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特許7598639無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置及び無線通信方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-04
(45)【発行日】2024-12-12
(54)【発明の名称】無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置及び無線通信方法。
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/06 20060101AFI20241205BHJP
   H04L 7/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H04L7/06 500
H04L7/00 970
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021174202
(22)【出願日】2021-10-25
(65)【公開番号】P2023064016
(43)【公開日】2023-05-10
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/117118(WO,A1)
【文献】特表平10-505471(JP,A)
【文献】米国特許第08867588(US,B2)
【文献】BERNIER, Carolynn et al.,Low Complexity LoRa Frame Synchronization for Ultra-Low Power Software-Defined Radios,IEEE TRANSACTIONS ON COMMUNICATIONS, VOL. 68, NO. 5, MAY 2020,IEEE,2020年02月17日,pp.3140-3152,Internet<URL: https://ieeexplore.ieee.org/document/9000820>,DOI: 10.1109/TCOMM.2020.2974464
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/06
H04L 7/00
H04B 1/69
H04L 27/00-27/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送信する情報を符号化して変調することにより変調信号を作成する変調手段(20)と、同期信号を作成する同期信号作成手段(23)と、前記変調信号と前記同期信号を合成して合成信号を作成する合成信号作成手段(26)と、前記合成信号にキャリア信号を重畳することにより高周波信号を作成する高周波変調手段27を含んで構成される無線送信装置であって、
前記同期信号作成手段(23)は、2つの異なる変化レート(β1,β2)のチャープ信号を合成したクロスキャリア信号を生成することを特徴とする無線送信装置。
【請求項2】
前記二つの異なる変化レートは、絶対値が等しく符号が異なることを特徴とする請求項に記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記クロスキャリア信号は、フレーム全期間にわたってかつ連続して存在する信号であることを特徴とする請求項に記載の無線送信装置。
【請求項4】
受信電波信号に第一のチャープレート(β1)によるデチャープ処理を施して第一のデチャープ信号(Q1)を作成し(33A)、
受信電波信号に第二のチャープレート(β2)によるデチャープ処理を施して第二のデチャープ信号(Q2)を作成し(33B)、
前記第一のデチャープ信号(Q1)と前記第二のデチャープ信号(Q2)から前記受信電波信号の時間遅れ(δ)を検出し(34)、
前記受信電波信号の時間遅れを補正する(35)無線受信方法であって、
前記第一のデチャープ信号から第一のピーク周波数(fd)を検出し、前記第二のデチャープ信号から第二のピーク周波数(fu)を検出し、前記第一のピーク周波数と前記第二のピーク周波数の差分を検出する(76)ことにより、前記受信電波信号の時間遅れ(δ)を検出することを特徴とする無線受信方法。
【請求項5】
受信電波信号をIQ信号に変換するフロントエンド手段(30)と、前記IQ信号から同期信号を抽出する同期信号抽出手段(32)と、前記同期信号に応じて前記IQ信号の時間遅延(δ)と位相回転を補正して補正IQ信号を作成するチャネル補正手段(35)と、前記補正IQ信号を復号する復号手段(38)により受信データを得るように構成され、
前記同期信号抽出手段(32)は、前記IQ信号に第一のチャープレート(β1)によるデチャープ処理を施して第一のデチャープ信号(Q1)を得る第一のデチャープ手段(33A)と、前記IQ信号に第二のチャープレート(β2)によるデチャープ処理を施して第二のデチャープ信号(Q2)を得る第二のデチャープ手段(33B)と、前記第一のデチャープ信号と前記第二のデチャープ信号から前記受信電波信号の時間遅れ(δ)を検出する同期信号処理手段(34)を含んで構成される無線受信装置であって、
前記同期信号抽出手段(34)は、
前記第一のデチャープ信号(Q1)を高速フーリエ変換する第一のFFT手段(70A)と、前記第一のFFT手段の出力から第一のピーク周波数(fd)を検出する第一のピーク検出手段(72A)と、
前記第二のデチャープ信号(Q2)を高速フーリエ変換する第二のFFT手段(70B)と、前記第二のFFT手段の出力から第二のピーク周波数(fu)を検出する第二のピーク検出手段(72B)と、
前記第一のピーク周波数と前記第二のピーク周波数との差分を検出する減算手段(76)により、前記受信電波信号の時間遅れ(δ)を検出することを特徴とする無線受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
無線通信では、送信された電波に対して、受信機においてタイミング、位相そして周波数を合致させることが必須であり、この手法を「同期」と呼んでいる。本発明は、雑音や混信がある通信路でも確実な同期を実現し、その結果として安定な無線伝送を実現する無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置及び無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信において、データを所定の塊に分割して送信する方式が一般的である。このようなデータの塊は、ブロック、パケット、またはフレームなど様々な用語で呼ばれている。本発明ではデータの塊を、「フレーム」という言葉を用いて説明する。
【0003】
フレーム単位でデータを伝送する場合、フレームの受信タイミング、フレームの周波数オフセットそしてフレームの搬送波位相を受信機の内部信号と合致させること、即ち「同期」が必要となる。 このためフレームの先頭あるいはフレームの途中に同期信号を挿入するのが一般的である。 この同期信号は、「プリアンブル」、「基準信号」「フレームシンク」など、様々な名称で呼ばれているが、受信された電波信号に受信機を同期させる機能であることは変わりがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-46618号公報
【文献】特許第6821231号公報
【0005】
図1は、従来から使われている2種類の無線送信フォーマットを簡略的に説明する図である。図1(A)はフレームの先頭に「プリアンブル」を付加する一般的な同期手法である。プリアンブル10に続いて、フレームの先頭を示すフレームシンク11、そしてデータ12が続いている。このうちプリアンブル10とフレームシンク11が同期信号である。煩雑になるので図示しないが、データ12にはヘッダー、誤り訂正、誤り検出符号などが含まれる。
【0006】
別の無線送信機から送信された電波が同じタイミングで受信機に到来して、プリアンブル10またはフレームシンク11が混信すると同期が乱され、残りのデータ12を受信できなくなる可能性がある。このように図1(A)の同期方式は、プリアンブルが時間的に集中しているのが問題である。
【0007】
そこで特許文献1(特開2016-46618号広報)には、図1(B)に示すように疑似乱数で生成した同期信号13をフレームに均等分散させた通信方法が開示されている。
【0008】
フレームに均等分散させた同期信号13を用いることにより混信に強くなる。しかし同期をとる(時間、周波数や位相などを合致させる)ためには、均等分散させた同期信号を受信機で復号しなければならない。復号するためには受信機の同期が必要であるから、同期信号を検出するために、同期が必要となるというパラドックスが存在している。特許文献1に記載された方法は、このパラドックスを解くために受信装置が複雑で消費電力が大きくなる、という欠点があった。
【0009】
そこで特許文献2には、「時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」を用いる無線送信方法等が開示されている。
【0010】
特許文献2に記載された無線通信方法では、狭帯域同期信号の検出を高速フーリエ変換(FFT)で処理することができるので、パラドックスを解いて同期を容易に実現できる。しかし、特許文献2に記載された無線通信方法であっても、送信機内部の基準周波数発信器に周波数オフセットが存在していると周波数探索が必要となり、このため同期回路が複雑になるという欠点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、簡単な受信装置構成で、時間、位相及び周波数オフセットを調整することが可能(すなわち同期をとることが可能)で、なおかつ、混信などの影響により同期が乱されにくい無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置及び無線通信方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の無線送信方法は、同期信号または前記同期信号の一部として複数のチャープ信号を用い、前記複数のチャープ信号の変化レートが異なることを特徴とする無線送信方法である。
【0013】
本発明を適用した無線送信装置(2)は、無線送信する情報を符号化して変調する変調手段(20)と、同期信号を作成する同期信号作成手段(23)と、前記変調信号と前記同期信号を合成して合成信号を作成する合成信号作成手段(26)と、前記合成信号にキャリア信号を重畳することにより高周波信号を作成する高周波変調手段27(高周波信号作成手段)を含んで構成される無線送信装置であって、前記同期信号生成手段(23)は、2つの異なる変化レート(β1,β2)のチャープ信号を合成したクロスキャリア信号を生成することを特徴とする無線送信装置である。
【0014】
本発明の無線受信方法は、受信電波信号に第一のチャープレート(β1)によるデチャープ処理を施して第一のデチャープ信号(Q1)を作成し(33A)、受信電波信号に第二のチャープレート(β2)によるデチャープ処理を施して第二のデチャープ信号(Q2)を作成し(33B)、前記第一のデチャープ信号(Q1)と前記第二のデチャープ信号(Q2)から前記受信電波信号の時間遅れ(δ)を検出し(34)、前記受信電波信号の時間遅れを補正する(35)ことを特徴とする無線受信方法である。
【0015】
本発明の無線受信装置(3)は、受信電波信号をIQ信号に変換するフロントエンド手段(30)と、前記IQ信号から同期信号を抽出する同期信号抽出手段(32)と、前記同期信号に応じて前記IQ信号の時間遅延(δ)と位相回転を補正して補正IQ信号を作成するチャネル補正手段(35)と、前記補正IQ信号を復号する復号手段(38)により受信データを得るように構成され、
前記同期信号抽出手段(32)は、前記IQ信号に第一のチャープレート(β1)によるデチャープ処理を施して第一のデチャープ信号(Q1)を得る第一のデチャープ手段(33A)と、前記IQ信号に第二のチャープレート(β2)によるデチャープ処理を施して第二のデチャープ信号(Q2)を得る第二のデチャープ手段(33B)と、前記第一のデチャープ信号と前記第二のデチャープ信号から前記受信電波信号の時間遅れ(δ)を検出する同期信号処理手段(34)を含んで構成されることを特徴とする無線受信装置である。
【0016】
本発明の無線通信方法は、伝送情報を符号化して変調することにより変調信号(mod(t))を作成し、周波数が直線的に変化する二つの複素関数信号exp(j2p・β1・t・t)とexp(j2p・β2・t・t)を含んだ同期信号(Cr(t))を作成し、前記変調信号と前記同期信号にキャリア信号を重畳して高周波信号(TX(t))を作成して電波として送信し、前記高周波信号を受信して前記伝送情報を復元する無線通信方法であって、前記高周波信号に含まれる前記同期信号(Cr(t))によって無線伝送路における時間遅延(δ)を検出し、前記時間遅延を補正することにより前記伝送情報を復号検出することを特徴とする無線通信方法である。
【0017】
[発明の効果]
本発明によれば、他システムからの混信に対して同期信号が乱されることが少なく、より確実に伝送できる無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置及び無線通信方法を実現できる。 これらを適用した無線通信装置を用いれば、安定な通信を実現することが可能となる。 また本発明による無線送信方法を適用した無線送信装置においては、プリアンブルなどの無駄信号に送信電力を割くことが無く従来よりも低消費電力が実現できる。また本発明による無線受信方法を適用した無線受信装置であれば、同期信号処理を効率良く実現できるので、従来よりも簡単な構成かつ低消費電力で受信動作させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来から使われている2種類の無線送信フォーマットを簡略的に説明する図である。
図2】本発明の無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。
図3】本発明の無線送信装置2のブロック図である。
図4】無線送信装置2において使われる変調パルス作成ブロック21の構成図である。
図5】無線送信装置2において使われるダウンチャープ生成ブロック24Aの構成図である。
図6】無線送信装置2における各信号を模式的に表した図である。
図7】本発明における無線送信信号のスペクトルを模式的に表した図である。
図8】本発明の無線受信装置3のブロック図である。
図9】無線受信装置3において使われる同期信号抽出手段32の構成図である。
図10】本発明の無線送信方法を用いた実験における送信電波のスペクトル及びスペクトログラムである。
図11】本発明の無線受信方法を用いた実験により得られたコンスタレーションの一例である。
図12】第二の実施例における無線送信信号のスペクトルを模式的に表した図である。
図13】第三の実施例における無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。
図14】第三の実施例の無線送信装置2のブロック図である。
図15】第四の実施例における無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。
図16】第五の実施例における無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示を実施するための形態(以下実施の形態とする)について説明する。
【0020】
<第一の実施例>
以下では実施例として、シンボルレートfb (=100ksps)のBPSK(Binary Phase Shift Keying)を変調方式として使い、0.5秒間のフレーム、キャリア周波数 fc=920MHzで無線伝送する場合について説明する。 もちろん、本発明はこれに限定されることなく、様々な実施形態で実現できることは言うまでもない。
【0021】
図2は、本発明の無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。図2においては、本発明の通信フォーマットを縦軸に周波数、横軸に時間を取って示した。ここでデータ12には、誤り訂正符号や認証情報なども含まれるが、図2では簡略化のため省略している。またデータ12が占める周波数帯域幅をBwと表記している。例えばシンボルレートfbが100ksps(Symbol Per Second)の場合、周波数帯幅Bwはおよそ150kHzである。
【0022】
図2(A)において、フレームとして伝送される情報は、フレームの開始タイミングを表すフレームシンク11と、データ12で構成される。一般に、フレームシンク11の変調方式をデータ12と同一にする場合が多い。 このときフレームシンク11が占める周波数帯域幅もBwである。
【0023】
従来の通信方法では、フレームの先頭付近の時間にプリアンブルと呼ばれる同期信号を伝送するのが一般的であった。これに対して図2に示す本発明の通信フォーマットでは、プリアンブルの代わりにクロスキャリア14をフレームのほぼ全時間において伝送する。
【0024】
図2(B)、(C)に示すようにクロスキャリア14は、ダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bで構成される。 この図においてダウンチャープ信号14Aは、周波数+fsを開始点の周波数として、その後は所定のチャープレート(β1)で周波数が下降する信号である。 同様にアップチャープ信号14Bは、周波数-fsを開始点の周波数として、その後は所定のチャープレート(β2)で周波数が上昇する。 この図では、フレーム時間Tを0.5秒、チャープ開始周波数fs=75kHzであり、β1=-300kHz/秒、β2=+300kHz/秒の場合を例示している。
【0025】
このようなダウンチャープ信号14AをCa(t)、アップチャープ信号14BをCb(t)とすると、それぞれ次式1および次式2で表すことができる。
【数1】
【数2】
ここでαは定数、rect(t)は矩形関数である。
【0026】
<無線送信装置の構成>
図3は、本発明の無線送信装置2のブロック図である。図6は、無線送信装置2の信号を模式的に説明するタイミング図である。 無線送信装置2には伝送データ「101101…」がシンボルクロック(syclk)毎に入力される。 シンボルクロックの周波数は、シンボルレートfbが100kspsのとき、100kHzである。 伝送データは変調手段20により変調され、同期信号作成手段23により作成された同期信号(クロスキャリア14)が付加され、高周波変調手段27によって増幅され、アンテナ202より電波TX(t)として送信される。
【0027】
図3にて伝送データ「101101…」は変調パルス作成ブロック21に入力され、シンボル毎に1発のパルス(Mod Pulse)に変換される。 図6(A)~(C)に示すようにMod Pulseは伝送データに応じて極性が変化する両極性のパルス列である。
【0028】
ローパスフィルタ22により、Mod Pulseが低域濾過されて変調信号 mod(t)となる。(図6(D)) ローパスフィルタ22の特性としては、符号間干渉を抑圧できるRoot Raised Cosine (RRC)特性を用いることができる。 この場合、ローパスフィルタ22の通過帯域幅 Bwはシンボルレート fbのおよそ1.5倍になる場合が多い。 本実施例では Bw = 150kHzとして説明する。
【0029】
図示しないシステムコントローラによりStart Pulse(図6(E))が「0」から「1」に変わってデータ送信開始が指示されると同時に、クロスキャリア信号Cr(t)が生成される。ここでクロスキャリア信号Cr(t)は、後述するようにダウンチャープ信号Ca(t)とアップチャープ信号Cb(t)を合成した信号である。
【0030】
同期信号作成手段23は、ダウンチャープ(β1)生成ブロック24Aと、アップチャープ(β2)生成ブロック24Bにより構成され、それぞれダウンチャープ信号Ca(t)、アップチャープ信号Cb(t)を生成する。 これらの信号は加算器25により加算されてクロスキャリア信号Cr(t)を生成する。
【0031】
ここでダウンチャープ信号Ca(t)、アップチャープ信号Cb(t)が簡単になる場合もある。それは2つのチャープレートの極性が異なり同振幅の場合(即ちβ=-β1=+β2)である。この場合、クロスキャリア信号Cr(t)が実数となり、式3に示す余弦関数(コサイン)で表すことができるので簡略化できる。
【数3】
【0032】
加算器26は変調信号mod(t)とクロスキャリア信号Cr(t)を加えてミキサ28に供給する。ここで上述したように-β1=β2の場合にはクロスキャリア信号Cr(t)が実数となって虚部が不要となるので、変調信号mod(t)をミキサ28のI軸とし、クロスキャリア信号をミキサ28のQ軸に入れることにより、加算器26を省略することもできる。後述する実験例(図10図11)では、-β1=β2とした場合を示している。
【0033】
変調信号mod(t)とクロスキャリア信号Cr(t)はミキサ28によって合成され、さらに局部発振器29より供給されるキャリア(周波数fc)が重畳される。キャリア周波数fcは、例えば920Mzとすることができる。 バンドパスフィルタ200は、ミキサ28からの信号に含まれる不要成分を除去する。 バンドパスフィルタ200の出力は、リニアアンプ201により増幅され、アンテナ202から電波TX(t)として空中に送信される。
【0034】
図4は、無線送信装置2において使われる変調パルス作成ブロック21の構成図である。図4を参照しながら、変調パルス作成ブロック21の構成を説明する。伝送データはシンボルクロック(syclk)毎に入力され、マッパー210により両極性の信号に変換される。即ち伝送データが「1」であれば「+1」に、伝送データが「0」であれば「-1」に変換される。
【0035】
立ち上がり検出回路211により、シンボルクロック(syclk)の立ち上がりエッジにおいてパルスが生成される。立ち上がり検出回路211はPLL回路213、Dフリップフロップ214、NOTゲート215そしてANDゲート216で構成される。立ち上がり検出回路211は、シンボルクロック(syclk)が論理「0」から論理「1」に変化したタイミングで、立ち上がりエッジパルスを発生させる。
【0036】
PLL回路213は、シンボルクロック(syclk)の周波数を16逓倍したクロックX16を発生する。この例ではシンボルクロック(syclk)が100kHzであるから、クロックX16は1.6MHzと高速なクロックである。 立ち上がりエッジパルスは乗算器212によってマッパー210の出力と乗算され、シンボル毎に1発の両極性パルス(Mod Pulse)として出力される。
【0037】
このようにして生成されるMod Pulseは図6(C)に示すように、伝送データに応じて極性が変化する両極性のインパルス列である。また Mod Pulseは、シンボルクロック(syclk)の立ち上がりに同期しているので、1つのシンボルを伝送する時間(Ts)の中央部で変化する。
【0038】
同期信号作成手段23は、ダウンチャープ作成手段24A、アップチャープ作成手段24B、そして加算器25により構成される。図5は、ダウンチャープ作成手段24Aの構成図である。アップチャープ作成手段24Bは、チャープレートが異なるだけなので説明を省略する。
【0039】
図5においてStart Pulseが「0」から「1」に変わってデータ送信開始が指示されると、カウンタ240がクロックX16のカウントを開始する。クロックX16の周波数が1.6MHzのとき、フレームの開始時点で「0」であったカウント値nは、0.5秒後のフレーム終了時点において800,000まで変化する20ビットの整数である。
【0040】
不揮発メモリ241は20ビットのアドレスを入力とし、予め書き込まれた8ビットのデータを出力する。このような不揮発メモリ241としては、例えばATMEL社の半導体(AT27C080)を使うことができる。各アドレス(n)に対して式4に示す値を予め書き込むことにより、初期周波数fs、変化レートβ1のダウンチャープ信号の位相θ1 (n) を発生させることができる。
【数4】
ここで関数mod( )は剰余演算を表し、ΔはクロックX16の逆数(0.625μ秒)である。
【0041】
指数関数ブロック242は不揮発メモリなどで構成され、ダウンチャープ信号の位相θ1 (n) に対してcos{θ1(n) }を実部、sin{θ1(n) }を虚部として出力する。増幅器243は、指数関数ブロック232の出力に所定定数αを乗算することにより、ダウンチャープ信号Ca(t)として出力する。他システムからの干渉があり、同期が乱されるような場合にはαに大きな値を採用して同期性能を上げることができる。
【0042】
以上説明したようにして生成されるダウンチャープ信号位相θ1(n) は図6(F)に示すように、時間の経過と共に変化が緩やかになり、その変化具合は2次関数で表される。 この結果ダウンチャープ信号Ca(t)の実部cos{θ1(n) }は、図6(G)にイラストで示したしたように時間と共に周波数が低下するチャープ信号となる。
【0043】
以上説明したように、変調信号mod(t)と同時に同期信号としてクロスキャリア信号Cr(t)が作成される。これらがミキサ28によって合成され、さらに高周波変調手段27によりキャリア(周波数fc)が重畳されて送信信号 TX(t)が作成される(図6(H)及び図6(I)参照。)。 送信信号 TX(t)を数式表現すると、次の式5で表わすことができる。
【数5】
ここでεTXは無線送信装置2で生じる送信周波数の偏差である。
【0044】
図7は、送信信号TX(t)のスペクトルを模式的に表した図である。フレームシンク11とデータ12は、キャリア周波数fcを中心として約150kHzのフラットな周波数特性を持つBPSK変調信号(mod(t))である。 またクロスキャリア信号Cr(t)は、図7にイラスト表示するように搬送波周波数fcを中心としてアップチャープとダウンチャープで構成されるので、図では文字「X」(エックス)のよう観測される。
【0045】
<無線受信装置の構成>
図8は、本発明の無線受信装置3のブロック図である。 本発明の無線受信装置3は、アンテナ301,フロントエンド30,同期信号抽出手段32,チャネル補正手段35,復号手段38で構成される。
【0046】
アンテナ301で受信した受信信号RX(t)は次式6で表現される、
【数6】
ここでφc(t)は無線伝搬で発生する位相回転であり、多くの場合その周波数成分は数ヘルツ程度の緩やかな変化である。またδは無線通信で生じる時間遅れであり、εTXは無線送信装置2で生じた周波数偏差である。
【0047】
フロントエンド30は、アンプ302、バンドパスフィルタ303、局部発振器304、ミキサ305そしてAD変換器306で構成される。アンテナ301で受信された微弱電波をアンプ302で増幅し、バンドパスフィルタ303によって不要な周波数成分を除去し、ミキサ305と局部発振器304によって搬送波周波数(fc)の成分を取り除き、AD変換器306によってディジタル情報(IQ信号)に変換する。ここでAD変換器306のサンプリングはシステムクロック(CLK)により行われ、システムクロック(CLK)の周波数は、例えば1.5MHと充分に高く設定される。AD変換器306のサンプリング間隔Δは、システムクロック(CLK)の逆数となる。
【0048】
以上述べたフロントエンド30により、次の式7に示すIQ信号IQB(n)を得ることができる。
【数7】
ここでεrは無線送信装置2による周波数偏差εTXと、無線受信装置3に搭載された局部発振器304の周波数偏差εRXを加えた値であり、送受信を総合した周波数偏差である。
【0049】
以上説明したようにIQ信号IQB(n)には、周波数ずれεr、そして緩やかな位相回転φcと、全部で3種類の位相に関する偏差が生じている。これらの成分をまとめてφ(n)とすると、
【数8】
上式7の位相回転φ(n)と、時間遅れδを求めて補正することにより同期が実現できる。
【0050】
図9は、IQ信号IQB(n)とシステムクロックCLKを入力として、伝送路特性(δ、φ(n))を検出して出力する同期信号抽出手段32の構成である。同期信号抽出手段32は、2つのデチャープ回路33Aと33Bによって、ダウンチャープ同期信号Q1(n)及びアップチャープ同期信号Q2(n)を抽出する。 次に同期信号処理手段34によって伝送路特性(δ、φ(n))を検出するように構成されている。
【0051】
図示しないシステムコントローラにより同期信号抽出がスタートすると、カウンタ79はシステムクロックCLKをカウントして、カウント値nを出力する。
【0052】
デチャープ回路33Aは、不揮発メモリ331Aと位相逆回転ブロック330Aで構成され、IQ信号IQB(n)にチャープレートβ1のチャープ補正を行って、ダウンチャープ同期信号Q1(n)を抽出する。 またデチャープ回路33BはIQ信号IQB(n)にチャープレートβ2のチャープ補正を行い、アップチャープ同期信号Q2(n)を抽出する。
【0053】
不揮発メモリ331Aのアドレス(n)に対応して、下の式9に示す位相 θ3 (n)を書き込むことにより、初期周波数fs、チャープレートβ1のダウンチャープ信号を発生させることができる。不揮発メモリ331Bにより派生する位相θ4 (n)は、チャープレートがβ2に、周波数初期値が+fsに変わることを除いて同じように構成できる。(下の式10参照。)
【数9】
【数10】
【0054】
位相逆回転ブロック330A及び330Bは、やはり不揮発メモリで構成され、IQ信号IQB(n)にチャープ補正を行って、下の式11と式12に示すダウンチャープ同期信号Q1(n)と。アップチャープ同期信号Q2(n)を抽出する。
【数11】
【数12】
【0055】
高速フーリエ変換(FFT)70A及び70Bは、ダウンチャープ同期信号Q1(n)とアップチャープ同期信号Q2(n)にフーリエ変換を施し、周波数応答を求める。ピーク検出回路72A及び72Bは、周波数応答がピークになる周波数(fd、fu)を検出する。減算回路76は、2つのピーク周波数(fd、fu)の差を求め、除算回路73が2βで割り算することにより、下の式13から時間遅れδを求める。
【数13】
【0056】
以上の処理により、周波数ずれεrが除去され、正確な時間遅れδを求めることができる。この結果、図8に示した遅延回路36は、時間遅れδを補正して出力することができる。
【0057】
ピークフィルタ71A及び71Bは狭帯域フィルタであり、2つのピーク周波数(fd、fu)周辺のスペクトル成分を抽出する。逆フーリエ変換回路74A及び74Bは、ピークフィルタ71A及び71Bが抽出した信号成分を逆フーリエ変換する。逆正接演算器75A及び75Bは、逆フーリエ変換回路の出力から位相成分を取り出すことにより、伝送路特性の位相成分φ(n)を検出する。加算回路77が2つの逆正接演算器75A及び75Bの出力を加算し、除算回路78によって2で除算することにより、平均化処理されて雑音が少ない伝送路特性の位相成分φ(n)を得ることができる。
【0058】
図8に示す無線受信装置3の構成において、位相回転補正回路36はIQ信号IQB(n)の位相を-φ(n)だけ逆回転させることにより、伝送路で生じた周波数偏差や位相回転を補正してIQ信号IQC(n)として出力するように構成されている。
【0059】
以上説明したように同期信号抽出手段32は、2つのデチャープ回路33Aと33Bによって、ダウンチャープ同期信号Q1(n)及びアップチャープ同期信号Q2(n)を抽出し、同期信号処理手段34によって伝送路特性(δ、φ(n))を検出して出力することができ、このようにして得られた伝送路特性(δ、φ(n))を使ってIQ信号IQB(n)を補正することにより、同期を実現することができる。
【0060】
<実験結果>
図10に本方式の無線送信方法を用いた実験結果を一例として示す。 図10Aでは、本方式の無線通信装置から出力される送信信号 TX(t)をスペクトルアナライザで観測した結果である。搬送波周波数(fc=920MHz)付近に、BPSK変調の帯域幅(Bw=150kHz)に広がったスペクトルが確認される。
【0061】
図10Bは、送信信号 TX(t)をスペクトログラム観察した結果である。ここでスペクトログラムは、縦軸に時間を、横軸に周波数をとった2次元画像を作成し、画素の明るさで信号強度を表す手法である。 このスペクトルグラムにより、時間ともに周波数が変化するクロスキャリア信号Cr(t)が、搬送波周波数を中心とする「X」文字のように表示されることが確認された。
【0062】
図11は本発明の無線受信機において観測されたコンスタレーションである。送信機、受信機、それぞれで発生した周波数偏差周波数偏差(εTX、εRx)や、伝搬路で加わった位相回転により、同期補正前のIQ信号IQB(n)のコンスタレーションは、ぐるぐると回転している。(図11A) これに対して本発明の同期信号処理を施したIQ信号IQC(n)のコンスタレーションは、回転がピタリと止まって復号可能な状態になっている。(図11B) ここでI軸はBPSK変調信号なので、2つのレベル「+1、-1」に分割されている。 またQ軸にはクロスキャリア信号Cr(t)として、幅広い帯が観測されている。
【0063】
以上の実験により、二つの異なる変化レートのチャープ信号を合成したクロスキャリア信号による同期が可能であることを確認した。
【0064】
<第二の実施例>
図12は、本発明に関わる第二の実施例における無線送信信号のスペクトルを模式的に表した図である。 図12(A)は、第一の実施例と同様にクロスキャリア信号Cr(t)として二つの異なるチャープレート(β1、β2)を用いる。 図12(B)では、クロスキャリア信号Cr(t)として別のチャープレート(β3、β4)を用いている。これら4つのチャープレート(β1,β2,β3,β4)は互いに異なっている。
【0065】
例えば図12(A)の信号をA社が用い、図12(B)の信号をB社が用いることにより、A社の無線電波とB社の無線電波が混信した場合であっても、チャープレートが異なることにより互いの同期信号が混信することを防ぐことができる。 このようにシステムに応じてチャープレートを変えることにより、異なる複数のシステムを同一の周波数帯域で運用することが可能である。
【0066】
<第三の実施例>
図13は、本発明に関わる第三の実施例における無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。この図において、ダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bは、周期的にオンオフされている。 またオンになる時間帯が、14Aと14Bで互いに異なるように構成され、ダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bが干渉しないようにされている。このため、ダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bとの間の混信が防止できる。
【0067】
図14は、図13の方法(ダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bを周期的にオンオフする方法)を実現する無線送信装置2のブロック図である。 同図において、発信器231が周期信号を発生し、反転回路232によって2つのアナログスイッチ230A及び230Bを逆位相で切り替えることにより、ダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bが互いに重複しないタイミングで切り替えられる。 またローパスフィルタ(LPF)233により、切り替えタイミングで発生した高い周波数成分を除去している。
【0068】
ダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bを周期的に切り替えた場合の無線受信装置3の構成について述べる。同期信号抽出手段32に搭載された狭帯域フィルタ(ピークフィルタ71A及び71B)の通過帯域を狭めることにより、断続的に送信されるダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bを平滑化することができる。 この結果、第一の実施例で説明した無線受信装置3をそのまま用いて同期を実現することができる。
【0069】
<第四の実施例>
図15は、第四の実施例における無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。第三の実施例で説明した無線通信方法をさらに発展させた第四の実施例を図15に示す。 この図に示した無線通信フォーマットでは、BPSK信号(フレームシンク11と、データ12)を断続的に送信する。BPSK信号が途絶えているタイミングで、クロスキャリア信号としてダウンチャープ信号14Aとアップチャープ信号14Bを交互に切り替えて挿入している。このように構成することにより、BPSK信号とクロスキャリア信号の干渉を防ぐことが可能となる。
【0070】
<第五の実施例>
図16は、第五の実施例における無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。第一の実施例で説明した無線通信方法をさらに発展させた第五の実施例を図16に示す。 この図に示した無線通信フォーマットでは、BPSK信号(フレームシンク11と、データ12)にクロスキャリア信号14Aと14Bを加えた信号を作成し、これらの信号にさらにチャープ変調を施している。 この結果、信号周波数帯はfc-fsからfc+fzまで広くなり、混信などによる影響を軽減して安定な通信を実現することが可能となる。
【0071】
もちろん第二の実施例で示したように、システムに応じて二つのチャープレート(β5とβ6)を変えることにより多重化を実現することもできる。 また第三と第四の実施例で示したようにクロスキャリア信号やデータ信号を断続的にすることも可能である。
図1
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図10
図11
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図14
図15
図16