(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】杭の継手構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
E02D5/24 103
(21)【出願番号】P 2021093474
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521242196
【氏名又は名称】株式会社中村構造研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀司
(72)【発明者】
【氏名】西 俊二
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-193055(JP,A)
【文献】特開平11-108264(JP,A)
【文献】実開昭59-098923(JP,U)
【文献】特開2004-238942(JP,A)
【文献】特開2001-214437(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1048396(KR,B1)
【文献】米国特許第04668119(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の杭の端部相互を継手部材により連結状態とした杭の継手構造であって、前記杭の端部に、先端に向かうにしたがって漸次縮径するテーパー状の雄ネジ部と、該雄ネジ部の基端側でほぼ前記杭の長手方向に直交する方向に沿って広がる環状平面をなす杭側ショルダ部と、前記杭の先端でほぼ前記杭の長手方向に直交する方向に沿う環状先端面と、が形成され、
前記継手部材は、筒状に形成されるとともに、その両端部に、前記杭の雄ネジ部に螺合する雌ネジ部と、該雌ネジ部の基端側でほぼ前記継手部材の長手方向に直交する方向に沿う環状平面をなす継手部材側ショルダ部と、前記継手部材の先端でほぼ前記継手部材の長手方向に直交する方向に沿う環状先端面と、がそれぞれ形成され、
前記雄ネジ部と前記雌ネジ部とが螺合した状態で、前記継手部材の環状先端面が前記杭側ショルダ部に押圧状態に当接し、前記杭の環状先端面が前記継手部材側ショルダ部に押圧状態に当接して
おり、
前記継手部材の環状先端面と前記杭側ショルダ部との当接面は、前記杭の環状先端面と前記継手部材側ショルダ部との当接面よりも半径方向に沿う幅寸法が大きいことを特徴とする杭の継手構造。
【請求項2】
前記杭側ショルダ部及び前記杭の前記環状先端面は、前記雄ネジ部又は雌ネジ部のテーパー面との角度を小さくする方向に傾斜して形成されており、前記継手部材側ショルダ部及び前記継手部材の前記環状先端面は、対応する前記杭における前記杭側ショルダ部及び前記環状先端面に合わせて傾斜して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の杭の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築の基礎工事等において地中に打ち込む鋼管杭等の杭を長手方向に連結するための継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭を連結するには、上側となる上杭の下端部に開先を加工し、下側の下杭の上端との間にルートギャップを確保して、その外周部を溶接するのが一般的である。
この溶接作業は高度な技能が要求されるとともに、天候の影響を受け、品質管理として超音波探傷などが必要である。
加えて、近年溶接工の不足が顕在化しており、それらを解決するために多くの機械式継手が考案され使用されている。
この機械式継手は嵌合式とネジ式に大別できる。
【0003】
鋼管杭の嵌合式継手の一例として、特許文献1に記載のものがある。この継手構造は、接合する一方の鋼管杭の端部内周面に、ピン挿入孔を有する内継手管をピン挿入孔が杭端から突出するように固着し、他方の鋼管杭の端部に、鋼管杭母材よりも厚肉で内継手管のピン挿入孔に合致するピン挿入孔を有する外継手管を固着し、外継手管を内継手管の外周面に嵌合して内継手管と外継手管のピン挿入孔を合致させ、ピン挿入孔に固定ピンを挿入固定することにより、一方の鋼管杭と他方の鋼管杭を強固に接合する構造である。
【0004】
鋼管杭のネジ式の一例としては特許文献2に記載のものがある。この継手構造は、鋼管杭は、接合する一方の鋼管杭の先端に、特定傾斜角のテーパー状に形成された雄ネジ継手部が設けられるとともに、他方の鋼管杭の先端に雌ネジ継手部が設けられており、これら雄ネジ継手部と雌ネジ継手部を嵌合して接合する構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-11850号公報
【文献】特開平08-060652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの継手構造において、特許文献1の内外継手管、特許文献2の雌雄ネジ継手部を鋼管杭の端部に溶接にて固定する場合は、予め工場等で施工しておく必要があり、高価になる。
また、特許文献1記載の継手構造のように嵌合方式の場合は、固定ピンとピン挿入孔にクリアランスが必要なため、回転杭のような正転、逆転を繰り返す工法では、繰り返しによりピン挿入孔が楕円状に変形する。さらに変形が進むと固定ピンが破壊することも考えられる。
一方、特許文献2記載の継手構造のようにネジ方式の場合、テーパーも大きく、特殊ネジであるため、さらに高価になる。しかも、正転時は大きなトルクが生じるとしても、逆転時には簡単に外れる不具合があり、正転、逆転を繰り返す回転杭工法には向いていない。
【0007】
本発明は、回転杭工法等に必要な高い正回転トルク伝達性能、および逆転時の抜け防止性能を持ち、しかも、施工トラブル時には取り外し可能な杭の継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の杭の継手構造は、2本の杭の端部相互を継手部材により連結状態とした杭の継手構造であって、前記杭の端部に、先端に向かうにしたがって漸次縮径するテーパー状の雄ネジ部と、該雄ネジ部の基端側でほぼ前記杭の長手方向に直交する方向に沿って広がる環状平面をなす杭側ショルダ部と、前記杭の先端でほぼ前記杭の長手方向に直交する方向に沿う環状先端面と、が形成され、
前記継手部材は、筒状に形成されるとともに、その両端部に、前記杭の雄ネジ部に螺合する雌ネジ部と、該雌ネジ部の基端側でほぼ前記継手部材の長手方向に直交する方向に沿う環状平面をなす継手部材側ショルダ部と、前記継手部材の先端でほぼ前記継手部材の長手方向に直交する方向に沿う環状先端面と、がそれぞれ形成され、
前記雄ネジ部と前記雌ネジ部とが螺合した状態で、前記継手部材の環状先端面が前記杭側ショルダ部に押圧状態に当接し、前記杭の環状先端面が前記継手部材側ショルダ部に押圧状態に当接している。
【0009】
この杭の継手構造においては、テーパー状の雄ネジ部と雌ネジ部とで杭と継手部材とが結合し、その際に、杭側ショルダ部に継手部材の環状先端面が押圧状態に当接し、継手部材側ショルダ部に杭の環状先端面が押圧状態に当接する。その押圧状態は雄ネジ部と雌ネジ部との締め付け力を増すほど大きくなり、当接面の摩擦力により強大なトルクで結合することができる。また、その押圧力により杭及び継手部材に長手方向に沿うプレストレス(圧縮応力)が発生し、引っ張りに対して強固な結合を維持できる。これらの相乗作用により、正転、逆転を繰り返す回転杭工法においても、結合が外れることが抑制される。もちろん、ネジ結合であるので、異常発生時など、必要なときは外すことは可能である。このため、取外した継手部材を撤去して、将来、必要なときに再利用することも可能である。
また、溶接を必要としないので、その分、コスト低下を図ることができるとともに、現場施工も容易になる。
【0010】
この杭の継手構造において、前記杭側ショルダ部及び前記継手部材側ショルダ部は、前記長手方向に直交する方向に対して、前記雄ネジ部又は雌ネジ部のテーパー面との角度を小さくする方向に傾斜して形成されており、前記継手部材の前記環状先端面及び前記杭の前記環状先端面は、対応する前記杭側ショルダ部及び前記環状先端面に合わせて傾斜して形成されているとよい。
【0011】
杭に引っ張り力が作用した場合、雄ネジ部と雌ネジ部との長手方向の中央部付近ではネジの噛み合い状態が維持されるものの、ネジ部の両端部では相互に離間する方向に力が作用する。ショルダ部と環状先端面との当接面を、長手方向に直交する方向に対して、ネジ部のテーパー面との角度を小さくする方向に傾斜させて形成することにより、継手部材の両端部と杭とが離間しようとする動きを傾斜面相互の接触によって阻止することができ、ネジ部の全長にわたる強固な結合を維持することができる。
【0012】
この杭の継手構造において、前記継手部材の環状先端面と前記杭側ショルダ部との当接面は、前記杭の環状先端面と前記継手部材側ショルダ部との当接面よりも半径方向に沿う幅寸法が大きいとよい。
【0013】
継手部材側ショルダ部との当接面が大きいと、その分、継手部材を肉厚に形成して強度を高くすることができ、引っ張り力が作用したときでも広がらずに2本の杭を強固に保持することができる。
【0014】
本発明の杭の連結方法は、2本の杭の端部相互を継手部材により連結状態とする杭の連結方法であって、前記杭は、その端部に、先端に向かうにしたがって漸次縮径するテーパー状の雄ネジ部と、該雄ネジ部の基端側でほぼ前記杭の長手方向に直交する方向に沿って広がる環状平面をなす杭側ショルダ部と、前記杭の先端でほぼ前記杭の長手方向に直交する方向に沿う環状先端面と、が形成され、
前記継手部材は、筒状に形成されるとともに、その両端部に、前記杭の雄ネジ部に螺合する雌ネジ部と、該雌ネジ部の基端側でほぼ前記継手部材の長手方向に直交する方向に沿う環状平面をなす継手部材側ショルダ部と、前記継手部材の先端でほぼ前記継手部材の長手方向に直交する方向に沿う環状先端面と、がそれぞれ形成されており、
前記杭と前記継手部材とを結合する際に、
前記杭の前記雄ネジ部と前記継手部材の前記雌ネジ部とを螺合させ、前記継手部材の環状先端面と前記杭側ショルダ部、又は前記杭の環状先端面と前記継手部材側ショルダ部を順次又は同時に押圧状態に当接させ、その当接状態でさらに締め付ける。
【0015】
本発明の継手部材は、2本の杭の端部に形成された雄ネジ部と結合して両杭を連結状態とするための継手部材であり、筒状に形成されるとともに、その両端部に、前記杭の雄ネジ部に螺合する雌ネジ部と、該雌ネジ部の基端側で長手方向にほぼ直交する方向に沿う環状平面をなす継手部材側ショルダ部と、長手方向にほぼ直交する方向に沿う環状先端面と、がそれぞれ形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、杭と継手部材とをショルダ部で押圧状態に当接させたので、大きなトルクを生じさせることができ、かつ、圧縮応力によるプレストレスが発生して、強固な結合を維持でき、正転、逆転を繰り返す回転杭工法においても、結合が外れることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る杭の継手構造を一点鎖線の円で示す部分の拡大図とともに示す断面図ある。
【
図3】杭側ショルダ部及び継手部材側ショルダ部を傾斜面とした例を示す要部の拡大図である。
【
図4】締め付けトルクと回転角との関係を示したグラフである。
【
図5】引っ張り試験による荷重と変位との関係を示したグラフである。
【
図6】圧縮試験による荷重と変位との関係を示したグラフである。
【
図7】曲げ試験による曲げモーメントと変位との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る杭の継手構造を説明する。
図1及び
図2は本発明の一実施形態を示している。
この実施形態において、杭10A,10Bは、好適には、JIS規格の例えばSKK(鋼管杭)材、STK(一般構造用炭素鋼鋼管)材等により、直径が200mm~600mm、長さが1.0m以上、厚さが6mm以上の筒状に形成される。もちろん、これらの材質、寸法に限定されるものではない。
この杭10A,10Bの両端部の外周面には、先端に向かうにしたがって漸次縮径するテーパー状の雄ネジ部11が形成されており、この雄ネジ部11に螺合した継手部材20が2本の杭10A,10Bの先端部どうしを連結している。
【0019】
杭10A,10Bの雄ネジ部11は、杭10A,10Bの厚さの中間付近に形成されており、雄ネジ部11の基端側には、杭10A,10Bの長手方向に沿う円筒部12が形成され、その円筒部12の基端位置に、杭10A,10Bの長手方向に直交する方向に沿う環状平面からなる杭側ショルダ部13が形成されている。
図1に示す例では、この杭側ショルダ部13は、杭10A,10Bの長手方向に直交する方向(杭10A,10Bの半径方向)と平行に、言い換えれば長手方向と直角に形成されている。一方、杭10A,10Bの先端部は、杭10A,10Bの長手方向に沿う円筒部14が形成され、その円筒部14の先端面が、杭10A,10Bの長手方向に直交する方向(杭10A,10Bの半径方向)と平行、つまり杭10A,10Bの長手方向と直角の環状先端面15に形成されている。
なお、両杭10A,10Bの雄ネジ部11は巻き方向が同じで、同じピッチに形成されている。
【0020】
一方、継手部材20は、特に限定されるものではないが、JIS規格のSN(建築構造用鋼材)材等により、長さが10cm~20cmの比較的短尺な筒状に形成されている。
この継手部材20の両端部の内周面には、杭10A,10Bの雄ネジ部11に螺合可能な雌ネジ部21が形成されている。杭10A,10Bの雄ネジ部11がテーパー状に形成されているので、この継手部材20の雌ネジ部21も杭10A,10Bの雄ネジ部11に合わせたテーパー状(先端に向かうにしたがって漸次拡径するテーパー状)に形成されている。
【0021】
また、継手部材20の雌ネジ部21の基端側には、継手部材20の長手方向に沿う円筒部22が形成され、この円筒部22の基端位置に、継手部材20の長手方向に直交する方向に沿う環状平面からなる継手部材側ショルダ23部が形成されている。
図1に示す例では、この継手部材側ショルダ部23は、継手部材20の長手方向に直交する方向(継手部材20の半径方向)と平行に、言い換えれば長手方向と直角に形成されている。この場合、雌ネジ部21が継手部材20の両端部に形成されているため、継手部材側ショルダ部23は、両雌ネジ部21の基端側にそれぞれの面を先端方向に向けて配置されている。2つの継手部材側ショルダ部23はいわゆる背中合わせ状態に配置される。
【0022】
一方、継手部材20の先端部には、継手部材20の長手方向に沿う円筒部24が雌ネジ部21に連続して形成され、その円筒部24の先端面が、継手部材20の長手方向に直交する方向(継手部材20の半径方向)と平行、つまり継手部材20の長手方向と直角の環状先端面25に形成されている。
【0023】
この継手部材20には、雌ネジ部21が2カ所に形成されるとともに、各雌ネジ部21の両端位置に円筒部22,24がそれぞれ形成されており、これら合計4カ所の円筒部22,24は、雌ネジ部21を2本の杭10A,10Bの雄ネジ部11にそれぞれ螺合して両杭10A,10Bを連結したときに、各杭10A,10Bの円筒部12,14の半径方向外側にそれぞれ配置される。継手部材20の両雌ネジ部21は、巻き方向が同じで、同じピッチに形成されている。
【0024】
また、杭10A,10Bにおける杭側ショルダ部13と環状先端面15との間の距離L1は、対応する継手部材20の両端部の継手部材側ショルダ部23と環状先端面25との間の距離とほぼ同じに設定されている。継手部材20における両継手部材側ショルダ部23の間の長さL2は、後述の連結時の押圧力を支持できる程度に適宜の長さに設定され、例えば1.5cm~5.0mmに設定される。これらの寸法は特に限定されるものではない。
【0025】
また、杭側ショルダ部13と継手部材20の環状先端面25との当接面、及び継手部材側ショルダ部23と杭10Aの環状先端面15との当接面は、半径方向の幅を同じに形成してもよいが、杭側ショルダ部13と継手部材20の環状先端面25との当接面を、継手部材側ショルダ部23と杭10Aの環状先端面15との当接面より大きく形成する方が継手部材20を肉厚に形成できて強度を大きくできるので好ましい。
【0026】
また、ショルダ部13,23と環状先端面15,25の表面の摩擦係数μは大きい方が好ましく、仕上げ処理として一般的な酸洗処理をするとよい。例えばμ=0.25以上が望ましい。油井管の接合等に使用されるボンデ処理は、摩擦係数が0.15程度と小さいので、大きなねじりトルクを掛けることが難しい。
【0027】
この継手部材20により2本の杭10A,10Bを連結する場合、一方の杭(先行杭)10Aの端部の雄ネジ部11に継手部材20の一方(下方)の雌ネジ部21を回転させながら螺合して、杭側ショルダ部13と継手部材20の環状先端面25、継手部材側ショルダ部23と杭10Aの環状先端面15、の両方が当接し、あるいはいずれか一方が先に当接すると、トルク(ねじりトルク)が急激に上昇する。いずれか一方が先に当接した場合は、その後、他方が当接することで、さらにトルクが上昇する。そして、この当接状態でさらに継手部材20を回転させて、両者を強固に締め付けることで、当接状態となっている杭側ショルダ部13と継手部材20の環状先端面25との当接面、及び継手部材側ショルダ部23と杭10Aの環状先端面15との当接面にそれぞれ長手方向に大きな押圧力を作用させる。
【0028】
次いで、継手部材20の他方(上方)の雌ネジ部21に他方の杭(後行杭)10Bの端部の雄ネジ部11を回転させながら螺合し、継手部材側ショルダ部23に杭10Aの環状先端面15に当接させるとともに、これと同時又は若干時期を前後して順次に、杭側ショルダ部13に継手部材20の環状先端面25を当接させ、さらに杭10Bを回転させて、両者を強固に締め付けることで、当接状態となっている継手部材側ショルダ部23と杭10Aの環状先端面15との間、及び杭側ショルダ部13と継手部材20の環状先端面25との間にそれぞれ長手方向に押圧力を作用させる。
【0029】
このようにして連結状態とした2本の杭10A,10Bは、テーパー状の雄ネジ部11と雌ネジ部21とで杭10A,10Bと継手部材20とが結合し、かつ、各杭10A,10Bの杭側ショルダ部13に継手部材20の環状先端面25が押圧状態に当接し、2か所の継手部材側ショルダ部23に各杭10A,10Bの環状先端面15がそれぞれ押圧状態に当接する。この押圧状態は雄ネジ部11と雌ネジ部21との締め付け力を増すほど大きくなり、当接面の摩擦力により強大なトルクで結合することができる。
【0030】
また、継手部材側ショルダ部23と杭10Aの環状先端面15との当接面、及び杭側ショルダ部13と継手部材20の環状先端面25との当接面の押圧力により、杭10A,10B及び継手部材20に長手方向に沿うプレストレス(圧縮応力)が発生し、引っ張りに対して強固な結合を維持できる。
【0031】
これらの相乗作用により、正転、逆転を繰り返す回転杭工法においても、杭10A,10Bと継手部材20との結合が外れることが抑制される。回転杭工法とは、正転、逆転を繰り返しながら、杭を地盤に貫入する工法である。この継手構造により接合された杭は、正転時、逆転時ともに強固な結合状態が維持されるので、現場施工を円滑かつ迅速に行うことができる。
【0032】
もちろん、ネジ結合であるので、異常発生時など、必要なときは外すことは可能である。
また、溶接を必要としないので、その分、コスト低下を図ることができるとともに、現場施工が容易になる。
【0033】
図3は継手構造の変形例を示している。この図において、
図1と共通要素には同一符号を付して、説明を簡略化する。
この継手構造においては、杭10A,10Bにおける杭側ショルダ部13及び継手部材20における継手部材側ショルダ部23が、杭10A,10B及び継手部材20の長手方向に直交する方向に対して、雄ネジ部11又は雌ネジ部21のテーパー面との角度を小さくする方向に傾斜して形成されている。これらショルダ部13,23に当接する継手部材20の環状先端面25及び杭10A,10Bの環状先端面15も、ショルダ部13,23と対応するように同じ角度に傾斜している。
その傾斜角度θは、杭10A,10B及び継手部材20の長手方向に直交する方向に対して、例えば5°~10°に設定されている。
【0034】
このような継手構造において、杭10A,10Bに引っ張り力が作用した場合、テーパー状の雄ネジ部11と雌ネジ部21との結合部分は、長手方向の中央部付近ではネジの噛み合い状態が維持されるものの、ネジ部11,21の両端部では相互に離間する方向に力が作用する。前述したように、継手部材側ショルダ部23と杭10Aの環状先端面15との当接面、及び杭側ショルダ部13と継手部材20の環状先端面25との当接面には、長手方向に押圧力が作用しているので、ネジ部11,21の両端部が離間する方向に若干の力が作用したとしても、その結合状態を維持することができるが、引っ張り力が大きくなると、ネジ部11,21の両端部が離間する方向の力も大きくなる。
【0035】
この
図4に示す例のように、ショルダ部13,23及び環状先端面15,25が長手方向に直交する方向に対して、ネジ部11,21との角度を小さくする方向に傾斜していることにより、継手部材20の両端部と杭10A,10Bとが離間しようとする動きを傾斜面(ショルダ部13,23及び環状先端面15,25)相互の接触によって阻止することができ、ネジ部11,21の全長にわたる強固な結合を維持することができる。
【0036】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
各種寸法等も求められる性能に応じて変更できる。杭の直径が大きい場合、ネジ山の数を多くすることや、継手部材の外径を大きくする(板厚を厚くする)こと等で対応できる。
【実施例】
【0037】
この継手構造の効果を確認するために行った試験結果について説明する。
図4は、締め付けトルクと回転角との関係を示したグラフであり、雄ネジ部と雌ネジ部との螺合が終了した位置(杭側ショルダ部と継手部材の環状先端面、継手部材側ショルダ部と杭の環状先端面、のいずれか又はその両方が当接した位置を螺合終了位置とする)を回転角0°とし、その終了位置からさらに30°回転させて締め付けた場合と、5°回転させて締め付けた場合、1°回転させて締め付けた場合のそれぞれについて、締め付け後に逆転させてトルクの変化を測定した。
【0038】
用いた杭は、SKK材で、直径が267.4mm、厚さが9.0mm、杭側ショルダ部と環状先端面との間の距離L1は5.0cmであり、継手部材はSN材で作製し、両継手部材側ショルダ部間の長手方向に沿う距離L2は2.5cmとした。継手部材は、外径が270.4mm、厚さが12mmであった。
螺合終了位置で締め付けを停止した試料については、ほぼ母材の強度を測定していると言える。
【0039】
この
図4によれば、30°まで締め付けた場合には、ネジ部を螺合していくと、杭側ショルダ部と継手部材の環状先端面、継手部材側ショルダ部と杭の環状先端面、のいずれか一方が先に当接(回転角度が0°)してトルクが急激に上昇し、その後、他方が当接することで、さらにトルクが上昇する。回転角が20°付近からほぼ最大トルク(約100kNm)となっている。
【0040】
そして、30°まで締め付けた後、逆転トルクをかけると、-100kNmから-80kNmまでの間はネジが緩まず、―80kNm付近からネジが緩み始めている(回転角度が30°から小さくなっている)。つまり、正転トルク100kNmの80%程度の逆転トルクまでネジが緩まないということがわかる。
【0041】
一方、締め付けトルクが小さい(例えば5°締め付けた場合)と、逆転の初期の段階からネジが緩み始めているのがわかる。杭側ショルダ部と継手部材の環状先端面、及び継手部材側ショルダ部と杭の環状先端面の接触圧が小さいことによる。ただし、30°回転の例のようには大きなトルクを要しない杭には適用可能である。また、回転杭工法でなく、埋め込み杭等にも使用して、安価な接合工法を提供できる。
【0042】
図5は、引っ張り試験を実施したときの荷重変位曲線である。ネジ部の螺合終了位置で止めた場合(締め付け無しの場合)、螺合終了位置からさらに30°回転により締め付けた場合、5°回転により締め付けた場合のそれぞれについて実施した。
30°回転による締め付けの場合、引っ張り試験時の剛性が大きく、降伏耐力σyも大きいのがわかる。締め付けで圧縮のプレストレスが生じていることで、荷重の上昇に伴う変位が小さいものと想定される。この継手部の降伏耐力は母材(SKK材)より小さいが、母材の降伏荷重まで破壊には至らない。伸びの能力がある継手部であると言える。
5°回転による締め付けの場合は、プレストレスの圧縮力が小さいため、引張荷重はやや小さくなる。
【0043】
図6は圧縮試験を実施したときの荷重変位曲線である。
圧縮試験の場合は、30°回転による締め付けの場合、剛性は他とあまり変わらないが、ショルダ部が締め付けトルクで降伏しているために降伏耐力が若干小さくなっている。母材の最大荷重まで結合部の耐力は上昇し続けており、破壊には至らない。
5°回転による締め付けの場合、プレストレスが小さくショルダ部が降伏していないために、降伏荷重は小さくならないが、母材の最大荷重まで耐力は上昇する。
【0044】
図7は曲げ試験を実施したときの曲げモーメントと変位(鉛直変位)の関係を示すグラフである。30°回転による締め付けの場合、5°回転による締め付けの場合、いずれも母材とほぼ同じ特性であり、最大荷重も母材の全塑性曲げモーメント(Mp=σy×Zp)を発揮できる。
5°回転による締め付けの場合も、30°回転による締め付けの場合と同様に鋼管母材の全塑性モーメントが発揮できる。
【符号の説明】
【0045】
10A,10B 杭
11 雄ネジ部
12,14 円筒部
13 杭側ショルダ部
13 ショルダ部
15 環状先端面
20 継手部材
21 雌ネジ部
22,24 円筒部
23 継手部材側ショルダ部
25 環状先端面