溶接完了後は装着を解除して次の溶接範囲内の陽極リブ10及び陰極リブ14に移行する方式を採用している。
【0046】
具体的には
図10(a)及び(b)に示すように、比較的長尺な直方体形状の溶接電極40に対して、リブ挟持部材50を装着する。
このリブ挟持部材50は、一対の長尺な第3の当接板51及び第4の当接板52を備えている。
【0047】
つぎに、
図11に基づき、溶接電極40と第3の当接板51及び第4の当接板52との係合関係について説明する。
なお、
図11においては、溶接電極40の一方の端面40a、第3の当接板51の一方の端面51a及び第4の当接板52一方の端面52aのみが描かれているが、それぞれの他方の端面40b, 51b, 52bも同様の構造を有している。
【0048】
図11(a)に示すように、第3の当接板51及び第4の当接板52は、溶接電極40の頂面40c上に載置される段部51c, 52cと、溶接電極40の両側面40d, 40eを覆う胴部51d, 52dと、相互に対向する挟持面51e, 52eを備えている。
第3の当接板51の端面51a及び第4の当接板52の端面52aには、コロ装着用の孔部53と、回転軸挿通用の貫通孔54と、ピン挿通用の孔部55が形成されている。
また、溶接電極40の端面40aには、ボルト装着用のネジ穴56が上下2箇所に設けられている。
【0049】
第3の当接板51及び第4の当接板52の挟持面51e, 52e間には、
図11(b)に示すように、陽極リブ10あるいは陰極リブ14の厚さに対応する隙間57が設けられている。
また、各挟持面51e, 52eは、陽極リブ10あるいは陰極リブ14の寸法に対応した長さを備えている。
第3の当接板51及び第4の当接板52の胴部51d, 52dの上側は溶接電極40の側面40d, 40eと接しているが、それぞれの下側は溶接電極40の側面40d, 40eと接しておらず、所定の隙間58, 58が設けられている。
【0050】
第3の当接板51及び第4の当接板52と溶接電極40は、T字金具60を用いて連結される。
すなわち、
図11(c)に示すように、T字金具60を溶接電極40の両端面40a, 40bに合わせ、その上下の孔部61, 61にボルト62, 62を挿通して溶接電極40のネジ穴56, 56に螺合させる。
また、第3の当接板51及び第4の当接板52の貫通孔54, 54には、溶接電極40の一方の端面40bから他方の端面40bまで届く寸法の回転軸63, 63が挿通され、その端部がT字金具60の左右の孔部64, 64に回転自在に係合される。
この結果、第3の当接板51及び第4の当接板52は回転軸63, 63を中心に一定範囲(隙間58, 58の範囲)で回動可能となり、隙間57の開閉が可能となる。
【0051】
第3の当接板51及び第4の当接板52の孔部53, 53には、コロ65, 65が回転自在に装着される。
また、第3の当接板51及び第4の当接板52の孔部55, 55にはそれぞれ係合ピン66, 66が挿通され、各係合ピン66, 66の間には引張りバネ67が装着される。
【0052】
上記した第3の当接板51及び第4の当接板52の基本的な構成や、溶接電極40との係合の仕方については、陽極側と陰極側とで差違はない。
ただし、陽極リブ10及び陰極リブ14の長さや厚さに応じて、挟持面51e, 52eの長さや隙間57の幅に差違が設けられている。
【0053】
第2の実施形態においても、溶接に際し、複数本のフレーム材20を一定の間隔を置いて縦方向に整列配置し、それぞれの両端を横方向に配置したフレーム材(図示省略)に連結させた陰極側枠部材21及び陽極側枠部材30を用いる点は、第1の実施形態と同様である。
【0054】
図12は、陰極側枠部材21を下方から観察した図である。
図示の通り、比較的長尺な1本の陰極リブ14に対して、所定の間隔で絶縁材よりなる落下防止カバー27がフレーム材20, 20間に装着されており、各陰極リブ14の落下が阻止されている。
陰極リブ14にはリブ拡張部材が装着されていないため、その大部分が露出した状態となされている。
落下防止カバー27の近傍には、上記コロ65と当接されるガイド部材68(三角板68a, 68b)が配置されているが、詳細は後述する。
このガイド部材68, 68に挟まれた陰極リブ14の露出部分が、一回の溶接範囲となる。
各フレーム材20の側面(溶接範囲に対応する部分)には、絶縁材よりなる摺動案内板69が設置されている。
【0055】
この陰極側枠部材の上面に陰極パン13が載置され、この陰極パン13の上面に複数本のクラッド板12が、相互に所定の間隔をおいて配置される。
この際、各クラッド板12は陰極リブ14と重なる位置に、鉄層12bが下を向くように配置される。
つぎに、各クラッド板12の上面に陽極パン11が載置され、その上面に陽極側枠部材30が載置される。
【0056】
図13は、陽極側枠部材30を上方から観察した図である。
図示の通り、比較的長尺な1本の陽極リブ10に対して、所定の間隔で絶縁材よりなるリブ支持部材70が陽極リブの両脇及び端部に配置されており、陽極リブが陽極パン11の表面に立設されている。
陽極リブ10にはリブ拡張部材が装着されていないため、その大部分が露出した状態となされている。
リブ支持部材70の近傍には、上記コロ65と当接されるガイド部材68(三角板68a, 68b)が配置されているが、詳細は後述する。
このガイド部材68, 68に挟まれた陽極リブ10の露出部分が、一回の溶接範囲となる。
各フレーム材20の側面(溶接範囲に対応する部分)には、絶縁材よりなる摺動案内板69が設置されている。
【0057】
つぎに、
図14~
図16に示すように、コンデンサ式溶接機の下部電極に接続された下側溶接電極40Bを上昇させ、第3の当接板51及び第4の当接板52間の隙間57に陰極リブ14を挿入する。
この際、第3の当接板51及び第4の当接板52の外側面は、フレーム材20の側面に設置された摺動案内板69に沿って上方に進行する。
図示の通り、陰極側のフレーム材20の左側面及び右側面には、それぞれ三角板68a, 68bが装着されており、これら一対の三角板68a, 68bによってガイド部材68が構成される。
左右の三角板68a, 68bは、それぞれの傾斜面が対向するように配置されており、かつ、陰極パン13に近づくにつれて両傾斜面間の距離が縮まるように配置されている。
このため、下側溶接電極40Bが上昇するにつれて三角板68a, 68bの傾斜面に当接したコロ65, 65が内側に押圧され、第3の当接板51及び第4の当接板52の内面が陰極リブ14の両側面に密着される。
すなわち、一対のコロ65, 65及び三角板68a, 68bが、第3の当接板51及び第4の当接板52の閉塞手段として機能する。
【0058】
同時に、コンデンサ式溶接機の上部電極に接続された上側溶接電極40Aを下降させ、第3の当接板51及び第4の当接板52間の隙間57に陽極リブ10を挿入する。
この際、第3の当接板51及び第4の当接板52の外側面は、フレーム材20の側面に設置された摺動案内板69に沿って下方に進行する。
図示の通り、陽極側のフレーム材20の左側面及び右側面にも、それぞれガイド部材68を構成する三角板68a, 68bが装着されている。
左右のガイド部材68, 68は、それぞれの傾斜面が対向するように配置されており、かつ、陽極パン11に近づくにつれて両傾斜面間の距離が縮まるように配置されている。
このため、上側溶接電極40Aが下降するにつれて三角板68a, 68bの傾斜面に当接したコロ65, 65が内側に押圧され、第3の当接板51及び第4の当接板52の内面が陽極リブ10の両側面に密着される。
【0059】
ここで、上側溶接電極40A及び下側溶接電極40Bにより、陽極リブ10及び陰極リブ14を所定の圧力で加圧しつつ通電すると、各リブの突起部15が瞬間的に溶融し、陽極リブ10のスペーサ部10b-陽極パン11の上面間、陽極パン11の下面-クラッド板12のチタン層12a間、クラッド板12の鉄層12b-陰極パン13の上面間、陰極パン13の下面-陰極リブ14のスペーサ部14b間の溶接が一度に完了する(
図16)。
【0060】
陽極リブ10及び陰極リブ14は比較的薄い断面I字形状を備えており、立設には不利な形状といえるが、溶接に際してそれぞれの左右両側面が第3の当接板51及び第4の当接板52によって挟持され、しかも第3の当接板51及び第4の当接板52はフレーム材20の側面に配置された摺動案内板69, 69間に嵌装される形となるため、陽極リブ10及び陰極リブ14の立設状態が安定的に保持される。このため、上側溶接電極40A及び下側溶接電極40Bからの加圧力を効果的に受け止めることができる。
また、摺動案内板69, 69からの圧力によって第3の当接板51及び第4の当接板52が陽極リブ10及び陰極リブ14の両側面に密着されるため、溶接機からの電流も溶接箇所に効率的に供給される。
【0061】
上側溶接電極40A及び下側溶接電極40Bは、比較的長尺に構成されているため、一度の通電によって複数のスペーサ部に形成された突起部15を溶接することが可能となる。
一回分の溶接処理が完了すると、上側溶接電極40Aが上昇すると同時に下側溶接電極40Bが下降し、溶接の完了した陰極リブ14及び陽極リブ10がリブ挟持部材50の隙間57から解放される。
この際、引張りバネ67の収縮によって第3の当接板51及び第4の当接板52の下端間が引き寄せられるため、隙間57が元の幅に復帰(拡張)する。
【0062】
つぎに、XYテーブル(図示省略)の稼働によって1本の陽極リブ10及び陰極リブ14の次の溶接範囲が上側溶接電極40A及び下側溶接電極40B間に移送されるため、再度、下側溶接電極40Bが上昇すると共に上側溶接電極40Aが下降し、連続的な溶接が実行される。
こうして1本分の陽極リブ10及び陰極リブ14の溶接が完了した時点で、上側溶接電極40Aが上昇すると同時に下側溶接電極40Bが下降し、XYテーブルによって次の列の陽極リブ10及び陰極リブ14が溶接対象として上側溶接電極40A及び下側溶接電極40B間に移送される。
【0063】
以上の工程を繰り返すことにより、陽極パン11の上面に配置された複数本の陽極リブ10と、陰極パン13の下面側に配置された複数本の陰極リブ14を、極めて効率的に溶接することが可能となる。
全ての溶接が完了した時点で、陰極側枠部材21、落下防止カバー27、陽極側枠部材30、リブ支持部材70を取り払うと、
図9に示したように、陽極パン11の上面に複数本の断面I字形状の陽極リブ10が立設した状態で溶接されると共に、陰極パン13の下面に複数本の断面I字形状の陰極リブ14が立設した状態で溶接され、さらに陽極パン11と陰極パン13間がクラッド板12を介して溶接された、電解槽ユニットの主要構成部品42が得られる。
【0064】
上記第1の実施形態及び第2の実施形態においては、陰極リブ14をセットした陰極側枠部材21→陰極パン13→クラッド板12→陽極パン11→陽極リブ10をセットした陽極側枠部材30の順番に積層する例を示したが、積層順はこれに限定されるものではなく、陽極リブ10をセットした陽極側枠部材30→陽極パン11→クラッド板12→陰極パン13→陰極リブ14をセットした陰極側枠部材21の順番に積層することもできる。
【0065】
上記第1の実施形態及び第2の実施形態においては、1台のコンデンサ式溶接機を用いて、陽極リブ10及び陰極リブ14を一列毎に溶接する例を示したが、複数台のコンデンサ式溶接機を準備し、同時に複数列の溶接を実現することも当然に可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 陽極リブ
10a 陽極リブの電極接触部
10b 陽極リブのスペーサ部
11 陽極パン
12 クラッド板
12a クラッド板のチタン層
12b クラッド板の鉄層
13 陰極パン
14 陰極リブ
14a 陰極リブの電極接触部
14b 陰極リブのスペーサ部
15 突起部
16 間隔
20 フレーム材
21 陰極側枠部材
22 陰極リブ保持部材
23 リブ拡張部材
24 第1の当接板
25 第2の当接板
30 陽極側枠部材
31 陽極リブ保持部材
31 リブ拡張部材
31b 貫通溝
40 溶接電極
40A 上側溶接電極
40B 下側溶接電極
42 電解槽ユニットの主要構成部品
50 リブ挟持部材
51 第3の当接板
52 第4の当接板
57 隙間
58 隙間
60 T字金具
61 孔部
62 ボルト
63 回転軸
64 孔部
65 コロ
66 係合ピン
67 引張りバネ
68 ガイド部材
69 摺動案内板